1 00:00:51,579 --> 00:00:54,579 (小野益次)よっ。 2 00:00:56,450 --> 00:01:03,750 <私は今でも 週に3日か4日 散歩に出かける> 3 00:01:06,594 --> 00:01:12,266 <人々は 一体どういう大金持ちが こんな屋敷に住んでいるのかと➡ 4 00:01:12,266 --> 00:01:15,566 首をかしげることだろう> 5 00:01:17,137 --> 00:01:21,275 <だが 私は決して金持ちではないし➡ 6 00:01:21,275 --> 00:01:26,575 戦前 金持ちだったというわけでもない> 7 00:01:28,949 --> 00:01:33,220 <散歩の折は 必ず この橋に来る> 8 00:01:33,220 --> 00:01:37,091 (自転車のベル) 9 00:01:37,091 --> 00:01:44,091 <人々が 「ためらい橋」と呼んでいる この小さな橋に> 10 00:01:46,767 --> 00:01:53,467 <好きなのだ。 夕日が沈む頃の この辺りの風情が> 11 00:01:57,444 --> 00:02:02,444 <そして 暗示を得ることが> 12 00:02:05,152 --> 00:02:09,123 (女性)まあ きれいね~。 13 00:02:09,123 --> 00:02:15,123 ああ~ なんとも美しい たそがれだね。 14 00:02:52,566 --> 00:02:56,437 (一郎)おじいちゃん! 紀子叔母ちゃん! 来たよ! 15 00:02:56,437 --> 00:03:00,240 (村上節子)一郎 お行儀よくしなさい。 16 00:03:00,240 --> 00:03:02,576 こら こら 待て。 17 00:03:02,576 --> 00:03:05,245 よ~しよし! うわ~! (笑い声) 18 00:03:05,245 --> 00:03:07,181 ほら! 19 00:03:07,181 --> 00:03:11,919 一郎 走り回るんじゃありません。 20 00:03:11,919 --> 00:03:17,591 (紀子)お姉様 やっと来てくれて助かったわ。 21 00:03:17,591 --> 00:03:22,463 お父様ったら 隠居なさってから とっても世話が焼けるの。 22 00:03:22,463 --> 00:03:27,601 一日中ふさぎ込んでいて 家の中を うろうろするばかりだもの。 23 00:03:27,601 --> 00:03:30,504 まあ 紀子ったら そんな…。 24 00:03:30,504 --> 00:03:33,874 以前は あんなに暴君ぶりを発揮していた お父様が➡ 25 00:03:33,874 --> 00:03:37,544 今じゃ すっかり穏やかで 飼い慣らされたって感じよ。 26 00:03:37,544 --> 00:03:40,881 ハッ。 またバカなこと言ってるよ。 27 00:03:40,881 --> 00:03:46,181 もうすぐ 私が お嫁に行ったら どうするのかしら。 28 00:03:50,557 --> 00:03:54,428 (一郎)おじいちゃ~ん! もう疲れた ハハハハ。 29 00:03:54,428 --> 00:03:57,431 一郎 ごはんの片づけを 手伝ってくれない? 30 00:03:57,431 --> 00:03:59,566 女の仕事じゃないか。 31 00:03:59,566 --> 00:04:03,866 あら。 叔母ちゃまのお願い 聞いてくれないの? 32 00:04:18,585 --> 00:04:22,256 素一君は どうしてる? 仕事は順調なんだろうね? 33 00:04:22,256 --> 00:04:28,256 ええ。 おかげさまで。 そうか それは よかった。 34 00:04:30,597 --> 00:04:32,866 お父様。 35 00:04:32,866 --> 00:04:37,204 それほど お話が進んでるんですか? 紀子の縁談。 36 00:04:37,204 --> 00:04:40,504 ちっとも進んでないさ。 37 00:04:42,543 --> 00:04:44,878 どうして 急に 打ち切りになったんでしょう。 38 00:04:44,878 --> 00:04:46,814 1年前の お話。 39 00:04:46,814 --> 00:04:50,751 そんなこと 今更ほじくり返しても無駄だ。 40 00:04:50,751 --> 00:04:52,753 ごめんなさい。 41 00:04:52,753 --> 00:04:57,891 ただ 素一さんが 去年のことを しつこく聞くんです。 42 00:04:57,891 --> 00:05:01,762 素一君が? ええ。 43 00:05:01,762 --> 00:05:07,062 三宅家が なぜ あれほど 急に 手を引いたのかって。 44 00:05:10,237 --> 00:05:15,576 それは 私にも相変わらず謎だ。 45 00:05:15,576 --> 00:05:18,245 <節子には ああ言ったが➡ 46 00:05:18,245 --> 00:05:24,585 実は 私には 思い当たる節がないわけではない。➡ 47 00:05:24,585 --> 00:05:29,285 要するに 家柄の相違だ> 48 00:05:31,258 --> 00:05:34,161 <縁談が まだ進行中の1年余り前➡ 49 00:05:34,161 --> 00:05:39,867 私は 当の縁談相手である 三宅二郎に 偶然会った> 50 00:05:39,867 --> 00:05:42,536 何をしとるんだ 君は。 (三宅)すみません! 51 00:05:42,536 --> 00:05:46,406 すみません お願いします! 乗ります!➡ 52 00:05:46,406 --> 00:05:49,877 どうも すみません。 どうぞ。 53 00:05:49,877 --> 00:05:53,547 <三宅二郎は 他人から こき使われていることに➡ 54 00:05:53,547 --> 00:05:57,847 慣れきった若者という感じであった> 55 00:06:04,191 --> 00:06:07,094 <その1週間ほどあとのことだ。➡ 56 00:06:07,094 --> 00:06:12,394 紀子との縁談を辞退したいという 意向を受けたのは> 57 00:06:14,568 --> 00:06:19,907 <家柄のことなど 私は これっぽっちも 気にしていなかったのに。➡ 58 00:06:19,907 --> 00:06:22,809 実際 昔から ずっと➡ 59 00:06:22,809 --> 00:06:27,247 私自身の社会的な地位を まともに意識したことなど➡ 60 00:06:27,247 --> 00:06:30,547 ただの一度もない> 61 00:06:35,055 --> 00:06:38,859 <現在でも 誰かの ふとした言葉によって➡ 62 00:06:38,859 --> 00:06:42,729 ようやく 自分が かなり高い地位にあることを➡ 63 00:06:42,729 --> 00:06:45,532 思い出す始末だ> 64 00:06:45,532 --> 00:06:49,870 (マダム川上)先生 お友達の方々に➡ 65 00:06:49,870 --> 00:06:53,540 また ここへ飲みに来るよう 誘ってくださいな。 66 00:06:53,540 --> 00:06:57,878 そしたら あの懐かしい時代を 再現できるんですから。 67 00:06:57,878 --> 00:06:59,813 (信太郎)いいこと言ったね ママ。 68 00:06:59,813 --> 00:07:05,552 先生 昔の殿様は 戦いのあと 家来が ちりぢりになると➡ 69 00:07:05,552 --> 00:07:08,889 あまり間を置かぬうちに みんなを呼び戻したものですよ。 70 00:07:08,889 --> 00:07:11,792 ハッハッハッハッ なんと たわけたことを。 71 00:07:11,792 --> 00:07:14,761 いえ 信太郎さんの言うとおりですよ 先生。 72 00:07:14,761 --> 00:07:19,232 昔みたいに 画家のお仲間を みんな引き連れて来てくださいな。 73 00:07:19,232 --> 00:07:21,168 そうですとも 先生! 74 00:07:21,168 --> 00:07:24,905 <弟子の一人 この信太郎は➡ 75 00:07:24,905 --> 00:07:30,243 今でも 私に惜しみない尊敬と 感謝の念を向けてくれている。➡ 76 00:07:30,243 --> 00:07:35,082 特に 10年以上も前の 私のささやかな行為を➡ 77 00:07:35,082 --> 00:07:38,051 今も忘れずにいるらしい> 78 00:07:38,051 --> 00:07:42,189 この度は 弟の就職のために ご尽力いただき➡ 79 00:07:42,189 --> 00:07:44,524 まことに ありがとうございます。 まあ 上がりたまえ。 80 00:07:44,524 --> 00:07:47,194 いえ とんでもないことです 先生。 81 00:07:47,194 --> 00:07:51,865 こうやって お宅に伺うだけで 厚かましいかぎりです。 82 00:07:51,865 --> 00:07:55,535 ほら 良雄。 83 00:07:55,535 --> 00:07:58,438 (良雄)このご恩は 一生忘れません。 84 00:07:58,438 --> 00:08:02,209 先生のご推薦を 決して裏切らぬよう➡ 85 00:08:02,209 --> 00:08:04,144 全力を尽くして頑張ります! 86 00:08:04,144 --> 00:08:09,883 いやいや 礼を言われるようなことは 何もしてないよ。 87 00:08:09,883 --> 00:08:14,755 良雄 こんな寛大な有力者の ご恩にあずかるなんて➡ 88 00:08:14,755 --> 00:08:18,225 俺たちは大変な幸せ者だぞ。 89 00:08:18,225 --> 00:08:20,894 <忙しい人生の途中で➡ 90 00:08:20,894 --> 00:08:26,233 自分が どこまで進んできたかを 突然かいま見ることがある。➡ 91 00:08:26,233 --> 00:08:29,569 しかし 繰り返しになるが➡ 92 00:08:29,569 --> 00:08:36,269 私は自分の社会的地位を自覚したことなど 一度もない> 93 00:09:05,205 --> 00:09:08,875 おじいちゃん! 94 00:09:08,875 --> 00:09:12,746 おじいちゃんは 元有名な画家だったの? 95 00:09:12,746 --> 00:09:15,749 有名な画家? 96 00:09:15,749 --> 00:09:18,885 そう言えるかもしれんな。 97 00:09:18,885 --> 00:09:23,223 パパは おじいちゃんのこと 元は有名な画家だったって言ってた。 98 00:09:23,223 --> 00:09:25,158 素一君が? 99 00:09:25,158 --> 00:09:29,158 でも やめなきゃなんなかったって。 100 00:09:30,897 --> 00:09:35,736 おじいちゃんは引退したんだ 一郎。 101 00:09:35,736 --> 00:09:40,707 ある歳になると 人は誰でも引退をする。 102 00:09:40,707 --> 00:09:44,444 パパは言ってたよ。 おじいちゃんは やめなきゃなんなかったって。 103 00:09:44,444 --> 00:09:48,144 日本が戦争に負けたから。 104 00:09:52,519 --> 00:09:55,856 おじいちゃんの絵は どこにあるの? 105 00:09:55,856 --> 00:09:59,726 さて どこにあるか。 どっかに しまってあるはずだ。 106 00:09:59,726 --> 00:10:03,426 僕 おじいちゃんの絵を見たい! 107 00:10:05,198 --> 00:10:08,869 これは 怪物かい? 映画館の前で見たんだ。 108 00:10:08,869 --> 00:10:11,204 いや~ うまいもんだ。 109 00:10:11,204 --> 00:10:14,107 ご褒美に 明日 この映画 連れてってやろう。 110 00:10:14,107 --> 00:10:19,546 ママと紀子叔母ちゃんは 怖くって 震え出すかもね! 111 00:10:19,546 --> 00:10:23,216 火 吹いてる。 うん 火。 112 00:10:23,216 --> 00:10:26,553 明日? 明日は行けないわよ。 113 00:10:26,553 --> 00:10:30,223 え? 渡辺さんの奥様のところに お寄りするの。 114 00:10:30,223 --> 00:10:33,560 是非 一郎に会いたいって 前々から おっしゃっていたのよ。 115 00:10:33,560 --> 00:10:37,230 しかし せっかく 一郎が 楽しみにしてたんだ。 116 00:10:37,230 --> 00:10:40,567 お父様の気持ちは とても うれしいの。 