1 00:00:02,202 --> 00:00:04,271 (惣次)五鈴屋の五代目でございます。 2 00:00:04,271 --> 00:00:08,942 夫婦ともども 何とぞ よろしゅうお頼申します。 3 00:00:08,942 --> 00:00:10,878 よ~っ! 4 00:00:10,878 --> 00:00:12,880 (歓声) 5 00:00:14,815 --> 00:00:18,619 ⚟(鉄助)どうぞ 祝うておくれやす。 6 00:00:24,124 --> 00:00:26,059 智蔵。 7 00:00:26,059 --> 00:00:30,631 あいつ 何しに来たんや。 8 00:00:30,631 --> 00:00:34,434 (富久)幸 どないした? (幸)えっ。 9 00:00:34,434 --> 00:00:38,305 本日は おめでとうさんでございます。 ありがとさんでございます。 10 00:00:38,305 --> 00:00:40,307 お家さんも これで安心だすな。 11 00:00:40,307 --> 00:00:44,645 器量よしのご寮さんで 五代目は果報者や。 12 00:00:44,645 --> 00:00:48,982 旦那さん この度は めでとうさんで ございます。ありがとさんだす。 13 00:00:48,982 --> 00:00:52,486 これで五鈴屋さんも安泰やな。 精進してまいります。 14 00:01:13,941 --> 00:01:17,811 あんたに 言うておくことがある。 へえ。 15 00:01:17,811 --> 00:01:23,417 まだ お家さんにも 話してへんことやが…。 16 00:01:23,417 --> 00:01:28,956 わては 江戸を目指すつもりや。 江戸を? 17 00:01:28,956 --> 00:01:35,162 五鈴屋を日本一の呉服屋にするには 大坂で商うてるだけでは あかん。 18 00:01:37,297 --> 00:01:40,133 目安は 五年。 19 00:01:40,133 --> 00:01:44,638 五年で 五鈴屋の 新店を江戸に出す。 20 00:01:44,638 --> 00:01:47,307 五年!? そないに早う…。 21 00:01:47,307 --> 00:01:52,980 これまでと同じことしてたら 十年かけても 江戸には出られへん。 22 00:01:52,980 --> 00:01:58,652 わては 五鈴屋の商いを 一から立て直すつもりや。 23 00:01:58,652 --> 00:02:03,256 そのためには むちゃもするし 無理も言う。 24 00:02:03,256 --> 00:02:07,594 力 貸してほしい。 25 00:02:07,594 --> 00:02:11,398 わてと一緒に 江戸を目指してくれ。 26 00:02:13,467 --> 00:02:19,106 お考え よう分かりました。 27 00:02:19,106 --> 00:02:23,910 できることは 何でもさせていただきます。 28 00:02:25,612 --> 00:02:27,948 頼むで。 29 00:02:27,948 --> 00:02:45,298 ♬~ 30 00:02:45,298 --> 00:02:50,437 幸… 五年後には きっと➡ 31 00:02:50,437 --> 00:02:53,240 あんたを江戸に連れてったる。 32 00:02:59,146 --> 00:03:03,984 <祝言から半月が過ぎた 十一月の末のこと…> 33 00:03:03,984 --> 00:03:06,887 あと三日で師走だす。 34 00:03:06,887 --> 00:03:11,792 一年分の掛け 一つも残らず取ってきなはれ。 35 00:03:11,792 --> 00:03:14,594 (一同)へえ! 36 00:03:14,594 --> 00:03:16,530 今のうち言うておくが➡ 37 00:03:16,530 --> 00:03:18,932 年に一度の大節季払いは➡ 38 00:03:18,932 --> 00:03:22,602 今年限りにするさかい。 そのつもりで。 39 00:03:22,602 --> 00:03:27,774 (一同)えっ。 今年限りて どういうことやねん。 40 00:03:27,774 --> 00:03:31,111 来年から 五節季払いに変えて➡ 41 00:03:31,111 --> 00:03:34,414 三月 五月 七月➡ 42 00:03:34,414 --> 00:03:36,483 九月 師走と➡ 43 00:03:36,483 --> 00:03:39,786 節季ごとに区切って 払うてもらいます。 44 00:03:39,786 --> 00:03:44,624 (一同)えっ! (佐七)掛け取りを 年に五度も…。 45 00:03:44,624 --> 00:03:47,427 あっ…。 何 言うてるのや。 46 00:03:47,427 --> 00:03:49,496 暮れに一度の支払いやさかい➡ 47 00:03:49,496 --> 00:03:54,634 お客さんは 懐具合を気にせんと 買うてくださるのやないか。 48 00:03:54,634 --> 00:03:59,139 それ ホンマにお客さんのために ええことだすか? 49 00:04:00,740 --> 00:04:07,080 大節季払いは 一年分の利子が乗って 呉服の値が高なる。 50 00:04:07,080 --> 00:04:11,384 節季ごとに払てもらえば 支払いまで 間が短い分➡ 51 00:04:11,384 --> 00:04:15,255 利子は減らせるやろ。 52 00:04:15,255 --> 00:04:20,393 年に五度の掛け取りは 手間やし 利ざやも少のうなる。 53 00:04:20,393 --> 00:04:25,232 けど その分 安い値がつけられるのや。 54 00:04:25,232 --> 00:04:27,767 どっちが お客さんのためにええか➡ 55 00:04:27,767 --> 00:04:32,105 考えたら分かるやろ。 なるほど…。 56 00:04:32,105 --> 00:04:34,040 (鉄助)理屈は よう分かります。➡ 57 00:04:34,040 --> 00:04:39,980 けど 長いこと 師走の大節季払いで 商いさせてもろてますよって➡ 58 00:04:39,980 --> 00:04:44,618 節季ごとでは 金の工面がつかんいう お客さんも いてはりますやろ。 59 00:04:44,618 --> 00:04:47,120 不承知やいう客は もう切ったらよろし。 60 00:04:47,120 --> 00:04:54,294 (一同)えっ! もう一つ 来年から改めることがあるで。 61 00:04:54,294 --> 00:05:00,567 先代の下で わては 月に三十反は 売ってきたんや。 62 00:05:00,567 --> 00:05:04,437 来年から わてが売ってきた三十反を➡ 63 00:05:04,437 --> 00:05:09,276 手代三人で賄うてもらう。 64 00:05:09,276 --> 00:05:13,580 一人当たり 月十反ずつの割り当てや。 65 00:05:13,580 --> 00:05:16,082 いや…。 66 00:05:16,082 --> 00:05:20,754 もし 売り残したら 翌月分に上乗せするよって➡ 67 00:05:20,754 --> 00:05:24,624 せいだい お気張りやす。 68 00:05:24,624 --> 00:05:28,495 ああ いや 旦那さん それは あんまり厳しおます。 