1 00:00:02,202 --> 00:00:05,005  回想 (おたねのせきこみ) 2 00:00:07,774 --> 00:00:12,479 (おたね)私には もう 時が残されていないのでは? 3 00:00:14,114 --> 00:00:17,985 私は あと どのぐらいで定之助のもとへ…。 4 00:00:17,985 --> 00:00:21,288 何を言っている? 5 00:00:21,288 --> 00:00:24,191 先ほど 血を吐きました。 6 00:00:24,191 --> 00:00:28,996 それは… 胃の腑が弱っているからだ。 7 00:00:33,867 --> 00:00:40,674 早く… 早く定之助のことを 思い出さなければ。 8 00:00:40,674 --> 00:00:43,143 どんな子だったのか…➡ 9 00:00:43,143 --> 00:00:46,046 どんなことで泣き どんなことで怒り➡ 10 00:00:46,046 --> 00:00:48,649 どんなことで笑っていたのか。 11 00:00:48,649 --> 00:00:51,451 それを知らずして 私は死ねません。 12 00:00:51,451 --> 00:00:53,954 大丈夫だ。 13 00:00:57,658 --> 00:00:59,993 お前は死なん。 14 00:00:59,993 --> 00:01:18,111 ♬~ 15 00:01:18,111 --> 00:01:20,814 (保本)先生…? 16 00:01:26,420 --> 00:01:30,624 保本先生…。 17 00:01:30,624 --> 00:01:33,126 少し よろしいですか? 18 00:01:47,174 --> 00:01:50,644 (おたね)先生? 19 00:01:50,644 --> 00:01:54,648 ああ もういいぞ。 20 00:02:00,921 --> 00:02:03,957 血を吐いたのは➡ 21 00:02:03,957 --> 00:02:08,395 胃の腑が 弱っているからだろう。 22 00:02:08,395 --> 00:02:13,233 無理せずに 体を休めればよい。 23 00:02:13,233 --> 00:02:17,738 とにかく安静にすることだ。 24 00:02:20,941 --> 00:02:27,414 ♬~ 25 00:02:27,414 --> 00:02:32,786 (お雪)おたねさん 失礼します。 26 00:02:32,786 --> 00:02:35,822 はい どうぞ。 27 00:02:35,822 --> 00:02:39,426 すみません。 やっかいばかりかけて。 28 00:02:39,426 --> 00:02:41,495 何 言ってるんですか。 29 00:02:41,495 --> 00:02:44,297 早く よくなってくださいね。 30 00:02:44,297 --> 00:02:46,800 おたねさんに おいしい煮物の作り方➡ 31 00:02:46,800 --> 00:02:48,735 教えてもらわなくちゃ いけないから。➡ 32 00:02:48,735 --> 00:02:50,671 フフフフ。 (おたね)はい。 33 00:02:50,671 --> 00:02:53,673 胃の病の妙薬だ。 34 00:02:53,673 --> 00:02:58,311 苦いが よく効く。 ありがとうございます。 35 00:02:58,311 --> 00:03:02,082 おたねさん お加減いかがですか? 36 00:03:02,082 --> 00:03:06,386 おかげさまで だいぶ気分がいいんです。 37 00:03:06,386 --> 00:03:08,889 では 頂きます。 38 00:03:12,092 --> 00:03:15,762 (せきこみ) 苦~い! 39 00:03:15,762 --> 00:03:19,099 だから 苦いと言っただろう。 40 00:03:19,099 --> 00:03:24,971 <私は おたねに 本当のことを言うことができなかった。➡ 41 00:03:24,971 --> 00:03:26,973 今のおたねは➡ 42 00:03:26,973 --> 00:03:31,278 養生所に運ばれてきた時の ただの病人ではない。➡ 43 00:03:31,278 --> 00:03:36,983 無知と貧困と闘う 紛れもない我々の仲間なのだ> 44 00:03:39,986 --> 00:03:43,290 それで あの話は? 45 00:03:43,290 --> 00:03:45,959 はあ…。 46 00:03:45,959 --> 00:03:49,830 若い医者たちに 全てを任せられる➡ 47 00:03:49,830 --> 00:03:54,301 見極めとやらは…? 48 00:03:54,301 --> 00:03:56,236 ん? どうした? 49 00:03:56,236 --> 00:04:01,575 いや それが… 恥ずかしながら まだ。 50 00:04:01,575 --> 00:04:07,080 ん… では 今はどうだ? 51 00:04:07,080 --> 00:04:09,015 今? うん。 52 00:04:09,015 --> 00:04:12,252 お主がおらずとも 今この時➡ 53 00:04:12,252 --> 00:04:15,088 養生所は回っているではないか。 54 00:04:15,088 --> 00:04:17,591 それは 短い間ゆえ。 55 00:04:17,591 --> 00:04:20,260 ハハ…。 56 00:04:20,260 --> 00:04:24,598 ううっ うう…。 57 00:04:24,598 --> 00:04:30,937 お主は 人の心を見透かすところはあるが➡ 58 00:04:30,937 --> 00:04:34,274 自分の心は見通せぬようだな。 59 00:04:34,274 --> 00:04:37,944 は? 60 00:04:37,944 --> 00:04:43,416 小石川養生所 長 新出去定。 61 00:04:43,416 --> 00:04:46,319 はっ。 62 00:04:46,319 --> 00:04:52,159 お主は あの場を離れたくないのであろう。 63 00:04:52,159 --> 00:04:58,365 だから いつまでも 見極めることが できぬのだ。 64 00:05:01,735 --> 00:05:04,571 (たたく音) 65 00:05:04,571 --> 00:05:07,474 お頼み申します。 どうした? 66 00:05:07,474 --> 00:05:10,243 川で溺れていたんです。 67 00:05:10,243 --> 00:05:13,246 まだ息はあるみたいで。 68 00:05:13,246 --> 00:05:18,385 中に運べ。 はい! 運ぶぞ。 大丈夫か? 69 00:05:18,385 --> 00:05:20,320 (田山)もう一つ 湯たんぽを 持ってきてくれ。