1 00:02:32,731 --> 00:02:34,731 2 00:02:44,610 --> 00:02:49,615 ちょっと。 ねえ ちょっと。 3 00:02:49,615 --> 00:02:55,621 うん? 何じゃ? あれ 例の有名人じゃないん? 4 00:02:55,621 --> 00:02:58,624 有名人? どれが? 5 00:02:58,624 --> 00:03:02,628 あそこ。 6 00:03:02,628 --> 00:03:06,632 何じゃ 村田んとこの省三か。 7 00:03:06,632 --> 00:03:10,636 やっぱり 例の売れっ子作家先生じゃろ? 8 00:03:10,636 --> 00:03:13,639 ふん。 作家先生いうたって・ 9 00:03:13,639 --> 00:03:17,643 ポルノじみた話ばっかり 書いとるらしいで。・ 10 00:03:17,643 --> 00:03:22,648 本屋のばあさんが よう怒っとる。 「村田の本なんか 島の恥じゃ。・ 11 00:03:22,648 --> 00:03:25,651 うちゃあ 置かん!」言うてのう。 12 00:03:25,651 --> 00:03:34,593 ・~ 13 00:03:34,593 --> 00:03:39,598 あれも 東京じゃあ 派手に 遊び暮らしとったらしいがのう・ 14 00:03:39,598 --> 00:03:44,603 10年前 何か知らんが 急に 島に戻ってきよった。・ 15 00:03:44,603 --> 00:03:49,608 ほんじゃが 島の人間とは 一切 つきあおうとせんし・ 16 00:03:49,608 --> 00:03:54,613 かみさんも 子供も おらんけんのう。・ 17 00:03:54,613 --> 00:04:01,620 売れっ子作家いうたって しょせんは 孤独な年寄りよ。・ 18 00:04:01,620 --> 00:04:05,624 哀れなもんじゃのう。 19 00:04:05,624 --> 00:04:25,644 ・~ 20 00:04:25,644 --> 00:04:31,644 (村田省三) <島を出るのは 10年ぶりだ> 21 00:04:35,587 --> 00:04:39,587 <10年ぶりの飛行機> 22 00:04:46,598 --> 00:04:50,598 <10年ぶりの東京> 23 00:04:52,604 --> 00:04:56,608 赤… 赤がいい。 はい? 24 00:04:56,608 --> 00:04:58,610 「赤い花がいい」って 言ってんじゃ! 25 00:04:58,610 --> 00:05:01,613 では バラなんかいかがでしょう? 何でもいい。 26 00:05:01,613 --> 00:05:07,613 ガサッとさ…。 ワサッとさせてくれ。 ええ。 27 00:05:12,624 --> 00:05:16,628 これで間に合うか? ああ…。 28 00:05:16,628 --> 00:05:21,633 じゃあ うんとゴージャスな感じで お作りしますね。 29 00:05:21,633 --> 00:05:28,633 <花なんか 久しく買わんから さっぱり 値段が分からん> 30 00:05:36,582 --> 00:05:43,582 <若い女の見舞いは 何年ぶりじゃろうな> 31 00:05:47,593 --> 00:05:52,598 <会うてくれるだろうか おれに…> 32 00:05:52,598 --> 00:06:03,598 ・~ 33 00:06:25,631 --> 00:06:28,634 (2人)おはようございます。 34 00:06:28,634 --> 00:06:31,634 あらま ちょっと 変わった人じゃない? 35 00:06:34,573 --> 00:06:38,573 <最初は 実に 気に食わなかった> 36 00:06:44,583 --> 00:06:49,588 (折見とち子)ああ 村田先生でいらっしゃいますか? 37 00:06:49,588 --> 00:06:53,592 <まず この「ああ」が 気に食わなかった> 38 00:06:53,592 --> 00:06:57,592 創論出版の折見と申します。 39 00:07:01,600 --> 00:07:07,606 <おれほどの大作家を前にして 「ああ」とは 何だ 「ああ」とは> 40 00:07:07,606 --> 00:07:13,612 突然 申し訳ございません。 今日は 弊社の伊藤に急用が入りまして・ 41 00:07:13,612 --> 00:07:16,615 代わりに 原稿を頂きに参りました。 42 00:07:16,615 --> 00:07:19,618 急用? はい。 43 00:07:19,618 --> 00:07:21,618 何の急用だ? 44 00:07:23,622 --> 00:07:28,627 首の骨でも折れたか? は? 45 00:07:28,627 --> 00:07:32,564 それとも かみさんでも死んだのか? 46 00:07:32,564 --> 00:07:39,571 おれの原稿を取りにこれぬとは よほどの大事なんだろう。 47 00:07:39,571 --> 00:07:43,575 伊藤が来れないから 代わりに来た? 48 00:07:43,575 --> 00:07:48,575 おれは 宅配便に 荷物を 預けるわけじゃねえんだから。 49 00:07:51,583 --> 00:07:55,587 まず 伊藤の首は 折れておりません。 50 00:07:55,587 --> 00:07:59,591 それから 伊藤の妻も…。 帰れ。 51 00:07:59,591 --> 00:08:03,595 さっさと 東京に帰って 編集長に言え。 52 00:08:03,595 --> 00:08:08,600 おれの原稿は 伊藤にしか渡さん。 53 00:08:08,600 --> 00:08:11,600 ああ どきなさい。 54 00:08:13,605 --> 00:08:16,608 ちんけな使いを よこしやがって ホントに。 55 00:08:16,608 --> 00:08:19,608 ふざけるんじゃないよ。 