1 00:00:03,770 --> 00:00:06,807 (雅由)幸! (結)姉しゃ! 2 00:00:06,807 --> 00:00:10,310 兄しゃ 早く早く! 3 00:00:18,118 --> 00:00:20,120 わあ~! 4 00:00:25,859 --> 00:00:30,130 武庫川が キラキラ光ってる。 5 00:00:30,130 --> 00:00:32,799 きれい。 6 00:00:32,799 --> 00:00:34,735 ああ。 7 00:00:34,735 --> 00:00:38,138 天地が 金と銀に染まっている。 8 00:00:38,138 --> 00:00:40,073 きん? 9 00:00:40,073 --> 00:00:45,312 夕日の輝き あれが金色。 10 00:00:45,312 --> 00:00:50,651 武庫川の 川面のきらめき あれが 銀色だ。➡ 11 00:00:50,651 --> 00:00:58,158 金と銀は 天から与えられた 何より美しい色なのだよ。 12 00:00:58,158 --> 00:01:01,862 金と銀…。 13 00:01:03,597 --> 00:01:15,609 ♬~ 14 00:01:17,144 --> 00:01:21,148 <このころ 西国を襲った大飢饉により➡ 15 00:01:21,148 --> 00:01:23,417 農村では 多くの子供たちが➡ 16 00:01:23,417 --> 00:01:26,320 身売りや奉公に出されました。➡ 17 00:01:26,320 --> 00:01:33,427 はやり病で 父と兄を亡くした幸も 村を出ることとなったのです> 18 00:01:33,427 --> 00:01:35,629 (結)姉しゃ! 19 00:01:37,965 --> 00:01:41,802 嫌や! 離れるんは 嫌や! 20 00:01:41,802 --> 00:01:43,804 結…。 21 00:01:48,675 --> 00:01:52,980 泣いたかて 何も出ぇへんよ! 22 00:01:52,980 --> 00:01:57,651 姉しゃ! 姉しゃ! (泣き声) 23 00:01:57,651 --> 00:02:00,621 (お房)追うたらあかん! 追うたらあかん! 24 00:02:00,621 --> 00:02:03,757 (結の泣き声) (お房)結 追うたらあかん。 25 00:02:03,757 --> 00:02:08,929 (文次郎)かわいそうやけど しょうないな。 長雨とイナムシにやられてしもて。 26 00:02:08,929 --> 00:02:14,601 どこの村も 娘を奉公に出すしかないさかいに。➡ 27 00:02:14,601 --> 00:02:18,105 我慢せんと あんたも泣いてええんやで。 28 00:02:21,274 --> 00:02:26,079 <こうして 幸は 大坂へと旅立っていきました> 29 00:02:27,781 --> 00:02:31,118 <津門村から 東へ五里余り➡ 30 00:02:31,118 --> 00:02:36,289 天満は 城のある中心地とは 大川で隔てられています。➡ 31 00:02:36,289 --> 00:02:40,961 川には 難波橋 天神橋 天満橋と➡ 32 00:02:40,961 --> 00:02:43,797 三つの大きな橋が架かり➡ 33 00:02:43,797 --> 00:02:48,301 天神橋の先には 菅原道真公を祀る➡ 34 00:02:48,301 --> 00:02:52,305 天満宮の 参道が続いていました> 35 00:03:02,249 --> 00:03:05,919 この先が菅原町や。 きれいなとこやろ。 36 00:03:05,919 --> 00:03:10,424 九年前の大火で すっかり焼けてしもて 新しゅう建て直したんやで。 37 00:03:20,100 --> 00:03:24,971 お勢さん! しばらくだすなあ。 お達者でおますか? 38 00:03:24,971 --> 00:03:29,276 (お勢)いや 文次郎さんやないか。 39 00:03:29,276 --> 00:03:31,278 まだ生きてまっせ。 40 00:03:31,278 --> 00:03:34,114 これもな 天神さんのおかげだすな。 41 00:03:34,114 --> 00:03:38,785 (犬の鳴き声) かわいい。 42 00:03:38,785 --> 00:03:41,688 (文次郎)愛らしいなあ。 お勢さんの犬かいな? 43 00:03:41,688 --> 00:03:47,294 今朝方 迷い込んできたんや。 親に はぐれたらしいわ。 この子は? 44 00:03:47,294 --> 00:03:51,798 五鈴屋のお家さんに頼まれて 村方から連れてきたんや。 45 00:03:51,798 --> 00:03:59,439 (お勢)新参の女衆さんかいな。 なっ まだ こんまいのに。 46 00:03:59,439 --> 00:04:01,908 名は 何というのですか? 47 00:04:01,908 --> 00:04:03,844 まだ名前付いてないねん。 48 00:04:03,844 --> 00:04:09,649 あんた 付けたってくれるか? えっ? 私が? 49 00:04:09,649 --> 00:04:12,552 この犬もな 今日から この町で暮らすんや。 50 00:04:12,552 --> 00:04:16,757 あんたと おんなじやで。 仲良うしたってや。 51 00:04:16,757 --> 00:04:21,628 じゃあ… 早太郎は どうですか? 52 00:04:21,628 --> 00:04:25,932 (文次郎)早太郎? 何や けったいな名やなあ。 53 00:04:25,932 --> 00:04:30,604 ダメ… ですか? (お勢)いやいや あかんことないで。➡ 54 00:04:30,604 --> 00:04:35,942 強そうな名前や。 なあ 早太郎。 55 00:04:35,942 --> 00:04:40,781 あっ 名前のお礼にな 運勢 見たげまひょか。➡ 56 00:04:40,781 --> 00:04:47,420 この… ほら 丸の中に これ 一つずつ置いて。 57 00:04:47,420 --> 00:04:50,423 心を無にしてな。 58 00:04:52,626 --> 00:04:54,628 (お勢)うん。 59 00:04:59,299 --> 00:05:06,373 (お勢)「鳥」と「山」で 吉や。 60 00:05:06,373 --> 00:05:08,441 ええ卦やで。 61 00:05:08,441 --> 00:05:11,912 商いよし 願い事もかなうや。 62 00:05:11,912 --> 00:05:15,749 (文次郎)よかったな。 お勢さんの占い よう当たるんやで。 63 00:05:15,749 --> 00:05:18,451 はい。 (文次郎)ほな 行くで。 64 00:05:20,587 --> 00:05:26,927 お気張りやす。 はあ ご苦労さん。 65 00:05:26,927 --> 00:05:34,801 はあ~ ホンマは 「山」と「鳥」で凶や。 66 00:05:34,801 --> 00:05:42,108 なあ 柳の水にもまれるがごとし。 