1 00:00:03,170 --> 00:00:09,943  回想 (おたね)♬「ねんねん ころりよ」 2 00:00:09,943 --> 00:00:16,416 ♬「おころりよ」 3 00:00:16,416 --> 00:00:28,629 ♬「坊やは よい子だ ねんねしな」 4 00:00:28,629 --> 00:00:34,134 お前は今 どこにいるの? 5 00:00:45,178 --> 00:00:48,649 (おたね)うっ…。 6 00:00:48,649 --> 00:00:51,551 (新出)おたね! 大丈夫か? 7 00:00:51,551 --> 00:00:53,987 先生…。 何も言うな。 8 00:00:53,987 --> 00:00:57,658 立てるか? はい。よし ゆっくりだ。 9 00:00:57,658 --> 00:00:59,593 保本 手を貸せ。 (保本)はい。 10 00:00:59,593 --> 00:01:03,597 そ~っとだ。 よし。 11 00:01:06,266 --> 00:01:10,137 無理をしたんだろう。 でも 仕事が…。 12 00:01:10,137 --> 00:01:12,839 寝ていればいいんだ。 13 00:01:14,775 --> 00:01:19,279 (おたねの苦しむ声) 14 00:01:19,279 --> 00:01:25,953 <去定先生と おたねの間で 何かが 変わり始めているようだった。➡ 15 00:01:25,953 --> 00:01:27,888 しかし 私は➡ 16 00:01:27,888 --> 00:01:31,124 そこに 踏み込んでは いけないような気がしていた> 17 00:01:31,124 --> 00:01:40,133 ♬~ 18 00:01:40,133 --> 00:01:43,437 (田山) おたねは 一体 どういう女なんだろう。 19 00:01:43,437 --> 00:01:48,141 どうも 去定先生と おたねの間には 何か ありそうに思える。 20 00:01:50,310 --> 00:01:53,981 お前に言っても しかたないな。 へい。 21 00:01:53,981 --> 00:01:55,983 ⚟食い逃げだ! 22 00:01:57,651 --> 00:01:59,987 ちょっと あんた! 勘定は どうするんだい! 23 00:01:59,987 --> 00:02:02,255 (幸介)寒い…。 24 00:02:02,255 --> 00:02:04,191 この野郎。 ごまかす気か。 25 00:02:04,191 --> 00:02:06,593 待て 私は養生所の医者だ。 26 00:02:06,593 --> 00:02:08,595 大丈夫か? 27 00:02:10,397 --> 00:02:13,100 高熱だ。 ひとまず 養生所に連れていこう。 28 00:02:13,100 --> 00:02:15,602 へい。 けど… 勘定が。 29 00:02:15,602 --> 00:02:19,106 いくらだ? 私が立て替えておこう。 30 00:02:19,106 --> 00:02:23,276 あんかけと しっぽくと花巻で 80文です。 31 00:02:23,276 --> 00:02:27,948 えっ? そんなに…。➡ 32 00:02:27,948 --> 00:02:30,650 よく食ったな…。 33 00:02:36,289 --> 00:02:38,959 (田山)熱は いつから? 34 00:02:38,959 --> 00:02:41,261 覚えてないのか? 35 00:02:44,297 --> 00:02:47,968 あっ うう… ううう…。 36 00:02:47,968 --> 00:02:51,304 ああ~! あっ! 37 00:02:51,304 --> 00:02:53,240 胃の腑が ただれているようだな。 38 00:02:53,240 --> 00:02:55,175 前から腹が痛まなかったか? 39 00:02:55,175 --> 00:02:58,178 そういえば 時々…。 40 00:02:58,178 --> 00:03:01,581 そんなところに いきなり たくさん食べるからだ。 41 00:03:01,581 --> 00:03:05,252 すみません…。 私に謝られても。 42 00:03:05,252 --> 00:03:10,924 でも… 勘定を立て替えてもらって…。 43 00:03:10,924 --> 00:03:14,795 私… 一文無しで…。 44 00:03:14,795 --> 00:03:18,265 まあ 金があったら 食い逃げはしないだろう。 45 00:03:18,265 --> 00:03:20,934 うう… うう…。 46 00:03:20,934 --> 00:03:24,271 見たところ 身なりは悪くないが➡ 47 00:03:24,271 --> 00:03:28,775 なぜ 無一文になった? 48 00:03:28,775 --> 00:03:30,710 申せません。 49 00:03:30,710 --> 00:03:33,613 素性を話さない? はい。 50 00:03:33,613 --> 00:03:37,284 なぜだ? 恥ずかしくて 言えないそうです。 51 00:03:37,284 --> 00:03:39,286 言いたくないなら いいではありませんか。 52 00:03:39,286 --> 00:03:41,955 病が治ったら 出ていくんだから。 53 00:03:41,955 --> 00:03:46,293 それは そうですが また 無一文で放り出すんですか? 54 00:03:46,293 --> 00:03:50,630 田山が立て替えた金は 踏み倒されるということだな。 55 00:03:50,630 --> 00:03:54,434 そうなんです。 あっ いえいえ そういうことではなく➡ 56 00:03:54,434 --> 00:03:57,337 医者は 病を治せば それでいい ということではないでしょう。 57 00:03:57,337 --> 00:04:01,908 そうだな。 その者が抱える事情が 病に関わることもある。 58 00:04:01,908 --> 00:04:04,945 確かに これまでにも すさんだ心を癒やしてやることで➡ 59 00:04:04,945 --> 00:04:07,247 病が治ったという例もありました。 60 00:04:07,247 --> 00:04:09,249 しかし 当人が話そうとしないのでは…。 61 00:04:09,249 --> 00:04:11,585 慌てることはない。 62 00:04:11,585 --> 00:04:13,920 医者が親身になって 世話をしていれば➡ 63 00:04:13,920 --> 00:04:16,256 いずれ話すだろう。 64 00:04:16,256 --> 00:04:18,191 はい。 65 00:04:18,191 --> 00:04:23,029 はあ~ いや お医者様って大変ですね。 66 00:04:23,029 --> 00:04:26,600 病のことだけじゃなく 心の中までも。 67 00:04:26,600 --> 00:04:30,937 そういうものだ。 はあ。 68 00:04:30,937 --> 00:04:34,774 (お常)おたねさんが伏せったおかげで また忙しくなっちまったよ。 69 00:04:34,774 --> 00:04:39,112 本当! お光さん 早く帰ってこないかしら。 70 00:04:39,112 --> 00:04:41,815 (お常)まあ しかたないさ。 71 00:04:43,416 --> 00:04:46,319 時々 思うんですけど。 何さ。 72 00:04:46,319 --> 00:04:48,288 私たちの仕事って➡ 73 00:04:48,288 --> 00:04:52,159 どんだけ忙しくても お給金が上がることってないですね。 74 00:04:52,159 --> 00:04:54,161 あんた そんなこと思ってたの? 75 00:04:54,161 --> 00:04:56,630 だって そうじゃないですか。 76 00:04:56,630 --> 00:05:00,367 例えばの話 大工さんなら 家を2軒建てれば➡ 77 00:05:00,367 --> 00:05:04,571 1軒建てるより 2倍 手間賃がもらえるでしょう。 