1 00:00:09,776 --> 00:00:12,679 (幸)あっ また降ってきた。 2 00:00:12,679 --> 00:00:15,415 (富久)雨は もうええわ。➡ 3 00:00:15,415 --> 00:00:18,118 はよ 梅雨 明けて ほしいなあ。 4 00:00:18,118 --> 00:00:20,420 へえ。 5 00:00:20,420 --> 00:00:22,356 ⚟(惣次)何 グズグズしてんのや。 6 00:00:22,356 --> 00:00:24,791 反物が湿気てまうで! (辰吉)すんまへん! 7 00:00:24,791 --> 00:00:28,629 (富久)惣次は 近頃 ずっと機嫌が悪いなあ。 8 00:00:28,629 --> 00:00:33,300 丹後から縮緬 買い付けるいう話 うまいこといってへんのか? 9 00:00:33,300 --> 00:00:39,106 へえ。 大店に先越されてしもて 入り込む隙がないようだす。 10 00:00:39,106 --> 00:00:44,311 そない無理せんかて 今の仕入れ先で 足りてるやろ。 11 00:00:44,311 --> 00:00:47,814 へえ。 けど…。 12 00:00:47,814 --> 00:00:54,821 わてと一緒に 江戸を目指してくれ。 力 貸してほしい。 13 00:01:00,761 --> 00:01:04,398 あっ…。 14 00:01:04,398 --> 00:01:07,301 古い糸 使てるからや。 15 00:01:07,301 --> 00:01:12,272 糸も年取ったら くたびれて 弱ってきますねん。 16 00:01:12,272 --> 00:01:14,942 わてと一緒や。 17 00:01:14,942 --> 00:01:18,412 (お竹)ご寮さん これ 使ておくれやす。 18 00:01:18,412 --> 00:01:24,117 江州長浜の絹糸。 強うて 艶があって ええ糸だっせ。 19 00:01:24,117 --> 00:01:26,620 おおきに。 20 00:01:26,620 --> 00:01:28,922 きれいな糸やな。 21 00:01:31,959 --> 00:01:35,762 近江の 絹糸…。 22 00:01:55,983 --> 00:01:58,018 近江の糸が どないしたんや? 23 00:01:58,018 --> 00:02:02,389 江州長浜では こないに きれいな糸が出来ますのに➡ 24 00:02:02,389 --> 00:02:05,592 何で名のある織物は ありまへんのやろ? 25 00:02:05,592 --> 00:02:07,928 何も知らんのやなあ。 26 00:02:07,928 --> 00:02:11,798 登せ糸いうて 京に運んで売るんや。 27 00:02:11,798 --> 00:02:15,602 織る手間かけんかて 十分 実入りがあるんやろ。 28 00:02:15,602 --> 00:02:19,272 けど ええ糸があるのに 絹を織らんいうのは➡ 29 00:02:19,272 --> 00:02:21,208 もったいない思います。 30 00:02:21,208 --> 00:02:24,611 糸のままより 反物にした方が 高う売れて➡ 31 00:02:24,611 --> 00:02:27,948 利ざやも 稼げるんやないですか? 32 00:02:27,948 --> 00:02:31,818 丹後の縮緬は 享保の頃に 織る技が伝わってから➡ 33 00:02:31,818 --> 00:02:35,288 一気に盛んになったて 聞いてますけど。 34 00:02:35,288 --> 00:02:38,291 ああ そや。 そないなことができたんは➡ 35 00:02:38,291 --> 00:02:43,096 もともと 丹後に ええ糸があって 絹を織ってたからやありまへんか? 36 00:02:44,965 --> 00:02:47,634 糸から反物へ。 37 00:02:47,634 --> 00:02:50,937 近江でも 同じことができまへんやろか。 38 00:02:53,440 --> 00:02:55,642 旦那さん? 39 00:03:04,751 --> 00:03:07,254 なるほど。 40 00:03:07,254 --> 00:03:12,059 織物ばっかり見てて 糸にまで 気が回らへんかった。 41 00:03:14,127 --> 00:03:18,765 よっしゃ。 