1 00:02:24,554 --> 00:02:27,257 慶長5年 9月 2 00:02:27,257 --> 00:02:30,026 徳川か あるは また 豊臣か 3 00:02:30,026 --> 00:02:35,665 2大勢力の運命を賭して激突した 関ヶ原の合戦にて 4 00:02:35,665 --> 00:02:40,303 作州宮本村の郷士のせがれ 新免武蔵は 5 00:02:40,303 --> 00:02:43,206 激しい功名心に駆り立てられ 6 00:02:43,206 --> 00:02:49,979 幼友達の本位田又八を誘い 豊臣勢の戦列に加わったが 7 00:02:49,979 --> 00:02:53,917 敗北の中に 一国一城の夢破れて 8 00:02:53,917 --> 00:03:00,623 傷ついた身を 伊吹山中に住む 朱実 お甲の親子にかくまわれた 9 00:03:00,623 --> 00:03:04,427 …が お甲の愛欲に溺れいく又八は 10 00:03:04,427 --> 00:03:09,127 ある日 武蔵の前から こつ然と姿を消していった 11 00:03:11,100 --> 00:03:15,004 ただ一人 故郷に舞い戻った失意の武蔵を 12 00:03:15,004 --> 00:03:17,006 待ち受けていたものは 13 00:03:17,006 --> 00:03:21,744 姫路の役人 青木丹左衛門の厳しい探索と 14 00:03:21,744 --> 00:03:27,083 又八の母 お杉ばばの強い憎しみであった 15 00:03:27,083 --> 00:03:32,522 野獣のごとく反抗する武蔵に 救いの手を差し伸べたのは 16 00:03:32,522 --> 00:03:37,961 又八のいいなずけ お通と 和尚の沢庵であった 17 00:03:37,961 --> 00:03:40,496 沢庵の進言によって 18 00:03:40,496 --> 00:03:46,836 姫路城中に幽閉された武蔵の心に 人間性が よみがえり 19 00:03:46,836 --> 00:03:53,543 学問への芽が開かれて いつしか 3年の歳月が流れていった 20 00:03:53,543 --> 00:03:58,781 城主 池田輝政からの 仕官の勧めを断った武蔵は 21 00:03:58,781 --> 00:04:02,418 名を 宮本武蔵と改め 22 00:04:02,418 --> 00:04:06,422 お通との再会の喜びに 心 引かれながらも 23 00:04:06,422 --> 00:04:11,027 剣一途の道を求めて 京に上った 24 00:04:11,027 --> 00:04:13,329 そして 1年 25 00:04:13,329 --> 00:04:17,166 名門 吉岡一門の高弟を打ち破り 26 00:04:17,166 --> 00:04:21,037 丹左衛門の一子 城太郎少年と奇遇したのも 27 00:04:21,037 --> 00:04:24,040 そのころであった 28 00:04:24,040 --> 00:04:27,810 武蔵 修行の旅は なおも続き 29 00:04:27,810 --> 00:04:31,748 奈良 宝蔵院の剛僧を 見事に打ち倒し 30 00:04:31,748 --> 00:04:35,919 かつ また 卑劣な手段で襲い来る浪人どもを 31 00:04:35,919 --> 00:04:38,288 般若野で斬り伏せた 32 00:04:38,288 --> 00:04:41,824 武蔵の心中には 剣に対する強い自信が 33 00:04:41,824 --> 00:04:44,460 執拗なまでに みなぎり 34 00:04:44,460 --> 00:04:49,132 柳生家の総祖 石舟斉の新陰流に挑まんものと 35 00:04:49,132 --> 00:04:52,035 4高弟と戦うさなか 36 00:04:52,035 --> 00:04:57,440 いずこからともなく聞こえくる お通の笛の音に 心乱れた武蔵は 37 00:04:57,440 --> 00:05:01,144 瞬間 2刀を構えて その難を逃れ 38 00:05:01,144 --> 00:05:04,113 いずこへともなく 立ち去った 39 00:05:04,113 --> 00:05:06,549 その年の暮れ 40 00:05:06,549 --> 00:05:12,355 吉岡清十郎のもとに 武蔵からの果たし状が届けられた 41 00:05:12,355 --> 00:05:16,292 名門の子として日々を送った 清十郎にとって 42 00:05:16,292 --> 00:05:20,792 武蔵の挑戦は 不吉な重荷となって 覆いかぶさった 43 00:05:22,932 --> 00:05:26,602 正月 元旦 五条大橋には 44 00:05:26,602 --> 00:05:31,574 武蔵の挑戦に応ずる 吉岡一門の高札が立てられ 45 00:05:31,574 --> 00:05:34,711 武蔵を捜し求める お通 城太郎 46 00:05:34,711 --> 00:05:39,449 そして お杉ばば 朱実などの姿が 集まり来る中に 47 00:05:39,449 --> 00:05:44,287 武蔵は 宿敵 佐々木小次郎と 初めて対面した 48 00:05:44,287 --> 00:05:50,093 そして 洛北 蓮台寺野に 武蔵と清十郎は対決した 49 00:05:50,093 --> 00:05:54,931 だが 清十郎の剣は 武蔵の敵ではなかった 50 00:05:54,931 --> 00:05:58,631 勝敗は 武蔵の一撃で決まった 51 00:06:04,607 --> 00:06:06,607 名門の子… 52 00:06:08,578 --> 00:06:12,315 やる相手ではなかった 53 00:06:12,315 --> 00:06:14,250 しかし 俺は勝った 54 00:06:14,250 --> 00:06:19,750 室町以来の京流の宗家 吉岡の剣法を 俺は倒した 55 00:06:23,459 --> 00:06:28,765 だが 戦いは これで終わったのではない 56 00:06:28,765 --> 00:06:31,501 これからだ 57 00:06:31,501 --> 00:06:33,436 先生 しっかりしてください! 58 00:06:33,436 --> 00:06:37,240 静かに… 59 00:06:37,240 --> 00:06:39,242 静かに すいません 60 00:06:39,242 --> 00:06:41,244 静かにせえ 静かに下ろせ いいか 静かに下ろして 61 00:06:41,244 --> 00:06:43,946 他の者は出い 手当ての邪魔になる 62 00:06:43,946 --> 00:06:46,983 よし 外せ さあ どいた 63 00:06:46,983 --> 00:06:50,453 は… 林!林! 若先生 若先生 64 00:06:50,453 --> 00:06:53,056 俺は… 俺は ひきょうだったろうか? 65 00:06:53,056 --> 00:06:56,959 俺は 一対一 家名のために やれるだけのことは やった 66 00:06:56,959 --> 00:07:00,196 俺は ひきょうではなかったはずだ はい 分かっております 67 00:07:00,196 --> 00:07:04,133 植田 横川 俺は ひきょうではなかった! 68 00:07:04,133 --> 00:07:06,836 兄者!おやめなさい! 69 00:07:06,836 --> 00:07:11,207 「引かれ者の小唄」と 人は笑いましょうぞ 70 00:07:11,207 --> 00:07:15,407 酒だ!酒を持ってこい! はっ 酒を 71 00:07:17,380 --> 00:07:19,649 都大路を 戸板で帰ったというではないか 72 00:07:19,649 --> 00:07:21,584 貴様ら 何というばか者だ! 73 00:07:21,584 --> 00:07:24,587 おっ 清十郎 やられたな 74 00:07:24,587 --> 00:07:27,924 武士なら 潔く腹を切れ! それは ご無体な 75 00:07:27,924 --> 00:07:32,328 何が 無体だ?右手は残っておる 立派に切れるはずだ! 76 00:07:32,328 --> 00:07:35,331 これだけ そろっていて ふがいないやつらだ! 77 00:07:35,331 --> 00:07:37,467 伝七郎が 帰っておるというではないか 78 00:07:37,467 --> 00:07:41,771 叔父上 伝七郎 ここにおります おっ 伝七郎 79 00:07:41,771 --> 00:07:44,574 叔父上 分かっております 80 00:07:44,574 --> 00:07:47,810 兄のかたき 吉岡道場の名に懸けて 81 00:07:47,810 --> 00:07:50,847 武蔵は この伝七郎が 必ず しとめてご覧に入れます 82 00:07:50,847 --> 00:07:52,847 うん 83 00:07:56,886 --> 00:08:00,790 おい みんな 集まってくれ 84 00:08:00,790 --> 00:08:04,160 よいか まだ 他国へは出ていまい 85 00:08:04,160 --> 00:08:06,996 武蔵の宿所を捜し出すのだ 86 00:08:06,996 --> 00:08:09,966 植田 貴公は 三谷 寺田を連れて 三条大橋 87 00:08:09,966 --> 00:08:13,769 横川 長畑は粟田口 御池 広岡は伏見街道 88 00:08:13,769 --> 00:08:17,974 早崎 原田は丹波口 小島 笹山は若狭街道 89 00:08:17,974 --> 00:08:20,674 猶予はならん すぐに行け! はっ 90 00:09:01,584 --> 00:09:03,584 光悦や 91 00:09:06,289 --> 00:09:08,891 光悦や 92 00:09:08,891 --> 00:09:11,291 どうなされたのです?ん? あ… あの… 93 00:09:17,600 --> 00:09:21,971 ご浪人様 母が 何ぞ 過ちをいたした様子 94 00:09:21,971 --> 00:09:25,942 母の粗相は 幾重にも 私が おわびいたしましょう 95 00:09:25,942 --> 00:09:28,077 ご勘弁くださいませ 96 00:09:28,077 --> 00:09:30,947 あ いや おわびは 拙者からせねばならぬ 97 00:09:30,947 --> 00:09:33,916 何で驚きなされたのか 自分には とんと分からぬが 98 00:09:33,916 --> 00:09:37,320 この方の姿を見ると ご老婆が 99 00:09:37,320 --> 00:09:40,156 この小ざるを捨てて お逃げなされた 100 00:09:40,156 --> 00:09:43,059 で これまで 持ってきただけのことです 101 00:09:43,059 --> 00:09:45,394 どうか お手を上げてください 102 00:09:45,394 --> 00:09:49,765 そうですか お聞きになりましたか? 103 00:09:49,765 --> 00:09:54,604 母者人は 何か 思い違いを なされたのでございましょうが 104 00:09:54,604 --> 00:09:58,374 それでは ご浪人様は 何も わしたちに 105 00:09:58,374 --> 00:10:02,111 危害を加えようとするお方では ありませぬか? 106 00:10:02,111 --> 00:10:05,114 危害どころか 若菜を 持ってきてくだされたほどの 107 00:10:05,114 --> 00:10:07,383 心の優しいお方でございます 108 00:10:07,383 --> 00:10:12,154 それは まあ すまぬことを 109 00:10:12,154 --> 00:10:17,526 わしは 今 思うと まことに すまぬことじゃったが 110 00:10:17,526 --> 00:10:20,429 このご浪人様を 一目見たとき 111 00:10:20,429 --> 00:10:23,933 何か 血臭いものが目の前に来たようで 112 00:10:23,933 --> 00:10:25,868 体中の毛穴が 113 00:10:25,868 --> 00:10:29,739 ぞくと引き締められるように 怖かったのじゃ 114 00:10:29,739 --> 00:10:32,041 今 こうして見れば 115 00:10:32,041 --> 00:10:35,741 何のこともないお人じゃがのう 116 00:10:37,813 --> 00:10:41,817 武者修行殿 お急ぎでなくば しばらく お休みなさるがよい 117 00:10:41,817 --> 00:10:45,454 戦の後の一服の茶ほど よいものはない 118 00:10:45,454 --> 00:10:48,724 母が差し上げましょうほどに さあ どうぞ 119 00:10:48,724 --> 00:10:53,024 さあ ご浪人様 おいでなされ 120 00:12:49,545 --> 00:12:51,981 どうも分からんな 121 00:12:51,981 --> 00:12:53,981 貴公 どう思われる? 122 00:12:55,951 --> 00:12:59,388 どうって? さればじゃ 我々を助けてくれた 123 00:12:59,388 --> 00:13:03,588 あの青木丹左衛門っちゅう 虚無僧は 一体 何者じゃろうか 124 00:13:06,562 --> 00:13:10,199 いやあ 俺は あの尺八の音を聴いておると 125 00:13:10,199 --> 00:13:15,099 母上のことが思い出されて どうにも 涙がこぼれそうになる 126 00:13:46,001 --> 00:13:51,240 追われてるんです お助けください おい 朱実じゃないか 127 00:13:51,240 --> 00:13:54,540 又八さん あんた… 助けて あそこ 128 00:13:56,779 --> 00:13:59,682 あっ 佐々木小次郎 129 00:13:59,682 --> 00:14:01,682 かくもうてやれ 130 00:14:09,291 --> 00:14:14,029 あっ お前 この間の姉や 何だ 貴公 知り合いだったのか 131 00:14:14,029 --> 00:14:18,000 朱実 一体 どうしたんだ? あの人は 怖い人 132 00:14:18,000 --> 00:14:20,135 何?怖い人?そいつは いかん 133 00:14:20,135 --> 00:14:22,438 よし 俺が行って追い返してやる おい 134 00:14:22,438 --> 00:14:26,308 又八さん 私 追われてるんです 助けて 135 00:14:26,308 --> 00:14:30,179 朱実 お前は どうして あの男を恐れているんだ? 136 00:14:30,179 --> 00:14:33,382 あ… あの人は 恐ろしい… 137 00:14:33,382 --> 00:14:36,385 今朝も 蓮台寺野で… 138 00:14:36,385 --> 00:14:38,385 ああっ 139 00:14:41,123 --> 00:14:44,493 蓮台寺野で どうしたんだ? 140 00:14:44,493 --> 00:14:50,032 武蔵様と清十郎様の試合の後 あの人は… 141 00:14:50,032 --> 00:14:53,769 あの人は 負けた清十郎さんの腕を 切り落としてしまったんです 142 00:14:53,769 --> 00:14:57,339 武蔵と清十郎の試合? 143 00:14:57,339 --> 00:15:02,311 私は あの人に 去年の暮れから ずっと 部屋に閉じ込められて 144 00:15:02,311 --> 00:15:04,680 死ぬような思いできました 今度 捕まったら 145 00:15:04,680 --> 00:15:09,080 何されるか分からない ねえ 助けて お願い 助けて 146 00:15:50,292 --> 00:15:52,995 オン アロリキャ ソワカ オン アロリキャ ソワカ 147 00:15:52,995 --> 00:15:56,565 オン アロリキャ ソワカ オン アロリキャ ソワカ 148 00:15:56,565 --> 00:15:59,468 オン アロリキャ ソワカ オン アロリキャ ソワカ 149 00:15:59,468 --> 00:16:02,705 オン アロリキャ ソワカ オン アロリキャ ソワカ 150 00:16:02,705 --> 00:16:06,875 オン アロリキャ ソワカ オン アロリキャ ソワカ… 151 00:16:06,875 --> 00:16:10,479 オン アロリキャ ソワカ 152 00:16:10,479 --> 00:16:12,779 オン アロリキャ ソワカ 153 00:16:41,977 --> 00:16:45,247 はて あれは 作州宮本村の… 154 00:16:45,247 --> 00:16:47,947 本位田のおばばに よう似ておったが 155 00:16:58,761 --> 00:17:00,829 かあ 156 00:17:00,829 --> 00:17:03,265 かあ 157 00:17:03,265 --> 00:17:06,135 かあ 158 00:17:06,135 --> 00:17:08,804 からすのばか! 