(つぐみ)はい。 70 00:05:20,320 --> 00:05:23,924 どうした? 川で溺れた者が運ばれて…。何? 71 00:05:23,924 --> 00:05:26,760 どうだ? (津川)体が冷えきっています。➡ 72 00:05:26,760 --> 00:05:30,263 脈も息も弱く 今は湯たんぽを抱かせて温めています。 73 00:05:30,263 --> 00:05:33,967 よし。 お願いします。 74 00:05:37,771 --> 00:05:40,106 先生? 75 00:05:40,106 --> 00:05:43,143 いや これでいい。 76 00:05:43,143 --> 00:05:46,146 処置を続けろ。 えっ? 77 00:05:48,415 --> 00:05:51,218 つぐみ。 はい。 78 00:05:56,790 --> 00:05:59,626 津川先生 この男 酒を飲んでいますね。 79 00:05:59,626 --> 00:06:02,629 (津川)ああ そうだな。 80 00:06:23,383 --> 00:06:25,919 (重吉)ここは…。 81 00:06:25,919 --> 00:06:30,390 ああ 気が付いたか。 ここは 小石川養生所だ。 82 00:06:30,390 --> 00:06:34,261 お前は 川で溺れて運ばれたんだ。 83 00:06:34,261 --> 00:06:36,763 川で…。 84 00:06:36,763 --> 00:06:40,100 覚えてないのか? 85 00:06:40,100 --> 00:06:43,904 (お雪)あっ 気が付いたようですよ。 86 00:06:48,608 --> 00:06:52,112 (お直)あんた…。 87 00:06:52,112 --> 00:06:54,147 あんた! (お雪)あの ちょっと…。 88 00:06:54,147 --> 00:06:56,783 何してるんだよ。 89 00:06:56,783 --> 00:06:59,286 死んじまったかと思っただろう! 90 00:06:59,286 --> 00:07:02,889 お直… すまねえ…。 91 00:07:02,889 --> 00:07:04,824 全く あんたときたら。 92 00:07:04,824 --> 00:07:07,727 どんだけ心配かけりゃ気が済むんだよ! 93 00:07:07,727 --> 00:07:09,663 バカ! バカ! バカ! (田山)おい やめろ。 94 00:07:09,663 --> 00:07:11,898 (お雪)けが人ですよ。 95 00:07:11,898 --> 00:07:16,770 何だい 酒のにおい さして。 96 00:07:16,770 --> 00:07:19,372 飲めないのに 何で飲んだんだよ! 97 00:07:19,372 --> 00:07:22,575 ねえ! ねえ! ねえってば! 98 00:07:22,575 --> 00:07:24,911 やめろ! おやめなさい! 99 00:07:24,911 --> 00:07:26,846 離しとくれよ! 100 00:07:26,846 --> 00:07:32,786 あの… 離してやってくれませんか。 (田山 お雪)えっ? 101 00:07:32,786 --> 00:07:40,760 どうか それの気の済むまで たたかせてやってください。 102 00:07:40,760 --> 00:07:43,263 お前…。 103 00:07:45,632 --> 00:07:48,435 あんた…。 104 00:07:53,773 --> 00:07:57,644 死なねえでよかった。 105 00:07:57,644 --> 00:08:00,580 よかったよ…。 106 00:08:00,580 --> 00:08:11,191 (泣き声) 107 00:08:11,191 --> 00:08:13,727 それは とんだ恋女房でしたね。 108 00:08:13,727 --> 00:08:15,662 お前 朝っぱらから当てられたな。 109 00:08:15,662 --> 00:08:18,064 ええ。 ご苦労さまでした。 110 00:08:18,064 --> 00:08:20,734 さっ た~んと召し上がってくださいよ。 111 00:08:20,734 --> 00:08:24,070 頂きます。 (3人)頂きます。 112 00:08:24,070 --> 00:08:26,906 それで どういう訳だったのですか? 訳? 113 00:08:26,906 --> 00:08:29,576 重吉は なぜ溺れるようなことに。 114 00:08:29,576 --> 00:08:33,446 酒 臭かったからな。 酔っ払って 足でも滑らせたんだろ。 115 00:08:33,446 --> 00:08:37,917 それがですね 女房によると 重吉は 酒が飲めないそうなんです。 116 00:08:37,917 --> 00:08:40,954 本当か? では 重吉が落ち着いたら➡ 117 00:08:40,954 --> 00:08:43,790 訳を聞いてみなければならないな。 (田山)はい。 118 00:08:43,790 --> 00:08:45,792 (津川) つぐみも重吉の様子に気を配ってくれ。 119 00:08:45,792 --> 00:08:48,395 (つぐみ)はい。 120 00:08:48,395 --> 00:08:51,297 何だか 皆さん 頼もしいですね。 121 00:08:51,297 --> 00:08:57,137 ん? ああ。 122 00:08:57,137 --> 00:09:01,875 保本先生。 先日運ばれた おかよですが➡ 123 00:09:01,875 --> 00:09:06,746 萎黄病だと思うのですが 腹に虫がわいてる疑いもありまして。 124 00:09:06,746 --> 00:09:10,884 はあ 分かった。 後で私も診ることにする。 125 00:09:10,884 --> 00:09:14,721 よろしくお願いします。 126 00:09:14,721 --> 00:09:17,223 保本。 127 00:09:29,235 --> 00:09:33,106 読んでみろ。 これは? 128 00:09:33,106 --> 00:09:36,976 わしが 日々のことを書き記したものだ。 129 00:09:36,976 --> 00:09:40,947 ちょうど お前ぐらいの頃にな。 130 00:09:40,947 --> 00:09:43,082 私ぐらいの? 131 00:09:43,082 --> 00:09:46,920 麹町で 町医者をしていた頃のものだ。 132 00:09:46,920 --> 00:09:52,792 はあ。 ですが なぜ私に…。 133 00:09:52,792 --> 00:09:55,595 お前の役に立つだろう。 134 00:10:01,401 --> 00:10:05,271 あの…。 