1 00:00:02,202 --> 00:00:06,406 (保本) <高熱を出して運び込まれた女 おたね> 2 00:00:09,409 --> 00:00:14,114 <おたねは 昔のことを忘れていた> 3 00:00:17,784 --> 00:00:23,957 私 随分 頭がはっきりしてきて➡ 4 00:00:23,957 --> 00:00:27,628 いろいろなことを思い出したんです。 5 00:00:27,628 --> 00:00:29,563 えっ。 6 00:00:29,563 --> 00:00:35,369 私は 相模のさる商家のご隠居様の所で➡ 7 00:00:35,369 --> 00:00:38,305 女中奉公しておりました。 8 00:00:38,305 --> 00:00:42,142 (新出)相模…。 9 00:00:42,142 --> 00:00:45,178 私は 13年間➡ 10 00:00:45,178 --> 00:00:50,851 住み込みで その方の身の回りのお世話を…。 11 00:00:50,851 --> 00:00:55,155 それは いいお方でした。 12 00:00:55,155 --> 00:01:02,596 でも その方が亡くなり 新しい仕事を探しに江戸に出てきて➡ 13 00:01:02,596 --> 00:01:07,467 宿に泊まっているうちに 病になってしまったんです。 14 00:01:07,467 --> 00:01:10,938 そして ここへ。 15 00:01:10,938 --> 00:01:16,276 それより前は どうしていたんだ? 16 00:01:16,276 --> 00:01:20,480 それが 分からないんです。 17 00:01:24,618 --> 00:01:27,287 13年前のある日➡ 18 00:01:27,287 --> 00:01:34,628 私は 宿場近くの浜に倒れていたそうです。 19 00:01:34,628 --> 00:01:40,133 それを ご隠居様は見つけてくださいました。 20 00:01:40,133 --> 00:01:48,642 私は 自分が どこの誰とも 何も思い出せなかったのです。 21 00:01:48,642 --> 00:01:50,978 そうか…。 22 00:01:50,978 --> 00:01:54,848 ご隠居様の所では 穏やかに暮らせ➡ 23 00:01:54,848 --> 00:02:02,623 もう昔のことは 思い出さなくてもよいと 思っていました。 24 00:02:02,623 --> 00:02:04,925 でも 今は…。 25 00:02:04,925 --> 00:02:11,098 思い出したいのか? はい。 26 00:02:11,098 --> 00:02:16,403 でも それは 何か恐ろしいような気も…。 27 00:02:16,403 --> 00:02:20,107 急ぐことはない。 28 00:02:20,107 --> 00:02:23,777 とにかく 今は ゆっくりと養生することだ。 29 00:02:23,777 --> 00:02:28,615 昔のことより 大事なのは これからだ。 30 00:02:28,615 --> 00:02:30,617 はい。 31 00:02:34,421 --> 00:02:36,790 どうだ…➡ 32 00:02:36,790 --> 00:02:41,128 ここで働いてみないか? えっ? 33 00:02:41,128 --> 00:02:45,298 軽い仕事をしながら 養生すればいい。 34 00:02:45,298 --> 00:02:56,910 ♬~ 35 00:02:56,910 --> 00:02:59,813 あら いい手つきだね。 36 00:02:59,813 --> 00:03:02,716 ああ。 頼もしいわね。 37 00:03:02,716 --> 00:03:05,919 おうおう 仲良くやってるかい? 38 00:03:05,919 --> 00:03:10,390 津川先生 どうしたんですか? また つまみ食いでもしに来たんですか? 39 00:03:10,390 --> 00:03:14,761 いや 新入りのおたねが いびられてないか心配で。 40 00:03:14,761 --> 00:03:16,797 まあ…。 (2人)はあ? 41 00:03:16,797 --> 00:03:19,633 (お常)邪魔! (お雪)あっち行ってください! 42 00:03:19,633 --> 00:03:23,637 そんな気性だから心配になるんだ。 43 00:03:27,774 --> 00:03:31,278 ⚟ああ? 緩い? ⚟ああ。 ほどけちまったよ。 44 00:03:31,278 --> 00:03:34,114 ⚟頭も寝相も悪いから ほどけちまうんだよ。 45 00:03:34,114 --> 00:03:37,150 また 叱られるぞ。 何だと? 46 00:03:37,150 --> 00:03:40,787 直しますからね。 こちらにお掛けください。 47 00:03:40,787 --> 00:03:43,423 あんた 直せんのかい?➡ 48 00:03:43,423 --> 00:03:45,492 すまねえな。 49 00:03:45,492 --> 00:03:50,130 へえ~ あんた 随分 手際がいいね。 50 00:03:50,130 --> 00:03:54,968 <こうして おたねは 養生所で働くことになった> 51 00:03:54,968 --> 00:04:02,576 ♬~ 52 00:04:02,576 --> 00:04:13,920 ♬~ 53 00:04:13,920 --> 00:04:17,257 ん! えっ? 54 00:04:17,257 --> 00:04:20,594 何だ? これは。 何か 変なものでも? 55 00:04:20,594 --> 00:04:25,465 うまい! (田山)え? 56 00:04:25,465 --> 00:04:28,935 確かに うまい。 腕を上げたな お雪。 57 00:04:28,935 --> 00:04:32,606 いいえ。 それは おたねさんが作ったんですよ。 58 00:04:32,606 --> 00:04:34,541 やはり そうか。 何ですか? 59 00:04:34,541 --> 00:04:39,279 あっ いやいや…。 ハハハ 去定先生。