117 00:10:40,567 --> 00:10:44,567 でも 映画は あさってに延ばした方がいいと思うわ。 118 00:11:04,591 --> 00:11:06,927 元気をお出し 一郎。 119 00:11:06,927 --> 00:11:10,627 あさって行こう。 おじいちゃんが約束する。 120 00:11:22,475 --> 00:11:28,175 一郎 何してる やめなさい やめなさい。 121 00:11:32,552 --> 00:11:35,889 見せて…。 122 00:11:35,889 --> 00:11:40,189 おじいちゃんの絵を見せてよ。 123 00:11:42,562 --> 00:12:14,261 ♬~ 124 00:12:14,261 --> 00:12:16,930 はあ…。 125 00:12:16,930 --> 00:12:19,930 (男性)どうも ありがとうございました。 126 00:12:26,606 --> 00:12:33,606 益次 まだ持ってきていないものが あるのではないか? 127 00:12:35,415 --> 00:12:41,121 1枚か2枚なら… あるかもしれません。 128 00:12:41,121 --> 00:12:44,557 (父親)そして ここにない絵こそ➡ 129 00:12:44,557 --> 00:12:51,231 お前が一番 誇りにしてる作品に 違いない。➡ 130 00:12:51,231 --> 00:12:55,101 お母さんから 妙なことを聞いたぞ。➡ 131 00:12:55,101 --> 00:12:59,906 お前が絵を本職にしたがっていると。➡ 132 00:12:59,906 --> 00:13:07,247 絵描きどもは 人々を意志薄弱な貧乏人に 堕落させようとする➡ 133 00:13:07,247 --> 00:13:10,583 退廃的な世界に生きているんだ。 134 00:13:10,583 --> 00:13:13,920 わしの言ってることは間違ってるか? 135 00:13:13,920 --> 00:13:17,590 (母親)いえ おっしゃるとおりです。➡ 136 00:13:17,590 --> 00:13:22,929 ただ そういう誘惑に陥らぬ方も おいででしょう。 137 00:13:22,929 --> 00:13:27,600 (父親)無論 並外れた意志の強さを持った者が➡ 138 00:13:27,600 --> 00:13:30,503 一握りほどはいるだろう。➡ 139 00:13:30,503 --> 00:13:36,409 しかし うちの息子は そういった人物とは大違いだ。➡ 140 00:13:36,409 --> 00:13:40,547 ああいう危険から息子を守ってやるのが➡ 141 00:13:40,547 --> 00:13:44,417 わしら 親の義務だろ。 142 00:13:44,417 --> 00:14:04,237 ♬~ 143 00:14:04,237 --> 00:14:06,537 益次。 144 00:14:09,909 --> 00:14:14,781 家の中 どこか知らないけど焦げ臭いよ。 145 00:14:14,781 --> 00:14:17,784 焦げ臭い…? 146 00:14:17,784 --> 00:14:21,521 ものが焼けるにおいがするんだ。 147 00:14:21,521 --> 00:14:23,821 お父さんは? 148 00:14:26,459 --> 00:14:33,533 お父さんが あそこで何をしてようと 僕には関係ないさ。 149 00:14:33,533 --> 00:14:41,207 お父さんが燃やすのに成功したのは 僕の野心だけだ。 150 00:14:41,207 --> 00:14:44,507 それを聞いて安心したよ。 151 00:14:46,079 --> 00:14:48,548 誤解しちゃ困るよ。 152 00:14:48,548 --> 00:14:52,218 お父さんが火をつけたのは➡ 153 00:14:52,218 --> 00:14:55,218 僕の野心なんだ。 154 00:15:31,524 --> 00:15:35,195 ごめんなさい 焦げ臭かったかしら。 155 00:15:35,195 --> 00:15:38,098 いや いいんだ。 156 00:15:38,098 --> 00:15:44,871 しかし 節子 何もお前まで 留守番に つきあわなくても よかったんだよ。 157 00:15:44,871 --> 00:15:49,571 お父様と お話しする機会が あまりなかったから。 158 00:15:52,745 --> 00:15:58,885 あの… 紀子の縁談のことなんですけど…。 159 00:15:58,885 --> 00:16:01,554 何だい? 160 00:16:01,554 --> 00:16:04,224 話が本格的に進み始めたら➡ 161 00:16:04,224 --> 00:16:08,094 お父様は慎重な手順を踏んだ方が いいんじゃないかしら。 162 00:16:08,094 --> 00:16:14,567 もちろん こちらは 慎重に事を運ぶつもりだ。 163 00:16:14,567 --> 00:16:19,439 ごめんなさい 特に調査のことを言いたかったの。 164 00:16:19,439 --> 00:16:25,211 もちろん 必要なかぎり 徹底的にするつもりだ。 165 00:16:25,211 --> 00:16:28,114 ごめんなさい 言い方が曖昧だったわ。 166 00:16:28,114 --> 00:16:34,053 私が言ってるのは 実は 相手側の調査なの。 167 00:16:34,053 --> 00:16:39,726 すまないが どうも話についていけない。 168 00:16:39,726 --> 00:16:42,195 ごめんなさい お父様。 169 00:16:42,195 --> 00:16:45,865 ただ 誤解の余地を すっかり封じておくのが➡ 170 00:16:45,865 --> 00:16:48,865 賢明だろうと思っただけなの。 171 00:16:51,738 --> 00:16:54,738 何についての誤解かね? 172 00:16:56,876 --> 00:16:59,576 過去についての。 173 00:17:02,749 --> 00:17:07,749 ごめんなさい 本当に余計なことを言って。 174 00:17:13,426 --> 00:17:17,564 <その時 突然 あの日の➡ 175 00:17:17,564 --> 00:17:20,900 三宅二郎との やり取りを 思い出した> 176 00:17:20,900 --> 00:17:25,772 (三宅)今日 職場で 悲しい知らせがありました。 177 00:17:25,772 --> 00:17:29,576 親会社の社長が亡くなったそうです。 178 00:17:29,576 --> 00:17:32,478 それは お気の毒に。 179 00:17:32,478 --> 00:17:38,851 正直に言いますと 自殺なのです。 180 00:17:38,851 --> 00:17:41,521 まさか。 181 00:17:41,521 --> 00:17:47,193 大社長は戦時中に 私たちを巻き込んだ 事業の いくつかに対して➡ 182 00:17:47,193 --> 00:17:50,530 明らかに責任を感じておられました。 183 00:17:50,530 --> 00:17:53,433 そうですか。 184 00:17:53,433 --> 00:17:58,871 それにしても いささか極端な話ですな。 185 00:17:58,871 --> 00:18:01,541 時々思うんですが➡ 186 00:18:01,541 --> 00:18:05,211 本来なら命を捨てて謝罪すべきなのに➡ 187 00:18:05,211 --> 00:18:11,084 自分の責任を直視できない 卑劣な人間が たくさんいるんじゃないでしょうか。 188 00:18:11,084 --> 00:18:16,222 しかし 祖国のために忠誠心を持って 働いた人々を➡ 189 00:18:16,222 --> 00:18:19,892 全て戦争犯罪人と 呼ぶわけにはいかんでしょう。 190 00:18:19,892 --> 00:18:23,563 でも 我が国を誤った方向に 引きずり込んだ人々がいることは➡ 191 00:18:23,563 --> 00:18:28,234 確かです。 彼らが過ちを認めまいとするのは➡ 192 00:18:28,234 --> 00:18:34,934 それこそ 卑劣きわまる態度です。 193 00:18:38,511 --> 00:18:41,511 (運転手)発車しま~す。 194 00:18:43,182 --> 00:18:46,085 <「卑劣きわまる」。➡ 195 00:18:46,085 --> 00:18:51,085 三宅二郎は 本当に そういう言葉を 使ったのであろうか> 196 00:18:53,192 --> 00:18:56,892 <何か混同しているかもしれない> 197 00:19:02,869 --> 00:19:07,206 <そうだ 素一だ。➡ 198 00:19:07,206 --> 00:19:10,543 私の息子 賢治の葬式の場で➡ 199 00:19:10,543 --> 00:19:14,414 素一が その言葉を使ったはずだ> 200 00:19:14,414 --> 00:19:36,502 ♬~ 201 00:19:36,502 --> 00:19:41,502 素一君 どうかしたのかい? 202 00:19:43,843 --> 00:19:49,716 (素一)いろいろなことを考えると 腹が立ってくるんです。 203 00:19:49,716 --> 00:19:56,189 命が無駄に失われたことなど…。 204 00:19:56,189 --> 00:20:00,526 まったくだ。 205 00:20:00,526 --> 00:20:03,863 しかし 賢治は➡ 206 00:20:03,863 --> 00:20:08,534 ほかの多くの兵隊さんたちと同じように➡ 207 00:20:08,534 --> 00:20:11,534 名誉な戦死を遂げたんだ。 208 00:20:15,208 --> 00:20:17,877 お父さん。 209 00:20:17,877 --> 00:20:27,553 僕が腹を立てている本当の理由は何か 分かりますか? 210 00:20:27,553 --> 00:20:29,489 さて? 211 00:20:29,489 --> 00:20:32,425 賢ちゃんたちを戦地に駆り出して➡ 212 00:20:32,425 --> 00:20:39,565 名誉の戦死を遂げさせた者どもは 今は どこにいます? 213 00:20:39,565 --> 00:20:45,905 昔と同じように のうのうと 暮らしているじゃありませんか。➡ 214 00:20:45,905 --> 00:20:49,776 勇敢な若者は バカげた目的のために命を奪われ➡ 215 00:20:49,776 --> 00:20:53,579 本物の犯罪人は まだのうのうと生きてる。 216 00:20:53,579 --> 00:20:56,916 自分の正体を見せることを恐れ➡ 217 00:20:56,916 --> 00:21:00,916 責任を認めることを恐れている。 218 00:21:03,256 --> 00:21:07,593 僕らに言わせれば それこそ…➡ 219 00:21:07,593 --> 00:21:12,293 卑劣きわまる態度です。 220 00:21:22,608 --> 00:21:26,946 (一郎)パパは言ってたよ。 おじいちゃんは有名な画家だったって。➡ 221 00:21:26,946 --> 00:21:30,817 でも やめなきゃなんなかったって。➡ 222 00:21:30,817 --> 00:21:34,117 日本が戦争に負けたから。 223 00:21:40,226 --> 00:21:46,926 <私は 父の教えに背き 絵の道に進んだ> 224 00:21:48,901 --> 00:21:50,837 (男性)おう 終わったぞ。 225 00:21:50,837 --> 00:21:55,775 <武田工房は 輸出用の日本画を請け負っていた。➡ 226 00:21:55,775 --> 00:22:02,075 期日が迫ると 日夜を分かたず 描き続けるのが普通であった> 227 00:22:08,588 --> 00:22:13,926 <同僚に カメさんというあだ名の 画家がいた> 228 00:22:13,926 --> 00:22:17,263 (後藤)おい カメさん 先週描き始めた その花びらに➡ 229 00:22:17,263 --> 00:22:19,563 まだ色を塗ってるのか? 230 00:22:21,133 --> 00:22:23,603 (カメさん)ア… アハハハ…。 231 00:22:23,603 --> 00:22:26,939 (山田)いいかげんにしてくれよな。 232 00:22:26,939 --> 00:22:29,842 (後藤)あんたのせいで 締め切りに遅れるところだぞ。 233 00:22:29,842 --> 00:22:35,214 勘弁してください。 もっと早く描こうと 努力したんですが…。 234 00:22:35,214 --> 00:22:38,117 どこを どう努力したっていうんだ? 