1 00:00:21,000 --> 00:00:27,000 ♪『交響曲第5番 「運命」』 2 00:00:34,250 --> 00:00:37,250 ~♪ 3 00:00:44,041 --> 00:00:48,041 (チャイム) 4 00:00:48,166 --> 00:00:51,250 (山本)はい 先生からは以上です じゃあ日直 号令 5 00:00:51,583 --> 00:00:53,083 (男子)起立 6 00:00:58,000 --> 00:00:59,750 (男子)礼 (生徒たち)さようなら 7 00:01:00,083 --> 00:01:01,375 はい さようならー 8 00:01:01,500 --> 00:01:02,500 気をつけて帰れよー 9 00:01:27,833 --> 00:01:29,416 (山本)買うと高いですしね 10 00:01:29,541 --> 00:01:32,375 (教頭)でもさ レンタカーでも そうじゃない? 結局… 11 00:01:32,500 --> 00:01:33,833 (野村)失礼します 12 00:01:34,458 --> 00:01:36,083 (山本)おお 野村(のむら) どうした? 13 00:01:36,208 --> 00:01:38,875 (野村)あ… 音楽室の鍵 借りたいんですけど… 14 00:01:39,166 --> 00:01:42,375 (山本)なんだ 忘れ物か? (野村)はい ペンケース忘れちゃって 15 00:01:42,500 --> 00:01:43,458 持っていっていいぞ 16 00:01:43,958 --> 00:01:45,333 ありがとうございます 17 00:01:49,083 --> 00:01:50,750 (岡田)おう どうした? 18 00:01:51,291 --> 00:01:54,166 (野村)あ… 音楽室の鍵が ないんですけど 19 00:01:54,291 --> 00:01:57,541 音楽室の鍵? ああ… 20 00:01:57,791 --> 00:02:00,000 じゃあ 黒田(くろだ)先生 まだ残っているんじゃないかな 21 00:02:00,541 --> 00:02:02,041 ああ… 22 00:02:02,583 --> 00:02:03,791 (岡田)行ってみれば? 23 00:02:04,041 --> 00:02:04,875 はい 24 00:02:12,833 --> 00:02:13,666 (野村)さようなら 25 00:02:13,791 --> 00:02:15,375 (校長)はい さようなら 26 00:02:17,583 --> 00:02:20,583 (ピアノの演奏) 27 00:02:17,583 --> 00:02:20,583 ♪『ピアノ・ソナタ第8番 「悲愴」』 28 00:02:47,333 --> 00:02:48,791 (野村)失礼します 29 00:02:47,333 --> 00:02:48,791 ~♪ 30 00:02:49,875 --> 00:02:51,208 (黒田)おお どうした? 31 00:02:51,875 --> 00:02:54,291 (野村)すみません ちょっと忘れ物を… 32 00:02:54,625 --> 00:02:57,041 (黒田)あっ 忘れ物? (野村)はい 33 00:02:57,333 --> 00:02:58,458 (黒田)そっか 34 00:02:59,041 --> 00:03:01,750 先生のピアノ 聴きに来たのかと思ったよ 35 00:03:02,041 --> 00:03:05,166 (野村)あ いや… 違います 36 00:03:05,916 --> 00:03:08,291 (黒田)そんな はっきり否定すんなよ 37 00:03:09,875 --> 00:03:11,083 (野村)すみません… 38 00:03:14,041 --> 00:03:17,041 (再び演奏を始める) 39 00:03:17,958 --> 00:03:19,000 (黒田)あった? 40 00:03:19,125 --> 00:03:19,958 ありました 41 00:03:20,916 --> 00:03:22,583 (演奏をやめる) (黒田)そっか… 42 00:03:24,375 --> 00:03:25,666 ピアノ聴いてく? 43 00:03:25,791 --> 00:03:26,625 (野村)え… 44 00:03:30,416 --> 00:03:31,875 あー 45 00:03:33,416 --> 00:03:34,500 じゃあ… 46 00:03:36,916 --> 00:03:38,666 (黒田)いいよ 無理しなくて 47 00:03:40,708 --> 00:03:41,750 コーヒー飲む? 48 00:03:42,333 --> 00:03:43,500 コーヒー? 49 00:03:43,875 --> 00:03:46,458 (黒田)うん 先生 飲むけど いらない? 50 00:03:48,833 --> 00:03:51,250 あ… いただきます 51 00:03:53,041 --> 00:03:54,333 (黒田)よし 52 00:03:55,083 --> 00:03:56,791 じゃあ いれますか… 53 00:03:57,041 --> 00:03:58,250 (野村)いいんですか? 54 00:03:58,458 --> 00:04:00,791 (黒田)いいよ そのかわり… 55 00:04:01,458 --> 00:04:02,666 内緒(ないしょ)な 56 00:04:04,291 --> 00:04:05,416 (野村)はい 57 00:04:08,375 --> 00:04:10,791 (黒田)ちなみに さっきの曲 誰の曲か知ってる? 58 00:04:11,666 --> 00:04:12,958 あれは… 59 00:04:14,625 --> 00:04:15,916 ベートーヴェン? 60 00:04:16,125 --> 00:04:19,166 (黒田)そう よく知ってんじゃん 61 00:04:23,250 --> 00:04:24,583 (黒田)知ってる? 62 00:04:24,875 --> 00:04:27,500 ベートーヴェンも コーヒーが好きでさ 63 00:04:27,833 --> 00:04:30,958 毎回60粒 数えて いれてたんだって 64 00:04:31,416 --> 00:04:32,625 (野村)へえ~ 65 00:04:33,125 --> 00:04:35,083 それも60粒ですか? 66 00:04:35,708 --> 00:04:37,333 あっ これは適当 67 00:04:37,958 --> 00:04:40,166 ああ そうなんですね 68 00:04:42,500 --> 00:04:44,916 (黒田)はい (野村)いただきます 69 00:04:50,416 --> 00:04:52,375 これがあることも 内緒な 70 00:04:53,666 --> 00:04:54,708 (野村)はい 71 00:04:56,916 --> 00:04:57,916 (黒田)知ってる? 72 00:04:59,041 --> 00:05:01,458 CDの録音時間ってさ 73 00:05:01,583 --> 00:05:05,750 ベートーヴェンの『第九』の 74分が基準になってんだよ 74 00:05:06,083 --> 00:05:08,208 (野村)ああ それは知ってます 75 00:05:09,000 --> 00:05:10,166 (黒田)あっ そう 76 00:05:10,833 --> 00:05:12,041 じゃあ これは? 77 00:05:12,333 --> 00:05:13,541 ピアノの鍵盤って 78 00:05:13,666 --> 00:05:16,833 ベートーヴェンの意見を取り入れて 耐久性が上がったんだよ 79 00:05:16,958 --> 00:05:19,291 へえ~ それは知らなかったです 80 00:05:19,583 --> 00:05:20,583 フフッ 81 00:05:21,291 --> 00:05:22,750 そっか そっか 82 00:05:31,541 --> 00:05:33,083 (黒田)野村の中でさ 83 00:05:33,708 --> 00:05:36,041 ベートーヴェンって どんなイメージ? 84 00:05:36,500 --> 00:05:37,791 (野村)イメージ? 85 00:05:40,541 --> 00:05:42,125 天才作曲家 86 00:05:42,500 --> 00:05:45,458 (黒田)まあ 確かに天才だよな 87 00:05:46,291 --> 00:05:47,291 (野村)あと… 88 00:05:48,041 --> 00:05:51,708 小学校の時に 伝記を読んだんですけど 89 00:05:52,625 --> 00:05:54,125 (黒田)ベートーヴェンの? (野村)はい 90 00:05:54,500 --> 00:05:58,791 なんか 『運命』の “ジャジャジャジャーン”は 91 00:05:59,041 --> 00:06:01,791 “運命が扉をたたく音だ” って言ったとか… 92 00:06:01,916 --> 00:06:04,791 あー その話ね 有名だよな 93 00:06:04,916 --> 00:06:05,750 (野村)あと… 94 00:06:06,333 --> 00:06:07,791 耳が聞こえなかった 95 00:06:07,916 --> 00:06:09,541 (黒田)そうそう そうそう 96 00:06:10,833 --> 00:06:12,375 (野村)まあ だから 97 00:06:12,500 --> 00:06:16,333 そういうのを乗り越えて 音楽を作った… 98 00:06:17,041 --> 00:06:18,333 すごい人? 99 00:06:18,833 --> 00:06:19,833 フフッ 100 00:06:21,166 --> 00:06:24,416 まあ それが 一般的なイメージだよなぁ 101 00:06:24,833 --> 00:06:26,708 (野村)ほんとは違うんですか? 102 00:06:27,041 --> 00:06:30,875 (黒田)いや もちろん すごい人には違いないんだけど 103 00:06:31,333 --> 00:06:35,541 ベートーヴェンが死んでから 150年くらい経(た)った頃にさ 104 00:06:36,250 --> 00:06:40,125 いろいろと嘘(うそ)が発覚して 論争になったんだよ 105 00:06:40,500 --> 00:06:41,791 (野村)へえ~ 106 00:06:42,208 --> 00:06:43,291 嘘? 107 00:06:44,416 --> 00:06:49,000 (黒田)ベートーヴェンの秘書に シンドラーっていう男がいてさ 108 00:06:49,541 --> 00:06:50,708 シンドラー? 109 00:06:50,833 --> 00:06:51,666 (黒田)そう 110 00:06:52,041 --> 00:06:55,125 それが とんでもないヤツでさ… 111 00:06:57,666 --> 00:06:58,666 (針を落とす音) 112 00:06:59,708 --> 00:07:03,708 ♪『交響曲第6番 「田園」』 113 00:07:22,791 --> 00:07:25,666 (シンドラーの声)私の名は アントン・フェリックス・シンドラー 114 00:07:27,250 --> 00:07:29,125 ろくな学歴もなければ 115 00:07:29,250 --> 00:07:30,583 職歴もない 116 00:07:30,916 --> 00:07:32,666 当然 金もない 117 00:07:33,041 --> 00:07:35,375 7年前に大学を中退し 118 00:07:35,500 --> 00:07:39,458 今は とある劇場のオーケストラで ヴァイオリンを弾いている 119 00:07:40,541 --> 00:07:44,083 片田舎で教師の家の 長男坊として生まれた私は 120 00:07:44,208 --> 00:07:45,500 自分で言うのもなんだが 121 00:07:45,875 --> 00:07:48,666 幼い頃から かなりの秀才だった 122 00:07:49,458 --> 00:07:52,000 父からヴァイオリンの手ほどきを受け 123 00:07:52,250 --> 00:07:54,875 10歳で合唱団入りした私は 124 00:07:55,166 --> 00:07:57,708 そこで音楽に夢中になった 125 00:07:57,833 --> 00:08:00,166 ~♪ 126 00:08:01,291 --> 00:08:05,916 とはいえ 当時 血筋もコネもない 片田舎の少年にとって 127 00:08:06,041 --> 00:08:09,291 音楽で食うのは 夢のまた夢 128 00:08:10,458 --> 00:08:11,833 結局 私は 129 00:08:11,958 --> 00:08:15,291 いかにも秀才にふさわしい キャリア官僚養成コースである― 130 00:08:15,416 --> 00:08:18,166 ウィーン大学の法学部に進学 131 00:08:19,708 --> 00:08:21,791 しかし 入学してまもなく 132 00:08:21,916 --> 00:08:25,833 ナポレオン戦争の影響で 愛国のカルチャーに染まった私は 133 00:08:25,958 --> 00:08:31,458 当時 学生たちの間で流行していた 中世ドイツ風ファッションに身を包み 134 00:08:32,041 --> 00:08:37,666 降って湧いたような愛国心を胸に 学生運動にも積極的に参加 135 00:08:39,125 --> 00:08:40,875 しかし その結果 136 00:08:41,541 --> 00:08:43,500 逮捕されてしまった 137 00:08:45,416 --> 00:08:47,916 我に返った時は手遅れで 138 00:08:48,041 --> 00:08:54,583 私は親の期待も 優等生の肩書も キャリアの夢も失ってしまった 139 00:08:56,250 --> 00:09:00,750 そんな私に残されていたのは 音楽の道だけだった 140 00:09:01,916 --> 00:09:05,500 幸い フランス革命後の 市民社会の台頭とともに 141 00:09:05,625 --> 00:09:10,500 ここ数年で音楽家は “食える”職業になりつつあった 142 00:09:13,125 --> 00:09:14,666 そんなある日 143 00:09:15,041 --> 00:09:19,625 私が第1ヴァイオリンの一員として所属する 劇場のリニューアルパーティーに 144 00:09:19,750 --> 00:09:23,958 スペシャルゲストとして ある人物が訪れた 145 00:09:30,500 --> 00:09:34,208 私が少年時代から憧れていた 音楽家である 146 00:09:36,000 --> 00:09:38,041 彼の野心的な音楽は 147 00:09:38,166 --> 00:09:41,500 多感な時期の私に 大きな影響を与えた 148 00:09:41,625 --> 00:09:43,416 ♪『ヴァイオリン・ソナタ第9番 「クロイツェル」』 149 00:09:43,541 --> 00:09:48,125 私は彼の作品をすべて聴き 自分でも演奏した 150 00:09:49,041 --> 00:09:51,083 そんな憧れの人が今 151 00:09:51,666 --> 00:09:53,125 目の前にいる 152 00:09:53,875 --> 00:09:56,000 しかし 最初の印象は… 153 00:09:53,875 --> 00:09:56,000 ~♪ 154 00:09:56,000 --> 00:09:56,708 ~♪ 155 00:09:56,833 --> 00:09:59,458 あれ ベートーヴェンか? 156 00:10:00,916 --> 00:10:03,708 というのも 私の中のベートーヴェン像は… 157 00:10:04,708 --> 00:10:08,791 長身で おしゃれで いかにも才能がありそうな ダンディな男性 158 00:10:08,958 --> 00:10:12,375 しかし 視線の先にいる ベートーヴェンとされている男は… 159 00:10:13,125 --> 00:10:15,083 ちっちゃくて小汚い中年男性 160 00:10:16,541 --> 00:10:20,875 しかし 私はそのギャップに 逆に感動した 161 00:10:21,916 --> 00:10:23,875 あんな小汚いおじさんが 162 00:10:24,000 --> 00:10:27,250 あの素晴(すば)らしい名曲の数々を 生み出したなんて… 163 00:10:28,333 --> 00:10:30,833 少しでもいいから 会話してみたい 164 00:10:31,958 --> 00:10:34,541 挨拶(あいさつ)くらいなら 大丈夫でしょ 165 00:10:34,958 --> 00:10:36,625 (ぶつかる音) (シンドラー)ごめんなさい 166 00:10:44,791 --> 00:10:45,750 (シンドラーの声)これが… 167 00:10:46,083 --> 00:10:50,666 あの『悲愴ソナタ』や『田園交響曲』を 作った天才作曲家 168 00:10:51,458 --> 00:10:54,416 近くで見ると より小汚い 169 00:10:54,541 --> 00:10:56,791 っていうか 汚い 170 00:10:57,083 --> 00:10:59,416 なんかポケット パンパンだし 171 00:11:01,500 --> 00:11:04,000 あっ すみません あの… ベートーヴェンさんですよね? 172 00:11:04,125 --> 00:11:05,291 僕 学生の頃から大ファンで… 173 00:11:05,416 --> 00:11:06,916 (ベートーヴェン)ところで 何が良かったの? 174 00:11:07,041 --> 00:11:08,125 (話し続ける声) 175 00:11:08,250 --> 00:11:09,291 (シンドラーの声)ああ… 176 00:11:10,083 --> 00:11:12,708 俺みたいな 見ず知らずの若造なんて 177 00:11:12,833 --> 00:11:14,958 目も合わせてもらえないんだ 178 00:11:16,708 --> 00:11:19,250 なんだよ こいつ 大物ぶりやがって 179 00:11:19,541 --> 00:11:21,583 最近 落ち目のくせに 180 00:11:21,750 --> 00:11:24,541 お前の曲なんか 二度と聴かねえよ クソジジイ 181 00:11:24,666 --> 00:11:27,583 っていうか お前の噂(うわさ) 言い触らしてやっからな 182 00:11:27,833 --> 00:11:29,791 (ベートーヴェン)ちなみにさ (スタッフ)あっ ちょっと… 183 00:11:30,166 --> 00:11:31,750 (スタッフ)マエストロ… (ベートーヴェン)え? 184 00:11:33,125 --> 00:11:34,208 何? 185 00:11:35,791 --> 00:11:38,166 ちょっとさ これに書いてもらえる? 186 00:11:39,916 --> 00:11:41,541 (シンドラーの声) 私は やっと理解した 187 00:11:42,916 --> 00:11:47,291 そういえば 耳を病んでるっていう噂は 聞いたことはあったけど 188 00:11:47,916 --> 00:11:50,000 あれって本当だったんだ 189 00:11:50,333 --> 00:11:53,083 無視したんじゃなくて 単純に聞こえなかったんだ 190 00:12:03,541 --> 00:12:04,375 (ベートーヴェン)へえ~ 191 00:12:05,000 --> 00:12:06,083 ありがとう 192 00:12:09,000 --> 00:12:10,375 (シンドラー)ハハッ 193 00:12:10,958 --> 00:12:13,125 (シンドラーの声) 憧れのベートーヴェンとの握手 194 00:12:13,250 --> 00:12:15,333 少しニュルッとしていたけど 195 00:12:15,791 --> 00:12:17,208 嬉(うれ)しかった 196 00:12:20,625 --> 00:12:24,666 この瞬間 私は魔法にかかったかのように 197 00:12:24,916 --> 00:12:26,791 彼の虜(とりこ)になった 198 00:12:27,208 --> 00:12:30,125 君にその気があれば うちで雇ってあげるけど? 199 00:12:31,458 --> 00:12:32,291 え? 200 00:12:32,416 --> 00:12:34,833 今 ちょうど秘書を探してて 201 00:12:35,625 --> 00:12:36,666 秘書? 202 00:12:36,833 --> 00:12:37,791 えっ? 203 00:12:38,375 --> 00:12:39,375 僕がですか? 204 00:12:44,125 --> 00:12:46,458 確かにそうだな ハハハハッ! 205 00:12:46,583 --> 00:12:48,583 (3人の笑い声) 206 00:12:57,000 --> 00:12:58,458 (シンドラーの声)こうして 私は 207 00:12:58,750 --> 00:13:02,833 翌月からベートーヴェンの 正式な秘書になった 208 00:13:08,875 --> 00:13:13,041 彼の秘書として仕え始めて 数週間が経った 209 00:13:13,708 --> 00:13:16,041 天才は えてして変人で 210 00:13:16,166 --> 00:13:19,375 身の回りのことが 何もできないというが… 211 00:13:34,958 --> 00:13:37,375 捨てないよ それ 気に入ってるから 212 00:13:37,500 --> 00:13:38,750 そこ 置いといて 213 00:13:38,875 --> 00:13:40,833 (シンドラーの声) 彼は度を越えていた 214 00:13:41,083 --> 00:13:42,125 それどころか… 215 00:13:42,458 --> 00:13:43,458 (家政婦の悲鳴) 216 00:13:43,583 --> 00:13:47,166 (ベートーヴェン)だから 肉の脂身は嫌いだって言ってんだろうが! 