ん? 135 00:10:05,271 --> 00:10:08,775 先生に折り入ってお話があります。 136 00:10:11,077 --> 00:10:15,615 何だ? おたねのことです。 137 00:10:15,615 --> 00:10:20,320 おたねは 不治の病に侵されています。 138 00:10:25,291 --> 00:10:27,627 知っていたのですね。 139 00:10:27,627 --> 00:10:29,963 ほかの者に話したか? 140 00:10:29,963 --> 00:10:33,633 いえ。 それでいい。 141 00:10:33,633 --> 00:10:38,805 しかし おたね自身は もう気付いているようでした。 142 00:10:38,805 --> 00:10:43,643 先生… おたねと先生の間には➡ 143 00:10:43,643 --> 00:10:46,346 何か あるのではないですか? 144 00:10:52,318 --> 00:10:57,657 <先生は それ以上 何も言ってはくれなかった> 145 00:10:57,657 --> 00:11:13,773 ♬~ 146 00:11:13,773 --> 00:11:17,277 <そこには 医術のことに加え➡ 147 00:11:17,277 --> 00:11:22,782 若き日の去定先生の奮闘が つぶさに書かれていた> 148 00:11:22,782 --> 00:11:33,126 ♬~ 149 00:11:33,126 --> 00:11:37,630 <救えた命 救えなかった命。➡ 150 00:11:37,630 --> 00:11:41,434 新しい療治の方法> 151 00:11:41,434 --> 00:11:59,152 ♬~ 152 00:11:59,152 --> 00:12:04,123 <そして 先生に襲いかかった不幸は➡ 153 00:12:04,123 --> 00:12:06,826 驚くべきものだった> 154 00:12:20,473 --> 00:12:23,109 (おたね)おはようございます。 155 00:12:23,109 --> 00:12:25,612 ああ… おはよう。 156 00:12:25,612 --> 00:12:29,415 昨日は泊まられたんですか? ああ。 157 00:12:35,622 --> 00:12:38,658 何している? お前は病人だぞ。 158 00:12:38,658 --> 00:12:41,427 今日は だいぶ気分がいいんです。 159 00:12:41,427 --> 00:12:45,298 それに 働いている方が気が楽ですから。 160 00:12:45,298 --> 00:12:47,300 おたね…。 161 00:12:47,300 --> 00:12:50,136 ああ…。 162 00:12:50,136 --> 00:12:56,309 だから 無理をするなと言ったろ。 寝ていろ。 163 00:12:56,309 --> 00:12:58,311 すみません。 164 00:13:05,118 --> 00:13:08,588 ああ 酒が恋しい。 165 00:13:08,588 --> 00:13:13,259 こうも忙しいと酒を飲む暇もない。 166 00:13:13,259 --> 00:13:15,194 はあ~。 167 00:13:15,194 --> 00:13:21,000 重吉 お前が 下戸であるというのは まことか? 168 00:13:21,000 --> 00:13:24,404 えっ? お直は そう言っていた。 169 00:13:24,404 --> 00:13:28,608 それとも 女房の目を盗んで 隠れて飲んでいたのか? 170 00:13:28,608 --> 00:13:31,911 酒とは そんなにいいものか? 171 00:13:34,480 --> 00:13:39,285 いえ… 確かに 私は下戸です。 172 00:13:39,285 --> 00:13:43,122 (田山)じゃあ 何で あんなに酒のにおいをさせていたんだ?➡ 173 00:13:43,122 --> 00:13:46,959 とことん飲んだからではないのか? 174 00:13:46,959 --> 00:13:49,429 それは…。 175 00:13:49,429 --> 00:13:53,132 (およし)た~ん! 176 00:13:53,132 --> 00:13:55,168 (重吉)およし 亀吉! 177 00:13:55,168 --> 00:13:57,470 たん。 ちゃん! 178 00:13:59,305 --> 00:14:02,909 ちゃん 大丈夫? 179 00:14:02,909 --> 00:14:04,844 たん 痛い痛い? 180 00:14:04,844 --> 00:14:09,682 お前たち 2人だけで来たのか? こんな遠くまで。 181 00:14:09,682 --> 00:14:12,251 そうだよ。 うん。 182 00:14:12,251 --> 00:14:16,122 駄目じゃないか! 迷子になったら どうするんだ。 183 00:14:16,122 --> 00:14:18,925 人さらいにでも遭ったら どうするんだ! 184 00:14:18,925 --> 00:14:22,261 だって… ちゃんに会いたくて…。 185 00:14:22,261 --> 00:14:24,597 たん! 186 00:14:24,597 --> 00:14:30,937 (およしの泣き声) 187 00:14:30,937 --> 00:14:33,973 ちゃんも会いたかったよ…。 188 00:14:33,973 --> 00:14:37,810 お前たちに 会いたかった。 189 00:14:37,810 --> 00:14:41,581 ちゃん 泣いてるの? たん 泣いてるの? 190 00:14:41,581 --> 00:14:46,285 泣いてないよ。 191 00:14:46,285 --> 00:14:50,156 いい親子ですね。 そうだな…。 192 00:14:50,156 --> 00:14:53,793 えっ? 193 00:14:53,793 --> 00:14:57,663 えっ? ああ いや…。 194 00:14:57,663 --> 00:15:00,566 <突然の かわいい来訪者のせいで➡ 195 00:15:00,566 --> 00:15:05,271 重吉が深酒をしていた理由を 聞くことはできなかった> 196 00:15:09,275 --> 00:15:12,912 (お直)こんなに汚れて。 一体 どこ行ってたんだい。 197 00:15:12,912 --> 00:15:16,382 さあ いいよ。 198 00:15:16,382 --> 00:15:18,317 (良吉)ただいま。 (お直)ああ お帰り。 199 00:15:18,317 --> 00:15:20,620 (おつぎ)ただいま。 はい お帰り はいはい。 