1 00:00:20,038 --> 00:00:22,974 (小五郎)成聞和尚さん! 2 00:00:22,974 --> 00:00:24,974 おう 小五郎 3 00:00:27,312 --> 00:00:30,148 この鉄砲は撃てますか? 4 00:00:30,148 --> 00:00:32,348 ぜひ 撃たせてください! 5 00:00:34,486 --> 00:00:36,486 おお? 6 00:00:40,559 --> 00:00:42,759 あの木を撃ちたいと思います 7 00:00:44,329 --> 00:00:49,334 小五郎は 銀杏の木に恨みでもあるのか? 8 00:00:49,334 --> 00:00:52,404 恨みなどありません しかし 9 00:00:52,404 --> 00:00:56,842 我ら 武家の次男 三男に生まれた男子は 家督を継げず 10 00:00:56,842 --> 00:00:59,678 よその家に養子に入るしか役に立たない 11 00:00:59,678 --> 00:01:02,013 へそ者だと さげすまれています 12 00:01:02,013 --> 00:01:04,683 ホホホホホ… 13 00:01:04,683 --> 00:01:10,083 へそは 母親の胎内にある時しか 役に立たんからのう 14 00:01:10,856 --> 00:01:15,126 へそ者というのは まことに役立たずなのでしょうか? 15 00:01:15,126 --> 00:01:18,630 いや 拙僧は そうは思わん 16 00:01:18,630 --> 00:01:21,132 私に言わせれば 17 00:01:21,132 --> 00:01:25,032 あの銀杏の大木も へそ者です 18 00:01:26,204 --> 00:01:28,640 そりゃ 初耳じゃ 19 00:01:28,640 --> 00:01:31,309 同じへそ者の分際でありながら 20 00:01:31,309 --> 00:01:34,312 この銀杏は 寺の一角で 堂々 枝を張り 21 00:01:34,312 --> 00:01:39,651 天へと伸び 大きな顔をしているのが いささか しゃくに障ります 22 00:01:39,651 --> 00:01:41,653 ゆえに 同じへそ者として 23 00:01:41,653 --> 00:01:44,322 さきざき どちらが 役に立つ生き方をするのか 24 00:01:44,322 --> 00:01:46,522 勝負を挑みたいのです 25 00:01:47,392 --> 00:01:49,392 ほう… 26 00:02:15,353 --> 00:02:24,853 (門人達の掛け声) 27 00:02:37,976 --> 00:02:39,976 ウーッ! 28 00:02:48,987 --> 00:02:50,989 ウーッ! 29 00:02:50,989 --> 00:02:52,989 オオーッ! 30 00:02:54,059 --> 00:02:59,831 (康助)平野さん ついに 七郎太殿の養子先が決まったそうです 31 00:02:59,831 --> 00:03:02,334 ホントか? 32 00:03:02,334 --> 00:03:06,771 (七郎太)郡方の田島誠之助様に 娘御が二人おられまして 33 00:03:06,771 --> 00:03:12,110 ご長女が 私より二つ年上の 二十三になります 34 00:03:12,110 --> 00:03:14,446 そうか 35 00:03:14,446 --> 00:03:18,516 はぁ… これで また へそ者仲間が減るのか 36 00:03:18,516 --> 00:03:22,120 俺のように 二十七にもなると どこからも 養子の口はかからん 37 00:03:22,120 --> 00:03:24,956 そんなことはないでしょう いやいや 38 00:03:24,956 --> 00:03:28,026 跡継ぎの康助の嫁取りの方が早いな 39 00:03:28,026 --> 00:03:31,029 きょうだいの多い 足軽のところへなど 40 00:03:31,029 --> 00:03:33,229 嫁の来手なんか ありませんよ 41 00:03:43,975 --> 00:03:45,977 (恵津)あっ… 42 00:03:45,977 --> 00:03:48,046 申し訳ございません! ご心配なく 43 00:03:48,046 --> 00:03:50,046 かかっておりません 44 00:04:07,599 --> 00:04:10,299 きれいな人だなあ 45 00:04:11,603 --> 00:04:14,603 あっ では 私はここで 46 00:04:18,443 --> 00:04:21,112 平野さん 47 00:04:21,112 --> 00:04:25,183 私は もう 道場には 通えなくなりました 48 00:04:25,183 --> 00:04:27,786 何? 49 00:04:27,786 --> 00:04:33,625 我ら足軽が頂く俸禄は 十年も前から 毎年減らされ 50 00:04:33,625 --> 00:04:36,825 今や 年に三両から五両なのです 51 00:04:38,963 --> 00:04:42,467 親きょうだい六人の我が家では 52 00:04:42,467 --> 00:04:45,537 剣術などより 53 00:04:45,537 --> 00:04:49,237 稼ぐ算段を しなければならないもので 54 00:05:08,093 --> 00:05:12,293 これまでのご指導 ありがとうございました 55 00:05:20,772 --> 00:05:23,274 <信州 松代> 56 00:05:23,274 --> 00:05:28,780 <江戸時代 ここは かの真田家が治めた地でございます> 57 00:05:28,780 --> 00:05:33,284 <藩主 信之の頃は まだ豊かであったものの> 58 00:05:33,284 --> 00:05:37,789 <五代目となる信安の頃には 財政が困窮し> 59 00:05:37,789 --> 00:05:42,293 <小姓から登用した 原 正盛を 家老に抜擢して> 60 00:05:42,293 --> 00:05:46,131 <藩政改革にあたらせたのですが> 61 00:05:46,131 --> 00:05:50,631 <それは 貧富の格差を生んでいたのです> 62 00:05:56,141 --> 00:06:00,812 (成聞) そうか 恵津さんは もう十九におなりか 63 00:06:00,812 --> 00:06:02,814 (源右衛門)一人娘ですので 64 00:06:02,814 --> 00:06:05,316 家名を残すためには 65 00:06:05,316 --> 00:06:08,086 婿を迎えねばなりませぬ 66 00:06:08,086 --> 00:06:13,925 しかし たかだか二十石取りの 御納戸役の当家へなど 67 00:06:13,925 --> 00:06:18,930 わざわざ婿に入ろうという 酔狂なお方はおられません 68 00:06:18,930 --> 00:06:20,932 いやいや 69 00:06:20,932 --> 00:06:23,434 美人の誉れ高い恵津さんなら 70 00:06:23,434 --> 00:06:27,772 嫁にもらいたい 婿に入りたい という家があると 71 00:06:27,772 --> 00:06:30,275 噂を聞いた事がある 72 00:06:30,275 --> 00:06:33,475 それは確かにございましたが… 73 00:06:34,946 --> 00:06:38,950 (源右衛門) 江戸にも出店のある薬種問屋 八田屋が・ 74 00:06:38,950 --> 00:06:41,452 跡継ぎの嫁にと申して・ 75 00:06:41,452 --> 00:06:44,455 百両を持参した事もありました 76 00:06:44,455 --> 00:06:47,125 他に三つばかり 口がかかりましたが 77 00:06:47,125 --> 00:06:53,464 そのいずれも 二十石取りの当家とは 釣り合いの取れない大家ばかり 78 00:06:53,464 --> 00:06:58,970 これでは 恵津が苦労するばかりかと 思いまして 79 00:06:58,970 --> 00:07:02,570 うん なるほどな 80 00:07:13,151 --> 00:07:16,151 あのへそ者は どうしておるかのう 81 00:07:17,155 --> 00:07:20,355 (成聞)代々 当山の檀家でのう 82 00:07:23,995 --> 00:07:29,767 三十石取りの勘定方 平野弥兵衛は昨年亡くなり 83 00:07:29,767 --> 00:07:34,105 長男の弥一郎が 家督を相続したんじゃが 84 00:07:34,105 --> 00:07:37,942 そこの次男坊が 85 00:07:37,942 --> 00:07:40,942 正真正銘の へそ者よ 86 00:07:42,013 --> 00:07:45,450 その御仁は何という… 87 00:07:45,450 --> 00:07:50,955 今年 二十七になる 平野小五郎という へそ者よ 88 00:07:50,955 --> 00:07:55,460 あの男なら お主のところの 家風に合おうよ 89 00:07:55,460 --> 00:07:58,260 (たい) 何事でございますか? 90 00:08:10,241 --> 00:08:12,577 お呼びでしょうか 兄上 91 00:08:12,577 --> 00:08:17,415 (弥一郎) 小五郎 お主の婿入り先が決まったぞ! 92 00:08:17,415 --> 00:08:19,715 (すま)おめでとう存じます 93 00:08:22,086 --> 00:08:25,590 んっ? フッ ハハッ… 94 00:08:25,590 --> 00:08:30,928 それにしても 山崎殿が 小五郎の どこを見込まれたものかなあ?