1 00:00:24,066 --> 00:00:27,570 〔調理場の喧騒〕 2 00:00:37,496 --> 00:00:38,831 (ナレーション)江戸時代 3 00:00:39,206 --> 00:00:43,711 将軍家や大名家には 台所御用を務める 4 00:00:43,878 --> 00:00:46,046 武士の料理人たちがいた 5 00:00:47,214 --> 00:00:50,926 主君のため 刀を包丁に持ちかえて 6 00:00:51,051 --> 00:00:54,138 日々の食事をまかなう 侍たちを 7 00:00:54,305 --> 00:00:57,933 人々は揶揄と 親しみをこめて 8 00:00:58,225 --> 00:01:00,311 “包丁侍”と呼んだ 9 00:01:04,732 --> 00:02:05,292 ♪ 10 00:02:05,459 --> 00:02:07,920 (浜路)さあ お方さま 11 00:02:08,045 --> 00:02:09,421 (お貞の方)うん… 12 00:02:28,148 --> 00:02:30,609 (春) 生姜の粥でございます 13 00:02:43,831 --> 00:02:45,332 うまい 14 00:02:48,294 --> 00:02:52,339 体が ほっこり暖まって 風邪の薬になります 15 00:02:53,632 --> 00:02:56,468 これは誰に習ったのか? 16 00:02:56,886 --> 00:03:00,055 はい 死んだ母に教わりました 17 00:03:03,225 --> 00:03:05,185 〔腹が鳴る音〕 18 00:03:08,689 --> 00:03:10,566 フフフ… 19 00:03:11,859 --> 00:03:13,861 春も一緒に食べましょう 20 00:03:15,029 --> 00:03:18,782 春の作ってくれるものは 本当に おいしい 21 00:03:19,909 --> 00:03:24,038 〔能楽の囃子と謡〕 22 00:03:29,418 --> 00:03:33,047 〔囃子と謡〕 23 00:04:17,758 --> 00:04:19,635 〔腹が鳴る音〕 24 00:04:30,270 --> 00:04:33,774 春 何か おなかに入れなさい 25 00:04:35,901 --> 00:04:36,944 ほら 26 00:04:37,194 --> 00:04:40,489 お前の喜びそうな料理が いっぱい 27 00:04:41,156 --> 00:04:43,450 さようでございますか 28 00:04:43,701 --> 00:04:44,785 では 29 00:04:45,703 --> 00:04:46,787 (浜路) 春! 30 00:04:48,414 --> 00:04:50,374 少しは慎みなさい 31 00:04:50,457 --> 00:04:53,794 そんなことだから 嫁ぎ先を追い出されるのです 32 00:04:54,086 --> 00:04:55,337 浜路 33 00:04:55,754 --> 00:04:57,715 その話は もうよい 34 00:04:57,798 --> 00:05:00,467 春とて 身に染みておろう 35 00:05:00,592 --> 00:05:03,429 お方さまは甘やかしすぎです 36 00:05:03,512 --> 00:05:06,306 まったく 加賀藩のお屋敷から 嫁に出した者が 37 00:05:06,390 --> 00:05:08,934 一年も たたぬうちに 出戻ってくるとは 38 00:05:09,727 --> 00:05:12,146 我々 女中一同の恥 39 00:05:12,271 --> 00:05:16,483 〔囃子と謡〕 40 00:05:40,883 --> 00:05:44,261 〔一同の談笑〕 41 00:05:45,179 --> 00:05:46,889 これは いいものを見せてもらった 42 00:06:01,111 --> 00:06:02,154 (吉徳) うむ 43 00:06:03,113 --> 00:06:05,032 見事な舞であった 44 00:06:05,240 --> 00:06:07,201 腕を上げたな 大槻 45 00:06:07,326 --> 00:06:08,619 ほんの真似事 46 00:06:08,702 --> 00:06:10,829 お粗末でございました 47 00:06:11,371 --> 00:06:15,209 父 綱紀を偲んで 野天で 宝生能とは 48 00:06:15,292 --> 00:06:17,252 お前らしい趣向じゃ 49 00:06:18,295 --> 00:06:20,214 舟を仕立てての 大川下りには 50 00:06:20,297 --> 00:06:22,132 金が かかりすぎる 51 00:06:22,341 --> 00:06:24,760 今年は これで我慢せよ というのであろう 52 00:06:24,885 --> 00:06:25,886 はっ 53 00:06:26,678 --> 00:06:29,056 つきましては 心ばかりの余興をひとつ 54 00:06:29,556 --> 00:06:30,599 おお 55 00:06:30,974 --> 00:06:31,809 何だ 56 00:06:33,727 --> 00:06:36,772 舟木どの こちらへ 57 00:06:50,911 --> 00:06:54,581 御台所御用役の 舟木伝内でございます 58 00:06:59,086 --> 00:07:00,337 (吉徳)汁か 59 00:07:00,754 --> 00:07:01,713 どれ 60 00:07:08,387 --> 00:07:09,596 うまい! 61 00:07:10,264 --> 00:07:11,807 これは鶴だな 62 00:07:12,266 --> 00:07:13,267 いや 63 00:07:13,475 --> 00:07:18,063 この汁は舟木どのが工夫した “鶴もどき”でございます 64 00:07:18,772 --> 00:07:20,274 “もどき”とな 65 00:07:20,607 --> 00:07:21,608 むう… 66 00:07:22,943 --> 00:07:24,945 さて 皆の者! 67 00:07:26,196 --> 00:07:27,656 これなる汁は 68 00:07:28,115 --> 00:07:31,493 加賀の包丁侍がこしらえた “鶴もどき” 69 00:07:32,119 --> 00:07:33,620 その名のとおり 70 00:07:33,829 --> 00:07:36,915 汁の実は鶴のようで 鶴ではない 71 00:07:37,791 --> 00:07:39,960 見事 その“もどき”の 正体を当てた者には 72 00:07:40,085 --> 00:07:41,378 褒美をつかわそう 73 00:07:41,503 --> 00:07:43,630 〔家臣たちのどよめき〕 74 00:07:51,054 --> 00:07:52,264 どうじゃ 75 00:07:52,514 --> 00:07:54,224 分かった者は おるか 76 00:07:54,349 --> 00:07:56,518 (家臣)恐れながら 雉肉では 77 00:07:57,436 --> 00:07:59,563 拙者は豆腐だと思うが 78 00:08:01,023 --> 00:08:03,442 (家臣)これは鹿肉かと 思われますが 79 00:08:03,901 --> 00:08:04,985 (吉徳)どうじゃ? 80 00:08:07,070 --> 00:08:10,657 溜に漬け 干した魚のようです 81 00:08:11,074 --> 00:08:14,161 (吉徳) お貞 そなたに分かるのか 82 00:08:14,494 --> 00:08:16,455 わたくしでは ありませぬ 83 00:08:16,622 --> 00:08:19,499 この 春なる女中が 84 00:08:19,625 --> 00:08:21,543 (吉徳)何? 女中? 85 00:08:24,129 --> 00:08:25,339 面白い 86 00:08:25,547 --> 00:08:27,507 近う寄って 当ててみせよ 87 00:08:27,674 --> 00:08:30,469 〔ざわめき〕 88 00:08:47,986 --> 00:08:49,655 恐れながら… 89 00:08:49,780 --> 00:08:54,201 鶴は鰤を乾かし 削って 酒で戻したもの 90 00:08:54,368 --> 00:08:57,246 出汁は蝦夷の 昆布出汁に 少々の味醂 91 00:08:57,704 --> 00:09:02,334 醤油は おそらく 龍野の薄口醤油かと 92 00:09:03,210 --> 00:09:04,294 どうじゃ? 93 00:09:05,587 --> 00:09:07,214 舟木どの お答えを 94 00:09:07,381 --> 00:09:10,050 あっ 失礼つかまつりました 95 00:09:10,175 --> 00:09:12,844 お女中の申すとおりで ござりまする 96 00:09:12,970 --> 00:09:13,929 (一同)お-! 97 00:09:14,054 --> 00:09:17,099 (吉徳)鳩が豆鉄砲を くらったような顔をしよって 98 00:09:17,849 --> 00:09:20,352 しかし 大した女子よ 99 00:09:20,560 --> 00:09:24,398 加賀藩お抱えの 包丁侍の鼻をあかすとはな 100 00:09:25,065 --> 00:09:27,401 〔一同の笑い声〕 101 00:09:33,949 --> 00:09:35,409 縁談? 102 00:09:35,867 --> 00:09:37,244 私にですか? 103 00:09:39,579 --> 00:09:43,083 今朝 舟木さまが 直々に訪ねて来られてな 104 00:09:43,250 --> 00:09:44,584 (春)舟木さま? 105 00:09:44,710 --> 00:09:46,586 お殿様の料理人じゃ 覚えておろう 106 00:09:46,753 --> 00:09:48,463 “鶴もどき”の 107 00:09:49,047 --> 00:09:49,923 はぁ… 108 00:09:50,424 --> 00:09:55,095 お前をぜひ ご子息の嫁にと 申されているらしい 109 00:09:55,262 --> 00:09:57,097 まさか 110 00:09:57,264 --> 00:09:58,932 そのまさかじゃ 111 00:09:59,057 --> 00:10:01,560 舟木家は 石高こそ 高くはないが 112 00:10:01,685 --> 00:10:03,353 先代 綱紀さまの代より 113 00:10:03,478 --> 00:10:06,106 台所御用役を務める 立派な武家 114 00:10:06,898 --> 00:10:09,276 伝内どのは そのご当主にして 115 00:10:09,401 --> 00:10:11,653 国で 一、二を争う 料理人 116 00:10:11,778 --> 00:10:15,240 お前には願ったり かなったり ぴったりのお家柄 117 00:10:16,116 --> 00:10:19,661 ですが 私は一度… 118 00:10:19,828 --> 00:10:23,582 もちろん 出戻ったことは お話しした 119 00:10:24,124 --> 00:10:25,625 (春)それで? 120 00:10:26,293 --> 00:10:29,755 ご子息には 伝内どのが よく言い含めると 121 00:10:31,631 --> 00:10:33,133 とにかく味の分かる 122 00:10:33,300 --> 00:10:36,053 料理上手の嫁が 欲しいとのこと 123 00:10:36,178 --> 00:10:38,972 ご子息は国元で 台所役を務め 124 00:10:39,097 --> 00:10:40,849 名は安信さま 125 00:10:40,974 --> 00:10:43,477 年は今年で二十三 126 00:10:43,810 --> 00:10:45,479 二十三! 127 00:10:45,896 --> 00:10:48,899 私より 四つも下では ありませんか 128 00:10:51,735 --> 00:10:55,113 どうぞ 謹んでお断りを 129 00:10:56,490 --> 00:10:58,825 しかしな 春 130 00:10:59,076 --> 00:11:01,745 お前は やはり夫を持ち 131 00:11:01,870 --> 00:11:05,832 子を持って 一生を 送るほうがよいと思うのじゃ 132 00:11:05,999 --> 00:11:09,086 それは この前の時も お聞きしました 133 00:11:13,090 --> 00:11:14,424 お方さま 134 00:11:14,800 --> 00:11:16,760 わたくしには ずっと お方さまのおそばで 135 00:11:16,885 --> 00:11:19,971 過ごせますことが 一番の幸せ 136 00:11:21,056 --> 00:11:23,892 どうか お願いでございます 137 00:11:38,448 --> 00:11:40,283 (伝内)あっ 春どの 138 00:11:42,744 --> 00:11:44,162 舟木さま 139 00:11:44,746 --> 00:11:46,415 失礼つかまつる 140 00:11:46,540 --> 00:11:48,542 (春)何の ご用でしょうか 141 00:11:50,001 --> 00:11:56,049 恥ずかしながら 春どのに 教えを乞いたいのだが 142 00:11:56,425 --> 00:11:57,384 (春)私に? 143 00:11:57,551 --> 00:11:58,635 さよう 144 00:11:58,760 --> 00:12:01,721 実は今朝 市で 145 00:12:01,888 --> 00:12:07,060 加賀では見たことのない 珍しい菜を手に入れたのだが 146 00:12:09,938 --> 00:12:12,190 切れば切るほど 粘りが出る 147 00:12:12,315 --> 00:12:14,901 粘るのは 金時草と同じだが 148 00:12:15,026 --> 00:12:18,238 匂いはセリの それに近い 149 00:12:18,572 --> 00:12:21,116 これは 何という菜か 150 00:12:21,241 --> 00:12:24,911 春どのならば ご存じではないかと思うて… 151 00:12:26,455 --> 00:12:29,499 これは… 明日葉で ございますね 152 00:12:29,624 --> 00:12:31,042 明日葉? 153 00:12:31,168 --> 00:12:34,588 夕べ 摘んでも 明日には新しい葉が出る 154 00:12:34,713 --> 00:12:36,173 ゆえに 明日葉と いうそうです 155 00:12:36,298 --> 00:12:38,258 ほぉー 156 00:12:39,426 --> 00:12:40,635 へぇー 157 00:12:40,760 --> 00:12:43,930 して この料理の仕方は? 158 00:12:44,181 --> 00:12:48,435 八丈島の産で 江戸にも めったに出回りません 159 00:12:48,602 --> 00:12:52,314 私も ほとんど 試したことはありませんが 160 00:13:16,129 --> 00:13:19,424 どうぞ お熱いので お気をつけて 161 00:13:20,800 --> 00:13:23,386 いや この香味 162 00:13:23,637 --> 00:13:26,640 あの青臭い葉とは思えぬ 163 00:13:28,141 --> 00:13:30,644 春どのは 舌だけでは のうて 164 00:13:30,769 --> 00:13:33,688 料理の腕も一流でござるな 165 00:13:33,813 --> 00:13:35,190 さすが 166 00:13:35,315 --> 00:13:38,443 わしが嫁にと 見込んだだけのことはある 167 00:13:38,902 --> 00:13:40,737 あの… 舟木さま 168 00:13:40,987 --> 00:13:44,491 いや ハハハ… 心配めさるな 169 00:13:45,033 --> 00:13:49,371 お貞さまより しかと 断りの返事は頂きました 170 00:13:51,039 --> 00:13:53,333 残念至極ではあるが… 171 00:13:56,836 --> 00:14:01,716 春どのは どこで 包丁の手習いを? 