1 00:00:01,354 --> 00:00:04,023 (羽貫(はぬき)さん) どうしたの? 出てきて 2 00:00:04,123 --> 00:00:07,193 (ドアをたたく音) (私)ううう… くっ 3 00:00:07,627 --> 00:00:11,331 (私の声) 華やかさとは無縁の我が人生が ここへ来て最高潮を迎えている 4 00:00:12,098 --> 00:00:13,333 (私)はっ (ジョニーの声)決まりだろ! 5 00:00:13,867 --> 00:00:15,935 (羽貫さん)ねえ 出てきて! 6 00:00:16,502 --> 00:00:18,538 (私の声) 羽貫さんは心情的にも ビジュアル的にも 7 00:00:18,638 --> 00:00:21,241 申し分ない女性だが 今宵(こよい)の彼女は あまりにも… 8 00:00:22,208 --> 00:00:25,078 (香織(かおり)さんの声)私をさらって あの人が来る前に 9 00:00:25,612 --> 00:00:27,347 (私の声) 香織さんは無口で 可憐(かれん)な乙女 10 00:00:27,447 --> 00:00:30,083 しかし 彼女と私は結ばれぬ運命 11 00:00:30,984 --> 00:00:34,287 (景子(けいこ)さんの声) “会えなければ これ以上 関係を続けることは できません” 12 00:00:34,387 --> 00:00:36,356 (私の声) 景子さんは古風で しとやかな女性 13 00:00:36,456 --> 00:00:38,291 しかし 彼女には おいそれと会えない 14 00:00:38,391 --> 00:00:41,094 (秒針の音) 15 00:00:43,496 --> 00:00:45,565 私は香織さんを選ぶ! 16 00:00:46,399 --> 00:00:47,600 (ジョニーの声)なんで!? 17 00:02:19,924 --> 00:02:22,694 (私の声) 当時 ピカピカの大学1回生 であった 私の目の前には 18 00:02:22,794 --> 00:02:24,929 個人の情報量を はるかに凌駕(りょうが)する— 19 00:02:25,029 --> 00:02:26,698 無数のサークルのチラシが 差し出され 20 00:02:26,798 --> 00:02:28,366 その どれもが 薔薇色(ばらいろ)のキャンパスライフへの— 21 00:02:28,466 --> 00:02:30,234 扉であるかのように見えた 22 00:02:38,309 --> 00:02:39,777 4年間のモラトリアム 23 00:02:39,877 --> 00:02:41,846 時にアグレッシブに 子供の夢を叶(かな)えるのも— 24 00:02:41,946 --> 00:02:43,081 よいかもしれぬ 25 00:02:43,347 --> 00:02:46,951 少年の心を理解する黒髪の乙女が 現れるかもしれぬ 26 00:02:50,788 --> 00:02:52,056 (怪人)たあー! 27 00:02:52,156 --> 00:02:54,158 (怪人)わあ! (子供)モチグマン! 28 00:02:54,459 --> 00:02:56,961 (怪人)心を洗われました 改心します! 29 00:02:57,061 --> 00:02:59,931 (司会のお姉さん) よしよし ワッハッハ~ 30 00:03:00,031 --> 00:03:03,301 (歓声と拍手) 31 00:03:03,401 --> 00:03:05,203 さあ みんなで! 32 00:03:05,870 --> 00:03:09,240 (子供たち) ♪ そーれ そーれ モチグマン 33 00:03:09,907 --> 00:03:14,245 ♪ 誰も倒さず 誰も傷つけず 34 00:03:14,345 --> 00:03:18,816 ♪ いつの間にか もめごと 鎮め 35 00:03:18,916 --> 00:03:23,087 ♪ だけど 強いし 広い心 36 00:03:23,187 --> 00:03:27,191 ♪ 太い真心 37 00:03:27,291 --> 00:03:29,293 (子供)あっ モチグマンを… (子供たち)助けろ! 38 00:03:29,393 --> 00:03:32,163 あらら? どうしたのー? 39 00:03:32,864 --> 00:03:35,199 お姉さんを かどわかそうとした 悪者たちね 40 00:03:35,299 --> 00:03:38,202 さあ みんなで改心させよう! 41 00:03:38,302 --> 00:03:42,173 (子供たち) 改心しろ! 改心しろ! 改心しろ! 42 00:03:42,540 --> 00:03:45,143 改心しろ! 改心しろ! 43 00:03:45,243 --> 00:03:48,112 見て 逃げてくぞー! 44 00:03:48,479 --> 00:03:50,148 よかった よかった 45 00:03:51,182 --> 00:03:53,151 また モチグマンが取りなしたね 46 00:03:53,551 --> 00:03:56,354 さすがだね モチグマン! 