56 00:08:28,620 --> 00:08:33,558 ・~ 57 00:08:33,558 --> 00:08:36,561 はい ほぼ門前払いという形で…。 58 00:08:36,561 --> 00:08:39,564 何やってんだよ 島まで行っといて!・ 59 00:08:39,564 --> 00:08:44,569 あのじいさんの偏屈ぶりはな 編集者なら誰でも知ってるだろ。・ 60 00:08:44,569 --> 00:08:47,572 今更 何 言ってんだよ? それじゃ ガキの使いじゃねえか。 61 00:08:47,572 --> 00:08:51,576 確かに 私の力不足でもありますが・ 62 00:08:51,576 --> 00:08:54,579 でも 先生も 実に 大人気ないご対応で…。 63 00:08:54,579 --> 00:08:57,582 どうすんだよ 入稿はさ? とりあえず 早く帰って来い。 64 00:08:57,582 --> 00:09:00,585 本土への船は 1日2便ですので。 65 00:09:00,585 --> 00:09:04,589 何だ? じゃあ まだ 島で ふらついてんのか?・ 66 00:09:04,589 --> 00:09:07,592 どうして お前は いつも そうなんだよ?・ 67 00:09:07,592 --> 00:09:11,596 いつ 島から出るんだ? あと5時間ほど 待つことに。 68 00:09:11,596 --> 00:09:16,601 ばか言ってんじゃないよ じゃあ お前 こっちに帰って来るの・ 69 00:09:16,601 --> 00:09:19,604 日暮れじゃないか。 何やってんだよ・ 70 00:09:19,604 --> 00:09:23,604 私を責められましても 船の都合ですから。 71 00:09:52,571 --> 00:09:55,571 何だ ありゃ? 72 00:10:18,597 --> 00:10:27,606 (かおり)え~っと 豆腐 105円 合計で 1, 130円ですね。 73 00:10:27,606 --> 00:10:30,609 おい この前な・ 74 00:10:30,609 --> 00:10:34,546 甘夏が1個 傷んどったのと 茄子が1本 虫食うとった。 75 00:10:34,546 --> 00:10:40,552 だから 甘夏100円と 茄子が80円。 合計180円 そこから引いとけ。 76 00:10:40,552 --> 00:10:43,555 先生 うちも小さい店じゃけえ・ 77 00:10:43,555 --> 00:10:46,558 あんまり そう細かいこと言われても…。 78 00:10:46,558 --> 00:10:49,561 何 言いよんの? 大きかろうが小さかろうが・ 79 00:10:49,561 --> 00:10:51,563 商品に責任持つのが 店ちゅうもんじゃろ。 80 00:10:51,563 --> 00:10:54,566 はよ引けや。 引いたらええんやろ そんなの。 81 00:10:54,566 --> 00:11:00,566 え~ 950円ですね。 82 00:11:03,575 --> 00:11:06,578 (雄介)おねえちゃんは? うん? 83 00:11:06,578 --> 00:11:09,581 東京のおねえちゃん 今度 いつ来るん? 84 00:11:09,581 --> 00:11:12,584 あんた 何 言いよるん? 85 00:11:12,584 --> 00:11:15,587 海のとこ 竜 描いてくれた。 (かおり)竜? 86 00:11:15,587 --> 00:11:17,589 うん。 87 00:11:17,589 --> 00:11:22,589 おねえちゃん 竜 描いてくれた。 また来る? 88 00:11:25,597 --> 00:11:27,599 ほら 50円。 89 00:11:27,599 --> 00:11:30,602 今…。 うん? あ…。 90 00:11:30,602 --> 00:12:14,602 ・~ 91 00:12:31,596 --> 00:12:34,596 失礼いたします。 92 00:12:55,620 --> 00:12:58,623 私が頂いて よろしいのでしょうか? 93 00:12:58,623 --> 00:13:02,627 そのために わざわざ 編集長に 電話してやったんだ おれが。 94 00:13:02,627 --> 00:13:06,627 わざわざ。 恐れ入ります。 95 00:13:09,634 --> 00:13:12,637 分かってんのか? お前。 96 00:13:12,637 --> 00:13:15,637 はい。 感謝の言葉もございません。 97 00:13:17,642 --> 00:13:24,649 それが 感謝してる顔かねぇ。 フナみたいに愛想のない女だ。 98 00:13:24,649 --> 00:13:27,649 フナ? 99 00:13:29,654 --> 00:13:32,590 おれのリュウキン 見てみろ ほら。 100 00:13:32,590 --> 00:13:35,590 お前なんかより よっぽど愛想がいいや。 101 00:13:37,595 --> 00:13:43,601 ひょっとして 先生の小説に 出てくる金魚のような娘は…。 102 00:13:43,601 --> 00:13:47,605 こいつがモデルだよ。 ああ~。 103 00:13:47,605 --> 00:13:54,612 この金魚娘がまた 読者には えらく受けてるそうじゃないか。 104 00:13:54,612 --> 00:13:59,612 中高年の男性を中心に 人気絶大でございます。 105 00:14:01,619 --> 00:14:04,622 天才だな おれは。 106 00:14:04,622 --> 00:14:07,622 拝読いたします。 107 00:14:12,630 --> 00:14:15,633 おれは もう退屈してる。 108 00:14:15,633 --> 00:14:17,633 は? 109 00:14:19,637 --> 00:14:23,641 10年前 青山のマンションを売っ払って この島に帰って来て・ 110 00:14:23,641 --> 00:14:26,644 以来 酒 たばこ 女 きっぱり あきらめて・ 111 00:14:26,644 --> 00:14:31,649 そりゃ もう 清らかな健康的な生活してる。 