1 00:00:01,126 --> 00:00:06,172 (鼓とツケの音) (打楽器奏者の掛け声) 2 00:00:06,256 --> 00:00:11,261 (打楽器奏者の掛け声) 3 00:00:15,557 --> 00:00:20,562 (鼓の音) (打楽器奏者の掛け声) 4 00:00:25,567 --> 00:00:26,943 (美空(みそら))皆様 5 00:00:27,027 --> 00:00:31,948 このたび 新東宝映画 「雪之丞変化(ゆきのじょうへんげ)」におきまして― 6 00:00:32,031 --> 00:00:36,786 江戸の人気女形(おやま) 雪之丞に ふんすることにあいなりました― 7 00:00:36,870 --> 00:00:39,205 美空ひばりでございます 8 00:00:40,123 --> 00:00:45,295 この「雪之丞変化」は かつて長谷川一夫(はせがわかずお)先生が演じ― 9 00:00:45,378 --> 00:00:48,214 日本映画空前のヒット作として― 10 00:00:48,298 --> 00:00:51,676 絶大な好評を博しました 役でございます 11 00:00:52,302 --> 00:00:56,014 わたくしごとき未熟者が これを演じますことは― 12 00:00:56,097 --> 00:00:59,559 誠に 荷が勝ちすぎると思いますが― 13 00:00:59,642 --> 00:01:04,105 私は懸命に ただひたすら懸命に これを務めて― 14 00:01:04,188 --> 00:01:09,277 ごひいき皆々様のご期待に 沿いたいと願うばかりでございます 15 00:01:10,236 --> 00:01:14,532 何とぞ 最後まで ごゆるりとご鑑賞のうえ― 16 00:01:14,616 --> 00:01:16,159 ご声援のほど― 17 00:01:16,242 --> 00:01:19,537 隅から隅まで ずいと― 18 00:01:19,621 --> 00:01:24,250 こいねがい上げ奉りまする 19 00:01:24,334 --> 00:01:29,422 (鼓と拍子木の音) 20 00:01:29,506 --> 00:01:34,511 ♪~ 21 00:03:13,776 --> 00:03:18,781 ~♪ 22 00:04:15,255 --> 00:04:16,547 (門弟)いたぞ! 23 00:04:17,548 --> 00:04:20,468 (門弟)えーい! だっ! 24 00:04:21,302 --> 00:04:22,428 (門弟)あっ! 25 00:04:22,512 --> 00:04:24,097 (雪之丞)危のうございます 26 00:04:24,180 --> 00:04:28,142 わたくしめは 花村(はなむら)屋雪之丞と申す役者 27 00:04:28,226 --> 00:04:29,852 お人違いをなさらないで くださいまし 28 00:04:29,936 --> 00:04:31,646 (門弟)かーっ! (門弟)あっ! 29 00:04:33,731 --> 00:04:36,484 (門弟)黙れ! 秘命により そちの命はもらうぞ! 30 00:04:36,567 --> 00:04:37,819 たーっ! 31 00:04:39,153 --> 00:04:40,363 何をなされます 32 00:04:40,446 --> 00:04:42,365 わたくしめに そのような覚えはありませぬ 33 00:04:42,448 --> 00:04:44,450 (門弟)やあー! あっ! 34 00:04:48,121 --> 00:04:49,622 (雪之丞)お助けください! 35 00:04:50,623 --> 00:04:51,916 お助け… 36 00:04:53,001 --> 00:04:54,127 (一松斎(いっしょうさい))皆 引け! 37 00:04:59,590 --> 00:05:01,009 先生… 38 00:05:02,802 --> 00:05:06,472 (一松斎)門弟ども相手に よくぞ ここまで戦った 39 00:05:06,556 --> 00:05:09,851 望みある身を隠し 腕の覚えを現さず― 40 00:05:09,934 --> 00:05:12,312 役者になりきったものじゃ 41 00:05:12,395 --> 00:05:16,024 心正しければ 必ず剣の極意を得るもの 42 00:05:16,107 --> 00:05:18,067 誠に見事じゃ 43 00:05:18,151 --> 00:05:19,235 明日は初日 44 00:05:19,319 --> 00:05:21,612 江戸は そなたにとって― 45 00:05:21,696 --> 00:05:25,241 大望を果たすか果たせぬかの 大事な場所 46 00:05:25,325 --> 00:05:28,911 今の心の構えを忘れるなよ 47 00:05:29,662 --> 00:05:30,872 はい 48 00:05:30,955 --> 00:05:35,710 そのお言葉こそ 雪之丞 胸に銘じました 49 00:05:39,172 --> 00:05:42,300 (雪之丞) そのお言葉が わらわには… 50 00:05:42,383 --> 00:05:43,634 (観客)花村屋~! 51 00:05:43,718 --> 00:05:47,722 (拍手と歓声) 52 00:05:47,805 --> 00:05:52,810 (和楽器の演奏と歌) 53 00:06:57,166 --> 00:07:03,256 (拍手と歓声) 54 00:07:13,015 --> 00:07:16,352 (男衆)はい すみません 向こう3日間 札止めでございます 55 00:07:16,436 --> 00:07:19,230 (町人たちの怒号) 56 00:07:19,313 --> 00:07:21,149 (むく犬(いぬ)の吉)ちょいと ごめんよ 57 00:07:21,232 --> 00:07:24,485 雪之丞ってのは すげえ人気だな ハハハハッ 58 00:07:24,569 --> 00:07:25,695 (むく犬の吉) 世間じゃ 米がねえとか― 59 00:07:25,778 --> 00:07:27,947 凶作沙汰とかいってねえ 大騒ぎしてんのに― 60 00:07:28,030 --> 00:07:30,992 ここばっかりは 不景気どこ吹く風だってんだなあ 61 00:07:31,075 --> 00:07:32,702 これでねえ 腐れかかってた中村(なかむら)座も― 62 00:07:32,785 --> 00:07:34,620 一息つきますぜ 63 00:07:34,704 --> 00:07:37,540 ねえさん 雪之丞に ちょいと参ったねえ 64 00:07:37,623 --> 00:07:39,750 (お初(はつ))なるほど すごい芸だねえ 65 00:07:39,834 --> 00:07:42,253 (むく犬の吉)あれ? ねえさん 66 00:07:42,336 --> 00:07:45,465 2階にはね 土部(どべ)三斎(さんさい)がいますぜ 67 00:07:45,548 --> 00:07:46,591 あらあら 68 00:07:46,674 --> 00:07:51,888 それに… ワル米屋 広海(ひろみ)屋に長崎(ながさき)屋までいる 69 00:07:51,971 --> 00:07:54,974 あいつら 何をしても おとがめがねえと思ったら― 70 00:07:55,057 --> 00:07:56,893 土部の旦那が後ろ盾だ 71 00:07:56,976 --> 00:07:58,186 ねえさん 桟敷 見てごらん 72 00:07:58,269 --> 00:07:59,687 (お初) 桟敷がどうしたってんだい? 73 00:07:59,770 --> 00:08:01,981 (むく犬の吉) いや 土部三斎だよ 74 00:08:02,064 --> 00:08:03,691 (お初)土部が どうしたのこうしたの うるさいよ 75 00:08:03,774 --> 00:08:05,610 (むく犬の吉)うるさいったって 幕あいじゃねえか 76 00:08:05,693 --> 00:08:07,361 何もやってやしねえやな 77 00:08:08,863 --> 00:08:13,868 (拍子木の音) 78 00:08:15,203 --> 00:08:20,208 (拍手と歓声) 79 00:08:30,551 --> 00:08:34,889 これ 四十八(よそはち) 浜松(はままつ)屋というは どこじゃぞいの? 80 00:08:34,972 --> 00:08:38,558 (役者)はい 向こうに見えまする 呉服屋でござりまする 81 00:08:38,643 --> 00:08:41,102 さあ おいでなされませ 82 00:08:44,232 --> 00:08:46,859 (松ヶ枝(まつがえ))お部屋様 扇が 83 00:08:51,113 --> 00:08:52,406 (三斎)どうじゃ 浪路(なみじ) 84 00:08:52,490 --> 00:08:56,118 たまさかの芝居見物 気晴らしになったであろう 85 00:08:56,202 --> 00:08:57,912 (浪路)はい (三斎)ハハハハッ… 86 00:08:57,995 --> 00:09:02,792 (腰元)あの雪之丞とやら 艶やかなお役者衆でござりまするな 87 00:09:02,875 --> 00:09:06,337 (腰元)あれが男とは どうしても思えません 88 00:09:06,420 --> 00:09:10,174 (腰元)わたくしは この辺が ジンと痛くなってまいりました 89 00:09:16,597 --> 00:09:19,433 (役者)たくみし かたりが現れても― 90 00:09:19,517 --> 00:09:22,562 びくともいたさぬ大丈夫 91 00:09:22,645 --> 00:09:25,231 ゆすりかたりの その中でも― 92 00:09:25,314 --> 00:09:30,736 さだめて名ある者であろうな 93 00:09:31,404 --> 00:09:37,827 (雪之丞)知らざあ 言って聞かせやしょう 94 00:09:43,791 --> 00:09:50,172 浜の真砂(まさご)と五右衛門(ごえもん)が 歌に残した盗(ぬす)っ人(と)の― 95 00:09:50,256 --> 00:09:55,052 種は尽きねえ七里ヶ浜(しちりがはま) 96 00:09:55,136 --> 00:09:58,222 その白波の夜働き― 97 00:09:58,306 --> 00:10:05,146 以前を言やあ 江(え)の島(しま)で 年季勤めの稚児ケ淵(ちごがふち) 98 00:10:05,229 --> 00:10:11,777 岩本(いわもと)院で講中の 枕捜しも たび重なり― 99 00:10:11,861 --> 00:10:15,698 とうとう 島を追い出され― 100 00:10:15,781 --> 00:10:19,035 ここやかしこの寺島で― 101 00:10:19,118 --> 00:10:25,958 小耳に聞いた音羽(おとわ)屋の 似ぬ声色で― 102 00:10:26,042 --> 00:10:30,046 小ゆすり かたり― 103 00:10:30,129 --> 00:10:33,591 名せえ ゆかりの弁天小僧 104 00:10:33,674 --> 00:10:37,845 菊之助(きくのすけ)とは俺のことだ 105 00:10:37,845 --> 00:10:40,640 菊之助(きくのすけ)とは俺のことだ 106 00:10:37,845 --> 00:10:40,640 (むく犬の吉)花村屋! (お初)うるさいね 107 00:10:43,017 --> 00:10:46,979 (広海屋)ご息女は どうやら あの雪之丞にお気があるらしいな 108 00:10:47,063 --> 00:10:48,230 (長崎屋)そうらしいですな 109 00:10:48,314 --> 00:10:50,524 (広海屋)うん じゃあ こうしては? 110 00:10:52,026 --> 00:10:57,114 (三味線の演奏) 111 00:10:57,198 --> 00:10:59,617 (役者)あんま針! 112 00:10:59,700 --> 00:11:01,118 (雪之丞)おう あんまだ あんまだ 113 00:11:01,202 --> 00:11:06,374 (役者)おっと 今の新内で川流れさ 114 00:11:06,457 --> 00:11:10,336 (雪之丞) まあ ひでえ目に遭うもんだなあ 115 00:11:10,419 --> 00:11:15,424 (拍手と歓声) 116 00:11:23,557 --> 00:11:28,562 (拍手と歓声) 117 00:11:33,526 --> 00:11:38,656 (男衆たち) お疲れさまでございました 118 00:11:38,739 --> 00:11:42,701 (男衆たち) お疲れさまでございました 119 00:11:42,785 --> 00:11:47,790 (観客のざわめき) 120 00:11:56,298 --> 00:12:00,970 師匠 今日の雪之丞 いかがでございましたでしょう? 121 00:12:02,555 --> 00:12:03,806 (菊之丞(きくのじょう))いやあ あっぱれ 122 00:12:03,889 --> 00:12:07,852 日頃の心がけが実を結んで 見事であった 123 00:12:07,935 --> 00:12:12,273 江戸の見物衆も お前の舞台を見て 驚いたことだろう 124 00:12:13,357 --> 00:12:15,693 お前たち 席を外してくれ 125 00:12:24,243 --> 00:12:26,162 (菊之丞)雪 (雪之丞)はい 126 00:12:26,245 --> 00:12:27,121 (菊之丞)お前 今日― 127 00:12:27,204 --> 00:12:31,417 正面2階桟敷の顔ぶれを しっかりと見届けたか? 128 00:12:31,500 --> 00:12:32,960 はい 129 00:12:34,462 --> 00:12:37,214 真ん中の老体が土部三斎 130 00:12:37,840 --> 00:12:41,010 その右に長崎屋 広海屋 131 00:12:41,927 --> 00:12:46,015 ご息女さまの左側にいたのが 浜川(はまかわ)に横山(よこやま) 132 00:12:46,098 --> 00:12:47,683 (菊之丞)そのとおりだ 133 00:12:48,851 --> 00:12:51,145 江戸の初興行に― 134 00:12:51,228 --> 00:12:55,024 図らずも 敵を前に舞台に立ちました 私 135 00:12:55,941 --> 00:12:59,487 敵の姿は この目から離れません 136 00:13:00,154 --> 00:13:03,657 さすがに花道では 苦しそうに見えたが― 137 00:13:03,741 --> 00:13:05,868 よく耐え忍んでくれた 138 00:13:05,951 --> 00:13:09,830 それでこそ 大事が成し遂げられますぞ 139 00:13:17,087 --> 00:13:20,257 (男衆)ありがとうございます 毎度ありがとうございます 140 00:13:20,341 --> 00:13:22,218 (むく犬の吉)あねご! 141 00:13:22,301 --> 00:13:23,427 えっ? 142 00:13:26,263 --> 00:13:29,517 土部様のお座敷へ お招きですって? 143 00:13:29,600 --> 00:13:32,144 (楽屋番)柳(やなぎ)ばしの川長(かわちょう)で お待ちとのことでございます 144 00:13:37,358 --> 00:13:38,943 (菊之丞)お受けするがよい 145 00:13:39,443 --> 00:13:40,444 (雪之丞)はい 146 00:13:42,154 --> 00:13:46,408 雪之丞 喜んでお伺いいたしますと 伝えてください 147 00:13:46,492 --> 00:13:47,451 (楽屋番)はい 148 00:13:49,870 --> 00:13:53,415 (菊之丞)こよい 土部三斎の 屋敷に招かれるというのも― 149 00:13:53,499 --> 00:13:55,042 恐ろしい因縁 150 00:13:55,584 --> 00:13:59,129 恐らく 亡き両親の手引きと思います 151 00:14:01,298 --> 00:14:06,887 必ず その座敷には 4人の敵が 三斎の供をするに違いがない 152 00:14:07,972 --> 00:14:10,474 どのようなことが起きても― 153 00:14:10,558 --> 00:14:13,727 取り乱して慌てふためいては なりませんぞ 154 00:14:13,811 --> 00:14:15,479 三斎の一行は― 155 00:14:15,563 --> 00:14:18,649 お前を疑いの目で見るとは 思いませんが― 156 00:14:18,732 --> 00:14:21,277 ここは大事なところだ 157 00:14:21,360 --> 00:14:25,614 くれぐれも自重して 敵のやつらに近づき― 158 00:14:25,698 --> 00:14:27,658 様子を探るがよい 159 00:14:29,159 --> 00:14:33,998 はい 十分に心してまいります 160 00:14:45,968 --> 00:14:49,388 (松浦(まつうら)屋)“口惜(くや)しや 口惜し” 161 00:14:50,264 --> 00:14:53,517 “この焦熱地獄の苦しみ” 162 00:14:53,601 --> 00:14:56,937 “呪わしや 土部駿河(するが)” 163 00:14:57,438 --> 00:15:00,816 “憎や 浜川 横山” 164 00:15:00,900 --> 00:15:02,985 “おのれ 三郎兵衛(さぶろべえ) 広海屋” 165 00:15:03,694 --> 00:15:06,488 〝罪もない この儂(わし)を おとしいれて 〞 166 00:15:06,572 --> 00:15:09,658 〝死んでも死にきれぬ 〞 167 00:15:11,869 --> 00:15:14,538 (雪之丞)父上 母上… 168 00:15:16,498 --> 00:15:23,464 土部一味のために 非業の死を遂げられた父上 母上… 169 00:15:25,007 --> 00:15:30,971 私は今 その憎い敵の所へ 呼ばれてまいるのでございます 170 00:15:32,306 --> 00:15:37,728 私は 父上や母上の ご無念を思うと― 171 00:15:38,854 --> 00:15:41,231 じっとしてはいられません 172 00:15:44,860 --> 00:15:51,867 必ず あの一味の悪事を暴き お恨みを晴らします 173 00:15:55,329 --> 00:16:00,709 思えば 父上母上のおいでのあのころが― 174 00:16:02,127 --> 00:16:07,508 私にとっては 一番幸せだった時かもしれません 175 00:16:15,474 --> 00:16:20,145 (町人たち) わっしょい わっしょい わっしょい わっしょい… 176 00:16:20,229 --> 00:16:23,941 わっしょい わっしょい わっしょい わっしょい… 177 00:16:26,777 --> 00:16:28,988 (お園)あっ お雪(ゆき)が 178 00:16:29,071 --> 00:16:33,617 (松浦屋)おっ 雪が ハハハハッ 179 00:16:33,701 --> 00:16:38,706 (祭り囃子) 180 00:16:43,085 --> 00:16:44,545 (お園)お雪! 181 00:16:46,422 --> 00:16:49,842 (お雪)お父ちゃま お母ちゃま 182 00:16:50,968 --> 00:16:52,011 (お園)お雪 183 00:16:52,094 --> 00:16:53,178 (松浦屋)お雪 184 00:16:53,262 --> 00:16:54,722 (お忍)お嬢様 185 00:17:00,853 --> 00:17:03,564 (長崎屋)おう 広海屋の ご主人かと思ったら お前か 186 00:17:03,647 --> 00:17:06,233 (男性)ご主人のとこに お奉行の土部様が来てるんだ 187 00:17:06,316 --> 00:17:07,651 例のことか? (男性)うん そうだ 188 00:17:07,734 --> 00:17:09,528 早く来てくれよ 189 00:17:09,611 --> 00:17:16,242 (町人たち) わっしょい わっしょい わっしょい わっしょい… 190 00:17:16,326 --> 00:17:23,250 わっしょい わっしょい わっしょい わっしょい… 191 00:17:23,333 --> 00:17:27,628 わっしょい わっしょい わっしょい わっしょい… 192 00:17:34,845 --> 00:17:38,682 (広海屋)松浦屋の番頭 三郎兵衛でございます 193 00:17:41,769 --> 00:17:43,187 (三斎)三郎兵衛 194 00:17:43,771 --> 00:17:49,276 この品を松浦屋の倉の 海産物の梱包の中に詰め込んでおけ 195 00:17:49,359 --> 00:17:52,529 (浜川)あとは万事 我々が うまく事を運ぶ 196 00:17:52,613 --> 00:17:55,491 (長崎屋) はい 承知いたしました 197 00:17:55,574 --> 00:17:58,577 うまくいけば 松浦屋の身代の5分の1は― 198 00:17:58,660 --> 00:18:00,037 そのほうのものじゃ 199 00:18:00,120 --> 00:18:01,663 (横山)もし間違えれば― 200 00:18:01,747 --> 00:18:04,500 そのほうも 密買易(みつがい)の加担の罪だぞ 201 00:18:06,960 --> 00:18:09,963 (男性)番頭さん 5分の1ですよ 202 00:18:10,047 --> 00:18:14,510 (土部たちの笑い声) 203 00:18:43,288 --> 00:18:44,581 (浜川)松浦屋清左衛門(せいざえもん) 204 00:18:44,665 --> 00:18:48,418 不審のかどあって 浜川平之進(へいのしん) 取り調べに参った 205 00:18:48,502 --> 00:18:50,337 一体それは どのようなことで ございましょうか? 206 00:18:50,420 --> 00:18:52,297 (横山)ええい しらじらしいぞ 207 00:18:52,381 --> 00:18:55,300 そのほう 表向き 海産物を商いながら― 208 00:18:55,384 --> 00:18:58,095 裏へ回れば ご禁制の 密買易をいたしよる向き― 209 00:18:58,178 --> 00:18:59,638 奉行所へ届けた者がある 210 00:18:59,721 --> 00:19:03,225 どこの誰が そのようなざん訴 いたしたかは存じませんが― 211 00:19:03,308 --> 00:19:05,686 松浦屋は ただの海産物問屋 212 00:19:05,769 --> 00:19:08,021 いかがわしい取り引きは 決してしておりません 213 00:19:08,105 --> 00:19:10,899 お疑いなれば ご存分にお調べのほどを 214 00:19:10,983 --> 00:19:12,276 (浜川)うん よく申した 215 00:19:12,359 --> 00:19:14,611 それ! (手下たち)はっ! 216 00:19:17,781 --> 00:19:19,158 (横山)これは何だ! 217 00:19:20,784 --> 00:19:21,702 (松浦屋)あっ! 218 00:19:22,703 --> 00:19:25,080 はっ… (浜川)松浦屋! 219 00:19:25,164 --> 00:19:28,167 この動かぬ証拠 何と申し開きするんじゃ 220 00:19:28,250 --> 00:19:29,918 これは何かの間違いに 違いありません 221 00:19:30,002 --> 00:19:31,795 黙れ! 不届きなやつだ 222 00:19:31,879 --> 00:19:32,838 お縄にせい 223 00:19:32,921 --> 00:19:35,799 (手下たち)どけどけ どけい 224 00:19:36,341 --> 00:19:37,301 (お園)あなた… 225 00:19:37,384 --> 00:19:38,510 (浜川)控えい! 226 00:19:44,224 --> 00:19:45,642 お父ちゃま! 227 00:19:47,686 --> 00:19:49,605 (駕籠(かご)屋たち) えっほ えっほ えっほ えっほ… 228 00:19:52,983 --> 00:19:59,281 (駕籠屋たち)えっほ えっほ えっほ えっほ えっほ… 229 00:19:59,364 --> 00:20:05,662 えっほ えっほ えっほ えっほ えっほ えっほ… 230 00:20:06,413 --> 00:20:10,292 えっほ えっほ えっほ えっほ… 231 00:20:11,710 --> 00:20:12,794 (駕籠屋)太夫 着きやしたぜ 232 00:20:12,878 --> 00:20:14,213 (仲居たち)いらっしゃいませ 233 00:20:17,507 --> 00:20:20,010 (長崎屋)皆さん お待たせしましたが― 234 00:20:20,093 --> 00:20:22,596 太夫も じきに見えますほどに 235 00:20:24,306 --> 00:20:29,895 お部屋様 どうぞ一つ お過ごしくださいまし 236 00:20:29,978 --> 00:20:31,605 (浪路)私はまた― 237 00:20:31,688 --> 00:20:34,107 頭が痛んでまいりますと いけませぬゆえ 238 00:20:34,191 --> 00:20:38,237 (三斎)ハハハハッ 浪路 そう遠慮いたさずともよい 239 00:20:38,320 --> 00:20:41,448 今日はそなた 久しぶりのお宿下がり 240 00:20:41,531 --> 00:20:45,035 堅苦しい奥の勤めは忘れて うちくつろぐがよいぞ 241 00:20:45,118 --> 00:20:46,328 (浪路)はい 242 00:20:46,411 --> 00:20:48,205 (仲居)ただ今 太夫が お着きになりました 243 00:20:48,288 --> 00:20:49,498 (長崎屋)おう 見えましたか 244 00:20:49,581 --> 00:20:52,084 さあさあ ご案内申しなさい (仲居)はい 245 00:20:58,048 --> 00:21:00,717 中村雪之丞にござります 246 00:21:00,801 --> 00:21:03,053 こよいは わざわざお招きにあずかり― 247 00:21:03,136 --> 00:21:05,305 かたじけのう存じます 248 00:21:06,265 --> 00:21:12,354 このたび 手前上方よりはるばると ご当地の皆様を頼りまえらせ― 249 00:21:12,437 --> 00:21:15,649 先刻は また未熟な芸にと お目を汚し― 250 00:21:15,732 --> 00:21:18,527 失礼の段をおわび申し上げます 251 00:21:18,610 --> 00:21:23,657 何とぞ 幾久しく ごひいきお引き立てのほど― 252 00:21:23,740 --> 00:21:25,784 お願い申し上げます 253 00:21:26,535 --> 00:21:27,703 (三斎)おお 雪之丞か 254 00:21:27,786 --> 00:21:30,372 遠慮はいらん さあ これへ参れ 255 00:21:30,455 --> 00:21:31,665 近う 参れ 256 00:21:31,748 --> 00:21:33,166 (雪之丞)ご無礼いたします 257 00:21:33,250 --> 00:21:35,544 (三斎)待ちかねておったぞ さあさあ 258 00:21:39,673 --> 00:21:40,507 まず一献 259 00:21:41,341 --> 00:21:43,302 (雪之丞)頂戴つかまつります 260 00:21:58,734 --> 00:22:02,738 (三斎)ああ 雪之丞 浪路に杯をのう 261 00:22:05,198 --> 00:22:07,075 (長崎屋)あっ 太夫 262 00:22:07,159 --> 00:22:09,411 近頃 江戸のはやりでな 263 00:22:09,494 --> 00:22:13,290 そなたのような優れた芸当の人が 口に当てた杯は― 264 00:22:13,373 --> 00:22:16,752 そのままに お客が持ち帰るのが 習わしになっておる 265 00:22:16,835 --> 00:22:21,965 そなたも ご息女様にお願いして お持ち帰り願うがよい 266 00:22:22,049 --> 00:22:25,719 (雪之丞)はっ では 失礼つかまつります 267 00:22:36,688 --> 00:22:40,692 雪之丞 そのほう 江戸は初めてか? 268 00:22:40,776 --> 00:22:42,778 初めてでございます 269 00:22:42,861 --> 00:22:44,071 生まれは? 270 00:22:44,154 --> 00:22:46,114 浪速(なにわ)でございます 271 00:22:46,198 --> 00:22:49,326 それにしては 言葉になまりがないようじゃが 272 00:22:49,868 --> 00:22:52,120 あっ はい 273 00:22:52,746 --> 00:22:57,250 幼いころより 身は浮き草の旅暮らし 274 00:22:57,334 --> 00:23:01,630 もしあれば 日本中のなまりがございましょう 275 00:23:01,713 --> 00:23:06,551 (三斎)うんうん なるほど ハハハハッ… 276 00:23:06,635 --> 00:23:07,719 (長崎屋)太夫 (雪之丞)はっ 277 00:23:07,803 --> 00:23:12,182 (長崎屋) 先ほど舞台を見ていた時には さほどにも思いませなんだが― 278 00:23:12,265 --> 00:23:14,101 こうして近間で見ると― 279 00:23:14,184 --> 00:23:17,938 どこかで一度 会ったような気がしまするな 280 00:23:18,021 --> 00:23:21,358 うむ わしも先ほどより― 281 00:23:21,441 --> 00:23:25,112 誰かに似ているように 思っておったが 282 00:23:26,446 --> 00:23:28,573 さようでございますか 283 00:23:28,657 --> 00:23:32,410 何分にも 役者稼業は 男になったり女になったり― 284 00:23:32,494 --> 00:23:34,788 誰かに化けることが身上 285 00:23:34,871 --> 00:23:37,457 似ている方も いろいろとございましょう 286 00:23:37,541 --> 00:23:42,129 (一同の笑い声) 287 00:23:54,683 --> 00:23:56,059 しばらく こちらで― 288 00:23:56,143 --> 00:23:59,187 ご休息あそばすと よろしゅうございます 289 00:23:59,271 --> 00:24:04,025 もともと たしなめぬご酒など 無理に頂きましたので― 290 00:24:04,109 --> 00:24:06,736 酔いが回ったのかもしれませぬ 291 00:24:07,988 --> 00:24:11,992 (長崎屋)お部屋様 お疲れになられたでしょう 292 00:24:12,075 --> 00:24:15,203 こちらの部屋で 少し横になられましてはいかが… 293 00:24:15,287 --> 00:24:16,580 (浪路)それには及びませぬ 294 00:24:16,663 --> 00:24:20,458 (長崎屋) では ただ今 よいお話し相手を 連れてまいりますから― 295 00:24:20,542 --> 00:24:23,211 楽しみにお待ちくださいまし 296 00:24:27,883 --> 00:24:29,759 話し相手? 297 00:24:29,843 --> 00:24:31,344 お分かりでしょう? 298 00:25:17,557 --> 00:25:19,684 失礼つかまつりました 299 00:25:20,936 --> 00:25:23,772 (三斎)うん 見事じゃ 大したものじゃ 300 00:25:34,324 --> 00:25:37,160 あっ お部屋様 お見えになりました 301 00:25:37,244 --> 00:25:38,495 まあ 302 00:25:43,500 --> 00:25:47,170 (雪之丞)ご息女様のおつれづれを お慰め申したいと存じ― 303 00:25:47,254 --> 00:25:49,464 ご機嫌を伺いに参りました 304 00:25:49,547 --> 00:25:52,676 長崎屋の言うた よい話し相手とは― 305 00:25:52,759 --> 00:25:54,928 やはり そなたでしたか 306 00:25:55,011 --> 00:25:57,305 私のような者に― 307 00:25:57,389 --> 00:26:01,393 貴いご身分のご息女様の お話し相手が務まりますかどうか… 308 00:26:01,476 --> 00:26:04,562 (浪路)そのような皮肉を 申すものではありません 309 00:26:04,646 --> 00:26:07,315 心から打ち解け合って話せる 相手なら― 310 00:26:07,399 --> 00:26:10,235 身分の違いなど あるはずがありませぬ 311 00:26:10,777 --> 00:26:13,363 (三斎)大奥勤めが よほどつらいとみえて― 312 00:26:13,446 --> 00:26:15,824 何かと わしに訴えおったが― 313 00:26:15,907 --> 00:26:19,703 浪路のやつ こよいは いい保養ができて何よりじゃ 314 00:26:19,786 --> 00:26:23,623 (広海屋)私たちには逆に 日本一の幸せと思いまするが 315 00:26:23,707 --> 00:26:27,127 うむ わしもそう思っておったが… 316 00:26:27,210 --> 00:26:30,005 おなごの心は分からんものじゃ 317 00:26:30,922 --> 00:26:33,842 (浪路)こよいは とんだ目に遭わせましたね 318 00:26:34,926 --> 00:26:39,723 私のような者の つれづれのとぎまで頼まれて… 319 00:26:39,806 --> 00:26:42,600 さぞ心苦しゅう思っておりましょう 320 00:26:42,684 --> 00:26:43,810 (雪之丞)いいえ 321 00:26:43,893 --> 00:26:46,855 何で そのようなことが ございましょう 322 00:26:46,938 --> 00:26:49,441 卑しい身分の役者風情が― 323 00:26:49,524 --> 00:26:54,154 大奥に仕えるご息女様の御身近くに 出られますだけで― 324 00:26:54,237 --> 00:26:57,615 雪之丞 ただ もったいのうて… 325 00:26:58,325 --> 00:27:00,785 (浪路)太夫 そなた― 326 00:27:00,869 --> 00:27:06,416 上様の おそばにはべる この浪路を 幸せな身分とでも思うているのか? 327 00:27:06,499 --> 00:27:11,087 はい それが幸せでのうて 何が幸せでございましょう 328 00:27:11,629 --> 00:27:14,841 この日本国中の女性(にょしょう)という女性 329 00:27:14,924 --> 00:27:18,178 それをうらやまぬ者とて ござりますまい 330 00:27:18,261 --> 00:27:20,096 (浪路)何が幸せです 331 00:27:20,805 --> 00:27:22,557 この浪路は― 332 00:27:22,640 --> 00:27:25,643 好んで大奥へ上がっているのでは ありません 333 00:27:26,311 --> 00:27:30,023 夜ごと日ごとの 味気ない人形暮らし 334 00:27:31,399 --> 00:27:36,404 浪路は こうしている時が 一番幸せなのかもしれません 335 00:27:46,664 --> 00:27:49,250 太夫 そなた 336 00:27:49,334 --> 00:27:52,003 わたくしのような女を どう思います? 