1 00:00:01,969 --> 00:00:03,971 (私)<四畳半における 高潔な わたしを守るため➡ 2 00:00:03,971 --> 00:00:05,973 外出時は 鉄のよろいをまとう> 3 00:00:05,973 --> 00:00:07,975 <理論武装 へ理屈装備 鉄面皮も さりげない笑顔で➡ 4 00:00:07,975 --> 00:00:09,977 ソフトコーティング> 5 00:00:09,977 --> 00:00:12,980 <跳梁跋扈する おぞましき ただれた魂の者たちに➡ 6 00:00:12,980 --> 00:00:14,982 わたしは 情け容赦しない> 7 00:00:16,984 --> 00:00:18,986 <しかし 倒せば倒すほど➡ 8 00:00:18,986 --> 00:00:20,988 言い知れぬ寂しさが 押し寄せてくるのは なぜか?> 9 00:00:20,988 --> 00:00:23,991 <これは 正義を貫く 聖戦ではなかったか?> 10 00:00:25,993 --> 00:00:27,995 <全人類がいなくなった 今➡ 11 00:00:27,995 --> 00:00:30,998 取り残されたのは 学問 運動 人望 美ぼう> 12 00:00:30,998 --> 00:00:34,001 <全ての布石をことごとく 外しまくった丸裸のわたしである> 13 00:00:34,001 --> 00:00:37,004 (私)かなうなら あの日へ時間を戻したい! 14 00:00:43,010 --> 00:00:53,020 ♬~ 15 00:02:16,970 --> 00:02:20,974 <古生代始め カンブリア爆発が起こり 多様な生物が出現した> 16 00:02:20,974 --> 00:02:22,976 <そして 古生代の最後は➡ 17 00:02:22,976 --> 00:02:24,978 世界は 無数の二畳敷きから成り➡ 18 00:02:24,978 --> 00:02:26,647 さらに 中生代の始めには➡ 19 00:02:26,647 --> 00:02:28,315 一畳分 広がって 三畳紀が来る> 20 00:02:28,315 --> 00:02:29,983 <しかし やがて 恐竜たちの登場によって➡ 21 00:02:29,983 --> 00:02:33,320 敷き詰められた畳は 奇麗に踏みしだかれ➡ 22 00:02:33,320 --> 00:02:35,989 ジュラ紀へと 時代が移るのである> 23 00:02:35,989 --> 00:02:37,991 <その後 人類が栄華を誇り➡ 24 00:02:37,991 --> 00:02:40,994 やがて 新生代 第四紀 現世も終わりを告げたとき➡ 25 00:02:40,994 --> 00:02:43,997 再び世界に畳が広がり 四畳半紀となる> 26 00:02:47,000 --> 00:02:49,002 <時間が巻き戻るなど あり得ない話である> 27 00:02:49,002 --> 00:02:51,004 <しかし わたしは その あり得ないと思われた➡ 28 00:02:51,004 --> 00:02:55,008 どこまでも 四畳半が続く 並行世界に さまよいこんでいた> 29 00:02:55,008 --> 00:02:57,010 <放浪が始まって はや ふたつき> 30 00:02:57,010 --> 00:02:59,012 <この世界に 果てはないと思われたが➡ 31 00:02:59,012 --> 00:03:02,949 わたしは いまだ 痛々しい 行軍を続けていた> 32 00:03:02,949 --> 00:03:04,951 <ドアを開ければ廊下がある> 33 00:03:04,951 --> 00:03:07,954 <それは 天文学的に 奇跡的な偶然の出来事である> 34 00:03:07,954 --> 00:03:09,956 <それぞれの部屋は同じようで 少しずつ 様子が違い➡ 35 00:03:09,956 --> 00:03:12,959 少しずつ 違うわたしが 生息しているようであった> 36 00:03:12,959 --> 00:03:15,962 <しかし その誰もが 不毛なキャンパスライフを➡ 37 00:03:15,962 --> 00:03:17,964 謳歌しているように思えた> 38 00:03:17,964 --> 00:03:19,966 <「それぞれの または トータルとしての わたし」➡ 39 00:03:19,966 --> 00:03:21,968 という研究に着手してみたが➡ 40 00:03:21,968 --> 00:03:24,971 すぐに やる気を失い 各部屋に痕跡を残す➡ 41 00:03:24,971 --> 00:03:26,973 わたしを取り巻く 人物たちの推察へと➡ 42 00:03:26,973 --> 00:03:28,975 興味は移っていった> 43 00:03:28,975 --> 00:03:31,978 <相島という男は 1学年上の 図書委員長である> 44 00:03:31,978 --> 00:03:33,980 <2冊以上の貸し出しを許さぬ 小さな男だったが➡ 45 00:03:33,980 --> 00:03:35,982 眼鏡の奥の瞳は どこか