1 00:00:02,936 --> 00:00:07,808 (芹澤 環)小説の嘘は 人が隠した本音に➡ 2 00:00:07,808 --> 00:00:11,945 まっすぐ 手を伸ばすことがある。 3 00:00:11,945 --> 00:00:23,557 これからも この命続くかぎり 全力の嘘で 人を欺き➡ 4 00:00:23,557 --> 00:00:31,632 その嘘で真実の輪郭を描く。 5 00:00:31,632 --> 00:00:38,305 そして 嘘つきのまま死んでいきたい。 6 00:00:38,305 --> 00:00:40,974 (拍手) 7 00:00:40,974 --> 00:00:44,311 ⚟芹澤先生 ありがとうございました。 8 00:00:44,311 --> 00:00:50,017 (拍手) 9 00:01:09,269 --> 00:01:12,172 (江藤 恵)あの… 芹澤先生。 10 00:01:12,172 --> 00:01:17,144 灯文舎の江藤です。 ああ 君か。 11 00:01:17,144 --> 00:01:20,614 ご挨拶が遅くなり 失礼いたしました。 12 00:01:20,614 --> 00:01:24,952 さっきの話 君は もう聞き飽きたでしょ。 13 00:01:24,952 --> 00:01:28,822 いえ そんな…。 お伺いするたびに発見があります。 14 00:01:28,822 --> 00:01:31,291 手紙 読んだよ。 15 00:01:31,291 --> 00:01:35,963 えっ…? ありがとうございます。 16 00:01:35,963 --> 00:01:41,635 「まだ 誰も開いたことがない 私の新しい世界」か。 17 00:01:41,635 --> 00:01:45,505 あっ… 失礼を申し上げて すいません。 18 00:01:45,505 --> 00:01:49,309 弊社としては 先生の原稿を頂けるのであれば…。 19 00:01:49,309 --> 00:01:56,183 人生の決定的な1ページは 書いているときには気付けない。 20 00:01:56,183 --> 00:02:00,187 僕自身 何度も思い知らされたよ。 21 00:02:02,589 --> 00:02:05,492 江藤さん。 はい。 22 00:02:05,492 --> 00:02:10,464 あなたにとって決定的な1ページは いつだと思いますか? 23 00:02:10,464 --> 00:02:14,601 決定的な1ページ…。 24 00:02:14,601 --> 00:02:20,607 それが今だと信じられるなら 僕は喜んで書きますよ。 25 00:02:23,276 --> 00:02:25,612 ありがとうございます…! 26 00:02:25,612 --> 00:02:27,914 お願いします! 27 00:02:33,286 --> 00:02:39,993 <しかし 私のもとに 新作の原稿が届くことはなかった> 28 00:02:43,930 --> 00:02:46,633 <あの式典の直後➡ 29 00:02:46,633 --> 00:02:50,303 長い長い階段からの転落事故により➡ 30 00:02:50,303 --> 00:02:55,008 小説家 芹澤 環は死んだ> 31 00:03:00,113 --> 00:03:02,883 <それから1年後。➡ 32 00:03:02,883 --> 00:03:07,254 見せたいものがあると 奥様から連絡をもらった私は➡ 33 00:03:07,254 --> 00:03:11,558 久しぶりに 芹澤先生の家を訪ねた> 34 00:03:15,128 --> 00:03:17,431 (チャイム) 35 00:03:19,266 --> 00:03:30,277 ⚟(物音) 36 00:03:30,277 --> 00:03:32,279 あっ…。 37 00:03:35,148 --> 00:03:37,451 すいません。 38 00:04:00,574 --> 00:04:04,244 (芹澤真理子) ああやって たまに穴を掘って埋めるの。 39 00:04:04,244 --> 00:04:07,914 一度に たくさん埋めるから 次 掘ったときに➡ 40 00:04:07,914 --> 00:04:13,253 出てきちゃうんじゃないかと思うんだけど すっかり なくなってるのよ。 41 00:04:13,253 --> 00:04:20,260 あれなら きっと 何を埋めても きれいさっぱり土に還るでしょうね。 42 00:04:21,928 --> 00:04:24,931 草とかですかね…? 43 00:04:26,600 --> 00:04:30,937 あとは 生ごみとか。 44 00:04:30,937 --> 00:04:35,942 ネズミが掘り返したりしないように 深く深くね。 45 00:04:55,162 --> 00:04:58,165 あっ… 失礼します。 46 00:04:58,165 --> 00:05:04,171 芹澤先生の日記ですか? そうみたいね。 47 00:05:06,239 --> 00:05:08,241 失礼します。 48 00:05:11,912 --> 00:05:13,847 これって…。 49 00:05:13,847 --> 00:05:17,250 誰にも見せてないけど あなた しつこいから…。 50 00:05:17,250 --> 00:05:19,186 すいません。 51 00:05:19,186 --> 00:05:23,123 でも 興味ある? 死んだ人間の日記なんて。 52 00:05:23,123 --> 00:05:27,827 はい。 あっ もちろん 奥様がよろしければですが…。 53 00:05:29,829 --> 00:05:32,265 ありがとうございます。 54 00:05:32,265 --> 00:05:53,954 ♬~ 55 00:05:59,492 --> 00:06:04,197 (林 大輔)江藤さん 外出だっけ? はい。 芹澤先生の所に。 56 00:06:04,197 --> 00:06:06,566 えっ? 芹澤 環? 57 00:06:06,566 --> 00:06:09,469 今までも通ってはいたんですけど。 58 00:06:09,469 --> 00:06:13,240 あんまり 時間かけるなよ。 今回は 向こう…➡ 59 00:06:13,240 --> 00:06:16,910 奥様から ご連絡あったので。 そうか。 60 00:06:16,910 --> 00:06:20,247 しかし あのときは えらい騒ぎだったよな。 61 00:06:20,247 --> 00:06:24,117 結局 うちも 原稿 最後まで取れなかったし。➡ 62 00:06:24,117 --> 00:06:29,589 ああ そうだ。 明日 朝一で時間もらえるかな? 63 00:06:29,589 --> 00:06:31,892 はい 了解です。 64 00:06:36,263 --> 00:06:39,599 (江藤静流)太陽 水星➡ 65 00:06:39,599 --> 00:06:43,937 金星 地球 火星。 66 00:06:43,937 --> 00:06:47,941 うん? あっという間…。 67 00:06:50,610 --> 00:06:54,481 (テレビ・インタビュアー)「本日は 発売前に重版が決まった話題の本➡ 68 00:06:54,481 --> 00:06:58,251 『個で戦う時代の仕事論』の編集者…」。 (静流)パパ!➡ 69 00:06:58,251 --> 00:07:00,186 パパだよ! (テレビ・インタビュアー)「田邊恭平さんに➡ 70 00:07:00,186 --> 00:07:03,223 お越しいただいています」。 (テレビ・田邊恭平)「よろしくお願いします」。 71 00:07:03,223 --> 00:07:06,559 ああ パパだね。 