1 00:00:14,000 --> 00:00:17,140 (汽車の走行音) 2 00:00:17,140 --> 00:00:19,810 (汽笛) 3 00:00:19,810 --> 00:00:34,810 (汽車の走行音) 4 00:00:36,360 --> 00:00:40,360 (汽笛) 5 00:00:52,440 --> 00:00:55,780 (ふみ子)オッカサ~ン。 (きし)どぎゃんしたと? 6 00:00:55,780 --> 00:00:59,080 お父さんがのう 警察行きなはった。 7 00:01:00,650 --> 00:01:02,650 警察? 8 00:01:02,650 --> 00:01:06,420 お父さんの売りよった化粧水が 腐っとったいうて。 9 00:01:06,420 --> 00:01:10,120 さあ 歌うてみんかい。 10 00:01:10,120 --> 00:01:13,460 さっさと歌わんかい! 11 00:01:13,460 --> 00:01:20,800 (謙作)・「一瓶つければ さくら色」 12 00:01:20,800 --> 00:01:23,140 もっと大きな声で! 13 00:01:23,140 --> 00:01:31,010 ・「一瓶つければ さくら色」 14 00:01:31,010 --> 00:01:38,690 ・「二瓶つければ 雪の肌」 15 00:01:38,690 --> 00:01:42,160 諸君 買いたまえ。 (笑い声) 16 00:01:42,160 --> 00:01:46,030 こら! こんなうどん粉をつけて 雪の肌になりゃあ 安かもんじゃ! 17 00:01:46,030 --> 00:01:49,430 ばか野郎。 ばかたれ! 18 00:01:49,430 --> 00:01:52,100 ふみ子。 19 00:01:52,100 --> 00:03:56,960 ・~ 20 00:03:56,960 --> 00:04:05,660 (波の音) 21 00:04:17,110 --> 00:04:25,810 <まったく暑い。 ヨロヨロと荷を担いで べっぴんさんが暑い街を歩く> 22 00:04:27,450 --> 00:04:31,790 あの クレップのシャツと すててこは いりませんか? 23 00:04:31,790 --> 00:04:34,460 お安くしときますからに。 24 00:04:34,460 --> 00:04:37,130 輸出品の残りなんで とっても安いんですよ。 25 00:04:37,130 --> 00:04:39,430 間に合ってるから。 26 00:04:43,470 --> 00:04:48,080 <東京は暑いところだ。・ 27 00:04:48,080 --> 00:04:55,080 はっきりと道の上に映った影は ヒキガエルのようにはっている> 28 00:04:59,090 --> 00:05:04,790 ・(豆腐屋のラッパの音) 29 00:05:07,760 --> 00:05:10,660 ただいま。 (婆さん)おかえんなさい。 30 00:05:10,660 --> 00:05:15,100 ただいま。 暑かったでしょう。 どうでした? 商いは。 31 00:05:15,100 --> 00:05:18,770 ええ それがもう さっぱりで…。 32 00:05:18,770 --> 00:05:22,440 不景気だからねえ。 私も内職なんかやったって・ 33 00:05:22,440 --> 00:05:27,310 いくらにもなんないけど やらなきゃ こんな婆さん一人 食べていけないしねえ。 34 00:05:27,310 --> 00:05:32,450 すみません。 たまってる間代 そのうち なんとかしますけん。 35 00:05:32,450 --> 00:05:38,130 頼みますよ。 あっ そうそう 旦那さんから手紙が来てたっけ。 36 00:05:38,130 --> 00:05:40,790 あっ そうですか。 37 00:05:40,790 --> 00:05:47,090 どうせ不景気な手紙よ。 たまには書留ぐらい よこせばいいのに。 38 00:05:48,600 --> 00:05:51,070 はい。 39 00:05:51,070 --> 00:05:56,410 ねえ ふみ子さん 青バスの車掌さんにならないかしらねえ。 40 00:05:56,410 --> 00:06:00,080 青バス? 45円ぐらいになるらしいわよ。 41 00:06:00,080 --> 00:06:03,950 そう…。 でも あの子に 勤まるやらどうやら。 42 00:06:03,950 --> 00:06:06,950 何しろ 風変わりな子で。 43 00:06:06,950 --> 00:06:12,430 (鼻歌) 44 00:06:12,430 --> 00:06:18,300 ・「恋せよ乙女」 45 00:06:18,300 --> 00:06:23,440 どうしたんや この煙。 炭が悪いんよ。 46 00:06:23,440 --> 00:06:28,780 お父さんの手紙 何だって? 九州はのう 長雨で商売に出られんで・ 47 00:06:28,780 --> 00:06:32,080 困っとるそうじゃ。 どれ? 48 00:06:33,650 --> 00:06:39,950 ちょっと行ってやらないけんかもしれん。 食べるものも食べられん暮らしだなんて。 49 00:06:46,130 --> 00:06:51,400 せっかく こっちは お前と2人で なんとか息をついとるになぁ。 50 00:06:51,400 --> 00:06:54,740 (安岡)ただいま。 ああ おかえんなさい。 51 00:06:54,740 --> 00:06:57,070 急に暑くなりましたね。 52 00:06:57,070 --> 00:07:01,740 ええ 今から こんなじゃ 真夏が思いやられますと。 53 00:07:01,740 --> 00:07:04,740 ええ じゃあ。 54 00:07:06,410 --> 00:07:10,080 (うちわをあおぐ音) 何をプンプン 当てつけとるとな。 55 00:07:10,080 --> 00:07:14,960 安岡さん せっかく声を かけとんなさるのに。 あの人 嫌い。 56 00:07:14,960 --> 00:07:19,760 お父さんも嫌い。 男なんて みんな大っ嫌い。 57 00:07:19,760 --> 00:07:22,660 お前は お父さんを どうして そう好かんのじゃろか。 58 00:07:22,660 --> 00:07:26,630 8つの時から お前は あのお父さんに育てられたんじゃ。 59 00:07:26,630 --> 00:07:32,110 今更 お父さんは嫌いなんて…。 いいや 私は育てられちゃいない。 60 00:07:32,110 --> 00:07:36,780 だって 女学校にも上がっつろがや。 何を言ってんのよ。 61 00:07:36,780 --> 00:07:40,650 女学校は 私が工場に通いながら 行ったんじゃないの。 62 00:07:40,650 --> 00:07:44,650 夏休みには 女中奉公にも出たり 行商にも出たりして。 63 00:07:44,650 --> 00:07:49,360 私は 自分で自分のことは稼いだんよ。 そりゃあ…。 64 00:07:49,360 --> 00:07:53,730 学校を出てからも 何かっていえば 少しずつでも送っとるの・ 65 00:07:53,730 --> 00:07:58,430 忘れてしもうたん? お前は むごい子じゃのう。 66 00:08:01,400 --> 00:08:06,070 あ~ もう いっそ親子の縁を切って・ 67 00:08:06,070 --> 00:08:09,940 あんた お父さんのとこへ 行っちまいなさい。 68 00:08:09,940 --> 00:08:14,750 私は明日から淫売でも何でもして 自分のことは自分で始末つけるもん。 69 00:08:14,750 --> 00:08:17,750 何ちゅうことを…。 (戸のきしむ音) 70 00:08:19,420 --> 00:08:24,290 あの… つくだ煮 少しどうですか? 安かったんで余計に買ってきたんです。 71 00:08:24,290 --> 00:08:30,760 まあ すみません いつもいつも。 いいえ。 お風呂ですか? ええ。 72 00:08:30,760 --> 00:08:35,760 じゃあ。 どうもありがとうございました。 73 00:08:38,440 --> 00:08:43,310 あんなええ人を お前は どうして嫌うんじゃろうねえ。 74 00:08:43,310 --> 00:08:48,250 印刷工場の職工さんって どれぐらい取れるんじゃろう。 75 00:08:48,250 --> 00:08:53,920 4~5年前に嫁さんを亡くしてから ず~っと1人暮らしじゃそうじゃけど。 76 00:08:53,920 --> 00:08:58,730 どうでもいいじゃないの 人のこと。 77 00:08:58,730 --> 00:09:02,600 お前は まだ香取さんのことが 忘れられんとじゃな。 78 00:09:02,600 --> 00:09:07,400 学生のくせに 田舎から お前を東京へ連れ出しといて・ 79 00:09:07,400 --> 00:09:10,300 大学を卒業したと思うたら お前を放り出して・ 80 00:09:10,300 --> 00:09:14,270 自分だけ田舎へ帰ってしもうような あんな男を…。 81 00:09:14,270 --> 00:09:18,410 ええ あんな男を私は大好きなのよ。 82 00:09:18,410 --> 00:09:25,090 今でも忘れられないのよ。 お母さんが お父さんを大好きなようにね。 83 00:09:25,090 --> 00:09:31,090 あんな能なし男と どうしても別れられんようにね。 84 00:09:52,310 --> 00:09:57,020 <手紙を書いてみるが どうにもならぬ。・ 85 00:09:57,020 --> 00:10:01,790 あの人には もう お嫁さんがあるんだ。・ 86 00:10:01,790 --> 00:10:06,460 ただ慰みに文句を書いてみるだけ> 87 00:10:06,460 --> 00:10:26,150 ・~(尺八) 88 00:10:26,150 --> 00:10:38,730 ・~ 89 00:10:38,730 --> 00:10:42,500 みんなで いくらあるかな。 90 00:10:42,500 --> 00:10:51,100 どうするんや そのお金。 1円 2円 3 4… 5円。 91 00:10:51,100 --> 00:10:55,440 6円 7円…。 92 00:10:55,440 --> 00:10:58,350 ふみ子。 93 00:10:58,350 --> 00:11:01,050 10円…。 94 00:11:02,780 --> 00:11:09,780 12円60銭あるわ。 これ みんな お父さんに持ってってあげんさい。 95 00:11:12,790 --> 00:11:17,460 お母さんは やっぱり お父さんのとこへ行きんさい。 96 00:11:17,460 --> 00:11:20,160 だって お前…。 97 00:11:22,340 --> 00:11:27,810 私のことなんて心配しなくてもいいわ。 もう 子どもじゃないもん。 98 00:11:27,810 --> 00:11:31,680 大丈夫よ なんとか一人でやってく。 99 00:11:31,680 --> 00:11:50,980 ・~(尺八) 100 00:12:10,380 --> 00:12:18,120 <それだけの願いなのよ。 なんとか どうにかなりませんか。・ 101 00:12:18,120 --> 00:12:22,000 行列は 少しずつ縮まり・ 102 00:12:22,000 --> 00:12:26,800 笑って出てくる者 失望して出てくる者。・ 103 00:12:26,800 --> 00:12:32,470 扉の前に立っている私たちは 少しずつイライラしてくる。・ 104 00:12:32,470 --> 00:12:40,170 たった2人ばかり入用の女事務員が ざっと50人余りも並んでいる> 105 00:12:42,150 --> 00:12:45,820 <やっと私の番になった。・ 106 00:12:45,820 --> 00:12:51,420 履歴書と引き比べて まず人品骨柄。・ 107 00:12:51,420 --> 00:12:55,760 器量がいいか悪いかで決まる。・ 108 00:12:55,760 --> 00:13:01,640 しばらく さらし者になって 「葉書で通知をします」という返事。・ 109 00:13:01,640 --> 00:13:08,640 こんなのは毎度のことで 慣れてはいるけれど 何とも味気ない> 110 00:13:22,990 --> 00:13:31,130 <双葉劇団支配人というのは どんな格好で 電車から降りてくるのだろう。・ 111 00:13:31,130 --> 00:13:37,000 眼鏡をかけた背の高い男が 私の前を通って・ 112 00:13:37,000 --> 00:13:44,680 また ふっと後がえりして立った。 十分 自信のあるいでたち。・ 113 00:13:44,680 --> 00:13:50,080 「広告を見た人?」 「ええ そうです」。・ 114 00:13:50,080 --> 00:13:58,380 その男は歩きだした。 私も犬のように その男の後ろからついていった> 115 00:14:02,660 --> 00:14:06,100 <小さいミルクホールへ入る。・ 116 00:14:06,100 --> 00:14:11,440 双葉劇団というのは 田舎まわりの芝居なのだそうだ。・ 117 00:14:11,440 --> 00:14:17,780 女優が少ないので もうすぐからでも 稽古にかかってもいいと言った。・ 118 00:14:17,780 --> 00:14:23,120 白いハンカチが 胸のポケットからはみ出している。・ 119 00:14:23,120 --> 00:14:27,790 何だか忘れそうな 影の薄い顔だ。・ 120 00:14:27,790 --> 00:14:31,660 嫌らしいものが直感で胸に来る。・ 121 00:14:31,660 --> 00:14:38,800 どんなことでも我慢はするけれど こんな男にだまされるのは嫌だ。・ 122 00:14:38,800 --> 00:14:44,670 私が履歴書を出すと その男は たばこのヤニで汚れた指で・ 123 00:14:44,670 --> 00:14:50,080 ざっと広げて すぐポケットへしまった。・ 124 00:14:50,080 --> 00:14:56,420 履歴書よりも この男は 私の体が必要なのかもしれない。・ 125 00:14:56,420 --> 00:15:01,290 サイダーをごちそうになり 近くのホテルが事務所になっている・ 126 00:15:01,290 --> 00:15:05,090 というので ついていく。・ 127 00:15:05,090 --> 00:15:09,760 事務所というのは 空想の事務所。・ 128 00:15:09,760 --> 00:15:14,430 何もない部屋の姿は 妙に落ち着きがない。・ 129 00:15:14,430 --> 00:15:20,310 その男は うそばかり言うので 私も うそばかり言う。・ 130 00:15:20,310 --> 00:15:25,080 世の中は 味なものではございませんか。・ 131 00:15:25,080 --> 00:15:29,450 やがて男は 一緒に遊びたいと言う。・ 132 00:15:29,450 --> 00:15:33,120 私は 急に遊びたいなんて おかしいじゃないのと・ 133 00:15:33,120 --> 00:15:38,790 さっさと部屋を出ると 女中が「おそばが来ましたよ」と言う。・ 134 00:15:38,790 --> 00:15:43,660 私は にっこり笑って外へ出た。・ 135 00:15:43,660 --> 00:15:49,740 いやに赤漆のざるそばの重ねたのが 目について離れない。・ 136 00:15:49,740 --> 00:15:54,610 4つも あの男は そばを食べるのかしら?・ 137 00:15:54,610 --> 00:15:58,610 そばが食べたいなぁ> 138 00:16:13,430 --> 00:16:19,770 月給は 弁当付きで35円。 朝は9時から 引けは4時です。 139 00:16:19,770 --> 00:16:24,640 はあ。 ところで 玉づけはできますか? 140 00:16:24,640 --> 00:16:29,440 玉づけって何ですか? 簿記ですよ。 141 00:16:29,440 --> 00:16:35,440 少しぐらいなら できると思います。 じゃあ やってみて下さい。 142 00:16:39,790 --> 00:16:47,460 <弁当付き 35円なんて… なんと すばらしい虹の世界だろう。・ 143 00:16:47,460 --> 00:16:53,270 お母さんや お母さんや あんたに10円も送れたら・ 144 00:16:53,270 --> 00:16:58,740 あんたは 娘の出世に びっくりするでしょうね。・ 145 00:16:58,740 --> 00:17:04,410 男は 私を事務机の前に連れていった。・ 146 00:17:04,410 --> 00:17:09,080 大きな まるで岩のような机を前にすると・ 147 00:17:09,080 --> 00:17:12,750 玉づけだって何だって できますと言ったことが・ 148 00:17:12,750 --> 00:17:15,660 恐ろしく思えてきた。・ 149 00:17:15,660 --> 00:17:19,430 持ってきた 大きい西洋つづりの帳面を開くと・ 150 00:17:19,430 --> 00:17:23,760 それは 複式簿記で 私のちょっと知っている簿記とは・ 151 00:17:23,760 --> 00:17:27,100 はるかに縁遠いものだった。・ 152 00:17:27,100 --> 00:17:30,970 目がくらみそうに汗が出る。・ 153 00:17:30,970 --> 00:17:38,110 生まれてかつて見たこともないような 長い数字の行列。・ 154 00:17:38,110 --> 00:17:43,450 こんな数字を毎日書き込んだり ソロバンを入れるとなると・ 155 00:17:43,450 --> 00:17:48,720 私は一日で 完全にキチガイになってしまうだろう。・ 156 00:17:48,720 --> 00:17:53,590 でも 私はソロバンを いかにもうまそうに パチパチはじきながら・ 157 00:17:53,590 --> 00:17:58,730 子どもの頃 算術で丙ばかり もらっていたことを思い出して・ 158 00:17:58,730 --> 00:18:03,070 胸が冷たくなるような気がした> 159 00:18:03,070 --> 00:18:05,970 電報が来てますよ。 160 00:18:05,970 --> 00:18:09,740 すいません。 何か見つかりましたか? 仕事。 161 00:18:09,740 --> 00:18:12,080 ええ…。 162 00:18:12,080 --> 00:18:16,420 「シュッシャニオヨバズ イワイ」。 163 00:18:16,420 --> 00:18:18,350 ヘッ。 164 00:18:18,350 --> 00:18:23,090 どうしたんです? 部屋代 もうちょっと待って下さいね。 165 00:18:23,090 --> 00:18:28,430 あんた 青バスの車掌さんになったら どう? 45円になるっていうんでしょ。 