1 00:00:02,202 --> 00:00:21,655 ♬~ (テーマ音楽) 2 00:00:21,655 --> 00:00:33,667 ♬~ 3 00:01:17,811 --> 00:01:20,647  回想 (あぐり)こんな大金 どうして エイスケさんが 持ってるんですか? 4 00:01:20,647 --> 00:01:24,651 (鈴音)知らないよ。 あの おばさんって誰? 5 00:01:26,386 --> 00:01:29,289 おにいちゃんが つきあってる人。 6 00:01:29,289 --> 00:01:33,961 つきあってる人? 木場の材木問屋の奥様。 7 00:01:33,961 --> 00:01:35,996 おにいちゃんのこと かわいがってるみたい。➡ 8 00:01:35,996 --> 00:01:40,434 つまり パトロンよ。 9 00:01:40,434 --> 00:01:55,649 ♬~ 10 00:01:55,649 --> 00:01:59,853 ⚟(エイスケ)ただいま。 お帰りなさい。 11 00:02:03,924 --> 00:02:06,827 (エイスケ)疲れたから ちょっと寝るよ。 12 00:02:06,827 --> 00:02:11,131 エイスケさん…。 なに? 13 00:02:15,535 --> 00:02:18,939 このお金 私 使えませんから。 14 00:02:18,939 --> 00:02:23,810 どうして?自分の胸に 聞いてみて下さい。 15 00:02:23,810 --> 00:02:27,280 これ 返しておいて下さい。 16 00:02:27,280 --> 00:02:30,617 かまわないけど 生活は 大丈夫なの? 17 00:02:30,617 --> 00:02:36,490 お金は 私が なんとかしますから。 そう。 それじゃ 返しておくよ。 18 00:02:36,490 --> 00:02:38,792 お願いします。 おやすみ。 19 00:02:41,795 --> 00:02:45,666 世津子さん…。 (世津子)はい?お願いがあります。 20 00:02:45,666 --> 00:02:49,302 (世津子)あら 何かしら? お金を 貸して下さい。 21 00:02:49,302 --> 00:02:54,141 お金?ちょっと訳があって 生活費が全然ないんです。 22 00:02:54,141 --> 00:02:57,978 でも 私 こんなこと お願いできるの 世津子さんしかいないから…。 23 00:02:57,978 --> 00:03:02,949 できれば 30円くらい…。 30円ねえ…。 24 00:03:02,949 --> 00:03:06,586 岡山から 仕送りがきたら 必ず お返ししますから。 25 00:03:06,586 --> 00:03:09,623 お願いします。 いいわよ。 26 00:03:09,623 --> 00:03:13,927 ああ よかった~…。 ありがとうございます。 27 00:03:13,927 --> 00:03:16,963 だけど この事 エイスケさん 知ってるの? 28 00:03:16,963 --> 00:03:21,268 いえ…。 そう…。 29 00:03:21,268 --> 00:03:26,139 世津子さん 知ってるんですか? ⚟(世津子)何を? 30 00:03:26,139 --> 00:03:30,777 エイスケさんの女の人です。 パトロンです。 31 00:03:30,777 --> 00:03:36,583 ⚟(世津子)さあ 知らないわ。 そうですか…。 32 00:03:36,583 --> 00:03:41,288 はい。 ありがとうございます。 33 00:03:41,288 --> 00:03:44,791 ねえ あぐりさん…。 はい。 34 00:03:47,160 --> 00:03:51,298 いい機会だから 言うけど…。 はい。 35 00:03:51,298 --> 00:03:56,169 あなた 岡山へ 帰った方がいいわ。 えっ? 36 00:03:56,169 --> 00:04:01,942 エイスケはね 今 一番 大事なところにいるの。 37 00:04:01,942 --> 00:04:06,746 物書きが 乗り越えなきゃならない 壁に ぶち当たってるの。 38 00:04:06,746 --> 00:04:12,619 あなたが来たことで その壁が 乗り越えられるかと 思ったわ。 39 00:04:12,619 --> 00:04:16,389 でも 今は 違う。 あなたが そばにいると➡ 40 00:04:16,389 --> 00:04:19,760 エイスケは 壁を 乗り越えられないの。 41 00:04:19,760 --> 00:04:23,930 あなたがね 本当に エイスケのことを 思っているんだったら➡ 42 00:04:23,930 --> 00:04:27,801 お願いだから 岡山へ 帰ってあげて…。 43 00:04:27,801 --> 00:04:33,273 私 岡山へは 帰りません。 あぐりさん…。 44 00:04:33,273 --> 00:04:36,610 今が 大事なのは エイスケさんだけじゃないんです。 45 00:04:36,610 --> 00:04:41,281 私の子供も 大事なんです。 