337 00:27:52,087 --> 00:27:55,256 どうと申されますと? 338 00:27:55,340 --> 00:27:58,051 口では 貴い身分などと言いながら― 339 00:27:58,593 --> 00:28:00,470 胸の内では さげすんでいるのでありましょう 340 00:28:00,553 --> 00:28:01,513 何を申されます 341 00:28:01,596 --> 00:28:05,642 さげすむなどと そのようなこと とんでもございません 342 00:28:07,102 --> 00:28:08,269 太夫 343 00:28:08,770 --> 00:28:14,150 浪路は御殿へ戻っても もはや そなたのことは忘れませぬ 344 00:28:15,652 --> 00:28:18,530 この身は 上様のおそばに はべるとも― 345 00:28:18,613 --> 00:28:20,323 心は… 346 00:28:20,407 --> 00:28:23,743 心はきっと そなたのことのみ 思い暮らしましょう 347 00:28:24,369 --> 00:28:27,497 かたじけない そのお言葉で ございますが… 348 00:28:35,463 --> 00:28:36,381 (松ヶ枝)お部屋様 349 00:28:40,677 --> 00:28:45,181 ご気分が治りましたら お帰りの時刻も迫りましたゆえ― 350 00:28:45,265 --> 00:28:48,768 お支度をとの お父上様のお言葉にござります 351 00:28:49,728 --> 00:28:51,521 (浪路)すぐに参ります 352 00:28:53,440 --> 00:28:54,899 では 太夫 353 00:28:56,401 --> 00:28:59,279 またお目にかかることが できましょうね? 354 00:29:04,200 --> 00:29:07,454 (お初)将軍様の2号だか3号だか 知らないけどさ 355 00:29:07,537 --> 00:29:09,706 何も猿若町(さるわかちょう)の役者衆に― 356 00:29:09,789 --> 00:29:11,583 お座敷かけることは ないじゃないかよ 357 00:29:11,666 --> 00:29:13,251 (むく犬の吉) そんなこと言ったってさ 358 00:29:13,334 --> 00:29:15,754 下々の楽しみまで 横取りしようってのかい? 359 00:29:15,837 --> 00:29:16,671 ええ? むく犬 360 00:29:16,755 --> 00:29:20,008 何も あっしに絡んだって しょうがねえやな 361 00:29:20,091 --> 00:29:22,552 公方(くぼう)様の鼻毛でも読んでりゃ それでいいじゃない 362 00:29:22,635 --> 00:29:25,013 ああ… あねご いいかげんにしなせえや 363 00:29:25,096 --> 00:29:26,931 そう飲んじゃ 体に毒ですぜ 364 00:29:27,015 --> 00:29:28,558 うるさいね 365 00:29:28,641 --> 00:29:30,393 お前は余計な心配しなくても いいんだよ 366 00:29:30,477 --> 00:29:33,271 いや いいさ あねご 帰りやしょう ね? 367 00:29:33,354 --> 00:29:34,314 うるさいねえ 368 00:29:34,397 --> 00:29:36,566 勘定いくら? (店員)はい 369 00:29:36,649 --> 00:29:38,401 ねえ 皆さん そうでしょ? 370 00:29:38,485 --> 00:29:41,362 分かってるよ! さあ 行こう 371 00:29:41,446 --> 00:29:47,660 (駕籠屋たち) えっほ えっほ えっほ… 372 00:29:47,744 --> 00:29:50,163 (むく犬の吉)あねご 何だい? どうしたんだい? 373 00:29:50,246 --> 00:29:52,832 (お初) あれは雪之丞の駕籠だよ 374 00:29:52,916 --> 00:29:54,876 (むく犬の吉) おい あねご! あねご! 375 00:29:54,959 --> 00:29:56,169 (店員)雪之丞だって 376 00:29:56,252 --> 00:30:03,218 (駕籠屋たち) えっほ えっほ えっほ… 377 00:30:24,697 --> 00:30:26,741 (門倉(かどくら))さあ 参れ 378 00:30:29,619 --> 00:30:30,787 どっからでも来い! 379 00:30:30,870 --> 00:30:32,956 (門弟)たーっ! わっ わっ… 380 00:30:33,706 --> 00:30:36,042 参りました! 参った… 381 00:30:36,125 --> 00:30:38,127 (一松斎)平馬(へいま) 待て 382 00:30:38,211 --> 00:30:39,254 手荒すぎるぞ 383 00:30:39,337 --> 00:30:40,672 参ったと言うておる者を― 384 00:30:40,755 --> 00:30:42,882 それほどまでに 打ち込むこともなかろう 385 00:30:43,633 --> 00:30:46,302 稽古は手荒いほうが 本人のためと存じまして 386 00:30:46,386 --> 00:30:49,806 平馬 そのほう また酒を飲んでおるな? 387 00:30:49,889 --> 00:30:51,432 (門弟)申し上げます (一松斎)何じゃ? 388 00:30:51,516 --> 00:30:53,351 ただ今 中村雪之丞が参りました 389 00:30:53,434 --> 00:30:54,602 何? 雪之丞? 390 00:30:54,686 --> 00:30:55,645 はっ 391 00:31:02,026 --> 00:31:03,945 (お初)女形が何のために― 392 00:31:04,028 --> 00:31:07,115 今頃 剣術の道場へなんか やってくるんだろうねえ 393 00:31:07,198 --> 00:31:09,659 (むく犬の吉) あねご いいかげんに帰(けえ)ろうぜ 394 00:31:09,742 --> 00:31:12,161 うるさいねえ 帰りたかったら 先お帰りよ 395 00:31:12,245 --> 00:31:14,372 そうっすか じゃあ お先 396 00:31:21,087 --> 00:31:25,717 (雪之丞)先生 先夜の教え 何とお礼申し上げてよいか… 397 00:31:25,800 --> 00:31:28,386 おかげで 連日無事 務めております 398 00:31:28,469 --> 00:31:30,889 (一松斎)うむ それは何よりであった 399 00:31:30,972 --> 00:31:35,935 また そなたの評判も大したもので わしも どんなにうれしいか 400 00:31:36,019 --> 00:31:38,062 (雪之丞)恐れ入ります 401 00:31:38,146 --> 00:31:41,733 (一松斎)おう 今夜は よい折じゃ そなたに渡すものがある 402 00:31:50,533 --> 00:31:52,702 (一松斎)これをそなたに譲ろう 403 00:31:52,785 --> 00:31:53,745 え? 404 00:31:54,370 --> 00:31:56,247 (一松斎) わしが幼少のころより― 405 00:31:56,331 --> 00:32:01,377 独立自発 心肝を砕いて編み出した 流儀の一巻じゃ 406 00:32:02,211 --> 00:32:04,088 (雪之丞)では わたくしに… 407 00:32:04,172 --> 00:32:07,383 独創天心(どくそうてんしん)流の奥義を お譲りくださいますので? 408 00:32:07,467 --> 00:32:11,471 うむ いずれ弟子の誰かに 相伝すべき秘巻じゃが― 409 00:32:11,554 --> 00:32:15,558 雪之丞 そのほう以外に これを継ぐ者はおらん 410 00:32:17,435 --> 00:32:19,354 かたじけのう存じます 411 00:32:22,190 --> 00:32:24,108 (門倉)その伝習 しばらくお待ちください 412 00:32:24,192 --> 00:32:25,234 (一松斎)平馬ではないか 413 00:32:25,318 --> 00:32:26,235 (門倉)はっ 414 00:32:26,819 --> 00:32:30,573 先生 その一巻 何とぞ この門倉平馬にお譲りくだされ 415 00:32:30,657 --> 00:32:32,492 (一松斎) 何を取り乱しておるのじゃ 416 00:32:32,575 --> 00:32:34,911 見苦しいぞ 平馬 (門倉)先生! 417 00:32:35,954 --> 00:32:39,332 この門倉平馬 年少より ご膝下(しっか)に仕え― 418 00:32:39,415 --> 00:32:41,459 今日では脇田(わきた)道場一の門下生 419 00:32:41,542 --> 00:32:43,795 ご師範代をも 仰せつかっております以上― 420 00:32:43,878 --> 00:32:48,758 万一 秘伝 ご授与の時には 拙者に賜るのが順序かと存じます 421 00:32:49,300 --> 00:32:51,219 しかるに 以前は門下とは申せ― 422 00:32:51,302 --> 00:32:54,180 いわば列外の雪之丞に 奥義 相伝なされるとは― 423 00:32:54,263 --> 00:32:56,349 あまりと申せば 理不尽なお仕打ち 424 00:32:56,432 --> 00:32:57,600 言うな 平馬 425 00:32:57,684 --> 00:33:01,229 一派の流儀を伝うるに 順序も列外もない 426 00:33:01,312 --> 00:33:03,731 雪之丞こそ 我が一門にて― 427 00:33:03,815 --> 00:33:06,359 これを継ぐに足る人物と 思うたまでじゃ 428 00:33:06,985 --> 00:33:07,860 では この平馬には― 429 00:33:07,944 --> 00:33:10,655 天心流を継ぐ資格がないと 申されるのですか? 430 00:33:11,197 --> 00:33:15,326 ならば 雪之丞と 一手お手合わせをいたし― 431 00:33:15,410 --> 00:33:16,953 雌雄を決しとう存じます 432 00:33:17,036 --> 00:33:19,205 分からぬ男よのう 433 00:33:19,288 --> 00:33:21,708 そのように 焦心 狂騒いたすようでは― 434 00:33:21,791 --> 00:33:25,795 独創天心流の奥義を会得することは おぼつかないぞ 435 00:33:25,878 --> 00:33:27,130 剣は人なり 436 00:33:27,213 --> 00:33:28,923 人は また剣なり 437 00:33:29,007 --> 00:33:32,760 剣を磨かんとする者は まず その心を磨くことじゃ 438 00:33:32,844 --> 00:33:33,886 (門倉)先生! 439 00:33:33,970 --> 00:33:35,930 わたくしは まだ修行が足りぬと 申されるのですか! 440 00:33:36,014 --> 00:33:38,474 そちの心に聞くがよい 441 00:33:38,558 --> 00:33:43,021 じゃが それほど所望とあらば そなたに見せもするが― 442 00:33:43,104 --> 00:33:45,898 果たして解釈できるかな 443 00:33:46,482 --> 00:33:47,859 まず 雪之丞より 444 00:34:01,539 --> 00:34:03,249 (雪之丞)あっ ろうぜき! 445 00:34:03,332 --> 00:34:04,917 (一松斎)待て! 追うな! 446 00:34:05,501 --> 00:34:07,211 あれは白紙じゃ 447 00:34:08,880 --> 00:34:10,715 白紙でございますか? 448 00:34:10,797 --> 00:34:14,010 平馬は わしのもとについて10年余り 449 00:34:14,092 --> 00:34:15,511 剣技を学んだが― 450 00:34:15,594 --> 00:34:19,056 最も大切なものを 学ぶことができなんだ 451 00:34:19,139 --> 00:34:20,933 愚かなやつよ 452 00:34:21,016 --> 00:34:24,145 わしの流儀が 不言不説を旨とすることは― 453 00:34:24,228 --> 00:34:27,190 そちたちも十分承知のはず 454 00:34:27,273 --> 00:34:31,069 天心流の奥義は 文字にて表すことはできぬ 455 00:34:31,152 --> 00:34:32,652 虚心坦懐 456 00:34:32,737 --> 00:34:35,322 心を白紙にして事を処す 457 00:34:35,406 --> 00:34:39,702 さすれば おのずから 死中に活を得ることも易し 458 00:34:39,786 --> 00:34:43,706 雪之丞 これが独創天心流の奥義じゃ 459 00:34:43,790 --> 00:34:45,625 分かったかな 460 00:34:45,708 --> 00:34:46,918 はい 461 00:34:47,001 --> 00:34:50,838 ご教授の趣旨 よく分かりましてございます 462 00:34:54,675 --> 00:34:58,137 会得まいらば あとは そなたの胸三寸じゃ 463 00:34:58,221 --> 00:35:00,264 目指す相手は手ごわいぞ 464 00:35:00,890 --> 00:35:02,016 はい 465 00:35:02,642 --> 00:35:06,020 実は本日 その敵の座敷へ呼ばれました 466 00:35:06,104 --> 00:35:07,522 敵の座敷といえば― 467 00:35:07,605 --> 00:35:12,401 土部三斎はじめ 浜川 横山 長崎屋 広海屋の5名のはず 468 00:35:12,902 --> 00:35:13,986 はい 469 00:35:15,822 --> 00:35:18,157 その5人の顔― 470 00:35:18,241 --> 00:35:21,744 とくと この瞳の奥に 焼き付けてまいりました 471 00:35:23,329 --> 00:35:24,956 (一松斎)そうであったか 472 00:35:25,039 --> 00:35:27,166 だが くれぐれも はやるまいぞ 473 00:35:27,250 --> 00:35:30,586 血気にはやって 相手に復讐(ふくしゅう)の心を見抜かれ― 474 00:35:30,670 --> 00:35:35,508 1人でも討ちもらしては 今日(こんにち)までの そなたの苦心が… 475 00:35:35,591 --> 00:35:36,717 誰じゃ! 476 00:35:37,593 --> 00:35:38,886 (雪之丞)くせ者! 477 00:35:40,263 --> 00:35:41,389 花村屋さん 478 00:35:41,472 --> 00:35:43,349 かんざしの贈り物 ありがたく もらっとくよ 479 00:35:47,854 --> 00:35:50,231 (一松斎)待て! 表に回れ! 480 00:35:57,530 --> 00:35:59,073 ちくしょう 481 00:35:59,615 --> 00:36:01,742 一杯食わせやがったな 482 00:36:01,826 --> 00:36:03,578 (役人)やいやい やいやいやい! 483 00:36:03,661 --> 00:36:04,537 誰か来なかったかい? 484 00:36:04,620 --> 00:36:05,496 (店主)誰も来ませんよ 485 00:36:05,580 --> 00:36:08,124 (役人) おう 隠し立てしやがったら ためにならねえぞ 486 00:36:08,207 --> 00:36:09,917 (店主)い… 一体 旦那 どんな野郎で? 487 00:36:10,001 --> 00:36:11,043 闇太郎(やみたろう)よ 488 00:36:11,127 --> 00:36:13,337 おう 表らしい そら 行け! 489 00:36:13,421 --> 00:36:15,923 (店主)へっ あんな野郎に 闇の親分が捕まってたまるもんかい 490 00:36:16,007 --> 00:36:17,758 (客)そうよ (客)そうですよ 491 00:36:17,842 --> 00:36:21,387 (店主)旦那 闇の親分が 捕まろうとしてるんですぜ 492 00:36:21,470 --> 00:36:23,264 んなもん 捕まってたまるもんですかい 493 00:36:23,347 --> 00:36:24,473 ねえ 旦那 494 00:36:24,557 --> 00:36:25,641 あっ… 495 00:36:30,438 --> 00:36:32,481 (駕籠屋たち)えっほ えっほ… 496 00:36:32,565 --> 00:36:34,192 (役人)おう その駕籠 待てい 497 00:36:34,275 --> 00:36:35,443 お調べだ 498 00:36:41,574 --> 00:36:44,076 まあ 何かございましたか? 499 00:36:44,619 --> 00:36:48,623 (役人) おっ おめえさんは 中村座の 雪之丞さんじゃありませんか 500 00:36:48,706 --> 00:36:50,666 夜道は危のうござんすぜ 501 00:36:51,209 --> 00:36:53,127 闇太郎っていう泥棒が うろうろしてやすからね 502 00:36:53,211 --> 00:36:54,837 おう みんな来い! 503 00:37:03,095 --> 00:37:04,263 おのれ 雪之丞 504 00:37:21,155 --> 00:37:22,323 (門倉)雪之丞 505 00:37:23,199 --> 00:37:28,079 一松斎から受けた天心流の免許 俺に渡せ 506 00:37:28,162 --> 00:37:30,289 (雪之丞)何を申されますか 507 00:37:30,373 --> 00:37:32,583 そのようなものを 持っておりません 508 00:37:32,667 --> 00:37:34,168 (門倉)ウソを言うな! 