166 00:18:28,430 --> 00:18:34,100 一度 行ってみたのよ。 それで? 近眼だから駄目だって。 167 00:18:34,100 --> 00:18:36,770 <あんな大きい数字を・ 168 00:18:36,770 --> 00:18:40,640 毎日毎日 加えていかなくちゃならない 世界なんて・ 169 00:18:40,640 --> 00:18:44,440 こっちから行きたくありませんよだ。・ 170 00:18:44,440 --> 00:18:49,280 成金になりたい理想も あんな数字でへこたれるようでは・ 171 00:18:49,280 --> 00:18:52,050 一生 駄目らしい> 172 00:18:52,050 --> 00:19:06,050 ・~ 173 00:19:14,740 --> 00:19:17,080 (戸のきしむ音) 174 00:19:17,080 --> 00:19:20,080 ・ごめんなさい。 どうぞ。 175 00:19:21,750 --> 00:19:28,620 安岡さん あんたでしょう? これ。 ふみ子さん! 176 00:19:28,620 --> 00:19:31,760 林さん。 177 00:19:31,760 --> 00:19:36,100 黙って 取っといてくれればいいのに。 どうしてです? 178 00:19:36,100 --> 00:19:39,000 僕 このごろの あなたが 見ていられないんです。 179 00:19:39,000 --> 00:19:43,770 どうか気にしないで使って下さい。 お気持ちは ありがたいんですけど・ 180 00:19:43,770 --> 00:19:48,110 理由もなく お金を頂くわけにもいきませんわ。 181 00:19:48,110 --> 00:19:50,780 やっぱり いけなかったかな。 182 00:19:50,780 --> 00:19:53,450 気を悪くなさるんじゃないかとも 思ったんですけど。 183 00:19:53,450 --> 00:19:56,120 あら 気を悪くなんか。 184 00:19:56,120 --> 00:19:58,790 本当ですか? ええ。 185 00:19:58,790 --> 00:20:04,460 あ~ 安心しました。 実はね 僕 うちの工場で・ 186 00:20:04,460 --> 00:20:07,130 あなたを雇ってくれるように 頼んであるんですけど・ 187 00:20:07,130 --> 00:20:11,460 今のところ欠員がなくて…。 私ね 働くとこ あったんですよ。 188 00:20:11,460 --> 00:20:17,160 えっ 本当ですか? ええ。 あ~ そりゃよかった。 189 00:20:31,150 --> 00:20:34,820 (君子)朝から晩まで ベタベタ絵の具を塗ったくって・ 190 00:20:34,820 --> 00:20:38,160 嫌んなっちゃうよ まったく。 (お千代)君ちゃんは美人だから・ 191 00:20:38,160 --> 00:20:43,500 つまんないんだろ こんな仕事。 私より おふみさん。 よく続いてるよ。 192 00:20:43,500 --> 00:20:46,400 2~3日で逃げ出すかと思ったのに。 193 00:20:46,400 --> 00:20:51,300 初めはゴム臭くて嫌だったけど もうすっかり慣れたわ。 194 00:20:51,300 --> 00:20:54,110 急いでくれなくちゃ困るよ! 195 00:20:54,110 --> 00:20:57,440 ここの連中が 一番しゃべってっじゃないの。 196 00:20:57,440 --> 00:21:01,310 急ぎの仕事だからね 油売ってちゃ困るのよ。 197 00:21:01,310 --> 00:21:07,310 君ちゃん どうしたの? あんた わざと のろのろやってんの? 198 00:21:09,060 --> 00:21:12,990 私たちは 機械じゃないんですよ。 給料も ろくろくくれないくせに・ 199 00:21:12,990 --> 00:21:16,460 せっつかれちゃあ やりきれないわ。 人聞きの悪いこと 言わないでよ。 200 00:21:16,460 --> 00:21:19,800 まるでタダ働きさせてるみたいに 言うじゃないか。 201 00:21:19,800 --> 00:21:23,670 だって 規定で 朝の7時から夕方5時まででしょ? 202 00:21:23,670 --> 00:21:26,970 20~30分 いつだってタダ働きじゃないの。 203 00:21:30,810 --> 00:21:33,480 (ベル) 204 00:21:33,480 --> 00:21:37,820 ああ…。 (ベル) 205 00:21:37,820 --> 00:21:41,490 あんなとこ もうつくづく嫌んなっちゃった。 206 00:21:41,490 --> 00:21:45,160 私ね カフェーの女給になろうと思って。 207 00:21:45,160 --> 00:21:47,490 女給? 208 00:21:47,490 --> 00:21:53,770 あんたもどう? 一緒にやんない? でも 私 「着たきりすずめ」なのよ。 209 00:21:53,770 --> 00:21:58,640 そんなもの 貸してくれるわよ! 白いエプロンか何か つけちゃってさ・ 210 00:21:58,640 --> 00:22:04,780 お酒飲んで 歌って… よっぽど気が利いてるわよ そのほうが。 211 00:22:04,780 --> 00:22:09,650 あんたって 本屋さんの前へ来ると 素通りできないんだから。 212 00:22:09,650 --> 00:22:14,120 ねえ 私 先帰るわよ 急ぐから。 どうぞ。 213 00:22:14,120 --> 00:22:18,820 今の話 考えときなさいね。 さようなら。 さようなら。 214 00:22:32,470 --> 00:22:35,770 ・林さん。 はい。 215 00:22:38,340 --> 00:22:43,040 手紙が来てますよ お母さんから。 あら。 216 00:22:46,020 --> 00:22:48,720 すいません。 217 00:23:00,430 --> 00:23:07,110 (きし)「私は こっちへ来てリウマチが出て 行商にも行けなくなりました。・ 218 00:23:07,110 --> 00:23:10,780 お父さんの仕事も思わしくありません。・ 219 00:23:10,780 --> 00:23:17,120 だんだん寒くなるのに どうなることかと見当もつきません。・ 220 00:23:17,120 --> 00:23:20,790 お前も一人で大変だろうけど・ 221 00:23:20,790 --> 00:23:25,460 5円でも3円でもいいから送って下さい」。 222 00:23:25,460 --> 00:23:28,160 ・林さん。 223 00:23:30,130 --> 00:23:34,000 ごはん まだなんでしょ? ええ。 僕 今日 月給日なんでね・ 224 00:23:34,000 --> 00:23:38,000 ちょっとおごって 特製の豚カツ2枚買ったんです。 どうぞ。 225 00:23:38,000 --> 00:23:42,140 すいません。 お母さんから何て言ってきました? 226 00:23:42,140 --> 00:23:45,040 お元気なんですか? 227 00:23:45,040 --> 00:23:51,420 安岡さん すいませんが お金を少し貸してもらえないでしょうか。 228 00:23:51,420 --> 00:23:54,750 母が病気なんです。 そりゃいけない。 229 00:23:54,750 --> 00:23:59,630 月給日で ちょうどよかった。 10円? 20円? 10円で結構です。 230 00:23:59,630 --> 00:24:03,100 いや いいんですよ? 僕は あなたみたいに・ 231 00:24:03,100 --> 00:24:06,000 家族抱えてるわけじゃないから いくらでも。 232 00:24:06,000 --> 00:24:10,440 本当にいいんですか? 10円で。 ええ。 233 00:24:10,440 --> 00:24:16,780 すいません。 いつかは お断りしたのに 勝手な時に お願いして。 234 00:24:16,780 --> 00:24:22,450 いや~ はっきり言ってもらったほうが うれしいんです。 どうぞ。 235 00:24:22,450 --> 00:24:28,320 こんな本なんか買ってこなきゃよかった。 いや~ あなたは本が好きなんだから。 236 00:24:28,320 --> 00:24:33,090 あ~ 詩集ですね。 僕も啄木の歌集 買いましたよ。 237 00:24:33,090 --> 00:24:36,000 あなたに影響されて。 あら。 238 00:24:36,000 --> 00:24:41,130 いいですね あの人の歌は。 「はたらけど はたらけど・ 239 00:24:41,130 --> 00:24:46,810 猶わが生活楽にならざり ぢっと手を見る」。 240 00:24:46,810 --> 00:24:52,080 毎日 活字ばかり いじってると… どうです? この手。 241 00:24:52,080 --> 00:24:56,750 私だって 絵の具が爪の間に染み込んじゃって。 242 00:24:56,750 --> 00:24:59,050 ほら。 243 00:25:00,620 --> 00:25:02,920 林さん。 244 00:25:05,760 --> 00:25:13,430 ふみ子さん… どうでしょう 60円もあれば 2人で暮らしてゆけると思うんです。 245 00:25:13,430 --> 00:25:17,130 一度 考えてみてくれませんか? 246 00:25:19,770 --> 00:25:23,110 お金を貸して すぐ こんなこと言いだして・ 247 00:25:23,110 --> 00:25:26,780 嫌なやつだと 思われるかもしれませんけど。 248 00:25:26,780 --> 00:25:33,450 そりゃあ 僕は何の取り柄もない男で あなたには もの足りないでしょう。 249 00:25:33,450 --> 00:25:36,360 でも ずっと隣り合わせに住んでいて・ 250 00:25:36,360 --> 00:25:40,130 もう少し あなたを楽にさせてあげたいと思う。 251 00:25:40,130 --> 00:25:43,800 迷惑ですか? こんなこと言って。 252 00:25:43,800 --> 00:25:51,600 いいえ。 でもね 私 一度結婚… 男と一緒に暮らしたことがあるんですよ。 253 00:25:51,600 --> 00:25:55,410 そりゃあ 僕だって 初めてじゃないんですから。 254 00:25:55,410 --> 00:26:00,280 安岡さん お金だけお借りして 本当にすみませんけど・ 255 00:26:00,280 --> 00:26:05,420 私 とても あんたと一緒に 所帯を持つなんてことが・ 256 00:26:05,420 --> 00:26:11,290 身につきそうもないんですよ。 本当に ごめんなさい。 257 00:26:11,290 --> 00:26:14,090 そんな…。 258 00:26:14,090 --> 00:26:17,000 そんな謝らないで下さい。 259 00:26:17,000 --> 00:26:22,700 僕は あなたに尽くすのが うれしいんだから。 じゃあ 失礼します。 260 00:26:32,110 --> 00:26:37,810 ・(汽笛) 261 00:26:41,790 --> 00:26:48,060 (笑い声) 262 00:26:48,060 --> 00:26:52,400 それで? あなたは どんな役をするの? (伊達)見に来るかい? 263 00:26:52,400 --> 00:26:56,270 ええ 行くわ。 花束 投げてあげる。 (笑い声) 264 00:26:56,270 --> 00:27:01,740 ガーエフ。 な~に? それ。 ガーエフって名前だよ。 265 00:27:01,740 --> 00:27:05,080 あっ それフランス人ね。 ロシア人だよ。 266 00:27:05,080 --> 00:27:08,950 (笑い声) 桜の園が売られてゆく時 嘆いて言う。 267 00:27:08,950 --> 00:27:11,950 こんなセリフを言うんだ。 268 00:27:11,950 --> 00:27:19,090 「庭は一面に真っ白だ。 お前 忘れはしないだろうね リューバ。・ 269 00:27:19,090 --> 00:27:23,760 ほら あの長い並木道が 延ばした帯革のように・ 270 00:27:23,760 --> 00:27:28,630 どこまでも まっすぐに続いて 月夜の晩には キラキラ光る」。 271 00:27:28,630 --> 00:27:32,100 いいわねえ。 (拍手) 272 00:27:32,100 --> 00:27:36,780 ふみちゃんも こっちへおいでよ。 あんた 芝居や小説が大好きじゃないの。 273 00:27:36,780 --> 00:27:39,680 新しい人? そう ふみ子さん。 274 00:27:39,680 --> 00:27:42,450 よろしく。 275 00:27:42,450 --> 00:27:47,320 チャーミングな目だね。 私 近眼なんです。 276 00:27:47,320 --> 00:27:51,260 つや消しなこと言わないでよ。 (笑い声) 277 00:27:51,260 --> 00:27:55,730 こちら 詩人で劇作家の伊達春彦さん。 田辺先生のお弟子さんよ。 278 00:27:55,730 --> 00:27:59,600 今度 舞台にも出るんですって。 あそこで何書いてたの? 279 00:27:59,600 --> 00:28:02,070 ラブレター? いいえ。 280 00:28:02,070 --> 00:28:06,410 この人ね 詩だの童話だの書くの。 文学少女。 281 00:28:06,410 --> 00:28:10,080 どんな人の詩が好きなの? 282 00:28:10,080 --> 00:28:18,420 ハイネ ホイットマン… プーシキンが一番好きです。 どう? 283 00:28:18,420 --> 00:28:22,420 見せてごらん さっき書いてたの。 284 00:28:26,290 --> 00:28:31,760 「その夜 カフェーの卓上の上に 盛花のような顔が泣いた・ 285 00:28:31,760 --> 00:28:37,060 何のその 樹の上のカラスが鳴こうとて…」。 286 00:28:38,640 --> 00:28:43,380 「夜は辛い 両手に盛られた わたしの顔は・ 287 00:28:43,380 --> 00:28:49,080 みどり色のお白粉に疲れ 十二時の針をひっぱっていた」。 288 00:28:50,720 --> 00:28:56,390 もっと君の書いたものある? ええ 家に。 289 00:28:56,390 --> 00:29:00,060 いい詩じゃないか。 うまいでしょう。 290 00:29:00,060 --> 00:29:04,730 もっと見せてほしいな 僕の仲間にも紹介するし。 291 00:29:04,730 --> 00:29:07,730 しかし 驚いたなぁ こんなすばらしい詩を書ける人が・ 292 00:29:07,730 --> 00:29:11,070 こんなとこにいるなんて。 あら 悪かったわね こんなとこで。 293 00:29:11,070 --> 00:29:15,940 失礼しちゃうわ。 「両手に盛られた わたしの顔は・ 294 00:29:15,940 --> 00:29:23,080 みどり色のお白粉に疲れ 十二時の針をひっぱっていた」。 295 00:29:23,080 --> 00:29:26,420 いい感覚だなぁ。 296 00:29:26,420 --> 00:29:29,320 そんなにいいの? おごんなさい ふみちゃん! 297 00:29:29,320 --> 00:29:33,290 ええ おごるわ。 いや 僕がおごるよ。 298 00:29:33,290 --> 00:29:38,430 カフェーの片隅で発見した 天才女流詩人のために乾杯しよう。 299 00:29:38,430 --> 00:29:41,770 わあ すてき! (拍手と笑い声) 300 00:29:41,770 --> 00:29:44,470 いいわねえ。 (拍手と笑い声) 301 00:30:09,800 --> 00:30:28,810 ・~ 302 00:30:28,810 --> 00:30:32,510 ・ごめんなさい。 はい。 303 00:30:34,690 --> 00:30:37,820 お邪魔ですか? 何か? 304 00:30:37,820 --> 00:30:41,490 あんまり天気がいいんでね ちょっと散歩でもしてみようと思って。 305 00:30:41,490 --> 00:30:48,490 ああ 今日は日曜日でしたね。 一緒にどうです? 少し歩いてみませんか。 306 00:30:50,300 --> 00:30:55,770 安岡さん いつかのお金 まだ そのまんまで すいません。 307 00:30:55,770 --> 00:31:00,650 ああ いいんですよ あんなもの。 そのまんまのほうが かえっていいんです。 308 00:31:00,650 --> 00:31:04,450 そんなことって…。 いいえ 本当に。 309 00:31:04,450 --> 00:31:09,320 僕はね あの金が あなたのところにある間は・ 310 00:31:09,320 --> 00:31:12,120 2人の縁が切れないと思って うれしいんですよ。 311 00:31:12,120 --> 00:31:15,990 安岡さん あんた どうして 私みたいな女のことを・ 312 00:31:15,990 --> 00:31:21,470 いつまでも大事にして下さるんです? もっといい人が いくらでもいるでしょ。 313 00:31:21,470 --> 00:31:26,340 いませんね。 いるわよ。 いるかもしれないけど・ 314 00:31:26,340 --> 00:31:30,480 僕の目に入らないんです。 315 00:31:30,480 --> 00:31:33,810 林さん お客さんですよ。 316 00:31:33,810 --> 00:31:36,810 お邪魔しました。 317 00:31:46,160 --> 00:31:50,430 まあ お久しぶり。 318 00:31:50,430 --> 00:31:54,300 しばらく 旅に出てたんですよ。 319 00:31:54,300 --> 00:31:58,000 どうぞ お上がりになって。 320 00:32:00,110 --> 00:32:03,810 階段が急だから 気を付けてね。 321 00:32:09,110 --> 00:32:14,410 どうぞ。 今日も出かけるの? ええ 夕方からね。 322 00:32:19,760 --> 00:32:27,130 随分いい本を持ってるなぁ。 ノヴリス 室生犀星 スチルネル。 323 00:32:27,130 --> 00:32:29,800 なるほど。 324 00:32:29,800 --> 00:32:35,140 駄目なの お金がなくなると 次々売っちまうから。 325 00:32:35,140 --> 00:32:38,480 苦労してるんだなぁ 君も。 326 00:32:38,480 --> 00:32:43,150 しかし 詩なんて作る人間は それなりに人生の重荷を背負ってないと・ 327 00:32:43,150 --> 00:32:47,150 いい詩は生まれないのかもしれないね。 