1 00:02:06,018 --> 00:02:12,024 ≪(石を彫る音) 2 00:02:12,024 --> 00:02:15,027 (マルクス)まったく たまったもんじゃねえよ。 3 00:02:15,027 --> 00:02:18,030 こいつが ナイル川で 溺れ死んじまったおかげで→ 4 00:02:18,030 --> 00:02:21,033 こっちは 休む間もねえ。 (ルシウス)しかたあるまい。 5 00:02:21,033 --> 00:02:24,036 ハドリアヌス帝は 自分が愛した このアンティノーを→ 6 00:02:24,036 --> 00:02:26,038 帝国中に置いておきたいのさ。 7 00:02:26,038 --> 00:02:28,040 ここで 少し解説すると→ 8 00:02:28,040 --> 00:02:32,044 ハドリアヌスは 五賢帝の一人で 有能な人物だったのですが→ 9 00:02:32,044 --> 00:02:37,049 自分の愛した男 アンティノーが 溺れ死んだのを 嘆き悲しみ→ 10 00:02:37,049 --> 00:02:40,052 帝国中に 彼の石像を ぶっ建ててしまい→ 11 00:02:40,052 --> 00:02:42,054 すこぶる 評判を落としました。 12 00:02:42,054 --> 00:02:44,056 しかも アンティノーは 男。 13 00:02:44,056 --> 00:02:48,060 当時 ローマにおいて 男色趣味は 「ギリシャ的だ」と言われ→ 14 00:02:48,060 --> 00:02:50,062 バカにされていたの。 15 00:02:50,062 --> 00:02:52,064 まっ 男にしちゃ べっぴんだし→ 16 00:02:52,064 --> 00:02:56,068 ハドリアヌスさまが ムラッときたのも 分からなくもねえけどな。 17 00:02:56,068 --> 00:03:01,090 (師匠)マルクスよ 今日も悪いがよ浴場に連れていってくれんかね。 18 00:03:01,090 --> 00:03:05,010 ああ いいですよ。 ちょっと待っててくださいね。 19 00:03:05,010 --> 00:03:10,015 ハァ あんな よれよれになっても 風呂にだけは 行きたがる。 20 00:03:10,015 --> 00:03:12,017 めんどくせえったらねえよ。 21 00:03:12,017 --> 00:03:16,021 でも お前の大切な師匠だろ。 そんなこと言って いいのか? 22 00:03:16,021 --> 00:03:19,021 まあ そうなんだけどな。 23 00:05:12,037 --> 00:05:16,041 ≪(師匠)ああ… 湯に漬かるのは 至上の喜びじゃわい。 24 00:05:16,041 --> 00:05:19,044 骨の芯まで 染み入るのぉ。 25 00:05:19,044 --> 00:05:22,047 ああ… でも いちいち ここまで来んでも→ 26 00:05:22,047 --> 00:05:25,050 家に風呂があったら 楽じゃろうに。 27 00:05:25,050 --> 00:05:28,053 師匠 何 ぜいたく言ってるんですか。 28 00:05:28,053 --> 00:05:31,056 家に風呂なんて 金持ちか 貴族さまにしか→ 29 00:05:31,056 --> 00:05:34,059 かなわねえことっすよ。 (師匠)だって よれよれになっても→ 30 00:05:34,059 --> 00:05:36,061 風呂だけは 毎日 行きたがりやがって→ 31 00:05:36,061 --> 00:05:38,063 めんどくさいったらねえとか→ 32 00:05:38,063 --> 00:05:40,065 絶対 思ってんだろ! 33 00:05:40,065 --> 00:05:42,067 何で そんなに ネガティブなんですか? 34 00:05:42,067 --> 00:05:44,069 《家の敷地に 風呂か》 35 00:05:44,069 --> 00:05:46,071 《決して 不可能ではなさそうだが…》 36 00:05:46,071 --> 00:05:49,074 (師匠)やっぱ 思ってる! (マルクス)思ってませんって! 37 00:05:49,074 --> 00:05:54,079 フン! あれ? わしのストリジルが ない。 38 00:05:54,079 --> 00:05:57,082 金属性の あかすりべら ストリジル。 39 00:05:57,082 --> 00:06:00,085 当時は これを使って オリーブオイルを 体に塗り→ 40 00:06:00,085 --> 00:06:06,091 その上に 砂を 軽く まぶして あかを すり落としていたの。 41 00:06:06,091 --> 00:06:09,094 あっ あそこに。 私が 取ってきましょう。 42 00:06:09,094 --> 00:06:12,030 あっ ルシウス。 