1 00:00:03,170 --> 00:00:06,773 (大岡)「新出去定 息災にしておるか。➡ 2 00:00:06,773 --> 00:00:10,110 そろそろ そなたの返事が 聞きたいところであるが➡ 3 00:00:10,110 --> 00:00:12,312 その後 いかがだろうか?」。 4 00:00:13,981 --> 00:00:18,785  回想 (大岡)実は 医学校をつくろうと思っておる。 5 00:00:18,785 --> 00:00:22,122 私に養生所を去れと 仰せられますか? 6 00:00:22,122 --> 00:00:25,926 もう十分 後進を育てたのではないのか。 7 00:00:27,928 --> 00:00:31,298 (お雪)あら おたねさん! 8 00:00:31,298 --> 00:00:34,635 (お常)おたねさん もう起きていいのかい? 9 00:00:34,635 --> 00:00:37,538 どうやら 先生方に分かってしまったようで。 10 00:00:37,538 --> 00:00:40,140 は? 分かったって 何が? 11 00:00:40,140 --> 00:00:45,946 私が楽な暮らしに慣れて 「痛い痛い」と大げさに言っていることが。 12 00:00:45,946 --> 00:00:47,881 (笑い声) 13 00:00:47,881 --> 00:00:51,318 そうだったのかい? もう 心配かけて。 14 00:00:51,318 --> 00:00:54,154 痛い イタタタタ…。 15 00:00:54,154 --> 00:00:56,089 ちょっと…。 大丈夫ですか? 16 00:00:56,089 --> 00:00:58,458 ちょっと… だ… 大丈夫かい? よいしょ。 17 00:00:58,458 --> 00:01:02,262 べえ~。 あっ もう~ おたねさんたら。 18 00:01:02,262 --> 00:01:04,197 かついだね あんた もう。 19 00:01:04,197 --> 00:01:06,934 (保本) <おたねは また以前のように働き始めた> 20 00:01:06,934 --> 00:01:10,237 合わん。 なぜだ? 21 00:01:17,110 --> 00:01:19,947 ここが間違ってますよ。 22 00:01:19,947 --> 00:01:21,982 あっ どこだ? 23 00:01:21,982 --> 00:01:25,118 80のところを800って。 24 00:01:25,118 --> 00:01:33,293 おっ そうか。 じゃあ 800引いて80足せば➡ 25 00:01:33,293 --> 00:01:37,297 おっ 合った。 26 00:01:37,297 --> 00:01:41,802 いや おたねさん 助かった。 いいえ。 27 00:01:41,802 --> 00:01:47,007 <おたねは 今や 養生所に なくてはならない身となっていた> 28 00:01:58,151 --> 00:02:05,759  回想 (おたね)♬「ねんねん ころりよ」 29 00:02:05,759 --> 00:02:10,263 ♬「おころりよ」 30 00:02:10,263 --> 00:02:19,773 ♬~ 31 00:02:19,773 --> 00:02:23,610 もう すっかりいいのですよ。 油断して無理をするな。 32 00:02:23,610 --> 00:02:27,414 はあ…。 ですが 皆さん 忙しく働いているのに➡ 33 00:02:27,414 --> 00:02:30,217 私一人 寝ているわけには。 34 00:02:44,631 --> 00:02:46,667 ああ もういいぞ。 35 00:02:46,667 --> 00:02:51,505 そうですか? どうも ありがとうございました。 36 00:02:51,505 --> 00:02:53,807 ああ。 37 00:02:56,243 --> 00:02:58,178 お持ちしました。 38 00:02:58,178 --> 00:03:01,081 あんた いやだ 力持ちだね。 すごい おたねさん。 39 00:03:01,081 --> 00:03:03,116 はい お雪さん。 おっとと…。 40 00:03:03,116 --> 00:03:06,753 おっ ちょちょちょちょ…。 気を付けてよ。 41 00:03:06,753 --> 00:03:09,089 (おたね)もう少し お持ちしますね。 (お常)はいはい。 42 00:03:09,089 --> 00:03:19,800 ♬~ 43 00:03:19,800 --> 00:03:24,304 おたねが よくなって よかったですね。ああ。 44 00:03:26,106 --> 00:03:29,609 皆が おたねを頼りにしています。 45 00:03:29,609 --> 00:03:32,946 今や おたねは この養生所にとって 欠くことのできない…。 46 00:03:32,946 --> 00:03:36,616 おたねは病人だ。 47 00:03:36,616 --> 00:03:40,120 ええ…。 ですが 体の方は もう。 48 00:03:47,260 --> 00:03:49,629 先生? 49 00:03:49,629 --> 00:03:53,300 手を動かせ。 50 00:03:53,300 --> 00:03:55,802 はい。 51 00:03:59,172 --> 00:04:04,911 やはり 先生と おたねの間には 何か あるのだろうか。 52 00:04:04,911 --> 00:04:08,248 では なぜ 我々に何も言わないのだ? 53 00:04:08,248 --> 00:04:12,752 そいつは…。 何だ お前 何か知ってるのか? 54 00:04:12,752 --> 00:04:16,256 いや…。 55 00:04:16,256 --> 00:04:18,759 何だ 言いかけておいて。 56 00:04:18,759 --> 00:04:21,661 <2人の間に立ち入るつもりはないが➡ 57 00:04:21,661 --> 00:04:24,097 隠し事をされるのは➡ 58 00:04:24,097 --> 00:04:28,769 いまだ 信用されていないようで 釈然としない。➡ 59 00:04:28,769 --> 00:04:34,274 そんな中 養生所に新たな病人が運び込まれた> 60 00:04:34,274 --> 00:04:36,209 (つぐみ)どうしました? 61 00:04:36,209 --> 00:04:38,945 (おゆり) 昨夜から ぜん息病みの発作が起きて。 62 00:04:38,945 --> 00:04:41,615 奥へ運んで。 はい。 63 00:04:41,615 --> 00:04:43,550 (つぐみ)こっちです。 64 00:04:43,550 --> 00:04:47,954 (せきこみ) 大丈夫? 65 00:04:47,954 --> 00:04:50,624 どんな様子だ? 