47 00:03:57,922 --> 00:03:59,457 痛ててて… 48 00:03:59,991 --> 00:04:01,993 結構 本気で小突きやがって 49 00:04:02,160 --> 00:04:04,095 ワンステ 3千円なのに 50 00:04:04,896 --> 00:04:05,963 うん? 51 00:04:06,230 --> 00:04:07,398 “君をスカウトしたい” 52 00:04:07,498 --> 00:04:10,434 “高額保証 明日 正午 工学部の学食で” 53 00:04:10,535 --> 00:04:12,870 “好きなものを頼んで 待っていたまえ” 54 00:04:12,970 --> 00:04:14,839 なんとも いかがわしい 55 00:04:14,939 --> 00:04:16,374 うんっ えい 56 00:04:17,241 --> 00:04:18,176 あっ 57 00:04:30,021 --> 00:04:31,956 (明石(あかし)さん)先ほどは どうも 58 00:04:38,095 --> 00:04:39,197 (私の声) 私が起居しているのは 59 00:04:39,297 --> 00:04:42,300 叡山(えいざん) 出町柳(でまちやなぎ)裏にある 下鴨幽水荘(しもがもゆうすいそう)という下宿である 60 00:04:42,400 --> 00:04:44,202 今にも倒壊しそうな 木造3階建て 61 00:04:44,302 --> 00:04:45,903 見る者をヤキモキさせる オンボロぶりは— 62 00:04:46,003 --> 00:04:47,338 もはや重要文化財の境地だが— 63 00:04:47,438 --> 00:04:50,007 これが焼失して気にする人は 誰も いないだろうことは— 64 00:04:50,107 --> 00:04:51,242 想像に難くない 65 00:04:52,410 --> 00:04:54,078 視聴者諸君 驚くなかれ 66 00:04:54,178 --> 00:04:56,447 私は ひょんなことから ある女性と文通しているのだ 67 00:04:56,547 --> 00:04:58,883 文通で肝心なのは 必ず手書きであるということ 68 00:04:58,983 --> 00:05:00,051 地獄の釜が開こうとも— 69 00:05:00,151 --> 00:05:01,619 相手に会ってはならない ということである 70 00:05:01,919 --> 00:05:05,323 大切に培ってきた優雅な関係が 一瞬にして水泡(すいほう)に帰すること 大だ 71 00:05:06,057 --> 00:05:07,859 彼女の名前は 樋口(ひぐち)景子さんといい— 72 00:05:07,959 --> 00:05:11,996 文面から知性と教養が匂いたつ 私の理想像というべき女性である 73 00:05:13,030 --> 00:05:15,633 (私)さて どうしたものか 74 00:05:15,933 --> 00:05:17,235 (ジョニーの声) どうだって いいんじゃね 75 00:05:24,909 --> 00:05:25,576 うん? 76 00:05:27,378 --> 00:05:29,513 (男)これは絶対 他言無用 77 00:05:29,614 --> 00:05:31,649 最高機密で お願いしたいんだが— 78 00:05:31,949 --> 00:05:34,652 君に ある女性の ボディーガードを頼みたい 79 00:05:35,186 --> 00:05:36,587 ボ… ボディーガード? 80 00:05:37,188 --> 00:05:38,589 (男)危険な仕事ではない 81 00:05:38,889 --> 00:05:42,126 私の留守を 守ってくれさえすれば いいんだ 82 00:05:42,226 --> 00:05:44,195 特に 最近 何かと物騒だ 83 00:05:44,895 --> 00:05:47,999 私を陥れようとしている人間も ごまんといる 84 00:05:48,399 --> 00:05:51,002 君なら 安心して この仕事を任せられる 85 00:05:51,669 --> 00:05:53,604 筋金入りの安全パイだろう? 86 00:05:53,904 --> 00:05:57,141 石橋を粉々に たたき壊してしまう 奥手と聞いている 87 00:05:57,241 --> 00:05:59,644 妙な気を起こす心配もないわけだ 88 00:05:59,944 --> 00:06:00,611 ふん 89 00:06:01,212 --> 00:06:03,047 (男)やってくれるかい? 