328 00:32:52,760 --> 00:32:56,760 ねえ お天気がいいから外へ出ない? 329 00:33:09,110 --> 00:33:21,120 ・~ 330 00:33:21,120 --> 00:33:27,790 今度 友人たちで詩の同人雑誌を出すから 君にも仲間に入ってもらいたいと思って。 331 00:33:27,790 --> 00:33:30,130 本当!? 332 00:33:30,130 --> 00:33:33,030 それを言いに来たんだよ わざわざ。 333 00:33:33,030 --> 00:33:38,730 うれしいわ。 わあって叫びたいほど。 334 00:33:40,470 --> 00:33:46,350 君は いいなぁ。 どんな苦労も みんな明るく吸い取ってしまう・ 335 00:33:46,350 --> 00:33:50,750 不思議な海綿を胸に持っているみたいだ。 336 00:33:50,750 --> 00:33:53,650 幸福だよ 君は。 337 00:33:53,650 --> 00:33:57,090 伊達さんは 幸福じゃないの? 338 00:33:57,090 --> 00:34:01,430 幸福な人間が いくら信州が好きだからといって・ 339 00:34:01,430 --> 00:34:07,100 家庭を置いて2か月も旅に出ると思う? だって… じゃあ 奥さんとは? 340 00:34:07,100 --> 00:34:12,770 奥さん いるんでしょ? 魚のはらわたのような臭いのね。 341 00:34:12,770 --> 00:34:17,640 僕は 彼女のそばにいるだけで 自分が腐ってゆくような気がするんだ。 342 00:34:17,640 --> 00:34:21,640 (笑い声) 343 00:34:23,420 --> 00:34:27,320 おかしいの? 僕の不幸が。 ごめんなさい。 344 00:34:27,320 --> 00:34:32,790 だって 新しい女を口説く時は 前の女の悪口を言う。 345 00:34:32,790 --> 00:34:37,130 それが お決まりのコースだって…。 346 00:34:37,130 --> 00:34:41,470 あなたも傷ついた人だな。 347 00:34:41,470 --> 00:34:46,340 ねえ 僕たちが この険しい世の中の片隅で・ 348 00:34:46,340 --> 00:34:51,640 2人だけの幸福を願うということは 不可能なことだろうか? 349 00:35:00,420 --> 00:35:04,420 あなたは 僕をなぶっているのが 面白いみたいだ。 350 00:35:06,090 --> 00:35:10,960 なぶる? それは 私のほうが言うことよ。 351 00:35:10,960 --> 00:35:17,700 私は 男に甘い女なの。 自分が怖いから。 352 00:35:17,700 --> 00:35:23,400 自分に懲りてるから。 だから…。 353 00:35:29,110 --> 00:35:31,780 ふみ子さん。 354 00:35:31,780 --> 00:35:40,780 ・~ 355 00:36:07,420 --> 00:36:10,090 ただいま。 356 00:36:10,090 --> 00:36:12,790 (まさ枝)おかえんなさい。 357 00:36:20,100 --> 00:36:22,430 (障子が開く音) 358 00:36:22,430 --> 00:36:26,430 ただいま。 おかえり。 359 00:36:28,310 --> 00:36:31,110 何か見つかったかい? 360 00:36:31,110 --> 00:36:35,980 やっぱりカフェーの女給か 牛飯屋の女中ぐらい。 361 00:36:35,980 --> 00:36:38,450 そう。 362 00:36:38,450 --> 00:36:45,790 今川焼き 嫌い? 今川焼きか 庶民的な食べ物だね。 363 00:36:45,790 --> 00:36:50,060 私の晩ごはんは これで済まそうと思って。 364 00:36:50,060 --> 00:36:53,730 つらいな。 せっかく君が来てくれたのに・ 365 00:36:53,730 --> 00:36:58,600 僕の収入では 2人の生活ができないなんて。 大丈夫よ。 366 00:36:58,600 --> 00:37:02,740 私は 自分が食べるぐらい なんとかするわよ。 367 00:37:02,740 --> 00:37:07,610 牛飯屋の女中だっていいの。 へ~い すき焼き一丁! 368 00:37:07,610 --> 00:37:09,910 (笑い声) 369 00:37:11,750 --> 00:37:18,450 僕はね 君を静かな部屋に置いて 詩だの童話だの書かせたいんだ。 370 00:37:21,430 --> 00:37:26,430 自分の奥さんだって食べさせられないで 別れてるんでしょ? 371 00:37:30,440 --> 00:37:33,770 ふん。 いらなければ みんな私が食べちゃう。 372 00:37:33,770 --> 00:37:36,470 1つ食べようか。 373 00:37:39,110 --> 00:37:42,810 おいしいでしょ? あ~ おいしい。 374 00:37:45,980 --> 00:37:51,690 あんたの奥さんって きれいな人でしょ? うん きれいだ。 375 00:37:51,690 --> 00:37:57,400 憎らしい人。 どうして その奥さんのところへ帰らないのよ。 376 00:37:57,400 --> 00:38:02,270 君は残酷な人だね。 僕にとって 今 君が一番必要だってことが・ 377 00:38:02,270 --> 00:38:09,740 どうして分からないの? 今だけ… ね? ばか。 378 00:38:09,740 --> 00:38:12,410 さみしいのよ。 379 00:38:12,410 --> 00:38:15,310 こんなかわいい人を いじめた男がいるなんて…。 380 00:38:15,310 --> 00:38:18,280 僕に もっと金があったらなぁ。 381 00:38:18,280 --> 00:38:23,420 私こそ あんたに お金の苦労なんかさせたくないわ。 382 00:38:23,420 --> 00:38:30,300 僕は もうじき食えなくなる。 もともと 詩を書いてるぐらいじゃ食えないがね。 383 00:38:30,300 --> 00:38:35,430 どうしても芝居に出なくちゃ。 芝居は嫌なんでしょ? 384 00:38:35,430 --> 00:38:42,430 嫌さ。 大勢の目の前にさらされるなんて 僕には耐えきれない。 385 00:38:44,110 --> 00:38:51,110 ねえ 私 明日から働きに行くわ。 あんたと2人ぐらい どうにでもなるわ。 386 00:38:56,050 --> 00:38:59,720 へ~い すき焼き一丁! 387 00:38:59,720 --> 00:39:02,390 (笑い声) 388 00:39:02,390 --> 00:39:05,730 どう うまいでしょう? はい。 389 00:39:05,730 --> 00:39:09,400 よ~し。 君 生まれは どこだ? 丹波の山の中よ。 390 00:39:09,400 --> 00:39:13,070 ほ~う 丹波たぁ どこだい? さあ どこだろ。 391 00:39:13,070 --> 00:39:15,970 こいつ! さあ もう一杯飲め 丹波の山猿。 392 00:39:15,970 --> 00:39:20,410 山猿? 言ったわね。 飲みゃいいんでしょ 飲みゃ。 393 00:39:20,410 --> 00:39:23,080 (笑い声) へい。 394 00:39:23,080 --> 00:39:28,420 あ~ あんまり飲ませないでよ。 この人 まだ慣れないんだから。 395 00:39:28,420 --> 00:39:35,290 ・「寝ては夢 起きてはうつつ幻の」 396 00:39:35,290 --> 00:39:42,430 いやっ いいぞ! ・「水に写りし 月の影」 397 00:39:42,430 --> 00:39:48,110 ほれ! ・「手に取れざると 知りながら」 398 00:39:48,110 --> 00:39:54,980 ・「ああぐっしょりと 濡れてみたいが人の常」 399 00:39:54,980 --> 00:39:59,120 ・「恋は 思案の帆かけ船」 400 00:39:59,120 --> 00:40:08,460 ・「どこの港に 着くじゃやら」 401 00:40:08,460 --> 00:40:18,470 ・「この路ばかりは 別ものじゃ」 402 00:40:18,470 --> 00:40:21,140 (笑い声) 403 00:40:21,140 --> 00:40:23,810 おふみさん ちょっと。 404 00:40:23,810 --> 00:40:29,150 ・「濡れてみたいが人の常」か。 (笑い声) 405 00:40:29,150 --> 00:40:33,490 面白い女中さんだね。 変わってるよ。 (笑い声) 406 00:40:33,490 --> 00:40:39,160 あそこ お澄さんの番でしょ? いつまでも 座り込んでちゃ駄目じゃないの! はい。 407 00:40:39,160 --> 00:40:45,030 来たばっかりなのに酔っ払ったりして。 おかみさんが呼んでるわよ。 408 00:40:45,030 --> 00:40:48,430 あら 今頃どうしたんです? 409 00:40:48,430 --> 00:40:53,100 辞めちゃった あんなお店…。 辞めさせられちゃったの。 410 00:40:53,100 --> 00:40:55,440 まあ。 いる? あの人。 411 00:40:55,440 --> 00:40:58,340 昼過ぎ お出かけになったきりですよ。 そう。 412 00:40:58,340 --> 00:41:04,340 お店辞めちゃったって あんた。 間代は なんとかしますから。 大丈夫よ。 413 00:41:17,130 --> 00:41:39,150 ・~ 414 00:41:39,150 --> 00:41:43,020 おばさん 針と糸 貸してくれない? 415 00:41:43,020 --> 00:41:46,830 あら まだ買ってないんですか? 忘れちゃったのよ。 416 00:41:46,830 --> 00:41:51,430 袖口も袖付けも綻びてんの。 貸してごらんなさい 縫ってあげるから。 417 00:41:51,430 --> 00:41:55,300 すいません。 じゃ お願いするわ。 418 00:41:55,300 --> 00:41:58,770 (まさ枝)あら ふみ子さん。 419 00:41:58,770 --> 00:42:05,110 手紙が入ってますよ。 女の名前ですよ。 日夏京子…。 大丈夫ですか? 420 00:42:05,110 --> 00:42:09,980 知ってる人よ。 女優さん。 伊達と一緒に仕事してるの。 421 00:42:09,980 --> 00:42:14,120 何でもなきゃいいけど。 あんたの旦那さん いい男だから。 422 00:42:14,120 --> 00:42:16,450 大丈夫よ。 423 00:42:16,450 --> 00:42:43,480 ・~ 424 00:42:43,480 --> 00:42:49,750 (京子)「ねえ 春彦さん あれは『桜の園』の舞台稽古の晩よ。・ 425 00:42:49,750 --> 00:42:54,090 あの晩に 私は あなたのお嫁さんになったわ。・ 426 00:42:54,090 --> 00:42:59,960 それ以来 私たちの間には 夫と妻の関係が続けられています」。 427 00:42:59,960 --> 00:43:12,440 ・~ 428 00:43:12,440 --> 00:43:16,780 (京子)「あなたは お金ができしだい 家を持とうとおっしゃった。・ 429 00:43:16,780 --> 00:43:20,650 それなのに あなたの下宿にいる あの女は何?・ 430 00:43:20,650 --> 00:43:26,950 あなたは女中だとおっしゃるけれど 私には信じられません」。 431 00:43:29,790 --> 00:43:33,470 (京子)何だか女臭いわね この部屋。 432 00:43:33,470 --> 00:43:36,800 その人も ここで寝るんでしょ? 433 00:43:36,800 --> 00:43:41,470 ばかな。 僕が いつも 孤独と向かい合ってる部屋だ。 434 00:43:41,470 --> 00:43:45,140 あの女は 下の納戸部屋に 寝かしてもらってる。 435 00:43:45,140 --> 00:43:48,140 本当? 本当だよ。 436 00:43:54,950 --> 00:43:58,090 いつか詩の仲間が酔っ払って ここへ遊びに来た時・ 437 00:43:58,090 --> 00:44:02,430 後から ついてきたんだよ。 その晩 ここへ雑魚寝して…。 438 00:44:02,430 --> 00:44:07,300 そうだ… 明くる朝 起きたら 掃除したり 洗濯したりしてるんだ。 439 00:44:07,300 --> 00:44:10,300 すっかり この部屋の女中気取りでね。 440 00:44:10,300 --> 00:44:15,010 ・(京子)その女が 女中だけで ここにいるとは信じられないわ。 441 00:44:15,010 --> 00:44:17,780 ・(伊達)どうして そう疑い深いんだ。 442 00:44:17,780 --> 00:44:24,650 だって… 私 もう一時も あなたと離れてなんていられないの。 443 00:44:24,650 --> 00:44:28,420 結婚すれば 朝から晩まで一緒にいられるじゃないか。 444 00:44:28,420 --> 00:44:33,120 いつ結婚できるの? だから 金ができしだいと言ってるだろう。 445 00:44:33,120 --> 00:44:37,800 私ね 両親に話して お金出してもらおうと思うの。 446 00:44:37,800 --> 00:44:42,130 大丈夫かい? そりゃあ 娘がちゃんと結婚するんですもの・ 447 00:44:42,130 --> 00:44:44,800 親は喜んで…。 448 00:44:44,800 --> 00:44:47,100 京子。 449 00:44:51,610 --> 00:44:54,310 ただいま。 450 00:44:57,080 --> 00:45:00,780 どうしたんだい 今日は早いじゃないか。 451 00:45:02,420 --> 00:45:06,760 この方 どなた? 452 00:45:06,760 --> 00:45:11,630 うん… 東京新劇場の日夏京子さんだ。 453 00:45:11,630 --> 00:45:15,770 詩も書く。 名前ぐらい知ってんだろう 君も。 454 00:45:15,770 --> 00:45:22,070 東京新劇場だの 詩を書くは余計よ。 あなたの妻だって言えばいいのよ。 455 00:45:23,640 --> 00:45:26,340 妻は 私です。 456 00:45:28,110 --> 00:45:33,110 もう一度 言ってちょうだい。 妻は 私です。 457 00:45:38,460 --> 00:45:44,130 林さん… この人は 僕の妻なんだ。 458 00:45:44,130 --> 00:45:50,940 病気で入院してるって奥さんですか? それとも別に…? 459 00:45:50,940 --> 00:45:55,410 どっちでもいいでしょ? 林さん。 460 00:45:55,410 --> 00:45:59,710 夫から名字で呼ばれる妻なんて あるかしら。 461 00:46:01,280 --> 00:46:05,750 もう この部屋に あなたの御用はないわ。 お帰りんなったら。 462 00:46:05,750 --> 00:46:10,090 京子さん もういいよ。 ビールでも買ってこないか? 463 00:46:10,090 --> 00:46:13,760 3人で飲もうよ。 女中さんと一緒に? 464 00:46:13,760 --> 00:46:17,100 私は嫌よ。 飲むんなら外へ行って飲みましょう。 465 00:46:17,100 --> 00:46:19,400 京子さん。 466 00:46:22,430 --> 00:46:25,430 後で話し合うからね。 467 00:46:29,770 --> 00:46:48,070 (泣き声) 468 00:47:02,410 --> 00:47:06,740 ・~(歌声) 469 00:47:06,740 --> 00:47:15,420 ・ 恋の白樺 風吹き渡る 470 00:47:15,420 --> 00:47:24,100 ・ 浮名流した あの主さんも 471 00:47:24,100 --> 00:47:32,440 ・ 北のシベリヤ バイカルじゃ 472 00:47:32,440 --> 00:47:40,780 ・ 顔も黒々 権兵衛の姿 473 00:47:40,780 --> 00:47:48,590 ・ 広い荒野に 種まきしてござる 474 00:47:48,590 --> 00:47:52,390 (一同)あら エッサッサア! 475 00:47:52,390 --> 00:47:56,060 (拍手と笑い声) 476 00:47:56,060 --> 00:47:58,960 アンコール! もう一度やれ。 およしなさいよ! 477 00:47:58,960 --> 00:48:02,730 寒いのに汗かいてるじゃないの。 あ~ きつい。 一杯 飲ませて。 478 00:48:02,730 --> 00:48:05,030 ああ。 479 00:48:06,600 --> 00:48:10,410 君は 九州だな? あら どうして? 480 00:48:10,410 --> 00:48:14,280 疲れたことを「きつい」なんて言うのは 九州か四国だよ。 481 00:48:14,280 --> 00:48:19,750 見破られたか。 子どもの頃 あの辺を歩き回ったのよ。 482 00:48:19,750 --> 00:48:24,420 長崎 佐世保 久留米 下関 門司 戸畑。 483 00:48:24,420 --> 00:48:28,090 4年の間に7つも学校を変わったわ。 484 00:48:28,090 --> 00:48:33,770 (時子)今 これだけしかないわ。 もうちょっと なんとかならないかねえ。 485 00:48:33,770 --> 00:48:37,100 無理よ お母さん… 突然やって来たって。 486 00:48:37,100 --> 00:48:42,800 でもねえ お父つぁんが すっかり風邪をこじらしちまって…。 487 00:48:44,440 --> 00:48:48,310 少しならあるよ。 あら いいのよ。 488 00:48:48,310 --> 00:48:52,720 いくらか足しになるだろ さあ。 489 00:48:52,720 --> 00:48:59,060 すいません。 お母さん。 どうも すみません。 490 00:48:59,060 --> 00:49:05,400 時ちゃんも精いっぱいやってるんだから お母さんも あんまり無理言わないでね。 491 00:49:05,400 --> 00:49:07,730 そりゃあ もう…。 492 00:49:07,730 --> 00:49:16,410 (ざわめき) 493 00:49:16,410 --> 00:49:20,080 (勝代)またオッカサン 来たんだって? ええ。 