1 00:04:33,629 --> 00:04:38,634 (きしむ音) 2 00:05:23,053 --> 00:05:28,559 (ナレーション) 昔 京都に 若い武士がいた 3 00:05:30,144 --> 00:05:34,481 その主人の家が 没落のため貧しくなったので― 4 00:05:34,732 --> 00:05:39,862 彼は 遠い国の国守となって下る人に― 5 00:05:39,987 --> 00:05:41,572 新しく仕えることになった 6 00:05:53,542 --> 00:05:55,169 (武士)達者で暮らせ 7 00:05:57,755 --> 00:05:59,423 (妻の泣き声) 8 00:06:03,260 --> 00:06:05,804 (武士)ここで埋もれては 前途のある… 9 00:06:08,640 --> 00:06:11,185 男は立身出世が大事だ 10 00:06:12,853 --> 00:06:15,481 仕官の道を そなたゆえに捨て― 11 00:06:16,440 --> 00:06:18,776 ここで老い朽ちるわけにはいかぬ 12 00:06:46,678 --> 00:06:48,013 (妻)あ… 13 00:06:48,430 --> 00:06:52,226 ああ… どうでも 今日 おたちに? 14 00:06:55,145 --> 00:06:57,606 (妻) 今よりも精を出して機も織ります 15 00:06:57,940 --> 00:07:02,111 夜も昼も 暮らしのために 身を粉にして働きますゆえ― 16 00:07:02,486 --> 00:07:04,279 どうぞ 思いとどまってくださいませ 17 00:07:07,741 --> 00:07:10,494 (武士) この折を逃しては浮かぶ瀬もない 18 00:07:12,913 --> 00:07:16,041 せっかく得た仕官の道を 邪魔立てするな 19 00:07:16,166 --> 00:07:20,587 そちも もし家柄の男に縁あれば なお幸せというもの 20 00:07:20,712 --> 00:07:22,339 切りのない 21 00:07:23,257 --> 00:07:25,884 ほとほと貧しさに疲れ果てた 22 00:08:32,326 --> 00:08:35,454 (第二の妻の父) 明朝は早い出立ゆえ― 23 00:08:35,829 --> 00:08:38,457 ここらでお開きにして… 24 00:08:38,832 --> 00:08:41,126 (侍女)お床入りの支度を 25 00:09:13,909 --> 00:09:18,705 (第二の妻の父)いや… これで ようよう 娘の身も定まった 26 00:09:18,830 --> 00:09:21,458 (第二の妻の母) ほんに肩の荷が下りました 27 00:09:22,042 --> 00:09:25,796 婿殿にも どうぞ 幾久しゅう 28 00:09:26,755 --> 00:09:28,507 (武士)ふつつかながら 29 00:09:28,840 --> 00:09:32,761 (世話人) 入り婿の務めは元より承知 30 00:09:33,053 --> 00:09:38,016 (第二の妻の母)どうぞ 末永(すえなご)う 娘の面倒を見てやってくだされや 31 00:09:38,141 --> 00:09:39,393 (武士)ははっ 32 00:11:23,372 --> 00:11:28,877 (ナレーション)この武士は 愛情の価値を十分 理解せずに― 33 00:11:29,544 --> 00:11:31,755 優しい妻を捨て― 34 00:11:32,130 --> 00:11:37,719 立身のために家柄の娘と結婚して 任地へ連れていった 35 00:11:39,805 --> 00:11:41,348 しかし それは― 36 00:11:41,473 --> 00:11:45,102 貧しさにあえいでいた 無分別な若い時代だった 37 00:13:27,579 --> 00:13:31,583 (機を織る音) 38 00:13:34,294 --> 00:13:39,299 (機を織る音) 39 00:13:41,468 --> 00:13:46,473 (機を織る音) 40 00:15:14,060 --> 00:15:17,731 (ナレーション) 彼の第二の結婚は幸福ではなかった 41 00:15:18,481 --> 00:15:20,775 彼の新しい妻は― 42 00:15:20,901 --> 00:15:24,195 わがままで冷酷であった 43 00:15:24,946 --> 00:15:30,493 京都時代のことを考えて 彼は懐かしさに堪えなかった 44 00:15:32,329 --> 00:15:36,625 やっぱり 彼は 前の妻を愛していること― 45 00:15:36,917 --> 00:15:40,545 現在の妻よりも愛していることに 気がついた 46 00:15:41,755 --> 00:15:43,131 そして― 47 00:15:43,798 --> 00:15:48,803 自分が いかに義理知らずで また恩知らずであるかを感じてきた 48 00:16:16,957 --> 00:16:20,919 (ナレーション) 彼が つれなくした女の記憶 49 00:16:22,462 --> 00:16:26,174 その物静かな言葉 50 00:16:27,342 --> 00:16:28,677 微笑 51 00:16:29,427 --> 00:16:31,388 優しい物腰 52 00:16:32,931 --> 00:16:35,684 非の打ちどころのない忍耐力 53 00:16:36,726 --> 00:16:39,437 それらが 絶えず彼を悩ました 54 00:17:05,797 --> 00:17:07,882 (馬の駆ける足音) 55 00:17:18,393 --> 00:17:23,397 (馬の駆ける足音) 56 00:17:25,442 --> 00:17:27,484 おいっ… おい 57 00:17:29,237 --> 00:17:30,070 (武士)おらーっ! 58 00:18:58,368 --> 00:19:00,078 (第二の妻のあくび) 59 00:19:00,370 --> 00:19:03,331 (第二の妻)あ… ああ… 60 00:19:21,099 --> 00:19:22,267 (第二の妻)やめや 61 00:19:25,895 --> 00:19:31,484 同じような遊びには もう ほとほと飽いた 62 00:19:32,652 --> 00:19:35,613 (乳母)そなたらは もう下がってよろしい 63 00:19:48,293 --> 00:19:50,795 (乳母)先にお休みなさいませ 64 00:19:53,464 --> 00:19:57,760 旦那様には まだ ご書見のもよう 65 00:20:50,063 --> 00:20:51,064 (扇子を閉じる音) 66 00:21:03,159 --> 00:21:05,536 んん… 67 00:21:09,916 --> 00:21:11,834 恩知らず! 義理知らず! 68 00:21:15,213 --> 00:21:17,715 きょうび あなたが こうしていられるのは― 69 00:21:18,049 --> 00:21:20,468 私の家柄と引きのおかげ 70 00:21:21,010 --> 00:21:23,221 それを あなたは利用して― 71 00:21:23,471 --> 00:21:27,475 心は常に 昔の思い出ばかりを 懐かしんでおいでなのでしょう 72 00:21:27,600 --> 00:21:29,435 私を踏みつけにして 73 00:22:01,384 --> 00:22:04,220 (乳母)夜露は毒にござります 74 00:22:05,888 --> 00:22:09,058 どうぞ ご寝所においでくださいませ 75 00:22:09,434 --> 00:22:13,021 そして ご機嫌を取り結ばれたほうが… 76 00:22:13,396 --> 00:22:14,856 (武士)夜とぎか 77 00:22:15,815 --> 00:22:16,983 乳母の役であろう 78 00:22:19,652 --> 00:22:22,530 (乳母)まあ そのような… 79 00:22:22,905 --> 00:22:26,159 (武士)明日でも 親元へ戻りたくば帰す 80 00:22:30,538 --> 00:22:33,833 不足顔を見ているのは かなわんのじゃ 81 00:22:37,128 --> 00:22:40,298 そう言うてくれ 82 00:22:45,386 --> 00:22:48,723 しょせんは若気の至り 83 00:22:50,641 --> 00:22:53,311 捨てた妻を捜し求めて― 84 00:22:56,731 --> 00:23:00,860 私は罪の償いをする決心だ 85 00:23:07,450 --> 00:23:09,994 (ナレーション) しかし 歳月は過ぎた 86 00:23:11,329 --> 00:23:13,581 彼が任期を終えて― 87 00:23:13,915 --> 00:23:18,836 昔 彼女が住んでいた京(きょう)の町に 着いたのは9月10日 88 00:23:20,171 --> 00:23:24,550 夜は深く 都は墓地のように静かであった 89 00:24:04,298 --> 00:24:05,299 (床板が抜ける音) 90 00:24:22,275 --> 00:24:23,401 (床板が抜ける音) 91 00:25:07,904 --> 00:25:09,363 (物音) 92 00:26:21,978 --> 00:26:24,897 いつ京へお帰りに? 93 00:26:27,358 --> 00:26:28,401 今 94 00:26:31,070 --> 00:26:32,738 たった今だ 95 00:26:33,864 --> 00:26:38,327 (妻)まあ… このような暗い中を― 96 00:26:39,203 --> 00:26:42,039 よく道がお分かりになりました 97 00:26:42,164 --> 00:26:43,457 それはお疲れでございましょう 98 00:26:43,582 --> 00:26:45,710 (武士)いや そこに座っていてくれ 99 00:26:46,502 --> 00:26:48,087 (武士)何も構わんでよい (妻)いえ 100 00:26:48,212 --> 00:26:50,673 (妻)さ湯なりと たいて (武士)いらん 101 00:26:56,262 --> 00:26:58,347 (武士)昔と少しも変わらぬ 102 00:27:00,766 --> 00:27:02,518 あのときのままだ 103 00:27:07,148 --> 00:27:10,568 片ときも忘れることのできなかった そなたの面影 104 00:27:12,486 --> 00:27:14,530 懐かしい そなたの声 105 00:27:19,910 --> 00:27:21,454 許してくれ 106 00:27:23,331 --> 00:27:25,541 私は残酷な男だ 107 00:27:26,709 --> 00:27:28,085 愚か者だ 108 00:27:29,754 --> 00:27:31,839 さげすまれても しかたのない人間だ 109 00:27:38,721 --> 00:27:40,348 (武士)任期も満ち― 110 00:27:40,890 --> 00:27:43,476 ひとまず役目の終わる今日まで― 111 00:27:43,851 --> 00:27:47,104 幾たび そなたの元に戻ろうと 思案したか 112 00:27:48,105 --> 00:27:51,067 どれほど 己のわがままを後悔したか 113 00:27:53,611 --> 00:27:56,864 そなたなしで どのように不幸なものか 114 00:27:58,074 --> 00:28:00,785 別れたことを 取り返しのつかぬ思いで― 115 00:28:00,910 --> 00:28:02,995 苦しみ悩みとおし― 116 00:28:04,121 --> 00:28:08,501 長い間 この償いをいかにしたらと とつおいつ考え続け― 117 00:28:09,251 --> 00:28:11,879 何はさておいても京に急ごう 118 00:28:12,004 --> 00:28:14,340 そして そなたを捜し出そうと― 119 00:28:15,549 --> 00:28:18,386 気も焦って 夜更けの道を夢中で… 120 00:28:19,637 --> 00:28:22,306 そのように お心を砕いて― 121 00:28:23,349 --> 00:28:25,643 私のような者のために 122 00:28:26,477 --> 00:28:27,812 許せ 123 00:28:29,647 --> 00:28:31,190 許してくれ 124 00:28:32,024 --> 00:28:34,527 このあほう者を許してくれ 125 00:28:35,111 --> 00:28:38,030 そんなに自ら お責めなされて 126 00:28:41,158 --> 00:28:44,036 私のために そのような苦しい思いは― 127 00:28:44,161 --> 00:28:46,664 もう おやめくださいませ 128 00:28:47,790 --> 00:28:50,251 しょせん 私は 日頃から― 129 00:28:50,543 --> 00:28:54,130 あなたの妻になる資格も 値打ちもない身と… 130 00:28:54,255 --> 00:28:55,548 (武士)いえ… (妻)いいえ 131 00:28:55,673 --> 00:29:00,344 (妻)身の程を知りながらも つい足手まといに 132 00:29:03,222 --> 00:29:06,183 (武士)何としても あのむごい別れようは… 133 00:29:07,143 --> 00:29:11,522 それは… 貧しさがさせたこと 134 00:29:14,024 --> 00:29:19,655 日頃は いつも お優しゅう いたわってくださいましたもの 135 00:29:19,947 --> 00:29:21,699 何のお恨みなぞ 136 00:29:27,037 --> 00:29:30,249 (妻)何とぞ あなたに よい月日をと― 137 00:29:31,667 --> 00:29:35,004 朝夕 陰で祈っておりました 138 00:29:39,300 --> 