235 00:22:38,117 --> 00:22:42,889 すみません。 急いで描いたおかげで➡ 236 00:22:42,889 --> 00:22:44,824 お粗末な絵になってしまったんです。 237 00:22:44,824 --> 00:22:47,226 お前 一生終わんねえぞ こんなんだったらよ。 238 00:22:47,226 --> 00:22:49,562 先週から変わってねえだろうが 全然。 すみません すみません…。 239 00:22:49,562 --> 00:22:51,898 お前 この仕事 なめてんのか お前? 辞めちまえ お前。 240 00:22:51,898 --> 00:22:54,598 もうたくさんだろ! 241 00:22:56,769 --> 00:23:00,907 彼は芸術的な良心の持ち主だ。 242 00:23:00,907 --> 00:23:03,242 もし どこかの画家が➡ 243 00:23:03,242 --> 00:23:07,113 早さのために質を犠牲にするのは お断りだと言ったら➡ 244 00:23:07,113 --> 00:23:11,413 みんな その態度に敬意を表すだろう。 245 00:23:13,252 --> 00:23:19,926 <その朝 私が正確に そう言ったと 断言するわけにはいかないが➡ 246 00:23:19,926 --> 00:23:24,597 カメさんの味方として そういうふうなことを言ったことだけは➡ 247 00:23:24,597 --> 00:23:27,597 はっきりと覚えている> 248 00:23:43,082 --> 00:23:46,852 実はね カメさん。 249 00:23:46,852 --> 00:23:49,755 幸運にも 僕の作品は➡ 250 00:23:49,755 --> 00:23:53,759 あの高名な森山誠治画伯の お目に留まった。 251 00:23:53,759 --> 00:23:55,759 えっ!? 252 00:23:58,464 --> 00:24:02,435 実を言うと 森山先生は➡ 253 00:24:02,435 --> 00:24:05,571 このまま ここにいると➡ 254 00:24:05,571 --> 00:24:11,444 僕の才能に 取り返しのつかない 傷がつくと おっしゃったうえ➡ 255 00:24:11,444 --> 00:24:14,914 弟子にならぬかと誘ってくださった。 256 00:24:14,914 --> 00:24:16,849 そうですか。 257 00:24:16,849 --> 00:24:21,787 運がよければ 君も弟子に 取り立てていただけるかもしれない。 258 00:24:21,787 --> 00:24:24,487 えっ!? 259 00:24:27,927 --> 00:24:37,203 でも… 特別に寛大な態度で 僕を受け入れてくださった武田工房に➡ 260 00:24:37,203 --> 00:24:41,203 そんな恩知らずなことはできません。 261 00:24:43,542 --> 00:24:47,242 忠誠心というわけかい。 262 00:24:48,881 --> 00:24:55,221 近頃 人々は あまりにも安易に 忠誠を口にして➡ 263 00:24:55,221 --> 00:24:58,521 目上の者に盲従するが…。 264 00:25:00,559 --> 00:25:04,859 せめて 僕だけは そんな生き方をしたくない。 265 00:25:06,899 --> 00:25:10,770 (黒田)失礼ですが 先生 その工房は まるで➡ 266 00:25:10,770 --> 00:25:12,772 マッチ箱か何かの 工場みたいじゃありませんか。 267 00:25:12,772 --> 00:25:14,774 おいおい 黒田。 268 00:25:14,774 --> 00:25:18,244 <やがて画家として 地位を確立した私は➡ 269 00:25:18,244 --> 00:25:22,915 当時のことを弟子たちに繰り返し語った> 270 00:25:22,915 --> 00:25:27,253 武田工房の経験は この私に➡ 271 00:25:27,253 --> 00:25:31,123 決して群衆に迎合してはならんという 教訓を与えてくれた。 272 00:25:31,123 --> 00:25:34,860 君たちも 時勢に押し流されるな。 273 00:25:34,860 --> 00:25:38,731 ここ最近 我々に忍び寄り➡ 274 00:25:38,731 --> 00:25:41,734 我が国民の精神を 甚だしく弱めてきた➡ 275 00:25:41,734 --> 00:25:46,205 あの いかがわしい 退廃的な気風に逆らうんだ。 276 00:25:46,205 --> 00:25:48,541 (黒田)もちろんですとも 先生。 277 00:25:48,541 --> 00:25:51,877 僕らは 今おっしゃったことを 心に銘記して➡ 278 00:25:51,877 --> 00:25:54,780 時勢に流されぬよう努力します。 279 00:25:54,780 --> 00:25:56,749 なあ みんな。 (弟子たち)はい。 280 00:25:56,749 --> 00:25:59,552 あ~ ついでやれ ついでやれ。 ハハハハッ。 281 00:25:59,552 --> 00:26:02,221 (弟子たち)頂きます。 282 00:26:02,221 --> 00:26:08,561 <黒田は 私の一番弟子だった。➡ 283 00:26:08,561 --> 00:26:12,231 誰よりも筋がよく 才気にあふれた黒田を➡ 284 00:26:12,231 --> 00:26:15,931 私は とりわけ かわいがっていた> 285 00:26:17,570 --> 00:26:22,241 <えこひいきしていたと言っても 差し支えない> 286 00:26:22,241 --> 00:26:24,910 (せきこみ) ハッハッハッ! 287 00:26:24,910 --> 00:26:28,581 最初から そんなに吸い込んじゃ駄目だ。 288 00:26:28,581 --> 00:26:30,516 (笑い声) 289 00:26:30,516 --> 00:26:36,856 <戦後 一度だけ黒田に会った。➡ 290 00:26:36,856 --> 00:26:40,192 ある朝 雨の中で➡ 291 00:26:40,192 --> 00:26:44,192 全く偶然に会ったのだ> 292 00:27:15,561 --> 00:27:40,861 ♬~ 293 00:27:42,521 --> 00:27:48,394 (怪獣のほえる声) 294 00:27:48,394 --> 00:27:50,396 (小声で)つまんないや。 295 00:27:50,396 --> 00:27:54,867 何か面白いことが始まったら 教えてくれない? 296 00:27:54,867 --> 00:27:59,167 (怪獣のほえる声) 297 00:28:19,892 --> 00:28:23,762 あ~ おかしい。 こんなもの 誰が怖がるんだろう。 298 00:28:23,762 --> 00:28:26,765 偽の怪獣だってことぐらい すぐ分かるよ! 299 00:28:26,765 --> 00:28:29,568 ハッハッハッ よっ。 300 00:28:29,568 --> 00:28:32,471 (斎藤)小野さんではありませんか。 301 00:28:32,471 --> 00:28:35,841 斎藤先生。 (斎藤)どうも。 302 00:28:35,841 --> 00:28:39,511 どうも こんなところで 奇遇ですな。 303 00:28:39,511 --> 00:28:43,849 いや まったく。 お孫さんですか? ええ。 304 00:28:43,849 --> 00:28:46,752 お名前は? 村上一郎! 305 00:28:46,752 --> 00:28:48,721 映画 面白かったかい? 306 00:28:48,721 --> 00:28:51,523 今までで一番いい映画だったな。 307 00:28:51,523 --> 00:28:55,194 そうか ハハハハハッ。 308 00:28:55,194 --> 00:29:02,868 <斎藤博士と私の会話は やや ぎこちなく始まった。➡ 309 00:29:02,868 --> 00:29:09,742 というのも 実は 現在進行中の 紀子の縁談の相手というのは➡ 310 00:29:09,742 --> 00:29:15,881 この美術評論家の斎藤博士の 長男なのである> 311 00:29:15,881 --> 00:29:20,219 そうだ 小野さん。 黒田さんと お知り合いだそうですな。 312 00:29:20,219 --> 00:29:22,519 黒田さん。 313 00:29:25,090 --> 00:29:30,562 ああ それは 以前 私が指導していた人物でしょう。 314 00:29:30,562 --> 00:29:32,831 (斎藤)せんだって 初めて お会いしたのですが➡ 315 00:29:32,831 --> 00:29:35,831 その時 たまたま お名前が出ましてね。 316 00:29:38,704 --> 00:29:42,841 黒田君は 私のことを覚えていてくれたんですね。 317 00:29:42,841 --> 00:29:46,512 ハハッ 義理堅い お人だ。 318 00:29:46,512 --> 00:29:49,848 (斎藤)新設の上町大学に 就職が決まったそうです。➡ 319 00:29:49,848 --> 00:29:52,518 美術教師として。➡ 320 00:29:52,518 --> 00:29:58,190 お会いしたのも そのためです。 大学側から助言を求められまして。 321 00:29:58,190 --> 00:30:01,093 これからは 何度もお会いできるはずです。 322 00:30:01,093 --> 00:30:03,862 先生に お目にかかったことを お伝えしておきましょう。 323 00:30:03,862 --> 00:30:06,862 それは 是非。 324 00:30:27,086 --> 00:30:30,889 一郎 橋占をしようか。 325 00:30:30,889 --> 00:30:32,825 はしうら? 326 00:30:32,825 --> 00:30:38,764 橋の上でする占いだから 橋占だ。 327 00:30:38,764 --> 00:30:43,469 おじいちゃんは 時々 ここで ぼんやり考え事をする。 328 00:30:43,469 --> 00:30:49,241 目を閉じると 通りすがりの人の声が 耳に飛び込んでくる。 329 00:30:49,241 --> 00:30:53,112 「お~ なるほど」っていうような答えを くれるんだよ。 330 00:30:53,112 --> 00:30:56,812 それが 橋占? 331 00:30:58,584 --> 00:31:02,884 一郎は近頃 考えてること あるかい? 332 00:31:07,926 --> 00:31:12,626 紀子叔母ちゃんが 絵を見せてくれない。 333 00:31:14,600 --> 00:31:17,269 おじいちゃんの絵を見せてって 頼んだのに➡ 334 00:31:17,269 --> 00:31:20,269 何で見せてくれないんだろ。 335 00:31:25,611 --> 00:31:28,280 (女子)ずる~い! (男子)や~い やるもんか! 336 00:31:28,280 --> 00:31:31,183 (女子)お兄ちゃん ずる~い! 337 00:31:31,183 --> 00:31:34,887 そうか。 叔母ちゃんは ずるいんだ。 338 00:31:34,887 --> 00:31:37,222 (笑い声) 339 00:31:37,222 --> 00:31:39,158 そうかもな 一郎。 340 00:31:39,158 --> 00:31:42,895 紀子叔母ちゃんは ずるいぞ~! ハハハハハハ。 341 00:31:42,895 --> 00:31:46,595 ずるい! おじいちゃん! 342 00:31:50,769 --> 00:31:56,069 何? 一郎。 さっきから人の顔見て くすくす笑って。 343 00:31:58,911 --> 00:32:05,250 そういえば 今日 映画館の前で 斎藤さんに会ったよ。 344 00:32:05,250 --> 00:32:10,250 いや 別に 大した話をしたわけではない。 345 00:32:15,260 --> 00:32:18,163 何を お話されたんですか? 346 00:32:18,163 --> 00:32:21,463 ただの世間話だ。 347 00:32:27,272 --> 00:32:33,879 斎藤さんは 私の昔の弟子に会われたそうだ。 348 00:32:33,879 --> 00:32:37,879 ほかでもない 黒田君だ。 349 00:32:40,752 --> 00:32:46,452 黒田君は 新設の大学に採用されるらしい。 