494 00:49:20,080 --> 00:49:22,750 しっかり稼がなきゃ駄目だよ。・ 495 00:49:22,750 --> 00:49:27,420 お女郎屋へ身売りでもするようになったら 大変だからね。 あっ ふみちゃん・ 496 00:49:27,420 --> 00:49:31,290 あんたの番じゃないけど 踊ったから これ はい。 すいません。 497 00:49:31,290 --> 00:49:34,760 大体うちの女給さんたちは おとなしすぎるんだよ。 498 00:49:34,760 --> 00:49:38,430 よそじゃ大変なサービスだってよ。 (初子)ふみちゃん。 499 00:49:38,430 --> 00:49:41,770 あんたに会いたいって人が来たわよ。 500 00:49:41,770 --> 00:49:45,770 (白坂)あっ ビール持ってきてよ。 はい。 501 00:49:53,780 --> 00:49:56,680 (みどり)おふみさんって この人よ。 502 00:49:56,680 --> 00:50:00,450 (白坂)あなたが 林ふみ子さん? ええ。 503 00:50:00,450 --> 00:50:04,320 (上野山)「大和新聞」に 「工女の歌える」って詩を出した人だね? 504 00:50:04,320 --> 00:50:08,130 ええ。 みんな あなたの詩を感心したんですよ。 505 00:50:08,130 --> 00:50:11,460 あっ そうだ 僕 あの 「太平洋詩人」の白坂です。 506 00:50:11,460 --> 00:50:15,330 ああ 白坂さん。 「四角い月」って詩集を出した…。 507 00:50:15,330 --> 00:50:20,810 そうです。 読んでくれました? ええ。 僕は 上野山だ。 508 00:50:20,810 --> 00:50:25,480 あんたの歌集も知ってます。 「プロレタリヤは歌う」でしたわね。 509 00:50:25,480 --> 00:50:31,150 君の「工女の歌える」は いい詩だったよ。 貧乏な人間の体臭がにじみ出てたな。 510 00:50:31,150 --> 00:50:38,820 私 貧乏では人に負けませんから。 フフッ。 どうだい 我々の仲間へ入らないか? 511 00:50:38,820 --> 00:50:43,690 上野山は 赤旗同盟の詩人ですからね まあ 巻き添え食って・ 512 00:50:43,690 --> 00:50:47,500 あの豚箱に入れられちゃいますよ。 513 00:50:47,500 --> 00:50:53,300 大丈夫 私は貧乏だけど 赤旗振るのは嫌いだから。 514 00:50:53,300 --> 00:50:56,310 赤旗が無駄だって言うのか? 515 00:50:56,310 --> 00:50:59,780 世の中には そんなこと言ってる ゆとりもない貧乏人が・ 516 00:50:59,780 --> 00:51:02,450 た~くさんいるってこと。 517 00:51:02,450 --> 00:51:06,320 こちら おとなしいわね。 本当ね。 518 00:51:06,320 --> 00:51:11,790 あっ 忘れてた。 この間 太平洋詩人賞をもらった福地です。 519 00:51:11,790 --> 00:51:16,130 (福地)まだ もらうかどうか分からんよ。 返すかもしれない。 520 00:51:16,130 --> 00:51:19,030 みんな もう 一ひねりした人間ばっかりでしょう。 521 00:51:19,030 --> 00:51:22,470 面白いわ。 じゃあ 君も書いてくれますか? 522 00:51:22,470 --> 00:51:28,140 「太平洋詩人」に。 えっ 私に詩を書けって言うんですか? 523 00:51:28,140 --> 00:51:32,810 そうだよ 頼んでんだよ。 君みたいな 素っ裸な詩を書くやつがいないんだよ・ 524 00:51:32,810 --> 00:51:35,480 男にも女にもね。 525 00:51:35,480 --> 00:51:40,350 書きます。 書きますよ! エヘヘ。 書きますとも。 526 00:51:40,350 --> 00:51:44,160 ただし 原稿料出ないよ。 いりません 原稿料なんか。 527 00:51:44,160 --> 00:51:48,990 そりゃあ もらえれば うれしいけど みんな 原稿料なしで書いてるんでしょ? 528 00:51:48,990 --> 00:51:51,430 そうだよ。 529 00:51:51,430 --> 00:51:55,300 書かせてもらう お礼に このビール3本だけ おごるわ! 530 00:51:55,300 --> 00:52:00,000 ありがとう。 賄賂もらうようなものだな。 どうぞ。 531 00:52:07,450 --> 00:52:14,320 どうしたの? おふみねえさんの顔 とてもきれい。 532 00:52:14,320 --> 00:52:19,790 え? 私の顔が? ええ そうやって・ 533 00:52:19,790 --> 00:52:24,660 一生懸命 書いてる時の顔 本当にきれいだわ。 534 00:52:24,660 --> 00:52:30,130 へえ そう…。 うまくいかないものね・ 535 00:52:30,130 --> 00:52:35,810 お店に出てる時 そのくらいきれいだと チップがたくさんもらえるのに。 536 00:52:35,810 --> 00:52:40,680 私も ねえさんみたいに 何か書けたら書くんだけど…。 537 00:52:40,680 --> 00:52:46,980 羨ましいわ。 ねえさん きっと今に偉くなるわね。 538 00:52:49,350 --> 00:52:54,290 私が詩を書いてるのは これだけじゃないんだぞ・ 539 00:52:54,290 --> 00:52:58,760 私の人生は これだけで 終わるんじゃないんだぞって・ 540 00:52:58,760 --> 00:53:03,430 自分に言い聞かせて せめてもの慰めにしてんのよ。 541 00:53:03,430 --> 00:53:07,300 偉くなれるなんて思ってやしないわ。 542 00:53:07,300 --> 00:53:13,780 それにね 私は学問がないから 難しいことは書けないのよ。 543 00:53:13,780 --> 00:53:17,110 詩は 学問がなくても書けるからね。 544 00:53:17,110 --> 00:53:22,110 あれば もっと書けるけど なくっても書けんのよ。 545 00:53:23,790 --> 00:53:26,460 私も このままじゃいけない・ 546 00:53:26,460 --> 00:53:32,130 なんとかしなくちゃいけないと 思うんだけど 何ともなりゃしないわ。 547 00:53:32,130 --> 00:53:37,000 お父さんは体が弱いし お母さんは意気地がないし。 548 00:53:37,000 --> 00:53:41,810 また今日も ねえさんに お金借りちまったわね…。 549 00:53:41,810 --> 00:53:45,480 あんなもの 気にしなくてもいいのよ。 550 00:53:45,480 --> 00:53:51,750 私ね あんたのお母さんを見ると 田舎のお母さんを思い出しちゃってさ・ 551 00:53:51,750 --> 00:53:55,420 何だか ひと事でなくなっちゃうのよ。 552 00:53:55,420 --> 00:54:01,090 一緒にいると よくケンカしちゃうくせに 遠くに離れてると・ 553 00:54:01,090 --> 00:54:05,430 時々 無性に顔が見たくなったりするの。 554 00:54:05,430 --> 00:54:11,300 一生に一度でいいから お母さんに絹の着物を着せて・ 555 00:54:11,300 --> 00:54:16,770 絹の座布団に座らせて 好きなもの 嫌っていうほど・ 556 00:54:16,770 --> 00:54:20,110 おなかいっぱい食べさしてやりたいわ。 557 00:54:20,110 --> 00:54:25,980 誰? また ふみちゃんだろう!? いつまでも電灯つけっぱなしにして! 558 00:54:25,980 --> 00:54:28,680 うるさいわねえ。 559 00:54:34,460 --> 00:54:36,760 (笑い声) 560 00:54:38,330 --> 00:54:42,630 あ~ 寝ぼけてさ。 ほら。 561 00:54:57,680 --> 00:55:00,080 しばらくでした。 562 00:55:00,080 --> 00:55:04,760 しばらく。 誰かと思ったら…。 563 00:55:04,760 --> 00:55:08,090 2~3日前に 本郷の あなたの下宿のそばまで行ったんで・ 564 00:55:08,090 --> 00:55:11,960 ちょっと寄ってみたんです。 そしたら こっちだって聞いたもんで。 565 00:55:11,960 --> 00:55:16,770 大変なとこでしょう。 すぐそこが遊郭…。 566 00:55:16,770 --> 00:55:23,640 ここに住み込んでるんですか? ええ。 ここじゃ勉強もできないでしょう。 567 00:55:23,640 --> 00:55:29,780 チップを稼いで食べていくのが やっと…。 568 00:55:29,780 --> 00:55:33,780 伊達さんって ひどい人ですね。 569 00:55:40,420 --> 00:55:46,720 廓の人ですね。 そうね。 嫌ですねえ。 570 00:55:49,270 --> 00:55:54,740 安岡さん お借りしたお金 そのうちに なんとかしますから。 571 00:55:54,740 --> 00:55:57,640 いいんですよ あんなもの。 気にしないで下さいって・ 572 00:55:57,640 --> 00:56:01,610 いつかも言ったでしょう。 でも…。 本当にいいんですから。 573 00:56:01,610 --> 00:56:07,750 じゃ どうもお邪魔しました。 すいません。 くどいようですが・ 574 00:56:07,750 --> 00:56:11,420 これからも何か御用があったら いつでも遠慮なく連絡して下さい。 575 00:56:11,420 --> 00:56:17,720 すぐ飛んできますから。 ありがとう。 失礼します。 ごめんなさい。 576 00:56:32,440 --> 00:56:36,780 <神様。 神様というもの…。・ 577 00:56:36,780 --> 00:56:42,120 一体 あなたは 本当に私の周りにも 立っているのか言って下さい。・ 578 00:56:42,120 --> 00:56:45,990 きっと私のような者のところには 来ないでしょう?・ 579 00:56:45,990 --> 00:56:49,930 神様 私には一向に見えない。・ 580 00:56:49,930 --> 00:56:54,400 そのくせ 私は 見えない あなたに手を合わせる。・ 581 00:56:54,400 --> 00:56:59,740 この原稿が 童話が 明日の糧になりますように…> 582 00:56:59,740 --> 00:57:05,740 うちの雑誌には あまり無名な人の作品は 載せたくないんでねえ。 583 00:57:07,610 --> 00:57:12,320 一生懸命に書いてみたんですけど 駄目でしょうか? 584 00:57:12,320 --> 00:57:18,090 まあ とにかく預かっとく。 読んでみて 採用するにしても 原稿料は安いよ。 585 00:57:18,090 --> 00:57:21,960 初めての人は1枚 30銭も無理だなぁ。 586 00:57:21,960 --> 00:57:25,960 20銭でもいいから お願いします。 587 00:57:28,430 --> 00:57:33,100 10枚… 1円50銭だな。 588 00:57:33,100 --> 00:57:37,980 それでも結構です。 まあ よく勉強するんだね。 589 00:57:37,980 --> 00:57:41,780 アンデルセンでも読みたまえ。 590 00:57:41,780 --> 00:57:45,780 はい アンデルセンを読みます。 591 00:57:51,390 --> 00:57:54,390 (あくび) 592 00:57:57,060 --> 00:57:59,760 8杯! 593 00:58:03,730 --> 00:58:08,610 (勝代)ありがとうございます。 9杯! ねえさん 大丈夫? 594 00:58:08,610 --> 00:58:10,910 大丈夫よ。 595 00:58:12,740 --> 00:58:15,410 10杯! わあ すごい! 596 00:58:15,410 --> 00:58:18,080 10杯 飲んじゃったよう! こいつぁ 俺の負けだ。 597 00:58:18,080 --> 00:58:20,750 え~ 10杯も飲んじゃったのかい? うん! 598 00:58:20,750 --> 00:58:23,420 さあ ご褒美は? うん? 599 00:58:23,420 --> 00:58:26,760 10杯飲んだら 10円下さるって約束でしょ。 600 00:58:26,760 --> 00:58:30,630 え~ しょうがねえや。 うん。 601 00:58:30,630 --> 00:58:34,430 すごいねえ ふみちゃん。 仲よくしようね。 602 00:58:34,430 --> 00:58:38,100 私も おごってもらわなくちゃねえ。 フフフ。 603 00:58:38,100 --> 00:58:41,010 あら! いらっしゃいませ まあ。 604 00:58:41,010 --> 00:58:43,970 (田村)時ちゃん どうした? 時ちゃん。 え? え~ 時ちゃん。 605 00:58:43,970 --> 00:58:47,110 どうぞどうぞ こちらへ。・ 606 00:58:47,110 --> 00:58:50,410 時ちゃん! はい。 607 00:58:52,720 --> 00:58:55,620 (勝代)ちょっと おちょうし 持ってらっしゃい 早く。 (浅子)はい。 608 00:58:55,620 --> 00:58:59,390 いらっしゃいませ。 さあ 時ちゃん 親分のそばへね。 609 00:58:59,390 --> 00:59:03,060 さあ 帰るよ。 (初子)あら もうお帰り? ああ。 610 00:59:03,060 --> 00:59:05,960 (勝代)あっ お帰りですか? うん また来るよ。 611 00:59:05,960 --> 00:59:09,400 あっ そうですか。 またどうぞ。 またね! (八重)またどうぞ。 612 00:59:09,400 --> 00:59:11,740 いらっしゃいませ。 613 00:59:11,740 --> 00:59:17,070 相変わらずだなぁ 時ちゃんは。 美人で上品で。 614 00:59:17,070 --> 00:59:22,410 まったく「掃きだめに鶴」だよ。 あら! じゃ 私たちは みんな掃きだめ? 615 00:59:22,410 --> 00:59:26,750 (西原)そうだよ。 お前らは みんな あばずれの掃きだめじゃねえかよ。 616 00:59:26,750 --> 00:59:31,620 そんなこと言っちゃ かわいそうですよ。 失礼しちゃうわねえ。 チェッ。 617 00:59:31,620 --> 00:59:36,090 どうだい 時ちゃん 今晩 俺と つきあわねえか? 618 00:59:36,090 --> 00:59:39,760 つきあうって 何のことですの? 619 00:59:39,760 --> 00:59:44,100 とぼけるなよ。 親分と寝るこったよ。 余計な口出しすんな。 620 00:59:44,100 --> 00:59:49,770 時ちゃんは うぶで なかなか 話が通じねえところが 俺 うれしいんだ。 621 00:59:49,770 --> 00:59:53,440 うぶな時ちゃんに あんまり変なこと言わないでよ。 622 00:59:53,440 --> 00:59:56,110 ほっとけば いずれは お前らのようになるんだ。 623 00:59:56,110 --> 01:00:00,780 そうはならないように 俺が守ってやろうというんだよ。 うん? 624 01:00:00,780 --> 01:00:07,120 金の星には 50銭で言うことを聞く女給が たくさんいるって評判だぜ。 625 01:00:07,120 --> 01:00:11,800 ばかにしてるわ。 うちにゃ そんな子いませんよ。 626 01:00:11,800 --> 01:00:19,140 これじゃ 50銭は払えねえよ。 なあ? おい。 まあ 35銭ってとこだなぁ。 627 01:00:19,140 --> 01:00:24,480 35銭の淫売か。 ハハハハ こりゃいい! (笑い声) 628 01:00:24,480 --> 01:00:29,150 ばか野郎! 何言ってやんでぇ。 629 01:00:29,150 --> 01:00:32,820 何だ こいつは! ふみちゃん。 ば… ばか野郎とは何だ! 630 01:00:32,820 --> 01:00:35,490 ばか野郎に ばか野郎って言ったのが どうしたのよ? 631 01:00:35,490 --> 01:00:38,390 ふみちゃん あんた酔っ払ってるんだから 奥へ行って お休みよ。・ 632 01:00:38,390 --> 01:00:42,160 何 ボヤボヤしてんだよ。 いいから ふみちゃんを早く奥へ連れてって! 633 01:00:42,160 --> 01:00:45,830 さあ 行こう ふみさん。 人間の面なんてぇのは 上等か下等か・ 634 01:00:45,830 --> 01:00:48,430 本人が一番よく知ってんだ。 635 01:00:48,430 --> 01:00:51,770 他人に言われなくたって 鏡を見りゃ分かるんだい! 636 01:00:51,770 --> 01:00:57,110 何? 親分 時ちゃんのお酌で 機嫌直して下さいましね。 西原さんもね。 637 01:00:57,110 --> 01:00:59,440 どうぞ。 さあ どうぞ。 さあさあさあ。 638 01:00:59,440 --> 01:01:04,110 人間はねえ… 人間はねえ 食わなきゃ死んじまうんだよ。 639 01:01:04,110 --> 01:01:07,990 2日も3日も食わずにいて 腹が減って死にそうになったら・ 640 01:01:07,990 --> 01:01:10,990 50銭だろうが 10銭だろうが 淫売でもするよ。 641 01:01:10,990 --> 01:01:14,460 ふみちゃん いいかげんにおし! あんたたち 何してんだよ! 642 01:01:14,460 --> 01:01:17,360 さあ 向こう向こう…。 いい年しやがって・ 643 01:01:17,360 --> 01:01:21,800 世の中の裏表も知らねえやつが 大きな面するな! 644 01:01:21,800 --> 01:01:27,670 (田村)このアマ 外へ出ろ! ああ 出るよ。 出て どうすんのさ? 645 01:01:27,670 --> 01:01:31,810 ふみちゃん あんた 今日かぎり店を辞めてちょうだい。 646 01:01:31,810 --> 01:01:35,680 生意気なこと言いやがって! ばっきゃろう! 647 01:01:35,680 --> 01:01:38,680 よしてよ! 酔ってんじゃないの。 648 01:01:38,680 --> 01:01:42,820 くそ面白くもねえ 帰ろう。 