67 00:05:42,108 --> 00:05:45,145 悪い卦やなあ。 68 00:05:45,145 --> 00:05:49,849 どうする? 早太郎。 (鳴き声)頑張れワン。 69 00:05:49,849 --> 00:05:55,121 (にぎわい) 70 00:05:55,121 --> 00:05:58,024 いて参じます。 ⚟お早う お帰りやす。 71 00:05:58,024 --> 00:06:01,228 おお ご苦労さんだす。 文次郎さん お久しぶりだす。 72 00:06:03,363 --> 00:06:05,365 (文次郎)ここや。 73 00:06:07,234 --> 00:06:12,072 (文次郎)ごめんやす。 ⚟おいでやす! 74 00:06:12,072 --> 00:06:17,244 あ~ ええ柄やな。 ホンマどすな。 75 00:06:17,244 --> 00:06:19,579 お持ちしました。 ご苦労はん。 76 00:06:19,579 --> 00:06:22,616 (文次郎)ごめんやす 綿屋だす。 77 00:06:22,616 --> 00:06:32,125 ♬~ 78 00:06:33,927 --> 00:06:36,963 (お梅) ちょびっと面倒なことになってますのや。 79 00:06:36,963 --> 00:06:42,602 その子で四人目なんだす。 欲しいのは 一人だけやのに➡ 80 00:06:42,602 --> 00:06:46,406 旦那さんが あちこちの口入れ屋に 声かけはって…。 81 00:06:46,406 --> 00:06:49,609 (お竹)お梅どん! 余計なこと言いないな。 82 00:06:49,609 --> 00:06:51,645 (お梅)へえ。 83 00:06:51,645 --> 00:06:55,282 (文次郎) お家さん えらいご無沙汰してます。 84 00:06:55,282 --> 00:07:00,220 (富久)あんさんも 息災で何よりや。 その子だすか? 85 00:07:00,220 --> 00:07:02,222 (文次郎)へえ。 86 00:07:04,090 --> 00:07:08,561 (富久)年は いくつや? 九つです。 87 00:07:08,561 --> 00:07:11,464 遠いとこ ご苦労さんだしたなあ。 88 00:07:11,464 --> 00:07:16,236 けんど 見てのとおり 何人も来てしもてな。 89 00:07:16,236 --> 00:07:21,107 ほんなら この子 どないなります? 心配せんかてええ。 90 00:07:21,107 --> 00:07:25,945 うちでの奉公が かなわんでも 働き口は 必ず世話するさかい。 91 00:07:25,945 --> 00:07:29,382 ほな あんじょう頼んます。 92 00:07:29,382 --> 00:07:31,685 (富久)お世話さんだした。 93 00:07:33,920 --> 00:07:37,390 おじさん…。 だんない だんない。 94 00:07:37,390 --> 00:07:40,093 お家さんに任せとったら安心や。 95 00:07:42,595 --> 00:07:45,932 ええか ずぶとうなるんやで。 96 00:07:45,932 --> 00:07:50,236 ずぶとうならんと この先 生きていかれへんで。 97 00:07:57,277 --> 00:08:02,549 さっきも話したとおり うちで働いてもらうんは 一人だけだす。 98 00:08:02,549 --> 00:08:09,055 けど せっかく来てくれたんやさかい みんなに お土産あげまひょな。 99 00:08:09,055 --> 00:08:11,057 ⚟(治兵衛)へえ。 100 00:08:24,537 --> 00:08:29,042 (富久) 半襟や。 一人一枚 好きなのお選び。 101 00:08:31,244 --> 00:08:35,548 値ぇが書いてある。 (少女)あれ 百文や。 102 00:08:37,751 --> 00:08:40,754 さあ 手に取ってみなはれ。 103 00:08:44,624 --> 00:08:48,928 同じの選んでもかまへんで。 要るだけ用意するよって。 104 00:09:00,874 --> 00:09:02,876 柔らかい…。 105 00:09:11,584 --> 00:09:15,054 ほな そろそろ決めなはれや。 106 00:09:15,054 --> 00:09:18,558 これが欲しい。 うちも これや!うちも。 107 00:09:18,558 --> 00:09:20,493 (治兵衛)あんたは どないする? 108 00:09:20,493 --> 00:09:24,898 私は…➡ 109 00:09:24,898 --> 00:09:27,367 これをお願いします。 110 00:09:27,367 --> 00:09:31,237 そないな地味なのが ええんだすか? はい。 111 00:09:31,237 --> 00:09:35,742 肌触りが とても柔らかいので。 112 00:09:35,742 --> 00:09:42,382 ほかの色は 母には派手な気がして…。 113 00:09:42,382 --> 00:09:45,752 半襟 お母はんに あげるつもりだすか? 114 00:09:45,752 --> 00:09:48,788 はい。 115 00:09:48,788 --> 00:09:53,793 こっちも決めてよろしいな。 へえ よろしおます。 116 00:09:57,096 --> 00:10:01,301 半襟 包んであげるさかい こっちおいで。 117 00:10:09,275 --> 00:10:12,111 (治兵衛)あんたは 残んなはれ。 118 00:10:12,111 --> 00:10:14,614 三人とも ご苦労さんだした。 119 00:10:14,614 --> 00:10:20,487 口入れ屋には 訳言うて 奉公先の口添えさせてもらいます。 120 00:10:20,487 --> 00:10:22,989 今日のところは お帰り。 121 00:10:24,958 --> 00:10:29,796 あんたらの家は すぐそこやろ。 お土産もろて 得したな。 122 00:10:29,796 --> 00:10:35,668 ほれ 行くで。 ほれ! ほれ! 123 00:10:35,668 --> 00:10:39,472 (治兵衛)お竹どん あとは 頼みましたで。 へえ。 124 00:10:44,310 --> 00:10:51,084 さあ その半襟 返しなはれ。 えっ? でも これは…。 125 00:10:51,084 --> 00:10:56,656 あの子らは ここまで来た駄賃に 半襟もろうたんだす。 126 00:10:56,656 --> 00:11:02,395 あんたは これから 五鈴屋で奉公すんのやさかい➡ 127 00:11:02,395 --> 00:11:05,098 もらういわれはないやろ。 128 00:11:07,267 --> 00:11:10,069 でも…。 さあ 早う! 129 00:11:14,407 --> 00:11:16,776 よっしゃ! 130 00:11:16,776 --> 00:11:20,947 半襟 返しよりましたで! (鉄七)ああ よかった。 131 00:11:20,947 --> 00:11:24,417 こんな上物 取られて たまりますかいな。 