00:29:41,010 (武士)ああ… 139 00:29:53,814 --> 00:29:55,191 この償いは きっと 140 00:29:55,816 --> 00:29:57,109 いいえ 141 00:29:58,152 --> 00:30:00,488 はるばる来てくだすった 142 00:30:01,489 --> 00:30:04,450 それだけでもう 私は幸せ 143 00:30:08,537 --> 00:30:09,872 たとえ― 144 00:30:11,165 --> 00:30:13,959 しばしの間でも こうして… 145 00:30:16,629 --> 00:30:17,797 しばしの間… 146 00:30:19,173 --> 00:30:20,508 (武士)ああ… 147 00:30:21,342 --> 00:30:25,095 “七度(たび) 生まれ変わっても”と そう言うてくれ 148 00:30:26,847 --> 00:30:29,850 そなたさえ嫌でなければ いつまでも 149 00:30:30,142 --> 00:30:33,646 いつまでも一緒にいよう 150 00:30:36,607 --> 00:30:39,443 どのようなことがあっても 別れはすまい 151 00:30:42,446 --> 00:30:44,532 (武士)ああ… 152 00:30:45,616 --> 00:30:48,661 この懐かしい髪の香りは― 153 00:30:50,412 --> 00:30:53,082 昔ながらの そなたの匂いだ 154 00:31:05,344 --> 00:31:08,556 いつに変わらぬ黒髪の艶やかさ 155 00:31:11,976 --> 00:31:13,394 この目 156 00:31:15,938 --> 00:31:17,815 愛らしい鼻 157 00:31:22,111 --> 00:31:24,196 柔らかい頬 158 00:31:27,032 --> 00:31:28,367 そして… 159 00:32:09,450 --> 00:32:11,285 悲しいことは― 160 00:32:12,494 --> 00:32:14,538 もう忘れました 161 00:32:19,376 --> 00:32:21,879 あなたが おたちになってから― 162 00:32:22,254 --> 00:32:24,590 京にも いろいろなことが… 163 00:32:25,966 --> 00:32:27,593 (武士)そうであろう 164 00:32:28,385 --> 00:32:31,430 (妻)一夜では語り尽くせぬほど 165 00:32:36,644 --> 00:32:38,187 まもなく― 166 00:32:40,481 --> 00:32:42,483 夜も明けまする 167 00:32:52,242 --> 00:32:54,370 この部屋も懐かしい 168 00:32:55,663 --> 00:32:58,499 そなたと初めて ちぎりを結んだ… 169 00:33:06,799 --> 00:33:09,510 幾夜か重ねた思い出の部屋だ 170 00:33:10,344 --> 00:33:12,096 眠るには惜しい 171 00:33:19,103 --> 00:33:22,106 (武士)過去 現在 未来の 積もる話を― 172 00:33:22,231 --> 00:33:24,858 まだまだ 2人で話し合って― 173 00:33:25,651 --> 00:33:28,737 この幸せをかみしめ味わっていたい 174 00:33:32,157 --> 00:33:34,785 ほんに 私とて 夢のような… 175 00:33:43,544 --> 00:33:46,547 お帰りを しっかりと逃がさぬよう― 176 00:33:47,631 --> 00:33:50,634 つかの間も眠りとうはございませぬ 177 00:35:32,027 --> 00:35:37,282 (叫び声) 178 00:38:33,917 --> 00:38:36,044 (武士)ああっ! 179 00:40:35,831 --> 00:40:38,500 (ナレーション) 武蔵国(むさしのくに)の ある村に― 180 00:40:39,167 --> 00:40:43,505 茂作(もさく) 巳之吉(みのきち)という 2人のきこりがいた 181 00:40:44,589 --> 00:40:46,466 茂作は老人で― 182 00:40:47,884 --> 00:40:52,806 そして 年季奉公人の巳之吉は 18歳の若者だった 183 00:40:55,642 --> 00:41:00,939 彼らは毎日 村から3里離れた森へ 一緒に出かけたが― 184 00:41:01,898 --> 00:41:06,611 ある 大層寒い日 帰り道で大吹雪に遭った 185 00:43:28,712 --> 00:43:33,717 (風の音) 186 00:45:43,054 --> 00:45:47,767 (ナレーション) 渡し守は舟を向こう岸に 残したままで帰ってしまった 187 00:45:49,060 --> 00:45:51,563 泳げるような日ではなかった 188 00:48:38,730 --> 00:48:43,735 (雪女が息を吹きかける音) 189 00:49:58,476 --> 00:50:03,481 (雪女)私は 今一人の人のようにね― 190 00:50:03,940 --> 00:50:07,527 あなたをしてしまおうかと思った 191 00:50:08,986 --> 00:50:10,071 でも― 192 00:50:10,947 --> 00:50:14,200 気の毒な気がしてならない 193 00:50:15,243 --> 00:50:17,412 あなたは若いから 194 00:50:23,543 --> 00:50:26,379 (雪女)美少年ね あなたは 195 00:50:29,590 --> 00:50:34,846 私は もう あなたに危害は加えません 196 00:50:36,222 --> 00:50:37,432 だけど― 197 00:50:38,141 --> 00:50:42,729 もし 今夜 あんたが見たことを 誰かに告げたら… 198 00:50:43,813 --> 00:50:48,568 たとえ お母さんにでも言うなら 私に分かるよ 199 00:50:51,154 --> 00:50:55,074 そのときは お前を殺す 200 00:51:01,539 --> 00:51:06,502 私の言うこと しっかりと覚えておきなさい 201 00:51:08,129 --> 00:51:09,756 分かったね? 202 00:52:31,462 --> 00:52:33,756 (足音) 203 00:52:36,717 --> 00:52:39,095 (足音) 204 00:53:46,412 --> 00:53:48,956 (母)では行ってくるからね 205 00:53:51,375 --> 00:53:56,672 少し売って稼がねば 206 00:53:59,842 --> 00:54:03,304 まだまだ当分 働けないよ 207 00:54:04,889 --> 00:54:07,433 病気がよくならねば 208 00:54:09,727 --> 00:54:13,773 よっぽど体にこたえたらしいからね 209 00:54:15,191 --> 00:54:19,195 そら かゆが冷めるに 210 00:54:24,951 --> 00:54:28,996 これから よほど気をつけてくれぬと 211 00:54:30,081 --> 00:54:33,042 あの茂作旦那のように― 212 00:54:34,001 --> 00:54:37,505 血の気も何も 抜き取られたように― 213 00:54:39,340 --> 00:54:42,635 凍りづいて死んじまうだよ 214 00:54:45,805 --> 00:54:51,936 今度 そんな目に遭ったら もう取り返しがつかぬから 215 00:54:54,397 --> 00:54:56,357 聞いてるのかい? 216 00:55:02,655 --> 00:55:07,326 何を言っても黙りこくって 217 00:55:35,688 --> 00:55:36,564 (木を切る音) 218 00:55:36,689 --> 00:55:38,649 (ナレーション)それから1年 219 00:55:39,275 --> 00:55:43,404 彼は達者になると 再び仕事に就いた 220 00:55:44,905 --> 00:55:48,159 そして 毎朝 1人で森へ出かけて― 221 00:55:48,284 --> 00:55:50,745 薪の束を持って帰った 222 00:57:16,330 --> 00:57:19,542 (巳之吉) こんな日暮れに どこへ? 223 00:57:19,875 --> 00:57:21,252 (お雪(ゆき))お江戸(えど)へ 224 00:57:23,087 --> 00:57:24,213 (巳之吉)これから? 225 00:57:25,548 --> 00:57:26,590 (お雪)ええ 226 00:57:37,977 --> 00:57:42,648 (お雪)二親とも亡くなって 身寄りを頼りに― 227 00:57:43,315 --> 00:57:47,653 どこか 奉公口でも 探してもらおうと思って 228 00:57:48,988 --> 00:57:50,281 (巳之吉)兄弟は? 229 00:57:51,782 --> 00:57:52,950 1人も? 230 00:58:00,499 --> 00:58:05,838 (巳之吉)身寄りを訪ねていって いい奉公口があればいいが… 231 00:58:06,505 --> 00:58:09,091 (お雪) 身元引き受けのない者は― 232 00:58:09,300 --> 00:58:13,012 いい所へも 召し使いには上がれぬとか? 233 00:58:14,346 --> 00:58:17,099 (巳之吉)フッ 嫁に行ったほうが… 234 00:58:21,145 --> 00:58:22,354 あなたは? 235 00:58:29,195 --> 00:58:30,154 ウフフ… 236 00:58:33,157 --> 00:58:34,742 ハハハ… 237 00:58:47,463 --> 00:58:48,464 (巳之吉)ほれ 238 00:58:54,345 --> 00:58:55,721 (お雪)ああっ (巳之吉)おっ 239 00:59:47,106 --> 00:59:48,232 (巳之吉)ああ… 240 00:59:50,609 --> 00:59:53,529 そこがね おいらのうち 241 00:59:53,988 --> 00:59:55,155 (お雪)ああ… 242 00:59:56,115 --> 00:59:59,910 (巳之吉)休んでったら? 誰も遠慮する者はいねえから 243 01:00:00,035 --> 01:00:01,662 (お雪)でも… (巳之吉)おふくろだけだから― 244 01:00:01,787 --> 01:00:03,247 かまわねえに 245 01:00:06,208 --> 01:00:07,418 さあ 246 01:00:41,160 --> 01:00:44,163 お雪さんという名前かね? 247 01:00:44,830 --> 01:00:48,125 そうか… そうか 248 01:00:53,839 --> 01:01:00,596 (母)これから江戸へといっても 当てのあるような ないような 249 01:01:01,347 --> 01:01:05,809 一人旅じゃ心細い話じゃのう 250 01:01:08,020 --> 01:01:14,735 誰彼が いつも 親切にしてくれるとは限らないし 251 01:01:17,029 --> 01:01:19,990 若い娘は なおさら 252 01:01:21,158 --> 01:01:24,578 悪いやつに 取っつかれないよう― 253 01:01:25,412 --> 01:01:28,165 気をつけて行かないと 254 01:01:42,888 --> 01:01:47,017 さあさあ あったかいうちに ここへ来て 255 01:02:36,734 --> 01:02:38,444 (お雪)アハハハ… 256 01:02:39,945 --> 01:02:41,405 ウフフ… 257 01:02:41,530 --> 01:02:45,909 アハハ… ハハハ… 258 01:02:51,457 --> 01:02:55,377 (お雪の笑い声) 259 01:02:55,502 --> 01:03:00,424 (お雪と巳之吉の笑い声) 260 01:03:35,083 --> 01:03:40,297 (ナレーション)そして お雪は 美しい色白の子どもを産んで― 261 01:03:40,422 --> 01:03:43,175 村でも評判のよい嫁となった 262 01:03:43,300 --> 01:03:47,888 (子どもたち) ♪ 雪こんこん雨こんこん 263 01:03:48,430 --> 01:03:50,849 ♪ お寺の茶の木に 264 01:03:50,974 --> 01:03:54,144 ♪ 雪いっぺたまった 265 01:03:54,645 --> 01:03:58,524 ♪ こぞこぞほろげ おしょうさん 266 01:03:58,649 --> 01:04:03,028 ♪ ほろがねがら おらやんだ 267 01:04:07,491 --> 01:04:10,160 (お雪)さあ ばば様にお参りしなさい 268 01:04:10,285 --> 01:04:13,080 みんな こんなに 大きくなりましたと 269 01:04:17,835 --> 01:04:19,670 ばば様にあげなさい 270 01:04:39,815 --> 01:04:43,360 (村人) 若いね あの人は いつまでも 271 01:04:43,485 --> 01:04:45,195 (村人)本当だよ 272 01:04:45,320 --> 01:04:50,158 この村へ初めて来た日と ちっとも変わらないからね 273 01:04:50,284 --> 01:04:52,411 (村人)不思議な人だ 274 01:04:58,333 --> 01:05:00,043 (村人)墓参りかね? 