まあ 親分 じゃあ 隣の亀すしへ・ 649 01:01:42,820 --> 01:01:46,690 席替えて飲み直して下さいましよ。 ねえ 時ちゃん あんた 親分のお供をして。 650 01:01:46,690 --> 01:01:50,630 ね? さあ。 さあさあ 親分 参りましょう。 651 01:01:50,630 --> 01:01:54,100 ねえ 景気よく飲み直して下さいましよ。 お願いですよ。・ 652 01:01:54,100 --> 01:01:57,400 それでなきゃあ 私 困っちまうんだからさ。 653 01:01:58,970 --> 01:02:03,970 ばかにしてるよ。 何が親分だい。 本当だよ。 654 01:02:06,680 --> 01:02:10,110 おふみさん いる? あら いらっしゃい。 655 01:02:10,110 --> 01:02:13,450 あ~ いたいたいた。 いらっしゃいませ。 おふみさん いたよ。 656 01:02:13,450 --> 01:02:16,790 どうしてる? う~ん 相変わらずよ。 657 01:02:16,790 --> 01:02:20,460 (初子)いらっしゃいませ。 やあ。 658 01:02:20,460 --> 01:02:23,160 いらっしゃいませ。 659 01:02:25,800 --> 01:02:30,470 (白坂)あっ ビールちょうだいよ。 (みどり)は~い。 660 01:02:30,470 --> 01:02:35,340 紹介するよ。 林ふみ子君。 こちらね 日夏京子君。 661 01:02:35,340 --> 01:02:42,340 我々の仲間でね やっぱり詩… 詩を書いてんだよ。 あっ そうだ。 662 01:02:44,010 --> 01:02:47,950 おふみさんも京子君も 伊達の細君だったんじゃないか。 663 01:02:47,950 --> 01:02:51,950 何だい…。 どっちが先だったの? 664 01:02:53,690 --> 01:02:59,100 私が先で 私が後よ。 で おふみさん 真ん中? 665 01:02:59,100 --> 01:03:02,770 ハハッ。 ふん そうだったの…。 はぁ。 666 01:03:02,770 --> 01:03:09,110 私ね 別れたのよ 彼と。 そう。 667 01:03:09,110 --> 01:03:14,980 男のくせに うぬぼればっかり強いの。 始末に負えないわね。 668 01:03:14,980 --> 01:03:21,450 まったく…。 美男子だったら 女をだます権利があると思ってんのよ。 669 01:03:21,450 --> 01:03:28,330 君たち2人ね 女2人だけで同人雑誌 出さない? 670 01:03:28,330 --> 01:03:31,460 私たち2人で? 671 01:03:31,460 --> 01:03:37,330 うん。 男をやっつける詩ばかり書いたって いいじゃないの。 672 01:03:37,330 --> 01:03:42,110 私は やっつけきれないわ。 だまされても だまされても・ 673 01:03:42,110 --> 01:03:46,010 男に惚れちゃうんだから。 正直ね。 674 01:03:46,010 --> 01:03:50,410 でも お金がないわ。 僕が補助してあげるよ。 675 01:03:50,410 --> 01:03:56,090 毎月 親から送ってくる金が余るんだよ。 どうせ 俺たちで飲んじまうだけだ。 676 01:03:56,090 --> 01:04:02,430 飲めなくなるのは残念だけどね 君たち2人で雑誌を出すのは 俺も賛成だ。 677 01:04:02,430 --> 01:04:06,300 いくら いい詩を書いたからったってね 人に読んでもらえなかったら・ 678 01:04:06,300 --> 01:04:10,300 意味ないもんね。 白坂さん 前から そう言ってたわね。 679 01:04:10,300 --> 01:04:14,770 2人の雑誌だけど 私は添え物でしょ? 680 01:04:14,770 --> 01:04:17,440 どうして? 681 01:04:17,440 --> 01:04:23,780 白坂さん 日夏さんが好きなんでしょ? 冗談言うなよ。 682 01:04:23,780 --> 01:04:27,450 隠すことないじゃないか。 おいおい。 683 01:04:27,450 --> 01:04:34,790 出さない? 2人で雑誌。 雑誌の題名も「ふたり」ってのは どう? 684 01:04:34,790 --> 01:04:43,470 ひとりの男の女房だった女が ふたりでね…。 フフッ 面白いじゃない。 685 01:04:43,470 --> 01:04:47,170 うん 出そうか。 出そう。 686 01:04:49,070 --> 01:04:54,410 決まった。 発行所は 僕が南天堂に頼んであげる。 687 01:04:54,410 --> 01:04:58,280 白坂も本望だろう 日夏君に尽くしてやれて。 こだわるなぁ。 688 01:04:58,280 --> 01:05:01,750 ハハッ。 好きんなったら いつか あんたと結婚するわ。 689 01:05:01,750 --> 01:05:04,420 当てにしないで待ってます。 さみしいわねえ。 690 01:05:04,420 --> 01:05:07,090 無理に さみしくすんなよ。 おい おふみさん・ 691 01:05:07,090 --> 01:05:09,990 君も さみしくなったら 俺のところに来いよ。 692 01:05:09,990 --> 01:05:14,970 飯代を稼いできたら 生理的要求は かなえてやるぞ。 693 01:05:14,970 --> 01:05:20,640 ずうずうしいやつだなぁ。 女に飯食わしてもらうつもりでいんの? 694 01:05:20,640 --> 01:05:25,110 そのぐらい惚れてこいっていうんだよ。 同じじゃねえか ねえ? 695 01:05:25,110 --> 01:05:27,780 (笑い声) 696 01:05:27,780 --> 01:05:31,110 でも はっきりしてていいわね。 697 01:05:31,110 --> 01:05:35,450 え? はっきりねえ。 (笑い声) 698 01:05:35,450 --> 01:05:39,790 乾杯しようよ。 おい 君たち コップ持って おいでよ。 飲もう 飲もう。 699 01:05:39,790 --> 01:05:42,090 は~い! 700 01:06:00,080 --> 01:06:04,750 <そのくせ 頭の中には つまらぬことも浮かんでくる。・ 701 01:06:04,750 --> 01:06:09,420 あの人も恋しい この人も懐かしや・ 702 01:06:09,420 --> 01:06:13,290 南無阿弥陀仏のお釈様> 703 01:06:13,290 --> 01:06:15,990 ありがとうございました。 704 01:06:22,000 --> 01:06:25,440 あっ いらっしゃいませ。 林さん いる? はい。 705 01:06:25,440 --> 01:06:28,100 ・あら 福地さん? 706 01:06:28,100 --> 01:06:31,100 ああ。 どうぞ。 707 01:06:32,780 --> 01:06:36,650 こんな雨の中をよく来てくれたわね。 え~。 708 01:06:36,650 --> 01:06:40,450 こんな雨じゃ どこへも行くところがないからな。 709 01:06:40,450 --> 01:06:46,120 せっかく来てくれたけど お構いできないわよ。 ああ。 710 01:06:46,120 --> 01:06:49,990 今朝 五銭玉が1つあったんで あめ玉を5つ買ってきて・ 711 01:06:49,990 --> 01:06:53,400 露命をつないでるとこ。 カフェー行かないの? 712 01:06:53,400 --> 01:06:56,700 うん。 ここんとこ ず~っと。 713 01:06:59,270 --> 01:07:06,410 ねえ 私の脚 ずくずくに膨らんできたのよ。 714 01:07:06,410 --> 01:07:11,080 ほら 押すと穴が開くでしょ。 715 01:07:11,080 --> 01:07:14,420 麦飯をどっさり食べるといいんだよ。 716 01:07:14,420 --> 01:07:20,420 どっさり食べるということが問題よ。 どっさりとね。 717 01:07:22,290 --> 01:07:28,430 今 何が食べたいんだ? ゆで卵。 それから? 718 01:07:28,430 --> 01:07:35,110 あんこのたい焼き。 フフッ それから? いちごのジャムパン。 それから? 719 01:07:35,110 --> 01:07:39,980 蓬来軒のシナソバ。 それから? 意地悪! 720 01:07:39,980 --> 01:07:45,750 おなかがグーグー鳴ってきたわ。 ハハハハ! 食べに行こう。 721 01:07:45,750 --> 01:07:50,590 原稿料が入ったんだ。 「中央公論」に論文を書いてね。 722 01:07:50,590 --> 01:07:56,730 まあ すごいじゃないの! どうして それを早く言わないのよ。 723 01:07:56,730 --> 01:08:01,060 大したことはないさ たま~に 思い出したように原稿料が入ったって・ 724 01:08:01,060 --> 01:08:03,730 どうってことはないよ。 725 01:08:03,730 --> 01:08:06,640 そう言っちまったら おしまいよ。 726 01:08:06,640 --> 01:08:11,070 そのうちに原稿料だけで食べていける日が 来ないとは限らないわ。 727 01:08:11,070 --> 01:08:13,740 楽天家だよ 君は。 728 01:08:13,740 --> 01:08:19,740 そうでもないのよ。 死にたいと思うことだってあるのよ。 729 01:08:34,060 --> 01:08:37,970 <それで何となく気が済むのだ。・ 730 01:08:37,970 --> 01:08:44,110 気が済むということは 一番 金のかからない楽しみだ。・ 731 01:08:44,110 --> 01:08:49,710 石屋の新しい石の白さが ばかに軽そうに見える。・ 732 01:08:49,710 --> 01:08:56,050 いつかは私も お墓になる時が来る。 いつかは…。・ 733 01:08:56,050 --> 01:09:00,720 私は お化けになれるものだろうか。・ 734 01:09:00,720 --> 01:09:07,400 お化けは何も食べる必要がないし 下宿代に責められる心配もない。・ 735 01:09:07,400 --> 01:09:10,300 肉親に対する感情・ 736 01:09:10,300 --> 01:09:14,740 恩返しをしなければならないという つまらぬ呵責・ 737 01:09:14,740 --> 01:09:17,640 みんな 煙のごとし。・ 738 01:09:17,640 --> 01:09:22,080 まだ無縁な 誰のお墓になるとも分からない・ 739 01:09:22,080 --> 01:09:27,750 新しい石に囲まれて 石屋さんは平和に眠っている。・ 740 01:09:27,750 --> 01:09:34,620 朝になれば また槌を振るって コツコツと石を刻んで金に換えるのだ。・ 741 01:09:34,620 --> 01:09:38,620 いずれの商売も同じことだ> 742 01:09:40,330 --> 01:09:47,330 <石に腰をかけていると お尻がしんしんと冷たい…> 743 01:09:49,770 --> 01:09:55,770 <私は 世田谷にいる福地さんと 一緒になろうかと思う> 744 01:10:00,780 --> 01:10:07,080 こんにちは。 あら 初ちゃん。 どうぞ。 745 01:10:09,790 --> 01:10:13,660 しばらく。 しばらくねえ。 元気? 746 01:10:13,660 --> 01:10:18,360 このとおりよ。 あんまり元気でもないわ。 上がんなさいよ。 747 01:10:20,440 --> 01:10:24,340 みんな どうしてる? あんたがいなくなってから・ 748 01:10:24,340 --> 01:10:27,340 もう半分ぐらい替わっちまったわ。 749 01:10:27,340 --> 01:10:33,020 そう。 時ちゃんは? それなのよ。 私 時ちゃんから・ 750 01:10:33,020 --> 01:10:39,160 お金 言づかってきたのよ。 あんたに借りてたって… 6円50銭。 751 01:10:39,160 --> 01:10:42,490 どうしたの? 時ちゃん。 お嫁にでも行ったの? 752 01:10:42,490 --> 01:10:46,830 お嫁入りならいいんだけど… とうとう あの土建屋の親分の・ 753 01:10:46,830 --> 01:10:51,100 お妾になっちゃったのよ。 まあ…。 754 01:10:51,100 --> 01:10:55,440 時ちゃん 月80円のお手当だって。 755 01:10:55,440 --> 01:11:00,310 その後 一度会ったけど お召しのいい着物 着てたわ。 756 01:11:00,310 --> 01:11:08,020 そう…。 おそばでもとるから ゆっくりしてってね。 ううん いいのよ。 757 01:11:08,020 --> 01:11:10,990 今日は ちょっと人が待ってるから。 またね。 758 01:11:10,990 --> 01:11:16,730 そう。 これから そこの質屋へ行くの。 こんな遠いところの質屋へ? 759 01:11:16,730 --> 01:11:23,130 前からのところなのよ。 家の近所より 高く貸してくれるのよ。 じゃあ またね。 760 01:11:23,130 --> 01:11:25,830 さよなら。 761 01:11:59,440 --> 01:12:03,770 <今日も朝から何も食べていない2人は・ 762 01:12:03,770 --> 01:12:08,470 部屋にうずくまって 当てのない原稿を書いた> 763 01:12:31,470 --> 01:12:35,140 ねえ 洋食 食べない? 764 01:12:35,140 --> 01:12:41,480 カレーライス カツライス それともビフテキ? 765 01:12:41,480 --> 01:12:48,750 金があるのかい? うん。 だって「背に腹は代えられない」でしょう。 766 01:12:48,750 --> 01:12:52,420 だから夕飯に洋食をとれば・ 767 01:12:52,420 --> 01:12:56,090 明日の朝までは 金を取りに来ないでしょう。 768 01:12:56,090 --> 01:12:59,430 明日の朝は どうするんだ? 769 01:12:59,430 --> 01:13:02,770 明日は明日の風が吹くわ! 770 01:13:02,770 --> 01:13:05,440 (戸が開く音) ・林さん。 771 01:13:05,440 --> 01:13:08,740 は~い。 ・書留ですよ。 書留? 772 01:13:22,990 --> 01:13:31,660 あんた 為替よ。 金3円也。 半年も前の童話の原稿料よ。 773 01:13:31,660 --> 01:13:36,400 1枚30銭ももらえるなんて…。 774 01:13:36,400 --> 01:13:41,340 ありがたや かたじけなや 南無阿弥陀仏のお釈様! 775 01:13:41,340 --> 01:13:45,480 ごらんなさいよ。 明日のことなんか心配しなくたって・ 776 01:13:45,480 --> 01:13:49,780 今日のうちから こんなにすばらしい風が 吹いてきたじゃないの。 777 01:13:51,750 --> 01:13:58,420 さあ 大威張りで洋食を食べましょうよ。 カレーライス カツライス? ビフテキ? 778 01:13:58,420 --> 01:14:04,090 うるさいな。 だって おなかペコペコじゃないの。 779 01:14:04,090 --> 01:14:08,970 それとも外へ出て 何か おいしいもの食べましょうか。 780 01:14:08,970 --> 01:14:15,710 1枚30銭の原稿料をもらって 世界一の金持ちんなったように騒ぐな。 781 01:14:15,710 --> 01:14:21,110 原稿ができたから届けてくれ。 今から? 782 01:14:21,110 --> 01:14:27,410 そうだよ。 明日でいいでしょう。 何っ…。 783 01:14:34,460 --> 01:14:40,130 福地 貢さんね。 この人のは もう何度も読んだけど・ 784 01:14:40,130 --> 01:14:44,000 駄目だなぁ。 うちの雑誌には向かないんですよ。 785 01:14:44,000 --> 01:14:49,410 でも 今度だけ。 もう一度お願いします。 786 01:14:49,410 --> 01:14:56,080 預かったって しょうがないな。 どこか よそへ持ち込むんだな。 787 01:14:56,080 --> 01:14:58,780 じゃ 忙しいから。 788 01:15:05,760 --> 01:15:08,660 おい たばこ。 789 01:15:08,660 --> 01:15:11,960 ちょっと待っててね。 790 01:15:13,630 --> 01:15:17,100 ごはんができたのよ。 791 01:15:17,100 --> 01:15:20,970 たばこ。 これ 食べててね。 792 01:15:20,970 --> 01:15:23,970 その間に たばこ買ってくるわ。 793 01:15:23,970 --> 01:15:28,670 どう? 今日のごちそう。 たばこ! 794 01:15:31,650 --> 01:15:38,790 5銭でお豆腐を買い 3銭でメザシを買い 2銭でたくあんを買って・ 795 01:15:38,790 --> 01:15:42,660 ごらんなさいよ 三色もごちそうができたのよ。 796 01:15:42,660 --> 01:15:46,130 どう? 私の腕前。 797 01:15:46,130 --> 01:15:49,430 つまらんことを自慢するな! 798 01:15:55,740 --> 01:15:58,640 どこ行くの? 799 01:15:58,640 --> 01:16:01,640 たばこのお金…。 800 01:16:07,080 --> 01:16:09,780 いってらっしゃい。 801 01:16:12,760 --> 01:16:18,090 <どうしたらいいのか私には分からない。・ 802 01:16:18,090 --> 01:16:24,430 この男と一生連れ添ってゆくうちには 鋼のように鍛えられて・ 803 01:16:24,430 --> 01:16:31,110 泣きも笑いもしない女に 訓練されそうな気がしてくる。・ 804 01:16:31,110 --> 01:16:36,780 火を燃やしたくなったので 空になった炭俵や枯れ葉を集めて・ 805 01:16:36,780 --> 01:16:39,680 どんどと燃やす。・ 806 01:16:39,680 --> 01:16:46,790 私は こうした条件の中で 生きる元気がない。 少しもない。・ 807 01:16:46,790 --> 01:16:51,630 大切なものを探し出して 燃やしてやりたくなる。・ 808 01:16:51,630 --> 01:16:56,600 部屋の中へ入って 大切なものを探してみる。