1 00:00:21,302 --> 00:00:41,322 ・~ 2 00:00:41,322 --> 00:01:01,342 ・~ 3 00:01:01,342 --> 00:01:03,344 ・~ 4 00:01:03,344 --> 00:01:06,347 ・(列車の警笛) 5 00:01:06,347 --> 00:01:16,290 ・~ 6 00:01:16,290 --> 00:01:21,295 ・(列車の走行音) 7 00:01:21,295 --> 00:01:35,309 ・~ 8 00:01:35,309 --> 00:01:55,329 ・~ 9 00:01:55,329 --> 00:02:15,282 ・~ 10 00:02:15,282 --> 00:02:33,300 ・~ 11 00:02:33,300 --> 00:02:35,300 (ドアが閉まる音) 12 00:02:37,304 --> 00:02:39,304 (先生)あっ いいねえ 13 00:02:42,309 --> 00:02:45,312 もうちょっと たくさん色使ってみようか ねっ 14 00:02:45,312 --> 00:03:03,330 ・~ 15 00:03:03,330 --> 00:03:05,330 (先生)トニー 16 00:03:09,336 --> 00:03:11,338 (トニー)はい? 17 00:03:11,338 --> 00:03:24,284 ・~ 18 00:03:24,284 --> 00:03:28,288 <トニー滝谷の本当の名前は・ 19 00:03:28,288 --> 00:03:32,288 本当にトニー滝谷だった> 20 00:03:35,295 --> 00:03:41,301 ♪(レコード:ジャズ) 21 00:03:41,301 --> 00:03:44,304 <トニーの父親は・ 22 00:03:44,304 --> 00:03:48,304 滝谷省三郎という ジャズミュージシャンだった> 23 00:03:53,313 --> 00:03:57,317 <太平洋戦争の始まる少し前に・ 24 00:03:57,317 --> 00:04:01,321 省三郎は ちょっとした面倒を起こして・ 25 00:04:01,321 --> 00:04:04,321 東京から中国に渡った> 26 00:04:11,331 --> 00:04:17,271 <激しい戦争の時代を 彼は上海のナイトクラブで・ 27 00:04:17,271 --> 00:04:20,274 気楽にトロンボーンを吹いて 過ごした> 28 00:04:20,274 --> 00:04:33,287 ♪~ 29 00:04:33,287 --> 00:04:38,292 <そして戦争が終わると それまでの さまざまな・ 30 00:04:38,292 --> 00:04:41,295 うさんくさい連中との つきあいが たたって・ 31 00:04:41,295 --> 00:04:46,300 長い間 刑務所に放り込まれていた> 32 00:04:46,300 --> 00:04:51,305 ♪(省三郎の口笛) 33 00:04:51,305 --> 00:04:55,309 <同じように投獄された連中の 多くは・ 34 00:04:55,309 --> 00:04:57,311 ろくな裁判も受けずに…> 35 00:04:57,311 --> 00:05:00,314 ・(中国語の号令) <次々と処刑されていった> 36 00:05:00,314 --> 00:05:05,319 ・(銃声) ♪(省三郎の口笛) 37 00:05:05,319 --> 00:05:08,322 ♪~ ・(中国語の号令) 38 00:05:08,322 --> 00:05:11,325 ・(銃声) 39 00:05:11,325 --> 00:05:16,263 ♪~ 40 00:05:16,263 --> 00:05:21,268 <処刑はいつも 午後の2時に行われた> 41 00:05:21,268 --> 00:05:27,274 <ある日 何の前触れもなしに 中庭に連れ出され・ 42 00:05:27,274 --> 00:05:32,274 自動小銃で 頭を撃ち抜かれるのだ> 43 00:05:34,281 --> 00:05:36,283 (省三郎)ハァ… 44 00:05:36,283 --> 00:05:39,286 <そこでは 生と死との間には…> 45 00:05:39,286 --> 00:05:44,286 (省三郎)髪の毛1本ぐらいの 隙間しかなかった 46 00:05:51,298 --> 00:05:56,303 ♪(省三郎の口笛) 47 00:05:56,303 --> 00:06:09,316 ♪~ 48 00:06:09,316 --> 00:06:12,319 <滝谷省三郎が・ 49 00:06:12,319 --> 00:06:17,257 げっそりと痩せこけて 日本に帰ってきたのは・ 50 00:06:17,257 --> 00:06:21,261 昭和21年の 春だった> 51 00:06:21,261 --> 00:06:25,261 (機関車の汽笛) 52 00:06:29,269 --> 00:06:33,273 <帰ってみると 実家は大空襲で焼け落ち・ 53 00:06:33,273 --> 00:06:37,277 両親も ただ一人の兄も・ 54 00:06:37,277 --> 00:06:41,281 そのときに亡くなっていた> 55 00:06:41,281 --> 00:06:47,287 <つまり彼は 全くの 天涯孤独の身になった> 56 00:06:47,287 --> 00:07:07,307 ・~ 57 00:07:07,307 --> 00:07:17,251 ・~ 58 00:07:17,251 --> 00:07:24,251 <やがて彼は 母方の 遠い親戚にあたる女性と結婚した> 59 00:07:31,265 --> 00:07:35,269 <結婚した翌年に 男の子が産まれ・ 60 00:07:35,269 --> 00:07:41,269 そして 子供が産まれた3日後に 母親は死んだ> 61 00:07:43,277 --> 00:07:48,282 <あっという間に彼女は死んで・ 62 00:07:48,282 --> 00:07:52,286 あっという間に 焼かれてしまった> 63 00:07:52,286 --> 00:08:12,306 ・~ 64 00:08:12,306 --> 00:08:16,243 <仲の良かった アメリカ軍の少佐が・ 65 00:08:16,243 --> 00:08:21,248 妻を失った彼を 親身になって慰めてくれた> 66 00:08:21,248 --> 00:08:25,252 <そして 自分のファーストネームである・ 67 00:08:25,252 --> 00:08:30,252 トニーという名前を 子供に付ければいいと言った> 68 00:08:33,260 --> 00:08:37,264 <これからは しばらく アメリカの時代が続くだろうし・ 69 00:08:37,264 --> 00:08:41,268 息子にアメリカ風の名前を 付けておくのも…> 70 00:08:41,268 --> 00:08:43,270 悪くないじゃない 71 00:08:43,270 --> 00:08:47,270 <…と 省三郎は思った> 72 00:08:54,281 --> 00:08:57,281 (省三郎)悪くないよ トニー滝谷 73 00:09:01,288 --> 00:09:03,290 (省三郎)悪くないな 74 00:09:03,290 --> 00:09:07,294 ヘイ… ヘイ トニー 75 00:09:07,294 --> 00:09:23,243 ・~ 76 00:09:23,243 --> 00:09:28,248 <しかし そんな名前を 付けられたおかげで・ 77 00:09:28,248 --> 00:09:34,248 トニーが名前を名乗ると 相手は妙な顔をするか…> 78 00:09:35,255 --> 00:09:39,255 中には腹を立てる人さえいた 79 00:09:43,263 --> 00:09:50,270 <トニー滝谷は そのせいもあって 閉じ籠もりがちな少年だった> 80 00:09:50,270 --> 00:09:52,272 (店員)さあ いらっしゃいませ いらっしゃい 81 00:09:52,272 --> 00:09:54,272 (店員)はい いらっしゃいませ 82 00:09:56,276 --> 00:09:59,279 <物心ついたときから・ 83 00:09:59,279 --> 00:10:05,285 父親はいつも 楽団を率いて 演奏旅行に出ていたし・ 84 00:10:05,285 --> 00:10:11,291 一人でいることは トニーにとって ごく自然なことだった> 85 00:10:11,291 --> 00:10:25,305 ・~ 86 00:10:25,305 --> 00:10:29,309 <幼い頃は 通いの家政婦が 面倒を見てくれたが…> 87 00:10:29,309 --> 00:10:31,311 (家政婦)じゃあ さよなら さよなら 88 00:10:31,311 --> 00:10:36,316 <中学に上がると 一人で料理を作り…> 89 00:10:36,316 --> 00:10:38,318 あっ あの… <一人で戸締まりをして・ 90 00:10:38,318 --> 00:10:40,318 一人で眠った> 91 00:10:42,322 --> 00:10:46,326 あしたの夕飯は 勝手にしますので 92 00:10:46,326 --> 00:10:49,329 (家政婦)そう じゃ 93 00:10:49,329 --> 00:10:53,329 おやすみなさい (家政婦)おやすみ 94 00:10:54,334 --> 00:11:01,334 (戸の開閉音) 95 00:11:08,348 --> 00:11:11,351 特に さみしいとは思わなかった 96 00:11:11,351 --> 00:11:31,304 ・~ 97 00:11:31,304 --> 00:11:51,324 ・~ 98 00:11:51,324 --> 00:11:53,324 ・~ 99 00:11:54,327 --> 00:12:02,335 (学生たちの演説) 100 00:12:02,335 --> 00:12:17,284 ・~ 101 00:12:17,284 --> 00:12:19,286 (学生)そう言うけどな だけど・ 102 00:12:19,286 --> 00:12:23,290 俺たちは留年するからいいけど… 来年 分かんないぞ 103 00:12:23,290 --> 00:12:26,293 (学生)うまいんだけど… 104 00:12:26,293 --> 00:12:29,296 体温が感じられないのよね 105 00:12:29,296 --> 00:12:31,298 (学生) お前 それじゃ資本家の犬だぞ それでもいいのか 106 00:12:31,298 --> 00:12:33,300 (学生)それは ちょっと言い過ぎだと思うけど 107 00:12:33,300 --> 00:12:36,303 (学生)違う お前の理論はな 破綻してるよ 108 00:12:36,303 --> 00:12:39,303 (学生) どこが破綻してるんだよ? 109 00:12:42,309 --> 00:12:45,312 <トニーには クラスメートたちの言う・ 110 00:12:45,312 --> 00:12:50,317 芸術性や思想性のある絵画の どこに価値があるのか・ 111 00:12:50,317 --> 00:12:53,317 さっぱり理解ができなかった> 112 00:12:54,321 --> 00:12:59,326 <それらはトニーにとって ただ未熟で 醜く…> 113 00:12:59,326 --> 00:13:02,326 不正確なだけだった 114 00:13:04,331 --> 00:13:08,331 (青年) 女の人と つきあったことは? 115 00:13:10,337 --> 00:13:12,337 あったけど… 116 00:13:15,275 --> 00:13:17,275 別れちゃった 117 00:13:22,282 --> 00:13:26,286 (青年) 結婚とか… しようとか思った? 118 00:13:26,286 --> 00:13:28,286 考えたこともないよ 119 00:13:31,291 --> 00:13:33,293 (青年)だよな (ドアが開く音) 120 00:13:33,293 --> 00:13:36,296 うん (ドアが閉まる音) 121 00:13:36,296 --> 00:13:38,298 (イラストレーター)あれ ハヤシダ君 帰っちゃったの? 122 00:13:38,298 --> 00:13:41,301 (従業員)あっ 30分ほど前に お帰りになりました 123 00:13:41,301 --> 00:13:45,305 (イラストレーター)昼飯でも 一緒に食おうと思ったんだけどな 124 00:13:45,305 --> 00:13:47,305 どう? 125 00:13:50,310 --> 00:13:53,310 ああ いいじゃない OK 126 00:13:55,315 --> 00:14:01,321 (イラストレーター) これさ この楕円の軸は… 127 00:14:01,321 --> 00:14:06,326 ♪(ギターの演奏) 128 00:14:06,326 --> 00:14:22,326 ♪~ 129 00:14:34,287 --> 00:14:39,292 (バイクの走行音) 130 00:14:39,292 --> 00:14:44,297 <トニーは機械の絵を描くことが 最も得意だった> 131 00:14:44,297 --> 00:14:47,300 <自動車やらラジオやら エンジンやら・ 132 00:14:47,300 --> 00:14:53,306 そういう物の細部を 誰よりも克明に描くことができた> 133 00:14:53,306 --> 00:14:56,309 <イラストレーターに なったのも…> 134 00:14:56,309 --> 00:14:58,309 自然の成り行きだった 135 00:15:01,314 --> 00:15:04,314 (従業員)やはり 下半期がマイナスになっています 136 00:15:06,319 --> 00:15:09,322 う~ん… 絵の具なんかが 値上がりしたからねえ 137 00:15:09,322 --> 00:15:11,324 (従業員)絵の具とか紙とか・ 138 00:15:11,324 --> 00:15:16,324 人数が増えた分だけ 費用が かさんでいます 139 00:15:17,263 --> 00:15:22,268 (エアブラシの作動音) (テレビ番組の音) 140 00:15:22,268 --> 00:15:38,284 ・~ 141 00:15:38,284 --> 00:15:40,284 (テレビを消す音) 142 00:15:42,288 --> 00:15:47,293 <雑誌の表紙から 広告のイラストまで・ 143 00:15:47,293 --> 00:15:53,299 メカニズムに関する仕事なら 何でも トニーは引き受けた> 144 00:15:53,299 --> 00:15:59,299 <仕事をするのは楽しかったし 良い金にもなった> 145 00:16:01,307 --> 00:16:06,312 (ドライヤーの作動音) 146 00:16:06,312 --> 00:16:20,260 ・~ 147 00:16:20,260 --> 00:16:25,265 (鐘の音) 148 00:16:25,265 --> 00:16:45,285 ・~ 149 00:16:45,285 --> 00:17:05,305 ・~ 150 00:17:05,305 --> 00:17:09,309 ・~ 151 00:17:09,309 --> 00:17:13,313 (ドアが開く音) (編集部員)失礼します 152 00:17:13,313 --> 00:17:16,249 (ドアが閉まる音) 153 00:17:16,249 --> 00:17:18,251 (編集部員)お先に 154 00:17:18,251 --> 00:17:29,262 ・~ 155 00:17:29,262 --> 00:17:31,264 すいません お待たせしました 156 00:17:31,264 --> 00:17:33,266 (英子)はい 157 00:17:33,266 --> 00:17:35,268 中へどうぞ 158 00:17:35,268 --> 00:17:39,268 