172 00:14:02,175 --> 00:14:05,178 生まれは浅草の 平膳という料理屋で 173 00:14:05,345 --> 00:14:07,389 子供時分より いつともなく 174 00:14:07,514 --> 00:14:08,640 はぁ… 175 00:14:08,848 --> 00:14:10,725 浅草の平膳 176 00:14:11,601 --> 00:14:14,104 いや しかし あの店は… 177 00:14:15,021 --> 00:14:17,274 焼けてしまいました 178 00:14:17,524 --> 00:14:20,318 跡形もなく すっかりと 179 00:14:21,361 --> 00:14:26,116 家族一同のうち 助かったのは 十二の年に 180 00:14:26,241 --> 00:14:30,579 お屋敷へ見習い奉公へ 上がったばかりの私一人 181 00:14:30,996 --> 00:14:33,373 はぁ… 182 00:14:33,999 --> 00:14:36,084 それはそれは… 183 00:14:36,418 --> 00:14:40,422 いや さぞ おつらかったことでしょう 184 00:14:43,049 --> 00:14:46,511 わしも 二年前 185 00:14:47,137 --> 00:14:49,014 倅を亡くしました 186 00:14:53,059 --> 00:14:57,230 腕の良い 真面目な倅でしたが 187 00:14:58,231 --> 00:15:00,734 流行病で あっけなく… 188 00:15:02,777 --> 00:15:04,237 まぁ… 189 00:15:05,614 --> 00:15:07,574 では ご子息というのは 190 00:15:07,699 --> 00:15:09,242 あ いや… 191 00:15:09,367 --> 00:15:12,245 次男の安信でござる 192 00:15:13,163 --> 00:15:15,415 そうでしたか 193 00:15:15,665 --> 00:15:17,417 お気の毒に 194 00:15:34,934 --> 00:15:36,311 うまい! 195 00:15:38,938 --> 00:15:41,066 やはり 諦めきれぬ 196 00:15:45,362 --> 00:15:49,574 {\an8}♪ 197 00:15:48,281 --> 00:15:49,574 春どの! 198 00:15:50,116 --> 00:15:51,451 はい 199 00:15:51,910 --> 00:15:54,871 いま一度 お考えを! 200 00:15:55,538 --> 00:15:56,456 は? 201 00:15:58,625 --> 00:16:00,126 ぜひとも 202 00:16:00,627 --> 00:16:02,962 舟木家の嫁に 来ていただきたい 203 00:16:03,129 --> 00:16:03,922 頼む! 204 00:16:04,047 --> 00:16:05,965 あ… 私は一度 205 00:16:06,091 --> 00:16:08,677 嫁ぎ先の商家から 追い出された身 206 00:16:08,802 --> 00:16:10,345 “女のくせに うるさい” 207 00:16:10,512 --> 00:16:13,473 “生意気だ 可愛げがない”と疎まれて 208 00:16:13,598 --> 00:16:16,476 まして お武家さまの お家など無理でございます 209 00:16:16,601 --> 00:16:18,144 構いません 210 00:16:19,312 --> 00:16:21,147 うるさかろうと 211 00:16:22,816 --> 00:16:24,693 生意気だろうと 212 00:16:25,485 --> 00:16:27,487 可愛げがなかろうと 213 00:16:27,737 --> 00:16:31,825 いや それぐらい 強気の嫁が 214 00:16:31,991 --> 00:16:35,662 今の安信には 必要なのです 215 00:16:36,788 --> 00:16:38,248 頼む! 216 00:16:43,294 --> 00:16:45,171 長男に代わり 217 00:16:45,672 --> 00:16:49,175 御台所役に 就けてはみたものの 218 00:16:49,300 --> 00:16:51,177 次男 安信は 219 00:16:51,886 --> 00:16:54,681 包丁より刀に未練を残し 220 00:16:55,890 --> 00:16:59,436 さっぱり お役目には 身の入らぬ始末 221 00:16:59,728 --> 00:17:05,692 母親の言うことは聞かず 拙者も 長い江戸詰めにて 222 00:17:05,817 --> 00:17:08,069 手の施しようもござらん 223 00:17:09,904 --> 00:17:11,990 春どののお力で 224 00:17:14,367 --> 00:17:19,748 あの出来損ないを 一人前の包丁侍に… 225 00:17:20,248 --> 00:17:22,876 仕立てては いただけませぬか! 226 00:17:23,042 --> 00:17:25,295 そんな… 無理です! 227 00:17:26,296 --> 00:17:29,174 無理は重々 承知でござる 228 00:17:32,510 --> 00:17:35,847 どうか 安信を いや… 229 00:17:36,139 --> 00:17:39,350 舟木家を救うと おぼし召して 230 00:17:40,435 --> 00:17:41,770 このとおりでござる! 231 00:17:41,895 --> 00:17:42,896 (春)そのような! 232 00:17:43,271 --> 00:17:45,273 おやめください 舟木さま! 233 00:17:45,398 --> 00:17:46,900 (伝内)春どの! 234 00:17:47,901 --> 00:17:49,277 頼む! 235 00:17:58,912 --> 00:18:01,498 〔打ち合う木刀の音〕 236 00:18:27,440 --> 00:18:29,275 〔足音〕 237 00:18:31,236 --> 00:18:32,570 おい 少し休もう 238 00:18:45,625 --> 00:18:46,459 あなた 239 00:18:54,926 --> 00:18:56,094 安信 240 00:18:56,344 --> 00:18:58,721 まだ江戸からの花嫁は 来ないのか 241 00:19:00,974 --> 00:19:03,768 一応 今日あたりと 聞いているが 242 00:19:05,937 --> 00:19:07,689 それなら 早く帰らんか 243 00:19:07,814 --> 00:19:10,775 構わん 母上が待ち受けておる 244 00:19:11,317 --> 00:19:14,237 安信さま そんな薄情な 245 00:19:15,280 --> 00:19:18,491 江戸からは百二十里 女子の脚なら少なくとも 246 00:19:18,658 --> 00:19:21,244 十五日は かかる 長旅ではないか 247 00:19:22,954 --> 00:19:25,748 別に 俺が 頼んだわけではない 248 00:19:32,672 --> 00:19:37,135 (豆腐売り)豆腐~ 249 00:19:40,138 --> 00:19:42,891 (満)遠いところを ご苦労でした 250 00:19:43,683 --> 00:19:45,518 仮祝言は今夜 251 00:19:45,685 --> 00:19:50,023 安信が戻らぬうちに 湯を使って体を清めるがよい 252 00:19:50,523 --> 00:19:51,524 ありがとうございます 253 00:19:53,192 --> 00:19:56,154 春 お前が 町人の出であろうと 254 00:19:56,279 --> 00:19:58,656 嫁入りが二度目であろうと 255 00:19:58,781 --> 00:20:02,368 気にするつもりは これっぽっちもありません 256 00:20:04,370 --> 00:20:08,541 江戸では とかく初鰹を ありがたがるそうだが 257 00:20:08,666 --> 00:20:13,004 脂の乗った 戻り鰹を好む者もいます 258 00:20:17,300 --> 00:20:21,596 とにかく 舟木家の嫁として 大事な務めは ただ一つ 259 00:20:22,555 --> 00:20:25,224 はい 伝内… いえ 260 00:20:25,350 --> 00:20:27,268 お義父上さまから 重々 261 00:20:28,227 --> 00:20:33,274 一日も早く 元気な孫の顔を 見せてもらいたい 262 00:20:34,108 --> 00:20:35,276 よいな 263 00:20:38,196 --> 00:20:39,155 菊 264 00:20:39,656 --> 00:20:41,574 湯の用意を 265 00:20:41,908 --> 00:20:43,076 菊? 266 00:20:43,242 --> 00:20:51,709 (長老)♪四海波静かにて~ 267 00:20:52,794 --> 00:21:01,636 ♪国も治まる時つ風~ 268 00:21:02,762 --> 00:21:11,020 ♪枝を鳴らさぬ 御代なれや~ 269 00:21:11,145 --> 00:21:13,064 ♪お… お… 270 00:21:13,189 --> 00:21:14,524 〔せき払い〕 271 00:21:14,857 --> 00:21:19,070 ♪おお~ 272 00:21:21,406 --> 00:21:22,907 (春)あのう… 273 00:21:28,955 --> 00:21:30,415 あの… 安信さま 274 00:21:30,540 --> 00:21:32,750 待て 間もなく終わる 275 00:22:00,319 --> 00:22:01,696 夏どの 276 00:22:03,072 --> 00:22:04,365 (春)春です 277 00:22:07,577 --> 00:22:08,786 春… 278 00:22:09,495 --> 00:22:11,539 長旅で疲れただろう 279 00:22:11,831 --> 00:22:13,416 楽にしてくれ 280 00:22:14,834 --> 00:22:17,754 (春)このたびは 縁あって 当家へ参り… 281 00:22:17,879 --> 00:22:20,173 堅苦しい挨拶はいい 282 00:22:22,508 --> 00:22:25,803 お前は たいそう料理が 上手らしいな 283 00:22:27,305 --> 00:22:30,558 いえ 大したことは ありません 284 00:22:34,729 --> 00:22:37,857 (安信)さぞ 父上とは 気が合ったのだろう 285 00:22:43,821 --> 00:22:45,656 しかし 俺は 286 00:22:46,574 --> 00:22:48,284 兄が亡くなり 287 00:22:48,409 --> 00:22:52,205 父上の仰せのとおりに 台所役を継いだまで 288 00:22:54,123 --> 00:22:57,126 すべては舟木家に生まれた 運命だ 289 00:23:00,213 --> 00:23:01,923 こうして嫁も 290 00:23:02,340 --> 00:23:04,967 父上の決めたとおりに迎えた 291 00:23:10,473 --> 00:23:12,934 母上も兄に死なれてから 292 00:23:13,226 --> 00:23:16,104 一刻も早く 孫の顔を見たがっている 293 00:23:18,981 --> 00:23:21,692 お前も見知らぬ土地で 大変だろうが 294 00:23:22,401 --> 00:23:23,903 よろしく頼む 295 00:23:32,578 --> 00:23:35,748 {\an8}♪ 296 00:23:33,788 --> 00:23:35,748 (菊) ご新造さま 297 00:23:35,915 --> 00:23:38,668 食事の支度は 私どもが致します 298 00:23:38,793 --> 00:23:41,129 いいえ 私は このために来たのです 299 00:23:41,254 --> 00:23:42,755 あ… あの… 300 00:23:42,880 --> 00:23:43,965 ああ… 301 00:23:46,968 --> 00:23:49,262 (春)立派なわさび菜 302 00:23:50,138 --> 00:23:51,639 (菊)あの 困ります… 303 00:23:51,764 --> 00:23:53,266 これ お塩ですよね 304 00:23:53,432 --> 00:23:55,184 あ… はい 305 00:23:57,145 --> 00:23:59,397 ほんとに 私がやりますから… 306 00:23:59,522 --> 00:24:01,399 (春)いいです いいです 307 00:24:01,524 --> 00:24:03,109 お菊さん 308 00:24:04,694 --> 00:24:07,613 そら豆 むいていただけますか 309 00:24:27,008 --> 00:24:31,304 〔登城の太鼓の音〕 310 00:24:47,737 --> 00:24:51,324 安信 どうだ? 新妻は 311 00:24:51,657 --> 00:24:52,617 (安信)うん? 312 00:24:52,825 --> 00:24:54,911 江戸屋敷の 奥女中だったんだろ 313 00:24:55,036 --> 00:24:58,164 やはり 抱き心地が違うか? 314 00:24:58,289 --> 00:25:00,166 茶屋町あたりの 芸妓とは 315 00:25:01,626 --> 00:25:04,128 女など芋と同じだ 316 00:25:04,712 --> 00:25:06,088 何だ そりゃ 317 00:25:07,048 --> 00:25:09,383 一皮むけば 皆同じ 318 00:25:09,550 --> 00:25:12,637 産地がどこだろうが 芋は芋だ 319 00:25:22,772 --> 00:25:24,690 安信! 320 00:25:25,191 --> 00:25:28,903 何だ この見映えの悪い 芋のむき方は 321 00:25:29,111 --> 00:25:30,905 申し訳ありません 322 00:25:35,368 --> 00:25:37,828 皮が交じっているでは ないか 323 00:25:38,287 --> 00:25:40,122 政所さまに お出しする煮物に 324 00:25:40,248 --> 00:25:42,375 交じっていたら どうするつもりだ 325 00:25:42,500 --> 00:25:45,127 (安信)すみません つい うっかり 326 00:25:45,753 --> 00:25:47,421 うっかりだと! 327 00:25:48,673 --> 00:25:51,050 お役目を何と心得ておる! 