・ 809 01:16:56,600 --> 01:17:03,270 あの人の詩の原稿を3枚ばかり持ち出して 火の上にあぶってみる。・ 810 01:17:03,270 --> 01:17:07,410 焼けてしまえば この詩は灰になるのだと思うと・ 811 01:17:07,410 --> 01:17:11,750 憎さも憎しだけれども 何となく気後れして・ 812 01:17:11,750 --> 01:17:17,050 いけないことだと思い また元のところへしまう> 813 01:17:54,320 --> 01:17:58,060 すみません 突然お伺いして。 814 01:17:58,060 --> 01:18:03,730 ううん ちょうどよかったんだよ。 今ね 日夏君と村野やす子女史が来てんだ。 815 01:18:03,730 --> 01:18:06,640 村野さんは あんた初めてでしょう? 紹介しよう。 816 01:18:06,640 --> 01:18:12,410 白坂さん。 うん? あの… お金を貸してほしいんです。 817 01:18:12,410 --> 01:18:19,110 な~んだ。 そうか…。 了解 了解。 とにかく上がんなさいね。 818 01:18:23,050 --> 01:18:27,420 まあ おふみさん! しばらく。 しばらく。 819 01:18:27,420 --> 01:18:31,290 あ~ あのね こちら やっぱり「太平洋詩人」の林ふみ子さん。 820 01:18:31,290 --> 01:18:34,760 (やす子)あ~ 福地さんの…。 そうそう 今や福地夫人。 821 01:18:34,760 --> 01:18:38,100 こちらは 新進作家の村野やす子さん。 822 01:18:38,100 --> 01:18:41,440 村野です。 よろしく。 823 01:18:41,440 --> 01:18:44,770 こちらこそ よろしく。 824 01:18:44,770 --> 01:18:49,050 村野さんの家は おふみさんの愛の巣から近いのよ。 825 01:18:49,050 --> 01:18:52,720 5分とかかんないんじゃないかしら。 そうね。 826 01:18:52,720 --> 01:18:56,050 その愛の巣を まだいっぺんも襲撃しないんだけどね・ 827 01:18:56,050 --> 01:18:59,920 う~ もうそろそろ お邪魔していい? どうぞ。 828 01:18:59,920 --> 01:19:03,390 おふみさんの内助の功ぶり 専らの評判よ。 829 01:19:03,390 --> 01:19:07,090 旦那様の原稿を一生懸命 持ち歩いてるんですって? 830 01:19:09,730 --> 01:19:13,600 あんたには まねできないわね。 白坂さんと一緒になっても。 831 01:19:13,600 --> 01:19:17,610 大丈夫 この人の原稿を 僕が持って歩くもん。 ふん。 832 01:19:17,610 --> 01:19:22,750 フッフフ。 こんな旦那様 どこ探したって いやしないわ。 833 01:19:22,750 --> 01:19:26,420 いいかげんで結婚なさいよ。 まだまだ。 834 01:19:26,420 --> 01:19:30,420 まるで お預けね。 (笑い声) 835 01:19:41,760 --> 01:19:44,430 ただいま。 836 01:19:44,430 --> 01:19:48,100 おなかすいたでしょう? 837 01:19:48,100 --> 01:19:52,440 たい焼き買ってきたのよ。 838 01:19:52,440 --> 01:19:56,110 食べない? 839 01:19:56,110 --> 01:19:59,020 こんなもので ごまかすな! 840 01:19:59,020 --> 01:20:03,720 どうしたの? 何を怒ってんのよ。 841 01:20:07,720 --> 01:20:13,660 あんたの原稿ね 駄目だったの。 どこ行っても…。 842 01:20:13,660 --> 01:20:20,140 何だか あんまり次々断られて 嫌んなっちゃったわ。 843 01:20:20,140 --> 01:20:26,140 あっ! 私は あんたのために 方々 駆けずり回ってきたのよ。 844 01:20:28,010 --> 01:20:31,480 これでもか。 845 01:20:31,480 --> 01:20:36,150 あら? 一緒に来た手紙 読んでやろうか。 846 01:20:36,150 --> 01:20:42,020 「早速ながら 今朝お持ち込みの短編小説 拝読つかまつり候ところ・ 847 01:20:42,020 --> 01:20:47,760 小誌には不向きと愚考いたし 折り返しご返送つかまつり候」。 848 01:20:47,760 --> 01:20:52,640 随分 早く帰ってきたのね。 君の帰りより早くね。 849 01:20:52,640 --> 01:20:57,440 俺のために原稿売り歩いたなんて 恩に着せないでくれ。 850 01:20:57,440 --> 01:21:01,110 あんたのも行ったのよ。 851 01:21:01,110 --> 01:21:05,810 だって どっちかが売れなくちゃ しょうがないでしょ。 852 01:21:07,980 --> 01:21:13,280 俺はもう お前なんかと暮らすのは こりごりだよ。 853 01:21:19,800 --> 01:21:28,800 そんなこと言わないで…。 私は やっぱり ここへ落ち着きたいのよ。 854 01:21:36,150 --> 01:21:42,450 ごめんなすって。 ふみ子は おりますとじゃろか? 855 01:21:46,490 --> 01:21:48,760 お母さん! 856 01:21:48,760 --> 01:21:51,430 しばらくじゃったのう。 857 01:21:51,430 --> 01:21:54,730 さあ 上がんなさいよ。 858 01:21:56,770 --> 01:22:01,070 あんた 田舎から母が来たの。 859 01:22:12,110 --> 01:22:15,790 ふみ子の母親でございます。 860 01:22:15,790 --> 01:22:21,790 ふつつかな娘でございますが どうぞよろしゅうお願い申します。 861 01:22:33,340 --> 01:22:40,810 お母さん 冷たい水で顔でも洗ったら? ああ そうさしてもらうよ。 862 01:22:40,810 --> 01:22:45,150 これな 小田原で買うた弁当の残りじゃ。 863 01:22:45,150 --> 01:22:49,450 まだ悪うなっとらん 焼いて食べておくれ。 864 01:22:57,730 --> 01:23:00,030 あんた…。 865 01:23:01,630 --> 01:23:04,330 (戸の開閉音) 866 01:23:08,370 --> 01:23:13,310 (すすり泣き) 867 01:23:13,310 --> 01:23:18,450 何や知らんが 恐ろしい人のごとある。 868 01:23:18,450 --> 01:23:22,450 (すすり泣き) 869 01:23:26,120 --> 01:23:33,000 お前 それでも幸せなのかい? 優しい時もあるのよ。 870 01:23:33,000 --> 01:23:41,670 でもね 今度 結婚する時は 大工さんでもいい 車夫でもいい。 871 01:23:41,670 --> 01:23:45,370 ものを書く男は やめるわ。 872 01:23:53,750 --> 01:23:58,620 田舎も さっぱりでのう 面白いことは何もない。 873 01:23:58,620 --> 01:24:01,620 不景気は底をついとるぞな。 874 01:24:01,620 --> 01:24:07,300 お母さん いくらかお金持ってきた? もう60銭より持っとらんが。 875 01:24:07,300 --> 01:24:12,100 一体 どうするつもりなの? 4~5日 泊めてもらえりゃ・ 876 01:24:12,100 --> 01:24:16,970 お父さんも商売の品物を 持ってきんさることになっとるんじゃ。 877 01:24:16,970 --> 01:24:22,110 商売の品物って 何? 輪島塗の安物を仕入れたんで・ 878 01:24:22,110 --> 01:24:25,450 それを東京で売るんじゃそうな。 879 01:24:25,450 --> 01:24:28,750 駄目よ そんなもの。 880 01:24:31,320 --> 01:24:35,320 東京も やっぱり不景気かいの? 881 01:24:38,030 --> 01:24:43,800 お父さんまで出てこないうちに お母さんも帰んなさいね。 882 01:24:43,800 --> 01:24:47,140 せっかく出てきたばかりじゃのに。 883 01:24:47,140 --> 01:24:53,140 だって しかたがないじゃないの。 ここへ泊まるったって 布団もないのよ。 884 01:24:56,410 --> 01:24:59,750 旦那さん 遅いのう。 885 01:24:59,750 --> 01:25:03,420 今夜は帰ってこないでしょう。 886 01:25:03,420 --> 01:25:07,090 そんなことが再々あるんかの? 887 01:25:07,090 --> 01:25:10,090 もう慣れっこよ。 888 01:25:13,760 --> 01:25:18,630 お前も私と一緒に 田舎に帰ったら どうね? 889 01:25:18,630 --> 01:25:25,770 2年半ぶりじゃけど 見違えるように 顔がきつうなっとる。 890 01:25:25,770 --> 01:25:28,680 近眼がひどくなったのよ。 891 01:25:28,680 --> 01:25:33,650 田舎へ帰って これから先のことを ゆっくり考えたらええ。 892 01:25:33,650 --> 01:25:40,120 また お母さんと2人で 行商して暮らそうか。 893 01:25:40,120 --> 01:25:45,420 お前も男運が悪いのう。 894 01:26:26,640 --> 01:26:29,640 あ~ ここだ ここだ。 895 01:26:32,110 --> 01:26:36,980 おい 福地いるか? おふみさん いる? 896 01:26:36,980 --> 01:26:41,780 留守なの? 上がってみようか。 悪いわよ 黙って上がっちゃあ。 897 01:26:41,780 --> 01:26:46,080 どうせ とられるようなもの 置いてありゃしないよ。 こんにちは。 898 01:26:49,590 --> 01:26:51,890 いないよう。 899 01:26:54,360 --> 01:26:59,360 割に ちゃんとした家に住んでんのね。 家賃8円ってとこだね。 900 01:27:04,410 --> 01:27:09,080 僕には どうも あの貧乏が売り物の詩が 鼻につくなぁ。 901 01:27:09,080 --> 01:27:12,750 そりゃあ 白坂さんが 金持ちの坊ちゃん育ちだからじゃないの? 902 01:27:12,750 --> 01:27:17,090 おふみさんの詩を読むとね ゴミ箱の蓋を開けてさ・ 903 01:27:17,090 --> 01:27:19,990 中ひっかき回して バ~ンと放り出したものを・ 904 01:27:19,990 --> 01:27:22,990 見せられるような気がするんだ。 905 01:27:26,760 --> 01:27:33,100 生理的嫌悪感ね。 でも あれが 素っ裸でいいって人も多いわよ。 906 01:27:33,100 --> 01:27:37,970 その素っ裸がねえ いかにも素っ裸でござい…・ 907 01:27:37,970 --> 01:27:40,980 私は こんなに貧乏なんですよ いかがでしょう? 908 01:27:40,980 --> 01:27:44,710 つまり こうスタンドプレーなんだなぁ。 909 01:27:44,710 --> 01:27:48,380 そう言っちまっちゃ 身も蓋もないけど。 910 01:27:48,380 --> 01:27:52,720 確かに この家は 愛の巣って感じじゃないわね。 911 01:27:52,720 --> 01:27:58,060 うまくいってるのかしら? あの人たち。 福地は わがままだからな。 912 01:27:58,060 --> 01:28:01,730 胸が悪いから 自然に ああなるんだろうけど。 913 01:28:01,730 --> 01:28:05,400 おふみさん 面食いなのよ。 美男子ばっかり選ぶから・ 914 01:28:05,400 --> 01:28:09,070 そのお返しが来るんじゃない? 君だって大きなこと言えないんじゃない? 915 01:28:09,070 --> 01:28:12,940 あら 私が面食いだったら あんた 絶望的じゃないの。 916 01:28:12,940 --> 01:28:15,740 (笑い声) 917 01:28:15,740 --> 01:28:18,040 (戸が開く音) 918 01:28:24,420 --> 01:28:27,760 あら いらっしゃい。 919 01:28:27,760 --> 01:28:30,660 こんちは。 うん 待ってたんだよ。 920 01:28:30,660 --> 01:28:34,100 物騒ね この家。 福地 いなかった? 921 01:28:34,100 --> 01:28:37,430 (京子)ええ。 病院かしら? 922 01:28:37,430 --> 01:28:43,730 どうなの? 体の具合。 それが ちっともはっきりしないのよ。 923 01:28:46,780 --> 01:28:50,050 な~に? 今日は。 924 01:28:50,050 --> 01:28:55,380 うん 村野さんがね 君に話があるってんで 案内してきたんだよ。 925 01:28:55,380 --> 01:29:00,060 さっき 「女性芸術」の長谷川先生がね 日夏さんと あなたの原稿を・ 926 01:29:00,060 --> 01:29:04,730 いっぺん読んでみたいって。 詩を? 散文のほうがいいそうだけど。 927 01:29:04,730 --> 01:29:10,600 よければ「女性芸術」に 載せてくれるんですって。 そう。 928 01:29:10,600 --> 01:29:16,070 (白坂)おふみさんは野心家だから できれば 「改造」とか「中央公論」とか・ 929 01:29:16,070 --> 01:29:19,940 大雑誌に書きたいかもしれないけど 「女性芸術」だって・ 930 01:29:19,940 --> 01:29:25,410 まあ いいデビューだと思うよ。 そうよ。 「女性芸術」に載せてもらえたら・ 931 01:29:25,410 --> 01:29:29,080 ありがたいわ。 私も書いてみるわ。 932 01:29:29,080 --> 01:29:34,420 2人とも私んところまで届けてちょうだい 締め切りは5月いっぱい。 933 01:29:34,420 --> 01:29:40,100 採用されるのは どっちか一人よ。 外れた人は 恨みっこなしね。 934 01:29:40,100 --> 01:29:44,430 よう。 あっ こんにちは。 おかえんなさい。 935 01:29:44,430 --> 01:29:49,100 おい おふみ お前 「女性芸術」に何か書くのか? 936 01:29:49,100 --> 01:29:51,770 ええ 書くわ。 937 01:29:51,770 --> 01:29:58,470 ふ~ん。 お前は いいチャンスだと 思ってるかもしれないが 恥をかくな。 938 01:30:00,780 --> 01:30:06,120 おい 変な言い方すっじゃないか。 お前なんか どうせ駄目だよ。 939 01:30:06,120 --> 01:30:12,790 お前こそ みっともないよ。 おふみさん お前を愛してるよ。 940 01:30:12,790 --> 01:30:17,470 お前みたいな病気をしている男にはね こういうタフな女がいいんだよ。 941 01:30:17,470 --> 01:30:21,800 男のくせに ひがんでなんかいるより お前こそ おふみさんのだな。 ばか野郎! 942 01:30:21,800 --> 01:30:25,670 何だよ 親切で言ってやってんのが 分からないのかい? 943 01:30:25,670 --> 01:30:31,150 貧乏して 働いて 亭主を食わしているのを 売り物にしている女に・ 944 01:30:31,150 --> 01:30:36,490 材料を提供しろっていうのか! (白坂)おい 行こう。 945 01:30:36,490 --> 01:30:41,790 (京子)また来るわ ご機嫌のいい日にね。 (やす子)失礼します。 946 01:30:56,770 --> 01:31:04,110 おう 白坂 言ってたぞ。 お前の詩は ゴミ箱の中身を棒でかき回して・ 947 01:31:04,110 --> 01:31:09,790 放り出したような汚さだって。 私には その生活しかないのよ。 948 01:31:09,790 --> 01:31:13,120 うそを書けってったって 書けないわよ。 949 01:31:13,120 --> 01:31:17,460 ゴミ箱か… 俺も同感だな。 950 01:31:17,460 --> 01:31:21,760 俺は もうお前が つくづく嫌になったよ。 951 01:31:23,800 --> 01:31:31,500 おい 出ていけよ。 嫌よ。 どうして嫌だ? 952 01:31:33,140 --> 01:31:38,010 私だって あんたみたいな 女の腐ったような男は嫌いよ。 953 01:31:38,010 --> 01:31:45,490 だけど 私はもう 亭主は あんたでも誰でもいいのよ。 954 01:31:45,490 --> 01:31:50,330 何度別れて 何度一緒んなっても・ 955 01:31:50,330 --> 01:31:54,300 誰でも みんな同じだってことが 分かったから。 956 01:31:54,300 --> 01:31:59,770 俺は違うぞ。 お前より いい女がいることが分かったから・ 957 01:31:59,770 --> 01:32:08,780 出ていけって言うんだ。 俺は お前に さみしかったら来いよと言っただけだよ。 958 01:32:08,780 --> 01:32:13,650 今でも さみしいわよ! 俺にゃ女がいるんだよ。 959 01:32:13,650 --> 01:32:17,790 連れてくればいいじゃないの。 本当に連れてくるぞ。 960 01:32:17,790 --> 01:32:24,460 どうぞ。 2人で寝るよ。 構わないわ。 961 01:32:24,460 --> 01:32:31,130 誰と どう寝たって 私は あんたの女房だから ここにいる。 962 01:32:31,130 --> 01:32:34,130 いたけりゃいるさ。 963 01:32:36,810 --> 01:32:43,810 お前 そんなに俺が好きなのか? ふ~ん。 964 01:32:45,810 --> 01:32:48,510 嫌い! 965 01:32:50,650 --> 01:32:56,430 ・ 月は無情というけれどコリャ 966 01:32:56,430 --> 01:33:01,430 ・ 主さん月よりなお無情 967 01:33:14,780 --> 01:33:17,450 <死ねばいいの?