1 00:00:02,202 --> 00:00:21,555 ♬~ (テーマ音楽) 2 00:00:21,555 --> 00:00:33,567 ♬~ 3 00:01:20,113 --> 00:01:24,618 <健太郎たちが 岡山から上京し 2週間が たちました。➡ 4 00:01:24,618 --> 00:01:27,955 林の家は いまだに決まらず あぐりを中心とした➡ 5 00:01:27,955 --> 00:01:31,291 奇妙な同居生活が 続いていました> 6 00:01:31,291 --> 00:01:34,194 (健太郎)林さん。 (林)はい。 7 00:01:34,194 --> 00:01:39,800 新しい家の方なんじゃが どうなったかいの? 8 00:01:39,800 --> 00:01:42,836 ああ 今度 中野の方に 社宅が出来るそうで➡ 9 00:01:42,836 --> 00:01:44,972 それが出来たら 入れてもらう事に。 10 00:01:44,972 --> 00:01:48,308 ほう そりゃ えかったの。 (林)はい。 11 00:01:48,308 --> 00:01:51,979 …で その新しい社宅っていうのは いつ 出来るんじゃ? 12 00:01:51,979 --> 00:01:55,315 早ければ 来年の春だそうです。 13 00:01:55,315 --> 00:01:57,818 来年? はい。 14 00:01:57,818 --> 00:02:01,254 あんた それまで ここに いるつもりかいの? 15 00:02:01,254 --> 00:02:04,257 はい。 (健太郎)じゃけどの 林さん…。 16 00:02:04,257 --> 00:02:08,395 (あぐり)うちは 構いませんよ。 大人数で暮らした方が 楽しいし。 17 00:02:08,395 --> 00:02:13,233 私も楽しいです。 …なあ? (洋介)うん! 18 00:02:13,233 --> 00:02:16,770 いいじゃないですか。 困った時は お互いさまですよ。 19 00:02:16,770 --> 00:02:21,408 じゃがの あぐり 淳之介だって 出ていったままなんぞ。 20 00:02:21,408 --> 00:02:23,343 淳は どうせ 出ていく年ですから。 21 00:02:23,343 --> 00:02:25,278 すいません お代わり。 はい。 22 00:02:25,278 --> 00:02:28,181 (妻五郎)わしも…。 妻五郎! 23 00:02:28,181 --> 00:02:30,183 はい…。 24 00:02:32,152 --> 00:02:43,964 ♬~ 25 00:02:43,964 --> 00:02:49,136 場所はの この渋谷の駅から 歩いて すぐの所だ。 26 00:02:49,136 --> 00:02:52,439 今日 見てきたんじゃがの 広さも 十分じゃて。 27 00:02:52,439 --> 00:02:55,308 何よりも ええのは 人通りの多いことよな。 28 00:02:55,308 --> 00:02:57,310 商売には もってこいじゃ。 29 00:02:57,310 --> 00:03:02,115 相手が 売り急いどるけえの この相場の半額で ええそうじゃ。 30 00:03:02,115 --> 00:03:04,985 へえ~…。 どうじゃ? 気に入ったか? 31 00:03:04,985 --> 00:03:06,953 はい。 おお 相手が急いどるけえの➡ 32 00:03:06,953 --> 00:03:09,823 契約は 早い方がええぞ。 分かりました。 33 00:03:09,823 --> 00:03:12,092 早速 沢田さんに話してみます。 34 00:03:12,092 --> 00:03:15,395 ああ そうしたら ええ。 35 00:03:15,395 --> 00:03:19,766 (沢田)なるほど… これは 掘り出し物ですよ。 36 00:03:19,766 --> 00:03:25,105 この値段だと 相当格安ですね。 義父が 探してくれました。 37 00:03:25,105 --> 00:03:29,609 そうですか どうぞ 話を進めてください。 38 00:03:29,609 --> 00:03:33,780 はい! (世津子)あぐりさん ありがとう。 39 00:03:33,780 --> 00:03:37,284 御大 張り切ってる? はい。 40 00:03:41,655 --> 00:03:44,958 あぐりさん…。 どうしたんですか?これ…。 41 00:03:44,958 --> 00:03:48,762 「アン・ダグリッパの結婚」 望月エイスケ。 42 00:03:50,831 --> 00:03:57,304 「昭和15年 7月7日。 いとしの アン・ダグリッパ嬢に これを捧げる」。 