43 00:06:12,030 --> 00:06:16,034 《数百年たつのに まったく 進化しない 原始的な代物》 44 00:06:16,034 --> 00:06:18,036 《今の時代 もっと使いやすい あかすりが→ 45 00:06:18,036 --> 00:06:20,038 考案されても いいはずなのだが…》 46 00:06:20,038 --> 00:06:22,040 ≪(物音) 47 00:06:22,040 --> 00:06:24,042 《ん? 何だ? これは》 48 00:06:24,042 --> 00:06:26,044 《水面が 何かに覆われている》 49 00:06:26,044 --> 00:06:29,047 《ん? マルクス… これは マルクスのいたずらか?》 50 00:06:29,047 --> 00:06:33,047 《何てことを! これでは 息が持たないぞ》 51 00:06:41,059 --> 00:06:46,064 何のまねだ! マルクス! ん? マル… クス? 52 00:06:46,064 --> 00:06:48,064 ≪(物音) 53 00:06:55,073 --> 00:06:57,073 何!? 54 00:06:59,077 --> 00:07:02,080 《もしかして またもや あの世界なのか?》 55 00:07:02,080 --> 00:07:05,083 《そして 私が漬かっている この貯水槽は 何なのだ!》 56 00:07:05,083 --> 00:07:07,085 《湯の入った 棺?》 57 00:07:07,085 --> 00:07:10,105 《いや 確かに 棺のようだが 湯の温度から 察すると→ 58 00:07:10,105 --> 00:07:13,025 入浴用の浴槽ということも 考えられる》 59 00:07:13,025 --> 00:07:16,028 《もし これが浴槽だとしたら…》 60 00:07:16,028 --> 00:07:18,030 《こんな 墓のような スペースしかなくても→ 61 00:07:18,030 --> 00:07:22,034 湯を欲するなんて ものすごい執念を感じるなあ》 62 00:07:22,034 --> 00:07:26,038 《この次元へ来るたびに出合う 文明的な物の数々》 63 00:07:26,038 --> 00:07:30,042 《できることなら こういった 意味不明な物を全て集めて→ 64 00:07:30,042 --> 00:07:32,044 ローマに持ち帰りたい!》 65 00:07:32,044 --> 00:07:34,046 《一見 バカげた 形状をしていても→ 66 00:07:34,046 --> 00:07:37,049 どこかに とんでもない要素を 備えているに違いないのだ》 67 00:07:37,049 --> 00:07:39,051 うっ! 68 00:07:39,051 --> 00:07:42,054 《またしても ローマ人としての プライドが揺らぐ!》 69 00:07:42,054 --> 00:07:45,057 《浴槽の表面を覆っていた これなんかにしても…》 70 00:07:45,057 --> 00:07:47,059 《要するに これは→ 71 00:07:47,059 --> 00:07:50,062 湯の熱を 外に逃さないための 用途をなしているのではないか》 72 00:07:50,062 --> 00:07:54,066 《こうやって ふたを閉めておけば湯の温度は 下がりにくくなる》 73 00:07:54,066 --> 00:07:58,070 《文明大国である ローマで 今まで 誰か一人でもいい→ 74 00:07:58,070 --> 00:08:01,073 こんな方法を考えついた人間が いたであろうか》 75 00:08:01,073 --> 00:08:05,077 《自分は 浴場の技師として 全ての知恵と努力を→ 76 00:08:05,077 --> 00:08:07,079 そそいできたと思っていたが→ 77 00:08:07,079 --> 00:08:10,079 それは 愚かな自負に すぎなかったわけだ!》 78 00:08:12,017 --> 00:08:16,021 わっ! 何じゃ? 今日のヘルパーさん→ 79 00:08:16,021 --> 00:08:18,023 外人さんですか? 80 00:08:18,023 --> 00:08:20,025 あっ! 81 00:08:20,025 --> 00:08:24,029 ヘヘッ 危うく 滑って 転びそうじゃった。 82 00:08:24,029 --> 00:08:29,034 《やはり また 平たい顔族の国。 かなりの高齢者のようだが…》 83 00:08:29,034 --> 00:08:34,039 《どうやら この棺型風呂の 持ち主らしいな》 84 00:08:34,039 --> 00:08:38,043 《それにしても マルクスの師匠にも これくらいの風呂があれば→ 85 00:08:38,043 --> 00:08:40,045 十分ではないのか?》 86 00:08:40,045 --> 00:08:44,049 じゃあねえ 背中をねえ 流してもらおうかな。 87 00:08:44,049 --> 00:08:47,052 えっ? えっ? 分かんない? 