ん? 60 00:04:39,279 --> 00:04:44,151 おたねを ここで働かせてやって よかったですね。フン…。 61 00:04:44,151 --> 00:04:47,154 このまま 身も心も健やかになってゆけば➡ 62 00:04:47,154 --> 00:04:50,290 いずれ おたねの失われた記憶も 戻るのでは? 63 00:04:50,290 --> 00:04:52,959 13年もの間 戻らなかったんだ。 64 00:04:52,959 --> 00:04:58,298 そう やすやすとはいかん。 はい。 65 00:04:58,298 --> 00:05:01,234 おたねは お静の世話も よくやってくれています。 66 00:05:01,234 --> 00:05:03,236 お静? ああ あの目の見えない。 67 00:05:03,236 --> 00:05:06,740 おたねは 病人の扱いに慣れているようです。 68 00:05:06,740 --> 00:05:08,775 そうか。 69 00:05:08,775 --> 00:05:14,281 では以前も 病人の世話をしていた ということなのだろうか…。 70 00:05:18,451 --> 00:05:23,256 そこに 段がありますからね。 お気を付けください。 はい。 71 00:05:23,256 --> 00:05:25,926 <目の見えない女 お静は➡ 72 00:05:25,926 --> 00:05:28,395 腕をけがして 入所していた> 73 00:05:28,395 --> 00:05:31,198 そして しばらくこちらです。 74 00:05:33,099 --> 00:05:38,405 <そんな中 新たな病人が運び込まれた> 75 00:05:42,609 --> 00:05:46,279 しばらく 気配がないと思って のぞいてみたら➡ 76 00:05:46,279 --> 00:05:49,182 うちん中で倒れてて。 77 00:05:49,182 --> 00:05:52,953 傷は大したことないが 顔色が悪いな。 78 00:05:52,953 --> 00:05:55,155 つぐみ。 はい。 79 00:05:58,291 --> 00:06:00,994 滋養のあるものを食べているか? 80 00:06:03,563 --> 00:06:05,899 (お菊)先生…。 81 00:06:05,899 --> 00:06:08,935 ん? 82 00:06:08,935 --> 00:06:16,243 4~5日 食べずとも 人は死ねないものなんですね。 83 00:06:16,243 --> 00:06:19,746 飢えて死ぬつもりだったのか? 84 00:06:22,048 --> 00:06:28,955 <訳を聞いても お菊は それきり 何も語ろうとはしなかった> 85 00:06:28,955 --> 00:06:32,092 なんとか 少しでも食べてもらわなくっちゃね。 86 00:06:32,092 --> 00:06:37,597 はい。 どんなに体が弱っていても おいしく食べられるものを…。 87 00:06:37,597 --> 00:06:39,532 よいしょっと。 88 00:06:39,532 --> 00:06:52,612 ♬~ 89 00:06:52,612 --> 00:06:58,918 <2人の奮闘もむなしく お菊は 何も食べようとはしなかった> 90 00:07:04,057 --> 00:07:09,229 つぐみ これから往診だと聞いたんだが。 はい。 91 00:07:09,229 --> 00:07:14,734 根津の方に行くんだったら お菊の長屋にも行ってみてくれないか? 92 00:07:14,734 --> 00:07:18,605 その…。 お菊を知る者から話を聞いてきます。 93 00:07:18,605 --> 00:07:23,376 ああ 頼む。 言われなくても分かっています。 94 00:07:23,376 --> 00:07:26,179 行きましょう。 (竹造)へい。 95 00:07:30,150 --> 00:07:32,919 全く… 相変わらずですね。 96 00:07:32,919 --> 00:07:36,756 ああ。 だが頼りになる。 97 00:07:36,756 --> 00:07:40,460 常に落ち着いていて 往診も一人で任せられる。 98 00:07:43,263 --> 00:07:46,766 あの… つぐみは? 99 00:07:46,766 --> 00:07:48,702 往診に行ったぞ。 100 00:07:48,702 --> 00:07:54,107 一人でですか? 成長したことだ。 101 00:07:54,107 --> 00:07:57,978 私の背中を見て 多くを学んできたからでしょうね。 102 00:07:57,978 --> 00:08:00,880 ハハハ…。 103 00:08:00,880 --> 00:08:05,552 こっちも 相変わらずですね。 ああ。 104 00:08:05,552 --> 00:08:07,854 フフフ…。 105 00:08:11,057 --> 00:08:13,093 嫁ぎ先から 追い出された? 106 00:08:13,093 --> 00:08:16,563 はい。 お菊は 早くに夫に死なれたあと➡ 107 00:08:16,563 --> 00:08:19,366 姑に疎まれて 家を追い出されたと。 108 00:08:19,366 --> 00:08:21,434 ほかに お菊に身寄りは? 109 00:08:21,434 --> 00:08:25,572 親は 幼い頃に死んで きょうだいも いないようです。 110 00:08:25,572 --> 00:08:30,443 では お菊は 一人きりで生きてきたということか。 111 00:08:30,443 --> 00:08:32,445 嫁ぎ先を追い出されてからは➡ 112 00:08:32,445 --> 00:08:37,250 長屋で一人 内職をしながら暮らしていたようです。 113 00:08:37,250 --> 00:08:40,120 周りの人とも ほとんど関わりを持とうとせず➡ 114 00:08:40,120 --> 00:08:43,123 世捨て人のような暮らしぶりだったと。 115 00:08:45,959 --> 00:08:49,796 このまま何も食べなければ お菊は死んでしまう。 