69 00:05:28,495 --> 00:05:32,465 とりわけ 広七は 手代になって まだ日も浅い。 70 00:05:32,465 --> 00:05:36,770 お得意さんかて 少ないし。 ほんなら あんさんも➡ 71 00:05:36,770 --> 00:05:40,106 割り当てに加わったらどないや。 えっ? 72 00:05:40,106 --> 00:05:44,611 番頭やからって 帳場にばっかり おらんでもええんやで。 73 00:05:44,611 --> 00:05:51,117 いや…。 三十反を四人で割って 一人 七反半。 74 00:05:51,117 --> 00:05:55,422 切りが悪いよって 八反にしよか。 75 00:05:55,422 --> 00:06:00,727 月八反 知恵を絞って売んなはれ。 76 00:06:03,230 --> 00:06:07,100 安吉 辰吉 賢吉。 (3人)へえ。 77 00:06:07,100 --> 00:06:09,569 あんたらも 油断してたらあかんで。 78 00:06:09,569 --> 00:06:13,773 丁稚かて 役に立たん者は 暇出すさかい。 79 00:06:16,243 --> 00:06:18,245 (安吉 辰吉 賢吉・小声で)へえ。 80 00:06:21,915 --> 00:06:23,950 はあ。(広七)番頭さん。 ん? 81 00:06:23,950 --> 00:06:26,786 すんまへん わてのせいで…。 ああ…。 82 00:06:26,786 --> 00:06:30,090 (末七)毎月 八反て 一年で百反近くだす。 83 00:06:30,090 --> 00:06:32,926 こない物の売れん時に わてらでも しんどいな。 84 00:06:32,926 --> 00:06:37,397 四代目は 難儀なお人やったが 五代目もなあ…。 85 00:06:37,397 --> 00:06:40,300 (富久)あんさん 何 考えてるんだす! 86 00:06:40,300 --> 00:06:43,937 五鈴屋は 昔なじみのお客さんを大事にして➡ 87 00:06:43,937 --> 00:06:45,872 ここまでやってきたんだす。 88 00:06:45,872 --> 00:06:50,710 五節季払いが払えん客は 切るやなんて そない薄情なこと わてが許しまへん。 89 00:06:50,710 --> 00:06:53,413 商いは 情でするもんやおまへん。 90 00:06:53,413 --> 00:06:57,784 悠長なことしてたら このご時世 五鈴屋は潰れまっせ。 91 00:06:57,784 --> 00:07:00,553 奉公人にかて あない きつう言わんでも。 92 00:07:00,553 --> 00:07:04,357 月に八反 売れん者が ものの役に立ちますかいな。 93 00:07:04,357 --> 00:07:08,228 商いに本気出さん者は 出ていってもらうまでだす。 94 00:07:08,228 --> 00:07:10,163 惣次! あんたは…。 95 00:07:10,163 --> 00:07:15,969 店主は わてだす。 商いのことは わてに決めさせてもらいます。 96 00:07:18,238 --> 00:07:21,574 何や あの言いぐさは。 お家さん。 97 00:07:21,574 --> 00:07:24,477 五鈴屋は あの子が作ったんやない。 98 00:07:24,477 --> 00:07:30,750 初代が始めて 二代目が苦労して 呉服屋に育てたんや。 それを…。 99 00:07:30,750 --> 00:07:33,386 旦那さんも それは よう分かっておいでだす。 100 00:07:33,386 --> 00:07:35,922 あの子には 情がないのや。 101 00:07:35,922 --> 00:07:40,760 お客さんを切るの 奉公人に暇を出すのと 軽々しく言うもんやない。 102 00:07:40,760 --> 00:07:45,098 へえ。 でも 旦那さんにも お考えが あってのことやと思いますさかい。 103 00:07:45,098 --> 00:07:48,902 あんたは 惣次の味方なんやな。 104 00:07:51,971 --> 00:07:55,408 死んだ徳兵衛が よう言うてたわ。 105 00:07:55,408 --> 00:08:01,047 惣次は 己の商才を鼻にかけてるて。 106 00:08:01,047 --> 00:08:05,352 商いは 損得勘定だけでするもんやない。 107 00:08:05,352 --> 00:08:08,555 あの子には それが分かってへんのや。 108 00:08:12,058 --> 00:08:14,894 (富久)商いは そろばんだけでするもんやない。➡ 109 00:08:14,894 --> 00:08:19,599 薄情なことばっかりやってたら 今に 足すくわれまっせ。 110 00:08:23,069 --> 00:08:25,105 <翌年の三月。➡ 111 00:08:25,105 --> 00:08:27,574 五節季払いの 最初の掛け取りを➡ 112 00:08:27,574 --> 00:08:30,377 なんとか無事に済ませた ある日…> 113 00:08:30,377 --> 00:08:35,915 (鉄助)泣きなて。 ええ年して みっともない。 114 00:08:35,915 --> 00:08:37,951 せやかて 番頭さん。 うん。 115 00:08:37,951 --> 00:08:41,588 今月はまだ 二反しか売れてまへん。 116 00:08:41,588 --> 00:08:45,925 あと半月で 六反も… わてには無理だす。 117 00:08:45,925 --> 00:08:50,263 ほな どないするねん。 ここ いんだかて ほかに行く当てないやろ。 118 00:08:50,263 --> 00:08:53,600 (広七) そない言うたかて 六反は無理だす。 119 00:08:53,600 --> 00:08:57,470 (鉄助)広七っとん 諦めたらあかん。 なっ。 120 00:08:57,470 --> 00:09:01,341 だんない だんない。 あんさんは できる子や。 121 00:09:01,341 --> 00:09:03,643 しっかり気張りなはれ。 122 00:09:07,147 --> 00:09:13,887 (お梅)旦那さんは あんまりむごいわ。 広七っとん 泣いてますで。 123 00:09:13,887 --> 00:09:18,224 (お竹)聞こえてます。 あない 大きな声で泣いて。 124 00:09:18,224 --> 00:09:20,226 (お梅)無理難題 押しつけられて➡ 125 00:09:20,226 --> 00:09:24,731 かわいそうやなあ。せやろか。 えっ? 126 00:09:24,731 --> 00:09:27,567 (お竹)前の番頭さんが別家されてから➡ 127 00:09:27,567 --> 00:09:33,072 商いのやり方 あれこれ工夫してはんのは 今の旦那さん お一人だけや。 128 00:09:33,072 --> 00:09:36,943 (お梅)そうだすな…。 割り当て分を 売らんならんとなったら➡ 129 00:09:36,943 --> 00:09:41,247 みんな 死に物狂いで 知恵絞るやろ。 130 00:09:41,247 --> 00:09:45,919 ええ鍛錬になるのと違うか? 131 00:09:45,919 --> 00:09:49,589 あっ ご寮さん なんぞ御用だすか? 