217 00:13:47,291 --> 00:13:49,125 (シンドラーの声) とんでもない かんしゃく持ちで 218 00:13:49,250 --> 00:13:51,125 周りも手を焼いていた 219 00:13:51,375 --> 00:13:52,583 だからこそ 220 00:13:52,708 --> 00:13:56,458 “彼を支えられるのは自分しかいない” という使命感が芽生え 221 00:13:56,583 --> 00:14:00,000 私は 彼の身の回りの すべての世話をした 222 00:14:01,666 --> 00:14:04,541 出版社との交渉の手紙の 代筆から 223 00:14:07,833 --> 00:14:10,583 彼の甥(おい) カールの相談や… 224 00:14:10,833 --> 00:14:13,583 (カール)マジで束縛が きつすぎるんだって 225 00:14:13,708 --> 00:14:16,208 (シンドラー)それだけ心配なんだよ (カール)いやいや 226 00:14:17,166 --> 00:14:20,583 (シンドラーの声)物件探しまで すべてのことをやった 227 00:14:26,041 --> 00:14:26,875 (ベートーヴェン)へえ~ 228 00:14:27,000 --> 00:14:29,625 温泉あるんだ? いいじゃん 229 00:14:33,875 --> 00:14:38,250 最高じゃん お前 優秀だなぁ ハハハハッ! 230 00:14:38,375 --> 00:14:41,958 (シンドラーの声)彼に必要とされることが とにかく嬉しかった 231 00:14:42,666 --> 00:14:43,833 そして… 232 00:14:48,708 --> 00:14:50,375 この年の初夏 233 00:14:51,250 --> 00:14:55,416 私はベートーヴェンとふたりで ウィーン郊外に引っ越した 234 00:14:56,083 --> 00:14:57,666 (ノックの音) 235 00:14:58,041 --> 00:15:01,250 (シンドラーの声)新居に移ってからは 門番の役目も買って出た 236 00:15:01,375 --> 00:15:02,416 (シンドラー)はい 237 00:15:04,291 --> 00:15:06,208 アーダム・リストと申します 238 00:15:06,958 --> 00:15:10,041 アーダム・リストさん… どういうご用件ですか? 239 00:15:10,166 --> 00:15:13,541 (アーダム)いやあ 実は息子が ピアニストを目指していまして… 240 00:15:13,666 --> 00:15:15,166 ほら 自己紹介 241 00:15:15,500 --> 00:15:17,083 フランツ・リストです 242 00:15:17,750 --> 00:15:18,916 才能ある子なんで 243 00:15:19,041 --> 00:15:22,833 ぜひ一度 先生に演奏を 聴いていただければと思いまして 244 00:15:23,541 --> 00:15:25,000 アハハハ… 245 00:15:25,125 --> 00:15:28,916 今日お越しになる ご連絡って いただいてましたっけ? 246 00:15:29,541 --> 00:15:31,916 いや… 連絡は 差し上げてないですね 247 00:15:32,041 --> 00:15:34,750 あー 申し訳ありません 248 00:15:34,875 --> 00:15:36,625 事前に ご連絡いただかないと 249 00:15:36,750 --> 00:15:38,750 お通しするわけには いかないんですよね 250 00:15:38,875 --> 00:15:41,375 あっ そうですか でも一度 聴いていただいて… 251 00:15:41,500 --> 00:15:42,458 あっ! 252 00:15:42,583 --> 00:15:43,625 (鍵を閉める音) 253 00:16:01,125 --> 00:16:02,500 (ベートーヴェン)今の誰? 254 00:16:13,458 --> 00:16:14,750 (ベートーヴェン) なんで帰しちゃったの? 255 00:16:26,083 --> 00:16:27,416 あっ そう… 256 00:16:31,708 --> 00:16:33,625 (ベートーヴェン) ふたりは いつも白ワインなのか? 257 00:16:33,750 --> 00:16:36,750 (チェルニー)ああ 私はビールかな (シューベルト)そうですよね 258 00:16:40,875 --> 00:16:44,375 (ベートーヴェン)へえ~ ビール派なんだ ハハハ… 259 00:16:44,500 --> 00:16:46,375 (チェルニー)君は? (シューベルト)私は… 260 00:16:47,416 --> 00:16:50,583 (ベートーヴェン)えー! もうちょっと いいじゃん 261 00:16:50,916 --> 00:16:52,833 なんだよ 262 00:16:53,500 --> 00:16:54,750 じゃあ また 263 00:16:54,875 --> 00:16:57,708 あっ はい また 264 00:17:01,291 --> 00:17:03,541 あの腰巾着は何? 265 00:17:03,791 --> 00:17:06,125 なんか最近 秘書になった人みたい 266 00:17:06,250 --> 00:17:10,791 へえ~ なんか 融通 利かなそうなヤツですね 267 00:17:10,916 --> 00:17:13,500 うん あんまり評判は良くないね 268 00:17:13,625 --> 00:17:14,916 やっぱり 269 00:17:15,125 --> 00:17:17,250 なんか やな感じでしたもんね 270 00:17:17,375 --> 00:17:20,625 (チェルニー)先生の狂信者だからね (シューベルト)ああ 271 00:17:21,708 --> 00:17:25,958 (シンドラー)いやあ マジで 俺がいないと 何もできないんだよね 272 00:17:26,083 --> 00:17:27,500 (友人)そうなんだ 273 00:17:27,875 --> 00:17:29,125 っていうか すごいな お前 274 00:17:29,250 --> 00:17:30,250 (シンドラー)何が? 275 00:17:30,375 --> 00:17:34,000 ベートーヴェンのためなら 何でも やりそうな目 してるもん 276 00:17:34,125 --> 00:17:37,333 まあ… 秘書だから できることは全部やるよ 277 00:17:37,583 --> 00:17:39,625 さすがに 曲は作れないけど 278 00:17:39,750 --> 00:17:42,291 なんか 彼を悪く言うヤツが いようもんなら 279 00:17:42,416 --> 00:17:44,416 ナイフで刺しそうな勢いだもんな 280 00:17:44,541 --> 00:17:48,291 (シンドラー)いやいやいや さすがに そこまではしないよ 281 00:17:48,416 --> 00:17:50,250 一応 住所は調べるけど 282 00:17:50,833 --> 00:17:51,666 怖(こわ)っ 283 00:17:52,166 --> 00:17:53,083 えっ? 284 00:17:56,708 --> 00:18:00,000 なあ お前 最近 大丈夫か? 285 00:18:00,875 --> 00:18:03,708 なんか周りのスタッフから 良くない噂 聞くんだけど 286 00:18:03,833 --> 00:18:04,708 なあ ヨハン? 287 00:18:05,291 --> 00:18:06,333 (ため息) 288 00:18:11,208 --> 00:18:12,041 (ベートーヴェン)いやあ 289 00:18:12,166 --> 00:18:14,291 なかなか 家に入れてくれないとか 290 00:18:14,416 --> 00:18:19,041 話しかけようとしても 隣の男が 近寄るなオーラ出してくるとか… 291 00:18:19,166 --> 00:18:21,208 ちょっと やりすぎなんじゃねえか? 292 00:18:32,541 --> 00:18:35,000 いやいや お前のせいで 293 00:18:35,125 --> 00:18:38,083 俺まで めんどくさいヤツに 見られかねないんだよ 294 00:18:51,250 --> 00:18:53,250 だから それが やりすぎだっつってんだよ! 295 00:18:53,458 --> 00:18:54,458 フフ~ッ! 296 00:18:59,541 --> 00:19:02,250 いらねえよ ボディガードなんて 何から守るんだよ 297 00:19:03,708 --> 00:19:04,833 あっ! 298 00:19:18,291 --> 00:19:20,375 (ベートーヴェン)はあ? (シンドラー)ハハハッ… 299 00:19:24,666 --> 00:19:25,833 ハハハハッ… 300 00:19:30,250 --> 00:19:31,708 (ベートーヴェン)おい パパゲーノ 301 00:19:33,541 --> 00:19:35,041 パパゲーノ! 302 00:19:35,666 --> 00:19:37,208 お前のことだよ 303 00:19:44,208 --> 00:19:45,125 他に誰が いんだよ 304 00:19:45,416 --> 00:19:46,416 フフ~ッ! 305 00:19:47,750 --> 00:19:50,500 (ベートーヴェン)どうも こいつとは かみ合わないんだよなぁ 306 00:19:55,875 --> 00:19:57,416 (ベートーヴェン)そういうとこだよ 307 00:19:57,541 --> 00:19:59,875 空気が読めないっていうか 308 00:20:00,000 --> 00:20:02,541 リアクションが 的外れなんだよ お前は 309 00:20:03,458 --> 00:20:05,000 いいよ 言い訳は 310 00:20:05,416 --> 00:20:06,458 ほんと こいつのせいで 311 00:20:06,583 --> 00:20:08,875 俺まで めんどくさいヤツだと 思われてんだよ 312 00:20:09,333 --> 00:20:10,791 わかってんのか? パパゲーノ 313 00:20:10,916 --> 00:20:12,208 ウフフ~ッ! 314 00:20:12,333 --> 00:20:13,916 パパゲーノ… 315 00:20:14,041 --> 00:20:16,666 (シンドラーとヨハンの笑い声) 316 00:20:16,791 --> 00:20:19,041 (野村)パパゲーノって 何ですか? 317 00:20:19,791 --> 00:20:21,125 パパゲーノは 318 00:20:21,250 --> 00:20:24,500 モーツァルトの 『魔笛』っていうオペラに出てくる― 319 00:20:24,625 --> 00:20:27,500 モテない鳥(とり)刺(さ)し男の名前 320 00:20:28,625 --> 00:20:30,875 (野村)鳥刺し男? (黒田)フフフ… 321 00:20:31,791 --> 00:20:33,958 なんで そんなあだ名なんですか? 322 00:20:34,458 --> 00:20:36,208 劇中で パパゲーノが 323 00:20:36,333 --> 00:20:38,583 “誰とも口を利いてはいけない” っていう試練を 324 00:20:38,708 --> 00:20:40,541 課せられるシーンがあるんだよ 325 00:20:40,916 --> 00:20:45,750 まあ 要は“お前は無駄口をたたくな” という意味のあだ名なんだよ 326 00:20:45,875 --> 00:20:48,583 へえ~ なんか悪意ありますね 327 00:20:48,708 --> 00:20:50,166 悪意しかないよ 328 00:20:50,916 --> 00:20:54,625 あっ それでシンドラーは 傷ついたんですか? 329 00:20:55,416 --> 00:20:59,375 まあ 普通は傷つくよな 330 00:21:02,208 --> 00:21:03,916 (ベートーヴェン)パパゲーノ! 331 00:21:05,333 --> 00:21:06,958 パパゲーノ! 332 00:21:07,750 --> 00:21:09,041 おーい! 333 00:21:10,250 --> 00:21:12,291 いないのかよー 334 00:21:17,666 --> 00:21:20,125 (シンドラーの声)“出版社に 打ち合わせに行ってまいります” 335 00:21:20,750 --> 00:21:22,625 “夕方には戻ります” 336 00:21:24,416 --> 00:21:26,750 なに 気に入ってんだよ! 337 00:21:26,958 --> 00:21:27,791 (舌打ち) 338 00:21:31,333 --> 00:21:32,708 (ホルツ) シュパンツィヒ先生 339 00:21:32,875 --> 00:21:35,916 おお 奇遇だね 340 00:21:41,833 --> 00:21:42,875 紹介するよ 341 00:21:44,375 --> 00:21:46,208 弟子のホルツだ 342 00:21:47,541 --> 00:21:48,750 (ベートーヴェン)こんにちは 343 00:21:48,875 --> 00:21:49,833 (ホルツ)はじめまして 344 00:21:50,041 --> 00:21:51,375 (ヨハン)どうも はじめまして 345 00:21:51,625 --> 00:21:53,750 (カール)はじめまして (ホルツ)はじめまして 346 00:21:55,291 --> 00:21:57,208 (シュパンツィヒ)あっ 座る? ここ (ホルツ)いいんですか? 347 00:21:57,333 --> 00:21:59,791 (シュパンツィヒ)いいよ いいよ ちょっと イス持ってきて 348 00:22:00,083 --> 00:22:02,166 すごい偶然じゃない? びっくりしちゃった 349 00:22:04,166 --> 00:22:05,333 (ベートーヴェン) 何 言ってんだ お前 350 00:22:13,375 --> 00:22:15,041 すっこんでろ! パパゲーノ 351 00:22:15,166 --> 00:22:18,416 (シンドラーの笑い声) 352 00:22:20,500 --> 00:22:21,583 悪いね 353 00:22:21,708 --> 00:22:23,083 あいつ ちょっと おかしいんだわ 354 00:22:25,416 --> 00:22:27,125 気にしないで 座って 355 00:22:27,250 --> 00:22:28,458 失礼します 356 00:22:31,333 --> 00:22:35,791 (シンドラーの声)私がベートーヴェンの 秘書になって 2年の月日が経った頃 357 00:22:37,666 --> 00:22:42,250 私たちは『交響曲第9番』の 初演の準備に入った 358 00:22:50,500 --> 00:22:51,333 (ベートーヴェン)おう 359 00:22:59,208 --> 00:23:01,708 (シンドラーの声) 私は 使命感に燃えていた 360 00:23:02,125 --> 00:23:06,000 全盛期を過ぎ 過去の人になりつつある彼にとって 361 00:23:06,125 --> 00:23:08,375 起死回生の最高傑作 362 00:23:08,583 --> 00:23:11,583 『第九』初演を なんとしても成功させるため 363 00:23:11,875 --> 00:23:15,291 私は 演奏会の準備に奔走した 364 00:23:23,125 --> 00:23:25,375 やっぱ俺 あいつと合わねえわ 365 00:23:30,083 --> 00:23:30,916 (ベートーヴェン)うん 366 00:23:31,791 --> 00:23:36,041 なんつーか 冗談が通じないっていうの? 367 00:23:36,833 --> 00:23:39,166 融通が利かねえっていうの? 368 00:23:40,000 --> 00:23:42,125 あいつ 空気読めないじゃん 369 00:23:46,916 --> 00:23:47,958 (ベートーヴェン)あの… 370 00:23:48,083 --> 00:23:51,333 ほらー 誰だっけ 昔 うちにいた… 371 00:23:52,041 --> 00:23:55,708 リース! あいつ そういうの うまかったじゃん 372 00:23:59,500 --> 00:24:01,291 (ベートーヴェン)だよな~ 373 00:24:01,416 --> 00:24:03,625 それに比べて あいつは… 374 00:24:03,750 --> 00:24:04,666 なんだ? 375 00:24:05,041 --> 00:24:07,083 かわいげが ないんだよな 376 00:24:26,000 --> 00:24:27,416 (シンドラー)指揮ですか? 377 00:24:27,541 --> 00:24:28,500 (デュポール)うん 378 00:24:28,625 --> 00:24:31,375 ベートーヴェン本人が 指揮をするってなれば 379 00:24:31,625 --> 00:24:34,708 絶対 世間も注目すると 思うんだよね 380 00:24:34,833 --> 00:24:37,458 (シンドラー)いやあ… 今の耳の状態で指揮をするのは 381 00:24:37,583 --> 00:24:39,750 さすがに厳しいと思いますけど… 382 00:24:39,875 --> 00:24:41,625 大丈夫でしょ 383 00:24:41,750 --> 00:24:44,333 みんな 耳のことは知ってるうえで 見に来るんだし 384 00:24:44,916 --> 00:24:47,458 ウムラウフが後ろで 指揮のサポートすれば 385 00:24:47,791 --> 00:24:49,166 問題ないでしょ 386 00:24:49,666 --> 00:24:53,375 (シンドラーの声)いくら 彼の耳の病を 誰もが知っている状況とはいえ 387 00:24:53,500 --> 00:24:56,208 ぶざまな指揮を 舞台上で さらすなんて 388 00:24:56,708 --> 00:24:58,958 イメージダウンも いいところだ 389 00:25:01,875 --> 00:25:04,541 とりあえず いったん 持ち帰った私は 390 00:25:05,291 --> 00:25:07,166 彼に報告した 391 00:25:07,541 --> 00:25:10,000 指揮? 