いんぎん無礼で➡ 46 00:03:35,982 --> 00:03:37,984 鼻持ちならない 印象を受けた> 47 00:03:37,984 --> 00:03:40,987 <かつて見た その光景は どうやら秘密組織の粛清であり➡ 48 00:03:40,987 --> 00:03:42,656 トップであった相島が 何者かによって➡ 49 00:03:42,656 --> 00:03:44,357 はめられたらしい> 50 00:03:45,992 --> 00:03:47,661 <そういえば 先日> 51 00:03:47,661 --> 00:03:49,996 ⚟(ノック) 《うん?》 52 00:03:49,996 --> 00:03:52,999 (男性)《君は 2階に住む 樋口を知っているか?》 53 00:03:52,999 --> 00:03:56,002 《いいえ》 (男性)《そうか…》➡ 54 00:03:56,002 --> 00:03:59,005 《実は この男の情報を 集めている》➡ 55 00:03:59,005 --> 00:04:01,942 《この男に みんなが 迷惑を掛けられててね》➡ 56 00:04:01,942 --> 00:04:05,946 《およそ 褒めるべきところがない 妖怪のような男なんだけど》 57 00:04:05,946 --> 00:04:07,948 <尋ねてきた 2人は 姿を隠していたが➡ 58 00:04:07,948 --> 00:04:11,952 その 癖のあるしゃべりは 相島に違いなかった> 59 00:04:11,952 --> 00:04:14,955 (相島)《では 連想されること 知っていることがあれば答えて➡ 60 00:04:14,955 --> 00:04:19,960 飛行船 五山 ほんわか 小日向》 61 00:04:21,962 --> 00:04:24,965 <小日向さんとは 学内でも評判の 黒髪の乙女である> 62 00:04:24,965 --> 00:04:26,967 <もし どこかで 出会う機会があったなら➡ 63 00:04:26,967 --> 00:04:28,969 いくら 硬派な わたしといえど➡ 64 00:04:28,969 --> 00:04:31,972 思わず入れ揚げていた かもしれない> 65 00:04:31,972 --> 00:04:33,974 <その連想ゲームの 成果は挙がらず➡ 66 00:04:33,974 --> 00:04:36,977 そのまま 2人は帰っていった> 67 00:04:36,977 --> 00:04:39,980 <あの歯科衛生士 羽貫さんも わたしの大学の卒業生であり➡ 68 00:04:39,980 --> 00:04:42,983 あの2人と 同回生であったことが分かった> 69 00:04:42,983 --> 00:04:45,986 <ついでに言うなら あのマスターも同回生だったらしい> 70 00:04:45,986 --> 00:04:47,988 (羽貫)スモールワールドね。 71 00:04:47,988 --> 00:04:49,990 <樋口氏は 崖っぷちの8回生であるが➡ 72 00:04:49,990 --> 00:04:53,994 断固としたマイペースで ただ ひたすら 堂々としていた> 73 00:04:53,994 --> 00:04:56,997 <頻繁に羽貫さんは 樋口氏の下宿を訪ねており➡ 74 00:04:56,997 --> 00:04:58,999 数人の弟子まで 取っていたようである> 75 00:04:58,999 --> 00:05:00,934 <なぜに そこまで慕われるのか?> 76 00:05:00,934 --> 00:05:02,936 <無用を極めた生活は 筋金入りの とうかいぶりと➡ 77 00:05:02,936 --> 00:05:05,939 深い教養に 裏打ちされているのかもしれぬ> 78 00:05:07,941 --> 00:05:11,945 <かくいう わたしの1人も 弟子になっているようであった> 79 00:05:11,945 --> 00:05:14,948 <全身に水が滴る男 城ヶ崎氏は 先代から引き継いだ➡ 80 00:05:14,948 --> 00:05:16,950 いたずら合戦を 樋口氏と繰り広げていたらしい> 81 00:05:16,950 --> 00:05:18,952 <とても そんな人物には見えないが➡ 82 00:05:18,952 --> 00:05:21,955 跡目とは 次の 代理人のことだったのであろう> 83 00:05:21,955 --> 00:05:24,958 (樋口たちのくしゃみ) 84 00:05:24,958 --> 00:05:26,960 <城ヶ崎氏は 香織さんという 恋人がありながら➡ 85 00:05:26,960 --> 00:05:28,962 羽貫さんを 気に掛けているようで➡ 86 00:05:28,962 --> 00:05:30,964 羽貫さんは 樋口氏と 付き合っているようでもあり➡ 87 00:05:30,964 --> 00:05:32,632 そうでもなさそうであり➡ 88 00:05:32,632 --> 00:05:34,968 なおかつ 今度は樋口氏が 世界一周の旅に出るという> 89 00:05:34,968 --> 00:05:38,972 (樋口)羽貫も一緒に行くかい? 