78 00:05:04,571 --> 00:05:09,910 私たちは どんだけ忙しくても一緒って… おかしくないですか? 79 00:05:09,910 --> 00:05:12,946 仕事があるだけ ありがたいんだよ。 文句言うんじゃないよ。 80 00:05:12,946 --> 00:05:17,584 でも 思うんです。 まだ 何か思うのかい。 81 00:05:17,584 --> 00:05:22,455 お医者様は 人の病を治して お礼を言われるでしょう。 82 00:05:22,455 --> 00:05:26,259 私たちの仕事って いくら やっても➡ 83 00:05:26,259 --> 00:05:28,929 どうせ ありがたがられることは ないですね。 84 00:05:28,929 --> 00:05:32,265 (お常)そういうもんだよ。 85 00:05:32,265 --> 00:05:34,201 早く ここを出て➡ 86 00:05:34,201 --> 00:05:36,136 きれいな ねえちゃんのいる店 行きてえなあ。 87 00:05:36,136 --> 00:05:39,139 そんな店に行く金があんのか! 88 00:05:39,139 --> 00:05:41,408 そう思えば 早く治るかと思ってよ。 89 00:05:41,408 --> 00:05:45,278 「病は気から」って言うしな。 (笑い声) 90 00:05:45,278 --> 00:05:47,280 はいはい 食事だよ。 91 00:05:47,280 --> 00:05:51,084 はい はい。 92 00:05:51,084 --> 00:05:55,388 よいしょっと。 93 00:05:59,292 --> 00:06:02,195 おっ母さん…。 94 00:06:02,195 --> 00:06:07,033 おっ母が恋しいとよ。 (笑い声) 95 00:06:07,033 --> 00:06:09,569 ちょっと 笑うもんじゃないよ。 96 00:06:09,569 --> 00:06:11,504 お食事ですよ。 97 00:06:11,504 --> 00:06:14,374 ああ… はい… すみません。 98 00:06:14,374 --> 00:06:18,912 ここを出たら 刺身に 熱かん一本つけて キュ~ッと。 99 00:06:18,912 --> 00:06:21,748 余計なこと言ってないで さっさと 食べちゃいなよ。 100 00:06:21,748 --> 00:06:25,919 味気ないねえ。 食事くらい楽しくしないとね。 101 00:06:25,919 --> 00:06:28,388 おう。 お雪さんは 分かってるね。 102 00:06:28,388 --> 00:06:31,291 私でよければ お酌でもしましょうか? 103 00:06:31,291 --> 00:06:35,262 おお ありがとよ。 俺にも頼むわ。 104 00:06:35,262 --> 00:06:37,397 はいはい。 おお~。 105 00:06:37,397 --> 00:06:39,933 何をしてる?あっ。 ここは 居酒屋じゃない! 106 00:06:39,933 --> 00:06:42,269 すいません。 107 00:06:42,269 --> 00:06:46,606 あの… 怒らないであげてください。 何? 108 00:06:46,606 --> 00:06:49,643 この人は 少しでも病人を元気づけようと➡ 109 00:06:49,643 --> 00:06:53,146 優しい気持ちでしてくれたんだと 思うんです。 110 00:06:56,283 --> 00:06:58,785 はあ…! 111 00:07:04,557 --> 00:07:07,560 すみません。 いや…。 112 00:07:09,362 --> 00:07:11,898 ちゃんと食べてくださいね。 113 00:07:11,898 --> 00:07:15,235 はい… 頂きます。 114 00:07:15,235 --> 00:07:20,573 フフッ。 早く よくなって おっ母さんに会えるといいですね。 115 00:07:20,573 --> 00:07:23,610 あ…。 悪いこと言ったかしら…? 116 00:07:23,610 --> 00:07:28,248 いや どうして…? 117 00:07:28,248 --> 00:07:33,086 さっき 寝言で 「おっ母さん」って…。 118 00:07:33,086 --> 00:07:36,589 私 そんなことを…。 119 00:07:47,100 --> 00:07:49,135 うまい。 120 00:07:49,135 --> 00:07:51,638 フフッ そう? 121 00:07:54,774 --> 00:07:56,776 フフフフ。 122 00:08:00,880 --> 00:08:03,683 あの…。 はい? 123 00:08:10,890 --> 00:08:16,696 え~い! はあ…。 124 00:08:16,696 --> 00:08:20,567 (お雪)先生… あの…。 何だ。 125 00:08:20,567 --> 00:08:25,438 ああ… さっきのことなら もういいぞ。 126 00:08:25,438 --> 00:08:31,745 いえ。 あの… この人が 自分のことを話したいって言ってます。 127 00:08:31,745 --> 00:08:34,948 うん? 128 00:08:38,518 --> 00:08:40,453 (田山)何でしょう? おお 入れ。 129 00:08:40,453 --> 00:08:43,356 はあ。 お前も一緒に聞け。 130 00:08:43,356 --> 00:08:46,259 あんたも聞いてくれませんか? えっ? 131 00:08:46,259 --> 00:08:48,261 入れ。 132 00:08:55,935 --> 00:09:01,741 私は とある乾物屋の三男坊です。 133 00:09:01,741 --> 00:09:08,515 名前を言えば 「ああ あそこか」と 分かるくらいの店です。 134 00:09:08,515 --> 00:09:15,889 でも 三男坊といっても 2人の兄たちとは 母が違うんです。 135 00:09:15,889 --> 00:09:24,564 父が どこか別の女の人に 産ませた子なんです。 136 00:09:24,564 --> 00:09:33,907 父は 赤ん坊の私を連れてきて 育てるように 母に押しつけたそうです。 137 00:09:33,907 --> 00:09:38,077 母にとっては 面白いはずがありませんが➡ 138 00:09:38,077 --> 00:09:42,582 我慢して 私を育ててくれました。 139 00:09:42,582 --> 00:09:49,355 ところが 私が17の年に父が死んでから➡ 140 00:09:49,355 --> 00:09:52,926 母の様子が変わりました。 141 00:09:52,926 --> 00:09:55,962 どこの女に産ませたか分からない あんたを➡ 142 00:09:55,962 --> 00:10:00,667 ここまで育ててやったんだよ。 ありがたく思いな。 143 00:10:00,667 --> 00:10:04,938 あからさまに 私を邪険にするようになったんです。 144 00:10:04,938 --> 00:10:07,841 あっ すいません すいません。 145 00:10:07,841 --> 00:10:14,280 (幸介)上の兄が店を継ぎ 2番目の兄は よそに養子に出ました。➡ 146 00:10:14,280 --> 00:10:18,117 私は 店を手伝っていましたが…。 147 00:10:18,117 --> 00:10:22,789 幸介さん。はい。 勘定が違ってますよ。 148 00:10:22,789 --> 00:10:24,724 すみません。 149 00:10:24,724 --> 00:10:27,427 番頭さんも忙しいのは分かるけど➡ 150 00:10:27,427 --> 00:10:31,297 この人に ちゃんと教えてやって。 