159 00:17:08,804 --> 00:17:11,304 お師匠様のばか! 160 00:17:13,642 --> 00:17:15,978 武蔵様は 161 00:17:15,978 --> 00:17:21,278 なぜ あのように むごいことを なさるのであろう 162 00:17:24,053 --> 00:17:27,056 お通さん 163 00:17:27,056 --> 00:17:29,525 もう そんなこと考えるの およしよ 164 00:17:29,525 --> 00:17:31,794 また熱が出るじゃないか 165 00:17:31,794 --> 00:17:37,232 人の命をあやめて 喜んでいると 166 00:17:37,232 --> 00:17:39,732 おばば様は おっしゃるけど… 167 00:17:41,904 --> 00:17:43,904 武蔵様に限って 168 00:17:45,808 --> 00:17:50,312 私には どうしても そのようには思えない 169 00:17:50,312 --> 00:17:53,912 お通さん 泣き虫だな 駄目だよ 170 00:17:58,520 --> 00:18:02,991 油 171 00:18:02,991 --> 00:18:05,227 はい 今 戻りました おかえりやす 172 00:18:05,227 --> 00:18:07,927 お疲れやしたやろ はい おかさ 頂きまひょう 173 00:18:10,766 --> 00:18:16,966 油 174 00:18:20,976 --> 00:18:25,976 油 175 00:18:33,188 --> 00:18:36,058 おかえりなさいませ お通 176 00:18:36,058 --> 00:18:38,761 まだ明かりも ともさぬのかや はい ただいま 177 00:18:38,761 --> 00:18:41,761 お通さん おいらがやるから 寝ておいでよ 178 00:18:48,804 --> 00:18:51,707 城太郎… 179 00:18:51,707 --> 00:18:57,346 武蔵のやつ どこへ隠れよったか 180 00:18:57,346 --> 00:19:01,984 ああ… 今日も一日 無駄骨じゃった 181 00:19:01,984 --> 00:19:06,555 お通 お前に その気があるなら 肩をもんでたもい 182 00:19:06,555 --> 00:19:08,555 はい 183 00:19:40,722 --> 00:19:45,027 ああ… お通さん 184 00:19:45,027 --> 00:19:48,463 このばばの苦労も知らずに 185 00:19:48,463 --> 00:19:51,366 又八のやつ… 186 00:19:51,366 --> 00:19:55,166 ああ… どこをどう うろついとることやら 187 00:23:48,170 --> 00:23:52,541 武蔵殿 またしても 梁楷と にらめっこですか 188 00:23:52,541 --> 00:23:54,910 よほど お気に召したと見える 189 00:23:54,910 --> 00:23:59,414 なんなら お発ちのとき 巻いて お持ちなさい 差し上げましょう 190 00:23:59,414 --> 00:24:02,217 拙者に この梁楷を下さる? さよう 191 00:24:02,217 --> 00:24:06,088 いや もってのほかです 数日 ごやっかいに甘えたうえ 192 00:24:06,088 --> 00:24:08,790 このような ご家宝を頂いて よいものではありません 193 00:24:08,790 --> 00:24:12,494 でも お気に召したのでしょうが 194 00:24:12,494 --> 00:24:16,064 総じて 絵などというものは 195 00:24:16,064 --> 00:24:19,935 その作品を 真に愛する人に持たれるのが 196 00:24:19,935 --> 00:24:22,404 その絵としても 幸せです 197 00:24:22,404 --> 00:24:25,173 そう伺えば なおのこと 198 00:24:25,173 --> 00:24:28,710 私には この絵を 頂戴する資格がございません 199 00:24:28,710 --> 00:24:33,248 持ったところで うちもなし 席も定めぬ 流寓の武者修行 200 00:24:33,248 --> 00:24:38,086 なるほど 旅ばかりしているお体では 201 00:24:38,086 --> 00:24:41,623 かえって お邪魔ですな 202 00:24:41,623 --> 00:24:44,426 どうです? ひとつ この京の隅辺りに 203 00:24:44,426 --> 00:24:47,229 ざっとした丸木で 一庵を設けられては 204 00:24:47,229 --> 00:24:49,831 この辺りが お気に召したとあらば なおのこと 205 00:24:49,831 --> 00:24:51,766 ありがとうございますが 206 00:24:51,766 --> 00:24:55,036 まだ うちが欲しいと思ったことは ございません 207 00:24:55,036 --> 00:24:58,740 しかし この辺り ご主人のご気風か 208 00:24:58,740 --> 00:25:02,010 心が養われるようで 引かれます 209 00:25:02,010 --> 00:25:05,647 これは ちと お褒めが過ぎますな 210 00:25:05,647 --> 00:25:10,018 したが どうお気に召されたか? この辺りの空気は 211 00:25:10,018 --> 00:25:14,990 町人の 物を作る たつきの強さ とでも申しますか 212 00:25:14,990 --> 00:25:18,260 みんな 落ち着いて 騒々しい世間をよそに 213 00:25:18,260 --> 00:25:20,560 暮らしを楽しんでおります 214 00:25:22,597 --> 00:25:24,597 たつきの強さ… 215 00:25:52,093 --> 00:25:54,093 どうされた?兄上 216 00:26:02,704 --> 00:26:04,704 兄上 217 00:26:08,276 --> 00:26:14,749 こういうときには やはり 不肖の弟でも 218 00:26:14,749 --> 00:26:17,249 頼りになりますぞ 219 00:26:43,645 --> 00:26:48,116 伝七郎 何です?改まって 220 00:26:48,116 --> 00:26:52,787 お前に 望みどおり この道場を譲ろう 221 00:26:52,787 --> 00:26:56,324 だが 道場を継ぐことは 222 00:26:56,324 --> 00:26:59,227 同時に 家名を立てることだぞ 223 00:26:59,227 --> 00:27:01,296 よろしい 引き受けましょう 224 00:27:01,296 --> 00:27:03,796 そう無造作に言ってくれるな 225 00:27:06,101 --> 00:27:11,906 俺のてつを踏んで 兄弟で父の名を汚すようでは 226 00:27:11,906 --> 00:27:15,677 今 潰した方がよい ばかなことを おっしゃい 227 00:27:15,677 --> 00:27:20,615 伝七郎は あなたとは違う 汚名は 立派にそそいでみせますぞ 228 00:27:20,615 --> 00:27:24,319 違う そんな意味ではない 229 00:27:24,319 --> 00:27:27,088 果たし合いは やめてくれ なぜ? 230 00:27:27,088 --> 00:27:29,658 勝てないからだ 231 00:27:29,658 --> 00:27:31,626 誰に? 武蔵にだ 232 00:27:31,626 --> 00:27:34,596 お前の腕ではだ 233 00:27:34,596 --> 00:27:37,896 ば… ばかなことを! 234 00:27:40,802 --> 00:27:43,138 笑い事ではない 235 00:27:43,138 --> 00:27:45,707 武蔵との争いは わし一人にとどめて 236 00:27:45,707 --> 00:27:49,477 道場を継いで 吉岡一門の安泰を 図ってくれと 兄は頼んでいるのだ 237 00:27:49,477 --> 00:27:54,749 兄者!そんな家名の継ぎ方 伝七郎には できませぬぞ! 238 00:27:54,749 --> 00:27:57,218 分からんやつだ 239 00:27:57,218 --> 00:28:00,188 うっかり 武蔵の手に 乗ってはならんと言っているのだ 240 00:28:00,188 --> 00:28:02,524 それこそ… 241 00:28:02,524 --> 00:28:04,524 負け犬の言葉だ! 242 00:28:25,480 --> 00:28:27,515 お父上 243 00:28:27,515 --> 00:28:33,121 今日より 道場は この伝七郎が お預かりします 244 00:28:33,121 --> 00:28:35,523 ご舎弟 245 00:28:35,523 --> 00:28:37,459 どうされたのです? 246 00:28:37,459 --> 00:28:41,296 兄貴は 少し 恐怖症に かかったらしい また口げんかだ 247 00:28:41,296 --> 00:28:43,365 口げんか? それは あなたがよくない 248 00:28:43,365 --> 00:28:45,533 お兄上は ようやく持ち直されたお体です 249 00:28:45,533 --> 00:28:49,437 ええい いくら病中とはいえ ひきょう未練な兄貴の言葉を 250 00:28:49,437 --> 00:28:53,007 素直に 聞いておられると思うのか? 251 00:28:53,007 --> 00:28:55,009 俺は 断言する! 252 00:28:55,009 --> 00:28:58,346 「武蔵を討つ」とな 253 00:28:58,346 --> 00:29:01,046 兄貴が何と言おうと 俺はやる 254 00:29:03,084 --> 00:29:05,120 武蔵を このまま放っておいて 255 00:29:05,120 --> 00:29:07,689 家名大事に道場の維持を 考えていけなどという 256 00:29:07,689 --> 00:29:11,459 兄貴の言葉は 一体 武士の吐く言葉か! 257 00:29:11,459 --> 00:29:14,159 そんな考えだから 武蔵に敗れたんだ 258 00:29:16,131 --> 00:29:20,402 貴様たちも その兄貴と俺とを 259 00:29:20,402 --> 00:29:24,372 一緒に見るなよ いや それは もう… 260 00:29:24,372 --> 00:29:27,842 ご舎弟のお力は 我々も信じております 261 00:29:27,842 --> 00:29:29,844 だが… だが 何だ? 262 00:29:29,844 --> 00:29:33,648 はっ お兄上の考えにしてみると 263 00:29:33,648 --> 00:29:38,486 相手の武蔵は 一介の武者修行 こちらは 室町以来の名家 264 00:29:38,486 --> 00:29:42,991 はかりにかけてみても そんな試合 勝っても負けても つまらんばくち 265 00:29:42,991 --> 00:29:46,294 ばくちだと! あっ 失言でした 266 00:29:46,294 --> 00:29:48,329 その言葉は 取り消します 267 00:29:48,329 --> 00:29:50,832 こいつ… あっ 268 00:29:50,832 --> 00:29:54,632 出ていけ!臆病者め! 269 00:29:56,638 --> 00:30:00,108 失言でした ご舎弟 黙れ! 270 00:30:00,108 --> 00:30:05,308 貴様のような卑劣者は 俺と同席する資格はない 去れ! 271 00:30:07,816 --> 00:30:11,016 見苦しいぞ 立ち去れ! 272 00:30:44,285 --> 00:30:50,725 命の惜しい者 異論を抱く者は いつでも出ていってもらう 273 00:30:50,725 --> 00:30:53,461 土性っ骨の座った者が 10人でも 20人でも残れば 274 00:30:53,461 --> 00:30:55,430 それで たくさんだ 275 00:30:55,430 --> 00:30:57,730 そこから道場を立て直すのだ 276 00:31:03,738 --> 00:31:07,308 第一 道場が ひっそり閑として 墓場のようでは 外聞が悪い 277 00:31:07,308 --> 00:31:10,108 稽古をつけてやるから みんな 支度をしろ 278 00:31:17,318 --> 00:31:19,318 おお 横川か 279 00:31:22,290 --> 00:31:25,490 兄貴と違って ちと 俺のは激しいぞ 280 00:31:34,068 --> 00:31:36,004 次! 分かったぞ! 281 00:31:36,004 --> 00:31:38,506 おい 分かったぞ!あっ 282 00:31:38,506 --> 00:31:41,075 分かりました 武蔵の居所が どこだ? 283 00:31:41,075 --> 00:31:45,346 はっ 本阿弥光悦の家の奥に 確かに武蔵が とう留している様子 284 00:31:45,346 --> 00:31:47,282 本阿弥の家に? はっ 285 00:31:47,282 --> 00:31:52,620 光悦の家とは やっかいな所に 逃げ込まれましたな 286 00:31:52,620 --> 00:31:55,290 うかつに手を出すと… かまわん!すぐに出向かう 287 00:31:55,290 --> 00:31:58,490 ご舎弟 ご舎弟 288 00:32:00,795 --> 00:32:04,666 兄者 兄者 武蔵の居所が知れましたぞ 289 00:32:04,666 --> 00:32:06,666 あっ 290 00:32:26,654 --> 00:32:28,590 見てくれ 291 00:32:28,590 --> 00:32:31,392 兄貴のやつ 俺に向かって こんな 長たらしい意見の手紙を残して 292 00:32:31,392 --> 00:32:33,962 家出をしてしまった 293 00:32:33,962 --> 00:32:37,298 行き先も書いてない 行き先も… 294 00:32:37,298 --> 00:32:39,867 何が 恥ずかしい 295 00:32:39,867 --> 00:32:42,567 何が 罪滅ぼしだ 女のくさったような 296 00:32:44,706 --> 00:32:50,206 だが これで ひきょう者が また1人 この道場から去った 297 00:32:52,847 --> 00:32:55,750 伝七郎様 誰だ? 298 00:32:55,750 --> 00:32:58,286 林か? はい 299 00:32:58,286 --> 00:33:01,689 何をしておる? 300 00:33:01,689 --> 00:33:03,758 察するに 貴様 301 00:33:03,758 --> 00:33:06,861 兄貴の家出を知っていて 手伝ったな? 302 00:33:06,861 --> 00:33:10,131 はい 知ってて なぜ止めなかった? 303 00:33:10,131 --> 00:33:12,767 いや それより先 304 00:33:12,767 --> 00:33:15,267 なぜ わしらに知らせなかったのじゃ? 305 00:33:17,271 --> 00:33:20,141 なぜだ?言わんか 306 00:33:20,141 --> 00:33:22,844 お止めだてしない方が よいと思ったからです 307 00:33:22,844 --> 00:33:24,779 何? 308 00:33:24,779 --> 00:33:27,582 では 貴様も 兄貴と同様の意見だというのだな 309 00:33:27,582 --> 00:33:31,452 いえ ちと… ちと?どう違うのだ? 310 00:33:31,452 --> 00:33:34,255 伝七郎様 武蔵との試合は 311 00:33:34,255 --> 00:33:37,558 よくよく お考えのうえでの ご用心が肝要かと存じます 312 00:33:37,558 --> 00:33:42,330 何を申す この期に及んで 用心も 肝要もあるものか 313 00:33:42,330 --> 00:33:44,599 堂々と戦って 強い者が勝つのだ 314 00:33:44,599 --> 00:33:47,502 そのとおりです が そうなる前に 315 00:33:47,502 --> 00:33:50,138 もう少し よく 相手の兵法を調べてからでも 316 00:33:50,138 --> 00:33:53,341 遅くはないと存じます んん… 言うな 317 00:33:53,341 --> 00:33:55,777 貴様 このわしに意見をする気か? 318 00:33:55,777 --> 00:33:57,712 意見ではありません 319 00:33:57,712 --> 00:34:01,582 武蔵の剣は 尋常一様ではないと 申し上げたいのです 320 00:34:01,582 --> 00:34:05,453 軽率は 敗れます 敗れる? 321 00:34:05,453 --> 00:34:08,256 では なぜ 貴様は このわしを迎えに来たのだ? 