200 00:15:22,588 --> 00:15:24,924 お帰り 兄ちゃん 姉ちゃん。 201 00:15:24,924 --> 00:15:28,761 あのね おいら ちゃんの所に行ってきたんだよ。 202 00:15:28,761 --> 00:15:30,696 たん! えっ? 203 00:15:30,696 --> 00:15:33,599 お父っつぁん 達者だったか? どうだった? 204 00:15:33,599 --> 00:15:37,103 うん 達者だった。 痛い痛いって。 205 00:15:37,103 --> 00:15:39,138 どっちなんだよ。 206 00:15:39,138 --> 00:15:42,275 お前たち 駄目じゃないか。 207 00:15:42,275 --> 00:15:45,278 迷子になったら… 人さらいに遭ったら どうするんだい! 208 00:15:45,278 --> 00:15:49,415 ちゃんにも同じこと言われたよ。 ほら 見なさい! 209 00:15:49,415 --> 00:15:51,484 もう二度と行くんじゃないよ。 210 00:15:51,484 --> 00:15:56,122 でも ちゃんが…。 たん! 211 00:15:56,122 --> 00:15:59,158 (泣き声) ああ お前たち…。 212 00:15:59,158 --> 00:16:02,562 ほら 泣くなって。 大丈夫だよ。 213 00:16:02,562 --> 00:16:04,897 明日から 兄ちゃんと姉ちゃんが➡ 214 00:16:04,897 --> 00:16:08,367 仕事の帰りに お父っつぁんの顔見てくるから なっ。 215 00:16:08,367 --> 00:16:11,237 (おつぎ)私たちに任せて。 216 00:16:11,237 --> 00:16:15,241 全く 今日の病人は やっかいだったな。 217 00:16:15,241 --> 00:16:18,911 私が往診の日に限って 変な病人に当たるのは なぜだ? 218 00:16:18,911 --> 00:16:21,747 それは…。 ん? 219 00:16:21,747 --> 00:16:24,584 いや 何でも…。 何だ? 220 00:16:24,584 --> 00:16:27,620 私が 変な病人を 引き寄せているとでも言うのか? 221 00:16:27,620 --> 00:16:31,324 よく言い当てなさって。 えっ! 222 00:16:42,401 --> 00:16:45,104 川で溺れていたんです。 223 00:16:45,104 --> 00:16:47,907 おい お前! 224 00:16:50,776 --> 00:16:53,613 ほっといてくれ? ええ。 225 00:16:53,613 --> 00:16:56,949 重吉は 確かに そう言っていたと。➡ 226 00:16:56,949 --> 00:17:00,353 あの日…。 227 00:17:00,353 --> 00:17:04,223 おい。 228 00:17:04,223 --> 00:17:06,158 土左衛門か? 229 00:17:06,158 --> 00:17:09,896 おい。 ああ…。 おい! 230 00:17:09,896 --> 00:17:11,931 持て持て…。 おう。 231 00:17:11,931 --> 00:17:15,368 いくぞ。 (2人)せ~の。➡ 232 00:17:15,368 --> 00:17:20,072 おい! おい! おい! おい! 233 00:17:20,072 --> 00:17:23,576 生きてらあ。 生きてらあ。 234 00:17:23,576 --> 00:17:27,380 ほっといてくれ。 えっ? 235 00:17:27,380 --> 00:17:31,751 ほっといてくれ…。 236 00:17:31,751 --> 00:17:37,556 (田山)さすがに 放っておくこともできず ここに運んだということで。 237 00:17:37,556 --> 00:17:42,461 あの… 重吉は 自ら川に飛び込んだのではないですか? 238 00:17:42,461 --> 00:17:45,598 まさか。 なぜ そう思うんだ? 239 00:17:45,598 --> 00:17:48,634 重吉を昔から知っている病人から 話を聞きました。 240 00:17:48,634 --> 00:17:52,939 重吉は 腕のいい職人ですが とにかく商売が下手だと…。 241 00:17:52,939 --> 00:17:55,608 一つの品を 懇切丁寧に作り上げるため➡ 242 00:17:55,608 --> 00:17:57,543 多くの品を さばくことができない。 243 00:17:57,543 --> 00:18:01,047 そして 人がいいせいで 買いたたかれることも しばしばだと。 244 00:18:01,047 --> 00:18:02,982 商売が下手な上➡ 245 00:18:02,982 --> 00:18:07,353 4人も子どもを抱えているのでは 暮らしは 苦しいだろうな。 246 00:18:07,353 --> 00:18:10,222 ですが あのように かわいい子らがいながら➡ 247 00:18:10,222 --> 00:18:13,059 自ら死を選べるものなのか どうか。 248 00:18:13,059 --> 00:18:16,929 子がいるのに 死を選ぶ親は あまたいる。 249 00:18:16,929 --> 00:18:18,931 それは そうですが…。 250 00:18:18,931 --> 00:18:22,568 重吉は人知れず 思い悩んでいたのかもしれないな。 251 00:18:22,568 --> 00:18:25,071 これからも 重吉から目を離さぬようにしよう。 252 00:18:25,071 --> 00:18:28,874 はい。うん。 (田山)はい。うん。 253 00:18:42,621 --> 00:18:45,925 今日は これしかなくて。 平気だよ 母ちゃん。 254 00:18:45,925 --> 00:18:48,394 うん。 すまないねえ。 255 00:18:48,394 --> 00:18:51,597 ちゃんも 今頃 飯を食ってるかな。 256 00:18:51,597 --> 00:18:54,500 そうねえ 食べてるでしょうねえ。 257 00:18:54,500 --> 00:18:56,936 一人で さみしくないかしら。 258 00:18:56,936 --> 00:18:59,271 ほかにも 病人は たくさん いるよ。 259 00:18:59,271 --> 00:19:03,576 でも きっと 俺たちがいないから 寂しいはずだよ。 260 00:19:05,711 --> 00:19:08,614 おや どうしたの? およし。 食べないのかい? 261 00:19:08,614 --> 00:19:11,050 たん…。 