へい。 かしこまりました。 151 00:10:31,297 --> 00:10:33,967 はあ…。 152 00:10:33,967 --> 00:10:37,303 (幸介)私の要領が悪いというのも ありましたが➡ 153 00:10:37,303 --> 00:10:39,806 母が そんな様子ですから➡ 154 00:10:39,806 --> 00:10:44,644 兄も そして 店の者までが➡ 155 00:10:44,644 --> 00:10:48,515 事あるごとに 私に つらく当たりました。 156 00:10:48,515 --> 00:10:52,519 こんな私に振り向いてくれる女の人は➡ 157 00:10:52,519 --> 00:10:55,321 もちろん いません。 158 00:10:55,321 --> 00:10:57,824 いやあ お召し物も おきれいで。 159 00:10:57,824 --> 00:11:01,528 すいません すいません。 160 00:11:03,096 --> 00:11:05,598 あっ 痛っ。 161 00:11:05,598 --> 00:11:11,404 もう! ドジだね! (笑い声) 162 00:11:11,404 --> 00:11:13,706 すいません。 163 00:11:15,608 --> 00:11:19,946 (話し声) 164 00:11:19,946 --> 00:11:23,283 このところ ヘマばっかしの罰だ。 あんたは こっちだよ。 165 00:11:23,283 --> 00:11:27,487 (笑い声) 166 00:11:29,789 --> 00:11:32,592 (幸介) 冷えて かたくなった飯でした…。 167 00:11:38,965 --> 00:11:41,868 (幸介)それを食べてるうち➡ 168 00:11:41,868 --> 00:11:46,573 私の中で 何かが ぷつりと 音を立てて切れました。 169 00:11:51,311 --> 00:11:54,981 鍵を盗み出した私は…。 170 00:11:54,981 --> 00:12:07,927 ♬~ 171 00:12:07,927 --> 00:12:10,964 あんた 何してるの? うるさい! 172 00:12:10,964 --> 00:12:14,400 泥棒! 泥棒! 泥棒じゃない! 173 00:12:14,400 --> 00:12:17,937 今まで もらえなかった給金を 頂くだけだ! 174 00:12:17,937 --> 00:12:21,608 誰か! 誰か来ておくれ 誰か! 175 00:12:21,608 --> 00:12:25,111 そのまま 私は 家を出ました。 176 00:12:25,111 --> 00:12:28,147 家を出て どうするつもりだったんだ? 177 00:12:28,147 --> 00:12:35,421 ただ これまで 我慢のし通しだった 憂さを晴らそうと…。➡ 178 00:12:35,421 --> 00:12:39,125 あちこちで派手に遊びました。➡ 179 00:12:39,125 --> 00:12:41,928 でも それも 長くは続きませんでした。 180 00:12:44,297 --> 00:12:48,635 行くさきざきで だまされたり ぼったくられたり➡ 181 00:12:48,635 --> 00:12:51,537 さんざんな目に遭いました。➡ 182 00:12:51,537 --> 00:12:55,141 その度に 持ち金は どんどん減っていき➡ 183 00:12:55,141 --> 00:12:58,444 気付いたら 無一文でした。➡ 184 00:12:58,444 --> 00:13:00,913 こじき同然のありさまで…。 185 00:13:00,913 --> 00:13:04,250 (田山)それで食い逃げをしたのか? 186 00:13:04,250 --> 00:13:08,254 もう どうにでもなれ という気持ちでした。 187 00:13:08,254 --> 00:13:13,926 番屋に突き出されるなら それでも よかったんです。 188 00:13:13,926 --> 00:13:20,099 食うや食わずで さまよううちに 体も悪くなっていたのだな。 189 00:13:20,099 --> 00:13:26,606 これが ここまで私が落ちぶれるまでの話です。 190 00:13:26,606 --> 00:13:29,642 はあ…。 191 00:13:29,642 --> 00:13:34,113 じゃあ あなたの本当のおっ母さんは? 192 00:13:34,113 --> 00:13:38,618 どこの誰か分かりません。 193 00:13:38,618 --> 00:13:43,122 分かった。 もういいぞ。 194 00:13:43,122 --> 00:13:45,425 寝床へ帰って休め。 195 00:13:47,627 --> 00:13:50,963 あっ あの…。ん? そういうわけで➡ 196 00:13:50,963 --> 00:13:53,800 私 一文無しなんですが ここのお代は…。 197 00:13:53,800 --> 00:13:56,436 それは気にすることはない。 198 00:13:56,436 --> 00:13:59,138 はあ~ ありがとうございます。 199 00:13:59,138 --> 00:14:04,744 私のような者に あんな温かい飯を恵んでくださって…。 200 00:14:04,744 --> 00:14:07,647 病は いずれ治る。 201 00:14:07,647 --> 00:14:10,249 その先は どうするんだ? 202 00:14:10,249 --> 00:14:14,754 はあ… どうしたものでしょう。 203 00:14:14,754 --> 00:14:19,592 はあ… あ…。 あっ。 204 00:14:19,592 --> 00:14:22,495 冷遇に耐えかねて逆上する。 205 00:14:22,495 --> 00:14:25,765 私は あの男の気持ちが 分かる気がしました。 206 00:14:25,765 --> 00:14:28,601 お前は そんなに冷遇されてるのか? 207 00:14:28,601 --> 00:14:32,472 まあ ここには 怖い継母はいないので ましですが。 208 00:14:32,472 --> 00:14:36,342 無駄口 きいてないで 仕事してください。 209 00:14:36,342 --> 00:14:39,245 怖い小姑ならいるな。 210 00:14:39,245 --> 00:14:42,782 は? 何でもない。 211 00:14:42,782 --> 00:14:44,717 はい 手 上げてください。 212 00:14:44,717 --> 00:14:51,124 すみません。 もう 謝ることなんかないんですよ。 213 00:14:51,124 --> 00:14:54,927 すみま…。 フフッ。 214 00:15:00,566 --> 00:15:03,469 よいしょ。 はい きれいになった。 215 00:15:03,469 --> 00:15:06,906 (泣き声) 216 00:15:06,906 --> 00:15:11,077 えっ どうしたんですか? 217 00:15:11,077 --> 00:15:17,850 私は… こんなに親切にされたのは 初めてで…。 218 00:15:17,850 --> 00:15:22,588 ありがとう。 いいえ…。 219 00:15:22,588 --> 00:15:24,924 なぜですか? 220 00:15:24,924 --> 00:15:31,798 なぜ 私のような者に ここまでしてくださるのですか? 221 00:15:31,798 --> 00:15:38,271 仕事なので。 そうですか。 仕事ですか… ああ…。 222 00:15:38,271 --> 00:15:42,275 ああ でも… 少しでも いい心持ちになって➡ 223 00:15:42,275 --> 00:15:45,144 早く よくなってくれたらって 思ってますけど…。 224 00:15:45,144 --> 00:15:48,781 そうでしょう。 そうでしょうとも。 