43 00:03:57,304 --> 00:04:01,575 もし これが 望月エイスケの直筆なら 彼は 筆を折ってからも➡ 44 00:04:01,575 --> 00:04:04,377 小説を 書いていたことになる。 45 00:04:04,377 --> 00:04:10,250 これは 亡くなる2日前に 書き上げたものです。 46 00:04:10,250 --> 00:04:15,122 知らなかった…。 どこで これを? 47 00:04:15,122 --> 00:04:19,860 すいません。 淳之介君の 本棚にあったのを つい。 48 00:04:19,860 --> 00:04:27,601 いいんです。 この小説はね エイスケさんの 最後の叫びなんです。 49 00:04:27,601 --> 00:04:31,938 叫び…。 もともと あの人に➡ 50 00:04:31,938 --> 00:04:38,111 小説を書かせていたのは 人を無限に愛する心なんです。 51 00:04:38,111 --> 00:04:42,282 あの人は 誰でも 平等に愛していました。 52 00:04:42,282 --> 00:04:46,153 時々は よその女の人もね。 53 00:04:46,153 --> 00:04:51,291 でも 友達が 警察に追われたり 殺されたりして➡ 54 00:04:51,291 --> 00:04:55,962 エイスケさんの中に 人を憎む気持ちが 大きくなってくると➡ 55 00:04:55,962 --> 00:04:58,999 今までのようには 書けなくなった…。 56 00:04:58,999 --> 00:05:05,639 林さんは 「エイスケさんは 書くのをやめて 読者を裏切った」と おっしゃったけど➡ 57 00:05:05,639 --> 00:05:11,444 「むしろ 自分を偽って 書き続ける方が 読者を裏切る事になる」➡ 58 00:05:11,444 --> 00:05:18,919 エイスケさんは そう思ったんです。 だから 書くのをやめたんです。 59 00:05:18,919 --> 00:05:25,692 それでも エイスケさんは もう一度 人を 愛し続けようとしました。 60 00:05:25,692 --> 00:05:28,929 絶望を捨てて もう一度…。 61 00:05:28,929 --> 00:05:34,234 この小説は そんな エイスケさんの叫びなんです。 62 00:05:39,639 --> 00:05:42,943 林さん…。 63 00:05:42,943 --> 00:05:52,285 僕にも 望月エイスケの叫びが 聞こえてきました。 64 00:05:52,285 --> 00:05:57,424 この小説の中に…。 65 00:05:57,424 --> 00:06:00,227 彼は…。 66 00:06:00,227 --> 00:06:03,930 彼は 書いていたんですね。 67 00:06:08,935 --> 00:06:18,578 望月エイスケは… 誰も 裏切っていませんでした。 68 00:06:18,578 --> 00:06:25,252 (泣き声) 69 00:06:25,252 --> 00:06:28,922 ありがとう 林さん…。 70 00:06:28,922 --> 00:06:40,734 ♬~ 71 00:06:49,242 --> 00:06:52,779 (磯辺)お嬢様と 大飯食らいじゃ。 72 00:06:52,779 --> 00:06:58,652 ああ ゆうべのう 2人で 泣きながら 話しとったんじゃ。 73 00:06:58,652 --> 00:07:03,423 腹でも痛かったんじゃねえか? アホ。 大の男とおなごが➡ 74 00:07:03,423 --> 00:07:08,895 夜中に 手 取り合うて 泣いとりゃ 何かあるに 決まっとるんじゃ。 75 00:07:08,895 --> 00:07:11,364 何か あるのう…。 76 00:07:11,364 --> 00:07:16,202 (民子)誤解? 林さんのこと。 77 00:07:16,202 --> 00:07:22,575 あの人の部屋にね エイスケさんの小説 全部 置いてあったのよ。 78 00:07:22,575 --> 00:07:28,915 それでね 火事の時ね その小説を 何よりも 最初に持って逃げたの。 79 00:07:28,915 --> 00:07:33,386 林さん 言ってた 「これは 僕の宝物だ」って。 80 00:07:33,386 --> 00:07:35,455 知らなかったな…。 81 00:07:35,455 --> 00:07:40,760 林さんね エイスケさんの作品 心から愛してたのよ。 82 00:07:40,760 --> 00:07:47,267 だから エイスケさんが筆を折った事を 怒ってたんだと思うわ。 83 00:07:47,267 --> 00:07:51,137 この前ね エイスケさんが なぜ 小説書くのやめたか➡ 84 00:07:51,137 --> 00:07:53,773 そのことを お話ししたの。 