俺が? 392 00:25:13,125 --> 00:25:15,250 (シンドラーの声) 393 00:25:19,041 --> 00:25:20,166 いや… 394 00:25:21,958 --> 00:25:24,083 むしろ チャンスかもしれない 395 00:25:24,208 --> 00:25:27,708 世間からすれば 今のベートーヴェンは生ける化石 396 00:25:28,000 --> 00:25:30,500 そんな化石が舞台に立つと知れば 397 00:25:30,625 --> 00:25:33,250 みんな 物見遊山(ものみゆさん)にやってくるはず 398 00:25:33,750 --> 00:25:34,791 (歓声) 399 00:25:34,916 --> 00:25:35,791 (シンドラーの声)そして 彼らは 400 00:25:35,916 --> 00:25:40,583 激情のあまり暴走する 哀れな化石の姿に 感動の涙を流し 401 00:25:40,708 --> 00:25:42,166 ブラヴォーの大合唱 402 00:25:44,458 --> 00:25:49,125 もはや 自分はベートーヴェンに ただ憧れている立場ではない 403 00:25:50,083 --> 00:25:52,541 憧れをコントロールする側の人間 404 00:25:55,000 --> 00:25:58,291 汚い不精ひげを生やし 風呂も ろくに入らないくせに 405 00:25:58,416 --> 00:26:01,333 食べ物の新鮮さにかけては 神経をとがらせ 406 00:26:01,458 --> 00:26:04,416 気に入らなければ 家政婦に当たり散らす この老いぼれを 407 00:26:04,541 --> 00:26:09,083 悲劇の巨匠として舞台に立たせ 諸人(もろびと)の心をつかむ 408 00:26:09,541 --> 00:26:11,666 それこそが私の仕事 409 00:26:14,000 --> 00:26:16,541 本人も意外と まんざらでもない 410 00:26:16,666 --> 00:26:21,916 彼自身 耳の病を乗り越え 表舞台に立つという夢を捨て切れていない 411 00:26:22,666 --> 00:26:25,041 その意欲を利用しない手はない 412 00:26:39,041 --> 00:26:42,500 (シンドラーの声) そして 迎えた本番当日 413 00:26:43,791 --> 00:26:45,583 ケルントナートーア劇場は 414 00:26:45,708 --> 00:26:48,875 ウィーンにおける 最も有名なホールのひとつだった 415 00:26:49,583 --> 00:26:54,208 ポスターの効果もあってか 2,400席分のチケットは売り切れ 416 00:26:54,333 --> 00:26:58,083 劇場の入り口は 多くの客で ごった返した 417 00:27:05,500 --> 00:27:08,250 (ベートーヴェン)みんな 俺の指揮なんか見たいのかね 418 00:27:10,083 --> 00:27:13,708 どうせ 俺が失敗するところを 見に来てるヤツらばっかだろ 419 00:27:14,708 --> 00:27:17,583 どいつもこいつも バカにしやがって 420 00:27:35,583 --> 00:27:36,916 (ベートーヴェンのため息) 421 00:27:41,541 --> 00:27:42,750 (シンドラーの声)そして… 422 00:27:44,916 --> 00:27:46,625 いよいよ本番 423 00:27:52,625 --> 00:27:57,833 (拍手) 424 00:27:58,416 --> 00:28:00,291 (シンドラーの声) いざ ステージに出ると 425 00:28:00,833 --> 00:28:03,750 あれほど グダグダ悩んでいたのが 嘘のように 426 00:28:04,583 --> 00:28:07,458 彼の足取りには迷いがなかった 427 00:28:12,166 --> 00:28:17,500 正直 演奏においては 何の役にも立たない ただのお飾り 428 00:28:18,083 --> 00:28:21,916 だが 今はその役目に 徹してもらわなければならない 429 00:28:44,375 --> 00:28:47,375 ♪『交響曲第9番 「合唱付き」』 430 00:29:40,750 --> 00:29:46,375 (シンドラーの声)この交響曲は すべての人を救うに違いない 431 00:29:56,416 --> 00:30:00,791 (曲がクライマックスを迎える) 432 00:30:23,666 --> 00:30:26,666 ~♪ 433 00:30:32,291 --> 00:30:35,291 (観客たちの拍手と大歓声) 434 00:30:39,666 --> 00:30:42,666 (鳴りやまない拍手と歓声) 435 00:30:46,666 --> 00:30:51,125 (シンドラーの声)正直 興行的には 成功とは言えない収益だが 436 00:30:51,250 --> 00:30:52,541 天才 ベートーヴェンの名を 437 00:30:52,666 --> 00:30:55,666 再び音楽界に とどろかせる という意味では 438 00:30:55,791 --> 00:30:59,333 『第九』の初演は 大成功だったと言える 439 00:31:00,666 --> 00:31:05,875 そして この歴史的な瞬間に 立ち会えたことを 440 00:31:07,958 --> 00:31:10,166 私は誇らしく感じた 441 00:31:25,750 --> 00:31:28,750 数日後 食事会が開かれた 442 00:31:29,458 --> 00:31:32,250 招待されたのは コンサートマスターのシュパンツィヒ 443 00:31:32,375 --> 00:31:36,416 指揮者のウムラウフ 甥っ子のカール 弟のヨハン 444 00:31:36,583 --> 00:31:38,750 そして 実務担当の私 445 00:31:39,291 --> 00:31:43,291 そんな功労者たちを マエストロが自ら ねぎらってくれると 446 00:31:43,541 --> 00:31:45,291 誰もが思っていた 447 00:31:47,708 --> 00:31:49,000 (シュパンツィヒ)いや ほんと 448 00:31:49,125 --> 00:31:52,083 シンドラー君がいなかったら 今回 成立してなかったよ 449 00:31:52,208 --> 00:31:56,291 (シンドラー)いえいえ 皆さまのご協力があったおかげですよ 450 00:31:57,166 --> 00:31:58,125 (ウムラウフ)ねえ 451 00:31:59,333 --> 00:32:02,041 なんか 空気 重くない? 452 00:32:03,083 --> 00:32:04,541 (シュパンツィヒ)ああ 確かに 453 00:32:05,208 --> 00:32:07,875 てか 明らかに不機嫌だな おい どうした? 454 00:32:08,875 --> 00:32:09,791 (シンドラー)まあ… 455 00:32:09,916 --> 00:32:13,250 偉業を成し遂げたことで お疲れなんじゃないですか 456 00:32:13,375 --> 00:32:14,541 (ベートーヴェン)パパゲーノ! 457 00:32:15,083 --> 00:32:15,916 はい 458 00:32:16,041 --> 00:32:18,833 (シンドラーの声)ほら こうやって ひとりずつ名前を呼んで 459 00:32:18,958 --> 00:32:20,541 自ら 感謝の言葉を伝えて… 460 00:32:20,666 --> 00:32:21,666 (ベートーヴェン)お前 461 00:32:22,291 --> 00:32:24,875 演奏会の収益 かっぱらったろ! 462 00:32:28,000 --> 00:32:28,833 え? 463 00:32:34,541 --> 00:32:36,708 (シンドラーの声)私は耳を疑った 464 00:32:37,541 --> 00:32:40,166 前から怪しいと思っていたが 465 00:32:40,333 --> 00:32:42,291 ついに やってくれたな 466 00:32:43,708 --> 00:32:45,000 (シンドラー)いやいやいや… 467 00:32:45,375 --> 00:32:46,208 え? 468 00:32:46,333 --> 00:32:47,833 白状しろ! 469 00:32:48,708 --> 00:32:51,500 じゃなきゃ こんなに 実入りが少ないわけないだろ 470 00:32:51,625 --> 00:32:52,750 どうなんだ! 471 00:32:54,416 --> 00:32:57,666 (シンドラーの声)確かに 今回 収益的には決して多くない 472 00:32:57,791 --> 00:33:00,291 しかし それは ウィーンの演奏会のチケット単価が 473 00:33:00,416 --> 00:33:03,000 パリや ロンドンと比べて 安いからであり 474 00:33:03,166 --> 00:33:05,833 そのことは 本人に何度も説明したはず 475 00:33:06,375 --> 00:33:09,208 あー かばっても無駄だぞ 476 00:33:09,333 --> 00:33:11,083 こいつは泥棒だからな 477 00:33:18,250 --> 00:33:20,166 何とか言ってみろよ! 478 00:33:20,583 --> 00:33:22,583 いつも無駄口ばっかり たたいてるくせに 479 00:33:23,125 --> 00:33:25,083 返す言葉も何もないのか! 480 00:33:38,833 --> 00:33:41,208 (会話帳のページをめくる音) 481 00:33:56,166 --> 00:33:57,708 出てけ 泥棒! 482 00:33:58,125 --> 00:33:59,916 もう二度と戻ってくるな! 483 00:34:22,041 --> 00:34:23,958 (シンドラーの声) 私は やっていない 484 00:34:24,875 --> 00:34:27,416 おそらく ヨハンの差し金だろう 485 00:34:28,375 --> 00:34:31,166 彼とは 以前から 馬が合わなかった 486 00:34:33,250 --> 00:34:35,083 だけど こうなった以上 487 00:34:36,333 --> 00:34:38,375 もう あそこには戻れない 488 00:34:43,708 --> 00:34:45,125 さようなら 489 00:34:45,666 --> 00:34:48,166 私の最愛のマエストロ 490 00:34:56,416 --> 00:35:00,416 私が彼のもとを去って 数か月が経った 491 00:35:02,125 --> 00:35:05,875 あれ以降 私は彼との交流を絶った 492 00:35:06,625 --> 00:35:10,625 それができたのは 自分の仕事が うまくいきだしたから 493 00:35:11,458 --> 00:35:15,875 『第九』の初演準備の時に 劇場関係者と親しくなったおかげで 494 00:35:16,000 --> 00:35:16,583 ♪『交響曲第7番』 495 00:35:16,583 --> 00:35:19,000 ♪『交響曲第7番』 496 00:35:16,583 --> 00:35:19,000 私はヨーゼフシュタット劇場の コンサートマスターの職に就き 497 00:35:19,000 --> 00:35:20,625 私はヨーゼフシュタット劇場の コンサートマスターの職に就き 498 00:35:20,750 --> 00:35:24,500 ケルントナートーア劇場の 第3指揮者にも就任した 499 00:35:26,416 --> 00:35:27,083 とはいえ 音楽関係の仕事をしていると 500 00:35:27,083 --> 00:35:30,083 とはいえ 音楽関係の仕事をしていると 501 00:35:27,083 --> 00:35:30,083 ~♪ 502 00:35:30,208 --> 00:35:33,375 彼の噂は いやでも耳に入ってくる 503 00:35:33,500 --> 00:35:34,875 (団員)ベートーヴェンさん 504 00:35:35,000 --> 00:35:37,791 もう交響曲とかピアノ曲は 作ってないみたいね 505 00:35:37,916 --> 00:35:39,041 (団員)あっ そうなんだ 506 00:35:39,166 --> 00:35:41,708 まあ 演奏してくれるピアニストも いなくなったみたいだしね… 507 00:35:41,833 --> 00:35:44,458 (団員)今は弦楽四重奏曲ばっかり 作ってるらしい 508 00:35:44,583 --> 00:35:47,125 (団員)あー じゃあ シュパンツィヒさんとこが やってくれるか 509 00:35:47,250 --> 00:35:48,291 (団員)そうだね 510 00:35:48,625 --> 00:35:51,083 (シンドラーの声)シュパンツィヒさん 和解したんだ 511 00:35:51,208 --> 00:35:54,166 じゃあ 結局 絶縁したのは俺だけか 512 00:35:54,708 --> 00:35:56,333 まあ 今更 どうでもいいけど… 513 00:35:56,458 --> 00:35:58,708 あっ そういえばさ 514 00:35:58,833 --> 00:36:02,000 シュパンツィヒさんとこに ホルツって弟子 いたじゃん 515 00:36:02,375 --> 00:36:04,458 (団員)ああ… あの爽やかな? 516 00:36:04,583 --> 00:36:08,000 (団員)そう 彼 先生の秘書になったらしいね 517 00:36:08,208 --> 00:36:09,666 (団員)へえ~ 518 00:36:09,833 --> 00:36:11,208 (シンドラーの声)ホルツ… 519 00:36:11,708 --> 00:36:13,708 聞いたことのある名前 520 00:36:16,375 --> 00:36:17,250 あっ 521 00:36:17,833 --> 00:36:20,291 (シュパンツィヒ)弟子のホルツだ (ホルツ)はじめまして 522 00:36:20,416 --> 00:36:21,833 (シンドラーの声)あいつだ 523 00:36:22,375 --> 00:36:25,291 確かに初対面から 気に入ってる感じだったけど 524 00:36:25,416 --> 00:36:27,625 本当に迎え入れたんだ 525 00:36:28,000 --> 00:36:29,166 (団員)でも 大丈夫? 526 00:36:29,291 --> 00:36:31,291 ベートーヴェンの秘書なんて 超大変そうだけど 527 00:36:31,416 --> 00:36:34,291 (シンドラーの声) ダメに決まってんだろ あんな若造 528 00:36:34,416 --> 00:36:36,166 (団員)それが結構 優秀らしくてさ 529 00:36:36,291 --> 00:36:37,250 (シンドラーの声)え? 530 00:36:37,375 --> 00:36:38,583 (団員)ベートーヴェンさんも 531 00:36:38,708 --> 00:36:44,166 “キリストの最上の木の十字架” とか言って 絶賛してるらしいよ 532 00:36:44,291 --> 00:36:45,458 (団員)はあ~ 533 00:36:45,583 --> 00:36:48,958 その例えは よくわかんないけど まあ 相当 気に入ってんだね 534 00:36:49,583 --> 00:36:51,083 (シンドラーの声) こっちは パパゲーノで 535 00:36:51,208 --> 00:36:53,208 あっちは 十字架かよ 536 00:36:53,500 --> 00:36:58,041 まあ いいや もう俺には関係ないし 537 00:37:01,916 --> 00:37:07,625 しかし ベートーヴェンとの決別から 2年の歳月が過ぎたある日 538 00:37:09,916 --> 00:37:12,958 私は衝撃的な事件を耳にした 539 00:37:20,833 --> 00:37:25,583 “ベートーヴェンの甥のカールが ピストル自殺を図った”と 540 00:37:25,708 --> 00:37:28,708 (カールの震える息) 541 00:37:29,625 --> 00:37:30,625 (銃声) 542 00:37:33,000 --> 00:37:34,916 (シンドラーの声) ベートーヴェンの甥 カールは 543 00:37:35,041 --> 00:37:37,708 ベートーヴェンが 長い法廷闘争の末 544 00:37:37,833 --> 00:37:40,375 彼の母親から 奪い取った子どもだった 545 00:37:40,500 --> 00:37:42,333 ここへ行って 学者になれ 546 00:37:42,708 --> 00:37:43,541 以上 547 00:37:44,583 --> 00:37:46,708 (カール)いや 僕は… (ベートーヴェン)何か言ったか! 548 00:37:48,791 --> 00:37:49,625 はい… 549 00:37:50,625 --> 00:37:52,583 (シンドラーの声) そんなカールの生活を 550 00:37:52,708 --> 00:37:55,416 ベートーヴェンは徹底的に監視した 551 00:37:55,916 --> 00:38:00,333 母親はもちろん 友達との交友さえ制限し 552 00:38:00,583 --> 00:38:04,833 カールは そんな伯父の 病的なまでの束縛に 嫌気が差していた 553 00:38:06,291 --> 00:38:09,125 私も たびたび 彼の相談には乗っていた 554 00:38:09,416 --> 00:38:14,458 きっと私がいなくなったあとも 彼の厳しい監視は続いていたのだろう 555 00:38:15,500 --> 00:38:19,875 もしかすると さらに エスカレートしていたのかもしれない 556 00:38:21,041 --> 00:38:24,125 私は 自分が部外者であることも忘れ 557 00:38:24,750 --> 00:38:26,583 彼のもとに向かった 558 00:39:08,333 --> 00:39:09,791 (シンドラーの声)とりあえず 私は 559 00:39:09,916 --> 00:39:13,250 自分がいない間の 空白の2年間を探った 560 00:39:14,083 --> 00:39:15,458 会話帳には 561 00:39:15,583 --> 00:39:20,250 ベートーヴェンとカール そしてホルツの 3人の関係の崩壊が 562 00:39:20,458 --> 00:39:22,666 生々しく記録されていた 563 00:39:23,166 --> 00:39:24,375 ホルツは どうやら 564 00:39:24,500 --> 00:39:27,583 ふたりの関係を 改善させようとしていた 565 00:39:28,583 --> 00:39:31,750 (ホルツ)最近 あまり 顔を出さなくなったね 566 00:39:33,166 --> 00:39:36,250 やっぱり 家を出て よくわかったんだ 567 00:39:36,375 --> 00:39:39,500 (シンドラーの声)しかし ウィーンの幸福な中流家庭で 568 00:39:39,625 --> 00:39:41,916 何不自由なく育った男が 569 00:39:42,041 --> 00:39:44,916 ベートーヴェン家の 暗いもつれを解こうとするのが 570 00:39:45,041 --> 00:39:47,125 そもそも無謀だったのかもしれない 571 00:39:48,041 --> 00:39:51,541 実業学校近くの家に 下宿していたカールは 572 00:39:51,666 --> 00:39:54,875 だんだんと この家に姿を現さなくなり 573 00:39:55,166 --> 00:39:57,666 ホルツに対しても 心を閉ざした 574 00:39:58,000 --> 00:40:02,000 そして 大人たちが その現実に気づいた時には 手遅れだった 575 00:40:02,125 --> 00:40:03,500 (カール)もう話すことはないよ 576 00:40:03,625 --> 00:40:07,000 (シンドラーの声) 幸い カールは 一命を取り留めた 577 00:40:15,208 --> 00:40:16,583 そうか… 578 00:40:17,500 --> 00:40:22,125 最愛の甥に自分を否定された 彼のショックを慰めるために 579 00:40:23,500 --> 00:40:26,125 私は 再び召喚されたんだ 580 00:40:32,291 --> 00:40:34,083 ベートーヴェンを慕い 581 00:40:35,291 --> 00:40:39,875 忠実に付き従う秘書として… 582 00:40:51,291 --> 00:40:55,208 (シンドラーの声)私がベートーヴェンと 再び距離を縮めつつあった頃 583 00:40:55,750 --> 00:41:00,458 怪我(けが)から回復したカールは ベートーヴェンの反対を押し切って 584 00:41:00,583 --> 00:41:04,416 以前から熱望していた 軍隊への入隊を決めていた 585 00:41:07,208 --> 00:41:10,125 そんなカールの 後見人になってほしいと 586 00:41:10,250 --> 00:41:12,666 ベートーヴェンは ホルツに相談するが 587 00:41:14,625 --> 00:41:19,041 ホルツは かねてから交際していた 銀行令嬢との結婚を理由に 588 00:41:19,250 --> 00:41:20,916 あっさりと断った 589 00:41:21,333 --> 00:41:22,166 (机を強くたたく音) 590 00:41:22,291 --> 00:41:23,541 (シンドラーの声)薄情者め 591 00:41:24,333 --> 00:41:25,541 まあ いい 592 00:41:26,250 --> 00:41:28,625 あとは私に任せるがいい 593 00:41:32,750 --> 00:41:34,666 その年の12月 594 00:41:36,666 --> 00:41:38,583 ベートーヴェンが倒れた 595 00:41:41,166 --> 00:41:46,625 寒風むき出しの馬車に乗ったせいで 肺炎になってしまったらしい 596 00:41:48,250 --> 00:41:49,458 (カール)おじさんは? 597 00:41:51,250 --> 00:41:55,125 (ヨハン)今 腹に 水が たまってるみたいで 598 00:41:55,250 --> 00:41:57,708 それを排出する手術をやってる 599 00:41:58,375 --> 00:41:59,958 (カール)そんなに悪いの? 