132 00:11:24,417 --> 00:11:26,953 仕入れ値かて 二百文はするんだすで。 133 00:11:26,953 --> 00:11:28,988 二百文? 134 00:11:28,988 --> 00:11:31,824 でも 箱に 「四十」と書いた紙が…。 135 00:11:31,824 --> 00:11:33,826 これは ただの数字や。 136 00:11:33,826 --> 00:11:36,296 「四十文」とは書いてまへんだすやろ。 137 00:11:36,296 --> 00:11:39,632 極上品は これだけで ほかのは 安物や。 138 00:11:39,632 --> 00:11:43,803 数字にだまされんと 上物 選んだあんたが➡ 139 00:11:43,803 --> 00:11:49,309 お家さんと 番頭さんの お目にかのうたいうことやね。 よいしょ。 140 00:11:49,309 --> 00:11:52,812 それなら さっきは 私たちをだましたんですか? 141 00:11:52,812 --> 00:11:56,149 だますて 何や。 アホなこと言いないな! 142 00:11:56,149 --> 00:12:00,019 あっ お杉どん 新しい女衆 この子に決まったで。 143 00:12:00,019 --> 00:12:04,324 そうだすか。 こんなこんまい子 役に立つのんか。 144 00:12:08,595 --> 00:12:13,933 (重辰)商人は 金もうけのために 言葉巧みに人をだますのだ。 145 00:12:13,933 --> 00:12:16,769 商人などとは 決して交わってはならぬ。 146 00:12:16,769 --> 00:12:18,705 はい。 はい。 147 00:12:18,705 --> 00:12:24,711 商人て やっぱり 人をだますんだ…。 148 00:12:27,113 --> 00:12:30,783 幸いう名ぁやったな。 149 00:12:30,783 --> 00:12:35,288 今日から奥向き手伝うてもらいます。 あんじょう教えてやってな。 150 00:12:35,288 --> 00:12:37,290 (3人)へえ。 151 00:12:39,158 --> 00:12:43,963 痛っ。 さっさと挨拶しなはれ。 152 00:12:43,963 --> 00:12:47,433 よろしくお願い申し上げます。 153 00:12:47,433 --> 00:12:51,638 何や かたいなあ。 どこぞのお武家はんのようや。 154 00:12:51,638 --> 00:12:56,309 「よろしゅうお頼申します」やで。 覚えとき。 155 00:12:56,309 --> 00:12:58,244 (富久)まあまあ よろし。 156 00:12:58,244 --> 00:13:02,582 あっ お家さん この子の名 どないしまひょ? 157 00:13:02,582 --> 00:13:08,755 竹 梅 杉がいるよって その次となると…。 158 00:13:08,755 --> 00:13:12,592 お松っとんが辞めましたさかい 松が空いてます。 159 00:13:12,592 --> 00:13:17,263 ええっ。 二十年もいる私が 梅やのに➡ 160 00:13:17,263 --> 00:13:21,768 今日 来たばっかりの こんな子が 松だすか? 161 00:13:21,768 --> 00:13:27,273 うん… ほんなら 幸のままにしときまひょ。 162 00:13:27,273 --> 00:13:30,777 お言葉ではおますが 奉公に上がったら➡ 163 00:13:30,777 --> 00:13:33,680 その立場にふさわしい名ぁに 変わるもんだす。 164 00:13:33,680 --> 00:13:38,418 言われんでも分かってます。 けど 五鈴屋の商いは➡ 165 00:13:38,418 --> 00:13:44,290 「買うての幸い 売っての幸せ」が 信条だすやろ。 166 00:13:44,290 --> 00:13:48,428 それはもう 先々代の時からの家訓でおます。 167 00:13:48,428 --> 00:13:51,130 この子の名ぁは 幸や。 168 00:13:51,130 --> 00:13:57,637 五鈴屋の信条が名前になってるんやさかい 変えんでよろし。➡ 169 00:13:57,637 --> 00:14:01,341 あんたも それでよろしな? はい! 170 00:14:03,242 --> 00:14:09,582 幸 骨惜しみせんと 盛大 働きや。 はい。 171 00:14:09,582 --> 00:14:13,252 「はい」やない。 返事は「へえ」や! 172 00:14:13,252 --> 00:14:15,254 へえ。 173 00:14:18,925 --> 00:14:24,097 中庭はさんで 表が見世 奥が住まいだす。 174 00:14:24,097 --> 00:14:27,133 見世には行ったらあかんで。 175 00:14:27,133 --> 00:14:31,137 ここ上がった二階が 奉公人の寝間や。 176 00:14:34,807 --> 00:14:39,412 へてから 向こうにあるのが離れ座敷。 177 00:14:39,412 --> 00:14:41,781 あれは? 178 00:14:41,781 --> 00:14:44,283 (お梅)奉公人が使う かわやだす。 179 00:14:44,283 --> 00:14:46,219 奉公人だけの? 180 00:14:46,219 --> 00:14:49,956 主筋のせっちんは 風呂場と並んで 家の中や。 181 00:14:49,956 --> 00:14:55,294 わてら奉公人とは 何もかも別やで。 よう覚えとき。 182 00:14:55,294 --> 00:14:57,797 ⚟(鉄七) 子供! また間違うてるやないか! 183 00:14:57,797 --> 00:15:03,069 ⚟すんまへん! あ~あ また叱られてるわ。 184 00:15:03,069 --> 00:15:09,842 子供? どこの子ですか? アホかいな。 丁稚に決まってるやろ。 185 00:15:09,842 --> 00:15:14,580 えっ? 名前は? そら あるわ。 186 00:15:14,580 --> 00:15:17,917 けど 半人前やさかい 子供で十分や。 187 00:15:17,917 --> 00:15:19,952 (鉄七)「すんまへん」やのうて…。 すんまへん!いやいや…。 188 00:15:19,952 --> 00:15:22,088 すんまへん! まず 立ちなはれ! 189 00:15:22,088 --> 00:15:28,261 あっ あんた 今 名ぁで呼ばれる分 女衆の方が ましや思たんちゃうか? 190 00:15:28,261 --> 00:15:34,400 はい。 あんなあ 半人前でも 丁稚は人やで。 191 00:15:34,400 --> 00:15:39,272 いずれは手代や番頭になって お店を支えていく人なんだす。 192 00:15:39,272 --> 00:15:43,409 女衆は? 女衆は 人ではないのですか? 193 00:15:43,409 --> 00:15:46,779 当たり前やろ。 人の数には 入ってへん。 