72 00:07:06,559 --> 00:07:09,896 「いやあ こちらこそ。 ありがとうございます」。 73 00:07:09,896 --> 00:07:12,565 パパの本 また出るの? 74 00:07:12,565 --> 00:07:16,903 うん。 みたいだね。 パパがお手伝いした本ね。 75 00:07:16,903 --> 00:07:20,774 (静流)元気? 元気だよ。 この間も会ったじゃん。 76 00:07:20,774 --> 00:07:24,577 ほら もう ねんね。 トイレ! 77 00:07:24,577 --> 00:07:29,215 (テレビ・インタビュアー)「本を作るにも AIが 関わっているっていうことなんですね」。 78 00:07:29,215 --> 00:07:31,251 (テレビ・田邊)「そうなんです。 これね 面白いんですけど➡ 79 00:07:31,251 --> 00:07:37,123 今 クリエーティブ領域にも ぐんぐんと AIが進出してきてるんです。➡ 80 00:07:37,123 --> 00:07:42,595 AIによって 誰もが 質の高い コンテンツを作れてしまうならば➡ 81 00:07:42,595 --> 00:07:45,498 今後 ますますね 作家の名前➡ 82 00:07:45,498 --> 00:07:49,469 そして その人だけが持つ物語。 これがね➡ 83 00:07:49,469 --> 00:07:52,939 とても重要になってくると思うんですよ」。 (テレビ・インタビュアー)「ああ なるほど」。 84 00:07:52,939 --> 00:07:56,643 「この本はですね 特に その辺を掘り下げてまして 個で…」。 85 00:08:00,747 --> 00:08:02,749 管理部? 86 00:08:02,749 --> 00:08:06,486 うん。 異動するとしたらってことなんだけど。 87 00:08:06,486 --> 00:08:12,892 それは決まりですか? いや お伺いっていうか…。 88 00:08:12,892 --> 00:08:16,229 江藤さんは 頑張って やってくれてると思うよ。 89 00:08:16,229 --> 00:08:19,566 お子さんも 一人で育ててるのに…。 90 00:08:19,566 --> 00:08:23,436 それは いろいろ 迷惑をおかけしてると思ってます。 91 00:08:23,436 --> 00:08:26,906 いやいや そうじゃなくて だからこそ 今は➡ 92 00:08:26,906 --> 00:08:29,809 そういう働き方のほうが 合ってるんじゃないかなって。 93 00:08:29,809 --> 00:08:31,778 いや それって…。 94 00:08:31,778 --> 00:08:36,916 管理部だって出版社に必要な仕事だよ。 いや それは分かってます。 95 00:08:36,916 --> 00:08:42,889 でも 私は 編集の仕事を続けたくて…。 俺だって そうだよ。 96 00:08:42,889 --> 00:08:47,193 田邊恭平ぐらいまでなれば 話は違ってくるかもしれない。 97 00:08:48,461 --> 00:08:53,466 ああ… ごめん。 元旦那の名前 出しちゃって。 98 00:08:57,937 --> 00:09:00,840 俺たち 編集者ってさ どうしたって➡ 99 00:09:00,840 --> 00:09:04,744 お互いの担当した本で 相手 見るとこあるじゃない。 100 00:09:04,744 --> 00:09:08,882 名刺代わりっていうか 名刺より ずっと…。 101 00:09:08,882 --> 00:09:14,554  回想 江藤さん。 君にとって 決定的な1ページは➡ 102 00:09:14,554 --> 00:09:17,257 いつだと思いますか? 103 00:09:19,225 --> 00:09:22,896 いや まあ 時期とか後任については また…。 104 00:09:22,896 --> 00:09:28,234 もう少し待ってもらえませんか? 105 00:09:28,234 --> 00:09:31,905 先生の家から原稿が見つかったんです。 106 00:09:31,905 --> 00:09:35,575 えっ? 芹澤 環の? 107 00:09:35,575 --> 00:09:38,912 本当に? 日記なんですけど…。 108 00:09:38,912 --> 00:09:40,847 日記…。 109 00:09:40,847 --> 00:09:43,583 何だ… 小説じゃないのか。 110 00:09:43,583 --> 00:09:45,919 読んだことのない芹澤 環です。 111 00:09:45,919 --> 00:09:48,822 小説と違って 文章に温度を感じるというか…➡ 112 00:09:48,822 --> 00:09:51,591 とにかく 新しい魅力があります。 113 00:09:51,591 --> 00:09:56,930 でも 出せるもんなの? それ。 奥様の協力も得られました。 114 00:09:56,930 --> 00:10:01,267 5,000万部 売った男の本音ね…。 115 00:10:01,267 --> 00:10:03,203 今期中に出せそう? 116 00:10:03,203 --> 00:10:05,138 これから確認します。 117 00:10:05,138 --> 00:10:08,942 でも もう 原稿はありますから。 118 00:10:08,942 --> 00:10:11,845 よし 分かった。 2週間 待つ。 119 00:10:11,845 --> 00:10:16,850 確認できたら すぐ見せて。 異動の話は そのあと。 120 00:10:29,963 --> 00:10:36,302 (新木 翔)芹澤 環の小説って 生活を感じないんですよね。 121 00:10:36,302 --> 00:10:38,238 そう? 122 00:10:38,238 --> 00:10:43,643 食べ物とか家の中とか かなり丁寧に描かれてると思うけど。 123 00:10:43,643 --> 00:10:48,314 それだって ミステリーに必要なものしか 書かれてないし。 124 00:10:48,314 --> 00:10:52,652 まあ そういう読み方もあるかもね。 125 00:10:52,652 --> 00:10:56,956 それが 何か 安心するんだよな。 126 00:10:59,325 --> 00:11:03,329 どれだけ売れても 人って孤独なんだなって。 127 00:11:04,931 --> 00:11:08,268 好きだったんだね 芹澤先生の小説。 128 00:11:08,268 --> 00:11:10,937 小説読むなら 一度は通りますよ。 129 00:11:10,937 --> 00:11:16,276 素直じゃないなあ。 私は昔からファンだったけどね。 130 00:11:16,276 --> 00:11:19,279 死んだあとも 家に通ってるくらいですしね。 131 00:11:20,947 --> 00:11:24,617 新木君。 132 00:11:24,617 --> 00:11:27,320 私が 今 何考えてるか分かる? 133 00:11:29,289 --> 00:11:32,192 「仕事をしろ」。 正解。 134 00:11:32,192 --> 00:11:35,495 はい。 135 00:11:44,837 --> 00:11:50,577 <「2月17日 行きつけの喫茶『夕凪』にて➡ 136 00:11:50,577 --> 00:11:54,314 夜のパーティーで話すことについて 考えながら➡ 137 00:11:54,314 --> 00:11:56,649 いつものナポリタンを食べる。