600 00:42:00,375 --> 00:42:02,833 思ったより深刻な状況だな… 601 00:42:04,833 --> 00:42:06,041 そっか… 602 00:42:09,333 --> 00:42:12,791 (ベートーヴェン)ああ 今日は調子がいいよ 603 00:42:15,000 --> 00:42:17,583 (シンドラーの声)手術の経過は 今ひとつだった 604 00:42:18,125 --> 00:42:20,666 ただ その後の治療によって 605 00:42:20,791 --> 00:42:23,791 彼の体調は わずかながら回復した 606 00:42:24,208 --> 00:42:26,791 (ベートーヴェン) ワインが飲みたいなぁ 607 00:42:28,875 --> 00:42:30,750 (シンドラーの声) そして このころから 608 00:42:30,958 --> 00:42:34,208 私への態度も 別人のように変わった 609 00:42:35,500 --> 00:42:38,416 かつての冷然とした様子は なくなり 610 00:42:38,750 --> 00:42:43,458 身近になくてはならない存在として 私を素直に頼り 611 00:42:43,875 --> 00:42:44,708 時には… 612 00:42:44,833 --> 00:42:48,166 (ベートーヴェン)いやあ こいつは いいヤツでね 613 00:42:49,541 --> 00:42:52,291 これまで俺のために 614 00:42:52,708 --> 00:42:55,916 大変な面倒を引き受けてくれた 615 00:42:57,833 --> 00:43:01,750 (シンドラーの声)感謝の念を 示すようにさえ なった 616 00:43:07,208 --> 00:43:08,208 (ベートーヴェン)ああ 617 00:43:09,000 --> 00:43:13,708 君や彼に あまり迷惑をかけないように 618 00:43:14,166 --> 00:43:16,000 早く治すよ 619 00:43:16,458 --> 00:43:20,875 (シンドラーの声)もしかすると 彼は すでに終焉(しゅうえん)を意識していて 620 00:43:21,041 --> 00:43:26,083 私に愛を与えて 世を去ろうとしているのかもしれない 621 00:43:26,750 --> 00:43:30,583 (ベートーヴェン)実に 興味深い話だったなぁ あれは 622 00:43:31,166 --> 00:43:33,875 戦場の英雄だけでなく 623 00:43:34,000 --> 00:43:37,166 政治的にも困難な道を選ぶ 624 00:43:37,541 --> 00:43:42,750 実行したヤツも含めて 『英雄伝』と言って差し支えないだろう 625 00:43:43,291 --> 00:43:47,458 あとで もう一度 じっくりと読み返さねばなぁ 626 00:43:47,583 --> 00:43:49,583 君も 興味があるだろう 627 00:43:49,708 --> 00:43:52,000 (シンドラー)はい ハハハ… 628 00:43:52,833 --> 00:43:56,333 (シンドラーの声) この4か月弱に及ぶ看病と介護は 629 00:43:57,291 --> 00:44:02,875 私の秘書生活の中で 最も穏やかな時間だった 630 00:44:05,375 --> 00:44:09,750 年明けにカールが ベートーヴェンのもとを訪れた 631 00:44:11,000 --> 00:44:15,958 彼が 士官の卵として ボヘミアのイグラウに旅立つことになり 632 00:44:16,250 --> 00:44:18,083 その報告だった 633 00:44:19,166 --> 00:44:20,625 そうか 634 00:44:22,125 --> 00:44:24,166 じゃあ まあ… 635 00:44:25,583 --> 00:44:27,583 体に気をつけてな 636 00:44:29,458 --> 00:44:30,500 うん 637 00:44:36,541 --> 00:44:40,208 (シンドラーの声)こうして 因縁の伯父と甥は 638 00:44:40,541 --> 00:44:44,541 きわめて和やかに別れた 639 00:44:48,916 --> 00:44:51,125 3月半ばになると 640 00:44:52,375 --> 00:44:54,583 遺言書の話が持ち上がる 641 00:44:55,708 --> 00:44:58,958 全財産を甥であるカールに 相続させるという 642 00:44:59,083 --> 00:45:01,625 最低限の内容を記した下書きが 643 00:45:01,750 --> 00:45:05,041 彼の友人である ブロイニングによって用意され 644 00:45:05,166 --> 00:45:07,416 彼は それにサインをした 645 00:45:07,541 --> 00:45:08,416 (シンドラー)ここにも 646 00:45:08,541 --> 00:45:10,166 (ベートーヴェン)えっ 何 ここも? 647 00:45:10,500 --> 00:45:11,708 (ブロイニング)書いて じゃあ 648 00:45:12,083 --> 00:45:13,916 何だよ もう! お前 書けよ 649 00:45:14,041 --> 00:45:16,041 (シンドラー)私が書いても 意味ないから… 650 00:45:16,166 --> 00:45:17,666 ほら ここに 651 00:45:19,083 --> 00:45:20,750 (一同)…ヴィヒ 652 00:45:20,875 --> 00:45:25,875 ベートーヴェン 653 00:45:27,958 --> 00:45:29,250 (シンドラーの声)そして… 654 00:45:29,625 --> 00:45:33,833 1827年3月26日 655 00:45:35,833 --> 00:45:39,000 ベートーヴェンは この世を去った 656 00:45:42,666 --> 00:45:48,083 葬儀には 偉大なる英雄を見送ろうと 2万人が訪れ 657 00:45:48,208 --> 00:45:51,750 東西3キロに及ぶ葬列が続いた 658 00:46:01,708 --> 00:46:06,083 (参列者たちの泣き叫ぶ声) 659 00:46:09,666 --> 00:46:12,666 (むせび泣き) 660 00:46:29,791 --> 00:46:32,791 (拍手) 661 00:46:58,083 --> 00:47:02,541 (シンドラーの声)これは もはや ただの音楽家の葬儀ではない 662 00:47:03,500 --> 00:47:08,916 彼の死は 天変地異や 革命に相当する出来事だ 663 00:47:11,416 --> 00:47:14,250 ベートーヴェンの葬儀から 3か月後 664 00:47:16,458 --> 00:47:18,958 ブロイニングが 後を追うように急死した 665 00:47:19,083 --> 00:47:20,375 (ブロイニングの妻)シュテファン… 666 00:47:21,625 --> 00:47:22,625 (シンドラーの声)彼は 667 00:47:23,875 --> 00:47:26,666 私にとって 数少ない味方だった 668 00:47:29,000 --> 00:47:32,958 そんな中 私は とんでもない噂を聞きつけた 669 00:47:33,083 --> 00:47:33,916 ホルツが? 670 00:47:34,500 --> 00:47:35,458 (友人)うん 671 00:47:35,583 --> 00:47:39,875 ベートーヴェンから 生前に 執筆の許可も取り付けてたらしいよ 672 00:47:40,666 --> 00:47:42,416 (シンドラーの声)あのホルツが 673 00:47:43,208 --> 00:47:45,708 『ルートヴィヒ・ヴァン・ ベートーヴェン伝』の 674 00:47:45,833 --> 00:47:47,791 刊行を もくろんでいる 675 00:47:48,458 --> 00:47:50,166 なぜ あの男が? 676 00:47:51,208 --> 00:47:53,041 嫌な予感がした 677 00:47:53,375 --> 00:47:57,250 もし あの男が 実は ずっとカールに同情していて 678 00:47:57,375 --> 00:48:00,166 ベートーヴェンによる 母子の強引な引き離しや 679 00:48:00,291 --> 00:48:03,166 常軌を逸した干渉 自殺未遂… 680 00:48:03,291 --> 00:48:04,958 それらの出来事を 681 00:48:05,083 --> 00:48:08,416 すべて世の中に 公表しようとしているとしたら… 682 00:48:12,291 --> 00:48:13,541 マエストロ 683 00:48:14,750 --> 00:48:17,083 なぜあなたは あんな小悪魔に 684 00:48:17,208 --> 00:48:20,208 死後の命運を 託してしまったんですか? 685 00:48:24,875 --> 00:48:26,916 ベートーヴェンを守るのは 686 00:48:27,708 --> 00:48:29,208 私しか いない 687 00:48:31,291 --> 00:48:36,791 私は 自らが『ベートーヴェン伝』を 書くことを決意した 688 00:48:37,500 --> 00:48:40,500 ♪『交響曲第5番 「運命」』 689 00:48:41,333 --> 00:48:44,750 しかし ベートーヴェンに関する ほとんどの資料は 690 00:48:44,875 --> 00:48:47,791 ホルツの伝記プロジェクトチームに 渡ってしまう 691 00:48:48,041 --> 00:48:51,916 そうなると 新しいチームを 立ち上げるのも ままならない 692 00:48:55,333 --> 00:48:56,458 いや… 693 00:48:57,666 --> 00:48:58,666 ある 694 00:48:59,666 --> 00:49:01,958 手付かずの膨大な資料が… 695 00:49:05,291 --> 00:49:08,291 おそらく そのことに 気づいているのは私だけ 696 00:49:45,791 --> 00:49:49,750 かつて 泥棒と言いがかりをつけられ 傷ついた私が 697 00:49:50,125 --> 00:49:52,916 ついに 本当の泥棒になってしまった 698 00:49:54,666 --> 00:49:57,500 いや 違う 699 00:49:58,416 --> 00:50:01,458 これは 偉大なる英雄を守るため 700 00:50:02,083 --> 00:50:05,500 ひいては 民衆のため… 701 00:50:05,625 --> 00:50:08,083 ~♪ 702 00:50:10,041 --> 00:50:12,666 ベートーヴェンの死から 4か月後 703 00:50:13,625 --> 00:50:15,250 (エレオノーレ)ご苦労さまです 704 00:50:15,625 --> 00:50:19,083 (シンドラーの声)私は 彼の旧友 フランツ・ゲルハルト・ヴェーゲラーに 705 00:50:19,208 --> 00:50:20,541 手紙を出した 706 00:50:23,583 --> 00:50:25,708 ベートーヴェンの身辺者として… 707 00:50:25,833 --> 00:50:28,250 (ヴェーゲラー) “彼は病床で こう言いました” 708 00:50:28,708 --> 00:50:33,125 “「長年 私とともに生き 最善を尽くしてくれたのは” 709 00:50:33,250 --> 00:50:35,666 “ブロイニングと シンドラーだけです” 710 00:50:36,375 --> 00:50:39,000 “そして ヴェーゲラーもまた 同じように” 711 00:50:39,125 --> 00:50:41,333 “私が青少年だった頃に” 712 00:50:41,458 --> 00:50:45,666 “たくさんのものを与えてくれた 愛する友人です」と”… 713 00:50:46,416 --> 00:50:49,916 え… あいつ そんなこと言ってくれてたんだ 714 00:50:50,041 --> 00:50:52,375 シンドラーさんって方に 感謝しなきゃね 715 00:50:52,500 --> 00:50:53,458 うん 716 00:50:54,833 --> 00:50:57,625 “ベートーヴェンは 自分が死んだら” 717 00:50:57,750 --> 00:51:02,125 “ヴェーゲラー ブロイニング シンドラーの3人で” 718 00:51:02,666 --> 00:51:06,500 “伝記を共同執筆してほしいという 遺言を残しています” 719 00:51:06,625 --> 00:51:08,083 へえ~ そうなんだ 720 00:51:08,208 --> 00:51:09,333 書くの? 721 00:51:09,958 --> 00:51:13,458 まあ あいつにそう言われたら 書かなきゃいけないだろうな 722 00:51:13,625 --> 00:51:15,000 どうしよう 723 00:51:15,875 --> 00:51:19,125 とりあえず 地元の仲間に 資料収集するの 手伝ってもらおうかな 724 00:51:19,250 --> 00:51:20,083 うん 725 00:51:20,208 --> 00:51:22,625 あっ そうだ リースにもお願いしよう ねっ! 726 00:51:22,750 --> 00:51:23,583 リースさんね 727 00:51:23,708 --> 00:51:25,083 時間ないぞ 728 00:51:28,625 --> 00:51:31,541 (シンドラーの声)リースとは ベートーヴェンの弟子 729 00:51:31,833 --> 00:51:33,541 フェルディナント・リース 730 00:51:34,333 --> 00:51:38,625 ピアニスト 作曲家 指揮者として大成し 731 00:51:38,750 --> 00:51:42,791 今はフランクフルトで オペラ制作に いそしんでいた 732 00:51:43,583 --> 00:51:46,291 (リース)ねえ シンドラーって誰だっけ? 733 00:51:46,416 --> 00:51:49,708 (ハリエット)いや… 私は 聞いたことないけど 734 00:51:49,833 --> 00:51:50,916 (リース)うーん 735 00:51:51,708 --> 00:51:53,958 あ! 思い出した 736 00:51:54,083 --> 00:51:56,333 先生からクソミソに けなされてたヤツだ 737 00:51:56,458 --> 00:51:57,583 えっ そうなの? 738 00:51:58,208 --> 00:51:59,875 元秘書で そういうヤツがいたんだよ 739 00:52:00,000 --> 00:52:01,166 (ハリエット)へえ~ 740 00:52:01,291 --> 00:52:03,250 へえ~ あいつ 741 00:52:03,375 --> 00:52:07,083 死んだあとも 遺言に振り回されてるんだ 742 00:52:08,000 --> 00:52:10,291 伝記 やるの? 743 00:52:10,458 --> 00:52:12,083 うーん… 744 00:52:12,208 --> 00:52:14,958 まあ ヴェーゲラーさんの頼みだし 745 00:52:15,458 --> 00:52:16,583 やるよ 746 00:52:18,041 --> 00:52:19,666 (エレオノーレ)リースさん どう? 747 00:52:19,791 --> 00:52:21,791 (ヴェーゲラー)やってくれるって (エレオノーレ)おお よかったね 748 00:52:21,916 --> 00:52:24,416 うん 資料も ほら! こんなに送ってきてくれた 749 00:52:24,541 --> 00:52:26,458 すごい! 仕事 早いね 750 00:52:26,583 --> 00:52:29,833 よし! こんだけ集まったから シンドラーさんに送ってくる 751 00:52:31,333 --> 00:52:32,500 (シンドラーの声)しかし… 752 00:52:33,791 --> 00:52:37,041 私は送られてきた書類を いったん 放置し 753 00:52:37,250 --> 00:52:40,333 3号分の『音楽新聞』を発行し終え 754 00:52:40,833 --> 00:52:44,333 ミュンスター市 音楽監督の職に 就いていた 755 00:52:45,125 --> 00:52:48,625 いやあ ベートーヴェンとは毎日 音楽の話をしたね 756 00:52:48,750 --> 00:52:51,541 (シンドラーの声)私は オーケストラの団員たちに 757 00:52:51,666 --> 00:52:55,208 ベートーヴェンの友人であり 弟子であり 秘書として 758 00:52:55,333 --> 00:52:58,666 彼の逸話や演奏理念を語った 759 00:52:58,791 --> 00:53:03,791 “『運命』の冒頭部分って 何を表現してるんですか?”って 760 00:53:05,125 --> 00:53:06,708 そしたら あれは… 761 00:53:09,208 --> 00:53:12,250 “運命が扉をたたく音だ”って 762 00:53:12,375 --> 00:53:16,333 (団員たち)ああ! そういうことか 763 00:53:16,458 --> 00:53:17,750 (シンドラー)つまり 764 00:53:22,250 --> 00:53:24,666 (譜面台をたたきながら) “ダダダダーン”ってことだよね 765 00:53:24,791 --> 00:53:25,791 (団員たち)おお! 766 00:53:26,000 --> 00:53:29,375 『交響曲第8番』の第2楽章はね 767 00:53:30,000 --> 00:53:32,708 メトロノームの発明者である― 768 00:53:33,041 --> 00:53:36,625 メルツェルをたたえたカノンが もとになってるんだよ 769 00:53:40,583 --> 00:53:45,125 長いこと 彼とは 生活を共にしてきたけど 770 00:53:46,250 --> 00:53:50,083 いやあ ほんと毎日 771 00:53:51,125 --> 00:53:52,791 彼のすごさを 772 00:53:54,083 --> 00:53:55,583 思い知らされたよ 773 00:53:57,041 --> 00:53:59,666 (シンドラーの声)若干 事実と異なる部分もあるが 774 00:53:59,791 --> 00:54:02,541 彼のカリスマ性を 印象づけるためには しかたない 775 00:54:04,041 --> 00:54:08,666 ちなみに 『一般音楽新聞』に掲載された 私のプロフィール記事には 776 00:54:08,791 --> 00:54:13,208 “ベートーヴェンと10年にわたり 同居していた”といった内容が書かれている 777 00:54:13,666 --> 00:54:15,166 実際は2年くらいだが 778 00:54:15,291 --> 00:54:19,541 自分の伝達者としての説得力を 高めるためには しかたない 779 00:54:20,083 --> 00:54:24,833 どれも ベートーヴェンを守るための 完全な必要悪である 780 00:54:32,416 --> 00:54:34,708 シンドラーさんから 音沙汰ないの? 781 00:54:34,833 --> 00:54:36,291 (ヴェーゲラー)全然ない 782 00:54:37,791 --> 00:54:40,500 何かトラブルでもあったのかな 783 00:54:40,708 --> 00:54:42,125 そんなことないよ 784 00:54:42,500 --> 00:54:45,250 あの人 今 普通にミュンスターで 音楽監督やってるし 785 00:54:45,375 --> 00:54:47,375 (エレオノーレ)そうなの? (ヴェーゲラー)そうだよ 786 00:54:48,083 --> 00:54:50,333 そんなことしてるから こんな本 出されちゃって… 787 00:54:51,875 --> 00:54:58,250 『通奏低音、対位法、作曲法に関する ベートーヴェンの研究』? 788 00:54:58,416 --> 00:55:01,875 昔 ちょっと付(つ)き合(あ)いがあった ザイフリートって人が書いてんだけどさ 789 00:55:02,000 --> 00:55:03,125 へえ~ 790 00:55:03,250 --> 00:55:05,916 完全に先 越されちゃったよ 791 00:55:06,083 --> 00:55:07,291 (エレオノーレ)ええ~ 792 00:55:11,708 --> 00:55:13,333 (シンドラーの声)数週間後 793 00:55:13,625 --> 00:55:16,916 ヴェーゲラーからの 怒りの呼び出しを食らった私は 794 00:55:17,750 --> 00:55:20,583 コブレンツにある彼の家を訪ねた 795 00:55:23,250 --> 00:55:26,416 すみません 決して忘れてたとか そういうわけではなくて 796 00:55:26,541 --> 00:55:27,625 いろいろとバタバタしてて… 797 00:55:27,750 --> 00:55:28,958 もう 言い訳いいですから 798 00:55:29,083 --> 00:55:32,791 それより 今回の執筆メンバーに リースも入れましょう 799 00:55:33,125 --> 00:55:34,208 (シンドラー)リース? 800 00:55:34,666 --> 00:55:36,875 リースですよ リース! 801 00:55:37,208 --> 00:55:40,125 資料提供してくれた ベートーヴェンの弟子のリースですよ 802 00:55:40,250 --> 00:55:41,458 忘れちゃったんですか? 