梅雨が明けたら 近江へ行てくるわ。 42 00:03:18,765 --> 00:03:22,269 新しい仕入れ先 何としても作りたいさかいな。 43 00:03:22,269 --> 00:03:24,771 へえ! 44 00:03:24,771 --> 00:03:28,642 幸 よう そこに気ぃ付いたな。 45 00:03:28,642 --> 00:03:34,347 わての女房は ただもんやないわ。 そないなこと…。 46 00:03:49,629 --> 00:03:52,299 <天満から近江の長浜までは➡ 47 00:03:52,299 --> 00:03:54,968 二十六里ほど。➡ 48 00:03:54,968 --> 00:03:58,839 歩き通しに歩いても 二日以上かかる道のりを➡ 49 00:03:58,839 --> 00:04:01,374 幾度も通って 惣次は➡ 50 00:04:01,374 --> 00:04:05,579 江州浜糸の産地を 訪ね歩いたのです> 51 00:04:08,148 --> 00:04:13,587 <三度目の江州検分から戻った 十月のこと…> 52 00:04:13,587 --> 00:04:17,457 えらい旅路やったで。 (お杉)フフフ。➡ 53 00:04:17,457 --> 00:04:20,927 ほんなら 休まんと 十里も歩かはったんだすか。 54 00:04:20,927 --> 00:04:27,267 ああ そや。 どうりで。 まめ 出来てはりますわ。 55 00:04:27,267 --> 00:04:29,469 (鉄助)さあ さあ。 56 00:04:31,138 --> 00:04:35,142 旦那さん ホンマに ご苦労はんでございました。 57 00:04:35,142 --> 00:04:38,879 江州は どないだした? ええ絹織は 見つかったんか? 58 00:04:38,879 --> 00:04:43,283 ようやっと 糸ほどの細い道がついた いうとこだすわ。 59 00:04:43,283 --> 00:04:45,952 細い道て 何やの? 60 00:04:45,952 --> 00:04:50,290 まあまあ もう少し 目鼻ついたら 話しますわ。 61 00:04:50,290 --> 00:04:53,293 離れに 茶ぁ頼む。 (お杉)へえ。 62 00:04:55,629 --> 00:05:00,634 後で 留守の間の帳簿 見るさかい 用意しといてや。へえ。 63 00:05:12,078 --> 00:05:17,250 やっぱり 長浜の辺りでも 昔は盛んに 絹 織ってたそうや。 64 00:05:17,250 --> 00:05:21,755 今は どないだす? すっかり廃れてしもてる。 65 00:05:21,755 --> 00:05:26,927 糸の評判が高なって 皆 京に売られてしまうさかいな。 66 00:05:26,927 --> 00:05:29,596 それで 楽に暮らせてますのやろか? 67 00:05:29,596 --> 00:05:34,267 いや。 登せ糸で もうけてるのは 仲買だけや。 68 00:05:34,267 --> 00:05:37,604 村の暮らしは 貧しいもんやで。 69 00:05:37,604 --> 00:05:40,407 そうだすか。 70 00:05:40,407 --> 00:05:42,609 ⚟(お杉)お茶 お持ちしました。 71 00:05:45,779 --> 00:05:47,781 そこ 置いといてくれ。 72 00:05:49,950 --> 00:05:52,986 夕げまで 間がありますけど なんぞ お持ちしまひょか。 73 00:05:52,986 --> 00:05:56,189 いらん。 早う そこ閉めてんか。 74 00:05:57,824 --> 00:06:00,026 へえ。 75 00:06:05,732 --> 00:06:08,368 村は どこも一緒だすなあ。 76 00:06:08,368 --> 00:06:12,906 なんぼ働いたかて 食べていくのが 精いっぱいや。 77 00:06:12,906 --> 00:06:17,777 さあ そこが つけめや。 つけめ? 78 00:06:17,777 --> 00:06:22,382 長浜の近くに 波村いうとこがあんねん。 79 00:06:22,382 --> 00:06:28,755 米は 二百石ほどしか取れんよって お蚕さんで しのいでる。 