・ 95 00:08:30,928 --> 00:08:34,432 剣術の腕は そこそこだが 他に これというものも… 96 00:08:34,432 --> 00:08:37,532 山崎… 97 00:08:40,271 --> 00:08:42,771 山崎? 98 00:08:56,120 --> 00:08:59,123 寺から久しく 遠ざかっておったんで 99 00:08:59,123 --> 00:09:02,323 罰として 掃除を命じたところです 100 00:09:03,628 --> 00:09:05,697 これが 平野小五郎です 101 00:09:05,697 --> 00:09:07,897 あっ… 102 00:09:09,400 --> 00:09:12,900 こちらは 山崎恵津さんじゃ 103 00:09:21,079 --> 00:09:23,279 あっ! あっ… 104 00:09:27,752 --> 00:09:30,088 和尚様… 105 00:09:30,088 --> 00:09:32,088 いや… お 和尚… 106 00:09:36,094 --> 00:09:38,094 ああ… 107 00:09:40,164 --> 00:09:42,166 <翌年の春> 108 00:09:42,166 --> 00:09:47,666 <平野小五郎は 山崎家の婿となったのでございます> 109 00:10:00,118 --> 00:10:05,818 幾久しゅう よろしくお願い申し上げます 110 00:10:07,625 --> 00:10:10,025 こちらこそです 111 00:10:20,638 --> 00:10:25,710 これからの事で 私に何か 命じておきたい事などがありますれば 112 00:10:25,710 --> 00:10:28,312 伺いとうございます 113 00:10:28,312 --> 00:10:30,381 命じるなど 滅相も… 114 00:10:30,381 --> 00:10:33,384 食べ物の好みとか… 115 00:10:33,384 --> 00:10:35,653 好みなど とんでもない 116 00:10:35,653 --> 00:10:39,323 朝餉夕餉の膳に 好みがどうのなど 考えた事もなく 117 00:10:39,323 --> 00:10:42,326 たとえ それが 牛が食む路傍の草といえども 118 00:10:42,326 --> 00:10:46,826 口にいたす覚悟ゆえ どうか お気遣いは無用に願います 119 00:10:51,169 --> 00:10:53,169 んっ? 120 00:10:55,840 --> 00:10:57,842 えっ? 121 00:10:57,842 --> 00:11:00,344 フフフフ… 122 00:11:00,344 --> 00:11:02,346 ハハハハ… 123 00:11:02,346 --> 00:11:06,284 アハハ… アハハハ… 124 00:11:06,284 --> 00:11:09,584 アハハ… ハハハハ… 125 00:11:11,122 --> 00:11:13,124 アハハハ… 126 00:11:13,124 --> 00:11:15,460 アハハハハ…! 127 00:11:15,460 --> 00:11:17,962 アハハハ… ハハハ… 128 00:11:17,962 --> 00:11:20,798 ハハハハハ… アハハハ… 129 00:11:20,798 --> 00:11:25,636 <隠居した源右衛門の役目を 引き継いだ小五郎は> 130 00:11:25,636 --> 00:11:30,136 <御納戸方として 城へ上がる事となりました> 131 00:11:31,476 --> 00:11:33,478 行ってまいる 132 00:11:33,478 --> 00:11:36,547 初の出仕 おめでとう存じます 133 00:11:36,547 --> 00:11:38,547 うん 134 00:11:44,489 --> 00:11:46,489 ふぅ… 135 00:11:59,337 --> 00:12:01,339 (大谷)おっ・ 136 00:12:01,339 --> 00:12:06,777 藩内一の美人のもとに 婿入りしたのは その方だな? 137 00:12:06,777 --> 00:12:08,846 はあ… いや その… 138 00:12:08,846 --> 00:12:13,284 ちゃ~んと かわいがれよ 139 00:12:13,284 --> 00:12:16,120 フフフ ハハハ… 140 00:12:16,120 --> 00:12:18,820 これは 関口様 141 00:12:25,129 --> 00:12:27,329 気になさるな 142 00:12:59,997 --> 00:13:01,999 (太鼓) 143 00:13:01,999 --> 00:13:05,670 ああ~… (杉坂)さあ 飯にしよう 144 00:13:05,670 --> 00:13:07,670 (役人達)はい 145 00:13:31,462 --> 00:13:33,464 何だ? 146 00:13:33,464 --> 00:13:38,536 山崎の新妻は 弁当を作ってくれぬのか? 147 00:13:38,536 --> 00:13:41,472 いえ 私が不要と申しつけております 148 00:13:41,472 --> 00:13:46,978 (横田)美人の女房殿の手を 水仕事で荒れぬようにとの 149 00:13:46,978 --> 00:13:50,815 気遣いだな! ああ なるほど 150 00:13:50,815 --> 00:13:54,652 ハハハハ… まあ へそ者というものは 151 00:13:54,652 --> 00:13:58,489 何かと 周りの顔色をうかがう事が 152 00:13:58,489 --> 00:14:00,558 身についておるからなあ 153 00:14:00,558 --> 00:14:02,560 恐れ入ります あっ いやいや 154 00:14:02,560 --> 00:14:05,830 何も 恐れ入る事はないぞ 155 00:14:05,830 --> 00:14:08,833 へそ五郎殿 156 00:14:08,833 --> 00:14:20,933 (同役達が笑う) 157 00:14:31,856 --> 00:14:34,356 お呼びでしょうか? うん 158 00:14:36,861 --> 00:14:41,298 恵津に聞いたが お城勤めの時 159 00:14:41,298 --> 00:14:45,302 その方は 弁当を 持参しておらぬそうだな 160 00:14:45,302 --> 00:14:47,304 はっ 161 00:14:47,304 --> 00:14:51,976 父からは 作って差し上げるよう 言いつかっていると申し上げたのですが 162 00:14:51,976 --> 00:14:54,812 小五郎様は よいと申され… 163 00:14:54,812 --> 00:14:59,650 それは 何ゆえか? 164 00:14:59,650 --> 00:15:01,719 御納戸方を退かれるまで 165 00:15:01,719 --> 00:15:06,257 義父上が弁当を持参なさらなかった という噂は耳にしておりました 166 00:15:06,257 --> 00:15:10,327 そのような義父上に望まれて 山崎の家に入り 167 00:15:10,327 --> 00:15:13,931 名も 山崎小五郎と なりましたからには 168 00:15:13,931 --> 00:15:17,768 義父上が続けてきた事を 引き継ぐべきだと存じます 169 00:15:17,768 --> 00:15:21,105 いや あれはな 170 00:15:21,105 --> 00:15:26,177 享保年間 八代将軍が発布された 倹約の励行を・ 171 00:15:26,177 --> 00:15:30,614 先代の殿様が 自らも身をもって努められた 172 00:15:30,614 --> 00:15:34,118 わしは 先代の殿様の思いを 173 00:15:34,118 --> 00:15:37,455 そのまま引き継いだだけの事なのじゃ 174 00:15:37,455 --> 00:15:39,957 だからな… いえ 義父上 175 00:15:39,957 --> 00:15:43,457 倹約は 今も肝心の事かと思います 176 00:15:44,462 --> 00:15:48,299 藩の物品の購入に携わる 大納戸方におりますと 177 00:15:48,299 --> 00:15:51,368 金子の流れが おぼろげながら 見えてまいります 178 00:15:51,368 --> 00:15:54,972 時に 入り用のところに金子が届かず 179 00:15:54,972 --> 00:15:57,772 無駄なところに 流れているように思います 180 00:15:59,977 --> 00:16:04,977 それは いかんな… 181 00:16:29,173 --> 00:16:32,473 小五郎様 な… 何だ? 182 00:16:38,015 --> 00:16:41,715 腹に やや子ができたと思われます 183 00:16:45,623 --> 00:16:48,292 ほ… ホントか? 184 00:16:48,292 --> 00:16:51,295 もし 城中で空腹を覚えられましたら 185 00:16:51,295 --> 00:16:54,131 これをお召し上がりください 186 00:16:54,131 --> 00:16:56,200 子の父親と おなりになるからには 187 00:16:56,200 --> 00:17:00,638 食べるものを食べて 丈夫な体になっていただかないと 188 00:17:00,638 --> 00:17:03,974 食べねばならんのは 母になる そなたの方だ 189 00:17:03,974 --> 00:17:07,574 私の分は隠しております 190 00:17:14,151 --> 00:17:16,151 無事のお戻りを 191 00:17:29,600 --> 00:17:34,300 <二人が夫婦となって 一年半後の事でした> 192 00:17:56,861 --> 00:18:01,532 ・~ 193 00:18:01,532 --> 00:18:04,532 その場所は 不思議な場所だ。 194 00:18:07,204 --> 00:18:10,904 そこでは 言えなかった本音が言えたりする。 195 00:18:12,209 --> 00:18:15,909 知らなかった自分の気持ちに 出会えたりする。 196 00:18:19,884 --> 00:18:23,884 しょうもない話で 涙が出るほど笑えたりする。 