ん? 262 00:19:11,050 --> 00:19:12,985 たん! 263 00:19:12,985 --> 00:19:17,723 フフッ おやおや これを たんに あげたいんだね。 264 00:19:17,723 --> 00:19:21,227 たん! うん フフフ。 265 00:19:28,734 --> 00:19:34,940 俺は… 俺は…。 266 00:19:38,377 --> 00:19:41,914 どうした? 267 00:19:41,914 --> 00:19:45,584 食べないのか? 先生…。 268 00:19:45,584 --> 00:19:49,388 滋養をとらないと けがは治らんぞ。 269 00:19:52,458 --> 00:19:54,760 早く 体を治し➡ 270 00:19:54,760 --> 00:19:59,098 かわいい子どもたちのもとに 帰りたいだろう。 271 00:19:59,098 --> 00:20:01,400 はい…。 272 00:20:01,400 --> 00:20:03,703 食べろ。 273 00:20:40,639 --> 00:20:47,413 何をしてる? もう寝ろ。 体に障るぞ。 274 00:20:47,413 --> 00:20:50,416 どうにも寝付けなくて。 275 00:20:52,985 --> 00:20:57,456 いつも こうして 見回りをされているのですか? 276 00:20:57,456 --> 00:21:02,595 いや 時折だ。 いつもは ほかの者がやっている。 277 00:21:02,595 --> 00:21:08,400 ここのお医者様たちは みんな ご立派ですね。ん? 278 00:21:08,400 --> 00:21:14,273 昼も一生懸命に働いて 夜も病人の様子に気を配って…。 279 00:21:14,273 --> 00:21:16,475 フン…。 280 00:21:21,280 --> 00:21:25,951 あの…。 何だ? 281 00:21:25,951 --> 00:21:29,822 定之助のことを思い出そうとすると➡ 282 00:21:29,822 --> 00:21:35,127 何だか 頭に もやがかかったようになって➡ 283 00:21:35,127 --> 00:21:41,433 どうしても それ以上 思い出すことが できないんです。 284 00:21:41,433 --> 00:21:44,136 なぜ 定之助は➡ 285 00:21:44,136 --> 00:21:47,973 私の腕の中で死ななくては ならなかったのか…。 286 00:21:47,973 --> 00:21:52,478 (定之助)母上 母上…。 287 00:21:56,148 --> 00:21:59,451 なぜ 私は 母として➡ 288 00:21:59,451 --> 00:22:03,756 定之助を守ることが できなかったのでしょうか? 289 00:22:03,756 --> 00:22:06,392 それを思い出さなくては➡ 290 00:22:06,392 --> 00:22:10,396 あの世で 定之助に会うことができません。 291 00:22:14,266 --> 00:22:20,072 あなたは やはり 何か知っているのではないですか? 292 00:22:22,274 --> 00:22:27,980 うお~! 293 00:22:30,149 --> 00:22:33,886 うっ…。 294 00:22:33,886 --> 00:22:38,824 だから言ったろう。 さあ もう休め。 295 00:22:38,824 --> 00:22:42,628 大丈夫か? すみません。 296 00:22:50,336 --> 00:22:55,341 <そんな ある日のこと 重吉を訪ねる者があった> 297 00:23:02,381 --> 00:23:05,918 (新吉)重吉の兄貴。 298 00:23:05,918 --> 00:23:11,390 ハハ… んん… 新吉。 299 00:23:11,390 --> 00:23:13,325 見舞いが遅くなっちまって すまねえ。 300 00:23:13,325 --> 00:23:17,596 店の方が忙しくて。 忙しいのは 何よりだ。 301 00:23:17,596 --> 00:23:19,531 兄貴 一体 どうしちまったんだい。 302 00:23:19,531 --> 00:23:22,935 話 聞いて驚いたぜ。 お前…➡ 303 00:23:22,935 --> 00:23:26,138 これは 仕事をしている手か? 304 00:23:29,108 --> 00:23:34,280 俺は もう ノミは持たねえ。 えっ? 305 00:23:34,280 --> 00:23:37,283 俺には 兄貴のような腕はねえ。 306 00:23:37,283 --> 00:23:42,988 けど そのかわり 商売の方の才は 少々あるみてえだ。 307 00:23:42,988 --> 00:23:47,626 なあ 兄貴 弟分の俺が言うのも何だが➡ 308 00:23:47,626 --> 00:23:49,561 うちで働かねえか? 309 00:23:49,561 --> 00:23:53,966 うちなら今の倍は稼げる。 310 00:23:53,966 --> 00:23:59,305 いや… 俺は お前の店で出してるようなものは…。 311 00:23:59,305 --> 00:24:01,740 確かに うちで出してる火鉢は➡ 312 00:24:01,740 --> 00:24:04,777 兄貴が作るようなものとは違って 安物だ。 313 00:24:04,777 --> 00:24:07,546 でもな 俺は これで➡ 314 00:24:07,546 --> 00:24:12,384 女房 子どもを 何不自由なく養ってるんだよ。 315 00:24:12,384 --> 00:24:16,922 お直さんも 子どもらも 苦労してるそうじゃねえか。➡ 316 00:24:16,922 --> 00:24:21,260 お直さんは 居酒屋で働きながら 夜も寝ねえで内職して➡ 317 00:24:21,260 --> 00:24:27,766 良吉や おつぎは あの年で 働きづめに働いてるそうじゃねえか。 318 00:24:27,766 --> 00:24:33,105 このままじゃ お直さんも 子どもらも かわいそうだ。 319 00:24:33,105 --> 00:24:37,943 兄貴 今すぐにとは言わねえ。 320 00:24:37,943 --> 00:24:42,448 心が決まったら いつ来てくれてもいいんだ。 321 00:24:44,717 --> 00:24:48,287 じゃあ おっ母さん 仕事 行ってくるから 留守番 頼んだよ。 322 00:24:48,287 --> 00:24:52,992 うん 行ってらっしゃい。 はい。 323 00:24:57,296 --> 00:25:01,800 どうした? 大丈夫だよ。 324 00:25:07,106 --> 00:25:11,410  回想  (新吉)このままじゃ お直さんも 子どもらも かわいそうだ。 