803 00:55:41,750 --> 00:55:44,208 えっ あ… もちろん覚えてます 804 00:55:44,833 --> 00:55:46,791 伝記を3期に分割するにしても 805 00:55:47,125 --> 00:55:48,958 2期と3期を あなたひとりで手がけるのは 806 00:55:49,083 --> 00:55:50,208 負担も大きいでしょうから 807 00:55:50,333 --> 00:55:53,791 2期は 当時ベートーヴェンの門下にいた リースに書いてもらいましょう 808 00:55:53,916 --> 00:55:56,375 じゃなきゃ あなた いつまで経っても書かないでしょ 809 00:55:56,500 --> 00:55:58,291 いや そんなことはないですけど… 810 00:55:58,416 --> 00:56:00,125 わかりました 彼のところに向かいます 811 00:56:00,250 --> 00:56:01,666 (ヴェーゲラー)すぐ行ってくださいね (シンドラー)ええ 812 00:56:01,791 --> 00:56:03,041 (ヴェーゲラー)すぐですよ (シンドラー)ええ! 813 00:56:03,166 --> 00:56:04,958 (ヴェーゲラー)家に寄っちゃダメですよ! (シンドラー)ええ!! 814 00:56:06,083 --> 00:56:08,333 (シンドラーの声)ヴェーゲラーに 尻をたたかれた私は 815 00:56:08,458 --> 00:56:11,916 その足で リースが住む フランクフルトに向かった 816 00:56:12,208 --> 00:56:14,208 わかる わかる 伝記のことでしょ 817 00:56:14,375 --> 00:56:15,875 あ… でも 俺 全然 焦ってないから 818 00:56:16,583 --> 00:56:18,958 (シンドラーの声)リースは ヴェーゲラーとは対照的に 819 00:56:19,083 --> 00:56:21,666 にこやかに 私を出迎えてくれた 820 00:56:22,000 --> 00:56:23,458 にもかかわらず 821 00:56:23,583 --> 00:56:26,541 彼と話していると なんだか心が ざわざわする 822 00:56:27,666 --> 00:56:29,208 なんだ この感じ… 823 00:56:30,291 --> 00:56:31,416 ホルツだ 824 00:56:31,833 --> 00:56:34,291 ホルツと相対(あいたい)している時の感じだ 825 00:56:34,416 --> 00:56:37,541 まあー でも 先生といえばさ 826 00:56:37,666 --> 00:56:40,208 最初に会った時は 衝撃的だったよ 827 00:56:40,333 --> 00:56:42,000 (シンドラーの声) しかも 彼の語る思い出は 828 00:56:42,125 --> 00:56:44,916 どれもこれも 唖然(あぜん)とするような エピソードばかりだった 829 00:56:45,041 --> 00:56:47,958 しかもさ ボンから 着たきり雀(すずめ)で出てきた俺をね 830 00:56:48,083 --> 00:56:50,041 先生 快く 弟子にしてくれたからね 831 00:56:50,166 --> 00:56:51,958 (シンドラー)そうなんですね (リース)そうなのよ 832 00:56:52,083 --> 00:56:55,333 でさ 何かっつーとさ “金に困っていないか?”って言うわけ 833 00:56:55,458 --> 00:56:56,291 あっ ああ… 834 00:56:56,416 --> 00:56:59,666 “いやいや 大丈夫です”って 言ってんのに! 言ってんのにだよ? 835 00:56:59,791 --> 00:57:01,333 もう財布 出しちゃってんのよ 836 00:57:02,250 --> 00:57:04,666 もうね 息子扱い 837 00:57:05,083 --> 00:57:06,125 (シンドラー)確かに 838 00:57:06,250 --> 00:57:08,500 (シンドラーの声) 完全にマウントを取られている 839 00:57:08,708 --> 00:57:12,916 同じ“お世話係”でも 彼は息子扱いで 私は泥棒扱い 840 00:57:13,041 --> 00:57:17,125 でも 音楽に関しては 厳しかったね 841 00:57:17,250 --> 00:57:18,666 (シンドラーの声)まだ あんのかよ 842 00:57:20,000 --> 00:57:21,916 まあ 厳しいっていうかさ 843 00:57:22,041 --> 00:57:24,125 そこには愛があるんだけどね 844 00:57:24,250 --> 00:57:27,375 毎回 夜中まで レッスン付き合ってくれたから 845 00:57:27,791 --> 00:57:29,375 (シンドラー)夜中まで? (リース)うん そう 846 00:57:29,500 --> 00:57:32,250 しかもさ 俺の最初の仕事 847 00:57:32,375 --> 00:57:34,916 それと デビューの時の演奏会 848 00:57:35,041 --> 00:57:37,041 全部 お膳立てしてくれてさ 849 00:57:37,166 --> 00:57:39,583 もう感謝しても し切れないよ 850 00:57:39,708 --> 00:57:42,291 (シンドラー)そうですよねぇ (リース)ねえー 851 00:57:42,750 --> 00:57:45,291 あと よく一緒に 散歩も行った 852 00:57:46,416 --> 00:57:47,958 大変だったんだから 853 00:57:48,083 --> 00:57:50,375 あっち行って こっち行って 追いかけ回すのがさ 854 00:57:50,500 --> 00:57:52,666 私も… 私も行きました 散歩 好きでしたよね 855 00:57:52,791 --> 00:57:54,458 (シンドラーの声)この男は 私と違い 856 00:57:54,583 --> 00:57:57,625 本当に 本当に ベートーヴェンに愛されていた 857 00:57:57,750 --> 00:58:00,375 (リース)帰ってきた時にね 先生 嬉しかったんだろうね 858 00:58:00,500 --> 00:58:04,125 もうさあ もう 顔じゅう シャボンの泡で いっぱいにしてさ 859 00:58:04,250 --> 00:58:06,666 俺に抱きついてきたんだよ “うお~!”と思ってさ 860 00:58:06,958 --> 00:58:09,916 “マジかよ! 犬かよー!” なんつってさ 861 00:58:10,041 --> 00:58:11,833 “ウレションすんじゃねえぞ” なんつっちゃって 862 00:58:11,958 --> 00:58:13,833 (シンドラーの声) エピソードが止まらない 863 00:58:13,958 --> 00:58:15,500 めまいがする 864 00:58:17,875 --> 00:58:19,708 ハハハハ… 865 00:58:20,583 --> 00:58:22,083 ああ すごい… 866 00:58:23,375 --> 00:58:25,083 (シンドラーの声) 愛されては いたようだが 867 00:58:25,208 --> 00:58:28,250 彼はベートーヴェンの本質を 理解していない 868 00:58:28,375 --> 00:58:32,458 しょせん 彼が見ていたのは ベートーヴェンの上澄みの部分だけ 869 00:58:33,250 --> 00:58:37,750 そう思わなければ とても自分を保てなかった 870 00:58:39,666 --> 00:58:43,458 私は 早速 ヴェーゲラーに 手紙を書いた 871 00:58:44,833 --> 00:58:47,791 “リースとの交渉は決裂した”と 872 00:58:56,833 --> 00:59:03,125 そして 伝記執筆の戦略を 改めることにした 873 00:59:06,791 --> 00:59:08,750 めっちゃ 嘘じゃないですか 874 00:59:09,041 --> 00:59:12,500 まあ 嫉妬もあったんだろうな 875 00:59:13,791 --> 00:59:15,791 っていうか なんでシンドラーは 876 00:59:15,916 --> 00:59:19,416 自分から誘ったのに なかなか 本を出さなかったんですか? 877 00:59:20,791 --> 00:59:22,875 (黒田)待ってたんじゃないかな 878 00:59:23,708 --> 00:59:25,083 (野村)何をですか? 879 00:59:26,625 --> 00:59:29,583 自分以外の人たちが 死ぬのを 880 00:59:32,791 --> 00:59:34,333 どういうことですか? 881 00:59:35,041 --> 00:59:38,041 (黒田)その人たちが 生きてるうちに書き始めたら 882 00:59:38,333 --> 00:59:41,791 証人になりたがったり 権利を主張してきたりして 883 00:59:42,208 --> 00:59:43,583 めんどくさいだろ? 884 00:59:45,500 --> 00:59:48,083 まあ そうですけど… 885 00:59:49,791 --> 00:59:52,250 そういう人たちが 死んじゃえば 886 00:59:53,000 --> 00:59:55,250 堂々と 嘘も書けるじゃん 887 00:59:56,250 --> 00:59:57,375 怖(こわ)っ 888 00:59:58,958 --> 00:59:59,875 フフッ 889 01:00:00,541 --> 01:00:03,458 さらに怖いのは ここからだよ 890 01:00:08,291 --> 01:00:09,541 何がですか? 891 01:00:12,875 --> 01:00:16,625 本当に そのとおりに なっていくんだよ 892 01:00:23,833 --> 01:00:27,833 (すすり泣き) 893 01:00:29,541 --> 01:00:30,833 どうしたの? 894 01:00:40,666 --> 01:00:42,333 (シンドラーの声)私は動揺した 895 01:00:42,541 --> 01:00:45,375 彼とは つい この間 会ったばかりだった 896 01:00:46,708 --> 01:00:48,166 彼のことは苦手だったが 897 01:00:49,250 --> 01:00:51,000 悪いヤツではなかった 898 01:00:53,666 --> 01:00:58,416 そして数か月後 私は ある本を手にした 899 01:01:02,625 --> 01:01:06,708 フランツ・ゲルハルト・ヴェーゲラー& フェルディナント・リース共著 900 01:01:07,041 --> 01:01:10,833 『ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンに 関する伝記的覚書』 901 01:01:15,208 --> 01:01:16,458 こいつら 902 01:01:17,083 --> 01:01:19,166 俺を差し置いて いつの間に… 903 01:01:23,583 --> 01:01:25,083 “ベートーヴェンは ハ短調の…” 904 01:01:25,208 --> 01:01:29,875 (リースの声)“…美しいピアノ協奏曲 (作品37)の草稿を” 905 01:01:30,000 --> 01:01:31,583 “僕に渡してくれた” 906 01:01:31,833 --> 01:01:33,875 “それは 僕が ベートーヴェンの弟子として” 907 01:01:34,000 --> 01:01:37,041 “公の場にデビューするための 協奏曲だった” 908 01:01:37,708 --> 01:01:40,750 “ベートーヴェンの生前に そういうかたちで世に出たのは” 909 01:01:40,875 --> 01:01:42,875 “自分ただひとりだった” 910 01:01:43,125 --> 01:01:46,916 “自分以外には ルドルフ大公も 弟子だと認められている” 911 01:01:49,916 --> 01:01:52,125 (シンドラーの声)私の名前は どこにも見当たらない 912 01:01:52,458 --> 01:01:53,458 ベートーヴェンの人生に 913 01:01:53,583 --> 01:01:56,625 シンドラーは 一切 関わっていないと 言わんばかりの扱い 914 01:01:57,458 --> 01:02:01,416 ページをめくるにつれ 私は激しい怒りを覚えた 915 01:02:02,291 --> 01:02:06,041 しかし その怒りは自分が ないがしろにされたからではない 916 01:02:06,166 --> 01:02:10,416 ないがしろにされた故(ゆえ)に生じてしまった さまざまな欠点に対してだ 917 01:02:11,083 --> 01:02:13,041 エピソードの大半がマズい 918 01:02:13,375 --> 01:02:16,333 何から何まで 開けっ広げすぎている 919 01:02:18,083 --> 01:02:18,916 (女性)おいしい 920 01:02:19,041 --> 01:02:21,083 (ベートーヴェン)おいしい? フフフッ… よかったよ~ 921 01:02:21,208 --> 01:02:22,041 (リースの声)“ある夕方” 922 01:02:22,166 --> 01:02:24,625 “私はレッスンを受けるために バーデンに出向いた” 923 01:02:24,750 --> 01:02:28,541 “すると ベートーヴェンが 若い女性をはべらせてソファに座っていた” 924 01:02:28,666 --> 01:02:31,791 “これは間が悪かったと思い すぐに退散しようとすると” 925 01:02:31,916 --> 01:02:33,583 “彼は僕を引き止めて” 926 01:02:33,791 --> 01:02:35,458 しばらく弾いていけよ 927 01:02:35,583 --> 01:02:36,416 (リースの声)“…と言った” 928 01:02:36,541 --> 01:02:39,958 “そして 私が だいぶ長いこと 弾いたところで 彼は叫んだ” 929 01:02:40,250 --> 01:02:43,125 リース! なんか もっと恋愛的なやつ 930 01:02:43,250 --> 01:02:46,541 ♪『ピアノ・ソナタ第8番 「悲愴」』 931 01:02:46,708 --> 01:02:48,833 なんか もっとメランコリックなやつ 932 01:02:48,958 --> 01:02:51,958 ♪『ピアノ・ソナタ第14番 「月光」』 933 01:02:52,083 --> 01:02:53,625 もっと情熱的なやつ 934 01:02:53,750 --> 01:02:54,208 ♪『ピアノ・ソナタ第17番 「テンペスト」』 935 01:02:54,208 --> 01:02:55,208 ♪『ピアノ・ソナタ第17番 「テンペスト」』 936 01:02:54,208 --> 01:02:55,208 (リースの声) “などなど…” 937 01:02:55,333 --> 01:02:57,416 “そこで 私が 彼の作品のいろいろな箇所を” 938 01:02:57,583 --> 01:02:59,833 “短い転調のフレーズで つないで弾いていると” 939 01:02:59,958 --> 01:03:01,041 “彼は嬉しそうに叫んだ” 940 01:03:01,166 --> 01:03:03,416 全部 俺の曲じゃねえかよ! 941 01:03:03,625 --> 01:03:07,875 お前 俺のこと大好きか! ハハハハッ! 942 01:03:08,458 --> 01:03:11,875 (シンドラーの声)これは非常にヤバい チャラいにも程がある 943 01:03:12,000 --> 01:03:14,500 『月光ソナタ』や『英雄交響曲』を 書いていた時期に 944 01:03:14,625 --> 01:03:17,416 こんなワンナイトラブまがいの色恋に ふけっていたなんて 945 01:03:17,541 --> 01:03:19,625 英雄のイメージが壊れてしまう 946 01:03:19,791 --> 01:03:23,875 あー このエピソードも だいぶヤバい 947 01:03:25,541 --> 01:03:28,541 (リースの声)“ベートーヴェンは 時々 壮絶にブチ切れることがあった” 948 01:03:28,666 --> 01:03:32,875 “ある日 ガストハウスで食事をしていると 給仕が間違った料理を持ってきた” 949 01:03:33,000 --> 01:03:34,708 “彼が二、三ほど何かを言いかけ” 950 01:03:34,833 --> 01:03:37,291 “給仕が ぞんざいな態度で それに答えるやいなや” 951 01:03:37,416 --> 01:03:41,625 “彼は その皿(肉汁をたっぷりかけた 臓物の料理)をつかみ” 952 01:03:41,750 --> 01:03:42,625 “給仕に投げつけた” 953 01:03:42,750 --> 01:03:44,333 熱い! 954 01:03:44,541 --> 01:03:45,791 (シンドラーの声)あいつ バカか! 955 01:03:45,916 --> 01:03:47,083 こんなエピソード 書いたら 956 01:03:47,208 --> 01:03:50,375 ベートーヴェンが かんしゃく持ちの 暴力男だって思われるだろ! 957 01:03:50,583 --> 01:03:53,041 いや 実際 かんしゃく持ちの 暴力男だけど… 958 01:03:53,666 --> 01:03:54,875 もう痛まないのか? 959 01:03:55,000 --> 01:03:55,875 (シンドラーの声)リースは 960 01:03:56,000 --> 01:04:00,208 甥 カールの頭に残る 生々しい銃創の理由を知らない 961 01:04:00,666 --> 01:04:03,916 しかし 未来の読者は 真相を知ってしまうかもしれない 962 01:04:04,041 --> 01:04:06,958 そのときに こういった数々の 横暴なエピソードが 963 01:04:07,083 --> 01:04:10,125 カールの自殺未遂の伏線に 見えてしまう危険性がある 964 01:04:10,833 --> 01:04:15,000 ベートーヴェンの暴力的な性格や ふるまいは 事実の一端ではあるが 965 01:04:15,291 --> 01:04:17,333 彼の本質ではない 966 01:04:19,375 --> 01:04:22,791 ベートーヴェンは 私たちの英雄だ 967 01:04:23,125 --> 01:04:25,375 古代ギリシャの『英雄伝』に登場する 968 01:04:25,500 --> 01:04:29,500 偉大な軍人や政治家たちの系譜に 連なる音楽家 969 01:04:29,708 --> 01:04:33,500 それが ルートヴィヒ・ヴァン・ ベートーヴェンなのだ 970 01:04:34,958 --> 01:04:36,875 英雄として生きた音楽家の生涯 971 01:04:37,208 --> 01:04:39,125 決して幸福とはいえない生い立ち 972 01:04:39,250 --> 01:04:40,833 耳を患った苦しみ 973 01:04:40,958 --> 01:04:43,041 必要なのは そういった要素 974 01:04:43,166 --> 01:04:45,666 下品な下半身事情なんて いらない 975 01:04:45,791 --> 01:04:48,708 DV疑惑なんて もっといらない 976 01:04:52,583 --> 01:04:54,375 1840年 977 01:04:56,708 --> 01:04:58,333 私は ついに 978 01:05:00,500 --> 01:05:03,916 『ベートーヴェン伝』 第一版を 出版した 979 01:05:08,791 --> 01:05:10,875 ベートーヴェンの死から13年後 980 01:05:11,416 --> 01:05:13,833 人生編 全3章に加えて 981 01:05:13,958 --> 01:05:18,208 音楽の章から 日常生活について つづった章までのすべてを 982 01:05:18,791 --> 01:05:21,250 私は たったひとりで書き上げた 983 01:05:22,750 --> 01:05:29,250 これこそが 後世に残すべき 正しい『ベートーヴェン伝』だ 984 01:05:47,833 --> 01:05:49,458 (ホルツの声) 『ベートーヴェン伝』? 985 01:05:53,666 --> 01:05:56,750 シンドラーが… いつの間に 986 01:06:07,916 --> 01:06:11,166 はあ? 何だ これ? デタラメじゃん! 987 01:06:11,291 --> 01:06:13,458 っていうか 俺の扱い ひどすぎんだろ 988 01:06:13,583 --> 01:06:15,208 ほとんど出てこないし! 989 01:06:23,125 --> 01:06:25,416 カールに関する記述も ひどい 990 01:06:25,583 --> 01:06:30,666 こいつ 自殺未遂の動機を しれーっと 試験のプレッシャーのせいにしてる 991 01:06:30,791 --> 01:06:33,583 ふたりの間に何があったかは あいつも知ってるだろ 992 01:06:33,708 --> 01:06:34,875 証拠もあるし 993 01:06:37,083 --> 01:06:41,375 そういえば あの会話帳って どこに保管されてんだっけ? 994 01:06:41,750 --> 01:06:46,166 あれがあれば どっちが正しいか 簡単に証明できるんだけど… 995 01:06:47,583 --> 01:06:50,583 (燃え盛る炎の音) 996 01:07:00,291 --> 01:07:03,041 (シンドラーの声) これで忌まわしき現実は消えた 997 01:07:06,000 --> 01:07:07,833 あとは仕上げの作業 998 01:07:09,750 --> 01:07:14,666 同じ嘘でも エピソードを盛るのと 出典元に手を加えるのとでは 999 01:07:14,791 --> 01:07:16,666 罪の重さが異なる 1000 01:07:16,916 --> 01:07:19,375 ここからは いよいよ犯罪の領域… 1001 01:07:20,291 --> 01:07:23,583 まずは ベートーヴェンと私の 接近時期の操作 1002 01:07:23,708 --> 01:07:26,250 私の秘書期間は あまりに短い 1003 01:07:26,458 --> 01:07:28,708 あと数年は長くしておきたい 1004 01:07:30,416 --> 01:07:31,416 (ホルツの声)ん? 1005 01:07:31,541 --> 01:07:36,208 そもそも あいつ こんな早い時期から ベートーヴェンに仕えてたっけ? 