発作が治まりません。 66 00:04:50,624 --> 00:04:52,559 布団を持ってこい。 はい。 67 00:04:52,559 --> 00:04:55,796 息を詰まらせないように 背中にかますぞ。(つぐみ)はい。 68 00:04:55,796 --> 00:04:57,831 大丈夫だ。 すぐに よくなるぞ。 69 00:04:57,831 --> 00:05:02,068 (せきこみ) よし これも借りるぞ。 70 00:05:02,068 --> 00:05:05,105 さあ ゆっくり寄りかかれ ゆっくりだ。 71 00:05:05,105 --> 00:05:10,310 そうだ。 よ~し いいぞ。 72 00:05:12,245 --> 00:05:16,550 長太郎…。 (長太郎)母ちゃん。 73 00:05:19,753 --> 00:05:21,955 母ちゃん。 74 00:05:31,097 --> 00:05:36,603 <去定先生の言いつけにより 長太郎は つぐみが診ることになった> 75 00:05:38,405 --> 00:05:41,942 飲みなさい。 76 00:05:41,942 --> 00:05:45,412 長太郎。 嫌いだって言ったろ。 77 00:05:45,412 --> 00:05:49,616 飲まないと治らないわよ。 何度も同じこと言わせないの。 78 00:05:49,616 --> 00:05:52,953 やだよ まずいんだもの。 まずくない薬なんかないの! 79 00:05:52,953 --> 00:05:54,888 いいから飲みなさい。 80 00:05:54,888 --> 00:05:58,124 じゃあ 先生が飲んでよ。 先生が飲んだら飲むよ。 81 00:05:58,124 --> 00:06:02,362 私が飲んで どうすんのよ。 大切な薬なのに。 82 00:06:02,362 --> 00:06:06,900 (小声で)鬼。 今 何て言った! 83 00:06:06,900 --> 00:06:08,902 とにかく 口を開けなさい。 84 00:06:16,576 --> 00:06:20,447 おお… これは 随分と機嫌がよさそうだな。 85 00:06:20,447 --> 00:06:26,753 えっ? ああ… しかし 長太郎の子守も大変だな。 86 00:06:26,753 --> 00:06:29,089 いや 子守って年でもないか。 87 00:06:29,089 --> 00:06:32,392 いいえ。 長太郎は まだまだ子どもです! 88 00:06:32,392 --> 00:06:34,461 ああ そうか。 89 00:06:34,461 --> 00:06:36,596 長太郎を診てきます。 90 00:06:36,596 --> 00:06:40,400 子どもは どっちだ? えっ? 91 00:06:40,400 --> 00:06:42,902 あっ いやいや。 92 00:06:48,141 --> 00:06:51,144 吐いて。 ふう~。 93 00:06:54,914 --> 00:06:57,817 ねえ 先生。 ん? 94 00:06:57,817 --> 00:07:02,555 医者って もうかるの? えっ? 95 00:07:02,555 --> 00:07:06,359 もうかるなら 俺も なってみようかな。 96 00:07:06,359 --> 00:07:09,896 もうかっている お医者も いるでしょうね。 どこかには。 97 00:07:09,896 --> 00:07:11,932 どこかって どこ? 98 00:07:11,932 --> 00:07:14,734 さあ 私が知る ほとんどのお医者は➡ 99 00:07:14,734 --> 00:07:19,606 ろくに休みもせず 働きづめに働いても 大した稼ぎにならず。 100 00:07:19,606 --> 00:07:21,608 じゃあ やめた。 101 00:07:25,078 --> 00:07:27,113 ねえ。 ん? 102 00:07:27,113 --> 00:07:31,618 そんな怖い顔してると お嫁のもらい手 なくなるよ。 103 00:07:37,257 --> 00:07:39,259 お代わり! はい。 104 00:07:39,259 --> 00:07:41,928 お前 飯の時ぐらい そんな怖い顔…。 105 00:07:41,928 --> 00:07:45,765 これが私の普通の顔です! えっ ああ そうか…。 106 00:07:45,765 --> 00:07:48,268 去定先生。 ん? 107 00:07:48,268 --> 00:07:52,939 長太郎の母親は 今日も見舞いに来ませんでした。 108 00:07:52,939 --> 00:07:54,874 そうか…。 109 00:07:54,874 --> 00:07:57,811 やむにやまれぬ事情が あるのでしょうが➡ 110 00:07:57,811 --> 00:08:00,680 長太郎は寂しいのでしょう。 111 00:08:00,680 --> 00:08:05,352 だから あのように 何かと人を困らせるのです。 112 00:08:05,352 --> 00:08:10,190 長太郎か…。 あれで なかなか賢い子だな。 113 00:08:10,190 --> 00:08:12,559 なぜ そう思うのですか? 114 00:08:12,559 --> 00:08:15,595 入所病人の名と顔を ほとんど覚えていた。 115 00:08:15,595 --> 00:08:21,901 誰と誰が仲がよく 誰と誰が仲たがいしているかまで。 116 00:08:21,901 --> 00:08:25,739 人の気持ちを よく察することのできる子だ。 117 00:08:25,739 --> 00:08:30,377 ならば ひねくれるのではなく もっと素直になれば。 118 00:08:30,377 --> 00:08:34,247 つぐみと よく似てるではないか。 えっ? 119 00:08:34,247 --> 00:08:38,251 おい 田山。 津川さんも そう思っているのでしょう? 120 00:08:38,251 --> 00:08:42,756 あっ いや… 俺は…。 121 00:08:42,756 --> 00:08:45,658 お代わり。 はい。 122 00:08:45,658 --> 00:08:48,561 つぐみ 飯は もっと よくかんで食え。 123 00:08:48,561 --> 00:08:51,364 分かっています! 124 00:08:55,468 --> 00:08:59,773 みんなで私を笑い物にして。 125 00:08:59,773 --> 00:09:01,708 つぐみさん。 はい! 126 00:09:01,708 --> 00:09:05,044 フフッ ちょっと 手を貸してくださる? 127 00:09:05,044 --> 00:09:07,847 はい? 128 00:09:12,786 --> 00:09:15,221 はい できました。 