132 00:09:49,589 --> 00:09:52,625 離れに お茶を。 へえ すぐにお持ちします。 133 00:09:52,625 --> 00:09:55,095 ええんだす。 わてが持っていきますよって。 134 00:09:55,095 --> 00:09:58,097 ほんなら すぐ支度しますわ。 135 00:10:01,868 --> 00:10:06,406 台所からでも 表のことが よう見えますのやなあ。 136 00:10:06,406 --> 00:10:10,110 えっ? 何だす? 137 00:10:10,110 --> 00:10:15,615 わてが店主やったら お竹どんを 中番頭に据えるのに 言うたんだす。 138 00:10:15,615 --> 00:10:21,287 いえ ハハッ もう そないテンゴ言うてからに。 139 00:10:21,287 --> 00:10:26,125 ハハハ… ハハハ…! 二人して 何がおかしいんだす? 140 00:10:26,125 --> 00:10:29,028 (笑い声) 141 00:10:29,028 --> 00:10:33,733 もうええから 早う支度しなはれ。 ハハハハ! 142 00:10:37,637 --> 00:10:42,442 何 見てはるんだす? ん? 引札や。 143 00:10:42,442 --> 00:10:46,813 随分前 越後屋が新店出した時に 配ったものや。 144 00:10:46,813 --> 00:10:50,149 たきつけの中に混じってたのを もろてきたわ。 145 00:10:50,149 --> 00:10:57,824 チラシだすな。 「大坂高麗橋一丁目 堺筋 東へ入るところ」…。 146 00:10:57,824 --> 00:11:03,396 それ読んだら 新しい店が どこにあるか 何を商うてるか➡ 147 00:11:03,396 --> 00:11:07,767 現銀掛け値なしの商売してることまで よう分かる。 148 00:11:07,767 --> 00:11:11,604 うちでも こないなもん まいてみよかと思うねん。 149 00:11:11,604 --> 00:11:16,943 チラシで 何 知らせるんだす? 五節季払いや。 150 00:11:16,943 --> 00:11:19,979 五節季払いは 得なもんやと分かったら➡ 151 00:11:19,979 --> 00:11:24,984 これまで縁のなかった人にも お客さんになってもらえるかもしらん。 152 00:11:27,420 --> 00:11:32,625 でも 読まずに ほかされたり たきつけにされたりしたら➡ 153 00:11:32,625 --> 00:11:34,561 何にもなりまへんなあ。 154 00:11:34,561 --> 00:11:42,635 そやねん。 金かけて作るのやさかい 必ず読んでもらえるようにせんと。 155 00:11:42,635 --> 00:11:45,305 読んでもらえるもの…。 156 00:11:45,305 --> 00:11:48,508 (幸)「西鶴諸国ばなし」? 157 00:11:51,444 --> 00:11:53,646 (智蔵)わても一緒やさかい。 158 00:11:55,982 --> 00:11:57,984 あっ 違た! 159 00:12:02,255 --> 00:12:07,760 旦那さん チラシより ええもんがあります。 160 00:12:07,760 --> 00:12:11,598 <四月八日の 花祭りには➡ 161 00:12:11,598 --> 00:12:15,768 竹ざおの先に ツツジをくくりつけた 天道花を飾って➡ 162 00:12:15,768 --> 00:12:18,771 お釈迦様の誕生を祝います> 163 00:12:22,542 --> 00:12:27,347 ほな いて参じます。 へえ お気を付けて行っておいでやす。 164 00:12:34,621 --> 00:12:36,656 幸! へえ。 165 00:12:36,656 --> 00:12:40,426 お家さん 出かけはったか? たった今 お寺さんへ。 166 00:12:40,426 --> 00:12:45,298 そうか。 もうじき 智蔵が来るで。 えっ…。 167 00:12:45,298 --> 00:12:48,801 朝一番で 心斎橋に 使い出したんや。 168 00:12:48,801 --> 00:12:51,437 何で 智ぼんさんを? 169 00:12:51,437 --> 00:12:57,243 何でて 本の中に 五鈴屋の名ぁ入れるやり方 聞くためや。 170 00:12:57,243 --> 00:13:02,749 えっ? あんたの思いつき やってみますで。 171 00:13:02,749 --> 00:13:08,087 「五節季の五鈴屋」て 本に入れるのや。 172 00:13:08,087 --> 00:13:12,392 最初 聞いた時は けったいなこと言う嫁やな思たけど。 173 00:13:12,392 --> 00:13:16,763 あれから ちょくちょく 本屋 のぞいてみてたんや。 まあ! 174 00:13:16,763 --> 00:13:20,400 本は 値が張るよって 買う人は僅かやが➡ 175 00:13:20,400 --> 00:13:22,769 人気のあるものは 貸本で➡ 176 00:13:22,769 --> 00:13:25,405 えらい読まれてるのやな。 へえ そうだす。 177 00:13:25,405 --> 00:13:28,775 金かけてでも やってみる値打ちは ありそうや。 178 00:13:28,775 --> 00:13:30,777 へえ! 179 00:13:32,645 --> 00:13:36,649 わての女房は 大した知恵者だすなあ。 180 00:13:36,649 --> 00:13:38,951 そないなこと…。 181 00:13:38,951 --> 00:13:41,287 お家さん 早う戻らはったら ええんだすけど…。 182 00:13:41,287 --> 00:13:44,290 いや お家さんがおったら ややこしいさかい➡ 183 00:13:44,290 --> 00:13:48,594 戻る前に 話 済ませてしまうで。 えっ? 184 00:13:50,997 --> 00:13:54,500 お家さんの留守のうちに…? 185 00:13:58,638 --> 00:14:03,376 なるほど。 配ったら しまいのチラシと違て➡ 186 00:14:03,376 --> 00:14:06,245 本は 長いこと大事にされます。 187 00:14:06,245 --> 00:14:10,116 ええとこに 目ぇつけはりましたな。 そやろ。 188 00:14:10,116 --> 00:14:13,019 けど どないしたら 本の中に➡ 189 00:14:13,019 --> 00:14:17,957 「五節季の五鈴屋」て入れられるのか それが分からん。 190 00:14:17,957 --> 00:14:22,261 どこに どう頼んだらええのか 教えてほしい。 191 00:14:22,261 --> 00:14:28,134 そうだすなあ…。 本を出すのは版元だす。 192 00:14:28,134 --> 00:14:32,905 大体は 本屋と貸本屋も兼ねてます。 193 00:14:32,905 --> 00:14:38,411 版元は 彫り師に 一丁につき 銀九匁を支払うて➡ 194 00:14:38,411 --> 00:14:42,415 版木を彫らせるんだす。 