・ 968 01:33:17,450 --> 01:33:21,120 生きて どうしようもないふうに 追い込むなんて・ 969 01:33:21,120 --> 01:33:24,420 つれないではございませんか> 970 01:33:27,460 --> 01:33:30,790 あんた 歯が痛いから お店休ましてくれって・ 971 01:33:30,790 --> 01:33:33,490 言ったんじゃなかったの? 972 01:33:35,130 --> 01:33:39,000 お客の相手もできないほど歯の痛い人が 勉強はできんの? 973 01:33:39,000 --> 01:33:44,140 あんた 学校の先生にでも なるつもりなの? すいません。 974 01:33:44,140 --> 01:33:50,410 あんた うちじゃ一番新しいんだよ。 半月もたたないのに あきれた度胸だよ。 975 01:33:50,410 --> 01:33:55,080 ・ 主さん今来て今かえる 976 01:33:55,080 --> 01:33:58,950 (笑い声) さよなら またね~! 977 01:33:58,950 --> 01:34:03,250 気を付けてね! いらっしゃ~い。 978 01:34:08,430 --> 01:34:11,130 あら。 979 01:34:18,110 --> 01:34:21,410 あんたの おなじみさん? 980 01:34:29,720 --> 01:34:33,720 嫌だわ こんなとこへ。 981 01:34:38,790 --> 01:34:43,090 たばこ ないの? うん。 982 01:34:51,370 --> 01:34:55,670 おなかすいてるんじゃないの? うん。 983 01:34:58,080 --> 01:35:05,380 ばかね…。 何がいい? 焼き飯なら できるわ。 984 01:35:07,420 --> 01:35:10,760 うん 何でもいいよ。 985 01:35:10,760 --> 01:35:16,630 あの人 何だろう? ご亭主かしら? どんな男? 986 01:35:16,630 --> 01:35:21,400 焼き飯 頼むわ。 ほい きた。 ビール1本ね。 987 01:35:21,400 --> 01:35:25,770 ねえ? 誰よ 一体。 ちょいと くたびれてるけど・ 988 01:35:25,770 --> 01:35:30,770 いい男じゃないの。 ニヤニヤして 殴るわよ。 989 01:35:34,780 --> 01:35:38,120 いつ帰ってくるんだ? 990 01:35:38,120 --> 01:35:45,120 私は家出したのよ。 あんたが出ていけって言うから。 991 01:35:46,800 --> 01:35:51,100 これ一本きりよ。 ああ…。 992 01:35:53,070 --> 01:35:56,400 ねえ 今夜 一緒に帰ろう。 993 01:35:56,400 --> 01:36:00,700 駄目よ 今夜は。 じゃあ 明日。 994 01:36:02,280 --> 01:36:04,980 そうねえ…。 995 01:36:07,750 --> 01:36:12,090 おい ヨシコ! ヨシコいるか? あら! お~! 996 01:36:12,090 --> 01:36:14,120 いらっしゃい! 997 01:36:14,120 --> 01:36:21,430 (はしゃぐ声) 998 01:36:21,430 --> 01:36:24,130 いらっしゃい! 999 01:36:26,300 --> 01:36:35,000 ・「逢いたさ見たさに こわさを忘れ」 1000 01:36:37,780 --> 01:36:45,780 ・「暗い夜道を ただ独り」 1001 01:36:51,060 --> 01:36:54,930 こんにちは。 あら いらっしゃい。 1002 01:36:54,930 --> 01:36:59,400 あんた 「女性芸術」の原稿できた? ええ 昨日届けたわ。 1003 01:36:59,400 --> 01:37:02,740 自信たっぷりね。 とんでもない。 1004 01:37:02,740 --> 01:37:07,410 私も やっとできたんだけど 今 村野さんのとこへ行ったら・ 1005 01:37:07,410 --> 01:37:11,280 お留守なのよ。 すまないけど あんた 後で届けてくれない? 1006 01:37:11,280 --> 01:37:16,750 ええ いいわ。 実はね 今夜 私たち 北海道へたつの。 1007 01:37:16,750 --> 01:37:21,620 へえ 白坂さんと? ええ あの人の家へ挨拶に行くのよ。 1008 01:37:21,620 --> 01:37:25,430 いよいよね。 おめでとう。 1009 01:37:25,430 --> 01:37:31,100 根負けしちゃったのよ。 あの人 煙みたいでしょう。 1010 01:37:31,100 --> 01:37:38,440 いい人だわ。 頼りないけど そのかわり 長もちしそうだから。 1011 01:37:38,440 --> 01:37:41,110 あら こんちは。 1012 01:37:41,110 --> 01:37:44,980 おめでとう。 ありがとう。 1013 01:37:44,980 --> 01:37:48,380 福地さんにしちゃ まともなご挨拶ね。 1014 01:37:48,380 --> 01:37:51,720 このごろ いくらか素直になったらしいわね。 1015 01:37:51,720 --> 01:37:56,720 じゃあ 原稿頼んだわよ。 ごめんなさい。 いってらっしゃい。 1016 01:38:07,270 --> 01:38:09,970 ・ごめんください。 1017 01:38:13,410 --> 01:38:17,080 林さん おいでになりますか? 1018 01:38:17,080 --> 01:38:21,750 ああ… わざわざ おいで下すったんですか。 1019 01:38:21,750 --> 01:38:26,620 今朝 お手紙拝見したもんでね なるべく早いほうがいいと思いまして。 1020 01:38:26,620 --> 01:38:29,320 どうも お久しぶりです。 1021 01:38:31,090 --> 01:38:34,790 どうぞ お上がり下さい。 1022 01:38:38,970 --> 01:38:43,100 いいお家ですね。 安岡さんって・ 1023 01:38:43,100 --> 01:38:46,780 相変わらず 悪口 一つ言えないんですね。 1024 01:38:46,780 --> 01:38:53,780 そりゃ 立派だとは言えませんけど でも あのころの下宿に比べれば…。 1025 01:38:59,050 --> 01:39:01,750 主人です。 1026 01:39:04,390 --> 01:39:10,060 はじめまして 安岡信雄でございます。 奥さんとは・ 1027 01:39:10,060 --> 01:39:14,940 奥さんがまだ本郷にいらっしゃる頃からの 知り合いでございまして。 1028 01:39:14,940 --> 01:39:17,640 福地です。 1029 01:39:21,410 --> 01:39:24,310 どこか お体でも? 1030 01:39:24,310 --> 01:39:27,010 肺病です。 1031 01:39:29,750 --> 01:39:36,620 本当に考えあぐんだ末なんですよ 安岡さんに手紙を書いたのは。 1032 01:39:36,620 --> 01:39:40,090 お申し越しの額は ちょっと無理だったんで・ 1033 01:39:40,090 --> 01:39:42,760 20円だけ都合してきました。 1034 01:39:42,760 --> 01:39:47,100 安岡さんには本当に 勝手なことばかり言って…。 1035 01:39:47,100 --> 01:39:50,440 いいえ 私は むしろ 思い出して下すったのを・ 1036 01:39:50,440 --> 01:39:57,110 ありがたいと思ったくらいなんですよ。 ありがとう。 これで助かるわ。 1037 01:39:57,110 --> 01:40:01,450 おふみ それ何だ? 1038 01:40:01,450 --> 01:40:05,120 あんたの薬代よ。 1039 01:40:05,120 --> 01:40:07,790 なるほどね。 1040 01:40:07,790 --> 01:40:13,130 お礼を言って 安岡さんに。 前から お世話にばかりなってるんです。 1041 01:40:13,130 --> 01:40:16,130 そんな改まらなくっても。 1042 01:40:20,000 --> 01:40:22,800 あっ! な… 何をなさるんです!? 奥様は・ 1043 01:40:22,800 --> 01:40:27,140 あなたのことを心配して! だから殴ったんですよ。 1044 01:40:27,140 --> 01:40:33,820 僕は 女房の貞節を売り物にする 見せ物にはされたくはありませんからね。 1045 01:40:33,820 --> 01:40:38,490 この人に借りなきゃ誰に借りるの!? もう借りるだけ借りた。 1046 01:40:38,490 --> 01:40:41,160 チップも稼げない 原稿も売れない・ 1047 01:40:41,160 --> 01:40:44,490 どうしようもないから 貸してもらったのよ! 1048 01:40:44,490 --> 01:40:48,100 この男は お前に惚れてるぞ。 1049 01:40:48,100 --> 01:40:52,970 親切にしてくれることが 惚れてるってことならね。 1050 01:40:52,970 --> 01:40:57,440 色仕掛けで借りて 亭主を助けるのか。 1051 01:40:57,440 --> 01:41:01,780 ふみ子さんは 私のことなんか 何とも思っちゃいません。 1052 01:41:01,780 --> 01:41:05,450 私は ただ昔からのおなじみだから…。 1053 01:41:05,450 --> 01:41:09,320 私だって やたらにお金なんか 借りたくはないわ。 1054 01:41:09,320 --> 01:41:14,460 だけど 借りなきゃしょうがないから 借りたのよ! それが分かってても・ 1055 01:41:14,460 --> 01:41:17,790 あんたは 私の金で 暮らす人じゃありませんか! 何!? 1056 01:41:17,790 --> 01:41:20,460 およしなさい! うっ…! 1057 01:41:20,460 --> 01:41:23,360 あっ! およしなさいったら…! 1058 01:41:23,360 --> 01:41:26,800 あっ… ああっ! やめて下さい! やめて下さい! 1059 01:41:26,800 --> 01:41:30,140 やめて下さい! 出ていけ! やめて下さい! 1060 01:41:30,140 --> 01:41:34,480 出ていくわ! ええ 今度こそ本当に出ていきます! 1061 01:41:34,480 --> 01:41:38,150 どんなことがあっても もう二度と こんな家…・ 1062 01:41:38,150 --> 01:41:42,480 あんたみたいなキチガイのところへ 帰ってくるもんか! 1063 01:41:42,480 --> 01:41:47,760 あんたなんかいなくたって 私は ちゃ~んと生きていけるんだ! 1064 01:41:47,760 --> 01:41:52,630 さみしかったら来いよなんて 偉そうなこと言っといて・ 1065 01:41:52,630 --> 01:41:57,770 10日たち 20日たって さみしくなって 訪ねてくるのは あんたじゃないの! 1066 01:41:57,770 --> 01:42:00,440 何… 出ていけ! 1067 01:42:00,440 --> 01:42:05,110 もう今度は だまされない! あんたが泣いて頼んだって・ 1068 01:42:05,110 --> 01:42:11,780 笑ったって どなったって もう あんたなんか知らない! 知らない! 1069 01:42:11,780 --> 01:42:15,780 知らな~い! (泣き声) 1070 01:42:23,120 --> 01:42:30,470 すごいじゃない! 「『放浪記』 林ふみ子」。 これ 本当に おふみさんなの? 1071 01:42:30,470 --> 01:42:33,800 だって毎日 目の色変えて 書いてたじゃないの。 1072 01:42:33,800 --> 01:42:38,670 ねえ いくらぐらいもらえるの? さあ。 1073 01:42:38,670 --> 01:42:43,670 ちょっと見せて! おふみさん お客さん。 女のお客さん。 1074 01:42:53,290 --> 01:42:59,990 あら いらっしゃい。 どうしたの? こんなとこまで。 1075 01:43:04,100 --> 01:43:08,400 あっ! 京子 やめなさい 乱暴は。 1076 01:43:14,740 --> 01:43:19,450 おふみさん おめでとう。 1077 01:43:19,450 --> 01:43:22,120 ありがとう。 1078 01:43:22,120 --> 01:43:26,790 今日は 私 こんなところまで来るの 嫌だったんだけど・ 1079 01:43:26,790 --> 01:43:30,660 日夏さんが どうしても 証人になってくれって言うのよ。 1080 01:43:30,660 --> 01:43:34,460 証人は 大げさだわね。 何が大げさなの? 1081 01:43:34,460 --> 01:43:38,330 あんたの原稿を村野さんに渡すのが 少し遅れたのは・ 1082 01:43:38,330 --> 01:43:43,810 申し訳ないと思ってるわよ。 申し訳ないで済む問題かしら。 1083 01:43:43,810 --> 01:43:51,610 締め切りから10日も遅れて届けられて。 10日… そんなにたっていたかしら。 1084 01:43:51,610 --> 01:43:55,750 日夏さんの原稿は あなたの作品を載せることに決まって・ 1085 01:43:55,750 --> 01:43:59,620 もう あと ほかの原稿は必要ない という時に やっと届いたのよ。 1086 01:43:59,620 --> 01:44:06,090 私は 日夏さんは書けなかったんだろう 催促しても悪いと思って遠慮してたの。 1087 01:44:06,090 --> 01:44:08,760 日夏さんは 今更 さらし者になりたくないと言って・ 1088 01:44:08,760 --> 01:44:13,430 原稿を取り下げたから 誰も その原稿を読んでません。 1089 01:44:13,430 --> 01:44:17,430 失われたチャンスと運は 二度と戻ってこないのよ。 1090 01:44:19,110 --> 01:44:25,450 私 京子さんの原稿を預かった時 もしも 私のほうがまずかったら・ 1091 01:44:25,450 --> 01:44:29,320 どうしよう…。 確かに そう思ったわ。 1092 01:44:29,320 --> 01:44:34,790 でも 原稿をわざと遅らせる気持ちなんか なかったのよ。 1093 01:44:34,790 --> 01:44:40,660 あの晩 私は福地と別れたわ。 1094 01:44:40,660 --> 01:44:45,800 あんたの原稿は ちゃんと 風呂敷の中に包んで 福地の家を出た。 1095 01:44:45,800 --> 01:44:50,070 夜中にでも村野さんのところへ届ければ よかったんだけれど・ 1096 01:44:50,070 --> 01:44:54,740 一目だけ あんたの原稿が読みたかったのよ。 1097 01:44:54,740 --> 01:45:00,620 翌日にでも届けるつもりだったの。 ところが すぐに見つかるはずだった・ 1098 01:45:00,620 --> 01:45:03,420 カフェーの勤めが見つからない。 1099 01:45:03,420 --> 01:45:08,090 うろうろして 結局 木賃宿に落ち着くまでの間に・ 1100 01:45:08,090 --> 01:45:10,760 日がたってしまったね。 1101 01:45:10,760 --> 01:45:15,630 結局 間に合わなくなるまで押さえて 届けたのね。 1102 01:45:15,630 --> 01:45:21,400 私は 今日かぎり書くことをやめるわ。 あさましいから。 1103 01:45:21,400 --> 01:45:25,310 京子さん 私は あんたの邪魔をする気持ちなんか・ 1104 01:45:25,310 --> 01:45:33,980 夢にもなかったのよ。 私の… 私の放浪する運命が・ 1105 01:45:33,980 --> 01:45:37,990 あんたのチャンスを 邪魔してしまったんだわ。 1106 01:45:37,990 --> 01:45:43,460 キザなこと言わないで! だから あんたは 人に頼るなって言いたいのね。 1107 01:45:43,460 --> 01:45:46,790 何でも自分のことは自分でしろって 言いたいのね! 1108 01:45:46,790 --> 01:45:49,700 もういいじゃないの 日夏さん。 1109 01:45:49,700 --> 01:45:55,070 林さん ともかく あなたは 第一歩を踏み出したわ。 1110 01:45:55,070 --> 01:46:01,740 だけど みんながみんな あなたを 祝福してくれたとは限らないってことね。 1111 01:46:01,740 --> 01:46:05,610 あなただけじゃない 誰の場合だってそうよ。 1112 01:46:05,610 --> 01:46:09,620 山は高く登るほど風がきつい。 1113 01:46:09,620 --> 01:46:13,750 足を固く踏み締めることね。 1114 01:46:13,750 --> 01:46:17,630 しっかりやりましょう お互いに。 1115 01:46:17,630 --> 01:46:20,630 帰りましょう 日夏さん。 1116 01:46:26,100 --> 01:46:30,770 何さ あれ。 すさまじいね。 私のほうがうまいから・ 1117 01:46:30,770 --> 01:46:35,110 先に出たんじゃないか。 そうだよ。 あんなのに負けないでね。 1118 01:46:35,110 --> 01:46:37,780 負けるもんか…。 1119 01:46:37,780 --> 01:46:52,060 ・~ 1120 01:46:52,060 --> 01:46:55,760 (藤山)君 まだ寝ないのかい? 1121 01:46:57,730 --> 01:47:01,400 ペンの音が邪魔でしょうか? 1122 01:47:01,400 --> 01:47:07,280 音は 気にしまいと思えば 聞かずに済む。 だったら許してほしいわ。 1123 01:47:07,280 --> 01:47:12,050 僕が寝ている間も 誰かが起きて 根を詰めて仕事をしていると思うことが・ 1124 01:47:12,050 --> 01:47:16,950 たまらないんですよ。 僕だって展覧会は近づくしねえ。 1125 01:47:16,950 --> 01:47:19,950 イライラしてくるんだ。 1126 01:47:21,720 --> 01:47:27,720 あんた 絵描きさんなの? まだ一人前の絵描きには入らないけどね。 1127 01:47:29,430 --> 01:47:36,430 私は夜も昼も 指が折れても 死ぬまで書き続けるのよ。 1128 01:47:38,110 --> 01:47:41,010 こんな暗いところで書いてると 目が悪くなるぜ。 