275 01:05:00,168 --> 01:05:04,923 (お雪)ええ ばば様の祥月命日なので 276 01:05:05,048 --> 01:05:09,303 (村人)そうか そりゃあ きっと喜んでるだよ 277 01:05:09,428 --> 01:05:13,807 いい孫ばかりそろって 墓参りしてもらえるだもの 278 01:05:13,932 --> 01:05:15,559 (村人)安心だ 279 01:05:15,684 --> 01:05:20,063 (村人)嫁さんのことを 褒めそやして死んだってね 280 01:05:20,272 --> 01:05:24,109 (村人)めったに聞かないよ そういうのは 281 01:05:24,234 --> 01:05:25,277 (村人)聞かないね 282 01:05:25,402 --> 01:05:27,529 (村人)聞いたことないよ そういううちは 283 01:05:27,654 --> 01:05:30,157 (村人) よっぽどできた嫁さんでもよ 284 01:05:30,490 --> 01:05:34,202 いいえ 皆さんのおかげで― 285 01:05:34,328 --> 01:05:37,372 私も 幸せに こうやって 286 01:05:37,581 --> 01:05:41,084 まず何よりだ 夫婦仲のいいのが 287 01:05:41,209 --> 01:05:45,714 (村人)当たり前だ これだけきれいな嫁さんを― 288 01:05:45,839 --> 01:05:47,841 気に入って もらったんだから 289 01:05:47,966 --> 01:05:49,301 (村人)当たり前だよ 290 01:05:49,426 --> 01:05:54,431 (村人たちの笑い声) 291 01:05:56,642 --> 01:06:00,228 (村人)何だら みずみずしい おっかあだ 292 01:06:00,562 --> 01:06:03,732 大抵は 3人も子持ちになりゃ― 293 01:06:03,857 --> 01:06:07,486 百姓は老け込んじまうだよ みんな 294 01:06:07,611 --> 01:06:09,863 (村人)姉様みたいだ まるで 295 01:06:11,490 --> 01:06:13,283 不思議だよ 296 01:07:52,841 --> 01:07:53,967 (巳之吉)どうだ? 297 01:07:54,885 --> 01:07:56,178 履いてみな 298 01:07:58,388 --> 01:07:59,973 小さかったかな 299 01:08:02,225 --> 01:08:03,268 (お雪)子どもたちのは? 300 01:08:03,393 --> 01:08:05,145 (巳之吉)ああ 仕上がってる 301 01:08:19,993 --> 01:08:23,413 あれあれ もうすっかり正月の草履が 302 01:08:25,040 --> 01:08:27,584 (巳之吉) 鼻緒がきつければ緩めておく 303 01:08:27,834 --> 01:08:29,419 さあ 履いてみな 304 01:08:29,544 --> 01:08:30,712 (お雪)はい 305 01:08:34,341 --> 01:08:39,136 大層きれいな 赤いきれ 入れて… 306 01:08:39,261 --> 01:08:40,596 (巳之吉)おめえは まだ… 307 01:08:40,721 --> 01:08:42,974 (お雪)もう3人の子持ちだのに 308 01:08:43,100 --> 01:08:45,894 (巳之吉)まだ おめえには これがよく映る 309 01:08:46,019 --> 01:08:48,479 足元が美しく見えるに 310 01:09:12,712 --> 01:09:14,756 まあ ちょうど 311 01:09:15,090 --> 01:09:18,635 きつすぎもせず 緩すぎもせず 312 01:09:19,051 --> 01:09:21,888 ちょうど加減にできております 313 01:09:22,471 --> 01:09:24,265 あんたが編んだ草履は― 314 01:09:24,390 --> 01:09:27,853 みんなが“どことなく形がよくて 長持ちする”と― 315 01:09:27,978 --> 01:09:30,814 欲しがって頼みに来なさるけど… 316 01:09:31,231 --> 01:09:33,984 これはまた 特に足触りといい 317 01:09:34,109 --> 01:09:38,404 (巳之吉)念入りに作ったもの 晴れ着に負けぬよう 318 01:09:40,240 --> 01:09:42,450 (お雪)まるで旅立ちのような 319 01:09:42,576 --> 01:09:43,535 (巳之吉)うん? 320 01:09:44,243 --> 01:09:48,582 いや… ろくな晴れ着も作ってやれぬに― 321 01:09:49,040 --> 01:09:52,752 せめて履物なりと なあ? 322 01:09:53,377 --> 01:09:55,005 ハハハ… 323 01:09:55,130 --> 01:09:59,801 (お雪)それ履いて この 仕立て返しの晴れ着ができれば― 324 01:09:59,926 --> 01:10:03,013 子どもたちには上々のお正月 325 01:10:04,598 --> 01:10:06,725 (巳之吉)仕立て返しは もうできるか? 326 01:10:07,893 --> 01:10:11,188 (お雪)せっせと もう一針で 327 01:11:21,800 --> 01:11:24,261 (お雪)何を そんなに見つめているんですか? 328 01:11:24,386 --> 01:11:25,345 (巳之吉)うん? 329 01:11:31,017 --> 01:11:32,477 (ため息) 330 01:11:34,854 --> 01:11:38,483 いや 今 ふと思い出しただ 10年も前のことを 331 01:11:39,150 --> 01:11:43,655 ハハハ… 不思議だな 気にも留めていなかったのに 332 01:11:44,030 --> 01:11:46,116 おめえが そうやって明かりを受けて― 333 01:11:46,241 --> 01:11:49,536 下から おらが こうして 見上げていたもんだから― 334 01:11:50,328 --> 01:11:52,580 急に あの夜のことを… 335 01:11:57,752 --> 01:11:59,587 あの夜のこと? 336 01:12:00,422 --> 01:12:03,717 (巳之吉)そうなんだ 不思議なことがあっただよ 337 01:12:04,342 --> 01:12:06,845 つい昨日のことのようだが… 338 01:12:10,432 --> 01:12:15,186 あの夜のことはな 今日まで 誰にも言わなかっただがね 339 01:12:15,979 --> 01:12:20,150 今 思っても 夢なのか本当のことなのか… 340 01:12:22,652 --> 01:12:24,571 あの茂作旦那がよ― 341 01:12:25,405 --> 01:12:29,951 血の気 吸い取られて 凍りついて死んだ日だ 342 01:12:31,911 --> 01:12:33,621 おら この目で― 343 01:12:34,205 --> 01:12:40,086 茂作旦那の上に覆いかぶさるように のしかかってる女を見ただよ 344 01:12:41,379 --> 01:12:42,756 そしてな― 345 01:12:43,673 --> 01:12:47,635 白い煙のような息を ハァーッと吐きかけているだ 346 01:12:47,761 --> 01:12:52,849 するとな 凍りついて 相手は 自由が利かなくなってくるだ 347 01:12:55,018 --> 01:12:59,064 その女がよ おらの上にも顔 寄せてきてよ― 348 01:12:59,189 --> 01:13:01,524 すんでに おら しびれかけてきただ 349 01:13:04,694 --> 01:13:06,196 するとよ― 350 01:13:07,739 --> 01:13:10,784 そのな 恐ろしい女の目が― 351 01:13:12,202 --> 01:13:16,915 この世にもねえ 美しい きれいな― 352 01:13:17,957 --> 01:13:20,377 いい女に見えてきて 353 01:13:22,712 --> 01:13:25,590 ちょうど おめえみてえに 色白のな… 354 01:13:28,385 --> 01:13:30,178 そっくりだよ 355 01:13:31,012 --> 01:13:34,474 今な おめえが よく似てるように見えただ 356 01:13:36,184 --> 01:13:40,772 アッハハ… それで思い出したとみえる 357 01:13:41,606 --> 01:13:43,483 ああ ひところはな― 358 01:13:43,733 --> 01:13:46,820 寝ても覚めても 忘れるところじゃなかったがよ 359 01:13:46,945 --> 01:13:50,824 ハハッ ひどく体にこたえたな その後 360 01:13:58,289 --> 01:13:59,916 だってよ― 361 01:14:00,708 --> 01:14:03,086 あの川の渡し守の小屋でよ― 362 01:14:03,211 --> 01:14:05,672 恐ろしい吹雪の一夜さ 過ごしたときだ 363 01:14:05,797 --> 01:14:10,927 この目で はっきり 茂作旦那の 息の根を止める怪しい女を見たんだ 364 01:14:12,887 --> 01:14:15,807 それから今日まで おめえは別として― 365 01:14:16,349 --> 01:14:20,687 あんな色の白(しれ)え美しい女に 出会ったことはねえもん 366 01:14:22,605 --> 01:14:26,651 だが あの女は恐ろしい 人間じゃねえよ 367 01:14:27,527 --> 01:14:28,695 あれはよ― 368 01:14:28,820 --> 01:14:33,616 血の気 探して 人のぬくもりを 求めてやってくる雪女か… 369 01:14:34,451 --> 01:14:36,744 ハハハ… でなきゃ夢か 370 01:14:42,542 --> 01:14:44,294 (お雪)夢ではない 371 01:15:08,568 --> 01:15:09,819 私 372 01:15:12,947 --> 01:15:14,699 それは私 373 01:15:17,076 --> 01:15:18,578 私よ 374 01:15:21,039 --> 01:15:21,873 私だよ 375 01:15:31,799 --> 01:15:36,012 それは 雪だった 376 01:15:40,099 --> 01:15:45,438 あの夜 誰にも言わない約束を 377 01:15:47,190 --> 01:15:50,109 あんたは とうとう破ってしまった 378 01:15:51,736 --> 01:15:56,241 私と あんたの 命にかえた永遠の誓い 379 01:15:57,867 --> 01:16:02,956 それに背いたら 私は“殺す”と言ったでしょ? 380 01:17:35,590 --> 01:17:39,469 (雪女)あなたは私を裏切った 381 01:17:45,391 --> 01:17:50,063 ああ… そこに眠っている 子どもたちがいなかったら― 382 01:17:53,775 --> 01:17:56,569 今すぐ あんたを殺すところだ 383 01:18:19,550 --> 01:18:21,386 今となっては― 384 01:18:24,597 --> 01:18:28,434 子どもらを大事に… 385 01:18:29,102 --> 01:18:31,312 大事にされたがよい 386 01:19:20,403 --> 01:19:22,196 もしも 子どもらが― 387 01:19:23,030 --> 01:19:27,034 少しでも あなたに不満を 持つようなことがあったら― 388 01:19:29,412 --> 01:19:31,956 私は ただではおかないから 389 01:22:04,567 --> 01:22:06,360 (巳之吉)ううっ… 390 01:22:07,820 --> 01:22:12,867 (巳之吉の泣き声) 391 01:23:20,559 --> 01:23:25,606 (琵琶の演奏) 392 01:24:06,522 --> 01:24:09,942 (芳一(ほういち))時こそ 393 01:24:10,067 --> 01:24:14,864 来たれ 394 01:24:14,989 --> 01:24:19,785 元暦(げんりゃく)二年三月二十四日の 395 01:24:19,910 --> 01:24:24,123 卯(う)の刻に 396 01:24:24,248 --> 01:24:27,877 源平(げんぺい)両軍船出して 397 01:24:28,002 --> 01:24:34,967 壇ノ浦(だんのうら)にて 398 01:24:35,301 --> 01:24:38,095 矢合わせとぞ 399 01:24:38,220 --> 01:24:46,228 定めける 400 01:25:01,744 --> 01:25:05,289 (芳一)金剛童子の旗 401 01:25:05,414 --> 01:25:11,587 押し樹(た)てて 402 01:25:14,173 --> 01:25:20,429 紀伊国(きいのくに)の住人 熊野(くまの)の湛増(たんぞう)を先陣とし 403 01:25:20,554 --> 01:25:26,477 続くは伊予国(いよのくに)の住人 河野(こうの)通信(みちのぶ) 404 01:25:26,602 --> 01:25:32,983 四国の海部(あまべ)を率い 405 01:25:33,609 --> 01:25:37,780 攻め 406 01:25:37,905 --> 01:25:42,993 鼓を打って鼕々(とうとう)と 407 01:25:43,119 --> 01:25:50,084 兵船もろとも 408 01:25:51,043 --> 01:25:56,215 三千余艘(そう) 409 01:25:57,133 --> 01:26:02,388 平家(へいけ)の軍を囲まんと 410 01:26:02,513 --> 01:26:09,478 あせり競いて 411 01:26:10,604 --> 01:26:17,570 突進す 412 01:26:18,195 --> 01:26:23,117 