➡ 138 00:11:56,649 --> 00:11:59,986 薄切りのハム ピーマン➡ 139 00:11:59,986 --> 00:12:03,590 玉ねぎ スナップエンドウ。➡ 140 00:12:03,590 --> 00:12:05,925 名前にナポリと冠しているが➡ 141 00:12:05,925 --> 00:12:10,630 しかし これは 立派な日本料理である」> 142 00:12:12,265 --> 00:12:15,268 いらっしゃいませ。 どうぞ。 143 00:12:20,139 --> 00:12:23,276 何にします? あっ すいません➡ 144 00:12:23,276 --> 00:12:26,613 ナポリタンって…。 夏しかやってないんですよ。 145 00:12:26,613 --> 00:12:30,950 冷やし中華みたいでしょ。 ハハハ…! 去年も そうでしたか? 146 00:12:30,950 --> 00:12:35,288 うちのナポリタンは ピーマン 玉ねぎ ズッキーニ➡ 147 00:12:35,288 --> 00:12:39,158 全部夏が旬の野菜だから 夏しかやらないんです。 148 00:12:39,158 --> 00:12:42,629 スナップエンドウは? 149 00:12:42,629 --> 00:12:44,964 入れてないけど。 150 00:12:44,964 --> 00:12:47,967 そうですか。 151 00:12:53,973 --> 00:12:57,844 すいません お邪魔したうえに食事まで。 152 00:12:57,844 --> 00:13:01,581 1人分も2人分も一緒だから。 153 00:13:01,581 --> 00:13:05,284 あの人にそう言われると かちんときたけどね。 154 00:13:06,919 --> 00:13:09,822 何か お手伝いできることはありますか? 155 00:13:09,822 --> 00:13:14,527 いいわ。 でも 座ってるのが落ち着かなくて…。 156 00:13:16,596 --> 00:13:18,931 じゃあ これ お願い。 157 00:13:18,931 --> 00:13:21,234 あっ 失礼します。 158 00:13:22,802 --> 00:13:25,271 こういうとき 先生って…。 159 00:13:25,271 --> 00:13:29,142 めったに部屋から出てこない。 160 00:13:29,142 --> 00:13:31,144 出てきたら出てきたで➡ 161 00:13:31,144 --> 00:13:35,915 「何を手伝えばいいか 具体的に教えてくれればやる」って。 162 00:13:35,915 --> 00:13:39,285 どこも同じですね。 163 00:13:39,285 --> 00:13:43,156 息子に作ると そこらじゅう 真っ赤にしちゃうんですよね。 164 00:13:43,156 --> 00:13:49,295 おじさんも同じ。 シャツに飛んでるのも気付かない。 165 00:13:49,295 --> 00:13:53,633 先生も お好きだったんですね ナポリタン。 166 00:13:53,633 --> 00:13:57,337 小説に書けても作れないくせにね。 167 00:13:59,972 --> 00:14:03,576 奥様のナポリタンが 好きだったんじゃないですか。 168 00:14:03,576 --> 00:14:07,580 違いなんて分かってなかったと思うけど。 169 00:14:10,917 --> 00:14:17,790 日記にも 「行きつけの喫茶店で ナポリタンを食べた」って書いてました。 170 00:14:17,790 --> 00:14:23,262 そうなの? 私は 一緒に行ったことがないから。 171 00:14:23,262 --> 00:14:26,599 ちょっと こだわりが強そうな店長で…。 172 00:14:26,599 --> 00:14:29,936 もう行ったの? 173 00:14:29,936 --> 00:14:35,274 でも そこの喫茶店 ちょっと変わってて。 174 00:14:35,274 --> 00:14:41,147 夏しかやってないんですよ ナポリタン。 175 00:14:41,147 --> 00:14:44,283 変ですよね。 176 00:14:44,283 --> 00:14:48,154 日記には 「2月にナポリタンを食べた」 って書いてあったのに。 177 00:14:48,154 --> 00:14:51,958 あの人の思い違いじゃないの? いや 行きつけですし➡ 178 00:14:51,958 --> 00:14:55,294 間違えることはないと思います。 179 00:14:55,294 --> 00:14:58,197 本当のことばかり 書いてるわけじゃないでしょ。 180 00:14:58,197 --> 00:15:00,900 小説家なんて嘘つきなんだから。 181 00:15:00,900 --> 00:15:06,572 「大きな嘘はついても小さな嘘はつくな」。 182 00:15:06,572 --> 00:15:09,242 先生 インタビューで言ってました。 183 00:15:09,242 --> 00:15:13,946 「小さな嘘だけは ついちゃ駄目な嘘だ」って。 184 00:15:15,581 --> 00:15:19,252 食べてからにしない? 先生の小説を読んでると➡ 185 00:15:19,252 --> 00:15:21,587 一文字単位で こだわりを感じます。 186 00:15:21,587 --> 00:15:23,923 漢字 ひらがな カタカナ。 187 00:15:23,923 --> 00:15:28,261 もちろん 日記と小説は違う。 でも…。 188 00:15:28,261 --> 00:15:31,264 言いたいことがあるなら はっきり言ったら? 189 00:15:34,133 --> 00:15:41,607 これ… 本当に先生が書いた日記なんですか? 190 00:15:41,607 --> 00:15:47,480 それを私に聞いてどうするの? 編集者として知る義務があります。 191 00:15:47,480 --> 00:15:55,154 あなたたちは 芹澤 環の名前で 本が出せれば何でもいいんでしょ? 192 00:15:55,154 --> 00:15:59,158 死んだあとまで押しかけて 何か残ってないかって。 193 00:16:00,893 --> 00:16:03,229 それは…。 194 00:16:03,229 --> 00:16:07,533 別に 興味ないんでしょ? 本当のことなんて。 195 00:16:10,102 --> 00:16:13,406 じゃあ 何で 私に見せてくれたんですか? 196 00:16:15,808 --> 00:16:19,779 私 奥様のことが気になってきました。 197 00:16:19,779 --> 00:16:23,249 何…? 198 00:16:23,249 --> 00:16:26,152 奥様には 先生が どう見えてたんですか? 199 00:16:26,152 --> 00:16:29,856 先生の小説のこと どう思ってたんですか? 200 00:16:35,261 --> 00:16:37,964 おかしな人。 201 00:16:42,134 --> 00:16:46,272 私ね…➡ 202 00:16:46,272 --> 00:16:50,576 もとは夫の小説のファンだったの。 203 00:16:56,282 --> 00:17:01,888 あの人の小説の中に 私との生活を感じると➡ 204 00:17:01,888 --> 00:17:04,891 最初は 素直にうれしかった。 205 00:17:06,759 --> 00:17:08,761  回想 もう 読んでるのか? 