225 00:15:48,781 --> 00:15:51,684 その気持ち 伝わってきますよ。➡ 226 00:15:51,684 --> 00:15:54,954 お雪さんのおかげで 早く よくなりそうだ。 227 00:15:54,954 --> 00:16:00,359 あ… あ… そう? よかった。 228 00:16:00,359 --> 00:16:03,563 そうかい そんなことが…。 229 00:16:03,563 --> 00:16:06,466 あっ で… あんた どう思ったんだい? 230 00:16:06,466 --> 00:16:11,737 やっと 私の値打ちを分かってくれる人が現れた。 231 00:16:11,737 --> 00:16:14,574 まさか あんた 真に受けてんじゃないだろうね。 232 00:16:14,574 --> 00:16:17,243 褒めてくれたら うれしいのは 当たり前じゃありませんか。 233 00:16:17,243 --> 00:16:19,745 いや そうだけど。 私➡ 234 00:16:19,745 --> 00:16:23,249 これまで 褒められなさ過ぎだったと 思うんです。 235 00:16:23,249 --> 00:16:26,085 幸介の様子は どうだ? 236 00:16:26,085 --> 00:16:28,588 日々よくなっています。 うむ。 237 00:16:28,588 --> 00:16:31,490 しかし…。 ん? しかし 何だ? 238 00:16:31,490 --> 00:16:35,094 あの男は どうも 何かにつけて 「私のような者が」と言っては➡ 239 00:16:35,094 --> 00:16:37,396 「すいません すいません」と 謝ってるんです。 240 00:16:37,396 --> 00:16:39,465 それの どこが 病気なんですか? 241 00:16:39,465 --> 00:16:42,235 いや 病気というわけでは…。 242 00:16:42,235 --> 00:16:44,170 病気です。 243 00:16:44,170 --> 00:16:46,939 どういうことだ? 244 00:16:46,939 --> 00:16:50,276 あの人は 冷や飯食らいが 長く続いて➡ 245 00:16:50,276 --> 00:16:55,114 みんなに冷たくされて 誰にも褒められず…➡ 246 00:16:55,114 --> 00:16:59,418 自分を認めることができないんです。 だから 何かにつけて➡ 247 00:16:59,418 --> 00:17:01,420 「どうせ俺なんか」 ということになるってこと? 248 00:17:01,420 --> 00:17:07,059 そうです。 あの人は 体よりも心の病なんです。 249 00:17:07,059 --> 00:17:12,365 心の病か… よくそんな小難しいことが言えるな。 250 00:17:12,365 --> 00:17:15,234 去定先生が そういうことを おっしゃるのを➡ 251 00:17:15,234 --> 00:17:17,169 いつも 小耳に挟んでおりましたので。 252 00:17:17,169 --> 00:17:20,573 「門前の小僧 習わぬ経を読み」…。 253 00:17:20,573 --> 00:17:24,377 なんとかしてあげないと。 これは医者の話だ。 254 00:17:24,377 --> 00:17:29,582 あっ すみません。 差し出がましいことを。 255 00:17:29,582 --> 00:17:36,589 いや お前が幸介のために 何かしてやりたいと思う気持ちは 大事だ。 256 00:17:38,591 --> 00:17:42,762 ありがとうございます。 257 00:17:42,762 --> 00:17:48,267 わしら医者は お雪たちを 便利に使い過ぎているのかもしれんな。 258 00:17:48,267 --> 00:17:52,605 しかし 余計なことをしないでしょうか? 医者でもないのに。 259 00:17:52,605 --> 00:17:58,945 ほう。 では お前は 医者として 一人前のことができるのか? 260 00:17:58,945 --> 00:18:03,215 えっ? どうなんだ? 261 00:18:03,215 --> 00:18:07,887 お前たちは どうだ? 262 00:18:07,887 --> 00:18:12,058 何だ! 誰もできると言えんのか。 263 00:18:12,058 --> 00:18:15,361 そんな ふがいないことで どうする! 264 00:18:15,361 --> 00:18:27,907 ♬~ 265 00:18:27,907 --> 00:18:30,242  回想 (大岡)無知と貧困との闘いは➡ 266 00:18:30,242 --> 00:18:33,079 お主にしか できないことではない。 267 00:18:33,079 --> 00:18:37,917 もう十分 後進を 育てたのではないのか。 268 00:18:37,917 --> 00:18:41,253 はあ…。 269 00:18:41,253 --> 00:18:46,592 あっ あなたは寝ていればいいのよ。 私がやるから。 270 00:18:46,592 --> 00:18:52,398 いえ 少しでも お役に立てたらと…。 271 00:18:52,398 --> 00:18:55,267 お雪さん 言ってくれましたね。 272 00:18:55,267 --> 00:18:57,603 「早く おっ母さんに会えると いいね」って。 273 00:18:57,603 --> 00:19:01,040 ああ ごめんなさい。 余計なことを…。 274 00:19:01,040 --> 00:19:04,543 いえ どこの誰かも分からないのに➡ 275 00:19:04,543 --> 00:19:07,446 会いたいなんて思ってても しかたない。 276 00:19:07,446 --> 00:19:14,053 そう思ってたんですが… 寝言で言うなんて…。 277 00:19:14,053 --> 00:19:18,724 本当のおっ母さんが どこの誰か 少しも分からないの? 278 00:19:18,724 --> 00:19:22,595 父は 何も言わずに亡くなったもので…。 279 00:19:22,595 --> 00:19:25,097 ただ…。 ただ? 280 00:19:30,236 --> 00:19:33,906 子どもの頃 父が くれたものです。 281 00:19:33,906 --> 00:19:37,376 深い考えもなく 持っていたものですが➡ 282 00:19:37,376 --> 00:19:43,916 もしかしたら これは 本当の母親のものかも…。 283 00:19:43,916 --> 00:19:48,621 この菩薩様の顔を見ていると ふと そんな気が…。 284 00:19:53,592 --> 00:19:57,096 そうかもね…! 285 00:19:57,096 --> 00:20:01,767 これが幸介の母親の? 286 00:20:01,767 --> 00:20:04,270 そうかもしれないんです。 287 00:20:04,270 --> 00:20:09,141 これで おっ母さんが どこの誰か分からないかと思って。 288 00:20:09,141 --> 00:20:12,611 月光菩薩か…。 289 00:20:12,611 --> 00:20:15,281 月光菩薩? 290 00:20:15,281 --> 00:20:17,283 薬師如来の脇侍として➡ 291 00:20:17,283 --> 00:20:21,954 向かって右に 日光菩薩 左に この月光菩薩が置かれる。 292 00:20:21,954 --> 00:20:28,627 つまり 日光菩薩と月光菩薩は 必ず 対になっているんだ。 293 00:20:28,627 --> 00:20:33,132 ん? 待てよ? 294 00:20:33,132 --> 00:20:35,968 どこかで なぜか 日光菩薩だけが置かれているのを➡ 295 00:20:35,968 --> 00:20:38,471 見たような気が…。 