1 00:00:33,283 --> 00:00:36,369 (拍子木の音) 2 00:00:36,453 --> 00:00:39,622 (ハエが飛ぶ音) 3 00:00:40,165 --> 00:00:42,125 (近づく足音) 4 00:00:44,044 --> 00:00:47,088 (里見義実(さとみよしざね)) 籠城(ろうじょう)して ひと月となるか 5 00:00:47,172 --> 00:00:50,884 (金碗八郎(かなまりはちろう))皆 丸七日 何も食べておりませぬ 6 00:00:52,010 --> 00:00:55,055 (義実)これでは 討って出ることも叶(かな)わぬ 7 00:00:55,138 --> 00:00:57,515 もはや これまでか… 8 00:00:57,599 --> 00:01:00,977 (八郎)ええい 憎きは安西景連(あんざいかげつら)! 9 00:01:01,061 --> 00:01:06,733 三年前の大飢饉(ききん)の折には 五千俵もの支援をしたというに! 10 00:01:06,816 --> 00:01:08,735 (金碗大輔(だいすけ)) こちらが飢饉に見舞われると 11 00:01:08,818 --> 00:01:10,153 大軍で攻め入るとは… 12 00:01:10,236 --> 00:01:13,823 (八郎)殿の恩を 仇(あだ)で返すとは! 13 00:01:21,372 --> 00:01:22,832 (犬の鳴き声) 14 00:01:24,417 --> 00:01:26,628 (義実)おお 八房(やつふさ) 15 00:01:26,711 --> 00:01:31,299 お前も食べておらぬだろうに 変わらず元気だのう 16 00:01:32,759 --> 00:01:34,928 ああ そうだ 17 00:01:36,679 --> 00:01:37,889 お前 18 00:01:38,723 --> 00:01:41,392 景連を噛(か)み殺してくれぬか? 19 00:01:42,644 --> 00:01:47,524 もし お前が見事 景連の首を取ってまいったら 20 00:01:47,607 --> 00:01:51,319 魚肉など いくらでも褒美は くれてやるぞ 21 00:01:51,402 --> 00:01:54,280 (鳴き声) 22 00:01:54,364 --> 00:01:56,241 それでは足りぬか… 23 00:01:57,784 --> 00:01:58,952 ならば 24 00:02:01,120 --> 00:02:03,623 伏姫(ふせひめ)を お前の花嫁にしてやろう 25 00:02:07,752 --> 00:02:09,546 (伏姫)およしなされませ 26 00:02:10,421 --> 00:02:13,216 八房は ただの犬ではありませぬ 27 00:02:13,299 --> 00:02:15,301 人の言葉を解しまする 28 00:02:15,885 --> 00:02:18,429 (義実)ハハハハハッ 29 00:02:19,097 --> 00:02:22,225 わしとしたことが とんだ戯(ざ)れ言(ごと)を 30 00:02:23,601 --> 00:02:26,729 最後まで姫に叱られるとは 31 00:02:28,314 --> 00:02:32,151 不肖な父を許してくれ 伏姫 32 00:02:33,820 --> 00:02:37,323 (八房のうなり声) 33 00:02:37,407 --> 00:02:38,408 (吠(ほ)え声) 34 00:02:39,325 --> 00:02:40,952 (伏姫)八房! 35 00:02:47,917 --> 00:02:49,085 (義実)何の騒ぎだ 36 00:02:49,169 --> 00:02:51,004 (八郎)殿 ご覧ください 37 00:02:51,087 --> 00:02:54,591 安西軍が 四散しておりまするぞ! 38 00:02:54,674 --> 00:02:57,927 (家来たち)止めろ そっちだ そっちへ行った 39 00:02:58,511 --> 00:02:59,596 (大輔)何事じゃ! 40 00:03:06,144 --> 00:03:08,062 景連… 41 00:03:11,482 --> 00:03:14,110 討て! 今こそ討って出よ! 42 00:03:14,193 --> 00:03:15,862 (八郎・大輔)おう! 43 00:03:18,239 --> 00:03:22,160 (家来たち)えいえい おー! 44 00:03:22,243 --> 00:03:26,497 えいえい おー! 45 00:03:35,089 --> 00:03:37,842 (八郎) 色をもって 安西景連を操り 46 00:03:37,926 --> 00:03:42,847 己の快楽のために 民を虐(しいた)げたばかりか 47 00:03:42,931 --> 00:03:46,851 周辺諸国まで害を及ぼした 大妖婦(だいようふ)め 48 00:03:46,935 --> 00:03:49,145 ここで成敗してくれる! 49 00:03:50,146 --> 00:03:51,773 (玉梓(たまずさ))恐れながら 50 00:03:52,899 --> 00:03:57,236 楽しみを欲しいままにしたのは 私(わたくし)ではありません 51 00:03:57,320 --> 00:03:59,322 景連殿でございます 52 00:04:01,032 --> 00:04:04,077 “女の苦楽は他人に因(よ)る” と申します 53 00:04:08,790 --> 00:04:12,043 景連殿に寵愛(ちょうあい)されたのが悪いと おっしゃられても 54 00:04:12,752 --> 00:04:16,631 弱い女に 他に どんな道があるのでしょう 55 00:04:17,882 --> 00:04:18,967 ましてや 56 00:04:19,050 --> 00:04:22,470 私が お仕えした 先代の殿様を滅ぼしたのは 57 00:04:23,554 --> 00:04:27,558 金碗八郎様 あなた様の お弟子たちです 58 00:04:29,394 --> 00:04:30,853 それゆえ 59 00:04:30,937 --> 00:04:34,899 私は景連殿に 拾われたのでございます 60 00:04:36,818 --> 00:04:40,071 この女の言うことには 一理ある 61 00:04:41,572 --> 00:04:42,824 縄を解いてやれ 62 00:04:42,907 --> 00:04:43,908 (家来)はっ 63 00:04:44,492 --> 00:04:47,745 お慈悲をいただき ありがとうございまする 64 00:04:48,579 --> 00:04:49,414 (八郎)いや 待て! 65 00:04:50,581 --> 00:04:55,336 うぬが そんな 哀れな女でないことは 66 00:04:55,420 --> 00:04:59,340 わしが この目で見て よう知っておる 67 00:05:00,216 --> 00:05:02,176 (大輔)父上の言うとおりじゃ 68 00:05:02,260 --> 00:05:05,847 うぬが 景連と並ぶ 大悪党であることは 69 00:05:05,930 --> 00:05:09,600 安西の領民ならば 皆が知っておること 70 00:05:09,684 --> 00:05:12,270 殿 やはり なりませぬ 71 00:05:12,895 --> 00:05:15,356 この女を成敗せねば 72 00:05:15,440 --> 00:05:18,526 領民に対して 物の筋が立ちませぬ 73 00:05:20,111 --> 00:05:21,946 領民とな… 74 00:05:25,825 --> 00:05:28,619 ならば その首 はねよ 75 00:05:28,703 --> 00:05:31,164 里見義実! 76 00:05:31,247 --> 00:05:33,541 いったんは許すと言いながら 77 00:05:33,624 --> 00:05:36,210 人の命を もてあそぶとは… 78 00:05:37,462 --> 00:05:39,297 殺さば殺せ! 79 00:05:39,380 --> 00:05:43,551 この玉梓の怨念で 里見家を呪い尽くしてくれるわ! 80 00:05:43,634 --> 00:05:45,011 ええい! 81 00:05:45,094 --> 00:05:46,095 (玉梓)義実! 82 00:05:46,179 --> 00:05:49,515 一度 口にしたことの重みを 思い知らせてくれる! 83 00:05:49,599 --> 00:05:50,933 {\an8}孫子(まごこ)の代まで 84 00:05:51,017 --> 00:05:53,561 {\an8}ことごとく 畜生道に落としめ 85 00:05:53,644 --> 00:05:55,521 {\an8}煩悩の犬と変えてやる! 86 00:05:55,605 --> 00:05:57,690 うりゃあ! 87 00:06:05,114 --> 00:06:08,451 (玉梓の声)アハハハハハ… 88 00:06:09,202 --> 00:06:13,539 アハハハハハ… 89 00:06:13,623 --> 00:06:18,461 アハハハハハ… 90 00:06:18,544 --> 00:06:20,546 (鳥のさえずり) 91 00:06:26,552 --> 00:06:29,180 (世四郎(よしろう))姫 姫… 92 00:06:30,515 --> 00:06:31,933 (家臣たち)殿 93 00:06:34,060 --> 00:06:36,604 (うなり声) 94 00:06:36,687 --> 00:06:39,023 何をいたす 八房 95 00:06:42,527 --> 00:06:44,112 姫を放せ! 96 00:06:44,195 --> 00:06:46,823 放さぬなら 畜生ながら成敗いたす 97 00:06:46,906 --> 00:06:48,491 お待ちくださいませ 98 00:06:50,076 --> 00:06:52,578 お待ちください 父上様 99 00:06:53,454 --> 00:06:57,416 私(わたくし)には 八房の心が分かります 100 00:06:58,000 --> 00:06:59,001 何? 101 00:06:59,085 --> 00:07:00,586 八房は 102 00:07:01,754 --> 00:07:04,507 父上との約束が果たされないので 怒っているのです 103 00:07:05,842 --> 00:07:07,176 馬鹿(ばか)なことを申すな! 104 00:07:07,260 --> 00:07:10,138 馬鹿なことでは ございませぬ 105 00:07:10,221 --> 00:07:13,516 里見家の当主であられます 父上様が 106 00:07:13,599 --> 00:07:16,018 いったん口になされたお言葉は 107 00:07:17,311 --> 00:07:19,313 あとで取り消すわけには まいりません 108 00:07:19,939 --> 00:07:23,568 姫… お前は何を考えておるのじゃ 109 00:07:24,861 --> 00:07:26,237 私は 110 00:07:27,947 --> 00:07:31,159 八房の花嫁に ならなければならないと 111 00:07:33,244 --> 00:07:35,454 考えているのでございます 112 00:07:38,374 --> 00:07:39,750 (玉梓)義実! 113 00:07:40,251 --> 00:07:43,296 一度 口にしたことの重みを 思い知らせてくれる! 114 00:07:43,379 --> 00:07:47,133 孫子の代まで ことごとく畜生道に落としめ 115 00:07:47,216 --> 00:07:49,051 煩悩の犬と変えてやる! 116 00:07:49,802 --> 00:07:53,139 この犬は魔性のものに 取(と)り憑(つ)かれておるぞ 117 00:07:53,848 --> 00:07:56,642 もし魔性のものに 取り憑かれているなら 118 00:07:56,726 --> 00:07:59,312 私が救ってやりましょう 119 00:07:59,395 --> 00:08:01,314 (うなり声) 120 00:08:05,651 --> 00:08:07,069 父上 121 00:08:07,153 --> 00:08:11,157 私が 里見家から 魔性のものを遠ざけまする 122 00:08:11,240 --> 00:08:12,408 (吠え声) 123 00:08:14,118 --> 00:08:15,578 伏姫 伏姫! 124 00:08:28,674 --> 00:08:29,675 (八郎)どうじゃ? 125 00:08:29,759 --> 00:08:31,469 (家来)二ツ山の探索を 終えましたが 126 00:08:31,552 --> 00:08:34,305 伏姫様らしき お姿は いずこにもあらず 127 00:08:34,847 --> 00:08:38,059 ええい! その言葉 聞き飽きたわ! 128 00:08:38,142 --> 00:08:40,895 (伏姫)以方便力故(いほうべんりきこ) 129 00:08:40,978 --> 00:08:43,940 現有滅不滅(げんうめつふめつ) 130 00:08:44,023 --> 00:08:47,360 余国有衆生(よこくうしゅうじょう) 131 00:09:02,792 --> 00:09:04,669 間違いないのじゃな? 132 00:09:05,169 --> 00:09:08,548 大輔が しかと 見届けてまいりました 133 00:09:09,048 --> 00:09:11,133 大輔 お手柄じゃ 134 00:09:11,217 --> 00:09:12,885 さすが八郎の子じゃ 135 00:09:12,969 --> 00:09:15,471 はっ もったいなき お言葉 136 00:09:19,225 --> 00:09:22,478 (うなり声) 137 00:09:23,437 --> 00:09:24,397 撃て! 138 00:09:33,197 --> 00:09:34,407 (義実)伏姫! 139 00:09:40,288 --> 00:09:41,622 姫! 140 00:09:44,041 --> 00:09:45,126 姫… 141 00:09:51,424 --> 00:09:53,092 最期に 142 00:09:54,302 --> 00:09:56,721 お伝えしたいことが ございます 143 00:09:56,804 --> 00:09:58,723 口を開くでない 144 00:09:58,806 --> 00:10:00,933 誰か 布を持てぃ! 145 00:10:01,017 --> 00:10:02,059 (家臣)はっ! 146 00:10:02,810 --> 00:10:04,395 伏姫様… 147 00:10:05,271 --> 00:10:06,814 お許しください 148 00:10:10,359 --> 00:10:13,404 八房に取り憑いた怨霊は 149 00:10:14,697 --> 00:10:17,950 私の祈りで 浄化いたしました 150 00:10:18,951 --> 00:10:20,411 しかし 151 00:10:21,537 --> 00:10:25,166 怨霊の力 強く… 152 00:10:27,001 --> 00:10:28,252 いまだ 153 00:10:29,587 --> 00:10:31,756 里見家への怨念は 154 00:10:32,798 --> 00:10:36,218 すべて… 消し去ること… 155 00:10:37,178 --> 00:10:38,554 叶いませず 156 00:10:38,638 --> 00:10:42,350 (義実)おのれ 玉梓が怨霊め… 157 00:10:43,851 --> 00:10:46,187 -(伏姫)父上様 -(義実)うん 158 00:10:46,771 --> 00:10:48,064 (伏姫)これを… 159 00:10:48,689 --> 00:10:54,070 今 この珠(たま)に祈りを込めました 160 00:10:56,322 --> 00:11:00,076 この八つの珠を持つ者たちを 161 00:11:01,786 --> 00:11:03,454 お探しください 162 00:11:04,246 --> 00:11:06,332 私の代わりに 163 00:11:08,876 --> 00:11:10,461 必ずや… 164 00:11:14,090 --> 00:11:18,511 里見家の… お力になりましょう 165 00:11:23,933 --> 00:11:24,975 (義実)姫… 166 00:11:25,601 --> 00:11:27,019 姫! 167 00:11:58,592 --> 00:12:00,052 (滝沢馬琴(たきざわばきん))これが 168 00:12:01,303 --> 00:12:03,472 「八犬伝」の始まりだ 169 00:12:07,685 --> 00:12:09,061 どうかね? 170 00:12:16,026 --> 00:12:17,903 まだ発端だけだが… 171 00:12:19,196 --> 00:12:20,740 絵になるかね? 172 00:12:34,295 --> 00:12:36,672 (葛飾北斎(かつしかほくさい))いや~ 173 00:12:36,755 --> 00:12:38,174 何をしてる? 174 00:12:39,049 --> 00:12:43,512 (北斎)こんな コッチンコッチンの 175 00:12:43,596 --> 00:12:45,973 石灰で固めたような頭から 176 00:12:46,056 --> 00:12:49,560 よく そんな途方もない物語が 生み出されるもんだ 177 00:12:49,643 --> 00:12:53,063 …で 面白いのか? 面白くないのか? 178 00:13:03,199 --> 00:13:04,450 (北斎)面白い 179 00:13:04,992 --> 00:13:10,164 この前 おいらが挿絵(さしえ)を描いた この「弓張月(ゆみはりづき)」も 180 00:13:10,247 --> 00:13:12,416 相当 面白かったが 181 00:13:13,793 --> 00:13:14,752 それ以上だ 182 00:13:16,378 --> 00:13:19,507 では 「八犬伝」の挿絵 描いてくれるか? 183 00:13:20,049 --> 00:13:21,300 ああ… 184 00:13:22,134 --> 00:13:23,177 描かん 185 00:13:24,094 --> 00:13:25,763 “描かん”? 186 00:13:25,846 --> 00:13:30,100 あんたに文句を言われ言われ 挿絵を描くのは 187 00:13:30,184 --> 00:13:32,394 もう懲(こ)り懲(ご)りだ 188 00:13:33,354 --> 00:13:36,023 描いてくれるなら もう文句は つけん 189 00:13:36,106 --> 00:13:37,107 (北斎)つける 190 00:13:38,067 --> 00:13:42,321 あんたが文句をつけんことは… 191 00:13:42,404 --> 00:13:44,198 金輪際ない 192 00:13:44,281 --> 00:13:47,326 (階段を上がる音) 193 00:13:50,037 --> 00:13:51,080 (鎮五郎(しずごろう))お父様 194 00:13:51,747 --> 00:13:54,124 堀内様の奥女中(おくじょちゅう)の方が 195 00:13:54,208 --> 00:13:57,670 愛読者ゆえ 一度お目にかかりたいと お見えになりました 196 00:13:57,753 --> 00:14:00,422 紹介状がなければ会わんと 197 00:14:00,506 --> 00:14:03,676 いつも申しつけて おるではないか 鎮五郎 198 00:14:03,759 --> 00:14:07,054 既に そのように お伝えし お引き取りいただきました 199 00:14:07,137 --> 00:14:09,473 よろしい 下がってよい 200 00:14:16,438 --> 00:14:21,235 (北斎)今どき… ああ 珍しい 201 00:14:21,318 --> 00:14:22,278 (馬琴)何が? 202 00:14:22,361 --> 00:14:25,322 (北斎)あ? あんたの息子 203 00:14:26,323 --> 00:14:29,910 当世 親を馬鹿にする子が 多いってのに 204 00:14:29,994 --> 00:14:32,830 あの歳(とし)で 親にあれほど シャチホコばってるのは 205 00:14:32,913 --> 00:14:34,623 お武家ですら珍しいよ 206 00:14:34,707 --> 00:14:38,878 (馬琴)それが当たり前で 世間が間違っておるのだ 207 00:14:41,630 --> 00:14:42,548 (北斎)そういや 208 00:14:42,631 --> 00:14:46,385 鎮五郎を お武家にするとか 言ってなかったかい? 209 00:14:46,468 --> 00:14:51,682 滝沢家を また武家に戻すのが私の悲願だ 210 00:14:53,225 --> 00:14:56,645 だから 鎮五郎を 医者の見習いに出している 211 00:14:56,729 --> 00:14:59,648 医者と お武家は 関係ねえだろうが 212 00:14:59,732 --> 00:15:03,903 (馬琴)どこかのお大名に 医者として お抱えいただき 213 00:15:03,986 --> 00:15:05,738 扶持(ふち)をもらえば 214 00:15:06,280 --> 00:15:09,908 それはもう 立派な武家だ 215 00:15:09,992 --> 00:15:12,161 (北斎)ハハッ ふーん… 216 00:15:12,745 --> 00:15:17,750 それにしても 大した人気じゃねえか ええ? 217 00:15:17,833 --> 00:15:21,128 奥女中が わざわざ 訪ねてくるなんてよ 218 00:15:23,631 --> 00:15:26,008 (馬琴) 人気があると言っても 私は 219 00:15:26,091 --> 00:15:28,302 一介の戯作者(げさくしゃ)にすぎん 220 00:15:29,678 --> 00:15:34,892 大衆の娯楽のために 作り話を書いているだけだ 221 00:15:37,478 --> 00:15:39,188 (北斎)そうかねぇ 222 00:15:40,314 --> 00:15:45,945 おいらは 戯作者“曲亭(きょくてい)馬琴”を 大したもんだと思うがねぇ 223 00:15:48,072 --> 00:15:51,492 葛飾北斎に褒められて 悪い気はせんが 224 00:15:52,201 --> 00:15:55,120 書きたいものは もっと他に たくさんある 225 00:15:55,204 --> 00:15:57,998 じゃあ 「八犬伝」は よすかね? 226 00:16:00,793 --> 00:16:04,004 お前さんが挿絵を 描いてくれないのであれば 227 00:16:05,631 --> 00:16:07,508 それも考えねばなるまい 228 00:16:11,971 --> 00:16:14,848 (北斎)ああ… ちょいと そこの… 229 00:16:14,932 --> 00:16:17,559 紙と すずりを貸してくんな 230 00:16:23,649 --> 00:16:28,654 (太鼓の音) 231 00:16:45,504 --> 00:16:47,339 (北斎)ああ ほら… 232 00:16:47,965 --> 00:16:49,133 出来た 233 00:16:49,800 --> 00:16:51,677 見てくんな ほれ 234 00:17:01,979 --> 00:17:05,190 人様の筆で 走り描(が)きだが… 235 00:17:05,899 --> 00:17:07,526 これだ 236 00:17:09,278 --> 00:17:10,738 これが欲しかったのだ 237 00:17:12,614 --> 00:17:13,657 やる! 238 00:17:14,950 --> 00:17:16,410 「八犬伝」は やる! 239 00:17:16,493 --> 00:17:19,580 おうよ そのほうがいい 240 00:17:20,330 --> 00:17:22,374 (階段を駆け上がる音) 241 00:17:22,458 --> 00:17:23,792 何だ! 騒々しい 242 00:17:26,462 --> 00:17:28,255 お客様でございます 243 00:17:29,089 --> 00:17:30,340 (馬琴)誰だ? 244 00:17:30,424 --> 00:17:33,469 毛利様の御老女と 奥家老(おくがろう)様でございます 245 00:17:34,470 --> 00:17:35,804 毛利様とは… 246 00:17:36,722 --> 00:17:38,974 あの お大名の毛利様か? 