85 00:07:53,773 --> 00:07:57,110 そしたら 林さん 分かってくれたのよ。 86 00:07:57,110 --> 00:08:00,880 「エイスケは 誰も 裏切ってなかった」って。 87 00:08:00,880 --> 00:08:07,220 そう…。 みんなも いつか 誤解が解けるわよ。 88 00:08:07,220 --> 00:08:13,226 <そんな あぐりに またまた事件が 起きたのは その翌朝の事でした> 89 00:08:14,894 --> 00:08:17,564 義父が 騙されてる? ええ。 90 00:08:17,564 --> 00:08:20,467 でも 土地を紹介したのは 義父が お世話した…。 91 00:08:20,467 --> 00:08:26,740 いやあ 疑ったのは 謝ります。 ただ こちらも ビジネスですからね。➡ 92 00:08:26,740 --> 00:08:30,243 念のため その建築業者を 調べさせて頂きました。 93 00:08:30,243 --> 00:08:34,581 そしたら 多額の借金を抱えて どうにもならないという情報が➡ 94 00:08:34,581 --> 00:08:37,484 入ってきたんです。 しかも➡ 95 00:08:37,484 --> 00:08:39,919 その渋谷の土地の所有者は➡ 96 00:08:39,919 --> 00:08:44,591 土地の売却など 誰にも 依頼していない事が 分かったんです。 97 00:08:44,591 --> 00:08:51,264 他人の土地をエサに おとうさまを 騙していたんですよ。 98 00:08:51,264 --> 00:08:56,136 これが 私の部下からの 報告書です。 99 00:08:56,136 --> 00:08:59,773 ♬~ 100 00:08:59,773 --> 00:09:02,342 お義父様…。 101 00:09:02,342 --> 00:09:07,213 (沢田)まあ 幸い 契約前だったので 助かりました。 102 00:09:07,213 --> 00:09:09,215 申し訳ありませんでした。 103 00:09:09,215 --> 00:09:14,721 そんなアホな… わしら 直接 地主に会うて 話したがな。 のう? 104 00:09:14,721 --> 00:09:18,892 そうじゃ 間違いなく 「売る」って 言いよったぞ。 なあ 大旦那様。 105 00:09:18,892 --> 00:09:25,365 あの男… 偽者だったんじゃ。 106 00:09:25,365 --> 00:09:27,434 偽者…。 くそったれが! 107 00:09:27,434 --> 00:09:30,570 どこへ行くんなら? あいつら 締め上げてくる! 108 00:09:30,570 --> 00:09:33,907 やめとけ 妻五郎。 じゃけど 大旦那様…。 109 00:09:33,907 --> 00:09:39,412 もう ええ…。 もう ええんじゃ。 110 00:09:41,081 --> 00:09:44,117 お義父様…。 あぐりお嬢様。 111 00:09:44,117 --> 00:09:53,126 ♬~ 112 00:09:55,261 --> 00:10:01,935 全くのう 年は とりとうないのう。 113 00:10:01,935 --> 00:10:05,405 仕事をすりゃあ 人の足を 引っ張るし➡ 114 00:10:05,405 --> 00:10:08,608 若い者には 煙たがられる。 115 00:10:08,608 --> 00:10:12,779 かといって おとなしくも しておれんし➡ 116 00:10:12,779 --> 00:10:18,651 ハハッ 全く 年寄りちゅうのは やっかいな生き物じゃ。 117 00:10:18,651 --> 00:10:22,956 フッ 何です? 御大らしくありませんね。 118 00:10:22,956 --> 00:10:25,625 ん? あの威勢のいい御大➡ 119 00:10:25,625 --> 00:10:27,660 どこ行っちゃったんですか? 120 00:10:27,660 --> 00:10:30,964 フフッ 遠い昔じゃ…。 121 00:10:30,964 --> 00:10:35,135 昔も今も ありません。 御大は 御大。 122 00:10:35,135 --> 00:10:37,804 何も変わっちゃ いませんよ。 123 00:10:37,804 --> 00:10:41,674 お前は 元気で ええのう。 124 00:10:41,674 --> 00:10:44,477 (笑い声) 125 00:10:46,980 --> 00:10:52,652 で… これから どうするつもりですか? 126 00:10:52,652 --> 00:11:00,460 おお 岡山へ帰っての… 光代が迎えに来るのでも➡ 127 00:11:00,460 --> 00:11:04,764 庭を眺めながら 待つわ。 