90 00:06:04,548 --> 00:06:05,416 うわっ 91 00:06:12,923 --> 00:06:14,392 (男)紹介しよう 92 00:06:15,326 --> 00:06:16,394 香織だ 93 00:06:17,028 --> 00:06:18,262 ああ… 94 00:06:18,696 --> 00:06:21,365 (男) 香織は とてもエレガントな女性だ 95 00:06:21,465 --> 00:06:23,367 丁重に接してほしい 96 00:06:23,467 --> 00:06:28,039 しかし 我々のプライバシーが 広く世間に流布することは好まん 97 00:06:28,472 --> 00:06:31,642 もし このことを他言したら 君など… 98 00:06:33,277 --> 00:06:34,078 あっ! 99 00:06:36,180 --> 00:06:37,081 (城ヶ崎(じょうがさき)先輩)フッ 100 00:06:37,181 --> 00:06:38,249 (私の声) 男は 城ヶ崎といい 101 00:06:38,349 --> 00:06:40,451 映画サークル“みそぎ”の 会長なのであった 102 00:06:40,551 --> 00:06:42,653 “香織 接待マニュアル” なるものを渡された 103 00:06:42,953 --> 00:06:43,954 “直接 触ってはいけない” 104 00:06:44,055 --> 00:06:45,256 “好きな飲み物 菓子を切らさず” 105 00:06:45,356 --> 00:06:47,525 “退屈させないように 映画を見せてあげるように”など 106 00:06:47,625 --> 00:06:49,093 必須内容が指導された 107 00:06:50,194 --> 00:06:52,396 (城ヶ崎先輩) じゃあ 留守をよろしく頼む 108 00:06:52,997 --> 00:06:54,332 変な気 起こすなよ 109 00:07:02,473 --> 00:07:04,175 (私の声) とても人形とは思えない 110 00:07:04,275 --> 00:07:06,210 彼女の髪は キレイに なでつけられ— 111 00:07:06,310 --> 00:07:08,112 きちんと上品な服を着ていた 112 00:07:08,212 --> 00:07:10,181 化粧 爪の手入れ 肌つやよく— 113 00:07:10,281 --> 00:07:12,650 この気品のある表情は どうであろうか? 114 00:07:14,285 --> 00:07:18,189 はっ… 早く 城ヶ崎氏が 帰ってくると いいね 115 00:07:25,162 --> 00:07:26,197 あっ… 116 00:07:28,199 --> 00:07:31,502 城ヶ崎って人は ホントは単純な いい人なのかな? 117 00:07:32,570 --> 00:07:34,372 君は美しいね 118 00:07:34,472 --> 00:07:37,375 城ヶ崎氏の気持ちが 分からぬでもない 119 00:07:37,475 --> 00:07:40,478 私は生身の女性がいいと思うが 120 00:07:50,354 --> 00:07:51,222 あっ! 121 00:07:56,794 --> 00:07:59,096 (息を吸う音) 122 00:07:59,463 --> 00:08:01,232 (うなり声) (私)ハッ! 123 00:08:01,332 --> 00:08:03,367 (私の声)そうして 城ヶ崎氏の留守を守っては 124 00:08:03,467 --> 00:08:05,436 給料をもらう日々が続いた 125 00:08:06,637 --> 00:08:07,772 城ヶ崎氏が帰ってくると— 126 00:08:08,072 --> 00:08:10,641 私は入れ違いに 部屋を追い出される 127 00:08:10,741 --> 00:08:12,143 そんな日々が… 128 00:08:14,678 --> 00:08:16,480 (小津(おづ))どうすか? 最近は 129 00:08:16,580 --> 00:08:18,582 なんだか 羽振りがよさそうですが 130 00:08:18,682 --> 00:08:20,284 (私)何もないよ 131 00:08:20,651 --> 00:08:25,156 (小津) うーん… おおかた 香織さんの ボディーガード料でしょう? 132 00:08:26,791 --> 00:08:28,692 なっ… なぜ それを 133 00:08:28,793 --> 00:08:32,630 私の情報網を 甘く見ては いけませんよ 134 00:08:33,130 --> 00:08:36,400 城ヶ崎さんは ああ見えて 純情な男ですからねえ 135 00:08:36,500 --> 00:08:37,802 どういうことだ? 136 00:08:38,102 --> 00:08:40,704 あれは とても高尚な愛の形なのです 137 00:08:41,272 --> 00:08:43,441 そこらのダッチワイフとは わけが違う 138 00:08:43,541 --> 00:08:46,777 超高級品ですぞ ラブドールと呼ぶのです 139 00:08:47,078 --> 00:08:48,212 相手のことを思い— 140 00:08:48,312 --> 00:08:51,282 大切に めでながら暮らすことに 意味があるのです 141 00:08:51,382 --> 00:08:53,451 あなたのように 性欲処理の道具にしか— 142 00:08:53,551 --> 00:08:56,153 見てない野人には 分からないでしょうが 143 00:08:56,654 --> 00:08:59,423 今すぐ 黙れ 未来永劫(えいごう) 黙れ 144 00:08:59,523 --> 00:09:01,325 それは お断りです 145 