116 00:08:49,796 --> 00:08:53,099 何か食べさせる手だてはないものか。 117 00:08:53,099 --> 00:08:55,769 去定先生。 何だ? 118 00:08:55,769 --> 00:08:58,104 食べぬ病人に食べさせる➡ 119 00:08:58,104 --> 00:09:01,875 それは 医者の務めなのでしょうか? つぐみ…。 120 00:09:01,875 --> 00:09:05,745 あえて ものを食べぬのは 気の病から来るものだ。 121 00:09:05,745 --> 00:09:10,583 病を治すのは 医者の務めだろう。 分かっています。 122 00:09:10,583 --> 00:09:17,057 でも… 時々 分からなくなることがあります。 123 00:09:17,057 --> 00:09:20,894 医者は どこまで病人に寄り添えばいいのか。 124 00:09:20,894 --> 00:09:26,066 どこまですれば その務めは終わるのか。 125 00:09:26,066 --> 00:09:30,937 それは お前が自分で見極めるしかない。 え? 126 00:09:30,937 --> 00:09:32,939 医者として どうあるべきか➡ 127 00:09:32,939 --> 00:09:37,077 自分の心に問いかけて 答えを出すよりほかはない。 128 00:09:37,077 --> 00:09:40,080 わしに聞くことではない。 129 00:09:42,248 --> 00:09:47,387 <去定先生が なぜ つぐみを 突き放すようなことを言うのか➡ 130 00:09:47,387 --> 00:09:52,892 私は この時 まだ その訳が分からなかった> 131 00:10:01,267 --> 00:10:03,937 (大岡)医学校を つくろうと思っておる。 132 00:10:03,937 --> 00:10:06,973 お主が頭取になるんだ。 133 00:10:06,973 --> 00:10:09,609 私が養生所を離れるからには➡ 134 00:10:09,609 --> 00:10:14,781 若い医者たちに 全てを任せる見極めが つかなければなりません。 135 00:10:14,781 --> 00:10:17,584 はあ~…。 136 00:10:23,289 --> 00:10:29,162 (おたね)しばらく まっすぐですよ。 お気を付けて。 137 00:10:29,162 --> 00:10:32,799 こちらの先生は みんな 優しいのね。 138 00:10:32,799 --> 00:10:34,734 はい。 139 00:10:34,734 --> 00:10:42,442 私は幸せ者ね。 ここで養生できるなんて。 140 00:10:42,442 --> 00:10:46,813 (せきこみ) 141 00:10:46,813 --> 00:10:50,149 (おたね)大丈夫ですか? (鈴が落ちる音) 142 00:10:50,149 --> 00:10:52,452 (せきこみ) 143 00:10:52,452 --> 00:10:56,823 ああ…。 144 00:10:56,823 --> 00:10:59,859 これですか? 145 00:10:59,859 --> 00:11:04,864 アハハ…。 いい音ですね フフフ。 146 00:11:09,936 --> 00:11:12,772 どうかしましたか? 147 00:11:12,772 --> 00:11:16,776 誰か いなさるんですか? 148 00:11:22,782 --> 00:11:26,085 何か? いえ…。 149 00:11:31,291 --> 00:11:34,994 参りましょうか。 150 00:11:42,802 --> 00:11:47,807 (おたね)ゆっくりで大丈夫ですよ。 (お静)はい。 151 00:11:53,446 --> 00:11:57,951 次は お漬物です。 はい。 152 00:12:05,758 --> 00:12:09,762 おいしいわね。 (おたね)よかったです。 153 00:12:11,931 --> 00:12:14,734 (おたね)これは おひたしですよ。 154 00:12:18,605 --> 00:12:24,477 あっ お菊さん 今日こそは しっかり食べてくださいね。 155 00:12:24,477 --> 00:12:48,268 ♬~ 156 00:13:15,395 --> 00:13:17,397 よし。 157 00:13:19,265 --> 00:13:21,200 あたしの漬物のおかげだよ。 158 00:13:21,200 --> 00:13:23,603 あたしのみそ汁です。 おうおう 何か いいこと あったのかい? 159 00:13:23,603 --> 00:13:25,638 飯 飯。 160 00:13:25,638 --> 00:13:28,408 みんなが津川先生みたいだったら 楽なのにね。 161 00:13:28,408 --> 00:13:30,777 ええ。 味付けを しくじっても➡ 162 00:13:30,777 --> 00:13:33,479 「おいしい おいしい」って 食べちゃうんだから。 163 00:13:48,127 --> 00:13:50,430 ほら ほら ほら ほら 急いで 急いで 急いで。 164 00:13:50,430 --> 00:13:52,965 早くしないと 夕飯の下ごしらえ 間に合わないよ。 165 00:13:52,965 --> 00:13:55,301 は~い! あっ! えっ! 166 00:13:55,301 --> 00:13:59,138 あっ ちょっと 何やってんだい 余計な仕事 増やして! 167 00:13:59,138 --> 00:14:01,741 もうバカなんだから バカなんだから もう! 168 00:14:01,741 --> 00:14:05,078 おたねさんは? ああ お静さんのお世話に。 169 00:14:05,078 --> 00:14:09,749 ああ… そうだった もう…。 あっちもこっちも忙しくって も~う! 170 00:14:09,749 --> 00:14:11,784 (お菊)あの…。 (お常)えっ?➡ 171 00:14:11,784 --> 00:14:15,254 ああ お菊さん。 172 00:14:15,254 --> 00:14:18,091 随分 顔の色よくなったね。 