322 00:34:08,256 --> 00:34:11,526 ご兄弟で力を合わせれば 勝てると思ったからです 323 00:34:11,526 --> 00:34:15,329 わし一人では 危ないと申すか? 何とぞ 無謀は… 324 00:34:15,329 --> 00:34:19,067 言うな!貴様も 兄貴と同様 腰が抜けている 325 00:34:19,067 --> 00:34:21,969 そんなやつは この道場には不要だ 326 00:34:21,969 --> 00:34:23,969 出ていけ あっ… 327 00:34:28,743 --> 00:34:30,745 出ていかぬか! 328 00:34:30,745 --> 00:34:34,745 そして このような手紙 見たくもないと 兄貴に渡してこい 329 00:35:03,177 --> 00:35:05,977 これで臆病者が3人 去ったわ 330 00:35:19,727 --> 00:35:22,597 どうです?武蔵殿 ん? 331 00:35:22,597 --> 00:35:26,400 これから ご一緒に くるわへ行ってみませんか? 332 00:35:26,400 --> 00:35:28,836 くるわというと 遊女のいる里ですか? 333 00:35:28,836 --> 00:35:33,775 そうです 友達の灰屋から 誘い文が来ましてな 334 00:35:33,775 --> 00:35:36,344 せっかくですが よしましょう 335 00:35:36,344 --> 00:35:39,680 武蔵殿 よい折ではないか 336 00:35:39,680 --> 00:35:42,583 せがれも お連れしたいのであろう 337 00:35:42,583 --> 00:35:46,521 さっ 屈託を さらりと捨ててきなされ 338 00:35:46,521 --> 00:35:51,058 はい では お言葉に甘えて 連れていっていただきます 339 00:35:51,058 --> 00:35:53,561 おお おお そうなされ 340 00:35:53,561 --> 00:35:55,496 さっ 衣装も替えて 341 00:35:55,496 --> 00:35:59,000 いえ 私には 美服は かえって似合いませぬ 342 00:35:59,000 --> 00:36:02,870 このままで あなたは それで よいじゃろうが 343 00:36:02,870 --> 00:36:07,742 むさい身なりをしていては きらやかな里の席に 344 00:36:07,742 --> 00:36:12,213 雑巾が置いてあるように 見ゆるではないかのう 345 00:36:12,213 --> 00:36:17,552 そう言うたとて ただ あかが 付いていぬというだけのもの 346 00:36:17,552 --> 00:36:20,922 さっ 世話を焼かせずに 袖を通してみなされ 347 00:36:20,922 --> 00:36:23,622 さあ あっ はい 348 00:36:36,204 --> 00:36:38,704 あっ ご隠居様 ん? 349 00:36:43,010 --> 00:36:45,012 光悦や ん? 350 00:36:45,012 --> 00:36:49,517 今のう きつい形をした侍衆が 351 00:36:49,517 --> 00:36:52,320 3人連れで この門前へ来て 352 00:36:52,320 --> 00:36:55,156 不作法な言葉を 吐いていったというが 353 00:36:55,156 --> 00:36:58,826 大事はあるまいかのう? 354 00:36:58,826 --> 00:37:02,730 お案じなされますな 拙者に危害を加えても 355 00:37:02,730 --> 00:37:05,933 光悦殿に害のある者ではないと 思います 356 00:37:05,933 --> 00:37:10,171 おおかた 吉岡の者でしょう 357 00:37:10,171 --> 00:37:12,106 私も そう思う 358 00:37:12,106 --> 00:37:15,109 したが 光悦殿 万一の事でもあって 359 00:37:15,109 --> 00:37:17,979 あなたへ累を及ぼしては 申し訳ありません 360 00:37:17,979 --> 00:37:22,283 私は ご遠慮した方が… なに 吉岡の門弟と分かっていれば 361 00:37:22,283 --> 00:37:24,552 私が怖がる意味は 少しもありません 362 00:37:24,552 --> 00:37:26,552 さあさあ 参りましょう 363 00:37:43,504 --> 00:37:47,204 見えましょう? あれが灰屋殿のお住まいです 364 00:38:14,468 --> 00:38:17,705 紹由は らい落な男でしてな 365 00:38:17,705 --> 00:38:20,441 会っておいて 損のない人物です 366 00:38:20,441 --> 00:38:23,277 おお 参りました さあさあ 367 00:38:23,277 --> 00:38:25,212 光悦殿 ん? 368 00:38:25,212 --> 00:38:29,083 拙者 所存がございますゆえ 表で待たせていただきます 369 00:38:29,083 --> 00:38:33,483 そうですか では お気を付けなされて 370 00:38:51,672 --> 00:38:54,575 武蔵だな? いかにも 371 00:38:54,575 --> 00:38:58,446 それがし 吉岡一門の太田黒兵助という者 372 00:38:58,446 --> 00:39:02,817 ご舎弟 伝七郎殿より そこもとへの手簡 373 00:39:02,817 --> 00:39:07,288 ここで一読いたして すぐ 返事を承りたい 374 00:39:07,288 --> 00:39:11,492 「果たし状 場所 蓮華王院裏地 375 00:39:11,492 --> 00:39:15,296 時刻 戌の下刻」 376 00:39:15,296 --> 00:39:17,231 承知した 377 00:39:17,231 --> 00:39:19,934 しかと? しかと承知 378 00:39:19,934 --> 00:39:24,572 試合は今夜 これより 間のないことだぞ よいな? 379 00:39:24,572 --> 00:39:26,972 よい では 後刻 380 00:39:33,147 --> 00:39:37,952 やあ 武蔵殿か わしは ここのあるじ 灰屋紹由じゃ 381 00:39:37,952 --> 00:39:40,552 さあさあ 参りましょうぞ 382 00:39:47,361 --> 00:39:51,165 えい ほ えい ほ えい ほ えい ほ 383 00:39:51,165 --> 00:39:55,365 えい ほ えい ほ えい ほ えい ほ 384 00:40:47,288 --> 00:40:50,124 さあさあ 武蔵殿 熱いのを一つ 385 00:40:50,124 --> 00:40:53,994 頂いております 一向に杯が空かぬではないか 386 00:40:53,994 --> 00:40:58,365 弱いのです 弱いのは 剣術じゃろう 387 00:40:58,365 --> 00:41:02,536 そうかもしれません 酒を飲むと 修行の妨げになる 388 00:41:02,536 --> 00:41:05,339 酒を飲むと 常の修養が乱れる 389 00:41:05,339 --> 00:41:07,575 酒を飲むと 意志が弱くなる 390 00:41:07,575 --> 00:41:12,246 酒を飲むと 立身が おぼつかない などと考えてござるなら 391 00:41:12,246 --> 00:41:15,249 お前さんは 大した者にはなれない 392 00:41:15,249 --> 00:41:18,986 そうは考えておりませぬが ただ一つ 困ることがあるのです 393 00:41:18,986 --> 00:41:21,889 ほうほう 何じゃな?それは 394 00:41:21,889 --> 00:41:24,089 眠くなってしまうのです 395 00:41:26,160 --> 00:41:28,496 女房殿 この息子 396 00:41:28,496 --> 00:41:31,899 酔うと 眠くなるのが 怖いと言うておる 眠くなったら 397 00:41:31,899 --> 00:41:34,902 寝かせてやってくだされや ようござりまする 398 00:41:34,902 --> 00:41:38,272 ところで 介抱役は 誰がよいかな 399 00:41:38,272 --> 00:41:41,275 のう 光悦殿 誰がよいか 400 00:41:41,275 --> 00:41:45,379 武蔵殿に 気に入りそうなのは さあ… 401 00:41:45,379 --> 00:41:48,282 船ばし様 今に 吉野さんが お見えになりましょうが 402 00:41:48,282 --> 00:41:50,217 おお!それそれ 403 00:41:50,217 --> 00:41:53,754 吉野太夫ならば 武蔵殿も不足はあるまい 404 00:41:53,754 --> 00:41:55,689 まだ見えんではないか はい 405 00:41:55,689 --> 00:41:58,292 吉野様は 私たちと違って 406 00:41:58,292 --> 00:42:01,095 それは もう 引く手あまたなお方 407 00:42:01,095 --> 00:42:03,130 早くとおっしゃっても そうは まいりませぬ 408 00:42:03,130 --> 00:42:06,033 いやいや わしが来ていると告げれば 409 00:42:06,033 --> 00:42:08,536 どんな客も袖にしてくるはずじゃ 410 00:42:08,536 --> 00:42:12,740 これ りん弥 りん弥は おるか? はい 411 00:42:12,740 --> 00:42:14,675 りん弥 そなたは 412 00:42:14,675 --> 00:42:17,578 吉野太夫つきの かむろであろうが はい 413 00:42:17,578 --> 00:42:20,481 船ばし様が 待ちわびていると 言うて 吉野を 414 00:42:20,481 --> 00:42:23,384 これへ連れてきておくりゃれ はい 415 00:42:23,384 --> 00:42:26,053 して あちらのお客は どなたじゃ? 416 00:42:26,053 --> 00:42:28,122 はい 寒厳様でございまする 417 00:42:28,122 --> 00:42:30,357 寒厳様? はい 418 00:42:30,357 --> 00:42:32,293 なぜ それを早く言わぬ 419 00:42:32,293 --> 00:42:37,498 のう 光悦殿 これは ちと面白うなってきましたぞ 420 00:42:37,498 --> 00:42:39,466 小面憎い公家殿め 421 00:42:39,466 --> 00:42:43,671 よし このうえは わしが行って じか談合と出かけ 422 00:42:43,671 --> 00:42:46,640 意地でも 吉野を これへ申し受けてこねばならぬ 423 00:42:46,640 --> 00:42:49,109 あっ 船ばし様 危のうござりまする 424 00:42:49,109 --> 00:42:53,414 これこれ ばかにするな 酒に酔うて 足は ひょろつくが 425 00:42:53,414 --> 00:42:57,651 心は ひょろけてはおらんぞ さあさあ さあ 光悦殿 武蔵殿 426 00:42:57,651 --> 00:42:59,951 さあさあ 参ろう 参ろう 427 00:43:03,757 --> 00:43:06,026 危のうおすえ 428 00:43:06,026 --> 00:43:10,464 さあ どこじゃ?どこじゃな? 429 00:43:10,464 --> 00:43:14,802 船ばし様 お気をお付けやっしゃ 430 00:43:14,802 --> 00:43:19,640 寒巌殿のお座敷は どこじゃな? あっ ここじゃな 431 00:43:19,640 --> 00:43:21,575 おっ あの声は紹由だな 432 00:43:21,575 --> 00:43:25,446 あれ ここへお見えあそばしたら どうしたらようございましょう 433 00:43:25,446 --> 00:43:28,782 あっ これ 立つな 立つでない 434 00:43:28,782 --> 00:43:31,585 ああっ いや ここじゃ ここじゃ 435 00:43:31,585 --> 00:43:34,488 ああ これこれ 吉野太夫 今日はな 436 00:43:34,488 --> 00:43:37,988 若い殿御を連れてまいったぞ 437 00:43:45,232 --> 00:43:49,770 のう 太夫 今の世の中で賢き者は 町人 438 00:43:49,770 --> 00:43:52,139 愚かしきは 堂上方 439 00:43:52,139 --> 00:43:54,875 太夫は この堂上方に ほれ召さるか? 440 00:43:54,875 --> 00:43:58,512 それとも 町人に ほれ召さるか? 441 00:43:58,512 --> 00:44:02,816 まあ 船ばし様が… 読めた 読めた 442 00:44:02,816 --> 00:44:05,486 太夫も やはり 町人が よいと申すか 443 00:44:05,486 --> 00:44:10,224 ならば わしと一緒に来い 紹由 戯れにも程こそあれ 444 00:44:10,224 --> 00:44:13,961 戯れとな?太夫が 来たそうな顔をしておるから 445 00:44:13,961 --> 00:44:16,363 連れていくまでじゃ のう 太夫 446 00:44:16,363 --> 00:44:19,566 まあ 何といたしましょう 447 00:44:19,566 --> 00:44:22,066 よいよい よいではないか 448 00:44:48,062 --> 00:44:50,631 武蔵は 間違いなく来るであろうな? 449 00:44:50,631 --> 00:44:54,435 ご念には及びませぬ 万一 姿をくらますようなことがあれば 450 00:44:54,435 --> 00:44:58,535 京都中に高札を立てて 汚名を さらしてやりましょう 451 00:45:04,144 --> 00:45:07,848 かむろ殿 ここから表へ出られるか? 452 00:45:07,848 --> 00:45:11,185 お客様 どこへお越しやすのどす? 453 00:45:11,185 --> 00:45:14,688 すぐ戻ってくる すぐ戻ってくるといっても 454 00:45:14,688 --> 00:45:18,125 そんなところから… 光悦殿が尋ねたら 455 00:45:18,125 --> 00:45:22,463 「間もなく戻ってくるつもりです」 と言って出たと伝えてくれ 456 00:45:22,463 --> 00:45:26,363 つもりでは あきまへん きっと帰ってきておくれやす 457 00:45:56,864 --> 00:46:00,067 おいでやす おいでやす 458 00:46:00,067 --> 00:46:02,603 この屋に わらじはないか? 459 00:46:02,603 --> 00:46:05,572 うちには 置いとりまへんのやけど 何でしたら 買いにやりますが 460 00:46:05,572 --> 00:46:07,574 おっ 頼む へいへい 461 00:46:07,574 --> 00:46:09,974 おい わらじ1足 買うてきてくれ へえ 462 00:46:40,407 --> 00:46:44,178 亭主 恐れ入るが この羽織を預かっておいてくれ 463 00:46:44,178 --> 00:46:47,381 へいへい もし 拙者が 464 00:46:47,381 --> 00:46:50,184 亥の下刻までに ここへ帰らなかったら 465 00:46:50,184 --> 00:46:53,387 その羽織と この書状とを 466 00:46:53,387 --> 00:46:56,123 扇屋におられる光悦殿まで お届けしてもらいたい 467 00:46:56,123 --> 00:46:58,459 あっ 本阿弥の光悦様に うん 468 00:46:58,459 --> 00:47:03,130 へいへい おやすいことです 確かに お預かりしておきます 469 00:47:03,130 --> 00:47:06,900 時に時刻は 今 酉の下刻か? 470 00:47:06,900 --> 00:47:11,138 戌の刻ごろか? いえいえ まだ そうはなりまへん 471 00:47:11,138 --> 00:47:15,738 おおかた 酉の下刻どっしゃろ 往来の人通りで 大体 分かります 472 00:48:17,070 --> 00:48:20,774 へえ どうぞ あっ すまぬ 473 00:48:20,774 --> 00:48:23,710 亭主 つかぬことを聞くようじゃが 474 00:48:23,710 --> 00:48:26,380 今の虚無僧は この辺では 古いなじみか? 