1 00:01:12,114 --> 00:01:14,533 (大輔の声) ばあちゃんが死んだ 2 00:01:15,367 --> 00:01:18,662 (絹子) できたよ はい カツ丼 3 00:01:19,038 --> 00:01:20,706 ばあちゃん特製 4 00:01:21,207 --> 00:01:22,875 いただきまーす 5 00:01:23,834 --> 00:01:26,045 (大輔の声) ばあちゃんのカツ丼には 6 00:01:26,170 --> 00:01:28,339 なぜか梅干しがのってて 7 00:01:29,173 --> 00:01:30,382 んー 8 00:01:30,508 --> 00:01:31,717 すっぺー 9 00:01:32,885 --> 00:01:35,888 大輔は食欲だけは旺盛なんだから 10 00:01:36,013 --> 00:01:38,891 (大輔の声) もう ばあちゃんのカツ丼 11 00:01:39,058 --> 00:01:41,185 食べられないのか 12 00:01:47,316 --> 00:01:49,902 いつも優しいばあちゃんを 13 00:01:50,027 --> 00:01:53,280 俺は一度だけ怒らせたことがある 14 00:01:59,328 --> 00:02:02,206 (幼い大輔) “そ れ か ら” 15 00:02:07,711 --> 00:02:09,255 (絹子) 何してるんだい! 16 00:02:09,922 --> 00:02:11,340 大輔 17 00:02:12,967 --> 00:02:15,010 〔叩く音〕 18 00:02:15,845 --> 00:02:17,179 〔泣き声〕 19 00:02:17,304 --> 00:02:21,350 本棚には絶対触るんじゃないって 言ったでしょ! 20 00:02:23,018 --> 00:02:28,440 あたしが何よりも 大切にしてるもんだからって 21 00:02:28,566 --> 00:02:32,444 〔泣き声〕 22 00:02:33,195 --> 00:02:35,739 (大輔の声) すっげー 怖くて 23 00:02:36,156 --> 00:02:39,243 俺は文字ばっかの小説が 読めなくなった 24 00:02:41,453 --> 00:02:43,539 (絹子) 悪いことしたね 25 00:02:44,039 --> 00:02:45,082 え? 26 00:02:50,588 --> 00:02:53,090 叩くつもりじゃなかったんだ 27 00:02:53,424 --> 00:02:56,135 あぁ 何年前の話だよ 28 00:02:58,637 --> 00:03:01,473 本が読めなくならなけりゃ 29 00:03:02,057 --> 00:03:05,769 大輔の人生 だいぶ違った 30 00:03:05,936 --> 00:03:09,481 フフッ そんなに たいして変わんないよ 31 00:03:13,777 --> 00:03:17,907 (大輔の声) なんでもない 平凡な食堂のばあちゃんの人生 32 00:03:18,407 --> 00:03:20,159 そう思ってた 33 00:03:21,076 --> 00:03:24,163 あの本を もう一度見るまでは 34 00:03:25,497 --> 00:03:28,500 〔波の音〕 35 00:03:39,386 --> 00:03:41,013 (大輔) 何 これ? 36 00:03:41,347 --> 00:03:43,015 (母) 大輔! 37 00:03:43,557 --> 00:03:45,726 ちゃんとやってる? 38 00:03:46,477 --> 00:03:48,437 やってますよ 39 00:03:57,821 --> 00:03:59,198 「それから」 40 00:04:01,492 --> 00:04:03,869 「それから」ねぇ 41 00:04:11,877 --> 00:04:13,379 “夏…” 42 00:04:13,879 --> 00:04:14,964 いやいや… 43 00:04:15,089 --> 00:04:16,382 “な 夏…” 44 00:04:20,052 --> 00:04:22,012 “夏目漱石”? 45 00:04:23,180 --> 00:04:24,723 母さん! 46 00:04:25,140 --> 00:04:26,225 見て これ 47 00:04:26,392 --> 00:04:28,227 夏目漱石のサイン 出てきた! 48 00:04:28,394 --> 00:04:30,020 え!? 本物? 49 00:04:30,145 --> 00:04:31,730 絶対本物だって! 50 00:04:31,897 --> 00:04:35,359 だからだよ この本 触ったから殴られたんだって 51 00:04:35,526 --> 00:04:39,238 偽物に2発はおかしいもん 4歳の可愛い孫に 52 00:04:40,406 --> 00:04:42,700 誰? “田中嘉雄”って 53 00:04:46,495 --> 00:04:48,288 (大輔) さぁ 誰だろ? 54 00:04:48,414 --> 00:04:50,249 (母) 田中嘉雄? 55 00:04:51,750 --> 00:04:53,210 田中? 56 00:04:58,924 --> 00:05:00,676 (大輔) “ビブリア…” 57 00:05:00,801 --> 00:05:02,594 “古書堂” 58 00:05:21,030 --> 00:05:23,282 ばあちゃん? いやいやいや… 59 00:05:26,952 --> 00:05:28,287 ばあちゃん! 60 00:05:29,329 --> 00:05:35,627 (大輔の声) これは古い本と それをめぐる人間のお話 61 00:05:47,306 --> 00:05:50,934 〔波の音〕 62 00:06:43,821 --> 00:06:52,704 〔鳥のさえずり〕 63 00:07:07,469 --> 00:07:09,555 (小声で) こんにちは 64 00:07:09,847 --> 00:07:11,890 すいませーん… 65 00:07:12,307 --> 00:07:18,397 〔床のきしむ音〕 66 00:07:18,564 --> 00:07:23,527 〔時計の振り子の音〕 67 00:07:53,891 --> 00:07:56,393 一 十 百 千… 68 00:07:56,518 --> 00:07:57,561 50万!? 69 00:07:57,686 --> 00:07:58,437 え? 70 00:07:58,729 --> 00:07:59,688 え? 71 00:08:00,731 --> 00:08:02,524 す… すみません! 72 00:08:02,649 --> 00:08:04,526 あー いや あの 73 00:08:04,818 --> 00:08:07,613 見てもらいたい本があるんですけど 74 00:08:07,738 --> 00:08:11,617 ビブリア古書堂 し… 篠川栞子です 75 00:08:11,783 --> 00:08:14,244 あっ 五浦大輔です 76 00:08:14,494 --> 00:08:18,582 お持ちになった本 見せていただけますか 77 00:08:18,707 --> 00:08:20,209 あ… どうぞ 78 00:08:20,667 --> 00:08:22,211 失礼します 79 00:08:24,755 --> 00:08:25,964 よいしょ 80 00:08:26,131 --> 00:08:27,216 えっと… 81 00:08:27,341 --> 00:08:29,426 これなんですけど 82 00:08:29,927 --> 00:08:32,471 死んだ ばあちゃんが 昔ここで買った本らしくて 83 00:08:32,638 --> 00:08:33,639 あー! 84 00:08:33,805 --> 00:08:37,601 夏目漱石 岩波書店新書版! 85 00:08:37,768 --> 00:08:38,644 え? 86 00:08:38,769 --> 00:08:42,773 日本で初めて漱石全集を 刊行したのが岩波書店なんです 87 00:08:43,023 --> 00:08:45,609 この廉価版も手を抜いていません 88 00:08:46,151 --> 00:08:50,155 漱石の日記を初めて 全部公開したのも この全集ですし 89 00:08:50,405 --> 00:08:55,077 解説は漱石の弟子 小宮豊隆が 改めて書き下ろしたものです 90 00:08:55,327 --> 00:08:59,456 漱石全集と呼ばれるものは 全部で30種類を超えるんです 91 00:08:59,831 --> 00:09:00,832 すごい… 92 00:09:01,041 --> 00:09:02,125 そうなんです! 93 00:09:02,334 --> 00:09:03,502 夏目漱石は 94 00:09:03,627 --> 00:09:06,672 日本で最も愛されている作家と 言っていいと思います 95 00:09:06,797 --> 00:09:08,840 いやいや 漱石じゃなくて… 96 00:09:09,007 --> 00:09:10,300 あなたが 97 00:09:10,467 --> 00:09:12,469 あっ いえ… 98 00:09:12,636 --> 00:09:13,679 あっ そうだ 99 00:09:13,804 --> 00:09:16,848 あの この中に1つサインが 書いてある本があるんですけど 100 00:09:16,974 --> 00:09:18,183 「それから」? 101 00:09:18,392 --> 00:09:19,559 「それから」 102 00:09:19,685 --> 00:09:22,771 見た感じ本物だと思うんですけど 103 00:09:25,774 --> 00:09:27,276 拝見します 104 00:09:44,042 --> 00:09:47,921 〔振り子の音〕 105 00:09:50,257 --> 00:09:55,804 〔次第に速くなる振り子の音〕 106 00:10:18,577 --> 00:10:21,038 命名は おばあ様が されたんですか? 107 00:10:21,705 --> 00:10:23,040 え? 108 00:10:23,206 --> 00:10:25,208 五浦大輔の“ダイスケ” 109 00:10:25,542 --> 00:10:26,668 さぁ… 110 00:10:27,377 --> 00:10:29,713 「それから」は お読みになってないんですか? 111 00:10:29,838 --> 00:10:30,589 はい 112 00:10:30,756 --> 00:10:33,383 本は あまり読まれないんですか? (大輔) 本が読めないんで 113 00:10:33,508 --> 00:10:34,926 おばあ様に怒られたからですか? 114 00:10:35,052 --> 00:10:37,888 なんで わかるんですか!? (栞子) おばあ様は本を大切にしていた 115 00:10:38,055 --> 00:10:40,265 誰にも触らせないほど なのに触った 116 00:10:40,724 --> 00:10:42,601 漢字の読めない4~5歳の頃 117 00:10:42,726 --> 00:10:45,771 題名が平仮名の「それから」を 手にした 随分叱られたのでは? 118 00:10:45,937 --> 00:10:48,440 2発も ぶたれました (栞子) 2発で済んだなら良かった 119 00:10:48,565 --> 00:10:50,192 もしも秘密を知られ… 120 00:10:50,859 --> 00:10:51,902 す… 121 00:10:52,152 --> 00:10:53,278 す… 122 00:10:53,570 --> 00:10:54,946 すみません 123 00:10:55,072 --> 00:10:56,114 え? 124 00:10:57,032 --> 00:11:01,870 昔から言われるんです 本を手にすると よく喋るって 125 00:11:02,579 --> 00:11:04,623 ってか“秘密”って? 126 00:11:05,123 --> 00:11:06,625 それは… 127 00:11:08,460 --> 00:11:10,128 言えません 128 00:11:10,670 --> 00:11:13,715 おばあ様のプライバシーに 触れることですので 129 00:11:14,257 --> 00:11:15,801 すみません 130 00:11:20,806 --> 00:11:23,058 (大輔) この夏目のサイン 偽物だって 131 00:11:23,266 --> 00:11:25,310 偽物ってことはさ 落書きでしょ? 132 00:11:25,477 --> 00:11:26,311 (大輔) うん 133 00:11:26,436 --> 00:11:28,313 だったら売ってらっしゃいよ 134 00:11:28,438 --> 00:11:29,815 (大輔) んー 135 00:11:30,524 --> 00:11:33,568 でも ばあちゃんが 大切にしてた本だからなぁ 136 00:11:40,200 --> 00:11:41,743 んー… 137 00:11:42,786 --> 00:11:48,333 ヤングばあちゃんは ここに一緒に置いといてあげるね 138 00:11:50,419 --> 00:11:52,921 命名は おばあ様が されたんですか? 139 00:11:53,088 --> 00:11:55,048 五浦大輔の“ダイスケ” 140 00:11:57,259 --> 00:12:00,679 (大輔) ねぇ “大輔”って名前 なんでつけたの? 141 00:12:01,471 --> 00:12:03,473 ばあちゃんが強引につけたの 142 00:12:03,598 --> 00:12:04,599 マジ? 143 00:12:05,475 --> 00:12:09,312 なんか 好きな小説に 出てくる人の名前らしいよ 144 00:12:09,438 --> 00:12:12,691 〔雨音〕 145 00:12:25,495 --> 00:12:26,955 フゥ… 146 00:12:31,001 --> 00:12:32,335 「それから」 147 00:12:35,630 --> 00:12:37,132 “誰かが” 148 00:12:37,966 --> 00:12:39,968 “慌ただしく” 149 00:12:40,302 --> 00:12:43,638 “門前を馳けて行く 足音がした時…” 150 00:12:44,389 --> 00:12:47,100 “代助の頭の中には…” 151 00:12:47,517 --> 00:12:51,354 “大きな俎下駄が…” 152 00:12:51,688 --> 00:12:54,733 “空から ぶら下がっていた…” 153 00:12:57,152 --> 00:12:59,696 (大輔の声) ばあちゃんに ビンタされて以来 154 00:12:59,821 --> 00:13:03,658 俺は活字だけが並ぶ 小説が読めない 155 00:13:04,367 --> 00:13:07,370 本を開くと 動悸や冷や汗 156 00:13:08,747 --> 00:13:11,249 〔荒い息遣い〕 157 00:13:16,087 --> 00:13:21,468 (大輔の声) 結局 主人公の名前が 代助ってことしかわからなかった 158 00:13:23,929 --> 00:13:27,015 (大輔の声) 俺 納得いかないんですよ 159 00:13:27,807 --> 00:13:30,060 あのサインが偽物なら 160 00:13:30,560 --> 00:13:33,772 なんで2発も殴られなきゃ いけなかったのか 161 00:13:35,690 --> 00:13:38,401 ばあちゃんの秘密って なんなんですか? 162 00:13:38,527 --> 00:13:42,531 殴られたトラウマで本が読めなくなった 俺にも知る権利があると… 163 00:13:42,739 --> 00:13:44,115 思うんですけど… 164 00:13:51,456 --> 00:13:53,792 ここだけの秘密に していただけますか? 