お義父様や お義母様だって…。 46 00:04:41,281 --> 00:04:45,152 それに 義弟の勇造さんの 将来が かかってるんです。 47 00:04:45,152 --> 00:04:48,054 みんな 辛い事に なってしまうんです。 48 00:04:48,054 --> 00:04:51,992 だから 私 エイスケさんには ちゃんと 話し合うために➡ 49 00:04:51,992 --> 00:04:54,427 岡山に 帰ってほしいんです。 50 00:04:54,427 --> 00:04:57,798 かわいそうな エイスケ…。 51 00:04:57,798 --> 00:05:01,768 誰も あの子の未来を 考えてあげないなんて…。 52 00:05:01,768 --> 00:05:04,237 かわいそすぎるわ。 53 00:05:04,237 --> 00:05:07,240 私は ちゃんと エイスケさんのことも考えてます! 54 00:05:07,240 --> 00:05:10,377 考えてないわ! 考えてます! 55 00:05:10,377 --> 00:05:16,082 いい? あなたが いると エイスケは 心が やすまるの。 56 00:05:16,082 --> 00:05:18,018 それは いい事のように思うけど➡ 57 00:05:18,018 --> 00:05:20,954 でも 物書きには それは よい事ではないの。➡ 58 00:05:20,954 --> 00:05:25,792 常に 心が波立っている事で 物が書けるのよ。 59 00:05:25,792 --> 00:05:28,595 私は みんなの幸福を 考えてるんです。 60 00:05:28,595 --> 00:05:31,932 はあ しょうがないわねえ もう…。 失礼します! 61 00:05:31,932 --> 00:05:36,403 お待ちなさい! ほら お金は…。 62 00:05:36,403 --> 00:05:39,272 やっぱり 結構です! 63 00:05:39,272 --> 00:05:41,274 (ドアベル) 64 00:05:45,145 --> 00:05:50,984 エイスケさん…。 エイスケさん? 65 00:05:50,984 --> 00:05:53,787 <「お金は結構です」と 世津子に➡ 66 00:05:53,787 --> 00:05:55,722 タンカを 切ったまでは よかったのですが➡ 67 00:05:55,722 --> 00:05:57,657 あぐりには 実際のところ➡ 68 00:05:57,657 --> 00:06:02,229 東京に頼れる人は ほかに いなかったのでした> 69 00:06:02,229 --> 00:06:05,732 ああ おなかへったなあ…。 70 00:06:14,741 --> 00:06:17,244 (春子)あら…。 71 00:06:19,246 --> 00:06:23,583 どこか お出かけですか? うん。 ちょっと 銀行までね。 72 00:06:23,583 --> 00:06:26,620 銀行…。 お金 作ってくるのよ。 73 00:06:26,620 --> 00:06:30,090 ここんとこ不景気でしょ。 その上 雨が続いたもんだから。 74 00:06:30,090 --> 00:06:32,025 とうちゃんの稼ぎが 悪くてね。 75 00:06:32,025 --> 00:06:34,761 そのくせ よそに 女 作ったりするんだから➡ 76 00:06:34,761 --> 00:06:37,797 たまったもんじゃないわよ! 77 00:06:37,797 --> 00:06:42,269 何か用? いえ… 何でもありません。 78 00:06:42,269 --> 00:06:46,273 もしかして お金のこと? 79 00:06:48,775 --> 00:06:52,646 ねえ 一緒に 銀行 行こうか? 80 00:06:52,646 --> 00:07:00,887 ♬~ 81 00:07:00,887 --> 00:07:05,358 変わった銀行ですね。 人呼んで 「一 六銀行」ね。 82 00:07:05,358 --> 00:07:08,228 一 六銀行? 一と六たすと 七でしょう➡ 83 00:07:08,228 --> 00:07:12,732 だから 質屋のこと みんな そう呼ぶの。 へえ…。 84 00:07:12,732 --> 00:07:15,368 8円50銭ってとこだな。 85 00:07:15,368 --> 00:07:18,738 ちょっと! もうちょっと なんとかしておくれよ。 86 00:07:18,738 --> 00:07:21,241 これね 私が 嫁入りの時に 持ってきたんだよ。 87 00:07:21,241 --> 00:07:23,176 一回きり 使ってないんだよ! 88 00:07:23,176 --> 00:07:25,111 西陣よ! 西陣! 89 00:07:25,111 --> 00:07:30,383 西陣つってもね ピンからキリまで あるんだからね。 90 00:07:30,383 --> 00:07:36,923 それじゃ 9円でどう? それが いやなら うちは結構ですよ。 91 00:07:36,923 --> 00:07:41,094 あ~! 全く しみったれた銀行だよ。 