129 00:09:15,221 --> 00:09:17,157 ありがとう。 130 00:09:17,157 --> 00:09:21,895 やっぱり 若い人は目がいいのね。 131 00:09:21,895 --> 00:09:24,731 おたねさん。 なあに? 132 00:09:24,731 --> 00:09:29,369 何で おたねさんは いつも そんなに笑っていられるんですか? 133 00:09:29,369 --> 00:09:34,207 えっ? 私には到底できません。 134 00:09:34,207 --> 00:09:38,111 あら 何で? できるわよ。 135 00:09:38,111 --> 00:09:40,113 ほら 笑ってみて。 136 00:09:40,113 --> 00:09:42,949 おかしくもないのに笑えません。 137 00:09:42,949 --> 00:09:47,754 ハハッ 無理してでも笑ってたら おかしくなるわよ。 138 00:09:47,754 --> 00:09:49,689 そういうものですか? 139 00:09:49,689 --> 00:09:51,691 そういうものよ。 140 00:09:55,495 --> 00:09:57,497 はい。 141 00:10:04,771 --> 00:10:07,574 (つぐみ)こう… ですか? 142 00:10:11,277 --> 00:10:16,950 痛っ。 あら つったの? 慣れないことするから。 143 00:10:16,950 --> 00:10:20,420 おたねさんが やれって言うから。 ああ ごめんなさい。 144 00:10:20,420 --> 00:10:28,428 (せきこみ) 145 00:10:38,838 --> 00:10:43,309 どう? 昨日は よく眠れた? 146 00:10:43,309 --> 00:10:47,647 いつもの怖い顔でいいよ。 えっ? 147 00:10:47,647 --> 00:10:51,451 無理して笑うと気味が悪いよ。 148 00:10:51,451 --> 00:10:55,321 気味が悪いって…。 149 00:10:55,321 --> 00:10:57,323 ねえ。 ん? 150 00:10:57,323 --> 00:11:02,128 先生の母ちゃんてさ どんな人だった? 151 00:11:06,933 --> 00:11:11,271 ねえ。 覚えてない。 152 00:11:11,271 --> 00:11:17,076 えっ? 小さい頃 私を置いて いなくなったから。 153 00:11:17,076 --> 00:11:21,581 何で? 何でも。 はい。 154 00:11:25,785 --> 00:11:29,622 俺の母ちゃんは優しいんだよ。 155 00:11:29,622 --> 00:11:36,129 いつも笑ってて そばに寄ると あったかくて いい匂いがして。 156 00:11:41,801 --> 00:11:45,638 じゃあ 何で 母ちゃんを あんな目で見たの? 157 00:11:45,638 --> 00:11:50,143 母ちゃんじゃ… ねえ。 158 00:11:50,143 --> 00:11:52,445 えっ? 159 00:11:52,445 --> 00:11:54,380 母ちゃんじゃねえ。 160 00:11:54,380 --> 00:11:56,316 何 言ってるの? 161 00:11:56,316 --> 00:11:59,819 だから 俺の母ちゃんじゃねえんだって。 162 00:11:59,819 --> 00:12:01,754 どういうこと? 163 00:12:01,754 --> 00:12:07,927 俺の母ちゃん 死んだ。 164 00:12:07,927 --> 00:12:10,396 死んじまったんだ…。 165 00:12:10,396 --> 00:12:13,933 じゃあ あの人は? 166 00:12:13,933 --> 00:12:18,404 長太郎に付き添っていたのは 母の妹の おゆりだそうです。 167 00:12:18,404 --> 00:12:24,911 妹… では 叔母ということか。 はい。 168 00:12:27,614 --> 00:12:31,784 長太郎は 幼い頃に父を亡くし 相次いで母も亡くし➡ 169 00:12:31,784 --> 00:12:34,587 叔母の おゆりに 引き取られたそうです。 170 00:12:39,959 --> 00:12:42,862 母ちゃん…。 171 00:12:42,862 --> 00:12:47,133 母ちゃん 母ちゃん 母ちゃん! 172 00:12:47,133 --> 00:12:49,168 長太郎! 173 00:12:49,168 --> 00:13:05,918 ♬~ 174 00:13:05,918 --> 00:13:11,224 ごめんよ… 間に合わなくて ごめんよ。 175 00:13:14,394 --> 00:13:19,265 お前を一人にしちまって ごめんよ。 176 00:13:19,265 --> 00:13:24,270 う~… 叔母ちゃん…。 177 00:13:26,606 --> 00:13:30,109 それまで おゆりは優しい叔母だったそうですが➡ 178 00:13:30,109 --> 00:13:34,614 長太郎を引き取ってからは 様子が変わったようです。 179 00:13:34,614 --> 00:13:38,618 急に 長太郎に厳しく当たるようになって。 180 00:13:44,624 --> 00:13:47,126 何度言ったら分かるんだい。 181 00:13:47,126 --> 00:13:50,963 そんな箸の持ち方では駄目だと 言ってるだろう。 182 00:13:50,963 --> 00:13:52,965 はい。 183 00:14:02,075 --> 00:14:05,912 ほら! 違うだろう! 184 00:14:05,912 --> 00:14:07,947 (つぐみ)長太郎は言っていました。 185 00:14:07,947 --> 00:14:12,685 おゆりは 自分のことが邪魔になったんだって。 186 00:14:12,685 --> 00:14:18,925 お前も そう思うか? 分かりません。 187 00:14:18,925 --> 00:14:21,961 ここで 長太郎に付き添っていた時 おゆりは➡ 188 00:14:21,961 --> 00:14:25,398 本当に子を思う母親に見えました。 189 00:14:25,398 --> 00:14:30,236 ですが 長太郎の目には そう見えていないのかもしれません。 190 00:14:30,236 --> 00:14:34,440 子どもから見た親というものは また別ですから。 191 00:14:38,411 --> 00:14:45,184 とにかく今は 長太郎を気にかけてやれ。 いいな? 192 00:14:45,184 --> 00:14:47,186 はい。 193 00:14:49,055 --> 00:14:51,257 (長太郎)母ちゃん…。 