はい 失礼します 159 00:17:42,275 --> 00:17:44,275 (ドアが閉まる音) 160 00:17:45,278 --> 00:17:47,278 (せきばらい) 161 00:17:50,283 --> 00:17:54,287 これが お預かりしたレイアウトで はい 162 00:17:54,287 --> 00:17:56,289 A B C ありますけれども はい 163 00:17:56,289 --> 00:18:02,295 Aが… これですね あっ はい 164 00:18:02,295 --> 00:18:07,300 で Bが… 165 00:18:07,300 --> 00:18:09,302 はい 166 00:18:09,302 --> 00:18:11,304 で Cが… 167 00:18:11,304 --> 00:18:13,306 はい ありがとうございます 168 00:18:13,306 --> 00:18:18,244 はい で D Eとあります はい お預かりします 169 00:18:18,244 --> 00:18:20,246 初めてだよね 君ね 170 00:18:20,246 --> 00:18:25,251 はい 小沼と申します よろしくお願いします 171 00:18:25,251 --> 00:18:27,251 あっ こっちこそ 172 00:18:28,254 --> 00:18:32,254 じゃあ 大事にお預かりします 173 00:18:38,264 --> 00:18:43,269 彼女は まるで 遠い世界へ飛び立つ鳥が… 174 00:18:43,269 --> 00:18:47,273 <特別な風を身にまとうように・ 175 00:18:47,273 --> 00:18:50,273 とても自然に服をまとっていた> 176 00:19:07,293 --> 00:19:13,299 <それから何度か 彼女は トニーの仕事場にやって来た> 177 00:19:13,299 --> 00:19:19,238 <そして ある日 トニーは 彼女を昼食に誘った> 178 00:19:19,238 --> 00:19:22,241 君みたいに 気持ち良さそうに・ 179 00:19:22,241 --> 00:19:26,241 服を着こなしてる人に 会ったのって初めてだよ 180 00:19:34,253 --> 00:19:38,253 何か 洋服って… 181 00:19:40,259 --> 00:19:45,264 自分の… 中に・ 182 00:19:45,264 --> 00:19:48,267 足りないものを… 183 00:19:48,267 --> 00:19:51,267 埋めてくれるような気がして 184 00:19:52,271 --> 00:19:56,275 私 わがままなんです 185 00:19:56,275 --> 00:20:02,281 フフッ それに すごい… 186 00:20:02,281 --> 00:20:07,281 贅沢? です 187 00:20:08,287 --> 00:20:15,287 だから もう お給料のほとんど 洋服代に消えちゃいます 188 00:20:18,297 --> 00:20:22,301 僕は画材以外には 何も お金 使うことないな 189 00:20:22,301 --> 00:20:42,321 ・~ 190 00:20:42,321 --> 00:20:44,323 ・~ 191 00:20:44,323 --> 00:20:48,327 (足音) 192 00:20:48,327 --> 00:20:51,330 (エレベーターの到着音) 193 00:20:51,330 --> 00:21:01,340 ・~ 194 00:21:01,340 --> 00:21:05,340 何か 恋しちゃったみたいなんだよ 195 00:21:09,348 --> 00:21:13,352 初めて 結婚ということについて考えたよ 196 00:21:13,352 --> 00:21:18,291 で どこが気に入ったんだい? 197 00:21:18,291 --> 00:21:21,294 何ていうか… 198 00:21:21,294 --> 00:21:26,299 服を着るために 生まれてきたような人なんだ 199 00:21:26,299 --> 00:21:31,299 ハハハハ… そりゃいい 200 00:21:34,307 --> 00:21:36,309 <省三郎とトニーは・ 201 00:21:36,309 --> 00:21:41,314 2年か3年に一度くらい 顔を合わせるだけだったが・ 202 00:21:41,314 --> 00:21:46,319 用事が済んでしまうと 2人の間には それ以上・ 203 00:21:46,319 --> 00:21:49,319 特に話すべきことはなかった> じゃあ 204 00:21:52,325 --> 00:21:58,331 <滝谷省三郎は 父親に向いた 人間ではなかったし・ 205 00:21:58,331 --> 00:22:04,337 トニー滝谷もまた 息子に向いた人間ではなかった> 206 00:22:04,337 --> 00:22:15,281 ・~ 207 00:22:15,281 --> 00:22:17,283 <5度目に会ったとき・ 208 00:22:17,283 --> 00:22:21,283 トニーは彼女に 結婚を申し込んだ> 209 00:22:25,291 --> 00:22:31,291 <しかし彼女には 昔からつきあっている恋人がいた> 210 00:22:35,301 --> 00:22:39,305 <そして トニーと彼女の間には・ 211 00:22:39,305 --> 00:22:42,305 15も年の差があった> 212 00:22:49,315 --> 00:22:53,315 (崩れる音) 213 00:22:57,323 --> 00:22:59,325 (女性)私じゃないですよね 214 00:22:59,325 --> 00:23:19,278 ・~ 215 00:23:19,278 --> 00:23:21,280 ・~ 216 00:23:21,280 --> 00:23:28,287 <少し考えさせてほしい …と 彼女は言った> 217 00:23:28,287 --> 00:23:42,287 ・~ 218 00:23:45,304 --> 00:23:53,312 (時計の振り子の音) 219 00:23:53,312 --> 00:24:00,312 <孤独とは 牢獄のようなものだと 彼は思った> 220 00:24:04,323 --> 00:24:07,326 <もし彼女が 結婚したくないと言ったら・ 221 00:24:07,326 --> 00:24:11,330 俺は このまま 死んでしまうかもしれない> 222 00:24:11,330 --> 00:24:17,330 <トニーは そのことを きちんと説明したかった> 223 00:24:19,272 --> 00:24:21,274 こんばんは 突然ごめんね 224 00:24:21,274 --> 00:24:25,278 確かに君と僕は 15も年が離れてる これは事実だ 225 00:24:25,278 --> 00:24:28,281 <これまでの人生が どれほど孤独で・ 226 00:24:28,281 --> 00:24:33,286 どれほど多くのものを 失ってきたかということを> 227 00:24:33,286 --> 00:24:39,292 若い その人と うまくいく 可能性も 当然… 228 00:24:39,292 --> 00:24:41,294 うんうん 人生って まあ 大げさな言い方かもしれないけど 229 00:24:41,294 --> 00:24:44,297 <そして彼女が それを初めて・ 230 00:24:44,297 --> 00:24:46,299 自分に気付かせてくれたのだ ということを> 231 00:24:46,299 --> 00:24:50,303 孤独ってことを 気が付かされたってことと・ 232 00:24:50,303 --> 00:24:54,307 孤独だけじゃなくて いかに 大事な出会いとか・ 233 00:24:54,307 --> 00:24:56,309 そういうものを全部 失ってきた… 234 00:24:56,309 --> 00:25:16,262 (時計の振り子の音) 235 00:25:16,262 --> 00:25:29,275 (時計の振り子の音) 236 00:25:29,275 --> 00:25:42,288 ・~ 237 00:25:42,288 --> 00:25:48,294 (鐘の音) 238 00:25:48,294 --> 00:25:53,299 ハッ ハッ ハッ ハッ… 239 00:25:53,299 --> 00:26:07,313 ・~ 240 00:26:07,313 --> 00:26:12,313 <トニー滝谷の 人生の孤独な時期は終了した> 241 00:26:15,254 --> 00:26:20,259 <朝 目覚めると トニーは まず彼女の姿を捜した> 242 00:26:20,259 --> 00:26:25,264 <隣に彼女の眠っている姿が 見えると ほっとしたし・ 243 00:26:25,264 --> 00:26:30,264 姿が見えないときには 不安になった> 244 00:26:31,270 --> 00:26:33,270 よいしょ… 245 00:26:34,273 --> 00:26:37,276 <孤独ではないということは・ 246 00:26:37,276 --> 00:26:41,280 彼にとって いささか奇妙な状態だった> 247 00:26:41,280 --> 00:26:44,283 これ コーンスープ ちょっと冷めちゃった… 248 00:26:44,283 --> 00:26:47,286 <孤独でなくなったことによって・ 249 00:26:47,286 --> 00:26:52,291 もう一度 孤独になったら どうしよう という恐怖に・ 250 00:26:52,291 --> 00:26:55,291 付きまとわれることに なったからだ> 251 00:26:57,296 --> 00:27:00,299 <時々 そのことを思うと…> 252 00:27:00,299 --> 00:27:04,299 冷や汗が出るくらい怖くなった 253 00:27:09,308 --> 00:27:15,308 <そういう恐怖は 結婚して3か月ばかり続いた> 254 00:27:17,249 --> 00:27:22,254 <しかし 新しい生活になじむにつれて・ 255 00:27:22,254 --> 00:27:24,256 それも だんだん薄らいでいった> 256 00:27:24,256 --> 00:27:27,259 すごい個性あるでしょ これ 結局あれでしょ? 257 00:27:27,259 --> 00:27:29,261 子供ってこと… 赤ちゃんってこと 258 00:27:29,261 --> 00:27:31,261 う~ん でね… 259 00:27:32,264 --> 00:27:37,269 (テレビ番組の音) 260 00:27:37,269 --> 00:27:57,289 ・~ 261 00:27:57,289 --> 00:27:59,291 ・~ 262 00:27:59,291 --> 00:28:03,295 <2人の結婚生活に 影を落とすようなものは・ 263 00:28:03,295 --> 00:28:06,295 何一つ存在しなかった> 264 00:28:09,301 --> 00:28:15,241 <彼女は かなり有能な主婦であり てきぱきと家事をこなした> 265 00:28:15,241 --> 00:28:30,256 ・~ 266 00:28:30,256 --> 00:28:36,262 <しかし ただ一つだけ トニーの気になることがあった> 267 00:28:36,262 --> 00:28:38,264 <それは妻が…> 268 00:28:38,264 --> 00:28:43,269 あまりにも多くの服を 買い過ぎることだった 269 00:28:43,269 --> 00:29:03,289 ・~ 270 00:29:03,289 --> 00:29:19,238 ・~ 271 00:29:19,238 --> 00:29:22,241 <洋服を目の前にすると・ 272 00:29:22,241 --> 00:29:29,248 彼女は全くと言っていいくらい 抑制が利かなくなってしまった> 273 00:29:29,248 --> 00:29:34,248 <一瞬にして顔つきが変わり 声まで変わってしまった> 274 00:29:39,258 --> 00:29:42,261 <特にひどくなったのは・ 275 00:29:42,261 --> 00:29:46,265 ヨーロッパへ 旅行に行ったときからだった> 276 00:29:46,265 --> 00:29:48,267 <彼女は その旅行中に・ 277 00:29:48,267 --> 00:29:54,267 とにかく あきれるほどの数の ブランド物の服を買いまくった> 278 00:29:56,275 --> 00:30:02,281 <彼女は ただ魅せられたように 片っ端から洋服を買いまくり・ 279 00:30:02,281 --> 00:30:08,287 トニーは後ろをついて回って その勘定を払った> 280 00:30:08,287 --> 00:30:28,307 ・~ 281 00:30:28,307 --> 00:30:30,309 ・~ 282 00:30:30,309 --> 00:30:35,309 <日本に戻ってきても 熱は収まらなかった> 283 00:30:38,317 --> 00:30:44,317 <来る日も来る日も 彼女は洋服を買い続けた> 284 00:30:46,325 --> 00:30:52,331 <大きな洋服だんすを いくつか 注文しなくてはならなかったし・ 285 00:30:52,331 --> 00:30:57,331 靴を収納するための戸棚を 特別に作らせた> 286 00:30:59,338 --> 00:31:01,340 <それでも足らずに・ 287 00:31:01,340 --> 00:31:07,346 部屋を丸ごと一つ 衣装室に 改造しなくてはならなかった> 288 00:31:07,346 --> 00:31:09,348 色は これは これだけで… 289 00:31:09,348 --> 00:31:12,351 (店員) 白の一色だけなんですけれども はい 290 00:31:12,351 --> 00:31:32,304 ・~ 291 00:31:32,304 --> 00:31:49,321 ・~ 292 00:31:49,321 --> 00:31:51,323 ハァ… 293 00:31:51,323 --> 00:32:07,339 ・~ 294 00:32:07,339 --> 00:32:10,342 フゥ… 295 00:32:10,342 --> 00:32:20,342 ・~ 296 00:32:38,303 --> 00:32:45,310 ・(着信音) 297 00:32:45,310 --> 00:32:48,313 はい もしもし 298 00:32:48,313 --> 00:32:52,317 やあ 父さん うん… うん 久しぶり 299 00:32:52,317 --> 00:32:57,322 うん ん? 300 00:32:57,322 --> 00:32:59,322 うん 301 00:33:00,325 --> 00:33:04,329 あ~… そっか 302 00:33:04,329 --> 00:33:10,335 ん~… うん 303 00:33:10,335 --> 00:33:12,337 うん 304 00:33:12,337 --> 00:33:17,276 ♪(ジャズの演奏) 305 00:33:17,276 --> 00:33:24,283 ♪~ 306 00:33:24,283 --> 00:33:28,283 (店員)お席をご用意しますので 少々お待ちください 307 00:33:30,289 --> 00:33:33,289 今 あの 席を作ってくれるって 308 00:33:35,294 --> 00:33:37,296 あれ おやじ 309 00:33:37,296 --> 00:33:40,299 初めてでしょ? 