165 00:13:54,960 --> 00:13:56,461 (大輔) わかりました 166 00:13:56,586 --> 00:13:58,547 夏目漱石の署名は… 167 00:14:00,465 --> 00:14:02,300 おばあ様が書いたものです 168 00:14:02,717 --> 00:14:03,635 え!? 169 00:14:04,261 --> 00:14:09,808 田中嘉雄さんは本が好きな方で 八巻「それから」を おばあ様に贈られた 170 00:14:09,933 --> 00:14:11,893 おそらく 53年前に 171 00:14:12,143 --> 00:14:14,396 なんで そんなこと わかるんですか? 172 00:14:14,646 --> 00:14:17,065 (栞子) 「それから」の中に 値札があります 173 00:14:18,316 --> 00:14:22,821 筆書きの値札は うちの店が 開業した年にだけ使用していました 174 00:14:23,446 --> 00:14:25,240 1964年 175 00:14:25,365 --> 00:14:27,784 東京オリンピックがあった年です 176 00:14:28,535 --> 00:14:29,828 なるほど 177 00:14:29,953 --> 00:14:32,163 (栞子) そこに “蔵書印”と書いてあります 178 00:14:32,622 --> 00:14:35,125 これが“蔵書印” 179 00:14:35,458 --> 00:14:39,546 所有者が自分のコレクションに押す 印鑑のようなものです 180 00:14:40,171 --> 00:14:43,174 でも 八巻にだけは 押されていません 181 00:14:45,176 --> 00:14:46,595 ほんとだ 182 00:14:47,137 --> 00:14:49,514 多分 先に八巻だけ持っていて 183 00:14:49,639 --> 00:14:55,478 全巻セットを買い 重複した八巻を 処分して 本棚に並べた 184 00:14:55,687 --> 00:14:57,355 なんで そんなことを? 185 00:14:57,522 --> 00:15:00,442 本棚に八巻だけがあると 人目をひくからです 186 00:15:00,859 --> 00:15:03,028 見られて困るなら 隠せばいいじゃないですか 187 00:15:03,278 --> 00:15:07,032 (栞子) 他の本と並べておいたほうが 安全と思われたのかもしれません 188 00:15:07,782 --> 00:15:10,785 そこまでして ご家族に見られたくなかった 189 00:15:11,870 --> 00:15:14,539 大切な人から贈られた本だから 190 00:15:16,041 --> 00:15:17,042 あっ 191 00:15:18,126 --> 00:15:19,252 あと… 192 00:15:21,546 --> 00:15:24,341 これは 献呈署名の体裁です 193 00:15:24,674 --> 00:15:25,675 (大輔) これ? 194 00:15:25,800 --> 00:15:28,887 (栞子) 献呈とは 作者が自分の名前だけでなく 195 00:15:29,054 --> 00:15:31,640 本を贈った相手の 名前も書くことを言います 196 00:15:31,848 --> 00:15:33,683 贈り相手を真ん中 197 00:15:33,808 --> 00:15:35,727 左側に著者名が一般的 198 00:15:35,852 --> 00:15:37,312 でも それは逆 199 00:15:37,437 --> 00:15:40,899 おそらく 元々は 田中嘉雄さんの署名だけがあった 200 00:15:41,066 --> 00:15:43,401 よく見ると 筆跡の違いもわかりますし 201 00:15:43,526 --> 00:15:46,696 1人の人間が書いたにしては バランスも悪い 202 00:15:47,155 --> 00:15:49,908 なんで田中さんはサインなんか 203 00:15:52,160 --> 00:15:55,580 贈り物に自分の名前を書いても 不思議ではありません 204 00:15:55,997 --> 00:16:01,461 漱石の署名は万が一見られても 贈り物と気づかれないための偽装 205 00:16:01,586 --> 00:16:04,089 そこまで隠すということは… 206 00:16:09,386 --> 00:16:12,013 人に知られてはいけない恋だった 207 00:16:12,389 --> 00:16:16,768 “人に知られてはいけない恋” 208 00:16:18,561 --> 00:16:21,731 おばあ様が結婚なさったのは いつですか? 209 00:16:24,651 --> 00:16:27,445 (母) 大船ベアリングも 不採用だって 210 00:16:27,570 --> 00:16:29,114 何 勝手に見てんだよ! 211 00:16:29,239 --> 00:16:30,949 誰が見たって結果は同じでしょ 212 00:16:31,074 --> 00:16:32,784 いや 俺のプライバシーは? 213 00:16:32,951 --> 00:16:35,912 親の脛かじってる間は プライバシーはないよ 214 00:16:36,830 --> 00:16:39,416 嫌だったら さっさと就職しな 215 00:16:41,376 --> 00:16:42,752 何してんの? 216 00:16:42,961 --> 00:16:44,003 いや… 217 00:16:47,799 --> 00:16:48,967 ねぇ! 218 00:16:49,634 --> 00:16:52,512 ばあちゃんが結婚したのって 何年かわかる? 219 00:16:52,637 --> 00:16:55,306 (母) んー 1960年 220 00:16:56,725 --> 00:16:58,852 1960… 221 00:16:59,310 --> 00:17:03,189 (栞子) 1964年 東京オリンピックがあった年です 222 00:17:03,440 --> 00:17:05,817 大切な人から贈られた本だから 223 00:17:06,609 --> 00:17:08,820 えっ 母さんって何年生まれ? 224 00:17:09,320 --> 00:17:13,450 65年 東京オリンピックの翌年 225 00:17:13,742 --> 00:17:14,659 よいしょ 226 00:17:14,826 --> 00:17:17,454 (大輔の声) ばあちゃんが 本を贈られたのは 227 00:17:17,662 --> 00:17:19,497 結婚した後 228 00:17:19,956 --> 00:17:21,082 (母) 何? 229 00:17:21,291 --> 00:17:22,417 いや… 230 00:17:25,503 --> 00:17:27,005 母さん 231 00:17:27,255 --> 00:17:30,675 夏目漱石の「それから」って 読んだことある? 232 00:17:31,342 --> 00:17:34,679 (母) ないけど 映画なら見たことあるよ 233 00:17:35,138 --> 00:17:37,348 松田優作が主演の 234 00:17:37,682 --> 00:17:43,521 確かね 主人公の男の人が よその奥さん 取っちゃうのよ 235 00:17:44,439 --> 00:17:45,565 え!? 236 00:17:49,360 --> 00:17:52,113 人に知られてはいけない恋だった 237 00:18:06,544 --> 00:18:11,966 〔風の音〕 238 00:18:30,109 --> 00:18:31,694 嘉雄さん 239 00:18:33,029 --> 00:18:36,407 絹子さん 信じてます 240 00:18:40,829 --> 00:18:43,748 (大輔の声) 人に知られてはいけない恋 241 00:18:45,333 --> 00:18:49,504 もしかして 俺の本当のじいちゃんは 242 00:18:50,004 --> 00:18:52,257 別の人ってこと? 243 00:18:53,091 --> 00:18:55,093 〔鈴の音〕 244 00:18:58,179 --> 00:19:01,266 (大輔の声) 誰も知らない ばあちゃんの秘密を 245 00:19:02,225 --> 00:19:06,521 たった1冊の本から見抜いた あの人って… 246 00:19:09,566 --> 00:19:12,277 (栞子) “僕 もう あんな 大きなやみの中だって” 247 00:19:12,402 --> 00:19:13,945 “こわくはない” 248 00:19:14,445 --> 00:19:17,615 “きっと みんなの ほんとうの幸いをさがしに行く” 249 00:19:18,575 --> 00:19:20,535 “どこまでもどこまでも” 250 00:19:20,702 --> 00:19:23,121 “僕たち一緒に進んで行こう” 251 00:19:23,997 --> 00:19:26,082 “ああ きっと行くよ” 252 00:19:27,375 --> 00:19:30,628 “カムパネルラは にわかに窓の遠くに見える” 253 00:19:30,753 --> 00:19:33,548 “きれいな野原を 指さして叫びました” 254 00:19:34,257 --> 00:19:35,925 今日は ここまで 255 00:19:36,050 --> 00:19:38,469 もうちょっと読んでよ 256 00:19:38,595 --> 00:19:40,471 じゃあ 続きは明日ね 257 00:19:40,722 --> 00:19:42,140 (子供たち) わかった 258 00:19:42,265 --> 00:19:43,266 じゃあね 259 00:19:43,391 --> 00:19:44,726 (子供たち) バイバイ 260 00:19:44,809 --> 00:19:46,144 じゃあね 気をつけてね 261 00:19:46,311 --> 00:19:47,395 バイバイ! 262 00:20:07,874 --> 00:20:11,085 (大輔) この前の お礼を言いたくて 263 00:20:12,503 --> 00:20:14,797 〔床のきしむ音〕 264 00:20:28,186 --> 00:20:32,231 あなたに本を見てもらって 265 00:20:34,776 --> 00:20:36,194 良かったです 266 00:20:42,659 --> 00:20:45,370 古書が好きなんです 267 00:20:46,663 --> 00:20:49,540 中に書かれている 物語だけではなくて 268 00:20:50,500 --> 00:20:55,672 人の手から手へ渡った本そのものに 物語があると思うんです 269 00:21:03,930 --> 00:21:05,682 〔足音〕 270 00:21:07,058 --> 00:21:08,559 〔ドスンという音〕 271 00:21:08,685 --> 00:21:11,854 (文香) 限界… 重すぎ これ ここでいい? 272 00:21:12,188 --> 00:21:14,023 カウンターまで お願いしてもいいかな? 273 00:21:15,024 --> 00:21:15,900 ハァ… 274 00:21:16,067 --> 00:21:17,360 (栞子) ごめんね 275 00:21:18,319 --> 00:21:19,904 俺 やりましょうか? 276 00:21:20,154 --> 00:21:21,531 えっ あ いや… 277 00:21:21,656 --> 00:21:23,074 大丈夫ですよ 278 00:21:23,366 --> 00:21:24,826 (栞子) すみません! 279 00:21:24,993 --> 00:21:26,077 よいしょ 280 00:21:29,539 --> 00:21:30,581 そこでいいですか? 281 00:21:30,748 --> 00:21:31,791 (栞子) はい 282 00:21:32,000 --> 00:21:33,376 すみません 283 00:21:33,626 --> 00:21:34,752 (文香) あの 284 00:21:35,044 --> 00:21:37,422 良かったら うちで働きませんか? 285 00:21:37,672 --> 00:21:38,506 え? 286 00:21:38,631 --> 00:21:40,591 (文香) やっぱね 男手があるといいよ 287 00:21:40,758 --> 00:21:42,260 何か仕事してんですか? 288 00:21:42,385 --> 00:21:43,261 無職です 289 00:21:43,386 --> 00:21:44,887 え ほんと!? じゃ 免許とか持ってる? 290 00:21:45,013 --> 00:21:46,180 持ってます 291 00:21:46,347 --> 00:21:47,390 合格! 292 00:21:47,557 --> 00:21:48,433 合格? 293 00:21:48,558 --> 00:21:51,269 文ちゃん! あの本気に なさらなくて結構ですので 294 00:21:51,394 --> 00:21:53,771 (文香) あたしは本気だよ お姉ちゃん 足ケガしてるし 295 00:21:53,896 --> 00:21:56,065 人手も足りてないし バイト欲しいんでしょ? 296 00:21:56,232 --> 00:21:57,608 欲しいのは欲しいけど… 297 00:21:57,734 --> 00:21:59,444 ほら… え ダメ? 298 00:21:59,569 --> 00:22:01,696 無職なんだよね? 働いたほうが良くない? 299 00:22:01,863 --> 00:22:03,740 俺 あの… 本読めないんで 300 00:22:03,865 --> 00:22:05,908 全然 問題ない 体力あれば なんとかなるから 301 00:22:06,034 --> 00:22:09,245 文ちゃん! 五浦さん困ってるから 302 00:22:10,204 --> 00:22:12,290 (文香) ならいいよ どうせバイト始めても 303 00:22:12,415 --> 00:22:14,459 お姉ちゃんが本の話ばっかするから 304 00:22:14,584 --> 00:22:16,753 耐えられなくて すぐ辞めちゃうだろうし 305 00:22:16,919 --> 00:22:18,463 いつも みんなそうだから 306 00:22:31,809 --> 00:22:33,144 バイト… 307 00:22:34,103 --> 00:22:35,813 僕でもいいですか? 308 00:22:36,689 --> 00:22:37,815 え? 309 00:22:37,940 --> 00:22:38,900 あ… 310 00:22:39,317 --> 00:22:42,779 でも1つだけ条件があります 311 00:22:43,821 --> 00:22:45,239 条件? 312 00:22:49,243 --> 00:22:51,245 (大輔の声) 終わりました! 313 00:22:51,662 --> 00:22:54,749 (栞子の声) 看板を 出しておいていただけますか 314 00:22:55,625 --> 00:22:57,919 (大輔の声) 次 何すればいいですか? 315 00:22:58,169 --> 00:23:00,463 (栞子の声) 電気を お願いします 316 00:23:01,672 --> 00:23:04,175 新しい本ほど回転が早いです 317 00:23:04,383 --> 00:23:05,551 なるほど 318 00:23:05,885 --> 00:23:10,306 隙間なく並べて置くと もし盗難にあっても 一目でわかります 319 00:23:10,681 --> 00:23:14,977 でも 詰め込みすぎるのは 本が傷んでしまうので 320 00:23:15,937 --> 00:23:17,688 このくらいです 321 00:23:18,981 --> 00:23:20,108 このくらい 322 00:23:20,608 --> 00:23:21,859 なるほど… 323 00:23:24,112 --> 00:23:27,115 あっ こ… ここには 注意してください 324 00:23:27,448 --> 00:23:30,785 このくさびを取ると本棚が崩れます 325 00:23:30,952 --> 00:23:32,495 崩れる!? 326 00:23:32,620 --> 00:23:33,996 それはヤバいっすね 327 00:23:34,372 --> 00:23:37,125 “くさび 触るな 危険” 328 00:23:51,222 --> 00:23:53,766 さ… 査定です 329 00:24:16,414 --> 00:24:18,249 ほんとに ありがとう 330 00:24:21,377 --> 00:24:23,379 ありがとうございました 331 00:24:25,798 --> 00:24:27,341 栞子さん 332 00:24:30,469 --> 00:24:33,598 あのう 覚えてますか? 