350 00:32:57,569 --> 00:33:00,239 <私が目を上げる直前➡ 351 00:33:00,239 --> 00:33:05,239 2人が目くばせを交わしていたのは 明らかだった> 352 00:33:09,248 --> 00:33:14,586 (時報) 353 00:33:14,586 --> 00:33:16,922 (節子と紀子の笑い声) 354 00:33:16,922 --> 00:33:19,622 (物音) 355 00:33:21,260 --> 00:33:23,595 (物音) 356 00:33:23,595 --> 00:33:28,467 一郎よ。 寝つけないと いつも ああなの。 357 00:33:28,467 --> 00:33:31,403 あんな映画に連れていくからよ。 358 00:33:31,403 --> 00:33:35,207 バカな。 一郎は喜んでたよ。 359 00:33:35,207 --> 00:33:40,507 お父様ったら ご自分が見たかっただけよ。 360 00:33:53,559 --> 00:33:56,895 お父様。 361 00:33:56,895 --> 00:34:00,766 近いうちに 黒田さんのお宅を 訪ねた方がいいんじゃないかしら。 362 00:34:00,766 --> 00:34:04,236 お宅を訪ねる? 363 00:34:04,236 --> 00:34:12,110 黒田さんの。 できれば ほかにも何人か そういった 昔のお知り合いのお宅を。 364 00:34:12,110 --> 00:34:15,247 どういうことか よく分からんのだが。 365 00:34:15,247 --> 00:34:20,118 ごめんなさい。 お父様が 昔のお知り合いの何人かと➡ 366 00:34:20,118 --> 00:34:23,922 お話がしたいんじゃないかと 思っただけなの。 367 00:34:23,922 --> 00:34:30,262 つまり 斎藤先生の側の人たちが その方々と会う前に。 368 00:34:30,262 --> 00:34:35,262 だって 無用の誤解が生じるのは 嫌ですもの。 369 00:34:38,070 --> 00:34:41,206 ああ そりゃそうさ。 370 00:34:41,206 --> 00:34:52,551 ♬~ 371 00:34:52,551 --> 00:34:56,221 おい。 372 00:34:56,221 --> 00:34:59,124 何か焦げ臭くないか? 373 00:34:59,124 --> 00:35:01,560 えっ? 374 00:35:01,560 --> 00:35:06,260 いいえ 台所の火は 全て落としました。 375 00:35:13,905 --> 00:35:16,575 (汽笛) 376 00:35:16,575 --> 00:35:37,575 ♬~ 377 00:35:51,209 --> 00:35:53,545 (松田知州)久しぶりだな。 378 00:35:53,545 --> 00:35:57,883 松田 すこぶる元気そうじゃないか。 379 00:35:57,883 --> 00:35:59,818 (笑い声) 380 00:35:59,818 --> 00:36:06,818 <松田に初めて会ったのは 森山誠治の別荘に住んでいた頃である> 381 00:36:09,895 --> 00:36:13,565 <カメさんと私は 武田工房を去ると➡ 382 00:36:13,565 --> 00:36:20,439 すぐ その新しい師匠の別荘で 暮らすことになった> 383 00:36:20,439 --> 00:36:24,576 (女性)ほらほら こぼす こぼす。 もう! 384 00:36:24,576 --> 00:36:29,448 はあ? 何で俺には ついでくれねえんだ。 いいから いいから ほら 危ない 危ない。 385 00:36:29,448 --> 00:36:33,385 もう~! 私 この人が 絵描いてるとこ 見たことない。 386 00:36:33,385 --> 00:36:38,523 私も。 ね~! 何しに来てるの? ここに。 387 00:36:38,523 --> 00:36:40,459 (笑い声) 388 00:36:40,459 --> 00:36:44,396 (佐々木)小野 君と話したいという人が来てるよ。 389 00:36:44,396 --> 00:36:46,696 はい。 390 00:36:53,538 --> 00:36:56,208 小野さん? ええ。 391 00:36:56,208 --> 00:36:59,208 何か ご用ですか? 392 00:37:02,881 --> 00:37:06,218 僕の名は 松田知州。 393 00:37:06,218 --> 00:37:10,555 岡田美術協会に勤めています。 はあ。 394 00:37:10,555 --> 00:37:15,427 僕は あなたの絵から 大きな感銘を受けました。 395 00:37:15,427 --> 00:37:17,896 それは光栄です。 396 00:37:17,896 --> 00:37:21,566 でも 僕が今日あるのは➡ 397 00:37:21,566 --> 00:37:26,238 明らかに森山先生の 優れた ご指導のおかげです。 398 00:37:26,238 --> 00:37:29,574 分かってほしいな~。 399 00:37:29,574 --> 00:37:33,445 僕は根っからの美術愛好家なんだ。 400 00:37:33,445 --> 00:37:38,850 たまに僕の心を 本当に揺さぶる逸材に出くわすと➡ 401 00:37:38,850 --> 00:37:43,850 是非 なんとかしてあげたいと思うんだな。 402 00:37:53,865 --> 00:37:57,736 道子さんは 気の毒だったな。 403 00:37:57,736 --> 00:38:03,542 あれは 気まぐれな焼夷弾だった。 404 00:38:03,542 --> 00:38:07,212 あ いや… ひどいことを思い出させてしまった。 405 00:38:07,212 --> 00:38:10,912 すまん すまん。 いいんだ。 406 00:38:12,884 --> 00:38:15,584 実は…。 407 00:38:18,223 --> 00:38:20,892 君の助けを借りたいと思って やって来たんだ。 408 00:38:20,892 --> 00:38:23,228 お~ 構わんさ。 409 00:38:23,228 --> 00:38:27,098 どうせ 俺なんか 金を残す子どももいないしな。 410 00:38:27,098 --> 00:38:29,401 ハッハッハッハッハッ。 411 00:38:29,401 --> 00:38:35,173 ちっとも変わらないな。 412 00:38:35,173 --> 00:38:40,045 下の娘の紀子に 今 縁談が持ち上がってるんだ。 413 00:38:40,045 --> 00:38:43,515 そうなのか あの紀ちゃんに。 はあ~。 414 00:38:43,515 --> 00:38:46,184 ただ…➡ 415 00:38:46,184 --> 00:38:50,522 紀子には 去年 別の縁談を進めていたんだが➡ 416 00:38:50,522 --> 00:38:53,822 最後のところで立ち消えになった。 417 00:38:55,393 --> 00:39:04,069 その間 誰か紀子のことで 君に近づいた者は いなかったか? 418 00:39:04,069 --> 00:39:07,072 いや。 419 00:39:07,072 --> 00:39:12,777 今年は ここに誰か 訪ねてくるかもしれない。 420 00:39:12,777 --> 00:39:15,547 そうか。 421 00:39:15,547 --> 00:39:20,886 いずれにせよ 君については 最善のことしか話さない。 422 00:39:20,886 --> 00:39:23,788 恩に着るよ。 423 00:39:23,788 --> 00:39:28,760 今度の話は すこぶるデリケートでね。 424 00:39:28,760 --> 00:39:32,497 ここに どんな調べが来ても➡ 425 00:39:32,497 --> 00:39:36,167 ごく慎重に答えてもらえると ありがたい。 426 00:39:36,167 --> 00:39:40,038 つまり…➡ 427 00:39:40,038 --> 00:39:43,038 過去に関しては…。 428 00:39:45,510 --> 00:39:48,847 君の過去についても➡ 429 00:39:48,847 --> 00:39:52,547 最善のことしか話しようがない。 430 00:39:56,721 --> 00:40:04,195 しかし 紀ちゃんのことを案じているなら➡ 431 00:40:04,195 --> 00:40:08,867 まずは黒田を捜すのが一番だ。 432 00:40:08,867 --> 00:40:22,213 ♬~ 433 00:40:22,213 --> 00:40:29,888 <黒田の住所を調べるのは ちっとも難しいことではなかった。➡ 434 00:40:29,888 --> 00:40:36,588 しかし すぐに訪ねる気にはなれなかった> 435 00:40:39,230 --> 00:40:41,566 <そうこうしているうちに➡ 436 00:40:41,566 --> 00:40:46,566 紀子の見合いの日取りも 決まってしまった> 437 00:40:51,242 --> 00:40:54,145 (呼び鈴) 438 00:40:54,145 --> 00:41:05,590 ♬~ 439 00:41:05,590 --> 00:41:08,259 ご報告が遅れて 申し訳ありません。 440 00:41:08,259 --> 00:41:12,931 実は いくつかの新設高校に 採用願を出したんです。 441 00:41:12,931 --> 00:41:16,267 そうなのか。 それで有望なのかね? 442 00:41:16,267 --> 00:41:19,170 はい。 東町高校という学校が➡ 443 00:41:19,170 --> 00:41:21,606 かなり好意的な反応を 示してくれています。 444 00:41:21,606 --> 00:41:25,276 そうかそうか そりゃ よかった。 445 00:41:25,276 --> 00:41:28,179 ただ先生 認容審議会は➡ 446 00:41:28,179 --> 00:41:31,883 まだ少し検討の余地があると 言ってるらしいんです。 447 00:41:31,883 --> 00:41:36,554 過去の… 小さな問題に関して。 448 00:41:36,554 --> 00:41:38,854 過去の? 449 00:41:42,227 --> 00:41:46,097 実は先生 審議会宛に 一筆書いていただけると➡ 450 00:41:46,097 --> 00:41:49,100 大変ありがたいのですが。 どういうことだね? 451 00:41:49,100 --> 00:41:51,100 あ いや…。 452 00:41:52,871 --> 00:41:59,244 先生。 ずっと前に 先生と意見が分かれましたね。➡ 453 00:41:59,244 --> 00:42:02,147 シナ事変中の私の作品のことで。 454 00:42:02,147 --> 00:42:05,583 君と言い争ったなんて 覚えがないな。 455 00:42:05,583 --> 00:42:10,455 私が無礼千万にも 先生のご助言に抵抗したんです。 456 00:42:10,455 --> 00:42:16,455 それが 今の何と関わっていると言うんだね? 457 00:42:20,932 --> 00:42:24,269 すみません 先生。 458 00:42:24,269 --> 00:42:28,269 実は ちょっと 重要な問題になってしまったんです。 459 00:42:29,941 --> 00:42:33,211 何と言っても…➡ 460 00:42:33,211 --> 00:42:37,211 占領軍当局を納得させなければ…。 461 00:42:43,855 --> 00:42:49,561 あの当時 私たちの絵画塾が 進もうとした方向に対して➡ 462 00:42:49,561 --> 00:42:54,232 私は大きな疑問を抱いていたと言っても 過言ではないと思います。 463 00:42:54,232 --> 00:42:58,232 先生のご指示に 最終的には従ったとはいえ…。 464 00:43:04,242 --> 00:43:08,580 (信太郎) その前には疑問を持っただけでなく➡ 465 00:43:08,580 --> 00:43:13,580 あえて先生に 私の考えを申し上げたのです。 466 00:43:17,922 --> 00:43:20,825 審議会に手紙を書いて➡ 467 00:43:20,825 --> 00:43:24,262 君が私の影響を受けてない ということを伝えてほしい。 468 00:43:24,262 --> 00:43:28,933 頼みというのは…➡ 469 00:43:28,933 --> 00:43:30,869 要するに そういうことだ。 470 00:43:30,869 --> 00:43:34,539 それは誤解です。 471 00:43:34,539 --> 00:43:38,877 私は 先生のお名前に連なったことを➡ 472 00:43:38,877 --> 00:43:42,213 今も昔と同じく 誇りにしています。 473 00:43:42,213 --> 00:43:45,116 ただ…。 信太郎。 