194 00:15:46,779 --> 00:15:53,286 せやから 出世も何もない。 一生 鍋の底磨いて暮らすだけや。➡ 195 00:15:53,286 --> 00:15:57,290 まあ 女子に生まれてしもたんや しゃあないわ。 196 00:15:57,290 --> 00:16:00,359 お梅どん 何をグズグズしてんのや! 197 00:16:00,359 --> 00:16:05,064 ちゃっちゃと夕げの支度せんと 日が暮れまっせ! 198 00:16:05,064 --> 00:16:09,235 鍋の底磨いてるうちに あんなふうに年取んのや。 199 00:16:09,235 --> 00:16:15,107 早うしなはれ! あんたは 畑の羅漢さんか! 200 00:16:15,107 --> 00:16:20,246 すんまへん。 あんたのせいで叱られてしもたわ。 201 00:16:20,246 --> 00:16:23,950 畑の羅漢さん…? 202 00:16:27,753 --> 00:16:32,391 <当時 大坂の商家では ごはんを炊くのはお昼だけ。➡ 203 00:16:32,391 --> 00:16:39,098 夜は 冷や飯をお茶漬けにして 漬物で食べるのが一般的でした> 204 00:16:39,098 --> 00:16:43,603 (富久)徳兵衛 惣次 ご苦労はんだしたなあ。 205 00:16:52,612 --> 00:16:55,414 また茶漬けに こうこか。 206 00:16:55,414 --> 00:16:57,717 代わり映えせんなあ。 207 00:17:00,887 --> 00:17:03,556 お家さん わて ちょっと出てきますわ。 208 00:17:03,556 --> 00:17:07,360 (惣次)どこ行くんだす? どこかてええやろ。 209 00:17:07,360 --> 00:17:10,062 あんたに関係ないこっちゃ。 210 00:17:10,062 --> 00:17:13,099 どうせ 新町ぐるわやろ。 211 00:17:13,099 --> 00:17:16,569 ええご身分だすなあ。 212 00:17:16,569 --> 00:17:20,907 あんたが遊ぶ金稼ぐために わてら 働いてんのと ちゃいますで! 213 00:17:20,907 --> 00:17:23,376 何や その口の利き方。 214 00:17:23,376 --> 00:17:26,245 五鈴屋の主は わてだっせ! 215 00:17:26,245 --> 00:17:31,751 主らしいこと 一つもしてへんやろ。 (徳兵衛)何やて?➡ 216 00:17:31,751 --> 00:17:34,387 あんた 誰に向かって 口利いとるんや。 仏像…。 217 00:17:34,387 --> 00:17:38,591 二人とも ええかげんにしなはれ。 218 00:17:38,591 --> 00:17:42,395 ⚟(物音) 219 00:17:42,395 --> 00:17:44,463 ネズミ? し~っ! 220 00:17:44,463 --> 00:17:46,599 またやな! 221 00:17:46,599 --> 00:17:53,372 ♬~ 222 00:17:53,372 --> 00:17:55,308 アホ! うわっ! 223 00:17:55,308 --> 00:17:59,946 押し入れは 隠れて 本読むとことちゃうで。 224 00:17:59,946 --> 00:18:03,916 「西鶴諸国ばなし」? 225 00:18:03,916 --> 00:18:09,055 (智蔵)こない難しい字 読めますのんか? 226 00:18:09,055 --> 00:18:15,227 こんまいのに えらいなあ。 あれ? あんさん誰やった? 227 00:18:15,227 --> 00:18:21,901 今 言おうとしたとこや。 今日から入った女衆で 幸 いうのや。 228 00:18:21,901 --> 00:18:27,073 幸。 女衆にしては けったいな名ぁやな。 229 00:18:27,073 --> 00:18:32,578 (富久)「買うての幸い」の幸や。 智蔵 座んなはれ。 230 00:18:32,578 --> 00:18:34,580 へえ。 231 00:18:36,916 --> 00:18:40,620 慣れるまで大変やろけど お気張りやす。 232 00:18:44,790 --> 00:18:49,395 <五鈴屋の主は 代々 徳兵衛を名乗ります。➡ 233 00:18:49,395 --> 00:18:51,931 富久は 二代目の連れ合いで➡ 234 00:18:51,931 --> 00:18:58,404 五鈴屋を古着屋から呉服店に成長させた 功労者でした。➡ 235 00:18:58,404 --> 00:19:03,876 しかし 三代目を継いだ息子夫婦は早世。➡ 236 00:19:03,876 --> 00:19:11,217 富久が 三人の孫を育て上げ 長男に四代目を継がせたのです> 237 00:19:11,217 --> 00:19:25,364 ♬~ 238 00:19:25,364 --> 00:19:30,669 <幸の長い一日が ようやく終わりました> 239 00:19:35,741 --> 00:19:39,378 おはようさんだす。 (2人)おはようさんだす。 240 00:19:39,378 --> 00:19:41,914 <商家の朝は早く➡ 241 00:19:41,914 --> 00:19:47,787 奉公人たちは 明け六つの鐘を待たずに動きだします> 242 00:19:47,787 --> 00:19:52,258 そっちやない。 こっちや。 243 00:19:52,258 --> 00:19:54,260 へえ。 244 00:20:01,967 --> 00:20:04,603 おはようさんだす。 (女衆たち)おはようさんだす。 245 00:20:04,603 --> 00:20:09,408 <五鈴屋は 丁稚が三人と 手代が五人。➡ 246 00:20:09,408 --> 00:20:14,947 玄関前から見世の隅々まで ちり一つ残さず掃除するのが➡ 247 00:20:14,947 --> 00:20:18,951 彼ら 表の奉公人の仕事です> 248 00:20:21,287 --> 00:20:27,793 <奥の奉公人である女衆たちの食事は いつも一番最後でした> 249 00:20:27,793 --> 00:20:31,297 熱っ! 何しとんねん お前は。 すいません! 250 00:20:31,297 --> 00:20:34,300 こっち ええから 先 こっち拭きなはれ。 すんません。 251 00:20:37,169 --> 00:20:41,006 (伝七)いて参じます! (佐七)いて参じます! 252 00:20:41,006 --> 00:20:44,810 毎朝 どこに行くんだろう…。 253 00:20:48,147 --> 00:20:51,650 ⚟(客)ごめんやす。 はい! 254 00:20:51,650 --> 00:20:53,652 (お竹)幸! 255 00:20:57,523 --> 00:21:01,327 女衆は 見世に出たらあかんて 何べんも言うてるやろ! 256 00:21:01,327 --> 00:21:05,264 へえ。 覚えとき。 257 00:21:05,264 --> 00:21:07,266 へえ。 