296 00:20:42,641 --> 00:20:46,979 ん~…。 どこだったか…。 297 00:20:46,979 --> 00:20:50,850 どこですか? 先生 どこなんですか!? 298 00:20:50,850 --> 00:20:52,852 ちょっと待て! あっ すいません。 299 00:20:55,654 --> 00:20:58,991 (お常)お雪 外の芋 洗っとくれ。 あっ 私 出かけてきます。 300 00:20:58,991 --> 00:21:02,261 えっ 出かけるって…。 ちょっと。 301 00:21:02,261 --> 00:21:05,764 「ちょっと」って あんた 仕事は? 302 00:21:05,764 --> 00:21:09,602 これも仕事です。 去定先生に言われたんです。 303 00:21:09,602 --> 00:21:14,273 「病人のために何かしたいと思う気持ちは 大切だ」って。 304 00:21:14,273 --> 00:21:17,176 それは 幸介さんのことだね。 305 00:21:17,176 --> 00:21:21,147 そうです。 306 00:21:21,147 --> 00:21:25,885 あんた 何か 勘違いしてるんじゃないかい?えっ? 307 00:21:25,885 --> 00:21:31,290 向こうは 病人。 履き違えるんじゃないよ。 308 00:21:31,290 --> 00:21:33,793 分かってます…。 309 00:21:33,793 --> 00:21:37,296 …というのは表向き。 310 00:21:37,296 --> 00:21:42,168 やるなら とことん おやりよ。 キ~ ヒヒヒヒ…。 311 00:21:42,168 --> 00:21:45,638 行ってきます。 うん! フフフ。 312 00:21:45,638 --> 00:21:48,340 行ってらっしゃい。 313 00:21:49,975 --> 00:21:53,445 どうも 胸騒ぎがする…。 314 00:21:53,445 --> 00:21:57,816 養生所で 亭主 見つけちゃいけないなんて 決まりは ありませんから。 315 00:21:57,816 --> 00:22:00,786 それは そうだが…。 316 00:22:00,786 --> 00:22:15,935 ♬~ 317 00:22:15,935 --> 00:22:19,638 ここだ…。 318 00:22:23,609 --> 00:22:25,544 あっ いらっしゃいまし。 319 00:22:25,544 --> 00:22:29,415 すみません…。 はい 何でございましょう? 320 00:22:29,415 --> 00:22:34,954 あの… ここに 日光菩薩はありますか? 321 00:22:34,954 --> 00:22:39,291 は? ここは 仏像を売る店ではありませんが。 322 00:22:39,291 --> 00:22:42,962 あっ あの いえ そうじゃなくて…。 はい。 323 00:22:42,962 --> 00:22:46,298 あ あの…。 はい。 324 00:22:46,298 --> 00:22:48,634 どうしたのかい? 325 00:22:48,634 --> 00:23:04,350 ♬~ 326 00:23:05,918 --> 00:23:09,755 どうだ? 327 00:23:09,755 --> 00:23:12,758 ああ いい。 寝ていろ。 328 00:23:16,528 --> 00:23:22,334 ここにいて 皆さんに お世話していただくと➡ 329 00:23:22,334 --> 00:23:27,139 随分と 気が安らぎます。 そうか。 330 00:23:29,141 --> 00:23:33,779 もし 昔のことが思い出せなくても➡ 331 00:23:33,779 --> 00:23:39,585 真っさらな自分で もう一度 生き直せたら…。 332 00:23:39,585 --> 00:23:43,289 そんな気も。 333 00:23:43,289 --> 00:23:46,959 でも 幸介さんのお話を聞くと…。 334 00:23:46,959 --> 00:23:49,295 聞いたのか? 335 00:23:49,295 --> 00:23:52,965 生き別れの母親と 会えるかもしれないと。 336 00:23:52,965 --> 00:23:58,470 ハハハハ。 さぞかし うれしいでしょうね。 337 00:24:00,773 --> 00:24:06,912 私にも そんなことが起こりはしないかと➡ 338 00:24:06,912 --> 00:24:11,083 思ってみたり。 339 00:24:11,083 --> 00:24:14,787 はあ はあ はあ…。 340 00:24:16,588 --> 00:24:18,624 幸介さん! 341 00:24:18,624 --> 00:24:20,759 幸介さん 幸介さん! 342 00:24:20,759 --> 00:24:25,097 うう… お雪さん どうしたんですか? 343 00:24:25,097 --> 00:24:27,933 あなたの おっ母さんが 見つかったよ! 344 00:24:27,933 --> 00:24:30,602 えっ 本当ですか? 345 00:24:30,602 --> 00:24:33,105 去定先生が思い出してくれたの。 346 00:24:33,105 --> 00:24:36,408 この月光菩薩の片割れの日光菩薩を➡ 347 00:24:36,408 --> 00:24:41,113 湯島の甲州屋さんに往診に行った時に 見たことがあるって。 348 00:24:41,113 --> 00:24:44,616 甲州屋… うちでお世話になってる両替屋だ。 349 00:24:44,616 --> 00:24:46,652 そこのおかみさんが持ってたわ。 350 00:24:46,652 --> 00:24:48,954 えっ それじゃ…。 351 00:24:48,954 --> 00:24:53,792 そうよ。 あなたの おっ母さんよ。 352 00:24:53,792 --> 00:24:57,429 甲州屋のおかみさん…。 353 00:24:57,429 --> 00:25:02,234 おかみさんは あなたを 息子だって知りながら名乗れなかったの。 354 00:25:02,234 --> 00:25:04,169 ああ あの人だろうか…。 355 00:25:04,169 --> 00:25:11,377 父の弔いの時に 中に入らずに ぽつんと外に立っていた あの女の人。 356 00:25:11,377 --> 00:25:15,581 俺が声をかけようとしたら 背を向けて去っていった。 357 00:25:15,581 --> 00:25:18,484 あの悲しそうな顔。 358 00:25:18,484 --> 00:25:21,920 ああ そうか あの人が…。 359 00:25:21,920 --> 00:25:29,261 よかったわね。 会えるのよ おっ母さんに。 360 00:25:29,261 --> 00:25:31,764 ここを出たら 会いに行くよ。 361 00:25:31,764 --> 00:25:35,267 あっ ううん。 もうすぐ ここに来るわ。えっ? 362 00:25:35,267 --> 00:25:37,569 ⚟ごめんください。 363 00:25:43,976 --> 00:25:45,978 幸介…。 364 00:25:48,414 --> 00:25:54,420 あなたが 私の本当のおっ母さん…。 365 00:25:56,622 --> 00:26:03,062 やっと おっ母さんって呼んでもらえた…。 366 00:26:03,062 --> 00:26:06,565 おっ母さん…。 367 00:26:06,565 --> 00:26:11,070 幸介。 今まで ほっといて ごめんよ。 368 00:26:11,070 --> 00:26:13,906 許しておくれ。 このとおり。 369 00:26:13,906 --> 00:26:16,942 いや そんな… やめてくれよ おっ母さん。 370 00:26:16,942 --> 00:26:20,245 でも どうして…。 