474 00:43:45,116 --> 00:43:49,087 なぜ過去を直視しない。 475 00:43:49,087 --> 00:43:52,223 今の世間が どう思おうと➡ 476 00:43:52,223 --> 00:43:56,523 君までが自分を偽る必要はないだろう。 477 00:44:00,098 --> 00:44:06,237 審議会会長の お名前と ご住所を書いておきました。➡ 478 00:44:06,237 --> 00:44:13,578 お差し支えなければ ここに置かせていただきます。➡ 479 00:44:13,578 --> 00:44:16,915 失礼いたします。 480 00:44:16,915 --> 00:44:21,615 (ドアの開閉音) 481 00:44:32,197 --> 00:44:37,497 <私は 黒田を訪ねる決意をした> 482 00:45:05,096 --> 00:45:07,796 ≪(円地)は~い! 483 00:45:16,241 --> 00:45:19,577 (円地)あっ 失礼しました。 484 00:45:19,577 --> 00:45:21,877 どうぞ。 485 00:45:30,588 --> 00:45:34,025 紛れもなく黒田さんの画風だね。 486 00:45:34,025 --> 00:45:38,196 (円地)ハハッ 先生のレベルには 及びもつきません。 487 00:45:38,196 --> 00:45:40,131 黒田さんの作品ではないと? 488 00:45:40,131 --> 00:45:44,535 ええ。 私の習作にすぎません。 489 00:45:44,535 --> 00:45:48,406 ほう あなたの。 ハハッ。 490 00:45:48,406 --> 00:45:53,211 大した才能をお持ちだ。 491 00:45:53,211 --> 00:45:58,049 筆の勢いが 黒田さんそのものだ。 ハッハッハ。 492 00:45:58,049 --> 00:46:00,952 黒田先生から どれほどのおかげを 被っているか➡ 493 00:46:00,952 --> 00:46:03,554 とても 口では言い表せません。 494 00:46:03,554 --> 00:46:07,425 ご覧のとおり 先生のお宅に 下宿まで させていただいています。 495 00:46:07,425 --> 00:46:12,263 前の下宿から追い払われたのを 先生が助けてくださったのです。 496 00:46:12,263 --> 00:46:15,566 下宿から追い払われたって? 497 00:46:15,566 --> 00:46:20,238 いくら気を付けていても 絵の具を畳に散らしてしまって。 498 00:46:20,238 --> 00:46:22,173 とうとう おばさんから 追い立てを食らったんです。 499 00:46:22,173 --> 00:46:24,709 ハハハハ! ああ 失敬失敬。 500 00:46:24,709 --> 00:46:28,913 私も初心者の頃 そっくりの問題に ぶつかったことを思い出してね。 501 00:46:28,913 --> 00:46:30,848 ああ。 502 00:46:30,848 --> 00:46:38,189 しかし 辛抱していれば 今にいい条件で制作ができるようになる。 503 00:46:38,189 --> 00:46:42,860 私が保証しますよ。 アハハ。 ハハハ。 504 00:46:42,860 --> 00:46:46,531 黒田先生は 間もなく お帰りだと存じます。 505 00:46:46,531 --> 00:46:48,866 お世話になったお礼を 申し上げる機会を得て➡ 506 00:46:48,866 --> 00:46:52,203 お喜びになるでしょう。 507 00:46:52,203 --> 00:46:56,674 黒田さんが 私に礼を言いたい。 そう思うの? 508 00:46:56,674 --> 00:47:01,879 えっ すみません。 コードン協会の方とお見受けしましたが。 509 00:47:01,879 --> 00:47:07,218 コードン協会? 失礼だが それは何ですか。 510 00:47:07,218 --> 00:47:10,555 失礼ですが お名前を伺ってもよろしいでしょうか? 511 00:47:10,555 --> 00:47:14,225 こりゃ すまない。 無礼なやつだと思ったでしょう。 512 00:47:14,225 --> 00:47:18,725 私は 小野と申します。 513 00:47:20,398 --> 00:47:24,268 そうですか。 514 00:47:24,268 --> 00:47:27,705 ああ あっ…。 515 00:47:27,705 --> 00:47:31,409 あまり お引き止めして 先のご用に差し支えてもいけませんよね。 516 00:47:31,409 --> 00:47:34,379 まあ せっかくだから もうしばらく 待たせていただくことにしよう。 517 00:47:34,379 --> 00:47:38,579 ご来訪のことは 先生にお伝えしておきますので。 518 00:47:45,523 --> 00:47:48,860 こんなことを言っては悪いが➡ 519 00:47:48,860 --> 00:47:51,529 十分な事情を知らない事柄に関して➡ 520 00:47:51,529 --> 00:47:54,532 早急な結論は 出さないようにお願いしたい。 521 00:47:54,532 --> 00:48:00,038 ハッ… 十分な事情? 522 00:48:00,038 --> 00:48:08,212 失礼ですが あなたご自身 十分な事情を ご存じなんですか? 523 00:48:08,212 --> 00:48:12,050 先生が どんな苦しみを味わわれたか ご存じですか? 524 00:48:12,050 --> 00:48:17,221 世の中のことは大抵 見かけより複雑なんだよ。 525 00:48:17,221 --> 00:48:23,694 ハッ… 率直に言って あなたのずぶとさには あきれました。 526 00:48:23,694 --> 00:48:27,565 まるで 先生の親しい話し相手のような 顔をして ここに来るなんて。 527 00:48:27,565 --> 00:48:32,170 しかし 私は 親しい話し相手として伺った。 528 00:48:32,170 --> 00:48:39,043 小野さん。 十分な事情を知らないのは 明らかに あなたの方ですよ! 529 00:48:39,043 --> 00:48:44,649 あなたは 黒田先生の脚のことを 全然知らないんでしょう。 きっと。 530 00:48:44,649 --> 00:48:47,185 ものすごい痛みなのに➡ 531 00:48:47,185 --> 00:48:52,657 ご都合主義の看守どもは その傷についての報告を わざと忘れた! 532 00:48:52,657 --> 00:48:57,028 連中は 先生の脚の傷を ちゃんと覚えていながら➡ 533 00:48:57,028 --> 00:49:03,534 何度も 何度も 殴る蹴るの乱暴を繰り返したんです。 534 00:49:03,534 --> 00:49:07,371 「この国賊め!」。 535 00:49:07,371 --> 00:49:10,208 先生を そう呼んだんですよ 連中は。 536 00:49:10,208 --> 00:49:12,908 国賊と! 537 00:49:16,380 --> 00:49:24,880 しかし 今 誰が本物の国賊か みんな 知っていますよ。 538 00:49:27,024 --> 00:49:30,561 誰が本物の国賊か➡ 539 00:49:30,561 --> 00:49:35,761 みんな ちゃんと知っていますよ! 540 00:49:42,840 --> 00:49:49,514 (円地)誰が本物の国賊か みんな 知っていますよ。➡ 541 00:49:49,514 --> 00:49:53,351 誰が本物の国賊か➡ 542 00:49:53,351 --> 00:49:59,351 みんな ちゃんと知っていますよ。 543 00:50:05,062 --> 00:50:11,562 <私は できるかぎり 慎重な手順を踏む努力をした> 544 00:50:13,371 --> 00:50:18,042 <しかし 目的を完全には果たせないまま➡ 545 00:50:18,042 --> 00:50:21,679 見合いの日を 迎えることになってしまった> 546 00:50:21,679 --> 00:50:35,560 ♬~ 547 00:50:35,560 --> 00:50:42,066 (斎藤夫人)紀子さん ピアノがお好きと伺いましたけど。 548 00:50:42,066 --> 00:50:47,872 お稽古が足りなくて…。 私も 今はさっぱり。 549 00:50:47,872 --> 00:50:52,577 女には趣味を楽しむ時間なんて ほとんど与えられていない。 550 00:50:52,577 --> 00:50:56,247 そう思いません? 本当に。 551 00:50:56,247 --> 00:51:00,918 母は 年中 僕のことを 音痴だと言って責めるんですよ。 552 00:51:00,918 --> 00:51:04,255 (斎藤夫人)まあ いいかげんなことを。 (太郎)ハハハ。 553 00:51:04,255 --> 00:51:10,428 <見合い相手の太郎は 知的で気品があり 責任感も強そうで➡ 554 00:51:10,428 --> 00:51:14,265 一目 見た時から 好印象を抱いた> 555 00:51:14,265 --> 00:51:16,200 紀子さん。 556 00:51:16,200 --> 00:51:18,736 ブラームスは お好きですか? 557 00:51:18,736 --> 00:51:23,608 ブラームス? ええ。 それは もう 大好きです。 558 00:51:23,608 --> 00:51:26,444 ほら。 でも 紀子さん…。 559 00:51:26,444 --> 00:51:33,251 <しかし 次男の満男には あまり いい印象を受けなかった> 560 00:51:33,251 --> 00:51:35,251 (斎藤夫人)そ~ら…。 561 00:51:37,054 --> 00:51:41,892 (斎藤)今日 また デモがあったようです。 昼過ぎ 電車に乗っていましたら➡ 562 00:51:41,892 --> 00:51:46,564 額に大きな傷を負った男が乗り込んで すぐ隣に座りました。 563 00:51:46,564 --> 00:51:49,900 「大丈夫か」と尋ねますと 「今 病院に行ってきたばかりだが➡ 564 00:51:49,900 --> 00:51:52,937 また すぐ仲間のところに戻るんだ」と 答えました。 565 00:51:52,937 --> 00:51:58,137 いかがです? 小野先生。 こういう光景をご覧になったら。 566 00:51:59,910 --> 00:52:09,253 ああ 多くの人が傷つくのは 全くもって 残念です。 567 00:52:09,253 --> 00:52:13,424 <突然 一つの考えがひらめいた。➡ 568 00:52:13,424 --> 00:52:19,930 実は 斎藤家の人々は 皆 私を糾弾したいと思っているのに➡ 569 00:52:19,930 --> 00:52:25,269 満男だけが不器用だから 本心を さらけ出してしまったのではないかと> 570 00:52:25,269 --> 00:52:29,440 それは健康なものだと そう お考えになりませんか? 小野先生。 571 00:52:29,440 --> 00:52:32,410 うん まったく。 572 00:52:32,410 --> 00:52:35,680 これ以上 犠牲者は出てほしくないものです。 573 00:52:35,680 --> 00:52:40,518 (斎藤夫人)あなた これは この席に ふさわしい話題と言えますかしら? 574 00:52:40,518 --> 00:52:44,422 ん? (太郎)そうですよ。 紀子さんに あきれられてしまいますよ。 575 00:52:44,422 --> 00:52:48,622 (斎藤)アッハハ… そりゃ失敬。 576 00:52:50,261 --> 00:52:55,399 先生 この次男の満男ですが➡ 577 00:52:55,399 --> 00:52:57,902 今 上町大学の学生でしてね➡ 578 00:52:57,902 --> 00:53:02,406 ご承知のとおり 黒田さんが教えておられる大学です。 579 00:53:02,406 --> 00:53:05,242 そうですか。 では➡ 580 00:53:05,242 --> 00:53:08,942 黒田先生のことは よく ご存じなわけだ。 581 00:53:12,116 --> 00:53:15,252 よくは知りません。 582 00:53:15,252 --> 00:53:19,090 小野先生は かつて 黒田先生と近しい間柄だった。 583 00:53:19,090 --> 00:53:21,390 そのことは知っていたかね? 584 00:53:22,960 --> 00:53:26,263 ええ。 聞いたことがあります。 585 00:53:26,263 --> 00:53:29,100 (太郎)ねえ 紀子さん。