247 00:17:39,057 --> 00:17:40,142 (鎮五郎)さようです 248 00:17:40,225 --> 00:17:43,312 なんでも 今年 七十になられる 御後室(ごこうしつ)様が 249 00:17:43,395 --> 00:17:45,606 以前から「弓張月」を ご愛読あそばされ 250 00:17:46,356 --> 00:17:48,984 ぜひ一度 馬琴の話を 聞きたいとのことで… 251 00:17:52,237 --> 00:17:53,238 お断りしてくれ 252 00:17:54,156 --> 00:17:55,157 (鎮五郎)え? 253 00:17:56,241 --> 00:17:59,787 (馬琴)初めての客は 紹介状がなければ 会わん 254 00:18:01,371 --> 00:18:03,415 それは分かっておりますが 255 00:18:04,041 --> 00:18:08,212 馬琴の都合のよい日で よいが もし今日 来てくれるならと 256 00:18:08,295 --> 00:18:10,464 ご用意のお駕籠(かご)まで お連れで 257 00:18:10,547 --> 00:18:14,551 家の前には お供のお中間衆(ちゅうげんしゅう)も 大勢 控えられておられます 258 00:18:14,635 --> 00:18:16,053 (北斎)ええ? 259 00:18:18,847 --> 00:18:20,849 あら~ 260 00:18:20,933 --> 00:18:24,978 (馬琴)今日は折悪(あ)しく 気分が優れず 261 00:18:25,062 --> 00:18:27,314 引きこもっておりますと お伝えしてくれ 262 00:18:27,940 --> 00:18:31,235 お父様が お会いになって そう申し上げてください 263 00:18:31,318 --> 00:18:34,363 会えば 私が病気でないことが 分かるではないか 264 00:18:34,446 --> 00:18:35,572 (北斎)声 声! 265 00:18:36,073 --> 00:18:37,658 (馬琴)鎮五郎! 266 00:18:37,741 --> 00:18:40,953 親の難儀が助けられぬと 言うのか! 267 00:18:47,501 --> 00:18:48,377 (舌打ち) 268 00:18:48,460 --> 00:18:49,545 はあっ… 269 00:18:49,628 --> 00:18:50,921 (北斎)へへへへ… 270 00:18:51,004 --> 00:18:53,257 偉(えれ)えもんだなぁ 271 00:18:53,340 --> 00:18:57,344 お大名からのお呼びに 肘鉄を食らわせるとは… 272 00:18:57,427 --> 00:19:00,848 この面白くも おかしくもない偏屈に 273 00:19:02,391 --> 00:19:06,186 御後室のお話し相手など 務まるわけがない! 274 00:19:08,772 --> 00:19:11,900 “偏屈だ”って自覚あったんだ 275 00:19:12,651 --> 00:19:14,570 (毛利家の家来)出立(しゅったつ)! 276 00:19:15,696 --> 00:19:19,825 (太鼓の音) 277 00:19:25,205 --> 00:19:28,834 (北斎)とんだ長居をした おいらもそろそろ お暇(いとま)しよっと 278 00:19:28,917 --> 00:19:29,960 (馬琴)おい! 279 00:19:30,919 --> 00:19:33,839 なんとしても 描いては くれんのか? 280 00:19:33,922 --> 00:19:36,633 (北斎)ああ そうだ… そのことだがね 281 00:19:37,426 --> 00:19:40,179 できたら その挿絵を 282 00:19:40,262 --> 00:19:43,807 婿の重信(しげのぶ)って絵師に 描かせちゃもらえねえだろうか 283 00:19:44,600 --> 00:19:49,813 お前さんが 家族のために 頼み事をするとは 珍しいな 284 00:19:49,897 --> 00:19:51,356 なあに 285 00:19:52,191 --> 00:19:56,236 婿というより 孫かわいさでね 286 00:19:56,320 --> 00:19:57,738 (馬琴)これは驚いた 287 00:19:58,906 --> 00:20:02,034 子供など関心がないと 思っておったが 288 00:20:02,117 --> 00:20:04,953 孫は おいらが 育てるわけじゃないからね 289 00:20:05,037 --> 00:20:07,289 おいらが育てなきゃ ならねえんだったら やっぱり— 290 00:20:07,372 --> 00:20:08,999 放り出しだけどな 291 00:20:09,082 --> 00:20:10,959 その点においては 292 00:20:11,043 --> 00:20:13,545 お前さんと私は 天と地ほど違うな 293 00:20:13,629 --> 00:20:15,631 あんた 構い過ぎ 294 00:20:16,214 --> 00:20:17,674 おいらは放り出し 295 00:20:17,758 --> 00:20:20,552 しかし 子供にとっちゃあ どっちがいいかってぇと 296 00:20:20,636 --> 00:20:23,972 まだ放り出しのほうが 幸せなんじゃないかね 297 00:20:25,307 --> 00:20:29,269 (お百)えっ 何だって? なんてことするのさぁ 298 00:20:29,353 --> 00:20:32,397 (北斎)おや お百さんたち お帰りだね 299 00:20:32,481 --> 00:20:36,902 (階段を駆け上がる音) 300 00:20:36,985 --> 00:20:38,070 (お百)あんた! 301 00:20:38,153 --> 00:20:40,822 今 毛利様のお使いが おいでになったんだって? 302 00:20:40,906 --> 00:20:41,865 (馬琴)ああ うん 303 00:20:41,949 --> 00:20:45,452 せっかくの 御後室様からのお召しを 304 00:20:45,535 --> 00:20:47,746 けんもほろろに断るなんて 305 00:20:47,829 --> 00:20:49,873 あんた 何 考えてんだい! 306 00:20:49,957 --> 00:20:52,417 お前たちの 知ったことではない! 307 00:20:52,501 --> 00:20:54,503 (お百)鎮五郎に 関係あるじゃありませんか 308 00:20:54,586 --> 00:20:55,879 何が? 309 00:20:58,298 --> 00:21:00,300 鎮五郎が お医者になったら 310 00:21:00,384 --> 00:21:04,221 どこか お大名のお抱え医者に するつもりなんでしょ? 311 00:21:04,888 --> 00:21:07,349 毛利様は何よりも その手づる! 312 00:21:07,432 --> 00:21:08,475 (馬琴)あっ! 313 00:21:09,059 --> 00:21:10,185 気づかなかった 314 00:21:10,269 --> 00:21:12,145 それ ご覧 315 00:21:12,229 --> 00:21:15,273 何かにつけちゃ 人を無学だの 無思慮だの 316 00:21:15,357 --> 00:21:17,734 いっつも馬鹿扱いするくせに 317 00:21:17,818 --> 00:21:20,737 肝心な時は 自分が大まぬけだ! 318 00:21:22,906 --> 00:21:25,117 -(お百)冗談じゃないよ! -(北斎)ひぃー 319 00:21:25,200 --> 00:21:28,120 相変わらず おっかねえ 320 00:21:28,203 --> 00:21:29,621 ああ それじゃあ 321 00:21:29,705 --> 00:21:33,458 婿の重信の件 よろしく頼みますよ 322 00:21:34,918 --> 00:21:36,586 -(北斎)ん… -(馬琴)おっ あの 待っ… 323 00:21:36,670 --> 00:21:37,587 (北斎)ん? 324 00:21:38,463 --> 00:21:42,342 誰が描くにしろ その絵を参考にしたい 325 00:21:42,426 --> 00:21:44,094 -(馬琴)なっ 置いてってくれ -(北斎)いや 326 00:21:45,262 --> 00:21:47,764 これは あくまで おいらが描いた絵だ 327 00:21:49,057 --> 00:21:53,061 重信が これに縛られたら かえって変なものになる 328 00:21:53,145 --> 00:21:55,022 これは ないものとしよう 329 00:21:56,440 --> 00:21:57,566 はい 330 00:22:01,820 --> 00:22:02,738 (はなをかむ音) 331 00:22:04,614 --> 00:22:05,741 はい 332 00:22:06,533 --> 00:22:07,993 ああ それじゃあな 333 00:22:08,869 --> 00:22:10,495 あらよっと 334 00:22:27,054 --> 00:22:30,599 (北斎)知人にゃ 偏屈だと嫌われ 335 00:22:31,349 --> 00:22:33,810 女房にゃ 侮(あなど)られ 336 00:22:34,394 --> 00:22:36,813 子供にゃ 怖がられ 337 00:22:37,647 --> 00:22:41,568 ご贔屓(ひいき)にゃ 剣突(けんつく) 食わせて怒らせる 338 00:22:41,651 --> 00:22:44,780 その馬琴を面白がってんのは 339 00:22:44,863 --> 00:22:46,740 まあ この北斎ぐらいな もんだろうぜ 340 00:22:56,083 --> 00:22:57,292 でも 341 00:22:58,335 --> 00:23:00,629 絵には ならんなぁ 342 00:23:01,797 --> 00:23:04,841 フッ ハハッ ハハハッ… 343 00:23:06,843 --> 00:23:09,304 (拍子木の音) 344 00:23:18,814 --> 00:23:20,649 (水しぶきが飛ぶ音) 345 00:23:29,533 --> 00:23:30,992 (犬塚(いぬづか)信乃(しの))父上 346 00:23:32,786 --> 00:23:35,330 ようやく 父上のお言葉に従い 347 00:23:35,914 --> 00:23:41,044 この名刀“村雨(むらさめ)”を 関東公方(くぼう)様に お返しする日が参りました 348 00:23:44,840 --> 00:23:46,174 (浜路(はまじ))信乃様! 349 00:23:51,012 --> 00:23:52,222 (信乃)浜路… 350 00:23:55,976 --> 00:23:57,018 (浜路)明日 351 00:23:57,644 --> 00:24:00,021 古河(こが)へ発(た)たれると お聞きしました 352 00:24:01,606 --> 00:24:04,818 (信乃)犬塚家の再興を 公方様に願い出る 353 00:24:06,236 --> 00:24:07,362 (浜路)どうか… 354 00:24:07,904 --> 00:24:10,699 浜路も一緒に 古河へ お連れください 355 00:24:10,782 --> 00:24:13,243 どうしたのだ いきなり 356 00:24:15,829 --> 00:24:16,997 (浜路)何か… 357 00:24:18,498 --> 00:24:21,001 悪い虫の知らせがございます 358 00:24:23,753 --> 00:24:26,548 大丈夫 すぐに帰ってまいる 359 00:24:26,631 --> 00:24:30,260 留守中 伯父上と伯母上のことを よろしく頼む 360 00:24:31,094 --> 00:24:32,512 お父様は 361 00:24:33,388 --> 00:24:38,393 新しいお母様が いらしてから 随分と お変わりになられました 362 00:24:39,394 --> 00:24:41,062 (ひき六)信乃! 363 00:24:49,279 --> 00:24:50,822 伯父上 どうなされた? 364 00:24:51,406 --> 00:24:54,284 (ひき六) 明日は 信乃の大事な門出じゃ 365 00:24:54,367 --> 00:24:59,164 わしが この手で大きな魚を釣って 今夜 ふるまってやろうと思ってな! 366 00:24:59,247 --> 00:25:01,416 それは ありがたき幸せ! 367 00:25:03,585 --> 00:25:05,921 本当に お優しいな 浜路のお父上は 368 00:25:09,966 --> 00:25:11,384 (水しぶきが飛ぶ音) 369 00:25:12,469 --> 00:25:13,637 (ひき六)ああっ… 370 00:25:13,720 --> 00:25:15,180 伯父上! 371 00:25:17,891 --> 00:25:19,100 (ひき六)ああっ 372 00:25:22,270 --> 00:25:23,396 あっ… 373 00:25:32,781 --> 00:25:34,199 (ひき六)ああっ あっ… 374 00:25:35,992 --> 00:25:37,077 (信乃)うっ… 375 00:25:38,912 --> 00:25:39,955 信乃様! 376 00:25:45,377 --> 00:25:47,128 (水に飛び込む音) 377 00:25:55,262 --> 00:25:56,346 (ひき六)おお 378 00:25:56,429 --> 00:25:58,098 船虫(ふなむし)! 379 00:25:58,974 --> 00:26:01,434 (船虫)ご無事で何よりです 380 00:26:01,518 --> 00:26:04,062 子細は この者から聞きました 381 00:26:04,145 --> 00:26:06,898 (ひき六)信乃が わしを助けてくれた 382 00:26:06,982 --> 00:26:09,776 信乃は わしの命の恩人じゃ 383 00:26:10,485 --> 00:26:13,363 信乃 本当にありがとう 384 00:26:13,446 --> 00:26:18,410 いえ 私より その新しい奉公人に 礼を言ってください 385 00:26:18,493 --> 00:26:22,163 荘助(そうすけ)が いなかったら 私こそ命を落としておりました 386 00:26:22,872 --> 00:26:25,208 (船虫)そうかえ そうかえ 387 00:26:29,212 --> 00:26:32,299 (信乃)ああ… ここに居たか 捜したぞ 388 00:26:35,302 --> 00:26:36,261 ああ… 389 00:26:36,344 --> 00:26:38,888 そのような大げさなことは やめてくれ 390 00:26:38,972 --> 00:26:41,474 荘助は 私の命の恩人だ 391 00:26:44,853 --> 00:26:48,023 (犬川(いぬかわ)荘助)信乃様 お願いがございます 392 00:26:48,106 --> 00:26:50,275 (信乃)何だ? 何でも言ってくれ 393 00:26:51,026 --> 00:26:53,862 (荘助)その首にかかる 袋の中のものを 394 00:26:53,945 --> 00:26:55,864 見せては いただけませんか? 395 00:26:59,492 --> 00:27:00,827 (信乃)この袋か? 396 00:27:02,078 --> 00:27:03,705 お安いご用だ 397 00:27:04,414 --> 00:27:08,126 これは 私が生まれた時に 手の中に握っていたそうだ 398 00:27:08,209 --> 00:27:11,671 それから 私のお守りとして こうして大事に持っている 399 00:27:11,755 --> 00:27:13,173 ほら 400 00:27:13,256 --> 00:27:15,550 中に“孝”の字が 浮かび上がるだろ? 401 00:27:29,064 --> 00:27:30,065 (信乃)これは… 402 00:27:30,857 --> 00:27:33,485 (荘助)信乃様 これを 403 00:27:42,994 --> 00:27:45,330 先ほど 川で お見受けしました 404 00:27:46,998 --> 00:27:50,794 (信乃)何かで 繋がっている… 405 00:27:55,840 --> 00:27:59,886 (船虫の荒い息) 406 00:27:59,969 --> 00:28:02,514 まったく! 大失敗じゃないか! 407 00:28:05,016 --> 00:28:08,812 (ひき六)あいつが来なければ 間違いなく信乃は沈んでいたんだ! 408 00:28:08,895 --> 00:28:12,565 あの忌々(いまいま)しい奉公人め! 409 00:28:21,032 --> 00:28:25,370 網乾(あぼし)先生は しくじっては いないだろうねぇ 410 00:28:25,453 --> 00:28:26,913 (網乾左母二郎(さもじろう))フッ… 411 00:28:31,376 --> 00:28:33,128 (水しぶきが飛ぶ音) 412 00:28:36,589 --> 00:28:38,133 おおっ… 413 00:28:38,633 --> 00:28:40,135 ほとばしる水しぶき 414 00:28:40,885 --> 00:28:43,054 まさしく 名刀“村雨” 415 00:28:47,684 --> 00:28:49,269 (網乾)刀身だけ入れ替えて 416 00:28:50,437 --> 00:28:52,313 元に戻しておいた 417 00:28:52,397 --> 00:28:54,858 (船虫)フフフ… 418 00:28:54,941 --> 00:28:57,736 フフフフフッ… 419 00:28:58,945 --> 00:29:02,073 (ひき六)公方様に 堂々と 村雨を献上し 420 00:29:02,157 --> 00:29:04,826 父上の遺言を成就するんじゃぞ 421 00:29:05,410 --> 00:29:06,786 はい! 422 00:29:06,870 --> 00:29:09,581 (船虫)道中 お気をつけて 423 00:29:10,707 --> 00:29:11,916 信乃様… 424 00:29:13,376 --> 00:29:15,587 心配するな 浜路 425 00:29:22,969 --> 00:29:25,221 それでは いってまいります 426 00:29:31,811 --> 00:29:34,814 (奉公人たちの話し声) 427 00:29:35,732 --> 00:29:37,150 ありがとうございます 428 00:29:37,233 --> 00:29:38,359 あっ 危ないよ そこ 429 00:29:43,490 --> 00:29:44,866 母上様 430 00:29:46,034 --> 00:29:48,536 これは 一体 何の騒ぎですか? 431 00:29:49,245 --> 00:29:52,207 これは… 今夜の祝言(しゅうげん)の準備だよ 432 00:29:52,707 --> 00:29:54,250 しゅ… 祝言? 433 00:29:54,709 --> 00:29:56,294 どなたの祝言ですか? 434 00:29:56,795 --> 00:29:59,589 何を言ってるの 435 00:29:59,672 --> 00:30:02,509 あなたの祝言に 決まってるじゃないか 436 00:30:02,592 --> 00:30:08,056 新しい陣代(じんだい)の皮上宮六(ひがみきゅうろく)様が お前を見初(みそ)められてね 437 00:30:08,139 --> 00:30:10,767 “ぜひとも妻に”との お申し出があった 438 00:30:10,850 --> 00:30:14,896 そんな お話 私(わたくし)は聞いておりません 439 00:30:14,979 --> 00:30:18,316 話したところで お前が お受けするわけもない 440 00:30:18,399 --> 00:30:21,986 だからと言って こんな騙(だま)し討ちのような… 441 00:30:22,070 --> 00:30:26,115 捨て子のお前を ここまで育ててくれた お父様に 442 00:30:26,199 --> 00:30:29,202 ご恩返しをする時が 来たのですよ 443 00:30:29,744 --> 00:30:30,787 嫌です 444 00:30:31,746 --> 00:30:34,541 お父様が お手討ちになっても いいのかい? 445 00:30:45,718 --> 00:30:47,095 どうだね? 446 00:30:49,973 --> 00:30:51,099 うん 447 00:30:54,394 --> 00:30:57,939 ますます 面白(おもしれ)え 448 00:31:00,608 --> 00:31:02,819 皮肉なものだな 449 00:31:04,028 --> 00:31:07,824 へそ曲がりで 口の悪い絵師の言葉は— 450 00:31:08,408 --> 00:31:10,535 かえって信頼できる 451 00:31:10,618 --> 00:31:14,831 (北斎)漬物石の上に こう 文鎮(ぶんちん) いっぱい載っけて 452 00:31:14,914 --> 00:31:18,084 押しつぶしたみてえな あんたの脳みそから 453 00:31:18,167 --> 00:31:22,672 なんで そんな とびっきり上等な 筋書きが出てくるのか 454 00:31:23,214 --> 00:31:25,592 どうにも納得がいかねえ 455 00:31:25,675 --> 00:31:27,594 (馬琴)まあ 気に入ってくれたのであれば 456 00:31:27,677 --> 00:31:31,139 約束どおり また二~三枚 下絵を描いてくれ 457 00:31:32,724 --> 00:31:33,892 (北斎)まあ 458 00:31:35,018 --> 00:31:39,856 婿の重信の絵を 使ってもらってるしな 459 00:31:44,110 --> 00:31:51,075 前に聞いた発端のくだりは 二年くらい前だったかな 460 00:31:51,159 --> 00:31:52,285 (馬琴)うん 461 00:31:53,870 --> 00:31:57,165 (北斎)去年 やっと 本になったんだよな 462 00:31:57,999 --> 00:31:59,959 (馬琴)かなり売れておる 463 00:32:01,628 --> 00:32:04,547 まあ そうだろうね 464 00:32:05,715 --> 00:32:09,135 で… どうかね? 重信の絵は 465 00:32:10,178 --> 00:32:11,429 (馬琴)ん? 466 00:32:12,388 --> 00:32:15,975 よいのではないか 売れておるのだから 467 00:32:26,819 --> 00:32:30,823 (馬琴)お前さんが孫のために 頼み事をするとは驚いた 468 00:32:31,532 --> 00:32:35,828 それほど かわいいなら 一緒に住めばよいではないか 469 00:32:35,912 --> 00:32:37,080 (北斎)ハハッ 470 00:32:37,789 --> 00:32:41,668 孫なんぞが そばにいたら 絵なんか描けたもんじゃねえや 471 00:32:41,751 --> 00:32:44,170 すぐに追い出しちまうさ 472 00:32:44,253 --> 00:32:47,006 (馬琴)しかし今は 娘さんと暮らしてるんだろ? 