333 00:24:36,225 --> 00:24:37,727 僕の条件 334 00:24:40,605 --> 00:24:42,106 「それから」 335 00:24:52,241 --> 00:24:56,787 “誰か慌ただしく門前を 馳けて行く足音がした時” 336 00:24:58,414 --> 00:25:04,462 “代助の頭の中には 大きな俎下駄が 空から ぶら下がっていた” 337 00:25:05,838 --> 00:25:11,719 “けれども その俎下駄は 足音の遠退くに従って” 338 00:25:12,053 --> 00:25:15,806 “すうと頭から 抜け出して消えて仕舞った” 339 00:25:16,766 --> 00:25:18,768 “そうして眼が覚めた” 340 00:25:20,478 --> 00:25:26,943 “枕元を見ると 八重の椿が一輪 畳の上に落ちている” 341 00:25:28,152 --> 00:25:33,574 “代助は昨夕 床の中で慥かに 此花の落ちる音を聞いた” 342 00:25:35,409 --> 00:25:41,749 “彼の耳には それが護謨毬を 天井裏から投げ付けた程に響いた” 343 00:25:42,750 --> 00:25:46,170 “夜が更けて 四隣が 静かな所為かとも思ったが…” 344 00:25:46,295 --> 00:25:53,928 (大輔の声) 夏目漱石の「それから」は 人妻への秘めた恋に悩む男の話だった 345 00:25:54,303 --> 00:25:57,932 “顔の輪郭が まだ出来上がらないうちに” 346 00:25:58,266 --> 00:26:04,689 “この黒い 湿んだ様に 暈された眼が ぽっと出て来る” 347 00:26:09,110 --> 00:26:11,612 今日は ここまでで 348 00:26:27,044 --> 00:26:28,879 (嘉雄の父の声) 嘉雄のヤツは―― 349 00:26:29,005 --> 00:26:33,301 いつまで あの高等遊民気取りを 続けてるもんだろうね 350 00:26:33,467 --> 00:26:34,885 働きもしないで 351 00:26:35,052 --> 00:26:37,513 作家だなんて 道楽ですものねぇ 352 00:26:37,680 --> 00:26:38,556 (嘉雄の父) んん 353 00:26:38,723 --> 00:26:41,642 (嘉雄の母) しかも1つも 書いたことがないみたいですもの 354 00:26:42,518 --> 00:26:43,894 (嘉雄の叔母) お見合いでもさせたほうが 355 00:26:44,020 --> 00:26:45,730 よろしいんじゃないんですか? 356 00:27:14,508 --> 00:27:16,427 (テレビ) 第2位に上がっています 357 00:27:16,552 --> 00:27:19,055 円谷 頑張れ 日本の円谷 358 00:27:19,555 --> 00:27:21,057 日本の円谷 頑張れ 359 00:27:21,182 --> 00:27:24,018 〔テレビ音声と声援〕 360 00:27:24,560 --> 00:27:25,728 〔強く閉める音〕 361 00:27:25,895 --> 00:27:33,778 〔テレビ音声と声援〕 362 00:27:34,403 --> 00:27:36,072 いらっしゃいませ! 363 00:27:37,114 --> 00:27:39,116 あ… ごめんなさいね ごめんなさいね 364 00:27:40,242 --> 00:27:42,119 こちらの席に どうぞ 365 00:27:42,745 --> 00:27:52,254 〔テレビ音声と声援〕 366 00:27:52,671 --> 00:27:55,049 うちはカツ丼がおすすめです 367 00:27:55,841 --> 00:27:57,134 カツ丼を 368 00:27:58,052 --> 00:28:00,388 (絹子) カツ丼 お待たせしました 369 00:28:04,558 --> 00:28:06,268 グリンピース… 370 00:28:06,435 --> 00:28:07,770 苦手ですか? 371 00:28:08,562 --> 00:28:10,106 ごめんなさいね 372 00:28:16,737 --> 00:28:17,822 どうぞ 373 00:28:17,947 --> 00:28:20,491 (客) ほら! いいとこ いいとこ! 374 00:28:20,616 --> 00:28:21,659 はーい! 375 00:28:23,285 --> 00:28:24,328 (客) 早く 早く 376 00:28:24,453 --> 00:28:25,329 (絹子) はい! 377 00:28:25,454 --> 00:28:27,790 うん! ほんとだ! 円谷 頑張ってー! 378 00:28:27,957 --> 00:28:29,333 いただきます 379 00:28:29,583 --> 00:28:41,095 〔テレビ音声と声援〕 380 00:28:42,012 --> 00:28:43,764 50円のお返しです 381 00:28:44,849 --> 00:28:46,016 ご飯粒 382 00:28:47,017 --> 00:28:48,018 こっち 383 00:28:49,645 --> 00:28:51,021 〔絹子の笑い声〕 384 00:28:51,439 --> 00:28:52,690 ごちそうさまでした 385 00:28:52,815 --> 00:28:54,650 (絹子) ありがとうございました 386 00:28:59,488 --> 00:29:00,614 〔倒れる音〕 387 00:29:11,333 --> 00:29:12,334 (絹子) あっ 388 00:29:13,002 --> 00:29:14,044 〔笑い声〕 389 00:29:18,632 --> 00:29:20,301 豪快でしたね 390 00:29:20,676 --> 00:29:22,845 着地が決まれば 金メダルだったのに 391 00:29:22,970 --> 00:29:23,888 え? 392 00:29:24,013 --> 00:29:25,556 フフッ 冗談です 393 00:29:27,308 --> 00:29:28,559 大丈夫ですか? 394 00:29:29,185 --> 00:29:30,394 痛いですよね 395 00:29:30,519 --> 00:29:31,812 あ いえ… 396 00:29:33,564 --> 00:29:34,482 あっ… 397 00:29:35,649 --> 00:29:37,526 これ 忘れないように 398 00:29:37,651 --> 00:29:38,736 (嘉雄) え… 399 00:29:38,944 --> 00:29:40,738 ご覧になったんですか? 400 00:29:42,323 --> 00:29:43,407 いえ 401 00:29:43,616 --> 00:29:44,408 え… 402 00:29:44,575 --> 00:29:46,243 ご覧になったんですね!? 403 00:29:46,410 --> 00:29:48,662 あ… でも少しです 404 00:29:48,871 --> 00:29:51,415 それに よくわかりませんでした 405 00:29:51,749 --> 00:29:56,086 そ… その これは今書いてる 小説の覚え書きなんです 406 00:29:56,337 --> 00:29:59,089 (絹子) えっ 作家さんなんですか? 407 00:29:59,924 --> 00:30:00,925 えぇ… 408 00:30:01,050 --> 00:30:02,259 へぇー 409 00:30:04,762 --> 00:30:07,890 本は どなたを お読みになられますか? 410 00:30:08,432 --> 00:30:10,184 本は あまり… 411 00:30:11,727 --> 00:30:13,437 猫が主人公の… 412 00:30:13,562 --> 00:30:16,440 なんでしたっけ? あの名前のない猫が ほら 413 00:30:16,565 --> 00:30:18,442 「吾輩は猫である」でしょうか? 414 00:30:18,567 --> 00:30:21,070 それです! 昔 教科書で読みました 415 00:30:26,575 --> 00:30:29,954 じゃあ ぜひ 今度おすすめの本 教えてください 416 00:30:30,746 --> 00:30:31,789 あ… 417 00:30:32,373 --> 00:30:33,582 はい 418 00:30:34,458 --> 00:30:36,794 (奥から) お店 閉めますよー 419 00:30:36,961 --> 00:30:38,087 はい! 420 00:30:39,588 --> 00:30:41,882 そうか あの これ ありがとうございました 421 00:30:42,007 --> 00:30:43,217 あ… はい 422 00:30:43,926 --> 00:30:44,969 じゃあ 423 00:30:53,561 --> 00:30:54,812 (嘉雄) あの… 424 00:30:56,272 --> 00:30:59,483 お名前 お伺いしても よろしいでしょうか? 425 00:31:00,609 --> 00:31:02,236 五浦絹子です 426 00:31:03,112 --> 00:31:04,446 キヌ子さん 427 00:31:07,741 --> 00:31:09,410 ありがとうございます 428 00:31:13,122 --> 00:31:14,331 〔絹子の笑い声〕 429 00:32:01,045 --> 00:32:03,130 (文香) お姉ちゃん慣れた? 430 00:32:03,255 --> 00:32:04,214 だいぶ 431 00:32:04,381 --> 00:32:06,216 あ ちょっと 大輔 ニンジン取って 432 00:32:06,383 --> 00:32:07,343 ん? 433 00:32:07,676 --> 00:32:08,719 はい 434 00:32:11,513 --> 00:32:13,057 〔パソコンの受信音〕 435 00:32:23,859 --> 00:32:28,405 〔次第に大きくなる振り子の音〕 436 00:32:28,530 --> 00:32:31,241 (栞子) 大庭葉蔵 437 00:32:34,578 --> 00:32:35,829 (文香) お姉ちゃん! 438 00:32:36,413 --> 00:32:37,748 お姉ちゃん 439 00:32:38,290 --> 00:32:39,917 ご飯 用意できたよ 440 00:32:40,250 --> 00:32:43,087 (栞子) あ… ごめん 今行く 441 00:32:43,253 --> 00:32:44,088 うん 442 00:32:44,213 --> 00:32:45,255 Go! 443 00:32:50,719 --> 00:32:53,555 もうね お姉ちゃんに 任せたら大変だから 444 00:32:53,681 --> 00:32:54,640 大変? 445 00:32:54,765 --> 00:32:57,768 こないだ カレーくらい 作れるかと思って任せたら 446 00:32:57,935 --> 00:33:01,271 買い物行って インドの歴史と 香辛料の本 買ってきて 447 00:33:01,438 --> 00:33:03,607 “いや 肉と野菜と ルーを買ってこいよ”って 448 00:33:03,732 --> 00:33:06,276 大喧嘩になったの (栞子) だっ だって… 449 00:33:06,819 --> 00:33:10,906 五浦さん カレーについて どれほど理解されてますか? 450 00:33:11,699 --> 00:33:13,534 え… 理解ですか? 451 00:33:14,076 --> 00:33:18,288 どれほどって言われると そこまで理解はしてないですけど… 452 00:33:18,414 --> 00:33:20,582 (栞子) それで カレーが作れるんですか? 453 00:33:20,708 --> 00:33:23,127 ま 簡単なやつならできますよ 454 00:33:23,627 --> 00:33:25,796 (栞子) 作れるんですか!? (大輔) 作れますよ 455 00:33:25,921 --> 00:33:28,590 あの… 本のこと以外 世間知らずなんで 456 00:33:28,716 --> 00:33:31,635 それに石段で 足滑らせて骨折るドジ 457 00:33:33,804 --> 00:33:36,640 でも 本の知識はすごいよ 458 00:33:36,765 --> 00:33:38,726 うん それだけはね 459 00:33:41,812 --> 00:33:43,147 あっ そうだ 460 00:33:43,272 --> 00:33:46,984 この店で一番高価な本って なんていう本なんですか? 461 00:33:47,109 --> 00:33:48,444 あっ なんだっけ? 462 00:33:48,610 --> 00:33:51,155 ばん… ばん… ばん… 463 00:33:51,280 --> 00:33:52,281 文ちゃん 464 00:33:52,406 --> 00:33:54,241 晩婚! じゃなくて えっと なんだっけ? 465 00:33:54,491 --> 00:33:55,659 ばん… ばん… 466 00:33:55,784 --> 00:33:57,202 言わなくていい! 467 00:34:13,260 --> 00:34:18,182 〔カモメの鳴き声〕 468 00:34:22,144 --> 00:34:24,980 ここは プロの市場のようなもので 469 00:34:25,105 --> 00:34:28,025 古書の相場は こういう場所で決まっていきます 470 00:34:36,033 --> 00:34:36,950 あ… 471 00:34:37,493 --> 00:34:38,994 「やっぱりおおかみ」 472 00:34:39,119 --> 00:34:40,454 (大輔) 見ます? 473 00:34:40,662 --> 00:34:42,372 (稲垣) 「やっぱりおおかみ」 474 00:34:42,956 --> 00:34:45,209 いいですよね 佐々木マキさん 475 00:34:45,375 --> 00:34:47,878 村上春樹の装丁で 有名になりましたけど 476 00:34:48,045 --> 00:34:51,048 オリジナルで描いた絵本も すごく面白いんですよね 477 00:34:51,632 --> 00:34:52,716 取りましょうか? 478 00:34:52,841 --> 00:34:54,259 (栞子) あ… すみません 479 00:34:54,718 --> 00:34:55,636 どうぞ 480 00:34:55,803 --> 00:34:56,553 どうも 481 00:34:56,720 --> 00:34:58,222 僕も大好きな絵本です 482 00:34:58,347 --> 00:34:59,348 私もです 483 00:34:59,473 --> 00:35:01,225 (稲垣) 同じ表情 同じセリフでも 484 00:35:01,350 --> 00:35:03,477 どんどんどんどん気持ちが 詰まっていくというか 485 00:35:03,977 --> 00:35:05,562 終わり方がいいんですよね 486 00:35:05,729 --> 00:35:07,731 終わり方で題名の意味がわかる 487 00:35:07,856 --> 00:35:09,399 (組合員) 大庭葉蔵の話 聞いてる? 488 00:35:09,525 --> 00:35:10,734 (組合員) 聞いた聞いた 489 00:35:10,901 --> 00:35:13,570 (組合員) 太宰の稀覯本 ネットで買い漁ってるヤツでしょ? 