1129 01:47:41,010 --> 01:47:44,010 でなくても近眼なんだろう。 1130 01:47:47,110 --> 01:47:49,720 貸してごらん。 1131 01:47:49,720 --> 01:47:59,730 ・~ 1132 01:47:59,730 --> 01:48:03,600 キリもあるよ。 とじてあげよう。 1133 01:48:03,600 --> 01:48:15,740 ・~ 1134 01:48:15,740 --> 01:48:19,610 つまんない? いや 面白いよ。 1135 01:48:19,610 --> 01:48:25,910 面白いと言っちゃ悪いかな…。 苦労したんだな 君は。 1136 01:48:28,760 --> 01:48:33,630 私 今まで一度も 書き上がった原稿を・ 1137 01:48:33,630 --> 01:48:37,770 人に読んでもらったことなんか なかったのよ。 1138 01:48:37,770 --> 01:48:45,470 原稿をコヨリでとじてもらったのも 初めて…。 ありがとう。 1139 01:48:48,380 --> 01:48:51,080 お安い御用だよ。 1140 01:48:58,720 --> 01:49:02,060 (のぶ)ちょっと隠して! (寝言) 1141 01:49:02,060 --> 01:49:07,760 お~い 何だ? おい。 うるせえなぁ。 どうしたんだ? 1142 01:49:15,400 --> 01:49:22,280 (刑事)どっこへ行きやがった。 おい! 淫売のおのぶが逃げ込んできたろ。 1143 01:49:22,280 --> 01:49:27,750 淫売なんていねえよ。 何? 隠すと同罪になんだぞ。 1144 01:49:27,750 --> 01:49:30,420 おい みんな起きろ! おい 立つんだ 立つんだ。 1145 01:49:30,420 --> 01:49:34,120 起きろ 起きろ 起きろ! おい。 立つんだ。 1146 01:49:36,760 --> 01:49:40,630 この野郎 こんなところに隠れやがって! 立つんだよ! 1147 01:49:40,630 --> 01:49:44,630 この人は違います。 この人は 私と一緒に寝てた人です。 1148 01:49:44,630 --> 01:49:50,300 何っ 俺が常習犯の顔を 見違えたっていうのか? お前は何だ? 1149 01:49:50,300 --> 01:49:53,770 この女の仲間か? 私は淫売じゃありません。 1150 01:49:53,770 --> 01:49:57,450 この人も違います。 お前も一緒に来い。 1151 01:49:57,450 --> 01:50:01,320 こ… この人は違うんです! いいから一緒に来い。 1152 01:50:01,320 --> 01:50:04,320 ちょっと待って下さい。 何だ? 1153 01:50:04,320 --> 01:50:08,090 この人は淫売じゃない。 文士です。 文士? 1154 01:50:08,090 --> 01:50:10,990 ここに たった今 この人の書き上げた原稿がある。 1155 01:50:10,990 --> 01:50:14,460 見たまえ。 名前 何というんだ? 林ふみ子。 1156 01:50:14,460 --> 01:50:18,160 林ふみ子? 知らん。 さあ 行こう。 1157 01:50:20,800 --> 01:50:23,700 君! お前も来たいか? 1158 01:50:23,700 --> 01:50:28,140 絵描きさん いいのよ。 面白いわ 何でも経験になって。 1159 01:50:28,140 --> 01:50:30,480 すまないわね。 さあ。 1160 01:50:30,480 --> 01:50:34,150 原稿 預かっといてね。 さあ。 なくさないようにね! 1161 01:50:34,150 --> 01:50:39,490 チェッ 夜中に騒がせやがって。 みんな 寝た寝た! 遅いんだ! 1162 01:50:39,490 --> 01:50:54,440 ・~ 1163 01:50:54,440 --> 01:50:56,770 いい気なもんだ。 1164 01:50:56,770 --> 01:51:01,110 てめえの貧乏話を売り物にして その本が売れてるっていうんだからな。 1165 01:51:01,110 --> 01:51:05,450 あんなに食わずにいたら 我々だったら日干しになっちまうぜ。 1166 01:51:05,450 --> 01:51:08,350 あそこに書いてあるように モテたのかしら? 1167 01:51:08,350 --> 01:51:11,120 全て 小説の主人公は美男美女。 1168 01:51:11,120 --> 01:51:14,460 印刷工が ばかに親切にしてくれたって 書いてあるけど・ 1169 01:51:14,460 --> 01:51:17,120 その人とは何でもなかったのかしら? 1170 01:51:17,120 --> 01:51:21,000 もうそろそろ お開きじゃないか。 伊達 福地・ 1171 01:51:21,000 --> 01:51:25,000 2人とも ついに現れなかったね。 京子さんだって来なかったわ。 1172 01:51:25,000 --> 01:51:30,670 今朝になってね やっぱり やめるって言いだした。 あら。 1173 01:51:30,670 --> 01:51:38,810 ・~ 1174 01:51:38,810 --> 01:51:42,150 来たのか。 よく来たな。 1175 01:51:42,150 --> 01:51:46,490 おふみのために ひと言 祝辞を述べに来たよ。 1176 01:51:46,490 --> 01:51:50,760 もう よせよ。 いいじゃないか。 やれやれ。 1177 01:51:50,760 --> 01:51:59,060 (拍手) 1178 01:52:00,770 --> 01:52:07,110 僕は 林ふみ子の作品「放浪記」の中で・ 1179 01:52:07,110 --> 01:52:15,810 世にも卑劣な 世にも女々しい男として 肴にされた 福地 貢です。 1180 01:52:19,690 --> 01:52:25,790 その「放浪記」に対して 僕は何と言えばいいのか。 1181 01:52:25,790 --> 01:52:32,670 褒めるか けなすか。 要は 作品の出来栄えいかんだ。 1182 01:52:32,670 --> 01:52:38,370 僕たちは かっては夫婦でも 今は他人。 1183 01:52:38,370 --> 01:52:46,110 林ふみ子が作家なら この僕も 痩せても枯れても作家の一人だ。 1184 01:52:46,110 --> 01:52:51,420 赤の他人である作家として 批判しようじゃないか。 1185 01:52:51,420 --> 01:52:59,290 おふみ… いつか 白坂が君の作品を嫌って・ 1186 01:52:59,290 --> 01:53:04,430 ゴミ箱の中のゴミを 棒で つっつき散らして・ 1187 01:53:04,430 --> 01:53:10,100 ぶちまけたような作品だと 言ったことがある。 僕も同感だった。 1188 01:53:10,100 --> 01:53:19,110 だが 僕が今 改めて 憎しみをもって あの作品を読んだ時・ 1189 01:53:19,110 --> 01:53:24,790 僕は あの中に ゴミ箱の中身のぶちまけられた・ 1190 01:53:24,790 --> 01:53:29,120 うそも隠しもない 真実の美しさを見いだした。 1191 01:53:29,120 --> 01:53:37,460 おふみ… 「放浪記」は いい作品だよ。 ただ少し泣きすぎる。 1192 01:53:37,460 --> 01:53:45,340 君自身を泣かせたいために 僕を悪者にしたようなところもある。 1193 01:53:45,340 --> 01:53:52,750 お前の言葉じゃないが 泣いたって どうにもならないんだよ…。 1194 01:53:52,750 --> 01:54:00,420 「放浪記」 おめでとう。 僕は 君の才能と努力に敬意を贈る。 1195 01:54:00,420 --> 01:54:03,120 おめでとう。 1196 01:54:06,760 --> 01:54:09,760 おい 福地。 1197 01:54:16,100 --> 01:54:20,800 おふみ すっかり 福地に食われたじゃないか。 1198 01:54:23,440 --> 01:54:26,350 しょうがないわよ…。 1199 01:54:26,350 --> 01:54:33,120 これからが いよいよ本舞台だ。 しっかりやるんだな うん。 1200 01:54:33,120 --> 01:54:37,460 私たちは 書くだけが勝負だもんね。 1201 01:54:37,460 --> 01:54:42,130 ええ 書くわ。 書かなきゃ・ 1202 01:54:42,130 --> 01:54:47,000 おふみは「放浪記」だけしか 書けなかったんだって言われる。 1203 01:54:47,000 --> 01:54:51,410 「放浪記」だけが私じゃないわ。 1204 01:54:51,410 --> 01:54:56,110 「放浪記」だけが 私じゃないわよ。 1205 01:55:19,770 --> 01:55:23,640 何時ごろ来たの? 昼飯抜きの座り込みだよ。 1206 01:55:23,640 --> 01:55:26,640 こっちも締め切りは とっくに過ぎちゃってるんだからなぁ。 1207 01:55:26,640 --> 01:55:30,110 何しろ 雑誌の連載が4本に 新聞が2本だろ? 1208 01:55:30,110 --> 01:55:32,450 よく体がもつねえ。 うん。 1209 01:55:32,450 --> 01:55:36,320 いつも新聞や雑誌で ご活躍のお姿を拝見する度に・ 1210 01:55:36,320 --> 01:55:40,790 昔のことを思い出しましてね。 私も あんた もう年じゃけえ・ 1211 01:55:40,790 --> 01:55:44,120 ふみが 自分のそばへ来るように 言いますけえの・ 1212 01:55:44,120 --> 01:55:49,400 田舎から出てまいりまして こんな格好をさせられとります。 1213 01:55:49,400 --> 01:55:54,270 今日は ご法事か何か? いいえ これは ふだんの格好で。 1214 01:55:54,270 --> 01:55:58,070 はぁ? こんとな仰々しい格好は 嫌じゃと言うても・ 1215 01:55:58,070 --> 01:56:03,410 ふみが 脱いだらいかん言いますのじゃ。 あ~ なるほど。 あっ そうですか。 1216 01:56:03,410 --> 01:56:08,280 わたしゃ やっぱり田舎のほうで たばこ屋でもやっとったほうが・ 1217 01:56:08,280 --> 01:56:13,090 なんぼか気楽でええと思うたりすることが あります。 1218 01:56:13,090 --> 01:56:16,960 林さんは きっと どっか いい家のお年寄りが・ 1219 01:56:16,960 --> 01:56:19,760 そういう格好をしているの 見たんですよ。 1220 01:56:19,760 --> 01:56:22,430 自分の親に 一度 あんな格好をさせてあげたい。 1221 01:56:22,430 --> 01:56:25,330 大げさに言えば 苦労なすった間中・ 1222 01:56:25,330 --> 01:56:28,770 寝た間も忘れずに それを考えていたんじゃないですか。 1223 01:56:28,770 --> 01:56:32,440 ふみが喜ぶなら着とってもええが・ 1224 01:56:32,440 --> 01:56:37,140 こりゃ 今の人の着るもんじゃないけんのう。 1225 01:56:42,780 --> 01:56:47,780 安岡さん お待たせしました。 いえいえ。 1226 01:56:50,060 --> 01:56:54,730 お母さん いいじゃないの。 とても奥ゆかしいよ。 1227 01:56:54,730 --> 01:56:58,600 「忠臣蔵」の瑤泉院が こういうの着てますね。 1228 01:56:58,600 --> 01:57:01,600 おかしい? いやいや。 1229 01:57:03,740 --> 01:57:08,740 安岡さん ここからどうぞ。 あっ…。 1230 01:57:10,410 --> 01:57:12,750 あの! 1231 01:57:12,750 --> 01:57:17,420 雑誌社と新聞社の方たちが 待っていらっしゃいますけど。 1232 01:57:17,420 --> 01:57:23,760 お茶とお菓子を出して すいませんって言っとくのよ。 はい。 1233 01:57:23,760 --> 01:57:28,630 お母さん 今日はあったかいから その被布 脱いでもいいよ。 1234 01:57:28,630 --> 01:57:30,930 そうだね。 1235 01:57:33,100 --> 01:57:35,770 お忙しいんですね。 1236 01:57:35,770 --> 01:57:41,770 断れば 「あいつ 大家面をしてる」 言われるしねえ。 1237 01:57:44,780 --> 01:57:50,580 安岡さん 印刷会社の社長さんに おなりですってねえ。 あれは 税金逃れ。 1238 01:57:50,580 --> 01:57:53,580 ほんの小さな活版屋ですよ。 1239 01:57:55,720 --> 01:58:00,060 昔 よ~く助けて頂いたわ。 1240 01:58:00,060 --> 01:58:04,930 安岡さんがいなかったら 飢え死にしていたかもしれない。 フフッ。 1241 01:58:04,930 --> 01:58:08,400 本当にいい人ね あんたって。 1242 01:58:08,400 --> 01:58:12,270 あなたに惚れていたからですよ。 (笑い声) 1243 01:58:12,270 --> 01:58:15,970 フフッ。 もの好きですね。 1244 01:58:19,410 --> 01:58:24,080 それで 奥さんは? もらいません。 さばさばしてます。 1245 01:58:24,080 --> 01:58:26,750 私のせいじゃないでしょうねえ。 1246 01:58:26,750 --> 01:58:29,420 うぬぼれては いけません。 (笑い声) 1247 01:58:29,420 --> 01:58:33,760 いえね 一度 女房を亡くしてからは もう 一人のほうが気楽だったんですよ。 1248 01:58:33,760 --> 01:58:38,430 ちょっと あなたに目がくらんだけど。 (笑い声) 1249 01:58:38,430 --> 01:58:42,430 どうぞ お楽に。 はっ 失礼します。 1250 01:58:46,310 --> 01:58:51,010 先生 ご面会の方が また3人いらしてますけど。 誰? 1251 01:58:51,010 --> 01:58:53,910 お一人は 慈善事業の方です。 1252 01:58:53,910 --> 01:58:57,380 貧乏人を助ける会なの? 1253 01:58:57,380 --> 01:59:05,260 そうだったら断ってちょうだい。 貧乏人は 働くよかしょうがないよ。 1254 01:59:05,260 --> 01:59:09,400 身体不自由何とかいう会なんですけど。 1255 01:59:09,400 --> 01:59:12,730 少しだけ申し込んどくといいわ。 1256 01:59:12,730 --> 01:59:17,600 はい。 あの~ それから 鹿児島県からいらした方で・ 1257 01:59:17,600 --> 01:59:22,080 先生の本当のお父様の いとこにあたる方だそうです。 1258 01:59:22,080 --> 01:59:26,950 わざわざ出てきたんだから 今晩泊めてもらえないだろうかって。 1259 01:59:26,950 --> 01:59:32,090 近くの宿屋へお泊めして 明日お帰り下さいって・ 1260 01:59:32,090 --> 01:59:35,960 旅費を渡してあげて。 はい。 1261 01:59:35,960 --> 01:59:41,760 次は 若い同人雑誌の方なんですけど 毎月いくらか補助して頂けないだろうか・ 1262 01:59:41,760 --> 01:59:46,100 先生は 貧乏人に理解のある方だからって…。 1263 01:59:46,100 --> 01:59:49,000 ばか野郎って言っておやりよ。 1264 01:59:49,000 --> 01:59:52,970 雑誌が出したけりゃ 働いて金を作れって。 1265 01:59:52,970 --> 01:59:55,270 はい。 1266 02:00:03,120 --> 02:00:11,460 安岡さん 私を成り上がりの 冷酷なやつだと思う? いいえ。 1267 02:00:11,460 --> 02:00:15,460 本当のことを言ってちょうだい。 1268 02:00:17,130 --> 02:00:21,470 まあ 今のあなただけを見れば なんという あったかみのない人だと・ 1269 02:00:21,470 --> 02:00:24,140 世間の人は言うかもしれません。 1270 02:00:24,140 --> 02:00:28,810 あなたが食うや食わずの中を くぐり抜けてきた そん時の苦しみ・ 1271 02:00:28,810 --> 02:00:32,150 誰も知りませんからね。 1272 02:00:32,150 --> 02:00:38,820 私はね 世の中には 身内もないし他人もないと思うんですよ。 1273 02:00:38,820 --> 02:00:43,490 生まれてくる時も一人だし 死ぬ時も もちろん一人。 1274 02:00:43,490 --> 02:00:48,100 自分で自分を助けないで 誰が助けてくれますか。 1275 02:00:48,100 --> 02:00:53,430 いやどうも 作家の林さんに こんなこと言っちゃって…。 1276 02:00:53,430 --> 02:00:57,100 あなた 本当に顔色よくありませんよ。 1277 02:00:57,100 --> 02:01:03,780 昨日も寝ていない おとといも寝ていない。 1278 02:01:03,780 --> 02:01:06,680 気を付けて下さいよ。 1279 02:01:06,680 --> 02:01:12,120 ありがとう。 お庭を拝見させて頂きます。 1280 02:01:12,120 --> 02:01:17,460 どうぞ ツツジを集めてるんですよ。 そうですか。 1281 02:01:17,460 --> 02:01:59,430 ・~ 1282 02:01:59,430 --> 02:02:03,730 あっ おかえり。 1283 02:02:05,310 --> 02:02:09,780 風邪ひくよ。 まだ寝なかったの? 1284 02:02:09,780 --> 02:02:15,450 寝ようと思ったんだけれど…。 自分の体が大事だろう。 1285 02:02:15,450 --> 02:02:21,320 うん 今寝る…。 大丈夫。 1286 02:02:21,320 --> 02:02:28,460 あ~ こうしていると疲れが取れんのよ。 1287 02:02:28,460 --> 02:03:40,460 ・~ 1288 02:03:48,740 --> 02:04:24,740 ・~