194 00:14:54,861 --> 00:14:57,063 (おたね)ねえ。 195 00:15:00,133 --> 00:15:04,337 ちょっと おばさんと遊んでくれるかしら? 196 00:15:07,940 --> 00:15:12,578 ⚟(おたねの笑い声) ⚟(長太郎)違うよ! フフフフ…。➡ 197 00:15:12,578 --> 00:15:14,514 もう一回やろう。 ⚟(おたね)いいわよ。 198 00:15:14,514 --> 00:15:16,916 はい。 次 おたねさんの番。 はい。 199 00:15:16,916 --> 00:15:19,252 じゃあ… あっ こう? 200 00:15:19,252 --> 00:15:22,255 そうじゃなくって。 (2人)あ~。 201 00:15:22,255 --> 00:15:24,924 もう おたねさん 下手っぴだなあ。 202 00:15:24,924 --> 00:15:27,260 (おたね)もう一回。 (長太郎)えっ もう一回? 203 00:15:27,260 --> 00:15:33,132 ♬~(三味線) 204 00:15:33,132 --> 00:15:35,134 い~や。 205 00:15:35,134 --> 00:15:41,340 ♬~(三味線) 206 00:15:43,409 --> 00:15:45,912 長太郎は どうだ? 207 00:15:49,115 --> 00:15:52,018 そばにいてやらなくて よいのか? 208 00:15:52,018 --> 00:15:55,421 ⚟(長太郎のせきこみ) 209 00:15:55,421 --> 00:15:59,959 大丈夫ですよ。 もう少しの辛抱ですよ。 210 00:15:59,959 --> 00:16:03,563 おたねさん…。 211 00:16:03,563 --> 00:16:10,736 おお 何だか おたねに懐いてるな。 そうですね。 212 00:16:10,736 --> 00:16:15,575 お前 どっちに やきもちやいてんだ? えっ? 213 00:16:15,575 --> 00:16:18,077 長太郎を おたねに取られて悔しいのか➡ 214 00:16:18,077 --> 00:16:21,747 おたねを長太郎に取られて悔しいのか。 215 00:16:21,747 --> 00:16:26,252 はあ? からかうのも いいかげんにしてください! 216 00:16:26,252 --> 00:16:28,754 (おゆり)⚟ごめんください。 217 00:16:32,391 --> 00:16:38,397 (せきこみ) 218 00:16:48,407 --> 00:16:51,944 長太郎。 何? 219 00:16:51,944 --> 00:16:55,414 ここの人たちに わがまま言ったりしてないだろうね。 220 00:16:55,414 --> 00:16:59,619 してないよ。 221 00:16:59,619 --> 00:17:02,521 ちゃんと行儀よくしてるだろうね。 222 00:17:02,521 --> 00:17:04,524 コホッ。 してるよ。 223 00:17:06,425 --> 00:17:08,427 じゃあ 行くよ。 224 00:17:08,427 --> 00:17:11,230 くれぐれも 人様に迷惑をかけるんじゃないよ。 225 00:17:11,230 --> 00:17:15,034 いいね? 分かったね?(せきこみ) 226 00:17:20,239 --> 00:17:25,111 おう おゆりさんじゃねえか。 227 00:17:25,111 --> 00:17:28,748 ああ… こんにちは。 228 00:17:28,748 --> 00:17:31,250 こんな所に何の用だい? 229 00:17:31,250 --> 00:17:33,753 おめえも どっか悪いのかい? 230 00:17:33,753 --> 00:17:37,456 いえ すいません 急ぐので。 231 00:17:39,625 --> 00:17:42,461 知り合いですか? ああ。 232 00:17:42,461 --> 00:17:46,265 何だか おゆりさん 随分 変わっちまったな。 233 00:17:46,265 --> 00:17:49,101 変わった? ああ。 234 00:17:49,101 --> 00:17:52,605 明るい人だったんだが 笑わなくなっちまって。 235 00:17:52,605 --> 00:17:55,641 苦労したんだろうな。 236 00:17:55,641 --> 00:17:59,111 嫁入り話も山ほどあっただろうに➡ 237 00:17:59,111 --> 00:18:02,014 あの年で独り身で…。 238 00:18:02,014 --> 00:18:08,821 姉さんの子を育てているうちに とうとう 行きそびれたんだろうな。 239 00:18:14,060 --> 00:18:16,262 おっ 待て。 240 00:18:18,898 --> 00:18:21,934 顔色が悪いな。 えっ? 241 00:18:21,934 --> 00:18:25,938 ん? この傷は どうした? 242 00:18:27,607 --> 00:18:31,477 何でもありません。 診てやろう。 来い。 243 00:18:31,477 --> 00:18:33,779 いえ 結構です。 244 00:18:35,915 --> 00:18:38,117 おい…。 245 00:18:44,090 --> 00:18:47,960 ⚟(長太郎のせきこみ) 246 00:18:47,960 --> 00:18:51,764 ⚟(つぐみ)しっかり養生すれば ちゃんと よくなるから。➡ 247 00:18:51,764 --> 00:18:53,699 ここを出られるようになるから。 248 00:18:53,699 --> 00:18:58,537 (せきこみ) 249 00:18:58,537 --> 00:19:02,408 出なくて… いい。 250 00:19:02,408 --> 00:19:05,878 えっ? 251 00:19:05,878 --> 00:19:12,218 出たくない… ずっとここにいる。 252 00:19:12,218 --> 00:19:14,887 長太郎…。 253 00:19:14,887 --> 00:19:17,223 (せきこみ) 254 00:19:17,223 --> 00:19:20,059 何で そんなこと言うの? 255 00:19:20,059 --> 00:19:23,262 (長太郎のせきこみ) 256 00:19:30,236 --> 00:19:32,571 ごめんください。 257 00:19:32,571 --> 00:19:35,608 あなたの お好きな おはぎを 作ってまいりましたよ。 258 00:19:35,608 --> 00:19:39,812 ああ すまん。 ありがとう。 259 00:19:42,081 --> 00:19:45,751 なあ まさを。 