この一団ぞ義経(よしつね)の 413 01:26:23,742 --> 01:26:30,708 麾下(はたもと)なりと 414 01:26:31,250 --> 01:26:40,092 知られける 415 01:26:45,848 --> 01:26:49,143 (ナレーション) この下関(しものせき)海峡の壇ノ浦で― 416 01:26:50,102 --> 01:26:55,399 長い争いを続けていた 源平最後の合戦が行われた 417 01:26:57,359 --> 01:26:59,445 屋島(やしま)は既に落ち― 418 01:26:59,862 --> 01:27:04,408 志度浦(しどのうら)を追われ 西へ西へと逃れてきて― 419 01:27:04,909 --> 01:27:10,497 ここで 幼い天皇と共に 平家の一門は滅亡した 420 01:28:27,366 --> 01:28:33,289 (芳一)能登守教経(のとのかみのりつね)は 421 01:28:33,414 --> 01:28:37,626 今日を最後とや 422 01:28:37,751 --> 01:28:43,674 思いけん 423 01:28:43,924 --> 01:28:50,848 おっと 雑兵 相手にあらず 424 01:28:50,973 --> 01:28:55,978 源氏(げんじ)の大将 九郞(くろう)義経にこそ 425 01:28:56,103 --> 01:28:58,480 組み合わん 426 01:28:58,605 --> 01:29:05,571 では いよいよ 義経 427 01:29:08,949 --> 01:29:13,954 (琵琶の演奏) 428 01:31:16,451 --> 01:31:19,788 (芳一) かの岸に逃れんとすれば 429 01:31:19,913 --> 01:31:25,043 浪(なみ)高くしてかないがたく 430 01:31:25,169 --> 01:31:29,423 この汀(みぎわ)に上がらんとすれば 431 01:31:29,840 --> 01:31:32,843 源氏 432 01:31:32,968 --> 01:31:37,973 矢先を揃(そろ)えて待ち受けたり 433 01:31:38,098 --> 01:31:44,313 船手漕手(こぎて)も討ち果(はた)され 434 01:31:44,438 --> 01:31:49,943 行方も知らず平家の船 435 01:31:50,068 --> 01:31:53,655 あるいは沈み 436 01:31:54,823 --> 01:32:01,788 あるいは漂い 437 01:32:03,248 --> 01:32:10,214 源平の国争い 438 01:32:11,548 --> 01:32:16,220 今日を限りと 439 01:32:16,345 --> 01:32:24,895 見えたりける 440 01:33:00,889 --> 01:33:05,477 (芳一)二位殿は 441 01:33:07,521 --> 01:33:11,942 この有様を 442 01:33:12,067 --> 01:33:19,032 御覧じて 443 01:33:21,743 --> 01:33:28,709 帝を抱き奉り 444 01:33:31,169 --> 01:33:36,800 わが身は女なりとも 445 01:33:36,925 --> 01:33:39,928 敵(かたき)の手には 446 01:33:40,053 --> 01:33:47,019 かかるまじ 447 01:33:48,020 --> 01:33:54,318 君の御供に参るなり 448 01:33:54,443 --> 01:33:59,489 志あらん人々は 449 01:33:59,614 --> 01:34:06,580 急ぎ続き給(たま)え 450 01:35:24,324 --> 01:35:28,495 (ナレーション) そして この海と浜辺は― 451 01:35:29,329 --> 01:35:33,875 700年間 その怨霊にたたられていた 452 01:35:35,293 --> 01:35:37,838 ここに 幾千幾百の― 453 01:35:37,963 --> 01:35:41,591 湧くように発生した ヘイケガニの甲羅が― 454 01:35:41,883 --> 01:35:46,012 人間の顔をしているのも その1つであるが… 455 01:35:47,347 --> 01:35:49,850 (鐘の音) 456 01:35:49,975 --> 01:35:55,230 (ナレーション)供養の阿弥陀寺(あみだじ)が 赤間ケ原(あかまがはら)に建立された後もなお… 457 01:35:58,567 --> 01:36:01,445 (鐘の音) 458 01:36:01,570 --> 01:36:04,489 (ナレーション) 怪しいことが まだ折々起こった 459 01:36:12,998 --> 01:36:16,042 (鐘の音) 460 01:36:26,636 --> 01:36:28,180 (住職)芳一 461 01:36:31,975 --> 01:36:33,602 (住職)芳一 462 01:36:37,606 --> 01:36:40,192 (井戸の水をくむ音) 463 01:36:45,238 --> 01:36:47,449 (呑海(どんかい))あっ そんな所に 464 01:36:47,574 --> 01:36:50,118 井戸に落ちんよう 気をつけたがよいぞ 芳一 465 01:36:50,243 --> 01:36:51,119 (芳一)はい 466 01:36:51,661 --> 01:36:54,706 和尚様が 留守居を頼むと言うておられる 467 01:36:54,831 --> 01:36:55,790 わしも お供をして― 468 01:36:55,916 --> 01:36:59,211 今日 頼まれた檀家のお通夜に 出かけてくるほどに 469 01:36:59,336 --> 01:37:00,337 (芳一)はい 470 01:37:00,837 --> 01:37:04,508 スイカが土間に切ってあるから 冷たいうちに食べなされ 471 01:37:04,633 --> 01:37:06,218 (芳一) はい ありがとうございます 472 01:37:06,343 --> 01:37:07,469 (呑海)よいな 473 01:37:20,941 --> 01:37:23,276 (呑海)気をつけるよう よう言うておきました 474 01:37:23,401 --> 01:37:27,239 (住職)うん あれは 来て まだ慣れんゆえ 475 01:37:27,364 --> 01:37:29,783 (呑海) 大事ないとは思いまするが 476 01:38:11,533 --> 01:38:12,993 (物音) 477 01:38:16,371 --> 01:38:17,914 (物音) 478 01:38:21,960 --> 01:38:23,295 (物音) 479 01:38:31,970 --> 01:38:33,388 (物音) 480 01:38:44,899 --> 01:38:46,526 (物音) 481 01:38:50,739 --> 01:38:51,865 (物音) 482 01:39:13,928 --> 01:39:15,263 (物音) 483 01:39:21,353 --> 01:39:22,646 (物音) 484 01:39:25,732 --> 01:39:27,067 (物音) 485 01:39:31,863 --> 01:39:33,031 (芳一)誰じゃ? 486 01:39:39,621 --> 01:39:41,122 (物音) 487 01:39:51,174 --> 01:39:54,219 (芳一)和尚様 お帰りですか? 488 01:40:25,041 --> 01:40:30,088 (琵琶の演奏) 489 01:40:32,590 --> 01:40:34,092 (物音) 490 01:40:39,264 --> 01:40:44,352 今頃 夜更けに訪れる人の あるはずもないが 491 01:40:46,396 --> 01:40:47,856 気のせいか 492 01:40:48,398 --> 01:40:53,486 (琵琶の演奏) 493 01:41:17,010 --> 01:41:18,428 (武士)芳一 494 01:41:24,726 --> 01:41:29,773 (琵琶の演奏) 495 01:41:36,613 --> 01:41:37,739 (武士)芳一! 496 01:41:38,072 --> 01:41:38,948 (芳一)はい 497 01:41:40,116 --> 01:41:41,910 どなた様でございますか? 498 01:41:47,415 --> 01:41:49,042 私はめくらで― 499 01:41:49,250 --> 01:41:52,587 このお寺様にお世話をいただいて まだ日も浅く… 500 01:41:53,671 --> 01:41:55,381 どうも 先ほどから― 501 01:41:55,632 --> 01:41:58,343 どなたか お庭においでのように 思いましたが― 502 01:41:58,927 --> 01:42:02,305 失礼をいたしました お許しくださいまし 503 01:42:08,853 --> 01:42:10,230 (武士)怖がることはない 504 01:42:12,357 --> 01:42:15,485 拙者は この寺の近くにおる者だが― 505 01:42:16,027 --> 01:42:20,323 お前の元に用を伝えるようにと 仰せつかって参ったのだ 506 01:42:22,784 --> 01:42:26,204 拙者のご主君は さる高貴なお方であるが― 507 01:42:26,329 --> 01:42:31,167 ただいま大勢の供の者と この赤間ケ原にご滞在中 508 01:42:31,459 --> 01:42:34,587 壇ノ浦の古戦場を ご覧になりたいとて― 509 01:42:34,712 --> 01:42:36,297 今日 ご見物あそばされた 510 01:42:38,591 --> 01:42:39,551 (芳一)はっ 511 01:42:40,844 --> 01:42:44,138 (武士)ところで お前が幼少のころより― 512 01:42:44,264 --> 01:42:47,725 琵琶にて その戦の模様を語る たえなる技は― 513 01:42:47,851 --> 01:42:51,396 師匠をしのぐと世に伝わるを 聞こし召されて― 514 01:42:51,646 --> 01:42:54,983 ぜひとも お前の奏する琵琶をと ご所望である 515 01:42:55,358 --> 01:42:58,903 よって 即刻 拙者と共に その琵琶を持参なし― 516 01:42:59,028 --> 01:43:00,572 御館へ伺候(しこう)するがよい 517 01:43:02,240 --> 01:43:05,368 それはまた畏れ多いことで 518 01:43:07,704 --> 01:43:10,373 ふつつかな身で そのような… 519 01:43:10,748 --> 01:43:11,708 いや 520 01:43:12,333 --> 01:43:15,795 辞退いたすと ためにならぬぞ 521 01:43:20,675 --> 01:43:22,969 (芳一)高貴のお方と おっしゃいますのは― 522 01:43:23,094 --> 01:43:25,221 よほどのお方とみえまするな 523 01:43:25,346 --> 01:43:29,392 (武士)そうじゃ 日頃ならば お目通りのかなわぬところだ 524 01:43:29,517 --> 01:43:32,395 (芳一)はあ もったいない幸せで 525 01:43:59,797 --> 01:44:00,673 (武士)開門! 526 01:44:58,314 --> 01:45:00,441 (武士)これ 誰か うちの者! 527 01:45:01,484 --> 01:45:03,069 芳一を連れてまいった 528 01:45:33,808 --> 01:45:35,518 (武士)履物を脱げ 529 01:45:35,893 --> 01:45:36,894 (芳一)はっ 530 01:46:26,027 --> 01:46:28,362 (漁師)おーい! 531 01:46:42,376 --> 01:46:44,295 (漁師)また やられたか? 532 01:46:44,545 --> 01:46:46,297 (漁師)打ち上げられたんじゃ 533 01:46:56,432 --> 01:46:58,601 また 船幽霊だ きっと 534 01:46:58,726 --> 01:47:01,187 ゆうべ 鬼火が飛んだっつうから 535 01:47:16,035 --> 01:47:17,453 (呑海)矢作(やさく)どん 536 01:47:18,329 --> 01:47:19,789 (矢作)おはようございます 537 01:47:29,423 --> 01:47:30,758 (呑海)芳一は? 538 01:47:30,883 --> 01:47:32,927 (矢作)先ほどは まだ… 539 01:47:33,136 --> 01:47:35,638 (呑海)まだ戻らんのか? (矢作)へえ 540 01:47:36,013 --> 01:47:38,224 (呑海)ゆうべは 何時(なんどき)ごろ出ていったか? 541 01:47:38,349 --> 01:47:41,227 本当に 誰も知らんのか? 542 01:47:41,352 --> 01:47:42,895 さて… 543 01:47:44,272 --> 01:47:46,774 休んだとばかり 思っとりましたから 544 01:48:10,798 --> 01:48:13,342 また ゆうべ 船がやられたそうで 545 01:48:13,467 --> 01:48:15,344 (呑海)どこの? (矢作)権右衛門(ごんえもん)じゃそうな 546 01:48:15,469 --> 01:48:18,514 イカ釣りに出て 今 回向を頼みに来ました 547 01:48:18,639 --> 01:48:21,142 (呑海)ほう そりゃあ… 548 01:48:21,267 --> 01:48:23,144 今 和尚様に申し上げときました 549 01:48:23,269 --> 01:48:27,773 (呑海)そうか そりゃ気の毒なことじゃのう 550 01:48:28,316 --> 01:48:31,235 (矢作)船幽霊ってのは 本当に出るのかな? 