88 00:08:47,052 --> 00:08:54,059 これは あかをするための布で。 こんな感じにさぁ。 89 00:08:54,059 --> 00:08:59,064 《おお! もしや これは あかをするための布》 90 00:08:59,064 --> 00:09:03,068 いやぁ ヘルパーさんも 大変だなぁ。 91 00:09:03,068 --> 00:09:07,072 国の家族に 仕送りせにゃいけんのでしょう? 92 00:09:07,072 --> 00:09:09,072 ほれ。 93 00:09:15,013 --> 00:09:18,016 《じゃんじゃん出る! 油を塗ったわけでもないのに→ 94 00:09:18,016 --> 00:09:22,020 布切れ一枚で 乾いた老人の肌からこんなに老廃物が!》 95 00:09:22,020 --> 00:09:26,024 《何なのだ? この布は。 この布は いったい 何なのだ!?》 96 00:09:26,024 --> 00:09:33,031 うわっ! ああ 痛っ! ああ 痛っ! すり過ぎ すり過ぎ! 97 00:09:33,031 --> 00:09:36,034 《この布 いったい 何の繊維で できているんだ?》 98 00:09:36,034 --> 00:09:44,042 OK。 ヘヘヘ…。 じゃあ 次は 頭 洗うからのう。 99 00:09:44,042 --> 00:09:47,045 わしゃあ サンプーが 目に染みるでのう。 100 00:09:47,045 --> 00:09:50,048 このサンプーハットを 使っております。 101 00:09:50,048 --> 00:09:52,050 ん? ヘルパーさん。 102 00:09:52,050 --> 00:09:55,053 サンプーハットを知らんですか? 103 00:09:55,053 --> 00:09:57,055 こ… これは! 104 00:09:57,055 --> 00:09:59,057 か… 冠! 105 00:09:59,057 --> 00:10:03,057 《この老人 この種族の族長なのか!?》 106 00:10:05,063 --> 00:10:10,085 …で こうやって洗って。 これで 流してのう。 107 00:10:10,085 --> 00:10:15,006 ほれ! 顔は ちっとも ぬれとらんじゃろ! 108 00:10:15,006 --> 00:10:20,011 《軍事力で農地を広げることは 簡単だ。 しかし 文明は…》 109 00:10:20,011 --> 00:10:24,015 《文明は そうは いかぬ》 110 00:10:24,015 --> 00:10:27,018 なあ なあ なあ。 どうしたんじゃい ヘルパーさん。 111 00:10:27,018 --> 00:10:32,023 のぼせたのかい? 今 飲み物を持ってくるじゃの。 112 00:10:32,023 --> 00:10:34,025 ちょっと待ってな。 113 00:10:34,025 --> 00:10:38,029 《ああ… この世界へ来るたびに 感じさせられる→ 114 00:10:38,029 --> 00:10:40,031 とてつもない 敗北感》 115 00:10:40,031 --> 00:10:44,035 《泣き寝入りなどしている 場合ではないことも分かっている》 116 00:10:44,035 --> 00:10:48,039 ほれ ほれ ほい。 すっきりする飲み物 持ってきたで。 117 00:10:48,039 --> 00:10:53,039 まあ まあ… くいっと。 そう! くいっとね。 118 00:10:56,047 --> 00:11:02,053 ぐわーっ! きゅーっときた! ハハハハッ! 119 00:11:02,053 --> 00:11:06,057 どうだい? え? それで 少しは元気になったかい? 120 00:11:06,057 --> 00:11:08,059 《しかし 何者なのだ? この者たち》 121 00:11:08,059 --> 00:11:10,028 《もし ローマが この国を 属州にしたら→ 122 00:11:10,028 --> 00:11:12,898 われわれのような人間の仕事は→ 123 00:11:12,898 --> 00:11:15,901 間違いなく 彼らに取って代わられるだろう》 124 00:11:15,901 --> 00:11:19,905 《快楽追求の熟練度は ローマ人の比ではない》 125 00:11:19,905 --> 00:11:23,909 《くそっ!》 ハハハ… いいね いいね! 126 00:11:23,909 --> 00:11:26,912 《何とかしなくては… 何とか…》 127 00:11:26,912 --> 00:11:28,912 あ… あれ? 128 00:11:31,917 --> 00:11:34,920 はっ! (マルクス)ルシウス 気が付いたか! 129 00:11:34,920 --> 00:11:37,923 ああ よかった! よかった~! 130 00:11:37,923 --> 00:11:39,925 ルシウス。 何 持ってんだ? それ。 