はい。 260 00:19:45,751 --> 00:19:50,089 肉親の情とは何だろうな? 261 00:19:50,089 --> 00:19:54,760 それは あの長太郎という子のことですか? 262 00:19:54,760 --> 00:19:59,932 ああ。 長太郎にとって おゆりは たった一人の肉親だ。 263 00:19:59,932 --> 00:20:06,105 おゆりとて 長太郎は 姉の忘れ形見だろう。 264 00:20:06,105 --> 00:20:09,975 それなのに 長太郎は おゆりとの暮らしより➡ 265 00:20:09,975 --> 00:20:15,114 養生所の暮らしの方が いいと…。 266 00:20:15,114 --> 00:20:19,952 フフ…。 どうした? 267 00:20:19,952 --> 00:20:23,823 いえ フフッ 昔のことを思い出したので。 268 00:20:23,823 --> 00:20:25,825 昔のこと? 269 00:20:25,825 --> 00:20:29,962 幼い頃 母が寝込んだことがあって。 270 00:20:29,962 --> 00:20:34,834 その時 姉と私は 親戚の家に 預けられたことがあったんです。 271 00:20:34,834 --> 00:20:38,304 そんなことがあったのか? はい。 272 00:20:38,304 --> 00:20:41,974 初めは 家が恋しくて 泣いていたのですが➡ 273 00:20:41,974 --> 00:20:47,446 だんだんと親戚の家の気ままな暮らしに 慣れてしまって➡ 274 00:20:47,446 --> 00:20:52,985 しまいには「家に帰りたくない」と 泣きだしてしまって。 275 00:20:52,985 --> 00:20:55,020 長太郎も それと同じということか? 276 00:20:55,020 --> 00:20:59,325 それは分かりませんが…。 277 00:20:59,325 --> 00:21:04,096 自分の家というのは いろいろなことがありますから➡ 278 00:21:04,096 --> 00:21:08,400 楽しいばかりの所では ありませんから…。 279 00:21:11,971 --> 00:21:16,275 いや 私は違う。 280 00:21:16,275 --> 00:21:18,277 えっ? 281 00:21:18,277 --> 00:21:22,414 私にとって 自分の家は…➡ 282 00:21:22,414 --> 00:21:25,317 お前との暮らしは➡ 283 00:21:25,317 --> 00:21:29,622 楽しいことばかりだ。 284 00:21:29,622 --> 00:21:33,292 あら フフ…。 285 00:21:33,292 --> 00:21:37,630 お父上は 随分と お上手になりましたね。 286 00:21:37,630 --> 00:21:40,533 ハハハ…。 フフフ…。 287 00:21:40,533 --> 00:21:46,138 今日は 回る所が多いから お前がいて助かる。いえ。 288 00:21:46,138 --> 00:21:49,441 だが 長太郎は よかったのか? 289 00:21:49,441 --> 00:21:52,144 おたねさんに 頼んできましたから。 290 00:21:52,144 --> 00:21:55,648 あっ そうか。 291 00:21:59,451 --> 00:22:05,257 つぐみ 俺は思うのだが。 292 00:22:05,257 --> 00:22:11,764 お前が おたねに なれぬように おたねも お前には なれぬ。 293 00:22:11,764 --> 00:22:14,099 当たり前です。 294 00:22:14,099 --> 00:22:17,002 あっ いや そういうことではなく➡ 295 00:22:17,002 --> 00:22:21,974 ああ つまり その…➡ 296 00:22:21,974 --> 00:22:27,279 長太郎は お前には気を遣わず 言いたいことを言っている。 297 00:22:27,279 --> 00:22:30,616 それで 少しは心が晴れてるはずだ。 298 00:22:30,616 --> 00:22:33,319 えっ? 299 00:22:35,487 --> 00:22:39,491 もしや 私を慰めようと? 300 00:22:45,965 --> 00:22:49,768 もう少しの辛抱ですからね。 301 00:22:58,310 --> 00:23:01,247 どうしたの? 302 00:23:01,247 --> 00:23:05,584 母ちゃん…。 ん? 303 00:23:05,584 --> 00:23:08,387 おたねさんが 母ちゃんだったらいいのに。 304 00:23:10,456 --> 00:23:14,960 おたねさんみたいに 優しくて あったかい人が母ちゃんなら。 305 00:23:19,265 --> 00:23:23,068 そうは いきませんよ。 えっ? 306 00:23:34,613 --> 00:23:36,548 どうした? すみません➡ 307 00:23:36,548 --> 00:23:39,785 先に帰っててください。 えっ? 308 00:23:39,785 --> 00:23:47,092 私が長太郎に優しくするのは 私が本当の母ちゃんではないからです。 309 00:23:48,961 --> 00:23:53,132 あなたが どうなろうと 構わないから。 310 00:23:53,132 --> 00:23:57,436 どうなろうと構わない? 311 00:23:57,436 --> 00:24:04,209 あなたは ここへ来る 大勢の病人の一人にすぎないのですから。 312 00:24:04,209 --> 00:24:21,226 ♬~ 313 00:24:41,613 --> 00:24:46,485 (おたね) けれど 本当の母親であったなら➡ 314 00:24:46,485 --> 00:24:51,290 私は どうなろうと構わない。 315 00:24:51,290 --> 00:24:57,096 我が子の命の代わりに 私の身が どうなろうとも。 316 00:25:02,568 --> 00:25:05,471 長太郎の病が治りますように。 317 00:25:05,471 --> 00:25:09,241 長太郎の体が丈夫になりますように。 318 00:25:09,241 --> 00:25:22,388 ♬~ 319 00:25:22,388 --> 00:25:30,129 母が子に厳しくするのは 子の身を真に思うからです。 320 00:25:30,129 --> 00:25:36,769 我が身に代えても 守りたいと思うからです。