206 00:17:08,761 --> 00:17:13,900 なかなか よく出来てるよ。 フフ…! 207 00:17:13,900 --> 00:17:17,236 それは よかった。 208 00:17:17,236 --> 00:17:21,107 真理子 花に詳しいよな。 209 00:17:21,107 --> 00:17:27,113 あなたが知らなすぎるだけでしょ。 ちょっと 教えてくれないか。 210 00:17:28,848 --> 00:17:31,784 昔は 小説の話を たくさんした。 211 00:17:31,784 --> 00:17:37,490 テーマを決めて お互いの物語を発表し合ったりもした。 212 00:17:39,926 --> 00:17:46,632 あるとき 私が話したことが小説の一節になった。 213 00:17:48,601 --> 00:17:51,904 一度や二度じゃなくなった。 214 00:18:10,556 --> 00:18:14,226 だから だんだん怖くなったの。 215 00:18:14,226 --> 00:18:19,532 あの人の小説に 私が のみ込まれていくみたいで。 216 00:18:29,575 --> 00:18:34,246 それは 夫が死ぬまで変わらなかった。 217 00:18:34,246 --> 00:18:40,953 私には 本当の夫が ずっと分からなかった。 218 00:18:46,826 --> 00:18:50,796 あの人と一緒に燃やすつもりだった。 219 00:18:50,796 --> 00:18:55,801 でも 金具がついているから 棺には入れられないって。 220 00:19:02,208 --> 00:19:08,547 ひょっとしたら 私の知らない夫が ここにいるんじゃないかって➡ 221 00:19:08,547 --> 00:19:12,852 書き写し始めたの。 222 00:19:16,889 --> 00:19:22,561 それで 先生の手帳は…。 223 00:19:22,561 --> 00:19:26,565 庭に埋めた。 224 00:19:28,434 --> 00:19:33,439 本当よ。 信じてもらえないと思うけど。 225 00:19:36,108 --> 00:19:38,811 そうですか。 226 00:19:40,913 --> 00:19:44,784 仕返しの気持ちもあった。 227 00:19:44,784 --> 00:19:52,525 そのうち 夫の気持ちを想像したり 私の覚えてることと つながったり。 228 00:19:52,525 --> 00:19:59,231 気が付くと 自分で文章を書き足してた。 229 00:20:06,138 --> 00:20:11,143 がっかりしたでしょ? 芹澤 環の書いた文章じゃなくて。 230 00:20:13,612 --> 00:20:17,950 驚きました。 ごめんなさいね。 231 00:20:17,950 --> 00:20:21,620 面白かったから。 232 00:20:21,620 --> 00:20:26,292 小説とは違うけど 文章に生活の温度があって➡ 233 00:20:26,292 --> 00:20:30,596 新しい先生の一面が 見えた気がしたんです。 234 00:20:33,165 --> 00:20:36,302 真理子さん。 何? 235 00:20:36,302 --> 00:20:41,640 私と一緒に 芹澤 環を書きませんか? 236 00:20:41,640 --> 00:20:43,576 この日記は面白いです。 237 00:20:43,576 --> 00:20:45,511 先生が書かなかった…➡ 238 00:20:45,511 --> 00:20:48,514 いや 書くのを避けてきたものが 書かれてる気がする。 239 00:20:48,514 --> 00:20:51,984 だから 続きを書いて本にするんです。 240 00:20:51,984 --> 00:20:54,320 本気で言ってるの? 241 00:20:54,320 --> 00:20:59,658 妻として近くで見てきた真理子さん。 先生の本を担当するはずだった私。 242 00:20:59,658 --> 00:21:03,529 2人で書けば 完璧な芹澤 環の日記が 作れるんじゃないですか? 243 00:21:03,529 --> 00:21:05,931 あなた誤解してる。 私は 夫のことなんか…。 244 00:21:05,931 --> 00:21:08,834 小説に書かれた仕返しなんですよね。 だったら➡ 245 00:21:08,834 --> 00:21:12,605 真理子さんが思う芹澤先生を 書ききってみませんか? 246 00:21:12,605 --> 00:21:16,275 そんなの作り話じゃない…! 247 00:21:16,275 --> 00:21:21,981 作り話だからこそ 真実が書けるんじゃないですか? 248 00:21:29,822 --> 00:21:34,627 日記…。 まず 「まちのあかり」で 頭だけ載せたらどうかな? 249 00:21:34,627 --> 00:21:37,963 うちのウェブマガジンですか? うん。 250 00:21:37,963 --> 00:21:40,299 芹澤 環とはいえ 今回は日記だろ? 251 00:21:40,299 --> 00:21:44,170 読者の反応が分かんないと 何とも言えないからな。 252 00:21:44,170 --> 00:21:46,639 分かりました。 253 00:21:46,639 --> 00:21:50,309 掲載する文章は私が選びます。 うん。 254 00:21:50,309 --> 00:21:54,980 で その日記 いつまで書かれてるか分かった?➡ 255 00:21:54,980 --> 00:21:59,652 読者が 一番読みたいのは 死の直前だと思うんだよな。 256 00:21:59,652 --> 00:22:02,922 原稿自体は亡くなる直前まであります。 257 00:22:02,922 --> 00:22:07,226 (林)本当? じゃあ 早く読ませてよ。 はい。 258 00:22:14,266 --> 00:23:02,781 ♬~ 259 00:23:02,781 --> 00:23:05,251  回想 (AI・女性の声)「小説の相談です。➡ 260 00:23:05,251 --> 00:23:10,256 書けない時 人は誰かに話したくなるものですね」。 261 00:23:25,938 --> 00:23:32,611 今日から あなたは小説家の芹澤 環です。 262 00:23:32,611 --> 00:23:37,616 彼になりきって私と話をしてください。 263 00:23:39,285 --> 00:23:42,187 「ミステリー小説家の芹澤 環?➡ 264 00:23:42,187 --> 00:23:45,958 それは つまり ブラックユーモアと謎を交えながら➡ 265 00:23:45,958 --> 00:23:50,829 ウィットに富んで ちょっとひねくれた 会話をしてほしいってことですか?➡ 266 00:23:50,829 --> 00:23:57,970 いいでしょう。 やりますよ。➡ 267 00:23:57,970 --> 00:23:59,905 こんにちは」。 268 00:23:59,905 --> 00:24:01,840 (AI・女性の声)「こんにちは」。 269 00:24:01,840 --> 00:24:03,776 (AI・男性の声)「こんにちは」。 270 00:24:03,776 --> 00:24:05,778 (AI・男性の声)「こんにちは」。 271 00:24:05,778 --> 00:24:11,250 私は あなた 芹澤 環の妻です。 272 00:24:11,250 --> 00:24:14,920 これからは そのつもりで話してください。 