490 00:35:13,737 --> 00:35:14,988 あー そうそう 491 00:35:15,155 --> 00:35:17,741 (組合員) 高値で買い取ってくれるから まあ いいけどさぁ 492 00:35:17,866 --> 00:35:22,371 (組合員) でも名前がさ “太宰マニアの大庭葉蔵”! なぁ! 493 00:35:22,663 --> 00:35:27,251 (大輔) さっきの“大庭葉蔵”って なんなんですか? 494 00:35:28,377 --> 00:35:30,587 (栞子) “大庭葉蔵”というのは 495 00:35:30,712 --> 00:35:35,175 太宰治の「道化の華」という 短編に出てくる主人公の名前です 496 00:35:35,717 --> 00:35:38,762 (大輔) じゃあ そいつ キャラ気取ってるってことですか? 497 00:35:38,887 --> 00:35:40,264 〔稲垣の笑い声〕 498 00:35:41,265 --> 00:35:43,892 キャラか 確かにそうだね キャラだね 499 00:35:44,017 --> 00:35:47,271 あ… さっきの 「やっぱりおおかみ」さん 500 00:35:47,437 --> 00:35:50,065 へぇ さすがのセンスですね 501 00:35:50,190 --> 00:35:52,568 ボブ・ショウは珍しいですよね 502 00:35:52,734 --> 00:35:54,278 あっ すいません 503 00:35:54,570 --> 00:35:56,613 iブックカフェの稲垣です 504 00:35:56,738 --> 00:35:58,782 お店は漫画専門の ネット販売なんですけど 505 00:35:58,949 --> 00:35:59,950 え… あっ 506 00:36:00,075 --> 00:36:02,286 ビブリア古書堂の篠川です 507 00:36:02,411 --> 00:36:04,371 五浦大輔です 508 00:36:06,582 --> 00:36:10,377 さっき言ってた“大庭葉蔵”なんて 買ってくれるなら まだいいですよ 509 00:36:10,752 --> 00:36:13,463 こっちは「人造人間」を 盗まれてしまって 510 00:36:13,630 --> 00:36:14,965 盗まれた? 511 00:36:15,299 --> 00:36:17,634 田川紀久雄の 「人造人間」ですか? 512 00:36:17,759 --> 00:36:21,930 昭和23年 16歳の時に 書いたという SF漫画の 513 00:36:22,097 --> 00:36:24,474 相場で言うと 35万円ぐらいかな 514 00:36:24,933 --> 00:36:26,393 35万! 515 00:36:27,436 --> 00:36:28,478 (栞子) あの… 516 00:36:29,980 --> 00:36:33,859 ネット販売専門なのに どのように盗まれたんですか? 517 00:36:38,822 --> 00:36:40,949 うちの店に持ち込みで 来られた男性が 518 00:36:41,074 --> 00:36:43,160 査定してる間に いなくなってしまって 519 00:36:43,327 --> 00:36:46,121 気がついたら 「人造人間」もなくなってて 520 00:36:47,956 --> 00:36:50,083 どこの誰かも わかんないし 521 00:36:50,792 --> 00:36:56,006 犯人の手がかりは この本と 途中までの住所しかないんです 522 00:37:09,269 --> 00:37:10,854 (栞子) 煙突… 523 00:37:14,358 --> 00:37:15,817 栞子さん? 524 00:37:16,318 --> 00:37:19,863 これだけ わかれば 家を見つけられると思います 525 00:37:20,948 --> 00:37:22,658 車で行きません? 526 00:37:26,787 --> 00:37:28,872 (栞子) …煙突のある家です 527 00:37:29,539 --> 00:37:32,042 (稲垣) “長谷”っていうと この辺ですね 528 00:37:32,167 --> 00:37:34,878 (大輔) すいません! 重いんですけど! 529 00:37:37,214 --> 00:37:39,216 あのう 聞いてます? 530 00:37:41,301 --> 00:37:42,719 この家です 531 00:37:47,808 --> 00:37:49,393 〔チャイム〕 532 00:37:51,019 --> 00:37:52,854 なんで わかったんですか? 533 00:37:53,689 --> 00:37:56,566 (栞子の声) 持ち込まれた本は すべて日に焼けていて 534 00:37:56,692 --> 00:37:58,568 しかも煤の匂いがしました 535 00:37:59,194 --> 00:38:04,074 つまり大きな窓がたくさんあって 暖炉のある家 536 00:38:04,533 --> 00:38:06,034 (大輔・稲垣) 暖炉? 537 00:38:06,368 --> 00:38:09,329 えぇ 煙突がありましたから 538 00:38:10,914 --> 00:38:13,000 (男性) 何か御用で? 539 00:38:15,335 --> 00:38:16,712 (大輔) 気をつけてください 540 00:38:16,837 --> 00:38:17,879 (栞子) はい 541 00:38:21,717 --> 00:38:22,759 どうも 542 00:38:22,926 --> 00:38:24,720 こんにちは 543 00:38:26,221 --> 00:38:27,681 先日は どうも 544 00:38:29,933 --> 00:38:31,893 どっ どうして? 545 00:38:39,776 --> 00:38:41,236 (畑中) ほんとに 546 00:38:42,320 --> 00:38:44,156 申し訳なかった 547 00:38:46,408 --> 00:38:48,326 田川紀久雄が大好きで 548 00:38:48,493 --> 00:38:52,706 査定してもらってる時 偶然 見つけて魔が差した 549 00:38:53,415 --> 00:38:57,419 ずっと欲しかった「人造人間」を どうしても手にして読んでみたかった 550 00:39:04,593 --> 00:39:06,470 でも盗んだんですよね? 551 00:39:07,179 --> 00:39:10,474 犯罪ですよ たかが本のために 552 00:39:11,016 --> 00:39:13,935 これは立派な犯罪です 553 00:39:15,729 --> 00:39:16,646 申し訳ない 554 00:39:16,772 --> 00:39:18,940 時間がなかったんですよね? 555 00:39:20,317 --> 00:39:22,569 本を読めなくなる日まで 556 00:39:22,694 --> 00:39:23,945 (稲垣・大輔) え? 557 00:39:32,162 --> 00:39:33,330 これ 558 00:39:34,706 --> 00:39:37,167 文字が枠から はみ出しています 559 00:39:38,460 --> 00:39:42,130 今 どのくらい見えるんですか? 560 00:39:48,762 --> 00:39:50,847 見えなくなるのは 561 00:39:51,640 --> 00:39:53,600 そう遠くない 562 00:39:56,478 --> 00:39:58,438 でも 犯罪ですよね? 563 00:39:59,189 --> 00:40:00,190 ですよね? 564 00:40:00,315 --> 00:40:01,650 犯罪です 565 00:40:02,317 --> 00:40:03,527 ですが… 566 00:40:06,530 --> 00:40:10,617 盗んでしまいたくなる気持ちも わかります 567 00:40:16,164 --> 00:40:18,542 視力を失う恐怖の中で 568 00:40:19,042 --> 00:40:22,295 どうしても読んでみたい本と 出会ってしまった時 569 00:40:22,587 --> 00:40:26,007 私も同じことを してしまうかもしれません 570 00:40:28,885 --> 00:40:30,720 これ しばらくお貸しします 571 00:40:30,887 --> 00:40:31,888 (畑中・大輔) えっ!? 572 00:40:32,013 --> 00:40:33,890 いや この本がそうしろって 573 00:40:34,141 --> 00:40:36,560 愛されるのは本も嬉しいんです 574 00:40:37,060 --> 00:40:38,186 だから 575 00:40:39,688 --> 00:40:42,399 もうしばらく 愛してやってください 576 00:40:42,732 --> 00:40:45,318 ありがとうございます ほんとに 577 00:40:49,698 --> 00:40:51,992 いやぁ… 578 00:40:53,368 --> 00:40:54,411 え? 579 00:40:57,122 --> 00:40:59,416 (大輔) ここのスープは 豚骨とサバ節を使ってて 580 00:40:59,541 --> 00:41:01,585 特にサバ節が もう食べれば食べるほど 581 00:41:01,710 --> 00:41:03,545 どんどんどんどん深みに はまっていくんですよ 582 00:41:03,712 --> 00:41:06,256 そういえば 江戸川乱歩も小説家になる前 583 00:41:06,381 --> 00:41:09,426 昼は古書店をやりながら 夜は 支那そばの屋台を引いてましたよね 584 00:41:09,551 --> 00:41:13,597 そうでした! 乱歩は数多くの 職業に就いていましたからね 585 00:41:13,722 --> 00:41:18,226 英語の家庭教師 貿易商 造船所 新聞記者 タイプライターの販売 586 00:41:18,393 --> 00:41:20,770 さすが 「怪人二十面相」を 書いた作家です 587 00:41:20,896 --> 00:41:22,147 あっ ラーメンといえば 588 00:41:22,272 --> 00:41:25,108 太宰治はシジミ汁のラーメンが 好きだったみたいです 589 00:41:25,609 --> 00:41:28,945 根曲がり竹とワカメが たっぷり 入ったものが好みらしいです 590 00:41:29,070 --> 00:41:31,239 美味しそうですね (大輔) 餃子1つください! 591 00:41:31,364 --> 00:41:32,449 (店主) はい! 餃子1枚 592 00:41:32,616 --> 00:41:35,285 稲垣さん 本 好きなんですね 593 00:41:35,452 --> 00:41:37,245 何がきっかけで 好きになったんですか? 594 00:41:37,370 --> 00:41:39,122 きっかけか… 595 00:41:40,457 --> 00:41:43,126 好きな人が 本を好きだったからかな 596 00:41:50,467 --> 00:41:51,885 (嘉雄) 絹子さん 597 00:41:52,761 --> 00:41:54,262 (絹子) 「グッド・バイ」? 598 00:41:55,972 --> 00:41:57,974 良かったら読んでみてください 599 00:41:58,225 --> 00:41:59,768 太宰治 600 00:42:00,060 --> 00:42:01,311 聞いたことあります 601 00:42:01,478 --> 00:42:05,607 10人の愛人に別れを告げに行く 男の物語なんですけど 602 00:42:05,815 --> 00:42:08,485 その男の妻のフリをする女性が 603 00:42:08,610 --> 00:42:10,153 “キヌ子”っていうんです 604 00:42:10,278 --> 00:42:12,322 えっ キヌ子が出てくるんですか? 605 00:42:12,447 --> 00:42:13,907 絶世の美人として 606 00:42:14,157 --> 00:42:15,325 え~ 607 00:42:15,617 --> 00:42:16,993 でも 残念ながら 608 00:42:17,160 --> 00:42:19,079 カラスみたいな声なんです 609 00:42:19,204 --> 00:42:20,288 え? 610 00:42:21,581 --> 00:42:22,916 (だみ声で) キヌ子です 611 00:42:23,041 --> 00:42:24,251 〔2人の笑い声〕 612 00:42:28,672 --> 00:42:32,008 この本の主人公である 大庭葉蔵は 道化を演じ 613 00:42:32,175 --> 00:42:34,261 周囲を欺き続けます 614 00:42:34,427 --> 00:42:37,013 いわば 太宰の分身ですね 615 00:42:37,555 --> 00:42:41,017 太宰が一番最初に書いた 「道化の華」という作品にも 616 00:42:41,142 --> 00:42:42,852 この人物は登場します 617 00:42:43,645 --> 00:42:46,690 この本の主人公は 可哀そうな妻なんです 618 00:42:46,815 --> 00:42:49,526 その旦那が とにかく最悪なんです 619 00:42:49,693 --> 00:42:52,821 浮気はするし 果ては泥棒までするんです 620 00:42:52,946 --> 00:42:57,993 それでも奥さんは どーしても 旦那のことが嫌いになれないんです 621 00:43:16,136 --> 00:43:21,474 “僕の周囲は もう僕と同じくらいに 明るくなっている” 622 00:43:23,018 --> 00:43:26,479 “全く これまで 僕たちの現れるところ” 623 00:43:27,314 --> 00:43:31,526 “つねに ひとりでに明るく 華やかになっていったじゃないか” 624 00:43:33,695 --> 00:43:36,072 “あとは もう何も言わず” 625 00:43:37,073 --> 00:43:40,201 “早くもなく おそくもなく” 626 00:43:42,912 --> 00:43:48,710 “極めて あたりまえの歩調で まっすぐに歩いて行こう” 627 00:43:58,470 --> 00:44:03,266 “この道は どこへ つづいているのか” 628 00:44:04,684 --> 00:44:09,856 “それは 伸びて行く植物の蔓に きいたほうがよい” 629 00:44:10,690 --> 00:44:13,610 “ちっとも役に立たないもの はい” 630 00:44:14,235 --> 00:44:16,279 (絹子) “片方割れた下駄” 631 00:44:16,654 --> 00:44:18,114 “歩かない馬” 632 00:44:18,281 --> 00:44:19,991 (絹子) “破れた三味線” 633 00:44:20,283 --> 00:44:22,118 “寫らない寫眞機” 634 00:44:22,243 --> 00:44:24,079 (絹子) “つかない電球” 635 00:44:24,412 --> 00:44:26,289 “飛ばない飛行機” 636 00:44:26,873 --> 00:44:28,291 (絹子) “それから” 637 00:44:28,541 --> 00:44:29,626 “早く 早く” 638 00:44:29,751 --> 00:44:30,752 (絹子) “眞實” 639 00:44:30,877 --> 00:44:31,795 “え?” 640 00:44:31,920 --> 00:44:33,463 (絹子) “眞實” 641 00:44:34,297 --> 00:44:35,882 “野暮だなあ” 642 00:44:37,384 --> 00:44:38,635 “じゃあ” 643 00:44:40,553 --> 00:44:41,805 “忍耐” 644 00:44:42,305 --> 00:44:44,265 (絹子) “むずかしいのねぇ” 645 00:44:44,724 --> 00:44:45,558 “私は…” 646 00:44:47,977 --> 00:44:49,354 (嘉雄) “向上心” 647 00:44:50,063 --> 00:44:51,523 (絹子) “デカダン” 648 00:44:52,732 --> 00:44:54,651 (嘉雄) “おとといのお天気” 649 00:44:55,151 --> 00:44:56,486 (絹子) “私” 650 00:44:57,237 --> 00:44:58,655 “Kである” 651 00:44:59,155 --> 00:45:00,156 (嘉雄) “僕” 652 00:45:00,323 --> 00:45:01,491 (政光) 絹子~ 653 00:45:03,201 --> 00:45:05,453 (政光) お前の好きなマドレーヌ 買ってきたぞ 654 00:45:05,578 --> 00:45:07,330 (絹子) お帰りなさい 655 00:45:07,580 --> 00:45:08,581 (政光) あ… 656 00:45:13,503 --> 00:45:17,340 いつも こいつが お世話になってます 657 00:45:20,051 --> 00:45:20,844 いえ… 658 00:45:21,010 --> 00:45:24,013 もう そんな時間? ごめんなさい 読書に夢中で 659 00:45:24,222 --> 00:45:26,224 すぐに支度 始めます 660 00:45:47,829 --> 00:45:50,707 (大輔) いつも本のことばっかり 考えてるんですか? 