君は英語がしゃべれるからな。 90 00:05:38,972 --> 00:05:41,975 (羽貫)無茶 言わないでよ。 バカバカしい。 91 00:05:41,975 --> 00:05:43,977 <樋口氏が 羽貫さんに気があるのなら➡ 92 00:05:43,977 --> 00:05:45,979 羽貫さんを放置しているのは 何とも もどかしい> 93 00:05:45,979 --> 00:05:47,981 <道端に落ちている ダイヤモンドに➡ 94 00:05:47,981 --> 00:05:50,984 気付かぬふりをしているような ものではないか> 95 00:05:50,984 --> 00:05:54,988 <こうして見ると人間とは 実に奥深く 多面的なものである> 96 00:05:54,988 --> 00:05:56,990 <表面しか見ずに早合点して 人をさげすむのは➡ 97 00:05:56,990 --> 00:05:58,992 あまりに もったいない> 98 00:05:58,992 --> 00:06:01,928 <回りこめば 思いがけぬ側面が また 見えてくる> 99 00:06:01,928 --> 00:06:03,597 <わたしが 今まで どうであったかは➡ 100 00:06:03,597 --> 00:06:05,265 この際 棚に上げておく> 101 00:06:05,265 --> 00:06:06,933 <そして 上げてしまったものは いまさら 下ろしようもない> 102 00:06:06,933 --> 00:06:08,935 <しかし これだけの面々に囲まれた➡ 103 00:06:08,935 --> 00:06:10,937 わたしのキャンパスライフは はち切れんばかりに➡ 104 00:06:10,937 --> 00:06:12,939 充実していたはずである> 105 00:06:12,939 --> 00:06:14,941 <わたしは いったい 何をしていたのか?> 106 00:06:14,941 --> 00:06:16,943 <わたしは 世界を味わうすべを 知らなかった> 107 00:06:18,945 --> 00:06:21,948 <コンビニの おにぎりでいい 冷たくて カチンコチンでもいい> 108 00:06:21,948 --> 00:06:24,951 <おにぎりと 魚肉ハンバーグ 1,000個を交換してもよい> 109 00:06:24,951 --> 00:06:27,954 <もし 目の前に炊きたての 飯を盛った茶わんが置かれたら➡ 110 00:06:27,954 --> 00:06:29,956 わたしは ぼうだの涙を 流すであろう> 111 00:06:29,956 --> 00:06:31,958 <ことさら 恋焦がれるのは 猫ラーメンである> 112 00:06:31,958 --> 00:06:34,961 <夜中に ふと思い立ち 猫ラーメンを食いに行ける世界> 113 00:06:34,961 --> 00:06:37,964 <これを 極楽という> 114 00:06:40,967 --> 00:06:43,970 <ほとんど 全てのわたしの部屋に カステラを運ぶ男> 115 00:06:43,970 --> 00:06:47,974 <たくさんのサークルに属し その全容は把握しきれない> 116 00:06:47,974 --> 00:06:50,977 <情報通で人の恋路を邪魔し 日常的に あちこちに➡ 117 00:06:50,977 --> 00:06:52,979 修羅場の炎が燃え盛るように けしかけ➡ 118 00:06:52,979 --> 00:06:55,982 樋口師匠の弟子として 城ヶ崎氏の 暴露映画を制作しながら➡ 119 00:06:55,982 --> 00:06:57,984 城ヶ崎氏に取り入り 二重スパイとして➡ 120 00:06:57,984 --> 00:07:00,921 樋口氏の浴衣を ピンク色に染めた> 121 00:07:00,921 --> 00:07:02,923 <やがて 相島の手先となりながら➡ 122 00:07:02,923 --> 00:07:04,925 城ヶ崎氏を 映画サークルから追い出し➡ 123 00:07:04,925 --> 00:07:07,928 今度は 相島をはめて 自分が 秘密組織のトップに躍り出た> 124 00:07:07,928 --> 00:07:10,930 <あの掲示板も 小津の仕業だったのだ> 125 00:07:10,930 --> 00:07:13,933 <八面六臂の大活躍で 己のキャンパスライフを謳歌しながら➡ 126 00:07:13,933 --> 00:07:15,935 全ての わたしに ちょっかいを出し続ける> 127 00:07:15,935 --> 00:07:17,938 <こんな男に出会っていれば わたしのキャンパスライフは➡ 128 00:07:17,938 --> 00:07:19,940 楽しいものになったであろう> 129 00:07:19,940 --> 00:07:23,943 <小津は たった一人の わたしの親友らしかった> 130 00:07:23,943 --> 00:07:25,945 (すすり泣き) 131 00:07:31,952 --> 00:07:33,954 あ…。 