328 00:25:51,300 --> 00:25:53,135 真面目にやれ 真面目に! 329 00:26:10,194 --> 00:26:11,904 春でございます 330 00:26:12,071 --> 00:26:13,906 (満)お入りなさい 331 00:26:30,381 --> 00:26:32,008 こちらは 佐代どの 332 00:26:32,300 --> 00:26:34,885 安信が通うておる 養心館の師範 333 00:26:35,011 --> 00:26:37,763 今井定之進どのの 奥方じゃ 334 00:26:39,181 --> 00:26:40,224 (春)春です 335 00:26:40,433 --> 00:26:42,935 どうぞ よろしく お願い致します 336 00:26:44,270 --> 00:26:47,481 こちらこそ どうぞ よろしく 337 00:26:47,648 --> 00:26:50,609 婚礼のお祝いを お持ちくださってな 338 00:26:51,027 --> 00:26:53,779 南鐐の 香炉じゃ 339 00:26:53,946 --> 00:26:56,949 春 お前も お礼を申し上げなさい 340 00:26:57,408 --> 00:26:59,285 (春)ありがとうございます 341 00:27:02,538 --> 00:27:04,790 末永く お幸せに 342 00:27:05,750 --> 00:27:09,462 今度 家にも ぜひ 遊びにいらしてくださいませ 343 00:27:11,005 --> 00:27:13,132 ぜひ お願い致します 344 00:27:17,928 --> 00:27:20,639 しかし 縁は異なもの 345 00:27:20,806 --> 00:27:23,684 佐代どのから 安信の婚礼に 346 00:27:23,809 --> 00:27:27,396 お祝いを頂くことに なるとはなあ… 347 00:27:30,775 --> 00:27:31,817 あ? 348 00:27:32,485 --> 00:27:37,156 ああ… ああ… この香炉 349 00:27:38,199 --> 00:27:40,659 床の間のお軸にぴったり 350 00:27:40,826 --> 00:27:43,287 まるで あつらえたような なあ 351 00:27:43,412 --> 00:27:44,372 (佐代)はい 352 00:27:48,000 --> 00:27:50,086 (満)ほれ どうじゃ 353 00:27:50,461 --> 00:27:52,046 ほうら 354 00:28:05,518 --> 00:28:09,772 {\an8}♪ 355 00:28:08,020 --> 00:28:09,772 うむ うまい! 356 00:28:10,147 --> 00:28:13,442 魚も ふっくら 菜の歯ごたえもよく 357 00:28:13,567 --> 00:28:15,236 のう 安信 358 00:28:15,486 --> 00:28:16,487 うむ 359 00:28:17,488 --> 00:28:20,032 江戸の味付けは 少し塩気が… 360 00:28:20,199 --> 00:28:21,617 そうか? 361 00:28:23,869 --> 00:28:25,538 これは 何です? 362 00:28:26,080 --> 00:28:27,790 そら豆を つぶしたものを 363 00:28:27,915 --> 00:28:30,376 すり身に混ぜて 蒸してみました 364 00:28:31,419 --> 00:28:33,003 面白い 365 00:28:33,129 --> 00:28:34,380 安信 食べてみてごらん 366 00:28:39,927 --> 00:28:43,222 今度の饗の会に 出してみたらどうだ 367 00:28:43,347 --> 00:28:45,724 献立は まだ 決まっていないのだろう 368 00:28:49,228 --> 00:28:52,440 何ですか? “饗の会”というのは 369 00:28:52,857 --> 00:28:55,317 舟木家の恒例行事でな 370 00:28:55,443 --> 00:28:59,905 料理を親戚方に振る舞い その出来を吟味していただく 371 00:29:00,114 --> 00:29:02,032 皆 舌の肥えた方 ばかりゆえ 372 00:29:02,158 --> 00:29:04,243 それは勉強になりますのじゃ 373 00:29:06,245 --> 00:29:07,371 (安信)何を食っても 374 00:29:07,496 --> 00:29:09,665 文句しか言わぬ 連中ではないですか 375 00:29:10,541 --> 00:29:11,917 安信! 376 00:29:12,293 --> 00:29:14,044 こたびの会こそは 377 00:29:14,253 --> 00:29:16,422 お前が舟木家の 跡継ぎであると 378 00:29:16,547 --> 00:29:20,259 皆さまに認めて いただかなければならんのだぞ 379 00:29:21,135 --> 00:29:22,887 分かっています 380 00:29:25,598 --> 00:29:27,308 (春)たみ 残りの お燗がついたら 381 00:29:27,433 --> 00:29:28,601 お座敷へ お持ちして 382 00:29:28,726 --> 00:29:29,685 (たみ)はい 383 00:29:44,241 --> 00:29:46,285 いかがでございましょう 384 00:29:47,995 --> 00:29:49,872 安信 385 00:29:50,414 --> 00:29:52,541 この肴は何だ 386 00:29:52,666 --> 00:29:54,543 水っぽくって 387 00:29:54,752 --> 00:29:57,296 何とも酒に合わんぞ 388 00:29:57,922 --> 00:30:00,132 田楽の味噌が薄い 389 00:30:00,716 --> 00:30:04,261 ブツブツ 木の芽が 舌に触るだけで 390 00:30:05,596 --> 00:30:07,473 これを見ろ! 391 00:30:07,765 --> 00:30:10,309 蕨に とろろが からまず 392 00:30:10,434 --> 00:30:12,311 だらだら だらだらと 393 00:30:12,478 --> 00:30:15,105 それは あの… 今年の… 394 00:30:15,397 --> 00:30:17,191 芋の出来が いまひとつで 395 00:30:17,608 --> 00:30:19,485 言い訳をするな! 396 00:30:20,110 --> 00:30:24,615 わしらは お前のためを思うて 言うておるのじゃ 397 00:30:25,741 --> 00:30:29,578 料理は 二の膳 三の膳と まだ残っております 398 00:30:29,703 --> 00:30:31,664 これからが 腕の見せどころ 399 00:30:31,830 --> 00:30:34,083 どうぞ お楽しみに 400 00:30:38,629 --> 00:30:40,130 二の膳を急いで 401 00:30:40,256 --> 00:30:41,340 (たみ)はい 402 00:31:01,026 --> 00:31:01,860 たみ! 403 00:31:02,027 --> 00:31:02,861 (たみ)はい 404 00:31:03,028 --> 00:31:04,280 鰹節を削って 405 00:31:04,405 --> 00:31:05,155 (たみ)はい? 406 00:31:05,281 --> 00:31:06,407 急いで! 407 00:31:06,657 --> 00:31:07,616 (たみ)はい… 408 00:31:11,537 --> 00:31:16,584 舟木家の跡継ぎどころか 居酒屋… 409 00:31:18,043 --> 00:31:20,421 町の煮売り屋にも劣る出来 410 00:31:20,546 --> 00:31:24,383 やはり 一朝一夕とは いきませぬのう 411 00:31:28,220 --> 00:31:29,513 お待たせ致しました 412 00:31:35,144 --> 00:31:37,062 お待たせ致しました 413 00:31:39,148 --> 00:31:40,316 (叔父)うまい! 414 00:31:42,943 --> 00:31:47,072 この汁 香りも味も 申し分ない 415 00:31:47,239 --> 00:31:50,034 白眉は出汁じゃ 416 00:31:50,576 --> 00:31:55,914 鰹一本の澄んだ出汁が コノワタの生臭さを抑えて 417 00:31:56,081 --> 00:31:59,209 磯の香を 引き立てておる 418 00:31:59,335 --> 00:32:01,920 〔一同の感嘆の声〕 419 00:32:07,092 --> 00:32:08,761 (叔父)安信 420 00:32:09,303 --> 00:32:12,973 これは殿様に お出しできる一品だぞ 421 00:32:15,476 --> 00:32:17,394 ありがとうございます 422 00:32:33,452 --> 00:32:35,996 皆 ご苦労でした 423 00:32:36,121 --> 00:32:39,124 春 お前も ご苦労さまでした 424 00:32:39,249 --> 00:32:42,461 片付けは ほどほどにして 今夜は ゆっくり休みなさい 425 00:32:42,628 --> 00:32:44,588 (春)ありがとうございます 426 00:32:50,511 --> 00:32:52,304 為吉さん 後は お願いします 427 00:32:52,471 --> 00:32:53,430 (為吉)はい 428 00:33:03,273 --> 00:33:04,483 (安信)春 429 00:33:08,529 --> 00:33:09,405 お前 430 00:33:10,239 --> 00:33:12,991 どういうつもりで 吸い物を作り直した 431 00:33:14,618 --> 00:33:15,661 はい 432 00:33:15,828 --> 00:33:19,373 あまり コノワタの臭いが 強すぎるようだったので 433 00:33:19,581 --> 00:33:21,458 俺だって 分かっていた! 434 00:33:21,583 --> 00:33:23,585 吸い物が 生臭かったことぐらい 435 00:33:25,337 --> 00:33:28,674 ですから 出汁を鰹で引き直して 436 00:33:28,841 --> 00:33:30,843 余計なことをするな 437 00:33:33,137 --> 00:33:34,680 すみません 438 00:33:35,973 --> 00:33:37,725 この古狸め! 439 00:33:39,643 --> 00:33:41,520 申し訳ありません 440 00:33:43,731 --> 00:33:47,401 妻女から自分の仕事に 手を出されるとはな 441 00:33:49,194 --> 00:33:53,699 しょせん 料理など 女子供の仕事 442 00:33:54,616 --> 00:33:57,870 何と つまらん役目だ 包丁侍とは 443 00:34:05,711 --> 00:34:07,171 何だ その顔は 444 00:34:08,756 --> 00:34:10,591 黙って 吸い物を 作り直したのは 445 00:34:10,716 --> 00:34:12,676 私が いけませんでした 446 00:34:12,885 --> 00:34:16,346 しかし ご自分のお役目を そんなふうに申されるのは 447 00:34:16,472 --> 00:34:18,182 聞き捨てがなりません 448 00:34:18,307 --> 00:34:19,433 何? 449 00:34:21,310 --> 00:34:23,562 つまらないお役目だと 思っているから 450 00:34:23,687 --> 00:34:26,899 つまらない料理しか 作れないのではありませんか 451 00:34:27,524 --> 00:34:29,651 お前に 何が分かる 452 00:34:30,235 --> 00:34:32,654 たかが吸い物くらいで 思い上がるな 453 00:34:33,822 --> 00:34:35,866 では 思い上がりかどうか 454 00:34:35,991 --> 00:34:38,619 この古狸と 腕比べしてみますか? 455 00:34:38,744 --> 00:34:39,661 何だと 456 00:34:39,787 --> 00:34:41,747 包丁の腕比べです 457 00:34:41,205 --> 00:34:46,418 {\an8}♪ 458 00:34:42,080 --> 00:34:46,418 まさか 女の私に 劣ることはないはず 459 00:34:47,419 --> 00:34:48,921 当たり前だ 460 00:34:49,171 --> 00:34:51,131 勝負には賭けがつきもの 461 00:34:51,256 --> 00:34:52,424 負けた時には 462 00:34:52,549 --> 00:34:55,427 この古狸の料理指南を 受けてもらいます 463 00:34:56,178 --> 00:34:58,263 生意気な! 464 00:34:59,264 --> 00:35:00,682 よし 465 00:35:01,099 --> 00:35:03,560 俺が勝てば お前とは離縁だ 466 00:35:03,685 --> 00:35:06,271 即刻 舟木家から 出て行け! 467 00:35:08,106 --> 00:35:09,608 分かりました 468 00:35:13,111 --> 00:35:14,488 それでは 469 00:35:24,915 --> 00:36:48,957 ♪ 470 00:36:53,712 --> 00:36:54,713 (春)どうぞ 471 00:36:54,922 --> 00:36:57,049 食べ比べてくださいませ 472 00:37:09,144 --> 00:37:10,145 うん 473 00:37:33,835 --> 00:37:35,087 なぜ? 474 00:37:36,630 --> 00:37:39,925 あなたは身を引く時の 包丁が遅いのです 475 00:37:40,759 --> 00:37:44,805 だから 刺身の身が崩れ 醤油が余計に染みる 476 00:37:45,305 --> 00:37:48,100 魚の風味が 損なわれてしまう 477 00:37:50,227 --> 00:37:52,437 勝負は春の勝ちです 478 00:37:52,562 --> 00:37:56,066 どうぞ 武士の約束を お忘れなきように 479 00:38:05,075 --> 00:38:06,994 はぁー… 480 00:38:07,119 --> 00:38:13,709 {\an8}♪ 481 00:38:11,289 --> 00:38:13,709 漫然と といではいけません 482 00:38:13,834 --> 00:38:17,462 お米をとぐ時は 米の音を よく聞いて 483 00:39:09,639 --> 00:39:11,224 (春の声)お方さま 484 00:39:11,683 --> 00:39:14,102 いかが お過ごしでしょうか 485 00:39:14,728 --> 00:39:19,816 春が金沢に参りましてから はや ふた月がたちました 486 00:39:21,860 --> 00:39:26,531 伝内さまより 出来損ないと 聞いておりました夫の安信は 487 00:39:26,698 --> 00:39:29,034 思いのほか料理上手 488 00:39:29,367 --> 00:39:30,827 上達も早く 489 00:39:30,952 --> 00:39:33,872 血は争えぬとは このことでしょう 490 00:39:40,879 --> 00:39:45,217 その夫は 私を“古狸”と呼びます 491 00:39:45,550 --> 00:39:48,553 しかし 何のこれしき 492 00:39:49,012 --> 00:39:52,224 夫を一人前の 包丁侍にするべく 493 00:39:52,349 --> 00:39:54,351 春は頑張ります 494 00:40:31,930 --> 00:40:33,723 簪…? 495 00:40:44,943 --> 00:40:48,446 (春の声)何とぞ お体に お気をつけて 496 00:40:48,780 --> 00:40:51,992 いつか再び お方さまに お会いできることを 497 00:40:52,117 --> 00:40:53,910 いつも願っております 498 00:40:54,619 --> 00:40:55,745 春 499 00:40:56,580 --> 00:40:58,415 〔足音〕 500 00:41:02,127 --> 00:41:03,420 (お貞の方)浜路? 501 00:41:11,344 --> 00:41:12,679 お貞さま 502 00:41:15,307 --> 00:41:16,600 大槻どの? 503 00:41:18,143 --> 00:41:19,811 お許しください 504 00:41:20,061 --> 00:41:23,190 お会いしたい一心で 闇に紛れて参りました 505 00:41:25,650 --> 00:41:26,985 いけません 506 00:41:28,069 --> 00:41:31,198 殿の命で 明日 加賀に戻ります 507 00:41:32,240 --> 00:41:33,533 せめて… 508 00:41:33,742 --> 00:41:35,493 せめて一目! 