一丁て 何や? 195 00:14:47,787 --> 00:14:50,690 二つ折りにした袋とじの裏表に➡ 196 00:14:50,690 --> 00:14:52,658 文字が刷ってありますやろ。 197 00:14:52,658 --> 00:14:56,496 これを 一丁 言うんだす。 198 00:14:56,496 --> 00:14:58,798 版木一丁だけ買い取って➡ 199 00:14:58,798 --> 00:15:02,235 そこに五鈴屋の名ぁ彫らせるいうのは どうだすやろ? 200 00:15:02,235 --> 00:15:04,737 版木 買い取るて…。 201 00:15:04,737 --> 00:15:06,773 一丁分の彫り賃は浮くし➡ 202 00:15:06,773 --> 00:15:10,376 刷り増しする時も 困らへんさかい 版元に損はない。 203 00:15:10,376 --> 00:15:13,179 これなら 話に乗る思います。 204 00:15:15,581 --> 00:15:18,084 よっしゃ。 それでいこ。 205 00:15:18,084 --> 00:15:21,387 あんさんの なじみの版元 今から連れてってくれ。 206 00:15:21,387 --> 00:15:24,757 今すぐだすか? 「善は急げ」や。 207 00:15:24,757 --> 00:15:28,094 金 用意してくるさかい ここで待っとき。 208 00:15:28,094 --> 00:15:31,130 へえ。 209 00:15:31,130 --> 00:15:36,436 いつまでも世間知らずやと思てたけど あんさんも 知恵ついたな。 210 00:16:00,726 --> 00:16:03,930 お家さん どないしてはりますか? 211 00:16:05,565 --> 00:16:09,902 お達者だす。 今 お寺さんにお参りに。 212 00:16:09,902 --> 00:16:11,838 そうか。 213 00:16:11,838 --> 00:16:21,080 ♬~ 214 00:16:21,080 --> 00:16:23,783 天道花 飾ったんやな。 215 00:16:25,751 --> 00:16:29,589 ありがとさんでございます。 216 00:16:29,589 --> 00:16:33,292 勝手なお願い 快う引き受けてくださって。 217 00:16:36,262 --> 00:16:40,266 長いこと 好き勝手させてもろてるんや。 218 00:16:40,266 --> 00:16:44,570 少しでも 五鈴屋の役に立てたら うれしいわ。 219 00:16:49,609 --> 00:16:54,614 あの… 智ぼんさんの浮世草子 どないなりました? 220 00:16:56,482 --> 00:16:58,951 ようやっと 出してもらえることになった。 221 00:16:58,951 --> 00:17:02,822 まあ! おめでとうさんでございます。 222 00:17:02,822 --> 00:17:07,226 何年も かかってしもてなあ。 いいえ ご立派だす。 223 00:17:07,226 --> 00:17:18,571 ♬~ 224 00:17:18,571 --> 00:17:22,909 ⚟どんな話なんだす? ⚟そやなあ。 225 00:17:22,909 --> 00:17:28,581 中身は 読んでからのお楽しみだすな。 アハハ 待ちきれまへんなあ。 226 00:17:28,581 --> 00:17:30,516 (お杉)ああ びっくりした。➡ 227 00:17:30,516 --> 00:17:33,085 智ぼんさんが 戻ってはったんだすなあ。 228 00:17:33,085 --> 00:17:37,757 わて 夫婦連れのお客さんが 来てはるのかと 見違えてしもた。 229 00:17:37,757 --> 00:17:41,928 えっ…。 えらい親しそうにしてはるよって。 230 00:17:41,928 --> 00:17:48,234 そういえば 智ぼんさんとご寮さん 昔から 仲がよろしおましたな。 231 00:17:53,272 --> 00:17:56,609 ほな ちょっとだけ教えまひょか? ええんだすか? 232 00:17:56,609 --> 00:18:01,113 やっぱり ダメだす。 ハハッ 何だすの。 233 00:18:02,882 --> 00:18:05,351 いつの話 してんのや。 234 00:18:05,351 --> 00:18:09,855 智蔵 行くで! へえ! 235 00:18:17,730 --> 00:18:20,366 (富久)えっ 智蔵が来てたんか? 236 00:18:20,366 --> 00:18:23,569 言うてくれたら 早う戻りましたのに。 237 00:18:23,569 --> 00:18:26,605 すんまへん。 ふと思いついて呼びにやったら➡ 238 00:18:26,605 --> 00:18:29,909 すぐに来よったんだすわ。 達者にしてましたで。 239 00:18:29,909 --> 00:18:35,581 そうか。 それで 本に 五鈴屋の名ぁ入れるて どうするんや? 240 00:18:35,581 --> 00:18:38,484 それは もう 話つけてきました。 241 00:18:38,484 --> 00:18:43,456 どうぞ。 お家さんが頂いてきはった甘茶だす。 242 00:18:43,456 --> 00:18:47,193 幸 あんたも座んなはれ。 へえ。 243 00:18:47,193 --> 00:18:49,996 今 本の話 聞いてたとこや。 244 00:18:51,931 --> 00:18:56,268 智蔵のなじみの 宝泉堂いう版元に掛け合うて➡ 245 00:18:56,268 --> 00:19:01,874 来月 出る本に 「天満菅原町 五節季の五鈴屋」て➡ 246 00:19:01,874 --> 00:19:05,344 入れることにしたんや。 来月? そないに すぐだすか? 247 00:19:05,344 --> 00:19:09,882 高うついたで。 一丁 銀四十五匁や。 248 00:19:09,882 --> 00:19:12,718 四十五匁! えらい張り込んで。 249 00:19:12,718 --> 00:19:16,589 よそに まねされんよう 口止め料も込みやさかいな。 250 00:19:16,589 --> 00:19:20,359 それで 智蔵の 何という本に入れるんや? 251 00:19:20,359 --> 00:19:23,562 智蔵の本とちゃいますで。 (富久)えっ…。 252 00:19:23,562 --> 00:19:29,902 永井何とか言うてたな。 当代きっての人気作者の本だすわ。 253 00:19:29,902 --> 00:19:34,240 そんな…。 六年たって 芽ぇの出ん智蔵の本なんぞ➡ 254 00:19:34,240 --> 00:19:39,578 五鈴屋の名ぁ広める役に立ちますかいな。 (富久)あんたの弟だすで。 255 00:19:39,578 --> 00:19:41,914 こないな時ぐらい 力 合わせたらええやないか。 256 00:19:41,914 --> 00:19:45,751 銀四十五匁 無駄金には できませんよって。 257 00:19:45,751 --> 00:19:50,956 ほな 見世に戻ります。 旦那さん 甘茶…。 258 00:19:52,525 --> 00:19:54,527 いらん。 259 00:19:58,764 --> 00:20:02,968 智蔵のこと ええように使うだけ使て…。 260 00:20:21,620 --> 00:20:25,791 ここ 呉服屋か? (安吉)へえ そうだす。 