➡ 586 00:53:29,100 --> 00:53:33,371 両親は ピアノの調律を 一度も頼んだことがないんです。 587 00:53:33,371 --> 00:53:36,207 僕は昔から 毎日 毎日➡ 588 00:53:36,207 --> 00:53:39,043 母が 音程の狂ったピアノで練習するのを いやおうなしに…。 589 00:53:39,043 --> 00:53:45,916 きっと黒田先生から 私のことを 聞き及びでしょう。 590 00:53:45,916 --> 00:53:50,388 僕は 黒田先生を よく存じ上げないものですから。 591 00:53:50,388 --> 00:53:55,226 (斎藤)私の知るかぎり 黒田さんは 小野先生のことを よく覚えておられます。 592 00:53:55,226 --> 00:54:00,064 黒田君は 私のことを 高く買ってはおらんでしょうが…。 593 00:54:00,064 --> 00:54:04,902 (斎藤夫人)それどころか 小野様を 一番尊敬しておられると思いますよ。 594 00:54:04,902 --> 00:54:08,239 奥さん。 595 00:54:08,239 --> 00:54:11,709 かつての私が 世の中に悪影響を及ぼしていると➡ 596 00:54:11,709 --> 00:54:14,412 信じている者もいるのです。 597 00:54:14,412 --> 00:54:18,916 恐らく 黒田君も そういった見解の持ち主かと思います。 598 00:54:18,916 --> 00:54:21,419 (斎藤)そうですか。 そうなんです。 599 00:54:21,419 --> 00:54:27,291 そして 現在の私は そういった意見の妥当性を認めるのに➡ 600 00:54:27,291 --> 00:54:31,662 やぶさかではありません。 601 00:54:31,662 --> 00:54:36,033 (斎藤)ご自分に対して つらく あたり過ぎているように見えますが。 602 00:54:36,033 --> 00:54:40,371 我が国に生じた あの恐ろしい事態に関して➡ 603 00:54:40,371 --> 00:54:48,112 私自身 多くの過ちを犯してきたことを 率直に認めます。 604 00:54:48,112 --> 00:54:52,883 国民に対し 筆舌に尽くし難い あの一連の➡ 605 00:54:52,883 --> 00:54:55,386 苦悩をもたらした社会的影響力に➡ 606 00:54:55,386 --> 00:54:59,557 私も加担していたことを 否定いたしません。 607 00:54:59,557 --> 00:55:02,460 (斎藤)ご自分の芸術活動に不満だと おっしゃるのですか? 608 00:55:02,460 --> 00:55:05,429 自分の絵にも。 教育の仕事にも。 609 00:55:05,429 --> 00:55:08,265 私は素直に そのことを認めます。 610 00:55:08,265 --> 00:55:13,103 ただ 今 言えることは➡ 611 00:55:13,103 --> 00:55:16,106 当時の私は 信念を持って行動し➡ 612 00:55:16,106 --> 00:55:21,412 日本国民のお役に立つことをしていると 心から信じていたということです。 613 00:55:21,412 --> 00:55:27,218 しかし 現在は ご覧のとおり➡ 614 00:55:27,218 --> 00:55:33,858 自分が間違っていたことを 躊躇なく認めます。 615 00:55:33,858 --> 00:55:36,358 (せきばらい) 616 00:55:39,196 --> 00:55:42,533 それでは ご自分に対して あまりにも厳しすぎますよ。 617 00:55:42,533 --> 00:55:45,870 どうなんです? 紀子さん。 618 00:55:45,870 --> 00:55:50,040 お父様は いつも ご自分に対して こんなに厳しい方なんですか? 619 00:55:50,040 --> 00:55:52,943 ちっとも厳しくなんかありません。 620 00:55:52,943 --> 00:55:56,547 私の方で 父に厳しくする必要があるんです。 621 00:55:56,547 --> 00:56:01,218 さもないと 朝食に間に合う時間には 決して起きてこないんですから。 622 00:56:01,218 --> 00:56:03,687 (太郎)えっ。 ハハハハッ!➡ 623 00:56:03,687 --> 00:56:06,223 うちの父も 朝寝坊でしてね➡ 624 00:56:06,223 --> 00:56:10,394 若い者と違って 年寄りは 宵っ張りの早起きだと言われていますが➡ 625 00:56:10,394 --> 00:56:13,297 我が家は全くそんなことないです。 626 00:56:13,297 --> 00:56:16,267 (紀子)ずれているのは父親だけですわ きっと。 627 00:56:16,267 --> 00:56:18,269 (太郎と紀子の笑い声) 628 00:56:18,269 --> 00:56:20,905 (斎藤)なかなか やりますな。 ご両人で 我々を…。 629 00:56:20,905 --> 00:56:27,411 <両家の会合は この時を境にして 順調なものになったというのが➡ 630 00:56:27,411 --> 00:56:31,081 私の偽らざる実感である> 631 00:56:31,081 --> 00:56:34,581 (太郎)どうぞ 肉が冷めないうちに…。 632 00:56:39,523 --> 00:56:45,396 <過去の責任を取ることは 必ずしも容易なことではない> 633 00:56:45,396 --> 00:56:48,198 ふう~…。 634 00:56:48,198 --> 00:56:53,370 <しかし 自分の過ちを認められない。 あるいは➡ 635 00:56:53,370 --> 00:56:59,243 認めたくないという方が よほど恥ずかしいことに違いない> 636 00:56:59,243 --> 00:57:04,081 はあ…。 ふう~…。 637 00:57:04,081 --> 00:57:07,885 どうかなさったの? 先生。➡ 638 00:57:07,885 --> 00:57:11,685 何だか 一仕事 終えたって顔よ。 639 00:57:15,059 --> 00:57:17,962 はあ…。 (マダム川上)はい。 640 00:57:17,962 --> 00:57:19,962 ふう…。 641 00:57:26,403 --> 00:57:31,603 <紀子の縁談は 無事に まとまった> 642 00:57:42,519 --> 00:57:47,019 節子 お前には感謝してるよ。 643 00:57:48,659 --> 00:57:53,530 去年 注意してくれたろう。 「慎重な手順を」って。 644 00:57:53,530 --> 00:57:58,335 私は その忠告を無視しなかった。 645 00:57:58,335 --> 00:58:02,206 ごめんなさい お父様。 忠告って? 646 00:58:02,206 --> 00:58:05,242 もう そんなに警戒する必要はないだろう。 647 00:58:05,242 --> 00:58:09,880 今の私は 過去にいくつか 自慢できない部分があったことを➡ 648 00:58:09,880 --> 00:58:12,783 ちゃんと認める覚悟はできてるんだ。 649 00:58:12,783 --> 00:58:17,554 悪いけど おっしゃることが のみ込めないの。 650 00:58:17,554 --> 00:58:22,693 見合いの場で 私は 紀子の幸せが➡ 651 00:58:22,693 --> 00:58:27,531 私の過去の経歴によって妨げられないよう しっかりと手を打った。 652 00:58:27,531 --> 00:58:32,169 紀子も斎藤家の皆さんも あの日のお父様の態度には➡ 653 00:58:32,169 --> 00:58:34,638 すっかり面食らったらしいわ。 654 00:58:34,638 --> 00:58:37,508 どういう意味で ああいうことを おっしゃったのかって。 655 00:58:37,508 --> 00:58:42,179 はあ… いいかね。 656 00:58:42,179 --> 00:58:47,985 斎藤博士は 著名な美術評論家として 長年 私の仕事を見てこられ➡ 657 00:58:47,985 --> 00:58:53,357 私の最も遺憾な部分を よく ご存じのはずだ。 658 00:58:53,357 --> 00:58:58,529 だからこそ 私の態度表明を 高く評価してくださり➡ 659 00:58:58,529 --> 00:59:02,032 事は順調に運んだんだよ。 660 00:59:02,032 --> 00:59:04,535 ごめんなさい。 こんなことを言って。 661 00:59:04,535 --> 00:59:07,371 でも 太郎さんのお話だと➡ 662 00:59:07,371 --> 00:59:11,571 斎藤先生は お父様の経歴を よく ご存じなかったみたい。 663 00:59:13,177 --> 00:59:19,177 お父様が美術界に関係してることさえ 全然気付いておられなかったらしいわ。 664 00:59:23,387 --> 00:59:28,687 <なぜ 節子が そんなことを言うのか 分からなかった> 665 00:59:30,894 --> 00:59:35,332 <紀子の縁談のために 私は節子の忠告に従い➡ 666 00:59:35,332 --> 00:59:39,636 苦痛に耐えて 過去の過ちを認めた。➡ 667 00:59:39,636 --> 00:59:46,136 それなのに なぜ節子は 私の行いをたたえようとしないのか> 668 00:59:48,378 --> 00:59:51,878 お父様 どうなさったの? 669 00:59:53,650 --> 00:59:57,354 節子。 670 00:59:57,354 --> 01:00:02,054 絵は どこに しまったんだったかな。 671 01:00:03,660 --> 01:00:06,864 絵って 誰の絵ですか? 672 01:00:06,864 --> 01:00:10,667 もちろん 私の絵だよ。 673 01:00:10,667 --> 01:00:19,209 ♬~ 674 01:00:19,209 --> 01:00:25,082 <一体 節子は 何を隠しているのだろう?➡ 675 01:00:25,082 --> 01:00:30,821 何があったというのか… 私の絵に。➡ 676 01:00:30,821 --> 01:00:33,757 私の過去に…。➡ 677 01:00:33,757 --> 01:00:38,562 私が 人生を懸けて 追い求めてきたものに> 678 01:00:38,562 --> 01:00:42,232 この女が きりっとして見えるのは➡ 679 01:00:42,232 --> 01:00:45,569 この独特の視点のおかげだ。 680 01:00:45,569 --> 01:00:47,905 恐らく先生は➡ 681 01:00:47,905 --> 01:00:50,808 「物事をいつでも お決まりのつまらぬアングルから➡ 682 01:00:50,808 --> 01:00:53,777 見る必要はない」と言っておられる。 683 01:00:53,777 --> 01:00:59,477 この絵が 特に我々の心を打つのは そのためだろう。 684 01:01:01,919 --> 01:01:04,254 <私の師匠だったモリさんは➡ 685 01:01:04,254 --> 01:01:08,926 西洋の画風を取り入れた 新しい日本画を提唱し➡ 686 01:01:08,926 --> 01:01:13,263 「現代の歌麿」と呼ばれていた> 687 01:01:13,263 --> 01:01:20,938 ♬~ 688 01:01:20,938 --> 01:01:26,610 <我々は 長い年月 モリさんの価値観や生活様式に従い➡ 689 01:01:26,610 --> 01:01:33,417 大いに時間を費やして 「浮世」 我々全員の絵の背景を成す➡ 690 01:01:33,417 --> 01:01:38,555 夜の歓楽と酒の世界を探訪した> 691 01:01:38,555 --> 01:01:55,555 ♬~ 692 01:02:03,580 --> 01:02:05,880 (森山)小野。 693 01:02:12,923 --> 01:02:18,795 先生… 近頃 疑問を感じることがあるのです。 694 01:02:18,795 --> 01:02:22,095 (森山)何だね。 言ってみなさい。 695 01:02:24,534 --> 01:02:28,472 私たち芸術家は…➡ 696 01:02:28,472 --> 01:02:31,408 こういう場所で… ああいう方々と➡ 697 01:02:31,408 --> 01:02:35,408 これほど時間をかけて つきあうべきなのかと。 