325 00:25:17,383 --> 00:25:21,587 分かってるよ…。 326 00:25:21,587 --> 00:25:23,589 分かってる。 327 00:25:28,460 --> 00:25:31,930 (亀吉)ちゃん! (およし)たん! 328 00:25:31,930 --> 00:25:34,433 (重吉)お前たち…。 329 00:25:37,403 --> 00:25:39,338 何してるんだ。 330 00:25:39,338 --> 00:25:42,941 ここへ来てはいけないと あれほど言っただろ。 331 00:25:42,941 --> 00:25:46,445 だって…。 たん…。 332 00:25:49,114 --> 00:25:52,618 あっ 何か いい匂いする。 本当だ。 333 00:25:52,618 --> 00:25:56,422 (お常)ちょっと お雪。 (お雪)は~い 今 行きます。 334 00:25:59,291 --> 00:26:02,561 ああ うまそう。 うん。 335 00:26:02,561 --> 00:26:06,432 (おなかが鳴る音) あっ いけねえ。 336 00:26:06,432 --> 00:26:12,137 (笑い声) 337 00:26:13,906 --> 00:26:16,241 今まで 苦労をかけて ごめんな。 338 00:26:16,241 --> 00:26:21,914 ここを出たら ちゃんが お菓子も着物も買ってやるから。 339 00:26:21,914 --> 00:26:28,220 もう少しだけ辛抱しておくれ。 なっ なっ。 340 00:26:30,089 --> 00:26:35,594 ごめんな ごめんな…。 341 00:26:35,594 --> 00:26:37,930 ごめんな…。 342 00:26:37,930 --> 00:27:01,053 ♬~ 343 00:27:01,053 --> 00:27:04,556 食べろ。 344 00:27:04,556 --> 00:27:06,492 これは…。 345 00:27:06,492 --> 00:27:08,727 妻がこしらえたものだ。 346 00:27:08,727 --> 00:27:12,931 私は 甘いものに目がないゆえ。 347 00:27:17,903 --> 00:27:22,774 あっ 苦手なら無理をするな。 348 00:27:22,774 --> 00:27:26,378 いえ…➡ 349 00:27:26,378 --> 00:27:29,581 こんな うまそうなもの…➡ 350 00:27:29,581 --> 00:27:38,090 私じゃなく 子どもらに食べさせてやりたい。 351 00:27:46,932 --> 00:27:52,237 私は もうすぐ初めての子が生まれる。 352 00:27:53,805 --> 00:27:56,608 私も なれるだろうか。 353 00:27:56,608 --> 00:28:04,216 お前のように 子を心から思う父親に なれるだろうか。 354 00:28:04,216 --> 00:28:08,220 子から慕われる よき父親に…。 355 00:28:12,090 --> 00:28:14,927 重吉? 356 00:28:14,927 --> 00:28:19,431 俺は よき父などではねえ…。 357 00:28:21,633 --> 00:28:27,739 (重吉)俺は ノミを振るうしか 能のない男です。➡ 358 00:28:27,739 --> 00:28:31,610 ですが こんな俺に 女房のお直は➡ 359 00:28:31,610 --> 00:28:34,913 文句も言わず ついてきてくれました。 360 00:28:42,087 --> 00:28:47,392 2分だね。 えっ こ… この前は3分だったはず。 361 00:28:47,392 --> 00:28:50,762 近くに 安い店が出来て 売れなくなっちまってね。 362 00:28:50,762 --> 00:28:54,266 新吉ってやつが開いた店でね。 363 00:28:54,266 --> 00:28:56,201 新吉が…。 364 00:28:56,201 --> 00:28:58,770 嫌なら 持って帰ってもらっても いいんだよ。 365 00:28:58,770 --> 00:29:00,772 いや… それは…。 366 00:29:02,341 --> 00:29:05,877 これっきりしか もらえなかった。 367 00:29:05,877 --> 00:29:07,813 すまねえ。 368 00:29:07,813 --> 00:29:12,050 アハハハ 大丈夫だよ なんとかなるさ。 369 00:29:12,050 --> 00:29:14,553 ご苦労さんだったね。 疲れたろ。 370 00:29:14,553 --> 00:29:16,588 (良吉)ただいま。 (おつぎ)ただいま。 371 00:29:16,588 --> 00:29:18,724 (お直)2人とも ご苦労さんだったね。 372 00:29:18,724 --> 00:29:20,659 (良吉)今日は よくアサリが売れたよ。 (お直)うん。 373 00:29:20,659 --> 00:29:23,895 私も また内職の針仕事をもらってきたよ。 そうかい。 374 00:29:23,895 --> 00:29:27,766 (重吉) まだ遊びたい盛りの良吉とおつぎも➡ 375 00:29:27,766 --> 00:29:31,570 うちのために働いてくれました。 376 00:29:33,572 --> 00:29:40,445 私ほどの幸せ者は ほかにありません。 377 00:29:40,445 --> 00:29:47,152 よき女房と よき子らに囲まれて…。 378 00:29:49,121 --> 00:29:51,757 では なぜ泣くのだ。 379 00:29:51,757 --> 00:29:56,261 なぜ そのように苦しむのだ。 380 00:29:56,261 --> 00:30:01,566 みんなが ふびんで ならねえんで。 381 00:30:03,402 --> 00:30:08,774 (重吉)俺のような稼ぎのねえ男と 一緒になったばかりに➡ 382 00:30:08,774 --> 00:30:14,413 働きづめに働いて ずっと 苦労のし通しで…。 383 00:30:14,413 --> 00:30:18,283 いい女だな。 俺の女にならねえか。 384 00:30:18,283 --> 00:30:21,286 何を言ってるんですか。 私は4人の子持ちですよ。 385 00:30:21,286 --> 00:30:23,422 そうかい。 なら まとめて面倒見てやるよ。 386 00:30:23,422 --> 00:30:29,294 俺みたいに 駄目な男はいねえ。 387 00:30:29,294 --> 00:30:32,130 重吉…。 