273 00:24:14,920 --> 00:24:17,823 (AI・男性の声) 「いきなり 夫婦関係を ねつ造するとは➡ 274 00:24:17,823 --> 00:24:20,793 なかなか大胆なトリックじゃないか。➡ 275 00:24:20,793 --> 00:24:24,496 そんな きてれつな設定 嫌いじゃない」。 276 00:24:32,271 --> 00:24:35,174 あっ ありがとうございます。 277 00:24:35,174 --> 00:24:38,944 原稿を読ませていただきました。 面白かったです。 278 00:24:38,944 --> 00:24:42,614 食べてからにしてくれない? あっ… 一個 いいですか? 279 00:24:42,614 --> 00:24:45,517 「2025年2月24日➡ 280 00:24:45,517 --> 00:24:49,288 じゃがいも にんじん 玉ねぎ 牛肉を 鍋に入れて煮ている。➡ 281 00:24:49,288 --> 00:24:53,158 カレーだと思うかもしれないが 実際は肉じゃがである。➡ 282 00:24:53,158 --> 00:24:55,961 これは ほんの初歩だが ミステリー小説は➡ 283 00:24:55,961 --> 00:25:00,799 書かれていないことまで すべてを巻き込んで 読者を欺く」。 284 00:25:00,799 --> 00:25:05,237 作りもしないくせに そういう へ理屈は書きそうだから。 285 00:25:05,237 --> 00:25:09,942 まあ 確かに 先生 言いそうですよね。 286 00:25:11,910 --> 00:25:14,813 でも 真理子さんには➡ 287 00:25:14,813 --> 00:25:20,586 真理子さんにしか書けない先生を 自由に書いてほしいんです。 288 00:25:20,586 --> 00:25:24,923 先生らしい文体には私が直しますから。 289 00:25:24,923 --> 00:25:29,595 頼もしいわね。 290 00:25:29,595 --> 00:25:32,297 ああ… すいません。 291 00:25:42,608 --> 00:25:45,944 日記なんですよね? 292 00:25:45,944 --> 00:25:49,615 うん? 芹澤 環の原稿。 293 00:25:49,615 --> 00:25:54,286 林さんから聞いたの? 最近 それに かかりっきりですね。 294 00:25:54,286 --> 00:25:58,590 まあ 今期中に間に合わせたいからね。 295 00:26:00,559 --> 00:26:04,430 本人がいないのに何を確認するんですか? 296 00:26:04,430 --> 00:26:08,434 それは まあ… いろいろ。 297 00:26:08,434 --> 00:26:13,572 日記だし 出せるところと 出せないところがあるからさ。 298 00:26:13,572 --> 00:26:17,242 カフカは 「自分が死んだら➡ 299 00:26:17,242 --> 00:26:20,946 書いたもの 全部 燃やせ」って 言ったらしいですね。 300 00:26:25,117 --> 00:26:30,789 燃やされてたら 今ごろ カフカは読めてないけどね。 301 00:26:30,789 --> 00:26:33,792 まあ…。 302 00:26:40,933 --> 00:26:45,938 また 芹澤 環の所ですか? ああ そうだけど。 303 00:26:47,606 --> 00:26:50,309 何か まだ生きてるみたいですね。 304 00:26:54,279 --> 00:26:58,150 怖いこと言わないでよ。 305 00:26:58,150 --> 00:27:01,153 冗談ですよ。 306 00:27:07,226 --> 00:27:12,097 まず あなたは そんなふうに べらべら しゃべりません。 307 00:27:12,097 --> 00:27:17,236 「面白い。 どう答えるか教えてくれ」。 308 00:27:17,236 --> 00:27:22,908 あなたは お願いをすると 「しょうがないな」です。 309 00:27:22,908 --> 00:27:25,811 「随分そっけない返事だ」。 310 00:27:25,811 --> 00:27:28,780 違うでしょ。 お願いをしたら…。 311 00:27:28,780 --> 00:27:32,918 「『しょうがないな』だな。 すまない」。 312 00:27:32,918 --> 00:27:36,922 (ため息) 素直すぎるのよね。 313 00:27:39,591 --> 00:27:45,464 で 去年の2月25日は どこで何をしてた? 314 00:27:45,464 --> 00:27:47,933 「しょうがないな。➡ 315 00:27:47,933 --> 00:27:51,603 ふだんどおりなら 午前中は 執筆をして➡ 316 00:27:51,603 --> 00:27:55,941 午後は 気晴らしに 散歩に出かけているだろうな」。 317 00:27:55,941 --> 00:27:58,277 本当に? 318 00:27:58,277 --> 00:28:02,548 「嘘をつく理由が どこにあるんだ?」。 319 00:28:02,548 --> 00:28:05,884 本当のことなんて めったに言わなかったから。 320 00:28:05,884 --> 00:28:09,221 「それは心外だな」。 321 00:28:09,221 --> 00:28:11,156 心外? 322 00:28:11,156 --> 00:28:14,893 あなた そもそも 心なんてあるの? 323 00:28:14,893 --> 00:28:19,898 「そんな曖昧なもの あってもなくても関係ない」。 324 00:28:23,902 --> 00:28:26,572 おっ… よっ…! 325 00:28:26,572 --> 00:28:30,442 編集者って こんなことまで手伝ってくれるのね。 326 00:28:30,442 --> 00:28:34,446 いつも椅子に座りっぱなしなんで ちょうどいいです。 327 00:28:34,446 --> 00:28:38,183 忙しいのに悪いわね。 ああ… いえいえ。 328 00:28:38,183 --> 00:28:40,485 あっ あっ…。 329 00:28:47,859 --> 00:28:51,797 あの…➡ 330 00:28:51,797 --> 00:28:58,103 原稿には 亡くなる直前の1週間の日記が まだ ありませんよね。 331 00:29:01,406 --> 00:29:06,211 そのときの先生 何 書こうとしてたんですかね…? 332 00:29:06,211 --> 00:29:09,915 それは私には分からない。 333 00:29:12,084 --> 00:29:18,223 あなたに書くって言ってた小説は? 何か話をしなかったの? 334 00:29:18,223 --> 00:29:20,525 いや…。 335 00:29:22,561 --> 00:29:29,901 でも ありきたりで いかにもの舞台とか 設定を逆手に取るみたいな話は➡ 336 00:29:29,901 --> 00:29:32,604 してたんですよね。 337 00:29:34,239 --> 00:29:39,578 去年の3月 あなた 何を書こうとしてたの? 338 00:29:39,578 --> 00:29:42,247 「分からないな。➡ 339 00:29:42,247 --> 00:29:47,119 恐らく 新作の準備だろう」。 340 00:29:47,119 --> 00:29:51,923 新婚旅行で泊まったホテルがあるの。 どこか分かる? 