261 00:20:25,791 --> 00:20:28,294 「五節季の五鈴屋」。 これ 何のこっちゃ? 262 00:20:28,294 --> 00:20:33,432 へえ。 盆暮れのほかに 三月の上巳 五月の端午➡ 263 00:20:33,432 --> 00:20:36,802 九月の重陽の前にも 掛け取りに参じます。 264 00:20:36,802 --> 00:20:40,973 ほな すぐに金取られるいう話かいな。 (賢吉)すんまへん。 265 00:20:40,973 --> 00:20:46,645 そのかわり 暮れの大節季払いより ずっと安うお求めいただけます。 266 00:20:46,645 --> 00:20:49,982 安うなるんか。 それはええな。 267 00:20:49,982 --> 00:20:52,818 (笑い声) おいでやす。 268 00:20:52,818 --> 00:20:56,322 さあ 中で詳しゅうお話 申し上げますよって。 どうぞ。 269 00:20:56,322 --> 00:20:58,257 ハハハ。 ハハハ。 270 00:20:58,257 --> 00:21:02,128 お邪魔すんで。 すんまへんな。 271 00:21:02,128 --> 00:21:07,266 本のこと尋ねられたの これで何度目や? 五度目だす。 272 00:21:07,266 --> 00:21:10,770 わての口上 だんだん 上手うなってきたやろ。 273 00:21:10,770 --> 00:21:13,606 へえ 達者なもんだす。 274 00:21:13,606 --> 00:21:15,941 丁稚どん。 (2人)へえ! 275 00:21:15,941 --> 00:21:20,279 五節季の五鈴屋て ここだすか? (2人)おいでやす! 276 00:21:20,279 --> 00:21:25,618 (治兵衛) チラシ代わりに 本を使うとは➡ 277 00:21:25,618 --> 00:21:29,488 うまい手ぇ考えたもんやなあ。 278 00:21:29,488 --> 00:21:32,958 (お染)えらい評判になってますわ。 279 00:21:32,958 --> 00:21:36,829 五代目さんは 商い上手なお方だすなあ。 280 00:21:36,829 --> 00:21:40,132 そやな。 281 00:21:40,132 --> 00:21:48,307 けど こないなこと思いついたんは 幸やないやろか。 282 00:21:48,307 --> 00:21:50,810 ご寮さんが? 283 00:21:50,810 --> 00:21:57,316 「商売往来」読みたがった女衆は 幸一人だけや。 284 00:21:59,451 --> 00:22:06,225 本が好きで 人と違うことばっかり考えつく➡ 285 00:22:06,225 --> 00:22:12,031 ホンマに けったいな子でな。 けったいて。 286 00:22:13,933 --> 00:22:18,404 賢輔は 果報者やで。 287 00:22:18,404 --> 00:22:23,909 ええお店に 奉公させてもろて。 へえ。 288 00:22:26,946 --> 00:22:32,618 あの子 達者にしてるやろか。 289 00:22:32,618 --> 00:22:39,291 親の家が そばにあんのやさかい いっぺん 顔 見せてくれたらええのに。 290 00:22:39,291 --> 00:22:42,194 (治兵衛)アホなこと言うたらあかん。 291 00:22:42,194 --> 00:22:49,301 奉公に上がったら 八年は 里帰りでけんのが決まりや。 292 00:22:49,301 --> 00:22:57,042 安吉っとんも 辰吉っとんも 親に会いたいのは 皆 一緒やで。 293 00:22:57,042 --> 00:23:01,880 へえ… すんまへん。 294 00:23:01,880 --> 00:23:06,252 それに 顔 見せに来る暇 あらへんやろ。 295 00:23:06,252 --> 00:23:11,957 惣ぼんは 五鈴屋を まだまだ 大きゅうしはるつもりや。 296 00:23:14,960 --> 00:23:19,765 幸を嫁にするて聞いた時は びっくりしたけど…。 297 00:23:19,765 --> 00:23:26,071 五鈴屋にとっては またとない縁組みやったわ。 298 00:23:32,111 --> 00:23:34,613 やっぱり よう出来てる。 299 00:23:34,613 --> 00:23:38,784 彫り師が 気ぃ利かせて 反物の絵ぇ入れたんが効いてるわ。 300 00:23:38,784 --> 00:23:41,820 旦那さんが 彫り賃 弾まはったおかげだす。 301 00:23:41,820 --> 00:23:45,958 えらい散財やったが 本を見たいうお客さんが➡ 302 00:23:45,958 --> 00:23:50,796 大勢 来てくれてはる。 あんたの見込みどおりやったな。 303 00:23:50,796 --> 00:23:52,998 へえ。 304 00:24:01,373 --> 00:24:05,744 ああ あつい あつい。 305 00:24:05,744 --> 00:24:08,380 ホンマに 今日は蒸し暑いなあ。 306 00:24:08,380 --> 00:24:11,917 天気の話とちゃいます。 旦那さんとご寮さん➡ 307 00:24:11,917 --> 00:24:15,387 こう寄り添うて 本 のぞき込みはるのや。 308 00:24:15,387 --> 00:24:20,092 (お竹)五節季の五鈴屋だすか。 もう何べんも見てはるのに。 309 00:24:20,092 --> 00:24:24,263 (お梅)ホンマに 仲のええこっちゃ。 おしどり夫婦だすわ。 310 00:24:24,263 --> 00:24:27,099 (お竹)旦那さん 変わらはったなあ。 311 00:24:27,099 --> 00:24:31,603 奉公人に 手ぇ上げんようになったし どなることも 少のうなったし。 312 00:24:31,603 --> 00:24:34,273 さっきも機嫌よう笑てましたで。 313 00:24:34,273 --> 00:24:38,110 よっぽど ご寮さんに ぞっこんなんだすな。 314 00:24:38,110 --> 00:24:43,282 (お竹)このまま仲良うしててくれはったら 毎日 穏やかで助かるわ。 315 00:24:43,282 --> 00:24:45,284 (お梅)ホンマ ホンマ。 316 00:24:51,023 --> 00:24:53,792 亀やん いてるか? おお 楽屋におるで。 317 00:24:53,792 --> 00:24:55,995 ほうか おおきに。 318 00:25:07,072 --> 00:25:09,074 亀やん。 319 00:25:18,083 --> 00:25:20,018 亀やんて! 320 00:25:20,018 --> 00:25:21,954 何や 智やんか。 321 00:25:21,954 --> 00:25:24,590 大きな声出して びっくりするがな。 322 00:25:24,590 --> 00:25:28,761 ほれ 頼まれてた浄瑠璃本 見つけてきたで。 323 00:25:28,761 --> 00:25:31,063 おおきに いつも すまんな。 324 00:25:32,931 --> 00:25:35,401 人形の衣装 こしらえてんのか? 