473 00:32:47,090 --> 00:32:49,509 (北斎)ああ? あっ 応為(おうい)か 474 00:32:49,592 --> 00:32:55,223 あれは お前 絵描きだから 娘というよりは 弟子みてえなもんだ 475 00:32:56,265 --> 00:32:58,101 ヘヘッ 476 00:32:58,184 --> 00:33:01,437 家(うち)では おいらが “おーい”としか呼ばねえもんだから 477 00:33:01,521 --> 00:33:04,899 自分で“葛飾応為(おうい)”って 名乗ってらぁ 478 00:33:04,982 --> 00:33:06,859 ヘヘヘヘッ 479 00:33:07,610 --> 00:33:08,945 ところで 480 00:33:10,363 --> 00:33:15,743 「八犬伝」の舞台は安房(あわ)だが あんた いつ安房へ行ったのかね 481 00:33:15,827 --> 00:33:18,204 (馬琴)いや 行ったことはない 482 00:33:19,622 --> 00:33:22,834 安房へ行かねえで 「八犬伝」 書いてるのか 483 00:33:22,917 --> 00:33:25,920 三百年も昔の安房の話だ 484 00:33:26,003 --> 00:33:29,882 今の安房を見ると かえって害になる 485 00:33:30,550 --> 00:33:32,135 (北斎)はあ~ 486 00:33:32,218 --> 00:33:36,681 おいらなんて 描きたくなったら この目で見なきゃ始まんねえよ 487 00:33:36,764 --> 00:33:39,308 年がら年じゅう 旅だらけ 488 00:33:40,059 --> 00:33:41,644 でも あんたは 489 00:33:41,728 --> 00:33:45,940 この 本の山の中だけで あの物語を紡いでる 490 00:33:47,066 --> 00:33:50,778 まったく どうにも 不思議で仕方がないな 491 00:33:50,862 --> 00:33:54,949 (階段を上がる足音) 492 00:33:59,620 --> 00:34:00,955 -(宗伯(そうはく))お父様 -(馬琴)うん 493 00:34:01,038 --> 00:34:05,334 誾花堂(ぎんかどう)さんが「朝夷巡島記(あさひなしまめぐりのき)」の 校正原稿を受け取りに お見えです 494 00:34:05,418 --> 00:34:06,961 (馬琴)おう 出来ておる 495 00:34:07,045 --> 00:34:08,629 -(馬琴)動くぞ -(北斎)おお 496 00:34:16,054 --> 00:34:18,056 -(馬琴)これを渡してくれ -(宗伯)はい 497 00:34:24,270 --> 00:34:26,022 -(北斎)おいおいおい… 498 00:34:27,774 --> 00:34:31,068 鎮五郎は お医者になったのかね? 499 00:34:32,695 --> 00:34:34,280 もうすぐだ 500 00:34:34,781 --> 00:34:36,115 フフッ 501 00:34:36,199 --> 00:34:40,203 その筋は いいらしい ハハハッ… 502 00:34:41,329 --> 00:34:44,624 今は医者らしく 宗伯(そうはく)と名乗っておる 503 00:34:44,707 --> 00:34:46,083 (お百)あんた 504 00:34:46,167 --> 00:34:47,543 あんた! 505 00:34:48,252 --> 00:34:51,214 あんた また修正を出したのかい? 506 00:34:51,297 --> 00:34:52,715 (馬琴)ああ そうだ 507 00:34:52,799 --> 00:34:57,428 (お百)ったく… 何度も しつこい男だね 508 00:34:57,512 --> 00:35:01,390 京伝(きょうでん)や三馬(さんば)なんて せいぜい 直しは一回くらいというじゃないか 509 00:35:01,474 --> 00:35:03,810 それを何だい! 三回も四回も… 510 00:35:03,893 --> 00:35:07,396 (馬琴)間違いを正さないまま 世に出すわけには いかんだろう 511 00:35:07,480 --> 00:35:09,732 {\an8}もう それじゃあ いつまでたっても 512 00:35:09,816 --> 00:35:11,526 {\an8}稿料が いただけないんだよ! 513 00:35:11,609 --> 00:35:13,361 {\an8}分かっておる 514 00:35:13,986 --> 00:35:15,530 {\an8}ったく… 515 00:35:16,239 --> 00:35:19,200 じじい二人が朝っぱらから 516 00:35:19,283 --> 00:35:22,745 狭い部屋に こもって 何やってんだか 517 00:35:22,829 --> 00:35:24,914 怪しいもんだ! 518 00:35:25,706 --> 00:35:29,919 (お百)ったく… 冗談じゃないよ (北斎の笑い声) 519 00:35:30,670 --> 00:35:31,796 (北斎)ヘヘッ 520 00:35:33,130 --> 00:35:36,634 (馬琴)まあ お百の言うとおりでもある 521 00:35:36,717 --> 00:35:37,760 (北斎)ええ? 522 00:35:37,844 --> 00:35:42,181 (馬琴)世の中の 何の役にも立たない私の戯作など 523 00:35:42,265 --> 00:35:46,686 少々 間違っていても 誰も困りは しないのだから 524 00:35:47,770 --> 00:35:51,399 (北斎)「八犬伝」が 何の役にも立たねえって 525 00:35:51,482 --> 00:35:53,109 本気で そんなこと思ってんのか? 526 00:35:53,192 --> 00:35:55,570 戯作など そんなもんだろう 527 00:35:59,407 --> 00:36:05,037 (北斎)うーん… あんた なんで戯作 書いてんだい? 528 00:36:06,372 --> 00:36:10,376 それは… 生計のためだな 529 00:36:11,043 --> 00:36:14,755 お前さんは? 何のために絵を描いている? 530 00:36:14,839 --> 00:36:18,509 おいらは絵が好きだからさ 531 00:36:19,302 --> 00:36:24,307 子供の頃から ただ もう 絵を描くのが好きだった 532 00:36:25,683 --> 00:36:31,063 私は商売としてやってきて 世間に認められるようになっても 533 00:36:31,772 --> 00:36:35,443 どこか これは 本来の自分ではないと思っている 534 00:36:36,319 --> 00:36:38,487 物語ばかりではなく 535 00:36:40,406 --> 00:36:42,325 自分自身も… 536 00:36:44,202 --> 00:36:45,995 虚(きょ)の世界に居る 537 00:36:47,747 --> 00:36:53,002 (北斎)するってぇと 家族も 虚の世界の人間かい? 538 00:36:53,085 --> 00:36:54,545 (馬琴)いやいや 539 00:36:55,671 --> 00:36:57,381 家族こそ 540 00:36:58,215 --> 00:36:59,967 今の私の 541 00:37:00,468 --> 00:37:02,094 実(じつ)だな 542 00:37:03,763 --> 00:37:05,514 おいらの場合 543 00:37:06,098 --> 00:37:09,894 まさに家族は虚だがね 544 00:37:11,395 --> 00:37:12,230 ほら 545 00:37:16,067 --> 00:37:17,777 はい 出来たよ 546 00:37:26,077 --> 00:37:29,080 (馬琴)さすが葛飾北斎だ 547 00:37:32,750 --> 00:37:35,670 これを 私にくれ 548 00:37:35,753 --> 00:37:37,505 (北斎)いや 駄目だ 549 00:37:37,588 --> 00:37:39,882 そんな約束じゃねえ 550 00:37:39,966 --> 00:37:42,343 ああっ… ほら ほれ 551 00:37:43,094 --> 00:37:45,638 そこを曲げて 頼む! 552 00:37:45,721 --> 00:37:47,807 駄目だ ほら 553 00:38:03,823 --> 00:38:07,076 さてと 今日は ここらで退散するか 554 00:38:07,159 --> 00:38:09,120 また来るよ ハッ… 555 00:38:09,662 --> 00:38:12,665 (北斎の鼻歌) 556 00:38:17,295 --> 00:38:19,839 (ひぐらしの鳴き声) (馬琴)迎え火か 557 00:38:23,718 --> 00:38:25,886 盆は あさってだったな 558 00:38:30,850 --> 00:38:33,436 どれ 貸してみなさい 559 00:39:02,715 --> 00:39:04,133 父上 560 00:39:05,718 --> 00:39:07,094 母上 561 00:39:09,305 --> 00:39:13,893 宗伯が お抱え医師となり 562 00:39:16,687 --> 00:39:19,231 武士の世界へ戻してくれます 563 00:39:23,444 --> 00:39:25,321 もうすぐでござる 564 00:39:31,035 --> 00:39:33,079 (拍子木の音) 565 00:39:33,162 --> 00:39:36,624 (奉公人たち)浜路様? 浜路様? 566 00:39:38,084 --> 00:39:40,169 (皮上宮六)花嫁が逃げただと? 567 00:39:40,252 --> 00:39:42,922 (ひき六)はっ 誠に面目次第もなき始末ながら… 568 00:39:43,005 --> 00:39:46,425 (軍木五倍二(ぬるでごばいじ))貴様 陣代様を嘲弄(ちょうろう)するつもりか! 569 00:39:46,509 --> 00:39:50,054 嘲弄など とんでもございません その証拠に… 570 00:39:53,349 --> 00:39:57,645 大塚家秘蔵の 名刀“村雨”にございます 571 00:39:57,728 --> 00:39:59,730 村雨… 572 00:40:00,648 --> 00:40:02,942 噂(うわさ)には聞いたことがあるぞ 573 00:40:03,025 --> 00:40:06,362 さすがは陣代様 この村雨を引き出物として 574 00:40:06,445 --> 00:40:09,281 陣代様に献上さしあげるつもりで ご用意しておりました 575 00:40:09,365 --> 00:40:12,535 ほう… 見せてみい 576 00:40:12,618 --> 00:40:13,994 (ひき六)はっ… 577 00:40:20,709 --> 00:40:22,795 これが村雨… 578 00:40:23,337 --> 00:40:25,548 振れば 水を発するのだな 579 00:40:26,132 --> 00:40:27,550 さようでございます 580 00:40:32,054 --> 00:40:33,180 (皮上)ん? 581 00:40:37,852 --> 00:40:39,019 (皮上)ふん! 582 00:40:40,104 --> 00:40:44,316 そんなはずは ござりませぬ もっと強く! 583 00:40:46,652 --> 00:40:48,487 ええい! 584 00:40:49,363 --> 00:40:52,366 {\an8}水どころか この刀 錆(さ)びておるではないか! 585 00:40:52,449 --> 00:40:55,244 うぬは わしをからかっておるのか! 586 00:40:55,327 --> 00:40:59,290 めっ 滅相(めっそう)もない! これは何かの手違いで… 587 00:40:59,373 --> 00:41:00,332 ああっ… 588 00:41:00,416 --> 00:41:02,084 -(皮上)ええい! -(ひき六)ああ… 589 00:41:02,168 --> 00:41:03,711 (女中たちの悲鳴) 590 00:41:12,845 --> 00:41:14,346 網乾め 591 00:41:16,599 --> 00:41:18,058 まあ いい 592 00:41:18,809 --> 00:41:21,270 天罰を下してやるさ 593 00:41:27,735 --> 00:41:31,280 (浜路)この道が 本当に 古河へ通じているのですか? 594 00:41:32,239 --> 00:41:33,532 (網乾)いいや 595 00:41:34,742 --> 00:41:35,784 浜路 596 00:41:37,786 --> 00:41:40,206 俺と一緒に逃げて 楽しく暮らそう 597 00:41:40,998 --> 00:41:43,417 (浜路)信乃様のところへ 連れていくと 598 00:41:44,043 --> 00:41:45,669 約束したではないですか 599 00:41:48,881 --> 00:41:50,174 (水しぶきが飛ぶ音) 600 00:41:50,257 --> 00:41:51,926 その刀は… 601 00:41:53,385 --> 00:41:54,678 村雨よ 602 00:41:54,762 --> 00:41:56,180 なんで… 603 00:41:56,722 --> 00:41:58,349 あの馬鹿め 604 00:41:58,432 --> 00:42:01,560 偽の刀を 公方様に献上するつもりだ 605 00:42:01,644 --> 00:42:04,271 フッハハハハ 606 00:42:04,355 --> 00:42:05,606 それを… 607 00:42:06,106 --> 00:42:09,026 本当に村雨か よく見せてください 608 00:42:27,711 --> 00:42:29,338 (網乾)馬鹿な奴だ 609 00:42:29,421 --> 00:42:32,049 さあ おとなしく村雨を返せ 610 00:42:32,675 --> 00:42:35,636 (浜路)これは 信乃様の刀でございます 611 00:42:37,513 --> 00:42:40,099 (網乾)うっ… ああ… 612 00:42:40,182 --> 00:42:42,393 この女(アマ)! 613 00:42:43,143 --> 00:42:45,938 (もみ合う声) 614 00:42:46,730 --> 00:42:49,984 (浜路の悲鳴) 615 00:42:50,526 --> 00:42:51,819 (舌打ち) 616 00:42:56,615 --> 00:42:58,450 (網乾)何だ お前は… 617 00:42:58,534 --> 00:43:00,869 (犬山道節(いぬやまどうせつ))その刀を置いて去れ 618 00:43:01,370 --> 00:43:03,372 命だけは助けてやろう 619 00:43:04,248 --> 00:43:06,041 (網乾)片腹 痛いわ 620 00:43:07,459 --> 00:43:08,961 (斬る音) (網乾)うっ… 621 00:43:10,671 --> 00:43:11,672 (倒れる音) 622 00:43:21,432 --> 00:43:22,433 (荘助)待て! 623 00:43:27,688 --> 00:43:29,189 網乾… 624 00:43:30,774 --> 00:43:32,192 浜路様は どこだ? 625 00:43:32,901 --> 00:43:34,320 “はまじ”… 626 00:43:35,738 --> 00:43:40,367 ああ その男に斬られて 崖下に落ちた女人(にょにん)か 627 00:43:40,868 --> 00:43:44,038 嘘だ! 怪しき奴… 628 00:43:44,121 --> 00:43:46,081 本当のことを話せ! 629 00:43:46,165 --> 00:43:47,541 (水しぶきが飛ぶ音) 630 00:43:47,625 --> 00:43:48,834 (荘助)ああっ… 631 00:43:50,753 --> 00:43:52,504 その刀は… 632 00:43:52,588 --> 00:43:56,634 悪いが これで定正(さだまさ)が討てるのでな 633 00:43:56,717 --> 00:43:58,719 その刀は信乃様のもの 634 00:43:58,802 --> 00:44:00,012 返せ! 635 00:44:13,650 --> 00:44:15,444 これは… 636 00:44:16,653 --> 00:44:19,073 (道節)お前に構ってる暇はない 637 00:44:20,115 --> 00:44:20,991 ふんっ! 638 00:44:33,796 --> 00:44:38,634 (横堀在村(よこぼりありむら))この者 故 足利持氏(あしかがもちうじ)公の遺臣の子で 639 00:44:38,717 --> 00:44:41,387 犬塚信乃という者です 640 00:44:41,887 --> 00:44:45,808 亡き父が 御主君から お預かりした名刀“村雨”を 641 00:44:45,891 --> 00:44:50,145 公方様に献上いたしたく 罷(まか)り出ました 642 00:44:50,229 --> 00:44:55,234 (足利成氏(なりうじ)) その志 誠に神妙である 643 00:44:55,859 --> 00:44:59,071 いざ 御見(ぎょけん)に入れよ 644 00:45:17,589 --> 00:45:20,592 あいや しばらく お待ちを… 645 00:45:22,678 --> 00:45:25,681 誠に恐れ入った儀で ござりまするが 646 00:45:25,764 --> 00:45:29,101 その刀 村雨ではござりませぬ 647 00:45:30,227 --> 00:45:31,437 何と申す? 648 00:45:32,438 --> 00:45:34,898 私(わたくし)の持参いたしました刀 649 00:45:34,982 --> 00:45:37,860 事前に 何者かに すり替えられておりました 650 00:45:38,986 --> 00:45:42,614 願わくば 数日のお許しをいただき 651 00:45:42,698 --> 00:45:44,950 本物の村雨を取り返し 652 00:45:45,534 --> 00:45:47,536 改めて献上いたしとうござる 653 00:45:48,370 --> 00:45:51,540 なにとぞ 今しばらくの ご猶予を… 654 00:45:51,623 --> 00:45:53,625 (在村)うぬは間者(かんじゃ)だな? 655 00:45:53,709 --> 00:45:56,128 これに託して この城を 探りに来たに違いない 656 00:45:56,211 --> 00:45:59,298 途方もない 私 天地天命に誓って… 657 00:45:59,381 --> 00:46:01,550 それ ひっ捕らえて糾明(きゅうめい)せい! 658 00:46:01,633 --> 00:46:02,760 (侍たち)はっ! 659 00:46:06,346 --> 00:46:07,973 (在村)出合え 出合え! 660 00:46:10,058 --> 00:46:11,059 (侍)ぐあっ… 661 00:46:21,945 --> 00:46:23,572 (侍たち)出合え 出合え! 662 00:46:32,456 --> 00:46:33,624 (侍)ああっ… 663 00:46:34,374 --> 00:46:36,919 何をしておる あれを討ち取れ! 664 00:46:44,676 --> 00:46:48,931 誰か おらぬのか 成氏の家来に人は居ないのか! 665 00:46:50,265 --> 00:46:52,476 犬飼現八(いぬかいげんぱち)を連れてこい 666 00:46:52,559 --> 00:46:54,603 (重い扉が開く音) 667 00:47:00,692 --> 00:47:01,944 (信乃)ううっ… 668 00:47:19,878 --> 00:47:21,880 もはや これまでか 669 00:47:26,468 --> 00:47:31,265 これは 足利家に仕える 犬飼現八と申す者 670 00:47:32,683 --> 00:47:35,143 訳あって牢獄より罷(まか)り出た 671 00:47:35,644 --> 00:47:39,064 おぬしを捕らえれば 無罪放免となるゆえ 672 00:47:40,274 --> 00:47:43,902 神妙に お縄にかかれ 673 00:47:46,613 --> 00:47:51,118 ここに一人で上(のぼ)ってくるとは あっぱれな覚悟だ 674 00:47:52,119 --> 00:47:53,996 選ばれし強者(つわもの)と見た 675 00:47:54,621 --> 00:47:58,709 冥途の土産に よい腕試しとなろう 676 00:48:00,252 --> 00:48:01,378 さあ 677 00:48:03,589 --> 00:48:04,423 参れ! 678 00:48:10,178 --> 00:48:11,680 やあっ! 679 00:48:18,270 --> 00:48:19,313 (現八)うあっ! 680 00:48:38,749 --> 00:48:39,750 うわっ… 681 00:48:47,925 --> 00:48:49,051 おぬしは… 682 00:49:02,397 --> 00:49:04,733 (2人)うわあああ! 683 00:49:15,952 --> 00:49:20,165 ああ… これじゃあ お前 続きが気になって仕方がねえや 684 00:49:20,248 --> 00:49:21,958 (馬琴)フフフフッ… 685 00:49:23,251 --> 00:49:25,504 (北斎)しかし あの浜路はひどい 686 00:49:26,129 --> 00:49:28,382 あれは お前 かわいそうすぎる! 687 00:49:28,924 --> 00:49:31,927 (馬琴)その意味も あとで分かる仕掛けになっておる 688 00:49:32,010 --> 00:49:33,512 とにかく 私は 689 00:49:33,595 --> 00:49:38,058 正しき男たち 清き女たちの死を 無駄にはせん 690 00:49:38,141 --> 00:49:40,894 (北斎)そもそも 伏姫様からして 691 00:49:40,978 --> 00:49:43,438 罪もねえのに 非業(ひごう)の死を遂げてんじゃねえか 692 00:49:43,522 --> 00:49:46,817 まあ まあ まあ 心配は無用だ 693 00:49:47,317 --> 00:49:51,321 私は 正義は必ず報われる という物語を 694 00:49:51,405 --> 00:49:53,532 書こうとしているのだから 695 00:49:54,783 --> 00:49:58,036 (北斎)今んところ お前 人の運命(さだめ)を もてあそぶ— 696 00:49:58,120 --> 00:50:00,789 卑劣なじじいにしか 見えねえぜ 697 00:50:01,790 --> 00:50:04,459 (馬琴)まあ 続きを楽しみにしていてくれ 698 00:50:04,960 --> 00:50:06,795 (北斎のため息) 699 00:50:06,878 --> 00:50:08,130 (北斎)ほれ 700 00:50:08,880 --> 00:50:12,342 とにかく よろしく頼みますよ 701 00:50:13,385 --> 00:50:15,637 みんな 待ってんだからよ 702 00:50:17,180 --> 00:50:20,267 ところで 鉄砲がよく出てくるが 703 00:50:20,350 --> 00:50:23,979 「八犬伝」の時代に 鉄砲なんてものがあったのかね? 704 00:50:24,479 --> 00:50:28,984 (馬琴)いや 鉄砲が伝来したのは 天文(てんぶん)十二年のことだから 705 00:50:29,067 --> 00:50:33,488 この物語より だいたい 六~七十年 後(あと)のことになる 706 00:50:34,239 --> 00:50:35,699 やっぱり そうかい 707 00:50:35,782 --> 00:50:38,368 (馬琴)私は 読者に許されるであろう嘘は 708 00:50:38,452 --> 00:50:40,370 どんどん取り入れる 709 00:50:42,330 --> 00:50:44,124 そうよ 710 00:50:44,207 --> 00:50:48,628 大戯作者 曲亭馬琴は そうこなくちゃな 711 00:50:55,510 --> 00:50:59,347 以前 お前さんに “なんで戯作を書くのか?”と言われて 712 00:50:59,848 --> 00:51:02,350 “生計のためだ”と答えた 713 00:51:02,434 --> 00:51:03,268 (北斎)うん 714 00:51:03,351 --> 00:51:04,478 しかし 715 00:51:05,687 --> 00:51:08,940 本当は そうではないことに 気づいた 716 00:51:10,025 --> 00:51:11,735 私は 結局 717 00:51:12,986 --> 00:51:17,491 正しい者が勝ち 悪は罰せられる 718 00:51:19,117 --> 00:51:25,248 そういう世界を 描(えが)く目的で 戯作を書いているんだ 719 00:51:26,750 --> 00:51:30,670 (北斎)この世は そう うまくゆくかね? 