197 00:18:28,559 --> 00:18:32,559 気がつくと みんな いい顔になってたりする。 198 00:18:37,902 --> 00:18:42,573 不思議な力が その場所にはある。 199 00:18:42,573 --> 00:18:46,573 あんなに賑やかなのに みんなの声が聞こえる。 200 00:18:48,913 --> 00:18:53,013 今日もまた 笑って 語って。 201 00:20:30,147 --> 00:20:32,149 これは関口様! 202 00:20:32,149 --> 00:20:37,154 うん ちと杉坂に用があってな 203 00:20:37,154 --> 00:20:39,223 何事ですか? 関口様 204 00:20:39,223 --> 00:20:42,826 恒例の紅葉狩りの事でな 205 00:20:42,826 --> 00:20:44,826 (杉坂)その事で 206 00:20:51,902 --> 00:20:55,702 《腹に やや子ができたと思われます》 207 00:21:23,033 --> 00:21:25,636 おい 208 00:21:25,636 --> 00:21:27,636 小五郎 209 00:21:28,972 --> 00:21:33,272 お役目中に つまらぬ事を考えぬがよいぞ 210 00:21:34,645 --> 00:21:39,483 はあ あまりに女房殿の事を思い詰めては 211 00:21:39,483 --> 00:21:44,822 すきっ腹に毒じゃぞ 212 00:21:44,822 --> 00:21:46,824 (同役達が笑う) 213 00:21:46,824 --> 00:21:53,163 その方 いまだに弁当を持参せぬというのは まことか? 214 00:21:53,163 --> 00:21:55,165 (横田)まことです 215 00:21:55,165 --> 00:21:57,501 (同役達が笑う) 216 00:21:57,501 --> 00:22:02,339 藩内の独り身の者どもから 217 00:22:02,339 --> 00:22:09,639 羨ましがられているほどの女房殿には 弁当の催促もできぬか 218 00:22:11,515 --> 00:22:13,715 恐れ入ります 219 00:22:14,785 --> 00:22:17,621 しかし… 220 00:22:17,621 --> 00:22:25,295 すきっ腹では女房殿を抱く手に 力が入るまい 221 00:22:25,295 --> 00:22:28,295 (同役達が笑う) 222 00:22:30,367 --> 00:22:34,371 弁当なしが山崎家の家風とはいえ 223 00:22:34,371 --> 00:22:38,171 かたくなに すぎるのではないか? 224 00:22:39,309 --> 00:22:43,814 滋養が行き渡らなかったゆえに 225 00:22:43,814 --> 00:22:48,152 男児が生まれなかったとすれば 226 00:22:48,152 --> 00:22:54,491 へそ者を養子にするしかなかったのは いわば 227 00:22:54,491 --> 00:22:58,091 源右衛門の自業自得 228 00:23:02,833 --> 00:23:09,633 滋養をとって 夜の褥で 229 00:23:18,782 --> 00:23:23,453 女房殿をとろけさせてやらねば 230 00:23:23,453 --> 00:23:26,790 その方まで源右衛門の轍を踏んで 231 00:23:26,790 --> 00:23:31,628 跡継ぎができぬとなると 232 00:23:31,628 --> 00:23:34,631 大ごとぞ 233 00:23:34,631 --> 00:23:39,631 (同役達が笑う) 234 00:23:52,983 --> 00:24:08,583 (同役達が笑う) 235 00:24:17,174 --> 00:24:19,974 ・ご家老の原様が お帰りらしい 236 00:24:23,180 --> 00:24:25,480 康助? 237 00:24:45,636 --> 00:24:47,636 康助 238 00:24:56,713 --> 00:24:59,716 (康助)奸臣 原 正盛 恥を知れ! 239 00:24:59,716 --> 00:25:01,716 (橋本)狼藉者! 240 00:25:16,099 --> 00:25:18,499 ああっ! 241 00:25:26,777 --> 00:25:29,777 (骨が折れる) 242 00:25:40,290 --> 00:25:42,290 (刀を刺す) 243 00:25:49,633 --> 00:25:52,969 (橋本)誰か 荷車を ・は… はい! 244 00:25:52,969 --> 00:25:58,308 (原)死骸は三日ほど 荒神町の獄舎前にさらせ 245 00:25:58,308 --> 00:26:00,308 はっ 246 00:26:04,314 --> 00:26:06,514 ・塩まいとけ 247 00:26:14,925 --> 00:26:16,925 康助… 248 00:26:26,436 --> 00:26:28,936 (喜兵衛)正盛殿 249 00:26:31,775 --> 00:26:34,975 気をつけられませよ 250 00:26:36,780 --> 00:26:39,783 何の事ですか? 叔父御 251 00:26:39,783 --> 00:26:42,285 (藤兵衛)藩主 信安様と原様が 252 00:26:42,285 --> 00:26:46,123 江戸吉原の花魁二人を 共に見受けなされた事が 253 00:26:46,123 --> 00:26:49,523 国元でも噂になっておりますからな 254 00:26:50,794 --> 00:26:56,299 花魁を正室にしたり 側室にしたりするのは 255 00:26:56,299 --> 00:26:59,636 特段珍しい事ではあるまいに 256 00:26:59,636 --> 00:27:04,708 ただ 身請けにかかった金子は 相当の額でしたから・ 257 00:27:04,708 --> 00:27:10,408 ああ それが表沙汰になったらと いささか気にはなりますが 258 00:27:12,082 --> 00:27:16,582 (番頭)失礼いたします 関口様にお迎えが参られました 259 00:27:19,423 --> 00:27:21,923 迎え? 260 00:27:26,930 --> 00:27:30,000 (市太郎)父上の事が噂になっているのを ご存じですか? 261 00:27:30,000 --> 00:27:32,000 (喜兵衛)わしの? 262 00:27:33,270 --> 00:27:36,106 御納戸方の山崎小五郎に対し 263 00:27:36,106 --> 00:27:39,109 辱めるようなことを口にしたという噂です 264 00:27:39,109 --> 00:27:43,009 はあ… はて 265 00:27:43,947 --> 00:27:48,452 すきっ腹では女房を抱く力も出まいとか 266 00:27:48,452 --> 00:27:52,522 夜の褥でとろけさせてくれぬ小五郎に 我慢がならずに 267 00:27:52,522 --> 00:27:56,522 女房殿は 弁当を持たせてくれぬのかもしれんなどと 268 00:28:01,298 --> 00:28:03,298 お心当たりでも? 269 00:28:04,301 --> 00:28:07,737 しかし そこにいた誰もが 270 00:28:07,737 --> 00:28:10,740 フフフフ… 笑っていたのだ 271 00:28:10,740 --> 00:28:15,440 笑い話として聞いていたはずなのだ 272 00:28:17,581 --> 00:28:22,085 誰がそのようなこと 広めた? 273 00:28:22,085 --> 00:28:27,085 御用部屋には十人近くの者が 詰めていたと聞いております 274 00:28:29,426 --> 00:28:33,763 いやあ しかし あの山崎小五郎という奴 275 00:28:33,763 --> 00:28:36,766 わしをにらみつける事もなく 276 00:28:36,766 --> 00:28:43,440 まるで 腰でも抜かしたように 座り込んでおったのだ 277 00:28:43,440 --> 00:28:48,111 もし こたびの事で 腰抜けなどという評判が立てば 278 00:28:48,111 --> 00:28:50,614 山崎小五郎は この先 279 00:28:50,614 --> 00:28:53,814 武士としては 生き恥をさらす事になります 280 00:28:57,120 --> 00:28:59,189 だから何だ! 