132 00:07:44,964 --> 00:07:47,967 <それは 小津が忘れていった スマートフォンであった> 133 00:07:47,967 --> 00:07:49,969 <パスワードを 散々 試した揚げ句➡ 134 00:07:49,969 --> 00:07:52,973 戯れに 小日向さんの名前を 打ち込むと 開いた> 135 00:07:52,973 --> 00:07:55,976 <何と 小日向さんは 小津の彼女であったのだ> 136 00:07:55,976 --> 00:07:57,644 <信じられない。 わたしにも➡ 137 00:07:57,644 --> 00:07:59,913 彼女を 紹介してくれれば よいではないか> 138 00:07:59,913 --> 00:08:02,916 <しかし それは 小津の秘密らしかった> 139 00:08:02,916 --> 00:08:04,918 <小津は ほんわかが所有している➡ 140 00:08:04,918 --> 00:08:07,921 飛行船の貸し出しを願い出て 断られている> 141 00:08:07,921 --> 00:08:10,924 (羽貫)《五山の人込みで 彼女が泣いちゃって》 142 00:08:10,924 --> 00:08:13,927 (小津)《えー そんなこと 急に言われても》 143 00:08:13,927 --> 00:08:17,931 <五山送り火とは 京都の 夏の夜空を彩る風物詩である> 144 00:08:17,931 --> 00:08:20,934 <盆地を囲む5つの山に 「大文字」 「妙法」 「船形」➡ 145 00:08:20,934 --> 00:08:23,937 「左大文字」 「鳥居形」の5つが それぞれ 順に点火されるが➡ 146 00:08:23,937 --> 00:08:26,940 全てを地上から一度に見ることは できないとされている> 147 00:08:26,940 --> 00:08:28,942 <しかし 小津は 小日向さんと五山を見るために➡ 148 00:08:28,942 --> 00:08:30,944 遊覧飛行を計画したのだ> 149 00:08:30,944 --> 00:08:33,947 <アホか> 150 00:08:33,947 --> 00:08:36,950 <小津は どうやら 飛行船を強奪するつもりらしい> 151 00:08:36,950 --> 00:08:38,952 (小津)《借りるだけですよ》 152 00:08:38,952 --> 00:08:41,955 <恐ろしいほどの純愛。 肝の据わったアホである> 153 00:08:41,955 --> 00:08:44,958 <この男のどこに そんな大胆さがあるのであろう> 154 00:08:44,958 --> 00:08:46,626 <これを妖怪と見まごうとは➡ 155 00:08:46,626 --> 00:08:48,962 よほど 心のねじ曲がった人間の 見識か> 156 00:08:48,962 --> 00:08:50,630 あっ…。 157 00:08:50,630 --> 00:08:52,966 (相島)《この男の情報を 集めている》➡ 158 00:08:52,966 --> 00:08:56,970 《五山 飛行船 小日向》 159 00:08:56,970 --> 00:08:59,973 <相島は はめられた落とし前を つける気だ> 160 00:09:10,917 --> 00:09:14,921 <五山は 2カ月以上前 わたしが この世界に迷いこんだ日だ> 161 00:09:19,926 --> 00:09:21,594 <もし ここから出られたら➡ 162 00:09:21,594 --> 00:09:24,931 カフェ コレクションの たらこスパゲティを食い 猫ラーメンをすする> 163 00:09:24,931 --> 00:09:26,933 <銭湯の広い湯船に ざぶんと漬かって➡ 164 00:09:26,933 --> 00:09:28,935 河原町で映画を見る> 165 00:09:28,935 --> 00:09:31,938 <蛾眉書房の親父と やり合い 大学で講義を聴くのもいい> 166 00:09:31,938 --> 00:09:33,940 <樋口師匠に弟子入りして わいだんに ふけり➡ 167 00:09:33,940 --> 00:09:36,943 羽貫さんの 地獄の エンドレスナイトを味わい➡ 168 00:09:36,943 --> 00:09:38,945 城ヶ崎氏の意味不明な情熱映画に 付き合い➡ 169 00:09:38,945 --> 00:09:41,948 秘密組織にも身を置いてみよう> 170 00:09:45,952 --> 00:09:47,620 <嘘をついて 自分を なだめすかしていても➡ 171 00:09:47,620 --> 00:09:50,023 日に日に それは難しくなっていった> 172 00:09:59,966 --> 00:10:01,634 うっ…。 