720 00:51:32,881 --> 00:51:37,969 (馬琴)ゆかんから 物語として書くんだ 721 00:51:41,139 --> 00:51:44,768 悪が勝つこともある この世の中だからこそ 722 00:51:46,061 --> 00:51:51,566 別の世界を 読者には味わってもらいたい 723 00:51:54,653 --> 00:51:59,157 つまり 虚の世界だね 724 00:52:01,034 --> 00:52:02,452 そうだな 725 00:52:04,287 --> 00:52:06,206 悲しいかな それは 726 00:52:07,749 --> 00:52:09,376 虚の世界だ 727 00:52:10,252 --> 00:52:13,630 (お百)ちょっと あんた まただよ~ 728 00:52:13,713 --> 00:52:18,051 隣の家の犬が 庭の畑 踏み荒らしてさ… 729 00:52:18,135 --> 00:52:19,469 あっ 730 00:52:19,553 --> 00:52:21,888 あんた 来てたのかい 731 00:52:21,972 --> 00:52:24,474 いい家じゃないか お百さん 732 00:52:25,100 --> 00:52:29,312 (お百)前の家は 下駄屋だった私の実家だよ 733 00:52:29,396 --> 00:52:32,816 婿に来た この人が 下駄屋ほったらかして 734 00:52:32,899 --> 00:52:36,027 勝手に 物書きなんかに なっちまってさ 735 00:52:36,987 --> 00:52:38,697 -(お百)あんた! -(馬琴)ん? 736 00:52:38,780 --> 00:52:42,701 お高くとまった お武家の犬 どうにかするよう言っとくれ! 737 00:52:42,784 --> 00:52:45,620 そんな大声で… 隣に聞こえるではないか 738 00:52:46,454 --> 00:52:48,373 聞こえるように言ってんだ! 739 00:52:50,876 --> 00:52:52,210 …ったく 740 00:52:52,294 --> 00:52:56,381 「八犬伝」とやらをずっと書いてるから 犬が寄ってくんだよ! 741 00:52:56,464 --> 00:52:58,383 ハハハハッ… 742 00:52:58,466 --> 00:53:00,468 あたしゃ 猫好きなんだ 743 00:53:00,552 --> 00:53:03,763 猫の話にすりゃ よかったんだよ 744 00:53:03,847 --> 00:53:07,684 (宗伯)駄目ですよ お父様のお仕事の邪魔をしては 745 00:53:07,767 --> 00:53:08,768 (お百)ふん! 746 00:53:08,852 --> 00:53:13,231 こんな くたばりかけ同士の 与太話(よたばなし)が仕事だって? 747 00:53:13,315 --> 00:53:15,066 笑わせんじゃないよ! 748 00:53:15,150 --> 00:53:17,235 さあさあ あちらへ 749 00:53:26,786 --> 00:53:28,622 (馬琴)ようやく宗伯も 750 00:53:29,289 --> 00:53:32,709 松前家の扶持(ふち)をいただく 身分になったのだが… 751 00:53:34,377 --> 00:53:35,795 (馬琴のため息) 752 00:53:35,879 --> 00:53:40,383 (馬琴)どうにも 病が抜けん 753 00:53:42,802 --> 00:53:46,014 (北斎)医者の不養生(ふようじょう)かぁ 754 00:53:47,224 --> 00:53:48,683 (馬琴)この家も 755 00:53:48,767 --> 00:53:51,811 医者を開業するために 用意したのだが 756 00:53:53,355 --> 00:53:56,066 開店休業が続いておる 757 00:53:57,317 --> 00:54:00,570 八犬士のようには ゆかんなぁ 758 00:54:02,530 --> 00:54:04,240 ほーら ハハッ 759 00:54:04,950 --> 00:54:06,076 出来たよ 760 00:54:06,159 --> 00:54:07,285 (馬琴)おっ… 761 00:54:09,454 --> 00:54:10,914 おおっ 762 00:54:14,251 --> 00:54:16,753 お前さんは ひと筆で— 763 00:54:16,836 --> 00:54:19,673 これほどの絵を描き上げるのに 764 00:54:20,799 --> 00:54:25,220 最近 重信の絵が 765 00:54:26,012 --> 00:54:27,222 遅れがちなんだ 766 00:54:28,390 --> 00:54:32,310 (北斎)そういや 病気を患ってるとか言ってたな 767 00:54:32,394 --> 00:54:36,147 ならば お前さん 代わりに描いてくれんか? 768 00:54:37,315 --> 00:54:38,692 (北斎)駄目! 769 00:54:40,902 --> 00:54:41,903 それどころか… 770 00:54:42,529 --> 00:54:44,948 当分 ここには 来れないかもしれねえ 771 00:54:46,157 --> 00:54:47,450 なんで? 772 00:54:47,534 --> 00:54:51,413 (北斎)富士を とことんまで 描いてやろうと思い立ってね 773 00:54:54,582 --> 00:54:56,876 そのためには 774 00:54:56,960 --> 00:55:01,631 富士山の見える国を 全部 巡って歩かにゃならねえ 775 00:55:02,215 --> 00:55:05,635 海の上からだって こう 見えるしね 776 00:55:05,719 --> 00:55:07,721 海の上からか… 777 00:55:09,639 --> 00:55:11,182 (北斎)なんか… 778 00:55:12,100 --> 00:55:14,144 急に そわそわしてきた 779 00:55:15,061 --> 00:55:18,106 日も暮れたんで 今日は これで 780 00:55:29,242 --> 00:55:31,244 (北斎)ああ 日が暮れちゃう 781 00:55:32,412 --> 00:55:33,955 (拍子木の音) 782 00:55:34,039 --> 00:55:38,293 (若い衆の声援) 783 00:55:41,963 --> 00:55:43,631 (若い衆)投げろ! 投げろ! 784 00:55:47,802 --> 00:55:50,889 (犬田小文吾(いぬたこぶんご)) 房六(ふさろく) まだまだ脇が甘いな 785 00:55:50,972 --> 00:55:52,766 (山林房六)クソッ! 786 00:55:53,725 --> 00:55:55,477 (小文吾)今年の秋祭りも 787 00:55:55,560 --> 00:55:59,314 犬田屋の船が 奉納旗(ばた)を掲げるぞ! 788 00:55:59,397 --> 00:56:00,899 (犬田屋一同)おおー! 789 00:56:06,613 --> 00:56:08,156 (使いの者)若旦那! 790 00:56:08,615 --> 00:56:11,951 か… 川で大将が お呼びです 791 00:56:27,300 --> 00:56:29,135 大丈夫 敵ではござらん 792 00:56:30,428 --> 00:56:34,099 (現八)ここは どこだ? 793 00:56:34,766 --> 00:56:39,270 (犬田文五兵衛(ぶんごべえ))利根川沿いの網元 犬田屋の営む旅籠(はたご)でございます 794 00:56:39,771 --> 00:56:40,730 現八殿 795 00:56:43,900 --> 00:56:45,193 文五兵衛殿! 796 00:56:46,319 --> 00:56:48,196 (信乃)お二人が ここへ運んでくださり 797 00:56:48,780 --> 00:56:50,782 命拾いいたしました 798 00:56:50,865 --> 00:56:53,993 本当に ありがとうございました 799 00:56:54,077 --> 00:56:58,498 いえいえ 運んだのは この小文吾でして 800 00:56:59,207 --> 00:57:04,295 私は 小舟で漂ってるお二人を 見つけただけです 801 00:57:04,379 --> 00:57:07,048 私からも礼を申す 802 00:57:08,341 --> 00:57:11,511 昔 侍だった頃 803 00:57:12,011 --> 00:57:15,306 お父上には 散々 お世話になりました 804 00:57:15,390 --> 00:57:17,183 それゆえ 805 00:57:17,267 --> 00:57:20,311 ここで こうして 現八殿のお役に立てて 806 00:57:20,395 --> 00:57:22,438 何よりでございます 807 00:57:28,361 --> 00:57:30,363 (現八)それにしても 808 00:57:30,447 --> 00:57:34,451 おぬしが私を 小舟へと引き上げたのは 809 00:57:34,534 --> 00:57:36,035 何ゆえ? 810 00:57:37,036 --> 00:57:39,956 私は おぬしを 捕まえようとしたのだぞ 811 00:57:41,207 --> 00:57:42,584 (信乃)おぬし 812 00:57:46,045 --> 00:57:47,672 このような珠を持っておらぬか 813 00:57:54,554 --> 00:57:55,680 (信乃)やはりな 814 00:57:56,222 --> 00:57:58,892 戦っている時に その頬のあざが見えた 815 00:58:00,185 --> 00:58:02,020 これは… 816 00:58:02,103 --> 00:58:03,438 どういうことだ 817 00:58:03,521 --> 00:58:04,439 (小文吾)俺も 818 00:58:07,025 --> 00:58:10,487 俺の尻にも 牡丹(ぼたん)の形のあざがある 819 00:58:15,909 --> 00:58:17,452 (近づく足音) 820 00:58:17,535 --> 00:58:18,995 (障子が開く音) 821 00:58:19,704 --> 00:58:21,456 (男)公方の追っ手が迫っている! 822 00:58:28,046 --> 00:58:30,298 (信乃たちの荒い息) 823 00:58:30,381 --> 00:58:32,258 (信乃) さすがに もう大丈夫だろう 824 00:58:38,806 --> 00:58:42,894 (現八)ふう… (現八のため息) 825 00:58:43,603 --> 00:58:44,771 (現八)で… 826 00:58:46,314 --> 00:58:48,691 おぬしは一体 何者だ? 827 00:58:49,484 --> 00:58:51,444 なぜ我(われ)らを助ける? 828 00:58:57,408 --> 00:58:59,077 (ゝ大(ちゅだい)法師)拙者(せっしゃ) 829 00:58:59,160 --> 00:59:03,957 南総里見家に仕える 金碗大輔と申す者 830 00:59:04,040 --> 00:59:08,044 二十年前に出家して 今はゝ大(ちゅだい)法師と名乗っております 831 00:59:09,545 --> 00:59:13,550 訳あって 皆様がお持ちの その珠を 832 00:59:14,133 --> 00:59:17,804 二十年間 捜し求めてまいりました 833 00:59:18,721 --> 00:59:20,556 二十年間… 834 00:59:20,640 --> 00:59:21,891 (法師)これも— 835 00:59:23,601 --> 00:59:25,895 伏姫様のお導き 836 00:59:27,397 --> 00:59:30,066 珠は全部で八つ ございます 837 00:59:30,858 --> 00:59:32,318 (小文吾)八つ… 838 00:59:33,736 --> 00:59:35,071 珠は今 839 00:59:36,739 --> 00:59:39,867 強く 引き合っております 840 00:59:39,951 --> 00:59:42,495 そして 時を同じくして 841 00:59:43,121 --> 00:59:49,794 とてつもなく巨大で 凶悪な邪気が 再び 動き始めました 842 00:59:53,381 --> 00:59:54,799 (扇谷(おうぎがやつ)定正)何だと! 843 00:59:56,050 --> 00:59:58,928 芳流閣(ほうりゅうかく)に間者だと! 844 00:59:59,429 --> 01:00:00,513 (在村)はっ 845 01:00:01,764 --> 01:00:03,683 公方様は ご無事です 846 01:00:03,766 --> 01:00:06,394 …が 間者は 847 01:00:06,477 --> 01:00:07,937 取り逃がしました 848 01:00:13,818 --> 01:00:16,279 おお 玉梓 849 01:00:16,362 --> 01:00:18,948 (玉梓)間者を取り逃がすとは 850 01:00:19,032 --> 01:00:24,037 そなたを芳流閣に潜ませている意味が ないではないか 在村 851 01:00:24,537 --> 01:00:25,538 ははっ… 852 01:00:27,040 --> 01:00:28,499 定正様 853 01:00:29,250 --> 01:00:33,463 これは かねてより ご建言(けんげん) 申し上げております— 854 01:00:33,546 --> 01:00:36,966 里見家の手の者の 仕業ではござりませぬか? 855 01:00:37,425 --> 01:00:41,512 (在村)恐れながら 我が配下にあります里見義実は 856 01:00:41,596 --> 01:00:45,183 名君として 名を馳せております 好人物ゆえに まさか 857 01:00:45,266 --> 01:00:47,935 間者を送り込むような そのような大(たい)それたことを… 858 01:00:48,019 --> 01:00:50,063 ええい 黙れ! 859 01:00:51,522 --> 01:00:56,235 どいつも こいつも 里見 里見と こざかしい 860 01:00:58,696 --> 01:01:00,490 さては 在村 861 01:01:01,240 --> 01:01:04,827 そのように里見義実を持ち上げ 862 01:01:04,911 --> 01:01:07,789 この わしを愚弄(ぐろう)しておるのだな 863 01:01:08,998 --> 01:01:10,208 (在村)滅相もござ… 864 01:01:10,958 --> 01:01:11,834 ああっ! 865 01:01:12,877 --> 01:01:14,504 (侍たち)うわっ うわあ… 866 01:01:14,587 --> 01:01:17,799 (河鯉権之佐(かわごいごんのすけ)) 騒ぐでない! 無礼討ちじゃ! 867 01:01:19,008 --> 01:01:21,886 早(はよ)う 里見を取り除かねば 868 01:01:22,804 --> 01:01:25,306 災いになりましょうぞ 869 01:01:31,396 --> 01:01:33,731 (義実)あれから二十年 870 01:01:33,815 --> 01:01:38,653 伏姫のおかげで この里見家は安泰であった 871 01:01:38,736 --> 01:01:39,987 ただ 872 01:01:40,947 --> 01:01:45,159 あのあと 五(ご)の君(きみ)が 大鷲に さらわれたことは 873 01:01:46,077 --> 01:01:47,829 いまだに悔やまれてならない 874 01:01:47,912 --> 01:01:49,747 (家臣たち)姫! 姫! (遠ざかる赤子の泣き声) 875 01:01:50,581 --> 01:01:54,877 (義実)五の君を捜しに出た 世話役の世四郎と おとねも 876 01:01:54,961 --> 01:01:57,588 いまだに戻らぬままじゃ 877 01:02:00,842 --> 01:02:03,845 (信乃)やはり我らには 前世からの繋がりが あったようだな 878 01:02:03,928 --> 01:02:05,638 (現八)ゝ大(ちゅだい)法師は別れ際に 879 01:02:05,722 --> 01:02:09,392 “新たなる珠の力が導く方へ 向かう”と言われていた 880 01:02:09,475 --> 01:02:12,728 (小文吾)我らも手分けして 珠を持つ残りの犬士を探そう 881 01:02:12,812 --> 01:02:13,688 (現八)おう 882 01:02:13,771 --> 01:02:17,191 とにかく 私の知る もう一人の犬士に 早く引き合わせたい 883 01:02:17,275 --> 01:02:18,860 先を急ごう 884 01:02:25,408 --> 01:02:26,367 (信乃)荘助… 885 01:02:27,368 --> 01:02:28,578 荘助ではないか 886 01:02:28,661 --> 01:02:30,788 はあっ ああっ… 887 01:02:30,872 --> 01:02:32,165 (信乃)荘助! 888 01:02:33,624 --> 01:02:34,876 荘助 889 01:02:37,670 --> 01:02:39,046 (信乃)何があった? 890 01:02:39,589 --> 01:02:41,007 浜路様… 891 01:02:41,549 --> 01:02:43,217 浜路様が… 892 01:02:43,301 --> 01:02:45,386 浜路が どうしたというのだ? 893 01:02:49,098 --> 01:02:50,725 (宗伯)こちらでございます 894 01:02:53,811 --> 01:02:55,855 -(宗伯)ここへ お願いします -(北斎)よう 895 01:02:55,938 --> 01:02:58,900 あっ おはようございます 北斎先生 896 01:02:58,983 --> 01:03:03,070 今日は 父を中村座に ご招待いただき ありがとうございます 897 01:03:03,154 --> 01:03:07,867 なあに 尾上菊五郎(おのえきくごろう)の野郎に 女の幽霊の絵を描いてやったんだが 898 01:03:07,950 --> 01:03:10,786 そのお礼に とかで 呼ばれちまったんだよ 899 01:03:11,287 --> 01:03:13,414 鶴屋南北(つるやなんぼく)先生の新作で 900 01:03:13,498 --> 01:03:16,292 今 大評判の 「東海道四谷怪談」ですよね 901 01:03:17,084 --> 01:03:19,795 なんでも 二日にわたる大芝居だとか 902 01:03:22,715 --> 01:03:27,720 曲亭先生は きっと 南北のことが気になってるぜ 903 01:03:27,804 --> 01:03:30,348 -(馬琴)おい 待たせたな -(北斎)ああ いやいや 904 01:03:30,932 --> 01:03:32,850 (宗伯)さあ 北斎先生 お乗りくださりませ 905 01:03:32,934 --> 01:03:35,561 (北斎)おいらは 要らねえよ 駕籠は嫌いなんだ 906 01:03:35,645 --> 01:03:36,479 (宗伯)でも… 907 01:03:36,562 --> 01:03:39,273 (北斎)今まで どこ行くにも 駕籠なんか乗ったことはねえ 908 01:03:39,357 --> 01:03:40,942 曲亭さんだけで いいよ 909 01:03:41,484 --> 01:03:42,443 おい 行こう 910 01:03:53,621 --> 01:03:56,541 (中村座の呼び込みの声) 911 01:03:59,585 --> 01:04:00,878 (呼び込み)四谷怪談ですよ 912 01:04:00,962 --> 01:04:04,882 (幕開きの音楽) 913 01:04:08,928 --> 01:04:10,555 (木戸番)こちらでございやす 914 01:04:12,098 --> 01:04:15,142 しまった! もう始まってらぁ 915 01:04:18,104 --> 01:04:20,731 (馬琴) 今 幕が開いたばかりのようだな 916 01:04:21,315 --> 01:04:26,237 (義太夫(ぎたゆう))顔に似合わぬ 様(さま) 参る 917 01:04:27,363 --> 01:04:30,908 あれ? こりゃ 「忠臣蔵」じゃねえか 918 01:04:30,992 --> 01:04:32,201 (木戸番)いえ 919 01:04:32,285 --> 01:04:35,746 これも「四谷怪談」の お芝居なんでございやす 920 01:04:41,961 --> 01:04:44,005 (判官(はんがん))師直(もろなお) 待て 921 01:04:44,088 --> 01:04:47,842 (師直)ああ どけ どかぬか 922 01:04:47,925 --> 01:04:50,928 袴(はかま)が破れる 923 01:04:52,513 --> 01:04:55,558 やっぱり「忠臣蔵」じゃねえか 924 01:04:56,559 --> 01:04:59,353 おいら この芝居 好きじゃねえんだよ 925 01:05:00,855 --> 01:05:02,565 (馬琴)私は好きだ 926 01:05:03,691 --> 01:05:06,027 「忠臣蔵」は何度 見てもいい 927 01:05:06,527 --> 01:05:10,239 へえー こんな誰でも知ってる芝居が 好きかい 928 01:05:10,323 --> 01:05:14,911 百年前の 実際にあった事件を 題材にして 929 01:05:14,994 --> 01:05:18,080 巧妙に絵空事(えそらごと)を織り込んで 930 01:05:19,665 --> 01:05:22,627 何とも言えんほど うまく出来ている 931 01:05:23,377 --> 01:05:25,671 神のごとき出し物だ 932 01:05:33,220 --> 01:05:34,680 (三味線の音色) 933 01:05:34,764 --> 01:05:36,307 (北斎)ああっ… 934 01:05:37,975 --> 01:05:41,270 やっと「忠臣蔵」じゃねえ芝居に なったじゃねえか 935 01:05:41,938 --> 01:05:44,398 半日も待たせやがって 936 01:05:45,399 --> 01:05:47,443 (お岩)この蚊帳(かや)がないとな 937 01:05:47,526 --> 01:05:51,489 あの子が夜 ひどい蚊に せめられて 938 01:05:51,572 --> 01:05:55,034 (伊右衛門(いえもん))蚊が食(く)はば 親の役だ 939 01:05:55,117 --> 01:05:56,994 追ってやれ 940 01:05:57,536 --> 01:05:59,497 -(伊右衛門)離せ -(お岩)離しゃせず 941 01:05:59,580 --> 01:06:01,082 -(伊右衛門)離せ -(お岩)離しゃせず 942 01:06:01,165 --> 01:06:02,667 -(伊右衛門)離せ -(お岩)離しゃせず 943 01:06:03,459 --> 01:06:05,378 (北斎)何だ こりゃ 944 01:06:06,212 --> 01:06:08,297 支離滅裂だな 945 01:06:17,932 --> 01:06:22,353 (お岩)今をも知れぬ この岩が 946 01:06:22,436 --> 01:06:26,774 死なば正(まさ)しく その娘 947 01:06:26,857 --> 01:06:30,194 祝言さするは 948 01:06:30,277 --> 01:06:33,864 これ眼前(がんぜん) 949 01:06:37,493 --> 01:06:39,120 (伊右衛門)岩 950 01:06:39,203 --> 01:06:41,580 許してくれろ 951 01:06:41,664 --> 01:06:45,209 あやまった 952 01:06:45,918 --> 01:06:51,674 民谷(たみや)の血筋 伊藤喜兵衛(きへえ)が 953 01:06:51,757 --> 01:06:58,723 根葉(ねは)を枯らして この恨み 954 01:07:00,975 --> 01:07:02,309 (北斎)ああ… 955 01:07:03,853 --> 01:07:05,646 怖いね 956 01:07:06,188 --> 01:07:07,648 (馬琴)怖い 957 01:07:13,279 --> 01:07:16,407 (北斎)菊五郎の奴も 人が悪いや 958 01:07:16,490 --> 01:07:19,660 あれじゃあ おいらの描いた 幽霊の絵なんて目じゃねえや 959 01:07:19,744 --> 01:07:20,870 あっ… 960 01:07:24,165 --> 01:07:26,375 菊五郎に祝儀やるの 忘れたわ 961 01:07:26,459 --> 01:07:28,669 明日 渡せばよいではないか 962 01:07:30,254 --> 01:07:33,507 おや 明日も来るつもりかい? 