475 00:48:26,380 --> 00:48:29,750 ええ ええ もう 3~4年にはなりまっしゃろ 476 00:48:29,750 --> 00:48:33,020 何でも 元は 播州様のお侍さんやったとか 477 00:48:33,020 --> 00:48:35,589 播州? へい 478 00:48:35,589 --> 00:48:38,289 では 青木丹左衛門… 479 00:48:41,295 --> 00:48:44,064 城太郎の父だ 480 00:48:44,064 --> 00:48:46,967 おお おお 底冷えがするや思うたら 481 00:48:46,967 --> 00:48:49,536 もう 雪がちらついてきましたわ 482 00:48:49,536 --> 00:48:53,536 ああ 寒いやの ああ 寒い 寒い 483 00:49:01,615 --> 00:49:03,615 待て はっ 484 00:49:06,453 --> 00:49:08,453 わらじだ 485 00:49:12,259 --> 00:49:15,295 あっ わらじの緒は大丈夫か? 486 00:49:15,295 --> 00:49:18,065 こう寒い凍るような晩には 487 00:49:18,065 --> 00:49:20,834 きつい緒も ぷっつりと切れやすいからのう 488 00:49:20,834 --> 00:49:25,072 うん こういう折には わらじは きれ緒に限るもんだ 489 00:49:25,072 --> 00:49:27,474 みんなも覚えておけ はっ 490 00:49:27,474 --> 00:49:29,474 よし 行け 491 00:49:56,336 --> 00:49:58,336 誰だ? 492 00:50:02,609 --> 00:50:04,609 太田黒らでしょう 493 00:50:15,956 --> 00:50:18,358 まだ来ぬようだな はっ 494 00:50:18,358 --> 00:50:22,829 お寒かったでございましょう まだ時間も よほどあります 495 00:50:22,829 --> 00:50:27,501 十分 お体を温めて ご用意に かかられても 遅くはありません 496 00:50:27,501 --> 00:50:30,804 ちと早すぎたかな 497 00:50:30,804 --> 00:50:33,573 あっ 誰か その辺に行って 酒を提げてこんか 498 00:50:33,573 --> 00:50:36,073 はっ 酒なら用意してあります 499 00:50:48,221 --> 00:50:52,621 ああ うまい どんな味方よりも これ以上の味方はないぞ 500 00:50:54,795 --> 00:50:57,095 おっ 壬生のご老台 501 00:51:02,836 --> 00:51:05,806 おお 叔父上 どうして ここへ? 502 00:51:05,806 --> 00:51:09,242 お主 本当にやるのじゃな 503 00:51:09,242 --> 00:51:14,014 うん お主の その姿を見て 安どいたしたぞ 504 00:51:14,014 --> 00:51:18,285 柔弱な兄とは違います ご安心ください 505 00:51:18,285 --> 00:51:23,056 だが 伝七郎 あまり敵を軽視して臨むなよ 506 00:51:23,056 --> 00:51:25,025 心得ております 507 00:51:25,025 --> 00:51:28,825 さあ 寒さよけに お一つ いや わしは いらん 508 00:51:40,474 --> 00:51:44,344 戌の下刻か 509 00:51:44,344 --> 00:51:46,947 みんな 聞いてくれ 510 00:51:46,947 --> 00:51:49,783 武蔵は わし一人で十分だ 511 00:51:49,783 --> 00:51:53,320 大勢の助太刀だとあっては 伝七郎の名が廃る 512 00:51:53,320 --> 00:51:56,223 さあ 引いてくれ 513 00:51:56,223 --> 00:51:59,760 よかろう 万一の事があったら 514 00:51:59,760 --> 00:52:02,260 骨は この源左衛門が拾ってやる 515 00:52:05,499 --> 00:52:08,902 よいか 誰も来るでないぞ 516 00:52:08,902 --> 00:52:11,705 さあ 引け はっ… 517 00:52:11,705 --> 00:52:13,640 よし 518 00:52:13,640 --> 00:52:16,543 さあ みんな 引けい 519 00:52:16,543 --> 00:52:18,578 引けい 引けい 引いてくれ 520 00:52:18,578 --> 00:52:20,578 引け 引けい 521 00:53:19,105 --> 00:53:21,205 武蔵 522 00:54:04,384 --> 00:54:06,686 遅い! 523 00:54:06,686 --> 00:54:11,191 よいか? 「よいか?」とは 何が? 524 00:54:11,191 --> 00:54:14,661 戌の下刻は過ぎておるぞ 525 00:54:14,661 --> 00:54:19,466 下刻の鐘と きっちり同時にとは 約束しておらぬ 526 00:54:19,466 --> 00:54:23,737 詭弁を吐くな!下りろ 527 00:54:23,737 --> 00:54:25,837 今 参る 528 00:54:32,979 --> 00:54:34,979 武蔵だ 529 00:54:38,685 --> 00:54:40,685 下りてこい 530 00:54:44,190 --> 00:54:46,126 どうしたのだ? 531 00:54:46,126 --> 00:54:48,061 試合わぬ前に おじけを抱くようでは 532 00:54:48,061 --> 00:54:50,597 伝七郎の前に立つ資格はないぞ 533 00:54:50,597 --> 00:54:54,367 何の 吉岡伝七郎のごとき 534 00:54:54,367 --> 00:54:57,837 既に 去年の春 拙者が真っ二つに斬っている 535 00:54:57,837 --> 00:54:59,873 何? 今日 斬れば 536 00:54:59,873 --> 00:55:02,676 御身を斬ること これで2度目だ 537 00:55:02,676 --> 00:55:05,545 いつ?どこで? 538 00:55:05,545 --> 00:55:09,449 大和国 柳生の庄 大和の? 539 00:55:09,449 --> 00:55:14,821 はたごの風呂の中で 何?あのとき… 540 00:55:14,821 --> 00:55:20,493 どちらも 身に寸鉄を帯びてない 風呂の中で 541 00:55:20,493 --> 00:55:24,130 自分は 目をもって 御身を斬った 542 00:55:24,130 --> 00:55:26,530 愚にもつかぬ ほざきごと 543 00:55:30,470 --> 00:55:32,770 その独り善がりを覚ましてやる 544 00:55:34,741 --> 00:55:36,741 来い! 545 00:55:58,932 --> 00:56:00,932 ああ… 546 00:56:13,780 --> 00:56:15,715 ああっ! 547 00:56:15,715 --> 00:56:18,251 あっ… 548 00:56:18,251 --> 00:56:21,855 ご舎弟! ご舎弟! 549 00:56:21,855 --> 00:56:23,855 武蔵! 550 00:56:25,759 --> 00:56:30,430 伝七郎!伝七郎! ご舎弟 551 00:56:30,430 --> 00:56:33,099 お主の死を無駄にはせぬ! 552 00:56:33,099 --> 00:56:36,803 決して 犬死ににはさせんぞ! 553 00:56:36,803 --> 00:56:40,006 分かったか!伝七郎… 554 00:56:40,006 --> 00:56:43,777 聞こえたか! ご舎弟… ご舎弟… 555 00:56:43,777 --> 00:56:45,777 伝七郎! 556 00:57:01,061 --> 00:57:03,930 あれ おかえりやす 557 00:57:03,930 --> 00:57:07,400 おお 拙者の帰りを 待っていてくれたのか 558 00:57:07,400 --> 00:57:11,271 はい 太夫様の言いつけで ああ それは すまなかった 559 00:57:11,271 --> 00:57:13,840 ええ人と 約束があったんどっしゃろ? 560 00:57:13,840 --> 00:57:17,740 太夫様に言いつけまっせ いや 違う 違う そう見えるか? 561 00:57:46,439 --> 00:57:49,142 おお 武蔵殿 562 00:57:49,142 --> 00:57:53,880 どこへ行っておいででしたな? はっ ちと所用で 563 00:57:53,880 --> 00:57:56,549 ん? あっ お待たせいたしました 564 00:57:56,549 --> 00:57:59,119 ようよう お支度ができましたほどに 565 00:57:59,119 --> 00:58:02,355 皆様を お通しせよとの お言葉でございます 566 00:58:02,355 --> 00:58:04,691 なになに 支度ができたとな? はい 567 00:58:04,691 --> 00:58:08,695 おうおう せっかくの太夫の招き さっ 参りましょう 参りましょう 568 00:58:08,695 --> 00:58:10,830 さっ 皆さん 皆さん 参りましょうぞ 569 00:58:10,830 --> 00:58:12,899 吉野太夫が 席を設けてくれました 570 00:58:12,899 --> 00:58:15,599 さあさあ 庭伝いに茶室へ さあさあ 571 00:58:24,377 --> 00:58:29,916 おっ いやあ これは また 何と… 女房姿 572 00:58:29,916 --> 00:58:31,918 いや 皆さん 何と あでやかな 573 00:58:31,918 --> 00:58:34,487 さあさあ 参りましょうぞ 参りましょうぞ 574 00:58:34,487 --> 00:58:37,087 ようこそ さあ ご遠慮のう 575 00:58:39,225 --> 00:58:41,225 さあ さあ さあ 576 00:59:04,317 --> 00:59:07,220 ご覧のとおりの山家なこと 577 00:59:07,220 --> 00:59:10,123 何も お構いはできませぬが 578 00:59:10,123 --> 00:59:12,525 雪の夜の ちそうには 579 00:59:12,525 --> 00:59:15,962 しずの夫から 富者貴顕に至るまで 580 00:59:15,962 --> 00:59:19,732 火に勝る ちそうは ないかと存じまして 581 00:59:19,732 --> 00:59:24,432 たき火の支度だけは このように たくさんにしておきました 582 00:59:29,175 --> 00:59:31,844 夜もすがら語り明かそうとも 583 00:59:31,844 --> 00:59:34,781 まきだけは 鉢の木をくべずとも 584 00:59:34,781 --> 00:59:37,750 尽きる気遣いは ございませぬゆえ 585 00:59:37,750 --> 00:59:41,250 お心安く お当たりくださいませ 586 01:00:02,609 --> 01:00:05,211 あっ 血ではないか 587 01:00:05,211 --> 01:00:09,811 いいえ ひぼたんの一ひらで ございましょう 588 01:00:20,693 --> 01:00:24,497 太夫 そなたが くべておる そのまきのう 589 01:00:24,497 --> 01:00:26,799 それは 一体 何の木じゃ? 590 01:00:26,799 --> 01:00:29,135 ただの ほだとも思えぬが 591 01:00:29,135 --> 01:00:32,171 ぼたんの木でございます 592 01:00:32,171 --> 01:00:34,307 ご覧じませ 593 01:00:34,307 --> 01:00:37,507 なるほど どうりで よいにおいが… 594 01:01:03,336 --> 01:01:05,336 吉野太夫 595 01:01:22,288 --> 01:01:28,388 駒とめて 596 01:01:32,699 --> 01:01:40,273 駒とめて 597 01:01:40,273 --> 01:01:48,981 袖うちはらふ 598 01:01:48,981 --> 01:01:59,959 陰もなく 599 01:01:59,959 --> 01:02:11,571 佐野のあたりの 600 01:02:11,571 --> 01:02:24,171 佐野のあたりの 601 01:02:26,719 --> 01:02:39,432 雪しぐれ 602 01:02:39,432 --> 01:02:56,932 雪しぐれかな 603 01:03:15,802 --> 01:03:21,207 ふつつかな技を… いやあ まことに結構でござった 604 01:03:21,207 --> 01:03:25,812 では 皆さん おしい夜だが この辺で おいとまをいたそうか 605 01:03:25,812 --> 01:03:28,312 心温まるもてなしであった 606 01:03:30,383 --> 01:03:33,883 光悦様 太夫様 ちょっと… 607 01:03:39,158 --> 01:03:43,095 あっ 光悦様 えらいことでございます 608 01:03:43,095 --> 01:03:45,832 総門から柳馬場にかけて 609 01:03:45,832 --> 01:03:50,102 吉岡の門弟衆が 100人ばかり 武蔵様のお帰りを待ち受けて… 610 01:03:50,102 --> 01:03:52,038 他のお方は ともかく 611 01:03:52,038 --> 01:03:55,241 武蔵様は うかつに くるわの外へは出られません 612 01:03:55,241 --> 01:03:57,241 太夫 613 01:04:02,615 --> 01:04:07,453 いやあ 吉野太夫 こよいは 厳いお世話になりました 614 01:04:07,453 --> 01:04:10,953 では… じゃあ 我々も… 615 01:04:13,259 --> 01:04:16,062 武蔵様といわれましたな 616 01:04:16,062 --> 01:04:18,965 あなたは ここに お泊まりなさいませ 617 01:04:18,965 --> 01:04:23,836 何とのう 今夜は お帰し申しとうございませぬ 618 01:04:23,836 --> 01:04:26,839 よろしいのでございましょ? このお方を お泊め申しても 619 01:04:26,839 --> 01:04:28,975 いや 私も帰ります 620 01:04:28,975 --> 01:04:32,778 武蔵殿 まあ そう仰せられずに 今夜は ここへ泊まって 621 01:04:32,778 --> 01:04:37,083 明日 よいしおに お引き揚げに なされては いかがですかな 622 01:04:37,083 --> 01:04:40,283 太夫 頼みますぞ はい 623 01:05:02,208 --> 01:05:05,144 そこでは お寒うございましょうに 624 01:05:05,144 --> 01:05:07,980 こちらに お寄りなされませ 625 01:05:07,980 --> 01:05:10,716 お構いなく 626 01:05:10,716 --> 01:05:12,652 どうぞ お休みください 627 01:05:12,652 --> 01:05:15,052 夜が明けしだい 拙者は帰りますから 628 01:05:26,165 --> 01:05:29,201 武蔵様 629 01:05:29,201 --> 01:05:31,201 はっ 630 01:05:33,706 --> 01:05:39,111 あなたは そうやって 誰に備えているのですか? 631 01:05:39,111 --> 01:05:41,047 誰にでもない 632 01:05:41,047 --> 01:05:44,483 自身の油断を戒めているだけです 633 01:05:44,483 --> 01:05:46,485 敵には? 634 01:05:46,485 --> 01:05:49,322 もとよりのこと 635 01:05:49,322 --> 01:05:52,224 それでは もし ここへ 636 01:05:52,224 --> 01:05:57,897 吉岡の門弟衆が 大勢して どっと寄せてきたときには 637 01:05:57,897 --> 01:06:02,735 あなたは たちどころに 斬られてしまうに違いない 638 01:06:02,735 --> 01:06:07,373 私には そう思えてなりませぬ 639 01:06:07,373 --> 01:06:10,973 何という お気の毒なお方であろう 640 01:06:16,682 --> 01:06:20,152 武蔵様 641 01:06:20,152 --> 01:06:26,492 女の私には 兵法などという道は 分かりませぬが 642 01:06:26,492 --> 01:06:32,298 最前から あなたの所作や まなざしを うかがっていると 643 01:06:32,298 --> 01:06:37,970 今にも 斬られて死ぬ人のように 見えてならないのです 644 01:06:37,970 --> 01:06:40,806 いわば あなたの面には 645 01:06:40,806 --> 01:06:44,977 死相が満ちていると 言ってよいかもしれません 646 01:06:44,977 --> 01:06:48,514 一体 武者修行とか兵法者とか言って 647 01:06:48,514 --> 01:06:53,252 世に立っていくお方が 大勢の刃を前に控えながら 648 01:06:53,252 --> 01:06:56,589 そんなことで よいものでございましょうか? 