演奏してるの ホントだ 初めて 310 00:33:40,299 --> 00:33:55,314 ♪~ 311 00:33:55,314 --> 00:34:01,320 <省三郎は 昔と全く同じ種類の 音楽を演奏していた> 312 00:34:01,320 --> 00:34:06,325 ♪~ 313 00:34:06,325 --> 00:34:08,327 <しかし その音楽は・ 314 00:34:08,327 --> 00:34:13,332 トニーの記憶している 父の音楽とは 少し違っていた> 315 00:34:13,332 --> 00:34:20,272 ♪~ 316 00:34:20,272 --> 00:34:23,275 <ほんの僅かの違いかもしれない> 317 00:34:23,275 --> 00:34:27,279 ♪~ 318 00:34:27,279 --> 00:34:34,279 <でも彼には その違いが 重要なことであるように 思えた> 319 00:34:43,295 --> 00:34:48,300 <トニーは 演奏する父の そばまで行って…> 320 00:34:48,300 --> 00:34:50,302 一体 何が違うんだい 父さん 321 00:34:50,302 --> 00:34:54,302 <…と 問いかけてみたかった> 322 00:35:00,312 --> 00:35:03,312 (カクテルを注ぐ音) 323 00:35:21,266 --> 00:35:23,266 少し… 324 00:35:26,271 --> 00:35:29,271 服を買うの控えたらどうだろう 325 00:35:36,281 --> 00:35:38,283 いや 僕は なにも・ 326 00:35:38,283 --> 00:35:41,286 お金のことだけを 問題にしてんじゃない 327 00:35:41,286 --> 00:35:44,289 君が きれいになるのも とってもうれしい 328 00:35:44,289 --> 00:35:46,289 でも… 329 00:35:48,293 --> 00:35:52,293 本当に あんなにたくさんの服が 必要なんだろうか 330 00:36:04,309 --> 00:36:06,311 (息を吸い込む音) 331 00:36:06,311 --> 00:36:10,315 私にも 分かってるの 332 00:36:10,315 --> 00:36:14,315 でも 分かってても どうしようもないの 333 00:36:18,256 --> 00:36:21,259 きれいな服を見ると・ 334 00:36:21,259 --> 00:36:25,263 買わないわけには いかなく… なるの 335 00:36:25,263 --> 00:36:28,266 買うことを… 336 00:36:28,266 --> 00:36:33,266 やめることが… できなくなるの 337 00:36:36,274 --> 00:36:38,274 中毒みたいに 338 00:36:59,297 --> 00:37:01,299 <でも…> 339 00:37:01,299 --> 00:37:05,303 何とか そこから脱け出してみる 340 00:37:05,303 --> 00:37:11,303 …と 彼女は約束した 341 00:37:29,261 --> 00:37:31,263 <1週間ばかり・ 342 00:37:31,263 --> 00:37:35,267 彼女は 新しい洋服を目にしないように・ 343 00:37:35,267 --> 00:37:38,270 家の中に籠もっていた> 344 00:37:38,270 --> 00:37:41,273 <でも そうしていると・ 345 00:37:41,273 --> 00:37:46,278 何だか自分が空っぽに なってしまったような気がした> 346 00:37:46,278 --> 00:38:06,298 ・~ 347 00:38:06,298 --> 00:38:12,298 <毎日 衣装部屋に入り 自分の服を眺めて過ごした> 348 00:38:14,306 --> 00:38:18,306 <どれだけ見ていても 飽きなかった> 349 00:38:27,252 --> 00:38:32,252 <そして 見れば見るほど 新しい服が欲しくなった> 350 00:38:34,259 --> 00:38:38,263 <欲しいと思うと もう我慢ができなかった> 351 00:38:38,263 --> 00:38:42,267 ただただ単純に 我慢ができなかった 352 00:38:42,267 --> 00:38:47,272 <しかし彼女は 夫を深く愛していたし・ 353 00:38:47,272 --> 00:38:49,274 夫の言うことは 正論だと思った> 354 00:38:49,274 --> 00:38:55,280 ♪(鼻歌) <体は一つしかないのだ> 355 00:38:55,280 --> 00:38:59,280 ホントに必要ないのよね 356 00:39:01,286 --> 00:39:04,289 こんなに たくさんの服 357 00:39:04,289 --> 00:39:09,294 ♪~ 358 00:39:09,294 --> 00:39:11,296 <そして彼女は・ 359 00:39:11,296 --> 00:39:14,299 まだ買ったばかりの コートとワンピースを・ 360 00:39:14,299 --> 00:39:19,237 返品できないだろうかと 行きつけのブティックに尋ねた> 361 00:39:19,237 --> 00:39:22,240 どうもすいませんでした (店長)いえ 362 00:39:22,240 --> 00:39:25,243 また よろしくお願いいたします 363 00:39:25,243 --> 00:39:45,263 ・~ 364 00:39:45,263 --> 00:39:48,266 ・~ 365 00:39:48,266 --> 00:39:54,272 <服を返したことで 少し 体が軽くなったような気がした> 366 00:39:54,272 --> 00:40:05,283 (信号機の音) 367 00:40:05,283 --> 00:40:11,289 <でも 信号を待っている間 彼女はずっと・ 368 00:40:11,289 --> 00:40:17,295 今 返したばかりの コートと ワンピースのことを考えていた> 369 00:40:17,295 --> 00:40:25,303 ・~ 370 00:40:25,303 --> 00:40:31,309 それが どんな色をして どんな形をしていたか 371 00:40:31,309 --> 00:40:34,312 どんな手触りだったか 372 00:40:34,312 --> 00:40:42,320 ・~ 373 00:40:42,320 --> 00:40:49,320 (信号機の音) 374 00:40:57,335 --> 00:41:01,335 (車の急ブレーキ音) 375 00:41:06,344 --> 00:41:11,344 (雨の音) 376 00:42:48,313 --> 00:43:08,333 (時計の振り子の音) 377 00:43:08,333 --> 00:43:28,286 (時計の振り子の音) 378 00:43:28,286 --> 00:43:32,290 (時計の振り子の音) 379 00:43:32,290 --> 00:43:34,292 (鼻をすする音) 380 00:43:34,292 --> 00:43:38,296 (すすり泣き) 381 00:43:38,296 --> 00:43:55,296 (時計の振り子の音) 382 00:43:59,317 --> 00:44:02,320 (久子の母親) 1本 いくらかかるんですか それ (男性)7万 383 00:44:02,320 --> 00:44:06,324 (久子の母親)7万? 4本で28万 384 00:44:06,324 --> 00:44:09,327 嫌だわ~ 385 00:44:09,327 --> 00:44:13,327 社会保険が利かないって やっぱり きついわねえ 386 00:44:15,266 --> 00:44:18,269 (久子の母親)久子 387 00:44:18,269 --> 00:44:20,271 久子 388 00:44:20,271 --> 00:44:24,275 あんた 会社辞めちゃったんだって? 389 00:44:24,275 --> 00:44:26,275 (久子) やなこと いっぱいあったから 390 00:44:29,280 --> 00:44:32,283 で 今 何して食べてるの? 