1006 01:07:38,041 --> 01:07:43,833 1816年って あの会話帳が 使われ始めるよりも2~3年前だよな 1007 01:07:47,416 --> 01:07:49,791 (シンドラーの声) 嘘のセリフを書き加えるのは 1008 01:07:49,916 --> 01:07:52,541 尋常でない妄想力が必要だ 1009 01:07:53,083 --> 01:07:57,458 しかし 会話帳を介して 理想のベートーヴェンと会話できることに 1010 01:07:58,208 --> 01:08:01,500 私は だんだん 高揚感を覚えるようになった 1011 01:08:02,375 --> 01:08:05,000 もっと このベートーヴェンに 語りかけたい 1012 01:08:06,583 --> 01:08:07,791 マエストロ 1013 01:08:08,333 --> 01:08:12,125 リースは あなたの 忠実なる しもべと言えるでしょうか? 1014 01:08:13,666 --> 01:08:15,041 (ベートーヴェン)どうしてだ? 1015 01:08:21,750 --> 01:08:23,916 (シンドラーの声) 彼は作曲に明け暮れているので 1016 01:08:24,041 --> 01:08:26,833 あなたの作品を演奏する努力も していません 1017 01:08:26,958 --> 01:08:31,208 かつて学んだ あなたの作品も とうに忘れてしまっています 1018 01:08:31,541 --> 01:08:33,833 あいつが 私の作品を? 1019 01:08:37,125 --> 01:08:38,291 (シンドラーの声)マエストロ 1020 01:08:38,583 --> 01:08:40,791 神にかけて約束します 1021 01:08:40,916 --> 01:08:42,875 私は リースのようには なりません 1022 01:08:43,000 --> 01:08:47,375 あなたの教えは この世界の 何物によっても排除されません 1023 01:08:48,125 --> 01:08:49,625 シンドラー 1024 01:08:50,333 --> 01:08:53,708 君だけが 私の真の友だ 1025 01:08:56,750 --> 01:08:58,250 (シンドラーの声)私の使命は 1026 01:08:59,583 --> 01:09:03,000 あなたの教えを 民衆に伝えていくことです 1027 01:09:03,125 --> 01:09:04,291 (ベートーヴェン)ありがとう 1028 01:09:07,041 --> 01:09:08,125 友よ 1029 01:09:17,375 --> 01:09:18,416 (ホルツの声)キモッ! 1030 01:09:18,541 --> 01:09:20,250 嘘ばっかじゃねえか! 1031 01:09:23,666 --> 01:09:28,208 (シンドラーの声) 美しい思い出を創作する その犯行は 1032 01:09:28,791 --> 01:09:31,541 目もくらむほどの甘美を もたらした 1033 01:09:36,416 --> 01:09:40,750 会話帳に余白を見つけては セリフを書き込んでいく 1034 01:09:41,375 --> 01:09:45,041 書き込むごとに ベートーヴェンは現実を超えて 1035 01:09:45,208 --> 01:09:47,791 神々しい輝きを増していく 1036 01:09:56,500 --> 01:09:58,625 現実なんて どうだっていい 1037 01:09:59,791 --> 01:10:01,875 理想こそが真実 1038 01:10:14,083 --> 01:10:16,541 (支配人)フフフ… ベートーヴェンのご友人? 1039 01:10:16,666 --> 01:10:18,291 (シンドラー)と 元秘書です 1040 01:10:18,416 --> 01:10:19,375 (支配人)ああー 1041 01:10:19,500 --> 01:10:22,625 (シンドラー)あの… こちら 私(わたくし)の書いた著書 1042 01:10:22,750 --> 01:10:24,500 よかったら ぜひ読んでみてください 1043 01:10:24,625 --> 01:10:25,541 (支配人)どうも 1044 01:10:25,666 --> 01:10:26,625 (シンドラー)では… 1045 01:10:26,750 --> 01:10:28,333 (シンドラーの声)私はパリに赴き 1046 01:10:28,458 --> 01:10:31,583 “ベートーヴェンの友人” と書いた名刺を携えて 1047 01:10:31,833 --> 01:10:35,791 正しいベートーヴェンの姿を広める 布教活動に いそしんだ 1048 01:10:37,083 --> 01:10:38,333 あの… 1049 01:10:39,250 --> 01:10:40,666 ショパンさんですよね? 1050 01:10:41,208 --> 01:10:42,541 あ… はい 1051 01:10:42,666 --> 01:10:45,125 アハハ… どうも はじめまして 1052 01:10:45,250 --> 01:10:49,625 私(わたくし) ベートーヴェンの元秘書の シンドラーと申します 1053 01:10:50,166 --> 01:10:51,375 シンドラーさん… 1054 01:10:51,500 --> 01:10:54,125 いやあ お会いできて光栄です 1055 01:10:54,250 --> 01:10:59,208 あ… これ よかったらぜひ 私(わたくし)が書いた著書 読んでみてください 1056 01:10:59,666 --> 01:11:02,458 あ… どうも 1057 01:11:02,875 --> 01:11:03,875 (シンドラー)では… 1058 01:11:08,750 --> 01:11:11,416 あれ? ワーグナーさんですよね? 1059 01:11:11,541 --> 01:11:12,375 はい 1060 01:11:12,500 --> 01:11:13,958 そちらはハイネさん? 1061 01:11:14,083 --> 01:11:15,000 はい 1062 01:11:15,125 --> 01:11:16,625 (シンドラー)どうもどうも 私(わたくし)… 1063 01:11:16,750 --> 01:11:20,125 ベートーヴェンの元秘書の シンドラーと申します 1064 01:11:20,250 --> 01:11:21,458 あっ こちらをどうぞ 1065 01:11:22,625 --> 01:11:25,875 これ… 私(わたくし)が書いた 『ベートーヴェン伝』でございます 1066 01:11:26,000 --> 01:11:28,333 読んでいただければ 嬉しいです 1067 01:11:31,541 --> 01:11:32,708 失礼します 1068 01:11:33,708 --> 01:11:34,791 ありがとうございます 1069 01:11:40,041 --> 01:11:41,250 何? あの人 1070 01:11:41,375 --> 01:11:42,583 わかんない 1071 01:11:42,875 --> 01:11:46,250 ベートーヴェンの元秘書 っつってたけど 怪しくね? 1072 01:11:47,291 --> 01:11:49,125 やっぱ 怪しいですよね? 1073 01:11:49,250 --> 01:11:50,500 怪しいですね 1074 01:11:50,625 --> 01:11:55,000 名刺に“ベートーヴェンの友人”って 書いてあるのとか ヤバくないですか? 1075 01:11:55,125 --> 01:11:57,000 ヤバい 絶対違いますよね 1076 01:11:57,125 --> 01:11:58,583 うん 聞いたことないもん 1077 01:11:58,708 --> 01:12:00,416 勝手に本まで出して… 1078 01:12:00,541 --> 01:12:02,875 タチ悪いですね 1079 01:12:03,125 --> 01:12:05,875 これ 面白いから ゴシップとして新聞社に持っていこうかな 1080 01:12:06,000 --> 01:12:08,333 それ いいですね! 1081 01:12:10,375 --> 01:12:11,375 (シンドラーの声)ところで 1082 01:12:11,541 --> 01:12:15,000 当初から英語での出版を 念頭に置いていた私は 1083 01:12:15,416 --> 01:12:18,375 『ベートーヴェン伝』の 英訳版を刊行した 1084 01:12:20,125 --> 01:12:25,041 これによって 私の著作は 世界的スタンダードの名を得る 1085 01:12:30,708 --> 01:12:36,583 そして 最後の一押しとして 公的機関に会話帳を献上するため 1086 01:12:36,708 --> 01:12:39,708 私はベルリン王立図書館に 足を運んだ 1087 01:12:41,083 --> 01:12:45,250 会話帳が ベートーヴェンの 最重要遺品であると 1088 01:12:45,958 --> 01:12:48,083 国家に認めさせるために 1089 01:12:48,708 --> 01:12:50,041 (デーン)会話帳ねぇ 1090 01:12:51,625 --> 01:12:55,000 あと 所持資料も 多数 保管していますので 1091 01:12:55,375 --> 01:12:58,500 もしよろしければ こちらで買い取っていただければと… 1092 01:12:59,750 --> 01:13:01,250 うーん… 1093 01:13:20,875 --> 01:13:22,166 少し… 1094 01:13:23,291 --> 01:13:25,625 検討させていただきます 1095 01:13:32,541 --> 01:13:35,500 (ホルツの声)シンドラーの本が 思いのほか 売れているらしい 1096 01:13:36,250 --> 01:13:38,583 あのデタラメの拡散を 食い止めるには 1097 01:13:38,750 --> 01:13:41,666 頓挫した伝記プロジェクトを 復活させるしかない 1098 01:13:42,583 --> 01:13:47,208 私は新たな執筆者として 音楽家であり文筆家のガスナーを立て 1099 01:13:47,333 --> 01:13:50,291 “まだ知られていない オリジナルの情報”を集めるべく 1100 01:13:50,541 --> 01:13:55,916 弟ヨハン 甥カール 弟子のチェルニー といった人々に支援を求めた 1101 01:13:57,833 --> 01:14:02,291 あいつの嘘は すでに 当事者界隈(かいわい)ではバレている 1102 01:14:03,375 --> 01:14:06,208 (ホルツ)ああ あれ読みました? 『ベートーヴェン伝』ってやつ 1103 01:14:06,333 --> 01:14:07,166 (ベルリオーズ)読んでない 1104 01:14:07,291 --> 01:14:12,083 (ホルツの声)さらに 私はこっそりと コンサートに 酒場に 1105 01:14:12,375 --> 01:14:16,916 音楽家たちの立ち話に潜り込んでは ヤツの悪評を流した 1106 01:14:17,333 --> 01:14:20,291 ほんと シンドラーってヤツは どうしようもないクズなんですよ 1107 01:14:20,833 --> 01:14:22,291 やっぱり そうなんだ 1108 01:14:22,708 --> 01:14:25,541 いや なんかね 怪しいなぁとは 思ってたんですよ 1109 01:14:25,666 --> 01:14:26,500 でしょ? 1110 01:14:26,625 --> 01:14:28,791 ほら これ見てください 1111 01:14:29,416 --> 01:14:31,791 ベートーヴェンが 甥っ子に書いた手紙で 1112 01:14:32,416 --> 01:14:33,250 ほら ここ 1113 01:14:33,375 --> 01:14:35,583 シンドラーのことが 書かれてるんですけどね 1114 01:14:38,083 --> 01:14:39,083 ええっ! 1115 01:14:40,041 --> 01:14:41,791 ボロクソ 言われてる じゃないですか 1116 01:14:41,916 --> 01:14:42,916 (ホルツ)でしょ? 1117 01:14:43,041 --> 01:14:44,958 こんだけベートーヴェンに 嫌われてたヤツが 1118 01:14:45,083 --> 01:14:47,875 腹心の秘書気取りで 伝記を書いてるって どう思います? 1119 01:14:48,000 --> 01:14:48,833 ヤバくないですか? 1120 01:14:49,083 --> 01:14:51,500 いや~ ヤバいっすね 1121 01:14:51,625 --> 01:14:53,958 (ホルツ)でしょ? しかも 嘘だらけですからね 1122 01:14:54,083 --> 01:14:54,916 やっぱり そうなんだ 1123 01:14:55,416 --> 01:14:58,041 いや もう 誇張とか脚色って レベルじゃなくて 1124 01:14:58,166 --> 01:15:00,000 ありもしないこと 書いてますから 1125 01:15:00,500 --> 01:15:02,916 (2人)へえ~ 1126 01:15:06,625 --> 01:15:09,000 (シンドラーの声) 9月16日付の新聞に 1127 01:15:09,125 --> 01:15:12,750 私のことを “自称ベートーヴェンの友人”として 1128 01:15:13,125 --> 01:15:17,208 徹底的に嘲笑した内容の記事が 掲載されていた 1129 01:15:19,625 --> 01:15:21,458 書いたのはホルツ 1130 01:15:21,583 --> 01:15:22,833 (人々の ささやき声) 1131 01:15:24,708 --> 01:15:26,291 (せき払い) 1132 01:15:31,250 --> 01:15:32,791 (シンドラーの声)これをきっかけに 1133 01:15:33,041 --> 01:15:37,916 私とホルツによる 新聞上での論争が始まった 1134 01:15:39,541 --> 01:15:42,666 (ホルツの声) こいつ 嘘ばっか つきやがって! 1135 01:15:52,166 --> 01:15:55,375 (シンドラーの声)ホルツに加えて ワーグナーやハイネまでもが 1136 01:15:55,500 --> 01:15:57,541 私を嘲笑していた 1137 01:15:59,500 --> 01:16:02,500 (人々の ささやき声) 1138 01:16:06,083 --> 01:16:10,416 (シンドラーの声)味方の多い ホルツに比べ こちらは たったひとり 1139 01:16:12,458 --> 01:16:14,791 論争は 劣勢が続いた 1140 01:16:16,208 --> 01:16:17,291 しかし… 1141 01:16:22,875 --> 01:16:25,000 1846年 1142 01:16:25,250 --> 01:16:27,833 ベルリン王立図書館から 私宛てに 1143 01:16:27,958 --> 01:16:32,500 会話帳やその他 資料の購入を了承する 正式な知らせが届いた 1144 01:16:33,291 --> 01:16:38,375 新聞上での論争のおかげで “会話帳”への世間の関心が高まり 1145 01:16:38,583 --> 01:16:42,125 それが 図書館の購買意欲をそそる 結果になったらしい 1146 01:16:44,833 --> 01:16:45,666 よし… 1147 01:16:45,833 --> 01:16:47,166 (シンドラーの声)いずれにせよ 1148 01:16:47,625 --> 01:16:53,333 国家権力が 会話帳と私の正当性を 認めたかたちになった 1149 01:16:55,958 --> 01:16:58,958 (人々の ささやき声) 1150 01:17:00,708 --> 01:17:04,375 (シンドラーの声)しかし 形勢逆転とまでは いかず 1151 01:17:04,875 --> 01:17:07,625 相変わらず 苦しい戦いは続き 1152 01:17:11,000 --> 01:17:15,000 気づいたら 数年の月日が経っていた 1153 01:17:24,291 --> 01:17:26,250 そんなある日のこと… 1154 01:17:26,375 --> 01:17:28,000 (ノックの音) 1155 01:17:31,250 --> 01:17:32,125 (舌打ち) 1156 01:17:38,125 --> 01:17:39,208 (シンドラー)はい 1157 01:17:41,083 --> 01:17:43,291 (セイヤー)あ… あの 1158 01:17:43,416 --> 01:17:44,750 はじめまして 1159 01:17:45,541 --> 01:17:48,000 私(わたくし) アメリカで 司書をやっています― 1160 01:17:48,125 --> 01:17:50,666 アレクサンダー・ウィーロック・ セイヤーと申します 1161 01:17:50,791 --> 01:17:51,625 (シンドラー)はあ 1162 01:17:53,208 --> 01:17:56,750 (セイヤー)私 ベートーヴェンの 研究をやっていまして 1163 01:17:57,208 --> 01:18:00,541 ぜひ シンドラーさんに お話をお伺いしたいと思いまして 1164 01:18:02,583 --> 01:18:03,750 私に? 1165 01:18:04,125 --> 01:18:06,083 (シンドラーの声) ホルツの回し者か? 1166 01:18:06,750 --> 01:18:07,750 (セイヤー)あ… 1167 01:18:07,875 --> 01:18:12,000 シンドラーさんの書いた著書 とても楽しく読ませていただきました 1168 01:18:12,333 --> 01:18:15,500 そうですか それはどうも 1169 01:18:16,125 --> 01:18:18,500 (シンドラーの声) どうやら 敵ではなさそうだ 1170 01:18:21,541 --> 01:18:23,208 どうぞ 中へ 1171 01:18:25,208 --> 01:18:26,416 (セイヤー)失礼します 1172 01:18:27,625 --> 01:18:31,458 (シンドラー)何しろ 世間では イタリアオペラが大流行中でさ… 1173 01:18:31,583 --> 01:18:35,500 (シンドラーの声)この若者は 純粋なベートーヴェンのファンであり 1174 01:18:35,625 --> 01:18:38,041 私の著書の熱心な読者で 1175 01:18:38,208 --> 01:18:42,833 私が話すベートーヴェンのエピソードを 興味深そうに聞いた 1176 01:18:44,416 --> 01:18:50,583 ここしばらく 自分を陥れようとする者との やり取りが続いていたこともあって 1177 01:18:51,166 --> 01:18:53,916 彼との時間は とても楽しかった 1178 01:18:59,791 --> 01:19:01,833 (セイヤー) とてもいいお話が聞けました 1179 01:19:02,041 --> 01:19:03,250 ありがとうございました 1180 01:19:03,666 --> 01:19:06,416 (シンドラー)また聞きたいことが あったら いつでもどうぞ 1181 01:19:06,625 --> 01:19:07,666 (セイヤー)失礼します 1182 01:19:14,583 --> 01:19:19,875 (シンドラーの声)彼のためにも この戦い 負けるわけにはいかない 1183 01:19:22,083 --> 01:19:26,125 それ以降も ホルツらとの孤独な戦いは続いた 1184 01:19:28,833 --> 01:19:32,750 そして1857年 1185 01:19:33,875 --> 01:19:35,375 (男性)チェルニーさん 亡くなったって 1186 01:19:35,500 --> 01:19:37,708 (男性)えー マジか… 1187 01:19:37,958 --> 01:19:39,666 (男性)66歳だって 1188 01:19:40,500 --> 01:19:44,291 (シンドラーの声)ベートーヴェンの 弟子であり ホルツ側のひとり 1189 01:19:44,625 --> 01:19:46,833 チェルニーが この世を去った 1190 01:19:54,541 --> 01:19:57,166 そして その翌年には なんと… 1191 01:20:01,458 --> 01:20:04,458 カールとホルツも 相次いで死去 1192 01:20:14,708 --> 01:20:19,541 孤独な戦いを続けてきた私に 天が味方をしてくれた 1193 01:20:22,625 --> 01:20:25,583 これで邪魔者は みんな死んだ 1194 01:20:27,291 --> 01:20:30,166 (ベートーヴェン) あいつら 死んでしまったのか 1195 01:20:32,708 --> 01:20:35,333 (シンドラーの声) ええ 残念ですが 1196 01:20:35,458 --> 01:20:37,416 天罰かもしれませんね 1197 01:20:38,125 --> 01:20:39,208 天罰? 1198 01:20:40,208 --> 01:20:44,000 (シンドラーの声)彼らは あなたの残した素晴らしい音楽や功績を 1199 01:20:44,125 --> 01:20:47,750 自らの私利私欲のために 汚(けが)そうとしていました 1200 01:20:48,583 --> 01:20:49,958 あいつらが… 1201 01:20:53,875 --> 01:20:56,083 (シンドラーの声) 心配なさらないでください 1202 01:20:56,666 --> 01:21:01,708 あなたのことは最後まで 私が責任を持ってお守りします 1203 01:21:04,166 --> 01:21:07,250 すまないな 我が友よ 1204 01:21:08,833 --> 01:21:09,833 