112 00:14:31,649 --> 00:14:35,587 毎日 玄米 食ってな 3時間 歩いてるからな。 113 00:14:35,587 --> 00:14:39,587 見ろ この肌つや。 114 00:14:43,595 --> 00:14:49,601 しかし… 暇で暇で 実に。 115 00:14:49,601 --> 00:14:52,604 故に 珍しいものがあると ちょいとばかり・ 116 00:14:52,604 --> 00:14:59,611 甘くなるというか まあ 大目に見てしまうわけだな。 117 00:14:59,611 --> 00:15:02,614 あの竜は お前が描いたのか? 118 00:15:02,614 --> 00:15:05,617 はい? 砂浜の竜。 119 00:15:05,617 --> 00:15:11,623 ああ… はい。 船の待ち時間が 長かったものですから。 120 00:15:11,623 --> 00:15:13,625 絵を描いてたのか? 121 00:15:13,625 --> 00:15:17,629 大学時代から 人形劇サークルに 所属しておりまして・ 122 00:15:17,629 --> 00:15:20,632 その舞台美術を 全部 自分で作っております。 123 00:15:20,632 --> 00:15:23,635 人形劇? はい。 124 00:15:23,635 --> 00:15:25,637 お前が? はい。 125 00:15:25,637 --> 00:15:28,640 ふ~ん。 126 00:15:28,640 --> 00:15:32,577 あの 原稿を読ませていただいて よろしいでしょうか? 127 00:15:32,577 --> 00:15:35,580 見せろ。 はい? 128 00:15:35,580 --> 00:15:39,584 その人形劇 今度 原稿 取りにきた ついでに やってみせろ。 129 00:15:39,584 --> 00:15:42,587 めっそうもない。 ただの素人芸でございます。 130 00:15:42,587 --> 00:15:47,592 ばか おれにじゃない。 島の子供たちのためにだ。 131 00:15:47,592 --> 00:15:51,596 ああ。 娯楽に乏しい島だからな。 132 00:15:51,596 --> 00:15:54,599 引き受けてくれるんだったら・ 133 00:15:54,599 --> 00:15:58,603 今度 お前を 担当者にしてやってもいいぞ。 134 00:15:58,603 --> 00:16:19,624 ・~ 135 00:16:19,624 --> 00:16:27,624 <本当は 島の子供の娯楽事情など おれの知ったことではない> 136 00:16:30,635 --> 00:16:36,574 <ただ 折見の人形劇を見てみたかった> 137 00:16:36,574 --> 00:16:42,580 それでは オスカー・ワイルド作 「幸福な王子」 始まり始まり。 138 00:16:42,580 --> 00:16:48,580 (拍手) 139 00:16:51,589 --> 00:16:57,595 「ある町の空高く 柱の上に・ 140 00:16:57,595 --> 00:17:00,598 幸福な王子の像が 立っていました。・ 141 00:17:00,598 --> 00:17:04,602 その姿は とても美しく・ 142 00:17:04,602 --> 00:17:10,608 町中の人々が 見とれてしまうほどでした。・ 143 00:17:10,608 --> 00:17:15,613 ある日 一羽のツバメが やって来ました。・ 144 00:17:15,613 --> 00:17:22,620 パタパタパタパタパタ…。 パタパタパタパタパタ…。・ 145 00:17:22,620 --> 00:17:26,624 『どこか 休める場所は ないかな?・ 146 00:17:26,624 --> 00:17:31,629 おや? あそこは さわやかな風が吹いていて・ 147 00:17:31,629 --> 00:17:34,566 とてもいい寝床になりそうだぞ』」。 148 00:17:34,566 --> 00:17:42,574 <それは 見事な影絵による 美しい劇であった> 149 00:17:42,574 --> 00:17:49,581 「『あら ツバメさん このうちに ルビーを持ってきてくれたのね。・ 150 00:17:49,581 --> 00:17:54,586 これで 薬と温かいスープが買えるわ』。・ 151 00:17:54,586 --> 00:18:03,595 『王子様。 僕は もう すっかり弱ってしまいました。・ 152 00:18:03,595 --> 00:18:08,600 王子様と お別れです』。・ 153 00:18:08,600 --> 00:18:16,608 ツバメは 王子の唇に そっとキスをしました。・ 154 00:18:16,608 --> 00:18:19,611 そして そのまま力尽き・ 155 00:18:19,611 --> 00:18:26,618 王子の足もとに 落ちていってしまいました。・ 156 00:18:26,618 --> 00:18:34,559 その瞬間 パキンという音が 町中に響き渡りました。・ 157 00:18:34,559 --> 00:18:44,569 王子の鉛の心臓が 音をたてて 壊れてしまったのです。・ 158 00:18:44,569 --> 00:18:51,576 ボロボロになった王子と 死んだツバメを見て・ 159 00:18:51,576 --> 00:18:56,581 町中の人々は 言いました。・ 160 00:18:56,581 --> 00:19:02,581 『なんと醜くて汚い みすぼらしい姿なんだ』」。 161 00:19:04,589 --> 00:19:08,593 失敗って どこが? せりふです。 162 00:19:08,593 --> 00:19:11,596 せりふ? 163 00:19:11,596 --> 00:19:16,601 ツバメが死ぬところで せりふを急ぎすぎてしまいました。 