281 00:28:59,189 --> 00:29:03,627 このままでは 山崎小五郎は臆したとの そしりを受け 282 00:29:03,627 --> 00:29:06,062 武士としての面目を失い 283 00:29:06,062 --> 00:29:10,901 藩の者からの信頼をも 失う事になるのです 284 00:29:10,901 --> 00:29:14,404 かと申して あのへそ者に 285 00:29:14,404 --> 00:29:20,410 武士の面目を立てようという気概があるとは 286 00:29:20,410 --> 00:29:22,410 はぁ… 287 00:29:26,917 --> 00:29:28,917 思えん 288 00:31:46,956 --> 00:31:49,756 (源右衛門)関口様が そのようなことを 289 00:31:50,794 --> 00:31:54,864 私一人を おとしめたのならまだしも 290 00:31:54,864 --> 00:31:59,464 恵津の耳には 到底 入れたくない事まで 皆の前で 291 00:32:00,637 --> 00:32:04,708 しかも 昼の弁当を抜く事についても 292 00:32:04,708 --> 00:32:07,577 義父上を引き合いに出し 293 00:32:07,577 --> 00:32:13,077 山崎家を あざけるような物言いは 断じて許せませぬ 294 00:32:46,116 --> 00:32:51,516 関口喜兵衛様を 討ち取ります 295 00:32:56,626 --> 00:33:02,326 そののち ご家老 原 正盛様を討ちます 296 00:33:05,301 --> 00:33:12,001 殿をはじめ ご重役達は 享楽と乱費を ものともなさいません 297 00:33:13,076 --> 00:33:18,081 人を辱める言葉を吐いた 関口様の無礼同様 298 00:33:18,081 --> 00:33:24,081 人を人と思わぬお方に 政は任せられませぬ 299 00:33:28,158 --> 00:33:33,930 義父上はじめ 義母上 恵津には 300 00:33:33,930 --> 00:33:37,230 災いともなる所業ではございますが 301 00:33:47,610 --> 00:33:51,614 成聞和尚の薦めを受けて 302 00:33:51,614 --> 00:33:56,119 小五郎を婿に迎えた時から 303 00:33:56,119 --> 00:34:01,619 山崎の家は そなたに預けたのだ 304 00:34:05,195 --> 00:34:09,895 思うままに やれい 305 00:34:23,146 --> 00:34:27,946 私が家を出ましたら すぐに離縁届をお出しくださいませ 306 00:34:35,758 --> 00:34:40,830 気がかりは 俸禄が途絶えたのちの 307 00:34:40,830 --> 00:34:43,430 こちらの暮らし向きの事 308 00:34:47,437 --> 00:34:53,237 恵津はもう 一人ではありません 309 00:35:02,452 --> 00:35:06,222 男児か女子かは分かりませぬが 310 00:35:06,222 --> 00:35:08,922 恵津は身ごもっております 311 00:35:14,297 --> 00:35:16,733 恵津が子を成せば 312 00:35:16,733 --> 00:35:22,033 山崎の名を後世につなげる事もかないます 313 00:35:26,576 --> 00:35:30,413 こたびは小五郎 314 00:35:30,413 --> 00:35:35,713 子ができた事を知って決意したのか 315 00:35:38,087 --> 00:35:41,925 迎え入れてくだされた山崎家へは 316 00:35:41,925 --> 00:35:46,996 子を残す事によって やっと 317 00:35:46,996 --> 00:35:49,996 婿としての義理が果たせます 318 00:36:04,447 --> 00:36:06,447 (かしわ手) 319 00:36:15,224 --> 00:36:18,227 父が御納戸方のおつとめをしていた時分 320 00:36:18,227 --> 00:36:22,065 江戸へ出府する事は 一度もありませんでしたのに 321 00:36:22,065 --> 00:36:26,069 色々と難題があれば 江戸と国元で 収支のすり合わせをする事が 322 00:36:26,069 --> 00:36:28,905 起きるのだよ 左様で 323 00:36:28,905 --> 00:36:30,905 (赤ちゃんが泣く) 324 00:36:54,931 --> 00:37:00,770 里の義姉によれば 子を産むという事は難儀だそうだ 325 00:37:00,770 --> 00:37:05,441 しかし 洗濯や掃除も 無理なく続ける事も 326 00:37:05,441 --> 00:37:09,379 丈夫な子を産むためには肝要だというからな 327 00:37:09,379 --> 00:37:14,217 承知していますが フフッ 328 00:37:14,217 --> 00:37:16,219 何だ? 329 00:37:16,219 --> 00:37:19,555 生み月は来年の春か夏ですよ 330 00:37:19,555 --> 00:37:23,455 それまで家を留守になされるような 物言いでしたから 331 00:37:33,236 --> 00:37:36,736 道中 どうかご無事で 332 00:38:00,329 --> 00:38:02,329 行ってまいります 333 00:38:23,453 --> 00:38:25,453 お気をつけて 334 00:38:27,056 --> 00:38:29,056 うん 335 00:38:58,087 --> 00:39:01,591 <小五郎が山崎家を出た二日後> 336 00:39:01,591 --> 00:39:07,091 <源右衛門は 小五郎との離縁を藩に届け出たのです> 337 00:39:08,030 --> 00:39:11,100 父上! 小五郎様は江戸ではなかったのですか? 338 00:39:11,100 --> 00:39:14,100 離縁というのは まことなのですか? 339 00:39:18,541 --> 00:39:24,046 己ばかりか 山崎の家を辱めた相手に 340 00:39:24,046 --> 00:39:29,886 たとえ ご重役とはいえ すごすごと尻尾を巻いて引き下がるような男を 341 00:39:29,886 --> 00:39:33,386 我が家の婿にしておくわけには いかぬのだ! 342 00:39:34,724 --> 00:39:37,524 父上 父上! 343 00:39:42,732 --> 00:39:47,236 (恵津がすすり泣く) 344 00:39:47,236 --> 00:39:54,036 (恵津の泣き声) 345 00:40:22,772 --> 00:40:27,777 (杉坂)これは関口様 本日は登城日で? 346 00:40:27,777 --> 00:40:31,614 辰の刻に 347 00:40:31,614 --> 00:40:34,617 はぁ… 間に合えばよい 348 00:40:34,617 --> 00:40:38,017 はっ では お供を 349 00:41:00,309 --> 00:41:02,309 何者か!? 350 00:41:14,323 --> 00:41:16,926 お主は… 351 00:41:16,926 --> 00:41:21,264 先日 被りました恥辱をそそがねば 352 00:41:21,264 --> 00:41:24,934 山崎家の面目が立ちませぬ 353 00:41:24,934 --> 00:41:28,271 関口喜兵衛殿 354 00:41:28,271 --> 00:41:30,271 参る! 355 00:41:45,354 --> 00:41:47,354 うう ああ… 356 00:41:52,128 --> 00:41:54,128 うう… 357 00:42:04,807 --> 00:42:06,807 ヤー! 358 00:42:14,750 --> 00:42:17,050 ああ… 359 00:42:32,435 --> 00:42:35,735 へそ者めが 360 00:42:52,955 --> 00:42:56,025 俺に寄るな! 361 00:42:56,025 --> 00:42:59,525 まだ やらねばならぬ事があるのだ! 362 00:43:06,402 --> 00:43:08,471 (鴨田)殿は何と? 363 00:43:08,471 --> 00:43:15,077 (原)「喜兵衛を斬るなど 山崎小五郎と申す者 憎き奴じゃ」 364 00:43:15,077 --> 00:43:17,777 …との仰せであった 365 00:43:20,082 --> 00:43:26,922 「山崎 平野の両家には 厳罰をもって処断せよ」とも申された 366 00:43:26,922 --> 00:43:30,760 だが某は 「恐れながら…」と・ 367 00:43:30,760 --> 00:43:34,760 殿に対し 意見具申に及んだよ 368 00:43:38,434 --> 00:43:44,940 (原)「こたびの事は 関口喜兵衛にも落ち度がある」と・ 369 00:43:44,940 --> 00:43:47,610 殿には申し上げた 370 00:43:47,610 --> 00:43:52,615 (恩田)関口は 原殿の縁戚の者では? 371 00:43:52,615 --> 00:43:57,953 とはいえ 喜兵衛が小五郎に与えたる言葉の数々は 372 00:43:57,953 --> 00:44:04,794 武士としてはいかがなものかと 城下では多くの者の口の端に上っている 373 00:44:04,794 --> 00:44:06,729 厳しい罰を下して 374 00:44:06,729 --> 00:44:12,234 領民の心が 松代藩から離れる事だけは 避けねばなりません・ 375 00:44:12,234 --> 00:44:15,738 そう 申し上げてまいったのじゃ 376 00:44:15,738 --> 00:44:18,574 ・縁戚の関口様が斬られたというに・ 377 00:44:18,574 --> 00:44:23,245 原様のご裁断によって 山崎家は軽い処分で済んだようだ 378 00:44:23,245 --> 00:44:26,945 ・さすがに原様だ 度量が広い 379 00:44:41,764 --> 00:44:46,435 (源右衛門)離縁があったとはいえ 小五郎の刃傷沙汰は不届きゆえ 380 00:44:46,435 --> 00:44:50,506 某には謹慎という事で 381 00:44:50,506 --> 00:44:53,906 思ったよりも軽い処分でござった 382 00:44:58,280 --> 00:45:00,980 父上! 恵津! 383 00:45:02,952 --> 00:45:09,124 父上は 小五郎様の決意を知って 離縁なさいましたのか!? 384 00:45:09,124 --> 00:45:13,324 父上! 恵津殿 まあ 落ち着きなされ 385 00:45:14,396 --> 00:45:20,069 和尚様 父上 386 00:45:20,069 --> 00:45:25,469 こののち 小五郎様は 一体 どうなるのでしょうか? 