00:09:01,425 --> 00:09:04,428 僕は無駄口が利けないと 寂しくて 死ぬのです 146 00:09:04,795 --> 00:09:06,097 死ねば よいのだ 147 00:09:06,430 --> 00:09:09,166 ところが どっこい 無駄口を利いているかぎり— 148 00:09:09,266 --> 00:09:10,868 僕は死なないのです 149 00:09:11,168 --> 00:09:15,339 (私) 私は魂の入ってない物に 感情移入などしない 150 00:09:16,407 --> 00:09:18,609 (小津) 素直じゃないですね あなたも 151 00:09:19,844 --> 00:09:22,680 (私の声)城ヶ崎氏は 今 映画の撮影で忙しいらしく 152 00:09:22,780 --> 00:09:23,681 撮っている映画は— 153 00:09:23,781 --> 00:09:25,883 現代版 アレキサンダー大王とも いうべき— 154 00:09:26,183 --> 00:09:27,818 自身の集大成の映画らしい 155 00:09:28,119 --> 00:09:30,154 サークルでは カリスマとして通っており— 156 00:09:30,254 --> 00:09:33,858 とても モテるものの やはり 本命は香織さんということだった 157 00:09:35,326 --> 00:09:36,694 (城ヶ崎先輩) じゃあ よろしくな 158 00:09:40,598 --> 00:09:41,599 フウ 159 00:09:41,866 --> 00:09:44,869 (私の声) このところ 部屋を空ける日が 続いている城ヶ崎氏 160 00:09:45,169 --> 00:09:47,905 不憫(ふびん)な身の上である彼女に つい親身に なってしまうが— 161 00:09:48,205 --> 00:09:50,441 そうはいっても 彼女は人形である 162 00:09:51,242 --> 00:09:53,577 私は生身の女性と文通しているのだ 163 00:09:53,677 --> 00:09:55,446 彼女は ちゃんと返事をくれる 164 00:09:55,546 --> 00:09:57,548 香織さんは 見た目が いくら美しくても— 165 00:09:57,648 --> 00:09:59,416 返事をしてくれることはない 166 00:10:01,819 --> 00:10:03,420 (香織さん)ねえ (私)はい? 167 00:10:03,521 --> 00:10:04,288 はっ! 168 00:10:04,922 --> 00:10:05,923 (香織さん)ねえ 169 00:10:07,358 --> 00:10:08,225 ねえ? 170 00:10:08,726 --> 00:10:10,194 うううう! 171 00:10:15,533 --> 00:10:17,334 (私の声) 作りが精巧であることと 172 00:10:17,434 --> 00:10:20,504 城ヶ崎氏の作り上げた 繊細 かつ可憐な世界は— 173 00:10:20,604 --> 00:10:24,175 時々 彼女を 本当の人間のように思わせた 174 00:10:29,780 --> 00:10:31,782 “OZ(オズ)ニュース” 絶好調じゃない 175 00:10:31,882 --> 00:10:33,851 羽貫さんの おかげですよ 176 00:10:33,951 --> 00:10:37,388 (私の声) 羽貫さんは歯科衛生士であり 英会話サークルの先輩である 177 00:10:37,488 --> 00:10:40,457 サークルのあと 毎回 カフェで お茶をするのが習慣となっていた 178 00:10:40,558 --> 00:10:42,860 しかし 気の知れた人としか 酒を飲まないらしく— 179 00:10:42,960 --> 00:10:45,462 私は いまだ 飲みに誘われたことは なかった 180 00:10:45,563 --> 00:10:48,265 彼女は エロ歯科医 窪塚(くぼづか)からの ひっきりなしの誘いと— 181 00:10:48,365 --> 00:10:50,601 ほったらかしの彼氏の間で 揺れていた 182 00:10:51,969 --> 00:10:53,337 文通相手の景子さんから— 183 00:10:53,437 --> 00:10:55,306 とうとう“会いたい”と 手紙が来てしまった 184 00:10:55,406 --> 00:10:56,974 乙女の心に 火をつけてしまったのは— 185 00:10:57,274 --> 00:10:59,310 私の文才が 並々ならぬことの証しであろう 186 00:10:59,410 --> 00:11:01,345 しかし 私は 会うわけには いかなかった 187 00:11:01,445 --> 00:11:04,448 なぜなら 手紙の中の私は 少しばかり現実の私に比べて— 188 00:11:04,548 --> 00:11:06,317 美しく飾られていたからである 189 00:11:06,584 --> 00:11:07,985 確かに それは 私の理想とする— 190 00:11:08,285 --> 00:11:09,320 男性像であるものの— 191 00:11:09,420 --> 00:11:13,324 現実の私が それに追いつくには いましばらく 時間が必要であった 192 00:11:14,792 --> 00:11:16,727 (ドアをたたく音) (私)あっ? 193 00:11:17,861 --> 00:11:18,862 緊急事態だ! 