388 00:30:32,130 --> 00:30:38,336 俺みたいに 駄目な父ちゃんはいねえ。 389 00:30:42,441 --> 00:30:45,343 (重吉)駄目だ 駄目だ 駄目だ。➡ 390 00:30:45,343 --> 00:30:51,149 飲めねえ酒を飲んでるうちに ふと思ったんです。➡ 391 00:30:51,149 --> 00:30:53,819 俺さえいなければ➡ 392 00:30:53,819 --> 00:30:58,824 お直は 別の男と一緒になれるんじゃないか。 393 00:31:00,592 --> 00:31:06,465 (重吉)そうすれば 子どもたちにも 新しい父ちゃんができる。➡ 394 00:31:06,465 --> 00:31:12,104 稼ぎのいい 優しい父ちゃんが…。➡ 395 00:31:12,104 --> 00:31:16,408 そんなふうに思えてきて…。 396 00:31:22,280 --> 00:31:24,216 (川に飛び込む音) 397 00:31:24,216 --> 00:31:29,421 なんて バカなことをしたんだ。 398 00:31:29,421 --> 00:31:34,793 お直は 俺が死んじまったからといって➡ 399 00:31:34,793 --> 00:31:41,566 すぐに 別の男と一緒になるような女じゃねえ。 400 00:31:41,566 --> 00:31:48,306 そんなこと 分かっていたはずなのに…。 401 00:31:48,306 --> 00:31:50,242 俺は…➡ 402 00:31:50,242 --> 00:31:56,248 俺は なんてことをしちまったんだ。 403 00:31:59,918 --> 00:32:02,220 重吉…。 404 00:32:06,091 --> 00:32:11,596 でも… こんな俺でも➡ 405 00:32:11,596 --> 00:32:17,803 まだ 声をかけてくれるところが あるんで…。 406 00:32:21,273 --> 00:32:26,111 新吉の店に行きます。 407 00:32:26,111 --> 00:32:31,316 あいつの店に行けば 暮らしは楽になる。 408 00:32:33,985 --> 00:32:38,824 子どもらにも 腹いっぱい➡ 409 00:32:38,824 --> 00:32:43,628 うまいものを食わせてやれる。 410 00:32:49,134 --> 00:32:53,839 これは ある医者の話だ。 411 00:32:57,442 --> 00:33:03,081 その医者は 無知と貧困と闘い➡ 412 00:33:03,081 --> 00:33:08,086 貧しい者のために 身を粉にして働き続けた。 413 00:33:11,256 --> 00:33:17,562 妻は 夫の志を分かち合い 必死に支えた。 414 00:33:19,931 --> 00:33:26,104 ⚟すると その医者に近づく者があった。 415 00:33:26,104 --> 00:33:32,978 そんな徒労は やめ 金持ちのための医者になれと。 416 00:33:32,978 --> 00:33:39,184 そうすれば 女房 子どもに 楽をさせることができると。 417 00:33:44,289 --> 00:33:50,161 医者は悩んだ。 自分一人ならばいい。 418 00:33:50,161 --> 00:33:57,002 けれど 妻と子に➡ 419 00:33:57,002 --> 00:34:00,805 このまま 苦労をかけてもいいのかと。 420 00:34:03,375 --> 00:34:10,148 すると 夫が悩んでいるのを知った妻は言った。 421 00:34:10,148 --> 00:34:15,954 苦労するのは承知で 一緒になったのだと。 422 00:34:15,954 --> 00:34:20,592 あなたは これまでと同じ道を行けばいいと。 423 00:34:20,592 --> 00:34:32,270 ♬~ 424 00:34:32,270 --> 00:34:36,074 一人で抱え込むな。 425 00:34:36,074 --> 00:34:42,881 お前の心の内を 妻に… 子らに正直に伝えるんだ。 426 00:34:47,686 --> 00:34:50,689 お前は 一人ではないのだから。 427 00:34:59,631 --> 00:35:01,900 食べろ。 428 00:35:01,900 --> 00:35:17,449 ♬~ 429 00:35:17,449 --> 00:35:26,257 (泣き声) 430 00:35:31,396 --> 00:35:34,766 (お雪)あら あらあらあら およしちゃん どこ行った? 431 00:35:34,766 --> 00:35:39,404 ああ 見つけた。 つかまえたぞ。 432 00:35:39,404 --> 00:35:44,275 <数日後 ここを出る重吉を皆が迎えに来た> 433 00:35:44,275 --> 00:35:48,613 みんなで いらしたんですね。 (お直)ええ。 434 00:35:48,613 --> 00:35:51,950 あっ お父っつぁん! 435 00:35:51,950 --> 00:35:54,986 お父っつぁん うちに帰れてよかったね。 お父っつぁん。 436 00:35:54,986 --> 00:35:57,822 ちゃん。 たん。 437 00:35:57,822 --> 00:35:59,824 あんた よかったよ。 438 00:35:59,824 --> 00:36:03,328 今日から また みんなで 一緒に暮らせるんだね。 439 00:36:06,364 --> 00:36:10,235 あんた? 440 00:36:10,235 --> 00:36:15,073 この間 ここに新吉が来た。 441 00:36:15,073 --> 00:36:20,879 (お直)新吉さんが? ああ。 新吉に誘われた。 442 00:36:20,879 --> 00:36:25,083 ここを出たら 自分の店に来ねえかって。 443 00:36:25,083 --> 00:36:27,585 けど あそこは…。 444 00:36:27,585 --> 00:36:29,521 あの店じゃ あんたの腕は…。 445 00:36:29,521 --> 00:36:35,760 新吉の店に行けば 暮らしは楽になる。 446 00:36:35,760 --> 00:36:41,099 けど 新吉が言うとおりの火鉢を 作るしかねえ。 447 00:36:41,099 --> 00:36:46,905 俺には どうしても それができねえんだ。 448 00:36:46,905 --> 00:36:53,211 俺には 俺の火鉢を作ることしかできねえんだ。 449 00:36:55,613 --> 00:36:58,283 すまねえ。 450 00:36:58,283 --> 00:37:03,488 駄目な父ちゃんで すまねえ。 