509 00:37:34,252 --> 00:37:35,294 (雪之丞)まあ 510 00:37:35,795 --> 00:37:39,131 先ほど あなたがお持ち帰りに なったではございませんか 511 00:37:39,215 --> 00:37:41,008 (門倉)ええい 黙れ! 512 00:37:41,092 --> 00:37:41,968 これは白紙じゃ! 513 00:37:45,388 --> 00:37:47,932 (雪之丞) まあ もったいないことを 514 00:37:48,891 --> 00:37:50,142 これこそ誠の… 515 00:37:50,226 --> 00:37:54,563 一松斎と共に あくまで俺をバカにするつもりか 516 00:37:54,647 --> 00:37:58,025 出せ! 出さぬと腕ずくでも受け取るぞ 517 00:37:58,567 --> 00:38:00,194 門倉様 518 00:38:00,278 --> 00:38:04,323 私はともかく 先生のことまで 何という乱暴なお言葉 519 00:38:04,407 --> 00:38:05,449 黙れ! 520 00:38:05,533 --> 00:38:07,994 俺としては もはや 師でもなければ 弟子とも思わん 521 00:38:08,077 --> 00:38:09,870 ええい 早く免許を出せ! 522 00:38:09,954 --> 00:38:11,247 (雪之丞) お疑いも くどうございます 523 00:38:11,330 --> 00:38:12,415 (門倉)ふん! 524 00:38:17,295 --> 00:38:18,504 ふん! 525 00:38:29,307 --> 00:38:30,433 (門倉)待て! 待て! 526 00:38:30,516 --> 00:38:31,684 (雪之丞)ほっ! 527 00:38:34,437 --> 00:38:35,563 (門倉)ふん! 528 00:38:37,982 --> 00:38:39,734 (雪之丞)やっ! (門倉)うっ! 529 00:38:44,739 --> 00:38:45,823 雪之丞 待て! 530 00:38:45,906 --> 00:38:48,784 (闇太郎)おっと 旦那 やめたほうがいいね 531 00:38:48,868 --> 00:38:51,537 今の勝負は旦那の負けですぜ 532 00:38:53,289 --> 00:38:54,623 (門倉)何を言うか 貴様 533 00:38:54,707 --> 00:38:56,375 (闇太郎)およしなせえよ 534 00:38:57,418 --> 00:38:59,462 これ以上かかってくと― 535 00:38:59,545 --> 00:39:01,756 ちっとや そっとのケガじゃ すみませんぜ 536 00:39:01,839 --> 00:39:04,091 それじゃ 旦那が お世話になってる土部様に― 537 00:39:04,175 --> 00:39:05,468 言い訳が立たねえでしょう 538 00:39:05,551 --> 00:39:07,053 (門倉)貴様 何者だ? 539 00:39:07,636 --> 00:39:10,056 俺が土部家に出入りしておるのを 知っておるか 540 00:39:10,139 --> 00:39:12,141 蛇の道は蛇ですよ 541 00:39:13,100 --> 00:39:17,063 旦那は 土部様の 用心棒してるじゃありませんか 542 00:39:17,146 --> 00:39:20,358 (門倉)一体… 一体 貴様は何者だ? 543 00:39:20,441 --> 00:39:25,196 ヘヘヘッ 別に何て男じゃねえんですがね 544 00:39:25,279 --> 00:39:26,614 貴様… 545 00:39:27,281 --> 00:39:32,119 体のこなしといい 目の動きといい 並大抵の者じゃなさそうだ 546 00:39:32,203 --> 00:39:33,037 名乗れ! 547 00:39:35,122 --> 00:39:37,375 名乗らぬか! (闇太郎)ほっ… 548 00:39:37,458 --> 00:39:40,795 ほーら 旦那 またすぐ刀に手を掛ける 549 00:39:40,878 --> 00:39:43,464 実はね あっしは土部様の屋敷へ― 550 00:39:43,547 --> 00:39:46,008 一度 物を頂きにめえろうと 思いやしてね 551 00:39:46,092 --> 00:39:50,054 あそこには 人を泣かした金が たんまり入(へえ)っているようですから 552 00:39:52,348 --> 00:39:53,724 貴様 闇太郎だな 553 00:39:54,266 --> 00:39:55,643 ヘヘヘッ 554 00:39:56,977 --> 00:39:58,896 旦那も てえした眼力だ 555 00:39:58,979 --> 00:40:01,315 いかにも あっしは闇太郎 556 00:40:01,399 --> 00:40:05,236 まあ 旦那 土部様に会ったら よろしく言ってくだせえ 557 00:40:05,319 --> 00:40:09,156 そのうちに こう 米が高くっちゃ 一働きしねえと― 558 00:40:09,240 --> 00:40:11,784 俺たちの仲間が困ってやすからね 559 00:40:12,618 --> 00:40:15,913 それにしても さっきの雪之丞とかいう役者 560 00:40:15,996 --> 00:40:18,124 おっそろしい腕利きですね 561 00:40:18,666 --> 00:40:20,918 おっと いけねえ 俺を追っかけてきやがった 562 00:40:21,001 --> 00:40:23,170 じゃあ 旦那 失礼しやすぜ 563 00:40:25,131 --> 00:40:27,508 (役人)逃がすな! 追え! 追え 追え! 564 00:40:30,469 --> 00:40:32,847 (門倉)バカ者! 闇太郎は向こうへ逃げた 565 00:40:32,930 --> 00:40:35,182 (役人)うん おい 下がれ! 566 00:40:40,604 --> 00:40:42,815 門倉が土部の屋敷に… 567 00:40:44,024 --> 00:40:45,234 それにしても― 568 00:40:45,317 --> 00:40:49,697 一松斎先生の屋敷へ忍び込んだ あの不思議な女 569 00:40:49,780 --> 00:40:51,782 どうしたものであろう 570 00:40:51,866 --> 00:40:53,993 秘密が漏れねばよいが… 571 00:40:54,743 --> 00:40:58,205 (闇太郎)おめえさん その女っていうのは見たのかい? 572 00:40:58,289 --> 00:40:59,832 まあ あなた様は… 573 00:41:00,791 --> 00:41:02,543 冗談じゃねえ 574 00:41:02,626 --> 00:41:04,712 今の今まで そこに隠れていて― 575 00:41:04,795 --> 00:41:08,048 あっしと門倉との話を 全部 聞いていたくせに 576 00:41:09,049 --> 00:41:12,470 おめえさん 何か いわくがありそうだね 577 00:41:12,553 --> 00:41:15,222 話によっちゃ 力になってやってもいいぜ 578 00:41:16,515 --> 00:41:21,645 いいえ 役者風情の私に 何の秘密がございましょう 579 00:41:21,729 --> 00:41:24,982 そうか まあいいや 580 00:41:25,065 --> 00:41:26,650 縁がありゃ 会うなって言ったって― 581 00:41:26,734 --> 00:41:28,736 またどっかで会うだろうよ 582 00:41:29,570 --> 00:41:32,239 だがな あっしは どう見ても おめえさんが― 583 00:41:32,323 --> 00:41:34,867 秘密を持ってるような気がして ならねえんだ 584 00:41:35,451 --> 00:41:37,703 江戸ってとこは怖(こえ)えとこだ 585 00:41:37,786 --> 00:41:39,205 気をつけなよ 586 00:41:50,841 --> 00:41:53,260 上様より拝領の品じゃ 587 00:41:53,344 --> 00:41:55,971 粗こつのないようにいたせよ 588 00:41:58,516 --> 00:41:59,767 (茶坊主)ははあ 589 00:42:01,727 --> 00:42:03,938 たまりにて お待ちいたしております 590 00:42:05,648 --> 00:42:09,944 (若年寄)浪路の方 ご病気の由 ご様子いかがにござりましょうか? 591 00:42:10,027 --> 00:42:13,239 (三斎)あ いや 大したことはないが― 592 00:42:13,322 --> 00:42:16,575 ここ数日は 出仕できぬと思うが 593 00:42:17,451 --> 00:42:23,707 それより 長崎屋御用達商人の件 万事 頼みまするぞ 594 00:42:23,791 --> 00:42:25,459 (若年寄)ハハハハ… 595 00:42:25,543 --> 00:42:29,004 目付けども なかなか うるそうござりまするので 596 00:42:29,088 --> 00:42:31,298 (三斎) その うるさい目付けとは? 597 00:42:31,382 --> 00:42:36,220 (若年寄)恐れ入りますが 大目付 淡路守(あわじのかみ)様の懐刀 598 00:42:36,303 --> 00:42:39,473 (三斎)おう 甲斐(かい)か フフフ… 599 00:42:39,557 --> 00:42:44,478 甲斐なら貴公のご意向一つで どうにでもなるではないか 600 00:42:44,562 --> 00:42:47,481 できるだけ 致してみましょう 601 00:42:55,447 --> 00:43:00,828 (男性)土部様 お下がりー 602 00:43:10,087 --> 00:43:14,758 (大目付)おお これは土部氏 よいところでお目にかかった 603 00:43:14,842 --> 00:43:17,136 ちと お話し申し上げたい 604 00:43:18,387 --> 00:43:21,765 (三斎)大目付殿 わしは急ぐ 失礼いたす 605 00:43:21,849 --> 00:43:23,976 (大目付) いや しばらく しばらく! 606 00:43:24,059 --> 00:43:28,063 (大目付)近頃の江戸にては 米の相場が天井知らずとあいなり 607 00:43:28,147 --> 00:43:30,482 そのために 米商人どもが なお一層に… 608 00:43:30,566 --> 00:43:34,320 いや そのようなこと わしが知るわけがない 609 00:43:34,403 --> 00:43:36,864 それよりも 町人どもの不穏な振るまい 610 00:43:36,947 --> 00:43:39,158 取り締まられるが肝心じゃ 611 00:43:49,835 --> 00:43:52,212 幕府を毒する者… 612 00:43:54,632 --> 00:44:00,638 (琴の演奏) 613 00:44:21,784 --> 00:44:22,951 (松ヶ枝)お殿様 (三斎)ん? 614 00:44:23,035 --> 00:44:26,330 (松ヶ枝)控えの間で 長崎屋がお待ちしております 615 00:44:27,498 --> 00:44:30,584 (三斎) 浪路のやつ 琴なぞ弾いて― 616 00:44:30,668 --> 00:44:32,878 今日は だいぶ気分がよさそうじゃの 617 00:44:32,961 --> 00:44:35,214 (松ヶ枝)はい 幾分… 618 00:44:35,297 --> 00:44:36,548 (三斎)呼んでまいれ 619 00:44:36,632 --> 00:44:37,716 (松ヶ枝)はい 620 00:44:42,554 --> 00:44:44,098 雪之丞… 621 00:44:46,100 --> 00:44:47,393 太夫… 622 00:44:50,187 --> 00:44:56,193 (琴の演奏) 623 00:45:27,474 --> 00:45:28,434 何ですか? 624 00:45:28,517 --> 00:45:31,437 お殿様が お呼びでございます 625 00:45:37,860 --> 00:45:43,240 (三斎)大目付 淡路守のやつめが 目を光らしておるのでの 626 00:45:43,740 --> 00:45:46,201 何分 殿様のお計らいで― 627 00:45:46,285 --> 00:45:49,580 よろしく 御用達商に お命じのほど 628 00:45:50,205 --> 00:45:51,498 実は… 629 00:45:53,709 --> 00:45:56,378 当座の御用として千両だけ 630 00:45:56,462 --> 00:45:58,338 (三斎)フフフフ… 631 00:45:58,422 --> 00:46:02,801 なんとかなるじゃろうが 広海屋のことも考えてやらねば… 632 00:46:05,095 --> 00:46:10,142 実は 殿様に ぜひ ご覧に入れたいと存じまして 633 00:46:13,061 --> 00:46:14,855 (三斎)フフフフ… 634 00:46:14,938 --> 00:46:17,900 これは また見事な玉じゃの 635 00:46:18,567 --> 00:46:20,360 どこから手に入れた? 636 00:46:22,654 --> 00:46:23,780 (菊之丞)誰もいない 637 00:46:23,864 --> 00:46:25,449 それから どうした? 638 00:46:25,532 --> 00:46:29,244 (雪之丞)昨夜 一松斎先生のお口から漏れた― 639 00:46:29,328 --> 00:46:31,955 敵 土部三斎のこと 640 00:46:32,039 --> 00:46:36,126 万一 あの女にでも知れましたら いかがしましょう 641 00:46:36,793 --> 00:46:42,132 それに 門倉は 他の意味で 私をつけ狙っております 642 00:46:43,050 --> 00:46:45,219 弱ったことになったものだ 643 00:46:45,302 --> 00:46:48,388 事の成就を見ないうちに 万一のことがありましたら― 644 00:46:48,472 --> 00:46:50,724 それこそ死んでも死にきれません 645 00:46:51,475 --> 00:46:56,772 広い江戸で味方とお願いするのは 一松斎先生 ただ一人でございます 646 00:46:56,855 --> 00:46:57,689 こよい 先生に― 647 00:46:57,773 --> 00:47:00,108 宿へ来ていただいたら よくはないか? 648 00:47:02,945 --> 00:47:05,447 あっ このくす玉は? 649 00:47:05,531 --> 00:47:09,076 あっ たった今 浪路の方から届いたものだ 650 00:47:09,159 --> 00:47:10,118 まあ… 651 00:47:11,245 --> 00:47:12,454 (菊之丞)雪之丞 652 00:47:12,538 --> 00:47:15,958 浪路の方に近づいて 一思いに籠絡すれば― 653 00:47:16,041 --> 00:47:19,002 憎い三斎を苦しめるも同じこと 654 00:47:19,086 --> 00:47:21,129 それはできません 655 00:47:21,213 --> 00:47:23,840 いくら敵の娘にしても― 656 00:47:23,924 --> 00:47:28,720 罪とがのない浪路の方に 何で私が そのようなことを… 657 00:47:28,804 --> 00:47:31,306 (三斎)昨日も お見舞いの使者を頂き― 658 00:47:31,390 --> 00:47:35,060 今日もまた城中にて 浪路の様子はどうじゃ 659 00:47:35,143 --> 00:47:37,813 十分に手当てをいたすようにとの 御意の上― 660 00:47:37,896 --> 00:47:40,107 拝領品まで賜った 661 00:47:40,190 --> 00:47:41,066 そういつまでも― 662 00:47:41,149 --> 00:47:43,902 ここで ぶらぶらしているわけには まいらぬぞ 663 00:47:44,611 --> 00:47:47,447 どうじゃ? いつ 大奥へ帰る? 664 00:47:50,033 --> 00:47:51,243 浪路? 665 00:47:52,744 --> 00:47:54,830 よもや そなた― 666 00:47:54,913 --> 00:47:58,250 上様のおそば勤めが 嫌になったのではあるまいの 667 00:47:59,668 --> 00:48:01,461 父上様は― 668 00:48:01,545 --> 00:48:05,507 かねがね わたくしの心を よくご承知ではございませんか 669 00:48:06,300 --> 00:48:09,970 浪路は つくづく 今の勤めが嫌になりました 670 00:48:10,053 --> 00:48:11,680 (三斎)バ バ… バカな 671 00:48:11,763 --> 00:48:13,599 バカなことを申すでない! 672 00:48:15,809 --> 00:48:21,523 浪路 そなたは幼い時より 人に優れた利発者ゆえ― 673 00:48:21,607 --> 00:48:24,651 万事のことは 承知してることと思うが― 674 00:48:24,735 --> 00:48:28,989 万一 そなたに間違いでもあれば この土部の家がどうなるか… 675 00:48:29,072 --> 00:48:32,784 それをよく考えねばあいならんぞ 676 00:48:33,994 --> 00:48:37,122 お部屋様 お部屋様… 677 00:48:39,833 --> 00:48:41,793 分かるな 浪路 678 00:48:42,628 --> 00:48:43,962 分かりませぬ 679 00:48:44,504 --> 00:48:45,547 何! 680 00:48:46,965 --> 00:48:49,676 父上 浪路は… 681 00:48:49,760 --> 00:48:52,929 浪路は もっと人間らしい暮らしが いたしとうございます 682 00:48:53,013 --> 00:48:57,017 浪路 そなた今日に限って どうしたというのじゃ? 