325 00:25:35,401 --> 00:25:38,103 う~ん そやねんけどな。 326 00:25:38,103 --> 00:25:43,409 何や ぴったり来んのや。 どないな役や? 327 00:25:43,409 --> 00:25:48,247 え~? 武家の女房で 年は十八や。 328 00:25:48,247 --> 00:25:53,752 賢うて 肝が据わっててな 何より美しい。 329 00:25:55,954 --> 00:25:59,792 賢うて 美しい…。 330 00:25:59,792 --> 00:26:03,362 悪いやつの罠に はまって 亭主は 死んでしまうんやけど➡ 331 00:26:03,362 --> 00:26:05,898 女房が その敵 討つねん。 332 00:26:05,898 --> 00:26:11,103 見上げた女子やで。 ふ~ん。 333 00:26:17,910 --> 00:26:19,945 これ どうや? ええ? 334 00:26:19,945 --> 00:26:22,781 桑の実色だす。 地味や。 335 00:26:22,781 --> 00:26:28,487 十八の若女房やで。 もっとこう ぱっとして 品があってやな。 336 00:26:32,758 --> 00:26:35,260 帯は…。 帯は黄檗や。 337 00:26:35,260 --> 00:26:37,763 せやから 地味や言う…。 338 00:26:42,034 --> 00:26:44,269 あれ…。 339 00:26:44,269 --> 00:26:54,279 ♬~ 340 00:26:54,279 --> 00:26:58,283 おお これや これや! ええ色やがな! 341 00:26:58,283 --> 00:27:01,353 智やん あんた 着物見る目あるなあ。 342 00:27:01,353 --> 00:27:04,723 売れへん物書きにしとくのは 惜しいわ。 343 00:27:04,723 --> 00:27:15,434 ♬~ 344 00:27:15,434 --> 00:27:19,938 この色 幸に似合うやろな。 345 00:27:41,393 --> 00:27:47,599 幸 あんたは 羽二重のような女子や。 346 00:27:47,599 --> 00:27:49,535 えっ…。 347 00:27:49,535 --> 00:27:54,540 羽二重は わての一番好きな絹や。 348 00:27:56,275 --> 00:28:00,112 撚りのない生糸を使て織るさかい➡ 349 00:28:00,112 --> 00:28:02,814 わてのように ひねくれてへん。 350 00:28:07,719 --> 00:28:12,891 滑らかで 柔らこうて➡ 351 00:28:12,891 --> 00:28:16,361 ホンマに きれいや。 352 00:28:16,361 --> 00:28:18,564 旦那さん。 353 00:28:36,682 --> 00:28:39,685 九月の 今日までの売り上げだす。 354 00:28:48,260 --> 00:28:55,767 鉄助。 羽二重 五反 縮緬 五反 紬 三反。 355 00:28:57,936 --> 00:29:04,443 佐七。 羽二重 二反 縮緬 七反。 356 00:29:06,211 --> 00:29:09,114 末七は…➡ 357 00:29:09,114 --> 00:29:12,417 紬 八反やな。 358 00:29:14,086 --> 00:29:17,356 最後に 広七。 359 00:29:17,356 --> 00:29:22,661 縮緬 二反 紬 六反。 360 00:29:25,564 --> 00:29:31,436 五日残して 皆 今月分の割り当て 売り上げてる。 361 00:29:31,436 --> 00:29:35,907 まあ これくらい 当たり前といえば 当たり前やが➡ 362 00:29:35,907 --> 00:29:38,410 よう気張ったな。 363 00:29:45,584 --> 00:29:50,756 殊に 鉄助の十三反は 上出来や。 364 00:29:50,756 --> 00:29:55,260 「五節季の五鈴屋」のおかげだす。 四月過ぎた今でも➡ 365 00:29:55,260 --> 00:29:59,765 本で知ったいうお客さんが おいでになります。 366 00:29:59,765 --> 00:30:02,801 けど 油断は禁物や。 367 00:30:02,801 --> 00:30:07,639 うちを まねして 浮世草子に 名ぁ入れる店が出てきてる。 368 00:30:07,639 --> 00:30:11,777 (鉄助)もうはやだすか。 油断も隙もおまへんな。 369 00:30:11,777 --> 00:30:16,415 天満では 五代続いたとはいえ 大川の向こうには➡ 370 00:30:16,415 --> 00:30:20,285 五鈴屋なんぞ知らんいう人が まだまだ おるわ。 371 00:30:20,285 --> 00:30:25,624 なんとかして 五鈴屋の名ぁ 大坂中に広めんと➡ 372 00:30:25,624 --> 00:30:28,527 今のままでは頭打ちや。 373 00:30:28,527 --> 00:30:31,797 名を広める…。 374 00:30:31,797 --> 00:30:35,967 お前はんらも ぼんやり売ってたらあきまへんで。 375 00:30:35,967 --> 00:30:41,840 もっともっと考えて 商いの工夫しなはれや。 376 00:30:41,840 --> 00:30:44,042 (一同)へえ! 377 00:30:51,316 --> 00:30:53,318 お家さん? 378 00:31:00,125 --> 00:31:02,394 道善先生 お呼びしまひょか? 379 00:31:02,394 --> 00:31:06,264 大したことやない。 風邪気味なだけや。 380 00:31:06,264 --> 00:31:10,268 横にならはっては? だんない。 381 00:31:10,268 --> 00:31:19,411 けど 天神さんのご縁日やのに お参りに行くの しんどいわ。 382 00:31:19,411 --> 00:31:22,781 代わりに行ってくれるか? へえ。 383 00:31:22,781 --> 00:31:25,484 なんぞ 羽織るものでも…。 384 00:31:28,420 --> 00:31:32,624 惣次の言うのが 正しおましたなあ。 385 00:31:32,624 --> 00:31:37,295 この一年 掛けも取れたし 売り上げも伸びた。 386 00:31:37,295 --> 00:31:42,501 何より 奉公人の面構えが 違てきたわ。 387 00:31:47,439 --> 00:31:53,145 年寄りは もう 口挟まん方がええいうことや。 388 00:31:55,647 --> 00:31:58,550 何 言わはるんだす。 389 00:31:58,550 --> 00:32:01,920 お家さんに教えていただきたいことが まだまだ あります。 390 00:32:01,920 --> 00:32:05,123 もうええ。 はよ行っといで。 391 00:32:29,147 --> 00:32:32,617 (菊栄)幸? 幸やないか?➡ 392 00:32:32,617 --> 00:32:38,123 あっ やっぱり 幸や! ご寮さん! 393 00:32:38,123 --> 00:32:41,426 お久しゅうございます。 久しぶりやなあ。 