131 00:11:39,925 --> 00:11:41,927 え? 132 00:11:41,927 --> 00:11:43,929 あかすり。 133 00:11:43,929 --> 00:11:46,932 おい マルクス。 師匠の風呂をつくるぞ。 134 00:11:46,932 --> 00:11:48,932 何だって? 135 00:11:51,937 --> 00:11:55,941 (使者)おい! マルクス。 マルクス・ピエトロス。 136 00:11:55,941 --> 00:11:57,943 (マルクス)あっ へいへい。 137 00:11:57,943 --> 00:12:00,946 (使者)貴様が手にしているのは 石を彫る のみではなく→ 138 00:12:00,946 --> 00:12:05,951 丸く切られた皮と はさみ。 皇帝のために依頼されていた→ 139 00:12:05,951 --> 00:12:08,954 アンティノーさまの 石像造りは どうした? 140 00:12:08,954 --> 00:12:12,991 造りましたよ。 ほら。 約束どおり 20体。 141 00:12:12,991 --> 00:12:16,995 (使者)何? 本当に 20体 あるのだな? 142 00:12:16,995 --> 00:12:18,997 ≪(師匠)ハハハハハッ! 143 00:12:18,997 --> 00:12:23,001 ハハハ…! (使者)な… 何だ? あれは! 144 00:12:23,001 --> 00:12:27,005 風呂っすよ。 家庭用 簡易風呂。 145 00:12:27,005 --> 00:12:30,008 友人の浴場設計技師が つくったんすよ。→ 146 00:12:30,008 --> 00:12:34,012 牛の腸の先っぽに いっぱい 穴を開けたやつから出てくる→ 147 00:12:34,012 --> 00:12:36,014 雨みたいな湯で洗い流す。 148 00:12:36,014 --> 00:12:38,016 …で あの 頭に かぶってるやつがあれば→ 149 00:12:38,016 --> 00:12:41,019 せっけんも 水も 顔に掛からないんですよ。 150 00:12:41,019 --> 00:12:47,019 こ… これは 絶対 皇帝陛下に お知らせしなくては! 151 00:12:51,029 --> 00:12:55,033 (ハドリアヌス)いったん ローマに 戻る準備をさせろ。 152 00:12:55,033 --> 00:12:56,701 はっ。 153 00:12:56,701 --> 00:12:59,704 ローマで どうしても 会わねばならぬ人物がおるようだ。 154 00:12:59,704 --> 00:13:01,373 (家臣)ははっ! 155 00:13:01,373 --> 00:13:11,373 ♪♪~ 156 00:16:20,038 --> 00:16:22,040 (百人隊長)ルシウス技師! 157 00:16:22,040 --> 00:16:26,044 いつまで待たせるのだ! 約束の時間は過ぎているのだぞ! 158 00:16:26,044 --> 00:16:29,047 そんなことを言っても おなかの調子が悪いのだ! 159 00:16:29,047 --> 00:16:31,049 急げることと 急げないことがあるだろう! 160 00:16:31,049 --> 00:16:35,053 ああ もう! ん~。 (おなかの下る音) 161 00:16:35,053 --> 00:16:37,055 《さすが 皇帝陛下》 162 00:16:37,055 --> 00:16:40,058 尻を拭く海綿の棒までが 最高級品。 163 00:16:40,058 --> 00:16:43,061 陛下には これで尻を拭くための 奴隷までいるのだろうか。 164 00:16:43,061 --> 00:16:46,064 ≪(百人隊長)まだか ルシウス! 165 00:16:46,064 --> 00:16:48,066 皇帝は 時間に正確な お方だ。 166 00:16:48,066 --> 00:16:52,070 これ以上 腹の具合が悪くなっても我慢してもらわねばならぬぞ。 167 00:16:52,070 --> 00:16:57,075 そんなことは分かっている。 よし。 では 中へ。 168 00:16:57,075 --> 00:17:00,078 《それにしても 相手は皇帝陛下なのだ》 169 00:17:00,078 --> 00:17:04,082 《誰だって 緊張で おなかくらい痛くなるであろう》 170 00:17:04,082 --> 00:17:06,084 (衛兵たち)百人隊長殿! 171 00:17:06,084 --> 00:17:09,087 《何だ これは!》 172 00:17:09,087 --> 00:17:11,089 《別荘というより 一つの街ではないか》 173 00:17:11,089 --> 00:17:13,091 《設計は ハドリアヌス帝が→ 174 00:17:13,091 --> 00:17:15,093 全て 一人でやったと聞いていたが》 175 00:17:15,093 --> 00:17:17,111 テルマエまであるのか! 