173 00:14:18,091 --> 00:14:20,927 私たちのごはんが 口に合ったんですね。 174 00:14:20,927 --> 00:14:23,596 はい おかげさまで。 175 00:14:23,596 --> 00:14:26,265 その分なら すぐ ここを出られるからね。 176 00:14:26,265 --> 00:14:28,768 はい…。 177 00:14:28,768 --> 00:14:32,939 あの…。 178 00:14:32,939 --> 00:14:36,943 あの方のお世話を させていただきたいのです。 179 00:14:42,648 --> 00:14:48,154 お静。 おたねに代わって 今日から お前の世話をする人だ。 180 00:14:54,127 --> 00:14:58,998 目の見えない年寄りの世話で すみません。 181 00:14:58,998 --> 00:15:01,567 いえ…。 182 00:15:01,567 --> 00:15:04,871 あの… あなたの名は? 183 00:15:07,440 --> 00:15:10,943 秋。 えっ? 184 00:15:13,079 --> 00:15:15,014 秋です。 185 00:15:15,014 --> 00:15:17,950 お秋さん? 186 00:15:17,950 --> 00:15:21,154 はい。 187 00:15:26,092 --> 00:15:29,128 お菊が名を偽った? 188 00:15:29,128 --> 00:15:35,401 我々にも これからは 菊ではなく 秋と呼んでほしいと。 189 00:15:35,401 --> 00:15:40,239 訳を聞いても またしても 何も言わずじまいで。 190 00:15:40,239 --> 00:15:43,042 ⚟(つぐみ)戻りました。 おお 入れ。 191 00:15:44,944 --> 00:15:48,281 つぐみ 随分と遅かったな。 192 00:15:48,281 --> 00:15:51,951 往診の帰りに お静の長屋に行ってきました。 193 00:15:51,951 --> 00:15:54,420 お静の長屋に? はい。 194 00:15:54,420 --> 00:15:59,258 そうか 座れ。 195 00:15:59,258 --> 00:16:02,562 お静は お菊の姑のようです。 196 00:16:02,562 --> 00:16:04,597 えっ? では➡ 197 00:16:04,597 --> 00:16:08,067 お菊を家から追い出したのは お静ということか? 198 00:16:08,067 --> 00:16:10,002 そうです。➡ 199 00:16:10,002 --> 00:16:12,238 ほかに行く当てのないことを 知っていながら➡ 200 00:16:12,238 --> 00:16:15,074 情け容赦なく お菊を追い出したと。 201 00:16:15,074 --> 00:16:17,577 おいしいわ。 202 00:16:21,948 --> 00:16:26,085  回想 出ておいきよ。 203 00:16:26,085 --> 00:16:28,387 さっさと行っちまいな。 204 00:16:28,387 --> 00:16:32,258 お前の顔なんか もう二度と見たくないんだよ! 205 00:16:32,258 --> 00:16:34,260 (お菊)おっ母さん! 206 00:16:39,131 --> 00:16:41,267 お秋さん? 207 00:16:41,267 --> 00:16:43,569 はい。 208 00:16:45,271 --> 00:16:48,941 では なぜ お菊は お静の世話をしたいと言ったのだ。 209 00:16:48,941 --> 00:16:50,877 恨んでも おかしくない相手を。 210 00:16:50,877 --> 00:16:53,779 それは分かりませんが…。 211 00:16:53,779 --> 00:16:56,682 もしかして…。 何だ? 212 00:16:56,682 --> 00:16:59,118 お菊は お静に害をなすつもりで➡ 213 00:16:59,118 --> 00:17:02,021 だから あえて 世話をしたいと近づいて…。 214 00:17:02,021 --> 00:17:03,956 まさか…。 215 00:17:03,956 --> 00:17:09,762 いや 害をなすつもりなら わざわざ世話などしない。 216 00:17:09,762 --> 00:17:14,233 恨む思いだけでは 世話は できぬだろう。 217 00:17:14,233 --> 00:17:16,569 そうですが…。 218 00:17:16,569 --> 00:17:18,604 保本。 はい。 219 00:17:18,604 --> 00:17:21,073 あの2人から目を離すなよ。 220 00:17:21,073 --> 00:17:24,277 はい。 221 00:17:31,784 --> 00:17:34,620 <何も起こらぬまま 時は過ぎた> 222 00:17:34,620 --> 00:17:39,258 (スズメの鳴き声) 223 00:17:39,258 --> 00:17:42,929 スズメが いい声で鳴いてますね。 224 00:17:42,929 --> 00:17:45,598 (スズメの鳴き声) 225 00:17:45,598 --> 00:17:49,402 何だか とっても楽しそう。 226 00:17:49,402 --> 00:17:51,337 はい。 227 00:17:51,337 --> 00:17:56,175 <お静とお菊は 姑と嫁というより➡ 228 00:17:56,175 --> 00:17:59,879 仲のよい母と娘のように見えた> 229 00:18:01,981 --> 00:18:04,283 はい。 230 00:18:06,552 --> 00:18:09,455 はい どうぞ。 はい。 231 00:18:09,455 --> 00:18:12,892 お食事です。 232 00:18:12,892 --> 00:18:17,229 はい お食事ですよ。 233 00:18:17,229 --> 00:18:20,232 (お静)どうしたの? 