いえ 1205 01:21:11,208 --> 01:21:13,583 これが私の使命ですから 1206 01:21:18,750 --> 01:21:20,208 (シンドラーの声)機は熟した 1207 01:21:23,083 --> 01:21:24,541 早速 私は 1208 01:21:24,666 --> 01:21:28,333 『ベートーヴェン伝』 第三版の 執筆に取りかかった 1209 01:21:29,666 --> 01:21:32,416 もう誰にも 邪魔されることはない 1210 01:21:32,625 --> 01:21:36,750 私が書いたものが そのまま 真実として民衆に伝わり 1211 01:21:37,041 --> 01:21:39,875 音楽の歴史に刻まれていく 1212 01:21:41,541 --> 01:21:44,666 そして1860年 1213 01:21:47,791 --> 01:21:51,208 『ベートーヴェン伝』 第三版は 無事 出版 1214 01:21:54,291 --> 01:21:57,375 第一版と大きく変わった点は2つ 1215 01:21:57,625 --> 01:22:00,458 1つ目は この20年の間に 描かれてきた― 1216 01:22:00,583 --> 01:22:06,625 数々の伝記や論文・新聞記事から 新しく得た情報を盛り込んでいる点 1217 01:22:07,083 --> 01:22:11,833 2つ目は この20年の間に起きた ライバルたちとの闘争 1218 01:22:12,000 --> 01:22:16,125 特に ホルツ批判には 付録の一節を丸ごと割き 1219 01:22:16,291 --> 01:22:21,708 ベートーヴェンとカールの関係が 悪化したのも 彼が原因だと書いた 1220 01:22:24,458 --> 01:22:27,958 自分を疑う当事者たちが いなくなった今 1221 01:22:28,708 --> 01:22:30,833 もはや バレることもない 1222 01:22:31,666 --> 01:22:34,125 そもそも 嘘なんて何もない 1223 01:22:34,833 --> 01:22:37,375 私は事実を補完しただけ 1224 01:22:38,250 --> 01:22:42,750 ここに書いてあることこそが真実 1225 01:22:44,500 --> 01:22:48,333 私は勝ったのだ 1226 01:22:49,000 --> 01:22:50,708 (ノックの音) 1227 01:22:57,541 --> 01:22:58,541 (シンドラー)はい 1228 01:23:02,375 --> 01:23:03,875 ご無沙汰しています 1229 01:23:04,250 --> 01:23:07,625 音楽ジャーナリストの アレクサンダー・ウィーロック・セイヤーです 1230 01:23:08,708 --> 01:23:09,958 セイヤーさん… 1231 01:23:10,166 --> 01:23:14,791 6年前に一度 こちらにお伺いしまして その時にいろいろとお話を 1232 01:23:16,666 --> 01:23:19,625 おお! あの ベートーヴェンのファンの… 1233 01:23:19,958 --> 01:23:24,166 (シンドラーの声)思い出した 彼は 私の純粋な読者 1234 01:23:25,791 --> 01:23:27,291 つまり 味方 1235 01:23:29,000 --> 01:23:31,083 さあさあ どうぞ 中へ 1236 01:23:31,250 --> 01:23:32,250 (セイヤー)失礼します 1237 01:23:38,083 --> 01:23:40,208 (シンドラー) あっ そういえば 先日… 1238 01:23:41,083 --> 01:23:43,875 あ… どうぞ 中へ 座ってください 1239 01:23:44,708 --> 01:23:49,416 『ベートーヴェン伝』の第三版を 出版しましてね 1240 01:23:49,541 --> 01:23:51,000 (セイヤー)もちろん 読みました 1241 01:23:51,125 --> 01:23:52,541 (シンドラー)そうですか 1242 01:23:53,166 --> 01:23:54,875 結構なボリュームだったでしょう? 1243 01:23:55,000 --> 01:23:56,916 (セイヤー)そうですね (シンドラー)ハハハハ… 1244 01:23:59,208 --> 01:24:00,541 (シンドラーの声)ちょうどいい 1245 01:24:01,083 --> 01:24:04,166 彼とベートーヴェンについて 語り合いながら 1246 01:24:05,333 --> 01:24:07,875 この勝利を かみしめるとしよう 1247 01:24:16,375 --> 01:24:18,875 (セイヤーの声)遡(さかのぼ)ること15年前 1248 01:24:26,791 --> 01:24:31,291 図書館司書見習いであり 一介の音楽ファンでもあった私は 1249 01:24:31,416 --> 01:24:34,625 驚きとともに その本を手に取った 1250 01:24:38,000 --> 01:24:40,208 『ルートヴィヒ・ヴァン・ ベートーヴェン伝』 1251 01:24:40,708 --> 01:24:41,916 著者は… 1252 01:24:42,125 --> 01:24:44,375 アントン・フェリックス・シンドラー 1253 01:24:46,000 --> 01:24:50,458 まさか 母国語で ベートーヴェンの伝記を読めるなんて 1254 01:24:50,583 --> 01:24:52,375 思ってもみなかった 1255 01:24:54,166 --> 01:24:57,208 どれもこれもが 初めて知るエピソードばかりで 1256 01:24:57,708 --> 01:25:01,208 私は夢中で その本を読みふけった 1257 01:25:02,041 --> 01:25:03,333 (セイヤー)ねえ 知ってる? 1258 01:25:03,583 --> 01:25:06,416 ベートーヴェンの 『交響曲第5番』ってあるじゃん 1259 01:25:06,541 --> 01:25:09,208 (友人)おお あの “ジャジャジャジャーン”って曲? 1260 01:25:09,333 --> 01:25:11,458 (セイヤー)そうそう あの“ジャジャジャジャーン”って 1261 01:25:11,583 --> 01:25:13,666 “運命が扉をたたく音”なんだって 1262 01:25:13,791 --> 01:25:15,083 へえ~ そうなんだ 1263 01:25:15,208 --> 01:25:16,666 あとさ ベートーヴェンが 1264 01:25:16,791 --> 01:25:19,166 ニ短調のピアノ・ソナタの 解釈を聞かれた時 1265 01:25:19,291 --> 01:25:20,458 何て答えたと思う? 1266 01:25:20,583 --> 01:25:23,125 (友人)何て答えたか? ああ… 1267 01:25:24,291 --> 01:25:25,291 わかんない 何? 1268 01:25:25,583 --> 01:25:28,750 “シェイクスピアの『テンペスト』を読め” っつったんだって 1269 01:25:28,875 --> 01:25:30,625 へえ~ なんか かっこいいね 1270 01:25:30,750 --> 01:25:32,125 (セイヤー)いや 最高だよね 1271 01:25:32,250 --> 01:25:34,083 ちなみに コーヒー豆を挽(ひ)く時は 1272 01:25:34,208 --> 01:25:36,333 いつも きっちり60粒 数えてたんだって 1273 01:25:36,458 --> 01:25:37,333 (友人)几帳面だね 1274 01:25:37,458 --> 01:25:40,333 いかにも天才らしい こだわりだよね 1275 01:25:40,500 --> 01:25:43,083 (セイヤーの声)天才作曲家の 知られざるエピソードに 1276 01:25:43,333 --> 01:25:45,083 私はワクワクした 1277 01:25:45,833 --> 01:25:47,791 著者のシンドラーという人は 1278 01:25:48,125 --> 01:25:50,958 ベートーヴェンの秘書を 務めていた人物だという 1279 01:25:53,125 --> 01:25:57,208 ただ 伝記に対する不満も なかったわけじゃない 1280 01:25:57,875 --> 01:26:02,208 英語の読み物としては 文の運びに ぎこちなさがある 1281 01:26:09,708 --> 01:26:14,166 エドワード・ホームズの 『モーツァルト伝』のような秀作と比べると 1282 01:26:14,500 --> 01:26:16,333 どうしても見劣りする 1283 01:26:17,375 --> 01:26:18,875 おそらく 原因は 1284 01:26:19,000 --> 01:26:23,500 英語圏の出身ではない人物が 翻訳を手がけているから 1285 01:26:26,333 --> 01:26:30,541 もし この本をベースにした より完成度の高い― 1286 01:26:31,041 --> 01:26:35,666 『アメリカ人向け改訂版・ ベートーヴェン伝』を 世に送り出せたら… 1287 01:26:36,708 --> 01:26:38,375 そう思った私は 1288 01:26:38,500 --> 01:26:43,375 早速 いくつかのベートーヴェン関連の 参考書を注文する手紙を 1289 01:26:43,500 --> 01:26:45,333 イギリスに書き送った 1290 01:26:49,041 --> 01:26:52,708 翌年 それらの書籍が 手元に届いた 1291 01:26:57,291 --> 01:27:01,125 そこには シンドラーが 自著の中で よく引用している― 1292 01:27:01,250 --> 01:27:03,208 ヴェーゲラーとリースの共著 1293 01:27:03,333 --> 01:27:07,125 『ベートーヴェンに関する 伝記的覚書』も含まれている 1294 01:27:09,125 --> 01:27:12,625 ただ この本には 英訳版がなかったので 1295 01:27:12,750 --> 01:27:15,416 私は 辞書を引きながら 読み進めた 1296 01:27:16,958 --> 01:27:20,791 そうしているうちに おかしな点に気がついた 1297 01:27:22,375 --> 01:27:27,041 この本とシンドラーの本には 微妙な食い違いがある 1298 01:27:29,291 --> 01:27:33,583 両者の間に 伝記の執筆をめぐって トラブルがあったことも 1299 01:27:33,708 --> 01:27:35,666 随所で ほのめかされている 1300 01:27:36,750 --> 01:27:39,916 どうして このような ギスギスした状況になっているのだろう? 1301 01:27:40,333 --> 01:27:44,625 どちらもベートーヴェンの 片腕のような人物のはずなのに… 1302 01:27:46,583 --> 01:27:50,416 どちらが正義で どちらが悪なのかは わからない 1303 01:27:50,625 --> 01:27:54,291 ただ どちらかが嘘をついている 1304 01:27:55,041 --> 01:27:59,375 ヨーロッパでは 両者の矛盾は どう受け止められているのだろうか? 1305 01:28:02,000 --> 01:28:07,083 膨れ上がる疑問は 私の人生に揺さぶりをかけ始めた 1306 01:28:09,500 --> 01:28:12,416 そして 3年後の1849年 1307 01:28:13,375 --> 01:28:15,166 私は決意した 1308 01:28:16,791 --> 01:28:20,541 すべてを解明し 自分自身が著者となり 1309 01:28:20,666 --> 01:28:22,750 リースともシンドラーとも異なる 1310 01:28:22,875 --> 01:28:26,708 全く新しい『ベートーヴェン伝』を 執筆しよう と 1311 01:28:28,333 --> 01:28:30,875 早速 私はヨーロッパに向かい… 1312 01:28:38,916 --> 01:28:40,916 ボンの広場に降り立った 1313 01:28:49,125 --> 01:28:51,875 ここがベートーヴェンの 生まれ育った街… 1314 01:28:55,583 --> 01:28:58,291 私は 語学学校に入り 1315 01:28:58,416 --> 01:29:00,625 苦手なドイツ語を克服し 1316 01:29:00,833 --> 01:29:04,041 ベルリン ウィーン ロンドンを訪れ 1317 01:29:04,166 --> 01:29:06,833 少しずつ 研究の地盤を固めた 1318 01:29:09,125 --> 01:29:10,416 そして5年後 1319 01:29:12,666 --> 01:29:17,541 私は『ベートーヴェン伝』の著者 シンドラーに会いに行った 1320 01:29:22,291 --> 01:29:24,416 (セイヤー)あ… あの 1321 01:29:24,708 --> 01:29:25,958 はじめまして 1322 01:29:26,500 --> 01:29:28,958 私(わたくし) アメリカで 司書をやっています― 1323 01:29:29,083 --> 01:29:31,625 アレクサンダー・ウィーロック・ セイヤーと申します 1324 01:29:32,041 --> 01:29:33,041 はあ 1325 01:29:34,166 --> 01:29:37,333 (セイヤーの声)彼は ドイツ語のおぼつかない私を 1326 01:29:37,458 --> 01:29:39,500 快く招き入れてくれた 1327 01:29:40,250 --> 01:29:41,250 失礼します 1328 01:29:42,333 --> 01:29:46,208 彼はウィーンでの公演に 消極的だったんだ 1329 01:29:46,541 --> 01:29:48,791 (セイヤーの声)彼の話は面白かった 1330 01:29:49,416 --> 01:29:52,458 ベートーヴェンにまつわる 数々のエピソードを 1331 01:29:52,583 --> 01:29:55,333 ストーリー仕立てで 巧みに語ってくれた 1332 01:29:57,041 --> 01:30:01,500 彼の話を聞いて 私は思った 1333 01:30:07,500 --> 01:30:08,500 彼は… 1334 01:30:09,416 --> 01:30:11,083 嘘をついている 1335 01:30:13,625 --> 01:30:16,166 シンドラーとの面会を終えた私は 1336 01:30:16,291 --> 01:30:19,208 その足でベルリンに向かった 1337 01:30:23,291 --> 01:30:26,333 ベルリン王立図書館 音楽部門 1338 01:30:28,708 --> 01:30:34,250 ここには ヘンデル ハイドン バッハ モーツァルト ケルビーニ 1339 01:30:34,375 --> 01:30:39,833 そして ベートーヴェンに関する書籍 5万点が収められているという 1340 01:30:45,583 --> 01:30:48,000 しかも 書籍だけでなく 1341 01:30:48,125 --> 01:30:51,333 自筆譜や手紙類 そして 1342 01:30:51,500 --> 01:30:56,125 ベートーヴェンが生前に使っていた ラッパ型の補聴器までがあった 1343 01:30:58,125 --> 01:31:00,958 正直 ファンには たまらない品々だが 1344 01:31:01,625 --> 01:31:04,541 私は これらを見るために 来たのではない 1345 01:31:13,291 --> 01:31:14,875 会話帳だ 1346 01:31:20,875 --> 01:31:22,791 私は圧倒された 1347 01:31:23,166 --> 01:31:25,333 洪水のような走り書き 1348 01:31:25,458 --> 01:31:30,458 誰も彼も 雑な筆跡で そのほとんどが不鮮明な鉛筆書き 1349 01:31:30,750 --> 01:31:34,500 第三者が 後から読み返すという 想定が全くない 1350 01:31:34,833 --> 01:31:38,916 それは想像以上に すさまじく 生々しかった 1351 01:31:41,041 --> 01:31:46,083 ここに真実が隠されている そう確信した私は… 1352 01:31:48,833 --> 01:31:51,291 その日から 図書館に通い詰めた 1353 01:31:53,958 --> 01:31:56,166 真実に たどりつくためには 1354 01:31:56,291 --> 01:31:59,666 この膨大なテキストを 片っ端から読み解くしかない 1355 01:32:01,250 --> 01:32:04,666 それは 気の遠くなるような 作業だった 1356 01:32:07,625 --> 01:32:10,041 この会話帳には脈絡がない 1357 01:32:10,500 --> 01:32:13,958 いろいろな人物が立ち現れ 時間がとび 1358 01:32:14,083 --> 01:32:16,083 話題が いつの間にか変わっている 1359 01:32:17,083 --> 01:32:19,291 通読しても意味がわからない 1360 01:32:19,625 --> 01:32:23,708 人名・曲名・事件の類いは 唐突に出てくる 1361 01:32:26,291 --> 01:32:30,208 同時期の新聞や雑誌などと 照らし合わせたりもしながら 1362 01:32:30,333 --> 01:32:33,416 私は この先の見えない作業を続けた 1363 01:32:34,458 --> 01:32:36,833 そうしていくうちに 過労がたたり 1364 01:32:36,958 --> 01:32:39,291 体調は みるみるうちに悪化 1365 01:32:39,583 --> 01:32:42,916 ついには高熱を出し 倒れた 1366 01:32:46,958 --> 01:32:50,458 結局 私は志半ばで 1367 01:32:50,583 --> 01:32:54,416 療養のためにアメリカに 帰らざるをえなくなってしまった 1368 01:32:57,958 --> 01:33:01,000 やっぱり 私には 無理だったのかもしれない 1369 01:33:02,583 --> 01:33:04,250 地元で療養しながら 1370 01:33:05,083 --> 01:33:07,625 私は諦めることを考えた 1371 01:33:12,750 --> 01:33:17,208 そんな私の目に 1冊の本が飛び込んできた 1372 01:33:22,041 --> 01:33:26,375 シンドラー著 『ベートーヴェン伝』 第三版 1373 01:33:27,750 --> 01:33:29,750 なぜ このタイミングで? 1374 01:33:31,583 --> 01:33:32,500 いや… 1375 01:33:32,625 --> 01:33:36,708 チェルニーやホルツらが この数年で 相次いで死んだことを考えれば 1376 01:33:36,833 --> 01:33:38,166 合点がいく 1377 01:33:38,583 --> 01:33:41,333 邪魔者は もういない ということか 1378 01:33:44,291 --> 01:33:47,791 彼は このまま逃げ切るつもりだ 1379 01:33:52,458 --> 01:33:54,125 そうはさせない 1380 01:33:54,750 --> 01:33:56,875 絶対に真実を暴く 1381 01:33:58,416 --> 01:34:00,708 私はシンドラーのもとへ向かった 1382 01:34:03,833 --> 01:34:05,250 (セイヤー)ご無沙汰しています 1383 01:34:05,541 --> 01:34:09,208 音楽ジャーナリストの アレクサンダー・ウィーロック・セイヤーです 1384 01:34:10,750 --> 01:34:13,708 (シンドラー)前はもっと いろいろと置いてあったんですけど 1385 01:34:14,208 --> 01:34:17,166 ほとんど 図書館に 譲ってしまいましてね 1386 01:34:17,500 --> 01:34:20,333 ここにある遺品は これだけなんですよ 1387 01:34:21,458 --> 01:34:25,041 えっと… これが 籐(とう)でつくったステッキ 1388 01:34:25,208 --> 01:34:29,583 で ビロードの紐(ひも)付きの片眼鏡 1389 01:34:30,625 --> 01:34:32,750 だいぶ汚れてますけどね 1390 01:34:37,291 --> 01:34:38,458 シンドラーさん 1391 01:34:38,708 --> 01:34:39,708 (シンドラー)はい? 1392 01:34:40,000 --> 01:34:43,041 実は あなたが かつて持っていた遺品を 1393 01:34:43,166 --> 01:34:44,916 ベルリンで見てまいりまして 1394 01:34:45,166 --> 01:34:48,083 (シンドラー)あ… そうですか 1395 01:34:48,458 --> 01:34:50,250 あそこは たくさん置いてあるでしょう? 1396 01:34:50,375 --> 01:34:51,208 ええ 1397 01:34:51,333 --> 01:34:53,541 (シンドラー)ラッパ型の補聴器は ご覧になりました? 