661 00:45:51,541 --> 00:45:53,460 他に何を? 662 00:46:06,848 --> 00:46:08,558 〔スピードの上がる音〕 663 00:46:08,725 --> 00:46:09,559 え? 664 00:46:09,684 --> 00:46:11,686 (大輔) つかまっててくださいよ 665 00:46:12,687 --> 00:46:18,401 〔荒い息遣い〕 666 00:46:19,027 --> 00:46:20,570 栞子さん 667 00:46:21,529 --> 00:46:23,448 もうすぐ着きますから 668 00:46:23,573 --> 00:46:26,576 あの… 大丈夫ですか? 669 00:46:27,410 --> 00:46:28,703 大丈夫です! 670 00:46:28,828 --> 00:46:30,330 〔滑る音〕 671 00:46:31,039 --> 00:46:38,838 〔荒い息遣い〕 672 00:46:39,380 --> 00:46:40,590 おろしますよ 673 00:46:40,715 --> 00:46:41,758 (栞子) はい 674 00:46:42,425 --> 00:46:43,259 はい 675 00:46:45,178 --> 00:46:46,763 (栞子) すみません 676 00:46:53,978 --> 00:46:55,271 (大輔) ここ 677 00:46:56,189 --> 00:46:58,942 俺が見つけた秘密の場所なんです 678 00:47:12,455 --> 00:47:20,129 〔波の音〕 679 00:47:20,296 --> 00:47:22,048 (大輔) 本もいいけど 680 00:47:22,590 --> 00:47:24,717 たまには こういうのも 681 00:47:34,936 --> 00:47:36,563 (栞子) きれいです 682 00:47:52,870 --> 00:47:58,001 (栞子の声) “代助には その長い 睫毛の顫える様が能く見えた” 683 00:47:58,501 --> 00:48:01,212 “僕の存在には貴方が必要だ” 684 00:48:01,504 --> 00:48:03,381 “何うしても必要だ” 685 00:48:04,132 --> 00:48:07,677 “僕は それだけの事を 貴方に話したいために” 686 00:48:07,969 --> 00:48:10,430 “わざわざ貴方を呼んだのです” 687 00:48:18,187 --> 00:48:20,398 いい言葉だなぁ 688 00:48:20,565 --> 00:48:22,525 俺も言ってみたいなぁ 689 00:48:27,113 --> 00:48:31,451 (大輔) 栞子さんは なんで本が好きになったんですか? 690 00:48:32,368 --> 00:48:34,579 助けてもらったから 691 00:48:35,330 --> 00:48:36,623 本に? 692 00:48:39,459 --> 00:48:46,174 母が家族を捨てて出ていった時 私 泣いてばかりいたんです 693 00:48:47,175 --> 00:48:48,801 そんな私に 694 00:48:49,302 --> 00:48:54,557 ビブリア古書堂を始めた祖父が 本を読んでくれるようになりました 695 00:48:57,018 --> 00:49:01,606 本は 私を知らない世界へ 696 00:49:03,441 --> 00:49:05,568 知らない時代へ 697 00:49:06,361 --> 00:49:11,908 そして知らない人々と 出会わせてくれて 698 00:49:14,535 --> 00:49:20,333 だから私は祖父から 譲り受けたビブリア古書堂を 699 00:49:21,042 --> 00:49:24,253 なんとしても 守らないといけないと思ってます 700 00:49:34,055 --> 00:49:38,434 私に秘密があったら 聞きたいですか? 701 00:49:38,768 --> 00:49:39,894 え… 702 00:49:40,311 --> 00:49:42,939 あ… 聞きたいです 703 00:49:51,531 --> 00:49:54,450 〔ホックをはずす音〕 704 00:49:58,204 --> 00:50:03,626 (栞子) 2か月前 急な石段から 転げ落ちてケガをしました 705 00:50:04,919 --> 00:50:09,132 みんなには足を滑らせたと 説明しました 706 00:50:10,425 --> 00:50:12,927 でも 本当は 707 00:50:15,096 --> 00:50:17,056 突き落とされたんです 708 00:50:18,141 --> 00:50:19,142 え!? 709 00:50:35,074 --> 00:50:39,287 すべては この本から始まりました 710 00:50:40,246 --> 00:50:42,290 (大輔) “ばん… ねん” 711 00:50:42,415 --> 00:50:44,959 太宰治の処女作品集です 712 00:50:45,084 --> 00:50:46,335 どうぞ 713 00:50:47,128 --> 00:50:48,671 (大輔) すいません 714 00:50:49,297 --> 00:50:54,177 (栞子) 昭和11年 砂子屋書房から 刊行された初版本です 715 00:50:57,013 --> 00:51:01,517 祖父から受け継いだ 私個人の大切なコレクションです 716 00:51:03,936 --> 00:51:05,354 袋とじ? 717 00:51:05,480 --> 00:51:06,981 アンカットです 718 00:51:07,106 --> 00:51:08,524 アンカット? 719 00:51:08,649 --> 00:51:12,278 本というのは 普通1枚の紙を八つに折って 720 00:51:12,403 --> 00:51:15,114 製本されてから きれいに切っていきます 721 00:51:15,531 --> 00:51:19,410 アンカットというのは 切らないまま出版された本のことです 722 00:51:19,535 --> 00:51:22,121 えっ じゃあ どうやって読むんですか? 723 00:51:24,165 --> 00:51:27,043 ペーパーナイフで切りながら 読んでいくんです 724 00:51:27,168 --> 00:51:28,544 あ~ 725 00:51:31,172 --> 00:51:32,298 “治”? 726 00:51:32,423 --> 00:51:35,218 えっ この“治”って 727 00:51:35,510 --> 00:51:37,220 まさか本物? 728 00:51:40,014 --> 00:51:43,226 初版の印刷は たった500冊 729 00:51:43,851 --> 00:51:48,231 アンカットのままで 帯付き 署名まで入った美本は 730 00:51:48,731 --> 00:51:51,901 この1冊以外に 存在しないかもしれません 731 00:51:53,027 --> 00:51:55,071 そのつもりはありませんが 732 00:51:55,196 --> 00:51:59,075 売るとしたら300万円以上の 値を付けると思います 733 00:52:09,877 --> 00:52:12,046 私を突き落としたのは 734 00:52:13,381 --> 00:52:16,092 おそらく大庭葉蔵です 735 00:52:16,592 --> 00:52:18,177 太宰マニアの? 736 00:52:18,386 --> 00:52:19,512 はい 737 00:52:20,847 --> 00:52:21,889 でも 738 00:52:23,057 --> 00:52:26,102 大庭葉蔵の正体は わかりません 739 00:52:27,228 --> 00:52:30,273 長谷にある文学館は ご存じですか? 740 00:52:30,565 --> 00:52:34,735 数か月前 そこで 太宰治の回顧展があり 741 00:52:34,861 --> 00:52:38,447 私の所有する「晩年」を 展示させてほしいと依頼され 742 00:52:38,614 --> 00:52:40,908 お貸しすることにしたんです 743 00:52:41,242 --> 00:52:42,577 〔受信音〕 744 00:52:42,785 --> 00:52:48,207 回顧展が終わった後 “大庭葉蔵”と 名乗る方からメールが来ました 745 00:52:49,375 --> 00:52:51,878 大庭葉蔵は 「晩年」に収録された―― 746 00:52:52,003 --> 00:52:54,964 「道化の華」という短編の 主人公の名前です 747 00:52:55,756 --> 00:52:58,467 なのでイタズラだと思いました 748 00:52:59,594 --> 00:53:02,597 売るつもりはないと 返信したのですが… 749 00:53:03,264 --> 00:53:05,224 〔受信音〕 750 00:53:05,892 --> 00:53:13,816 〔いくつもの受信音〕 751 00:53:14,317 --> 00:53:19,572 メールの内容が 次第に しつこく乱暴になっていったんです 752 00:53:24,911 --> 00:53:28,205 そして ある雨の夜… 753 00:53:33,127 --> 00:53:34,670 (栞子) すみません 754 00:53:40,468 --> 00:53:42,511 (男) 僕の「晩年」はどこ? 755 00:53:45,514 --> 00:53:49,352 〔雷鳴〕 756 00:53:53,147 --> 00:53:54,148 (栞子) う… 757 00:53:54,273 --> 00:53:56,442 〔雷鳴〕 758 00:53:57,485 --> 00:53:59,362 (男) 誰にも言うな 759 00:53:59,820 --> 00:54:02,323 話せば店に火をつける 760 00:54:06,160 --> 00:54:07,662 (栞子) うっ… 761 00:54:10,164 --> 00:54:14,293 大庭葉蔵を捕まえるのに 協力してくれませんか 762 00:54:17,004 --> 00:54:19,298 どうしても守りたいんです 763 00:54:24,512 --> 00:54:28,391 五浦さんしか 頼れる人はいないんです 764 00:54:31,102 --> 00:54:32,561 わかりました 765 00:54:33,229 --> 00:54:35,856 でも 1つ条件があります 766 00:54:36,649 --> 00:54:37,900 条件? 767 00:54:38,317 --> 00:54:44,198 太宰治について 「晩年」について 詳しく教えてください 768 00:54:45,491 --> 00:54:46,534 はい! 769 00:54:47,576 --> 00:54:48,744 あっ 太宰治といえば… 770 00:54:48,911 --> 00:54:49,912 いや! 771 00:54:50,037 --> 00:54:52,081 今日は もう遅いんで 772 00:54:52,665 --> 00:54:53,708 あ… 773 00:54:54,208 --> 00:54:55,710 すみません 774 00:54:56,502 --> 00:54:58,087 そうですよね 775 00:54:58,921 --> 00:54:59,922 〔笑い声〕 776 00:55:07,722 --> 00:55:12,101 (大輔の声) 俺は 栞子さんと「晩年」を守ってみせる 777 00:55:13,936 --> 00:55:36,292 〔キーボードのタイプ音〕 778 00:55:41,756 --> 00:55:47,720 〔江ノ電の走行音〕 779 00:56:05,946 --> 00:56:07,114 ん? 780 00:56:15,956 --> 00:56:17,041 ん? 781 00:56:27,843 --> 00:56:32,306 この写真の「晩年」と ここにある 「晩年」って関係あります? 782 00:56:33,682 --> 00:56:40,106 祖父は太宰の親族から「晩年」を 直接買い取ったと話していました 783 00:56:40,815 --> 00:56:44,985 それに うちにあるものには 帯が付いていますが 784 00:56:45,319 --> 00:56:49,532 この「晩年」には この時点で 帯が付いていないようです 785 00:56:49,990 --> 00:56:51,951 なので ここにある「晩年」とは… 786 00:56:52,076 --> 00:56:55,329 関係ないなら いいんです 気づいたから 一応伝えておこうと 787 00:56:55,454 --> 00:56:57,832 大庭葉蔵に繋がる ヒントになるかなって 788 00:56:58,999 --> 00:57:00,835 この写真は どこに? 789 00:57:00,960 --> 00:57:03,170 (大輔) こないだ見てもらった 「それから」に入ってました 790 00:57:03,295 --> 00:57:05,339 田中嘉雄さんの署名のあった? 791 00:57:05,548 --> 00:57:06,715 (大輔) はい 792 00:57:08,717 --> 00:57:13,764 (栞子) これは田中嘉雄さんが撮った 写真だと思います 793 00:57:13,889 --> 00:57:14,890 (大輔) え? 794 00:57:15,015 --> 00:57:18,727 机の上の様子から 田中さんは おそらく作家 795 00:57:19,061 --> 00:57:21,522 もしくは作家を目指されていた 796 00:57:25,901 --> 00:57:28,529 (大輔) じゃあ この写真の「晩年」は 797 00:57:28,904 --> 00:57:31,407 田中嘉雄さんのもの? 