176 00:17:17,111 --> 00:17:19,030 何をしている! 早く! 177 00:17:19,030 --> 00:17:21,032 そんな方が 私みたいな一介の技師に→ 178 00:17:21,032 --> 00:17:23,034 いったい 何の用が。 (おなかの下る音) 179 00:17:23,034 --> 00:17:25,034 うっ…。 また おなかが。 180 00:17:41,052 --> 00:17:44,055 遅かったではないか! 皇帝が お待ちかねだぞ。 181 00:17:44,055 --> 00:17:48,059 ここから先は ルシウス技師 そなた 一人で行かねばならん。 182 00:17:48,059 --> 00:17:50,061 一人で! 私が? 183 00:17:50,061 --> 00:17:52,063 この扉より先は→ 184 00:17:52,063 --> 00:17:54,065 皇帝陛下が お一人で過ごされるために→ 185 00:17:54,065 --> 00:17:58,069 お造りになられた場所。 指定の者以外は入れぬのだ! 186 00:17:58,069 --> 00:18:01,072 で… でも いくら何でも 私一人というのは。 187 00:18:01,072 --> 00:18:04,075 皇帝が お怒りになる前に さっさと行かんか! 188 00:18:04,075 --> 00:18:07,078 うわー! 189 00:18:07,078 --> 00:18:09,080 無謀な…。 190 00:18:09,080 --> 00:18:12,083 しかし 何とも不思議な部屋だ。 191 00:18:12,083 --> 00:18:16,087 従来の ローマの建築概念には なかった形。 192 00:18:16,087 --> 00:18:18,022 (ハドリアヌス)ずいぶんと→ 193 00:18:18,022 --> 00:18:21,025 奇怪なものを見るような 目つきではないか。 194 00:18:21,025 --> 00:18:24,028 ハッ… ハドリアヌス帝! 195 00:18:24,028 --> 00:18:28,032 そなたが 浴場技師の ルシウスか? 196 00:18:28,032 --> 00:18:33,037 はっ。 いかにも私が ルシウス・モデストゥスでございます。 197 00:18:33,037 --> 00:18:39,043 私のつくる建造物は奇抜だ何だと 散々 言われておるが→ 198 00:18:39,043 --> 00:18:43,047 そなたも ずいぶんと おかしな 浴場をつくるらしいではないか。 199 00:18:43,047 --> 00:18:45,049 いいえ。 謙遜しなくともよい。 200 00:18:45,049 --> 00:18:48,052 ルシウス技師 そなたなら→ 201 00:18:48,052 --> 00:18:53,057 この空間に どのような 浴場をつくろうと思うかね? 202 00:18:53,057 --> 00:18:55,059 ここに浴場でございますか? 203 00:18:55,059 --> 00:18:57,061 (ハドリアヌス)そなたは狭い中庭に→ 204 00:18:57,061 --> 00:19:01,132 機能的な浴室をつくったと 聞いたぞ。 205 00:19:01,132 --> 00:19:04,068 いや あれは ホントに簡単で 粗末なものでして…。 206 00:19:04,068 --> 00:19:06,070 私には 何年かけても→ 207 00:19:06,070 --> 00:19:09,073 その粗末なものですら 考え出せなかったのだ。 208 00:19:09,073 --> 00:19:12,076 いや しかし 陛下には アポロドロスという→ 209 00:19:12,076 --> 00:19:15,079 優れた建築家が おられるではないですか? 210 00:19:15,079 --> 00:19:18,016 (ハドリアヌス)アポロドロスなら もう おらぬ。えっ!? 211 00:19:18,016 --> 00:19:22,020 あんな古い発想しかできぬ者など お払い箱だ。 212 00:19:22,020 --> 00:19:24,022 《あの天下の建築家 アポロドロスさえ→ 213 00:19:24,022 --> 00:19:27,025 この皇帝を 満足させることができなかった》 214 00:19:27,025 --> 00:19:30,028 (おなかの下る音) ああ…。 また おなかが。 215 00:19:30,028 --> 00:19:33,031 ハドリアヌスさま この仕事 やっぱり 私には…。 216 00:19:33,031 --> 00:19:39,037 私は1カ月後 イエルサレムに 向かわねばならん。 217 00:19:39,037 --> 00:19:43,041 どうも そこには 私の求める→ 218 00:19:43,041 --> 00:19:46,044 平和に反発する者たちが おるらしくてな。 