194 00:11:19,530 --> 00:11:20,464 ええっ? 195 00:11:20,564 --> 00:11:22,733 くっさいなー お前んち 196 00:11:22,833 --> 00:11:25,636 しっかし… 俺の下宿は どうにも物騒だ 197 00:11:25,736 --> 00:11:27,671 香織を ここで しばらく預かってくれ 198 00:11:38,782 --> 00:11:39,950 わあっ わっ! 199 00:11:44,788 --> 00:11:45,889 香織 ごめんね 200 00:11:45,990 --> 00:11:49,026 薄汚い所だけど しばらくの辛抱だから 201 00:11:49,660 --> 00:11:50,728 ああっ… 202 00:11:51,028 --> 00:11:52,696 (カーテンを閉める音) 203 00:11:53,731 --> 00:11:56,767 (城ヶ崎先輩) 時給は これまでと同じで 24時間分 出す 204 00:11:56,867 --> 00:11:59,703 しかし 手元にないから 銀行振り込みに させてくれ 205 00:12:00,270 --> 00:12:02,873 (私の声) こうして 私と香織さんの 同棲(どうせい)生活が始まった 206 00:12:02,973 --> 00:12:03,974 それにしても 城ヶ崎氏は— 207 00:12:04,274 --> 00:12:06,310 私のことを 軽んじすぎてやしないか? 208 00:12:06,777 --> 00:12:08,479 …とはいえ まさか こんな甘い生活が— 209 00:12:08,579 --> 00:12:11,548 私のキャンパスライフに 訪れるとは夢にも思わなかった 210 00:12:11,649 --> 00:12:13,417 淡々と暮らしてきた これまでの2年間— 211 00:12:13,517 --> 00:12:15,719 身辺が これだけ 華やいだことはなかった 212 00:12:16,720 --> 00:12:19,723 (私)これと あれと ああ それを2つずつ下さい 213 00:12:20,724 --> 00:12:23,527 (私の声) 学校から帰ってくれば 香織さんが部屋で待っている 214 00:12:23,627 --> 00:12:25,763 それだけでも楽しい日々 215 00:12:29,533 --> 00:12:31,435 まるで彼女は 私の部屋の一隅を借りて— 216 00:12:31,535 --> 00:12:35,339 小説に夢を膨らませる 知的な黒髪の乙女のようだった 217 00:12:35,439 --> 00:12:38,342 いつか 彼女は ここから いなくなる時が来るのだろうか? 218 00:12:39,643 --> 00:12:40,711 ああっ うう… 219 00:12:47,351 --> 00:12:48,986 (私の声)愛の形は さまざまだと言うものの 220 00:12:49,086 --> 00:12:52,056 ここまで閉鎖的な愛の迷路に 迷い込んだら危険である 221 00:12:52,356 --> 00:12:53,957 帰り道が分からなくなる 恐れが ありながら— 222 00:12:54,058 --> 00:12:56,060 私は道の奥へと入り込んでいた 223 00:12:56,960 --> 00:12:58,962 うわああああ 224 00:13:00,664 --> 00:13:01,765 (ジョニー)決めちゃいな! 225 00:13:01,865 --> 00:13:02,733 ああっ… 226 00:13:02,833 --> 00:13:03,767 ううー! 227 00:13:07,905 --> 00:13:11,008 (香織さん)初めてのラーメン うれしゅうございます 228 00:13:13,677 --> 00:13:15,713 一度 食べてみとうございました 229 00:13:15,813 --> 00:13:18,415 (私)あなたの お口に 合いますか どうか 230 00:13:21,685 --> 00:13:23,020 すごい美人でしょう? 231 00:13:23,120 --> 00:13:27,091 城ヶ崎さんの彼女ですが ここへ食べにきたことは内緒(ないしょ)ですよ 232 00:13:29,927 --> 00:13:31,095 さあ 食べましょう 233 00:13:31,395 --> 00:13:33,997 (ラーメンをすする音) 234 00:13:36,400 --> 00:13:37,601 ああっ! 235 00:13:39,603 --> 00:13:40,704 夢? 236 00:13:41,705 --> 00:13:42,806 (げっぷ) 237 00:13:43,607 --> 00:13:44,842 (においを嗅ぐ音) 238 00:13:45,109 --> 00:13:48,812 おい! ラーメン 食っただろ においが付いてるぞ! 