509 00:41:38,079 --> 00:41:39,497 お貞さま… 510 00:41:44,085 --> 00:41:46,755 〔ニワトリの鳴き声〕 511 00:41:49,216 --> 00:41:51,885 ニワトリは 捨てるところが ありません 512 00:41:52,010 --> 00:41:55,513 鶏冠から足まで あらゆる料理に使えます 513 00:41:55,680 --> 00:41:57,933 あのニワトリは もう卵を産みませんので 514 00:41:58,058 --> 00:42:00,477 つぶして 頂くことにしましょう 515 00:42:06,775 --> 00:42:07,901 春 516 00:42:08,526 --> 00:42:09,527 はい 517 00:42:10,028 --> 00:42:11,821 お前がやってくれ 518 00:42:11,112 --> 00:42:13,114 {\an8}♪ 519 00:42:12,113 --> 00:42:13,114 え? 520 00:42:13,531 --> 00:42:16,034 俺は さばくところからやる 521 00:42:17,827 --> 00:42:19,287 まさか? 522 00:42:20,205 --> 00:42:21,998 そうではないが 523 00:42:23,625 --> 00:42:26,336 あまり好きではない 524 00:42:26,586 --> 00:42:28,713 何を おっしゃいます 525 00:42:30,215 --> 00:42:31,716 〔ニワトリの鳴き声〕 526 00:42:32,384 --> 00:42:34,427 これも料理のうちです 527 00:42:35,679 --> 00:42:36,805 さぁ 528 00:42:37,722 --> 00:42:38,932 (二人)わっ 529 00:42:41,142 --> 00:42:42,644 捕まえて! 530 00:42:46,106 --> 00:42:48,275 (安信)待て! どこへ行く! 531 00:43:09,879 --> 00:43:12,048 〔鳴き声〕 532 00:43:34,946 --> 00:43:35,739 おう 533 00:43:36,281 --> 00:43:37,782 安信 534 00:43:44,914 --> 00:43:46,458 紹介 致そう 535 00:43:47,042 --> 00:43:49,085 大槻伝蔵さまだ 536 00:43:52,547 --> 00:43:53,631 大槻さま 537 00:43:54,090 --> 00:43:55,717 この男は舟木安信 538 00:43:55,842 --> 00:43:58,803 私の幼なじみで 道場の稽古仲間 539 00:43:59,596 --> 00:44:01,431 なかなかの使い手です 540 00:44:03,224 --> 00:44:05,602 それは一度 お手合わせ願いたい 541 00:44:05,852 --> 00:44:08,146 今日のところは 帰らねばならぬが 542 00:44:08,313 --> 00:44:09,814 いずれ ぜひ 543 00:44:10,065 --> 00:44:10,982 はっ 544 00:44:13,318 --> 00:44:14,235 では 545 00:44:22,369 --> 00:44:24,496 (安信の声) 大槻さまのような重臣が 546 00:44:24,621 --> 00:44:26,039 どうして お前と? 547 00:44:26,790 --> 00:44:28,541 ここへは お忍びだ 548 00:44:29,167 --> 00:44:30,502 知っているだろう 549 00:44:30,960 --> 00:44:33,296 年寄り衆の 前田土佐守さまと 550 00:44:33,421 --> 00:44:36,257 藩政改革を巡って 対立しておること 551 00:44:37,425 --> 00:44:39,386 土佐守さまだけではない 552 00:44:40,136 --> 00:44:43,723 足軽の身分から 御用番にまで一気に上り詰め 553 00:44:43,848 --> 00:44:46,518 殿の信の厚い 大槻さまを妬んで 554 00:44:46,643 --> 00:44:49,562 改革に反対する重臣方は ほかにも多い 555 00:44:49,854 --> 00:44:51,356 聞いている 556 00:44:51,773 --> 00:44:54,192 そこで 大槻さまは ひそかに 557 00:44:54,317 --> 00:44:56,694 自分と同じ考えを 持つ者を集めて 558 00:44:56,820 --> 00:44:58,488 対抗勢力とし 559 00:44:58,613 --> 00:45:01,366 改革を推し進めようと しておられるのだ 560 00:45:02,117 --> 00:45:04,661 それで お前のところへ? 561 00:45:05,703 --> 00:45:08,039 あの方は 身分を 問うことはしない 562 00:45:08,790 --> 00:45:10,375 藩のためならば 563 00:45:10,500 --> 00:45:14,379 位の低い者でも 志のある者を登用してくれる 564 00:45:16,214 --> 00:45:17,257 お前も 一度 565 00:45:17,549 --> 00:45:19,968 大槻さまの話を 聞いてみるといい 566 00:45:25,014 --> 00:45:26,558 (佐代)安信さま 567 00:45:31,229 --> 00:45:33,648 春さまが お迎えにいらっしゃいました 568 00:45:33,940 --> 00:45:34,983 は? 569 00:45:34,232 --> 00:45:38,736 {\an8}♪ 570 00:45:35,567 --> 00:45:38,736 何でも 安信さまが ニワトリと逃げ出したのを 571 00:45:38,903 --> 00:45:40,905 あちこち 捜し回っていらしたとか 572 00:45:41,030 --> 00:45:41,865 ニワトリ? 573 00:45:41,990 --> 00:45:42,657 え… 574 00:45:42,824 --> 00:45:44,576 せっかくですから 上がっていただきましょうか 575 00:45:44,742 --> 00:45:46,911 あっ いや 結構です 576 00:45:47,787 --> 00:45:49,330 失礼致す 577 00:45:50,832 --> 00:45:52,333 あの古狸め 578 00:45:56,588 --> 00:45:57,881 狸? 579 00:46:18,109 --> 00:46:19,277 聞いたぞ 580 00:46:19,402 --> 00:46:21,613 先日 お主の作った 芋の煮つけ 581 00:46:21,738 --> 00:46:24,282 たいそう評判が 良かったそうだな 582 00:46:24,741 --> 00:46:26,784 芋が良かったのだ 583 00:46:28,036 --> 00:46:32,499 やはり 芋も女も 産地によって いろいろだ 584 00:46:32,790 --> 00:46:34,876 そういえば そろそろ半年 585 00:46:35,001 --> 00:46:38,254 江戸から来た芋に まだ子は出来んのか 586 00:46:38,838 --> 00:46:40,465 (景山) 正太郎! 587 00:46:40,882 --> 00:46:43,092 無駄口は慎め 588 00:46:46,471 --> 00:46:47,472 お? 589 00:46:56,272 --> 00:47:00,360 それでは その昇進の機会が 安信に? 590 00:47:00,485 --> 00:47:03,655 上役の景山さまが 推挙してくださったそうです 591 00:47:03,780 --> 00:47:06,157 何と ありがたいこと 592 00:47:06,282 --> 00:47:08,868 これも大槻さまのおかげ 593 00:47:09,035 --> 00:47:11,579 家禄の低い 年も若い 594 00:47:11,704 --> 00:47:15,708 安信のような者に 出世の道が開かれるとは 595 00:47:16,292 --> 00:47:19,379 まだ 昇進すると 決まったわけではありません 596 00:47:19,837 --> 00:47:21,714 当日 用意された食材で 597 00:47:21,839 --> 00:47:24,884 何人かの候補と 料理の出来を競うのです 598 00:47:25,176 --> 00:47:26,219 私などは まだまだ 599 00:47:26,344 --> 00:47:27,845 何を言うのです 600 00:47:28,012 --> 00:47:30,181 何としても この機会を逃さぬように 601 00:47:30,306 --> 00:47:32,183 頑張らねば 602 00:47:32,684 --> 00:47:33,518 のう 603 00:47:41,192 --> 00:47:43,361 春 これは? 604 00:47:44,195 --> 00:47:45,738 治部の肉が足りずに 605 00:47:45,863 --> 00:47:48,491 すだれ麩を 具の足しにしてみました 606 00:47:48,616 --> 00:47:50,034 春の料理のことはよい 607 00:47:50,201 --> 00:47:52,579 自分の料理のことを 考えなさい 608 00:48:26,362 --> 00:48:27,614 (景山)では 609 00:48:28,197 --> 00:48:29,657 はじめ! 610 00:48:51,471 --> 00:48:53,765 (為吉) 安信さまのお戻りです 611 00:48:59,312 --> 00:49:01,272 お帰りなさいませ 612 00:49:04,776 --> 00:49:06,194 (安信)母上は? 613 00:49:06,486 --> 00:49:09,947 主計町の 伯母さまから 急なお呼び出しで 614 00:49:10,907 --> 00:49:12,283 (安信)そうか 615 00:49:12,700 --> 00:49:15,036 一番 喜ぶと思ったのだがな 616 00:49:14,619 --> 00:49:16,245 {\an8}♪ 617 00:49:15,161 --> 00:49:16,245 (春)では… 618 00:49:19,123 --> 00:49:22,210 すだれ麩を使った 治部煮が良かったらしい 619 00:49:23,294 --> 00:49:25,129 お前のおかげだ 620 00:49:36,057 --> 00:49:38,226 〔鐘の音〕 621 00:49:39,560 --> 00:49:42,188 “あいつの出世は 春どののおかげだ” 622 00:49:42,313 --> 00:49:45,483 “安信の奴は 本当に いい嫁をもらった”と 623 00:49:45,608 --> 00:49:48,403 夫も自分のことのように 喜んで 624 00:49:48,903 --> 00:49:53,491 いい嫁だなんて 私は ただの古狸です 625 00:49:54,242 --> 00:49:57,745 でも 定之進さまと 本当に仲がいいんですね 626 00:49:57,870 --> 00:50:02,291 はい 子供の時分から 二人とも うちの道場に 627 00:50:04,377 --> 00:50:07,130 わたくしも安信さまの ご出世は 628 00:50:07,255 --> 00:50:09,340 本当に嬉しいのです 629 00:50:10,258 --> 00:50:12,301 ありがとうございます 630 00:50:12,635 --> 00:50:14,470 わたくしのほうこそ 631 00:50:16,013 --> 00:50:18,015 春さまのおかげで 632 00:50:18,224 --> 00:50:21,269 やっと心の荷が 降りたような気がします 633 00:50:25,481 --> 00:50:27,567 それでは わたくしは ここで 634 00:50:30,945 --> 00:50:35,199 これは 皆さまに 心ばかりのお祝いです 635 00:50:38,870 --> 00:50:40,705 (春)ありがとうございます 636 00:50:40,830 --> 00:50:42,248 それでは 637 00:51:01,017 --> 00:51:03,436 “心の荷が降りた” 638 00:51:03,603 --> 00:51:05,813 そう 佐代どのが 申されたのか 639 00:51:06,689 --> 00:51:07,857 はい 640 00:51:07,982 --> 00:51:10,026 確かに そのように 641 00:51:10,860 --> 00:51:13,112 (満)なるほどなあ… 642 00:51:16,657 --> 00:51:17,742 佐代どのとは 643 00:51:17,909 --> 00:51:21,037 これからも お付き合いが 深くなっていくのだ 644 00:51:21,245 --> 00:51:25,833 お前も 知っておいたほうが よいだろうな 645 00:51:28,836 --> 00:51:32,507 (満の声)安信が養心館を 訪ねたのは 九つの時 646 00:51:44,811 --> 00:51:48,314 佐代どのは 幼い頃から 器量良しでな 647 00:51:48,439 --> 00:51:51,984 まぁ 安信の一目惚れじゃ 648 00:51:52,610 --> 00:51:54,862 〔琴の音〕 649 00:51:55,112 --> 00:51:56,197 えい! 650 00:51:56,447 --> 00:51:57,698 よし! 651 00:51:58,199 --> 00:52:00,201 ありがとうございます! 652 00:52:02,203 --> 00:52:04,622 〔琴の音〕 653 00:52:07,416 --> 00:52:09,460 (満の声)年が同じ ということもあり 654 00:52:09,585 --> 00:52:11,587 二人は気も合った 655 00:52:14,131 --> 00:52:16,342 佐代どのは 一人娘 656 00:52:16,467 --> 00:52:19,011 いずれ婿をとらねばならぬ 657 00:52:20,304 --> 00:52:22,306 口には出さねども 658 00:52:22,473 --> 00:52:26,602 次男坊の安信が 今井家の婿に入ることを 659 00:52:26,727 --> 00:52:28,980 意識していたはずじゃ 660 00:52:31,649 --> 00:52:34,902 安信は ますます 稽古に励んだ 661 00:52:39,615 --> 00:52:42,785 毎年 秋に催される 奉納試合で 662 00:52:42,910 --> 00:52:45,580 安信が道場一の若者となれば 663 00:52:46,330 --> 00:52:48,040 佐代どのの父上が 664 00:52:48,165 --> 00:52:51,085 正式に婿入りを 申し出るものと 665 00:52:51,210 --> 00:52:54,547 わたくしたち二親も 思っておったのじゃ 666 00:52:57,925 --> 00:53:02,763 ところが… 夏も終わる頃になって突然 667 00:53:03,347 --> 00:53:07,810 兄 利保が 流行病で亡くなっての… 668 00:53:07,935 --> 00:53:13,190 {\an8}♪ 669 00:53:09,228 --> 00:53:13,190 舟木家は安信が 継がねばならんことになった 670 00:53:13,399 --> 00:53:16,360 無論 安信は抵抗したのだが 671 00:53:17,820 --> 00:53:21,032 安信は奉納試合に勝ち残り 672 00:53:21,198 --> 00:53:26,037 最後の相手は 一番の親友である定之進どの 673 00:53:39,967 --> 00:53:41,886 勝負は 互角に見えたそうだが 674 00:53:42,762 --> 00:53:44,847 一瞬 安信が隙を見せた 675 00:53:54,148 --> 00:53:54,815 (定之進)やー! 676 00:53:59,403 --> 00:54:00,488 それまで! 677 00:54:00,738 --> 00:54:02,865 〔どよめき〕 678 00:54:09,080 --> 00:54:10,247 (満の声)試合の後 679 00:54:10,456 --> 00:54:14,961 安信が父上に 台所役に就いて 680 00:54:15,086 --> 00:54:18,089 家の跡取りとなることを 願い出た 681 00:54:19,507 --> 00:54:23,719 佐代どのと定之進どのが 結納を交わしたのは 682 00:54:24,178 --> 00:54:26,931 それから 間もなくのことじゃった 683 00:54:31,644 --> 00:54:34,063 しかしな 春 684 00:54:36,524 --> 00:54:39,276 