80 00:06:28,755 --> 00:06:31,258 波村の庄屋と懇意になって➡ 81 00:06:31,258 --> 00:06:35,595 中庄いう織屋の主に 引き合わせてもろたんや。 82 00:06:35,595 --> 00:06:40,467 先代の頃までは ようけ羽二重 織ってたそうや。 83 00:06:40,467 --> 00:06:43,470 波村の中庄さん…。 84 00:06:43,470 --> 00:06:48,174 今の主が わての話に大乗り気でな。 85 00:06:48,174 --> 00:06:55,982 村の暮らしが ようなるなら言うて 昔の職人たちに 声かけてくれてるわ。 86 00:06:55,982 --> 00:07:00,553 五年で江戸に出ると決めて ちょうど三年や。 87 00:07:00,553 --> 00:07:06,059 江州の話が まとまったら いよいよ 店出す支度にかかれるわ。 88 00:07:06,059 --> 00:07:08,061 へえ。 89 00:07:10,730 --> 00:07:15,235 あんたの読みが こうも当たってるとは。 90 00:07:15,235 --> 00:07:20,740 ホンマに末恐ろしい女子やで。 末恐ろしい? 91 00:07:20,740 --> 00:07:24,377 今の話 お家さんにも 鉄助にもしたら あきまへんで。 92 00:07:24,377 --> 00:07:28,915 お家さんにもだすか? 話が漏れたら 一大事や。 93 00:07:28,915 --> 00:07:34,387 よそに横取りされんよう 波村の者らに 逃げられんよう➡ 94 00:07:34,387 --> 00:07:38,258 うまいこと立ち回らなあかん。 95 00:07:38,258 --> 00:07:41,561 ほな 見世で帳簿 見てくるわ。 96 00:07:43,396 --> 00:07:45,932 また すぐ 波村 行かんならん。 97 00:07:45,932 --> 00:07:48,969 今度は めどがつくまで 向こうにおるさかい➡ 98 00:07:48,969 --> 00:07:53,173 しばらく留守にしまっせ。 へえ かしこまりました。 99 00:07:55,275 --> 00:08:00,113 留守の間 見世のことは 鉄助に任せといたらええさかいな。 100 00:08:00,113 --> 00:08:03,983 えっ? お家さんの世話と 奥向きのこと➡ 101 00:08:03,983 --> 00:08:06,686 あんじょう頼むで。 102 00:08:16,229 --> 00:08:20,066 (せきこみ) 103 00:08:20,066 --> 00:08:24,371 お家さん 葛根 煎じてきました。 おおきに。 104 00:08:24,371 --> 00:08:30,577 やっぱり 道善先生に 診てもろた方が…。 ええて。 先生も お年や。 105 00:08:30,577 --> 00:08:34,080 無理 言うたら 先生の方が 先逝ってしまうわ。 106 00:08:34,080 --> 00:08:36,082 まあ。 107 00:08:39,386 --> 00:08:42,922 あ…。 108 00:08:42,922 --> 00:08:45,925 慌ただしいことだすなあ。 109 00:08:47,594 --> 00:08:52,465 惣次や。 帰ってきた思たら また行ってしもて。 110 00:08:52,465 --> 00:08:58,104 へえ。あの子のことや 勝算はあるのやろけど。 111 00:08:58,104 --> 00:09:02,809 何にも話してくれへんさかい 気ぃもんで しゃあない。 112 00:09:06,346 --> 00:09:09,716 なあ 幸。 へえ。 113 00:09:09,716 --> 00:09:14,053 うちに奉公に来てから もう 随分たちますやろ。 114 00:09:14,053 --> 00:09:16,356 へえ そうだすなあ。 115 00:09:16,356 --> 00:09:23,129 ちょうどええ。 惣次が留守の間に 津門村に行ってきたらどないや。 116 00:09:23,129 --> 00:09:28,568 もう 帰る家もありまへんさかい。 母も妹も 奉公に上がってますよって。 117 00:09:28,568 --> 00:09:32,238 お墓参りだけでもせな 罰が当たるで。 118 00:09:32,238 --> 00:09:36,743 「思い立ったが吉日」や 明日にでも行っといで。 