ハハッ。 128 00:11:04,764 --> 00:11:07,967 そうですか…。 ああ。 129 00:11:09,602 --> 00:11:11,538 ねえ 御大…。 ん? 130 00:11:11,538 --> 00:11:16,242 こっちで 私と一緒に 暮らしますか? 131 00:11:18,111 --> 00:11:23,416 ハッ アホ言え。 フフッ。 光代が 化けて出るわ。 132 00:11:23,416 --> 00:11:29,422 フフッ ああ… そうでした。 フフフフ…。 133 00:11:31,124 --> 00:11:37,330 いや お前には いろいろ 世話になった。 134 00:11:40,433 --> 00:11:43,803 50年前と同じね。 135 00:11:43,803 --> 00:11:46,639 ん…? 136 00:11:46,639 --> 00:11:50,643 私を置いて 岡山へ帰ってしまうんだもの。 137 00:11:52,512 --> 00:11:57,984 そうか…。 そうじゃな。 138 00:11:57,984 --> 00:12:16,769 ♬~ 139 00:12:16,769 --> 00:12:23,643 お義父様…。 うむ。 ほう… きれいな月じゃの。 140 00:12:23,643 --> 00:12:29,849 ハハッ ほう 栗名月か…。 はい。 141 00:12:32,118 --> 00:12:34,954 名残の月じゃ…。 142 00:12:34,954 --> 00:12:39,292 ♬~ 143 00:12:39,292 --> 00:12:43,796 ああ ありがとう…。 おお… お前も 飲め。 144 00:12:43,796 --> 00:12:46,299 はい。 頂きます。 145 00:12:53,973 --> 00:12:57,844 おいしいです。 146 00:12:57,844 --> 00:13:05,084 「燗酒を 嫁と飲みつつ 名残月」。 147 00:13:05,084 --> 00:13:07,020 すてきです お義父様。 148 00:13:07,020 --> 00:13:13,593 ハハッ… いや わしは 幸せ者じゃ。 149 00:13:13,593 --> 00:13:18,765 こうしてのう 嫁と酒を酌み交わす。 150 00:13:18,765 --> 00:13:22,635 ああ ほんまに 幸せ者じゃ。 151 00:13:22,635 --> 00:13:26,639 私も 幸せ者です。 152 00:13:26,639 --> 00:13:29,776 あぐり…。 はい。 153 00:13:29,776 --> 00:13:35,281 ほんまに お前は よう 仕えてくれたな…。 154 00:13:35,281 --> 00:13:39,619 どうしたんです? お義父様ったら…。 155 00:13:39,619 --> 00:13:42,655 ハッ…。 156 00:13:42,655 --> 00:13:47,960 あっ さっきのは 違うわ。 違う? 157 00:13:47,960 --> 00:13:56,969 ああ 季語が2つじゃ。 しかものう 「燗酒」は冬で 「名残月」は秋じゃ。 158 00:13:56,969 --> 00:14:00,373 ハッハッハ…。 いいじゃないですか。 159 00:14:00,373 --> 00:14:03,743 現に こうやって 燗酒を 飲んでるんですから。 160 00:14:03,743 --> 00:14:10,249 すてきな俳句です。 「燗酒を 嫁と飲みつつ 名残月」。 161 00:14:10,249 --> 00:14:14,921 ハッハッ そうじゃな。 別に 気にせんでも ええか。 162 00:14:14,921 --> 00:14:18,591 はい。 さあさ。 163 00:14:18,591 --> 00:14:24,464 ♬~ 164 00:14:24,464 --> 00:14:26,466 お義父様…。 (健太郎)ん? 165 00:14:26,466 --> 00:14:31,104 今度の休みに みんなで 日光に 行きましょうよ。 166 00:14:31,104 --> 00:14:34,006 紅葉が とっても きれいなんですって。 167 00:14:34,006 --> 00:14:37,210 ほう ええな。 168 00:14:40,279 --> 00:14:45,618 <翌日 健太郎は あぐりに内緒で 岡山へ 帰っていったのでした。➡ 169 00:14:45,618 --> 00:14:49,789 この名残の月が 健太郎との 永遠の別れになるとは➡ 170 00:14:49,789 --> 00:14:53,292 この時の あぐりは 知る由もなかったのでした> 171 00:14:53,292 --> 00:14:57,296 ♬~