164 00:19:16,601 --> 00:19:20,605 久しぶりだったので 焦ってしまいました。 165 00:19:20,605 --> 00:19:26,611 それで 落ち込んでるのか? いえ むしろ 恥じております。 166 00:19:26,611 --> 00:19:31,616 エヘヘッ それが 恥じてるって顔か? どの辺が 恥じてる? 167 00:19:31,616 --> 00:19:35,553 ありがとうございました。 あ いえ。 168 00:19:35,553 --> 00:19:38,556 この子が そりゃ 喜んでおります。 169 00:19:38,556 --> 00:19:41,559 なあ。 ありがとう。 170 00:19:41,559 --> 00:19:44,562 また見せてやってつかあさいのう。 171 00:19:44,562 --> 00:19:47,565 いえ あの もう…。 やれ。 172 00:19:47,565 --> 00:19:53,571 でも…。 いいから やれ。 やりゃ いいんだ。 173 00:19:53,571 --> 00:19:57,571 どうぞ よろしゅうに。 174 00:20:05,583 --> 00:20:09,587 「鬼に 飲み込まれてしまいました。・ 175 00:20:09,587 --> 00:20:16,594 一寸法師は 鬼のおなかを 針の刀で刺しました。・ 176 00:20:16,594 --> 00:20:23,601 『とお~! もう一度つついてやる。 えい! えい!』・ 177 00:20:23,601 --> 00:20:34,545 『もうやめてくれって言っただろ! ああ~ ああ~!』」。 178 00:20:34,545 --> 00:20:37,548 これも すごい。 すごい すごい。 179 00:20:37,548 --> 00:20:40,551 すてき。 ねえ。 180 00:20:40,551 --> 00:21:01,572 ・~ 181 00:21:01,572 --> 00:21:08,579 <おれは 折見を好ましく思い始めていた> 182 00:21:08,579 --> 00:21:19,590 ・~ 183 00:21:19,590 --> 00:21:24,595 <そして そのことに戸惑っていた> 184 00:21:24,595 --> 00:21:42,547 ・~ 185 00:21:42,547 --> 00:21:49,547 <年寄りは 人を嫌うことなら 得意である> 186 00:21:56,561 --> 00:22:01,566 <憎み合い ひがみ合い そねみ合い。・ 187 00:22:01,566 --> 00:22:06,571 それらは 年寄りに残された唯一のゲームで・ 188 00:22:06,571 --> 00:22:12,571 お互い これで 暇をつぶせている節もある> 189 00:22:19,584 --> 00:22:24,584 <故に そんなことには傷つかない> 190 00:22:26,591 --> 00:22:30,591 (犬の鳴き声) 191 00:22:35,600 --> 00:22:43,608 <傷つくのは むしろ 相手を好ましく思った時だ。・ 192 00:22:43,608 --> 00:22:48,613 手は もう さまざまな加減を 忘れてしまっている。・ 193 00:22:48,613 --> 00:22:53,613 自信など とうになくし おびえている> 194 00:22:59,624 --> 00:23:02,627 <触れた瞬間に ひどく後悔する。・ 195 00:23:02,627 --> 00:23:09,634 そして 一刻も早く 逃げ出すことを願うのだ。・ 196 00:23:09,634 --> 00:23:16,634 まずい。 実に まずいことになった> 197 00:23:45,603 --> 00:23:51,609 ありがとうございました。 では ゲラの方を また後日。 198 00:23:51,609 --> 00:23:55,613 どう思う? はい? 199 00:23:55,613 --> 00:23:59,617 感想を言えよ たまには。 200 00:23:59,617 --> 00:24:04,622 とても すばらしいと思います。 どこが? 201 00:24:04,622 --> 00:24:08,626 まず 金魚娘の存在感が 際立っていますし・ 202 00:24:08,626 --> 00:24:12,630 あと 展開と構成も。 203 00:24:12,630 --> 00:24:18,636 お前の好きな作家 誰だ? はい? 204 00:24:18,636 --> 00:24:22,640 3人 挙げてみろ。 205 00:24:22,640 --> 00:24:31,649 カポーティ チェーホフ 横光利一でしょうか。 206 00:24:31,649 --> 00:24:35,586 それを読んで すばらしいと言うお前が・ 207 00:24:35,586 --> 00:24:39,586 本当に これを読んで すばらしいと思うのか? 208 00:24:43,594 --> 00:24:48,599 申し上げて よろしいのでしょうか? 言え。 209 00:24:48,599 --> 00:24:51,599 実は 思っておりません。 210 00:24:54,605 --> 00:24:59,610 何で うそをつく? 仕事でございますので。 211 00:24:59,610 --> 00:25:01,610 ばかにするな! 212 00:25:03,614 --> 00:25:09,620 言っとくがな おれは すべて分かってるんだよ。 213 00:25:09,620 --> 00:25:12,623 おれの書いたものが 実に下劣で・ 214 00:25:12,623 --> 00:25:15,626 何ら 芸術的価値のない 売文だってことも・ 215 00:25:15,626 --> 00:25:18,629 そして お前ら編集者が おれという作家を・ 216 00:25:18,629 --> 00:25:21,632 内心 見下してるってこともな! 