387 00:48:41,036 --> 00:48:46,536 私は 父上が討たれたのは当然と存じます 388 00:48:47,643 --> 00:48:49,645 何? 389 00:48:49,645 --> 00:48:58,645 私が小五郎であったら 武士の取るべき道として やはり討ちます 390 00:49:02,658 --> 00:49:08,731 だからというて 父の敵を討たぬわけにもいくまい 391 00:49:08,731 --> 00:49:10,999 承知しております 392 00:49:10,999 --> 00:49:19,341 なればこそ 平野小五郎は 武士の習いどおりに 私が追います 393 00:49:19,341 --> 00:49:21,341 では 394 00:49:28,350 --> 00:49:36,850 おじ様 何とぞ 臣下の者達や領民への慈悲に 重きを 395 00:49:47,536 --> 00:49:50,736 慈悲だと? 396 00:49:54,810 --> 00:49:57,312 <武蔵国 桶川宿は> 397 00:49:57,312 --> 00:50:00,149 <江戸まで十里足らずのところにあり> 398 00:50:00,149 --> 00:50:05,154 <男性の足なら 一日でたどり着ける道のりでございました> 399 00:50:05,154 --> 00:50:07,823 (飛脚)どけどけどけ~! おい どけ!・ 400 00:50:07,823 --> 00:50:10,492 どけっつってんだよ! おい どけって おい! 401 00:50:10,492 --> 00:50:12,792 どけ おい! キャー! 402 00:50:13,829 --> 00:50:16,899 大丈夫ですか? あっ はい… 403 00:50:16,899 --> 00:50:19,835 (お杵)そこの飛脚 待ちやがれ! 404 00:50:19,835 --> 00:50:21,837 (飛脚)何だ てめえ どきやがれ! 405 00:50:21,837 --> 00:50:27,037 人様を倒しておいて 助け起こしもせずに逃げる気かよ! 406 00:50:28,911 --> 00:50:33,348 桶川の宿を通りたかったら 礼儀をわきまえるんだね 407 00:50:33,348 --> 00:50:37,519 お~い 偉いぞ 小松屋の後家 うるさい! 408 00:50:37,519 --> 00:50:40,122 やるねえ 小松屋の後家 黙れ! 409 00:50:40,122 --> 00:50:43,959 てめえ… (飛脚)おいおい 何なんだ やめろ やめろ…・ 410 00:50:43,959 --> 00:50:46,461 やめろ お前 何だよ おい・ 411 00:50:46,461 --> 00:50:48,761 何すんだよ おい… 412 00:50:49,798 --> 00:50:52,467 (お光)謝んな! (飛脚)すいませんでした 413 00:50:52,467 --> 00:50:56,471 さあさあ 仕事に戻るよ! へい! 414 00:50:56,471 --> 00:50:59,308 うちの宿へ来なよ~ ねっ そうしよう ほら 415 00:50:59,308 --> 00:51:02,377 ありがとうございます (平助)ああ じゃあ 来て どうぞ どうぞ 416 00:51:02,377 --> 00:51:04,980 はい… はい おいで おいで 417 00:51:04,980 --> 00:51:07,080 ・ありがとうございます 418 00:51:12,487 --> 00:51:14,487 (お杵)御免なさい 419 00:51:25,000 --> 00:51:29,071 本日は ようこそおいで下さいました 420 00:51:29,071 --> 00:51:32,271 小松屋の女将でございます 421 00:51:33,508 --> 00:51:35,510 さっき 飛脚を… 422 00:51:35,510 --> 00:51:39,948 あっ… お見苦しいところを 423 00:51:39,948 --> 00:51:43,948 さあ どうぞ 食事を続けて下さいませ 424 00:51:59,468 --> 00:52:04,139 あら 信州松代… 425 00:52:04,139 --> 00:52:07,209 何か? あっ いえ 426 00:52:07,209 --> 00:52:11,813 真田様のご陣屋は お隣の上尾なもんですから 427 00:52:11,813 --> 00:52:16,113 桶川に 足をお止めになるご家中の方は 珍しくて 428 00:52:18,487 --> 00:52:23,325 女将さん ちと聞きたいのだが はい 429 00:52:23,325 --> 00:52:26,828 実は 初めての出府で道に疎く 430 00:52:26,828 --> 00:52:33,168 その… 江戸の真田家のお屋敷が どこにあるか ご存じだろうか 431 00:52:33,168 --> 00:52:36,171 行けば すぐに分かるそうですよ 432 00:52:36,171 --> 00:52:39,107 旅のお人に聞いたところによると 433 00:52:39,107 --> 00:52:42,611 江戸見物に来た人のために 絵図を売ったり 434 00:52:42,611 --> 00:52:46,111 道案内までしてくれる人まで いるそうですから 435 00:52:47,115 --> 00:52:49,451 左様か 436 00:52:49,451 --> 00:52:51,453 いや… かたじけない 437 00:52:51,453 --> 00:52:53,956 フッ… 438 00:52:53,956 --> 00:52:55,956 どうぞ 439 00:53:03,031 --> 00:53:05,033 お世話になりました (お杵)気をつけて 440 00:53:05,033 --> 00:53:13,976 ・えっほ えっほ えっほ えっほ… 441 00:53:13,976 --> 00:53:15,978 あっ 平野様… 442 00:53:15,978 --> 00:53:19,778 お帰りの際は ぜひお立ち寄り下さい 443 00:53:50,612 --> 00:53:58,312 山崎小五郎の… 妻 恵津と申します 444 00:54:01,123 --> 00:54:03,792 何か? 445 00:54:03,792 --> 00:54:09,292 何とぞ 夫 小五郎を 斬り殺さないで下さいまし 446 00:54:10,632 --> 00:54:13,135 それはできません 447 00:54:13,135 --> 00:54:17,973 親の敵討ちは 子の務めでございます 448 00:54:17,973 --> 00:54:19,973 そこを曲げて 449 00:54:21,643 --> 00:54:26,648 ご妻女は 小五郎が 何ゆえ こたびの仕儀に至ったのかを 450 00:54:26,648 --> 00:54:28,648 ご存じですか? 451 00:54:30,318 --> 00:54:32,387 いえ 452 00:54:32,387 --> 00:54:37,187 小五郎は 山崎家の面目を保ったのです 453 00:54:39,261 --> 00:54:45,934 それと同じように 私も命を賭して 小五郎を討ち取り 454 00:54:45,934 --> 00:54:49,034 関口家の面目を立てねばなりませぬ 455 00:55:25,474 --> 00:55:27,976 <小五郎が江戸に入ったのは> 456 00:55:27,976 --> 00:55:30,976 <二月初旬の事でした> 457 00:55:37,919 --> 00:55:39,921 (産声) 458 00:55:39,921 --> 00:55:41,923 旦那様… 459 00:55:41,923 --> 00:55:52,223 (産声) 460 00:55:55,270 --> 00:55:57,339 <その年の五月> 461 00:55:57,339 --> 00:56:01,276 <信濃では 恵津が元気な男児を生み> 462 00:56:01,276 --> 00:56:07,076 <成聞和尚によって 「助太郎」と名付けられたのでございます> 463 00:56:09,351 --> 00:56:13,955 <一年後 松代藩主 真田信安は> 464 00:56:13,955 --> 00:56:17,455 <参勤のため江戸に入りました> 465 00:56:32,641 --> 00:56:34,641 恵津さん 466 00:56:35,977 --> 00:56:37,913 (助太郎)えい 467 00:56:37,913 --> 00:56:39,913 健やかかな 468 00:56:40,916 --> 00:56:43,418 おかげさまで 469 00:56:43,418 --> 00:56:46,421 小五郎が追われる身となって 470 00:56:46,421 --> 00:56:48,921 山崎の家に変わった事は? 471 00:56:50,091 --> 00:56:56,765 隣近所 通りすがりのお方が 我が家に白い目や 472 00:56:56,765 --> 00:57:03,104 ののしり そしる言葉をかけるお人もおりますが 473 00:57:03,104 --> 00:57:07,108 私は 気にかけない事にしました 474 00:57:07,108 --> 00:57:10,779 世間から逃げるように 背を向けた親だと知ったら 475 00:57:10,779 --> 00:57:13,281 この子も顔を伏せます 476 00:57:13,281 --> 00:57:20,288 ですから 成長する この子の手本になるよう 477 00:57:20,288 --> 00:57:23,788 私は しっかりと顔を上げて 生きようと思います 478 00:57:52,921 --> 00:57:59,421 (掛け声) 479 00:58:07,269 --> 00:58:10,569 ありがとうございました また お越し下さいませ 480 00:58:14,776 --> 00:58:38,276 (掛け声) 481 00:59:09,164 --> 00:59:16,164 (人々がどよめく) 482 00:59:19,174 --> 00:59:23,674 小五郎か! (井上)方々 ご家老を囲め! 