963 01:07:34,675 --> 01:07:38,179 本当のところは見たくない 気色が悪い 964 01:07:38,763 --> 01:07:41,474 しかし 二日がかりの 芝居なんだから 965 01:07:41,557 --> 01:07:43,851 見なきゃ 義理が悪かろう 966 01:07:49,899 --> 01:07:54,904 (三味線と太鼓の音色) 967 01:08:05,456 --> 01:08:07,708 ああっ… 岩! 968 01:08:17,051 --> 01:08:21,222 -(重太郎(じゅうたろう))天(あま)と かけなば -(喜多八(きたはち))河と答へん 969 01:08:21,305 --> 01:08:24,850 (由良之助(ゆらのすけ))然(しか)らば いづれも 970 01:08:24,934 --> 01:08:26,310 (皆々)はぁ 971 01:08:26,393 --> 01:08:29,897 何だよ また「忠臣蔵」かよ 972 01:08:34,527 --> 01:08:39,907 えいえい おー 973 01:08:41,450 --> 01:08:48,332 (幕切れの音楽) 974 01:08:52,753 --> 01:08:55,005 (馬琴)実に どうも 975 01:08:55,089 --> 01:08:58,217 とんでもない芝居を考える者が あったものだ 976 01:08:59,844 --> 01:09:02,555 まるっきり つじつまが合わん 977 01:09:03,180 --> 01:09:04,849 まったくだ 978 01:09:05,933 --> 01:09:10,145 桜の絵の真ん中に 墨汁を落としたような芝居だな 979 01:09:11,897 --> 01:09:14,733 (木戸番)菊五郎さんのところへ ご案内いたしやす 980 01:09:14,817 --> 01:09:17,653 ああ そうだった また忘れるとこだった 981 01:09:17,736 --> 01:09:18,612 行こう 982 01:09:27,079 --> 01:09:28,247 (木戸番)あっ… 983 01:09:28,330 --> 01:09:31,292 ここから奈落に下りることに なっておりやす 984 01:09:31,750 --> 01:09:36,130 ついでだから 奈落ってぇやつを ご覧になりやすか? 985 01:09:36,213 --> 01:09:38,382 (馬琴)それはぜひ 見せてもらおう 986 01:09:55,649 --> 01:09:59,445 (木戸番)この“ぶん回し”の柱に 柱だけの人数が取りついて 987 01:09:59,528 --> 01:10:02,865 それを回すと 上の舞台が回る 仕掛けになっておりやすんで 988 01:10:02,948 --> 01:10:04,658 (馬琴)ほお… 989 01:10:05,451 --> 01:10:06,577 (木戸番)あれ? 990 01:10:08,495 --> 01:10:10,748 誰か おるようでござんすね 991 01:10:14,084 --> 01:10:15,127 (馬琴)おおっ! 992 01:10:16,253 --> 01:10:17,338 (鶴屋南北)お前さんか 993 01:10:17,421 --> 01:10:19,173 (木戸番)南北先生でござんしたか 994 01:10:19,256 --> 01:10:20,716 (南北)ああ 995 01:10:20,799 --> 01:10:24,386 せりの具合に 気になるところがあってね 996 01:10:25,220 --> 01:10:26,388 お前さん どうした? 997 01:10:27,014 --> 01:10:29,808 あっ 今日 滝沢馬琴先生と 998 01:10:29,892 --> 01:10:33,229 葛飾北斎先生が 芝居を見に来てくださったんで 999 01:10:33,312 --> 01:10:35,648 ちょいと 奈落をお見せしようと 1000 01:10:35,731 --> 01:10:40,152 ああっ 曲亭先生と北斎先生が… 1001 01:10:40,235 --> 01:10:41,904 それは それは 1002 01:10:41,987 --> 01:10:45,908 嬉しくもあり 恥ずかしくもある 1003 01:10:45,991 --> 01:10:51,288 作者の鶴屋南北にござります よう おいでくだされました 1004 01:10:51,372 --> 01:10:54,625 ええ… 今 ちょっと 1005 01:10:54,708 --> 01:10:58,754 下りられない形になっておりまして 失礼ではございますが… 1006 01:10:58,837 --> 01:11:02,007 ああ いやいやいや おいらたちゃ もう すぐ行くから 1007 01:11:02,091 --> 01:11:03,801 申し訳ございません 1008 01:11:04,760 --> 01:11:07,721 しかし とにかく… 1009 01:11:07,805 --> 01:11:10,432 あんたの芝居には驚いた 1010 01:11:11,892 --> 01:11:16,021 曲亭さんの怪談は面白いが あんたの怪談は怖い 1011 01:11:17,648 --> 01:11:22,903 でも 「忠臣蔵」に 怪談を挟み込むたぁ 1012 01:11:22,987 --> 01:11:25,739 曲亭さんは怒ってるぜ 1013 01:11:25,823 --> 01:11:27,408 恐れ入ります 1014 01:11:27,491 --> 01:11:28,784 (馬琴)いや 1015 01:11:29,535 --> 01:11:32,121 よく考えて お書きになっている 1016 01:11:32,204 --> 01:11:35,416 私は大変 感服いたした 1017 01:11:35,499 --> 01:11:38,043 (北斎)いやいや でも あんた… 1018 01:11:39,503 --> 01:11:41,922 “とんでもない芝居を書く奴が あったものだ” 1019 01:11:42,006 --> 01:11:44,008 “まったく つじつまが合わん” って さっき… 1020 01:11:44,091 --> 01:11:45,259 言った 1021 01:11:47,261 --> 01:11:51,015 よく考えているのに つじつまが合わんのか? 1022 01:11:51,098 --> 01:11:52,558 そのとおりだ 1023 01:11:52,641 --> 01:11:54,518 (南北)ハッハッハッハッ… 1024 01:11:54,601 --> 01:11:55,686 おおっ おお… 1025 01:11:55,769 --> 01:11:58,397 おおっ おお… 1026 01:11:59,314 --> 01:12:01,400 (南北)ああ… あっ! 1027 01:12:02,526 --> 01:12:03,986 私(わたくし)こそ 1028 01:12:04,069 --> 01:12:09,033 曲亭先生のお書きのものは いつも拝見して 感服しております 1029 01:12:09,867 --> 01:12:12,411 よく まあ 水も漏らさず 1030 01:12:12,494 --> 01:12:15,914 善因善果 悪因悪果 1031 01:12:15,998 --> 01:12:18,751 勧善懲悪(かんぜんちょうあく)を貫いていらっしゃる 1032 01:12:18,834 --> 01:12:21,670 まあ 世辞はいいです 1033 01:12:21,754 --> 01:12:22,963 それより 1034 01:12:24,006 --> 01:12:29,428 「忠臣蔵」という実の芝居に なぜ虚の怪談話を はめ込まれた? 1035 01:12:29,511 --> 01:12:32,181 (南北)ハハッ… あの… 1036 01:12:33,307 --> 01:12:36,060 嘘話の怪談だけだと 1037 01:12:36,143 --> 01:12:38,771 お上(かみ)から きっと お叱りを受けそうで 1038 01:12:38,854 --> 01:12:43,400 それで 「忠臣蔵」の皮でくるむ… 1039 01:12:43,984 --> 01:12:47,738 ただの“逃げ手”とでも 申しましょうか 1040 01:12:47,821 --> 01:12:51,825 それにしては 手が込んでおりますな 1041 01:12:52,743 --> 01:12:55,871 巧みな工夫で「忠臣蔵」の中に 1042 01:12:55,954 --> 01:13:00,209 怪談仕立ての「義士外伝」を はめ込み しかも… 1043 01:13:00,292 --> 01:13:05,255 怪談そのものが 「忠臣蔵」の裏返しになっておる 1044 01:13:05,964 --> 01:13:08,884 さすがは曲亭先生ですな 1045 01:13:08,967 --> 01:13:11,428 裏返しに お気づきでしたか 1046 01:13:12,554 --> 01:13:18,185 そうやって 実の世界に 虚の世界を加えることで 1047 01:13:18,268 --> 01:13:21,063 ただの加(くわ)え算ではなく 掛け算のような 1048 01:13:21,146 --> 01:13:23,357 妙な味が出てきやせんかと 思いやしてね 1049 01:13:24,066 --> 01:13:28,320 あれは 加え算でも掛け算でもなく 引き算でしょ! 1050 01:13:28,404 --> 01:13:31,407 おいおい 曲亭さん 1051 01:13:33,283 --> 01:13:34,618 南北さん 1052 01:13:35,327 --> 01:13:37,871 あんたの本当の狙いは 1053 01:13:38,622 --> 01:13:41,750 「忠臣蔵」を愚弄(ぐろう)することでは なかったのかね 1054 01:13:42,417 --> 01:13:45,003 へへへヘヘッ 1055 01:13:45,587 --> 01:13:48,757 あるいは そうかもしれませんなぁ 1056 01:13:50,843 --> 01:13:53,429 なぜ そのようなことをされる? 1057 01:13:54,054 --> 01:13:58,267 さっき あたしが 「四谷怪談」を嘘話と申したのは 1058 01:13:58,350 --> 01:14:00,310 あれは遠慮したからで 1059 01:14:00,394 --> 01:14:04,189 本当は 「四谷怪談」のほうが実で 1060 01:14:04,273 --> 01:14:08,235 「忠臣蔵」が嘘話 つまり虚だと 1061 01:14:08,318 --> 01:14:10,487 あたしは考えているので ございます 1062 01:14:11,280 --> 01:14:12,865 何じゃと! 1063 01:14:14,074 --> 01:14:17,494 (北斎)ハッ ハハハッ… 1064 01:14:17,578 --> 01:14:21,331 なるほど 言われてみりゃ そうかもしれねえなぁ 1065 01:14:21,415 --> 01:14:23,876 「忠臣蔵」なんて でたらめもいいとこだ 1066 01:14:23,959 --> 01:14:26,086 -(馬琴)いい加減にせんか! -(北斎)え? 1067 01:14:28,130 --> 01:14:30,090 (南北)曲亭先生 1068 01:14:30,174 --> 01:14:34,219 もし あたしの怪談が 本当に怖いなら 1069 01:14:34,887 --> 01:14:39,766 そりゃ あれが実の世界を 描(えが)いたものだからでございましょう 1070 01:14:40,267 --> 01:14:42,102 あたしは この浮世は 1071 01:14:42,186 --> 01:14:46,231 善因悪果 悪因善果 1072 01:14:47,274 --> 01:14:51,069 良き者が憂(う)き目に遭い 悪(あ)しき者が栄える 1073 01:14:51,153 --> 01:14:53,405 まるで つじつまの合わない 1074 01:14:53,488 --> 01:14:57,034 怪談だらけの世の中だと 思っておりますんで 1075 01:14:58,118 --> 01:15:00,954 つじつまの合わん浮世だからこそ 1076 01:15:01,038 --> 01:15:04,875 つじつまの合う世界が 必要とされておるのだ! 1077 01:15:04,958 --> 01:15:07,586 (南北)しかし それは無意味な 1078 01:15:07,669 --> 01:15:11,340 ただの つじつま合わせでは ございますまいか 1079 01:15:16,511 --> 01:15:18,472 お前さんの世界は 1080 01:15:20,015 --> 01:15:21,391 有害だ! 1081 01:15:21,892 --> 01:15:27,105 有害のほうが 無意味よりは まだ意味があると 1082 01:15:27,189 --> 01:15:30,067 あたくしは考えているんで ございます 1083 01:15:36,490 --> 01:15:38,075 (木戸番)あっ いけねえ 1084 01:15:38,158 --> 01:15:41,411 ろうそくが 燃え尽きやす 1085 01:15:41,954 --> 01:15:44,206 うん うん 1086 01:15:44,289 --> 01:15:48,335 こりゃ 回り舞台のように 果てしがないわい 1087 01:15:48,418 --> 01:15:50,212 つじつま論は もう おやめ おやめ! 1088 01:15:50,295 --> 01:15:51,505 おう 曲亭さん 1089 01:15:51,588 --> 01:15:54,132 もうそろそろ 帰ろう 1090 01:15:54,216 --> 01:15:56,176 お岩さんが出てくるぞ 1091 01:16:02,557 --> 01:16:05,560 妙な長問答(ながもんどう)して 1092 01:16:06,728 --> 01:16:07,896 失礼した 1093 01:16:10,023 --> 01:16:11,441 (南北)いえいえ 1094 01:16:12,276 --> 01:16:15,404 私のほうこそ とんだ ご無礼を 1095 01:16:15,487 --> 01:16:17,447 平(ひら)にお許しを… 1096 01:16:18,532 --> 01:16:20,951 お気を悪くされず 1097 01:16:21,034 --> 01:16:28,000 これからもどうぞ 南北めの芝居を ご贔屓(ひいき)に 1098 01:16:31,253 --> 01:16:34,339 (拍子木の音) 1099 01:16:34,423 --> 01:16:35,716 浜路が死んだ? 1100 01:16:35,799 --> 01:16:37,342 {\an8}(荘助) 申し訳ありません 1101 01:16:37,426 --> 01:16:39,177 {\an8}私がついていながら… 1102 01:16:39,761 --> 01:16:42,055 崖下を隈(くま)なく捜しましたが 1103 01:16:42,139 --> 01:16:45,267 浜路様のお姿は 既になく… 1104 01:16:45,350 --> 01:16:47,603 川に流されたか 1105 01:16:48,145 --> 01:16:49,604 (現八)いや 1106 01:16:49,688 --> 01:16:53,734 まだ亡くなったとは限らんぞ 1107 01:16:53,817 --> 01:16:57,946 そうだ まだ諦めてはいかんぞ 信乃殿 1108 01:16:59,865 --> 01:17:01,825 (現八)それにしても 1109 01:17:02,326 --> 01:17:05,829 村雨を奪った その修験者(しゅげんじゃ)とは 1110 01:17:06,705 --> 01:17:08,957 一体 何者だ? 1111 01:17:09,041 --> 01:17:11,001 (荘助)村雨を奪い 1112 01:17:13,045 --> 01:17:15,839 “これで定正を討てる”と 申しておりました 1113 01:17:17,591 --> 01:17:18,925 そして 1114 01:17:19,676 --> 01:17:21,595 この珠を持っておりました 1115 01:17:25,766 --> 01:17:28,769 (水しぶきが飛ぶ音) 1116 01:17:29,853 --> 01:17:31,980 (定正)おおっ 1117 01:17:32,606 --> 01:17:35,400 これは見事じゃ 1118 01:17:36,526 --> 01:17:40,489 紛(まご)うことなき 名刀“村雨” 1119 01:17:42,157 --> 01:17:47,245 これを わしに献上とは 殊勝(しゅしょう)な心がけじゃ 1120 01:17:47,329 --> 01:17:49,289 (定正)褒美を遣わす 1121 01:17:50,123 --> 01:17:53,168 ははっ ありがたき幸せ 1122 01:18:05,472 --> 01:18:07,349 今夜 中の院で宴(うたげ)を開く 1123 01:18:07,432 --> 01:18:09,518 その席に参れ 1124 01:18:11,728 --> 01:18:12,771 ははっ 1125 01:18:13,980 --> 01:18:15,190 くっ… 1126 01:18:27,119 --> 01:18:28,495 (神楽鈴の音) 1127 01:19:27,220 --> 01:19:32,142 (定正)あの踊り子は “あさけの”と申したのう 1128 01:19:32,225 --> 01:19:34,186 さようでございます 1129 01:19:35,145 --> 01:19:39,357 わしは大いに気に入ったぞ 1130 01:19:43,153 --> 01:19:45,739 (定正)ああ よい よい 1131 01:20:05,342 --> 01:20:07,385 (襖(ふすま)が開く音) 1132 01:20:21,399 --> 01:20:24,194 (玉梓)定正様 いけませぬ! 1133 01:20:27,906 --> 01:20:32,369 (犬坂(いぬさか)毛野(けの))我こそは 扇谷定正の罠にかかり 殺された— 1134 01:20:32,452 --> 01:20:36,331 相原胤度(あいはらたねのり)が一子(いっし) 犬坂毛野 1135 01:20:36,414 --> 01:20:40,919 父の敵(かたき) 定正の首 頂戴いたす 1136 01:20:41,002 --> 01:20:42,128 おのれ! 1137 01:20:42,212 --> 01:20:43,672 (毛野)うっ… 1138 01:20:48,969 --> 01:20:50,554 (息切れ) 1139 01:20:50,637 --> 01:20:52,681 伏姫め… 1140 01:20:56,268 --> 01:20:58,854 (道節)あっ これは… 1141 01:21:00,313 --> 01:21:01,439 (侍)おい! 1142 01:21:06,444 --> 01:21:07,612 (足音) 1143 01:21:07,696 --> 01:21:09,322 はあっ! 1144 01:21:17,622 --> 01:21:21,042 里見の手の者だ 捕らえよ 1145 01:21:21,126 --> 01:21:22,002 捕らえよ! 1146 01:21:24,045 --> 01:21:25,130 (道節)おぬしは? 1147 01:21:25,755 --> 01:21:27,716 話はあとだ 逃げるぞ! 1148 01:21:27,799 --> 01:21:28,884 (侍)はあっ! 1149 01:21:32,387 --> 01:21:33,763 おぬしも来い! 1150 01:21:34,973 --> 01:21:36,641 たぶん俺たちは 1151 01:21:37,517 --> 01:21:38,977 仲間だ 1152 01:21:49,362 --> 01:21:50,447 ふん! 1153 01:21:53,199 --> 01:21:55,285 (侍たち)退(ひ)け! 退け! 1154 01:21:58,038 --> 01:21:59,164 信乃! 1155 01:22:05,378 --> 01:22:06,504 行くぞ 1156 01:22:16,514 --> 01:22:18,934 (鳴き声) 1157 01:22:23,188 --> 01:22:24,356 (北斎)参った 1158 01:22:26,650 --> 01:22:27,984 ヘヘッ 1159 01:22:28,568 --> 01:22:32,697 おいらも ちったぁ 気にはしてたんだ 1160 01:22:33,657 --> 01:22:37,577 しばらく「八犬伝」が出てねえって 聞いててよ 1161 01:22:38,912 --> 01:22:40,163 でも 1162 01:22:40,664 --> 01:22:43,541 今の筋立てを聞くにつけ 1163 01:22:44,626 --> 01:22:47,587 心配ご無用って感じだな 1164 01:22:48,338 --> 01:22:49,381 (北斎の笑い声) 1165 01:22:49,464 --> 01:22:51,675 (馬琴)お前さんが 人のことを心配するとは 1166 01:22:51,758 --> 01:22:53,718 天変地異の前触れだな 1167 01:22:53,802 --> 01:22:55,762 (北斎)なあに ハハッ 1168 01:22:55,845 --> 01:22:59,683 「八犬伝」が中途半端なまま 筆折れってのも お前 1169 01:22:59,766 --> 01:23:01,643 夢見が悪いだけよ 1170 01:23:02,769 --> 01:23:04,729 (馬琴)本が遅れているのは 1171 01:23:05,563 --> 01:23:08,274 版元が いろいろと 問題を起こしたので 1172 01:23:08,358 --> 01:23:10,652 出したくても 出せなかったのだ 1173 01:23:11,820 --> 01:23:14,364 (北斎)それなら いいがね 1174 01:23:15,949 --> 01:23:17,158 ほら 1175 01:23:17,659 --> 01:23:20,578 南北の一件があってからさ 1176 01:23:20,662 --> 01:23:24,874 あんた えらく おくたびれのように 見えたからさ 1177 01:23:27,043 --> 01:23:29,713 あの奈落での問答のあと 1178 01:23:30,714 --> 01:23:35,218 正直なところ かなり 筆に迷いが出た 1179 01:23:35,301 --> 01:23:38,221 南北の野郎に いいように言われたんだ 1180 01:23:39,055 --> 01:23:40,890 あんたのことだから 1181 01:23:40,974 --> 01:23:44,310 あれこれと気が落ち着かねえだろう とは思ったがね 1182 01:23:44,811 --> 01:23:45,937 ヘヘッ 1183 01:23:46,020 --> 01:23:50,150 でも こうして また書く気になったんだ 1184 01:23:50,233 --> 01:23:51,693 それで いいじゃねえか 1185 01:23:51,776 --> 01:23:54,070 ほれ… おいらの やるよ 1186 01:23:54,154 --> 01:23:55,280 (馬琴)おお… 1187 01:24:09,210 --> 01:24:11,171 んんっ… 1188 01:24:14,340 --> 01:24:15,800 うーん… 1189 01:24:16,342 --> 01:24:18,094 (北斎)何でえ お前 1190 01:24:19,304 --> 01:24:22,766 腹痛(はらいた)なら さっさと厠(かわや)へ行け 1191 01:24:24,809 --> 01:24:28,146 (馬琴) こんな しょぼくれた爺(じい)さんから 1192 01:24:29,189 --> 01:24:34,944 どうやって これほどの躍動が ひねり出せるのか 1193 01:24:35,904 --> 01:24:38,531 ハハッ… 1194 01:24:39,407 --> 01:24:43,703 もはや お前さんそのものが 怪談だ 1195 01:24:44,454 --> 01:24:46,331 -(北斎)ふん -(馬琴)ハハッ… 1196 01:24:46,414 --> 01:24:51,211 (北斎)その言葉 そっくりそのまんま あんたに お返しだぜ 1197 01:24:51,294 --> 01:24:53,254 曲亭さんよ 1198 01:24:54,214 --> 01:24:56,049 (馬琴)そうだな 1199 01:24:57,801 --> 01:24:59,427 まだまだ… 1200 01:25:00,512 --> 01:25:02,931 くたびれては おれんなぁ 1201 01:25:03,014 --> 01:25:04,057 (北斎)で… 1202 01:25:04,140 --> 01:25:07,143 どうなんだい? 