217 00:25:21,632 --> 00:25:24,635 お前なんか おれの本 一冊も読んでねえんだろ! 218 00:25:24,635 --> 00:25:28,635 なめるんじゃねえよ すべて お見通しだ ばか野郎! 219 00:25:33,577 --> 00:25:37,581 お言葉ですが。 何だ? 220 00:25:37,581 --> 00:25:43,587 私は 先生の作品を すべて拝読しております。 221 00:25:43,587 --> 00:25:46,590 コケにするのか? 222 00:25:46,590 --> 00:25:51,595 せっかくの機会ですので 申し上げますと。 ああ? 223 00:25:51,595 --> 00:25:55,599 僭越ながら 先生の最高傑作は・ 224 00:25:55,599 --> 00:26:00,604 42歳の時にお書きになられた 「陰影」と存じます。 225 00:26:00,604 --> 00:26:05,609 とはいえ 当時の作品は どれも すばらしいです。 226 00:26:05,609 --> 00:26:09,613 一見 オーソドックスな 官能小説でありながら・ 227 00:26:09,613 --> 00:26:14,618 極めて 上質な文体。 叙情性とアイロニー。 228 00:26:14,618 --> 00:26:20,624 紛れもなく 先生にしか お書きになれない小説世界でした。 229 00:26:20,624 --> 00:26:23,627 でも それが 突然 劣化するのは・ 230 00:26:23,627 --> 00:26:28,632 島に引きこまれてからの 作品群です。 231 00:26:28,632 --> 00:26:33,571 先生。 私は 先生を見下してはおりませんが・ 232 00:26:33,571 --> 00:26:41,579 失望はしております。 いや もう 腹が立って しかたがありません。 233 00:26:41,579 --> 00:26:44,582 あれほどの作家が 何を怠けているのかと。 234 00:26:44,582 --> 00:26:50,588 まじめにやる気は あるのかと。 確かに 売文の山です。 235 00:26:50,588 --> 00:26:55,593 とりわけ 女性の描写のひどいこと。 236 00:26:55,593 --> 00:26:59,597 特に 金魚娘。 あれは いただけません。 237 00:26:59,597 --> 00:27:03,601 赤いミニスカートと 白い太ももの描写ばかりなのは・ 238 00:27:03,601 --> 00:27:06,604 まだ よしとして あまりに 頭がからっぽ。 239 00:27:06,604 --> 00:27:10,608 あまりに 男に都合がよすぎます。 240 00:27:10,608 --> 00:27:15,608 ああいうのは いわば メイドカフェーのメイドと同じでございます。 241 00:27:20,618 --> 00:27:25,618 メイドカフェーのメイド? はい 失礼ですが。 242 00:27:30,628 --> 00:27:34,565 《メイドカフェーって 何だ?》 243 00:27:34,565 --> 00:27:43,574 ・~ 244 00:27:43,574 --> 00:27:46,577 <37歳で 直木賞を取った。・ 245 00:27:46,577 --> 00:27:49,580 今でも それが代表作のように 言われているが・ 246 00:27:49,580 --> 00:27:54,585 折見の言うとおり 作品として 最も優れているのは・ 247 00:27:54,585 --> 00:27:58,589 42歳の時に書いた小説だ。・ 248 00:27:58,589 --> 00:28:03,594 おれは 「文壇のプレスリー」とか呼ばれ どこへ行っても よくモテた。・ 249 00:28:03,594 --> 00:28:06,597 毎晩 銀座で遊んだものだ。・ 250 00:28:06,597 --> 00:28:11,602 たばこを 日に3箱は吸い 浴びるほどの酒を飲んだ。・ 251 00:28:11,602 --> 00:28:14,605 そういう放とう無頼な生き方を・ 252 00:28:14,605 --> 00:28:19,605 作家の使命のように 思い込んでいた節もある> 253 00:28:22,613 --> 00:28:30,621 <すべてをやめたのは 胃に腫瘍が見つかってからだ。・ 254 00:28:30,621 --> 00:28:35,559 「切らないと分からない」と言われ 一時は 死さえ覚悟したが・ 255 00:28:35,559 --> 00:28:39,563 結果は良性だった。・ 256 00:28:39,563 --> 00:28:45,569 だが おれにとっては それで十分だった。・ 257 00:28:45,569 --> 00:28:47,571 一切の虚勢を捨てることにした。・ 258 00:28:47,571 --> 00:28:51,575 しょせん 気の小さい田舎者なんだ。・ 259 00:28:51,575 --> 00:28:59,583 島の暮らしが性に合う。 けれど 闘うことをやめたと同時に・ 260 00:28:59,583 --> 00:29:05,583 おれの小説もまた 形骸化した ということなんだろう> 261 00:29:13,597 --> 00:29:19,603 (かおり)先生 先生! 人形劇で 今度・ 262 00:29:19,603 --> 00:29:22,606 「浦島太郎」 やってもらえんですかね~! 263 00:29:22,606 --> 00:29:25,609 この子 好きなんやけど。 264 00:29:25,609 --> 00:29:30,614 先生! 折見さんに 言うといてくださいね~! 265 00:29:30,614 --> 00:29:44,614 ・~ 266 00:29:46,563 --> 00:29:54,563 <おれは 死におびえながら 死んだように生きている> 267 00:29:59,576 --> 00:30:03,580 <だが その何が悪い。