649 01:06:56,589 --> 01:07:00,960 そんなことで 人に 勝てるものでございまするか? 650 01:07:00,960 --> 01:07:03,295 何? 651 01:07:03,295 --> 01:07:05,295 吉野殿 652 01:07:07,233 --> 01:07:10,603 この武蔵を 未熟者だと笑うたな 653 01:07:10,603 --> 01:07:14,473 お怒りなさいましたか? 言うた者が女だ 怒りはせぬが 654 01:07:14,473 --> 01:07:16,509 拙者の所作が 655 01:07:16,509 --> 01:07:21,747 今にも斬られる人間に 見えてならぬとは どういう訳か? 656 01:07:21,747 --> 01:07:25,117 戯れか? 何の 657 01:07:25,117 --> 01:07:29,522 かりそめにも兵法者の武蔵様に 今のような言葉 658 01:07:29,522 --> 01:07:33,159 何で 戯れ事に申しましょうか 659 01:07:33,159 --> 01:07:35,094 では 聞かせい 660 01:07:35,094 --> 01:07:37,763 どうして 拙者の身が そなたの目には 661 01:07:37,763 --> 01:07:40,666 すぐ 敵に斬られそうな 未熟な体に見えるのか 662 01:07:40,666 --> 01:07:43,669 その訳を 663 01:07:43,669 --> 01:07:47,907 それほどお尋ねならば 申してみましょう 664 01:07:47,907 --> 01:07:51,777 武蔵様 あなたは 先ほど 665 01:07:51,777 --> 01:07:55,281 吉野が 皆様へ お慰めにお聞かせした 666 01:07:55,281 --> 01:07:58,184 琵琶の音を お聴きあそばしましたか? 667 01:07:58,184 --> 01:08:01,687 琵琶と拙者の身と 何の関わりがある? 668 01:08:01,687 --> 01:08:06,225 ああ… お尋ねしたのが愚かでした 669 01:08:06,225 --> 01:08:10,896 始終 何者かに張り詰めていた あなたのお耳には 670 01:08:10,896 --> 01:08:15,735 あの1曲のうちに奏でられた こまやかな音のいろいろも 671 01:08:15,735 --> 01:08:19,605 恐らく お聴き分けなかったかも しれません 672 01:08:19,605 --> 01:08:24,009 いや 聴いていた それほど うつつにはおらぬ 673 01:08:24,009 --> 01:08:28,581 では あの僅か4つしかない糸から 674 01:08:28,581 --> 01:08:32,885 どうして あのように 強い調子や 緩やかな調子や 675 01:08:32,885 --> 01:08:37,723 さまざまな音色が 自由自在に鳴り出るのでしょうか 676 01:08:37,723 --> 01:08:41,123 そこまで お聴き分けなさいましたか? 677 01:08:43,596 --> 01:08:46,832 武蔵様 678 01:08:46,832 --> 01:08:52,638 あの不思議な音色も 琵琶の心をのぞいてみますと 679 01:08:52,638 --> 01:08:56,942 何の不思議でもないことが 分かります 680 01:08:56,942 --> 01:08:59,242 それを お目にかけましょう 681 01:09:18,230 --> 01:09:20,230 ん? 682 01:09:25,337 --> 01:09:29,208 ご覧じませ 683 01:09:29,208 --> 01:09:32,178 あの さまざまな音の変化は 684 01:09:32,178 --> 01:09:37,178 この胴の中に渡してある 横木1つで起こるのでございます 685 01:09:40,219 --> 01:09:44,523 なれど この横木とても 686 01:09:44,523 --> 01:09:49,695 ただ頑丈に まっすぐに 胴に張りしめているだけでは 687 01:09:49,695 --> 01:09:53,566 何の曲もございませぬ 688 01:09:53,566 --> 01:09:56,001 変化を生むために 689 01:09:56,001 --> 01:10:01,373 横木には このように わざと 抑揚の波を削りつけ 690 01:10:01,373 --> 01:10:06,973 両端の力を 程よく そぎ取って 緩みをつけてあるのでございます 691 01:10:09,815 --> 01:10:15,921 こうした横木の緩みと締まりとが 程よく加減されて 692 01:10:15,921 --> 01:10:19,421 琵琶の体を 持ち支えているのでございます 693 01:10:22,728 --> 01:10:28,400 私が 粗末ながら この1面の琵琶を砕いて 694 01:10:28,400 --> 01:10:32,271 あなたに 分かっていただきたいと思う点は 695 01:10:32,271 --> 01:10:37,576 つまり 私たち人間の生きていく心構えも 696 01:10:37,576 --> 01:10:40,112 この琵琶と 似たものではなかろうかと 697 01:10:40,112 --> 01:10:42,512 思うことでございます 698 01:10:44,550 --> 01:10:47,019 そのことを ふと 699 01:10:47,019 --> 01:10:51,624 こよいの あなたの身の上に寄せて 考え合わせてみますと 700 01:10:51,624 --> 01:10:54,994 ああ これは危ないお人 701 01:10:54,994 --> 01:11:00,466 ただ 張りしまっているだけで 緩みとては みじんもない 702 01:11:00,466 --> 01:11:06,272 もし こういう琵琶があったとして それへ ばちを当てるとすれば 703 01:11:06,272 --> 01:11:10,142 音の自由とか変化は もとよりなく 704 01:11:10,142 --> 01:11:13,412 無理に弾けば 糸は切れ 705 01:11:13,412 --> 01:11:15,912 胴は裂けてしまうであろうに… 706 01:11:19,551 --> 01:11:25,424 こう 私は 失礼ながら あなたのご様子を見て 707 01:11:25,424 --> 01:11:29,624 ひそかに お案じ申していた わけなのでございます 708 01:11:31,764 --> 01:11:34,300 決して あしざまに申したり 709 01:11:34,300 --> 01:11:37,500 ざれ口を もてあそんだ次第では ありませぬ 710 01:11:40,873 --> 01:11:46,245 どうぞ おこがましい女の取り越し苦労と 711 01:11:46,245 --> 01:11:48,645 お聞き流しくださいまし 712 01:12:15,274 --> 01:12:18,310 光悦らが帰ってから 武蔵一人 扇屋にいるのは確かです 713 01:12:18,310 --> 01:12:21,046 うん そうか よし 714 01:12:21,046 --> 01:12:22,982 出てくるのを待とう うん 715 01:12:22,982 --> 01:12:25,182 裏門を一層 固めるように うん 716 01:12:27,152 --> 01:12:29,755 おい こりゃ えらい果たし合いになりそうやで 717 01:12:29,755 --> 01:12:32,524 そうや 武蔵という侍は 若いけど 718 01:12:32,524 --> 01:12:34,460 ごつい使い手らしいわ うん 719 01:12:34,460 --> 01:12:37,363 何でも 吉岡の伝七郎先生まで 斬ったという話や 720 01:12:37,363 --> 01:12:39,398 こらあ 見ものやで そやなあ 721 01:12:39,398 --> 01:12:42,034 武蔵って 宮本武蔵さんのことかい? 722 01:12:42,034 --> 01:12:45,404 そうや お師匠様だ 723 01:12:45,404 --> 01:12:48,774 おい えらいことになりよったな 724 01:12:48,774 --> 01:12:50,774 けが人が いっぱいやな そうや 725 01:13:15,000 --> 01:13:18,437 あっ お師匠さん 726 01:13:18,437 --> 01:13:21,637 おお 城太郎 727 01:13:26,178 --> 01:13:29,081 ここが よく分かったな 知らねえや 728 01:13:29,081 --> 01:13:32,518 おいらや お通さんをほっといて こんなとこで 何してんだ? 729 01:13:32,518 --> 01:13:37,056 まあ そう怒るな まあ お小僧さん 730 01:13:37,056 --> 01:13:40,526 どこから入ったんどす? 表で断られたから 731 01:13:40,526 --> 01:13:43,462 裏から入ったんだ ああ いけまへん いけまへん 732 01:13:43,462 --> 01:13:46,865 許してやってくれ これは わしの家来だ 733 01:13:46,865 --> 01:13:50,736 まあ かわいらしい ご家来さんですこと 734 01:13:50,736 --> 01:13:53,539 あっ 乾きましてございます 735 01:13:53,539 --> 01:13:56,108 ああ もう 人の血というものは 736 01:13:56,108 --> 01:13:59,678 洗うても なかなか 落ちんものでございますな 737 01:13:59,678 --> 01:14:03,382 ありがとう きれいに落ちましたな 738 01:14:03,382 --> 01:14:07,252 時に 吉野殿は? お昼からのお席で 739 01:14:07,252 --> 01:14:10,856 僅かなお暇もございませぬ 740 01:14:10,856 --> 01:14:13,625 いや 思いがけないお世話になったが 741 01:14:13,625 --> 01:14:18,197 こうしていると 一人 吉野殿へ 気遣いを煩わすばかりでなく 742 01:14:18,197 --> 01:14:21,133 扇屋の内緒へも 迷惑がかさむばかり 743 01:14:21,133 --> 01:14:24,703 こよい 夜更けを待って そっと ここを立ち去りますゆえ 744 01:14:24,703 --> 01:14:26,705 どうぞ そう伝えておいてください 745 01:14:26,705 --> 01:14:30,642 くれぐれも よろしゅうお礼を 分かりましてございます 746 01:14:30,642 --> 01:14:36,315 それから この一重ねと この手紙 本阿弥殿のお宅へ 747 01:14:36,315 --> 01:14:39,585 どなたか届けていただくわけには いくまいか? 748 01:14:39,585 --> 01:14:41,520 おやすいことでございます 749 01:14:41,520 --> 01:14:43,520 では お願いいたす 750 01:15:00,539 --> 01:15:04,042 ただいま 使いの者が帰りましてございます 751 01:15:04,042 --> 01:15:06,945 これは あなた様のお小袖やそうで 752 01:15:06,945 --> 01:15:09,345 ああ それは かたじけない 753 01:15:14,686 --> 01:15:17,089 「折もあらば また会い候わん 754 01:15:17,089 --> 01:15:19,458 長き短き人の世の道 755 01:15:19,458 --> 01:15:23,428 頼み参らすにつけ お身 大事に いそしみたまわれとのみ 756 01:15:23,428 --> 01:15:27,099 よそながら 祈り申されたくこそ候え 757 01:15:27,099 --> 01:15:29,099 光悦」 758 01:15:31,003 --> 01:15:33,939 あっ 本阿弥のお年寄り様からも 759 01:15:33,939 --> 01:15:38,177 くれぐれも よろしゅうとの由にございます 760 01:15:38,177 --> 01:15:41,079 お年寄りというものは いいものだ 761 01:15:41,079 --> 01:15:46,652 自分にも 母があったら… えっ 何ですか? 762 01:15:46,652 --> 01:15:49,888 あっ いや 何でもない さあ 支度だ 763 01:15:49,888 --> 01:15:52,988 じゃあ 発つんですか? そうだ 764 01:16:04,069 --> 01:16:06,138 お客様 765 01:16:06,138 --> 01:16:08,273 ん? 766 01:16:08,273 --> 01:16:10,273 これ 太夫さんから 767 01:16:20,652 --> 01:16:25,224 「ちぎりては 散る 夜々の あだ花の数々よりも 768 01:16:25,224 --> 01:16:30,796 樹の間すぎゆく 月の御影こそ 忘れ得ざらめ 769 01:16:30,796 --> 01:16:35,100 しみじみ語ろういとまもなく 雲間のお別れ 770 01:16:35,100 --> 01:16:40,906 よその杯に嘆けばと 人は笑ひ候わめど 771 01:16:40,906 --> 01:16:44,606 ただ一筆のみを よしの」 772 01:16:48,747 --> 01:16:53,418 お師匠さん それ 誰から来た手紙? 773 01:16:53,418 --> 01:16:56,321 誰からでもよい 女の人? 774 01:16:56,321 --> 01:16:59,992 そんなこと聞かなくてもよい いいにおいがする 775 01:16:59,992 --> 01:17:02,392 きゃらみたいな においだな 776 01:17:10,636 --> 01:17:12,636 行こう 777 01:17:24,182 --> 01:17:27,882 あっ 吉岡の門弟衆だ あっ 武蔵だ 778 01:17:30,088 --> 01:17:32,088 来たぞ! 来たぞ! 779 01:17:36,662 --> 01:17:39,498 お師匠さん 他から出ましょう 780 01:17:39,498 --> 01:17:42,367 お前は知るまいが 夜は 総門以外の口は 781 01:17:42,367 --> 01:17:46,905 みな閉まっているのだ じゃあ 柵を越えて逃げれば? 782 01:17:46,905 --> 01:17:49,808 「逃げた」と言われては 武蔵の恥になる 783 01:17:49,808 --> 01:17:51,877 やはり ここから手を振って出ていこう 784 01:17:51,877 --> 01:17:55,113 怖いよ あんなに たくさんいるんだよ 785 01:17:55,113 --> 01:17:58,784 怖いよ… 786 01:17:58,784 --> 01:18:01,653 そうだな お前は子供だから 787 01:18:01,653 --> 01:18:05,157 何も わしのとおりにする必要はないな 788 01:18:05,157 --> 01:18:07,793 お師匠様が 総門から手を振っていくのに 789 01:18:07,793 --> 01:18:10,993 おいら一人 どっから外へ出ていくの? 790 01:18:13,098 --> 01:18:15,934 来い 逃げる気だな 791 01:18:15,934 --> 01:18:18,737 追え! まあまあ 待て待て 792 01:18:18,737 --> 01:18:21,106 出口は この総門しかないのだ 793 01:18:21,106 --> 01:18:23,606 うっかり飛び込んで 計略があるかもしれん 794 01:18:26,378 --> 01:18:29,381 城太郎 この柵を越えろ 795 01:18:29,381 --> 01:18:31,516 おいらだけ? そうだ 796 01:18:31,516 --> 01:18:33,552 嫌だ! なぜ? 797 01:18:33,552 --> 01:18:37,322 なぜって おいらだって 「ひきょう者」って言われるの嫌だ 798 01:18:37,322 --> 01:18:39,958 誰も お前には そんなこと言いはせぬ 799 01:18:39,958 --> 01:18:44,329 吉岡の相手は このわし一人だ お前の相手ではない 800 01:18:44,329 --> 01:18:48,300 そいじゃあ 外へ出て どこで待てばいいの? 