683 00:48:57,684 --> 00:49:02,439 浪路は今日まで 父上様の栄達の道具に使われ― 684 00:49:02,522 --> 00:49:05,525 何一つ 私の気持ちは 聞いていただけず― 685 00:49:06,318 --> 00:49:08,445 籠の中の小鳥のような― 686 00:49:08,528 --> 00:49:10,572 不自由な暮らしを 続けてまいりました 687 00:49:10,656 --> 00:49:11,740 浪路! 688 00:49:11,823 --> 00:49:15,535 勝手なことばかり申して この父を困らすではないぞ 689 00:49:15,619 --> 00:49:17,537 何が不自由な暮らしじゃ 690 00:49:17,621 --> 00:49:20,832 そなたこそ 日本一の果報者ではないか 691 00:49:20,916 --> 00:49:23,210 上様のごちょう愛を一身に集め― 692 00:49:23,293 --> 00:49:25,712 着たい着物を着 好きなものを食べ― 693 00:49:25,796 --> 00:49:27,631 休みたい時には休み― 694 00:49:27,714 --> 00:49:29,132 思いのままの し放題 695 00:49:29,216 --> 00:49:32,177 (浪路)何で そのようなことが 幸せでありましょう 696 00:49:32,678 --> 00:49:36,139 女の幸せとは そのようなものではありません 697 00:49:37,307 --> 00:49:42,771 心の自由を束縛されて 一体どこに幸せがあるのですか 698 00:49:42,854 --> 00:49:45,482 (三斎)浪路! 父に向かって何ということを! 699 00:49:45,565 --> 00:49:48,777 お殿様 お部屋様は ご気分がすぐれぬため― 700 00:49:48,860 --> 00:49:51,405 お気持ちが高ぶっていられます どうぞ お叱りにならず… 701 00:49:51,488 --> 00:49:54,241 (浪路)松ヶ枝 浪路は正気で申しておるのじゃ 702 00:49:54,324 --> 00:49:57,994 それ… それが お高ぶりになっているというご証拠 703 00:49:58,078 --> 00:50:01,123 お殿様 どうぞ今日のところは お許しのほど… 704 00:50:01,206 --> 00:50:03,917 あまりにも分からぬことを申すゆえ 705 00:50:04,000 --> 00:50:06,294 分からないのは父上様です! 706 00:50:06,378 --> 00:50:08,171 何と申すのか! 707 00:50:09,089 --> 00:50:11,758 お殿様 お部屋様には後ほど― 708 00:50:11,842 --> 00:50:15,137 この松ヶ枝から よーくお話し申し上げますほどに 709 00:50:15,220 --> 00:50:17,472 どうぞ この場は お引き取りを… 710 00:50:18,140 --> 00:50:22,686 (三斎)そうか 松ヶ枝 この場は そなたに任せるぞ 711 00:50:29,693 --> 00:50:33,363 お部屋様 あのようなことを申されては― 712 00:50:33,447 --> 00:50:37,075 お殿様が ご心配あそばすではございませぬか 713 00:50:37,159 --> 00:50:38,577 松ヶ枝… 714 00:50:39,619 --> 00:50:44,124 そなたも この浪路を 日本一の果報者と思うか? 715 00:50:46,293 --> 00:50:50,672 無理無体に将軍様の そばめ奉公をさせられて… 716 00:50:50,756 --> 00:50:53,216 心にもない お相手 717 00:50:53,300 --> 00:50:54,634 浪路は… 718 00:50:55,177 --> 00:50:58,305 浪路ほど不幸な女はありません 719 00:50:58,388 --> 00:50:59,806 お部屋様 720 00:51:00,599 --> 00:51:04,770 お部屋様は あの雪之丞に お会いになられてから… 721 00:51:07,397 --> 00:51:09,149 あ… ああ… 722 00:51:11,526 --> 00:51:17,532 (三味線の演奏と歌) 723 00:52:20,470 --> 00:52:21,388 (楽屋番)親方 支度です 724 00:52:21,471 --> 00:52:22,889 (菊之丞)ああ そう 725 00:52:22,973 --> 00:52:24,349 (楽屋番)太夫の人気は 大したもんでございます 726 00:52:24,432 --> 00:52:26,142 (菊之丞)うん そうか 727 00:52:28,103 --> 00:52:30,730 (男衆たち) お疲れさまでござます 728 00:52:32,148 --> 00:52:34,192 (長崎屋)おお 太夫 729 00:52:34,276 --> 00:52:36,236 (雪之丞)これは 長崎屋さん 730 00:52:36,319 --> 00:52:38,405 ようこそ おいでくださいました 731 00:52:38,488 --> 00:52:43,785 太夫 実は ちょっと頼みがあって来たんだが 732 00:52:43,869 --> 00:52:46,246 私でできますことなら どんなことでも 733 00:52:46,329 --> 00:52:51,710 うん それが こればかりは 太夫でなくてはならんことでの 734 00:52:51,793 --> 00:52:53,420 …と 申されますと? 735 00:52:53,503 --> 00:52:56,673 土部様の屋敷へ 見舞いに行ってもらいたいのじゃ 736 00:52:56,756 --> 00:52:58,341 まあ どなたか ご病気でも? 737 00:52:58,425 --> 00:53:00,010 うん… 浪路様じゃ 738 00:53:00,093 --> 00:53:02,637 まあ ご息女様が? 739 00:53:02,721 --> 00:53:07,642 どこが悪いというわけではないが 俗に言う ぶらぶら病(やまい) 740 00:53:08,184 --> 00:53:10,729 お宿下がりの期限も とうに過ぎたというに― 741 00:53:10,812 --> 00:53:14,107 お城へも帰らず 屋敷の一間へ 閉じこもったきりなんじゃ 742 00:53:14,649 --> 00:53:16,192 こんなことが長引いて― 743 00:53:16,276 --> 00:53:18,278 もしも 上様のご機嫌を損じでもしたら― 744 00:53:18,361 --> 00:53:20,864 それこそ土部様にとっては一大事 745 00:53:20,947 --> 00:53:23,158 ひいては そのご縁につながる わしらまでが― 746 00:53:23,241 --> 00:53:26,494 将軍家御用達の目的を 失うはめになるやもしれん 747 00:53:26,578 --> 00:53:29,706 それでな 誠にあいすまぬが― 748 00:53:29,789 --> 00:53:32,584 そなたが行って 浪路様をお慰め申し― 749 00:53:32,667 --> 00:53:36,338 お城へお帰りになるように お勧めしてほしいのじゃ 750 00:53:36,421 --> 00:53:39,591 私のような者が 行きましたところで… 751 00:53:39,674 --> 00:53:42,594 いやいや そなたが行けば大丈夫 752 00:53:42,677 --> 00:53:45,388 浪路様が お城へ帰りたがらぬ訳は― 753 00:53:45,472 --> 00:53:49,517 どうやら 太夫 そなたにあるらしいのでな 754 00:53:49,601 --> 00:53:50,435 私に? 755 00:53:50,518 --> 00:53:53,521 なんとか都合して そなたに見舞ってもらいたいと― 756 00:53:53,605 --> 00:53:56,274 土部様からも きつい頼みなのじゃ 757 00:53:56,358 --> 00:53:59,903 どうじゃな 太夫? このとおりじゃ 758 00:54:01,571 --> 00:54:04,950 (拍子木の音) 759 00:54:06,159 --> 00:54:08,453 (闇太郎)おいおい お初をつけろ 760 00:54:11,998 --> 00:54:15,126 事によると お初だな 761 00:54:15,210 --> 00:54:17,796 (長崎屋) それでは太夫 頼みましたぞ 762 00:54:20,548 --> 00:54:23,969 (拍子木の音) 763 00:54:26,096 --> 00:54:28,223 (楽屋番)太夫 たった今 若い女の人が― 764 00:54:28,306 --> 00:54:31,142 太夫にこの手紙を渡してくれと 置いていきましたよ 765 00:54:31,226 --> 00:54:33,478 (雪之丞)若い方だって? (楽屋番)ええ 766 00:54:38,149 --> 00:54:38,984 (お初) 〝折入って― 〞 767 00:54:39,067 --> 00:54:41,528 〝お話したいことが ありますので― 〞 768 00:54:41,611 --> 00:54:42,696 〝芝居が はねてから― 〞 769 00:54:42,779 --> 00:54:45,782 〝深川(ふかがわ)の菊水(きくすい)まで おいで下さい 〞 770 00:54:45,865 --> 00:54:47,951 〝その節 昨夜(ゆうべ) お預かりした― 〞 771 00:54:48,034 --> 00:54:49,953 〝かんざし お返し申し上げます 〞 772 00:55:02,966 --> 00:55:05,218 ほんとに よく来てくれたね 773 00:55:05,301 --> 00:55:07,846 あたしゃ 来てくれないかと思ったよ 774 00:55:09,305 --> 00:55:13,059 あんた これを返してほしいんだろ? 775 00:55:13,685 --> 00:55:15,770 (雪之丞)それは… (お初)おっと 776 00:55:16,354 --> 00:55:20,191 このかんざしは ゆうべ あたしが 命懸けで手に入れた品 777 00:55:20,275 --> 00:55:23,111 そうやすやすと 返すわけにはいきませんよ 778 00:55:24,237 --> 00:55:28,450 返してもらいたきゃ こっちの話を聞いてくれなくっちゃ 779 00:55:29,367 --> 00:55:33,121 ねえ 太夫 あたしゃ真剣なんだよ 780 00:55:33,204 --> 00:55:36,708 初日から毎日欠かさず お前さんの芝居を見ているけど― 781 00:55:37,459 --> 00:55:40,837 どうやら心底から あんたに ほれちゃったんだよ 782 00:55:40,920 --> 00:55:43,882 それより あのお手紙の趣は… 783 00:55:43,965 --> 00:55:46,593 そんなことは どうだっていいじゃないか 784 00:55:47,135 --> 00:55:49,888 ねえ 太夫 785 00:55:51,639 --> 00:55:54,017 何とかお言いよ 黙ってないで 786 00:56:00,315 --> 00:56:03,568 あら ずいぶん冷たいんだね 787 00:56:04,778 --> 00:56:06,780 そりゃ あんたほどの役者になりゃ― 788 00:56:06,863 --> 00:56:10,450 呼び出しかけて口説くひいきの女も たくさんあるだろうけどさ 789 00:56:11,242 --> 00:56:12,869 この軽業のお初ねえさんを― 790 00:56:12,952 --> 00:56:16,372 そんじょそこらの女並みに扱うと とんだ目に遭いますよ 791 00:56:17,791 --> 00:56:21,836 相手の出方しだいで 敵にもなれば味方にもなる 792 00:56:21,920 --> 00:56:24,172 あたしゃ そういう女なんだからね 793 00:56:24,255 --> 00:56:27,383 お初様とやら どうぞお許しください 794 00:56:27,467 --> 00:56:31,387 (お初)あら 許せっていうのは どういう意味なの? 795 00:56:31,471 --> 00:56:34,474 あたしの相手は 堪忍してくれって意味なのかい? 796 00:56:34,557 --> 00:56:36,768 そういうわけでは ございませぬが… 797 00:56:36,851 --> 00:56:40,313 この雪之丞 心願の筋あって― 798 00:56:40,396 --> 00:56:43,191 女の肌には触れぬ誓いを 立てている身 799 00:56:43,274 --> 00:56:45,693 ハハハハッ… 800 00:56:45,777 --> 00:56:48,154 とか何とか うまいこと言ってさ 801 00:56:48,238 --> 00:56:52,325 将軍様のおめかけさんなら 手を触れるつもりなのかい? 802 00:56:52,408 --> 00:56:53,701 (雪之丞)何を申されます 803 00:56:53,785 --> 00:56:55,537 ねえ 太夫 804 00:56:55,620 --> 00:56:58,331 あたしゃね 初めに断ったとおり― 805 00:56:58,414 --> 00:57:01,334 無理に情けをかけてくれとは 言わないさ 806 00:57:01,417 --> 00:57:05,505 だけどね あたしを怒らせると損だよ 807 00:57:05,588 --> 00:57:09,676 何しろ太夫の秘密は この胸にしまってあるんだからね 808 00:57:10,927 --> 00:57:12,387 私の秘密を… 809 00:57:12,470 --> 00:57:15,974 あんた 何か望みがあるんだろ? 810 00:57:16,599 --> 00:57:18,935 親の敵か何かを 捜してるんじゃないのかい? 811 00:57:23,189 --> 00:57:25,650 ほら 顔色が変わった 812 00:57:25,733 --> 00:57:27,527 猿若町の若女形が― 813 00:57:27,610 --> 00:57:31,030 何のために剣術の先生の所へなんか 行くのかと思って― 814 00:57:31,114 --> 00:57:33,575 そっと あとをつけてみたら… 815 00:57:33,658 --> 00:57:35,493 では 昨夜のことは… 816 00:57:35,577 --> 00:57:37,996 ええ すっかり 817 00:57:38,496 --> 00:57:41,749 相手は土部三斎とか 818 00:57:42,417 --> 00:57:45,336 でも 太夫 ご心配なく 819 00:57:45,920 --> 00:57:49,132 あたしゃ 口は いたって堅いほうなんだから 820 00:57:49,215 --> 00:57:55,763 でも この口をやわらかくするのも 堅くするのも 太夫の胸一つ 821 00:57:56,306 --> 00:57:57,765 どこ行くのさ? 822 00:57:58,683 --> 00:58:01,144 ここでは人目もありますので 823 00:58:01,686 --> 00:58:02,604 (仲居)お待ちどおさま 824 00:58:02,687 --> 00:58:04,689 (門倉)これ 何をうれしそうな顔しとる 825 00:58:04,772 --> 00:58:05,815 (仲居)雪之丞様が… 826 00:58:05,899 --> 00:58:07,567 (門倉)雪之丞? どこの部屋に? 827 00:58:07,650 --> 00:58:08,902 (仲居)今 外へ出て行きましたよ 828 00:58:08,985 --> 00:58:10,153 (門倉)よし! 829 00:58:23,416 --> 00:58:25,668 (門倉)おい 坊主 雪之丞は通らなかったか? 830 00:58:25,752 --> 00:58:26,836 (法印(ほういん))知らねえな 831 00:58:26,920 --> 00:58:28,671 (門倉)捜せ! (手下)おう! 832 00:58:30,590 --> 00:58:33,051 親分に知らせなきゃならねえな 833 00:58:39,641 --> 00:58:41,184 (お初)ねえ 太夫 834 00:58:41,267 --> 00:58:44,020 一体 どこまで 引っ張っていくつもりなのさ 835 00:58:44,646 --> 00:58:47,857 あんな店じゃ人目について 人気に障るなんて言って― 836 00:58:47,941 --> 00:58:50,652 一体どこのお茶屋へ 連れ込むつもり? 837 00:58:51,819 --> 00:58:55,031 こっちは いいかげん 酔いが覚めちゃったじゃないか 838 00:58:55,114 --> 00:58:56,616 (雪之丞)すみません 839 00:58:57,325 --> 00:58:59,536 確か 大川端(おおかわばた)の裏のほうに― 840 00:58:59,619 --> 00:59:02,997 2人で話し合うには頃合いの 静かな家があると聞きました… 841 00:59:03,081 --> 00:59:07,043 どこでもいいよ 太夫と2人なら 842 00:59:08,878 --> 00:59:10,338 お初様 843 00:59:10,421 --> 00:59:11,714 何だい? 844 00:59:12,549 --> 00:59:16,553 もし 私が あなたを このまま突きのけたら… 845 00:59:16,636 --> 00:59:19,222 まだそんなこと言ってんのかい? 