234 00:18:20,232 --> 00:18:23,102 いえ…。 235 00:18:23,102 --> 00:18:25,938 (お雪)よくかんで食べてくださいね。 236 00:18:25,938 --> 00:18:28,240 (お菊)おひたしです。 237 00:18:32,778 --> 00:18:36,582 あら 不断草。 238 00:18:36,582 --> 00:18:38,618 はい。 239 00:18:38,618 --> 00:18:41,420 大好きなのよ これ。 240 00:18:46,258 --> 00:18:52,932 不断草… 私の母も好きでした。 241 00:18:52,932 --> 00:18:59,705 ざるいっぱいの不断草を お湯に くぐらせて おひたしにして➡ 242 00:18:59,705 --> 00:19:04,210 お膳に出すと 「おいしい おいしい」って。 243 00:19:07,880 --> 00:19:14,653 不断草は… 母の…➡ 244 00:19:14,653 --> 00:19:17,890 おっ母さんの…。 245 00:19:17,890 --> 00:19:23,095 本当においしいわね お秋さん。 246 00:19:33,739 --> 00:19:37,076 (泣き声) 247 00:19:37,076 --> 00:19:44,884 (泣き声) 248 00:20:03,769 --> 00:20:09,575 飲め。 なかなか いい味だぞ。 249 00:20:09,575 --> 00:20:13,079 さあ。 はい。 250 00:20:24,423 --> 00:20:29,261 どうだ? うまいか? 251 00:20:29,261 --> 00:20:32,965 まずいです。 フフフフ…。 252 00:20:32,965 --> 00:20:36,769 申し訳ありません。 いや それでいい。 253 00:20:41,140 --> 00:20:47,913 自分を偽り続けているのは 苦しいだろう。 254 00:20:47,913 --> 00:20:54,653 なのに なぜ そのような苦しい行いを 続けるんだ? 255 00:20:54,653 --> 00:20:56,956 ん? 256 00:20:59,525 --> 00:21:04,930 私は 親に死なれてから➡ 257 00:21:04,930 --> 00:21:09,768 自分の家というものが ありませんでした。 258 00:21:09,768 --> 00:21:17,109 どこへ行っても やっかい者で 肩身の狭い思いをして生きてきました。 259 00:21:17,109 --> 00:21:25,784 正吉さんと一緒になって ようやく 自分の家が出来たんです。 260 00:21:25,784 --> 00:21:27,720 頂きます。 261 00:21:27,720 --> 00:21:30,723 頂きます。 頂きます。 262 00:21:32,958 --> 00:21:34,894 (お静)おいしい? 263 00:21:34,894 --> 00:21:36,829 ウフフ。 食べろ 食べろ。 264 00:21:36,829 --> 00:21:39,832 フフフフ… ほら。 (お菊)はい。 265 00:21:42,968 --> 00:21:49,141 あ~ いい柄だね。 うれしい。 266 00:21:49,141 --> 00:21:53,813 浴衣 作ってもらうなんて 生まれて初めて。 267 00:21:53,813 --> 00:21:56,715 よく似合っているよ お菊。 268 00:21:56,715 --> 00:22:05,090 ♬~ 269 00:22:05,090 --> 00:22:10,763 でも いい時は 長く続きませんでした。 270 00:22:10,763 --> 00:22:14,633 あんた… あんた! 271 00:22:14,633 --> 00:22:18,938 嫌 嫌…。 272 00:22:18,938 --> 00:22:23,809 (お菊) 正吉さんが急な病で死んでしまうと➡ 273 00:22:23,809 --> 00:22:27,646 母の様子は だんだんと変わっていって…。 274 00:22:27,646 --> 00:22:30,549 私を疎んじるようになりました。 275 00:22:30,549 --> 00:22:34,486 (お静)出ておいきよ。 276 00:22:34,486 --> 00:22:38,691 お前の顔なんか もう二度と見たくないんだよ! 277 00:22:41,794 --> 00:22:46,665 おっ母さん! おっ母さん! 278 00:22:46,665 --> 00:22:53,405 私の居場所は ここよりほかにないんです。 おっ母さん! 279 00:22:53,405 --> 00:22:57,643 たった一人の息子を失った悲しみで➡ 280 00:22:57,643 --> 00:23:01,513 心を失っているのだと思いました。 281 00:23:01,513 --> 00:23:06,819 いずれきっと 本来の優しい母に 戻ってくれるはずだと。 282 00:23:08,754 --> 00:23:15,928 おっ母さん…。 いるんなら開けてください。 283 00:23:15,928 --> 00:23:18,130 おっ母さん。 284 00:23:20,266 --> 00:23:23,168 (お菊)けど それっきり。➡ 285 00:23:23,168 --> 00:23:29,375 何度訪ねても 母は 私に会ってくれませんでした。 286 00:23:32,778 --> 00:23:35,614 (お菊)家を出されて2年。➡ 287 00:23:35,614 --> 00:23:39,618 全て忘れて生きていこうと もがきました。 288 00:23:42,488 --> 00:23:49,962 (お菊) でも どうしても忘れられなかった。➡ 289 00:23:49,962 --> 00:23:52,431 あの日々は…➡ 290 00:23:52,431 --> 00:23:57,636 正吉さんと おっ母さんと過ごした 幸せだった日々は…➡ 291 00:23:57,636 --> 00:24:03,909 時がたてば たつほど 心の中に くっきりと よみがえって➡ 292 00:24:03,909 --> 00:24:09,248 このまま 一人で生きていくことに 何の甲斐があるのかと。 