・ 268 00:30:03,580 --> 00:30:06,583 あきらめていればよいものを・ 269 00:30:06,583 --> 00:30:11,588 求めようとした時に 苦しみが始まる。・ 270 00:30:11,588 --> 00:30:17,588 おれは もう 何も求めたくないのだ> 271 00:30:29,606 --> 00:30:32,606 辞めさせるか 折見を…。 272 00:31:01,572 --> 00:31:08,579 あら… 金魚娘が死んでしまいました。 273 00:31:08,579 --> 00:31:12,583 お前に酷評されたからな。 殺してやった。 274 00:31:12,583 --> 00:31:15,586 それが最終回だ。 275 00:31:15,586 --> 00:31:17,586 なるほど。 276 00:31:20,591 --> 00:31:23,594 分かってんのか? お前。 277 00:31:23,594 --> 00:31:27,598 お前のせいで死んだんだぞ 金魚娘は。 278 00:31:27,598 --> 00:31:32,536 結構なことです。 先生は あのような娘を・ 279 00:31:32,536 --> 00:31:35,536 書き続けられている場合では ございません。 280 00:31:39,543 --> 00:31:42,543 (笑い声) 281 00:31:44,548 --> 00:31:52,556 お前な 何か怖いものないのか? 282 00:31:52,556 --> 00:31:55,559 そうですね…。 283 00:31:55,559 --> 00:31:58,562 死ぬのは怖いです。 (笑い声) 284 00:31:58,562 --> 00:32:01,565 何 言ってんだ 若いくせしやがって。 285 00:32:01,565 --> 00:32:05,565 年は関係ありません。 お前に何が分かるんだ・ 286 00:32:07,571 --> 00:32:13,577 では これで 一応 連載の方は 終了とさせていただきます。 287 00:32:13,577 --> 00:32:17,581 早速ですが 単行本とした時の 装丁は いかがいたしましょうか? 288 00:32:17,581 --> 00:32:20,584 表紙デザインなど 何か ご希望はありますか? 289 00:32:20,584 --> 00:32:23,587 ない。 では また こちらで・ 290 00:32:23,587 --> 00:32:27,591 幾つか考えてまいります。 291 00:32:27,591 --> 00:32:30,594 何だ? そりゃ。 292 00:32:30,594 --> 00:32:36,600 ああ… これですか。 魚拓です。 293 00:32:36,600 --> 00:32:39,603 魚拓? 294 00:32:39,603 --> 00:32:46,610 今日の「浦島太郎」の人形を 魚拓の縮小コピーで作りました。 295 00:32:46,610 --> 00:32:52,616 実家に たくさんあるんです。 父の趣味で。 296 00:32:52,616 --> 00:32:56,620 私も よく手伝わされました。 297 00:32:56,620 --> 00:32:59,620 タイか これは。 298 00:33:05,629 --> 00:33:11,629 今日で 人形劇も終わりですね。 299 00:33:14,638 --> 00:33:17,638 魚拓ね。 300 00:33:23,647 --> 00:33:28,652 魚拓にするか 金魚の。 301 00:33:28,652 --> 00:33:30,654 はい? 302 00:33:30,654 --> 00:33:33,654 小説の表紙だ。 303 00:33:35,592 --> 00:33:38,595 お前が とれ。 304 00:33:38,595 --> 00:33:43,595 まさか…。 ああ あいつのだ。 305 00:33:47,604 --> 00:33:50,607 でも死んでしまいます。 分かってるよ。 306 00:33:50,607 --> 00:33:54,611 かわいがっておられたのでは? だから何だっちゅうんだ。 307 00:33:54,611 --> 00:33:57,614 お前 父親のやってるの 見たって言ったじゃないか。 308 00:33:57,614 --> 00:34:01,618 それは 父が釣ってきた タイとかアジとか そういった…。 309 00:34:01,618 --> 00:34:06,623 同じ魚だろ・ じゃ 何かい? 310 00:34:06,623 --> 00:34:10,627 この世には 死んでいい魚と 死んじゃいけない魚があって・ 311 00:34:10,627 --> 00:34:13,630 金魚は死んじゃいけない魚だと お前 そう思ってんの? 312 00:34:13,630 --> 00:34:18,635 それで 人間誰しも 自分を金魚だと思いたい。 313 00:34:18,635 --> 00:34:23,640 タイやイワシのように 死に値する存在じゃないと。 314 00:34:23,640 --> 00:34:25,640 えっ・ 315 00:34:29,646 --> 00:34:35,586 だけどね 年取りゃ分かるよ。 316 00:34:35,586 --> 00:34:40,591 人生なんてのは かつて自分が金魚だった・ 317 00:34:40,591 --> 00:34:45,596 それを魚拓にされるまでの 物語だってことをな。 318 00:34:45,596 --> 00:34:51,596 実に意外で ひどく残酷なんだよ。 319 00:34:53,604 --> 00:34:57,604 耐えきれるもんじゃないよ それは。 320 00:35:11,622 --> 00:35:18,622 私が 金魚の魚拓をとれば 先生は…。 321 00:35:21,632 --> 00:35:25,632 少しは 気が お済みになりますか。 322 00:35:29,640 --> 00:35:31,640 そうだね。 