371 00:26:24,249 --> 00:26:32,591 私は 店の一人娘で 婿を取らないといけない身なのに➡ 372 00:26:32,591 --> 00:26:41,266 お前のお父っつぁんと 許されない仲になってしまったの。 373 00:26:41,266 --> 00:26:46,972 生まれたばかりのお前を 泣く泣く手放した。 374 00:26:49,942 --> 00:26:58,283 決して 母と名乗ってはいけないと 約束させられて…。 375 00:26:58,283 --> 00:27:05,891 親の言いつけどおり婿を取った。 376 00:27:05,891 --> 00:27:13,765 でも どんなに お前のことを 忘れようとしても➡ 377 00:27:13,765 --> 00:27:19,738 どうしても 忘れることはできない。 378 00:27:19,738 --> 00:27:23,609 だから 時々➡ 379 00:27:23,609 --> 00:27:28,747 お前の様子を 遠くから見てたんだよ。 380 00:27:28,747 --> 00:27:31,650 おっ母さん…。 381 00:27:31,650 --> 00:27:36,488 連れ合いも みつき前に亡くなってね。 382 00:27:36,488 --> 00:27:41,760 もう義理を果たしたと思った。 383 00:27:41,760 --> 00:27:44,396 そう思うと もう居ても立っても居られずに➡ 384 00:27:44,396 --> 00:27:46,765 お前に会いに行ったんだよ。 385 00:27:46,765 --> 00:27:53,639 そしたら あの店には いなかった。 386 00:27:53,639 --> 00:27:57,776 行き先 尋ねても 知らぬ存ぜぬで➡ 387 00:27:57,776 --> 00:28:06,351 あちこち… あちこち お前のことを捜し回ってたんだよ。 388 00:28:06,351 --> 00:28:13,125 そしたら 菩薩様を持った この人が…。 389 00:28:13,125 --> 00:28:19,731 もう 心おきなく 「おっ母さん」って呼べるね。 390 00:28:19,731 --> 00:28:22,568 何度でも言うよ。 391 00:28:22,568 --> 00:28:26,071 おっ母さん おっ母さん。 392 00:28:26,071 --> 00:28:29,908 おっ母さん おっ母さん。 393 00:28:29,908 --> 00:28:33,245 菩薩様に…➡ 394 00:28:33,245 --> 00:28:41,753 この菩薩様に お祈りしてたんだよ。 395 00:28:41,753 --> 00:28:48,760 いつか お前と 親子の名乗りができますように…。 396 00:28:52,464 --> 00:28:58,937 幸介。 体は どうなんだい? 397 00:28:58,937 --> 00:29:02,808 もうじき治るよ。 ここの人が よくしてくれるから…。 398 00:29:02,808 --> 00:29:09,047 特に あの お雪さんは 親身に世話をしてくれて…。 399 00:29:09,047 --> 00:29:11,550 そうかい。 400 00:29:11,550 --> 00:29:14,253 そうかい。 401 00:29:17,055 --> 00:29:21,727 本当に ありがとう。 402 00:29:21,727 --> 00:29:28,233 今日 こうして幸介と会えたのも あなたのおかげです。 403 00:29:28,233 --> 00:29:31,536 いいえ そんな…。 404 00:29:34,573 --> 00:29:37,075 あのね お願いがあるんだけど。 405 00:29:37,075 --> 00:29:40,579 いや お前さえ よければなんだけどね。 406 00:29:40,579 --> 00:29:42,914 私のところに 来る気はないかい? 407 00:29:42,914 --> 00:29:46,785 えっ? おっ母さんのところに? 408 00:29:46,785 --> 00:29:51,623 連れ合いが亡くなって 私が店を切り盛りしてたんだけど➡ 409 00:29:51,623 --> 00:29:55,927 一人じゃ どうも きつくてね。 410 00:29:55,927 --> 00:29:58,830 うちには跡取りもいないし➡ 411 00:29:58,830 --> 00:30:02,401 もし お前が あの家に戻るつもりがないなら➡ 412 00:30:02,401 --> 00:30:08,106 どうだい? うちに来ておくれよ。 413 00:30:08,106 --> 00:30:11,009 両替屋の仕事か… やったことがないし。 414 00:30:11,009 --> 00:30:13,612 いや もちろん 修業はしなきゃならない。 415 00:30:13,612 --> 00:30:19,284 でも うちの者が 親身になって教えてくれるから。 416 00:30:19,284 --> 00:30:22,988 ねえ 考えておくれよ。 417 00:30:27,159 --> 00:30:29,795 俺に できるかな? 418 00:30:29,795 --> 00:30:33,298 できます! えっ ちょっ…。 419 00:30:35,434 --> 00:30:40,972 幸介さんは 飲み込みは悪くても 真面目ですから。 420 00:30:40,972 --> 00:30:46,445 静かに 根気よく続ける仕事は 性に合ってると思うの。 421 00:30:46,445 --> 00:30:48,513 うまくいくわよ。 422 00:30:48,513 --> 00:30:52,250 この人の言うとおりだよ。 423 00:30:52,250 --> 00:30:58,657 そうか… お雪さんが そう言うなら➡ 424 00:30:58,657 --> 00:31:02,527 やってみようかな。 いや きっと やる! 425 00:31:02,527 --> 00:31:04,463 (笑い声) 426 00:31:04,463 --> 00:31:07,265 それがいいわ。 ウフフ。 427 00:31:07,265 --> 00:31:11,103 肩の荷が下りた。 428 00:31:11,103 --> 00:31:13,605 ありがとう。 429 00:31:13,605 --> 00:31:18,276 礼を言うのは俺の方だよ。 ありがとう おっ母さん。 430 00:31:18,276 --> 00:31:23,582 エヘヘ… ありがとう お雪さん! 431 00:31:30,622 --> 00:31:34,493 それじゃあ 早く よくなるんだよ。 432 00:31:34,493 --> 00:31:37,295 待ってるよ。 分かってる。 433 00:31:37,295 --> 00:31:39,297 うん。 434 00:31:43,435 --> 00:31:47,639 いずれは お嫁さん もらわなきゃね。 435 00:31:47,639 --> 00:31:53,445 そんな…。 いい年じゃないか。 436 00:31:53,445 --> 00:31:58,984 実は 俺の気持ちは決まってるんだ。 437 00:31:58,984 --> 00:32:04,256 (おふさ)おや そうなのかい。 フフフ。 438 00:32:04,256 --> 00:32:06,191 フフフ。 439 00:32:06,191 --> 00:32:21,673 ♬~ 440 00:32:21,673 --> 00:32:24,576 フフフ。 そういうことですよ。そうだよ。 441 00:32:24,576 --> 00:32:28,280 来た来た。 (せきばらい) 442 00:32:28,280 --> 00:32:30,615 (せきばらい) 443 00:32:30,615 --> 00:32:34,953 よかったね。 フフッ 本当に。 444 00:32:34,953 --> 00:32:37,989 これで幸介さんも 冷や飯食らいじゃなくなる。 445 00:32:37,989 --> 00:32:40,125 何 言ってんの。 