293 00:24:09,248 --> 00:24:13,919 それ故 飢えて死のうとしたのか? 294 00:24:13,919 --> 00:24:17,222 はい…。 295 00:24:20,693 --> 00:24:27,399 なのに まさか ここで母に会うなんて。 296 00:24:27,399 --> 00:24:31,704 母の目が あんなふうになってるなんて。 297 00:24:34,940 --> 00:24:39,111 でも… 思ったんです。 298 00:24:39,111 --> 00:24:43,415 もしかして 私を家から追い出したのは➡ 299 00:24:43,415 --> 00:24:47,953 そのためだったのではないかと…。 300 00:24:47,953 --> 00:24:52,124 母は いずれ 自分の目が見えなくなることが➡ 301 00:24:52,124 --> 00:24:58,997 分かっていたからこそ 私に世話をかけないために➡ 302 00:24:58,997 --> 00:25:05,571 苦労をかけないために…➡ 303 00:25:05,571 --> 00:25:10,743 そのことを 確かめなければならないと思いました。 304 00:25:10,743 --> 00:25:17,516 そのために もう一度 生きてみようと。 305 00:25:17,516 --> 00:25:32,998 ♬~ 306 00:25:32,998 --> 00:25:35,768 でも…。 307 00:25:35,768 --> 00:25:41,407 不断草… 私の母も好きでした。 308 00:25:41,407 --> 00:25:50,149 不断草は… 母の… おっ母さんの…。 309 00:25:50,149 --> 00:25:54,420 本当においしいわね お秋さん。 310 00:25:54,420 --> 00:26:01,727 母は 私のことなど すっかり忘れていました。 311 00:26:03,729 --> 00:26:06,532 思い上がりでした。 312 00:26:09,368 --> 00:26:16,175 母の心の中に 私は もういなかったんです。 313 00:26:29,088 --> 00:26:33,392 どうだ? 痛むか? いえ もう あんまり。 314 00:26:33,392 --> 00:26:36,595 そうか。 だいぶ よくなったようだな。 315 00:26:36,595 --> 00:26:39,498 ありがとうございます。 もう これはいいだろう。 316 00:26:39,498 --> 00:26:42,768 ハハハハ… あっ…! 317 00:26:42,768 --> 00:26:45,270 ん? どうした? 318 00:26:45,270 --> 00:26:50,409 あっ… この辺りが少し…。 319 00:26:50,409 --> 00:26:53,111 横になれ。 はい。 320 00:26:55,280 --> 00:26:57,783 触るぞ。 (お静)ああ… はい。 321 00:27:01,553 --> 00:27:04,590 あっ あっ…。➡ 322 00:27:04,590 --> 00:27:09,795 はあ… はあ… はあ… はあ…。 323 00:27:21,740 --> 00:27:24,243 あの… 先生…。 324 00:27:27,379 --> 00:27:32,084 お静は 不治の病に侵されている。 325 00:27:32,084 --> 00:27:34,586 えっ? 326 00:27:34,586 --> 00:27:37,489 もう長くはない。 327 00:27:37,489 --> 00:27:40,492 そんな…。 328 00:27:43,095 --> 00:27:46,932 お前は どうする? 329 00:27:46,932 --> 00:27:53,238 家を追われた嫁に 姑を看取るつとめなどはないぞ。 330 00:27:56,942 --> 00:28:01,346 お菊。 お静のことは我々に任せて。 331 00:28:01,346 --> 00:28:03,549 いいえ。 332 00:28:05,884 --> 00:28:09,888 私が最期まで母を看ます。 333 00:28:12,057 --> 00:28:14,560 そうか。 334 00:28:23,669 --> 00:28:28,607 (建物が揺れる音) 335 00:28:28,607 --> 00:28:31,243 地震か! 地震だ! 336 00:28:31,243 --> 00:28:35,080 保本 病人たちを表に出せ! はい! 337 00:28:35,080 --> 00:28:37,983 (お雪 お常)キャ~! 338 00:28:37,983 --> 00:28:40,953 キャ~! ちょっと 火 火を! 早く! 339 00:28:40,953 --> 00:28:44,590 大丈夫か? ゆっくり外に出るんだ。 340 00:28:44,590 --> 00:28:46,892 すいません。 通してください。 341 00:28:52,931 --> 00:28:57,803 キャ~ 助けて! ちょ… ああ! 342 00:28:57,803 --> 00:29:00,305 あっ ああ…。 343 00:29:06,211 --> 00:29:09,047 お静さん お静さん。 344 00:29:09,047 --> 00:29:10,983 (お静)逃げなさい。 行きましょう。 345 00:29:10,983 --> 00:29:15,554 早く お逃げったら。 (鈴が落ちる音) 346 00:29:15,554 --> 00:29:17,489 大丈夫か? 先生。 347 00:29:17,489 --> 00:29:20,993 早く お逃げなさい。 お菊! 348 00:29:23,428 --> 00:29:30,636 (病人たちの騒ぐ声) 349 00:29:33,105 --> 00:29:35,741 やっと収まったか。 350 00:29:35,741 --> 00:29:39,611 大丈夫か? けがをした者はいないか? 351 00:29:39,611 --> 00:29:45,450 ううっ… ううっ… ううっ…。 