698 01:02:39,883 --> 01:02:43,220 (森山)画家が なんとか 捉えることのできる➡ 699 01:02:43,220 --> 01:02:48,558 最も微妙で 最も繊細な美は➡ 700 01:02:48,558 --> 01:02:55,899 夕闇が訪れたあとの こういう 妓楼の中に漂っている。 701 01:02:55,899 --> 01:03:03,774 そして こんな晩には そういう美が多少とも流れ込むんだ。 702 01:03:03,774 --> 01:03:08,478 そんなに はかなくて つかみどころの ないものを美化するために➡ 703 01:03:08,478 --> 01:03:12,916 才能や技術を用いるなんて 全て浪費であり➡ 704 01:03:12,916 --> 01:03:19,256 デカダン趣味とさえ言えると かつてのわしも そう考えていた。 705 01:03:19,256 --> 01:03:26,129 しかし わしは… そういう疑問をすっかり捨てた。 706 01:03:26,129 --> 01:03:31,268 歳を取ってから振り返り 自分の生涯は➡ 707 01:03:31,268 --> 01:03:35,539 そういう世界のユニークな美しさを 把握するために➡ 708 01:03:35,539 --> 01:03:39,876 ささげられたと自覚できたならば➡ 709 01:03:39,876 --> 01:03:44,576 人生を無駄に過ごしたとは 決して思わないだろう。 710 01:03:47,217 --> 01:03:51,217 <私は モリさんを敬愛していた> 711 01:03:53,090 --> 01:03:56,893 <そのことに疑いの余地はない。➡ 712 01:03:56,893 --> 01:04:02,232 その証拠に 私は モリさんの口調までも受け継ぎ➡ 713 01:04:02,232 --> 01:04:07,571 弟子たちに 考えを言い聞かせる時は 独特の口調で…> 714 01:04:07,571 --> 01:04:09,906 おじいちゃん アイスクリームも食べていい? 715 01:04:09,906 --> 01:04:11,842 ああ もちろんだ。 716 01:04:11,842 --> 01:04:16,580 今頃 ママと紀子おばちゃんは女同士 あれやこれや買い物してるだろう。 717 01:04:16,580 --> 01:04:18,915 俺たちも男同士 うんと楽しもう。 718 01:04:18,915 --> 01:04:21,615 フフッ…。 フッフッフッ…。 719 01:04:24,254 --> 01:04:28,592 (一郎)おじいちゃん なぐちゆうじろうって人 知ってる? 720 01:04:28,592 --> 01:04:32,863 なぐち… ああ それは➡ 721 01:04:32,863 --> 01:04:35,532 那口幸雄のことだろう。 知ってるよ。 722 01:04:35,532 --> 01:04:38,435 でも知り合いじゃない。 どうしてだ? 723 01:04:38,435 --> 01:04:41,204 (一郎)昨日 ママたちが話してた。 724 01:04:41,204 --> 01:04:43,140 何を言ってたんだい? 725 01:04:43,140 --> 01:04:48,879 那口さんって… おじいちゃんみたいな人? 726 01:04:48,879 --> 01:04:52,579 ママが そう言ってたのかい? 727 01:04:58,555 --> 01:05:02,225 おじいちゃん。 那口さんは…➡ 728 01:05:02,225 --> 01:05:05,896 何で自殺したの? 729 01:05:05,896 --> 01:05:09,566 悪い人だったの? いや 悪い人じゃない。 730 01:05:09,566 --> 01:05:17,240 那口さんが作った歌は 日本中で 学生にも 兵隊さんにも➡ 731 01:05:17,240 --> 01:05:19,576 酒場でも歌われてた。 732 01:05:19,576 --> 01:05:24,276 ところが 戦争が終わったあと…。 733 01:05:25,916 --> 01:05:33,723 う~ん… 何て言うか 那口さんは 自分の作った歌は➡ 734 01:05:33,723 --> 01:05:37,527 一種の間違いだと思うようになった。 735 01:05:37,527 --> 01:05:44,201 あの人は… 自分の犯した過ちを素直に認めた。 736 01:05:44,201 --> 01:05:47,104 勇気ある立派な人だ。 737 01:05:47,104 --> 01:05:50,404 さあ お食べ。 738 01:05:54,211 --> 01:06:01,551 <那口幸雄は自殺した。 自分の作った歌を悔いて。➡ 739 01:06:01,551 --> 01:06:05,222 私は 本当に 向き合っているのだろうか?➡ 740 01:06:05,222 --> 01:06:08,125 過去の過ちに> 741 01:06:08,125 --> 01:06:12,896 ♬「岩をも砕く ますらおの」 742 01:06:12,896 --> 01:06:18,768 ♬「勝ちどきの声 高らかに」 743 01:06:18,768 --> 01:06:20,770 (赤ちゃんの泣き声) 744 01:06:20,770 --> 01:06:23,240 (せきこみ) 745 01:06:23,240 --> 01:06:26,576 このところ 貧乏人は増える一方だぞ 小野。 746 01:06:26,576 --> 01:06:31,414 こんな所に住むしかなくなった連中が 大勢いる。 747 01:06:31,414 --> 01:06:34,851 ひどい話だ。 なんとかしてやりたい。 748 01:06:34,851 --> 01:06:40,524 ハッ… 善意の感傷だな。 誰もが口では そう言う。 749 01:06:40,524 --> 01:06:43,193 僕は ほんとに…。 750 01:06:43,193 --> 01:06:48,532 (せきこみ) ハッハハハッ…。 751 01:06:48,532 --> 01:06:51,201 政治家や実業家たちは➡ 752 01:06:51,201 --> 01:06:53,537 こういった所には ほとんど目を向けない。 753 01:06:53,537 --> 01:06:59,876 せいぜい 安全な距離を置いて 遠くから眺めているだけだ。 754 01:06:59,876 --> 01:07:03,213 画家だって同じことだろう? 755 01:07:03,213 --> 01:07:05,213 松田! 756 01:07:07,551 --> 01:07:10,453 松田! 757 01:07:10,453 --> 01:07:13,223 (男の子)もう死んだかな? 758 01:07:13,223 --> 01:07:16,126 あっ 動いた。 まだ生きてるぞ。 759 01:07:16,126 --> 01:07:18,426 ほんとだ。 760 01:07:23,867 --> 01:07:25,802 行こうぜ。 あっ 待ってよ! 761 01:07:25,802 --> 01:07:28,572 あっ 待ってよ…。 待ってよ。 762 01:07:28,572 --> 01:07:34,872 あんなことでもするほか 楽しみがないんだな…。 763 01:07:40,850 --> 01:07:43,520 君の計画…。 764 01:07:43,520 --> 01:07:45,855 あれは えらく感動的だが➡ 765 01:07:45,855 --> 01:07:49,726 君ら 画家特有の無知さ加減を 見事に さらけ出している。 766 01:07:49,726 --> 01:07:52,729 絵で稼いだ小銭袋 持って 貧困地区へ行き➡ 767 01:07:52,729 --> 01:07:55,198 出くわす貧乏人に 一銭ずつ くれてやるつもりか? 768 01:07:55,198 --> 01:07:59,069 いや 僕たちだけのグループで やるとは言っていない。 769 01:07:59,069 --> 01:08:03,873 もっと多くの画家の協力を得て 大規模な展覧会を定期的に開けば➡ 770 01:08:03,873 --> 01:08:07,210 貧しい人々をかなり救えるだろう。 771 01:08:07,210 --> 01:08:11,548 残念だが… やっぱり 君たち画家は➡ 772 01:08:11,548 --> 01:08:15,885 どうしようもないほどに 世間知らずだ。 773 01:08:15,885 --> 01:08:19,756 世界についての君の知識は 子ども並みだ。 例えば 君は…➡ 774 01:08:19,756 --> 01:08:22,759 カール・マルクスが 何者であったかも知るまい。 775 01:08:22,759 --> 01:08:24,894 バカ言っちゃいけない。 776 01:08:24,894 --> 01:08:26,830 カール・マルクスくらい 無論 知ってるさ。 777 01:08:26,830 --> 01:08:29,566 ほう! こりゃ失敬した。 778 01:08:29,566 --> 01:08:34,404 では是非 話してほしいね。 マルクスについて。 779 01:08:34,404 --> 01:08:39,376 マルクスは… ロシア革命を指導したはずだ。 780 01:08:39,376 --> 01:08:44,080 では レーニンはどうだ? 確か マルクスの副官だったと思う。 781 01:08:44,080 --> 01:08:48,051 何らかの意味で マルクスの同僚だった。 782 01:08:48,051 --> 01:08:51,521 本当に無知なのは 君の方だ。 783 01:08:51,521 --> 01:08:55,859 芸術家の関心は どこであろうと 見つけた美を捉えることにある。 784 01:08:55,859 --> 01:08:58,194 小野…。 785 01:08:58,194 --> 01:09:02,532 今や 我々の手で 日本を 英国やフランスに劣らぬ➡ 786 01:09:02,532 --> 01:09:05,435 大帝国にすべき時が来ている。 787 01:09:05,435 --> 01:09:09,406 我が国には そうするだけの 十分な手だてがあると➡ 788 01:09:09,406 --> 01:09:11,541 俺は そう思っている。 789 01:09:11,541 --> 01:09:17,414 だが その意志が… まだ見えてこないんだ。 790 01:09:17,414 --> 01:09:20,216 いいかい? 俺は よかれかしと思って➡ 791 01:09:20,216 --> 01:09:22,886 言っているんだよ。 792 01:09:22,886 --> 01:09:28,224 こんな時に 君のような並外れた才能の持ち主が➡ 793 01:09:28,224 --> 01:09:32,924 退廃的な絵ばかり描いていて いいのかな? 794 01:09:37,500 --> 01:10:47,800 ♬~ 795 01:10:56,713 --> 01:11:03,253 小野さん その絵は あんたのお遊びかい? 796 01:11:03,253 --> 01:11:09,592 はあ…。 797 01:11:09,592 --> 01:11:19,092 とんでもない。 決して遊びなんてものじゃない。 798 01:11:29,612 --> 01:11:33,049 先生は この絵のこと ご存じなの? 799 01:11:33,049 --> 01:11:41,758 いや しかし いずれ お見せしてもいいと思っている。 800 01:11:41,758 --> 01:11:48,398 これからは ずっと こういうやり方で 描くつもりだ。 801 01:11:48,398 --> 01:11:52,598 小野さん あんたは裏切り者だ。 802 01:12:12,422 --> 01:12:21,731 ♬~ 803 01:12:21,731 --> 01:12:25,101 <「獨善」。➡ 804 01:12:25,101 --> 01:12:30,607 「ソレデモ若者ハ 自己ノ尊嚴ヲ 守ル爲ニ➡ 805 01:12:30,607 --> 01:12:35,307 戦フ覺悟ヲ 決メテイル」> 806 01:12:39,048 --> 01:12:44,554 ♬~ 807 01:12:44,554 --> 01:12:50,360 <私は 既に 勢いよく湧き起こっている 私のアイデアを➡ 808 01:12:50,360 --> 01:12:55,360 もはや隠してはおけないことを悟った> 809 01:13:03,573 --> 01:13:09,078 先生 実は おととい➡ 810 01:13:09,078 --> 01:13:13,878 僕の作品の一部が なくなっているのに気付いたのです。 811 01:13:15,718 --> 01:13:21,925 (森山)絵は 今 わしの手元にある。 812 01:13:21,925 --> 01:13:23,860 そうですか。 813 01:13:23,860 --> 01:13:26,429 安心しました。 814 01:13:26,429 --> 01:13:32,235 僕なんかの作品に関心を持っていただいて ほんとに感謝しております。 815 01:13:32,235 --> 01:13:37,073 いや 関心を持つのは ごく当たり前だ。 