846 00:59:20,139 --> 00:59:23,726 太夫に振られたら あたしだって江戸の女さ 847 00:59:23,810 --> 00:59:26,145 黙って引っ込んじゃいませんよ 848 00:59:27,814 --> 00:59:31,192 土部様のお屋敷へ 恐れながらと駆け込んでやるまでさ 849 00:59:36,406 --> 00:59:38,408 ここまで来れば― 850 00:59:38,491 --> 00:59:43,830 あたしの心を受けてくれるか それとも あたしを敵に回すか 851 00:59:43,913 --> 00:59:45,290 道は2つに1つだよ 852 00:59:46,416 --> 00:59:48,585 いいえ 道は3つ 853 00:59:48,668 --> 00:59:52,422 もう1つ 別の道もあります 854 00:59:53,798 --> 00:59:55,049 別の道だって? 855 00:59:55,842 --> 00:59:58,052 人の秘密をのぞいた邪魔者が― 856 00:59:58,136 --> 01:00:00,346 たどらねばならぬ 地獄の道があります 857 01:00:00,430 --> 01:00:04,142 何をしようというんだい? そんな怖い目をして 858 01:00:04,225 --> 01:00:05,852 (雪之丞) 秘密を知られたからには― 859 01:00:05,935 --> 01:00:07,979 覚悟をしてもらわねばなりません 860 01:00:08,062 --> 01:00:08,938 (お初)ふん 861 01:00:09,981 --> 01:00:11,107 じゃあ 太夫 862 01:00:11,190 --> 01:00:13,234 やっぱり あたしを 敵に回すつもりなんだね 863 01:00:13,318 --> 01:00:14,819 やむをえません 864 01:00:15,320 --> 01:00:20,241 軽業お初はね こう見えても 御用の風と十手の雨に鍛えた腕だよ 865 01:00:20,325 --> 01:00:22,410 お前なんかに殺されてたまるかい 866 01:00:22,493 --> 01:00:24,120 本気で来るのかい? 867 01:00:24,203 --> 01:00:26,456 (家臣)いた! いたぞ 門倉殿! 868 01:00:30,668 --> 01:00:33,921 (門倉)雪之丞! 間に合ってよかった 869 01:00:34,005 --> 01:00:35,590 菊水へ寄ったところ― 870 01:00:35,673 --> 01:00:37,467 貴様が今 女と一緒に 出かけたと聞いて― 871 01:00:37,550 --> 01:00:38,926 あとをつけてきた 872 01:00:40,011 --> 01:00:41,763 今日こそ けりをつけるぞ 873 01:00:42,555 --> 01:00:45,058 その儀は平にお許しのほど 874 01:00:45,141 --> 01:00:49,145 私は ただの歌舞伎役者 勝負など思いも寄りませぬ 875 01:00:49,228 --> 01:00:50,730 言うな! 876 01:00:50,813 --> 01:00:54,067 仮にも 一松斎が 免許を渡そうとしたほどの貴様だ 877 01:00:54,609 --> 01:00:55,610 抜け! 878 01:00:55,693 --> 01:00:58,112 これは また ご無理なお言葉 879 01:00:58,196 --> 01:01:01,491 武芸を学んだのは 舞台の上の荒事に役立てるため 880 01:01:01,574 --> 01:01:02,950 (お初)とか何とか言って 881 01:01:03,034 --> 01:01:07,163 雪さん さあ ここは あんたの出様でどうしようねえ 882 01:01:07,246 --> 01:01:10,708 お前さんの剣術が 舞台の荒事かどうかね 883 01:01:12,669 --> 01:01:17,757 女 そちも雪之丞に 含むところがあると見えるが 884 01:01:17,840 --> 01:01:21,552 今日こそ こやつを かたわにしてみせる 885 01:01:21,636 --> 01:01:22,762 見物しておれ 886 01:01:22,845 --> 01:01:24,931 貴公の出る幕でもなかろう 887 01:01:25,014 --> 01:01:26,557 拙者が相手だ! だーっ! 888 01:01:29,602 --> 01:01:31,979 (家臣)やあー! (家臣)だあー! 889 01:01:35,233 --> 01:01:37,318 雪さん あたしの言うこと聞くかい? 890 01:01:37,402 --> 01:01:38,653 聞けば助けてあげるよ 891 01:01:38,736 --> 01:01:40,405 ええい 邪魔だ! 892 01:01:41,698 --> 01:01:43,825 (家臣)だーっ! (家臣)やあー! 893 01:01:43,908 --> 01:01:44,909 (門倉)どけ! 894 01:01:47,120 --> 01:01:50,248 (門倉たちの力み声) 895 01:01:50,873 --> 01:01:51,999 (家臣)やーっ! 896 01:01:52,667 --> 01:01:55,503 (家臣) だー! わー! はー! ふっ 897 01:01:57,255 --> 01:01:59,298 (家臣)だーっ! (家臣)やあー! 898 01:02:00,299 --> 01:02:01,551 (家臣)はーっ! 899 01:02:03,511 --> 01:02:04,470 (門倉)あっ! 900 01:02:04,554 --> 01:02:05,805 おっと危ねえ 901 01:02:05,888 --> 01:02:08,516 てめえら 動くと ぶっ放すぜ 902 01:02:12,145 --> 01:02:14,772 おや お前さんは闇の親分 903 01:02:15,398 --> 01:02:16,899 おう 門倉さん 904 01:02:16,983 --> 01:02:19,444 ちょくちょく お目にかかるじゃねえか 905 01:02:19,527 --> 01:02:23,906 たった一人の雪之丞を 10人も取り囲んでの刃物ざんまい 906 01:02:23,990 --> 01:02:26,159 少し大人げねえというもんですぜ 907 01:02:27,785 --> 01:02:29,412 (門倉)貴様 闇太郎だな 908 01:02:29,495 --> 01:02:32,540 (闇太郎)ヘヘッ 今頃 気が付いたのかい 909 01:02:32,623 --> 01:02:36,127 さあ とにかく ここ 引き揚げてもらいましょうや 910 01:02:36,753 --> 01:02:38,004 (門倉)黙れ! 911 01:02:38,087 --> 01:02:40,923 (闇太郎) それとも 嫌なんですかい? 912 01:02:41,883 --> 01:02:43,968 この短筒は だてじゃねえぜ! 913 01:02:44,051 --> 01:02:45,219 (銃声) 914 01:02:45,887 --> 01:02:47,305 (門倉)覚えておれよ 闇太郎 915 01:02:47,388 --> 01:02:50,266 (闇太郎)ハハハッ 忘れたら聞きに行くぜ 916 01:02:52,351 --> 01:02:53,811 (お初)闇の親分が― 917 01:02:53,895 --> 01:02:56,647 まさか こんな所へ出てくるとは 思わなかったよ 918 01:02:58,316 --> 01:03:01,027 実は縁があって この雪之丞さんとは― 919 01:03:01,110 --> 01:03:03,905 すこーしばかり 掛かり合いがあるんだ 920 01:03:03,988 --> 01:03:06,449 あっしは さっきから おめえの話を聞いていたが― 921 01:03:06,532 --> 01:03:08,409 今日は文句を言わずに帰(けえ)んな 922 01:03:09,035 --> 01:03:10,787 そんなむちゃな話があるかい 923 01:03:10,870 --> 01:03:13,664 (闇太郎)文句を言わねえで 引き揚げろって言ってるんだ 924 01:03:19,462 --> 01:03:21,964 親分 覚えておいでよ 925 01:03:22,048 --> 01:03:24,717 今日は親分に免じて引き揚げるがね 926 01:03:24,801 --> 01:03:27,887 この話は 必ずつけてもらいますからね 927 01:03:33,392 --> 01:03:36,229 雪之丞さん いいとこで会ったな 928 01:03:37,438 --> 01:03:40,525 危ないところ ありがとうございました 929 01:03:40,608 --> 01:03:44,487 それより その傷を 手当てしなくちゃいけねえや 930 01:03:44,570 --> 01:03:48,074 あっしのうちまで 早く行きやしょう さあ 931 01:03:58,918 --> 01:04:01,921 それから どうしたって言うんです? 932 01:04:02,004 --> 01:04:02,964 (雪之丞)はい 933 01:04:03,047 --> 01:04:07,510 母は父の無実の罪を 申し開くために― 934 01:04:08,052 --> 01:04:10,638 お奉行所へ参りました 935 01:04:10,721 --> 01:04:15,560 その時の奉行が土部三斎でした 936 01:04:25,987 --> 01:04:27,697 密買易など― 937 01:04:27,780 --> 01:04:32,076 そのような恐ろしいことのできる 主人ではござりません 938 01:04:32,869 --> 01:04:36,956 何とぞ ご慈悲をもちまして 939 01:04:37,039 --> 01:04:38,833 お願いでござります 940 01:04:38,916 --> 01:04:41,586 (三斎)そのほうは いかように申そうと― 941 01:04:42,169 --> 01:04:48,134 歴然たる証拠が挙がっている以上 許すわけにはまいらんのう 942 01:04:48,217 --> 01:04:54,181 (お園)お奉行様 特別のお計らいをお願いいたします 943 01:04:54,265 --> 01:04:55,224 (三斎)ん? 944 01:04:57,476 --> 01:04:58,978 フフフ… 945 01:04:59,061 --> 01:05:01,731 特別に計らえと申すのか 946 01:05:02,481 --> 01:05:04,317 特別にのう 947 01:05:13,492 --> 01:05:18,372 たって計らえと申すなら 計らいもいたそうが… 948 01:05:21,500 --> 01:05:25,796 だが それも おぬしの返事しだいじゃ 949 01:05:29,926 --> 01:05:30,927 (三斎)うっ… 950 01:05:33,429 --> 01:05:36,974 フフフフ… 951 01:05:37,516 --> 01:05:39,936 ハハハハハ… 952 01:05:42,730 --> 01:05:45,858 何をなされます あっ… 953 01:05:57,411 --> 01:06:00,665 (駕籠屋たち) えっほ えっほ えっほ 954 01:06:04,126 --> 01:06:06,379 (一同)おかえりなさいませ 955 01:06:07,004 --> 01:06:09,423 (お忍)あっ! (お雪)お母ちゃま! 956 01:06:15,346 --> 01:06:19,684 お母ちゃま! お母ちゃま! 957 01:06:19,767 --> 01:06:24,021 (泣き声) 958 01:06:25,523 --> 01:06:27,650 (三斎)“松浦屋欠所の事” 959 01:06:27,733 --> 01:06:33,155 “松浦屋清左衛門儀 禁制を破り 密買易の罪を犯せし段―” 960 01:06:33,239 --> 01:06:38,494 “不届至極に付き 家は欠所 当人追放 財産没収” 961 01:06:38,577 --> 01:06:43,040 “一家離散を申付くるもの也 長崎奉行” 962 01:06:45,292 --> 01:06:47,169 (お忍) これを届けてまいりますからね 963 01:06:47,253 --> 01:06:50,172 お嬢様 お父様をお願いいたしますよ 964 01:06:50,256 --> 01:06:51,424 (お雪)早く帰ってきてね 965 01:06:51,507 --> 01:06:53,384 はい すぐ戻ってまいりますよ 966 01:06:53,467 --> 01:06:58,973 (松浦屋のうめき声) 967 01:07:01,559 --> 01:07:03,019 (松浦屋)お雪… 968 01:07:03,102 --> 01:07:04,645 (お雪)お父ちゃま! 969 01:07:06,022 --> 01:07:08,065 (松浦屋)お雪 (お雪)お父ちゃま! 970 01:07:08,149 --> 01:07:09,316 (松浦屋)雪! (お雪)お父ちゃま! 971 01:07:09,400 --> 01:07:10,526 (松浦屋)雪… 972 01:07:11,444 --> 01:07:12,486 (お忍)あっ! 973 01:07:13,195 --> 01:07:16,407 旦那様 しっかりしてください! (お雪)お父ちゃま! 974 01:07:16,490 --> 01:07:17,575 (お忍)旦那様! 975 01:07:17,658 --> 01:07:19,160 (お雪)お父ちゃま! 976 01:07:21,579 --> 01:07:23,247 三郎兵衛… 977 01:07:24,123 --> 01:07:30,171 よくも広海屋と結託して このわしに無実の罪を… 978 01:07:34,091 --> 01:07:36,802 雪… 雪… 979 01:07:36,886 --> 01:07:38,429 お父ちゃま! 980 01:07:43,809 --> 01:07:47,188 (松浦屋)“口惜しや 口惜し” 981 01:07:48,064 --> 01:07:51,400 “この焦熱地獄の苦しみ” 982 01:07:51,484 --> 01:07:54,737 “呪わしや 土部駿河” 983 01:07:55,237 --> 01:07:58,657 〝憎や 浜川 横山 〞 984 01:07:58,741 --> 01:08:01,452 〝おのれ 三郎兵衛 広海屋 〞 985 01:08:01,535 --> 01:08:04,288 〝罪もない この儂を おとしいれて 〞 986 01:08:04,371 --> 01:08:07,416 〝死んでも死にきれぬ 〞 987 01:08:12,004 --> 01:08:13,130 (菊之丞)旦那 988 01:08:13,714 --> 01:08:16,341 どんなに口惜しかったで ございましょう 989 01:08:17,551 --> 01:08:19,511 及ばずながら菊之丞が― 990 01:08:19,595 --> 01:08:22,723 お嬢さんだけは 立派にお育て申し上げて― 991 01:08:23,307 --> 01:08:26,227 この恨みは きっと お晴らしいたします 992 01:08:26,727 --> 01:08:29,229 それが 日頃ごひいきにあずかった 旦那への― 993 01:08:29,313 --> 01:08:32,566 せめてもの ご恩返しでございます 994 01:08:45,078 --> 01:08:46,580 (闇太郎)そうですかい 995 01:08:47,122 --> 01:08:48,957 こんな男と知りながら― 996 01:08:49,041 --> 01:08:51,961 よく おめえさんの秘密を 打ち明けてくれた 997 01:08:53,837 --> 01:08:56,506 あっしは必ず おめえさんの力になるから― 998 01:08:56,590 --> 01:08:58,008 困ったことがあったら― 999 01:08:58,091 --> 01:09:01,970 菊之丞さんか一松斎先生にでも 伝えといてくれ 1000 01:09:02,054 --> 01:09:06,183 (雪之丞)はい ご親切にありがとうございます 1001 01:09:08,269 --> 01:09:11,647 雪之丞さん 短気を起こしちゃいけねえぜ 1002 01:09:12,398 --> 01:09:15,526 うっかり間違えりゃあ 斬り死にをするだけだ 1003 01:09:15,609 --> 01:09:19,196 土部なんて野郎は ご正道を乱す大悪党だから― 1004 01:09:19,279 --> 01:09:22,116 尋常一様のことじゃ 勝負にはならねえ 1005 01:09:22,741 --> 01:09:26,078 しかし 必ず道は開けるよ 1006 01:09:27,162 --> 01:09:29,372 ただ 気にかかりますことは― 1007 01:09:29,456 --> 01:09:33,877 あのお初という女に 私の秘密を知られたことです 1008 01:09:34,420 --> 01:09:37,590 もし 万一のことがありますと… 1009 01:09:38,631 --> 01:09:41,218 (闇太郎) そいつも心配いらねえや 1010 01:09:41,301 --> 01:09:44,305 あっしが なんとかして お初に話し込んでみる 1011 01:09:45,264 --> 01:09:47,683 それに今夜の様子じゃ― 1012 01:09:47,765 --> 01:09:50,810 お初は ぞっこん おめえさんに ほれてるんだ 1013 01:09:51,312 --> 01:09:54,857 恐れながらと 土部の屋敷へ 飛び込みやしねえよ 1014 01:09:55,941 --> 01:09:57,443 闇太郎様 1015 01:09:57,526 --> 01:10:01,405 父も母も あれほどひどい仕打ちを受けて… 1016 01:10:02,531 --> 01:10:04,366 もう言わねえでくれ 1017 01:10:04,450 --> 01:10:07,328 それを聞くと あっしでさえ泣けてくるよ 1018 01:10:07,411 --> 01:10:11,874 あっ ひと言言っとくが あっしも長崎で生まれたんだぜ 1019 01:10:11,957 --> 01:10:14,168 (雪之丞)えっ あなたが? 1020 01:10:14,251 --> 01:10:15,586 そうだよ 1021 01:10:16,253 --> 01:10:20,925 あっしが長崎にいたころ こんな歌が はやったっけ 1022 01:10:21,675 --> 01:10:28,641 ♪ 主を思うて 1023 01:10:31,769 --> 01:10:38,776 ♪ たもるもの 1024 01:10:43,197 --> 01:10:49,787 ♪ わしが心を 1025 01:10:49,870 --> 01:10:56,877 ♪ 推量しや 1026 01:11:03,384 --> 01:11:09,640 (駕籠屋たち)えっほ えっほ えっほ えっほ えっほ… 1027 01:11:22,069 --> 01:11:24,822 (松ヶ枝) お部屋様 大変でございます 1028 01:11:25,698 --> 01:11:28,450 (浪路)もうよい お下がり 1029 01:11:28,534 --> 01:11:30,536 (松ヶ枝)雪之丞様が お見えになりました 1030 01:11:31,662 --> 01:11:33,789 えっ? 