323 00:35:34,578 --> 00:35:37,578 分かりました。 324 00:35:39,583 --> 00:35:43,583 今から言う物を 用意なさってください。 325 00:36:18,622 --> 00:36:21,622 よろしいですか? 326 00:37:09,606 --> 00:38:39,606 ・~ 327 00:38:41,565 --> 00:38:44,568 (店主)急に来て 「何でもええけ・ 328 00:38:44,568 --> 00:38:47,571 うまいもの食わせ」 言われてもの。・ 329 00:38:47,571 --> 00:38:50,571 こんなんで えかったかの? 330 00:39:40,557 --> 00:40:04,581 ・~ 331 00:40:04,581 --> 00:40:08,581 <ひどく後悔していた> 332 00:40:10,587 --> 00:40:17,587 <だが 更に強く悔いるべきである と知ったのは その後だ> 333 00:40:20,597 --> 00:40:25,602 <おれは 新しい連載の構想を 練り始めていた。・ 334 00:40:25,602 --> 00:40:32,542 性懲りもなく 担当を 折見に指名しようと思っていた。・ 335 00:40:32,542 --> 00:40:35,545 あいつが 表紙のデザインを見せに来た時に・ 336 00:40:35,545 --> 00:40:41,545 話をするつもりだったが あれから 何の音さたもなかった> 337 00:40:45,555 --> 00:40:51,561 ああ 伊藤か おれだ。 久しぶりだな。 338 00:40:51,561 --> 00:40:56,566 これはこれは 先生 ごぶさたいたしております。 339 00:40:56,566 --> 00:41:00,570 ちょうど 表紙のデザインが 上がってきておりますので・ 340 00:41:00,570 --> 00:41:02,572 近々 そちらに お持ちしたいんですが・ 341 00:41:02,572 --> 00:41:06,576 ご都合の方は? ・折見は どうしたんだ? 342 00:41:06,576 --> 00:41:12,582 折見でございますか。 私じゃ いけないでしょうか。 343 00:41:12,582 --> 00:41:18,588 え? 何だ? じゃ 折見は しっぽ巻いて逃げ出したのか。 344 00:41:18,588 --> 00:41:22,592 ・(伊藤)いえ そういうわけでは。 だって そうじゃないか。 345 00:41:22,592 --> 00:41:25,595 じゃあ 何で あいつが持ってこないんだよ。 346 00:41:25,595 --> 00:41:31,601 それがですね… 実は その 折見の方が ちょっと・ 347 00:41:31,601 --> 00:41:37,540 入院をいたしまして。 入院? 348 00:41:37,540 --> 00:41:39,542 ・(伊藤)はあ。 何で? 349 00:41:39,542 --> 00:41:44,547 実は 折見が 「先生には お伝えしないでほしい」と。 350 00:41:44,547 --> 00:41:48,547 言え! 何なんだよ 言え! 351 00:41:50,553 --> 00:41:54,557 ・(伊藤)がんでございます。 352 00:41:54,557 --> 00:41:56,559 ええっ・ 353 00:41:56,559 --> 00:42:00,563 ・(伊藤)折見は 2年前に 一度 手術しております。・ 354 00:42:00,563 --> 00:42:05,568 それが今回 再発いたしました。 355 00:42:05,568 --> 00:42:22,585 ・~ 356 00:42:22,585 --> 00:42:25,588 金は なんぼ かかってもええけん やってくれ。 はよ やれ! 357 00:42:25,588 --> 00:42:28,591 ちょっと どうしたん? 先生。 358 00:42:28,591 --> 00:42:31,594 先生が 金魚を 注文したいらしいんじゃが。 359 00:42:31,594 --> 00:42:33,596 金魚? してあげりゃ ええやない。 360 00:42:33,596 --> 00:42:36,599 「病院に送りつけえ」言うんじゃ。 何が悪いんじゃ! 361 00:42:36,599 --> 00:42:39,602 元気な金魚 見せたいだけや! ピンピンした・ 362 00:42:39,602 --> 00:42:43,606 殺しても死なんようなやつを あいつに見せちゃるんだ。 363 00:42:43,606 --> 00:42:46,609 どうしたん? 先生。 364 00:42:46,609 --> 00:42:50,613 そうさせてくれよ 頼むから。 365 00:42:50,613 --> 00:42:53,616 (洋平)何かのう 折見さんが 入院したそうなんじゃ。 366 00:42:53,616 --> 00:42:56,619 折見さんが? (洋平)見舞いに 金魚を・ 367 00:42:56,619 --> 00:42:59,622 送りたいらしいんじゃが 病院は 生き物やら受け取らんじゃろ? 368 00:42:59,622 --> 00:43:06,629 そりゃあ 金魚やのうて 先生が行ってあげんにゃあ。 369 00:43:06,629 --> 00:43:12,635 花持って行きんさい。 な! 女は みんな 花が好きじゃけえ。 370 00:43:12,635 --> 00:43:14,637 先生! 371 00:43:14,637 --> 00:43:37,637 ・~ 372 00:43:55,612 --> 00:43:58,615 わっ 何でしょう お見舞いですか? どなた? 373 00:43:58,615 --> 00:44:02,619 お… 折見さんに…。 折見さん 今いないですよ。 374 00:44:02,619 --> 00:44:05,622 いない? どちらに? 375 00:44:05,622 --> 00:44:09,622 さあ 散歩にでも 行ってるんじゃないですかね。 