801 01:18:48,300 --> 01:18:52,137 よし 柳馬場だ 802 01:18:52,137 --> 01:18:54,537 きっと来る? 必ず行く 803 01:19:01,546 --> 01:19:04,950 よし 大丈夫だ 804 01:19:04,950 --> 01:19:07,250 肩に乗れ 大丈夫か? 805 01:19:09,788 --> 01:19:11,723 気を付けろ 806 01:19:11,723 --> 01:19:15,360 お師匠さん また おいらに黙って どっか行ったら駄目だぞ 807 01:19:15,360 --> 01:19:19,231 うそは せぬ さあ 人が来ないうち 早く行け 808 01:19:19,231 --> 01:19:22,531 飛べるか? 大丈夫だ 809 01:19:25,437 --> 01:19:28,237 おお あの尺八 810 01:19:30,375 --> 01:19:32,744 城太郎 ちょっと待て 811 01:19:32,744 --> 01:19:36,615 あの尺八の音が聞こえるか? うん 聞こえるよ 812 01:19:36,615 --> 01:19:41,453 すぐ あの尺八を追っかけろ 尺八を追っかけて どうすんの? 813 01:19:41,453 --> 01:19:45,023 会うんだ 会うって 誰に? 814 01:19:45,023 --> 01:19:48,994 尺八の主だ 会えば分かる 会えば分かるって 815 01:19:48,994 --> 01:19:52,764 そいじゃあ お師匠様に いつ どこで会えるの? 816 01:19:52,764 --> 01:19:56,034 城太郎 よく聞け 817 01:19:56,034 --> 01:19:58,937 総門は わしにとっては生死の門だ 818 01:19:58,937 --> 01:20:03,141 今 別れて 生きて再び お前に会えるかどうか 819 01:20:03,141 --> 01:20:05,977 そんなこと おいら やだい!やだい! 820 01:20:05,977 --> 01:20:10,277 嫌でも 武士の習いだ お前は あの尺八の人を追っかけろ 821 01:20:12,284 --> 01:20:17,088 幸い わしに命があったら あの尺八の音を訪ねよう 822 01:20:17,088 --> 01:20:19,991 そうすれば お前に会えるではないか 823 01:20:19,991 --> 01:20:24,091 うん 分かった そうか さあ 824 01:20:27,732 --> 01:20:31,532 そいじゃ お師匠様 待ってるよ よし 825 01:20:44,182 --> 01:20:46,482 武蔵 来た 826 01:21:01,533 --> 01:21:03,533 散れ! 827 01:21:19,017 --> 01:21:23,288 武蔵 改めて言う必要はなかろう 828 01:21:23,288 --> 01:21:26,691 支度は いいか? 支度? 829 01:21:26,691 --> 01:21:29,327 武士の支度は 寝る間にもできておること 830 01:21:29,327 --> 01:21:34,165 いつでも参られい だが ここは総門 831 01:21:34,165 --> 01:21:36,165 人々の迷惑もある 832 01:21:54,185 --> 01:21:58,056 その前に 一言 聞いておきたい 833 01:21:58,056 --> 01:22:03,261 おのおのは この武蔵を暗殺したいか? 834 01:22:03,261 --> 01:22:06,898 正当に討ちたいか? 835 01:22:06,898 --> 01:22:09,801 意趣遺恨で来たか 試合の仕返しで来たか 836 01:22:09,801 --> 01:22:12,704 それを聞こう 言わずと知れたこと! 837 01:22:12,704 --> 01:22:18,076 師の清十郎 敗れ 続いて ご舎弟の伝七郎様 討たれ 838 01:22:18,076 --> 01:22:20,579 何のかんばせあって 我々 吉岡一門の遺弟が 839 01:22:20,579 --> 01:22:24,182 なんじを 無事に生かしておけるか! 840 01:22:24,182 --> 01:22:26,117 不幸 なんじのために 841 01:22:26,117 --> 01:22:29,588 吉岡一門の名は 泥地にまみれたれど 842 01:22:29,588 --> 01:22:35,360 恩顧の遺弟数百 誓って 師のご無念を晴らさいではおかぬ 843 01:22:35,360 --> 01:22:39,230 意趣遺恨のという ろうぜきではない 844 01:22:39,230 --> 01:22:43,501 師のえんを すすぎ奉る弔い合戦だ 845 01:22:43,501 --> 01:22:48,340 武蔵 もう逃がさん 846 01:22:48,340 --> 01:22:52,210 ふびんだが なんじの首は 我々が申し受けたぞ 847 01:22:52,210 --> 01:22:56,548 ほう 武士らしい挨拶を承った 848 01:22:56,548 --> 01:23:01,519 そういう趣意とあれば 武蔵の一命 あるいは 差し上げぬかぎりもない 849 01:23:01,519 --> 01:23:05,290 しかし 師弟の情義を口にし 850 01:23:05,290 --> 01:23:08,693 武道のえんを そそごうという考えならば なぜ 851 01:23:08,693 --> 01:23:11,096 伝七郎殿のごとく 852 01:23:11,096 --> 01:23:14,966 また 清十郎殿のごとく 853 01:23:14,966 --> 01:23:19,204 堂々と この武蔵へ 筋道を立てて 正当な試合に及ばれぬか 854 01:23:19,204 --> 01:23:23,375 言うな! なんじこそ 我々の目をくらまし 855 01:23:23,375 --> 01:23:26,277 他国へ 逃げ延びようとしたではないか 856 01:23:26,277 --> 01:23:30,281 ひきょう者は 人の心事も卑劣に邪推する 857 01:23:30,281 --> 01:23:33,551 武蔵は かくのとおり 逃げも隠れもしておらん! 858 01:23:33,551 --> 01:23:35,551 黙れ! 待て! 859 01:23:39,157 --> 01:23:43,028 わしだ 860 01:23:43,028 --> 01:23:45,930 かような繁華な町中で 861 01:23:45,930 --> 01:23:49,801 ならず者のようなまねは およしなさい 862 01:23:49,801 --> 01:23:51,836 それがしは 863 01:23:51,836 --> 01:23:56,007 吉岡方の味方でもないし なおさら… 864 01:23:56,007 --> 01:24:00,912 武蔵の味方でもない だが 武士であり 剣客である以上 865 01:24:00,912 --> 01:24:04,612 武門のために あえて おのおの方に言う資格がある 866 01:24:07,118 --> 01:24:12,757 武士である おのおのが 秩序を乱すような所業をなせば 867 01:24:12,757 --> 01:24:16,594 武士総体の恥になる 868 01:24:16,594 --> 01:24:20,365 それがしは 武士を代表して双方に言う 869 01:24:20,365 --> 01:24:24,869 よせ ここでは よせ 870 01:24:24,869 --> 01:24:28,373 剣のうえの解決は 剣の作法に従って 871 01:24:28,373 --> 01:24:32,243 改めて 時や場所を選んで なすべきではないのか? 872 01:24:32,243 --> 01:24:34,579 よし 873 01:24:34,579 --> 01:24:38,116 いかにも 道理は そのとおりに違いない 874 01:24:38,116 --> 01:24:42,353 だが 小次郎 その他日まで 875 01:24:42,353 --> 01:24:44,953 武蔵が逃げうせぬと 保証できるか? 876 01:24:46,991 --> 01:24:50,361 武蔵とて この期に及んで まさか 逃げもすまい 877 01:24:50,361 --> 01:24:52,764 もし 姿をくらましたら 878 01:24:52,764 --> 01:24:56,434 京都中に高札を立てて その汚名を さらしてやればよかろう 879 01:24:56,434 --> 01:24:58,770 いや それだけでは承知できぬ 880 01:24:58,770 --> 01:25:01,239 他日の果たし合いまで 881 01:25:01,239 --> 01:25:03,975 御身が武蔵の身を預かると 保証せぬかぎり 882 01:25:03,975 --> 01:25:06,511 よし 待て 883 01:25:06,511 --> 01:25:08,911 武蔵の腹をただしてみよう 884 01:25:14,652 --> 01:25:16,621 どうだ?武蔵 885 01:25:16,621 --> 01:25:19,791 異存はない 886 01:25:19,791 --> 01:25:22,460 しからば 望みの日取りは? 887 01:25:22,460 --> 01:25:24,460 いつなりとも 888 01:25:29,734 --> 01:25:31,734 武蔵は承知した 889 01:25:34,439 --> 01:25:36,439 吉岡方の条件は? 890 01:25:48,953 --> 01:25:53,858 相手方は 明後日の朝 寅の下刻という 891 01:25:53,858 --> 01:25:56,694 心得申した 892 01:25:56,694 --> 01:26:02,500 場所は 叡山道 一乗寺山のふもと 藪之郷 下り松 893 01:26:02,500 --> 01:26:04,500 一乗寺 下り松 894 01:26:06,938 --> 01:26:10,775 よろしい 895 01:26:10,775 --> 01:26:13,778 吉岡方 名目人 896 01:26:13,778 --> 01:26:16,481 清十郎 伝七郎なき後 897 01:26:16,481 --> 01:26:20,084 叔父にあたる壬生源左衛門の一子 源次郎を立てるが 898 01:26:20,084 --> 01:26:23,288 いまだ年端もいかぬ少年ゆえ 899 01:26:23,288 --> 01:26:27,725 門弟 何名かが 介添えとして立ち合いにつく 900 01:26:27,725 --> 01:26:29,725 念のために申しおく 901 01:26:32,063 --> 01:26:34,063 分かった 902 01:26:36,901 --> 01:26:40,338 吉岡方に異存はないな? ない! 903 01:26:40,338 --> 01:26:42,941 よし! 904 01:26:42,941 --> 01:26:44,941 これで決まった 905 01:27:56,547 --> 01:27:59,017 源次郎 はい 906 01:27:59,017 --> 01:28:03,688 今日は 御身にとっては 願ってもない吉日 907 01:28:03,688 --> 01:28:07,488 まず ご先祖様に挨拶するとよい さあ 908 01:28:16,267 --> 01:28:19,467 よしよし そこへ座りなさい 909 01:28:25,610 --> 01:28:29,480 さて 委細は こうだ 910 01:28:29,480 --> 01:28:35,286 いよいよ 吉岡一門の敵 宮本武蔵を あい果たす日が 911 01:28:35,286 --> 01:28:37,755 明日と決まった 912 01:28:37,755 --> 01:28:42,360 ついては 吉岡家の跡目相続人である御身は 913 01:28:42,360 --> 01:28:44,862 吉岡方 名目人として 914 01:28:44,862 --> 01:28:47,598 一乗寺 下り松へ 赴くことにあいなった 915 01:28:47,598 --> 01:28:50,902 まあ… そのような むごい… 916 01:28:50,902 --> 01:28:53,438 はしたない 騒ぐでない! 917 01:28:53,438 --> 01:28:57,642 でも 年端もいかぬ この子に 918 01:28:57,642 --> 01:29:00,979 もしものことが… いや お内儀 919 01:29:00,979 --> 01:29:05,650 ご心配 ご無用でございます 源次郎殿には 920 01:29:05,650 --> 01:29:09,520 我らの中に立っておられれば よいのでござります 921 01:29:09,520 --> 01:29:13,825 味方は お父上をはじめとして 壬生の8剣士 922 01:29:13,825 --> 01:29:17,729 それに 吉岡道場の植田 御池 横川ら 923 01:29:17,729 --> 01:29:22,300 100に余る剛の者が 必殺の剣を抜き連れての 924 01:29:22,300 --> 01:29:25,236 最後の弔い合戦でござります 925 01:29:25,236 --> 01:29:27,972 武蔵に いかほどの助太刀があろうと 926 01:29:27,972 --> 01:29:30,708 少しの心配もいらん 927 01:29:30,708 --> 01:29:32,643 今度という今度こそは 928 01:29:32,643 --> 01:29:36,581 武蔵を首にして 我らの面目を立て 929 01:29:36,581 --> 01:29:40,718 吉岡家の安泰を図らねばならん 930 01:29:40,718 --> 01:29:43,621 源次郎は 勇ましゅう 立ち合いに臨むであろうの? 931 01:29:43,621 --> 01:29:45,556 はい 参ります 932 01:29:45,556 --> 01:29:48,756 うんうん ういやつ ういやつ 933 01:30:01,005 --> 01:30:06,477 えらいことになりましたな 吉岡道場も これで立つか潰れるか 934 01:30:06,477 --> 01:30:08,746 最後の瀬戸際に 立ったっちゅうもんですのう 935 01:30:08,746 --> 01:30:10,681 ほんまやなあ 936 01:30:10,681 --> 01:30:14,552 しかし 相手の武蔵っちゅう男は 一体 どんな男どっしゃろ 937 01:30:14,552 --> 01:30:18,823 何でも 身の丈6尺あまり 鞍馬山のてんぐの再来のような… 938 01:30:18,823 --> 01:30:21,726 そうだっしゃろ 清十郎さんばかりか 939 01:30:21,726 --> 01:30:23,995 伝七郎はんまでが 討たれたんどすからな 940 01:30:23,995 --> 01:30:25,930 それだけに 吉岡方の恨みも 深うおすさかい 941 01:30:25,930 --> 01:30:27,930 今度こそは 寄ってたかって なぶり斬りに遭いますやろう 942 01:31:07,305 --> 01:31:09,273 亭主 遅くなった 943 01:31:09,273 --> 01:31:12,143 ああ おかえりなさいませ 944 01:31:12,143 --> 01:31:14,712 2日も お帰りがなかったんで どうなさったかと 945 01:31:14,712 --> 01:31:16,712 心配しておりました 946 01:31:24,288 --> 01:31:26,824 うん ああ 亭主 はい 947 01:31:26,824 --> 01:31:30,695 鞍馬土産だ 今夜は 山芋汁をさかなに 948 01:31:30,695 --> 01:31:33,531 2人で少し飲みたいが… そりゃあ 結構な 949 01:31:33,531 --> 01:31:36,534 おやじが 腕を振るって こしらえましょう 950 01:31:36,534 --> 01:31:39,737 あっ 亭主 出がけに注文しておいた品は? 