➡ 321 00:25:36,769 --> 00:25:44,943 赤子の頃は こんな小さな命を守れるのかと思い➡ 322 00:25:44,943 --> 00:25:47,980 よちよち歩くようになれば➡ 323 00:25:47,980 --> 00:25:52,418 転んで けがをするのではないかと思い➡ 324 00:25:52,418 --> 00:25:55,954 コホンと 一つ せきをすれば➡ 325 00:25:55,954 --> 00:25:58,791 はやり病かと思い➡ 326 00:25:58,791 --> 00:26:02,061 遅くまで帰ってこなければ➡ 327 00:26:02,061 --> 00:26:05,731 人さらいにあったのではないかと思い➡ 328 00:26:05,731 --> 00:26:08,767 我が身が裂かれるほどに心配し➡ 329 00:26:08,767 --> 00:26:15,240 だから 我が子に言うのです。 330 00:26:15,240 --> 00:26:18,243 寒い日に外に出てはいけない。➡ 331 00:26:18,243 --> 00:26:21,580 暗くなるまで遊んではいけない。 332 00:26:21,580 --> 00:26:25,083 そう 何度でも言うのです。 333 00:26:25,083 --> 00:26:28,587 おたねさん…。 334 00:26:33,592 --> 00:26:38,931 (定之助)母上… 母上…。➡ 335 00:26:38,931 --> 00:26:44,603 母上 母上 母上…。 336 00:26:44,603 --> 00:26:50,409 定之助! 行かないで…。 337 00:26:50,409 --> 00:26:53,412 行かないで 定之助…。 338 00:26:55,113 --> 00:27:01,887 (おゆり) 長太郎の体が丈夫になりますように。 339 00:27:01,887 --> 00:27:05,357 長太郎の病が治りますように。 340 00:27:05,357 --> 00:27:08,660 長太郎の体が…。 341 00:27:10,896 --> 00:27:13,398 あなたは…。 342 00:27:20,572 --> 00:27:22,574 おゆりさん! 343 00:27:24,376 --> 00:27:27,246 おゆりさん。 (田山)つぐみ。 344 00:27:27,246 --> 00:27:29,548 おゆりさん 聞こえますか? 345 00:27:32,918 --> 00:27:37,122  回想 (おゆり)長太郎! 何度 言ったら分かるんですか? 346 00:27:40,259 --> 00:27:44,763 暗くなる前に早く帰ってきなさいと あれほど言ったでしょう。 347 00:27:44,763 --> 00:27:47,266 はい。 348 00:27:52,638 --> 00:27:55,274 読み書きが しっかり できねば➡ 349 00:27:55,274 --> 00:27:58,777 世の中を渡っていくことは できませんよ。 350 00:28:04,716 --> 00:28:08,554 食べないの? 351 00:28:08,554 --> 00:28:11,356 いいから お前が食べなさい。 352 00:28:11,356 --> 00:28:14,860 あたしは おなかが すいていないのだから。 353 00:28:20,065 --> 00:28:26,572  回想 (おたね)定之助! 行かないで…。 354 00:28:28,574 --> 00:28:30,509 ⚟(つぐみ)先生! 355 00:28:30,509 --> 00:28:33,445 どうした? 356 00:28:33,445 --> 00:28:36,915 おゆり? 体が弱り切っています。 357 00:28:36,915 --> 00:28:39,818 運べ。 はい。 358 00:28:39,818 --> 00:28:43,255 急げ。 (田山)はい。 359 00:28:43,255 --> 00:28:46,258 田山 焼酎。 はい。 360 00:28:46,258 --> 00:28:48,760 (つぐみ)おゆりは 神社で お百度を踏んでいました。 361 00:28:48,760 --> 00:28:52,464 長太郎の ぜん息病みが 治ることを祈願して。 362 00:28:54,099 --> 00:28:57,135 体が冷えきってるな。 363 00:28:57,135 --> 00:28:59,137 おい 温めろ。 364 00:29:03,542 --> 00:29:10,048 <おゆりは こんこんと眠り続け 翌朝 ようやく目を覚ました> 365 00:29:14,219 --> 00:29:17,889 おゆりさん 分かりますか? 366 00:29:17,889 --> 00:29:20,392 あなたは 神社で倒れて…。 367 00:29:23,562 --> 00:29:26,064 ああ まだ起きてはいかん。 368 00:29:26,064 --> 00:29:28,567 情けない…。 えっ? 369 00:29:28,567 --> 00:29:31,603 人様に迷惑をかけるだなんて 情けない。 370 00:29:31,603 --> 00:29:33,739 おゆりさん いけません。 371 00:29:33,739 --> 00:29:36,642 長太郎にも あれほど 人様に迷惑をかけるなと➡ 372 00:29:36,642 --> 00:29:39,911 言い聞かせてきたのに。 ああ…! 373 00:29:39,911 --> 00:29:42,581 なぜだ? 374 00:29:42,581 --> 00:29:46,251 なぜ 人のやっかいになっては いかんのだ? 375 00:29:46,251 --> 00:29:50,756 世間は 貧乏人に優しくはありませんから。 376 00:29:53,392 --> 00:29:57,195 いつでも 足を すくおうとしますから。 377 00:29:59,097 --> 00:30:05,270 姉が亡くなり あの子を引き取るまで➡ 378 00:30:05,270 --> 00:30:09,574 私は 世間というものを よく分かっていませんでした。 379 00:30:11,610 --> 00:30:15,781 一人で 長太郎を抱えることになった身ですが➡ 380 00:30:15,781 --> 00:30:19,618 なんとかなると思っていたのです。 381 00:30:19,618 --> 00:30:25,123 世間は 私たちに手を差し伸べてくれるものと…。 382 00:30:29,294 --> 00:30:35,634 でも そう甘くはありませんでした。 383 00:30:35,634 --> 00:30:38,303 おや 何か いいことでも あったのかい? 384 00:30:38,303 --> 00:30:41,973 いい天気で 気持ちがいいですね。 385 00:30:41,973 --> 00:30:47,446 アハハハ そんなことで喜べるなんて あんたは いいね。 386 00:30:47,446 --> 00:30:51,316 ところで 今月の家賃が まだのようなんだけど。 