すべては過ぎたことじゃ 685 00:54:42,613 --> 00:54:47,118 さて そろそろ 安信が帰ってくる頃じゃ 686 00:54:49,829 --> 00:54:51,455 わぁ! 687 00:54:51,956 --> 00:54:55,042 皆で 頂こうかのう… 688 00:54:55,710 --> 00:54:57,211 菊 689 00:54:57,586 --> 00:54:59,130 菊 690 00:55:27,867 --> 00:55:34,915 {\an8}♪ 691 00:55:33,414 --> 00:55:34,915 (春の声)お方さま 692 00:55:35,666 --> 00:55:38,836 しばらくぶりに お手紙を差し上げます 693 00:55:39,503 --> 00:55:42,006 息災に お過ごしでしょうか 694 00:55:43,090 --> 00:55:46,010 このたび 夫 安信が 695 00:55:46,177 --> 00:55:50,306 正式に御台所役料理人に 昇進しました 696 00:55:51,348 --> 00:55:54,226 義母 満さまは 大喜びし 697 00:55:54,894 --> 00:55:57,521 春も大変 嬉しく 思っております 698 00:56:03,027 --> 00:56:06,405 舟木家に嫁に入って 半年あまり 699 00:56:07,156 --> 00:56:09,950 夫は無口ですが 優しく 700 00:56:10,159 --> 00:56:14,205 義母さまは 実の娘のように 可愛がってくれます 701 00:56:15,164 --> 00:56:18,250 天涯孤独の身であった 春にとっては 702 00:56:18,501 --> 00:56:21,087 誠に望外の幸せ 703 00:56:24,215 --> 00:56:25,674 (満)うまい! 704 00:56:25,800 --> 00:56:28,803 今朝の南瓜は ことのほか よく炊けておる 705 00:56:33,474 --> 00:56:34,725 (春の声)ここ加賀は 706 00:56:35,392 --> 00:56:37,603 間もなく冬になります 707 00:56:38,270 --> 00:56:41,065 初めての北国の寒さにも 708 00:56:41,649 --> 00:56:44,193 春が負けることは ないでしょう 709 00:56:45,319 --> 00:56:49,448 お方さまも 何とぞ お体に気をつけ 710 00:56:49,573 --> 00:56:51,826 お元気で お過ごし くださいますよう 711 00:56:53,160 --> 00:56:54,245 春 712 00:56:58,541 --> 00:57:04,171 {\an8}♪ 713 00:57:03,420 --> 00:57:04,171 お… 714 00:57:04,338 --> 00:57:05,464 おお… 715 00:57:12,429 --> 00:57:14,098 あー 716 00:57:14,765 --> 00:57:16,100 うまい 717 00:57:17,726 --> 00:57:19,478 いや 春どのは 718 00:57:19,603 --> 00:57:23,232 お茶を入れるのも まこと 上等 719 00:57:23,357 --> 00:57:26,443 あなた “春どの”などと 他人行儀な 720 00:57:26,569 --> 00:57:28,445 おう そうであった 721 00:57:28,779 --> 00:57:30,281 では 改めて 722 00:57:30,990 --> 00:57:31,949 春 723 00:57:32,449 --> 00:57:34,160 一年ぶりじゃの 724 00:57:34,994 --> 00:57:38,455 長い間の江戸詰め ご苦労さまでございました 725 00:57:38,581 --> 00:57:39,582 うん 726 00:57:39,999 --> 00:57:41,417 お前もな 727 00:57:42,293 --> 00:57:45,296 安信の昇進は お前のおかげじゃ 728 00:57:45,421 --> 00:57:47,131 よう やってくれた 729 00:57:48,632 --> 00:57:51,135 (満)しばらくは ゆっくりできるのでしょう 730 00:57:51,260 --> 00:57:53,345 お城に上がるのは いつから? 731 00:57:53,804 --> 00:57:58,184 実は そろそろ隠居を 申し出ようかと思うておる 732 00:57:58,851 --> 00:57:59,977 ご冗談を 733 00:58:00,144 --> 00:58:02,229 あなたが 御台所を下がるなど 734 00:58:04,023 --> 00:58:07,735 いや 安信も 一人前になった 735 00:58:08,444 --> 00:58:12,239 お役目は安信に譲り わしは… 736 00:58:13,032 --> 00:58:17,661 加賀の料理を集大成し 書にまとめようと思うておる 737 00:58:19,914 --> 00:58:22,833 加賀の料理の多種彩々 738 00:58:24,418 --> 00:58:27,421 百姓 町人の日々の食事から 739 00:58:28,672 --> 00:58:33,928 唐の影響を受け 京のそれにも勝る懐石料理 740 00:58:35,012 --> 00:58:39,350 その極みとしての 饗応料理まで 741 00:58:39,475 --> 00:58:41,560 それらのすべてをな 742 00:58:41,727 --> 00:58:44,146 “饗応料理”と 申しますのは? 743 00:58:45,022 --> 00:58:46,649 我が藩は 744 00:58:47,107 --> 00:58:50,361 徳川家にとっては 目の上のこぶ 745 00:58:51,362 --> 00:58:58,077 百万石の大身 外様大名を 取りつぶす理由がないかと 746 00:58:58,202 --> 00:59:01,372 幕府は常に 目を光らせておる 747 00:59:01,497 --> 00:59:02,998 そこで 上様に 748 00:59:03,123 --> 00:59:05,376 二心無きことを 表すために 749 00:59:05,542 --> 00:59:08,671 贅の限り 趣向のあれこれを尽くして 750 00:59:08,796 --> 00:59:12,508 徳川家よりの客を招いて おもてなしをするのです 751 00:59:14,969 --> 00:59:18,389 それにしても 安信は何をしているのやら 752 00:59:18,806 --> 00:59:22,434 近頃 しばしば 帰りの遅くなることがあって 753 00:59:22,559 --> 00:59:24,186 困ったものです 754 00:59:24,311 --> 00:59:26,230 ハハハ… まあよい 755 00:59:27,314 --> 00:59:31,527 春どのの元気な顔を 見られただけで ひと安心じゃ 756 00:59:31,652 --> 00:59:32,903 のう 757 00:59:33,070 --> 00:59:33,904 義父上 758 00:59:34,780 --> 00:59:36,907 “春”でございます 759 00:59:37,032 --> 00:59:38,784 ああ… 760 00:59:38,909 --> 00:59:40,786 また 言うたか “春どの”と… 761 00:59:40,911 --> 00:59:44,373 ああ? 言うたか ハハハ… 762 00:59:49,753 --> 00:59:52,214 (越村)それでは 先般より 話し合ってきました 763 00:59:52,339 --> 00:59:53,799 米相場の見直しが? 764 00:59:54,550 --> 00:59:56,218 (大槻)うむ 見えてきた 765 00:59:56,844 --> 00:59:58,804 改作奉行の高岡さまには 766 00:59:58,929 --> 01:00:01,098 すでに ご賛同の 内諾を得た 767 01:00:01,932 --> 01:00:03,100 この中からも 768 01:00:03,225 --> 01:00:05,811 御算用場に 何人か 加わってもらうことになる 769 01:00:06,603 --> 01:00:08,480 〔どよめき〕 770 01:00:09,773 --> 01:00:11,859 加えて 新たな倹約令も 771 01:00:11,984 --> 01:00:14,153 吉徳さま 直々の 御触れという形で 772 01:00:14,278 --> 01:00:16,113 発布されることになった 773 01:00:16,322 --> 01:00:17,281 では 774 01:00:17,865 --> 01:00:20,117 我々の考えが 殿に支持されたと 775 01:00:20,951 --> 01:00:21,952 うむ 776 01:00:22,870 --> 01:00:25,289 ますます 重臣の ご家老方には 777 01:00:25,414 --> 01:00:27,458 憎まれることになるがな 778 01:00:28,125 --> 01:00:31,128 そのようなことは 恐れるに足りません 779 01:00:31,462 --> 01:00:34,214 しかし 連中の意をくんで 780 01:00:34,340 --> 01:00:35,924 手荒な真似を 仕掛けてくる奴らが 781 01:00:36,050 --> 01:00:37,718 現れんとも限らんぞ 782 01:00:37,885 --> 01:00:39,970 先夜も怪しげな連中が 783 01:00:40,095 --> 01:00:43,182 大槻さまの後をつけていたと いうではないか 784 01:00:45,309 --> 01:00:46,894 安心しろ! 785 01:00:47,186 --> 01:00:50,814 俺も だてに 指南役を 務めているわけではない 786 01:00:51,482 --> 01:00:54,985 大槻さまは この腕にかけて お守りする 787 01:00:56,612 --> 01:00:58,822 皆 各々の役所で 788 01:00:58,989 --> 01:01:01,867 どんどん門閥の古い政治を 改めてくれ! 789 01:01:02,618 --> 01:01:04,203 (一同)おう! 790 01:01:05,329 --> 01:01:08,332 我らの改革も いよいよ大詰めとなる 791 01:01:08,791 --> 01:01:13,629 志を一つにして 皆 努力してほしい 792 01:01:14,380 --> 01:01:15,547 (一同)おう! 793 01:01:21,720 --> 01:01:24,640 (春)まだ お休みに なられないのですか 794 01:01:27,059 --> 01:01:28,227 義父上から 795 01:01:28,352 --> 01:01:31,897 饗応料理のことを たっぷり 聞かせていただきました 796 01:01:32,064 --> 01:01:36,026 凄い料理人なのですね あなたの父上は 797 01:01:36,902 --> 01:01:39,238 しょせん 包丁侍だ 798 01:01:40,864 --> 01:01:43,992 何を おっしゃいます 御台所役は れっきとした… 799 01:01:44,118 --> 01:01:45,411 (安信)もういい! 800 01:01:49,498 --> 01:01:51,083 灯りを消せ 801 01:02:10,102 --> 01:02:11,854 (武士)一大事じゃ! 802 01:02:11,979 --> 01:02:13,355 ご典医を! 803 01:02:13,480 --> 01:02:16,191 殿が… 殿が倒れられた! 804 01:02:19,653 --> 01:02:21,363 (ナレーション) 延享二年 805 01:02:21,488 --> 01:02:24,116 改革派の大槻伝蔵を重用し 806 01:02:24,825 --> 01:02:28,620 支え続けた六代藩主 前田吉徳が 807 01:02:28,745 --> 01:02:32,040 持病の心臓脚気により 急死した 808 01:02:32,207 --> 01:02:37,129 {\an8}♪ 809 01:02:33,333 --> 01:02:37,129 世に言う “加賀騒動”の始まりである 810 01:02:43,635 --> 01:02:45,345 改革派と対立する 811 01:02:45,471 --> 01:02:47,473 加賀八家の 先鋒 812 01:02:47,598 --> 01:02:49,975 前田土佐守 直躬は 813 01:02:50,100 --> 01:02:52,269 新藩主となった 宗辰に 814 01:02:52,436 --> 01:02:55,439 大槻伝蔵の弾劾を直訴 815 01:02:55,939 --> 01:03:00,319 後ろ盾を失った大槻に 抗う術はなく 816 01:03:00,611 --> 01:03:02,237 たちまちのうちに 817 01:03:02,362 --> 01:03:05,616 藩政を混乱させた 罪に問われ 818 01:03:08,368 --> 01:03:13,540 ついには 藩の南東部 富山藩と境を接する 819 01:03:13,665 --> 01:03:16,043 五箇山山中の お縮小屋へ 820 01:03:16,168 --> 01:03:18,295 禁錮の身となった 821 01:03:20,631 --> 01:03:24,134 “家中の改革派を一掃せよ” という命は 822 01:03:24,259 --> 01:03:27,429 下級の平士らにも及び 823 01:03:45,656 --> 01:03:47,199 佐代さまに 824 01:03:47,908 --> 01:03:50,619 “くれぐれも お体を大切に”と 825 01:04:06,677 --> 01:04:08,011 (佐代)それでは 826 01:04:09,096 --> 01:04:10,472 (安信)お気をつけて… 827 01:04:13,850 --> 01:04:15,352 春が これを 828 01:04:18,855 --> 01:04:20,691 まぁ 三つも 829 01:04:20,899 --> 01:04:23,360 一つは 腹の子の分だそうです 830 01:04:28,407 --> 01:04:29,658 春さま… 831 01:04:31,952 --> 01:04:33,787 ありがとうございます 832 01:04:35,414 --> 01:04:36,331 さあ 833 01:04:48,010 --> 01:04:48,927 では 834 01:04:54,016 --> 01:04:56,518 お前の家が お取りつぶしなのに 835 01:04:57,519 --> 01:04:59,563 俺には何の沙汰もない 836 01:05:01,231 --> 01:05:05,027 これほど包丁侍の身分を 恥ずかしく思ったことはない 837 01:05:08,572 --> 01:05:09,948 馬鹿なことを 838 01:05:11,033 --> 01:05:13,619 お家が無事で 不満を言う奴が どこにいる 839 01:05:20,083 --> 01:05:22,044 このままでは 終わらせぬ 840 01:05:21,335 --> 01:05:26,048 {\an8}♪ 841 01:05:23,795 --> 01:05:26,048 俺は そのために 身を隠すのだ 842 01:05:33,388 --> 01:05:35,932 (ナレーション) 大槻派 粛清の後も 843 01:05:36,058 --> 01:05:38,727 加賀藩政の混乱は続き 844 01:05:39,102 --> 01:05:42,564 新藩主の宗辰が またも病死 845 01:05:46,318 --> 01:05:50,656 弟 重熙が 幼くして 八代藩主となるが 846 01:05:51,114 --> 01:05:52,783 その直後 江戸屋敷で 847 01:05:52,949 --> 01:05:57,329 重熙の毒殺未遂という 事件が起きる 848 01:05:58,205 --> 01:06:03,377 土佐守前田直躬は 早速 事件の調査に乗り出し 849 01:06:03,543 --> 01:06:05,671 容疑は吉徳の死後 850 01:06:06,296 --> 01:06:09,591 尼寺で ひっそりと暮らしていた 真如院こと 851 01:06:09,716 --> 01:06:13,470 お貞の方にかけられ 捕縛された 852 01:06:16,014 --> 01:06:17,224 嘘です 853 01:06:17,349 --> 01:06:19,601 お方さまが罪人などと 854 01:06:20,227 --> 01:06:24,272 たまたま ご一行と 道中 一緒でしてね 855 01:06:24,481 --> 01:06:27,442 どうやら 腹心の女中に命じて 856 01:06:27,567 --> 01:06:29,444 毒を盛ったらしい 857 01:06:29,569 --> 01:06:31,029 毒? 858 01:06:31,488 --> 01:06:32,781 なぜ? 859 01:06:32,989 --> 01:06:36,785 そりゃ 重熙さまが お亡くなりになれば 860 01:06:36,910 --> 01:06:40,831 今度は 自分の息子が 藩主になる番だ 861 01:06:41,248 --> 01:06:43,166 その息子ってのも 862 01:06:43,333 --> 01:06:48,213 実は五箇山に流された 大槻伝蔵の子… 863 01:06:48,338 --> 01:06:50,590 という噂もある 864 01:06:50,716 --> 01:06:51,925 あぁ… 865 01:06:52,509 --> 01:06:56,805 不義密通の上 謀反というやつですな 866 01:06:58,098 --> 01:07:00,183 婦宝当帰膠 いかがです? 