551 01:48:31,360 --> 01:48:33,029 (呑海)出るらしいのう 552 01:48:33,321 --> 01:48:34,447 (矢作)まだ見たことないが― 553 01:48:34,572 --> 01:48:36,782 本当にあるんじゃろうかね? 呑海さん 554 01:48:36,908 --> 01:48:38,910 (呑海)あると思う者には ある 555 01:48:39,285 --> 01:48:41,579 ないと思う者には ない 556 01:48:42,455 --> 01:48:44,707 (矢作)また 呑海さんのうなぎ問答だ 557 01:48:44,832 --> 01:48:46,209 (呑海)わしゃ そう思うとる 558 01:48:46,334 --> 01:48:48,211 (矢作)ハハッ からかわんでくださいよ 559 01:48:48,336 --> 01:48:50,546 真面目に話しとるのに いつでも… 560 01:48:50,671 --> 01:48:52,340 (呑海)いや 真面目じゃよ 561 01:48:52,465 --> 01:48:54,425 (住職)芳一は戻ったのか? 562 01:48:54,550 --> 01:48:56,969 (呑海)はい すぐお出かけで? 563 01:48:57,345 --> 01:48:58,346 (住職)うん 564 01:49:00,473 --> 01:49:02,725 どうした? あれは 565 01:49:02,850 --> 01:49:05,728 芳一は 寝ておるらしゅうございます 566 01:49:05,853 --> 01:49:08,731 あれ? いつの間に… 567 01:49:09,065 --> 01:49:10,816 知らぬ間に帰っております 568 01:49:11,484 --> 01:49:13,486 ほう そうか 569 01:49:18,366 --> 01:49:21,035 朝帰りとは しゃれとるのう 570 01:49:21,160 --> 01:49:23,663 (呑海)あれほど 留守を言うておいたのに― 571 01:49:23,955 --> 01:49:25,915 頼みがいのない男じゃ 572 01:49:26,040 --> 01:49:27,291 (住職)そうか 573 01:49:27,667 --> 01:49:30,544 戒名を書いていかねば 権右衛門の 574 01:49:30,670 --> 01:49:33,130 (呑海)はあ 今夜 また お通夜ですね 575 01:49:33,256 --> 01:49:34,257 (住職)うん 576 01:49:35,549 --> 01:49:38,511 今日も暑うなりそうじゃのう 577 01:50:00,491 --> 01:50:05,538 (カラスの鳴き声) 578 01:50:18,384 --> 01:50:22,013 (カラスの鳴き声) 579 01:50:34,275 --> 01:50:36,277 (叫び声) 580 01:50:43,367 --> 01:50:45,619 (矢作)ああ ぞっとした 581 01:50:45,745 --> 01:50:48,831 そんな暗がりに いきなり座ってるから 582 01:50:49,081 --> 01:50:50,833 誰かと思った 583 01:50:51,751 --> 01:50:53,127 (芳一)どうしました? 584 01:50:53,711 --> 01:50:55,838 (矢作)どうしたもないもんだ 585 01:50:55,963 --> 01:50:57,381 みんな お留守で― 586 01:50:57,506 --> 01:51:01,010 松造も宿下がりでおらんし 1人っきりで… お前さんは― 587 01:51:01,135 --> 01:51:03,012 ずっと寝ているもんだと 思っていたから― 588 01:51:03,137 --> 01:51:05,848 わしゃ また 幽霊が出たかと思って… 589 01:51:05,973 --> 01:51:09,101 膝も何も 水でベタベタだ 590 01:51:09,310 --> 01:51:11,354 (芳一)それは すみませなんだな 591 01:51:11,479 --> 01:51:15,608 (矢作)すむもすまぬも 朝飯も食わずに… 592 01:51:18,110 --> 01:51:21,530 一体 ゆうべは どこへ出かけたんじゃ? 593 01:51:23,240 --> 01:51:26,243 あ… ここに 膳がそっくりしてあるから― 594 01:51:26,369 --> 01:51:30,164 生みそなら悪うはなるまい はよう食べなされ 595 01:51:30,873 --> 01:51:33,959 ああ そこに ゆうべのなすも煮てあるに 596 01:51:34,210 --> 01:51:35,920 (芳一)ありがとうさんで 597 01:51:47,348 --> 01:51:52,520 呑海さんも和尚さんも えらく案じなさってたが― 598 01:51:53,187 --> 01:51:56,482 どこへ何しに お前さんは… 599 01:51:56,941 --> 01:51:58,567 (芳一) そんなに案じておられましたか 600 01:51:58,692 --> 01:52:02,029 そんなに案じてとは のんきなもんじゃ 601 01:52:02,863 --> 01:52:06,534 若い身空で朝帰りとは… ええ? 602 01:52:06,784 --> 01:52:10,788 どこぞに でけたのと違うか? 603 01:52:10,913 --> 01:52:13,207 (芳一)いえ めっそうな 604 01:52:13,582 --> 01:52:15,918 ちょっと 取り忘れた用事が ありましたもので 605 01:52:16,043 --> 01:52:18,796 (矢作)ハハハ… 本当か? 606 01:52:18,921 --> 01:52:20,923 アハハハハ… 607 01:52:21,882 --> 01:52:27,430 おまはんの相手なら さだめし こう 手探り同士で ああ… 608 01:52:27,555 --> 01:52:32,560 ここが おいどで ここが… 609 01:52:33,853 --> 01:52:37,606 (矢作の笑い声) 610 01:52:56,417 --> 01:52:58,085 (物音) 611 01:53:04,758 --> 01:53:06,427 (物音) 612 01:53:17,229 --> 01:53:18,731 (武士)芳一 613 01:53:21,775 --> 01:53:25,488 (武士)約束の時刻じゃ 迎えに参った 614 01:53:25,613 --> 01:53:26,572 (芳一)はい 615 01:53:29,742 --> 01:53:32,203 (武士) 誰にも口外せぬであろうな? 616 01:53:32,953 --> 01:53:35,664 (芳一)はい 申しませぬ 617 01:53:43,005 --> 01:53:45,007 一切 人に言うてはならんぞ 618 01:53:45,716 --> 01:53:48,594 はい 承知いたしております 619 01:55:32,197 --> 01:55:34,408 (矢作)うん こりゃうまい 620 01:55:35,576 --> 01:55:39,288 (松造)ハハッ 宿下がりの土産いうても― 621 01:55:39,413 --> 01:55:42,666 ぼた餅か どぶろくぐらいしか にゃあでのう 622 01:55:43,542 --> 01:55:47,171 味の変わらんうちに 芳一どんにも1つ… 623 01:55:47,504 --> 01:55:49,465 (矢作)今に起きてくるわ 624 01:55:49,882 --> 01:55:53,719 日が暮れかかると 腹が減ってくるでな 625 01:55:54,261 --> 01:55:55,554 (松造)ほうか 626 01:55:56,138 --> 01:55:57,890 ほんで 昼間は? 627 01:55:59,266 --> 01:56:01,977 (矢作)死人のように ぐったりして― 628 01:56:02,102 --> 01:56:04,772 その顔色といったら お前… 629 01:56:05,522 --> 01:56:07,983 (松造)青葉のせいじゃろう 照り返しの 630 01:56:08,108 --> 01:56:09,818 (矢作)いや… 631 01:56:10,319 --> 01:56:12,488 (松造)ほんで 何か? 632 01:56:38,973 --> 01:56:41,642 (芳一が水をくむ音) 633 01:56:47,940 --> 01:56:49,024 (芳一)ああ… 634 01:56:52,361 --> 01:56:53,570 そこにおられるのは… 635 01:56:57,491 --> 01:57:00,411 (矢作のせきばらい) 636 01:57:00,911 --> 01:57:02,913 (芳一)矢作どんですか 637 01:57:03,038 --> 01:57:04,540 (松造のせきばらい) 638 01:57:05,666 --> 01:57:08,043 (芳一)ああ 松造どん 639 01:57:08,794 --> 01:57:11,088 いつの間に戻られました? 640 01:57:12,464 --> 01:57:14,675 (松造)お前様は よう休んどられたで― 641 01:57:14,800 --> 01:57:17,344 わざとに声もかけなんだが― 642 01:57:17,469 --> 01:57:20,014 どこぞ具合でも悪いのんと違うか? 643 01:57:20,597 --> 01:57:24,852 え… いえ 暑さで だるうなるだけで― 644 01:57:26,061 --> 01:57:27,646 大事ありません 645 01:57:47,041 --> 01:57:48,751 (住職)実はのう… 646 01:57:49,585 --> 01:57:53,881 毎夜 お前が どこへ出かけるのか― 647 01:57:54,131 --> 01:57:58,260 一度 聞いておかにゃあならん 思うてたんじゃが… 648 01:57:58,635 --> 01:58:02,848 朝方まで 黙っていなくなるいうのは― 649 01:58:02,973 --> 01:58:06,018 どういうこっちゃ ええ? 650 01:58:06,143 --> 01:58:11,148 ひとつ 言うてみなさい どういう訳なのか 651 01:58:12,816 --> 01:58:19,782 誰にも断りなく 深夜 毎晩 毎晩 寺を空けて― 652 01:58:20,240 --> 01:58:25,287 何をしとるのか わしにだけでも言えんかな? 653 01:58:26,747 --> 01:58:30,709 みんなが ふに落ちんと言うから― 654 01:58:30,834 --> 01:58:36,799 芳一のこっちゃで間違いはないと わしは そう言うてある 655 01:58:37,591 --> 01:58:41,178 それにしても 目が見えんのに― 656 01:58:41,303 --> 01:58:44,389 1人で歩くのは けんのんじゃ 657 01:58:44,848 --> 01:58:49,311 矢作でも 松造にでも 供させてやるもの 658 01:58:50,813 --> 01:58:55,275 一体全体 どこあてに出かけるのか― 659 01:58:55,567 --> 01:58:58,654 ちょっと 言うてみよ ええ? 660 01:59:01,198 --> 01:59:03,033 (芳一)お許しくださいませ 661 01:59:03,450 --> 01:59:06,453 別に怪しい所ではありませぬ 662 01:59:06,912 --> 01:59:12,876 少々思い出した用がありましたので 時刻かまわず出ましたが― 663 01:59:13,001 --> 01:59:15,587 以後 気をつけますゆえ 664 01:59:15,921 --> 01:59:17,756 (住職)何の用じゃ? 665 01:59:18,799 --> 01:59:20,342 (芳一)ささいなことで 666 01:59:23,011 --> 01:59:27,558 申し訳ございませぬ ご心配をかけまして 667 01:59:27,683 --> 01:59:32,771 (住職)そうか うーん… 668 01:59:50,581 --> 01:59:52,958 (雷鳴) 669 02:00:01,175 --> 02:00:03,468 (雷鳴) 670 02:00:07,014 --> 02:00:10,142 (矢作)和尚様! 和尚様! 671 02:00:10,726 --> 02:00:12,644 (戸を叩く音) 672 02:00:12,769 --> 02:00:16,899 (矢作)和尚様! 和尚様! 673 02:00:20,777 --> 02:00:22,321 (住職)矢作か どうした? 674 02:00:22,446 --> 02:00:24,907 (矢作)ほ… 芳一どんが (住職)芳一がどうかしたか? 675 02:00:25,032 --> 02:00:27,451 (矢作)ええ やっぱり出かけました たった今 676 02:00:27,576 --> 02:00:28,911 (住職)出かけた? 677 02:00:30,162 --> 02:00:33,123 何をぐずぐずしとるんじゃ はよう 後をつけていかんか 678 02:00:33,248 --> 02:00:34,124 (矢作)へえ 679 02:00:34,249 --> 02:00:37,252 (住職)松造にも そう言うて 気取られるでないぞ 680 02:00:37,377 --> 02:00:39,421 (住職)はよ行け! (矢作)はい! 681 02:00:48,513 --> 02:00:50,098 (呑海)これを持って はよう 682 02:00:50,224 --> 02:00:51,516 (矢作)松造どんは… 683 02:00:51,642 --> 02:00:53,644 (呑海)おい はようせんか 684 02:00:53,769 --> 02:00:54,853 (松造)なかなか火が… 685 02:00:54,978 --> 02:00:56,939 (呑海)何じゃ 目開きは不自由じゃのう 686 02:00:57,064 --> 02:00:58,315 (矢作)はようせんか 687 02:00:58,440 --> 02:01:00,192 (呑海)お前 先に (矢作)え? 688 02:01:00,692 --> 02:01:02,611 (矢作)あ… 暗(くろ)うて 689 02:01:02,736 --> 02:01:05,572 (呑海)当たり前じゃ 真夜中が明るいわけないわ 690 02:01:08,075 --> 02:01:09,826 (矢作)うわあ ごろごろ様が… 691 02:01:09,952 --> 02:01:13,080 (呑海)雷が何じゃ! はよう行け! 