798 00:57:46,213 --> 00:57:47,423 (配達員) すいません 799 00:57:47,548 --> 00:57:48,674 (絹子) はい! 800 00:57:48,924 --> 00:57:50,384 (配達員) 郵便です 801 00:57:50,885 --> 00:57:52,511 ありがとうございます 802 00:58:16,076 --> 00:58:18,412 読んでほしい本があるんです 803 00:58:36,096 --> 00:58:41,435 〔風の音〕 804 00:58:47,733 --> 00:58:49,151 (絹子) あっ 嘉雄さん 805 00:59:04,291 --> 00:59:09,004 この道は どこへ続くのでしょうか 806 00:59:17,346 --> 00:59:23,477 〔木々のざわめき〕 807 00:59:25,312 --> 00:59:27,856 “みんなバカバカしい冬の花火だ” 808 00:59:30,150 --> 00:59:33,195 太宰治って ほんとに面白い人ですね 809 00:59:33,362 --> 00:59:35,197 (嘉雄) 太宰治の小説には 810 00:59:35,364 --> 00:59:38,701 いわゆるダメな男と女ばっかり 出てくるんです 811 00:59:38,993 --> 00:59:40,035 へぇ… 812 00:59:41,161 --> 00:59:42,204 (嘉雄) フフフッ 813 00:59:42,329 --> 00:59:43,831 でも 僕も 814 00:59:45,165 --> 00:59:47,793 太宰みたいな小説を書きたいな 815 00:59:51,672 --> 00:59:55,551 いっそ 太宰治に なりたいとすら思います 816 01:00:02,016 --> 01:00:03,183 私は 817 01:00:05,352 --> 01:00:07,563 太宰の小説じゃなくて 818 01:00:08,314 --> 01:00:11,191 嘉雄さんの書いた小説が 読んでみたいです 819 01:00:20,409 --> 01:00:21,869 (嘉雄の声) “絹子様” 820 01:00:22,369 --> 01:00:27,416 “この度 長い小説に取り掛かるため 西伊豆に籠もります” 821 01:00:27,750 --> 01:00:29,001 “嘉雄” 822 01:00:30,002 --> 01:00:31,587 (絹子の声) “嘉雄様” 823 01:00:32,004 --> 01:00:33,839 “とても楽しみです” 824 01:00:34,673 --> 01:00:38,927 “嘉雄さんの小説が とても楽しみです” 825 01:00:40,054 --> 01:00:41,180 “絹子” 826 01:00:43,682 --> 01:00:45,017 (嘉雄の声) “絹子様” 827 01:00:45,601 --> 01:00:47,686 “1つ お願いがあります” 828 01:00:48,187 --> 01:00:51,774 “ある資料を西伊豆に 持ってきていただけないでしょうか” 829 01:00:53,400 --> 01:00:55,944 “どうしても必要なのです” 830 01:00:57,696 --> 01:00:59,406 (絹子) 嘉雄さん! 831 01:01:06,288 --> 01:01:08,791 これで お役に立てますでしょうか 832 01:01:08,916 --> 01:01:11,627 ありがとうございます これで戦後の食材と… 833 01:03:10,037 --> 01:03:15,751 〔波立つ音〕 834 01:03:18,504 --> 01:03:19,588 〔シャッター音〕 835 01:03:21,423 --> 01:03:22,591 油断してた 836 01:03:32,893 --> 01:03:34,102 絹子さん 837 01:03:36,104 --> 01:03:37,731 もし ここで 838 01:03:38,190 --> 01:03:42,778 あの海で太宰みたいに 一緒に死んでくれって言ったら 839 01:03:43,612 --> 01:03:45,739 絹子さん どうしますか? 840 01:03:57,209 --> 01:03:59,127 横っ面 はたいて 841 01:03:59,253 --> 01:04:01,463 生きていましょって言います 842 01:04:06,260 --> 01:04:07,302 だって 843 01:04:09,054 --> 01:04:11,139 どんなに つらくても 844 01:04:12,432 --> 01:04:14,476 生きてさえいれば 845 01:04:29,074 --> 01:04:31,159 “自信モテ生キヨ” 846 01:04:31,868 --> 01:04:33,996 “生キトシ生クルモノ” 847 01:04:34,496 --> 01:04:38,000 “スベテ コレ 罪ノ子ナレバ” 848 01:04:40,294 --> 01:04:42,212 (絹子) なんですか それ? 849 01:04:43,630 --> 01:04:45,757 太宰治の「晩年」です 850 01:04:57,311 --> 01:04:59,479 “自信モテ生キヨ” 851 01:05:00,480 --> 01:05:02,774 “生キトシ生クルモノ” 852 01:05:03,275 --> 01:05:06,987 “スベテ コレ 罪ノ子ナレバ” 853 01:05:11,491 --> 01:05:12,784 絹子さん 854 01:05:13,535 --> 01:05:16,038 今書いてる小説が出版されたら 855 01:05:16,330 --> 01:05:20,500 そしたら また ここに来て 一緒に「晩年」を読んでくれませんか 856 01:05:31,178 --> 01:05:32,262 (仲居) 田中様 857 01:05:32,387 --> 01:05:33,388 (嘉雄) はい 858 01:05:33,513 --> 01:05:35,515 (仲居) お客様が お見えです 859 01:05:37,184 --> 01:05:38,810 (嘉雄の叔母) 嘉雄さん! 860 01:05:44,232 --> 01:05:45,484 嘉雄さん 861 01:05:50,155 --> 01:05:52,658 いい加減 よく考えてらっしゃいな 862 01:05:54,201 --> 01:05:57,496 (嘉雄) 叔母さま 僕は見合いなどしません 863 01:05:58,163 --> 01:06:00,749 小説家になると決めましたから 864 01:06:03,835 --> 01:06:04,920 (嘉雄の叔母) でも 865 01:06:05,170 --> 01:06:07,756 もう決まったことですから 866 01:06:31,405 --> 01:06:37,536 〔書く音〕 867 01:06:48,547 --> 01:07:07,441 〔書く音〕 868 01:07:16,283 --> 01:07:17,659 〔万年筆を置く音〕 869 01:07:19,286 --> 01:07:20,495 (嘉雄) ハァ… 870 01:07:21,288 --> 01:07:22,330 フゥ… 871 01:07:47,481 --> 01:07:49,357 (栞子の声) “自信モテ生キヨ” 872 01:07:50,442 --> 01:07:52,527 “生キトシ生クルモノ” 873 01:07:52,736 --> 01:07:56,114 “スベテ コレ 罪ノ子ナレバ” 874 01:07:59,659 --> 01:08:01,203 (大輔) なんですか これ? 875 01:08:01,369 --> 01:08:03,163 太宰の言葉です 876 01:08:03,663 --> 01:08:08,376 “生きている者は 誰でも業が深い”と 私は解釈しています 877 01:08:09,336 --> 01:08:11,213 業が深い 878 01:08:11,880 --> 01:08:15,133 自分のことを言われているようで 好きなんです 879 01:08:16,176 --> 01:08:18,887 (大輔の声) 栞子さんの 「晩年」を守るため 880 01:08:19,930 --> 01:08:23,892 俺たちは大庭葉蔵を おびき寄せる方法を考えた 881 01:08:30,982 --> 01:08:33,068 (大輔) 本当にいいんですか? 882 01:08:33,902 --> 01:08:34,945 はい 883 01:08:37,531 --> 01:08:42,160 あとは 売りに出したことを ウェブサイトに載せます 884 01:08:44,996 --> 01:08:48,875 大庭葉蔵から連絡が来たら すぐに連絡ください 885 01:08:51,294 --> 01:08:52,420 はい 886 01:08:56,049 --> 01:08:57,384 ただいま! 887 01:08:58,009 --> 01:08:59,261 あっ これ… 888 01:08:59,386 --> 01:09:01,054 今 入って大丈夫な感じ? 889 01:09:01,763 --> 01:09:03,223 (大輔・栞子) 大丈夫 890 01:09:05,267 --> 01:09:06,268 あれ? 891 01:09:06,393 --> 01:09:08,770 これ うちで一番高い本じゃない? 892 01:09:09,062 --> 01:09:10,605 あぁ そうだね 893 01:09:10,772 --> 01:09:12,732 (文香) 売っちゃうんだ 894 01:09:12,899 --> 01:09:13,775 うん 895 01:09:13,942 --> 01:09:16,444 そっか 家計苦しいもんね うち 896 01:09:17,946 --> 01:09:18,780 え? 897 01:09:18,905 --> 01:09:22,033 けど 350万円もするのに ここに置いといて大丈夫なの? 898 01:09:22,284 --> 01:09:23,410 それは… 899 01:09:23,702 --> 01:09:24,786 その… 900 01:09:28,081 --> 01:09:29,457 展示用の偽物 901 01:09:29,624 --> 01:09:31,126 偽物!? (栞子) シー! 902 01:09:31,459 --> 01:09:33,420 本物は金庫にあるの 903 01:09:36,423 --> 01:09:37,966 (客) きれいだねぇ 904 01:09:38,091 --> 01:09:40,135 (栞子) そうなんです はい 905 01:09:40,635 --> 01:09:41,970 状態いいよね 906 01:09:42,554 --> 01:09:43,763 (客) 素晴らしいですよ 907 01:09:43,889 --> 01:09:46,474 (客) 帯もきれいだしさ (栞子) ありがとうございます 908 01:09:47,142 --> 01:09:50,770 栞子さんは なんで今 「晩年」を売りに出したんですか? 909 01:09:50,937 --> 01:09:51,813 え? 910 01:09:51,980 --> 01:09:54,441 僕も お金があったら買いたいな 911 01:09:56,276 --> 01:09:57,485 いえ その… 912 01:09:57,611 --> 01:09:59,821 あっ 餃子 食べません? 913 01:10:00,572 --> 01:10:02,657 すいません あの 餃子 3つください! 914 01:10:02,782 --> 01:10:04,242 (店員) はい 餃子! 915 01:10:11,625 --> 01:10:13,293 (稲垣) ついてましたよ 916 01:10:20,008 --> 01:10:22,010 “自信モテ生キヨ” 917 01:10:22,469 --> 01:10:24,179 “生キトシ生クルモノ” 918 01:10:24,304 --> 01:10:26,848 “スベテ コレ 罪ノ子ナレバ” 919 01:10:31,144 --> 01:10:33,855 以前 長谷の文学館で見たんです 920 01:10:33,980 --> 01:10:36,691 自分のことを 言われてるような気がして 921 01:10:37,150 --> 01:10:39,694 とても感銘を受けたんですよね 922 01:10:40,362 --> 01:10:42,530 僕も見に行っていいですか 923 01:10:42,697 --> 01:10:43,865 「晩年」 924 01:10:50,288 --> 01:10:51,706 (稲垣) 足 大丈夫ですか? 925 01:10:51,831 --> 01:10:52,999 (栞子) はい 926 01:10:54,709 --> 01:10:56,378 すみません 927 01:10:59,047 --> 01:10:59,881 あっ! 928 01:11:05,470 --> 01:11:07,222 (稲垣) 栞子さん ここで待っててください 929 01:11:07,347 --> 01:11:08,723 待てー! 930 01:11:19,317 --> 01:11:23,571 〔走る足音〕 931 01:11:23,697 --> 01:11:25,156 (大輔) 待てー! 932 01:11:36,042 --> 01:11:37,085 クソ… 933 01:11:37,335 --> 01:11:38,670 待てー! 934 01:11:55,145 --> 01:11:56,438 クソッ 935 01:12:03,028 --> 01:12:04,112 栞子さん? 936 01:12:06,573 --> 01:12:07,782 栞子さん! 937 01:12:15,290 --> 01:12:16,750 大丈夫ですか? 938 01:12:24,632 --> 01:12:26,134 「晩年」が… 939 01:12:29,721 --> 01:12:31,056 ひどい 940 01:12:32,557 --> 01:12:34,476 なんなんだよ アイツ 941 01:12:34,601 --> 01:12:36,603 たかが本のために ここまで 942 01:12:37,270 --> 01:12:39,147 栞子さん 本物は? 943 01:12:39,606 --> 01:12:40,648 あ… 944 01:12:44,736 --> 01:12:46,112 (文香) ただいま 945 01:12:46,279 --> 01:12:47,989 ちょっと 何これ!? 946 01:12:48,239 --> 01:12:50,825 えっ 何? どうしたの? 947 01:12:51,117 --> 01:12:53,661 (大輔) 良かったー 無事だ 948 01:12:54,829 --> 01:12:56,498 ありました (文香) 何が? 949 01:12:58,083 --> 01:12:59,167 誰? 950 01:12:59,793 --> 01:13:02,003 え ちょっと… 何があったの? 951 01:13:05,465 --> 01:13:08,343 (文香) じゃあ 石段で 滑って転んだの 嘘だったの? 952 01:13:10,970 --> 01:13:14,766 で その本 わざと売り出したの? 犯人をおびき寄せようって? 953 01:13:16,935 --> 01:13:18,353 なんなの それ! 954 01:13:18,478 --> 01:13:20,814 もう そんな危ない本 もう売っちゃおうよ 955 01:13:20,980 --> 01:13:26,277 文ちゃんは この本のこと なんにも知らないから そうやって 956 01:13:28,321 --> 01:13:29,864 知らないよ 957 01:13:30,448 --> 01:13:31,616 だから 何? 958 01:13:31,825 --> 01:13:33,952 あたしの気持ちは? わからない? 959 01:13:37,705 --> 01:13:38,706 嘘 960 01:13:39,624 --> 01:13:41,668 私 その本のこと知ってる 961 01:13:42,585 --> 01:13:45,672 あたしたちを危険な目にあわせる 最悪な本だ 間違ってる? 962 01:13:48,967 --> 01:13:50,552 バカみたい 963 01:13:51,594 --> 01:13:53,012 バカだよ 964 01:13:53,263 --> 01:13:56,349 〔荒い足音〕 965 01:14:10,864 --> 01:14:14,033 でも まあ… 良かったじゃないですか 966 01:14:14,159 --> 01:14:15,660 本物が無事で 967 01:14:18,830 --> 01:14:20,999 (稲垣) どこが 良かったんですか? 