451 00:37:06,357 --> 00:37:09,160 たん。 452 00:37:14,099 --> 00:37:17,368 およし…。 453 00:37:17,368 --> 00:37:20,572 本当に➡ 454 00:37:20,572 --> 00:37:26,444 あんたほど 駄目な父ちゃんはいないよ! 455 00:37:26,444 --> 00:37:29,914 あたしたちの気持ちが 分からないなんて➡ 456 00:37:29,914 --> 00:37:33,384 本当に駄目な父ちゃんだ。 457 00:37:33,384 --> 00:37:35,920 お直…。 458 00:37:35,920 --> 00:37:40,792 あんた 覚えてるかい? 459 00:37:40,792 --> 00:37:45,263 良吉は 赤ん坊の頃 夜泣きがひどくて➡ 460 00:37:45,263 --> 00:37:48,600 私を全く寝させてくれなかった。➡ 461 00:37:48,600 --> 00:37:51,402 そしたら あんたは 私に代わって➡ 462 00:37:51,402 --> 00:37:55,607 良吉を毎晩おぶってくれた。➡ 463 00:37:55,607 --> 00:38:01,212 良吉が思う存分 泣いて 疲れて 寝るまで➡ 464 00:38:01,212 --> 00:38:04,015 ずっとずっと おぶってくれた。 465 00:38:08,086 --> 00:38:10,221 おつぎは➡ 466 00:38:10,221 --> 00:38:15,093 3歳の頃 はやり病にかかっちまった。 467 00:38:15,093 --> 00:38:19,898 そしたら あんたは おつぎの枕元で➡ 468 00:38:19,898 --> 00:38:25,703 俺の命は どうなってもいいって 祈り続けた。 469 00:38:30,375 --> 00:38:34,746 (お直)亀吉のことも およしのことも➡ 470 00:38:34,746 --> 00:38:37,649 あんたは そうやって育ててきたんだよ。 471 00:38:37,649 --> 00:38:42,353 自分の命に代えてでも 守ってきたんだよ。 472 00:38:47,091 --> 00:38:51,763 あんた。 私は あんたが➡ 473 00:38:51,763 --> 00:38:54,666 世渡りの下手なことは承知で➡ 474 00:38:54,666 --> 00:38:59,637 貧乏するのは承知で 一緒になったんだ。 475 00:38:59,637 --> 00:39:03,708 ほら 見てごらんよ。 476 00:39:03,708 --> 00:39:10,215 貧乏でも 私らは こんなに たくさんの 宝物に恵まれたんだ。 477 00:39:10,215 --> 00:39:15,887 みんなで 力を合わせれば やっていけるに決まってるじゃないの。 478 00:39:15,887 --> 00:39:21,759 ねえ あんた。 そうだよ お父っつぁん。お父っつぁん。 479 00:39:21,759 --> 00:39:25,230 (亀吉)ちゃん。 (およし)たん。 480 00:39:25,230 --> 00:39:47,619 ♬~ 481 00:39:47,619 --> 00:40:04,402 (泣き声) 482 00:40:04,402 --> 00:40:07,705 泣いているのですか? あっ いや。 483 00:40:10,608 --> 00:40:15,780 人の心に寄り添える者は 必ず いい医者になれる。 484 00:40:15,780 --> 00:40:17,815 田山。 はい。 485 00:40:17,815 --> 00:40:23,521 お前は いい医者になる。 はい。 486 00:40:28,960 --> 00:40:37,168 (泣き声) 487 00:40:38,970 --> 00:40:44,275 <それから重吉は 元のように 丹精を込めて火鉢を作り始めた> 488 00:40:46,144 --> 00:40:52,317 <けれど 変わったことが一つある> 489 00:40:52,317 --> 00:40:55,820 あんた 注文が入ったよ。 おお そうか。 490 00:40:55,820 --> 00:40:57,755 玉清のご隠居さん。 491 00:40:57,755 --> 00:41:00,391 大きさは これぐらいで 水鳥の図柄を入れてほしいって。 492 00:41:00,391 --> 00:41:04,595 日数が かかっても構わないから いい品にしてくれって。ありがてえ。 493 00:41:04,595 --> 00:41:06,631 お父っつぁん 注文があったよ。 おう そっちもか。 494 00:41:06,631 --> 00:41:10,468 うん。 お父っつぁんの火鉢は 不思議と使いやすいって評判なんだよ。 495 00:41:10,468 --> 00:41:13,104 あんた しっかり頼んだよ。 ああ。 496 00:41:13,104 --> 00:41:18,910 <重吉より商売のうまい 妻や 子どもの手を借りるようになったのだ> 497 00:41:28,586 --> 00:41:34,292 あの帳面 全て読みました。 498 00:41:34,292 --> 00:41:38,629 そうか。 499 00:41:38,629 --> 00:41:42,133 あの…。 ん? 500 00:41:42,133 --> 00:41:45,036 先生…。 501 00:41:45,036 --> 00:41:47,438 あれに書かれていた➡ 502 00:41:47,438 --> 00:41:52,744 おしのという 先生のご新造様は…。 503 00:41:58,649 --> 00:42:01,352 おたねなのではないですか? 504 00:42:08,092 --> 00:42:10,395 そうだ。 505 00:42:14,966 --> 00:42:17,101 <そして 先生は➡ 506 00:42:17,101 --> 00:42:22,106 おたねに真実を語ることを心に決めた> 507 00:42:27,111 --> 00:42:29,781 ありのままに 受け止めようと思っています。 508 00:42:29,781 --> 00:42:32,617 あなたが今からお話しされることが➡ 509 00:42:32,617 --> 00:42:35,420 どんなことであっても。 510 00:42:35,420 --> 00:42:39,123 わしとお前は…。 511 00:42:39,123 --> 00:42:41,626 ここを去られるということですか? 512 00:42:41,626 --> 00:42:44,829 恐れていては 何も始まらん! 513 00:42:46,964 --> 00:42:52,136 養生所に未練はないのだな? 514 00:42:52,136 --> 00:42:54,338 はい。