239 00:13:49,379 --> 00:13:51,415 わっ わ… わあ! 240 00:13:51,949 --> 00:13:54,017 家で食事するな 外で食え! 241 00:13:55,085 --> 00:13:57,020 ハア… しかし— 242 00:13:57,654 --> 00:13:58,989 俺も もう いい年だ 243 00:13:59,089 --> 00:14:01,024 これまで 好き勝手なことをしてきたが— 244 00:14:01,125 --> 00:14:04,128 今 撮っている映画が完成したら 身を固めようと思う 245 00:14:04,428 --> 00:14:06,497 卒業 就職する 246 00:14:06,597 --> 00:14:09,500 そして また 香織と一緒に暮らそうと思う 247 00:14:14,671 --> 00:14:17,841 君には世話になったな 近く 香織を迎えにくる 248 00:14:18,442 --> 00:14:19,176 じゃあな 249 00:14:20,110 --> 00:14:22,913 (ドアの開閉音) 250 00:14:24,982 --> 00:14:25,849 あっ? 251 00:14:30,120 --> 00:14:32,923 (私の声) とうとう 景子さんから 最後通達が来てしまった 252 00:14:33,023 --> 00:14:36,460 これで 会わなければ 今後一切 連絡が途絶えてしまうであろう 253 00:14:36,760 --> 00:14:40,898 しかし… 私は まだまだ 景子さんに会える身では なかった 254 00:14:42,032 --> 00:14:43,901 どう? 今日 飲みに行かない? 255 00:14:44,001 --> 00:14:46,203 あっ… 今日は 大事なレポートがあって 256 00:14:46,503 --> 00:14:47,805 そっか… 257 00:14:47,905 --> 00:14:50,908 うん 分かった レポート 頑張ってね 258 00:14:53,177 --> 00:14:54,211 (私の声) とうとう 待ちに待った 259 00:14:54,511 --> 00:14:57,548 羽貫さんと親しい間柄という お墨付きの飲みの誘いなのに— 260 00:14:57,648 --> 00:14:59,650 私は帰ってきてしまった 261 00:15:01,051 --> 00:15:02,085 (ため息) 262 00:15:02,953 --> 00:15:06,690 (私の声) なぜなら 城ヶ崎氏が香織さんを 引き取りにくるのも 今夜であった 263 00:15:08,459 --> 00:15:10,727 八面六臂(はちめんろっぴ)の 桃色遊戯の達人でなければ— 264 00:15:10,828 --> 00:15:12,696 誰か1人に絞らねばならない 265 00:15:12,796 --> 00:15:15,499 う~~ん… 266 00:15:15,599 --> 00:15:18,168 香織さん ちょっと待ってておくれ これは人命救助だ 267 00:15:18,469 --> 00:15:20,938 羽貫さんがエロ歯科医の毒牙(どくが)に かかってしまいかねない! 268 00:15:24,608 --> 00:15:27,578 (私の声) しかし ホテルのラウンジでは 予想外の展開が待っていた 269 00:15:27,678 --> 00:15:29,513 そこには なんと 城ヶ崎氏の姿があった 270 00:15:29,613 --> 00:15:31,482 香織さんという人がありながら— 271 00:15:31,582 --> 00:15:33,517 羽貫さんにまで手を出そうとは 純情が聞いて あきれる 272 00:15:33,617 --> 00:15:36,653 この飲み比べ 決して負けるわけには いかない 273 00:15:38,188 --> 00:15:39,923 どうにか勝負には勝った 274 00:15:42,025 --> 00:15:44,495 ところが… ところが このあと— 275 00:15:44,595 --> 00:15:47,698 全く想定外の展開が 待っているのだった 276 00:15:48,532 --> 00:15:49,933 (ドアをたたく音) 277 00:15:50,067 --> 00:15:51,235 (羽貫さん)開けて! 278 00:15:51,535 --> 00:15:54,671 (馬のいななき) (ジョニー)おい 何やってんだ! 279 00:15:54,771 --> 00:15:59,643 行くしかないだろ 千載一遇の大チャンスだろー! 