258 00:21:11,604 --> 00:21:15,407 幸 少しは慣れたか? はい。 259 00:21:15,407 --> 00:21:19,278 あ… いえ 分からないことばかりで。 260 00:21:19,278 --> 00:21:24,116 まだ五日や。 おいおい覚えたらよろし。 261 00:21:24,116 --> 00:21:29,989 お家さん お仕着せを ありがとうございます。 262 00:21:29,989 --> 00:21:33,626 大切に着させていただきます。 263 00:21:33,626 --> 00:21:36,428 ええご挨拶やなあ。 264 00:21:36,428 --> 00:21:39,331 地主の彦太夫さんから聞いてますで。 265 00:21:39,331 --> 00:21:44,303 あんたのお父はん 学者さんやったんやてな。 266 00:21:44,303 --> 00:21:47,173 はい。 どうりで賢いはずや。 267 00:21:47,173 --> 00:21:50,476 ここの仕事も すぐに覚えるやろ。 268 00:21:59,685 --> 00:22:02,922 (お杉)何 気取ってんねん。 269 00:22:02,922 --> 00:22:05,958 あんたのしゃべり方 いちいち しゃくに障るわ。 270 00:22:05,958 --> 00:22:09,595 学者の子やからいうて 鼻にかけるんやないで。 271 00:22:09,595 --> 00:22:12,097 そんなつもりは…。 272 00:22:12,097 --> 00:22:15,901 これ 洗とき。 へえ。 273 00:22:19,839 --> 00:22:24,276 (お竹)何をグズグズしてんのや。 さっさと洗うて干しなはれ。 274 00:22:24,276 --> 00:22:27,279 ホンマに 畑の羅漢さんやな。 275 00:22:27,279 --> 00:22:32,418 畑の羅漢さんって 何だろう…。 276 00:22:32,418 --> 00:22:35,321 ⚟(お杉)幸! 火鉢の灰 ふるったんか? 277 00:22:35,321 --> 00:22:38,791 あ… まだです。 すぐやります! 278 00:22:38,791 --> 00:22:43,128 ⚟(お竹)幸 ちょっと こっち来てんか? へえ! 279 00:22:43,128 --> 00:22:45,431 ああっ! 280 00:22:45,431 --> 00:22:49,134 <お勢の占いが的中したようです。➡ 281 00:22:49,134 --> 00:22:51,170 幸の奉公の始まりは➡ 282 00:22:51,170 --> 00:22:56,876 まさに 柳が水にもまれるがごとき ありさまでした> 283 00:23:06,085 --> 00:23:13,959 ⚟(丁稚たち) 沙綾 縮緬 綸子 羽二重…。➡ 284 00:23:13,959 --> 00:23:23,936 ⚟沙綾 縮緬 綸子 羽二重…。 285 00:23:23,936 --> 00:23:29,608 へてから この字が「羽二重」や。 あれは 塾? 286 00:23:29,608 --> 00:23:32,645 沙綾。 (丁稚たち)沙綾。 287 00:23:32,645 --> 00:23:35,481 縮緬。 (丁稚たち)縮緬。 288 00:23:35,481 --> 00:23:38,317 (治兵衛)綸子。(丁稚たち)綸子。 何してるんだす? 289 00:23:38,317 --> 00:23:40,319 (治兵衛)羽二重。 (丁稚たち)羽二重。 290 00:23:45,424 --> 00:23:50,629 ああ 治兵衛どんが 子供に字ぃ教えてんのやな。 291 00:23:50,629 --> 00:23:55,501 あれが どうかしたんか? あ… あの~…。 292 00:23:55,501 --> 00:24:01,240 そやった。 亡くなったお父はん 村で塾を開いてはったそうやな。 293 00:24:01,240 --> 00:24:05,077 父は 「庭訓往来」を教えていました。 294 00:24:05,077 --> 00:24:09,748 (子供たち) 「大薬秘薬は斟酌の事に候」。 295 00:24:09,748 --> 00:24:14,086 番頭さんは 何を読んでいるのですか? 296 00:24:14,086 --> 00:24:17,957 「商売往来」や。 297 00:24:17,957 --> 00:24:22,261 商いに関わる言葉と心得が書いてある。 298 00:24:22,261 --> 00:24:26,098 あれ一冊 身につけたら 一生 商いに困らへんのだす。 299 00:24:26,098 --> 00:24:28,033 一冊で!? 300 00:24:28,033 --> 00:24:39,411 ♬~ 301 00:24:39,411 --> 00:24:43,115 あれ 読みたいんか? 302 00:24:43,115 --> 00:24:46,785 何が書いてあるのか 知りたいです。 303 00:24:46,785 --> 00:24:51,290 女子の読むものと 違いますで。 304 00:24:51,290 --> 00:24:57,429 けど 本を読みとうて たまらん気持ちは よう分かるわ。 305 00:24:57,429 --> 00:24:59,631 わても一緒やさかい。 306 00:25:02,901 --> 00:25:06,739 畑の羅漢さんのことも あの本に書いてありますか? 307 00:25:06,739 --> 00:25:11,577 羅漢さん? フフフ…。 お竹どんの口癖だすな。 308 00:25:11,577 --> 00:25:16,448 あれは しゃれ言葉や。 「畑の羅漢」で 「働かん」。 309 00:25:16,448 --> 00:25:20,252 しゃれ言葉? ほかにも ようけありますで。 310 00:25:22,588 --> 00:25:27,760 お庭の桜で見るばっかり。 311 00:25:27,760 --> 00:25:32,264 袖口の火事で 手が出せぬ。 312 00:25:32,264 --> 00:25:35,601 うどん屋のカツオで ダシ抜かれた。 313 00:25:35,601 --> 00:25:38,404 フフフ…。 あっ 笑た。 314 00:25:38,404 --> 00:25:41,940 ええ笑顔だすなあ。 315 00:25:41,940 --> 00:25:44,276 いっつも笑てなはれ。 316 00:25:44,276 --> 00:25:47,279 「笑う門には福来る」や。 317 00:25:47,279 --> 00:26:03,762 ♬~ 318 00:26:03,762 --> 00:26:14,573 ⚟(丁稚たち) 沙綾 縮緬 綸子 羽二重…。 319 00:26:17,576 --> 00:26:20,479 あきまへん。 どこの世界に 女衆に➡ 320 00:26:20,479 --> 00:26:24,082 「商売往来」読ますお店が ありますのや。 321 00:26:24,082 --> 00:26:26,752 なあ そこをなんとか。 322 00:26:26,752 --> 00:26:32,257 智ぼんの頼みでも 筋の通らんことは聞かれしまへん。 