宗伯のほうは 1203 01:25:07,227 --> 01:25:08,812 ちっとは よくなったのかね 1204 01:25:08,895 --> 01:25:11,064 (馬琴)いやぁ 1205 01:25:11,147 --> 01:25:15,944 最近は 家を出ることもなく ほとんど横になっている 1206 01:25:17,362 --> 01:25:23,034 それでも 「八犬伝」の校正などを きちんと やってくれてるから 1207 01:25:23,701 --> 01:25:24,994 助かってはいる 1208 01:25:25,078 --> 01:25:26,371 (障子が開く音) 1209 01:25:27,330 --> 01:25:29,165 (太郎)カナリア カナリア 1210 01:25:29,249 --> 01:25:32,168 (お路(みち))これ! 太郎 おつぎ 1211 01:25:34,504 --> 01:25:37,632 (太郎)だって おばあちゃんが カナリア見ておいでって 1212 01:25:38,216 --> 01:25:41,594 (お百)こっちは炭団(たどん)作りで 忙しいんだよ! 1213 01:25:42,220 --> 01:25:45,807 じじい二人で 半日も おしゃべりしてちゃ 1214 01:25:45,890 --> 01:25:47,642 罰が当たるってんだよ! 1215 01:25:47,725 --> 01:25:50,353 -(太郎)あっ フンした -(北斎)ああ フンしたか 1216 01:25:51,396 --> 01:25:53,523 (お路)では お願いします 1217 01:26:00,029 --> 01:26:02,448 なかなか お前 器量よしじゃねえか 1218 01:26:04,200 --> 01:26:05,994 まあ 器量はともかく 1219 01:26:06,995 --> 01:26:08,413 どうにも… 1220 01:26:10,957 --> 01:26:12,792 愛想が悪い 1221 01:26:12,876 --> 01:26:18,548 しかし まあ よく こんな家(うち)に嫁に来たもんだ 1222 01:26:18,631 --> 01:26:21,176 -(北斎)ヘヘッ -(馬琴)何だと? 1223 01:26:22,260 --> 01:26:23,303 ほれ 1224 01:26:24,179 --> 01:26:25,513 ほれ ほれ 1225 01:26:25,597 --> 01:26:27,015 (おつぎ)行くよ 1226 01:26:29,517 --> 01:26:32,103 (お百)なんで また戻ってきたんだい! 1227 01:26:32,186 --> 01:26:34,772 -(お百)ああ 触るんじゃないよ! -(北斎)ハハハッ… 1228 01:26:34,856 --> 01:26:37,775 あの婆(ばあ)さんに 炭団ぶっつけられねえうちに 1229 01:26:38,860 --> 01:26:40,528 おいらも退散するかな 1230 01:26:40,612 --> 01:26:42,113 -(馬琴)おい! -(北斎)ん? 1231 01:26:42,739 --> 01:26:44,407 今日は一枚だけか 1232 01:26:45,116 --> 01:26:48,161 こう見えて おいらも忙しいんでね ヘヘッ 1233 01:26:48,828 --> 01:26:52,290 「冨嶽(ふがく)三十六景」も まとまったことだし 1234 01:26:52,373 --> 01:26:55,627 今度は「冨嶽百景」ってのを 出すつもりだ 1235 01:26:55,710 --> 01:26:58,087 “百景”か 1236 01:26:58,171 --> 01:27:03,009 (北斎)まだまだ 若造の広重(ひろしげ)なんぞに 負けちゃいられねえや 1237 01:27:08,014 --> 01:27:09,140 はい 1238 01:27:11,684 --> 01:27:12,852 おっ? 1239 01:27:15,521 --> 01:27:16,648 ヘヘッ 1240 01:27:18,733 --> 01:27:21,778 あんたも せいぜい長生きして— 1241 01:27:22,320 --> 01:27:24,405 “百犬伝”でも書きな 1242 01:27:25,990 --> 01:27:31,496 ハハッ ハハハハハッ… 1243 01:27:34,415 --> 01:27:35,667 (玄関の戸を閉める音) 1244 01:27:38,419 --> 01:27:40,797 お百さん 精が出るね 1245 01:27:40,880 --> 01:27:42,090 (舌打ち) 1246 01:27:42,173 --> 01:27:46,928 あたしだって 好きで 炭団 丸めてんじゃないんだよ 1247 01:27:47,011 --> 01:27:48,137 (北斎)ええ? 1248 01:27:48,638 --> 01:27:51,099 あんたからも言っとくれよ 1249 01:27:51,599 --> 01:27:54,644 草双紙(くさぞうし)やら人情本(にんじょうぼん)やら 1250 01:27:54,727 --> 01:28:00,441 もっと世間様に合わせりゃ 楽に お金が入んのに 1251 01:28:00,525 --> 01:28:02,944 一人で いばりくさって 1252 01:28:03,027 --> 01:28:06,364 じゃあな また来るよ ヘヘッ 1253 01:28:06,447 --> 01:28:07,824 何でえ! 1254 01:28:08,783 --> 01:28:10,493 みんなして 1255 01:28:11,160 --> 01:28:14,038 あたしを 除(の)け者にしやがって 1256 01:28:14,122 --> 01:28:17,625 どうせ あたしゃ無学ですよ! 1257 01:28:18,710 --> 01:28:24,465 何かと言や 人に知られた 滝沢馬琴の妻らしくしろって 1258 01:28:24,549 --> 01:28:26,968 説教ばっかりしやがって 1259 01:28:27,051 --> 01:28:29,304 あたしゃ 下駄屋の女房やってたほうが 1260 01:28:29,387 --> 01:28:32,015 よっぽど楽に暮らせたんだよ! 1261 01:28:35,643 --> 01:28:37,562 (宗伯)いい加減にしてください! 1262 01:28:39,605 --> 01:28:41,232 父上は立派な方です 1263 01:28:41,941 --> 01:28:45,236 正直言って あなたには もったいないお方だ 1264 01:28:45,319 --> 01:28:46,446 それなのに 1265 01:28:46,529 --> 01:28:49,157 その不足がましい悪口は 何事ですか! 1266 01:28:49,866 --> 01:28:51,659 お前まで… 1267 01:28:54,454 --> 01:28:57,415 お前まで 母親に説教するのかい! 1268 01:28:58,666 --> 01:29:02,712 四十(しじゅう)前にもなって 何もしねえで 1269 01:29:02,795 --> 01:29:04,547 うじ虫みたいに ただ 1270 01:29:04,630 --> 01:29:08,593 うじゃうじゃ うじゃうじゃ 寝てばっかりいる役立たずが! 1271 01:29:08,676 --> 01:29:11,763 そうだ 私は うじ虫だ 1272 01:29:11,846 --> 01:29:15,183 しかし うじ虫のような息子を 産んだのは誰だ 1273 01:29:15,266 --> 01:29:20,855 あの優れた頭と丈夫な体を 持っておられる父上では 断じてない! 1274 01:29:20,938 --> 01:29:23,232 よさないか! 宗伯! 1275 01:29:23,316 --> 01:29:24,400 (宗伯)申し訳ご… 1276 01:29:24,484 --> 01:29:29,781 (せき込み) 1277 01:29:32,617 --> 01:29:34,160 お前… 1278 01:29:34,911 --> 01:29:37,372 子供の頃は まあ 1279 01:29:38,498 --> 01:29:41,793 普通の子供だったじゃないか 1280 01:29:44,712 --> 01:29:49,217 それを この父親が いじり倒して 1281 01:29:49,300 --> 01:29:52,386 そんで 変なんなっちゃったんだよ! 1282 01:29:54,138 --> 01:29:58,059 お前を廃人同様にしたのも この父親 1283 01:29:58,976 --> 01:30:02,855 お前を しつけ殺すのも この父親だ! 1284 01:30:19,038 --> 01:30:21,082 なんと恐ろしいことを… 1285 01:30:23,251 --> 01:30:24,627 私が 1286 01:30:27,004 --> 01:30:31,134 宗伯を しつけ殺す… 1287 01:30:37,014 --> 01:30:38,975 なんと恐ろしいことを… 1288 01:30:43,312 --> 01:30:46,065 (拍子木の音) 1289 01:30:48,693 --> 01:30:50,153 (猫の鳴き声) 1290 01:30:50,236 --> 01:30:52,780 (女将(おかみ))ここは道場なんですが 1291 01:30:52,864 --> 01:30:57,285 暮らし向きも よくないので 宿も始めたんですよ 1292 01:31:00,997 --> 01:31:02,582 (法師)ああ… 1293 01:31:05,668 --> 01:31:06,919 (ため息) 1294 01:31:08,296 --> 01:31:09,547 この雨の中 1295 01:31:09,630 --> 01:31:13,551 途方に暮れていたところ 助かりました 1296 01:31:13,634 --> 01:31:16,429 (女将)お役に立てて何よりです 1297 01:31:17,889 --> 01:31:19,640 ごゆっくり 1298 01:31:37,825 --> 01:31:40,494 (風が吹き込む音) 1299 01:31:49,420 --> 01:31:51,339 (赤岩一角(いっかく))ほう 1300 01:31:51,422 --> 01:31:54,258 なかなかのものだな 1301 01:31:55,551 --> 01:31:57,887 (雷鳴) 1302 01:31:57,970 --> 01:31:59,805 お前さん 1303 01:31:59,889 --> 01:32:02,808 遊んでないで さっさと殺(や)っちまいな 1304 01:32:03,309 --> 01:32:05,561 まあ そう焦るな 1305 01:32:06,270 --> 01:32:09,273 (赤岩)こいつは楽しめそうだ 1306 01:32:09,357 --> 01:32:12,944 さあ いくぞ! 1307 01:32:21,911 --> 01:32:24,372 (猫の鳴き声) 1308 01:32:25,164 --> 01:32:26,207 うおおっ! 1309 01:32:30,294 --> 01:32:33,631 (犬村大角(いぬむらだいかく))父上 おやめくだされ! 1310 01:32:33,714 --> 01:32:35,132 (赤岩)大角 1311 01:32:35,216 --> 01:32:37,468 父の邪魔をするか! 1312 01:32:37,551 --> 01:32:38,719 うっ… 1313 01:32:44,183 --> 01:32:46,936 (大角)旅人を襲い 金品を奪うなど 1314 01:32:47,019 --> 01:32:50,439 なぜ そのような愚かなことを 繰り返すのですか 1315 01:32:50,523 --> 01:32:52,066 (船虫)大角 1316 01:32:52,149 --> 01:32:54,485 恩義ある父上に逆らうのかえ? 1317 01:32:54,569 --> 01:32:56,654 (大角)うるさい お前は黙ってろ! 1318 01:32:56,737 --> 01:32:59,198 お前が来てから 父は おかしくなってしまった 1319 01:32:59,282 --> 01:33:02,118 (赤岩)母上に なんという口を利くのだ 1320 01:33:02,201 --> 01:33:04,870 息子だとて容赦はせぬぞ! 1321 01:33:12,795 --> 01:33:14,880 くっ… 父上! 1322 01:33:17,758 --> 01:33:19,260 ええい 1323 01:33:22,054 --> 01:33:23,264 ううっ… 1324 01:33:24,849 --> 01:33:26,851 ううっ… あっ 1325 01:33:28,269 --> 01:33:29,478 ううっ… 1326 01:33:29,562 --> 01:33:32,857 父上 お目覚めくだされ! 1327 01:33:32,940 --> 01:33:34,358 ううっ… 1328 01:33:34,984 --> 01:33:35,860 くっ… 1329 01:33:37,945 --> 01:33:39,989 ううっ うっ 1330 01:33:40,072 --> 01:33:43,117 大角 それをしまえ! 1331 01:33:43,200 --> 01:33:44,493 うああっ 1332 01:33:44,577 --> 01:33:47,204 しまえと言っておるのだ! 1333 01:33:47,288 --> 01:33:48,664 (法師)御免! 1334 01:33:55,171 --> 01:33:57,340 (法師)ふんっ! 怨霊よ 1335 01:33:57,423 --> 01:33:58,758 立ち去れ! 1336 01:33:58,841 --> 01:34:05,306 (うめき声) 1337 01:34:05,931 --> 01:34:07,350 (大角)父上! 1338 01:34:12,563 --> 01:34:14,023 (赤岩)大角… 1339 01:34:16,067 --> 01:34:18,194 愚かな父を 1340 01:34:18,736 --> 01:34:20,071 許せ 1341 01:34:27,328 --> 01:34:28,788 (大角の泣き声) 1342 01:34:33,918 --> 01:34:35,628 おのれ 1343 01:34:36,879 --> 01:34:38,506 すべて お前のせいだ! 1344 01:34:40,758 --> 01:34:47,223 (悲鳴) 1345 01:34:48,057 --> 01:34:48,891 はあっ… 1346 01:34:58,526 --> 01:35:01,779 (荒い息) 1347 01:35:09,995 --> 01:35:13,457 (義実)おお 大輔 よう戻った 1348 01:35:14,583 --> 01:35:15,835 (法師)殿 1349 01:35:16,919 --> 01:35:18,254 お久しゅうございます 1350 01:35:21,549 --> 01:35:23,759 この者たちが… 1351 01:35:24,343 --> 01:35:27,888 伏姫様ゆかりの 犬士たちにございます 1352 01:35:27,972 --> 01:35:30,433 犬塚信乃にございます 1353 01:35:32,393 --> 01:35:34,895 “孝”の珠を持っております 1354 01:35:34,979 --> 01:35:37,273 犬川荘助にございます 1355 01:35:39,108 --> 01:35:41,902 “義”の珠を持っております 1356 01:35:41,986 --> 01:35:44,864 犬飼現八にございます 1357 01:35:44,947 --> 01:35:47,783 “信”の珠を持っております 1358 01:35:48,993 --> 01:35:51,454 犬田小文吾にございます 1359 01:35:52,288 --> 01:35:54,707 “悌(てい)”の珠を持っております 1360 01:35:56,000 --> 01:35:58,085 犬村大角にございます 1361 01:35:58,919 --> 01:36:00,629 “礼”の珠を持っております 1362 01:36:02,673 --> 01:36:04,842 犬坂毛野にございます 1363 01:36:05,801 --> 01:36:07,219 “智”の珠を持っております 1364 01:36:09,305 --> 01:36:11,765 犬山道節にございます 1365 01:36:13,559 --> 01:36:16,604 “忠”の珠を持っております 1366 01:36:17,438 --> 01:36:18,647 皆… 1367 01:36:20,274 --> 01:36:24,987 よくぞ 滝田の城に参ってくれた 1368 01:36:26,322 --> 01:36:28,199 まさに あの時 1369 01:36:29,366 --> 01:36:32,703 天に飛び去った伏姫の珠が 1370 01:36:34,163 --> 01:36:37,625 また ここに集まった 1371 01:36:40,586 --> 01:36:41,879 殿… 1372 01:36:42,379 --> 01:36:46,592 玉梓に操られし定正は 今まさに里見を滅ぼさんと 1373 01:36:46,675 --> 01:36:49,094 各地の諸大名に下知(げじ)を下し 1374 01:36:49,178 --> 01:36:52,640 伊皿子(いさらご)城に 大軍を集結させております 1375 01:36:53,390 --> 01:36:55,434 おのれ 玉梓め 1376 01:36:56,018 --> 01:36:59,688 いつまで里見を 苦しめ続けるつもりだ 1377 01:36:59,772 --> 01:37:04,610 殿 かくなる上は この七人の犬士たちを中心に 1378 01:37:04,693 --> 01:37:07,196 戦(いくさ)の準備を 急がねばなりませぬ 1379 01:37:07,863 --> 01:37:08,906 うむ 1380 01:37:08,989 --> 01:37:12,117 (男)あいや~ しばらく! 1381 01:37:13,035 --> 01:37:14,370 やあっ! 1382 01:37:18,165 --> 01:37:19,208 ふんっ! 1383 01:37:25,339 --> 01:37:28,676 突然のご無礼 お許し願いまする 1384 01:37:28,759 --> 01:37:32,304 拙者 犬江親兵衛(いぬえしんべえ)と申します 1385 01:37:39,562 --> 01:37:41,063 これは… 1386 01:37:46,902 --> 01:37:50,447 仁(じん)・義(ぎ)・礼(れい)・智(ち)・忠(ちゅう)・信(しん)・孝(こう)・悌(てい) 1387 01:37:50,531 --> 01:37:51,865 ついに 1388 01:37:52,575 --> 01:37:56,996 八つの珠が揃(そろ)いましたぞ 伏姫様 1389 01:37:59,373 --> 01:38:03,168 捨て子だった拙者を お育てくださったのは 1390 01:38:03,252 --> 01:38:05,713 かつて里見家に仕えし 1391 01:38:06,422 --> 01:38:09,633 この世四郎 おとねにございます 1392 01:38:13,804 --> 01:38:17,766 おおっ… 世四郎 おとね! 1393 01:38:19,059 --> 01:38:20,185 殿… 1394 01:38:21,854 --> 01:38:24,899 お久しゅうございます 1395 01:38:24,982 --> 01:38:27,151 お久しゅうございます 1396 01:38:28,861 --> 01:38:32,031 {\an8}不思議な縁(えにし)でございます 1397 01:38:33,032 --> 01:38:36,744 大鷲に さらわれた五の君を捜し 1398 01:38:36,827 --> 01:38:39,788 彷徨(さまよ)う道すがら 1399 01:38:39,872 --> 01:38:41,498 森の中に 1400 01:38:41,582 --> 01:38:45,628 置き去りにされていた親兵衛を 1401 01:38:45,711 --> 01:38:48,797 見つけた次第にございます 1402 01:38:50,132 --> 01:38:53,427 親兵衛が持っていた珠の中には 1403 01:38:53,927 --> 01:38:58,474 “仁”という文字が 浮かび上がっていました 1404 01:38:58,557 --> 01:39:03,854 これは間違いなく 伏姫様ゆかりの珠に相違ないと 1405 01:39:04,396 --> 01:39:08,233 今日(こんにち)まで大切に お育て申し上げました 1406 01:39:09,026 --> 01:39:09,944 うむ 1407 01:39:10,027 --> 01:39:12,780 世四郎 おとね でかしたぞ! 1408 01:39:15,616 --> 01:39:17,326 (世四郎)恐れながら 1409 01:39:17,409 --> 01:39:21,413 もう お一方 お連れいたしております 1410 01:39:28,420 --> 01:39:30,464 -(信乃)浜路 -(荘助)浜路様! 1411 01:39:30,547 --> 01:39:32,132 信乃様! 1412 01:39:32,841 --> 01:39:33,884 浜路! 1413 01:39:33,967 --> 01:39:35,636 無事だったのか? 1414 01:39:35,719 --> 01:39:39,723 はい 親兵衛殿に 助けていただきました 1415 01:39:39,807 --> 01:39:41,433 そうか 1416 01:39:41,517 --> 01:39:43,143 親兵衛殿に 1417 01:39:46,105 --> 01:39:47,856 (義実)“浜路”? 