92 00:07:41,094 --> 00:07:44,597 はい。 じゃ これね。 はい。 93 00:07:48,401 --> 00:07:51,104 (質屋の主人)そっちの お嬢さんは? 94 00:07:51,104 --> 00:07:55,275 ああ… 私は➡ 95 00:07:55,275 --> 00:07:59,112 これで お願いします。 96 00:07:59,112 --> 00:08:04,818 ほう…。 こりゃ いいもんだねえ。 97 00:08:10,223 --> 00:08:12,559 本当に ごちそうになって いいの? 98 00:08:12,559 --> 00:08:17,430 はい。 おかげで お金できましたから。 悪いわね。 99 00:08:17,430 --> 00:08:21,735 春子さん。 何?さっき 言ってましたよね? 100 00:08:21,735 --> 00:08:24,771 ご主人様が よそに 女の人って…。 101 00:08:24,771 --> 00:08:27,607 ああ 昔の事だけどね。 102 00:08:27,607 --> 00:08:32,245 千葉の方に 大きな家1軒 任されてさ お金が ド~ンと入ったのよ。 103 00:08:32,245 --> 00:08:36,750 そしたら あのバカ! いい気になって 芸者に いれあげちまってさ➡ 104 00:08:36,750 --> 00:08:40,587 もう全然 うちに帰ってこなくなってさあ。 それで? 105 00:08:40,587 --> 00:08:44,924 ふたつきもしないで 帰ってきたけどね。 よかったですね。 106 00:08:44,924 --> 00:08:49,763 うちの姑… ばあちゃん あれがね 私に言ったのよ。 107 00:08:49,763 --> 00:08:54,601 「亭主が 女を作ったら 温かい御飯で 出迎えてやれ」ってさ。 108 00:08:54,601 --> 00:08:56,536 温かい御飯? (春子)うん。 109 00:08:56,536 --> 00:08:59,472 「百の説教より それが効くのよ」って。 110 00:08:59,472 --> 00:09:03,877 「女と切れるには 家庭の味を 思い出させるのが 一番だ」ってね。 111 00:09:03,877 --> 00:09:07,881 そっか…。 温かい御飯か…。 112 00:09:13,219 --> 00:09:15,889 これ あぐりが作ったの? そうです。 113 00:09:15,889 --> 00:09:20,226 お隣の春子さんに 教えてもらったの。 ふ~ん。 114 00:09:20,226 --> 00:09:24,097 あれ? お金は? ちょっと 銀行で。 115 00:09:24,097 --> 00:09:27,367 銀行…。 さあ 食べましょう。 116 00:09:27,367 --> 00:09:31,171 ああ。 頂きます。 頂きます。 117 00:09:38,912 --> 00:09:41,915 どう? 118 00:09:44,250 --> 00:09:48,588 うん。 うまい!よかった。 これから 毎晩➡ 119 00:09:48,588 --> 00:09:52,892 温かい御飯 作りますからね。 いいねえ。 120 00:09:57,263 --> 00:09:59,933 こんばんは。 (編集者)ママ…。➡ 121 00:09:59,933 --> 00:10:02,602 この前の 燐太郎君の詩集ね➡ 122 00:10:02,602 --> 00:10:06,940 あれ 編集長が 気に入ってさ 近いうちに うちで出版する事になったよ。 123 00:10:06,940 --> 00:10:10,410 まあ 本当ですか? 案外 売れるんじゃないか 彼。 124 00:10:10,410 --> 00:10:12,946 あっ じゃ 早速 連絡してやります。 125 00:10:12,946 --> 00:10:16,816 そうしてやんなさい。 あ いつものね。 あっ はい。 126 00:10:16,816 --> 00:10:21,621 それから あの~… 望月エイスケの方は どうでした? 127 00:10:21,621 --> 00:10:25,792 ああ これね…。 駄目ですか…。 128 00:10:25,792 --> 00:10:31,130 う~ん。 文体に 以前のような 切れ味がなくなったなあ。 129 00:10:31,130 --> 00:10:35,635 触っただけで スッと切れるような 文章を書いてたんだけどね 彼…。 130 00:10:35,635 --> 00:10:40,306 ここんとこ どうしたのかね…。 これじゃあ とてもね…。 131 00:10:40,306 --> 00:10:44,144 編集長は 何て言ってるんですか? 132 00:10:44,144 --> 00:10:47,180 編集長には 見せられませんよ とても こんなんじゃ。 133 00:10:47,180 --> 00:10:50,316 だったら 書き直させます。 いや しかしね…。 134 00:10:50,316 --> 00:10:52,252 エイスケの才能は 非凡です。 