323 00:26:32,257 --> 00:26:35,160 あの子は わてと よう似てるんだす! 324 00:26:35,160 --> 00:26:39,932 目の前に本があったら 何が書いてあるのか知りとうて➡ 325 00:26:39,932 --> 00:26:43,802 読まずにはおられへん。 あの子は 本が読みとうて➡ 326 00:26:43,802 --> 00:26:48,307 知らん言葉や 新しい字ぃを知りとうて たまらんのや。 327 00:26:51,276 --> 00:26:57,149 読ませて そのあとは どないするつもりだす? 328 00:26:57,149 --> 00:27:00,552 え…。 329 00:27:00,552 --> 00:27:06,725 女衆は 見世に入ることも許されへんのだす。 330 00:27:06,725 --> 00:27:11,897 「商売往来」 習たかて 何の役にも立たしまへん。 331 00:27:11,897 --> 00:27:14,600 それは つらいことやと思いますで。 332 00:27:17,069 --> 00:27:21,273 知らん方が 身のためだすのや。 333 00:27:28,080 --> 00:27:30,082 へえ。 334 00:27:32,384 --> 00:27:34,319 (すすり泣き) 335 00:27:34,319 --> 00:27:37,256 もう泣きないな。 336 00:27:37,256 --> 00:27:40,092 どうかしたのですか? 337 00:27:40,092 --> 00:27:42,995 旦那さんに きつう叱られたんや。 338 00:27:42,995 --> 00:27:46,865 すった墨に かけらが入ってたんやて。 339 00:27:46,865 --> 00:27:52,404 気ぃ付けて すったんだす。 けど…。 340 00:27:52,404 --> 00:27:55,307 辰吉っとん 泣いてもしゃあないで。 341 00:27:55,307 --> 00:27:58,110 逃げて帰れる場所が あるわけやないんやから。 342 00:27:58,110 --> 00:28:01,013 辛抱し。 ええな。 343 00:28:01,013 --> 00:28:09,755 (すすり泣き) 344 00:28:09,755 --> 00:28:14,459 あの… 墨の大きさは どれくらいですか? 345 00:28:19,064 --> 00:28:25,370 これくらい? そうやけんど それが何や。 346 00:28:25,370 --> 00:28:31,877 小さい墨は 強くすったら 砥石に削られてしまうんです。 347 00:28:34,580 --> 00:28:39,251 力を抜いて 優しくすると いいですよ。 348 00:28:39,251 --> 00:28:41,186 うん。 349 00:28:41,186 --> 00:28:45,757 大きい墨は 力を入れて 強く。 350 00:28:45,757 --> 00:28:51,263 小さい墨は こうして 優しく 優しく。 351 00:28:52,931 --> 00:28:57,402 (治兵衛)幸。 はい! へえ。 352 00:28:57,402 --> 00:29:02,541 あんた 墨 すれるんやな。 へえ。 353 00:29:02,541 --> 00:29:05,444 ほんなら 手伝うてんか。 354 00:29:05,444 --> 00:29:09,214 今夜 片づけが終わったあとで ええさかい。 355 00:29:09,214 --> 00:29:11,216 へえ。 356 00:29:11,216 --> 00:29:15,921 頼んだで。 夜やで。 へえ。 357 00:29:34,373 --> 00:29:38,076 あっ 来たか。 しっかり すりなはれや。 358 00:29:38,076 --> 00:29:41,380 後で 取りに行くさかい。 へえ。 359 00:29:51,256 --> 00:29:53,258 お手本だ…。 360 00:30:00,966 --> 00:30:05,103 (治兵衛)今日は 「商売往来」の素読だす。 361 00:30:05,103 --> 00:30:10,609 まずは 算用帳のとこまで ゆっくり読みまひょ。 362 00:30:10,609 --> 00:30:15,781 (治兵衛 丁稚たち) 「凡そ 商売持ち扱う文字は➡ 363 00:30:15,781 --> 00:30:19,618 員數」…。 員數は… この字? 364 00:30:19,618 --> 00:30:21,553 (治兵衛 丁稚たち)「取り遣りの日記」…。 365 00:30:21,553 --> 00:30:24,956 取り遣りの日記…。 (治兵衛 丁稚たち)「証文」…。 366 00:30:24,956 --> 00:30:29,428 <その夜以来 幸は 三日に一度は 墨すりに呼ばれ➡ 367 00:30:29,428 --> 00:30:32,130 治兵衛が教える商いのイロハを➡ 368 00:30:32,130 --> 00:30:36,835 中庭越しに 見聞きすることとなったのです> 369 00:30:42,307 --> 00:30:45,644 何て書いてんのや? 縮緬です。 370 00:30:45,644 --> 00:30:48,980 (お勢)うわっ 縮緬て こうやって 書くんかいな。 371 00:30:48,980 --> 00:30:51,650 何でも知ってるなあ。 372 00:30:51,650 --> 00:30:56,521 名前だけです。 どんな布か 見たことがなくて…。 373 00:30:56,521 --> 00:30:59,157 字ぃだけ覚えて 面白いんか? 374 00:30:59,157 --> 00:31:02,594 はい。 新しいことを知るのは 楽しいです。 375 00:31:02,594 --> 00:31:08,467 ふ~ん けったいな子やなあ ホンマに。 376 00:31:08,467 --> 00:31:23,982 ♬~ 377 00:31:23,982 --> 00:31:27,285 あっ 番頭さん お帰りなさい。 378 00:31:27,285 --> 00:31:31,623 お使いか? はい。 今 戻るところです。 379 00:31:31,623 --> 00:31:34,659 いつも おおきに。 380 00:31:34,659 --> 00:31:37,496 はい。 ありがとう。 381 00:31:37,496 --> 00:31:40,132 早太郎 またね。 382 00:31:40,132 --> 00:31:50,842 ♬~ 383 00:31:50,842 --> 00:31:58,150 あの子 悪い運勢を 自力で 吉に変えようとしてるようやな。 384 00:31:58,150 --> 00:32:02,754 なあ 早太郎。 (鳴き声) 385 00:32:02,754 --> 00:32:07,626 今夜も 墨すり頼みますで。 へえ! 386 00:32:07,626 --> 00:32:14,132 なんぞ 分からんこと おますか? へえ。 え~っと…。 387 00:32:21,606 --> 00:32:24,810 お帰りやす。 おお 治兵衛どん。 388 00:32:28,113 --> 00:32:30,615 屋敷回りは どないだした? 