951 01:31:39,737 --> 01:31:43,241 はい できております 肌着も 腹巻きも 下ひもも 952 01:31:43,241 --> 01:31:45,641 ちゃんとできております かたじけない 953 01:32:23,047 --> 01:32:26,384 いよいよ最後の弔い合戦だ 954 01:32:26,384 --> 01:32:28,753 こうなった以上 恥も外聞もない 955 01:32:28,753 --> 01:32:31,289 ひきょうと言われようと 何と言われようと 956 01:32:31,289 --> 01:32:36,027 武蔵を たたき殺す以外 我々の生きる道はないのだ 957 01:32:36,027 --> 01:32:38,429 壬生のご老人でさえ かわいいご子息を 958 01:32:38,429 --> 01:32:41,332 名目人に立てられたのだ 959 01:32:41,332 --> 01:32:45,236 1人 1太刀などという功名心は かなぐり捨て 960 01:32:45,236 --> 01:32:49,640 10人 1太刀の必死の戦法で当たる 961 01:32:49,640 --> 01:32:54,440 100人 10太刀 必ず 武蔵をほうることができる 962 01:34:04,448 --> 01:34:06,851 宮本氏 963 01:34:06,851 --> 01:34:08,786 いや 宮本氏 964 01:34:08,786 --> 01:34:11,689 それがしは 殺意があって 参った者ではござらぬ 965 01:34:11,689 --> 01:34:15,893 おお そういう声は 吉岡の門弟衆 966 01:34:15,893 --> 01:34:20,298 いや それがしは もう 吉岡の門弟ではござらぬ 967 01:34:20,298 --> 01:34:24,935 破門の身です 破門? 968 01:34:24,935 --> 01:34:27,238 破門の貴殿が 何用で? 969 01:34:27,238 --> 01:34:31,742 ご無礼ながら ちと お考えを得たいことがある 970 01:34:31,742 --> 01:34:33,678 申されい 971 01:34:33,678 --> 01:34:36,414 では 1つ 972 01:34:36,414 --> 01:34:39,350 貴殿は 何の意趣遺恨あって 973 01:34:39,350 --> 01:34:44,121 かほどまでに 吉岡一門を かたきとなされるのか? 974 01:34:44,121 --> 01:34:47,825 習いです 習い? 975 01:34:47,825 --> 01:34:50,428 武門の習いです 976 01:34:50,428 --> 01:34:54,298 しからば 「武門の習い」という言葉1つで 977 01:34:54,298 --> 01:34:58,302 縁も ゆかりもない多くの命が 失われても かまわぬという訳 978 01:34:58,302 --> 01:35:00,602 その訳を お聞かせ願いたい 979 01:35:03,341 --> 01:35:08,546 今 また 多くの人の命が 失われようとしている 980 01:35:08,546 --> 01:35:12,416 貴殿も また その命を絶とうとしている 981 01:35:12,416 --> 01:35:15,319 何のためです? 982 01:35:15,319 --> 01:35:19,290 なぜ黙っておられる? ひと言 お言葉を得たい 983 01:35:19,290 --> 01:35:22,526 知らん! 知らん? 984 01:35:22,526 --> 01:35:26,364 貴殿 先ほどより へ理屈を並べたて 985 01:35:26,364 --> 01:35:30,234 この武蔵の口から 何を 引き出そうとしていられるのか 986 01:35:30,234 --> 01:35:34,105 その訳を知らぬと申したまで 987 01:35:34,105 --> 01:35:36,040 では 承る 988 01:35:36,040 --> 01:35:38,275 貴殿は その一剣に身を託して 989 01:35:38,275 --> 01:35:41,178 一体 何を 求めようとしておられるのか? 990 01:35:41,178 --> 01:35:46,384 名利か?それとも栄達か? 名利か栄達? 991 01:35:46,384 --> 01:35:50,321 それこそ 拙者から貴殿に お返し申したい言葉! 992 01:35:50,321 --> 01:35:53,824 剣は絶体絶命 あえて言うなら 993 01:35:53,824 --> 01:35:56,794 剣は 常に最高のものを望んでいる 994 01:35:56,794 --> 01:35:59,296 慈悲はない 995 01:35:59,296 --> 01:36:02,199 戦いを よそに見て立っている 人間と これ以上の問答 無用 996 01:36:02,199 --> 01:36:04,999 先が急がれます おどきくだされ 997 01:36:07,037 --> 01:36:09,473 武蔵殿 くどい! 998 01:36:09,473 --> 01:36:12,073 強いて知りたくば この剣に聞かれい! 999 01:37:31,388 --> 01:37:34,058 ああ… 1000 01:37:34,058 --> 01:37:36,327 お通さん 1001 01:37:36,327 --> 01:37:38,327 武蔵様 1002 01:37:54,311 --> 01:37:56,914 お通さん 1003 01:37:56,914 --> 01:37:59,216 どうして ここへ? 1004 01:37:59,216 --> 01:38:03,787 何もかも 知っております 1005 01:38:03,787 --> 01:38:08,387 ここへ来れば あなたに 会えることも知ってきました 1006 01:38:13,497 --> 01:38:16,367 武蔵様 1007 01:38:16,367 --> 01:38:21,505 あなたは これから 一乗寺の跡やらで 1008 01:38:21,505 --> 01:38:23,905 死ぬお覚悟でございましょう 1009 01:38:26,343 --> 01:38:28,343 ああ… 1010 01:38:31,715 --> 01:38:34,915 あなたが斬り死にあそばしたら 1011 01:38:36,921 --> 01:38:40,421 私も 生きてはいないつもりです 1012 01:38:43,027 --> 01:38:46,764 そのせいか もう 1013 01:38:46,764 --> 01:38:53,070 体の悪いことなど忘れたように 何ともございません 1014 01:38:53,070 --> 01:38:55,639 病気? 1015 01:38:55,639 --> 01:38:59,643 そういえば お通さんの体は熱い 1016 01:38:59,643 --> 01:39:04,348 火のように ほてっている 用心せねば 1017 01:39:04,348 --> 01:39:09,820 ええ でも 丈夫な武蔵様でも 1018 01:39:09,820 --> 01:39:12,723 あと いっときの定め 1019 01:39:12,723 --> 01:39:17,328 病気の私など かえって心が決まります 1020 01:39:17,328 --> 01:39:19,263 ばかな! 1021 01:39:19,263 --> 01:39:25,436 わしの死には 剣に生きる人間の本望があるのだ 1022 01:39:25,436 --> 01:39:32,209 いいえ 男のあなたが 喜んで死ねる以上 1023 01:39:32,209 --> 01:39:37,409 女の私にも 死の意味を抱いていかれます 1024 01:39:39,383 --> 01:39:45,823 一時の悲しみに溺れて 死ぬのではございません 1025 01:39:45,823 --> 01:39:48,726 ですから… 1026 01:39:48,726 --> 01:39:54,164 これだけは お通の心に任せてくださいませ 1027 01:39:54,164 --> 01:39:59,470 ああ… 思えば お通さんには 1028 01:39:59,470 --> 01:40:02,906 知らず知らずの間に うそをついてきた 1029 01:40:02,906 --> 01:40:06,543 花田橋のときから 欺く気持ちでなはくても 1030 01:40:06,543 --> 01:40:10,047 形は そうなってきた 1031 01:40:10,047 --> 01:40:12,547 そして 冷たく当たってきた 1032 01:40:14,551 --> 01:40:20,024 お通さん わしは いっとき後に死を控えた体 1033 01:40:20,024 --> 01:40:22,793 今 言う言葉は うそではない 1034 01:40:22,793 --> 01:40:24,728 わしは そなたが好きだ 1035 01:40:24,728 --> 01:40:28,032 一日でも 思わぬ日とてなかったほど 好きだ 1036 01:40:28,032 --> 01:40:30,567 何もかも捨てて そなたと一緒に終わりたいと 1037 01:40:30,567 --> 01:40:33,570 どれほど思い悩んだかもしれない 1038 01:40:33,570 --> 01:40:37,408 ああ… お通さん 1039 01:40:37,408 --> 01:40:41,545 わしは 恋慕と精進の二筋道に足をかけ 1040 01:40:41,545 --> 01:40:46,483 長い間 悩み 悩みながら 1041 01:40:46,483 --> 01:40:50,554 剣の方へ 身を引きずってきた 1042 01:40:50,554 --> 01:40:53,791 恋には死にきれないが 1043 01:40:53,791 --> 01:40:56,427 剣の道には いつ死んでもいい気がする 1044 01:40:56,427 --> 01:41:01,298 お通さん 武蔵という人間は そんな人間なのだ 1045 01:41:01,298 --> 01:41:04,702 知っております そんなことぐらい 1046 01:41:04,702 --> 01:41:08,505 そういう あなたであるくらいのこと 1047 01:41:08,505 --> 01:41:11,909 知らないで… 1048 01:41:11,909 --> 01:41:14,209 恋をしては参りません 1049 01:41:19,516 --> 01:41:24,154 でも あなたは… 1050 01:41:24,154 --> 01:41:26,154 私のような者でも 1051 01:41:28,358 --> 01:41:30,358 心の内だけでも 1052 01:41:33,063 --> 01:41:35,563 妻としてくださるでしょうね? 1053 01:41:37,868 --> 01:41:39,868 お通さん 1054 01:41:59,256 --> 01:42:02,756 お通さん さらばだ 1055 01:42:04,962 --> 01:42:09,366 お通さん 犬死にしてはならないぞ 1056 01:42:09,366 --> 01:42:13,237 滑り落ちていくような 弱い死に方をしてはならないぞ 1057 01:42:13,237 --> 01:42:18,375 わしだって 無駄に命を捨てに 急ぐわけではない 1058 01:42:18,375 --> 01:42:23,347 お通さん もう一度 丈夫な体を取り戻し 1059 01:42:23,347 --> 01:42:27,117 生き残って 長い目で見ていてくれ 1060 01:42:27,117 --> 01:42:30,120 武蔵の体は 土になっても 1061 01:42:30,120 --> 01:42:32,890 武蔵は きっと生きているから! 1062 01:42:32,890 --> 01:42:34,890 ああ… 1063 01:44:30,941 --> 01:44:33,041 来たな 1064 01:44:56,099 --> 01:44:58,735 おい たいまつを ここと ここと ここへ 1065 01:44:58,735 --> 01:45:00,735 はっ はっ 1066 01:45:14,251 --> 01:45:18,655 だいぶ見えん顔があるが この分だと半分かな? 1067 01:45:18,655 --> 01:45:22,960 後から来る 壬生の衆を入れて まあ 70~80人だろう 1068 01:45:22,960 --> 01:45:26,630 それだけ集まれば十分だ 討つ相手は たった1人ではないか 1069 01:45:26,630 --> 01:45:31,201 道が3つに分かれてるので 武蔵が どこから来るか 1070 01:45:31,201 --> 01:45:33,870 それが考えものだ うん 1071 01:45:33,870 --> 01:45:39,009 源次郎様は 13の少年 壬生衆が お守りをするとして 1072 01:45:39,009 --> 01:45:41,809 この下り松が本陣 1073 01:45:56,827 --> 01:45:58,827 ご苦労です 1074 01:46:13,276 --> 01:46:16,480 いやあ そろったな おのおの 1075 01:46:16,480 --> 01:46:18,480 ご苦労さまです うん 1076 01:46:36,900 --> 01:46:39,269 源次郎 はい 1077 01:46:39,269 --> 01:46:43,273 今日の果たし合いは そちは 名目人になっているが 1078 01:46:43,273 --> 01:46:45,742 戦いは 他の門弟衆がやる 1079 01:46:45,742 --> 01:46:50,242 お主は 幼いから じっと ここへ控えておればよい のう 1080 01:46:55,318 --> 01:46:57,354 ああ 立派 立派 1081 01:46:57,354 --> 01:47:02,092 まあ まだ よい まだ ちと早い 1082 01:47:02,092 --> 01:47:05,392 夜明けまでには だいぶ 間があるでな 1083 01:47:09,399 --> 01:47:12,402 誰か 火を貸さぬか ああ ご老台 1084 01:47:12,402 --> 01:47:15,939 たばこもよろしいが その前に 人数の手分けをしておいては? 1085 01:47:15,939 --> 01:47:18,542 おお そのこと そのこと 1086 01:47:18,542 --> 01:47:21,378 備えだてをして敵を待とう 1087 01:47:21,378 --> 01:47:24,281 しかし この人数を どう分けようというのか? 1088 01:47:24,281 --> 01:47:28,481 はっ この下り松を中心に うん 1089 01:47:32,155 --> 01:47:36,860 3方の道へ おのおの 10間ぐらいの距離をおいて 1090 01:47:36,860 --> 01:47:40,130 道の両側に潜ませることにする 1091 01:47:40,130 --> 01:47:43,100 して ここには? 1092 01:47:43,100 --> 01:47:49,339 源次郎様のそばには 拙者 太田黒 御池 横川 長村 1093 01:47:49,339 --> 01:47:54,811 そして ご老台に 壬生8剣士の面々が お守りをする 1094 01:47:54,811 --> 01:47:58,281 3道のいずれからか 武蔵が来たという合図とともに 1095 01:47:58,281 --> 01:48:01,518 すぐ それへ合体して 一挙に彼を葬ってしまう 1096 01:48:01,518 --> 01:48:05,689 おい 待たっしゃい 人数を幾ヵ所にも分割して 1097 01:48:05,689 --> 01:48:09,025 武蔵が どの道から来るか分からぬが 1098 01:48:09,025 --> 01:48:11,895 真っ先に彼にぶつかる人数は およそ 1099 01:48:11,895 --> 01:48:13,964 20名ぐらいにしか あたるまい 1100 01:48:13,964 --> 01:48:16,733 ええ それだけが 一斉に取り巻いておるうちには 1101 01:48:16,733 --> 01:48:20,604 何名かの加勢が集まる 1102 01:48:20,604 --> 01:48:23,507 武蔵の首は 本陣を見ないうちに飛ぶでしょう 1103 01:48:23,507 --> 01:48:28,345 うんうん しかし 武蔵は 希代の逃げ上手ゆえ 1104 01:48:28,345 --> 01:48:32,682 4~5人を斬って引き揚げ 我一人にて勝てりなどと 1105 01:48:32,682 --> 01:48:35,986 世間へ言いふらすかもしれぬ ご老台 1106 01:48:35,986 --> 01:48:38,788 その点 我々にも抜かりはありません 1107 01:48:38,788 --> 01:48:40,788 おい!おい はっ 1108 01:48:44,694 --> 01:48:48,598 やっ 飛び道具 どうです? 1109 01:48:48,598 --> 01:48:50,901 醜いしかたと 世間の口が… 1110 01:48:50,901 --> 01:48:53,136 世評よりは 武蔵の首です 1111 01:48:53,136 --> 01:48:56,139 勝ちさえすれば 死人に口なし 世評は作れます 1112 01:48:56,139 --> 01:49:00,544 敗れたら 真実を言っても 世間は 泣き言としか聞いてくれますまい 1113 01:49:00,544 --> 01:49:04,314 よし そこまで腹を据えてやるなら 異存はない 1114 01:49:04,314 --> 01:49:07,050 では 評議に手間取ってるうちに 不意を突かれてもなるまい 1115 01:49:07,050 --> 01:49:10,487 采配は任せる すぐ配備 配備 はっ 1116 01:49:10,487 --> 01:49:13,387 集まれ! 