692 02:01:13,580 --> 02:01:14,790 (呑海)松造 693 02:01:14,915 --> 02:01:19,127 (雷鳴) (矢作)うわー! あっ ああ… 694 02:01:31,515 --> 02:01:32,557 (松造)ひっ 695 02:01:37,938 --> 02:01:39,690 (松造・矢作)うわあっ! 696 02:01:40,023 --> 02:01:42,776 (雷鳴) (矢作)うわー! 697 02:01:48,865 --> 02:01:50,158 (呑海)矢作! 698 02:01:50,284 --> 02:01:51,576 松造! 699 02:01:57,791 --> 02:02:00,002 ん… 何をしとる! はよう捜さんか 700 02:02:00,127 --> 02:02:01,503 (矢作・松造)へい 701 02:02:11,054 --> 02:02:12,848 (松造) どっちゃ行ったんやろのう 702 02:02:12,973 --> 02:02:15,434 (矢作)ええ? あっちか? 703 02:02:15,559 --> 02:02:17,644 (呑海)まだ そう遠くへ 行けるわけがない 704 02:02:17,769 --> 02:02:19,646 お… お前ら あっちへ行け 705 02:02:19,771 --> 02:02:20,772 (松造)へえ 706 02:02:22,274 --> 02:02:23,817 (呑海)走っていけ! (松造・矢作)へえ 707 02:03:25,087 --> 02:03:27,089 (松造)矢作! 708 02:03:32,219 --> 02:03:34,346 (矢作)ああ? (松造)うわっ! 709 02:03:34,763 --> 02:03:37,265 (松造)矢作 一緒に来ないかんがな 710 02:03:37,391 --> 02:03:38,683 (矢作)ああ 711 02:03:55,700 --> 02:03:57,911 (矢作)おい 松造! ああ… 712 02:04:01,790 --> 02:04:06,044 (不気味な音) 713 02:05:01,933 --> 02:05:05,687 (女官)気楽にしているようにとの 仰せじゃ 714 02:05:05,812 --> 02:05:07,189 (芳一)ははっ 715 02:05:09,858 --> 02:05:13,361 (女官)とりわけ そなたの琵琶が見事ゆえ― 716 02:05:14,654 --> 02:05:18,325 100曲からなる平家の物語を― 717 02:05:18,450 --> 02:05:23,705 夜ごと重ねて聞かせたもうは ことのほかのお喜び 718 02:05:25,707 --> 02:05:28,919 一同 満足に思いまする 719 02:05:29,044 --> 02:05:34,257 (芳一)はっ 畏れ入りましてございまする 720 02:05:34,883 --> 02:05:37,594 何分 申し上げましたとおり― 721 02:05:37,719 --> 02:05:43,683 平物の他に秘曲19 秘事5曲に 分かれておりますれば― 722 02:05:43,808 --> 02:05:47,062 すべては なかなか語り尽くせません 723 02:05:49,105 --> 02:05:54,361 いずれのくだりか 今夜はご所望によりまして… 724 02:06:00,450 --> 02:06:02,410 (二位の尼)道理じゃほどに 725 02:06:03,161 --> 02:06:05,622 (女官)壇ノ浦の戦いを 726 02:06:06,289 --> 02:06:10,794 そのくだりが 一段とあわれ深(ふこ)うございます 727 02:06:11,628 --> 02:06:15,590 (平知盛(たいらのとももり))なにさま 最後の合戦を 728 02:06:16,341 --> 02:06:19,177 あの壇ノ浦を 729 02:06:26,685 --> 02:06:32,649 (女官)それでは 芳一 壇ノ浦のくだりをご所望じゃ 730 02:06:33,775 --> 02:06:34,901 (芳一)はっ 731 02:06:48,582 --> 02:06:53,628 (琵琶の演奏) 732 02:07:36,921 --> 02:07:40,592 時こそ 733 02:07:40,717 --> 02:07:46,222 来たれ 734 02:07:46,348 --> 02:07:51,353 元暦二年三月二十四日の 735 02:07:51,478 --> 02:07:56,316 卯の刻に 736 02:07:56,441 --> 02:08:00,320 源平両軍船出して 737 02:08:00,445 --> 02:08:07,410 壇ノ浦にて 738 02:08:08,328 --> 02:08:10,872 矢合わせとぞ 739 02:08:10,997 --> 02:08:19,005 定めける 740 02:08:41,319 --> 02:08:45,448 (矢作)おい もう戻ろう 松造 741 02:08:45,573 --> 02:08:48,159 (松造)ああ えらい目に遭(お)うた 742 02:08:48,284 --> 02:08:51,121 小僧のおかげで こげな思いするとは― 743 02:08:51,538 --> 02:08:53,873 まったく殺生じゃ 744 02:08:54,332 --> 02:08:55,792 (矢作)ああっ (松造)あっ 745 02:08:58,878 --> 02:09:00,004 (矢作)おい… 746 02:09:00,130 --> 02:09:01,339 (松造)ああっ! (矢作)あっ! 747 02:09:01,464 --> 02:09:04,426 (松造・矢作)あっ ああ… 748 02:09:12,684 --> 02:09:16,187 (芳一)しばしが程は矢合戦(いくさ)にて 749 02:09:16,312 --> 02:09:21,943 互(たがい)に勝負ありつるも 750 02:09:22,068 --> 02:09:26,698 速潮にのる源氏の軍船 751 02:09:26,823 --> 02:09:30,577 またたくうちに平家方の 752 02:09:30,702 --> 02:09:34,456 真只中を突き破れば 753 02:09:34,706 --> 02:09:39,753 (琵琶の演奏) 754 02:10:10,033 --> 02:10:17,040 (芳一)敵も味方も入り乱れ 755 02:10:17,165 --> 02:10:20,794 さしもの瀬戸(せと)の船に覆われ 756 02:10:20,919 --> 02:10:27,675 落葉浮(うか)ぶる川波の 757 02:10:27,801 --> 02:10:33,932 網代(あじろ)に寄する如(ごと)くなり 758 02:10:34,307 --> 02:10:39,312 (琵琶の演奏) 759 02:10:57,789 --> 02:11:04,754 (芳一)かかりける時 760 02:11:05,964 --> 02:11:08,007 新中納言 761 02:11:08,132 --> 02:11:15,098 平知盛卿は 762 02:11:15,849 --> 02:11:22,605 味方の兵ども承れ 763 02:11:22,730 --> 02:11:29,696 一門の運命 764 02:11:30,238 --> 02:11:36,953 この一戦にあり 765 02:11:38,538 --> 02:11:45,461 何のためにか命をば惜しむべき 766 02:11:45,587 --> 02:11:49,841 軍(いくさ)ようせよ者ども 767 02:11:49,966 --> 02:11:56,931 ただこれのみぞ思うことよと 768 02:11:59,475 --> 02:12:03,187 二度三度 769 02:12:03,313 --> 02:12:10,278 呼ばわったり 770 02:12:13,990 --> 02:12:18,620 (琵琶の演奏) 771 02:13:36,864 --> 02:13:41,619 (芳一)君は万乗の主(あるじ)と 772 02:13:41,744 --> 02:13:52,338 生まれさせ給えども 773 02:13:55,800 --> 02:14:00,096 御運 既に 774 02:14:00,221 --> 02:14:05,059 尽きさせ給いぬ 775 02:14:08,396 --> 02:14:12,650 西方浄土の来迎に 776 02:14:12,775 --> 02:14:19,741 与(あずか)らんと思(おぼ)し召し 777 02:14:23,453 --> 02:14:30,418 はやはや御念仏唱え給え 778 02:14:33,212 --> 02:14:37,717 浪の下にも 779 02:14:37,842 --> 02:14:44,807 都の候ぞと 780 02:14:45,224 --> 02:14:46,768 (松造)芳一! 781 02:14:46,893 --> 02:14:49,353 (矢作)芳一! 782 02:14:58,029 --> 02:15:01,032 (松造)芳一どーん! 783 02:15:24,847 --> 02:15:34,107 (芳一)幼き帝もろともに 784 02:15:34,440 --> 02:15:43,324 千尋の海へぞ 785 02:15:43,449 --> 02:15:45,493 (松造)芳一どーん! 786 02:15:45,618 --> 02:15:47,578 (矢作)芳一! 787 02:15:49,622 --> 02:16:03,427 (芳一)入り給う 788 02:16:05,555 --> 02:16:07,640 (松造)芳一どん (芳一)あっ 何をするか! 789 02:16:07,765 --> 02:16:10,685 高貴のお方の御前じゃ 邪魔立てすると許さぬぞ 790 02:16:10,810 --> 02:16:13,312 何を言うんじゃ! 正気じゃないぞ お前は 791 02:16:13,437 --> 02:16:14,897 取りつかれとるんじゃ こりゃ 792 02:16:15,022 --> 02:16:17,441 (芳一)ああ… (矢作)帰るんじゃ はよう 793 02:16:17,567 --> 02:16:20,027 (松造)命がないぞい こげなことしよったら 794 02:16:20,153 --> 02:16:21,487 はよう… はよう 去(い)のう 795 02:16:21,612 --> 02:16:25,199 邪魔すると罰が当たるぞ 放せ! 放せ! 796 02:16:25,324 --> 02:16:27,201 言うこと聞いて帰れ! 797 02:16:27,326 --> 02:16:29,912 (芳一)放せ! 放せ! (矢作)うう… 798 02:16:32,456 --> 02:16:34,542 (芳一)放せ! (呑海)帰りなさい! 799 02:16:34,667 --> 02:16:36,377 (呑海)和尚様のお言いつけじゃ 800 02:16:36,502 --> 02:16:39,463 (芳一)ああ… 放せ 放せ! 801 02:16:39,589 --> 02:16:41,841 (矢作)気が狂ったか? お前は! 802 02:16:42,466 --> 02:16:43,384 (芳一)放せ! 803 02:17:46,447 --> 02:17:51,451 (セミの鳴き声) 804 02:17:56,249 --> 02:17:58,084 (住職)なぜ もっとはよう― 805 02:17:58,209 --> 02:18:01,671 このことをば わしに言わなかったんじゃ? 806 02:18:02,463 --> 02:18:04,590 ふびんなやつのう 807 02:18:06,424 --> 02:18:10,554 お前は 今 えらく危うい身じゃぞ 808 02:18:13,975 --> 02:18:19,438 お前が琵琶を特技とするので 引き込んだに違いない 809 02:18:20,189 --> 02:18:26,486 お前が行った所は 屋敷ではのうて墓場の中じゃぞ 810 02:18:28,114 --> 02:18:34,120 あそこは 平家一門の霊気が 立ちこもっておる所じゃで 811 02:18:34,662 --> 02:18:39,375 お前は 毎夜 墓場へ引き込まれておったんじゃ 812 02:18:41,127 --> 02:18:45,339 今はもう それに気がつかなくてはいかんぞ 813 02:18:45,798 --> 02:18:47,591 分かるかの? 