389 00:32:33,985 --> 00:32:39,191 一つも売れへんわ。 商いは難しいなあ。 390 00:32:41,293 --> 00:32:45,997 ご苦労さまでございます。 幸も おったんか。 391 00:32:48,066 --> 00:32:50,435 悪いとこ見られたわ。 392 00:32:50,435 --> 00:32:56,641 智ぼん 泣き言は あきまへんで。 393 00:32:56,641 --> 00:33:00,912 元禄の昔と違うて 今は物が売れん時代だすのや。 394 00:33:00,912 --> 00:33:07,252 けど 惣次兄さんは ようけ売ってはります。 395 00:33:07,252 --> 00:33:13,592 同じ兄弟やのに… 私は 商いには向いてへんのや。 396 00:33:13,592 --> 00:33:20,098 何 言わはるんだす。 「商売往来」にありますやろ。 397 00:33:20,098 --> 00:33:24,269 「見世棚綺麗に 挨拶 応答 饗応」…。 398 00:33:24,269 --> 00:33:26,271 (治兵衛 幸)「柔和たるべし」。 399 00:33:26,271 --> 00:33:32,611 人をだまさず 高利をむさぼらず。 柔和と正直が商いの基だす。 400 00:33:32,611 --> 00:33:36,615 智ぼんには その一番 肝心なもんが備わってますのや。 401 00:33:38,283 --> 00:33:41,987 あとは 売るための知恵でんな。 402 00:33:44,956 --> 00:33:47,759 その知恵が浮かばんのや…。 403 00:33:50,762 --> 00:33:53,965 あっ! 404 00:33:53,965 --> 00:33:56,268 金と銀! 405 00:33:57,836 --> 00:34:02,774 金と銀? どこにあるんだす? 406 00:34:02,774 --> 00:34:06,077 昔 兄から教わったんです。 407 00:34:06,077 --> 00:34:09,581 夕日の輝きは 金色。 408 00:34:09,581 --> 00:34:13,451 川面のきらめきは 銀色。 409 00:34:13,451 --> 00:34:17,455 天がくれた大切な色だって…。 410 00:34:17,455 --> 00:34:21,927 ホンマに金と銀やな。 411 00:34:21,927 --> 00:34:25,130 神さんのくれた色は 美しいわ。 412 00:34:27,732 --> 00:34:33,104 そや。 さっきの話やけど 何が分からん? 413 00:34:33,104 --> 00:34:37,309 分からないこと ぎょうさんあって…。 414 00:34:38,977 --> 00:34:42,614 どれか一つだけ教えよか? 415 00:34:42,614 --> 00:34:49,120 じゃあ 問屋は どうして お客さんに物を売らないのでしょう? 416 00:34:49,120 --> 00:34:53,625 (治兵衛 智蔵)へ? 問屋がお客さんに じかに売る方が➡ 417 00:34:53,625 --> 00:34:55,961 早く安く売れそうなのに。 418 00:34:55,961 --> 00:34:59,798 あんさん そないなこと考えてましたんか。 419 00:34:59,798 --> 00:35:04,069 へえ。 420 00:35:04,069 --> 00:35:13,078 あのなあ。 商いいうんは この川の流れのようなもんだす。 421 00:35:13,078 --> 00:35:15,013 川? 422 00:35:15,013 --> 00:35:22,787 川の始まりは 湧き水で しまいは 海だすやろ。 423 00:35:22,787 --> 00:35:29,527 呉服商いを川に例えたら しまいの海は 何やと思う? 424 00:35:29,527 --> 00:35:34,099 反物を買うお客さん? せや。 425 00:35:34,099 --> 00:35:39,270 川が チョロチョロの湧き水から 広い海になるまでには➡ 426 00:35:39,270 --> 00:35:44,609 途中 いろんなことがある。 427 00:35:44,609 --> 00:35:46,611 商いも おんなじや。 428 00:35:50,115 --> 00:35:54,419 問屋は 川の どの辺りだろう…。 429 00:35:55,987 --> 00:36:00,492 あっ いけない! 帰らないと叱られる! 430 00:36:05,230 --> 00:36:09,567 幸には びっくりしますわ。 431 00:36:09,567 --> 00:36:15,073 丁稚たちも 教えたことは よう覚えるけど➡ 432 00:36:15,073 --> 00:36:18,109 なぜ問屋があんのかて 聞いてきた者はおりまへんで。 433 00:36:18,109 --> 00:36:22,814 私も 当たり前やと思てました。 434 00:36:22,814 --> 00:36:25,583 幸は 違うんやな。 435 00:36:25,583 --> 00:36:28,253 ひょっとすると…➡ 436 00:36:28,253 --> 00:36:32,757 五鈴屋は えらい拾いもんをしたのかも しれまへんで。 437 00:36:37,929 --> 00:36:39,964 そちらにお願いします。 438 00:36:39,964 --> 00:36:43,601 <幸が奉公に 上がって 二年➡ 439 00:36:43,601 --> 00:36:47,939 五鈴屋に 大きな喜び事が ありました。➡ 440 00:36:47,939 --> 00:36:52,277 店主 徳兵衛の縁談が まとまったのです。➡ 441 00:36:52,277 --> 00:36:57,782 船場の小間物屋 紅屋の末娘 菊栄が嫁いできたのは➡ 442 00:36:57,782 --> 00:37:04,355 八月十五日 満月の夜のことでした> 443 00:37:04,355 --> 00:37:08,159 (お梅)あれ 何だすやろ? (お竹)知るかいな。 444 00:37:10,061 --> 00:37:11,996 (料理人)女衆さん。 (幸)へえ。 445 00:37:11,996 --> 00:37:14,733 (料理人)これ 座敷に運んでんか。 へえ。 446 00:37:14,733 --> 00:37:17,535 (料理人)こぼさんよう 気ぃ付けや。 へえ。 447 00:37:25,376 --> 00:37:30,582 おお 本日は おめでとさんでございます。 448 00:37:30,582 --> 00:37:33,485 (仲人)本日は おめでとうさんにございますと。 449 00:37:33,485 --> 00:37:36,921 おおきに。 (笑い声) 450 00:37:36,921 --> 00:37:39,390 ほんに おめでとうさんでございます。 451 00:37:39,390 --> 00:37:46,097 紅屋のこいさん お嫁に迎えはったら これで五鈴屋さんも安泰だすな。 452 00:37:46,097 --> 00:37:49,400 おかげさんで。 (笑い声) 453 00:37:49,400 --> 00:37:53,104 めでたいこって。 ハハハ…! 454 00:37:53,104 --> 00:37:56,007 (お梅)持参金 三十五両やて。 455 00:37:56,007 --> 00:38:00,712 紅屋は かんざしに耳かきつけて 大もうけしはりましたもんな。 456 00:38:00,712 --> 00:38:05,583 かんざしに耳かきを? ほら これや。 457 00:38:05,583 --> 00:38:08,887 (お梅)お竹どん! それ 紅屋のかんざしだすか? 458 00:38:08,887 --> 00:38:11,222 (お竹)あないに高い物 買えますかいな。➡ 459 00:38:11,222 --> 00:38:15,226 まねしてこしらえた そこらの安物や。 460 00:38:15,226 --> 00:38:17,896 (徳兵衛たちの笑い声) 461 00:38:17,896 --> 00:38:22,066 (お梅)きれいなべべ着て ご寮さん呼ばれて➡ 462 00:38:22,066 --> 00:38:26,738 同じ女子でも 鍋の底磨いて暮らすわてらとは➡ 463 00:38:26,738 --> 00:38:28,773 えらい違いだすなあ。 464 00:38:28,773 --> 00:38:31,910 これで旦那さんの遊びがやんだら➡ 465 00:38:31,910 --> 00:38:33,945 お家さんも 一安心やろけど…。 466 00:38:33,945 --> 00:38:37,715 (お杉)ふん… 旦那さんの女遊びは病気だすで。 467 00:38:37,715 --> 00:38:40,084 ご寮さんが来たかて 治るはずあらへん。 468 00:38:40,084 --> 00:38:42,587 (お竹)お杉どん 何や その言い方。 469 00:38:42,587 --> 00:38:47,926 (お杉)ホンマのことだす。 また くるわ通いしはるに決まってるわ。 470 00:38:47,926 --> 00:38:52,230 お店を背負てはるんは 旦那さんやあらへんのやし。 471 00:38:57,101 --> 00:39:00,605 <祝言から十日ほどが過ぎて…> 472 00:39:02,073 --> 00:39:04,209 幸。 へえ。 473 00:39:04,209 --> 00:39:07,212 これ ご寮さんとこ持ってって。 何だす? 474 00:39:07,212 --> 00:39:13,551 煎じ薬や。 お疲れのようで 朝げも よう召し上がらんかったさかい。 475 00:39:13,551 --> 00:39:18,723 旦那さん 励み過ぎとちゃいますか? 励むて? 何をだす? 476 00:39:18,723 --> 00:39:25,496 アホ。 幸の前で 何言うんや。 もう さっさと行きなはれ! 477 00:39:25,496 --> 00:39:27,498 へえ。 478 00:39:31,436 --> 00:39:33,938 煎じ薬 お持ちしました。 479 00:39:39,911 --> 00:39:41,913 すんまへん。 480 00:39:57,462 --> 00:40:00,164 ご寮さん 消えはった…。 481 00:40:15,280 --> 00:40:17,282 (菊栄)んん…。 482 00:40:19,150 --> 00:40:24,956 ああ~ 眠うてかなわん。 483 00:40:24,956 --> 00:40:30,828 堂々と昼寝するわけにいかんさかい あそこで 一休みしてたんだす。 484 00:40:30,828 --> 00:40:33,965 夜 寝られへんのだすか? 485 00:40:33,965 --> 00:40:40,438 ご寮さんて しんどいもんだすで。 486 00:40:40,438 --> 00:40:44,309 お助けできることがあれば 何なりとお申しつけください。 487 00:40:44,309 --> 00:40:49,647 おおきに。 気持ちだけもろときます。 488 00:40:49,647 --> 00:40:52,450 あんた 名ぁは? 489 00:40:52,450 --> 00:40:56,321 幸だす。 幸。 490 00:40:56,321 --> 00:40:59,324 目ぇつぶって 口開けてみ。 491 00:40:59,324 --> 00:41:02,026 へえ… こうだすか? 492 00:41:09,867 --> 00:41:15,373 あっ 甘い。 せやろ。 太閤さんの飴や。 493 00:41:18,276 --> 00:41:20,211 う~ん! 494 00:41:20,211 --> 00:41:22,280 <菊栄の笑顔は 五鈴屋に➡ 495 00:41:22,280 --> 00:41:27,418 爽やかな風を吹き込むようでした。 けれど…> 496 00:41:27,418 --> 00:41:33,291 大口の注文 取ってきてんの わてだけだすで。 497 00:41:33,291 --> 00:41:37,628 へえへえ えらいご苦労はんなこって。 498 00:41:37,628 --> 00:41:41,499 あんたは 何してんのや。 祝言に大金かけて➡ 499 00:41:41,499 --> 00:41:44,302 この先も まだ物入りやいうのに➡ 500 00:41:44,302 --> 00:41:46,971 金使てばっかりやないか! 惣次。 501 00:41:46,971 --> 00:41:50,975 お家さん 甘い顔してはったら どないもなりまへんで! 502 00:41:55,313 --> 00:42:00,151 ふん。 己の商才を鼻にかけくさって。 503 00:42:00,151 --> 00:42:02,120 五鈴屋の主は誰か➡ 504 00:42:02,120 --> 00:42:04,989 いっぺん 思い知らせなあきまへんな。 505 00:42:04,989 --> 00:42:08,993 徳兵衛 ごろつきのような物言い やめなはれ。 506 00:42:18,102 --> 00:42:24,609 <吹く風は やがて 五鈴屋にくすぶる火種をあおり➡ 507 00:42:24,609 --> 00:42:30,281 自分の運命をも変えることを 幸は まだ知りませんでした> 508 00:42:30,281 --> 00:42:32,984 そっち そっち 取ってんか。 へえ。 509 00:42:35,119 --> 00:42:37,955 商いの知恵て 面白いもんだすな。 510 00:42:37,955 --> 00:42:40,992 幸を お嫁さんにもろて 生きていけんのやないかて…。 511 00:42:40,992 --> 00:42:43,628 あんたのせいで のれん下ろすことになるで! 512 00:42:43,628 --> 00:42:46,130 そんな…。 何を言うのや。 513 00:42:46,130 --> 00:42:48,166 嫌だす。 お家さんに何するんだす! 514 00:42:48,166 --> 00:42:50,301 すんまへん! 聞いてへんかったんか? 515 00:42:50,301 --> 00:42:52,804 幸も お魚好きか? 516 00:42:52,804 --> 00:42:55,306 商いが好きなんか? へえ 大好きだす!