219 00:19:46,044 --> 00:19:50,048 それまで なすべきことを→ 220 00:19:50,048 --> 00:19:53,051 風呂に入って じっくり考えたいのだ。→ 221 00:19:53,051 --> 00:19:58,056 ローマの平和を担う ローマ人として→ 222 00:19:58,056 --> 00:20:04,062 そなたの若くて 斬新な感覚 力を貸してはくれまいか。 223 00:20:04,062 --> 00:20:09,067 「ローマの平和を担う ローマ人として」!? 224 00:20:09,067 --> 00:20:13,071 分かりました! お引き受けしましょう! 225 00:20:13,071 --> 00:20:17,071 《とは言ったものの どうしたものか…》 226 00:20:24,015 --> 00:20:27,018 (山口)えー! 私一人で接客ですか!? 227 00:20:27,018 --> 00:20:31,022 緊急の呼び出しなんだよ。 だから 何とか頼むよ。 228 00:20:31,022 --> 00:20:34,025 (山口)でも 外国からの お客さまなんて→ 229 00:20:34,025 --> 00:20:37,028 私も英語できないし。 (副部長)大丈夫 まみちゃん。 230 00:20:37,028 --> 00:20:40,031 そのイタリア人も 英語できないから。 (山口)えー! 231 00:20:40,031 --> 00:20:43,034 まあ 向こうも 水回り関係みたいだから→ 232 00:20:43,034 --> 00:20:45,036 何とかなるでしょう。 (山口)でも…。 233 00:20:45,036 --> 00:20:48,039 うん。 じゃあ よろしく頼むよ。 (副部長)部長 急ぎましょう。 234 00:20:48,039 --> 00:20:52,043 あっ… あっ 部長。 ああ。 あっ。 235 00:20:52,043 --> 00:20:54,045 (山口)《どうしよう?》→ 236 00:20:54,045 --> 00:20:56,047 《でも 時間にルーズな イタリア人だし→ 237 00:20:56,047 --> 00:20:58,049 遅れてくるかもしれないし→ 238 00:20:58,049 --> 00:21:01,052 いざとなったら 接客中だけど→ 239 00:21:01,052 --> 00:21:03,054 吉澤さんもいるし》→ 240 00:21:03,054 --> 00:21:07,058 《うん 何となく大丈夫って 気がしてきたかも…》→ 241 00:21:07,058 --> 00:21:10,061 《弱気になっちゃ駄目よ 私! せっかく 入った会社なんだから》 242 00:21:10,061 --> 00:21:13,064 ハァ ハァ ハァ…。 243 00:21:13,064 --> 00:21:16,067 いた! イタリア人 いたー! 244 00:21:16,067 --> 00:21:19,003 こ… ここは? あっ あの いらっしゃいませ! 245 00:21:19,003 --> 00:21:21,005 お待ちしておりました。 246 00:21:21,005 --> 00:21:26,010 《平たい顔族。 そ… そうか。 また ここに来たのか》 247 00:21:26,010 --> 00:21:29,013 《いや また 来れたと言うべきか》 248 00:21:29,013 --> 00:21:32,016 部長は緊急の用で 席を外しておりまして→ 249 00:21:32,016 --> 00:21:36,020 戻るまで 私が ご案内いたします! 250 00:21:36,020 --> 00:21:38,022 お… お客さま!? 251 00:21:38,022 --> 00:21:41,025 あっ… えっ…。 《何を取り乱しているのだ!?》 252 00:21:41,025 --> 00:21:44,025 えっ!? いや… あの ふ… 服。 253 00:21:46,030 --> 00:21:48,032 (山口)で こちらのタイプは→ 254 00:21:48,032 --> 00:21:50,034 バスタブが 深めになっておりまして…。 255 00:21:50,034 --> 00:21:53,037 《ここは ずいぶん 高級感が感じられるな》 256 00:21:53,037 --> 00:21:56,040 《そして 小型の浴槽が 至る所に置かれているが→ 257 00:21:56,040 --> 00:21:58,042 この家主は よほど 風呂好きなのだろう》 258 00:21:58,042 --> 00:22:02,046 (山口)オプションで エアブローや水中照明も お付けしております。 259 00:22:02,046 --> 00:22:04,048 (吉澤)ちょっと まみちゃん 何? あれ。 260 00:22:04,048 --> 00:22:06,050 吉澤さん。 261 00:22:06,050 --> 00:22:08,052 警察 呼んだ方が いいんじゃないの? 