280 00:16:00,544 --> 00:16:02,880 (私の声) やはり 私には香織しかいない 281 00:16:03,780 --> 00:16:04,681 香織! 282 00:16:04,781 --> 00:16:05,682 ええ!? 283 00:16:05,782 --> 00:16:07,684 (羽貫さん)ぎゃあ! (私)香織ー! 284 00:16:10,888 --> 00:16:13,757 (雷鳴) 285 00:16:14,691 --> 00:16:17,694 (荒い息遣い) 286 00:16:17,895 --> 00:16:21,532 (香織さん) 今生の聞き納めとあらば あなたの声に体が震えます 287 00:16:21,632 --> 00:16:22,299 (私)ああ! 288 00:16:27,271 --> 00:16:31,608 (香織さん) 再び 城ヶ崎に めでられれば 違う草木になりましょう 289 00:16:31,708 --> 00:16:34,811 今の私でいるのは あなたの前だけです 290 00:16:35,913 --> 00:16:37,147 香織… 291 00:16:37,247 --> 00:16:41,318 (香織さん) 私を連れて 逃げてください お願い お願い 292 00:16:45,923 --> 00:16:49,927 (小津)“駆け落ちします 今まで ありがとう 香織” ねえ… 293 00:16:50,027 --> 00:16:51,261 (呼び出し音) 294 00:16:51,562 --> 00:16:53,196 (小津)ああ 城ヶ崎さん? 295 00:17:02,773 --> 00:17:04,875 香織さん ぬれてしまう! 296 00:17:11,882 --> 00:17:12,950 (とどろく雷鳴) 297 00:17:13,050 --> 00:17:16,186 (荒い息遣い) 298 00:17:16,920 --> 00:17:18,956 ごめんね 香織さん 299 00:17:19,656 --> 00:17:22,793 (香織さん)ううん いいの 私 うれしいの 300 00:17:22,893 --> 00:17:25,195 雨に ぬれるのも 初めてなんですもの 301 00:17:25,295 --> 00:17:27,064 香織… さん 302 00:17:29,666 --> 00:17:31,168 (占い婆(ばば))学生さん (私)わあ! 303 00:17:31,635 --> 00:17:32,869 おっ お婆(ばあ)… 304 00:17:32,970 --> 00:17:37,007 (占い婆)学生さん 何をお聞きになりたいんでしょう? 305 00:17:37,107 --> 00:17:38,742 (私)私は何も尋ねていない! 306 00:17:39,109 --> 00:17:42,212 なるほど あなたは不満なのですね? 307 00:17:42,713 --> 00:17:44,615 だから 私は知らんと言っている! 308 00:17:44,715 --> 00:17:47,918 とにかく 好機は いつでも あなたの目の前に— 309 00:17:48,018 --> 00:17:49,620 ぶら下がってございます 310 00:17:49,720 --> 00:17:52,089 それを捕まえてごらんなさい 311 00:17:53,056 --> 00:17:54,758 はい 7千円 312 00:17:54,858 --> 00:17:56,860 おい 何をする? 313 00:18:04,001 --> 00:18:05,669 (私の声) 雨がやんだら 京都駅へ行って 314 00:18:05,769 --> 00:18:08,205 ここから一番 遠く離れた駅まで 切符を買おう 315 00:18:08,305 --> 00:18:12,009 そこから最果ての国へ行き 小さな町の小さな家に住もう 316 00:18:12,109 --> 00:18:13,877 慣れない土地での 仕事は大変だろうが— 317 00:18:13,977 --> 00:18:15,979 君の笑顔を見れば 元気が出る 318 00:18:16,913 --> 00:18:17,948 やがて 子供が出来たら— 319 00:18:18,048 --> 00:18:20,817 反対していた両親も きっと認めてくれるだろう 320 00:18:21,385 --> 00:18:23,887 月日は流れて やがて私にも孫が出来る 321 00:18:23,987 --> 00:18:26,390 この日のために生きてきたのだと 気付き 涙するのだ 322 00:18:26,690 --> 00:18:28,025 最高に幸せな日々 323 00:18:28,358 --> 00:18:31,928 でも 突然 君が病気になり 私は手を握り 看病し続ける 324 00:18:32,029 --> 00:18:33,730 君は笑って こう言う 325 00:18:33,830 --> 00:18:35,232 “あなたに出会えて よかった” 326 00:18:35,332 --> 00:18:37,034 それは まさに私のセリフだ 327 00:18:37,134 --> 00:18:39,670 私が先に逝く約束では なかったのか? 328 00:18:39,770 --> 00:18:42,039 しかし 君と一緒になれて よかった 329 00:18:42,139 --> 00:18:45,676 こ… これを好機と言わずして 何と言おうか 330 00:18:46,143 --> 00:18:49,413 おいおーい これ100パーセント 好機 到来じゃん! 331 00:18:49,713 --> 00:18:51,848 彼女の顔 見てみろよ 待ってるぜ! 