1418 01:39:47,940 --> 01:39:49,191 (世四郎)殿! 1419 01:39:54,988 --> 01:39:56,699 (義実)笹(ささ)りんどう 1420 01:39:56,782 --> 01:39:59,284 これは里見家の紋ではないか 1421 01:39:59,368 --> 01:40:00,994 (おとね)この守り袋は 1422 01:40:01,078 --> 01:40:05,874 浜路様が捨て子として 拾われた時に くるまれていた— 1423 01:40:05,958 --> 01:40:08,210 おくるみで作ったものだそうです 1424 01:40:09,837 --> 01:40:10,879 (世四郎)おとねが 1425 01:40:10,963 --> 01:40:13,841 背中のあざも見定めました 1426 01:40:15,300 --> 01:40:17,845 ここに おわす浜路様は 1427 01:40:17,928 --> 01:40:21,098 大鷲に さらわれた五の君 1428 01:40:21,181 --> 01:40:24,143 浜路姫様でございます 1429 01:40:28,772 --> 01:40:30,357 浜路にございます 1430 01:40:36,905 --> 01:40:38,907 浜路姫… 1431 01:40:39,992 --> 01:40:43,537 本当に 浜路姫なのじゃな 1432 01:40:44,246 --> 01:40:45,789 お父上 1433 01:40:57,634 --> 01:40:59,344 (渡辺崋山(わたなべかざん))ついに 1434 01:41:00,345 --> 01:41:02,723 八犬士が揃いましたな 1435 01:41:06,769 --> 01:41:09,354 どれだけの読者が 1436 01:41:09,438 --> 01:41:11,899 その日を待ち望んでいることか 1437 01:41:13,233 --> 01:41:18,280 どうも 埒(らち)もない嘘話を 長々と聞いていただき 1438 01:41:18,363 --> 01:41:19,865 かたじけない 1439 01:41:23,035 --> 01:41:27,289 宗伯を見舞っていただいたうえに 思いがけず 1440 01:41:27,831 --> 01:41:29,958 お引き止めしてしまいました 1441 01:41:30,459 --> 01:41:31,919 (崋山)いやいや 1442 01:41:32,544 --> 01:41:36,340 「八犬伝」を愛読させて いただいている身としては 1443 01:41:36,423 --> 01:41:38,467 この上ない幸せ 1444 01:41:38,550 --> 01:41:40,135 ありがたく存じております 1445 01:41:41,804 --> 01:41:44,014 ところで 渡辺殿 1446 01:41:44,848 --> 01:41:46,183 その… 1447 01:41:46,934 --> 01:41:50,896 八犬士 揃い踏みの場面を ひとつ 1448 01:41:51,438 --> 01:41:55,442 今 ここで 絵にしてくださらんだろうか 1449 01:41:55,526 --> 01:41:59,029 えっ 今 ここで… ですか 1450 01:42:00,197 --> 01:42:01,198 ああ… 1451 01:42:01,281 --> 01:42:02,449 いや 1452 01:42:03,408 --> 01:42:07,371 いや これは 大変失礼いたしました 1453 01:42:08,288 --> 01:42:11,375 今や 田原藩若家老(わかがろう) かつ 1454 01:42:11,458 --> 01:42:15,504 画家でもいらっしゃる 渡辺崋山先生に 1455 01:42:15,587 --> 01:42:18,048 即興で絵を描いてくれなど 1456 01:42:18,131 --> 01:42:20,175 いやいや 私が どうかしておりました 1457 01:42:20,259 --> 01:42:22,761 (崋山)ああ… 滅相もございません 1458 01:42:23,637 --> 01:42:29,434 大変 光栄に存じますが 何分(なにぶん) 私は それほど器用ではなく… 1459 01:42:29,518 --> 01:42:32,062 (馬琴)いやいや 本当に 1460 01:42:32,145 --> 01:42:35,399 年寄りの戯(ざ)れ言(ごと)と お忘れくだされ 1461 01:42:36,024 --> 01:42:37,317 (崋山)申し訳ございません 1462 01:42:37,401 --> 01:42:38,777 (馬琴)いや いや いや 1463 01:42:41,947 --> 01:42:46,159 実は いつもは北斎老(ろう)に 1464 01:42:46,869 --> 01:42:48,912 腹案(ふくあん)を聞いてもらって 1465 01:42:48,996 --> 01:42:52,124 その場で二~三枚 絵にしてもらっていたんです 1466 01:42:54,626 --> 01:42:59,506 それが どれだけ 私の創作の励みになっていたことか 1467 01:43:02,509 --> 01:43:07,055 ところが ここのところ とんと やって来ない 1468 01:43:07,764 --> 01:43:10,726 そうでしたか 北斎先生が 1469 01:43:10,809 --> 01:43:12,436 渡辺殿 1470 01:43:15,939 --> 01:43:17,190 私は 1471 01:43:21,612 --> 01:43:23,864 宗伯のことを思うと 1472 01:43:25,866 --> 01:43:29,077 ああ… 恐ろしゅうてな 1473 01:43:33,165 --> 01:43:37,336 じっと ここに座って 1474 01:43:40,797 --> 01:43:43,342 考えておるに耐えられん 1475 01:43:47,596 --> 01:43:49,222 (馬琴のため息) 1476 01:43:49,306 --> 01:43:51,892 (馬琴) 口幅(くちはば)ったいことではありますが 1477 01:43:53,310 --> 01:43:57,022 私と宗伯は まず 1478 01:43:58,357 --> 01:44:00,567 悪を成したことがない 1479 01:44:03,862 --> 01:44:05,614 それなのに… 1480 01:44:06,573 --> 01:44:08,617 こういう運命を見る 1481 01:44:14,414 --> 01:44:16,917 そう考えるにつけ 1482 01:44:18,502 --> 01:44:22,130 “正しき者が勝つ”という主題で 書いている— 1483 01:44:23,548 --> 01:44:25,384 「八犬伝」など 1484 01:44:29,763 --> 01:44:33,141 いよいよもって 虚だと思えるのです 1485 01:44:37,104 --> 01:44:38,897 (崋山)先生 1486 01:44:40,524 --> 01:44:42,275 私は 1487 01:44:42,359 --> 01:44:45,737 若かりし頃から 「八犬伝」を愛読しております 1488 01:44:47,739 --> 01:44:50,117 侍として 辛(つら)い日々があっても 1489 01:44:50,909 --> 01:44:56,873 どれほど 「八犬伝」の正義に 勇気づけられたことか 1490 01:45:00,877 --> 01:45:03,130 曲亭先生に対して 1491 01:45:03,213 --> 01:45:05,966 おこがましい言葉で 恐れ入りますが 1492 01:45:08,635 --> 01:45:09,886 私は 1493 01:45:11,763 --> 01:45:13,932 正義は虚であっても 1494 01:45:14,975 --> 01:45:17,644 それを貫いて 一生を終えれば 1495 01:45:18,729 --> 01:45:21,523 その人の人生は実となる 1496 01:45:23,275 --> 01:45:27,529 決して 虚とはならんと 信じております 1497 01:45:42,586 --> 01:45:43,962 (お路)渡辺様 1498 01:45:44,963 --> 01:45:46,256 お駕籠を お呼びします 1499 01:45:46,340 --> 01:45:50,719 ああ いや 駕籠は無用 二本の足がござれば 1500 01:45:50,802 --> 01:45:52,054 (お路)でも… 1501 01:45:53,555 --> 01:45:54,806 お路さん 1502 01:45:55,557 --> 01:45:59,519 宗伯殿は 私にとって かけがえのない友人 1503 01:46:00,062 --> 01:46:03,023 どうか よろしくお願いいたします 1504 01:46:11,656 --> 01:46:13,909 お路さんは お気づきか? 1505 01:46:13,992 --> 01:46:16,411 曲亭先生の右の目ですが… 1506 01:46:19,081 --> 01:46:22,250 時々 右目が霞(かす)むと… 1507 01:46:24,377 --> 01:46:26,171 やはり そうでしたか 1508 01:46:28,590 --> 01:46:30,217 先生のことも 1509 01:46:31,551 --> 01:46:33,470 よろしくお願いいたします 1510 01:47:03,417 --> 01:47:04,251 (お路)失礼します 1511 01:47:17,430 --> 01:47:19,558 もう お休みになってください 1512 01:47:20,058 --> 01:47:21,351 (宗伯)いや 1513 01:47:22,018 --> 01:47:26,690 明日の朝までに これだけは なんとしても 1514 01:47:27,399 --> 01:47:28,650 でも… 1515 01:47:37,784 --> 01:47:40,954 父上の この「八犬伝」は 1516 01:47:41,913 --> 01:47:45,292 なんとしても 完結させねばならないのだ 1517 01:47:51,173 --> 01:47:55,927 (苦しそうな呼吸) 1518 01:48:01,308 --> 01:48:04,019 (近づく足音) 1519 01:48:05,187 --> 01:48:06,771 お父様を呼んでいます 1520 01:48:10,192 --> 01:48:12,652 (せき込み) 1521 01:48:13,236 --> 01:48:14,571 (宗伯)ああ… 1522 01:48:14,654 --> 01:48:16,281 お母さん 1523 01:48:20,410 --> 01:48:22,412 癇癪(かんしゃく)を起こして 1524 01:48:23,747 --> 01:48:28,126 随分と ひどいことを 言ってきました 1525 01:48:31,296 --> 01:48:34,466 どうか お許しください 1526 01:48:35,509 --> 01:48:37,719 (すすり泣き) 1527 01:48:37,802 --> 01:48:41,014 何だね 鎮五郎 1528 01:48:42,641 --> 01:48:44,351 そんなの 1529 01:48:45,644 --> 01:48:49,189 病気が言わせる駄々(だだ)じゃないか 1530 01:48:54,277 --> 01:48:56,947 {\an8}謝らなくちゃ いけないのは 1531 01:48:58,865 --> 01:49:00,825 {\an8}母さんのほうだよ 1532 01:49:00,909 --> 01:49:02,619 {\an8}(足音) 1533 01:49:05,455 --> 01:49:06,957 {\an8}(馬琴)鎮五郎 1534 01:49:08,959 --> 01:49:11,044 (宗伯)お預かりした校正を 1535 01:49:12,045 --> 01:49:14,089 先ほど終えました 1536 01:49:17,008 --> 01:49:18,677 そんなものは 1537 01:49:19,219 --> 01:49:21,930 体が楽になってからで よいのだ 1538 01:49:30,522 --> 01:49:32,065 (宗伯)父上… 1539 01:49:34,526 --> 01:49:36,945 これまでの ご恩に 1540 01:49:38,863 --> 01:49:40,240 子として 1541 01:49:42,033 --> 01:49:45,954 何のお報いもせず 死んでゆきますが 1542 01:49:48,248 --> 01:49:50,709 どうぞ お許しを… 1543 01:49:52,711 --> 01:49:54,421 (馬琴)何を言うか 1544 01:49:55,964 --> 01:49:58,466 要らざることを口にするな 1545 01:49:59,009 --> 01:50:01,678 (苦しそうな呼吸) 1546 01:50:04,848 --> 01:50:07,559 み… みず 水を… 1547 01:50:07,642 --> 01:50:08,893 (馬琴)おお… 1548 01:50:16,026 --> 01:50:17,068 おう 1549 01:50:18,903 --> 01:50:20,280 宗伯 1550 01:50:28,788 --> 01:50:30,206 (宗伯)ああ… 1551 01:50:30,665 --> 01:50:32,042 ああ… 1552 01:50:42,927 --> 01:50:44,679 (馬琴)宗伯… 1553 01:50:46,014 --> 01:50:47,557 {\an8}宗伯… 1554 01:50:49,392 --> 01:50:51,853 {\an8}-(お百)鎮五郎 -(馬琴)宗伯 1555 01:50:53,688 --> 01:50:57,233 {\an8}鎮五郎! 1556 01:50:59,069 --> 01:51:04,949 (お百)鎮五郎! (お百の号泣) 1557 01:51:07,243 --> 01:51:09,662 (3人の泣き声) 1558 01:51:18,171 --> 01:51:21,341 (近づく足音) 1559 01:51:22,092 --> 01:51:23,259 (馬琴)ああ… 1560 01:51:26,680 --> 01:51:28,306 (崋山)宗伯殿は? 1561 01:51:29,808 --> 01:51:33,103 (馬琴)昨日の朝 亡くなりました 1562 01:51:35,313 --> 01:51:38,650 骸(むくろ)は棺桶に入れて 1563 01:51:39,192 --> 01:51:41,319 まだ納戸(なんど)に置いてござる 1564 01:51:45,407 --> 01:51:48,410 (雨の音) 1565 01:51:57,001 --> 01:51:59,587 (崋山)いずれ 色を差し 1566 01:51:59,671 --> 01:52:01,673 絵にして お持ちいたします 1567 01:52:03,716 --> 01:52:06,177 今日は急ぎますので 1568 01:52:06,678 --> 01:52:09,514 これにて 御免 1569 01:52:42,088 --> 01:52:43,590 なぜだ 1570 01:52:46,676 --> 01:52:48,386 なぜなんだ 1571 01:52:56,644 --> 01:53:00,732 なんで 宗伯が… 1572 01:53:04,194 --> 01:53:06,446 私でよいではないか 1573 01:53:12,368 --> 01:53:15,288 私が長生きしている罰なのか 1574 01:53:21,127 --> 01:53:24,088 なんで代わってやれないんだ 1575 01:53:28,510 --> 01:53:32,388 (泣き声) 1576 01:53:37,060 --> 01:53:38,561 (泣き声) 1577 01:53:49,364 --> 01:53:53,618 (太鼓の音) 1578 01:53:55,203 --> 01:53:59,624 (定正)平賀隊は白峰(しらみね)街道 1579 01:53:59,707 --> 01:54:02,752 熊代(くましろ)隊は大兼(おおがね)街道 1580 01:54:02,836 --> 01:54:06,381 塚原隊は後方 三馬山(さんばやま)を下れ 1581 01:54:06,464 --> 01:54:07,674 そして 1582 01:54:08,883 --> 01:54:10,760 浅沼隊は 1583 01:54:12,178 --> 01:54:13,721 海からじゃ 1584 01:54:13,805 --> 01:54:17,433 海から先駆け 一気に叩(たた)け 1585 01:54:18,434 --> 01:54:21,729 里見の勢力を分散させれば 1586 01:54:21,813 --> 01:54:24,899 八犬士も自(おの)ずと 散(ち)り散(ぢ)りとなる 1587 01:54:24,983 --> 01:54:30,863 八つ 揃わなければ 伏姫の珠など 恐れるに足りぬ 1588 01:54:36,369 --> 01:54:38,371 いよいよ 開戦じゃ 1589 01:54:39,289 --> 01:54:41,249 頼んだぞ 八犬士 1590 01:54:50,592 --> 01:54:54,220 (文五兵衛) 水の上なら 誰にも負けねえ 1591 01:54:54,304 --> 01:54:59,642 今こそ 犬田屋の底力を 見せてやるんじゃ! 1592 01:54:59,726 --> 01:55:01,603 (若い衆)おー! 1593 01:55:12,322 --> 01:55:13,156 んっ! 1594 01:55:29,380 --> 01:55:32,091 (衝突音) 1595 01:55:35,053 --> 01:55:37,513 しばらく 他の船は近づけない 1596 01:55:37,597 --> 01:55:39,932 目指すは水軍大将の首ひとつ! 1597 01:55:40,016 --> 01:55:41,559 (里見軍の兵士たち)おー! 1598 01:55:47,023 --> 01:55:48,274 (信乃)んっ… 1599 01:55:49,067 --> 01:55:50,485 んんっ… 1600 01:55:50,568 --> 01:55:54,572 本当に この穴で間違いないのか 1601 01:55:54,656 --> 01:55:59,160 この城のことは隅々まで調べた あと少しだ 1602 01:56:00,244 --> 01:56:03,247 毛野は するする進むが 1603 01:56:03,331 --> 01:56:06,668 わしの体では これは地獄だ 1604 01:56:07,543 --> 01:56:09,462 それを言うなら 1605 01:56:10,838 --> 01:56:12,924 俺が 一番きつい 1606 01:56:14,676 --> 01:56:16,886 犬士とは呼ばれているが… 1607 01:56:16,970 --> 01:56:18,554 あつ… 熱(あつ)っ! 1608 01:56:18,638 --> 01:56:22,016 俺たちは人だぞ これは狸(たぬき)の穴だ! 1609 01:56:23,267 --> 01:56:25,228 さあ さあ 皆さん 1610 01:56:25,311 --> 01:56:28,064 もう少しで城内ですよ 1611 01:56:28,147 --> 01:56:30,984 法師様たちの時間稼ぎにも 限界があります 1612 01:56:31,067 --> 01:56:32,318 ああ 1613 01:56:32,985 --> 01:56:34,404 とにかく急ごう 1614 01:56:39,867 --> 01:56:42,161 (門番たち)うっ… ぐわっ… 1615 01:56:51,879 --> 01:56:53,214 (信乃)よし 1616 01:56:53,297 --> 01:56:57,051 四つの門が開かなければ 城内の敵の数は わずか 1617 01:57:03,266 --> 01:57:04,809 (管領(かんれい)軍の侍)敵だ! 1618 01:57:23,161 --> 01:57:26,998 (信乃)目指すは 関東管領(かんれい) 扇谷定正の首 1619 01:57:27,081 --> 01:57:29,917 そして怨霊 玉梓 1620 01:57:30,001 --> 01:57:33,087 (侍たち)やああー! 1621 01:57:33,171 --> 01:57:35,798 (信乃)いざ参らん! 1622 01:57:36,299 --> 01:57:37,759 (一同)おう! 1623 01:57:41,429 --> 01:57:43,890 (一同)やああー! 1624 01:57:53,941 --> 01:57:56,110 何だと! 八犬士だと? 1625 01:57:56,194 --> 01:57:57,570 (権之佐)どうやって城内に 1626 01:57:57,653 --> 01:57:59,489 (玉梓)ええい 謀りおったな! 1627 01:57:59,572 --> 01:58:03,284 (定正)たかだか 八人ではないか ここへ寄せつけるでないぞ 1628 01:58:03,367 --> 01:58:05,953 殿 万が一に備えて最上階へ 1629 01:58:06,662 --> 01:58:08,873 珠を八つ 1630 01:58:08,956 --> 01:58:11,375 揃わせてはならない 1631 01:58:23,763 --> 01:58:25,723 (毛野)定正は さっきまで ここに居たぞ! 1632 01:58:25,807 --> 01:58:28,643 (道節)上だ! 上に逃げたぞ 1633 01:58:37,485 --> 01:58:39,487 (定正) ええい 戦況はどうなっている! 1634 01:58:39,570 --> 01:58:40,696 (権之佐)はっ! 1635 01:58:42,740 --> 01:58:45,868 (伝令)敵方 三階を突破して 四階に上がってきております 1636 01:58:45,952 --> 01:58:49,497 八人ごときに 何をやっておるのじゃ! 1637 01:58:49,580 --> 01:58:54,460 毛野と道節の狙いは 定正殿でしたね? 1638 01:59:01,717 --> 01:59:03,136 (侍)はあっ! 1639 01:59:15,481 --> 01:59:16,482 うおおっ! 1640 01:59:37,503 --> 01:59:38,713 (毛野)はああっ! 1641 01:59:46,012 --> 01:59:47,471 (斬られる音) 1642 01:59:47,555 --> 01:59:49,724 んんっ… だあっ! 1643 01:59:51,309 --> 01:59:52,226 (現八)うわっ… 1644 01:59:53,519 --> 01:59:54,437 うおっ! 1645 01:59:55,521 --> 01:59:56,480 (斬られる音) 1646 01:59:58,357 --> 02:00:01,402 (荒い息) 1647 02:00:03,237 --> 02:00:04,238 ふんっ! 1648 02:00:09,327 --> 02:00:10,578 (殴る音) 1649 02:00:11,495 --> 02:00:13,080 (荒い息) 1650 02:00:20,212 --> 02:00:21,547 (信乃)んんんっ… 1651 02:00:24,967 --> 02:00:27,345 (侍たち)うおおー! 1652 02:00:35,895 --> 02:00:37,772 (大角)ここは俺たちに任せて 1653 02:00:38,314 --> 02:00:39,941 定正を討て! 1654 02:00:40,024 --> 02:00:42,026 うおおー! 1655 02:00:42,735 --> 02:00:43,653 小文吾! 1656 02:00:43,736 --> 02:00:45,404 (斬られる音) 1657 02:00:48,366 --> 02:00:50,076 早く行け! 信乃! 1658 02:00:52,870 --> 02:00:54,872 (信乃)んっ! んんっ! 1659 02:01:04,340 --> 02:01:07,510 (玉梓の笑い声) 1660 02:01:07,593 --> 02:01:10,930 (定正)あっ… ああっ… 1661 02:01:11,013 --> 02:01:15,226 何をする… 玉梓… 1662 02:01:16,769 --> 02:01:19,939 (床が抜ける音) 1663 02:01:24,235 --> 02:01:26,696 (定正)あああーっ! (落下音) 1664 02:01:28,239 --> 02:01:29,782 (せき込み) 1665 02:01:29,865 --> 02:01:33,286 さあ さあ 定正が逃げるぞえ 1666 02:01:34,328 --> 02:01:36,455 二人は定正を討て! 1667 02:01:37,456 --> 02:01:39,709 玉梓は俺たちに任せろ 1668 02:01:41,168 --> 02:01:42,628 かたじけない! 1669 02:01:42,712 --> 02:01:43,879 御免! 1670 02:01:48,926 --> 02:01:51,387 (玉梓)残りは たった三人かえ 1671 02:01:52,096 --> 02:01:54,682 ハッ ハハハハッ… 1672 02:01:54,765 --> 02:01:56,767 怨霊 玉梓! 1673 02:01:57,351 --> 02:01:59,270 伏姫様に成り代わり 1674 02:01:59,353 --> 02:02:02,481 我ら犬士が 成敗してくれる! 