387 00:30:51,316 --> 00:30:54,653 あっ すみません。 388 00:30:54,653 --> 00:31:00,158 あの… 長太郎と2人の暮らしが まだ落ち着かなくて。 389 00:31:00,158 --> 00:31:02,394 苦しいのは分かるけどさ➡ 390 00:31:02,394 --> 00:31:07,099 それでも 決まったものは もらわないとね。 391 00:31:07,099 --> 00:31:14,606 すみません。 あの… もう少しだけ 待っていただけないでしょうか? 392 00:31:14,606 --> 00:31:17,943 あんた 若くて きれいなんだからさ。 393 00:31:17,943 --> 00:31:21,613 よかったら 口 利いてやろうか? えっ? 394 00:31:21,613 --> 00:31:27,319 だからさ もっと楽して稼げる所をさ。 395 00:31:28,954 --> 00:31:32,758 あんたなら きっと いいお客がつくよ。 396 00:31:35,627 --> 00:31:42,801 それって…。 フフフ…。 397 00:31:42,801 --> 00:31:45,303 結構です! 398 00:31:45,303 --> 00:31:50,175 お待たせしました。 おう ねえちゃん ちょっと酌してくれよ。 399 00:31:50,175 --> 00:31:55,013 はい。 いい女の酌で飲むと 酒がうめえんだよ。 400 00:31:55,013 --> 00:31:58,817 あっ はい。おう こっち来いよ。 はい…。 401 00:31:58,817 --> 00:32:04,256 そんなに安いんですか? 話が違います。 402 00:32:04,256 --> 00:32:08,126 はあ? 言ったはずだが。 そんな…。 403 00:32:08,126 --> 00:32:14,900 嫌なら いいんだぜ 針仕事なんぞ 誰でも できるんだよ。 404 00:32:14,900 --> 00:32:19,404 言うこと聞けねえのなら これっきりだ。 405 00:32:19,404 --> 00:32:21,940 分かりました。 406 00:32:21,940 --> 00:32:26,111 (おゆり) 私は その時 思い知ったんです。➡ 407 00:32:26,111 --> 00:32:31,983 長太郎を立派に育てるためには 鬼にならなければならないのだと。 408 00:32:31,983 --> 00:32:38,623 (つぐみ)鬼? どういう意味だ? 409 00:32:38,623 --> 00:32:45,397 鬼になって 弱い自分を 甘い自分を➡ 410 00:32:45,397 --> 00:32:48,200 捨て去らなければならないのだと。 411 00:32:50,635 --> 00:32:56,308 そして 長太郎に厳しく言い聞かせました。 412 00:32:56,308 --> 00:33:04,382 世間は甘くない。 貧乏人に優しくはしてくれない。 413 00:33:04,382 --> 00:33:09,254 この先 私まで倒れてしまったら➡ 414 00:33:09,254 --> 00:33:16,962 長太郎は たった一人 誰も頼らずに 生きていかねばなりませんから。 415 00:33:16,962 --> 00:33:20,265 でも 長太郎は まだ子どもです。 416 00:33:20,265 --> 00:33:25,403 子どもには 甘えさせてくれる母がいなくては。 417 00:33:25,403 --> 00:33:30,242 長太郎の母になれるのは あなたしかいません。 418 00:33:30,242 --> 00:33:36,948 いいえ。 私は 長太郎の母にはなれません。 419 00:33:39,284 --> 00:33:45,090 長太郎の母は 亡き姉 一人だけです。 420 00:33:45,090 --> 00:33:48,093 (長太郎)母ちゃん。 421 00:33:56,301 --> 00:33:59,304 母ちゃん…。 422 00:34:04,042 --> 00:34:06,745 (おゆり)長太郎の胸には➡ 423 00:34:06,745 --> 00:34:13,919 今も 母の面影が しっかりと生きている。 424 00:34:13,919 --> 00:34:16,388 いつも優しく➡ 425 00:34:16,388 --> 00:34:21,593 穏やかな笑みを浮かべていた 母の面影が。 426 00:34:27,032 --> 00:34:29,601 長太郎の母は…➡ 427 00:34:29,601 --> 00:34:34,406 姉は… 本当に優しい人でした。 428 00:34:44,950 --> 00:34:51,122 はい べっぴんさんが できた。 429 00:34:51,122 --> 00:34:57,796 うわ~ ありがとう 姉さん。 430 00:34:57,796 --> 00:35:01,766 (2人)フフフ。 うん。 431 00:35:01,766 --> 00:35:05,604 (おゆり)私のような出来の悪い妹にも➡ 432 00:35:05,604 --> 00:35:11,309 本当に優しくしてくれた立派な人でした。 433 00:35:13,578 --> 00:35:20,352 その姉の面影さえあれば 長太郎は…。 434 00:35:20,352 --> 00:35:23,922 おゆり。 はい。 435 00:35:23,922 --> 00:35:30,595 お前は いつまで 死んだ者に とらわれ続けるんだ。 436 00:35:30,595 --> 00:35:36,768 えっ? いつまで 死んだ姉に遠慮をし続ける? 437 00:35:36,768 --> 00:35:40,472 お前が長太郎と 一緒に過ごした日々を思い出せ。 438 00:35:44,509 --> 00:35:47,412 子を育てるのは 並大抵のことではない。 439 00:35:47,412 --> 00:35:52,617 ましてや ぜん息病みを抱えた長太郎を 守っていくのは➡ 440 00:35:52,617 --> 00:35:57,422 それは 険しい道だったはずだ。 441 00:35:57,422 --> 00:35:59,958 それが できたのは➡ 442 00:35:59,958 --> 00:36:05,263 お前が 長太郎の母親だったからに ほかならん。 443 00:36:07,365 --> 00:36:11,236 ここに担ぎ込んできた時も そうだ。 444 00:36:11,236 --> 00:36:14,572 お前は 子のためなら➡ 445 00:36:14,572 --> 00:36:18,443 我が身もいとわぬ 母そのものだった。 446 00:36:18,443 --> 00:36:23,581 なのに なぜ母親になれないなどと言う! 