119 00:09:36,743 --> 00:09:39,379 明日だすか? えらい急に…。 120 00:09:39,379 --> 00:09:46,586 大事な嫁に 墓参りもさせてやれへんでは 冥加が悪い。 121 00:09:46,586 --> 00:09:51,758 姑孝行や思て 行ってきなはれ。 122 00:09:51,758 --> 00:09:53,793 へえ。 123 00:09:53,793 --> 00:10:07,106 ♬~ 124 00:10:07,106 --> 00:10:09,609 (笑い声) おはようさんだす。 125 00:10:09,609 --> 00:10:13,112 (賢吉)おはようさんでございます。 (お勢)おはようさん。 126 00:10:13,112 --> 00:10:16,149 あら お供連れて どちらまで? 127 00:10:16,149 --> 00:10:19,786 実家に帰ってきます。 128 00:10:19,786 --> 00:10:26,960 どうりで ご寮さんの顔に 懐かしい人に会ういう 卦が出てるわ。➡ 129 00:10:26,960 --> 00:10:30,296 道中 気ぃ付けてな。 へえ ありがとさんだす。 130 00:10:30,296 --> 00:10:34,167 丁稚どん しっかりお守りするんやで。 131 00:10:34,167 --> 00:10:37,170 (賢吉)へえ! 132 00:10:37,170 --> 00:10:41,174 ほな いて参じます。 行っておいでやす。 133 00:10:47,647 --> 00:10:53,520 昔 あの橋渡って 天満に来たんやったなあ。 134 00:10:53,520 --> 00:11:07,133 ♬~ 135 00:11:07,133 --> 00:11:12,605 (お勢)あんたも おんなじ日に来たんやで。 覚えてるか? 136 00:11:12,605 --> 00:11:15,108 覚えてるか? ワンは? 137 00:11:15,108 --> 00:11:17,911 ワ~ン! お利口ちゃ~ん。 138 00:11:39,299 --> 00:11:44,437 賢吉っとん いちいち立ち止まってたら いつまでたっても 村に着けしまへんで。 139 00:11:44,437 --> 00:11:47,140 へえ すんまへん。 140 00:11:47,140 --> 00:11:51,644 この先で 渡し船に乗りますのや。 さあ 急ぎまひょ。 141 00:12:12,932 --> 00:12:15,935 えっ? 賢吉っとん? 142 00:12:20,106 --> 00:12:23,610 ご寮さん あの白いのは 何だすやろ? 143 00:12:23,610 --> 00:12:27,413 ああ あれは綿花だす。 144 00:12:27,413 --> 00:12:30,283 綿の実や。 145 00:12:30,283 --> 00:12:35,955 あの白い実を ほぐして 糸に紡いで 木綿を織るんだす。 146 00:12:35,955 --> 00:12:39,425 あれが 綿に…。 147 00:12:39,425 --> 00:12:43,296 ⚟(文次郎)そこで 何してんのや。 綿は 大事なお宝や。 148 00:12:43,296 --> 00:12:45,231 勝手に いろたら あかんで。 149 00:12:45,231 --> 00:12:48,134 へえ。 えらい すんまへん。 150 00:12:48,134 --> 00:12:50,637 文次郎さん? 151 00:12:50,637 --> 00:12:54,307 綿買いの 文次郎さんやございまへんか? 152 00:12:54,307 --> 00:13:00,246 十一年前 この村から 天満の五鈴屋へ 連れてってもろた あの時の者だす。 153 00:13:00,246 --> 00:13:05,251 (文次郎)ハハハ…。 ホンマに びっくりしましたで。 154 00:13:05,251 --> 00:13:11,124 あん時の子が こない立派なご寮さんにならはって。 155 00:13:11,124 --> 00:13:16,963 あの年は 長雨とイナムシで 二年続いた凶作でしたなあ。 156 00:13:16,963 --> 00:13:21,100 へえ。 米も麦も みんな やられてしもて。 