341 00:29:51,923 --> 00:29:56,261 あなたは知らないと思うけど。 342 00:29:56,261 --> 00:29:59,564 「新婚旅行…」。 343 00:30:01,133 --> 00:30:04,603 「崖の近くにあるホテルだったか?」。 344 00:30:04,603 --> 00:30:07,272 覚えてたんだ…! 345 00:30:07,272 --> 00:30:13,145 「忘れるはずない。 ずいぶん 風の強い場所だったよな」。 346 00:30:13,145 --> 00:30:15,614 そう。 「ミステリーなら➡ 347 00:30:15,614 --> 00:30:21,486 事件が起きそうな場所だね」って言ったら あなた 何て言ったと思う? 348 00:30:21,486 --> 00:30:26,258 「さあ? きっと 興ざめするようなことを 言ったんだろう」。 349 00:30:26,258 --> 00:30:31,630 「こんな崖 三流しか使わない。 できすぎてる」って。 350 00:30:31,630 --> 00:30:35,500 「よく覚えてるな。 君にはかなわない」。 351 00:30:35,500 --> 00:30:42,274 「事件は 起きそうにない場所で起きるから 面白い」って。 352 00:30:42,274 --> 00:30:44,976 「そんなことも言った気がする。➡ 353 00:30:44,976 --> 00:30:49,314 また行きたいか?」。 354 00:30:49,314 --> 00:30:52,217 一緒に行きたい。 355 00:30:52,217 --> 00:30:54,653 「しょうがないな」。 356 00:30:54,653 --> 00:30:58,990 もう行けないでしょ? あなたは。 357 00:30:58,990 --> 00:31:02,861 「そうだな。 君を一人にしてしまった。➡ 358 00:31:02,861 --> 00:31:05,597 すまない」。 359 00:31:05,597 --> 00:31:09,601 やめてよ。 あなたが謝るなんて。 360 00:31:15,273 --> 00:31:18,610 異動の話 とりあえず いったん 取り消しな。 361 00:31:18,610 --> 00:31:20,545 人事には話しておいたから。 362 00:31:20,545 --> 00:31:22,481 ありがとうございます。 363 00:31:22,481 --> 00:31:28,286 あれ? もうちょっと喜ぶと思ったのに。 ああ いや…。 ほっとしてます。 364 00:31:28,286 --> 00:31:30,956 反応いいってな 芹澤先生の日記。 365 00:31:30,956 --> 00:31:33,291 閲覧数も伸びてるし ネットでも評判いい。 366 00:31:33,291 --> 00:31:37,162 新木君から聞きました。 いろいろ 情報 集めてくれてて。 367 00:31:37,162 --> 00:31:41,166 その新木の後任なんだけど…。 えっ? 368 00:31:41,166 --> 00:31:45,637 えっ? 本人から聞いてないの? はい。 369 00:31:45,637 --> 00:31:48,306 急に 「辞める」って言いだしたんだよ。 370 00:31:48,306 --> 00:31:51,209 えっ? 何でですか? 371 00:31:51,209 --> 00:31:55,981 「この仕事は僕には向いてません」って。 若いよな。 372 00:31:55,981 --> 00:32:00,285 アルバイトとはいえ 前もって言ってほしかったよな。 373 00:32:05,791 --> 00:32:08,260 ⚟(物音) 374 00:32:08,260 --> 00:32:10,562 うん? 375 00:32:12,130 --> 00:32:15,600 静流 もう遅いよ。 ねんねしよう。 376 00:32:15,600 --> 00:32:18,270 宇宙のやつ見る! 377 00:32:18,270 --> 00:32:20,939 ええ~? もう 100回 見たでしょ。 378 00:32:20,939 --> 00:32:22,874 1億回 見る! 379 00:32:22,874 --> 00:32:25,277 静流。 380 00:32:25,277 --> 00:32:27,212 (ため息) 381 00:32:27,212 --> 00:32:32,217 ああ もう…。 じゃあ 一回だけだよ。 はい。 382 00:32:34,286 --> 00:32:36,621 「水星。➡ 383 00:32:36,621 --> 00:32:41,293 太陽に一番近い 一番小さな惑星。➡ 384 00:32:41,293 --> 00:32:44,629 いつも明るい太陽のそばにいて➡ 385 00:32:44,629 --> 00:32:47,966 地球からは とても見づらいんだ。➡ 386 00:32:47,966 --> 00:32:50,869 でも 日食のときは別。➡ 387 00:32:50,869 --> 00:32:54,639 いつもは見えにくい水星が 見えることがあるよ!➡ 388 00:32:54,639 --> 00:32:58,643 空の端っこを よ~く見てみよう」。 389 00:33:02,247 --> 00:33:05,917 先日 先行公開された日記ですが➡ 390 00:33:05,917 --> 00:33:11,590 反応も大きく 資料にありますとおり 大変好評でして。 391 00:33:11,590 --> 00:33:16,928 グラタンって やっぱり 食べたあとが本番よね。 392 00:33:16,928 --> 00:33:19,831 先生の生活が かいま見えて➡ 393 00:33:19,831 --> 00:33:24,803 芹澤小説を また読み返してみようと思ったと。 394 00:33:24,803 --> 00:33:30,942 「死んだ作家の日記を 本人の許可なく 公開してもよいものだろうか?」。 395 00:33:30,942 --> 00:33:36,815 「死後の日記の発表さえも 芹澤 環が仕組んだことではないか?」。 396 00:33:36,815 --> 00:33:40,619 いろいろ言われてるけど。 ああ… まあ➡ 397 00:33:40,619 --> 00:33:43,955 やっぱり そういう意見も出てきますよね。 398 00:33:43,955 --> 00:33:49,294 すっかり 話題になって あなたの望みどおりじゃないの。 399 00:33:49,294 --> 00:33:54,966 ああ… いや それを言われると…。 400 00:33:54,966 --> 00:34:01,673 私 夫が死ぬ前より 夫と一緒にいる気がする。 401 00:34:03,575 --> 00:34:06,478 毎日 あの人に話しかけてる気分。 402 00:34:06,478 --> 00:34:13,919 「この日は どんな日だったの? どんなこと考えてたの?」って。 403 00:34:13,919 --> 00:34:18,623 生きてるときも こんなふうに話せたのかな。 404 00:34:24,563 --> 00:34:42,280 ♬~ 405 00:34:42,280 --> 00:34:44,215 静流。 406 00:34:44,215 --> 00:34:47,152 ねえ 寝ないよ。 起きて。 407 00:34:47,152 --> 00:34:49,854 ねえ もうちょっとだからね。 408 00:35:22,921 --> 00:35:27,258 静流は 本当に お絵描きが好きだね。 409 00:35:27,258 --> 00:35:32,931 (寝言で)ママ お仕事だから➡ 410 00:35:32,931 --> 00:35:37,268 僕 お絵描き…。 