447 00:36:23,581 --> 00:36:28,386 今の長太郎にとって必要なのは➡ 448 00:36:28,386 --> 00:36:34,092 亡き母の面影などではない。 449 00:36:34,092 --> 00:36:40,098 そばにいる お前のぬくもりだ。 450 00:36:44,102 --> 00:36:47,939 違うか? おゆり。 451 00:36:47,939 --> 00:36:51,443 そうだろう? 長太郎。 452 00:36:53,411 --> 00:36:55,613 えっ? 453 00:36:58,950 --> 00:37:01,152 長太郎…。 454 00:37:14,065 --> 00:37:17,569 俺なんか いなきゃよかった。 455 00:37:17,569 --> 00:37:20,238 何を言ってるんだい。 456 00:37:20,238 --> 00:37:24,742 お前がいたから 私は生きてこれたんだよ。 457 00:37:24,742 --> 00:37:30,248 お前が いなきゃいいだなんて 一度たりとも思ったことはないよ。 458 00:37:43,094 --> 00:37:47,398 長太郎…➡ 459 00:37:47,398 --> 00:37:52,904 お前に頼みがあるんだよ。 460 00:37:56,774 --> 00:38:02,547 私を…➡ 461 00:38:02,547 --> 00:38:07,886 お前の…➡ 462 00:38:07,886 --> 00:38:12,724 2番目の…。 463 00:38:12,724 --> 00:38:15,527 母ちゃん。 464 00:38:19,063 --> 00:38:21,900 今 何て…? 465 00:38:21,900 --> 00:38:24,702 母ちゃん。 466 00:38:27,372 --> 00:38:29,908 長太郎。 467 00:38:29,908 --> 00:38:31,943 母ちゃん…。 468 00:38:31,943 --> 00:38:38,383 長太郎…。 母ちゃん。 469 00:38:38,383 --> 00:38:41,252 母ちゃん…。 470 00:38:41,252 --> 00:38:44,923 (泣き声) 471 00:38:44,923 --> 00:38:46,925 母ちゃん…。 472 00:38:52,263 --> 00:38:54,766 ⚟(おゆりの泣き声) 473 00:38:54,766 --> 00:38:59,771 ⚟(長太郎)母ちゃん。 ⚟(おゆり)長太郎。 474 00:39:03,341 --> 00:39:07,545 達者でな。 はい お世話になりました。 475 00:39:07,545 --> 00:39:09,881 うむ。 476 00:39:09,881 --> 00:39:12,717 ほら 長太郎。 477 00:39:12,717 --> 00:39:17,589 おたねさん たくさん遊んでくれてありがとう。 478 00:39:17,589 --> 00:39:20,458 こちらこそ。 479 00:39:20,458 --> 00:39:24,329 つぐみ先生。 はい。 480 00:39:24,329 --> 00:39:28,733 もし お嫁のもらい手がいなかったら➡ 481 00:39:28,733 --> 00:39:30,768 俺がいるから大丈夫。 482 00:39:30,768 --> 00:39:32,904 えっ? えっ? 483 00:39:32,904 --> 00:39:35,240 これ 長太郎! 484 00:39:35,240 --> 00:39:38,743 よかったな つぐみ。 ああ… はあ…。 485 00:39:38,743 --> 00:39:43,081 随分 若い いいなずけではあるが…。 いや つぐみには俺がいるから大丈夫だ。 486 00:39:43,081 --> 00:39:46,584 えっ? えっ? 487 00:39:46,584 --> 00:39:50,755 あっ! いや その…。 488 00:39:50,755 --> 00:39:55,260 <その日 誰もが思いも寄らぬ言葉を聞いた> 489 00:39:55,260 --> 00:39:57,262 達者でな。 490 00:40:02,400 --> 00:40:04,702 <そして…> 491 00:40:08,773 --> 00:40:13,945 (おたね)うっ… ううっ… ううっ…。 492 00:40:13,945 --> 00:40:24,656 (せきこみ) 493 00:40:37,802 --> 00:40:39,804 どうした? 494 00:40:41,973 --> 00:40:43,975 お話があります。 495 00:40:49,847 --> 00:40:58,823 私には 定之助という子がおりました。 496 00:40:58,823 --> 00:41:05,096 かわいい 玉のような子でした。 497 00:41:05,096 --> 00:41:11,803 ですが 定之助は 私の腕の中で亡くなりました。 498 00:41:13,771 --> 00:41:18,276 母上 母上 母上…。 499 00:41:20,278 --> 00:41:22,480 なぜ 定之助は…。 500 00:41:29,287 --> 00:41:31,289 すまん。 501 00:41:33,624 --> 00:41:37,428 えっ? 502 00:41:37,428 --> 00:41:41,299 すまん。 503 00:41:41,299 --> 00:41:44,302 なぜ 謝るのですか? 504 00:41:47,805 --> 00:41:53,978 あなたは 以前の私を 知っているのですか? 505 00:41:53,978 --> 00:41:57,682 13年より前の私を。 506 00:42:00,752 --> 00:42:09,460 私には もう あまり時が残されていないのでは? 507 00:42:09,460 --> 00:42:16,234 私は あと どのぐらいで定之助のもとへ…。 508 00:42:16,234 --> 00:42:20,037 あと どのぐらい生きられるのですか? 509 00:42:25,977 --> 00:42:27,979 川で溺れていたんです。 510 00:42:27,979 --> 00:42:30,815 お直さんも 子どもらも 苦労してるそうじゃねえか。 511 00:42:30,815 --> 00:42:34,652 重吉は 自ら 川に飛び込んだのではないですか? 512 00:42:34,652 --> 00:42:36,654 なんとかなるさ。 513 00:42:36,654 --> 00:42:40,792 私ほどの幸せ者は ほかにありません。 514 00:42:40,792 --> 00:42:45,963 では なぜ泣くのだ。 なぜ そのように苦しむのだ。 515 00:42:45,963 --> 00:42:51,269 あなたは やはり 何か 知っているのではないですか?