816 01:13:37,073 --> 01:13:44,814 お前は 弟子の中でも技量抜群だからな。 817 01:13:44,814 --> 01:13:51,888 わしは 長い年月 手塩にかけて お前の才能を育ててきたのだ。 818 01:13:51,888 --> 01:13:54,557 全くです。 先生。 819 01:13:54,557 --> 01:13:56,893 どれほど おかげを 被っているか知れません。 820 01:13:56,893 --> 01:13:59,893 作品を見て少々驚いた。 821 01:14:02,699 --> 01:14:09,072 随分 不思議な道を探っているようだな。 822 01:14:09,072 --> 01:14:14,577 絵が無事で喜んでおります。 823 01:14:14,577 --> 01:14:19,415 でも 僕は 以前の作品よりも➡ 824 01:14:19,415 --> 01:14:24,587 むしろ最近の作品の方を 誇りにしています。 825 01:14:24,587 --> 01:14:27,423 今 預かっている絵のほかに➡ 826 01:14:27,423 --> 01:14:32,261 最近完成した作品が 1つ 2つ あるという話だが。 827 01:14:32,261 --> 01:14:34,664 かもしれません。 828 01:14:34,664 --> 01:14:39,502 別にしまっておいたのが 1枚か2枚 ありましたから。 829 01:14:39,502 --> 01:14:45,208 別荘に帰ったら その絵を持ってきてくれるだろうな。 830 01:14:45,208 --> 01:14:48,111 残念ですが 先生➡ 831 01:14:48,111 --> 01:14:51,811 残りの絵は見つかりそうにありません。 832 01:14:53,883 --> 01:14:56,883 ふう~。 833 01:15:04,894 --> 01:15:10,066 先生。 834 01:15:10,066 --> 01:15:13,703 現在のような苦難の時代にあって➡ 835 01:15:13,703 --> 01:15:17,573 芸術に携わる者は➡ 836 01:15:17,573 --> 01:15:22,445 夜明けの光と共に あえなく消えてしまう 享楽的なものよりも➡ 837 01:15:22,445 --> 01:15:27,250 もっと実体のあるものを尊重するよう 頭を切り替えるべきだというのが➡ 838 01:15:27,250 --> 01:15:31,087 僕の信念です。 839 01:15:31,087 --> 01:15:43,533 僕の良心は 僕がいつまでも 浮世の画家でいることを許さないのです。 840 01:15:43,533 --> 01:15:45,468 ♬~ 841 01:15:45,468 --> 01:15:50,306 最近の絵を見て 少々驚いたよ 黒田。 842 01:15:50,306 --> 01:15:56,506 随分 不思議な道を探っているようだな。 843 01:16:01,384 --> 01:16:06,055 先生 自分では最近の作品が➡ 844 01:16:06,055 --> 01:16:08,391 一番 出来がいいように 感じてるんですが。 845 01:16:08,391 --> 01:16:12,562 私は 弟子の中で特にお前を 高く買っている。 846 01:16:12,562 --> 01:16:18,362 だからこそ 惜しみなく 全てを与えてきたんだよ。 847 01:16:23,206 --> 01:16:31,647 <あれは… そう… あれは… 寒い冬の朝だった> 848 01:16:31,647 --> 01:16:35,518 何の用だ? 黒田君は どこですか? 849 01:16:35,518 --> 01:16:38,187 私は 小野益次。 850 01:16:38,187 --> 01:16:42,358 画家でして 内務省文化審議会の一員です。 851 01:16:42,358 --> 01:16:48,531 それに 非国民活動統制委員会の 顧問にも任命されている。 852 01:16:48,531 --> 01:16:51,434 あなた方が ここに来られたのは ほかでもない➡ 853 01:16:51,434 --> 01:16:54,871 私が提供した情報のせいです。 854 01:16:54,871 --> 01:16:59,375 その件で何か誤解があった…。 (刑事)小野先生ですね。 855 01:16:59,375 --> 01:17:01,575 はい。 856 01:17:06,682 --> 01:17:09,385 黒田君は どこですか? 857 01:17:09,385 --> 01:17:12,885 (刑事)取り調べのために 連行しました。 858 01:17:14,690 --> 01:17:21,063 (炎の音) 859 01:17:21,063 --> 01:17:24,901 こんなことになろうとは。 860 01:17:24,901 --> 01:17:31,240 私は ただ 委員会に 誰かを派遣して注意をしてもらったら➡ 861 01:17:31,240 --> 01:17:34,844 黒田君のためになるだろう そう 助言しただけなのに。 862 01:17:34,844 --> 01:17:40,183 (炎の音) 863 01:17:40,183 --> 01:17:43,085 焼き捨てる必要など まるでなかった。 864 01:17:43,085 --> 01:17:47,857 この中には 優秀な作品も たくさんあったんです。 865 01:17:47,857 --> 01:17:53,729 (炎の音) 866 01:17:53,729 --> 01:17:55,731 先生。 867 01:17:55,731 --> 01:18:00,436 もう あなたの出る幕ではありません。 868 01:18:00,436 --> 01:18:04,207 ご心配になっておられる 黒田氏については➡ 869 01:18:04,207 --> 01:18:13,907 不当な扱いのないよう 配慮します。 フフ。 870 01:18:16,786 --> 01:18:23,559 コホッ。 くせえ絵は くせえ煙を吐きやがる。 ああ。 871 01:18:23,559 --> 01:18:42,059 (炎の音) 872 01:18:54,523 --> 01:19:00,823 <私は信念に従って生きてきた。 ただそれだけだ> 873 01:19:04,033 --> 01:19:09,538 <私が師匠に背いたとか 弟子を傷つけたとか➡ 874 01:19:09,538 --> 01:19:13,738 そういった理由で 糾弾しようとする人がいるかもしれない> 875 01:19:17,680 --> 01:19:22,680 <だが それは とんだお門違いだ> 876 01:19:25,054 --> 01:19:28,254 <そうしなければ 成し得なかったことがある> 877 01:19:29,926 --> 01:19:37,126 <そうしなければ 見られなかった景色がある> 878 01:19:45,007 --> 01:19:50,346 <私は確信している。➡ 879 01:19:50,346 --> 01:19:58,654 何かを失ってでも 私が追い求めてきたものには➡ 880 01:19:58,654 --> 01:20:01,954 間違いなく価値が> 881 01:20:07,863 --> 01:20:12,668 (素一)本物の犯罪人は まだ のうのうと生きてる。➡ 882 01:20:12,668 --> 01:20:15,371 自分の正体を見せることを恐れ➡ 883 01:20:15,371 --> 01:20:19,542 責任を認めることを恐れている。 884 01:20:19,542 --> 01:20:23,045 僕らに言わせれば それこそ…➡ 885 01:20:23,045 --> 01:20:27,545 卑劣きわまる態度です。 886 01:20:37,226 --> 01:20:46,726 (炎の音) 887 01:23:07,710 --> 01:23:13,210 <ものが焦げる においがすると 今でも不安になる> 888 01:23:17,720 --> 01:23:22,424 <だが このごろ ものが焦げる においといえば➡ 889 01:23:22,424 --> 01:23:29,424 大抵は 誰かが 庭掃除をしている証しにすぎない> 890 01:23:31,667 --> 01:23:36,539 紀ちゃんは 幸せに暮らしてるかね。 891 01:23:36,539 --> 01:23:42,211 万事順調でね 春には出産の予定らしい。 892 01:23:42,211 --> 01:23:44,547 ほう~ 春には孫が。 893 01:23:44,547 --> 01:23:49,218 いや~ そりゃ 楽しみだな。 ハハハハ…。 894 01:23:49,218 --> 01:23:53,389 実を言うと…。 895 01:23:53,389 --> 01:23:57,059 長女のところにも もうすぐ2人目が生まれる。 896 01:23:57,059 --> 01:23:59,695 おお。 それは それは。 897 01:23:59,695 --> 01:24:05,501 いや 孫が2人増えるわけだ。 ハハハハハ…。 898 01:24:05,501 --> 01:24:09,705 はあ~。 899 01:24:09,705 --> 01:24:13,242 なあ 小野。 900 01:24:13,242 --> 01:24:21,717 君や俺みたいなのが 昔やったことを 問題にする人間なんぞ➡ 901 01:24:21,717 --> 01:24:26,255 どこにもおらん。 902 01:24:26,255 --> 01:24:30,426 みんな俺たちを見て➡ 903 01:24:30,426 --> 01:24:37,426 つえにすがった 2人の老人としか思わんさ。 904 01:24:39,535 --> 01:24:46,208 ああ。 フフフ。 ああ…。 905 01:24:46,208 --> 01:24:52,548 自分たちのことを 不当に非難する必要はない。 906 01:24:52,548 --> 01:24:59,054 少なくとも 俺たちは 信念に従って行動し➡ 907 01:24:59,054 --> 01:25:07,354 全力を尽くして 事に当たった。 908 01:25:18,907 --> 01:25:25,707 <その ひとつきほどあとに 松田は死んだ> 909 01:25:28,083 --> 01:25:30,986 <松田とは よくけんかをしたけれども➡ 910 01:25:30,986 --> 01:25:36,786 人生に対する我々2人の態度は 共通していた> 911 01:25:39,528 --> 01:25:41,463 <松田は言った。➡ 912 01:25:41,463 --> 01:25:44,867 「少なくとも俺たちは 信念に従って行動し➡ 913 01:25:44,867 --> 01:25:50,039 全力を尽くして事に当たった」と。➡ 914 01:25:50,039 --> 01:25:54,209 たとえ後年に至って 自分の過去の業績を➡ 915 01:25:54,209 --> 01:25:59,381 どう再評価することになろうとも> 916 01:25:59,381 --> 01:26:01,317 次行こ 次行こ。 917 01:26:01,317 --> 01:26:04,553 こっち? 行きますか~。 918 01:26:04,553 --> 01:26:07,456 えっ どこどこ? 919 01:26:07,456 --> 01:26:11,427 (サラリーマンたち)アハハハ…。 フッ。 920 01:26:11,427 --> 01:26:17,066 <今となっては ただ あの若者たちの前途に➡ 921 01:26:17,066 --> 01:26:22,566 祝福あれと心から祈るだけである> 922 01:26:28,077 --> 01:26:35,651 <あの若者たちの前途に…。➡ 923 01:26:35,651 --> 01:26:39,151 祝福あれと…> 924 01:26:46,295 --> 01:26:49,795 <心から…> 925 01:27:08,550 --> 01:27:12,850 (一郎)おじいちゃ~ん。 926 01:27:19,061 --> 01:27:23,899 おじいちゃ~ん。 927 01:27:23,899 --> 01:27:28,099 ハッハハハ…。 928 01:27:29,772 --> 01:27:31,707 フフフ。 ハハハハハ。 929 01:27:31,707 --> 01:27:34,707 あ~ 重い重い重い。 930 01:27:46,522 --> 01:27:48,722 ハハ…。 931 01:27:56,865 --> 01:29:26,865 ♬~ 932 01:30:43,915 --> 01:30:47,653 >>こんばんは。 サタデースポーツです。 933 01:30:47,653 --> 01:30:51,440 大リーグ・マリナーズの菊池雄星 投手が、 934 01:30:51,440 --> 01:30:55,193 アメリカの本拠地で公式戦デビュ ー。 935 01:30:55,193 --> 01:30:58,997 大リーグ初勝利を目指しましたが、 9回、思わぬ結末が待っていまし