1398 01:34:53,666 --> 01:34:54,666 ええ 1399 01:34:55,125 --> 01:34:56,416 あと 会話帳も… 1400 01:34:57,333 --> 01:34:58,750 そうですか 1401 01:34:59,708 --> 01:35:02,750 ほとんど なぐり書きで 何のこっちゃ わからなかったでしょ 1402 01:35:02,875 --> 01:35:04,083 (セイヤー)そうですね 1403 01:35:04,750 --> 01:35:08,500 あと 年によって 数に かなりばらつきがありました 1404 01:35:09,875 --> 01:35:11,083 ばらつき? 1405 01:35:12,250 --> 01:35:13,583 (セイヤー)あの会話帳は 1406 01:35:13,916 --> 01:35:19,333 1818年から1827年にかけて 使われていたものらしいんですけど 1407 01:35:19,791 --> 01:35:20,791 例えば 1408 01:35:21,083 --> 01:35:24,958 1823年分は30冊以上あるのに 1409 01:35:25,333 --> 01:35:29,958 1821年分は 1冊もなかったんですよね 1410 01:35:31,083 --> 01:35:34,250 消えた会話帳って どこに行ってしまったんですかね? 1411 01:35:39,541 --> 01:35:40,791 あれは… 1412 01:35:42,333 --> 01:35:44,083 私が処分しました 1413 01:35:45,458 --> 01:35:46,458 え? 1414 01:35:47,916 --> 01:35:50,083 (シンドラー) かさばるんですよ あれ 1415 01:35:50,625 --> 01:35:52,541 いや かさばるって… 1416 01:35:53,208 --> 01:35:55,375 (シンドラー)ベートーヴェンが 亡くなったあと 1417 01:35:55,958 --> 01:35:58,083 引っ越しが続きましてね 1418 01:35:58,500 --> 01:36:02,083 さすがに あれを全部運ぶのは 大変なんで 1419 01:36:02,333 --> 01:36:05,041 少しずつ処分したんですよ 1420 01:36:05,166 --> 01:36:06,583 (セイヤー)ちょっと待ってください 1421 01:36:07,083 --> 01:36:09,333 もともとは 何冊くらいあったんですか? 1422 01:36:10,208 --> 01:36:12,000 (シンドラー)ああ… 1423 01:36:12,916 --> 01:36:15,708 400くらいは ありましたかね 1424 01:36:16,041 --> 01:36:17,416 400? 1425 01:36:18,125 --> 01:36:22,208 …ってことは 250冊以上 処分したということですか? 1426 01:36:22,625 --> 01:36:23,750 (シンドラー)そうなりますね 1427 01:36:25,208 --> 01:36:27,083 そうなりますねって… 1428 01:36:28,000 --> 01:36:32,291 そりゃあ もちろん 悪いことをしたなとは思ってますよ 1429 01:36:32,833 --> 01:36:36,958 ただ 当時は 会話帳の重要性を認める人間が 1430 01:36:37,291 --> 01:36:39,625 私以外に いなかったんでね 1431 01:36:40,208 --> 01:36:42,958 だから 価値のなさそうなものから 1432 01:36:43,250 --> 01:36:44,916 処分したんですよ 1433 01:36:47,833 --> 01:36:48,875 それでね 1434 01:36:49,416 --> 01:36:53,833 これが『フィデリオ』の 推敲(すいこう)途中の草稿 1435 01:36:54,666 --> 01:36:56,791 この草稿は 私が死んだら 1436 01:36:56,916 --> 01:37:00,750 ブロイニングの息子さんに 譲ろうと思っているんですよ 1437 01:37:01,416 --> 01:37:03,500 彼とは 長らく親しい友人でね 1438 01:37:03,625 --> 01:37:04,958 (セイヤー)シンドラーさん 1439 01:37:05,875 --> 01:37:06,875 (シンドラー)はい 1440 01:37:09,208 --> 01:37:10,708 (セイヤー)まだ終わってないです 1441 01:37:12,208 --> 01:37:15,583 というより むしろ こっちが本題です 1442 01:37:20,791 --> 01:37:22,208 何ですか? 1443 01:37:23,625 --> 01:37:24,666 (セイヤー)15年前 1444 01:37:26,458 --> 01:37:28,625 あなたが書いたこの本を 1445 01:37:29,625 --> 01:37:31,833 私は夢中になって読みました 1446 01:37:31,958 --> 01:37:33,666 (シンドラー)それはどうも 1447 01:37:34,333 --> 01:37:35,458 ただ… 1448 01:37:36,875 --> 01:37:39,041 他の人が書いた本と 1449 01:37:39,541 --> 01:37:42,291 ところどころ 食い違っている部分があったんです 1450 01:37:42,916 --> 01:37:46,291 だから 私は 真相を確かめるために 1451 01:37:46,583 --> 01:37:50,750 ベルリンの王立図書館に行きまして あの会話帳と出会いました 1452 01:37:52,375 --> 01:37:53,583 それで? 1453 01:37:55,208 --> 01:37:56,291 (セイヤー)あなた… 1454 01:37:57,916 --> 01:38:00,041 会話帳を改ざんしましたよね? 1455 01:38:04,041 --> 01:38:05,416 改ざん? 1456 01:38:05,875 --> 01:38:06,875 (セイヤー)ええ 1457 01:38:08,666 --> 01:38:12,166 (シンドラー)ハハハッ… 1458 01:38:12,916 --> 01:38:16,458 そんなこと 私に できるわけないじゃないですか 1459 01:38:16,833 --> 01:38:19,708 もし それが本当なら 大問題でしょ 1460 01:38:20,291 --> 01:38:21,458 (セイヤー)ですから 1461 01:38:22,291 --> 01:38:24,041 大問題なんですよ 1462 01:38:26,750 --> 01:38:30,333 (シンドラー)何を根拠に そんなことをおっしゃるんですか? 1463 01:38:31,250 --> 01:38:34,708 (セイヤー)あの会話帳に 真実が隠されていると思った私は 1464 01:38:35,041 --> 01:38:39,083 図書館に通い詰めて すべて書き写し 1465 01:38:41,041 --> 01:38:42,916 6年かけて分析しました 1466 01:38:45,208 --> 01:38:46,833 会話帳の至る所に 1467 01:38:47,250 --> 01:38:49,541 後から書き足した文字がありました 1468 01:38:50,625 --> 01:38:51,625 フッ… 1469 01:38:52,125 --> 01:38:54,000 仮に そうだとしても 1470 01:38:54,458 --> 01:38:57,000 私が書き足したとは限らないでしょ 1471 01:38:57,125 --> 01:38:58,125 いえ 1472 01:38:58,833 --> 01:39:00,000 あなたです 1473 01:39:02,083 --> 01:39:04,625 (シンドラー)なぜ そう言い切れるんです? 1474 01:39:05,208 --> 01:39:07,875 (セイヤー)書き足されたと 思われる部分は どれも 1475 01:39:08,000 --> 01:39:10,208 他の人と食い違っていた部分 1476 01:39:10,750 --> 01:39:15,166 つまり あなたの本にしか 書かれていない部分です 1477 01:39:19,291 --> 01:39:21,625 あなたが書き足したんですよね? 1478 01:39:24,083 --> 01:39:28,708 『運命』の逸話も カールの自殺の動機についても 1479 01:39:29,083 --> 01:39:31,750 何もかも あなたがでっちあげた嘘です 1480 01:39:32,666 --> 01:39:35,875 結局 私が胸躍らせた英雄は 1481 01:39:36,000 --> 01:39:39,625 あなたが勝手に作り上げたものでしか なかったってことですよね? 1482 01:39:39,750 --> 01:39:42,083 私だけじゃなくて 世界中の人々に 1483 01:39:42,208 --> 01:39:44,833 あなたは偽りのベートーヴェン像を 広めたんですよ! 1484 01:39:44,958 --> 01:39:47,916 その罪がどれだけ重いか あなた わかってるんですか? 1485 01:39:48,041 --> 01:39:49,750 シンドラーさん! 1486 01:40:00,625 --> 01:40:02,625 (ため息) 1487 01:40:08,458 --> 01:40:12,166 会話帳のすべてを書き写したのなら 1488 01:40:16,208 --> 01:40:18,125 あの箇所も読んだでしょう? 1489 01:40:19,916 --> 01:40:21,125 あの箇所? 1490 01:40:22,083 --> 01:40:25,083 “ベートーヴェンを 悪く言うヤツがいたら” 1491 01:40:27,416 --> 01:40:30,875 “君は そいつを ナイフで刺すんだろうな” 1492 01:40:33,125 --> 01:40:34,125 確か… 1493 01:40:34,958 --> 01:40:37,208 あなたが 知り合いに言われた言葉… 1494 01:40:38,666 --> 01:40:40,250 (シンドラー)振り返れば 1495 01:40:41,666 --> 01:40:45,666 私には最初から それだけの覚悟がありました 1496 01:40:46,291 --> 01:40:49,083 (セイヤー)いや だからって あんな嘘を… 1497 01:40:49,416 --> 01:40:51,291 嘘なんかじゃありませんよ 1498 01:40:51,416 --> 01:40:53,333 (セイヤー)いや 嘘でしょ どう考えても 1499 01:40:55,000 --> 01:40:56,583 魔法ですよ 1500 01:40:58,375 --> 01:40:59,500 魔法? 1501 01:41:01,458 --> 01:41:04,083 民衆が求める“理想”を 1502 01:41:05,666 --> 01:41:08,625 “現実”にするための 魔法です 1503 01:41:11,333 --> 01:41:15,208 私ほど ベートーヴェンを どう世の中にプロデュースすべきか 1504 01:41:15,333 --> 01:41:17,666 考えた人間は いませんよ 1505 01:41:19,833 --> 01:41:23,625 彼は 英雄であり続けなければ いけないんです 1506 01:41:25,208 --> 01:41:28,166 そして 英雄である彼を守ることが 1507 01:41:29,875 --> 01:41:31,708 私の使命です 1508 01:41:34,666 --> 01:41:35,916 だからって 1509 01:41:36,416 --> 01:41:40,625 こんなデタラメを世の中に広めて いいわけないじゃないですか 1510 01:41:41,166 --> 01:41:42,708 そう思うなら 1511 01:41:44,416 --> 01:41:47,083 あなたが私を刺してみればいい 1512 01:41:48,666 --> 01:41:50,083 そのペンで 1513 01:41:55,708 --> 01:41:57,375 私は研究者として 1514 01:41:59,333 --> 01:42:01,000 真実を発表するまでです 1515 01:42:01,125 --> 01:42:02,500 (シンドラー)フフフフ… 1516 01:42:08,583 --> 01:42:10,333 そうですか 1517 01:42:13,333 --> 01:42:16,291 ただ これだけは 覚えておいてください 1518 01:42:19,291 --> 01:42:22,875 この私を刺し殺すということは 1519 01:42:24,041 --> 01:42:26,500 民衆が愛した英雄 1520 01:42:27,916 --> 01:42:30,750 ベートーヴェンを刺し殺すのと 1521 01:42:32,458 --> 01:42:34,625 同義だということをね 1522 01:43:00,791 --> 01:43:02,708 (野村)じゃあ そのあと セイヤーは 1523 01:43:02,833 --> 01:43:05,125 嘘だってことを 公表したんですか? 1524 01:43:05,958 --> 01:43:08,916 いや しなかったんだよ 1525 01:43:09,250 --> 01:43:10,750 (野村)え? そうなんですか? 1526 01:43:10,875 --> 01:43:11,791 (黒田)うん 1527 01:43:11,916 --> 01:43:13,625 改ざんが公表されたのは 1528 01:43:13,750 --> 01:43:18,166 シンドラーが亡くなって 100年以上経った1977年で 1529 01:43:18,541 --> 01:43:23,666 それも ドイツ国立図書館の 会話帳研究チームによって なんだよ 1530 01:43:24,750 --> 01:43:26,041 (野村)へえ~ 1531 01:43:26,541 --> 01:43:29,250 なんでセイヤーは 公表しなかったんですか? 1532 01:43:30,166 --> 01:43:32,000 うーん 1533 01:43:32,125 --> 01:43:35,583 これは先生の想像だけど 1534 01:43:36,583 --> 01:43:40,250 たぶん セイヤーも 考えに考えた末 1535 01:43:40,833 --> 01:43:45,458 それをすることが利にならないって 判断したんじゃないかな 1536 01:43:45,583 --> 01:43:47,083 利にならない? 1537 01:43:47,916 --> 01:43:49,250 (黒田)要するに 1538 01:43:49,708 --> 01:43:52,250 真実を暴くことが 1539 01:43:52,375 --> 01:43:57,166 必ずしも世の中にとって いいことではないって思ったんじゃないかな 1540 01:43:58,708 --> 01:44:03,333 (野村)でも それって 研究者失格なんじゃないですか? 1541 01:44:03,958 --> 01:44:06,458 まあ 研究者としては そうだよな 1542 01:44:07,500 --> 01:44:09,166 だから最後は 1543 01:44:09,833 --> 01:44:12,291 ベートーヴェンのファンとして 1544 01:44:13,125 --> 01:44:15,875 公表しないことを選んだのかもな 1545 01:44:18,416 --> 01:44:20,125 そっか… 1546 01:44:21,458 --> 01:44:23,416 まあ 何はともあれ 1547 01:44:24,416 --> 01:44:27,416 シンドラーは 逃げ切ったってことだな 1548 01:44:28,916 --> 01:44:30,125 そうですね 1549 01:44:32,833 --> 01:44:34,125 きっとさ 1550 01:44:34,583 --> 01:44:37,750 帰っていくセイヤーを見送りながら 1551 01:44:39,333 --> 01:44:40,458 “勝った” 1552 01:44:41,583 --> 01:44:44,500 …って ほくそ笑んだんじゃないかな 1553 01:44:47,666 --> 01:44:48,958 (シンドラーの声)勝った 1554 01:44:51,041 --> 01:44:53,041 私は守り抜いた 1555 01:44:55,625 --> 01:44:57,958 偉大なるドイツの英雄を… 1556 01:45:07,375 --> 01:45:09,875 使命を果たしたのだ 1557 01:45:15,500 --> 01:45:16,708 でも… 1558 01:45:18,708 --> 01:45:21,666 それって 先生の想像ですよね? 1559 01:45:22,666 --> 01:45:23,708 ん? 1560 01:45:25,125 --> 01:45:26,916 まあ 想像だけど 1561 01:45:28,250 --> 01:45:31,333 これ そもそもの話なんですけど 1562 01:45:32,791 --> 01:45:33,791 (黒田)何? 1563 01:45:35,625 --> 01:45:38,875 セイヤーは会話帳の改ざんを 見抜けてたんですか? 1564 01:45:41,333 --> 01:45:42,333 (黒田)え? 1565 01:45:43,708 --> 01:45:44,625 (野村)あ… 1566 01:45:44,750 --> 01:45:46,875 公表しなかったんじゃなくて 1567 01:45:47,916 --> 01:45:50,166 見抜けなかっただけ なんじゃないんですか? 1568 01:45:53,916 --> 01:45:55,291 (黒田)いや でも… 1569 01:45:56,291 --> 01:46:00,791 会話帳はシンドラーによって 処分されたって 記録に残ってるからさ 1570 01:46:01,208 --> 01:46:04,291 でも 改ざんについては 触れてないですよね? 1571 01:46:07,458 --> 01:46:10,083 まあ そうだけど 1572 01:46:11,416 --> 01:46:13,041 ってことは… 1573 01:46:14,083 --> 01:46:18,250 知ってたけど 公表しなかったっていうのも 1574 01:46:19,166 --> 01:46:21,000 先生の想像ですよね? 1575 01:46:27,583 --> 01:46:28,625 まあ 1576 01:46:30,416 --> 01:46:31,875 そうだけどさ… 1577 01:46:37,208 --> 01:46:38,083 でも 1578 01:46:39,208 --> 01:46:42,500 そのほうが ドラマチックで面白いだろ? 1579 01:46:44,375 --> 01:46:45,458 (野村)うーん… 1580 01:46:45,791 --> 01:46:47,791 そうですけど 1581 01:46:47,916 --> 01:46:49,166 (黒田)例えば ほら 1582 01:46:49,750 --> 01:46:52,666 “運命が扉をたたく”っていう 言葉だってさ 1583 01:46:53,541 --> 01:46:56,208 ベートーヴェンが 言った証拠はないけど 1584 01:46:56,791 --> 01:46:59,041 言わなかった証拠も ないわけじゃん 1585 01:47:00,166 --> 01:47:01,666 (野村)そうですね 1586 01:47:01,958 --> 01:47:03,750 だったら もう 1587 01:47:04,708 --> 01:47:09,833 “言ってた”で 俺は いいと思うけどな 1588 01:47:10,083 --> 01:47:12,083 そっちのほうが面白いし 1589 01:47:15,958 --> 01:47:20,041 たぶん 昔も今も 真実って 1590 01:47:20,458 --> 01:47:24,333 先生みたいな人によって ゆがんで伝わるんでしょうね 1591 01:47:28,166 --> 01:47:30,250 フフフフ… 1592 01:47:33,916 --> 01:47:35,166 そうかもな 1593 01:47:40,583 --> 01:47:41,583 (針を落とす音) 1594 01:47:46,291 --> 01:47:49,291 ♪『交響曲第9番 「合唱付き」』 1595 01:48:48,500 --> 01:48:51,500 ~♪ 1596 01:48:52,458 --> 01:48:53,458 (レコードの針を上げる音) 1597 01:48:56,791 --> 01:49:00,208 (野村)あ… コーヒーごちそうさまでした 1598 01:49:00,541 --> 01:49:01,791 (黒田)もう帰る? 1599 01:49:01,916 --> 01:49:03,708 (野村)はい そろそろ… 1600 01:49:04,625 --> 01:49:05,708 (黒田)そっか 1601 01:49:06,541 --> 01:49:07,958 気をつけて帰れよ 1602 01:49:08,083 --> 01:49:10,291 (野村)はい 失礼します 1603 01:49:13,583 --> 01:49:14,916 (黒田)誰にも言うなよ? 1604 01:49:19,958 --> 01:49:21,416 言わないですよ 1605 01:49:21,708 --> 01:49:23,250 利にならないんで 1606 01:49:31,625 --> 01:49:32,625 フフッ 1607 01:49:40,375 --> 01:49:43,375 ♪『ピアノ・ソナタ第23番 「熱情」』 1608 01:55:12,750 --> 01:55:15,750 ~♪