173 00:10:01,634 --> 00:10:03,970 <ここは わたしが もともと住んでいた部屋だ> 174 00:10:03,970 --> 00:10:05,972 <どうやら 何十日もかけて わたしは➡ 175 00:10:05,972 --> 00:10:07,974 出発点たる四畳半に 戻ってしまったことになる> 176 00:10:07,974 --> 00:10:10,977 <おそらく この無限に広がる 四畳半世界の一角を➡ 177 00:10:10,977 --> 00:10:13,980 必死の思いをしながら 小さく 一回りしただけだったのであろう> 178 00:10:13,980 --> 00:10:16,983 <世界が終わったのか わたしが死んだのか> 179 00:10:16,983 --> 00:10:19,986 <みんな 元気で暮らしていてほしい> 180 00:10:19,986 --> 00:10:22,989 <不毛と思われた日常は 何と豊穣な世界だったのか> 181 00:10:22,989 --> 00:10:24,991 <ありもしないものばかり 夢見て➡ 182 00:10:24,991 --> 00:10:26,993 自分の足元さえ 見てなかったのだ> 183 00:10:26,993 --> 00:10:30,997 <これは わたしが選んだ人生。 わたしが望んだ結果である> 184 00:10:35,001 --> 00:10:39,005 <それは 1年前の 夏の下鴨納涼古本祭りであった> 185 00:10:39,005 --> 00:10:41,007 <下宿から足を延ばせば すぐということもあり➡ 186 00:10:41,007 --> 00:10:45,011 わたしは 連日のごとく 本をあさっていた> 187 00:10:45,011 --> 00:10:47,013 《ハァ…》 188 00:10:47,013 --> 00:10:57,023 ♬~ 189 00:10:57,023 --> 00:11:07,967 ♬~ 190 00:11:07,967 --> 00:11:10,970 《それは 何ですか?》 191 00:11:10,970 --> 00:11:12,972 (明石)《これは もちぐまです》➡ 192 00:11:12,972 --> 00:11:14,974 《5匹揃って モチグマンというのです》➡ 193 00:11:14,974 --> 00:11:17,977 《1匹 なくしてしまったのですが》 194 00:11:17,977 --> 00:11:19,979 <それまで ヨーロッパの城塞都市のように➡ 195 00:11:19,979 --> 00:11:22,982 堅固な表情であった彼女の顔が ほころんだのが印象的で➡ 196 00:11:22,982 --> 00:11:25,985 その笑顔が頭から離れなかった> 197 00:11:25,985 --> 00:11:27,987 <要するに 率直に おおかたの予想どおり➡ 198 00:11:27,987 --> 00:11:30,990 平たく ところ はばからずに 正直に言ってしまえば➡ 199 00:11:30,990 --> 00:11:32,992 そのとき わたしは➡ 200 00:11:32,992 --> 00:11:35,995 彼女に ほれたのである> 201 00:11:37,997 --> 00:11:39,999 <その夜 コインランドリーに 放り込んだ衣類を➡ 202 00:11:39,999 --> 00:11:42,001 回収しようとしたところ 奇怪なことに➡ 203 00:11:42,001 --> 00:11:44,003 わたしが 2年間 愛用した 灰色のボクサーパンツはなく➡ 204 00:11:44,003 --> 00:11:48,007 クマの縫いぐるみが ちょこんと鎮座ましましていた> 205 00:11:48,007 --> 00:11:50,009 <しかし そのとき わたしは 彼女に渡そうと思って➡ 206 00:11:50,009 --> 00:11:52,011 ポケットにしまったのだ> 207 00:11:52,011 --> 00:11:54,013 <彼女を探そうと思えば できたはずだ> 208 00:11:54,013 --> 00:11:58,017 <いつだって わたしは その一歩を踏み出せずにいた> 209 00:11:58,017 --> 00:11:59,953 (老婆)《漫然とせず 好機を 思い切って➡ 210 00:11:59,953 --> 00:12:03,957 つかまえてごらんなさいまし》 211 00:12:03,957 --> 00:12:08,962 <今なら踏み出せる。 何十歩でも 何百歩でも> 212 00:12:08,962 --> 00:12:12,966 ⚟(電車の走行音) 213 00:12:12,966 --> 00:12:15,969 うわっ! 214 00:12:15,969 --> 00:12:19,973 うわっ! うっ うっ… ああっ! 215 00:12:19,973 --> 00:12:21,975 うう…。 216 00:12:21,975 --> 00:12:27,981 (電車の走行音) 217 00:12:34,988 --> 00:12:39,993 ハァ ハァ ハァ…。 218 00:12:39,993 --> 00:12:44,998 ⚟(男性)止まらないでください。 橋の上で大文字は見物できません。 219 00:12:51,004 --> 00:12:53,006 ハァ…。 220 00:13:05,952 --> 00:13:07,954 ⚟(男性)止まらないでください。