352 00:29:45,450 --> 00:29:49,755 私を菊だと 気付いてたんですか? 353 00:29:49,755 --> 00:29:53,091 いつから 私だと。 354 00:29:53,091 --> 00:29:55,394 どうして 何も言ってくれなかったんですか? 355 00:29:55,394 --> 00:29:57,396 どうして! うっ! 356 00:29:59,264 --> 00:30:01,767 お静! (お菊)おっ母さん! 357 00:30:04,603 --> 00:30:07,272 右を下にして寝かすぞ。 はい! 358 00:30:07,272 --> 00:30:11,109 よ~し 保本 晒と箆を持ってこい。 はい! 359 00:30:11,109 --> 00:30:13,945 指を入れるぞ。 ああ…! 360 00:30:13,945 --> 00:30:18,116 よし 吐け 吐き出せ。 361 00:30:18,116 --> 00:30:20,152 よし。 おっ母さん。 362 00:30:20,152 --> 00:30:24,890 ⚟(お静が血を吐く音) ⚟飲み込むなよ。 363 00:30:24,890 --> 00:30:28,293 ⚟(お静が血を吐く音) 364 00:30:28,293 --> 00:30:30,962 ⚟急げ。 ⚟はい。 365 00:30:30,962 --> 00:30:34,299 大丈夫ですよ。 366 00:30:34,299 --> 00:30:36,301 ⚟もう一息 いけるか? ⚟(お静が血を吐く音) 367 00:30:36,301 --> 00:30:39,504 ⚟よし! 保本。 368 00:30:45,911 --> 00:30:50,215 お前の顔なんか もう二度と見たくないんだよ! 369 00:30:53,151 --> 00:30:56,988 ⚟(お菊)おっ母さん おっ母さん。 (戸をたたく音) 370 00:30:56,988 --> 00:31:01,259 ⚟(お菊)おっ母さん おっ母さん。 (戸をたたく音) 371 00:31:01,259 --> 00:31:03,195 ⚟(お菊)おっ母さん。 (戸をたたく音) 372 00:31:03,195 --> 00:31:07,599 ⚟(お菊)私の居場所は ここよりほかにないんです。➡ 373 00:31:07,599 --> 00:31:12,904 おっ母さん おっ母さん…。 374 00:31:15,774 --> 00:31:20,645 ⚟(お菊)おっ母さん…。➡ 375 00:31:20,645 --> 00:31:24,116 おっ母さん…。 376 00:31:24,116 --> 00:31:53,979 ♬~ 377 00:31:53,979 --> 00:31:56,281 お菊…。 378 00:32:02,687 --> 00:32:04,890 お菊…。 379 00:32:10,762 --> 00:32:13,265 お菊…。 380 00:32:23,275 --> 00:32:25,777 お菊…。 381 00:32:30,782 --> 00:32:32,717 うわっ! 382 00:32:32,717 --> 00:32:56,808 ♬~ 383 00:32:56,808 --> 00:33:06,084 お菊… ごめんよ…。➡ 384 00:33:06,084 --> 00:33:10,288 ごめんよ…。 (鈴の音) 385 00:33:12,390 --> 00:33:18,697 お菊… お菊…。 386 00:33:22,934 --> 00:33:27,105 おっ母さん…。 387 00:33:27,105 --> 00:33:31,276 お菊…! 388 00:33:31,276 --> 00:33:38,283 私が お前のことを 忘れるとでも思ったのかい? 389 00:33:39,985 --> 00:33:45,624 秋に… 冬に…➡ 390 00:33:45,624 --> 00:33:49,127 どんなに名を変えても➡ 391 00:33:49,127 --> 00:33:53,965 お前だと 気付かぬはずがないだろう。 392 00:33:53,965 --> 00:33:56,801 おっ母さん…。 393 00:33:56,801 --> 00:34:01,573 では なぜ気付かぬふりをしたんだ? 394 00:34:01,573 --> 00:34:06,244 それは…➡ 395 00:34:06,244 --> 00:34:10,448 お菊に合わせる顔がなかったから。 396 00:34:13,018 --> 00:34:15,253 まさか➡ 397 00:34:15,253 --> 00:34:22,127 そこまで 私の力になろうとするなんて…。 398 00:34:22,127 --> 00:34:30,402 今頃は きっと 私のことなど すっかり忘れて➡ 399 00:34:30,402 --> 00:34:37,943 いい人と一緒になって 幸せに暮らしているとばかり…。 400 00:34:37,943 --> 00:34:43,815 私が おっ母さんのことを忘れることなど ありません。 401 00:34:43,815 --> 00:34:49,120 嫁の私を 本当の娘のように かわいがってくれた➡ 402 00:34:49,120 --> 00:34:54,626 おっ母さんのことを 忘れることなど…。 403 00:34:54,626 --> 00:34:59,297 浴衣 作ってもらうなんて 生まれて初めて。 404 00:34:59,297 --> 00:35:02,100 よく似合ってるよ お菊。 405 00:35:14,245 --> 00:35:16,948 あの… これ…。 406 00:35:18,750 --> 00:35:21,953 何だい? おっ母さんに。 407 00:35:30,362 --> 00:35:32,364 ハハハ…。 408 00:35:36,768 --> 00:35:39,604 (鈴の音) 409 00:35:39,604 --> 00:35:42,507 かわいい。 ウフフフフ。➡ 410 00:35:42,507 --> 00:35:45,010 いい音ね。 411 00:35:51,616 --> 00:35:59,124 娘の幸せを願い 心を鬼にして 家を追い出した母。 412 00:35:59,124 --> 00:36:06,931 その母を思い 名を偽ってまで寄り添い続けた娘。 