867 01:07:00,308 --> 01:07:02,686 子宝に恵まれますよ 868 01:07:02,978 --> 01:07:04,855 お方さまは どうなるの? 869 01:07:05,021 --> 01:07:06,773 (薬売り)あ… あぁ… 870 01:07:06,940 --> 01:07:10,694 そりゃあ… 流刑か死罪か 871 01:07:10,902 --> 01:07:14,531 今 金谷御殿に お留め置きだそうで 872 01:07:14,781 --> 01:07:16,366 駕籠の 御簾の間から 873 01:07:16,533 --> 01:07:19,870 ちらと 顔を 拝ませてもらったが 874 01:07:20,245 --> 01:07:23,457 年増のきれいな尼さんで 875 01:07:23,582 --> 01:07:25,459 いやー 死ぬには もったいない 876 01:07:25,584 --> 01:07:26,793 もったいない 877 01:07:27,210 --> 01:07:28,628 あっ ちょっと奥さま! 878 01:07:28,879 --> 01:07:29,713 あ… 879 01:07:30,797 --> 01:07:33,341 腹下りには こちら 880 01:07:36,178 --> 01:07:39,723 お前にとって 真如院さまは親代わり 881 01:07:40,056 --> 01:07:43,185 心穏やかでないのは 分かります 882 01:07:43,894 --> 01:07:47,773 しかし ご面会を願ったり 文を差し上げたりすれば 883 01:07:47,939 --> 01:07:51,151 どのような誤解を されるやも知れません 884 01:07:53,820 --> 01:07:57,908 大槻一派と関わって 定之進どのの家がどうなった 885 01:07:58,074 --> 01:07:59,326 母上 886 01:08:00,869 --> 01:08:02,704 定之進は逆賊ではありません 887 01:08:02,829 --> 01:08:03,914 分かっておる 888 01:08:04,039 --> 01:08:07,334 なればこそ 気をつけよと申すのです 889 01:08:08,126 --> 01:08:11,338 舟木家のためじゃ よいな 890 01:08:12,380 --> 01:08:14,591 〔ふすまの開く音〕 891 01:08:28,271 --> 01:08:29,189 春 892 01:08:33,819 --> 01:08:35,946 今 お風呂の支度を 893 01:08:46,164 --> 01:08:48,625 (安信)お方さまには 俺が会わせてやる 894 01:08:49,584 --> 01:08:54,798 {\an8}♪ 895 01:08:52,796 --> 01:08:54,798 でも どうやって? 896 01:08:56,800 --> 01:09:00,136 お方さまの食事を 作っている男は知り合いだ 897 01:09:01,596 --> 01:09:03,723 何とか 話をつけてやる 898 01:09:09,312 --> 01:09:11,189 ありがとうございます 899 01:09:12,357 --> 01:09:13,900 礼などいい 900 01:09:15,402 --> 01:09:17,529 俺が納得できぬだけだ 901 01:09:27,289 --> 01:09:28,623 (正太郎)失礼致します 902 01:09:28,748 --> 01:09:30,792 夕餉を お持ち致しました 903 01:09:31,376 --> 01:09:33,169 (真如院)お入りなさい 904 01:09:51,021 --> 01:09:52,147 春! 905 01:09:58,194 --> 01:10:00,113 (春)お方さま! 906 01:10:03,366 --> 01:10:04,534 (真如院)春… 907 01:10:05,535 --> 01:10:07,871 〔春の泣き声〕 908 01:10:20,842 --> 01:10:22,552 (真如院)美しい 909 01:10:24,804 --> 01:10:27,182 春が作ってくれたのか? 910 01:10:28,308 --> 01:10:30,977 春には こんなことしか できません 911 01:10:32,812 --> 01:10:35,023 よく 来てくれたな 912 01:10:36,399 --> 01:10:40,612 夫の安信が 手はずを整えてくれました 913 01:10:42,489 --> 01:10:44,532 愛されておるのだな 914 01:10:47,243 --> 01:10:48,328 はい 915 01:10:49,746 --> 01:10:52,582 夫は とても 優しい人ですから 916 01:10:57,379 --> 01:10:59,506 それは 良かった 917 01:11:01,257 --> 01:11:03,969 わたくしは 天下の重罪人 918 01:11:04,260 --> 01:11:07,222 あのまま そばに いれば どんな目に遭っていたか 919 01:11:07,347 --> 01:11:09,683 お方さまが罪人などと 920 01:11:10,850 --> 01:11:12,894 嘘に決まってます 921 01:11:13,603 --> 01:11:14,938 さよう 922 01:11:15,563 --> 01:11:18,608 すべて 土佐守さまの つくりごと 923 01:11:20,193 --> 01:11:21,444 だが 924 01:11:22,821 --> 01:11:26,658 一つだけ 噂に 誠のことがある 925 01:11:26,783 --> 01:11:35,583 {\an8}♪ 926 01:11:30,954 --> 01:11:35,583 わたくしと大槻さまとは 愛しおうておった 927 01:11:41,756 --> 01:11:43,633 側室とはいえ 928 01:11:43,758 --> 01:11:47,595 殿のご寵愛を 受け 子も授かり 929 01:11:48,346 --> 01:11:52,642 わたくしは 十分 幸せな一生を 送ったと思っておる 930 01:11:53,143 --> 01:11:54,310 だが 931 01:11:55,145 --> 01:11:58,189 一つだけ 悔いを残すとすれば 932 01:11:58,982 --> 01:12:00,316 それは 933 01:12:00,859 --> 01:12:04,904 愛する男と 夫婦に なれなかったこと 934 01:12:06,322 --> 01:12:08,658 たとえ どんな苦労があろうと 935 01:12:08,783 --> 01:12:13,621 わたくしは 安信どのと 夫婦になったお前を 936 01:12:13,830 --> 01:12:15,832 うらやましく思う 937 01:12:18,084 --> 01:12:19,252 おや! 938 01:12:19,377 --> 01:12:21,171 これは柚餅子 939 01:12:21,296 --> 01:12:23,339 懐かしい 940 01:12:25,675 --> 01:12:28,094 城下で手に入りましたもの 941 01:12:28,219 --> 01:12:30,513 能登の名産とやら 942 01:12:31,389 --> 01:12:35,018 くり抜いた柚に 果肉と粉を詰めて蒸し 943 01:12:35,143 --> 01:12:37,812 冬の間 軒に吊るすのだ 944 01:12:38,938 --> 01:12:43,943 冬の冷たい風にさらされ 柔らかな陽に暖められ 945 01:12:44,069 --> 01:12:48,698 春になるまで ゆっくり ゆっくり熟していく 946 01:12:50,909 --> 01:12:55,288 お前たち夫婦も そんなふうになれればよいな 947 01:12:59,084 --> 01:13:01,669 (ナレーション) 大槻伝蔵は間もなく 948 01:13:01,795 --> 01:13:04,798 五箇山のお縮小屋にて自害 949 01:13:05,048 --> 01:13:08,051 真如院も ここ金谷御殿で 950 01:13:08,176 --> 01:13:11,888 その後を追い この世を去った 951 01:13:15,433 --> 01:13:20,063 数か月後 前田重熙が 新藩主として 952 01:13:20,230 --> 01:13:22,899 江戸より 加賀に帰って来た 953 01:13:24,734 --> 01:13:27,362 (満)饗応料理の棟取り! 954 01:13:28,196 --> 01:13:30,824 重熙さまの着任祝いじゃ 955 01:13:31,241 --> 01:13:35,829 今日 土佐守さまより 直々に言い渡された 956 01:13:36,287 --> 01:13:38,206 藩政一新の折 957 01:13:39,833 --> 01:13:43,878 こたびの饗応料理は 徳川さまは もとより 958 01:13:44,337 --> 01:13:46,548 近隣諸国の大名も 959 01:13:46,673 --> 01:13:49,592 あまねく お招き なされるとのことじゃ 960 01:13:49,759 --> 01:13:51,511 何と 名誉な! 961 01:13:52,887 --> 01:13:56,975 舟木伝内 一生の大仕事 962 01:13:59,769 --> 01:14:01,104 ついては 963 01:14:01,688 --> 01:14:05,775 安信 そなたに 棟取りの補佐を頼みたい 964 01:14:07,277 --> 01:14:08,528 私に? 965 01:14:08,945 --> 01:14:11,865 (伝内)我が舟木家の 家職を伝えていくに 966 01:14:11,990 --> 01:14:14,033 これほどの機会は あるまい 967 01:14:14,534 --> 01:14:16,411 ありがたいことです 968 01:14:16,536 --> 01:14:18,830 しっかり お勤めなさいませ 969 01:14:22,542 --> 01:14:24,794 私は やりたくありません 970 01:14:28,131 --> 01:14:30,550 (満)安信 何を申す 971 01:14:36,139 --> 01:14:39,225 土佐守さま 肝いりの 饗応料理など 972 01:14:39,893 --> 01:14:41,978 私は やりたくありません! 973 01:14:47,650 --> 01:14:49,402 定之進のことか 974 01:14:53,656 --> 01:14:54,574 安信 975 01:14:55,200 --> 01:14:57,452 そなたの気持ちは よう 分かる 976 01:14:57,577 --> 01:14:58,912 分かるが 977 01:14:59,329 --> 01:15:03,791 我らは殿に仕え 藩に仕える者ぞ 978 01:15:04,918 --> 01:15:06,252 しかし… 979 01:15:08,004 --> 01:15:09,714 武士の勤めに 980 01:15:10,173 --> 01:15:13,009 私情を持ち込むことは 相成らん! 981 01:15:16,012 --> 01:15:17,347 すでに 982 01:15:18,097 --> 01:15:21,017 上役の景山さまには 伝えてある 983 01:15:21,851 --> 01:15:24,312 明日より 持ち場を替えて 984 01:15:25,021 --> 01:15:29,359 わしと共に 献立の調べをするのじゃ 985 01:15:31,611 --> 01:15:32,612 よいな 986 01:15:37,450 --> 01:15:39,035 (満)安信! 987 01:15:44,165 --> 01:15:46,125 〔雨の音〕 988 01:15:46,709 --> 01:15:48,461 (春)お茶を お持ちしました 989 01:15:48,586 --> 01:15:50,880 (伝内)おお すまぬの 990 01:15:53,716 --> 01:15:55,885 安信は まだか? 991 01:15:56,803 --> 01:15:58,012 はい 992 01:15:59,222 --> 01:16:03,226 また どこぞで 酒でも飲んでおるのであろう 993 01:16:08,064 --> 01:16:09,357 春 994 01:16:10,775 --> 01:16:12,151 許せ 995 01:16:13,569 --> 01:16:14,988 そなたも 996 01:16:15,446 --> 01:16:19,158 母親代わりの 真如院さまを亡くした身 997 01:16:20,576 --> 01:16:24,414 饗応の宴には 思うところもあろうが 998 01:16:27,709 --> 01:16:28,918 いいえ 999 01:16:29,168 --> 01:16:31,129 春は しょせん女 1000 01:16:31,254 --> 01:16:34,299 ご政道の難しいことは 分かりません 1001 01:16:34,799 --> 01:16:36,217 それよりも 1002 01:16:36,342 --> 01:16:39,220 今度のお役目で 安信さまが お義父上の技量に 1003 01:16:39,345 --> 01:16:42,765 少しでも 近づいて くれることが 楽しみです 1004 01:16:46,602 --> 01:16:49,814 安信には 過ぎた女房じゃ 1005 01:16:51,149 --> 01:16:52,650 義父上だけです 1006 01:16:52,775 --> 01:16:55,778 やや子も出来ぬ古狸に そう言うてくれるのは 1007 01:16:56,654 --> 01:16:58,614 古狸とな… 1008 01:16:59,157 --> 01:17:02,827 可愛い古狸じゃな ハハハ… 1009 01:17:04,871 --> 01:17:06,748 (居酒屋の親父) ありがとうございました 1010 01:17:20,386 --> 01:17:21,637 (侍)安信 1011 01:17:26,142 --> 01:17:27,268 (安信)誰だ? 1012 01:17:31,939 --> 01:17:33,941 (侍)俺の声を忘れたか 1013 01:17:41,491 --> 01:17:42,367 痛っ… 1014 01:17:51,459 --> 01:17:53,044 〔物音〕 1015 01:17:58,007 --> 01:18:00,009 (春)お帰りなさいませ… 1016 01:18:00,885 --> 01:18:02,845 こんなに濡れて 1017 01:18:08,059 --> 01:18:10,311 大事なお役目の前に 1018 01:18:10,436 --> 01:18:13,398 あまり お酒を お過ごしになられては 1019 01:18:15,691 --> 01:18:17,402 今 お水を 1020 01:18:18,027 --> 01:18:52,895 ♪ 1021 01:18:55,231 --> 01:18:57,316 (景山)味付けも見た目も 文句なし 1022 01:18:57,900 --> 01:19:00,528 見事な二の膳 三の膳と 思いますが 1023 01:19:01,988 --> 01:19:03,072 いや 1024 01:19:03,573 --> 01:19:05,867 これでは まだ足りんのです 1025 01:19:06,409 --> 01:19:08,202 こたびの宴に必要なのは 1026 01:19:08,327 --> 01:19:11,164 小手先の宴会料理では ござりません 1027 01:19:12,498 --> 01:19:16,752 国が 一つとなった 証しとなる… 1028 01:19:17,462 --> 01:19:19,755 何と申せばよいか… 1029 01:19:20,965 --> 01:19:22,800 滋味にあふれ 1030 01:19:23,092 --> 01:19:26,804 加賀の国の底力を 感じられるような 1031 01:19:26,929 --> 01:19:30,266 料理を作りとう存じます 1032 01:19:30,433 --> 01:19:32,351 うーん… 1033 01:19:33,644 --> 01:19:35,104 (伝内)景山さま 1034 01:19:36,189 --> 01:19:37,482 拙者 1035 01:19:38,274 --> 01:19:41,110 倅 安信と共に 1036 01:19:41,277 --> 01:19:45,406 近々 能登に 参りとう存じまする 1037 01:19:45,781 --> 01:19:46,782 能登へ? 1038 01:19:46,949 --> 01:19:47,950 はい 1039 01:19:48,201 --> 01:19:52,538 能登の奥深い山の幸 海の幸 1040 01:19:52,788 --> 01:19:57,126 能登には まだ 我々の知らぬ味が 1041 01:19:57,460 --> 01:20:01,964 雪深い 厳しい暮らしに 負けぬ料理が 必ずあるはず 1042 01:20:02,131 --> 01:20:05,301 それを 見つけとう 存じまする 1043 01:20:07,220 --> 01:20:08,971 (景山)うむ 1044 01:20:09,805 --> 01:20:10,890 いや 1045 01:20:11,599 --> 01:20:14,393 伝内どのの 熱心には かないませぬ 1046 01:20:14,519 --> 01:20:15,478 うん 1047 01:20:15,853 --> 01:20:19,232 仔細は一切 お任せ申し上げる 1048 01:20:19,357 --> 01:20:21,484 かたじけのう存じまする 1049 01:20:24,070 --> 01:20:25,238 (春)ありがとうございます 1050 01:20:25,363 --> 01:20:27,031 また ごひいきに 1051 01:20:31,953 --> 01:20:35,831 (男)舟木安信さまの ご内儀でございますな 1052 01:20:35,998 --> 01:20:39,585 はい 安信は私の夫ですが 1053 01:20:40,503 --> 01:20:42,713 他言は無用でございます 1054 01:20:44,507 --> 01:20:47,343 ご主人さまへ お渡しを 1055 01:20:47,843 --> 01:20:49,428 あの… どちらさま? 1056 01:20:55,184 --> 01:20:57,687 (春・満)お帰りなさいませ 1057 01:20:58,563 --> 01:21:01,148 父上は一緒では なかったのか 1058 01:21:01,274 --> 01:21:03,693 (安信) 大樋焼きの 窯元に行きました 1059 01:21:04,360 --> 01:21:06,696 今夜は一晩 火入れに 付き合われて 1060 01:21:06,821 --> 01:21:08,406 家には帰らぬとのこと 1061 01:21:08,531 --> 01:21:11,284 まあ! 何と物好きな 1062 01:21:16,122 --> 01:21:17,081 何… 1063 01:21:17,498 --> 01:21:18,666 書状!? 1064 01:21:18,958 --> 01:21:21,460 はい 文机の上に 1065 01:21:31,387 --> 01:21:34,682 今日のお昼頃 何も言わずに… 1066 01:21:35,433 --> 01:21:36,892 何ですか? 1067 01:21:38,769 --> 01:21:39,979 何でもない 1068 01:21:40,104 --> 01:21:41,147 でも… 1069 01:21:41,897 --> 01:21:43,691 母上には話すな 1070 01:21:44,233 --> 01:21:45,401 よいな 1071 01:22:12,053 --> 01:22:15,014 〔研ぐ音〕 1072 01:22:16,432 --> 01:22:17,808 あなた… 1073 01:22:25,608 --> 01:22:27,360 一体 何を 1074 01:22:35,534 --> 01:22:37,495 (安信)土佐守を討つ 1075 01:22:42,375 --> 01:22:43,376 今朝 1076 01:22:45,795 --> 01:22:47,588 土佐守が 打木ヶ原に 1077 01:22:47,713 --> 01:22:49,131 狩りに出る 1078 01:22:50,675 --> 01:22:52,593 ひそかに国へ戻り 1079 01:22:53,511 --> 01:22:56,305 城下に忍んでいた 定之進たちは 1080 01:22:58,391 --> 01:23:00,768 ずっと機会を うかがっていたのだ 1081 01:23:02,061 --> 01:23:03,979 定之進さま… 1082 01:23:04,647 --> 01:23:07,108 定之進さまが あなたを? 1083 01:23:09,443 --> 01:23:10,444 俺が頼んだ 1084 01:23:12,238 --> 01:23:13,489 いけません! 1085 01:23:13,656 --> 01:23:16,033 そんなことをしたら 義父上や義母上は! 1086 01:23:16,158 --> 01:23:17,785 それは言うな! 1087 01:23:40,433 --> 01:23:42,184 定之進と 1088 01:23:43,352 --> 01:23:45,980 佐代どのとの間に 生まれた子は 1089 01:23:47,857 --> 01:23:49,567 熱を出して 1090 01:23:50,985 --> 01:23:53,696 医者にも かけられずに 死んだそうだ 1091 01:24:09,044 --> 01:24:10,796 俺は子供の頃 1092 01:24:12,339 --> 01:24:15,676 刀の代わりに 包丁を差せと からかわれた 1093 01:24:17,720 --> 01:24:19,555 それが悔しくて 1094 01:24:22,099 --> 01:24:24,435 必死に剣の稽古をした 1095 01:24:27,855 --> 01:24:30,399 それが ようやく役に立つ 1096 01:24:48,876 --> 01:24:50,211 離縁状を書いておいた 1097 01:24:50,920 --> 01:24:58,677 {\an8}♪ 1098 01:24:56,175 --> 01:24:58,677 あれがあれば 咎は及ぶまい 1099 01:25:00,262 --> 01:25:03,140 お前には犠牲に なってもらいたくないのだ 1100 01:25:20,407 --> 01:25:22,701 着物の支度を頼む 1101 01:27:06,055 --> 01:27:07,139 (安信)春! 1102 01:27:11,852 --> 01:27:45,761 {\an8}♪ 1103 01:27:43,884 --> 01:27:45,761 (越村)後は舟木だけか 1104 01:27:47,429 --> 01:27:50,474 定之進 奴は本当に来るのか? 1105 01:27:53,435 --> 01:27:54,436 来る! 1106 01:29:20,022 --> 01:29:21,523 これは… 1107 01:29:28,405 --> 01:29:29,907 どうでした? 1108 01:29:36,330 --> 01:29:37,873 お春さま? 1109 01:29:40,709 --> 01:29:42,294 お春さま! 1110 01:29:54,556 --> 01:29:56,600 ただ今 傷の手当てを 1111 01:30:40,936 --> 01:30:43,105 お前たちは下がっていろ… 1112 01:30:47,401 --> 01:30:49,111 下がっていろ! 1113 01:31:01,415 --> 01:31:04,001 己のしたことが 分かっているか 1114 01:31:08,922 --> 01:31:10,007 はい 1115 01:31:14,136 --> 01:31:15,387 では 1116 01:31:23,770 --> 01:31:25,981 覚悟は できておるな 1117 01:31:28,442 --> 01:31:32,321 {\an8}♪ 1118 01:31:30,736 --> 01:31:32,321 私は 1119 01:31:33,822 --> 01:31:36,491 あなたに生きていてほしくて 1120 01:31:38,160 --> 01:31:39,703 夢中で… 1121 01:31:42,539 --> 01:31:45,667 定之進たちは 皆 死んだのだ! 1122 01:31:58,013 --> 01:31:59,640 私は 1123 01:32:01,850 --> 01:32:04,353 あなたが生きていてくれれば 1124 01:32:05,646 --> 01:32:07,022 それで… 1125 01:32:16,740 --> 01:32:18,033 (満)安信! 1126 01:32:19,117 --> 01:32:20,410 何をしておるのじゃ! 1127 01:32:20,535 --> 01:32:22,829 この女は 武士の誇りを 貶めた 1128 01:32:22,955 --> 01:32:24,873 許すことはできません! 1129 01:32:26,708 --> 01:32:29,002 行けば 今頃 どうなったと思う 1130 01:32:29,127 --> 01:32:30,587 お前は犬死に 1131 01:32:30,712 --> 01:32:32,297 舟木家は お取りつぶし 1132 01:32:32,422 --> 01:32:33,882 春の機転に 救われたのだぞ! 1133 01:32:34,007 --> 01:32:37,219 私の命や 舟木家など 問題ではありません! 1134 01:32:37,344 --> 01:32:38,845 お放しください! 1135 01:32:39,721 --> 01:32:41,723 大馬鹿者! 1136 01:32:42,724 --> 01:32:47,771 兄に続いて お前まで 私を置いていくつもりか! 1137 01:32:47,896 --> 01:32:50,274 この 親不孝者め! 1138 01:32:51,858 --> 01:32:55,028 〔満の泣き声〕 1139 01:33:05,122 --> 01:33:06,707 大変でございます! 1140 01:33:13,005 --> 01:33:16,383 景山さまの命により お知らせに参りました 1141 01:33:17,092 --> 01:33:19,803 伝内さまが お倒れになりました 1142 01:33:22,347 --> 01:33:24,599 窯元より お帰りの途中 突然… 1143 01:33:25,392 --> 01:33:28,353 胸を押さえて 苦しみ始められたそうです 1144 01:33:29,771 --> 01:33:33,025 (医師)では くれぐれも ご安静に 1145 01:33:33,775 --> 01:33:36,945 何といっても 心の臓ですからな 1146 01:33:37,070 --> 01:33:37,988 はい… 1147 01:33:38,280 --> 01:33:39,323 では 1148 01:33:39,614 --> 01:33:42,117 ご足労を おかけ致しまして 1149 01:33:47,831 --> 01:33:49,249 (伝内)春 1150 01:33:49,833 --> 01:33:51,293 ここへ 1151 01:33:52,961 --> 01:33:54,046 はい 1152 01:34:03,221 --> 01:34:06,767 父子して 死に損なったな 1153 01:34:07,476 --> 01:34:08,810 ハハハ… 1154 01:34:11,313 --> 01:34:14,816 わしの体は もう無理が利かん 1155 01:34:15,442 --> 01:34:16,735 しかし 1156 01:34:17,819 --> 01:34:23,825 こたびの饗応の宴の棟取り 何としても務めたい 1157 01:34:24,951 --> 01:34:26,078 安信 1158 01:34:27,245 --> 01:34:29,498 お前の助けが必要じゃ 1159 01:34:35,420 --> 01:34:39,883 先々代 吉徳さまの急死から 1160 01:34:41,760 --> 01:34:46,765 一連の騒動で 加賀の威信は地に落ちた 1161 01:34:48,058 --> 01:34:54,022 今 真に殿に仕え 国を思うならば 1162 01:34:54,606 --> 01:34:57,025 一体 何をなすべきか 1163 01:34:59,319 --> 01:35:01,363 剣を持ってして 1164 01:35:01,780 --> 01:35:05,075 血を流すことが 武士の大事か 1165 01:35:07,202 --> 01:35:08,620 いいや 1166 01:35:09,663 --> 01:35:13,542 我ら 包丁侍のなすべきは 1167 01:35:14,876 --> 01:35:17,879 饗応の宴をもって 1168 01:35:18,380 --> 01:35:19,589 加賀に 1169 01:35:20,215 --> 01:35:23,969 かつての晴朗な気風を 取り戻すこと 1170 01:35:27,973 --> 01:35:30,434 わしは そう信じる 1171 01:35:35,397 --> 01:35:36,523 春 1172 01:35:38,358 --> 01:35:40,068 わしに代わって 1173 01:35:40,569 --> 01:35:44,364 安信と一緒に 能登に行ってくれぬか 1174 01:35:45,449 --> 01:35:48,493 そなたの舌が役に立つ 1175 01:35:54,040 --> 01:35:55,125 春… 1176 01:35:59,212 --> 01:36:00,881 頼んだぞ 1177 01:36:11,266 --> 01:36:13,560 〔波の音〕 1178 01:36:13,685 --> 01:37:19,459 {\an8}♪ 1179 01:37:18,166 --> 01:37:19,459 柚餅子だ 1180 01:37:23,630 --> 01:37:25,173 これが… 1181 01:37:27,717 --> 01:37:30,136 (安信)日が暮れるまでに 海に出たい 1182 01:37:30,679 --> 01:37:32,013 急ぐぞ 1183 01:39:18,578 --> 01:39:19,704 春 1184 01:39:19,913 --> 01:39:23,291 この いしるが取れた 村の名前は 何と言った? 