968 01:14:21,708 --> 01:14:22,750 (大輔) え? 969 01:14:22,876 --> 01:14:24,711 ちっとも良くないだろ 970 01:14:25,378 --> 01:14:27,380 栞子さんが そんな危険な目にあって 971 01:14:27,505 --> 01:14:28,840 店も こんな… 972 01:14:32,051 --> 01:14:35,889 結局 本の価値が わからないから そういうことが言えるんだな 973 01:15:07,086 --> 01:15:10,423 俺が預かっても いいですか? この本 974 01:15:11,424 --> 01:15:12,258 え? 975 01:15:12,383 --> 01:15:14,135 騒ぎが終わるまで 976 01:15:14,260 --> 01:15:18,056 どんなことが起きても 命をかけて守るんで 977 01:15:19,224 --> 01:15:21,768 あ… いや あの… 978 01:15:21,893 --> 01:15:26,231 そりゃあ 俺は本のこと 何も知らないけど 979 01:15:26,773 --> 01:15:27,732 でも… 980 01:15:29,776 --> 01:15:31,945 栞子さんの気持ちは 981 01:15:32,111 --> 01:15:35,573 それは よくわかってる つもりなんで 982 01:15:35,782 --> 01:15:37,659 あっ でも それは… 983 01:15:37,784 --> 01:15:39,410 信じてください 984 01:15:41,371 --> 01:15:47,043 〔犬の吠え声〕 985 01:16:14,988 --> 01:16:16,656 〔解錠音〕 986 01:16:24,122 --> 01:16:26,499 あっ 「晩年」「晩年」 987 01:16:29,168 --> 01:16:30,211 ハァ… 988 01:16:30,378 --> 01:16:31,671 あった 989 01:16:32,672 --> 01:16:34,132 〔スタンガンの音〕 990 01:16:39,012 --> 01:16:40,805 (配達員) 朝刊です 991 01:16:44,309 --> 01:16:45,560 お兄さん 992 01:16:45,810 --> 01:16:47,020 お兄さん 大丈夫? 993 01:16:47,145 --> 01:16:48,354 (大輔) あっ 994 01:16:48,479 --> 01:16:50,648 朝刊 風邪ひかないように 995 01:16:50,898 --> 01:16:52,692 (大輔) ありがとうございます 996 01:16:54,902 --> 01:16:55,903 「晩年」! 997 01:16:56,070 --> 01:16:57,864 「晩年」 「晩年」「晩年」… 998 01:16:58,865 --> 01:17:00,241 ハァ… 999 01:17:14,839 --> 01:17:16,674 どうされたんですか? 1000 01:17:19,260 --> 01:17:20,762 「晩年」が―― 1001 01:17:21,721 --> 01:17:24,182 奪われてしまいました 1002 01:17:24,515 --> 01:17:25,600 え… 1003 01:17:26,893 --> 01:17:29,562 死んでも守るって言ったのに 1004 01:17:30,563 --> 01:17:31,689 俺… 1005 01:17:39,739 --> 01:17:41,532 そうでしたか 1006 01:17:56,255 --> 01:17:57,715 大丈夫です 1007 01:17:59,133 --> 01:18:00,218 え? 1008 01:18:02,095 --> 01:18:04,472 五浦さんに預けた「晩年」も 1009 01:18:04,680 --> 01:18:07,433 私が汚しをかけた復刻版です 1010 01:18:10,561 --> 01:18:13,272 復刻版は2冊持っていたので 1011 01:18:13,398 --> 01:18:17,735 1つはケースに 1つは金庫に入れました 1012 01:18:18,945 --> 01:18:20,488 …っていうことは 1013 01:18:21,114 --> 01:18:24,992 偽物? 俺が持って帰ったやつも 1014 01:18:25,159 --> 01:18:26,285 はい 1015 01:18:41,134 --> 01:18:43,428 俺も騙したってことですか? 1016 01:18:44,137 --> 01:18:44,971 あ… 1017 01:18:45,096 --> 01:18:47,598 そ… そういうことでは 1018 01:18:47,849 --> 01:18:50,268 念のためといいますか 1019 01:18:50,685 --> 01:18:52,854 あの金庫も もう古いですし 1020 01:18:53,020 --> 01:18:55,440 その… 心配で… 1021 01:18:57,024 --> 01:18:59,360 まさか 五浦さんが 持って帰るとは思わなくて 1022 01:18:59,527 --> 01:19:02,196 なんで 言って くれなかったんですか? 1023 01:19:03,030 --> 01:19:05,533 もう1冊 偽物があるって 1024 01:19:06,284 --> 01:19:07,201 (栞子) え? 1025 01:19:07,326 --> 01:19:09,871 だって おかしいじゃないですか そんなの 1026 01:19:10,705 --> 01:19:12,206 一緒に… 1027 01:19:13,499 --> 01:19:16,085 捕まえるんじゃなかったんですか 1028 01:19:17,295 --> 01:19:18,629 大庭葉蔵 1029 01:19:18,838 --> 01:19:19,881 それは… 1030 01:19:20,006 --> 01:19:21,841 (大輔) まあ 結果的に 1031 01:19:22,008 --> 01:19:26,804 奪われてしまったわけで 何か言える立場じゃないですけど 1032 01:19:31,184 --> 01:19:32,351 けど… 1033 01:19:33,811 --> 01:19:35,396 偽物って 1034 01:19:36,481 --> 01:19:38,316 あ… あの… 1035 01:19:39,525 --> 01:19:40,902 私も… 1036 01:19:42,236 --> 01:19:44,697 本物を手放すのが怖くて 1037 01:19:44,822 --> 01:19:46,908 信じてもらえてなかったって ことですよね 1038 01:19:47,033 --> 01:19:48,743 いえ そんなことは… 1039 01:19:49,535 --> 01:19:50,578 た… 1040 01:19:53,039 --> 01:19:54,749 た… ただ… 1041 01:19:56,876 --> 01:19:58,586 五浦さんには 1042 01:20:00,004 --> 01:20:03,758 大切な本を 手元に 置いておきたい気持ちが 1043 01:20:04,509 --> 01:20:07,386 わからないかもしれないって 1044 01:20:10,973 --> 01:20:17,146 俺が本を読む人じゃないから そう思うんですか? 1045 01:20:17,647 --> 01:20:18,523 あ… 1046 01:20:19,440 --> 01:20:21,442 仰る通りですよ 1047 01:20:22,360 --> 01:20:27,365 俺は本を愛する栞子さんの 気持ちが理解できない 1048 01:20:28,824 --> 01:20:32,453 やっぱり あの人に頼めば いいんじゃないですか 稲垣さん 1049 01:20:32,703 --> 01:20:36,290 本を愛する気持ちが 理解できる人だから 彼は 1050 01:20:43,756 --> 01:20:44,966 店… 1051 01:20:45,883 --> 01:20:47,260 辞めます 1052 01:20:56,769 --> 01:20:58,646 お世話になりました 1053 01:22:56,972 --> 01:23:06,607 〔絹子の足音〕 1054 01:23:07,274 --> 01:23:10,528 (嘉雄の叔母) テニスとバイオリンを たしなんでらっしゃるんですよ 1055 01:23:10,736 --> 01:23:13,114 まあ 素敵ですわ 1056 01:23:13,280 --> 01:23:15,783 おうちでブラームスを 聞けるなんて 1057 01:23:15,950 --> 01:23:17,952 ねぇ 嘉雄さん 1058 01:23:48,774 --> 01:23:49,942 絹子 1059 01:23:51,902 --> 01:23:53,446 どこ行くんだ 1060 01:23:55,281 --> 01:23:57,158 葉書を出しに 1061 01:24:01,829 --> 01:24:04,999 もうすぐ 店開けるぞ 1062 01:24:06,751 --> 01:24:09,128 それまでには戻ります 1063 01:24:11,172 --> 01:24:12,798 野菜 切っとけよ 1064 01:24:13,632 --> 01:24:14,675 はい 1065 01:24:25,311 --> 01:24:30,733 〔風の音〕 1066 01:24:47,833 --> 01:24:50,127 遅くなって ごめんなさい 1067 01:24:52,087 --> 01:24:53,839 (嘉雄) 見合いをしました 1068 01:24:57,885 --> 01:24:59,011 そう 1069 01:25:00,221 --> 01:25:02,348 (嘉雄) でも ダメなんです 1070 01:25:02,556 --> 01:25:04,308 貴方でないと 1071 01:25:04,809 --> 01:25:07,561 絹子さんでないとダメなんです 1072 01:25:12,191 --> 01:25:13,317 でも 私は… 1073 01:25:13,442 --> 01:25:16,570 僕と一緒に逃げてください 1074 01:25:19,698 --> 01:25:21,742 この本を読んでみてください 1075 01:25:21,909 --> 01:25:24,370 僕の気持ちが伝わるはずです 1076 01:25:26,539 --> 01:25:30,668 僕は すべてを捨てる 決意をしました 1077 01:25:34,171 --> 01:25:36,423 もう小説を書くのもやめます 1078 01:25:36,549 --> 01:25:40,052 あなたのために働いて あなたと一緒に暮らしていく 1079 01:25:41,053 --> 01:25:41,887 でも… 1080 01:25:42,012 --> 01:25:44,265 来週の日曜の朝7時 1081 01:25:45,432 --> 01:25:47,059 ここで待ってます 1082 01:25:58,237 --> 01:25:59,697 (絹子) 嘉雄さん 1083 01:26:01,073 --> 01:26:04,535 絹子さん 信じてます 1084 01:26:10,291 --> 01:26:12,459 (嘉雄の声) “自信モテ生キヨ” 1085 01:26:12,751 --> 01:26:14,670 “生キトシ生クルモノ” 1086 01:26:15,254 --> 01:26:18,465 “スベテ コレ 罪ノ子ナレバ” 1087 01:26:35,441 --> 01:26:41,989 “誰か慌ただしく門前を 馳けて行く足音がした時” 1088 01:26:44,074 --> 01:26:52,917 “代助の頭の中には 大きな俎下駄が 空から ぶら下がっていた” 1089 01:26:54,919 --> 01:27:03,177 “けれども その俎下駄は 足音の遠退くに従って” 1090 01:27:04,136 --> 01:27:08,015 “すうと頭から 抜け出して消えて仕舞った” 1091 01:27:09,308 --> 01:27:10,434 うっ… 1092 01:27:12,811 --> 01:27:14,355 〔おう吐する声〕 1093 01:27:15,689 --> 01:27:19,068 〔おう吐する声〕 1094 01:27:23,739 --> 01:27:24,865 ハァ… 1095 01:27:37,836 --> 01:27:42,800 (絹子の声) “僕の存在には貴方が必要だ” 1096 01:27:45,052 --> 01:27:47,346 “何うしても必要だ” 1097 01:29:05,591 --> 01:29:07,760 (政光) おい! どこ行く? 1098 01:29:13,474 --> 01:29:16,810 その子は 俺の子だ 1099 01:30:47,734 --> 01:31:16,180 〔波立つ音〕 1100 01:31:35,240 --> 01:31:37,201 フゥ… 1101 01:32:18,492 --> 01:32:19,993 ただいま 1102 01:32:26,750 --> 01:32:28,460 お姉ちゃんさ 1103 01:32:30,462 --> 01:32:32,839 本が大切なのはわかる 1104 01:32:34,341 --> 01:32:38,095 だけど本にはない気持ちってのが 人にはあるんだからね 1105 01:32:43,934 --> 01:32:46,770 何度言っても お姉ちゃんには わかんないのかな 1106 01:32:51,441 --> 01:32:52,651 〔受信音〕 1107 01:32:55,988 --> 01:33:00,158 〔キーボードのタイプ音〕 1108 01:33:19,219 --> 01:33:21,847 (男性) こんにちは! マスター (マスター) あっ どうも 1109 01:33:21,972 --> 01:33:24,516 (男性) “劇団しおさい”です チラシ置かしてください 1110 01:33:24,683 --> 01:33:26,727 いいですか? いつものところに (マスター) もちろんです 1111 01:33:26,893 --> 01:33:27,811 あっ! 1112 01:33:28,228 --> 01:33:29,146 あっ 1113 01:33:29,730 --> 01:33:31,523 (大輔) お前 ちょっと待て! 1114 01:33:31,690 --> 01:33:34,318 見えてんじゃねぇかよ! どういうことだよ お前! 1115 01:33:34,443 --> 01:33:37,404 いや… 稲垣に言われたんだよ! 1116 01:33:37,529 --> 01:33:38,363 は? 1117 01:33:38,488 --> 01:33:39,323 いやいや… 1118 01:33:39,448 --> 01:33:42,034 金だよ金! 俺は言われた通りに やっただけだよ 1119 01:33:42,284 --> 01:33:43,910 芝居だよ 芝居! 1120 01:33:44,453 --> 01:33:47,998 火つけたのも 店襲ったのも 全部 稲垣に言われたんだよ 1121 01:33:49,416 --> 01:33:50,834 マジか 1122 01:33:52,044 --> 01:33:54,087 お金 後で払いに来るから! 1123 01:33:54,379 --> 01:33:57,758 〔キーボードのタイプ音〕 1124 01:34:21,114 --> 01:34:26,161 〔せき込み〕 1125 01:34:26,870 --> 01:34:28,205 おじいちゃん! 1126 01:34:30,415 --> 01:34:33,043 おじいちゃん! 早く逃げようよ! 