135 00:10:52,252 --> 00:10:56,189 今 ちょっと 壁にぶつかってるけど それを乗り越えたら➡ 136 00:10:56,189 --> 00:11:02,695 彼は 一流の作家になります。 私は そう見込んでいるの。 137 00:11:04,397 --> 00:11:08,601 お願いです。 1週間 お時間下さい。 138 00:11:10,203 --> 00:11:15,141 (森)この度 我が敬愛すべき仲間である 辻村燐太郎君が➡ 139 00:11:15,141 --> 00:11:21,281 詩集 「蒼の時」を 文潮出版から 上梓されることに 相なりました。➡ 140 00:11:21,281 --> 00:11:25,285 乾杯! (一同)乾杯! 141 00:11:29,155 --> 00:11:32,425 (鈴音)燐太郎さん おめでとう。 (燐太郎)ありがとう。 142 00:11:32,425 --> 00:11:35,628 もう 私 嬉しくて お座敷 抜け出してきちゃった。 143 00:11:35,628 --> 00:11:37,564 スズメ 今日は また一段と綺麗だな。 144 00:11:37,564 --> 00:11:40,133 やればできる! ありがとう。 145 00:11:40,133 --> 00:11:44,304 (ドアベル) あ おにいちゃん! 146 00:11:44,304 --> 00:11:47,640 先を越されたな 燐太郎。 147 00:11:47,640 --> 00:11:49,976 おめでとう。 おめでとうございます。 148 00:11:49,976 --> 00:11:51,978 ありがとう。 149 00:11:55,648 --> 00:11:58,985 あの~… この前は 失礼しました。 150 00:11:58,985 --> 00:12:03,256 いいえ。 私 あなたが憎くって 言ってんじゃないのよ。 151 00:12:03,256 --> 00:12:06,159 だから 気にしないでね。 はい。 152 00:12:06,159 --> 00:12:11,965 私はね エイスケに 世に出てもらいたいの。 153 00:12:11,965 --> 00:12:14,267 今日の燐太郎君のように➡ 154 00:12:14,267 --> 00:12:17,270 みんなで エイスケを 祝福してあげたい。 155 00:12:17,270 --> 00:12:20,406 ただ そう思ってるだけなのよ。 ☎ 156 00:12:20,406 --> 00:12:22,342 はい。 157 00:12:22,342 --> 00:12:28,147 それはそうと お金 大丈夫なの? はい。 一 六銀行で なんとか。 158 00:12:28,147 --> 00:12:32,018 え? 一 六銀行…? 159 00:12:32,018 --> 00:12:35,888 (高山)ママ 文潮出版の 峰岸さんから電話入ってます。 160 00:12:35,888 --> 00:12:39,292 ゆっくりしてってね。 はい。 161 00:12:39,292 --> 00:12:50,103 ♬~ 162 00:12:56,843 --> 00:12:59,445 1週間で 書き直しなさい。 163 00:12:59,445 --> 00:13:04,284 そしたら 文潮出版の編集長が 読んでくれるそうよ。 164 00:13:04,284 --> 00:13:07,920 みんな あなたの才能に 期待しているの。 165 00:13:07,920 --> 00:13:14,227 だから 書きなさい! 今 書かないと あなた 駄目になるわよ。 166 00:13:24,370 --> 00:13:27,774 (世津子)エイスケ…。 167 00:13:27,774 --> 00:13:31,611 あぐり 帰ろうか…。 168 00:13:31,611 --> 00:14:04,911 ♬~ 169 00:14:04,911 --> 00:14:10,616  回想  (世津子)常に 心が波立っている事で 物が書けるのよ。 170 00:14:12,251 --> 00:14:16,089 (ドアベル) あら いらっしゃい。 171 00:14:16,089 --> 00:14:18,891 こんにちは。 172 00:14:21,260 --> 00:14:24,764 どう? エイスケ 書いてる? 173 00:14:24,764 --> 00:14:29,936 お願いします。 エイスケさんに いい小説 書かせてあげて下さい。 174 00:14:29,936 --> 00:14:32,271 私 何もできません。 175 00:14:32,271 --> 00:14:36,609 私じゃ エイスケさんの力に なれないんです。 176 00:14:36,609 --> 00:14:40,947 世津子さんの言うとおりかもしれません。 私が そばにいると➡ 177 00:14:40,947 --> 00:14:44,617 エイスケさん 壁を 乗り越えられないのかもしれない。 178 00:14:44,617 --> 00:14:49,288 だから 私 岡山へ帰ります。 179 00:14:49,288 --> 00:14:53,292 エイスケさんのこと よろしく お願いします。 180 00:14:53,292 --> 00:14:57,096 ♬~