391 00:44:32,283 --> 00:44:35,286 イタリアンレストランでバイト 392 00:44:35,286 --> 00:44:40,286 (久子の母親)ふ~ん (赤ん坊の泣き声) 393 00:44:47,298 --> 00:44:49,300 (カメラのシャッター音) 394 00:44:49,300 --> 00:44:54,300 お姉ちゃんねえ これ終わったら面接行くんだ~ 395 00:44:56,307 --> 00:45:00,311 ちょっと見て見て これ 見て 396 00:45:00,311 --> 00:45:06,317 「サイズ7号 身長165センチ前後」 397 00:45:06,317 --> 00:45:10,317 「靴のサイズ23センチの女性」 398 00:45:12,323 --> 00:45:16,261 ちょっと変わった条件付き なんだけどさ 399 00:45:16,261 --> 00:45:20,265 私に ぴったりなんだよね~ 400 00:45:20,265 --> 00:45:25,265 ほら しかも 給与こんなに 401 00:45:26,271 --> 00:45:29,271 (久子の妹) 気を付けたほうがいいかも 402 00:45:32,277 --> 00:45:35,280 あっ ちーちゃん (介添え人)お支度が出来ました 403 00:45:35,280 --> 00:45:39,284 (歓声) すっご~い 404 00:45:39,284 --> 00:45:43,288 (拍手) 405 00:45:43,288 --> 00:45:48,293 ハァ ハァ ハァ ハァ… 406 00:45:48,293 --> 00:45:53,293 (鐘の音) 407 00:46:04,309 --> 00:46:09,309 ハァ ハァ… 408 00:46:11,316 --> 00:46:17,316 (ドアの開閉音) 409 00:46:28,266 --> 00:46:31,266 (女性)失礼します (ドアが開く音) 410 00:46:43,281 --> 00:46:47,285 <応募した13人の女性のうちから・ 411 00:46:47,285 --> 00:46:52,285 トニーは 最も妻の体形に近い女性を選んだ> 412 00:47:27,258 --> 00:47:34,258 (ドアの開閉音) 413 00:47:37,268 --> 00:47:40,271 お楽に すいません 414 00:47:40,271 --> 00:47:45,271 (せきばらい) 仕事自体は難しくないです 415 00:47:47,278 --> 00:47:53,284 毎日9時から5時まで ここに来て 電話の番をして・ 416 00:47:53,284 --> 00:48:01,292 私の代わりに 原稿を届けたり 資料を受け取ったり・ 417 00:48:01,292 --> 00:48:05,292 コピーを取ってもらったり するだけですから 418 00:48:08,299 --> 00:48:10,301 はい 419 00:48:10,301 --> 00:48:14,301 ただし 一つだけ条件がある 420 00:48:20,244 --> 00:48:23,244 私 妻を亡くしたばかりで… 421 00:48:25,249 --> 00:48:29,253 妻の服が たくさん家に残ってるんですね 422 00:48:29,253 --> 00:48:31,255 ほとんど新品か新品同様で 423 00:48:31,255 --> 00:48:37,261 それを ここで働く間 制服として・ 424 00:48:37,261 --> 00:48:43,261 あなたに 着てもらいたいなあと 思ってるんですよ 425 00:48:56,280 --> 00:48:58,280 毎日… 426 00:49:00,284 --> 00:49:04,288 奥様の 服をですか? 427 00:49:04,288 --> 00:49:06,290 そう 428 00:49:06,290 --> 00:49:10,294 だから いろいろなサイズを 採用の条件にしたんです 429 00:49:10,294 --> 00:49:12,296 恐らく あなたは 変な話だなと思ってるでしょう 430 00:49:12,296 --> 00:49:15,233 それは自分でも分かってます でも他意はない 431 00:49:15,233 --> 00:49:20,238 ただ 妻がいなくなったことに 慣れるための時間が欲しいんです 432 00:49:20,238 --> 00:49:22,240 あなたに妻の服を着て 近くにいてもらえば・ 433 00:49:22,240 --> 00:49:25,243 自分にも 妻が死んで いなくなったことの・ 434 00:49:25,243 --> 00:49:28,243 実感が つかめると思うんです 435 00:49:31,249 --> 00:49:34,252 <正直なところ・ 436 00:49:34,252 --> 00:49:41,259 彼女にはトニー滝谷の言っている 話の筋が よく飲み込めなかった> 437 00:49:41,259 --> 00:49:45,263 <でも この人は それほど悪い人ではなさそうだ> 438 00:49:45,263 --> 00:49:48,266 奥さんを亡くしたことで・ 439 00:49:48,266 --> 00:49:51,269 ちょっと どこか おかしくなっているんだ 440 00:49:51,269 --> 00:49:53,271 それに何といっても… 441 00:49:53,271 --> 00:50:00,271 <来月には失業保険も切れるし 彼女は働かなくてはならなかった> 442 00:50:15,293 --> 00:50:17,295 うん… 443 00:50:17,295 --> 00:50:19,297 分かりました 444 00:50:19,297 --> 00:50:25,303 いや あの 話の す… 筋は・ 445 00:50:25,303 --> 00:50:29,307 よく飲み込めないんですけど 446 00:50:29,307 --> 00:50:32,310 うん… 447 00:50:32,310 --> 00:50:36,314 おっしゃるとおりに できると思います 448 00:50:36,314 --> 00:50:41,319 そう そうですか ありがとう 449 00:50:41,319 --> 00:50:44,322 その前に… 450 00:50:44,322 --> 00:50:49,327 あの… 奥様の 洋服を・ 451 00:50:49,327 --> 00:50:53,331 見せていただく なんてことは できますか? 452 00:50:53,331 --> 00:50:56,334 もちろん あっ あの… 453 00:50:56,334 --> 00:50:59,337 サイズが ホントに合うかどうかとか・ 454 00:50:59,337 --> 00:51:02,340 試してみたほうが いいと思うので 455 00:51:02,340 --> 00:51:04,340 もちろん 456 00:51:17,288 --> 00:51:20,291 じゃ 私 外で待ってますから 試してみてください 457 00:51:20,291 --> 00:51:22,291 はい 458 00:52:34,298 --> 00:52:40,298 <何百着という美しい服が そこにずらりと並んでいた> 459 00:52:51,315 --> 00:52:53,317 <こんなに すてきな服を・ 460 00:52:53,317 --> 00:52:56,320 いっぱい残して 死んでしまうというのは・ 461 00:52:56,320 --> 00:53:02,320 どんな気持ちのするものだろう …と 彼女は思った> 462 00:53:32,289 --> 00:53:38,295 <服も 靴も まるで 彼女のために作られたみたいに・ 463 00:53:38,295 --> 00:53:41,295 ぴったりサイズが合った> 464 00:54:49,300 --> 00:54:54,300 (すすり泣き) 465 00:55:03,314 --> 00:55:08,314 (泣き声) 466 00:55:17,261 --> 00:55:19,263 (鼻をすする音) 467 00:55:19,263 --> 00:55:24,263 (泣き声) 468 00:55:54,298 --> 00:55:56,300 ・どうしました? 