483 01:00:10,658 --> 01:00:15,497 <「足軽らに不穏な動きあり」との 知らせを受けた原は> 484 01:00:15,497 --> 01:00:19,501 <すぐに松代へと向かい> 485 01:00:19,501 --> 01:00:25,301 <その事を知った小五郎も 急ぎ江戸をたったのですが…> 486 01:00:33,848 --> 01:00:36,048 (お杵)御免なさいまし 487 01:00:39,287 --> 01:00:42,624 おたちだそうですが… 488 01:00:42,624 --> 01:00:45,627 昨日は 色々と世話になってしまいました 489 01:00:45,627 --> 01:00:48,963 それで 宿代を 490 01:00:48,963 --> 01:00:51,063 そうですか 491 01:01:00,975 --> 01:01:04,045 差し出がましい事をお尋ねしますが 492 01:01:04,045 --> 01:01:08,049 これから どちらへ参られますか? 493 01:01:08,049 --> 01:01:14,449 松代ですか? それとも 江戸へ戻られるんですか? 494 01:01:16,825 --> 01:01:19,494 江戸の長屋は 引き払って出てきた 495 01:01:19,494 --> 01:01:22,494 かといって 松代には… 496 01:01:25,567 --> 01:01:31,005 この旅籠は 祖父の代から続く稼業でして 497 01:01:31,005 --> 01:01:35,805 子供の時分から 色んな旅の人を見てきましたよ 498 01:01:37,011 --> 01:01:40,448 色んな事情を抱えた人もおいでです 499 01:01:40,448 --> 01:01:45,548 それこそ 言うに言えない事情を抱えたお人も 500 01:01:48,790 --> 01:01:53,590 そんな旅の人を見てきた 私の目が間違っていなければ… 501 01:01:59,467 --> 01:02:05,139 あなた様も 何かを抱えていらっしゃると 502 01:02:05,139 --> 01:02:07,639 お見受けいたしますが… 503 01:02:21,823 --> 01:02:27,662 はぁ… それでは 松代で生まれたお子の顔を 504 01:02:27,662 --> 01:02:30,662 いまだに見てはおらんのですか 505 01:02:33,668 --> 01:02:36,838 お子の顔を一目見るまでは 506 01:02:36,838 --> 01:02:39,338 生きてなきゃいけませんね 507 01:02:40,842 --> 01:02:44,679 しかし いつ本懐を遂げられるかも 508 01:02:44,679 --> 01:02:48,283 国に入れるかも分からぬ身の上では 509 01:02:48,283 --> 01:02:51,619 どこで どうしたらいいものか… 510 01:02:51,619 --> 01:02:56,291 ここに おとどまりなさい 511 01:02:56,291 --> 01:03:00,361 もちろん ただで置いておくわけには いきませんから 512 01:03:00,361 --> 01:03:04,365 旅籠の仕事はして頂きますよ 513 01:03:04,365 --> 01:03:10,305 そうすれば 信濃松代や江戸屋敷の様子などは 514 01:03:10,305 --> 01:03:15,376 いながらにして 中山道を行き来する商人や藩士達が 515 01:03:15,376 --> 01:03:20,176 この宿場に落としていってくれますよ 516 01:03:21,316 --> 01:03:25,820 多分 お目当てのご家老の 517 01:03:25,820 --> 01:03:28,020 ご動向までも 518 01:06:52,460 --> 01:06:54,462 (斎川)江戸在府中 ご家老は・ 519 01:06:54,462 --> 01:06:58,533 日本橋の芝居町で 平野何某に襲われたものの・ 520 01:06:58,533 --> 01:07:01,469 難は逃れられたと聞いております 521 01:07:01,469 --> 01:07:06,974 となると 小五郎は ご家老を追って松代に向かったと考えられる 522 01:07:06,974 --> 01:07:12,046 (斎川)しかし 原家老は以前にも 足軽に襲われたという 523 01:07:12,046 --> 01:07:15,746 奴らの我慢も限界にきておるのでしょう 524 01:07:16,984 --> 01:07:23,491 (斎川)いや 江戸で刃傷沙汰などあっては ご公儀から どんな難題が突きつけられるか 525 01:07:23,491 --> 01:07:26,994 そんな事がなくても 原家老が江戸に参られると 526 01:07:26,994 --> 01:07:30,832 料理屋やら何やらと お供の人数を割かねばならず・ 527 01:07:30,832 --> 01:07:35,532 屋敷の者は独楽鼠のように 飛び回らねばならんのですよ 528 01:07:52,019 --> 01:07:57,419 (平助)二百六十八文なり 百四十二文なり 百二十六文では 529 01:07:59,861 --> 01:08:03,297 三両と二分二百七十三文 530 01:08:03,297 --> 01:08:05,800 では 次 531 01:08:05,800 --> 01:08:07,800 百二十六文なり… 532 01:08:13,808 --> 01:08:15,877 <減らされ続けた俸禄が> 533 01:08:15,877 --> 01:08:22,650 <この一年 支給すらされない事に 怒りを爆発させた足軽達は> 534 01:08:22,650 --> 01:08:27,050 <この夜 普請奉行の屋敷に押しかけたのでした> 535 01:08:29,490 --> 01:08:33,494 <この騒ぎの以後 藩内は殺伐とし> 536 01:08:33,494 --> 01:08:38,094 <原は 報告のため 松代をあとにしていたのです> 537 01:08:40,835 --> 01:08:45,840 <それを知った小五郎も 女将の許しを得て 江戸へ向かい> 538 01:08:45,840 --> 01:08:48,509 <原の動静を探ってみたものの> 539 01:08:48,509 --> 01:08:50,511 <一向につかめず> 540 01:08:50,511 --> 01:08:55,811 <深川にある下屋敷へと 足を延ばした帰りの事> 541 01:09:18,606 --> 01:09:20,606 ああ… 542 01:09:52,006 --> 01:09:54,006 すいません 543 01:09:57,345 --> 01:09:59,345 すいません 早く 544 01:10:00,348 --> 01:10:03,684 やはり 江戸におりましたか 545 01:10:03,684 --> 01:10:07,384 追っ手は やはり 市太郎殿でしたか 546 01:10:09,023 --> 01:10:11,692 くどくは申しますまい 547 01:10:11,692 --> 01:10:13,761 お主も刀を抜かれよ 548 01:10:13,761 --> 01:10:16,697 お待ちを この期に及んで命乞いですか! 549 01:10:16,697 --> 01:10:20,034 ご家老の原様を討ち取るまで 待って頂きたい 550 01:10:20,034 --> 01:10:24,038 原様は 国元の情勢を憂慮して 551 01:10:24,038 --> 01:10:26,038 三日前に帰国の途に就かれた 552 01:10:29,043 --> 01:10:31,112 いざ! 553 01:10:31,112 --> 01:10:34,512 ならば 今しばらくの猶予を頂きたい 554 01:10:38,819 --> 01:10:43,619 《何とぞ 夫 小五郎を斬り殺さないで下さいまし》 555 01:10:46,494 --> 01:10:48,562 せめて あと一年! 556 01:10:48,562 --> 01:10:52,566 来年の参勤で 江戸に同行なされる原様にまみえるまで 557 01:10:52,566 --> 01:10:54,566 待って頂きたい 558 01:10:56,170 --> 01:11:01,509 原様を前にして不覚を取り 返り討ちに遭えば致し方ありませんが 559 01:11:01,509 --> 01:11:08,009 生きて本懐を遂げたなら この首 市太郎殿に差し上げる覚悟でござる 560 01:11:18,526 --> 01:11:22,530 ならば 来年の七月一日 561 01:11:22,530 --> 01:11:27,030 九つちょうどに この場所で会おう 562 01:11:28,536 --> 01:11:34,636 その時は 原様を討とうが討てまいが ここに参ります 563 01:11:39,980 --> 01:11:44,280 忘れるなよ 平野小五郎 564 01:12:04,505 --> 01:12:07,174 (遠雷) 565 01:12:07,174 --> 01:12:09,510 上尾を通り越して こちらまで? 566 01:12:09,510 --> 01:12:14,348 (多吉)ああ そうなんだ 諸国の殿様の参勤の時分らしくて 567 01:12:14,348 --> 01:12:17,648 本陣のある宿場は どこも混み合ってるようだ 568 01:12:18,686 --> 01:12:22,022 そういえば ここのところ にぎやかで 569 01:12:22,022 --> 01:12:26,026 (茂平)今日は 安中藩の行列が泊まって 570 01:12:26,026 --> 01:12:31,365 二日後には 信州松代の殿様の一行が泊まると 言っていたね 571 01:12:31,365 --> 01:12:38,565 (雷鳴) 572 01:12:46,814 --> 01:12:50,885 松代藩の行列が着くのは 明日に間違いないだろうか? 573 01:12:50,885 --> 01:12:55,185 へえ たった今 先乗りのご家来が その事をお知らせに 574 01:13:05,666 --> 01:13:07,866 やはり 現れたな 575 01:15:02,650 --> 01:15:05,150 おい 向こうを捜せ おおっ 576 01:15:14,161 --> 01:15:16,361 うっ… 577 01:15:28,676 --> 01:15:30,678 女将さん 578 01:15:30,678 --> 01:15:32,678 平野様 579 01:15:33,681 --> 01:15:36,116 平野様! 