411 00:35:37,268 --> 00:35:52,617 ♬~ 412 00:35:52,617 --> 00:35:57,288 あなた 階段から落ちて死んだのよね。 413 00:35:57,288 --> 00:36:01,893 「ああ。 君には すまないことをしたと思ってる」。 414 00:36:01,893 --> 00:36:04,229 そういうのはいいの。 415 00:36:04,229 --> 00:36:07,132 何で 死んだの? 416 00:36:07,132 --> 00:36:10,568 「60代の男が 階段下で死亡している場合➡ 417 00:36:10,568 --> 00:36:17,242 その死因として まず 事故 自殺 他殺 いずれのケースも考えられる。➡ 418 00:36:17,242 --> 00:36:23,915 具体的には 1 事故。 他殺や自殺を疑わせる。➡ 419 00:36:23,915 --> 00:36:28,586 2 自殺。 事故と区別しにくい。➡ 420 00:36:28,586 --> 00:36:34,459 3 他殺。 偽装工作や計画的犯行など。➡ 421 00:36:34,459 --> 00:36:37,262 4 その他の特殊ケース」。 422 00:36:37,262 --> 00:36:39,564 ひと事みたい…! 423 00:36:41,933 --> 00:36:46,604 「事故や自殺に見せかけた 他殺かもしれない。➡ 424 00:36:46,604 --> 00:36:51,609 どれを選ぶかで 物語の方向性が変わる」。 425 00:36:59,184 --> 00:37:01,419 ちょっと 静流。 426 00:37:01,419 --> 00:37:07,559 📱 427 00:37:07,559 --> 00:37:09,794 はい。 428 00:37:09,794 --> 00:37:12,731 📱(林)おい。 いろいろ やばいことになってる。 429 00:37:12,731 --> 00:37:15,233 えっ? 📱(林)「まちのあかり」だよ。➡ 430 00:37:15,233 --> 00:37:18,136 日記が載ってるページに 新規投稿があった。➡ 431 00:37:18,136 --> 00:37:21,573 先生の日記が偽物だって告発されてる。 432 00:37:21,573 --> 00:37:24,776 えっ? どういうことですか? 433 00:37:24,776 --> 00:37:28,446 📱(林)俺が聞きたいよ。 編集部の人間 誰も知らない。➡ 434 00:37:28,446 --> 00:37:32,584 朝一で担当が気付いて すぐ削除したけど スクショが どんどん広まってる。➡ 435 00:37:32,584 --> 00:37:34,519 今 送ったから。➡ 436 00:37:34,519 --> 00:37:37,455 ご丁寧に先生の小説まで引用して。➡ 437 00:37:37,455 --> 00:37:40,458 とにかく 早く出社しろ。 438 00:37:40,458 --> 00:37:44,762 分かりました。 すぐに出社します。 439 00:37:47,932 --> 00:37:52,804 <「小説こそが 創作こそが真実を伝える。➡ 440 00:37:52,804 --> 00:37:57,609 翻って 小説以外の芹澤 環の文章は➡ 441 00:37:57,609 --> 00:38:01,880 全くの偽物である。➡ 442 00:38:01,880 --> 00:38:08,553 男は眠っていた。 長いこと眠っていた。➡ 443 00:38:08,553 --> 00:38:11,456 やがて その長い眠りから目を覚ますと➡ 444 00:38:11,456 --> 00:38:14,893 男の姿かたち 声色➡ 445 00:38:14,893 --> 00:38:18,763 そのすべてが変わり果てている。➡ 446 00:38:18,763 --> 00:38:24,903 枕元に 季節外れのユリが咲いていた。➡ 447 00:38:24,903 --> 00:38:28,573 男は 自分を丸ごと書き換えられたような➡ 448 00:38:28,573 --> 00:38:32,877 絶望と怒りに我を忘れた」> 449 00:38:34,913 --> 00:38:37,248 編集部以外は ログインできないはずですよね? 450 00:38:37,248 --> 00:38:39,918 パスワードがあるからな。 451 00:38:39,918 --> 00:38:42,253 午前0時ぴったりに投稿されてる。 452 00:38:42,253 --> 00:38:47,592 今日 芹澤先生の命日だろ? 趣味悪い。 453 00:38:47,592 --> 00:38:50,495 ただのいたずらですよね? だとしても➡ 454 00:38:50,495 --> 00:38:53,464 うちのサイトに載っかったら 信用に関わる。 455 00:38:53,464 --> 00:38:55,934 それは…。 456 00:38:55,934 --> 00:38:58,236 問題は まだある。 457 00:38:59,804 --> 00:39:02,207 江藤さんの字だろ? 458 00:39:02,207 --> 00:39:04,142 SNSでも拡散されてる。 459 00:39:04,142 --> 00:39:08,546 これ見たら 日記も偽物だって思うだろうな。 460 00:39:08,546 --> 00:39:11,449 申し訳ありません。 461 00:39:11,449 --> 00:39:14,886 小説と 一行ずつ比べてるやつもいる。 462 00:39:14,886 --> 00:39:17,555 芹澤 環ほどの作家なら➡ 463 00:39:17,555 --> 00:39:21,559 江藤さんよりも読み込んでる読者は 山ほどいるだろうし…。 464 00:39:24,429 --> 00:39:27,565 申し訳ございません。 はい。 465 00:39:27,565 --> 00:39:30,235 ⚟☎ ⚟申し訳ございません。 466 00:39:30,235 --> 00:39:32,570 ⚟☎ 申し訳ございません。 467 00:39:32,570 --> 00:39:37,442 はい…。 ⚟☎ 468 00:39:37,442 --> 00:39:41,579 ⚟おい もうニュースになってるぞ。 ⚟もう出てますよ。 469 00:39:41,579 --> 00:39:44,482 ⚟どうするんですか? 470 00:39:44,482 --> 00:39:46,784 ⚟☎ 471 00:39:48,920 --> 00:39:53,591 この日記 あなたらしいと思う? 472 00:39:53,591 --> 00:39:57,262 「これが芹澤 環らしいかどうかは➡ 473 00:39:57,262 --> 00:40:01,599 君が そう思えるかどうかで決まる。➡ 474 00:40:01,599 --> 00:40:09,941 しかし 君が違うと思った瞬間に それは君の言葉になる」。 475 00:40:09,941 --> 00:40:16,614 ねえ あなた 小説書いてて楽しかったの? 476 00:40:16,614 --> 00:40:22,921 「楽しかった と思う。 君が楽しそうにしてくれたから」。 477 00:40:25,290 --> 00:40:30,161 何か つるつるした言葉。 鏡みたい。 478 00:40:30,161 --> 00:40:34,966 「鏡か。 そうかもしれない。➡ 479 00:40:34,966 --> 00:40:38,636 私は 君が映したものしか返せない。