814 02:18:48,259 --> 02:18:50,511 (呑海)ゆうべ お前さんが座っておったのは― 815 02:18:50,636 --> 02:18:52,805 安徳(あんとく)天皇の墓前じゃったぞ 816 02:18:56,767 --> 02:19:00,646 お前が 自分で想像しとったことは― 817 02:19:01,022 --> 02:19:03,566 全部 幻じゃ 818 02:19:04,608 --> 02:19:08,195 死んだ者が訪ねてきた以外はのう 819 02:19:08,321 --> 02:19:11,699 呼びに来たのは やはり死者の霊が… 820 02:19:12,199 --> 02:19:13,200 (住職)おう 821 02:19:14,660 --> 02:19:18,080 死霊がやってきたことは事実じゃ 822 02:19:19,457 --> 02:19:24,628 で 一度 死んだ人間の 言いなりになった以上は― 823 02:19:24,754 --> 02:19:28,215 それに身を任せたというわけじゃ 824 02:19:29,424 --> 02:19:33,763 もし この上 死霊の言うままになったら― 825 02:19:35,013 --> 02:19:38,808 お前は 取りつかれて 殺されるじゃろう 826 02:19:40,936 --> 02:19:47,692 どっちにしろ 早晩 命はないものと思わにゃならん 827 02:19:49,861 --> 02:19:55,159 では 今夜また この庭先に… 828 02:19:59,120 --> 02:20:04,126 (鐘の音) 829 02:20:12,301 --> 02:20:17,306 (鐘の音) 830 02:20:26,857 --> 02:20:31,862 (鐘の音) 831 02:20:38,994 --> 02:20:43,999 (読経) 832 02:22:28,521 --> 02:22:32,024 (読経がやむ) 833 02:22:43,661 --> 02:22:48,457 (住職)今夜 わしらが法会に出た後― 834 02:22:48,582 --> 02:22:52,711 すぐ 芳一は 縁に座って待っていなさい 835 02:22:53,295 --> 02:22:57,591 すると 迎えがやってくるに違いない 836 02:23:00,386 --> 02:23:06,183 だがの どんなことがあっても 返事をしてはならんぞ 837 02:23:07,268 --> 02:23:08,227 (芳一)はい 838 02:23:08,894 --> 02:23:11,188 そこを動いてはならん 839 02:23:11,772 --> 02:23:12,731 (芳一)はい 840 02:23:13,232 --> 02:23:17,778 口を利かずに 静かに座っていなさい 841 02:23:18,612 --> 02:23:22,241 よいか? 座禅に入るつもりで 842 02:23:23,576 --> 02:23:24,577 (芳一)はい 843 02:23:24,994 --> 02:23:26,537 (呑海)分かったな? 844 02:23:28,539 --> 02:23:32,918 もし動いたり 少しでも声を立てると― 845 02:23:33,043 --> 02:23:36,714 お前は斬りさいなまれて 八つ裂きにされるぞ 846 02:23:37,506 --> 02:23:41,594 この復讐を避けるためには 怖がらずに― 847 02:23:41,719 --> 02:23:45,139 助けを呼んだりなぞ しようと思ってはならん 848 02:23:45,264 --> 02:23:49,935 助けを呼んだとて 誰一人 手を伸べることはできんのじゃて 849 02:23:50,060 --> 02:23:53,772 声は絶対に立てるな よいか? 850 02:23:54,732 --> 02:23:55,858 (芳一)はい 851 02:23:56,609 --> 02:24:01,780 無言 不動を守れば かろうじて 危機を通り抜けることができる 852 02:24:02,865 --> 02:24:07,911 はい 動きませぬ 声も出しませぬ 853 02:24:08,454 --> 02:24:09,622 よいな? 854 02:24:11,290 --> 02:24:13,125 どんなことが起きようとも… 855 02:24:13,250 --> 02:24:16,837 (芳一)きっと… 守ります 856 02:24:17,379 --> 02:24:21,133 呑海 般若心経(はんにゃしんぎょう)は くまなく書いてあるな? 857 02:24:21,258 --> 02:24:22,259 (呑海)はい 858 02:24:23,010 --> 02:24:27,806 顔から指の先 足の裏の隅々まで 書き尽くしました 859 02:24:27,931 --> 02:24:31,060 うん それでよし 860 02:25:03,092 --> 02:25:04,802 (物音) 861 02:25:10,557 --> 02:25:12,518 (物音) 862 02:25:19,274 --> 02:25:21,944 (物音) 863 02:25:22,069 --> 02:25:25,197 (矢作の読経) 864 02:25:34,415 --> 02:25:38,544 (松造)うう… (矢作)うわ… うう… 865 02:26:04,069 --> 02:26:05,404 芳一 866 02:26:09,950 --> 02:26:11,368 芳一! 867 02:26:24,173 --> 02:26:25,507 芳一! 868 02:26:31,138 --> 02:26:34,767 うーん… 返事がない 869 02:26:35,184 --> 02:26:36,602 これはいかん 870 02:26:37,394 --> 02:26:41,690 やつは いずれにおるのか 調べねばなるまい 871 02:27:17,976 --> 02:27:19,019 はて… 872 02:27:19,978 --> 02:27:21,647 そこに琵琶がある 873 02:27:28,987 --> 02:27:31,240 したが琵琶法師の姿は? 874 02:27:31,406 --> 02:27:34,076 んっ 耳がある 875 02:27:46,839 --> 02:27:49,174 (武士) どうりで返事をせぬはずじゃ 876 02:27:49,842 --> 02:27:51,718 答える口がないわ 877 02:27:52,886 --> 02:27:54,429 うーん… 878 02:27:55,681 --> 02:27:59,601 両耳より他に身体髪膚 何も残ってはおらん 879 02:28:00,853 --> 02:28:02,479 これは異なことが 880 02:28:03,772 --> 02:28:08,527 よし この由を 我が君に言上つかまつり― 881 02:28:09,027 --> 02:28:11,697 この耳を証拠に持ち帰って… 882 02:28:12,155 --> 02:28:16,994 そうじゃ 我が使命を果たせし 証しとなすべし 883 02:29:27,981 --> 02:29:29,441 ああ… 884 02:29:34,404 --> 02:29:39,409 (うめき声) 885 02:29:56,051 --> 02:29:57,260 (呑海)血じゃ 886 02:30:00,514 --> 02:30:01,765 和尚様 887 02:30:09,231 --> 02:30:11,149 (呑海) 裏門のほうへ消えております 888 02:30:20,367 --> 02:30:21,827 (住職)芳一! 889 02:30:23,662 --> 02:30:25,163 (呑海)芳一どん! 890 02:30:27,958 --> 02:30:29,543 (住職)芳一はおるか? 891 02:30:30,252 --> 02:30:31,586 (呑海)芳一どん! 892 02:30:51,773 --> 02:30:54,234 (松造)いやあ こりゃ… 893 02:30:57,988 --> 02:30:59,656 (呑海)はよう拭け (松造)はい 894 02:31:00,991 --> 02:31:03,702 (矢作)どうしました? 芳一どんは? 895 02:31:07,164 --> 02:31:08,582 耳をもぎとられた 896 02:31:09,082 --> 02:31:11,960 (松造)え~? (矢作)え~? 耳? 897 02:31:12,961 --> 02:31:16,590 (住職の読経) 898 02:31:16,715 --> 02:31:21,511 (芳一)あっ うう… (住職の読経) 899 02:31:21,636 --> 02:31:24,514 (芳一の荒い息) 900 02:31:30,604 --> 02:31:32,522 どうして耳を? 901 02:31:33,315 --> 02:31:35,067 両耳とも やられましたか? 902 02:31:35,192 --> 02:31:37,486 (住職)呑海 (呑海)はい 903 02:31:40,155 --> 02:31:43,492 耳が好物なんじゃろうかのう? (矢作)うーん… 904 02:31:44,076 --> 02:31:45,368 うっ… あっ! 905 02:31:45,494 --> 02:31:48,705 ハァ… するめじゃあるまいし 906 02:31:51,750 --> 02:31:55,337 (住職) どえらい わしらの手落ちじゃった 907 02:31:55,837 --> 02:31:58,715 (呑海)確かに くまなく書いたつもりで… 908 02:31:59,299 --> 02:32:03,136 (住職)両耳だけ 経文を書き忘れたとみえる 909 02:32:03,261 --> 02:32:05,222 (呑海)申し訳がござりませぬ 910 02:32:05,388 --> 02:32:08,308 (住職)何度 繰り返して言うても― 911 02:32:08,683 --> 02:32:11,937 耳は もう生えてこんでのう 912 02:32:13,105 --> 02:32:14,022 ああ… 913 02:32:15,982 --> 02:32:21,988 わしが最後に もう一度 念を入れて確かめるべきじゃった 914 02:32:22,614 --> 02:32:25,158 わしが うかつじゃった 915 02:32:25,700 --> 02:32:28,954 (呑海)まさか 耳を持っていかれようとは 916 02:32:29,746 --> 02:32:33,333 (住職)どうも 今となっては 致しかたがない 917 02:32:33,708 --> 02:32:37,295 できるだけ はよう傷を治すよう 918 02:32:37,587 --> 02:32:38,588 (呑海)はい 919 02:32:41,133 --> 02:32:42,217 (住職)だが 喜べ 920 02:32:44,678 --> 02:32:49,891 命と掛けがえに 両耳だけで危機は済んだんじゃ 921 02:32:50,934 --> 02:32:54,563 では あの来客は もう… 922 02:32:56,273 --> 02:32:57,399 二度と来んぞ 923 02:33:10,162 --> 02:33:13,540 (貴人) 近頃 とみに名の聞こえた― 924 02:33:13,665 --> 02:33:17,377 耳無し芳一の琵琶を 所望いたしたい 925 02:33:19,171 --> 02:33:23,884 殿には あの不思議な話を聞こし召し― 926 02:33:24,217 --> 02:33:26,761 礼に糸目はつけぬゆえ― 927 02:33:26,887 --> 02:33:31,558 たって同道いたすようにとの 上意でござる 928 02:33:31,683 --> 02:33:32,767 (松造)ははっ 929 02:33:50,327 --> 02:33:52,579 (矢作)来ました また (呑海)えっ? 930 02:33:52,704 --> 02:33:54,539 供ぞろいを連れて 931 02:34:39,459 --> 02:34:42,087 今度は 女の供ぞろいが 932 02:34:42,295 --> 02:34:45,298 どれが偽者やら どれが本物やら 933 02:34:45,423 --> 02:34:48,134 紛れ込んで 幽霊が来てるかもしれんぞ 934 02:34:50,845 --> 02:34:52,055 芳一どん 935 02:34:53,556 --> 02:34:56,142 とても受けきれぬと 辞退したほうがよいぞ 936 02:34:59,896 --> 02:35:03,483 いえ 命のかぎり― 937 02:35:05,902 --> 02:35:08,196 私は琵琶を弾じましょう 938 02:35:18,790 --> 02:35:20,667 (芳一)魂込めて 939 02:35:21,626 --> 02:35:24,754 幾千の悲憤にあえぐ霊を― 940 02:35:25,672 --> 02:35:28,133 弔い続けましょう 941 02:35:29,759 --> 02:35:32,304 (琵琶の演奏) 942 02:36:50,673 --> 02:36:55,512 (ナレーション)やがて この寺には多額な金や贈り物が― 943 02:36:55,637 --> 02:36:58,473 お礼に方々から届けられて― 944 02:36:58,807 --> 02:37:02,560 耳無し芳一は 大変な金持ちになった 945 02:37:53,778 --> 02:37:57,991 (ナレーション) ところで 日本の古い話には― 946 02:37:58,241 --> 02:38:03,037 不思議に 結末をつけないで そのまま残っているのがある 947 02:38:05,665 --> 02:38:10,879 なぜ 結末をつけないで そのままになっているのか 948 02:38:11,963 --> 02:38:16,009 たぶん 作者が不精だったのであろう 949 02:38:16,843 --> 02:38:20,722 あるいは 出版元とケンカをしたのであろう 950 02:38:21,764 --> 02:38:26,686 いや ことによれば 作者が その小机から不意に呼ばれて― 951 02:38:26,811 --> 02:38:28,438 帰ってこなかったのであろう 952 02:38:30,482 --> 02:38:35,111 あるいは また その執筆の途中で― 953 02:38:35,236 --> 02:38:38,823 死の神が 筆を止めさせたのかもしれない 954 02:38:40,533 --> 02:38:45,622 とにかく なぜ結末がないのか 誰にも分からない 955 02:38:47,081 --> 02:38:51,711 だが 私は あえて それを ここに書き記しておこうと思う 956 02:38:54,839 --> 02:38:58,218 それは 今から220年前 957 02:38:58,343 --> 02:39:02,222 やはり 今日と同じ 天和(てんな)4年の1月元日である 958 02:39:17,237 --> 02:39:21,241 (ナレーション)中川佐渡守(なかがわさどのかみ)が 年始の回礼に出かけた 959 02:39:23,868 --> 02:39:29,666 その一行が 江戸 本郷(ほんごう)の菩提寺(ぼだいじ)に 立ち寄ったとき… 960 02:43:34,452 --> 02:43:37,121 お役目 ご苦労にございます 961 02:43:38,748 --> 02:43:41,417 では明朝 当番 交代つかまつります 962 02:43:41,542 --> 02:43:42,627 (関内(かんない))はっ 963 02:44:03,731 --> 02:44:08,277 (秒針の音) 964 02:44:31,676 --> 02:44:36,681 (関内の読経) 965 02:45:36,908 --> 02:45:39,410 (平内(へいない))式部(しきぶ)平内でござる 966 02:45:39,619 --> 02:45:42,413 今日 初めてお会い申した 967 02:45:47,960 --> 02:45:51,714 (平内)貴殿は それがしを 見覚えなさらぬようでござるな 968 02:46:30,628 --> 02:46:32,797 (関内)拙者 見覚え申さぬ 969 02:46:33,172 --> 02:46:35,424 それにしても この屋敷へ― 970 02:46:35,549 --> 02:46:38,177 いかようにして お入りなされたか― 971 02:46:38,302 --> 02:46:40,096 お聞かせを願いたい 972 02:46:40,221 --> 02:46:41,597 (平内)ああ そこもとは― 973 02:46:41,722 --> 02:46:44,850 それがしを見覚えなしと 仰せられるのだな? 