太夫が? 1031 01:11:33,872 --> 01:11:36,458 はい ご病気 お見舞いに 1032 01:11:36,542 --> 01:11:37,835 (浪路)まあ 1033 01:11:56,437 --> 01:12:00,357 ご病気と承り お見舞いに上がりました 1034 01:12:00,441 --> 01:12:02,693 (浪路)よく来てくれました 1035 01:12:02,776 --> 01:12:05,112 心から礼を言います 1036 01:12:05,195 --> 01:12:09,575 長崎屋さんのお話では よほどお悪いと伺いましたが 1037 01:12:09,658 --> 01:12:12,453 太夫 お部屋様のご病気は― 1038 01:12:12,536 --> 01:12:15,706 そなたが来られたので 不思議なくらい よくなりました 1039 01:12:15,789 --> 01:12:18,584 (浪路)まあ 松ヶ枝… 1040 01:12:18,667 --> 01:12:21,628 太夫 そんな所で他人行儀な 1041 01:12:21,712 --> 01:12:23,213 ずっとお寄りなさい 1042 01:12:31,764 --> 01:12:34,141 親分 真っ昼間から危ないぜ 1043 01:12:40,022 --> 01:12:43,567 松ヶ枝 浪路はどうじゃ? 1044 01:12:43,650 --> 01:12:46,570 はい 殿様のお帰りの少し前― 1045 01:12:46,653 --> 01:12:50,199 雪之丞が お部屋様のご病気を お見舞いに上がりました 1046 01:12:50,282 --> 01:12:52,159 (三斎)何? 雪之丞が? 1047 01:12:52,242 --> 01:12:53,160 太夫が参ったか 1048 01:12:53,243 --> 01:12:54,161 はい 1049 01:12:54,995 --> 01:12:58,707 浪路のやつが 一日も早く大奥へ帰るよう― 1050 01:12:58,791 --> 01:13:01,168 口説いてくれればよいがのう 1051 01:13:12,346 --> 01:13:17,059 太夫 中村座で そなたを見てからというもの― 1052 01:13:17,142 --> 01:13:20,020 私は そなたのことが 忘れられません 1053 01:13:20,938 --> 01:13:25,401 そなたの幻が この目の先に ちらついて― 1054 01:13:26,026 --> 01:13:29,363 浪路は初めて 恋の苦しさを知りました 1055 01:13:30,614 --> 01:13:32,366 太夫 1056 01:13:32,449 --> 01:13:35,285 わたくしめは ご覧のとおり役者風情 1057 01:13:35,369 --> 01:13:37,454 そのようなお言葉を頂きますと― 1058 01:13:37,538 --> 01:13:39,665 もはや お屋敷へ上がることもできません 1059 01:13:39,748 --> 01:13:41,542 何を言うのですか? 1060 01:13:41,625 --> 01:13:44,336 私は そなたに会って 生まれて初めて― 1061 01:13:44,420 --> 01:13:48,090 人間らしい心になったと 言うているのではありませぬか 1062 01:13:48,841 --> 01:13:51,677 心にもない 上様のごちょう愛を受けて― 1063 01:13:52,261 --> 01:13:56,390 浪路は 魂のない首振り人形でした 1064 01:13:56,974 --> 01:13:58,350 お部屋様 1065 01:13:59,101 --> 01:14:03,230 人には 与えられた天の定め というものがござります 1066 01:14:03,313 --> 01:14:05,774 わたくしには わたくしの道― 1067 01:14:05,858 --> 01:14:10,028 お部屋様には また お部屋様の道がござりましょう 1068 01:14:10,946 --> 01:14:15,242 それほどまでに この私を苦しめるのですか? 1069 01:14:17,786 --> 01:14:20,956 浪路は家も捨てましょう 身も捨てましょう 1070 01:14:21,039 --> 01:14:22,708 それでも分かってはくれませぬか? 1071 01:14:29,506 --> 01:14:31,175 (菊之丞)雪之丞 1072 01:14:31,258 --> 01:14:36,013 敵の娘を前にして 一思いに籠絡しろ 1073 01:14:36,805 --> 01:14:39,433 土部三斎をなぜ苦しめぬ 1074 01:14:43,520 --> 01:14:47,733 どうなされたのです? そのような怖いお顔をして… 1075 01:14:47,816 --> 01:14:48,650 太夫! 1076 01:14:57,993 --> 01:15:02,080 (松ヶ枝)お部屋様 太夫 殿様がお見えになります 1077 01:15:06,210 --> 01:15:08,212 (法印)俺はハラハラしたぜ 1078 01:15:08,295 --> 01:15:12,341 あの様子じゃ お初のやつ まだ太夫のこと話してねえな 1079 01:15:16,803 --> 01:15:19,348 “太夫 一体返事をどうしてくれる” 1080 01:15:19,431 --> 01:15:22,768 “私を敵に回すか それとも 言うことを聞いてくれるか” 1081 01:15:22,851 --> 01:15:25,646 “こよい とりの刻 菊水で待っています” 1082 01:15:25,729 --> 01:15:26,772 “初より” 1083 01:15:26,855 --> 01:15:28,190 これ あっしが 持っていくんですかい? 1084 01:15:28,273 --> 01:15:29,316 そうじゃないんだよ 1085 01:15:29,399 --> 01:15:30,651 あたしが出したんだよ 1086 01:15:30,734 --> 01:15:33,111 あ 何でい これは書き古しか 1087 01:15:33,195 --> 01:15:35,280 あっ こりゃ来ないね (お初)誰が? 1088 01:15:35,364 --> 01:15:36,990 太夫が来るわけねえじゃねえか 1089 01:15:37,074 --> 01:15:38,700 お帰り! (むく犬の吉)え? 1090 01:15:40,202 --> 01:15:42,037 誰かと相談してるな 1091 01:15:42,120 --> 01:15:45,499 (一松斎)わしの油断から とんだことになってしまった 1092 01:15:45,582 --> 01:15:48,126 平馬といい お初というおなごといい― 1093 01:15:48,210 --> 01:15:51,088 そなたにとって 思わぬ邪魔者が入った 1094 01:15:51,171 --> 01:15:52,297 許してくれ 1095 01:15:52,381 --> 01:15:53,840 (雪之丞)何をおっしゃいます 1096 01:15:53,924 --> 01:15:58,720 私はただ 道を誤らぬよう 先生にご相談に伺ったのです 1097 01:15:58,804 --> 01:16:00,597 そのようなご心痛は… 1098 01:16:00,681 --> 01:16:04,142 (一松斎)場合によっては その2人 わしが斬ろう 1099 01:16:04,226 --> 01:16:05,644 (雪之丞)何と仰せられます? 1100 01:16:05,727 --> 01:16:08,939 (一松斎)そなたの敵 土部三斎はじめ 4人の者は― 1101 01:16:09,022 --> 01:16:10,232 いずれも悪人 1102 01:16:10,315 --> 01:16:14,945 それに味方するようなやつは むしろ斬ったほうがよいかもしれん 1103 01:16:15,028 --> 01:16:17,990 (雪之丞)斬ってよければ 私が斬ります 1104 01:16:18,073 --> 01:16:21,243 大事の前に そのようなものを目当てにするな 1105 01:16:22,327 --> 01:16:24,746 目指すは5人の敵じゃ 1106 01:16:25,289 --> 01:16:29,334 (雪之丞)それにしても 闇太郎様のきかたが遅うござります 1107 01:16:29,418 --> 01:16:31,545 (一松斎)事によると あの男― 1108 01:16:31,628 --> 01:16:34,881 今頃 お初とかいうおなごに 会っておるかもしれんの 1109 01:16:35,799 --> 01:16:36,633 (お初)おや 1110 01:16:36,717 --> 01:16:39,261 (門倉)おい 今 お前の下男に そこで会ったが― 1111 01:16:39,344 --> 01:16:40,387 やっぱり来ていたな 1112 01:16:40,470 --> 01:16:42,639 下男じゃないよ 子分だよ 1113 01:16:42,723 --> 01:16:43,974 一体 お前の商売 何だ? 1114 01:16:44,057 --> 01:16:45,726 何だっていいじゃないか 1115 01:16:45,809 --> 01:16:48,937 おい 雪之丞の秘密を教えてくれ 1116 01:16:49,021 --> 01:16:50,647 あの男に そんなものありませんよ 1117 01:16:50,731 --> 01:16:53,483 ウソつけ! この間 言っていたろ 1118 01:16:54,443 --> 01:16:58,530 知らせる時が来れば 旦那が聞かなくたって教えますよ 1119 01:16:58,614 --> 01:17:00,157 そうか 1120 01:17:00,240 --> 01:17:02,409 俺は これから土部様のお屋敷に 行かなくちゃならねえ 1121 01:17:02,492 --> 01:17:06,663 まあ! 旦那は土部様のご家臣ですか? 1122 01:17:06,747 --> 01:17:08,582 いいこと伺いましたわ 1123 01:17:08,665 --> 01:17:10,542 何か訳でもあるか? 1124 01:17:12,085 --> 01:17:13,420 あたしゃね― 1125 01:17:13,503 --> 01:17:16,715 どうも土部様のような方が 性に合わなくってねえ 1126 01:17:16,798 --> 01:17:18,342 何? 1127 01:17:18,884 --> 01:17:21,178 何も 土部様のお嬢さんが― 1128 01:17:21,261 --> 01:17:23,013 役者にほれなくたって いいじゃありませんか 1129 01:17:23,096 --> 01:17:25,641 (門倉)フッフフフッ… 1130 01:17:25,724 --> 01:17:28,018 貴様 雪之丞にほれてるな? 1131 01:17:28,101 --> 01:17:29,895 やめ やめ やめ (お初)ふん 1132 01:17:29,978 --> 01:17:31,271 おい どこ行くんだ? 1133 01:17:33,815 --> 01:17:37,736 どうも気にかかりますから わたくし菊水へ行ってまいります 1134 01:17:37,819 --> 01:17:40,864 (一松斎)雪之丞 こよいは やめるがよい 1135 01:17:44,951 --> 01:17:46,787 どうしたんだろうねえ 1136 01:17:47,371 --> 01:17:49,539 万一 来なかったら 覚えといでよ 1137 01:17:50,123 --> 01:17:52,209 あっ 闇の親分 1138 01:17:52,918 --> 01:17:55,462 ちょっと つきあってもらいてえな 1139 01:17:55,545 --> 01:17:57,547 話は みんな聞いた 1140 01:17:57,631 --> 01:17:59,174 俺は おめえに礼を言うぜ 1141 01:17:59,257 --> 01:18:01,677 皮肉かい? (闇太郎)冗談じゃねえよ 1142 01:18:10,811 --> 01:18:13,689 何だって お前さん こんな所まで引っ張ってくるんだよ 1143 01:18:13,772 --> 01:18:16,274 別に手荒なことをしたわけじゃなし 1144 01:18:16,358 --> 01:18:18,110 納得ずくでついてきたんじゃねえか 1145 01:18:18,193 --> 01:18:19,444 入れよ 1146 01:18:19,528 --> 01:18:20,696 ここへ入ってどうすんだい? 1147 01:18:20,779 --> 01:18:23,448 そりゃあ 親分に聞かなくちゃ分からねえ 1148 01:18:23,949 --> 01:18:27,494 (闇太郎)フッ ここなら どんな大きな声で話したって― 1149 01:18:27,577 --> 01:18:29,746 人には聞こえやしねえや 1150 01:18:30,330 --> 01:18:31,915 (お初)話って何だい? 1151 01:18:32,791 --> 01:18:36,670 あたしゃねえ 軽業お初とか何とか言われても― 1152 01:18:36,753 --> 01:18:38,463 やっぱり女さ 1153 01:18:39,673 --> 01:18:43,385 近頃は柄にもなく 優しい苦労を覚えてね 1154 01:18:44,052 --> 01:18:45,762 親分との話し合いなら― 1155 01:18:45,846 --> 01:18:48,098 てーんと そっぽを向いちまったんだよ 1156 01:18:48,181 --> 01:18:51,226 その そっぽを向いたことで 話がある 1157 01:18:51,309 --> 01:18:52,769 (お初)何だって? 1158 01:18:54,271 --> 01:18:56,857 おめえには 優しい苦労かもしれねえが― 1159 01:18:56,940 --> 01:19:00,026 先様にとっちゃ 命懸けの大苦労だ 1160 01:19:00,110 --> 01:19:02,320 おめえに 秘密をのぞかれたばっかりに― 1161 01:19:02,404 --> 01:19:04,239 誰にも知られちゃならねえ 大望が― 1162 01:19:04,322 --> 01:19:06,867 敵方に筒抜けになりゃしねえかと 太夫は… 1163 01:19:06,950 --> 01:19:09,745 (お初)親分 雪之丞に頼まれてきたね 1164 01:19:09,828 --> 01:19:11,037 とんでもねえ 1165 01:19:11,121 --> 01:19:13,248 こっちから買って出たんだ 1166 01:19:13,749 --> 01:19:16,835 おめえも 軽業のお初とか何とか 言われた女なら― 1167 01:19:16,918 --> 01:19:19,671 色恋沙汰は もうちっと きれいにやっちゃどうだい ええ? 1168 01:19:19,755 --> 01:19:21,381 ほれた相手の弱みにつけ込んで― 1169 01:19:21,465 --> 01:19:22,591 てめえのほうへ 気を引こうなんて― 1170 01:19:22,674 --> 01:19:24,885 そんなケチな手は あんまり使ってもらいたくねえな 1171 01:19:24,968 --> 01:19:26,762 (お初)何言ってるんだい 1172 01:19:27,345 --> 01:19:29,139 昔からのことわざに― 1173 01:19:29,222 --> 01:19:32,309 “恋とケンカは手段を選ばず” ってことがあるじゃないか 1174 01:19:33,226 --> 01:19:38,148 親分にゃ 命懸けで恋をした 女の気持ちが分からないんだよ 1175 01:19:38,732 --> 01:19:40,108 じゃあ お初 1176 01:19:40,692 --> 01:19:43,320 どうしても 太夫を 諦めねえっていうのかい 1177 01:19:43,403 --> 01:19:44,946 (お初)当たり前さ 1178 01:19:45,447 --> 01:19:48,784 他人に言われて諦めるような そんなケチなほれ方なら― 1179 01:19:48,867 --> 01:19:50,786 初めっから ほれないよ 1180 01:19:51,286 --> 01:19:53,205 じゃあ しかたがねえ 1181 01:19:53,288 --> 01:19:55,499 気の毒だが その熱が下がるまで― 1182 01:19:55,582 --> 01:19:58,126 当分ここにいてもらうより しかたがねえ 1183 01:19:58,668 --> 01:20:00,086 それでなきゃ… 1184 01:20:00,170 --> 01:20:02,047 それでなきゃ何だい? 