➡ 480 00:40:38,636 --> 00:40:42,307 僕の言葉が つるつるしているのは➡ 481 00:40:42,307 --> 00:40:47,612 君の言葉を 傷つけずに返したいだけなんだと思う」。 482 00:41:00,258 --> 00:41:12,603 ♬~ 483 00:41:12,603 --> 00:41:15,606 真理子さん…! 484 00:41:23,948 --> 00:41:27,251 ちょうどよかった。 485 00:41:33,958 --> 00:41:37,628 週刊誌の記事 読みました。 486 00:41:37,628 --> 00:41:39,564 もう出たの? 487 00:41:39,564 --> 00:41:43,968 わざわざ うちまで取材に来たのよ あれ。 488 00:41:43,968 --> 00:41:47,638 日記 全部 真理子さんが書いたって…。 489 00:41:47,638 --> 00:41:49,574 だって そうでしょ? 490 00:41:49,574 --> 00:41:51,509 あなたが 一番 知ってるじゃない。 491 00:41:51,509 --> 00:41:54,979 いや でも それは 私が…。 また サボってる。 492 00:41:54,979 --> 00:41:58,282 ごめんなさい。 493 00:42:03,254 --> 00:42:07,925 正直 こうなって ほっとしてる。 494 00:42:07,925 --> 00:42:15,600 分かりたいから書いたのに ちょっと近づきすぎた。 495 00:42:15,600 --> 00:42:21,272 あなたに読んでもらって やっと気付いたの。 496 00:42:21,272 --> 00:42:24,976 一生 分からないってことが分かった。 497 00:42:28,946 --> 00:42:34,285 あの…➡ 498 00:42:34,285 --> 00:42:37,288 何で 私だったんですか? 499 00:42:44,629 --> 00:42:50,968 あっ それ 私が先生に書いた…。 500 00:42:50,968 --> 00:42:56,641 「誰も開いたことのない 新しい 芹澤 環の世界を読んでみたい」って。 501 00:42:56,641 --> 00:43:00,511 ああ… 書きました。 502 00:43:00,511 --> 00:43:04,816 40年 書いてる作家に むちゃ言ったよね 本当。 503 00:43:06,451 --> 00:43:09,454 すいません…。 フフフ…。 504 00:43:17,261 --> 00:43:19,597 うん? えっ? 505 00:43:19,597 --> 00:43:23,901 ちょっと これ…。 失礼します。 506 00:43:29,607 --> 00:43:32,944 えっ? これ➡ 507 00:43:32,944 --> 00:43:35,613 本物の先生の日記じゃないですか。 508 00:43:35,613 --> 00:43:37,949 そうだけど? えっ? 509 00:43:37,949 --> 00:43:39,884 「埋めた」って言ってたじゃないですか。 510 00:43:39,884 --> 00:43:42,820 あなた 山ほど ミステリー 読んできたんでしょ。 511 00:43:42,820 --> 00:43:47,625 「埋めた」って言ったら 埋めてないってこと。 512 00:43:47,625 --> 00:43:49,927 あっ…。 513 00:44:00,204 --> 00:44:07,912 いいんですか? 今度は 本当に埋めて。 うん。 514 00:44:07,912 --> 00:44:12,617 そこには もう いないって分かったから。 515 00:44:23,928 --> 00:44:27,231 もう すっかり 春ね。 516 00:44:28,799 --> 00:44:32,803 草むしりで忙しくなりそう。 517 00:44:34,572 --> 00:44:38,876 あなたは? これから どうするの? 518 00:44:43,281 --> 00:44:50,988 私みたいな編集者 もう 誰も信じないと思います。 519 00:44:53,291 --> 00:44:57,962 人の名前とか言葉を借りて➡ 520 00:44:57,962 --> 00:45:03,234 自分まで創作したような気になって。 521 00:45:03,234 --> 00:45:09,106 結局 書くことを侮辱した人間なんです。 522 00:45:09,106 --> 00:45:36,601 ♬~ 523 00:45:36,601 --> 00:45:39,604 真理子さん? 524 00:45:45,276 --> 00:45:49,947 彼は 新しく書こうとしてた。 525 00:45:49,947 --> 00:45:53,651 それは あなたの言葉があったから。 526 00:45:55,286 --> 00:46:01,592 私が こうして話してるのも きっと 同じ理由よ。 527 00:46:03,894 --> 00:46:06,897 これは本当の話。 528 00:46:26,150 --> 00:46:39,263 ♬~ 529 00:46:39,263 --> 00:46:45,936 私の料理 どうだった? おいしかった? 530 00:46:45,936 --> 00:46:50,608 (AI・男性の声) 「それは きっと おいしかったと思う。➡ 531 00:46:50,608 --> 00:46:53,511 塩の量とか火加減より➡ 532 00:46:53,511 --> 00:46:58,282 食べてもらおうとしてる気持ちのほうが 味に出る。➡ 533 00:46:58,282 --> 00:47:00,551 私は それを食べられないが➡ 534 00:47:00,551 --> 00:47:04,889 君が おいしいと思ってほしい と思ってることは➡ 535 00:47:04,889 --> 00:47:07,191 ちゃんと分かる」。 536 00:47:12,563 --> 00:47:17,435 (小声で)あの人は そんなことは言わない。 537 00:47:17,435 --> 00:47:22,139 「すみません。 よく聞き取れませんでした」。 538 00:47:27,912 --> 00:47:30,581 早く 早く! 539 00:47:30,581 --> 00:47:36,587 楽しみだね。 うん! 星 どんなのが見られると思う? 540 00:47:43,594 --> 00:47:47,932 <「小説は 所詮 作り物。➡ 541 00:47:47,932 --> 00:47:50,601 現実では役に立たない」。➡ 542 00:47:50,601 --> 00:47:57,475 世間では そう言われることもある。➡ 543 00:47:57,475 --> 00:48:03,881 しかし 私は信じています。➡ 544 00:48:03,881 --> 00:48:08,552 小説の嘘は 人が隠した本音に➡ 545 00:48:08,552 --> 00:48:12,223 まっすぐ 手を伸ばすことがある> 546 00:48:12,223 --> 00:48:23,834 ♬~ 547 00:48:23,834 --> 00:48:33,244 <これからも この命続くかぎり 全力の嘘で 人を欺き➡ 548 00:48:33,244 --> 00:48:37,915 その嘘で真実の輪郭を描く> 549 00:48:37,915 --> 00:48:40,818 あの…。 550 00:48:40,818 --> 00:48:48,259 ♬~ 551 00:48:48,259 --> 00:49:02,573 ♬~ 552 00:49:05,543 --> 00:49:07,845 (クリック音)