974 02:46:44,976 --> 02:46:46,978 面識の覚えござらん 975 02:46:47,103 --> 02:46:51,440 まして諸侯の邸内 昼夜の警護に許しなき折から― 976 02:46:51,565 --> 02:46:54,402 取り次ぎの者もなく お通りなさるる道理がござらん 977 02:46:55,695 --> 02:46:59,365 いや それがしに見覚えなしとは 聞こえぬ 978 02:47:01,575 --> 02:47:05,204 本朝 それがしに 非道な危害を お加えなすったではござらぬか! 979 02:47:05,329 --> 02:47:06,247 (関内)んっ! 980 02:47:44,618 --> 02:47:45,703 (関内)うっ! 981 02:48:02,595 --> 02:48:07,600 (秒針の音) 982 02:48:44,386 --> 02:48:46,847 (関内)狼ぜき者でござるぞー! 983 02:48:51,268 --> 02:48:53,979 方々 お出合い召されい! 984 02:48:58,317 --> 02:49:00,528 狼ぜき者でござるぞー! 985 02:49:06,700 --> 02:49:08,953 方々 お出合い召されい! 986 02:49:36,147 --> 02:49:37,398 (同僚)関内殿 987 02:49:39,316 --> 02:49:42,027 いまだ同時刻に 邸内に入りし者も― 988 02:49:42,153 --> 02:49:44,697 また 退出せし者も 全くおらぬということ 989 02:49:44,822 --> 02:49:45,656 1人も 990 02:49:45,781 --> 02:49:47,116 (関内)いや 確かに 991 02:49:47,241 --> 02:49:50,619 (同僚)この家中に式部平内とやら 申す名を聞きし者― 992 02:49:50,744 --> 02:49:51,829 1人もおらん 993 02:49:51,954 --> 02:49:53,622 (関内) とにかく ぐさっと のどを 994 02:49:53,747 --> 02:49:56,792 (同僚)手応えは? (関内)いや 不思議と それが… 995 02:49:57,668 --> 02:50:00,546 くまなく捜しても 血潮の跡すら見当たらぬ 996 02:50:00,671 --> 02:50:01,505 (同僚)関内殿! 997 02:50:02,965 --> 02:50:06,594 いや 不思議と それが 音も立てずに壁の中へ 998 02:50:07,887 --> 02:50:09,388 壁の中へ? 999 02:50:10,306 --> 02:50:13,017 手応えはなく壁の中に消えうせたと 言われるのか? 1000 02:50:13,350 --> 02:50:14,226 まさに 1001 02:50:15,060 --> 02:50:16,353 音もなくか? 1002 02:50:16,478 --> 02:50:17,479 (関内)さよう 1003 02:50:17,605 --> 02:50:19,190 ハハハ… 1004 02:50:19,315 --> 02:50:21,942 それでは いくら捜しても 見当たらぬはずじゃ 1005 02:50:22,067 --> 02:50:24,987 ハハハハ 壁に抜けて消えたんではのう 1006 02:50:25,112 --> 02:50:26,363 フフフ 1007 02:50:28,908 --> 02:50:31,410 お疲れで 夢幻でも 1008 02:50:32,536 --> 02:50:34,246 いや 確かに 1009 02:50:34,371 --> 02:50:36,957 (同僚)方々! 方々! 1010 02:50:39,084 --> 02:50:42,504 方々 狼ぜき者は いずれのほうに逃れました? 1011 02:50:42,630 --> 02:50:46,550 ご存じないか? うーん よほどの早業 1012 02:51:06,320 --> 02:51:10,324 (ふすまが開く音) 1013 02:51:31,929 --> 02:51:33,472 (妹)兄上様 1014 02:51:33,806 --> 02:51:36,100 床にお入りになりましては? 1015 02:51:36,934 --> 02:51:39,061 もう遅うございます 1016 02:51:39,186 --> 02:51:40,187 (関内)うん 1017 02:51:42,231 --> 02:51:44,149 父上や母上は? 1018 02:51:45,192 --> 02:51:47,653 先刻 お休みになりました 1019 02:51:49,113 --> 02:51:50,364 (関内)うん 1020 02:51:51,865 --> 02:51:55,911 すまぬが 寝酒を持ってくるように 言いつけてくれ 1021 02:51:59,707 --> 02:52:01,875 まだ 昨夜のこと… 1022 02:52:03,502 --> 02:52:06,964 いや 今夜は非番だ 1023 02:52:07,423 --> 02:52:10,634 ぐっすり眠りたい んん… 1024 02:52:24,982 --> 02:52:25,899 (関内)んっ 1025 02:52:27,776 --> 02:52:30,154 (老爺)申し上げます 1026 02:52:45,377 --> 02:52:46,545 (関内)何じゃ? 1027 02:52:47,046 --> 02:52:50,215 (老爺) ただいま ご来客にございます 1028 02:52:50,341 --> 02:52:51,342 (関内)何? 1029 02:52:53,677 --> 02:52:55,929 誰じゃ? どこに? 1030 02:52:56,055 --> 02:52:57,848 (老爺)お玄関に 1031 02:52:58,807 --> 02:53:00,559 (関内)この時刻に… 1032 02:53:02,936 --> 02:53:05,439 (関内)用向きは何じゃ? (老爺)ははっ 1033 02:53:05,689 --> 02:53:10,402 暫時 ご面談を願いたいと 申されまして 1034 02:53:11,487 --> 02:53:12,654 名を申さぬのか? 1035 02:53:13,072 --> 02:53:18,160 はっ お3人の方が お見えでございます 1036 02:54:10,796 --> 02:54:13,090 (関内)それがしが関内でござる 1037 02:54:13,757 --> 02:54:14,842 (3人)はっ 1038 02:54:17,845 --> 02:54:21,098 (松岡(まつおか))それがしは 松岡文吾(ぶんご)と申す者 1039 02:54:21,598 --> 02:54:24,017 (土橋(どばし))それがしは 土橋久蔵(きゅうぞう) 1040 02:54:25,477 --> 02:54:27,980 (岡村(おかむら))それがしは 岡村兵六(へいろく)と申す 1041 02:54:28,730 --> 02:54:31,024 いずれも 式部平内 家中の者でござる 1042 02:54:31,525 --> 02:54:34,236 式部… 平内 1043 02:54:34,820 --> 02:54:35,904 さよう 1044 02:54:37,573 --> 02:54:40,242 主人が昨夜 ご訪問つかまつった際― 1045 02:54:40,451 --> 02:54:43,287 ご貴殿には 主人を 刀で お打ちなされた 1046 02:54:43,912 --> 02:54:47,332 その傷が重いため しばらくご養生のうえ― 1047 02:54:47,458 --> 02:54:49,668 湯治に赴かねばなりません 1048 02:54:49,793 --> 02:54:51,962 (関内)それは お気の毒 1049 02:54:54,006 --> 02:54:58,343 (松岡)しかし 来月16日にはご帰還に相なり― 1050 02:54:59,052 --> 02:55:02,973 そのときは お礼に参上 必ず この恨みを晴らし申す 1051 02:55:03,098 --> 02:55:04,141 (関内)何! 1052 02:55:27,956 --> 02:55:29,708 (関内)はっ おのれ… 1053 02:55:41,553 --> 02:55:44,056 (力み声) 1054 02:55:44,181 --> 02:55:45,224 くっ… 1055 02:55:56,235 --> 02:55:57,486 (関内)んんっ! 1056 02:56:17,381 --> 02:56:23,303 (争う声) 1057 02:56:37,609 --> 02:56:39,111 (関内)ええいっ! 1058 02:57:22,112 --> 02:57:23,488 (関内)ええいっ! 1059 02:57:24,323 --> 02:57:26,158 とりゃあっ! 1060 02:57:27,951 --> 02:57:28,827 たあっ! 1061 02:57:29,786 --> 02:57:30,746 ううっ! 1062 02:57:31,663 --> 02:57:33,040 えいっ! 1063 02:57:37,044 --> 02:57:39,379 たあっ! うっ! 1064 02:57:39,880 --> 02:57:42,424 んっ ハァ… 1065 02:57:47,721 --> 02:57:49,348 やああっ! 1066 02:57:50,057 --> 02:57:53,560 (関内の力み声) 1067 02:57:58,732 --> 02:58:02,569 (関内)やああっ! ううっ… 1068 02:58:04,071 --> 02:58:06,073 やあああっ! 1069 02:58:09,826 --> 02:58:12,162 やあああっ! 1070 02:58:16,792 --> 02:58:18,251 (笑い声) 1071 02:58:18,377 --> 02:58:20,796 (力み声) 1072 02:58:26,635 --> 02:58:31,640 (関内の笑い声) 1073 02:58:44,903 --> 02:58:49,741 (笑い声) 1074 02:59:00,210 --> 02:59:01,586 (ナレーション)それから― 1075 02:59:03,588 --> 02:59:05,882 古い話は ここで切れている 1076 02:59:31,575 --> 02:59:34,578 (おかみ)さあ? 出かけたところは見ませんが 1077 02:59:58,685 --> 03:00:01,730 (おかみ)1日中 今日は 書き物をしておられましたがね 1078 03:00:01,855 --> 03:00:04,316 (出版元) 私が急いで注文したんです 1079 03:00:04,441 --> 03:00:06,193 私が出版元です 1080 03:00:06,318 --> 03:00:07,444 (おかみ)ああ 1081 03:00:10,113 --> 03:00:12,824 出かけたはずは ないんですよ 確かに 1082 03:00:12,949 --> 03:00:14,451 (出版元)そうですか 1083 03:00:14,993 --> 03:00:17,496 年始をかけて お寄りしてみたんですが 1084 03:00:17,621 --> 03:00:18,663 (おかみ)じゃ 上がって待ってらしたら? 1085 03:00:18,788 --> 03:00:19,831 (出版元)へえ 1086 03:00:49,277 --> 03:00:53,990 (作者) “この結末を 私は いろいろに 想像することができるが―” 1087 03:00:54,908 --> 03:00:58,161 “諸君に満足を与えるようなものは 1つもない” 1088 03:01:00,330 --> 03:01:06,086 “人の魂を飲んだ後の もっともらしい結末は―” 1089 03:01:06,211 --> 03:01:09,923 “自分で考えてみられるままに 任せておく” 1090 03:01:11,633 --> 03:01:14,177 “人の魂を飲んだ者は…” 1091 03:01:14,302 --> 03:01:19,391 (おかみの叫び声) 1092 03:01:19,516 --> 03:01:24,896 (おびえ声) 1093 03:01:25,021 --> 03:01:26,481 (おかみ)あっ ああ… 1094 03:01:30,443 --> 03:01:33,196 (おかみの荒い息) 1095 03:01:34,489 --> 03:01:37,200 (叫び声) 1096 03:01:39,578 --> 03:01:41,079 (戸が開く音) 1097 03:02:01,766 --> 03:02:02,892 あっ 1098 03:02:04,436 --> 03:02:06,813 ああっ! ああ… 1099 03:02:08,648 --> 03:02:11,818 (おびえ声)