➡ 221 00:13:07,954 --> 00:13:13,960 橋の上で大文字は見物できません。 止まらないでください。 222 00:13:23,970 --> 00:13:28,975 (歓声) 223 00:13:37,984 --> 00:13:39,986 (小津)ハッ ハッ…。 あっ…。 224 00:13:42,989 --> 00:13:44,991 (小津)おーとっとっとっ! 225 00:13:44,991 --> 00:13:46,993 小津君! 226 00:13:46,993 --> 00:13:50,997 (学生)小津め 観念しろ! (城ヶ崎)この裏切り者が! 227 00:13:50,997 --> 00:13:53,100 (相島)もう逃げられんぞ 小津! 228 00:13:53,100 --> 00:13:57,003 (明石)小津先輩! また 何をやらかしたのですか! 229 00:13:57,003 --> 00:13:59,005 (小津)僕に 何か しようというんなら➡ 230 00:13:59,005 --> 00:14:00,606 ここから飛び降りてやる! 231 00:14:00,606 --> 00:14:03,943 身の安全が保証されないかぎり そちらへは降りないぞ! 232 00:14:03,943 --> 00:14:06,946 (相島)身の安全なんぞ 要求できる立場か! 233 00:14:06,946 --> 00:14:08,948 (学生たち)そうだ そうだ! 234 00:14:08,948 --> 00:14:10,950 (城ヶ崎)自分のやったこと 考えてみろ! 235 00:14:10,950 --> 00:14:15,955 もういい! 飛び降りてやる! 僕は 飛んでやるぞ! 236 00:14:15,955 --> 00:14:31,971 ♬~ 237 00:14:31,971 --> 00:14:34,974 あっ…。 238 00:14:34,974 --> 00:14:39,979 ⚟(人々の悲鳴) 239 00:14:41,981 --> 00:14:46,986 小津! 240 00:14:48,988 --> 00:14:50,990 はあ? 241 00:14:54,994 --> 00:15:00,933 小津! 小津! 小津! 小津! 242 00:15:00,933 --> 00:15:29,962 ♬~ 243 00:15:29,962 --> 00:15:32,965 おおっ! あんた 誰ですか! 244 00:15:32,965 --> 00:15:35,968 わたしだ! 小津! 裸じゃないですか!? 245 00:15:35,968 --> 00:15:38,971 俺に任せろ! 身をていして お前をかばってやる! 246 00:15:38,971 --> 00:15:41,974 何ですか!? うわっ! 247 00:15:44,977 --> 00:15:46,979 (明石)ガ!? 248 00:15:46,979 --> 00:15:49,982 (どよめき) 249 00:15:51,984 --> 00:15:54,987 (明石)ぎょえー!! 250 00:15:54,987 --> 00:15:57,990 <翌日の京都新聞にも 載ったことであるが➡ 251 00:15:57,990 --> 00:16:00,927 そのガの異常発生について 詳しいことはよく分かっていない> 252 00:16:00,927 --> 00:16:03,930 <しかし 視聴者諸君には お分かりであろう> 253 00:16:03,930 --> 00:16:05,932 あいつ 本当に落ちやがった! (学生)やっべ。 254 00:16:05,932 --> 00:16:07,934 (城ヶ崎)助けてやれ。 (学生)むしろ 死ね! 255 00:16:07,934 --> 00:16:09,936 (学生)殺しても 死ぬようなやつじゃない。 256 00:16:09,936 --> 00:16:12,939 痛い 痛い 痛い。 あっ 足が折れています。 257 00:16:12,939 --> 00:16:15,942 もう放してください。 何があっても お前を放さんぞ! 258 00:16:15,942 --> 00:16:17,944 (小津)何で僕に構うのですか! 259 00:16:17,944 --> 00:16:20,947 わたしと お前は どす黒い糸で結ばれているのだ! 260 00:16:20,947 --> 00:16:23,950 そんなん知りません! 嫌です! 261 00:16:23,950 --> 00:16:25,952 (喧噪) 262 00:16:25,952 --> 00:16:27,954 (樋口)小津は逃げないから 安心したまえ。 263 00:16:27,954 --> 00:16:31,958 わたしが責任を持つ。 (小津)師匠 カッコイイ! 264 00:16:33,960 --> 00:16:35,962 失脚しちゃいました。 265 00:16:35,962 --> 00:16:37,964 彼女のために 骨を折るのはいいが➡ 266 00:16:37,964 --> 00:16:40,967 ホントに 足の骨まで 折ることはないだろう。 267 00:16:40,967 --> 00:16:44,971 貴君は救い難いアホだな。 (小津)ありがとうございます! 268 00:16:44,971 --> 00:16:46,973 自業自得だけどね。 269 00:16:46,973 --> 00:16:50,977 (城ヶ崎)調子のいい野郎だ。 (小津)すみません 城ヶ崎さん。 270 00:16:50,977 --> 00:16:52,979 任して。 271 00:16:55,982 --> 00:16:59,919 貴君は 下鴨幽水荘の 住人ではなかったか? 272 00:16:59,919 --> 00:17:01,921 そうです。 273 00:17:01,921 --> 00:17:05,591 小津をよろしく頼むよ。 これで前を隠したまえ。 274 00:17:05,591 --> 00:17:07,260 あああっ! 275 00:17:07,260 --> 00:17:10,930 1人で行っちゃいけません。 羽貫さんは待ってます! 276 00:17:10,930 --> 00:17:12,932 分かってるよ。 駄目です! 277 00:17:12,932 --> 00:17:16,936 おとこ気を見せてください。 ついて来いって! 278 00:17:16,936 --> 00:17:19,939 貴君も面白い男だな。 279 00:17:19,939 --> 00:17:23,943 <飛行船の強奪に失敗した小津は 樋口師匠の提案で➡ 280 00:17:23,943 --> 00:17:26,946 女装して 琵琶湖疏水を下って鴨川に戻り➡ 281 00:17:26,946 --> 00:17:28,948 師匠と落ち合うはずが 女装など簡単にバレて➡ 282 00:17:28,948 --> 00:17:31,951 というか むしろ目立ち ほんわか および福猫飯店のメンバー➡ 283 00:17:31,951 --> 00:17:34,954 さらに 弟子の裏切りに 気付いた城ヶ崎氏➡ 284 00:17:34,954 --> 00:17:37,957 恋路を邪魔された 有形無形の 者たちにも 追い詰められ➡ 285 00:17:37,957 --> 00:17:40,960 とうとう 賀茂大橋の欄干に 飛び乗ったということであった> 286 00:17:43,963 --> 00:17:50,970 (明石)ああ… ああ…。 287 00:17:52,972 --> 00:17:55,975 (明石)ん? これは!? かつて わたしが拾った物だ。 288 00:17:55,975 --> 00:17:58,978 確か 君のじゃなかったかな? (明石)もしや あなたは➡ 289 00:17:58,978 --> 00:18:00,913 ねずみ色のボクサーパンツの 持ち主では?➡ 290 00:18:00,913 --> 00:18:02,915 1年前 コインランドリーで もちぐまを洗ったとき➡ 291 00:18:02,915 --> 00:18:06,919 男物の下着に 替わってしまったのです。 292 00:18:06,919 --> 00:18:09,922 それ以来 その下着の 持ち主を捜していました。 293 00:18:09,922 --> 00:18:12,925 その下着 わたしに ぴったりだと思いますぞ。 294 00:18:14,927 --> 00:18:16,929 それより よければ➡ 295 00:18:16,929 --> 00:18:19,932 猫ラーメンを食べに行きませんか。 はい。 296 00:18:19,932 --> 00:18:21,934 なぜだか わたしは ずっと その一言を➡ 297 00:18:21,934 --> 00:18:24,937 待っていたような気がします。 298 00:18:24,937 --> 00:18:26,939 ううっ… ううっ…。 299 00:18:26,939 --> 00:18:29,942 そんなに おいしいですか? うん うん。 300 00:18:29,942 --> 00:18:33,946 それは よいことです。 まさに この味は無類です。 301 00:18:33,946 --> 00:18:35,948 <わたしと明石さんの関係が➡ 302 00:18:35,948 --> 00:18:37,950 その後 いかなる進展を見せたかは この番組の趣旨から➡ 303 00:18:37,950 --> 00:18:40,953 逸脱するので お見せすることは 差し控えたい> 304 00:18:40,953 --> 00:18:43,956 <視聴者諸君も 貴重な時間を どぶに捨てたくはないだろう> 305 00:18:43,956 --> 00:18:47,960 <成就した恋ほど 語るに値しないものはない> 306 00:18:51,964 --> 00:18:54,967 <わたしは 樋口師匠の下へ 半ば 強制的に弟子入りさせられ➡ 307 00:18:54,967 --> 00:18:57,970 当の師匠は 世界一周の旅へと消えた> 308 00:19:05,911 --> 00:19:07,913 <弟子入りしたことへの後悔は➡ 309 00:19:07,913 --> 00:19:09,915 すぐに 瞬間最大風速を記録したが➡ 310 00:19:09,915 --> 00:19:11,917 地球儀の待ち針を抜くとき➡ 311 00:19:11,917 --> 