1675 02:02:04,233 --> 02:02:07,069 我が怨念の深淵(しんえん)を 1676 02:02:07,153 --> 02:02:09,030 とくと覗(のぞ)くがよい! 1677 02:02:16,120 --> 02:02:19,165 (玉梓の咆哮(ほうこう)) 1678 02:02:27,214 --> 02:02:29,300 やっとだね 1679 02:02:30,342 --> 02:02:31,677 (馬琴)うん 1680 02:02:32,553 --> 02:02:34,138 やっとだ 1681 02:02:36,640 --> 02:02:39,602 (北斎)あんた いくつになった? 1682 02:02:41,771 --> 02:02:44,982 私は今年 七十三(しちじゅうさん)だ 1683 02:02:46,150 --> 02:02:48,569 してみると お前さんは 1684 02:02:48,652 --> 02:02:51,113 八十になるはず 1685 02:02:51,197 --> 02:02:52,406 (北斎)フフッ 1686 02:02:53,157 --> 02:02:56,786 いやはや 化け物だな 1687 02:02:57,703 --> 02:03:01,499 老いて なお 頂(いただき)を求めるのは 1688 02:03:01,582 --> 02:03:04,168 おいらと あんたくらいなもんだ 1689 02:03:05,419 --> 02:03:09,173 まあ かき続けるより他に 1690 02:03:09,256 --> 02:03:12,093 これといって 能もないがね 1691 02:03:13,177 --> 02:03:15,096 あらよっと 1692 02:03:24,772 --> 02:03:26,982 (風の音) 1693 02:03:27,066 --> 02:03:31,404 (北斎)しかし また 辺ぴな所へ 越してきたもんだな 1694 02:03:32,488 --> 02:03:34,573 さっき お百さんを見舞ったら 1695 02:03:34,657 --> 02:03:37,576 散々 愚痴を聞かされたよ 1696 02:03:37,660 --> 02:03:41,288 (近づく足音) 1697 02:03:41,372 --> 02:03:43,249 (障子を開ける音) 1698 02:03:45,209 --> 02:03:48,337 あら 北斎さん 1699 02:03:49,797 --> 02:03:51,924 生きてたのかい 1700 02:03:54,468 --> 02:03:55,970 なんだ 1701 02:03:57,388 --> 02:03:59,223 元気そうじゃねえか 1702 02:04:00,474 --> 02:04:03,394 あたしゃ ご覧のとおり 1703 02:04:04,061 --> 02:04:06,063 もう駄目だよ 1704 02:04:06,147 --> 02:04:07,606 なあに 1705 02:04:08,732 --> 02:04:11,026 (お百)何の因果で 1706 02:04:12,570 --> 02:04:17,074 こんな江戸の外(はず)れで 死ななきゃなんないのさ 1707 02:04:20,578 --> 02:04:24,165 何のための一生だったか 1708 02:04:26,208 --> 02:04:28,627 分かりゃしないよ 1709 02:04:31,755 --> 02:04:33,716 こんな あばら家(や)だが 1710 02:04:33,799 --> 02:04:37,595 ここは鉄砲同心株の付いている お屋敷でね 1711 02:04:38,220 --> 02:04:41,515 買うだけで お召し抱えいただける 1712 02:04:43,726 --> 02:04:45,186 ただ… 1713 02:04:46,061 --> 02:04:50,441 大事にしていた本も ほとんど売ってしまったがね 1714 02:04:53,194 --> 02:04:56,488 (北斎)まあ 広くていいやね 1715 02:04:56,572 --> 02:04:57,823 (馬琴)うん 1716 02:04:57,907 --> 02:05:03,579 (北斎)これで太郎も 立派な お武家の鉄砲同心様か 1717 02:05:04,580 --> 02:05:08,792 孫には 何か残してやりたくてね 1718 02:05:10,169 --> 02:05:13,047 (北斎)ああ… 出来た 1719 02:05:15,257 --> 02:05:16,675 ほらよ 1720 02:05:20,763 --> 02:05:22,264 ほら 1721 02:05:22,973 --> 02:05:26,769 八犬士が 揃って出陣するところだ 1722 02:05:29,104 --> 02:05:30,731 おお… 1723 02:05:33,275 --> 02:05:35,402 八犬士が… 1724 02:05:43,911 --> 02:05:46,914 ここには 八犬士は描いては おらん 1725 02:05:49,708 --> 02:05:53,212 右目が見えてねえってことは 聞いてたがね 1726 02:05:54,630 --> 02:05:55,798 あんた 1727 02:05:57,049 --> 02:05:59,551 もう片方も見えてないね? 1728 02:06:06,016 --> 02:06:07,101 フッ… 1729 02:06:09,186 --> 02:06:12,231 (鍬(くわ)を振るう音) 1730 02:06:55,190 --> 02:06:56,859 はあ… 1731 02:06:59,612 --> 02:07:01,071 (ため息) 1732 02:07:17,421 --> 02:07:18,922 (丁子屋平兵衛(ちょうじやへいべえ))先生 1733 02:07:20,758 --> 02:07:24,386 もう一度 お考え直し くださいませんか 1734 02:07:26,555 --> 02:07:27,973 文渓堂(ぶんけいどう) 1735 02:07:28,974 --> 02:07:30,434 悪いが 1736 02:07:30,934 --> 02:07:34,646 何人 試みても 結果は同じだ 1737 02:07:34,730 --> 02:07:38,525 何とか 先生のおっしゃるとおり 書ける者を探してまいりますので 1738 02:07:39,276 --> 02:07:40,653 いや 1739 02:07:41,945 --> 02:07:45,074 私の この気性を心得て 1740 02:07:46,116 --> 02:07:48,035 共に過ごすのは 1741 02:07:50,079 --> 02:07:53,791 そもそも 他人では無理だ 1742 02:07:53,874 --> 02:07:55,793 (平兵衛)うーん… 1743 02:07:59,630 --> 02:08:02,675 こんな時 宗伯さんが 居てくださいましたら 1744 02:08:06,303 --> 02:08:08,597 それを言うてくれるな 1745 02:08:09,264 --> 02:08:12,768 これは失礼いたしました ついつい… 1746 02:08:16,605 --> 02:08:17,856 (ため息) 1747 02:08:18,357 --> 02:08:19,817 まあ とにかく 先生 1748 02:08:19,900 --> 02:08:22,945 今日のところは お暇(いとま)いたしますが くれぐれも 1749 02:08:24,196 --> 02:08:27,408 お諦めなきよう お願いいたします 1750 02:08:34,331 --> 02:08:35,749 それでは… 1751 02:09:00,691 --> 02:09:02,317 やはり 1752 02:09:04,611 --> 02:09:06,530 これまでか… 1753 02:09:07,156 --> 02:09:08,907 (崋山)私は 1754 02:09:08,991 --> 02:09:11,076 正義は虚であっても 1755 02:09:11,160 --> 02:09:14,079 それを貫いて 一生を終えれば 1756 02:09:14,163 --> 02:09:17,082 その人の人生は実となる 1757 02:09:17,166 --> 02:09:21,170 決して 虚とはならんと 信じております 1758 02:09:21,253 --> 02:09:25,007 所詮(しょせん) 無意味な つじつま合わせ 1759 02:09:25,090 --> 02:09:28,719 どこまで行っても 虚は実に飲み込まれ 1760 02:09:28,802 --> 02:09:33,182 つじつまは合わないので ございますよ 1761 02:09:38,645 --> 02:09:41,607 (荒い息) 1762 02:09:42,983 --> 02:09:44,526 ああっ! 1763 02:09:46,278 --> 02:09:47,571 はあっ… 1764 02:09:48,947 --> 02:09:50,199 ああっ 1765 02:09:52,451 --> 02:09:53,827 ああ… 1766 02:09:53,911 --> 02:09:57,289 (お路)お父様 少し よろしいでしょうか 1767 02:09:59,500 --> 02:10:02,336 ああ… よい 1768 02:10:11,303 --> 02:10:12,554 どうした? 1769 02:10:14,806 --> 02:10:17,226 お父様に お願いがございます 1770 02:10:18,435 --> 02:10:21,522 何だ? 改まって 1771 02:10:23,607 --> 02:10:25,359 (お路)「八犬伝」を 1772 02:10:25,442 --> 02:10:27,861 私に書かせて いただけないでしょうか 1773 02:10:31,657 --> 02:10:34,451 お前が「八犬伝」を… 1774 02:10:35,244 --> 02:10:36,370 書く? 1775 02:10:36,453 --> 02:10:40,582 お父様が語ったことを 私が文字にいたします 1776 02:10:43,502 --> 02:10:48,048 (馬琴)しかし お前は 「八犬伝」を読んでは おるまい 1777 02:10:48,131 --> 02:10:50,092 いえ 読みました 1778 02:10:52,469 --> 02:10:53,679 読んだ? 1779 02:10:54,763 --> 02:10:55,597 いつ? 1780 02:10:57,099 --> 02:10:58,892 去年の秋からです 1781 02:11:00,477 --> 02:11:03,230 お父様の両の目が お悪くなってから 1782 02:11:03,772 --> 02:11:07,359 いつか お役に立てる時が 来るのではないかと思いまして 1783 02:11:11,280 --> 02:11:12,406 それで 1784 02:11:13,365 --> 02:11:14,575 読めたか? 1785 02:11:15,200 --> 02:11:17,703 (お路)漢字や言葉が難しく… 1786 02:11:18,328 --> 02:11:21,415 それでも皆 振り仮名が付いていたので 1787 02:11:21,498 --> 02:11:23,125 何とか読みました 1788 02:11:24,293 --> 02:11:25,586 お前は 1789 02:11:26,628 --> 02:11:28,672 漢字が書けるのか? 1790 02:11:30,007 --> 02:11:31,258 いいえ 1791 02:11:33,010 --> 02:11:36,013 存じているのは “いろは”ばかりです 1792 02:11:37,472 --> 02:11:38,599 ああ… 1793 02:11:42,102 --> 02:11:45,689 “いろは”では 「八犬伝」は書けん 1794 02:11:46,523 --> 02:11:48,358 一字一字 お教えくだされば 1795 02:11:48,442 --> 02:11:50,777 お路にも 何とか できるのではないかと 1796 02:11:51,445 --> 02:11:54,072 お路の気持ちは嬉しいが 1797 02:11:55,198 --> 02:11:59,578 これは 言うほど たやすくない 1798 02:12:08,712 --> 02:12:10,297 (お路)お父様が 1799 02:12:11,173 --> 02:12:13,634 「八犬伝」を書けないのに 1800 02:12:13,717 --> 02:12:16,803 毎日そうして 机の前に 座ってらっしゃるのを見ると 1801 02:12:16,887 --> 02:12:18,388 辛(つろ)うございます 1802 02:12:20,098 --> 02:12:21,266 それに 1803 02:12:22,351 --> 02:12:26,605 “「八犬伝」を頼む”と お路は しかと申しつかっております 1804 02:12:28,899 --> 02:12:30,359 誰にだ? 1805 02:12:31,860 --> 02:12:33,737 宗伯さんにです 1806 02:12:44,748 --> 02:12:47,584 “邪大茂林(かのおおもり)の澳邊(おきべ)にて” 1807 02:12:48,418 --> 02:12:49,586 おおもり? 1808 02:12:50,128 --> 02:12:51,588 “大茂林”が分からんか 1809 02:12:52,130 --> 02:12:53,548 申し訳ございません 1810 02:12:54,508 --> 02:12:56,635 大小の“大”と 1811 02:12:56,718 --> 02:13:00,555 くさかんむりに“戊(つちのえ)”と 1812 02:13:00,639 --> 02:13:02,849 “林”の三文字から成る 1813 02:13:04,851 --> 02:13:06,979 私の指先を見よ 1814 02:13:07,062 --> 02:13:07,938 はい 1815 02:13:11,191 --> 02:13:14,861 “身は冷え”“。(まる)” 1816 02:13:16,405 --> 02:13:18,740 “手脚(てあし)疲労果(つかれはて)て” 1817 02:13:19,950 --> 02:13:21,493 (お路)手脚… 1818 02:13:25,080 --> 02:13:25,956 書いたか? 1819 02:13:26,415 --> 02:13:27,457 はい 1820 02:13:28,125 --> 02:13:29,835 “冷(ひえ)”は どう書いた? 1821 02:13:30,460 --> 02:13:33,588 -(お路)にんべんに… -(馬琴)にんべんではない! 1822 02:13:37,843 --> 02:13:39,261 にすいだ 1823 02:13:40,846 --> 02:13:42,848 -(馬琴)指先を見よ -(お路)はい 1824 02:13:43,557 --> 02:13:46,226 (馬琴)これで… 分かるな? 1825 02:13:46,309 --> 02:13:47,144 (お路)はい 1826 02:13:47,227 --> 02:13:49,813 “皆(みな)立(たち)よりて” 1827 02:13:49,896 --> 02:13:52,107 “又(また)よく見るに” 1828 02:13:52,190 --> 02:13:55,110 (お路)申し訳ございません もう一度 お願いします 1829 02:13:56,069 --> 02:14:00,032 “皆 立ちよりて 又よく見るに” 1830 02:14:00,991 --> 02:14:03,326 “みな”とは どう書くのでしょうか? 1831 02:14:03,410 --> 02:14:04,870 (馬琴)“皆”とは 1832 02:14:06,204 --> 02:14:07,789 “皆”とは こうだ 1833 02:14:14,046 --> 02:14:14,921 見えたか? 1834 02:14:15,005 --> 02:14:17,299 はい ありがとうございます 1835 02:14:18,508 --> 02:14:22,804 “喚(よば)はりつ 胸を拊(なで)て” 1836 02:14:25,974 --> 02:14:28,602 “胸”と“拊(なで)て”は教えたな? 1837 02:14:28,685 --> 02:14:29,519 はい 1838 02:14:30,479 --> 02:14:32,898 “喚(よび)”という漢字は こうだ 1839 02:14:36,651 --> 02:14:37,986 (物音) 1840 02:14:45,118 --> 02:14:46,286 (お路)お母様! 1841 02:14:46,369 --> 02:14:48,997 お母様 どうなさいました? 1842 02:14:53,877 --> 02:14:55,087 (馬琴)お百 1843 02:14:56,463 --> 02:14:57,756 お百 1844 02:15:00,008 --> 02:15:02,636 ここまで這(は)ってきたのか 1845 02:15:04,930 --> 02:15:07,557 なんで そんなことを! 1846 02:15:10,644 --> 02:15:13,814 畜生(ちきしょう)… 1847 02:15:29,955 --> 02:15:32,290 -(馬琴)お百! -(お路)お母様! 1848 02:15:32,374 --> 02:15:33,458 おい お百! 1849 02:15:33,542 --> 02:15:35,418 (お路)お母様 1850 02:15:35,502 --> 02:15:37,045 (馬琴)お百 1851 02:15:43,635 --> 02:15:44,970 お百… 1852 02:15:47,597 --> 02:15:52,310 お前は 私の女房になって 1853 02:15:53,603 --> 02:15:56,857 幸せでは なかったかもしれんな 1854 02:16:00,068 --> 02:16:01,570 (馬琴のため息) 1855 02:16:02,904 --> 02:16:05,907 (馬琴)許せ お百 1856 02:16:07,325 --> 02:16:09,202 私には まだ 1857 02:16:10,954 --> 02:16:12,581 どうしても 1858 02:16:14,416 --> 02:16:17,335 やり切らねばならぬことが あるのだ 1859 02:16:26,803 --> 02:16:31,016 (馬琴) “安房の里見を攻伐給(せめうちたも)ふ” 1860 02:16:31,766 --> 02:16:34,895 申し訳ございません もう一度 お願いします 1861 02:16:38,398 --> 02:16:42,694 (馬琴)“安房の里見を攻伐(せめうち)”… 1862 02:16:42,777 --> 02:16:44,279 (お路)申し訳ございません 1863 02:16:44,362 --> 02:16:46,948 “せめうち”とは どう書くのでしょうか? 1864 02:16:48,241 --> 02:16:49,910 (馬琴のため息) 1865 02:16:50,952 --> 02:16:52,412 お路 1866 02:16:53,705 --> 02:16:55,081 もう いい 1867 02:16:56,249 --> 02:16:58,209 もう やめだ 1868 02:16:59,085 --> 02:17:00,629 これも天命だ 1869 02:17:00,712 --> 02:17:05,550 いいえ いいえ! お父様 申し訳ございません! 1870 02:17:06,218 --> 02:17:08,178 お路の無学を叱ってください 1871 02:17:08,261 --> 02:17:11,056 お路の馬鹿を嘆いてください 1872 02:17:11,932 --> 02:17:13,850 でも 諦めないでください 1873 02:17:14,392 --> 02:17:16,770 もう少し 辛抱してください 1874 02:17:19,689 --> 02:17:21,441 (ため息) 1875 02:17:25,236 --> 02:17:30,242 (玉梓の咆哮) 1876 02:17:45,256 --> 02:17:46,466 (信乃)ふんっ! 1877 02:17:46,549 --> 02:17:50,804 (玉梓の苦しむ声) 1878 02:17:51,513 --> 02:17:55,976 名刀“村雨”の 一撃を食らえ! 1879 02:18:15,537 --> 02:18:17,580 (信乃)うっ うう… 1880 02:18:17,664 --> 02:18:19,124 うう… 1881 02:18:19,207 --> 02:18:20,458 ううっ… 1882 02:18:22,002 --> 02:18:24,296 荘助! 親兵衛! 1883 02:18:25,755 --> 02:18:27,048 (荘助)信乃様 1884 02:18:28,299 --> 02:18:30,051 玉梓を 1885 02:18:30,844 --> 02:18:33,305 逃がしてはなりませぬ 1886 02:18:34,889 --> 02:18:36,766 早く! 1887 02:18:42,689 --> 02:18:47,694 (信乃の荒い息) 1888 02:18:53,116 --> 02:18:58,371 お前一人の力では この玉梓は倒せぬわ! 1889 02:19:00,957 --> 02:19:03,043 私は一人には あらず! 1890 02:19:10,467 --> 02:19:12,719 あああっ… 1891 02:19:13,428 --> 02:19:14,763 玉梓! 1892 02:19:16,056 --> 02:19:18,433 我ら八犬士の絆(きずな)を 1893 02:19:19,059 --> 02:19:20,477 受け止めるがいい! 1894 02:19:24,856 --> 02:19:25,732 んっ! 1895 02:19:26,941 --> 02:19:30,945 (苦しむ声) 1896 02:19:34,908 --> 02:19:36,576 怨霊退散! 1897 02:19:36,659 --> 02:19:43,625 (うめき声) 1898 02:19:55,345 --> 02:19:58,306 (伝令)八犬士たち 見事 定正を討ち取り 1899 02:19:58,389 --> 02:20:01,434 怨霊 玉梓を退けました! 1900 02:20:01,518 --> 02:20:02,352 うむ! 1901 02:20:07,732 --> 02:20:11,569 よくやった! 八犬士! 1902 02:20:19,702 --> 02:20:23,873 (すすり泣き) 1903 02:21:00,910 --> 02:21:02,162 (信乃)伏姫様 1904 02:21:08,459 --> 02:21:09,794 信乃 1905 02:21:10,712 --> 02:21:12,255 荘助 1906 02:21:12,922 --> 02:21:14,632 親兵衛 1907 02:21:15,967 --> 02:21:17,135 毛野 1908 02:21:17,969 --> 02:21:19,387 道節 1909 02:21:21,014 --> 02:21:25,935 よくぞ 玉梓の怨霊を退けました 1910 02:21:27,353 --> 02:21:29,689 心から感謝いたします 1911 02:21:32,609 --> 02:21:37,197 これからも 八人で力を合わせて 1912 02:21:38,281 --> 02:21:42,535 すばらしき世を 築いてゆくのですよ 1913 02:23:16,087 --> 02:23:20,258 (馬琴)“伊皿子(いさらご)近き這浦(このうら)に” 1914 02:23:21,134 --> 02:23:22,260 “。” 1915 02:23:27,974 --> 02:23:33,104 “艦(ふね)の寄りしを 歓(よろこ)べども” 1916 02:23:33,187 --> 02:23:34,897 (お路)寄りしを… 1917 02:23:36,441 --> 02:23:43,114 (馬琴) “身は 背手(うしろで)に結紐(しば)られて” 1918 02:24:02,967 --> 02:24:04,469 あれは 1919 02:24:05,261 --> 02:24:06,846 絵になる 1920 02:24:08,306 --> 02:24:09,432 フッ… 1921 02:26:06,674 --> 02:26:08,676 {\an8}♪~ 1922 02:29:49,021 --> 02:29:51,023 {\an8}~♪