469 00:55:56,300 --> 00:55:59,303 <しばらくすると トニー滝谷が 様子を見にやって来て…> 470 00:55:59,303 --> 00:56:04,308 どうして泣いているのかと 彼女に尋ねた 471 00:56:04,308 --> 00:56:06,308 どうしました? 472 00:56:08,312 --> 00:56:11,312 すいません… 473 00:56:13,317 --> 00:56:15,317 すいません 474 00:56:18,255 --> 00:56:25,255 何か よく分かんないんですけど… 475 00:56:27,264 --> 00:56:31,268 多分… 476 00:56:31,268 --> 00:56:37,274 こんなに たっくさんの… 477 00:56:37,274 --> 00:56:42,274 きれいな洋服 見たことなかったんで… 478 00:56:45,282 --> 00:56:48,285 ごめんなさい 479 00:56:48,285 --> 00:56:51,285 混乱しちゃったんだと思います 480 00:56:52,289 --> 00:56:56,289 すいません (鼻をすする音) 481 00:57:03,300 --> 00:57:05,300 (鼻をすする音) 482 00:57:16,247 --> 00:57:20,251 とりあえず 1週間分の服と靴を選んで・ 483 00:57:20,251 --> 00:57:22,251 持って帰ってください 484 00:57:28,259 --> 00:57:30,261 <それから…> 485 00:57:30,261 --> 00:57:36,267 寒くなるといけないから コートも持っていきなさいと・ 486 00:57:36,267 --> 00:57:39,267 トニー滝谷は言った 487 00:57:42,273 --> 00:57:48,279 <彼女は 暖かそうな グレーのカシミヤコートを選んだ> 488 00:57:48,279 --> 00:57:51,279 <コートは 羽根のように軽かった> 489 00:57:53,284 --> 00:57:58,289 <そんなに軽いコートを着たのは 生まれて初めてだった> 490 00:57:58,289 --> 00:58:18,242 ・~ 491 00:58:18,242 --> 00:58:36,260 ・~ 492 00:58:36,260 --> 00:58:41,265 <その服は 妻が残していった 影のように見えた> 493 00:58:41,265 --> 00:59:01,285 ・~ 494 00:59:01,285 --> 00:59:08,292 <その影は かつて 暖かな息吹を与えられ・ 495 00:59:08,292 --> 00:59:12,292 妻と共に動いていた影だった> 496 00:59:19,236 --> 00:59:24,241 <しかし今 彼の前にあるものは・ 497 00:59:24,241 --> 00:59:30,247 生命の根を失って 一刻一刻と干からびていく・ 498 00:59:30,247 --> 00:59:33,250 影の群れにすぎなかった> 499 00:59:33,250 --> 00:59:53,270 ・~ 500 00:59:53,270 --> 00:59:55,272 ・~ 501 00:59:55,272 --> 00:59:57,274 <トニーは…> 502 00:59:57,274 --> 01:00:01,278 それを見てるうちに・ 503 01:00:01,278 --> 01:00:06,283 だんだん 息苦しくなってきた 504 01:00:06,283 --> 01:00:26,303 ・~ 505 01:00:26,303 --> 01:00:29,306 ・~ 506 01:00:29,306 --> 01:00:33,306 <悪いけれど 事情が変わったんだ> 507 01:00:35,312 --> 01:00:40,312 <あなたが持って帰った服と靴は 全部 差し上げます> 508 01:00:45,322 --> 01:00:50,322 <だから このことは忘れてほしい> 509 01:00:52,329 --> 01:00:56,329 <この話は 誰にも話さないでほしいんだ> 510 01:00:57,334 --> 01:01:17,287 ・~ 511 01:01:17,287 --> 01:01:21,291 ・~ 512 01:01:21,291 --> 01:01:23,293 (女性)あっ おはよう (女性)おはよう 513 01:01:23,293 --> 01:01:26,296 (女性)あそこ すっごい評判悪いよ (女性)知らなくてさ~ 514 01:01:26,296 --> 01:01:30,300 (女性) 染みとか取れないじゃない 全然… 515 01:01:30,300 --> 01:01:35,305 (女性) あ~ またブランド物 着てる 516 01:01:35,305 --> 01:01:37,307 すごい シルクウールだ 517 01:01:37,307 --> 01:01:40,310 (女性)へえ~ 高そう 518 01:01:40,310 --> 01:01:43,313 10万ぐらいしそうじゃない? これ 519 01:01:43,313 --> 01:01:48,318 (女性)何でよ 何でこんな高い服 いくつも持ってんの? 520 01:01:48,318 --> 01:01:50,320 説明できないの 521 01:01:50,320 --> 01:01:57,327 それに 説明しても 2人とも きっと信じないよ 522 01:01:57,327 --> 01:02:01,331 え~ 何 それ… 523 01:02:01,331 --> 01:02:17,281 ・~ 524 01:02:17,281 --> 01:02:21,285 <トニーは結局 古着屋を呼んで・ 525 01:02:21,285 --> 01:02:25,285 妻の残していった服を 全部 引き取らせた> 526 01:02:27,291 --> 01:02:33,297 ♪(祭り囃子) 527 01:02:33,297 --> 01:02:39,303 <彼は 空っぽになった そのかつての衣装部屋を・ 528 01:02:39,303 --> 01:02:44,308 長い間 空っぽのままにしておいた> 529 01:02:44,308 --> 01:02:54,318 ・~ 530 01:02:54,318 --> 01:02:59,323 <そして かつて抱いた あの感情さえも・ 531 01:02:59,323 --> 01:03:03,323 記憶の外へと 退いていった> 532 01:03:11,335 --> 01:03:16,273 <記憶は風に揺らぐ霧のように ゆっくりと その形を変え・ 533 01:03:16,273 --> 01:03:21,273 形を変える度に 薄らいでいった> 534 01:03:30,287 --> 01:03:32,289 <妻が死んだ2年後に・ 535 01:03:32,289 --> 01:03:37,294 滝谷省三郎が 肝臓のがんで死んだ> 536 01:03:37,294 --> 01:03:52,309 ・~ 537 01:03:52,309 --> 01:03:56,313 <残されたものといえば 形見の楽器と・ 538 01:03:56,313 --> 01:04:00,317 古いジャズレコードの 山だけだった> 539 01:04:00,317 --> 01:04:12,329 ・~ 540 01:04:12,329 --> 01:04:15,265 <レコードは かび臭かったので・ 541 01:04:15,265 --> 01:04:19,265 定期的に衣装部屋の窓を 開けなくてはならなかった> 542 01:04:22,272 --> 01:04:26,272 <そのようにして 1年が過ぎた> 543 01:04:35,285 --> 01:04:40,290 <しかし そんなレコードの山を 