262 00:22:08,052 --> 00:22:10,054 でも よく見ると美形ね。 (山口)私も→ 263 00:22:10,054 --> 00:22:14,058 最初は ヤバいと思ったんですが ほら あれ見てください。→ 264 00:22:14,058 --> 00:22:18,996 ああやって われを忘れたみたいに浴室の細部を確認してるんです。→ 265 00:22:18,996 --> 00:22:23,000 同じ水回り関係って 部長も言ってたし 大丈夫ですよ。 266 00:22:23,000 --> 00:22:26,003 うん そうね。 でも 何かあったら呼んで すぐ。 267 00:22:26,003 --> 00:22:28,005 うん。 私が しゃぶり尽くすから。 (山口)あ…。 268 00:22:28,005 --> 00:22:31,008 ありがとうございます。 269 00:22:31,008 --> 00:22:36,013 お客さま お待たせしました。 あっ。 お客さま? 270 00:22:36,013 --> 00:22:38,015 《建国から 900年》 271 00:22:38,015 --> 00:22:41,018 《エトルリア カルタゴ ギリシャ→ 272 00:22:41,018 --> 00:22:45,022 高度文明を次々と吸収し 大国となったローマだが→ 273 00:22:45,022 --> 00:22:47,024 この世界の文明度の高さは→ 274 00:22:47,024 --> 00:22:50,027 いったい どんな 説明がつくというのであろう?》 275 00:22:50,027 --> 00:22:52,029 《この 平たい顔族の すっとぼけた様子が→ 276 00:22:52,029 --> 00:22:54,031 逆に 何とも腹立だしい!》 277 00:22:54,031 --> 00:22:56,033 《いったい 神は 何を意図して→ 278 00:22:56,033 --> 00:22:58,035 私を この世界へ 送り込んだというのか?》 279 00:22:58,035 --> 00:23:03,035 (山口)あ… あの もう こちらは ご覧になりました? 280 00:23:05,042 --> 00:23:09,042 (山口)あれ? これ 音って どうやったら出るんだったっけ? 281 00:23:11,048 --> 00:23:14,051 《壁に 水槽が 埋め込まれているのか!?》 282 00:23:14,051 --> 00:23:18,990 どうですか? テレビを見ながら ゆっくり バスタイムなんて。 283 00:23:18,990 --> 00:23:21,993 《奴隷の分際で 私を見下した この態度》 284 00:23:21,993 --> 00:23:24,996 《しかし 一つだけ 確かなのは→ 285 00:23:24,996 --> 00:23:29,000 浴室の壁に壁画や 彫刻以外のものを設ける発想も→ 286 00:23:29,000 --> 00:23:32,003 狭いながらも 広々と くつろげる こんな形の浴槽も→ 287 00:23:32,003 --> 00:23:35,006 何かを まねすることしかできぬ 私には→ 288 00:23:35,006 --> 00:23:37,008 一生かけても 生み出せぬことかもしれぬ》 289 00:23:37,008 --> 00:23:39,010 《私という人間は→ 290 00:23:39,010 --> 00:23:43,014 ハドリアヌス帝が思っているほどの器ではないのだ… などと考えてたら→ 291 00:23:43,014 --> 00:23:47,018 また おなかの具合が…》 (おなかの下る音) 292 00:23:47,018 --> 00:23:49,018 どうしたんですか? 293 00:23:51,022 --> 00:23:54,022 えっ…。 エヘヘ。 294 00:23:56,027 --> 00:23:59,030 あっ もしかして トイレですね? 295 00:23:59,030 --> 00:24:04,035 《くっ ラテン語も知らない 種族に…》 296 00:24:04,035 --> 00:24:06,037 《これが 便器》 297 00:24:06,037 --> 00:24:08,039 《穴を隠す ふた付きとは→ 298 00:24:08,039 --> 00:24:12,043 今の 私のように 急を要す者には無用の長物…》 299 00:24:12,043 --> 00:24:15,046 ♪♪(音楽) 300 00:24:15,046 --> 00:24:17,064 《何!? 便をするだけのために→ 301 00:24:17,064 --> 00:24:20,985 いったい 何人の奴隷を 使っているのだ!?》 302 00:24:20,985 --> 00:24:24,989 《ぐっ… 構造を調べるのは 用を済ませた後だ》 303 00:24:24,989 --> 00:24:27,992 あー。 ふう…。 304 00:24:27,992 --> 00:24:31,996 《さて 海綿の尻拭きは ここでは使わぬのだろうか?》 