413 00:36:06,931 --> 00:36:13,571 互いに思い合っているのに 素直になれないお前たちは… ハハハハ。 414 00:36:13,571 --> 00:36:18,877 まことによく似た 親子だな。 415 00:36:25,250 --> 00:36:27,919 先生。 416 00:36:27,919 --> 00:36:29,954 ん? 417 00:36:29,954 --> 00:36:33,591 恨む思いだけでは世話はできぬだろう。 418 00:36:33,591 --> 00:36:36,394 先生のおっしゃるとおりでしたね。 419 00:36:36,394 --> 00:36:41,232 人は 恨みだけでは生きてゆけぬ。 420 00:36:41,232 --> 00:36:44,769 愛するだけでは 生きていけないようにな。 421 00:36:44,769 --> 00:36:50,575 恨みながら 愛しながら生きていくんだ。 422 00:36:50,575 --> 00:36:57,582 それは… 先生も同じだということですか? 423 00:37:01,720 --> 00:37:04,355 <長く共に働きながら➡ 424 00:37:04,355 --> 00:37:12,731 私は 先生が何を恨み 何を愛していたのかを いまだ知らない> 425 00:37:12,731 --> 00:37:30,248 ♬~ 426 00:37:30,248 --> 00:37:34,986 おっ母さん 気持ちいいですか? 427 00:37:34,986 --> 00:37:41,793 <それから お静とお菊は 心を通わせた 穏やかな日々を過ごした> 428 00:37:44,395 --> 00:37:46,898 <そして…> 429 00:38:08,586 --> 00:38:15,293 おっ母さん 聞こえますか? 430 00:38:20,732 --> 00:38:26,604 おっ母さんを 恨んだ日もありました。 431 00:38:26,604 --> 00:38:29,741 その恨みを てこにして➡ 432 00:38:29,741 --> 00:38:34,913 生きようと もがいたこともありました。➡ 433 00:38:34,913 --> 00:38:39,918 でも それだけでは生きてこられなかった。 434 00:38:41,686 --> 00:38:48,993 おっ母さんの優しさが いつも私の心の中にありました。 435 00:38:53,298 --> 00:38:57,101 ありがとう。 436 00:38:57,101 --> 00:39:01,406 おっ母さん ありがとう。 437 00:39:10,348 --> 00:39:48,086 ♬~ 438 00:39:48,086 --> 00:39:56,761 <お菊は 去定先生の口利きで 町医者の家に奉公することになった> 439 00:39:56,761 --> 00:40:00,265 お世話になりました。 達者でな。 440 00:40:00,265 --> 00:40:05,403 <ここで お静を看取った日々が お菊に新たな道を開いたのだ> 441 00:40:05,403 --> 00:40:08,206 本当にお世話になりました。 442 00:40:13,611 --> 00:40:17,782 あの… ちょっと お菊さん。 443 00:40:17,782 --> 00:40:23,087 これ 見つかりましたよ。 444 00:40:27,125 --> 00:40:30,161 (鈴の音) 445 00:40:30,161 --> 00:40:34,165 いい音ね フフフ。 446 00:40:36,134 --> 00:40:39,804 おっ母さんが笑っているようです。 447 00:40:39,804 --> 00:41:08,399 ♬~ 448 00:41:08,399 --> 00:41:11,769 おたね。 はい。 449 00:41:11,769 --> 00:41:16,274 あの鈴 よく見つけたな。 450 00:41:16,274 --> 00:41:21,412 お静さんが 大切にしていたものですから。 451 00:41:21,412 --> 00:41:25,283 ああ。 452 00:41:25,283 --> 00:41:28,286 お菊さんは これから➡ 453 00:41:28,286 --> 00:41:33,958 お静さんとの思い出を糧に 生きていくんでしょうね。 454 00:41:33,958 --> 00:41:36,961 おたね…。 455 00:41:38,629 --> 00:41:41,666 思い出は きっと…➡ 456 00:41:41,666 --> 00:41:47,805 人の心を 温めてくれるものなのでしょうね。 457 00:41:47,805 --> 00:41:57,148 大丈夫だ。 お前の思い出も きっと戻る。 458 00:41:57,148 --> 00:41:59,083 はい。 459 00:41:59,083 --> 00:42:11,095 ♬~ 460 00:42:11,095 --> 00:42:16,601 うお~! 461 00:42:16,601 --> 00:42:23,808 ♬~ 462 00:42:25,943 --> 00:42:29,280 坊やの様子を 診ていただいてもようございますか? 463 00:42:29,280 --> 00:42:31,215 一体 何が? 464 00:42:31,215 --> 00:42:34,118 もしかして おたねさん お子がいる? 465 00:42:34,118 --> 00:42:37,021 触るな! 触るな! 466 00:42:37,021 --> 00:42:40,625 私には 伝助は まだ 何か隠しているように見えました。 467 00:42:40,625 --> 00:42:42,660 お華の婿になるはずだったと。 468 00:42:42,660 --> 00:42:46,130 お前は 最も大切な人を傷つけた。 469 00:42:46,130 --> 00:42:48,166 心を病むほどに。 470 00:42:48,166 --> 00:42:50,301 私は どうすれば…。 471 00:42:50,301 --> 00:42:55,006 私は 医者として このまま お華を見放したくないのです。