1185 01:20:02,130 --> 01:20:05,550 脅かしじゃねえが おめえの命を取るより手はねえ 1186 01:20:06,760 --> 01:20:08,678 取ったらいいじゃないか 1187 01:20:08,762 --> 01:20:10,180 かまわないよ 1188 01:20:11,473 --> 01:20:16,061 それだけ度胸のある女が どうして聞き分けがねえんだ 1189 01:20:17,270 --> 01:20:19,189 出方が悪いからさ 1190 01:20:19,272 --> 01:20:21,149 どうすりゃ納得する? 1191 01:20:22,567 --> 01:20:26,488 雪之丞が来て 頭を擦り付ければ 考えてもみるさ 1192 01:20:28,448 --> 01:20:30,909 じゃあ どうしても 俺の言うことは承知できねえのか 1193 01:20:32,077 --> 01:20:36,289 そういや 親分の顔は 雪之丞に似てるがね 1194 01:20:37,249 --> 01:20:40,877 顔だけ似てても 承知はできないよ 1195 01:20:42,796 --> 01:20:43,964 じゃあ お初 1196 01:20:44,047 --> 01:20:48,426 おめえ 雪之丞に会うまでは 絶対に あのことは人に話さねえな 1197 01:20:48,510 --> 01:20:50,554 そんな約束ができるかい 1198 01:20:50,637 --> 01:20:54,516 ひとつきも ふた月も先になったら どうするんだい? 1199 01:20:56,184 --> 01:20:57,853 この野郎 1200 01:20:58,353 --> 01:21:01,565 今まで俺は我慢してきたんだが もう承知しねえぞ 1201 01:21:02,107 --> 01:21:04,651 親分 我慢もいいかげんにしねえ 1202 01:21:04,734 --> 01:21:05,694 来い! 1203 01:21:05,777 --> 01:21:07,195 (闇太郎)やめろ 1204 01:21:07,737 --> 01:21:10,073 恋一筋って こんなもんだ 1205 01:21:10,574 --> 01:21:13,076 あしたの晩までに 連れてきてくれりゃ― 1206 01:21:14,494 --> 01:21:16,621 あたしは ここにいるよ 1207 01:21:16,705 --> 01:21:18,123 ほんとか おめえ 1208 01:21:18,206 --> 01:21:19,583 ほんとかよ? 1209 01:21:19,666 --> 01:21:23,336 浪路 これほど申しても まだ分からんのか! 1210 01:21:23,420 --> 01:21:25,505 今日も今日とて城中にて― 1211 01:21:25,589 --> 01:21:29,092 上様に今しばらくのご猶予を 願ってまいったのじゃ 1212 01:21:30,635 --> 01:21:33,889 親が苦しむのが それほどうれしいのか! 1213 01:21:35,432 --> 01:21:37,601 返事をせい! (松ヶ枝)殿様! 1214 01:21:39,477 --> 01:21:42,939 (浪路)父上 わたくしは嫌でございます 1215 01:21:43,023 --> 01:21:44,024 (三斎)親不孝者が! 1216 01:21:44,107 --> 01:21:45,692 (松ヶ枝)殿様! しばらく お許しください! 1217 01:21:45,775 --> 01:21:47,110 うるさい! 1218 01:21:47,652 --> 01:21:51,865 (浪路の泣き声) 1219 01:21:51,948 --> 01:21:53,366 (松ヶ枝)お部屋様… 1220 01:21:58,830 --> 01:22:01,082 (2人の泣き声) 1221 01:22:04,252 --> 01:22:05,503 (三斎)下がれ! 1222 01:22:12,802 --> 01:22:14,012 (闇太郎) 〝面目ねえが― 〞 1223 01:22:14,095 --> 01:22:15,972 〝どうしても お前(めえ)に 出てもらわなきゃ― 〞 1224 01:22:16,056 --> 01:22:17,474 〝この話はつかねえ 〞 1225 01:22:17,557 --> 01:22:19,142 “しかし お前さんが出る迄(まで)―” 1226 01:22:19,225 --> 01:22:22,520 “お初は秘密を洩(も)らさねえと 約束をした” 1227 01:22:23,021 --> 01:22:24,356 闇太郎って人も― 1228 01:22:24,439 --> 01:22:28,109 お前に会わす顔がないと思って その手紙をよこしたに相違ない 1229 01:22:30,570 --> 01:22:33,365 お師匠様 明日 行ってまいります 1230 01:22:33,448 --> 01:22:35,283 (菊之丞)うん それがよい 1231 01:22:35,992 --> 01:22:38,912 どんなことをされても 謝ってきます 1232 01:22:38,995 --> 01:22:39,829 (菊之丞)うん 1233 01:22:39,913 --> 01:22:42,707 (長崎屋)どうぞ お気を取り静められて― 1234 01:22:42,791 --> 01:22:45,001 お城へお戻りくださいませ 1235 01:22:45,085 --> 01:22:47,796 我々を助けると思われて 1236 01:22:49,798 --> 01:22:53,176 あなた方を助けて 私は どうなります? 1237 01:22:53,259 --> 01:22:57,180 (広海屋)ああ… ああ… これというのも あの雪之丞の… 1238 01:22:57,263 --> 01:22:58,807 (浪路)何ですと? (広海屋)はっ… 1239 01:22:58,890 --> 01:23:00,850 (浪路)雪之丞がどうしました? 1240 01:23:02,060 --> 01:23:07,732 私は… 雪之丞だけは私の気持ちが 分かってくれると思っていました 1241 01:23:09,150 --> 01:23:13,405 ところが あの人さえ 父や あなた方に頼まれて― 1242 01:23:13,488 --> 01:23:15,740 わたくしの真心を裏切ります 1243 01:23:17,701 --> 01:23:19,828 早く お下がりください 1244 01:23:25,583 --> 01:23:27,585 (浜川)殿 一大事でございます 1245 01:23:27,669 --> 01:23:29,087 お部屋様がおられません 1246 01:23:29,170 --> 01:23:31,715 (三斎)何! 浪路が! 1247 01:23:42,142 --> 01:23:44,644 (三斎)松ヶ枝! 浪路は いかがいたした? 1248 01:23:44,728 --> 01:23:47,605 (松ヶ枝)はい 書き置きを残されまして… 1249 01:23:47,689 --> 01:23:48,732 (三斎)何! 1250 01:23:51,818 --> 01:23:56,197 “浪路は たとえ死んでも 大奥へは戻りたくありません” 1251 01:23:56,781 --> 01:23:59,868 “松ヶ枝より お父上様へ その旨…” 1252 01:24:03,705 --> 01:24:06,624 浪路は今朝(こんちょう) 出てまいったのか? 1253 01:24:06,708 --> 01:24:11,004 昨夜は確かに お休みでございました 1254 01:24:12,213 --> 01:24:13,048 (三斎)浜川 (浜川)はっ 1255 01:24:13,131 --> 01:24:13,965 (三斎)門倉 (門倉)はっ 1256 01:24:14,049 --> 01:24:16,468 (三斎)そのほうたち 雪之丞の宿に参り― 1257 01:24:16,551 --> 01:24:18,053 場合によっては雪之丞を斬れ 1258 01:24:18,136 --> 01:24:20,930 (浜川)殿 しかし雪之丞は お部屋様を大奥へ… 1259 01:24:21,014 --> 01:24:22,891 (三斎) さようなことは分かっておる 1260 01:24:23,850 --> 01:24:28,229 雪之丞め 浪路には毒虫じゃ 1261 01:24:28,313 --> 01:24:30,648 毒虫は斬らねばならん! 1262 01:24:30,732 --> 01:24:32,650 参れ! (浜川たち)はい 1263 01:24:34,402 --> 01:24:37,155 太夫を 殺すのでございますか? 1264 01:24:44,746 --> 01:24:48,458 (浜川)おい 雪之丞が ついそこを歩いていたぞ 1265 01:24:49,417 --> 01:24:50,877 何 雪之丞が 1266 01:24:51,461 --> 01:24:53,088 あとをつけるがよい 1267 01:24:53,171 --> 01:24:56,299 必ず お部屋様と 示し合わせているに違いない 1268 01:24:56,382 --> 01:24:57,592 (門倉)よし! 1269 01:25:00,470 --> 01:25:01,763 ハァ… 1270 01:25:02,806 --> 01:25:05,934 バカにしてるよ 朝まで待たしといて 1271 01:25:07,268 --> 01:25:10,230 それにしても あの2人は どこ行っちまったんだろうね 1272 01:25:16,194 --> 01:25:18,446 もういっときほど前に出ました 1273 01:25:18,530 --> 01:25:23,118 いろいろご親切に 何とも申し訳がありません 1274 01:25:23,201 --> 01:25:25,870 あっしが一緒にいると いいんですがね 1275 01:25:26,412 --> 01:25:28,998 今日ばっかりは そいつができねえんですよ 1276 01:25:31,626 --> 01:25:35,130 あっしが一緒にいると つい横から口が出て― 1277 01:25:35,213 --> 01:25:37,590 お初のかんの虫が立つんでねえ 1278 01:25:38,508 --> 01:25:39,551 (雪之丞)あっ… 1279 01:25:40,260 --> 01:25:42,011 謝るってのかい 1280 01:25:42,095 --> 01:25:43,304 (雪之丞)はい 1281 01:25:43,388 --> 01:25:44,889 土下座おしよ 1282 01:25:52,272 --> 01:25:56,693 子細あって雪之丞 神にかけてのこと 1283 01:25:57,443 --> 01:26:01,614 このとおり… このとおりでございます 1284 01:26:03,158 --> 01:26:06,786 雪之丞ってのは そんな男だったのかい 1285 01:26:06,870 --> 01:26:09,664 分かったよ お立ち 1286 01:26:10,832 --> 01:26:12,125 お立ちよ! 1287 01:26:20,675 --> 01:26:21,676 はっ! 1288 01:26:22,260 --> 01:26:25,180 お前は… お前は女! 1289 01:26:43,907 --> 01:26:46,492 (門倉)おい! 土部様の娘子は中にいるか? 1290 01:26:46,576 --> 01:26:47,493 (お初)そんなものいないよ 1291 01:26:47,577 --> 01:26:49,913 (横山)ウソを言うな! こら! 1292 01:26:49,996 --> 01:26:51,831 (門倉)雪之丞だな! 1293 01:26:55,793 --> 01:26:59,005 雪之丞 お部屋様の在りかを言え! 1294 01:26:59,088 --> 01:27:01,507 浪路の方はどうした! 言え! 1295 01:27:01,591 --> 01:27:05,261 まあ 浪路の方が どうかいたしましたか? 1296 01:27:06,721 --> 01:27:09,182 (門倉)おのれ とぼけるな どこへ隠したか言え! 1297 01:27:09,265 --> 01:27:10,808 そんなこと夢にも存じません 1298 01:27:10,892 --> 01:27:13,269 (家臣)言え 言え! あーっ! 1299 01:27:16,189 --> 01:27:21,069 もう芝居が始まるころだというのに どうしたんだろうな 1300 01:27:21,611 --> 01:27:27,617 (太鼓と笛の音) 1301 01:27:38,503 --> 01:27:40,546 (菊之丞)おう 雪之丞は まだ見えないか? 1302 01:27:40,630 --> 01:27:42,632 どうしたんでしょう? まだ 見えませんが 1303 01:27:42,715 --> 01:27:44,300 (家臣)うわー! 1304 01:27:50,181 --> 01:27:51,349 (お初)親分! 1305 01:27:51,432 --> 01:27:53,643 大変です 太夫が危ない! 1306 01:27:54,560 --> 01:27:56,479 えっ 何だって! 1307 01:28:01,067 --> 01:28:03,152 (家臣)だーっ! (家臣)やーっ! 1308 01:28:04,946 --> 01:28:06,030 (家臣)あっ! 1309 01:28:10,118 --> 01:28:15,123 (観客の怒号) 1310 01:28:19,168 --> 01:28:21,004 (家臣)うわー! (家臣)はーっ! 1311 01:28:22,338 --> 01:28:23,965 (家臣)やーっ! 1312 01:28:27,385 --> 01:28:28,303 (家臣)あーっ! 1313 01:28:28,386 --> 01:28:29,971 (闇太郎)待ちやがれ 1314 01:28:30,054 --> 01:28:32,098 てめえたち 何をしてやがるんだ 1315 01:28:32,181 --> 01:28:35,018 真っ昼間から立ち回りなら 舞台でやりやがれ 1316 01:28:35,101 --> 01:28:37,770 (門倉)おのれ 闇太郎! ふん! 1317 01:28:38,938 --> 01:28:40,273 (家臣)あーっ! 1318 01:28:40,356 --> 01:28:41,774 (男衆)親方 大変ですよ! 1319 01:28:41,858 --> 01:28:43,693 客が あんなに湧いてます 早く代役を 1320 01:28:43,776 --> 01:28:45,486 雪之丞は きっと来る 1321 01:28:47,280 --> 01:28:48,614 (楽屋番)おい 太夫はまだ見えないか? 1322 01:28:48,698 --> 01:28:49,741 (出方)まだ見えません 1323 01:28:51,034 --> 01:28:52,660 (家臣)ぐっ! あー! 1324 01:28:52,744 --> 01:28:54,370 (家臣)はー! 1325 01:28:56,039 --> 01:28:58,124 雪さん 幕が開いたぜ! 1326 01:28:58,207 --> 01:28:59,584 早く中村座へ行ってくれ! 1327 01:28:59,667 --> 01:29:02,128 (家臣)ぐうー! あーっ! 1328 01:29:03,212 --> 01:29:04,547 (家臣)わー! 1329 01:29:05,423 --> 01:29:06,549 (家臣)だーっ! 1330 01:29:06,632 --> 01:29:07,633 (家臣)おい 待て! 1331 01:29:08,843 --> 01:29:11,971 (駕籠屋たち)えっほ えっほ えっほ えっほ えっほ… 1332 01:29:12,972 --> 01:29:13,723 (駕籠屋)太夫! 闇の親分に 頼まれました さあ どうぞ 1333 01:29:13,723 --> 01:29:15,058 (駕籠屋)太夫! 闇の親分に 頼まれました さあ どうぞ 1334 01:29:13,723 --> 01:29:15,058 (雪之丞)すいません 1335 01:29:15,058 --> 01:29:15,683 (駕籠屋)太夫! 闇の親分に 頼まれました さあ どうぞ 1336 01:29:15,767 --> 01:29:20,772 (観客の怒号) 1337 01:29:23,649 --> 01:29:24,525 あっ! 1338 01:29:25,818 --> 01:29:27,528 (法印)えいえい! 1339 01:29:30,573 --> 01:29:31,699 (家臣)あーっ! 1340 01:29:35,912 --> 01:29:36,954 (家臣)あーっ! 1341 01:29:38,706 --> 01:29:39,707 (家臣)あっ! 1342 01:29:41,501 --> 01:29:43,044 (家臣)だーっ! 1343 01:29:44,545 --> 01:29:48,674 (駕籠屋たち)えっほ えっほ えっほ えっほ えっほ… 1344 01:29:52,136 --> 01:29:57,141 (観客の怒号) 1345 01:29:59,435 --> 01:30:04,565 (駕籠屋たち)えっほ えっほ えっほ えっほ えっほ… 1346 01:30:05,775 --> 01:30:07,276 (家臣)だーっ! 1347 01:30:08,945 --> 01:30:10,071 (銃声) 1348 01:30:11,531 --> 01:30:14,242 (駕籠屋たち)えっほ えっほ えっほ えっほ えっほ… 1349 01:30:14,325 --> 01:30:19,330 (観客の怒号) 1350 01:30:33,010 --> 01:30:37,640 (駕籠屋たち)えっほ えっほ えっほ えっほ えっほ… 1351 01:30:37,723 --> 01:30:42,645 えっほ えっほ えっほ えっほ えっほ えっほ… 1352 01:30:42,728 --> 01:30:46,274 えっほ えっほ えっほ…