あんたのことだよ。 446 00:32:40,125 --> 00:32:42,427 ああ ちょっと…。 大丈夫か? 447 00:32:42,427 --> 00:32:44,362 おっ母さんが 「お嫁さんを もらえ」って言ったら➡ 448 00:32:44,362 --> 00:32:47,632 「もう決めた人がいる」って きっと あんたのことだよ。 449 00:32:47,632 --> 00:32:51,503 いやいや いやいや 私のことかなんて分からないよ。 450 00:32:51,503 --> 00:32:55,307 しかし 「自分に振り向いてくれた女は いなかった」と言ってたぞ。 451 00:32:55,307 --> 00:32:57,242 つまり この養生所に来た時は➡ 452 00:32:57,242 --> 00:32:59,644 まだ 心に決めた女はいなかった ということだ。 453 00:32:59,644 --> 00:33:03,381 だったら 心に決めたってのは お雪以外に いないだろう。 454 00:33:03,381 --> 00:33:06,251 そう! そうかな…。 455 00:33:06,251 --> 00:33:09,087 甲州屋さんといえば 相当な お店だよ。 456 00:33:09,087 --> 00:33:11,590 玉の輿じゃないか。 よかったね。 457 00:33:11,590 --> 00:33:14,259 いやいやいや そんな。 458 00:33:14,259 --> 00:33:19,397 でも そしたら ここは 私と おたねさんの2人か。 459 00:33:19,397 --> 00:33:21,933 また忙しくなっちまうよ。 460 00:33:21,933 --> 00:33:25,637 そんな もう… 気が早いんだから。 461 00:33:28,607 --> 00:33:31,643 よし いいぞ。 462 00:33:31,643 --> 00:33:36,781 どうも 私は疑い深くなっていたようだ。 はい? 463 00:33:36,781 --> 00:33:39,684 そんなうまい話があるものかと 思っていたんだ。 464 00:33:39,684 --> 00:33:43,555 しかし あるところには あるものだな。 465 00:33:43,555 --> 00:33:46,958 何のことですか? お前たちのことだ。 466 00:33:46,958 --> 00:33:49,427 うまい具合に 母親が見つかって➡ 467 00:33:49,427 --> 00:33:52,297 しかも 心に決めた女までいるという。 468 00:33:52,297 --> 00:33:55,200 はあ…。 羨ましいねえ~。 469 00:33:55,200 --> 00:33:57,903 (笑い声) 470 00:34:03,375 --> 00:34:07,245 俺も これからは もう少し素直になろうと思う。 471 00:34:07,245 --> 00:34:12,083 それは結構なことですね。 フフフ…。 472 00:34:12,083 --> 00:34:16,388 幸せにしてやってくれ。 心に決めた人のことを。 473 00:34:16,388 --> 00:34:23,094 いや まだ向こうが どう思うか。 フフッ 向こうは もちろん承知だ。 474 00:34:23,094 --> 00:34:25,597 フフフ どうして分かるんですか? 475 00:34:25,597 --> 00:34:27,532 先生は会ったこともないでしょう。 476 00:34:27,532 --> 00:34:32,270 えっ? えっ? 477 00:34:32,270 --> 00:34:34,573 (病人たち)えっ? 478 00:34:37,776 --> 00:34:44,282 えっと その相手というのは誰なのか 教えてもらってもいいか? 479 00:34:51,323 --> 00:34:54,125 おみつちゃんといいます。 480 00:34:54,125 --> 00:34:56,161 誰だ? それは。 481 00:34:56,161 --> 00:35:02,367 幼なじみの酒田屋の娘です。 地味な子なんですが しんは あって➡ 482 00:35:02,367 --> 00:35:05,270 あんな人が お嫁に来てくれたら どんなにいいだろうと➡ 483 00:35:05,270 --> 00:35:08,239 ずっと思ってました。 484 00:35:08,239 --> 00:35:13,912 私は 自分のことを駄目な人間だと ずっと思ってました。 485 00:35:13,912 --> 00:35:18,583 おみつちゃんのことも 所詮 私には高根の花だと諦めてました。 486 00:35:18,583 --> 00:35:20,919 でも お雪さんに➡ 487 00:35:20,919 --> 00:35:25,790 そんなふうに思うことはないんだと 教えてもらったんです。 488 00:35:25,790 --> 00:35:28,393 おみつちゃんなんて そんな話は聞いてない。 489 00:35:28,393 --> 00:35:31,262 はあ 今 初めて言いました。 490 00:35:31,262 --> 00:35:34,265 だったら 紛らわしいことを言うな。 491 00:35:34,265 --> 00:35:37,769 紛らわしいって 何が? 492 00:35:37,769 --> 00:35:41,606 やっぱりだ。 やっぱり 世の中に うまい話はない。 493 00:35:41,606 --> 00:35:47,278 それが本当なんだ…。 大丈夫ですか? 494 00:35:47,278 --> 00:35:49,581 なんとかしないと。 495 00:35:52,150 --> 00:35:55,153 ほかの人には 黙ってるんですよ! 496 00:36:00,358 --> 00:36:02,560 まずい まずい まずい。 497 00:36:04,229 --> 00:36:06,564 確かに それは まずいな。 498 00:36:06,564 --> 00:36:09,601 早く なんとかしないと。 なんとかって何だ? 499 00:36:09,601 --> 00:36:12,437 本当のことを お雪に言うしかないじゃないか。 500 00:36:12,437 --> 00:36:15,073 それでは お雪さんは どうなるんですか? 501 00:36:15,073 --> 00:36:17,909 泣くだろうな。 かわいそうじゃないですか。 502 00:36:17,909 --> 00:36:20,812 人生 山あり谷ありだ。 男に振られたくらいで…。 503 00:36:20,812 --> 00:36:22,781 そう たやすい話ではありませんよ これは。 504 00:36:22,781 --> 00:36:26,918 お雪は 幸介を世話することで ここで働く張り合いを感じていたんです。 505 00:36:26,918 --> 00:36:29,821 単に 男に振られたでは済みません。 506 00:36:29,821 --> 00:36:32,590 そう言われると そんな気もするがな…。 507 00:36:32,590 --> 00:36:35,260 どうしたらいいんでしょう。 508 00:36:35,260 --> 00:36:38,930 お雪は 本当のことを知れば 悲しむだろう。 509 00:36:38,930 --> 00:36:43,401 しかし 事実からは逃れられん。 いずれは知らねばならない。 510 00:36:43,401 --> 00:36:45,470 それはそうですが…。 511 00:36:45,470 --> 00:36:48,239 おっしゃっていることは 本当かもしれませんが➡ 512 00:36:48,239 --> 00:36:53,144 それでは あまりに…。 513 00:36:53,144 --> 00:36:56,614 要するに あれだろう。 514 00:36:56,614 --> 00:37:01,219 お前たちは 自分が お雪に本当のことを言うのが嫌なんだな。 515 00:37:01,219 --> 00:37:04,889 自分が その役目をやりたくない。 