332 00:18:51,948 --> 00:18:53,717 香織さんは そんな人じゃない! 333 00:18:53,817 --> 00:18:55,452 いくら品のいい顔をしてても— 334 00:18:55,752 --> 00:18:58,855 心の中は熱く たぎって お前と同じ思いなんだ! 335 00:18:58,955 --> 00:18:59,990 ウソだ! 336 00:19:00,090 --> 00:19:01,458 ウソなもんか! 337 00:19:01,758 --> 00:19:04,795 なぜ 彼女は お前に ついてきた? ずっと ついてきたぞ! 338 00:19:04,895 --> 00:19:06,963 ほら ずっと お前を見ている 339 00:19:07,798 --> 00:19:11,234 (香織さん) お別れする前に あなたの ぬくもりを分けてください 340 00:19:12,269 --> 00:19:15,739 私を愛した証しを 感じさせてくださいまし 341 00:19:15,839 --> 00:19:17,340 香織さん しかし… 342 00:19:17,874 --> 00:19:18,875 (香織さん)あなたにとって— 343 00:19:18,975 --> 00:19:22,045 身を焦がすような恋ではないことは 知っておりました 344 00:19:22,145 --> 00:19:24,114 しかし 今は あなたの手のぬくもりが— 345 00:19:24,214 --> 00:19:27,451 唯一 私が今 生きていることを 感じさせてくれます 346 00:19:28,485 --> 00:19:32,055 ダメ? 私が生身の人間ではないから? 347 00:19:32,155 --> 00:19:33,790 心のない人形だから? 348 00:19:33,890 --> 00:19:36,093 いや 香織さん そんなことは ないんだ 349 00:19:36,193 --> 00:19:37,828 私だって… 350 00:19:38,128 --> 00:19:39,996 私は 私は… 351 00:19:50,841 --> 00:19:52,008 美しすぎる! 352 00:19:52,109 --> 00:19:54,244 逃げるな 腰抜けが! 353 00:19:54,344 --> 00:19:56,747 ずっと貧弱奥手野郎のままで いいのか 354 00:19:56,847 --> 00:19:58,882 安全パイと呼ばれ続けて いいのか! 355 00:19:58,982 --> 00:20:00,383 彼女に恥をかかせるな! 356 00:20:00,484 --> 00:20:02,919 お前の たぎる情熱を ぶつけてほしいと思ってるんだ! 357 00:20:03,019 --> 00:20:04,755 ずっと待ってるんだぞ! 358 00:20:05,322 --> 00:20:08,525 (香織さん) いいの ごめんなさい 所詮 私は人形 359 00:20:08,825 --> 00:20:10,494 (ジョニーの声) 彼女を女にしてやれ! 360 00:20:11,228 --> 00:20:13,497 (私) ダメだ 私には できない! 361 00:20:15,165 --> 00:20:16,900 (香織さん) じゃあ あなたが来て! 362 00:20:17,901 --> 00:20:20,804 分かった 俺が代わりに やってやる 363 00:20:20,904 --> 00:20:22,172 (香織さん)来て! 364 00:20:25,075 --> 00:20:26,209 (私)よせ! 何をする! 365 00:20:26,309 --> 00:20:27,410 (香織さん)来てよー! 366 00:20:27,511 --> 00:20:30,413 香織さん! やめろ ジョニー! 367 00:20:30,514 --> 00:20:37,220 (ジョニーの荒い息遣い) 368 00:20:40,290 --> 00:20:42,325 チェストー! 369 00:20:45,929 --> 00:20:46,997 香織! 370 00:20:47,964 --> 00:20:50,834 香織 香織! ううう… 371 00:20:51,134 --> 00:20:52,869 この変態野郎! 372 00:20:53,370 --> 00:20:56,239 (私の声)これで いいのだ 危うく純潔を失うところだった 373 00:20:56,339 --> 00:20:58,475 私は きっと香織さんを 清らかに愛しきれない 374 00:20:58,575 --> 00:21:01,478 これは やはり凡人には 踏み入れられない領域なのだ 375 00:21:01,578 --> 00:21:04,915 城ヶ崎氏と香織さん そのまま あなた方の道を進め! 376 00:21:06,349 --> 00:21:08,418 景子さんは待ち合わせの場所で 待っていたろうか? 377 00:21:08,518 --> 00:21:11,054 やはり 一番優先するべきは 彼女ではなかったか? 378 00:21:11,154 --> 00:21:12,823 もう一度 あのシーンへ戻りたい 379 00:21:12,923 --> 00:21:15,025 リテーク! 景子さんに会いたい!