376 00:44:39,589 --> 00:45:39,589 ・~ 377 00:46:01,604 --> 00:46:05,604 ごぶさたしております 先生。 378 00:46:10,613 --> 00:46:13,616 先生が そんな大きな花束を持って・ 379 00:46:13,616 --> 00:46:17,620 かれこれ2時間も 座っておられるせいで・ 380 00:46:17,620 --> 00:46:20,620 病院中の女が 色めき立っております。 381 00:47:01,597 --> 00:47:07,603 無断で担当を降りましたこと 申し訳ございませんでした。 382 00:47:07,603 --> 00:47:11,607 ああ。 383 00:47:11,607 --> 00:47:18,614 装丁含め 単行本の出版までは 弊社 伊藤の方が・ 384 00:47:18,614 --> 00:47:22,618 つつがなく進めてまいると 存じます。 385 00:47:22,618 --> 00:47:27,618 分かってる。 よろしく お願いいたします。 386 00:47:30,626 --> 00:47:32,626 折見。 はい。 387 00:47:35,565 --> 00:47:40,570 悪かったな。 何のことでしょう? 388 00:47:40,570 --> 00:47:43,573 すべてだ。 389 00:47:43,573 --> 00:47:50,580 気の進まない人形劇をやらせ 年寄りの愚痴を聞かせ・ 390 00:47:50,580 --> 00:47:57,587 金魚を殺させ 編集者として おれという作家に・ 391 00:47:57,587 --> 00:48:02,587 かかわらせたこと自体を 悔やんでるよ。 392 00:48:05,595 --> 00:48:12,602 おれは お前の病気のことは ホントに よく知ってるんだ。 393 00:48:12,602 --> 00:48:18,602 ストレスだな。 ストレスが 一番よくないんだよ。 394 00:48:22,612 --> 00:48:25,612 フフッ。 何だ? 395 00:48:27,617 --> 00:48:30,620 先生。 ん? 396 00:48:30,620 --> 00:48:33,620 私を侮られては困ります。 397 00:48:35,558 --> 00:48:40,558 むしろ 逆でございます。 逆? 398 00:48:42,565 --> 00:48:45,568 2年前に手術をしてから・ 399 00:48:45,568 --> 00:48:51,574 私は この世で一番 孤独だと 思っておりました。 400 00:48:51,574 --> 00:48:58,574 しかし先生は 私以上に 寂しい方であられました。 401 00:49:00,583 --> 00:49:04,587 「他人の不幸は蜜の味」 と申しますが・ 402 00:49:04,587 --> 00:49:10,587 先生の無残な孤独振りだけが 私の心の慰めでした。 403 00:49:15,598 --> 00:49:22,605 実は 先生の所に初めて伺った時 伊藤の急用と申しましたが・ 404 00:49:22,605 --> 00:49:25,608 あれは うそです。 え? 405 00:49:25,608 --> 00:49:30,608 私が 編集長に 無理やり頼んだのです。 406 00:49:33,549 --> 00:49:39,555 誰よりも 私の方が先生のことを 理解してさしあげられるという・ 407 00:49:39,555 --> 00:49:43,555 妙な自信がありました。 408 00:49:49,565 --> 00:49:53,565 先生。 ん? 409 00:49:56,572 --> 00:50:00,572 死を意識されたことは おありですか? 410 00:50:05,581 --> 00:50:12,581 その時 人間は 果てしなく孤独です。 411 00:50:16,592 --> 00:50:22,598 でも その孤独こそが・ 412 00:50:22,598 --> 00:50:30,598 先生と私を強くつなげてくれる 気がしていました。 413 00:50:35,545 --> 00:50:40,545 買ってきた。 要るか? 414 00:50:43,553 --> 00:50:46,553 有り難く ちょうだいいたします。 415 00:50:51,561 --> 00:50:58,568 ・~ 416 00:50:58,568 --> 00:51:01,568 先生。 ん? 417 00:51:03,573 --> 00:51:11,573 私 今… モテている気分でございます。 418 00:51:13,583 --> 00:51:16,583 あながち 気のせいでもないぞ。 419 00:51:24,594 --> 00:51:27,594 行く。 はい。 420 00:51:37,540 --> 00:51:43,546 何も言うな。 行け。 421 00:51:43,546 --> 00:53:13,546 ・~ 422 00:53:21,644 --> 00:53:29,652 《折見 お前が持って生まれ そして お前なりに・ 423 00:53:29,652 --> 00:53:34,590 守り通すであろう その命の長さに・ 424 00:53:34,590 --> 00:53:40,596 おれが何の文句をつけられよう。》 425 00:53:40,596 --> 00:53:46,602 《心配するな。 おれとて 後に続くのに・ 426 00:53:46,602 --> 00:53:50,602 そんなに時間は かからんさ。》 427 00:53:53,609 --> 00:53:59,615 《だが それでも もし かなうなら・ 428 00:53:59,615 --> 00:54:08,615 今生 どこかで また会おう。 な。》 429 00:54:21,637 --> 00:54:26,642 たばこ 吸いてえ~! 430 00:54:26,642 --> 00:55:24,633 ・~ 431 00:55:24,633 --> 00:55:35,633 ・~