1185 01:39:29,422 --> 01:39:32,050 〔寝息〕 1186 01:40:10,505 --> 01:40:11,881 (為吉)旦那さま 1187 01:40:14,175 --> 01:40:16,344 薪を お足しします 1188 01:40:18,138 --> 01:40:19,806 すみません… 1189 01:40:27,147 --> 01:40:28,064 はい 1190 01:40:28,314 --> 01:40:31,526 (伝内の声)長旅 ご苦労であった 1191 01:40:31,693 --> 01:40:33,445 さぞ 疲れたであろう 1192 01:40:34,195 --> 01:40:35,238 父上 1193 01:40:35,363 --> 01:40:37,699 戻る途中 耳にしたのですが 1194 01:40:37,824 --> 01:40:40,160 恩赦が出たというのは 誠ですか 1195 01:40:40,702 --> 01:40:41,578 うむ 1196 01:40:43,246 --> 01:40:45,707 饗応の宴を催すにあたり 1197 01:40:45,832 --> 01:40:53,214 重熙さまは 咎を受けた 大槻派の者たちの復職を認め 1198 01:40:53,548 --> 01:40:55,800 蟄居閉門を 解かれた 1199 01:40:56,509 --> 01:40:57,844 何を いまさら 1200 01:40:57,969 --> 01:40:59,721 言葉を慎め 1201 01:40:59,888 --> 01:41:01,347 そうです 1202 01:41:01,514 --> 01:41:03,475 佐代どのが 国へ戻って来られたのも 1203 01:41:03,600 --> 01:41:05,643 上様の 寛恕のおかげ 1204 01:41:06,102 --> 01:41:07,812 佐代どのが 国へ? 1205 01:41:08,438 --> 01:41:10,607 今井家は お取りつぶしになりましたが 1206 01:41:10,732 --> 01:41:15,403 佐代どのだけは 遠縁の蔵奉行 牧野さまの養女として 1207 01:41:15,570 --> 01:41:18,406 迎えられることが 許されたのです 1208 01:41:20,241 --> 01:41:23,578 もう 牧野さまのお屋敷に 移っておられるらしい 1209 01:41:24,746 --> 01:41:30,084 やや子を亡くし 夫を亡くし 不幸続きではあったが 1210 01:41:30,418 --> 01:41:33,338 まだまだ お若い上に あの器量… 1211 01:41:33,463 --> 01:41:36,424 また良い ご縁談も あるやも知れん 1212 01:42:29,477 --> 01:42:31,271 行ってらっしゃいませ 1213 01:42:31,729 --> 01:42:33,940 ご成功を お祈りしております 1214 01:43:37,754 --> 01:43:40,214 本日は遠方より お集まりいただき 1215 01:43:40,381 --> 01:43:43,343 誠に ありがとうございます 1216 01:43:45,678 --> 01:43:48,264 藩主 前田重熙が 徳川さまより 1217 01:43:48,389 --> 01:43:52,560 八代目を仰せつかり はや 一年 1218 01:44:01,486 --> 01:44:02,528 では 1219 01:44:09,410 --> 01:44:10,620 かかれ! 1220 01:44:10,745 --> 01:44:11,788 (一同)はっ! 1221 01:44:12,246 --> 01:44:15,667 {\an8}♪ 1222 01:44:13,039 --> 01:44:15,667 〔ざわめき〕 1223 01:44:22,298 --> 01:44:24,676 (直躬)ここ加賀に 於きまして 1224 01:44:24,884 --> 01:44:27,470 藩主入国の祝いと致しまして 1225 01:44:27,595 --> 01:44:29,847 饗応の宴を催すことと… 1226 01:44:51,119 --> 01:44:52,745 (侍)おい 竹の子 1227 01:44:53,121 --> 01:44:54,706 竹の子でございます 1228 01:45:02,797 --> 01:45:03,756 よっ! 1229 01:45:04,549 --> 01:45:07,343 これも偏に 徳川さまは もとより 1230 01:45:07,468 --> 01:45:09,220 諸大名の皆さま方の 1231 01:45:09,345 --> 01:45:13,433 格別なるお引き立てによる ものでございます 1232 01:45:20,982 --> 01:45:23,276 お造りの鰤にございます 1233 01:45:23,818 --> 01:45:25,570 うむ よかろう 1234 01:45:48,718 --> 01:45:50,386 〔飛び交う怒号〕 1235 01:46:25,713 --> 01:46:27,882 鯉の小付けにございます 1236 01:46:28,382 --> 01:46:29,884 蓮根を立てて わさびをつけろ 1237 01:46:30,051 --> 01:46:30,927 はっ 1238 01:47:02,208 --> 01:47:03,251 味噌を焦がすな 1239 01:47:03,376 --> 01:47:04,252 はっ 1240 01:47:12,468 --> 01:47:14,303 (配膳方)三の膳 “鯛の塩焼き” 1241 01:47:14,428 --> 01:47:16,848 “鮑田楽”でございます 1242 01:47:19,767 --> 01:47:21,018 鮑を 1243 01:47:21,310 --> 01:47:22,270 (家臣)はっ 1244 01:47:30,069 --> 01:47:32,155 梅豆腐が蒸し上がりました 1245 01:47:33,447 --> 01:47:34,448 (安信)配膳方 1246 01:47:34,574 --> 01:47:35,449 (配膳方)はっ 1247 01:47:35,741 --> 01:47:36,784 広間の様子を 1248 01:47:36,909 --> 01:47:37,743 はっ! 1249 01:47:38,786 --> 01:47:40,496 五の膳の支度を急げ! 1250 01:47:40,621 --> 01:47:41,372 (料理人たち)はっ! 1251 01:47:48,629 --> 01:47:49,547 (配膳方) 与の膳 1252 01:47:49,672 --> 01:47:52,049 “鰯山椒煮” “氷頭のみぞれ和え” 1253 01:48:10,902 --> 01:48:12,528 五の膳 “桜鱒” 1254 01:48:12,737 --> 01:48:14,530 “鴨くわ焼き”に “梅豆腐”でございます 1255 01:48:14,989 --> 01:48:17,366 “花びらはべん”にございます 1256 01:48:17,491 --> 01:48:20,828 七の膳 “すずきの霜ふり”でございます 1257 01:48:26,209 --> 01:48:28,461 〔談笑の声〕 1258 01:48:44,852 --> 01:48:46,771 引菜膳の 支度はよいな? 1259 01:48:46,896 --> 01:48:47,730 はっ! 1260 01:48:49,315 --> 01:48:51,609 〔喧騒〕 1261 01:49:03,204 --> 01:49:06,540 (配膳方)加賀名物 “鯛の唐蒸し”でございます 1262 01:49:07,875 --> 01:49:10,044 (大名)こりゃ 大鯛じゃ 1263 01:49:32,858 --> 01:49:35,903 誠に 上等のお料理で ございますな 1264 01:49:36,070 --> 01:49:37,863 恐れ入りまする 1265 01:49:45,621 --> 01:49:46,706 (配膳方)引菜膳 1266 01:49:46,914 --> 01:49:49,083 “雉子の羽盛り”に ございます 1267 01:50:15,276 --> 01:50:19,905 (伝内)舟木伝内 安信 参りましてござりまする 1268 01:50:22,700 --> 01:50:25,369 待っておったぞ これへ 1269 01:50:25,786 --> 01:50:26,829 (伝内)はっ 1270 01:50:41,927 --> 01:50:43,888 ご苦労であった 1271 01:50:44,972 --> 01:50:50,019 殿も客人も ことのほか ご満足のご様子 1272 01:50:50,478 --> 01:50:52,938 見事な料理であった 1273 01:50:54,398 --> 01:50:58,319 お褒めにあずかり 光栄に存じます 1274 01:51:01,947 --> 01:51:04,658 城から眺める町は良いな 1275 01:51:04,825 --> 01:51:07,828 夕陽に映えて美しい 1276 01:51:10,664 --> 01:51:12,208 しかしな 1277 01:51:13,250 --> 01:51:15,086 わしの目には… 1278 01:51:16,921 --> 01:51:19,965 血に染まったようにも 見える 1279 01:51:23,344 --> 01:51:24,470 先だって 1280 01:51:25,554 --> 01:51:29,975 徒党を組んで わしの命を とろうとする輩がおった 1281 01:51:31,185 --> 01:51:33,187 復藩を望んだ 裏切り者のせいで 1282 01:51:33,312 --> 01:51:35,815 一網打尽としたが… 1283 01:51:38,776 --> 01:51:41,779 若い者が多かったと聞く 1284 01:51:42,405 --> 01:51:44,281 妻子ある者も… 1285 01:51:44,782 --> 01:51:48,953 {\an8}♪ 1286 01:51:47,868 --> 01:51:48,953 もう… 1287 01:51:49,703 --> 01:51:51,872 しまいにせねばならん 1288 01:51:52,540 --> 01:51:54,166 こんなことは… 1289 01:52:00,756 --> 01:52:03,592 つまらぬ愚痴を 聞かせてしまった 1290 01:52:05,010 --> 01:52:07,638 お前たちの料理のせいだな 1291 01:52:08,222 --> 01:52:10,850 こんな思いが強くなるのも 1292 01:52:15,813 --> 01:52:17,982 (為吉)安信さまの お戻りです 1293 01:52:19,859 --> 01:52:22,653 それでは 今日は ご苦労であった 1294 01:52:23,154 --> 01:52:26,449 (正太郎)お主こそ 実に見事な差配だったぞ 1295 01:52:26,574 --> 01:52:28,033 ゆっくり休んでくれ 1296 01:52:36,417 --> 01:52:37,585 (安信)春! 1297 01:52:44,800 --> 01:52:45,759 (満)安信! 1298 01:52:45,926 --> 01:52:47,011 春はどうしました 1299 01:52:47,136 --> 01:52:49,096 (満)出て行って しまったのじゃ! 1300 01:52:49,763 --> 01:52:52,766 春が出て行って しまったのじゃ! 1301 01:52:52,933 --> 01:52:54,101 出て行った!? 1302 01:52:54,226 --> 01:52:55,269 お神明さんへ 1303 01:52:55,394 --> 01:52:57,480 願でもかけに行ったのだと 思っていたら 1304 01:52:57,605 --> 01:52:59,273 これを残して 1305 01:53:03,944 --> 01:53:07,198 {\an8}♪ 1306 01:53:05,696 --> 01:53:07,198 (春の声)皆さま 1307 01:53:07,615 --> 01:53:10,201 長らく お世話になりました 1308 01:53:10,451 --> 01:53:13,037 舟木家での春の務めは 1309 01:53:13,329 --> 01:53:18,459 饗応の宴の日 本日をもって終わりました 1310 01:53:19,793 --> 01:53:20,961 どうぞ 1311 01:53:21,587 --> 01:53:25,841 私の代わりに 武家にふさわしい… 1312 01:53:26,133 --> 01:53:29,887 安信さまが 心よりお望みになる方を 1313 01:53:30,221 --> 01:53:32,598 お内儀にお迎えください 1314 01:53:33,807 --> 01:53:39,647 ご一族の末永い ご繁栄を お祈りしております 1315 01:53:40,731 --> 01:53:41,982 春 1316 01:53:43,651 --> 01:53:45,069 馬鹿な 1317 01:53:46,487 --> 01:53:48,948 これが一緒に 1318 01:53:58,040 --> 01:54:01,210 〔波の音〕 1319 01:54:13,347 --> 01:54:15,349 (海女1)あれ? 今日はもう おしまいかい? 1320 01:54:15,474 --> 01:54:18,769 (海女2)うちの父ちゃん 船で へたばっちまってさぁ 1321 01:54:18,894 --> 01:54:20,354 また飲み過ぎて 二日酔いか 1322 01:54:20,521 --> 01:54:22,189 (海女2)ベロベロだよ 1323 01:54:23,315 --> 01:54:24,650 お帰りなさい 1324 01:54:24,775 --> 01:54:26,193 あら おいしそう 1325 01:54:26,318 --> 01:54:29,905 (海女2)春さん これさ 貝焼きにしておくれよ 1326 01:54:30,030 --> 01:54:30,781 はい 1327 01:54:30,906 --> 01:54:33,701 春さんが来てから 飯が うまくてなぁ 1328 01:54:44,545 --> 01:54:46,005 (男)うまそうだ 1329 01:54:58,559 --> 01:55:00,394 しばらくぶりだな 1330 01:55:01,937 --> 01:55:03,397 捜したぞ 1331 01:55:05,941 --> 01:55:07,651 なぜ 家を出た 1332 01:55:10,571 --> 01:55:13,198 それは 文に書いたとおりです 1333 01:55:13,574 --> 01:55:16,285 私は武家の嫁には 向きません 1334 01:55:16,702 --> 01:55:17,911 それに… 1335 01:55:18,037 --> 01:55:21,415 伝内さまは あなたを 一人前の料理人にするために 1336 01:55:21,582 --> 01:55:23,042 父上には 1337 01:55:23,626 --> 01:55:26,754 お前を見つけるまで 家に帰るなと言われた 1338 01:55:29,798 --> 01:55:31,508 私は大事な跡継ぎを 産むことも… 1339 01:55:31,634 --> 01:55:33,093 母上は 1340 01:55:34,553 --> 01:55:38,682 “自分の孫を産むのは 春以外にない”と 1341 01:55:46,357 --> 01:55:53,614 {\an8}♪ 1342 01:55:50,778 --> 01:55:53,614 確かに 俺は 佐代どのを好いていた 1343 01:55:55,783 --> 01:55:58,619 夫婦になりたいと 思ったこともあった 1344 01:56:00,204 --> 01:56:02,956 だが そんな気持ちは お前が吹き飛ばした 1345 01:56:26,146 --> 01:56:28,482 お前は 俺を 変えてくれた… 1346 01:56:30,484 --> 01:56:32,820 俺に必要なのは 春 1347 01:56:34,279 --> 01:56:35,739 お前なのだ 1348 01:56:37,825 --> 01:56:38,951 頼む 1349 01:56:41,453 --> 01:56:43,747 俺と一生を共にしてくれ! 1350 01:56:47,960 --> 01:56:49,420 頼む! 1351 01:57:37,968 --> 01:57:40,554 (ナレーション) 後に 舟木安信は 1352 01:57:40,679 --> 01:57:45,184 父 伝内も届かなかった 御料理頭となった 1353 01:57:45,726 --> 01:57:49,646 舟木家は明治に至る 加賀藩の最後まで 1354 01:57:49,772 --> 01:57:53,984 六代にわたり 御台所御用を 務めることになる 1355 01:57:55,277 --> 01:57:59,239 伝内と安信は “料理無言抄”など 1356 01:57:59,406 --> 01:58:03,911 加賀料理の基礎となる 数多くの書物を書き残し 1357 01:58:04,411 --> 01:58:08,040 その献立は 現在の料理のうちにも 1358 01:58:08,165 --> 01:58:11,251 廃れることなく生きている