抱え込んでいることが・ 544 01:04:40,290 --> 01:04:43,293 だんだん煩わしくなってきた> 545 01:04:43,293 --> 01:04:49,293 <トニーは中古レコード屋を呼んで 値段をつけさせた> 546 01:04:53,303 --> 01:04:58,308 <貴重なレコードが多かったので かなりの値段がついたが・ 547 01:04:58,308 --> 01:05:02,308 それも どうでもいいことだった> 548 01:06:19,256 --> 01:06:24,261 <レコードの山が 消えてしまうと・ 549 01:06:24,261 --> 01:06:30,267 トニー滝谷は今度こそ 本当に・ 550 01:06:30,267 --> 01:06:33,267 独りぼっちになった> 551 01:06:35,272 --> 01:06:40,277 (男性)今回の受賞には 大変 驚かされています 552 01:06:40,277 --> 01:06:42,277 最も… 553 01:06:45,282 --> 01:06:50,287 (男性)小説 エッセー 絵本などのイラストに・ 554 01:06:50,287 --> 01:06:52,289 広告などのポスターと… 555 01:06:52,289 --> 01:06:54,289 (イラストレーター)ありがとうございます お忙しいところ… 556 01:06:56,293 --> 01:07:03,300 (男性のスピーチ) 557 01:07:03,300 --> 01:07:05,302 カワセさん 今日は どうもありがとうございました 558 01:07:05,302 --> 01:07:07,302 お忙しいところ… 559 01:07:09,306 --> 01:07:12,309 滝谷君 あっ 今日は これで失礼します 560 01:07:12,309 --> 01:07:16,246 いや もうちょっといてよ あの… ちょっと話したいこともあるしさ 561 01:07:16,246 --> 01:07:18,248 あっ はい (男性)簡単ではございますが・ 562 01:07:18,248 --> 01:07:21,251 挨拶と代えさせていただきます 563 01:07:21,251 --> 01:07:28,251 (拍手) 564 01:07:29,259 --> 01:07:32,262 (男性)トニー滝谷さんですよね? 565 01:07:32,262 --> 01:07:34,262 はい 566 01:07:36,266 --> 01:07:39,266 盛況ですね 567 01:07:48,278 --> 01:07:52,282 実は私… 568 01:07:52,282 --> 01:07:56,282 びっくりされるかも しれませんが… 569 01:07:58,288 --> 01:08:03,288 あのとき 英子に捨てられた男でして 570 01:08:08,298 --> 01:08:12,298 死んじゃったんですってね あいつ 571 01:08:15,238 --> 01:08:18,238 大変だったでしょ あいつ 572 01:08:24,247 --> 01:08:28,251 別に大変じゃなかったし… 573 01:08:28,251 --> 01:08:30,251 もう忘れたよ 574 01:08:36,259 --> 01:08:40,259 それから その あいつっての やめてくれないかな 575 01:08:41,264 --> 01:08:44,267 やっぱりあんた つまんない人だ 576 01:08:44,267 --> 01:08:47,267 あんたの描く絵が つまんないみたいに 577 01:09:04,287 --> 01:09:24,240 (時計の振り子の音) 578 01:09:24,240 --> 01:09:30,246 (時計の振り子の音) 579 01:09:30,246 --> 01:09:37,253 <彼は時々 かつて その部屋の中で・ 580 01:09:37,253 --> 01:09:42,258 妻の残していった服を見て 涙を流した・ 581 01:09:42,258 --> 01:09:46,262 見知らぬ女のことを 思い出した> 582 01:09:46,262 --> 01:09:53,269 (泣き声) 583 01:09:53,269 --> 01:09:58,274 <そして 彼女のむせび泣く声が・ 584 01:09:58,274 --> 01:10:01,277 記憶の中によみがえってきた> 585 01:10:01,277 --> 01:10:08,284 こんなに たっくさんの… 586 01:10:08,284 --> 01:10:13,284 きれいな洋服 見たことなかったんで… 587 01:10:15,291 --> 01:10:19,295 <そんなものを 思い出したくはなかった> 588 01:10:19,295 --> 01:10:26,302 <しかし いろんなことをすっかり 忘れてしまったあとでも・ 589 01:10:26,302 --> 01:10:34,302 不思議に その女のことを 忘れることができなかった> 590 01:10:53,329 --> 01:10:55,331 (管理人)あの あれ あの… 手袋 591 01:10:55,331 --> 01:10:58,334 ちょちょちょちょ… 手 手 手 592 01:10:58,334 --> 01:11:02,338 手袋さ あの 2つ送ってきたから あっ ちょうどいいわ これ 593 01:11:02,338 --> 01:11:06,342 1つあげる 紫と黄色とね あるから どっち… 594 01:11:06,342 --> 01:11:09,345 どっちでもいいです (管理人)いや だってそんな… 595 01:11:09,345 --> 01:11:11,347 お任せします (管理人)いやいやいや… 596 01:11:11,347 --> 01:11:13,349 お… おばさんに お任せさせられてもさ 597 01:11:13,349 --> 01:11:16,286 ん~ でも ホントどっちでもいいので 598 01:11:16,286 --> 01:11:18,288 黄色? 紫でも… (管理人)そうそう 599 01:11:18,288 --> 01:11:20,290 いいの? ホントにどっちでも うん ホントどっちでも 600 01:11:20,290 --> 01:11:23,293 ・・(着信音) (管理人)そうだ あのね あれだよ 601 01:11:23,293 --> 01:11:26,296 あの 紫のほうね この指がほら… ・・(着信音) 602 01:11:26,296 --> 01:11:30,300 親指のほう… 親指しかないの ああ はあ… 603 01:11:30,300 --> 01:11:33,303 う~ん… とにかく どっちでもいいです 604 01:11:33,303 --> 01:11:36,306 う~ん… もらわなくても いいぐらいです 605 01:11:36,306 --> 01:11:40,310 (管理人)ちょっと… そういう言い方ないんじゃないの 606 01:11:40,310 --> 01:11:44,310 ねえ! ・・(着信音) 607 01:11:55,325 --> 01:11:57,325 (受話器を置く音) 608 01:12:08,338 --> 01:12:28,291 ・~ 609 01:12:28,291 --> 01:12:48,311 ・~ 610 01:12:48,311 --> 01:13:08,331 ・~ 611 01:13:08,331 --> 01:13:28,284 ・~ 612 01:13:28,284 --> 01:13:48,304 ・~ 613 01:13:48,304 --> 01:14:08,324 ・~ 614 01:14:08,324 --> 01:14:28,278 ・~ 615 01:14:28,278 --> 01:14:48,298 ・~ 616 01:14:48,298 --> 01:15:08,318 ・~ 617 01:15:08,318 --> 01:15:28,271 ・~ 618 01:15:28,271 --> 01:15:48,291 ・~ 619 01:15:48,291 --> 01:16:01,291 ・~