平野様! 580 01:15:36,116 --> 01:15:38,619 ああ ひどい傷 581 01:15:38,619 --> 01:15:40,621 お光 誰か人を 582 01:15:40,621 --> 01:15:42,621 あと お湯 あっ はい 583 01:16:04,978 --> 01:16:06,978 気分は どうですか? 584 01:16:10,484 --> 01:16:12,984 もう夜か 585 01:16:15,556 --> 01:16:19,556 ここに寝込んで 四日目の夜になります 586 01:16:23,497 --> 01:16:28,335 松代の参勤の列は? 587 01:16:28,335 --> 01:16:32,535 三日前に桶川を通り過ぎましたよ 588 01:16:48,956 --> 01:16:51,291 (お杵)馬鹿な事 言うんじゃありませんよ! 589 01:16:51,291 --> 01:16:54,791 その足で 江戸まで行けるわけないじゃないですか 590 01:16:55,796 --> 01:16:59,633 今日は もう 六月の二十八日です 591 01:16:59,633 --> 01:17:02,970 ぐずぐずしては いられません 592 01:17:02,970 --> 01:17:05,038 およしよ 593 01:17:05,038 --> 01:17:07,038 ああ… 594 01:17:08,976 --> 01:17:10,976 いえ 595 01:17:12,980 --> 01:17:18,980 この間 お話しした 関口市太郎殿との誓約の事があるのです 596 01:17:19,987 --> 01:17:22,990 本懐を遂げられようと遂げられまいと 597 01:17:22,990 --> 01:17:26,660 七月一日には 江戸に行かねばなりません 598 01:17:26,660 --> 01:17:29,663 そんな誓約なんか 破っておしまいよ 599 01:17:29,663 --> 01:17:32,499 お前さんはね 今 死んじゃいけないんだよ 600 01:17:32,499 --> 01:17:34,568 生きてなきゃいけないんだよ 601 01:17:34,568 --> 01:17:39,106 信濃に残した 我が子の顔を一目見るまでは 602 01:17:39,106 --> 01:17:41,106 ねっ 603 01:17:43,177 --> 01:17:47,181 妻をも辱めた関口様を討ち 604 01:17:47,181 --> 01:17:51,185 ご家老をも討ち取ったのちは 605 01:17:51,185 --> 01:17:54,985 松代の領内で腹を切るつもりでした 606 01:17:56,957 --> 01:18:03,557 本来ならば ご家老を討ち漏らしたところで 腹を切るべきだったのです 607 01:18:05,632 --> 01:18:10,471 にもかかわらず 未練がましく生き続け 608 01:18:10,471 --> 01:18:13,071 ずるずる 年月を重ねてしまいました 609 01:18:16,143 --> 01:18:18,212 そんな私には 610 01:18:18,212 --> 01:18:24,412 昨年 関口市太郎殿と交わした誓約は 重いのです 611 01:18:25,486 --> 01:18:28,555 それさえも破る事など 612 01:18:28,555 --> 01:18:33,455 武士としても人としても あってはならぬものと思います 613 01:18:37,998 --> 01:18:44,098 そんな卑怯な男が どうして 我が子に会わせる顔がありましょうか 614 01:18:47,007 --> 01:18:49,007 そんなもん知るか! 615 01:18:52,012 --> 01:18:54,012 ううっ… 616 01:19:03,023 --> 01:19:05,023 うっ… 617 01:19:10,097 --> 01:19:12,097 行かねば… 618 01:19:13,700 --> 01:19:17,200 これじゃあ 途中で死んじゃうよ 619 01:19:20,774 --> 01:19:24,711 思いきって 卑怯者になったらいいじゃないか 620 01:19:24,711 --> 01:19:26,911 逃げたって かまやしないよ 621 01:19:27,781 --> 01:19:29,781 生きるが勝ちだよ 622 01:19:34,721 --> 01:19:39,326 わたしゃね まだまだ先のある若い人が 623 01:19:39,326 --> 01:19:44,026 むざむざ 死にに行くのが もう 悔しくてしょうがないんだよ! 624 01:20:10,857 --> 01:20:12,859 (鐘が鳴る) 625 01:20:12,859 --> 01:20:15,559 ・おっ 九つの鐘だ 626 01:23:37,564 --> 01:23:39,566 この間から 早馬や早駕籠が行き来していたが 627 01:23:39,566 --> 01:23:42,569 その訳が やっと分かったよ 何だったんです? 628 01:23:42,569 --> 01:23:46,072 松野屋の番頭が 旅の商人から耳にしたらしいんだが 629 01:23:46,072 --> 01:23:49,576 信濃真田家の殿様が死んだようだ 630 01:23:49,576 --> 01:23:53,476 (お光) 真田家っていったら 小五郎様の 以前の… 631 01:24:00,086 --> 01:24:05,986 しかし あの小五郎が あなた様との誓約を破るとは… 632 01:24:07,594 --> 01:24:15,268 小五郎が 私との約定から逃げるのならば それはそれでよいのではと 633 01:24:15,268 --> 01:24:19,606 今は そう思うのですよ ほう 634 01:24:19,606 --> 01:24:24,611 藩主は 先代様の後嗣 幸弘様に決まったものの 635 01:24:24,611 --> 01:24:28,682 領内の混乱は まだ続く事になります 636 01:24:28,682 --> 01:24:31,618 うん 637 01:24:31,618 --> 01:24:36,389 幸弘様は 家老の恩田様に信頼を置かれており 638 01:24:36,389 --> 01:24:43,396 我が関口家とは ゆかりある 原家老の これまでの様々な不正をただすとともに 639 01:24:43,396 --> 01:24:46,396 改革の断行をも お命じになられました 640 01:24:48,468 --> 01:24:56,668 そんな時に 私の敵討ちなど している時ではないのではないかと 641 01:24:58,745 --> 01:25:03,817 しかし 親兄弟の敵討ちは武士の習わし 642 01:25:03,817 --> 01:25:10,824 それを 藩主の許しもなしに 己一人の裁量で 「やめた」などと 643 01:25:10,824 --> 01:25:13,593 口にして許されるものか 644 01:25:13,593 --> 01:25:19,266 しかし このままでは 小五郎は逃げ続けねばならず 645 01:25:19,266 --> 01:25:24,266 奥方も 帰らぬ夫を待つしかなく… 646 01:25:46,226 --> 01:25:49,026 (恩田)原八郎五郎正盛 647 01:25:50,063 --> 01:25:52,065 上意である 648 01:25:52,065 --> 01:25:57,737 <その年の秋 ついに 権勢を欲しいままにした 原 正盛は> 649 01:25:57,737 --> 01:26:00,437 <失脚したのでございます> 650 01:26:03,243 --> 01:26:08,915 <信濃松代藩の政変が 中山道に知れ渡ったのは> 651 01:26:08,915 --> 01:26:12,215 <その年の冬の事でした> 652 01:26:25,432 --> 01:26:29,932 もう お前さんのやる事は なくなりましたね 653 01:26:32,505 --> 01:26:34,505 いえ 654 01:26:35,508 --> 01:26:41,908 堂々と領内に入るわけにはいきませんが 松代に戻ろうと思います 655 01:26:43,216 --> 01:26:47,016 見つかれば 死ぬ事になりますよ 656 01:26:48,054 --> 01:26:50,054 覚悟の上です 657 01:26:54,127 --> 01:27:01,127 死ぬ前に 一目だけでも 子供の顔を見るんだよ 658 01:27:09,409 --> 01:27:15,248 いつも 私の事を気にかけて下さいますが 659 01:27:15,248 --> 01:27:18,448 女将さん お子は? 660 01:27:24,924 --> 01:27:27,524 もう 二度と会えないんだよ 661 01:27:31,931 --> 01:27:36,531 目に浮かぶのは 三つの時の顔だけ 662 01:27:38,872 --> 01:27:45,172 でもね 思い出せるだけ 幸せと思うよ 663 01:27:49,716 --> 01:27:57,416 お前さん やっぱり 奥方には 顔を見せておやりよね 664 01:29:10,296 --> 01:29:12,496 死にに帰ったか 665 01:29:14,367 --> 01:29:18,167 そのつもりでございます それは 忘れろ 666 01:29:19,639 --> 01:29:27,480 関口のせがれも 藩の重臣も 敵討ちの事を口にする者はいなくなった 667 01:29:27,480 --> 01:29:29,983 しかし… 668 01:29:29,983 --> 01:29:35,655 関口の家を継ぎ 藩の役職に就かれたのも 669 01:29:35,655 --> 01:29:40,260 ひとえに 市太郎の人柄のよさ 670 01:29:40,260 --> 01:29:42,960 恩田家老が見込んでの事なのだ 671 01:29:45,765 --> 01:29:53,439 山崎の家も せがれ 助太郎が 家督相続を許され 672 01:29:53,439 --> 01:29:59,779 源右衛門殿の謹慎も 市太郎殿の奔走ゆえ 許された 673 01:29:59,779 --> 01:30:01,779 したがってじゃ… 674 01:30:03,616 --> 01:30:08,516 敵討ちの話は不問に処す そういう事だ 675 01:30:10,290 --> 01:30:16,790 私には 果たさなければならない けじめというものがあります 676 01:30:18,298 --> 01:30:20,633 けじめとは? 