集まれ! 1117 01:49:15,325 --> 01:49:19,062 かねて申し渡してあるとおり 3道へ潜め 1118 01:49:19,062 --> 01:49:21,062 はっ 1119 01:50:19,923 --> 01:50:22,292 本陣 15人 1120 01:50:22,292 --> 01:50:25,028 白川道 10人 1121 01:50:25,028 --> 01:50:28,498 鳥居道 20人 1122 01:50:28,498 --> 01:50:31,434 京道 15人 1123 01:50:31,434 --> 01:50:33,734 くぬぎ林 10人 1124 01:50:39,042 --> 01:50:41,342 73対1 1125 01:50:49,119 --> 01:50:51,521 あっ あっ あ… 1126 01:50:51,521 --> 01:50:54,424 何じゃ? 震えているのか 臆病者め! 1127 01:50:54,424 --> 01:50:57,060 い… いや 背中に松葉が入ったんです 1128 01:50:57,060 --> 01:50:58,995 何も 怖くなど… 1129 01:50:58,995 --> 01:51:03,566 ああ それなら よいが お主にも よい経験というものだ 1130 01:51:03,566 --> 01:51:07,337 やがて斬り合いが始まるから よく見ておくんだぞ 1131 01:51:07,337 --> 01:51:09,337 座れ 1132 01:51:11,341 --> 01:51:14,177 敵だ! ばか! 1133 01:51:14,177 --> 01:51:16,746 あっ! 怖い! 1134 01:51:16,746 --> 01:51:19,646 来たな 目はないのか? 1135 01:51:22,552 --> 01:51:26,389 戦う前から 目が上がっていると見える 1136 01:51:26,389 --> 01:51:31,261 拙者を 武蔵と間違えるような 浮き腰では 心細いな 1137 01:51:31,261 --> 01:51:34,497 拙者は 今朝の試合の見届け人として来た 1138 01:51:34,497 --> 01:51:37,400 その立会人に 槍を突きつける ばかがあるか 1139 01:51:37,400 --> 01:51:40,303 ばか? 1140 01:51:40,303 --> 01:51:42,706 これは ひどくご立腹だな 1141 01:51:42,706 --> 01:51:47,544 しかし 今朝の試合に 貴公を立会人として誰が頼んだ? 1142 01:51:47,544 --> 01:51:50,544 当吉岡一門としては 頼んだ覚えはない 1143 01:51:52,682 --> 01:51:54,684 それとも 武蔵から お頼みを受けてこられたか? 1144 01:51:54,684 --> 01:51:57,220 黙らっしゃい! 1145 01:51:57,220 --> 01:52:00,924 六条の往来に高札を立てた折 1146 01:52:00,924 --> 01:52:03,793 しかと 双方に 拙者から申しおいたはず 1147 01:52:03,793 --> 01:52:06,096 なるほど あのとき 貴公は 1148 01:52:06,096 --> 01:52:09,366 自分が立会人として 立つとか 立たぬとか 1149 01:52:09,366 --> 01:52:11,634 だが その折 武蔵は 頼むとは言わなかった 1150 01:52:11,634 --> 01:52:15,038 当方でも お願い申すと言った覚えはない! 1151 01:52:15,038 --> 01:52:18,308 要するに 貴公一人が 事好みに 1152 01:52:18,308 --> 01:52:21,945 出る幕でもないところへ 勝手に 役を買って出たのでござろう 1153 01:52:21,945 --> 01:52:23,880 そういうおせっかい者は 世間には よくあるものだて 1154 01:52:23,880 --> 01:52:25,815 言うな! 帰れ! 1155 01:52:25,815 --> 01:52:27,815 見せ物ではない! 1156 01:52:30,954 --> 01:52:33,623 よし 1157 01:52:33,623 --> 01:52:35,623 帰ろう 1158 01:52:38,061 --> 01:52:40,330 これで 拙者も 1159 01:52:40,330 --> 01:52:43,830 公然と貴公たちのお手並みが 拝見できるわけ 1160 01:52:54,611 --> 01:52:56,546 傍観者め! 1161 01:52:56,546 --> 01:53:00,049 方々 思わぬ邪魔者で心が緩んで 1162 01:53:00,049 --> 01:53:02,552 引けを取るようなことが あってはならん 1163 01:53:02,552 --> 01:53:05,052 早く 部署へ戻れ! はっ 1164 01:53:08,124 --> 01:53:10,124 佐々木小次郎… 1165 01:53:17,200 --> 01:53:20,670 誰だ? 1166 01:53:20,670 --> 01:53:23,473 おう そこもとは いつぞや 1167 01:53:23,473 --> 01:53:26,342 毛馬堤でお見かけした 吉岡の門弟衆 1168 01:53:26,342 --> 01:53:29,245 これは また 異な所で… 1169 01:53:29,245 --> 01:53:32,816 さては 戦列を離れて 高見の見物と見えるな 1170 01:53:32,816 --> 01:53:35,652 何と! お気に召さるな 1171 01:53:35,652 --> 01:53:37,720 拙者とて同じこと 1172 01:53:37,720 --> 01:53:40,857 まあ 見ていられい 1173 01:53:40,857 --> 01:53:43,426 今に始まりますぞ 1174 01:53:43,426 --> 01:53:46,026 めったに見られぬものが見られる 1175 01:54:03,446 --> 01:54:06,349 突っ込むのは 今だ 1176 01:54:06,349 --> 01:54:08,649 殺さなければ 殺される 1177 01:54:25,301 --> 01:54:29,105 遅い! 武蔵のやつは まだ 姿を見せぬ 1178 01:54:29,105 --> 01:54:32,742 刻限を とっくに過ぎておる さては 武蔵め 1179 01:54:32,742 --> 01:54:35,645 我々の人数を見て おじけづいたかな 1180 01:54:35,645 --> 01:54:40,917 いや 待たせておいて じらすのは やつの常とう手段 1181 01:54:40,917 --> 01:54:42,917 油断 召さるな うん 1182 01:55:14,851 --> 01:55:16,851 おい 1183 01:55:50,286 --> 01:55:54,786 八幡 命あっての勝負 1184 01:56:28,391 --> 01:56:31,194 約定によって 宮本武蔵 試合に参った! 1185 01:56:31,194 --> 01:56:33,194 いざ! 1186 01:56:38,935 --> 01:56:40,870 怖い! 1187 01:56:40,870 --> 01:56:44,170 子供よ 許せ! 1188 01:56:51,514 --> 01:56:53,449 ご老台! あっ 1189 01:56:53,449 --> 01:56:56,686 武蔵だ! ああっ 鬼め! 1190 01:56:56,686 --> 01:56:59,055 どけ! 1191 01:56:59,055 --> 01:57:01,024 出合え! 1192 01:57:01,024 --> 01:57:03,424 武蔵だ! 武蔵だ 出合え! 1193 01:57:11,134 --> 01:57:13,134 逃がすな! 1194 01:57:26,716 --> 01:57:28,716 畜生 1195 01:57:38,227 --> 01:57:40,227 くそっ! 1196 01:57:49,539 --> 01:57:52,639 逃がすな 追え! 追え! 1197 01:57:55,011 --> 01:57:58,281 逃すな! 追え! 1198 01:57:58,281 --> 01:58:00,281 逃がすな! 1199 01:58:03,119 --> 01:58:05,119 無駄だ 1200 01:58:07,356 --> 01:58:11,856 武蔵の剣を倒せるのは 俺以外にない 1201 01:58:25,842 --> 01:58:27,977 逃がすな! 1202 01:58:27,977 --> 01:58:29,977 待て! 待て 武蔵! 1203 01:58:37,653 --> 01:58:39,653 逃がすな! 1204 01:58:53,436 --> 01:58:55,371 待て! 1205 01:58:55,371 --> 01:58:58,040 待て! 待て! 1206 01:58:58,040 --> 01:59:01,043 待て!逃げるか 武蔵! おお! 1207 01:59:01,043 --> 01:59:03,846 武蔵 貴様の剣を見たぞ ひきょう者! 1208 01:59:03,846 --> 01:59:05,815 ひきょうではない そこを どけ! 1209 01:59:05,815 --> 01:59:09,786 どかぬ!貴様の剣は地獄だ あまりと言えば無慈悲な剣 1210 01:59:09,786 --> 01:59:12,155 たたき折ってやる! おお 林 1211 01:59:12,155 --> 01:59:14,155 この剣 受けてみよ! 1212 01:59:16,125 --> 01:59:18,261 待て! 待て! 1213 01:59:18,261 --> 01:59:20,696 待て! 1214 01:59:20,696 --> 01:59:24,700 待て! 待て! 1215 01:59:24,700 --> 01:59:26,936 待て! 待て! 1216 01:59:26,936 --> 01:59:31,140 来るな! 待て! 1217 01:59:31,140 --> 01:59:33,440 待て! 待て! 1218 01:59:35,511 --> 01:59:37,511 待て! 待て! 1219 01:59:43,619 --> 01:59:47,089 ああっ 1220 01:59:47,089 --> 01:59:50,092 寄るな! 逃がすか! 1221 01:59:50,092 --> 01:59:52,092 寄るな! 1222 01:59:59,769 --> 02:00:02,969 たたき折るまで 逃すか! 寄るな!寄るな! 1223 02:00:05,308 --> 02:00:07,643 寄るな! 1224 02:00:07,643 --> 02:00:10,479 寄るな!寄るでない! 1225 02:00:10,479 --> 02:00:13,779 待て!待て! 寄るなと言うに 1226 02:00:18,221 --> 02:00:20,521 覚悟! 寄るな! 1227 02:00:30,800 --> 02:00:35,638 ああっ ああっ! 1228 02:00:35,638 --> 02:00:38,038 武蔵 待て! 1229 02:00:47,183 --> 02:00:50,683 ああっ 武蔵 1230 02:00:56,592 --> 02:00:58,892 武蔵 待て! 1231 02:02:45,968 --> 02:02:49,168 宮本の武蔵とは そこもとのことか? 1232 02:02:51,807 --> 02:02:56,612 中堂延暦寺の衆判により 申し渡す 1233 02:02:56,612 --> 02:03:00,116 叡山は 浄地たり 霊域たり 1234 02:03:00,116 --> 02:03:03,386 怨恨を負うて 逃避する者の潜伏を許さず 1235 02:03:03,386 --> 02:03:07,723 いわんや ふてい闘争のやからをや 1236 02:03:07,723 --> 02:03:10,960 ただいま 当無動寺へも申しおいたが 1237 02:03:10,960 --> 02:03:14,697 即刻 当山より退去あるべし 1238 02:03:14,697 --> 02:03:16,999 違背があるによりては 1239 02:03:16,999 --> 02:03:21,470 山門の厳則に照らし 断固 処罰申そうぞ! 1240 02:03:21,470 --> 02:03:25,207 さよう心得られい 1241 02:03:25,207 --> 02:03:28,110 仰せの趣は承知いたしました 1242 02:03:28,110 --> 02:03:32,314 しかし これは 何か 司直のお指図でござろうか? 1243 02:03:32,314 --> 02:03:35,551 それとも 当山の役寮の沙汰であろうか? 1244 02:03:35,551 --> 02:03:37,887 先に 無動寺よりの届けには 1245 02:03:37,887 --> 02:03:40,790 「滞在のこと 苦しからず」と お許しあったものを 1246 02:03:40,790 --> 02:03:44,226 にわかな ご厳命 1247 02:03:44,226 --> 02:03:46,162 甚だ その意を得ぬが 1248 02:03:46,162 --> 02:03:49,865 おう そう聞くならば 言ってつかわそう 1249 02:03:49,865 --> 02:03:52,168 役寮においては 最初 1250 02:03:52,168 --> 02:03:57,540 下り松にて 吉岡方大勢を ただ1名で相手した侍と 1251 02:03:57,540 --> 02:04:01,510 お手前に 満こうの好意を もっていたのであるが 1252 02:04:01,510 --> 02:04:05,014 その後 いろいろと悪評が伝わり 1253 02:04:05,014 --> 02:04:09,919 御山に かくまい置くべからず との衆議になったからじゃ 1254 02:04:09,919 --> 02:04:11,919 悪評? 1255 02:04:19,862 --> 02:04:22,298 分かりました 1256 02:04:22,298 --> 02:04:25,167 明朝は 必ず立ち退きまする 1257 02:04:25,167 --> 02:04:28,804 見よ!外道! 羅刹め! 1258 02:04:28,804 --> 02:04:32,441 悪魔! 鬼! 1259 02:04:32,441 --> 02:04:36,345 役寮の命とあるゆえ 神妙に 仰せ事を受け申しておるに 1260 02:04:36,345 --> 02:04:40,182 口汚いばりは 心得申さぬ! 1261 02:04:40,182 --> 02:04:44,053 わざと それがしに けんかでも売ろうと召さるか? 1262 02:04:44,053 --> 02:04:47,823 御仏に仕える我々 けんかなど売る気はないが 1263 02:04:47,823 --> 02:04:51,093 自ら喉を破って 今のような言葉が 出てしまったのだ! 1264 02:04:51,093 --> 02:04:55,364 天の声だ! 人をもって言わしめたのだ! 1265 02:04:55,364 --> 02:04:59,235 人をして言わしめる と言われたな? 1266 02:04:59,235 --> 02:05:02,571 天の声と言われたな? そうだ! 1267 02:05:02,571 --> 02:05:05,141 そのようなこと 言われる覚えはない! 1268 02:05:05,141 --> 02:05:09,612 俺は正しい 俺は寸ごうも あの試合において 卑劣はしてない 1269 02:05:09,612 --> 02:05:12,848 武士の道に従って 堂々と戦ったまで 1270 02:05:12,848 --> 02:05:16,719 天地に恥じるところはない! ならば 聞く 1271 02:05:16,719 --> 02:05:20,589 何が故に 子供まで斬ったか? 1272 02:05:20,589 --> 02:05:23,425 あの源次郎と呼ぶ幼少を 1273 02:05:23,425 --> 02:05:25,825 無残にも斬り伏せたか? 1274 02:05:27,763 --> 02:05:32,601 外道 羅刹の名をもってしても 1275 02:05:32,601 --> 02:05:36,138 まだ言い足らぬ気がするわ 1276 02:05:36,138 --> 02:05:39,138 それでも お主は人間か? 1277 02:05:48,417 --> 02:05:50,886 叡山は なんじを追う! 1278 02:05:50,886 --> 02:05:55,086 一刻も早く この御山を出てうせい! 1279 02:06:26,689 --> 02:06:29,592 たとえ 子供でも… 1280 02:06:29,592 --> 02:06:33,162 敵の名目人であるからには それは 大将だ 1281 02:06:33,162 --> 02:06:35,231 三軍の旗だ 1282 02:06:35,231 --> 02:06:39,335 なぜ それを斬って悪いか! 1283 02:06:39,335 --> 02:06:42,071 いたいけない子供を 名目人に立てることこそ 1284 02:06:42,071 --> 02:06:45,874 責められるべきではないか 1285 02:06:45,874 --> 02:06:51,174 敵の象徴を斬らずして 武蔵の勝利はなかったのだ! 1286 02:06:56,051 --> 02:06:58,454 我… 1287 02:06:58,454 --> 02:07:01,154 事において 後悔せず!