1127 01:34:33,919 --> 01:34:35,253 早く! 1128 01:35:01,780 --> 01:35:06,743 〔キーボードのタイプ音〕 1129 01:35:07,536 --> 01:35:08,829 〔スタンガンの音〕 1130 01:35:13,041 --> 01:35:16,837 〔キーボードのタイプ音〕 1131 01:35:18,088 --> 01:35:19,464 〔雷鳴〕 1132 01:35:39,401 --> 01:35:41,445 (栞子) “人間 失格” 1133 01:35:42,737 --> 01:35:44,364 こんにちは 1134 01:35:46,533 --> 01:35:50,704 〔床のきしむ音〕 1135 01:35:55,000 --> 01:35:57,335 いろいろ回りくどかったですかね 1136 01:35:57,961 --> 01:36:00,005 僕 人見知りなんで 1137 01:36:01,006 --> 01:36:05,218 バイトの彼も都合よく辞めてくれて 本当に良かった 1138 01:36:08,847 --> 01:36:10,348 でも まあ… 1139 01:36:13,518 --> 01:36:14,895 栞子さん 1140 01:36:17,481 --> 01:36:19,900 “どうにか なる” 1141 01:36:25,697 --> 01:36:29,075 〔踏切の警報音〕 1142 01:36:29,242 --> 01:36:30,744 クッソ! 1143 01:37:05,529 --> 01:37:06,905 僕の 1144 01:37:07,781 --> 01:37:09,449 「晩年」は 1145 01:37:12,786 --> 01:37:13,828 どこ? 1146 01:37:16,581 --> 01:37:18,250 僕の本 返してよ 1147 01:37:20,293 --> 01:37:21,878 違います 1148 01:37:23,547 --> 01:37:27,634 この本は 私の祖父の本です 1149 01:37:35,600 --> 01:37:36,601 ふ~ん 1150 01:37:36,977 --> 01:37:39,479 “この本”ねぇ 1151 01:37:40,313 --> 01:37:43,108 「日本歴史大辞典」 1152 01:37:51,241 --> 01:37:55,120 「世界児童文学傑作選」 1153 01:37:57,998 --> 01:37:59,332 見つけた 1154 01:38:03,003 --> 01:38:04,963 見せてくださいよ 1155 01:38:05,213 --> 01:38:06,506 本物 1156 01:38:19,311 --> 01:38:20,520 おっし 1157 01:38:24,816 --> 01:38:26,610 僕の本 返してよ 1158 01:38:27,861 --> 01:38:29,696 僕の「晩年」 1159 01:38:30,530 --> 01:38:32,073 返してよ 1160 01:38:37,287 --> 01:38:39,497 ねぇ 栞子さん 1161 01:38:44,336 --> 01:38:45,545 栞子さん! 1162 01:38:46,463 --> 01:38:50,717 “僕は 悪魔の傲慢さもて” 1163 01:38:51,176 --> 01:38:53,511 “僕は 悪魔の傲慢さもて” 1164 01:38:55,347 --> 01:38:59,184 “われ よみがえるとも 園は死ねと願ったのだ” 1165 01:39:01,186 --> 01:39:02,479 名文でしょ 1166 01:39:02,604 --> 01:39:03,563 ハッ… 1167 01:39:04,856 --> 01:39:05,982 お姉ちゃん! 1168 01:39:29,255 --> 01:39:30,924 (大輔) 栞子さん! 大庭葉蔵の… 1169 01:39:31,049 --> 01:39:31,925 マジか 1170 01:39:32,050 --> 01:39:33,051 大輔! 1171 01:39:34,010 --> 01:39:35,595 Go! (栞子) 文ちゃんも逃げて 1172 01:39:35,720 --> 01:39:36,763 わかった 1173 01:39:36,930 --> 01:39:38,348 え!? え? 1174 01:39:38,682 --> 01:39:40,266 〔エンジンの始動音〕 1175 01:39:40,392 --> 01:39:43,687 〔車の走り去る音〕 1176 01:40:13,550 --> 01:40:14,718 (大輔) マジか 1177 01:40:22,350 --> 01:40:23,309 ん? 1178 01:40:29,023 --> 01:40:30,024 やっべ 1179 01:40:30,233 --> 01:40:31,776 (栞子) 五浦さん 1180 01:40:42,120 --> 01:40:43,413 五浦さん 1181 01:40:56,968 --> 01:40:59,012 〔船の汽笛〕 1182 01:41:07,353 --> 01:41:10,523 〔クラクション〕 1183 01:41:26,498 --> 01:41:27,874 マジか 1184 01:41:28,041 --> 01:41:29,167 〔レバーの操作音〕 1185 01:41:29,459 --> 01:41:31,669 (大輔) あ… マジか 〔クラクション〕 1186 01:41:31,961 --> 01:41:33,171 五浦さん 1187 01:41:33,296 --> 01:41:36,049 〔後続車のクラクション〕 1188 01:41:49,395 --> 01:41:50,396 栞子さん! 1189 01:41:50,563 --> 01:41:51,481 はい! 1190 01:42:23,555 --> 01:42:25,723 (稲垣) “自信モテ生キヨ” 1191 01:42:27,350 --> 01:42:29,435 “生キトシ生クルモノ” 1192 01:42:31,813 --> 01:42:34,190 “スベテ コレ 罪ノ子ナレバ” 1193 01:42:38,403 --> 01:42:41,406 僕らのような人間を 祝福する言葉だと思わない? 1194 01:42:43,741 --> 01:42:45,076 私は… 1195 01:42:46,119 --> 01:42:48,121 何 言ってんだよ 1196 01:42:48,705 --> 01:42:50,915 この人は お前とは全然違う! 1197 01:42:54,836 --> 01:42:55,795 〔スタンガンの音〕 1198 01:42:55,962 --> 01:42:56,880 五浦さん! 1199 01:42:57,463 --> 01:42:59,507 (大輔) ウ… アアッ 1200 01:42:59,632 --> 01:43:00,967 (栞子) 五浦さん! 1201 01:43:01,718 --> 01:43:04,470 〔大輔のうめき声〕 1202 01:43:04,762 --> 01:43:06,472 僕の「晩年」返してよ 1203 01:43:08,975 --> 01:43:10,310 僕のでしょ? 1204 01:43:11,519 --> 01:43:12,478 ねぇ 1205 01:43:14,105 --> 01:43:15,315 (大輔) アッ! 1206 01:43:17,817 --> 01:43:21,029 (稲垣) ねぇ 返してよ 僕の「晩年」でしょ? 1207 01:43:23,156 --> 01:43:24,782 アアッ ウッ… 1208 01:43:24,991 --> 01:43:26,159 〔蹴る音〕 1209 01:43:27,118 --> 01:43:29,162 〔大輔のせき込み〕 1210 01:43:30,121 --> 01:43:31,164 ねぇ 1211 01:43:31,998 --> 01:43:33,374 返してよ 1212 01:43:37,462 --> 01:43:38,671 アッ… 1213 01:43:39,797 --> 01:43:41,174 うああっ! 1214 01:43:41,341 --> 01:43:42,592 栞子さん! 1215 01:43:45,136 --> 01:43:46,262 (大輔) アッ! 1216 01:43:49,057 --> 01:43:52,518 〔大輔のうめき声〕 1217 01:43:53,019 --> 01:43:54,687 やめてください! 1218 01:43:54,938 --> 01:43:56,773 「晩年」は僕のものだ! 1219 01:43:56,940 --> 01:44:03,780 〔うめき声〕 1220 01:44:11,621 --> 01:44:13,081 大輔さん! 1221 01:44:20,171 --> 01:44:21,756 やめてください! 1222 01:44:24,467 --> 01:44:27,887 すべて 終わりにします 1223 01:44:30,390 --> 01:44:31,599 (稲垣) 終わり? 1224 01:44:38,189 --> 01:44:40,400 お前に そんなこと できるわけないだろ! 1225 01:44:44,529 --> 01:44:46,656 本だけが すべてじゃない 1226 01:44:48,199 --> 01:44:50,868 ダメだ 栞子さん 1227 01:44:54,372 --> 01:44:55,373 やめろ 1228 01:45:30,408 --> 01:45:31,576 大輔さん! 1229 01:45:47,759 --> 01:45:49,302 大輔さん 1230 01:46:28,591 --> 01:46:30,009 大輔さん 1231 01:46:41,020 --> 01:46:46,275 (大輔の声) 稲垣さんの本名は 田中敏雄って名前だった 1232 01:46:48,361 --> 01:46:52,323 嘘みたいで 信じられない話なんだけど 1233 01:46:54,158 --> 01:46:57,703 俺たち2人のじいちゃんは同じ―― 1234 01:46:58,329 --> 01:47:00,665 あの田中嘉雄だった 1235 01:47:24,063 --> 01:47:25,398 〔テレビ:花火の音〕 1236 01:47:25,565 --> 01:47:32,738 〔花火の音と歓声〕 1237 01:47:32,905 --> 01:47:37,910 〔花火の音〕 1238 01:47:49,005 --> 01:47:50,256 すいません 1239 01:47:53,551 --> 01:47:54,594 どうぞ 1240 01:48:27,668 --> 01:48:28,961 カツ丼 1241 01:48:30,796 --> 01:48:32,632 (絹子) かしこまりました 1242 01:48:40,723 --> 01:48:54,153 〔波立つ音〕 1243 01:48:58,574 --> 01:48:59,659 (絹子) どうぞ 1244 01:49:39,699 --> 01:49:41,075 (嘉雄の声) “この道は” 1245 01:49:41,701 --> 01:49:43,869 “どこへ 続くのでしょうか?” 1246 01:49:45,830 --> 01:49:48,582 “絹子の唇が そう呟いたのは” 1247 01:49:49,500 --> 01:49:53,879 “苔むした古道の坂を 上り終えた時だった” 1248 01:49:56,507 --> 01:49:59,176 “一等 白く見えた 風の光は” 1249 01:49:59,969 --> 01:50:04,557 “瞬く間に 私の前から 立ち消えてしまった” 1250 01:50:16,360 --> 01:50:18,154 “切通坂” 1251 01:50:21,741 --> 01:50:25,828 “私は二度と この坂を上ることも” 1252 01:50:26,412 --> 01:50:29,415 “そして 下ることも” 1253 01:50:30,833 --> 01:50:33,044 “決してないであろう” 1254 01:50:48,225 --> 01:50:52,688 〔鳥のさえずり〕 1255 01:51:13,918 --> 01:51:16,128 じいちゃんの小説は 1256 01:51:19,965 --> 01:51:22,510 惨めな恋の私小説だった 1257 01:51:26,472 --> 01:51:29,225 ほんと くっだらない… 1258 01:51:32,269 --> 01:51:34,397 いい小説なんだ 1259 01:52:28,951 --> 01:52:30,953 どんな話だったんですか? 1260 01:52:41,464 --> 01:52:42,882 これは 1261 01:52:45,843 --> 01:52:48,888 ご自分で読んでみては いかがですか 1262 01:53:37,019 --> 01:53:43,567 (大輔の声) “「切通坂」 田中嘉雄” 1263 01:53:46,237 --> 01:53:47,947 フゥ… 1264 01:54:23,983 --> 01:54:44,587 〔波立つ音〕 1265 01:55:13,198 --> 01:55:14,617 栞子さん 1266 01:55:22,416 --> 01:55:26,837 僕の存在には貴方が必要です 1267 01:55:41,560 --> 01:56:08,921 ♪~ 1268 01:56:09,088 --> 01:56:15,719 ♪春は水辺に艶やかさ求めて 1269 01:56:16,095 --> 01:56:21,433 ♪旅情に映ゆ白鷺たちの舞い 1270 01:56:23,102 --> 01:56:29,733 ♪花が大地に根を張り芽生えるように 1271 01:56:30,192 --> 01:56:36,782 ♪雪解けの水 絶えざるを願う頃 1272 01:56:37,783 --> 01:56:40,327 ♪坂を駆け上がり 1273 01:56:40,452 --> 01:56:44,623 ♪振り向けばそこに…すぐそこに 1274 01:56:44,748 --> 01:56:47,334 ♪騒ぐ南風 1275 01:56:47,459 --> 01:56:51,213 ♪海が待っていた 1276 01:56:51,380 --> 01:56:55,008 ♪100年前に消えた 1277 01:56:55,300 --> 01:56:58,262 ♪君と出会った交差点 1278 01:56:58,429 --> 01:57:05,310 ♪人影もなく寂しげな 1279 01:57:05,811 --> 01:57:08,772 ♪歴史の闇に埋もれ 1280 01:57:08,897 --> 01:57:12,276 ♪時に弄ばれて 1281 01:57:12,693 --> 01:57:19,324 ♪今ここに生まれ変わるよ 1282 01:57:19,658 --> 01:57:33,088 ♪~ 1283 01:57:33,255 --> 01:57:39,845 ♪交わす口唇柔らかく激しく 1284 01:57:40,220 --> 01:57:45,642 ♪ほつれた髪は潮風に濡れ 1285 01:57:47,311 --> 01:57:53,859 ♪月の雫を指先で集めて 1286 01:57:54,276 --> 01:58:00,949 ♪淫らな酔いが盃に溢れ出す 1287 01:58:01,950 --> 01:58:04,411 ♪風の切り通し 1288 01:58:04,536 --> 01:58:08,832 ♪秋の空橙々…空橙々 1289 01:58:08,957 --> 01:58:11,418 ♪苔生すやぐらで 1290 01:58:11,543 --> 01:58:15,422 ♪誰か呼んでいる 1291 01:58:15,589 --> 01:58:18,842 ♪100年経った今も 1292 01:58:18,967 --> 01:58:22,262 ♪君を守ってくれる 1293 01:58:22,429 --> 01:58:29,394 ♪姿なき人の思いよ 1294 01:58:29,603 --> 01:58:32,940 ♪憎しみさえも消えて 1295 01:58:33,065 --> 01:58:36,401 ♪未来に愛を込めて 1296 01:58:36,568 --> 01:58:43,325 ♪永遠の旅は続くよ 1297 01:58:43,534 --> 01:59:04,596 ♪~ 1298 01:59:04,763 --> 01:59:11,645 ♪La la la… 1299 01:59:11,770 --> 01:59:18,902 ♪生きとし生けるものよ 1300 01:59:20,320 --> 01:59:23,615 ♪100年前に消えた 1301 01:59:23,782 --> 01:59:27,119 ♪君と出会った交差点 1302 01:59:27,286 --> 01:59:34,209 ♪街路樹は何を見ていた 1303 01:59:34,334 --> 01:59:37,671 ♪歴史の闇に埋もれ 1304 01:59:37,796 --> 01:59:41,133 ♪時に弄ばれて 1305 01:59:41,258 --> 01:59:47,931 ♪今謎が解き明かされる 1306 01:59:48,098 --> 01:59:55,439 ♪今 ビブリアの闇は晴れてゆく 1307 01:59:55,606 --> 02:00:14,541 ♪~