394 00:32:41,426 --> 00:32:44,329 お元気だしたか? おかげさんで。 395 00:32:44,329 --> 00:32:47,532 幸は? へえ 元気だす。 396 00:32:50,168 --> 00:32:55,807 五年たつと 変わるもんやな。 きれいにならはって。 397 00:32:55,807 --> 00:32:59,311 ご寮さんこそ 相変わらず おきれいだす。 398 00:32:59,311 --> 00:33:05,083 おおきに。 あっ 菊栄でええよ。 399 00:33:05,083 --> 00:33:10,388 今は あんたが ご寮さんやろ。 へえ。 400 00:33:10,388 --> 00:33:16,094 五鈴屋で いろいろあったこと 皆 聞いてますで。 401 00:33:16,094 --> 00:33:21,967 先代は ホンマに お気の毒だした。 402 00:33:21,967 --> 00:33:30,408 へえ。 ご寮… あっ 菊栄さんは どないしてはったんだす? 403 00:33:30,408 --> 00:33:35,113 出戻りやさかい 実家で おとなしゅうしてましたんや。 404 00:33:35,113 --> 00:33:40,986 けどなあ 二年前に 兄に代替わりしてから➡ 405 00:33:40,986 --> 00:33:44,823 紅屋は すっかり左前になってしもて。 406 00:33:44,823 --> 00:33:49,294 もう のれん 下ろさんならんいう寸前まで いったさかい➡ 407 00:33:49,294 --> 00:33:54,966 ついつい 商いに 口挟むようになってしもたんや。 408 00:33:54,966 --> 00:33:57,869 まあ ご寮さんが商いを? ええ。 409 00:33:57,869 --> 00:34:01,072 お店は 持ち直したんだすか? 410 00:34:01,072 --> 00:34:04,743 まだまだ途中だす。 411 00:34:04,743 --> 00:34:10,382 元のとおりまで盛り返すには なんぞ目新しいものを生み出して➡ 412 00:34:10,382 --> 00:34:13,919 評判 取っていかなあきまへん。 413 00:34:13,919 --> 00:34:18,924 そや 幸にだけ 見せまひょか。 414 00:34:32,304 --> 00:34:36,274 これ 革だすか? 415 00:34:36,274 --> 00:34:41,146 擬革紙いうて 伊勢の名産だす。 416 00:34:41,146 --> 00:34:43,415 擬革紙? 417 00:34:43,415 --> 00:34:47,285 油紙に細工して 革に似せてますのや。 418 00:34:47,285 --> 00:34:50,121 擬革紙の煙草入れいうたら➡ 419 00:34:50,121 --> 00:34:54,993 お伊勢参りのお土産に 大層 人気なんやそうだす。 420 00:34:54,993 --> 00:34:56,995 へえ~。 421 00:34:59,798 --> 00:35:01,766 柔らこうおますな。 422 00:35:01,766 --> 00:35:07,606 そやろ。 これで 鏡入れやら 袂落としやら➡ 423 00:35:07,606 --> 00:35:13,078 いろんな袋物 こしらえて 紅屋の袋物いうて➡ 424 00:35:13,078 --> 00:35:17,916 売り出そう思てますのや。 紅屋の袋物。 425 00:35:17,916 --> 00:35:23,254 軽いし 丈夫やし 革と比べたら 値は ずっと安い。 426 00:35:23,254 --> 00:35:29,761 鈴や 飾り房つけたら いくらでも華やかになるしなあ。 427 00:35:31,396 --> 00:35:37,602 この近くに 職人さんがいはって その相談をしてきた帰りだすのや。 428 00:35:37,602 --> 00:35:43,108 幸に会えたんは 天神さんのお引き合わせやな。 429 00:35:43,108 --> 00:35:46,778 ホンマだすな。 430 00:35:46,778 --> 00:35:50,482 二人だけの秘密にしといてな。 へえ。 431 00:35:52,584 --> 00:35:59,958 ご寮さん 紅屋の袋物 きっと当たるて思います。 432 00:35:59,958 --> 00:36:03,361 必ず当てます。 433 00:36:03,361 --> 00:36:09,567 どないして世間に広めたらええか 今 策を練ってるとこや。 434 00:36:11,236 --> 00:36:16,741 ご寮さんが 新しい紅屋さんを 作っていかはるんだすな。 435 00:36:16,741 --> 00:36:21,246 幸。へえ。 ご寮さんて言うてますで。 436 00:36:21,246 --> 00:36:25,083 あっ すんまへん つい癖で。 437 00:36:25,083 --> 00:36:27,585 菊栄て 言うてみ。 あっ…。 438 00:36:35,794 --> 00:36:37,996 えっ 雨? 439 00:36:45,770 --> 00:36:49,607 あっ…。 (お勢)これ お使い。 440 00:36:49,607 --> 00:36:52,510 おおきに。 けど すぐそこだすよって。 441 00:36:52,510 --> 00:36:54,479 (雨が強まる音) 442 00:36:54,479 --> 00:36:57,782 ほ~らほら 降ってきた。 差していきなはれ。 443 00:36:57,782 --> 00:37:00,351 ありがとさんだす。 444 00:37:00,351 --> 00:37:02,887 そしたら すぐお返しにあがりますよって。 445 00:37:02,887 --> 00:37:04,823 いやいや いつでもええよ。 446 00:37:04,823 --> 00:37:10,128 傘と提灯は 戻らんつもりで貸せ いいますやろ。 447 00:37:11,896 --> 00:37:19,204 (雨が傘に当たる音) 448 00:37:23,241 --> 00:37:26,744 あ…。 どないした? 449 00:37:26,744 --> 00:37:28,680 これや。 450 00:37:28,680 --> 00:37:32,250 おおきに。 ホンマ おおきに! 451 00:37:32,250 --> 00:37:38,389 何やの。 相変わらず けったいな子やなあ。 452 00:37:38,389 --> 00:37:41,092 なあ。 453 00:37:41,092 --> 00:37:43,027 なっ! 454 00:37:43,027 --> 00:37:45,029 (鳴き声) 455 00:37:48,399 --> 00:37:50,335 旦那さん! 456 00:37:50,335 --> 00:37:54,939 旦那さん こちらに おいでだすか? 何や? 457 00:37:54,939 --> 00:37:59,778 傘は どないだすやろ? 傘? 何の話 してんのや。 458 00:37:59,778 --> 00:38:02,747 傘やったら 家にあっても邪魔にならんし➡ 459 00:38:02,747 --> 00:38:08,219 雨降ったら 誰でも使います。 それに ほら。 460 00:38:08,219 --> 00:38:14,893 「天満の五鈴屋」て入れる場所 こないに広う空いてます! 