そう思っているだけだろう。 516 00:37:04,889 --> 00:37:10,895 そんな…。 いや… 先生のおっしゃるとおりです。 517 00:37:15,066 --> 00:37:17,735 あっ いや… でも元はと言えば➡ 518 00:37:17,735 --> 00:37:21,072 お雪に けしかけるようなことを おっしゃったのは 先生ではありませんか。 519 00:37:21,072 --> 00:37:25,376 わしが? わしが何をした? そういえば おっしゃいました。 520 00:37:25,376 --> 00:37:29,080 「お雪が 幸介に対して 何かしたいと思う気持ちは大切だ」と。 521 00:37:29,080 --> 00:37:33,585 それのどこが けしかけている。 とどのつまり そうなっています。 522 00:37:37,789 --> 00:37:39,791 分かった。 523 00:37:39,791 --> 00:37:43,294 わしが お雪に話す。 それでいいだろう。 524 00:37:50,101 --> 00:37:54,939 立ち聞きをするな! と言ってるだろう…。 525 00:37:54,939 --> 00:37:59,778 あっ すみません…。 526 00:37:59,778 --> 00:38:17,195 ♬~ 527 00:38:17,195 --> 00:38:19,731 あっ 先生。 528 00:38:19,731 --> 00:38:28,239 ♬~ 529 00:38:28,239 --> 00:38:30,241 ちょっと邪魔。 530 00:38:30,241 --> 00:38:33,912 あら 何 ポ~ッとしてんだい。 531 00:38:33,912 --> 00:38:38,082 仕事しな。 ああ はい…。 532 00:38:38,082 --> 00:38:40,919 幸介さんのことを思って ポ~ッとするのも分かるけどさ➡ 533 00:38:40,919 --> 00:38:45,590 何事も ほどほどにね。 アハハハ…! 534 00:38:45,590 --> 00:38:48,393 アハハハ…! 535 00:38:52,463 --> 00:38:56,601 (笑い声) 536 00:38:56,601 --> 00:38:59,103 ちょっ ちょっ お常さん…! 何ですか? ちょっと…。 537 00:38:59,103 --> 00:39:02,707 あの…。 538 00:39:02,707 --> 00:39:04,642 えっ? 539 00:39:04,642 --> 00:39:18,056 ♬~ 540 00:39:18,056 --> 00:39:20,358 (くしゃみ) 541 00:39:26,231 --> 00:39:33,371 <数日後 幸介と母 おふさは 幸介が育った乾物屋に出かけた> 542 00:39:33,371 --> 00:39:36,908 この幸介さんを 養子にしようと思うんですよ。 543 00:39:36,908 --> 00:39:39,811 はあ…。 異存はありませんよね? 544 00:39:39,811 --> 00:39:43,381 元から この人のことを 「用なし」と言ってたぐらいですから。 545 00:39:43,381 --> 00:39:47,252 ハハ… ええ それはもう…。 546 00:39:47,252 --> 00:39:54,025 この人が持ち出したお金 そっくり お返しいたします。 547 00:39:54,025 --> 00:39:56,961 とんでもない。 いいんですよ。 548 00:39:56,961 --> 00:40:00,465 甲州屋さんから お金を取るなんて。 549 00:40:03,701 --> 00:40:07,639 (おふさ)というわけで 快く許していただきました。 550 00:40:07,639 --> 00:40:11,276 幸い お上には届けていなかったようで。 551 00:40:11,276 --> 00:40:13,778 そうか。 (田山)よかったな。 552 00:40:13,778 --> 00:40:18,950 はあ…。 あの… お雪さんは? 553 00:40:18,950 --> 00:40:24,656 お雪は仕事だ。 はあ… ひと言 お礼を…。 554 00:40:28,126 --> 00:40:31,963 あら 幸介さん。 555 00:40:31,963 --> 00:40:36,301 もう出ていくの? よかったねえ。 556 00:40:36,301 --> 00:40:38,803 うん。 いろいろありがとう。 557 00:40:40,305 --> 00:40:44,442 元気でね。 お雪さんも。 558 00:40:44,442 --> 00:40:48,313 ウフフ お役に立ててよかったわ。 559 00:40:48,313 --> 00:40:52,817 それが私の仕事だから。 ウフフ。 アハハ…。 560 00:40:52,817 --> 00:40:56,688 それじゃあ。 561 00:40:56,688 --> 00:40:58,990 フフッ…。 562 00:41:01,259 --> 00:41:05,263 (幸介)いつも笑顔で 本当に いい人だ。 563 00:41:05,263 --> 00:41:07,932 (田山)そうだな。 564 00:41:07,932 --> 00:41:09,968 ありがとうございました。 うむ。 565 00:41:09,968 --> 00:41:12,770 お世話になりました。 566 00:41:16,941 --> 00:41:21,245 <幸介は 実の母親と暮らすことになった> 567 00:41:25,416 --> 00:41:28,786 お雪…。 はい。 568 00:41:28,786 --> 00:41:33,992 よい働きをした。 これからも頼むぞ。 569 00:41:36,294 --> 00:41:38,963 分かりました。 570 00:41:38,963 --> 00:41:42,633 (泣き声) 571 00:41:42,633 --> 00:41:46,437 おっ… おい なんとかしろ。 572 00:41:46,437 --> 00:41:49,974 (田山)えっ なんとかとは…。 573 00:41:49,974 --> 00:41:53,644 (泣き声) 574 00:41:53,644 --> 00:41:57,315 どうしたの? 寝てなくてはいかん。 575 00:41:57,315 --> 00:42:00,151 いえ もうすっかり。 今日は気分がいいんです。 576 00:42:00,151 --> 00:42:03,588 そうなのか…。 (泣き声) 577 00:42:03,588 --> 00:42:08,259 お雪さん…。 578 00:42:08,259 --> 00:42:11,162 あっちに行きましょう。➡ 579 00:42:11,162 --> 00:42:14,932 ああ… かわいそうに。 580 00:42:14,932 --> 00:42:17,969 <去定先生も困ることがあるのだ。➡ 581 00:42:17,969 --> 00:42:23,674 その様子を見た私は なぜか少し ホッとしていた> 582 00:42:25,943 --> 00:42:28,946 先生! 母ちゃん。 583 00:42:30,615 --> 00:42:33,951 長太郎の母親は 今日も見舞いに来ませんでした。 584 00:42:33,951 --> 00:42:37,288 俺の母ちゃんじゃねえんだって。 じゃあ あの人は? 585 00:42:37,288 --> 00:42:40,124 違うだろう! 母ちゃん…。 586 00:42:40,124 --> 00:42:43,428 何だか おゆりさん 随分 変わっちまったな。 587 00:42:43,428 --> 00:42:46,631 この傷は どうした? 588 00:42:46,631 --> 00:42:49,434 私は 長太郎の母にはなれません。 589 00:42:49,434 --> 00:42:51,369 おゆりさん! 590 00:42:51,369 --> 00:42:54,672 いつまで死んだ者に とらわれ続けるんだ。