305 00:24:31,996 --> 00:24:37,996 《んっ? 人間の尻に 何かが当たっている図柄?》 306 00:24:40,004 --> 00:24:44,008 あっ! 何をするか!? 無礼者!? 307 00:24:44,008 --> 00:24:46,010 《ふ… 噴水?》 308 00:24:46,010 --> 00:24:48,012 《もしかして 今の尻を直撃した水は→ 309 00:24:48,012 --> 00:24:50,014 洗浄する機能だったのか?》 310 00:24:50,014 --> 00:24:53,017 《海綿を いちいち 水に浸して 尻を拭き→ 311 00:24:53,017 --> 00:24:57,021 使い回すより はるかに清潔的ではないか》 312 00:24:57,021 --> 00:24:59,021 《もう一度 試してみるか》 313 00:25:01,025 --> 00:25:03,027 あああっ! 314 00:25:03,027 --> 00:25:08,032 《気持ちいい。 人生 初めての感覚だ》 315 00:25:08,032 --> 00:25:10,034 山口君! (山口)あ… 部長! 316 00:25:10,034 --> 00:25:13,037 お客さま みえてるじゃないか? (男性)ヴォンジョールノ! 317 00:25:13,037 --> 00:25:17,008 えっ!? でも 私 さっき ト… トイレにイタリアの…。 318 00:25:17,008 --> 00:25:18,642 トイレ? (副部長)俺→ 319 00:25:18,642 --> 00:25:20,878 今 うんこしてきたけど 誰もいなかったっすよ! 320 00:25:20,878 --> 00:25:22,878 えー! 321 00:25:24,882 --> 00:25:26,884 (ハドリアヌス)クラゲというものが→ 322 00:25:26,884 --> 00:25:30,888 ここまで 心を癒やすものだったとは! 323 00:25:30,888 --> 00:25:33,891 お… 恐れ多き お言葉。 324 00:25:33,891 --> 00:25:35,893 クラゲも そうだが→ 325 00:25:35,893 --> 00:25:38,896 特別に作ってくれた 洗浄機能付き便器も→ 326 00:25:38,896 --> 00:25:41,899 素晴らしい発想ではないか! 327 00:25:41,899 --> 00:25:43,901 他国の文化を まねするだけではない→ 328 00:25:43,901 --> 00:25:48,906 そなたのような国民も いるのだと思うと 心強いぞ! 329 00:25:48,906 --> 00:25:50,908 ありがとうございます。 330 00:25:50,908 --> 00:25:53,911 《この後ろめたい心地には 耐え難いものがあるが→ 331 00:25:53,911 --> 00:25:56,914 全てはローマ帝国のためなのだ》 332 00:25:56,914 --> 00:25:59,917 時に ルシウス技師。 はっ。 333 00:25:59,917 --> 00:26:03,921 そなた 私と一緒に行ってはくれまいか? 334 00:26:03,921 --> 00:26:05,923 えっ? 335 00:26:05,923 --> 00:26:07,925 エルサレムに一緒に 行ってはくれまいかと→ 336 00:26:07,925 --> 00:26:09,927 聞いておるのだ。→ 337 00:26:09,927 --> 00:26:14,932 そなたが そばにいてくれると 心強いのだが。 338 00:26:14,932 --> 00:26:18,936 ローマの平和のために このとおり! 339 00:26:18,936 --> 00:26:20,938 えっ。 で… でも。 340 00:26:20,938 --> 00:26:24,942 そういえば あの浴場技師 ローマに帰る気配がないな。 341 00:26:24,942 --> 00:26:31,949 皇帝の愛人に なっちまったのかもな。 ハハハ! 342 00:26:31,949 --> 00:26:41,949 ♪♪~ 343 00:30:33,023 --> 00:30:35,025 [マイク](アナウンス)こちらは GHQ広報部です。→ 344 00:30:35,025 --> 00:30:41,031 現在 防疫法 第9条3項に基づく 都市隔離宣言を発令中。→ 345 00:30:41,031 --> 00:30:46,036 環状七号線から外への移動は 固く禁じられています。 346 00:30:46,036 --> 00:30:48,038 (集)《あれから2週間》 347 00:30:48,038 --> 00:30:52,042 《東京は すっかり変わってしまった》 348 00:30:52,042 --> 00:30:54,044 《2週間前の事件…》 349 00:30:54,044 --> 00:30:57,047 《ロストクリスマスの再来 といわれた→