461 00:38:14,893 --> 00:38:16,895 おお! 462 00:38:19,564 --> 00:38:21,599 (佐七)いて参じます。 (末七)いて参じます。 463 00:38:21,599 --> 00:38:23,735 ⚟(鉄助)お早うお帰り。 464 00:38:23,735 --> 00:38:28,239 <十一月半ばの 初雪が降った日に…> 465 00:38:31,376 --> 00:38:38,149 おはようさんだす。 あら まあ 何やろな あの傘。 466 00:38:38,149 --> 00:38:40,585 (鉄助) お客さんに「その傘 欲しい」言われたら➡ 467 00:38:40,585 --> 00:38:42,520 「次 寄せていただく時➡ 468 00:38:42,520 --> 00:38:47,258 新しいのお持ちします」と答えるのやで。 へえ。 469 00:38:47,258 --> 00:38:51,129 あんさんらも 雨や雪の日には 必ず差していきなはれ。 470 00:38:51,129 --> 00:38:53,131 「どこの傘や」て聞かれたら➡ 471 00:38:53,131 --> 00:38:56,935 「五鈴屋だす。 どうぞ ごひいきに」て 言うのやで。 472 00:38:56,935 --> 00:38:58,870 (3人)へえ! 473 00:38:58,870 --> 00:39:10,348 ♬~ 474 00:39:10,348 --> 00:39:13,885 <得意先に配った 五鈴屋の名入りの傘は➡ 475 00:39:13,885 --> 00:39:18,056 その しゃれた色と柄が 評判となって…> 476 00:39:18,056 --> 00:39:24,229 名入りの傘か…。 また うまいこと考えたな。 477 00:39:24,229 --> 00:39:28,099 <天満の五鈴屋の名は 大川の向こうにも➡ 478 00:39:28,099 --> 00:39:31,569 確実に広まっていったのです> 479 00:39:31,569 --> 00:39:34,606 (佐七)いや~ 傘のおかげで大助かりや。 480 00:39:34,606 --> 00:39:37,375 ホンマだすな。 481 00:39:37,375 --> 00:39:39,444 暮れの払い渋るお客さんに➡ 482 00:39:39,444 --> 00:39:42,247 「傘 差し上げますから」言うたら すぐ払うてくれたわ。 483 00:39:42,247 --> 00:39:44,582 売り物やないさかい 余計 欲しゅうなるんやろな。 484 00:39:44,582 --> 00:39:50,088 そやろな。 あれ 考えた旦那さん やっぱり 大したお方や。 485 00:39:50,088 --> 00:39:52,023 そやけど…➡ 486 00:39:52,023 --> 00:39:55,593 傘作るん思いつかはったんは ご寮さんやで。 487 00:39:55,593 --> 00:39:57,929 ⚟(末七)えっ? ホンマだすか? 488 00:39:57,929 --> 00:40:01,599 ああ。 わて その場におったんや。 489 00:40:01,599 --> 00:40:07,272 ひょっとすると 浮世草子に 「五節季の五鈴屋」て入れたんも➡ 490 00:40:07,272 --> 00:40:09,774 ご寮さんの思いつきかもしれまへん。 491 00:40:13,144 --> 00:40:17,782 旦那さん つまらんことを うわさしてる者がいてます。 492 00:40:17,782 --> 00:40:21,119 何や? 五鈴屋が持ち直したんは➡ 493 00:40:21,119 --> 00:40:25,923 ご寮さんのお手柄やて。 アホらしい。 494 00:40:34,299 --> 00:40:39,137 大小柱暦~! いて参じます。お早うお帰りやす。 495 00:40:39,137 --> 00:40:41,139 巻暦~! 496 00:40:42,974 --> 00:40:46,444 まあ きれい! 丹後の縮緬や。 497 00:40:46,444 --> 00:40:48,980 丹後? 京やないのだすか? 498 00:40:48,980 --> 00:40:53,451 江戸に出たら 今の何倍も呉服を用意せんならんやろ。 499 00:40:53,451 --> 00:40:57,322 京だけに頼っていては 間に合わんさかいな。 500 00:40:57,322 --> 00:41:01,192 よそからも仕入れるいうことだすか? そや。 501 00:41:01,192 --> 00:41:05,396 田舎絹 呼ばれる中にも ええ品はあるはずや。 502 00:41:05,396 --> 00:41:09,600 織り元や 問屋回って 買い付けてこようかと思てる。 503 00:41:17,775 --> 00:41:21,612 あっ 分かった。 何や? 504 00:41:21,612 --> 00:41:23,548 五節季払いに変えはったのには➡ 505 00:41:23,548 --> 00:41:25,783 もう一つ 訳があったんだすなあ。 506 00:41:25,783 --> 00:41:29,120 えっ…。 掛け取りは 年五回に増えても➡ 507 00:41:29,120 --> 00:41:32,156 問屋への支払いは 今までどおり 一度だす。 508 00:41:32,156 --> 00:41:35,426 その間 現銀を手元に置いておけるよって➡ 509 00:41:35,426 --> 00:41:38,796 買い付けに回せるいうことだすな。 510 00:41:38,796 --> 00:41:42,133 それに気付いたんか…。 511 00:41:42,133 --> 00:41:44,802 今になって ようやっと。 512 00:41:44,802 --> 00:41:48,806 旦那さんは そこまで考えてはったんだすなあ。 513 00:41:56,414 --> 00:41:59,650 ホンマに聡い女子や。 514 00:41:59,650 --> 00:42:01,586 聡すぎるわ…。 515 00:42:01,586 --> 00:42:04,389 田舎絹の産地て 丹後のほかに どこがあるんだす? 516 00:42:04,389 --> 00:42:08,259 あんたは 知らんでもええこっちゃ。 えっ? 517 00:42:08,259 --> 00:42:12,130 仕入れ先のことは あんたには分からん。 518 00:42:12,130 --> 00:42:16,634 本やら傘やら 思いつきでできることとは 違うさかい。 519 00:42:21,806 --> 00:42:24,409 旦那さん…? 520 00:42:24,409 --> 00:42:35,153 ♬~ 521 00:42:35,153 --> 00:42:38,623 ど~んと売り出すつもりや。 見世の手形 持ち出してはります。 522 00:42:38,623 --> 00:42:41,526 そんな…。 わての女房は ただもんやないわ。 523 00:42:41,526 --> 00:42:45,396 末恐ろしい女子や。景気悪い顔して。 あかん。 524 00:42:45,396 --> 00:42:47,331 商いで わての 上に立つことは 許しまへんで。 525 00:42:47,331 --> 00:42:49,300 商いの川を汚す気だすか。 526 00:42:49,300 --> 00:42:53,171 商人としての値打ちが 試されますやろな。 527 00:42:53,171 --> 00:42:55,173 夢見てるみたいだす。