00:19:15,921 樋口師匠は 今どこに いるのであろうと 夢想する> 312 00:19:15,921 --> 00:19:17,923 <城ヶ崎氏は 研究室を出て➡ 313 00:19:17,923 --> 00:19:19,925 どこかへ 就職するつもりだという> 314 00:19:19,925 --> 00:19:21,594 <そういえば 無言の美女 香織さんは➡ 315 00:19:21,594 --> 00:19:23,262 どうしているのだろうか> 316 00:19:23,262 --> 00:19:26,932 <城ヶ崎氏と 幸せな生活を 営んでいることを祈ってやまない> 317 00:19:26,932 --> 00:19:28,934 <樋口師匠 唯一の気掛かりであった➡ 318 00:19:28,934 --> 00:19:31,937 自虐的代理代理戦争は 小津と わたしによって引き継がれ➡ 319 00:19:31,937 --> 00:19:33,939 わたしは 小津が入院している間に➡ 320 00:19:33,939 --> 00:19:35,941 彼がダークスコルピオンと 呼んでいる自転車を➡ 321 00:19:35,941 --> 00:19:37,943 桃色に塗り替えた> 322 00:19:37,943 --> 00:19:40,946 <わたし自身に起きた 大きな変化としては➡ 323 00:19:40,946 --> 00:19:43,949 元田中に新しい下宿を見つけ 早々に引っ越したことである> 324 00:19:43,949 --> 00:19:46,952 <とうてい あの四畳半に 再び 寝泊まりする気にはなれず➡ 325 00:19:46,952 --> 00:19:49,955 今度は 便所が きちんと 部屋についた 六畳を選んだ> 326 00:19:57,963 --> 00:20:01,967 小津さんに恋人? 聞き捨てなりませんね。 327 00:20:01,967 --> 00:20:03,969 飛行船を盗もうとしたのも その彼女と➡ 328 00:20:03,969 --> 00:20:05,971 送り火を 空から見るつもりだったのだ。 329 00:20:05,971 --> 00:20:08,974 何と そうでしたか。 勇姿を見せるために➡ 330 00:20:08,974 --> 00:20:10,976 君たちまで 賀茂大橋に呼び出した。 331 00:20:10,976 --> 00:20:13,979 (明石)なるほど。 しかし 失敗したのですね。➡ 332 00:20:13,979 --> 00:20:16,982 小津さんは 恋の話になると とても嫌がるのです。➡ 333 00:20:16,982 --> 00:20:20,986 おそらく彼女の前では いい子でいるんでしょう。 334 00:20:20,986 --> 00:20:22,988 うーん。 335 00:20:22,988 --> 00:20:24,990 あらら お揃いで。 336 00:20:24,990 --> 00:20:27,993 お前 あれだけ悪事を働きながら➡ 337 00:20:27,993 --> 00:20:30,996 よく 小日向さんと 付き合う時間があったな。 338 00:20:30,996 --> 00:20:33,999 くっ 何の話ですか? (明石)聞きましたよ。 339 00:20:33,999 --> 00:20:36,001 一度 振られそうになって 羽貫さんに➡ 340 00:20:36,001 --> 00:20:39,004 泣きながら 電話で 相談したらしいではないですか。 341 00:20:41,006 --> 00:20:43,008 嘘ですぞ 嘘っぱちだ! 詳しく聞かせろ。 342 00:20:43,008 --> 00:20:48,013 黙秘権を主張します! 弁護士を呼べ。 くっ。 343 00:20:50,015 --> 00:20:52,017 お前 退院しても ひどい目に遭うんだろ? 344 00:20:52,017 --> 00:20:54,019 (小津)あんたに言われたくない。 345 00:20:54,019 --> 00:20:58,023 じゃあ ほとぼりが冷めるまで どこかに逃げろ。 費用は俺が持つ。 346 00:20:58,023 --> 00:21:00,960 どういう魂胆ですか! 僕は だまされないぞ! 347 00:21:00,960 --> 00:21:03,963 お前も 少しは 人を信じる心を持った方がいい。 348 00:21:03,963 --> 00:21:07,967 世の中には 俺のように 懐の深い人間もいるということだ。 349 00:21:07,967 --> 00:21:10,970 その代わり 彼女に会わせろ。 350 00:21:10,970 --> 00:21:13,973 バカな! お断りだ 何て悪趣味な! 351 00:21:13,973 --> 00:21:16,976 そうしろ お前のためだ。 くっ…。 352 00:21:16,976 --> 00:21:19,979 なぜ わたしに そんなに興味を持つんです! 353 00:21:19,979 --> 00:21:24,984 俺なりの愛だ。 そんな汚いもの いりません! 354 00:21:24,984 --> 00:21:34,994 ♬~