677 01:30:20,633 --> 01:30:25,138 一年後には 必ず 相まみえると口にした誓約を 678 01:30:25,138 --> 01:30:27,207 私は守れませんでした 679 01:30:27,207 --> 01:30:29,207 忘れろ 680 01:30:31,644 --> 01:30:40,044 人と人が交わした誓約は 世の中が乱れていようと 平穏であろうと… 681 01:30:41,588 --> 01:30:44,788 ないがしろにしてはならぬものと存じます 682 01:30:45,658 --> 01:30:48,358 それを破ってしまった上は… 683 01:30:50,096 --> 01:30:53,296 しかるべき けじめをつけねばなりません 684 01:31:09,449 --> 01:31:15,955 小五郎 何をしに ここに参った? 685 01:31:15,955 --> 01:31:22,255 私が 国に戻っている事を 市太郎殿に伝えて頂き… 686 01:31:24,030 --> 01:31:27,430 対面できる日を聞いて頂きたいのです 687 01:31:30,637 --> 01:31:32,637 (成聞)他には? 688 01:31:41,414 --> 01:31:47,414 妻と我が子に 会える算段がつかぬものか… 689 01:31:51,090 --> 01:31:53,290 和尚様の知恵に… 690 01:31:56,596 --> 01:31:58,996 すがりとうございます 691 01:35:28,875 --> 01:35:30,875 入りますよ 692 01:35:38,751 --> 01:35:42,951 本日は わざわざ ご足労おかけした 693 01:35:43,823 --> 01:35:45,825 なんの 694 01:35:45,825 --> 01:35:48,828 いや 何かと忙しくて 695 01:35:48,828 --> 01:35:53,266 檀家回りもできなかったゆえ お越し願った 696 01:35:53,266 --> 01:35:58,771 こたびは 源右衛門殿の謹慎も解け 697 01:35:58,771 --> 01:36:02,441 助太郎殿の家督相続も相成った 698 01:36:02,441 --> 01:36:04,441 おめでとう 699 01:36:06,112 --> 01:36:08,312 ありがとう存じます 700 01:36:10,616 --> 01:36:17,016 この事を 小五郎殿が知ったら どんなに喜ぶか 701 01:36:20,126 --> 01:36:23,626 お隣の人 聞こえたかな? 702 01:36:29,969 --> 01:36:31,969 しかと 703 01:36:43,149 --> 01:36:46,152 恵津さん 704 01:36:46,152 --> 01:36:50,352 隣の者は 人目をはばかる罪人なんじゃよ 705 01:36:57,997 --> 01:37:03,397 お隣の人 旅の暮らしは難儀したかな? 706 01:37:05,438 --> 01:37:10,776 中山道の桶川の旅籠で世話になりながら 707 01:37:10,776 --> 01:37:14,276 信濃と江戸の様子を うかがう事ができました 708 01:37:16,282 --> 01:37:19,785 私が被った難儀など 709 01:37:19,785 --> 01:37:22,288 何も知らされず 710 01:37:22,288 --> 01:37:27,627 夫に去られた妻の難儀を思えば 711 01:37:27,627 --> 01:37:30,027 取るに足らぬものかと 712 01:37:33,132 --> 01:37:36,902 残された者には 713 01:37:36,902 --> 01:37:40,002 大した苦労は なかったのではありますまいか 714 01:37:43,409 --> 01:37:48,409 ただ いっときは恨みました 715 01:37:51,484 --> 01:37:54,920 恨みのあとには 716 01:37:54,920 --> 01:37:57,420 悲しみが押し寄せてまいりました 717 01:37:59,592 --> 01:38:01,592 うん 718 01:38:03,429 --> 01:38:06,098 でも 夫が 719 01:38:06,098 --> 01:38:13,939 私の家や 私を辱めた相手を 成敗なされたのだと知り 720 01:38:13,939 --> 01:38:19,539 その優しさに 涙が止まりませんでした 721 01:38:26,952 --> 01:38:30,456 隣のお方は 722 01:38:30,456 --> 01:38:32,756 こののちは 何と? 723 01:38:37,530 --> 01:38:42,535 罪滅ぼしをしなければならず 724 01:38:42,535 --> 01:38:46,235 近々 この地を去る事に 725 01:38:50,142 --> 01:38:55,842 一目 お目にかかる事はかないませんか? 726 01:39:04,990 --> 01:39:07,827 それは… 727 01:39:07,827 --> 01:39:13,027 恵津さん 持参するように言うた あれを 728 01:39:20,339 --> 01:39:25,839 お隣の人 少し 襖を開けますよ 729 01:39:41,527 --> 01:39:45,727 せがれ 助太郎のへその緒でございます 730 01:40:47,459 --> 01:40:49,459 恵津 731 01:40:53,465 --> 01:40:55,565 小五郎様 732 01:41:02,308 --> 01:41:05,811 助太郎を 733 01:41:05,811 --> 01:41:08,011 一目 見たかった 734 01:41:12,151 --> 01:41:15,487 お寺に一緒に来ましたから 735 01:41:15,487 --> 01:41:17,987 その辺りにいるかと存じます 736 01:41:31,503 --> 01:41:33,572 (助太郎)えいっ! 737 01:41:33,572 --> 01:41:36,508 とうっ! やあっ! 738 01:41:36,508 --> 01:41:38,508 助太郎 739 01:41:49,455 --> 01:41:51,455 助太郎です 740 01:42:26,492 --> 01:42:28,494 助太郎か? はい! 741 01:42:28,494 --> 01:42:31,494 ハハッ 元気だな 742 01:42:36,502 --> 01:42:40,105 その方ら母子の行く末は 743 01:42:40,105 --> 01:42:42,505 この私が きっと見守る 744 01:42:45,110 --> 01:42:47,510 もし 私に会いたくなったら… 745 01:42:48,948 --> 01:42:50,948 おいで 746 01:42:58,791 --> 01:43:02,127 ここへ来て 747 01:43:02,127 --> 01:43:04,527 この銀杏を眺めるといい 748 01:43:06,465 --> 01:43:10,803 子供の時分に撃った鉄砲の弾が 749 01:43:10,803 --> 01:43:16,303 大木の幹に へそのような傷を作って 埋もれているかもしれん 750 01:43:24,483 --> 01:43:27,483 そんな傷痕を私だと思って… 751 01:43:31,156 --> 01:43:33,556 たまには見に来るといい 752 01:43:39,331 --> 01:43:41,331 はい 753 01:43:44,603 --> 01:43:47,439 はい! 754 01:43:47,439 --> 01:43:49,439 うん 755 01:46:56,461 --> 01:47:01,961 (足音) 756 01:47:19,151 --> 01:47:22,921 小五郎 私は… 757 01:47:22,921 --> 01:47:26,258 市太郎殿には 758 01:47:26,258 --> 01:47:29,761 ぜひにも この首をはねて頂かねば困ります 759 01:47:29,761 --> 01:47:33,765 しかし…! 誓約を守れなかった 760 01:47:33,765 --> 01:47:36,565 武士としての筋目が立ちません 761 01:47:40,105 --> 01:47:42,941 どうあってもか? 762 01:47:42,941 --> 01:47:45,277 はい 763 01:47:45,277 --> 01:47:49,615 でなければ 家中の方々から 764 01:47:49,615 --> 01:47:53,315 やはり へそ者はと そしりを受ける事になりましょう 765 01:47:56,455 --> 01:48:03,455 それでは 他のへそ者に 申し訳が立たぬではありませんか 766 01:48:08,533 --> 01:48:10,533 承知した 767 01:48:13,305 --> 01:48:16,808 これまでのご厚情に 768 01:48:16,808 --> 01:48:18,808 礼を申す 769 01:49:54,506 --> 01:49:56,506 ううっ…! 770 01:50:37,549 --> 01:50:39,549 へそだ! 771 01:50:52,164 --> 01:50:58,170 <小五郎の死後 その子 助太郎が継いだ山崎家は> 772 01:50:58,170 --> 01:51:03,175 <明治維新を迎えるまで 松代藩の御納戸役として> 773 01:51:03,175 --> 01:51:07,012 <代々 誠実に勤め上げたと> 774 01:51:07,012 --> 01:51:11,612 <藩の記録に記されていると申します>