157 00:13:21,100 --> 00:13:27,407 (文次郎) 四年前の大雨では この辺りも水に浸こて えらい目に遭うて➡ 158 00:13:27,407 --> 00:13:30,276 ようよう立ち直ったとこや。 159 00:13:30,276 --> 00:13:37,050 おい ご苦労さん! おお 文次郎さん。 160 00:13:37,050 --> 00:13:39,419 (文次郎)綿は ええもんや。 161 00:13:39,419 --> 00:13:41,354 手はかかるけども➡ 162 00:13:41,354 --> 00:13:46,059 米と違て 働いたら働いただけ 実入りあるよって。 163 00:13:48,127 --> 00:13:55,001 絹は裕福な人のもの 木綿は貧乏人のもの 言う人もおるけど➡ 164 00:13:55,001 --> 00:14:00,139 絹の おしめしてる赤子は どこにもおらへん。 165 00:14:00,139 --> 00:14:06,346 絹には絹の 木綿には木綿の それぞれ ええとこがあるんや。 166 00:14:08,247 --> 00:14:11,250 それぞれのよさ…。 167 00:14:11,250 --> 00:14:13,953 ホンマに そうだすなあ。 168 00:14:22,261 --> 00:14:26,265 ほな ここで。 今日は お目にかかれて うれしおました。 169 00:14:26,265 --> 00:14:31,270 どうぞ お達者で。 あんさんもな。 170 00:14:40,646 --> 00:14:46,419 ずぶとう生きなはれや! ずぶとうにな! 171 00:14:46,419 --> 00:14:48,421 へえ! 172 00:14:54,127 --> 00:14:59,432 <幸の母と妹は 津門村の庄屋 彦太夫の屋敷で➡ 173 00:14:59,432 --> 00:15:02,735 奉公人として暮らしていました> 174 00:15:02,735 --> 00:15:21,587 ♬~ 175 00:15:21,587 --> 00:15:25,258 ホンマに お声かけんで ええんだすか? 176 00:15:25,258 --> 00:15:31,597 迷惑になるさかい。 達者な姿が見られただけで ええのや。 177 00:15:31,597 --> 00:15:36,102 ほな 行きまひょか。 日が暮れる前に 天満に戻らんとあきまへん。 178 00:15:36,102 --> 00:15:38,137 へえ。 179 00:15:38,137 --> 00:15:56,789 ♬~ 180 00:15:56,789 --> 00:15:58,825 (結)姉さん…? 181 00:15:58,825 --> 00:16:02,595 (お房)結! 何してんのや? 182 00:16:02,595 --> 00:16:07,900 姉さんが そこに…。 幸が どうかしたんか? 183 00:16:14,574 --> 00:16:17,076 何でもない。 184 00:16:17,076 --> 00:16:20,580 天満のご寮さんが こんなとこ来るはずないわ。 185 00:16:30,089 --> 00:16:34,393 長いこと会いに来れず 堪忍してください。 186 00:16:35,962 --> 00:16:40,800 (重辰)商人は 金もうけのために 言葉巧みに人をだますのだ。 187 00:16:40,800 --> 00:16:44,270 商人などとは 決して交わってはならぬ。 188 00:16:44,270 --> 00:16:46,939 (雅由)はい。 (幸)はい。 189 00:16:46,939 --> 00:16:52,144 父さん 兄さん…。 190 00:17:00,219 --> 00:17:05,024 (佐七)いて参じます。 (丁稚たち)お早うお帰りやす。 191 00:17:06,993 --> 00:17:11,564 (富久)惣次は いつ戻るのや? 師走も近いいうのに。 192 00:17:11,564 --> 00:17:13,499 江州に行ったまま➡ 193 00:17:13,499 --> 00:17:17,370 もう ひとつき 過ぎましたで。 へえ。 194 00:17:17,370 --> 00:17:22,208 向こうで何やってんのか あんさん ホンマに知らんのか。 195 00:17:22,208 --> 00:17:24,210 (鉄助)存じまへん。 196 00:17:43,262 --> 00:17:48,134 旦那さんが 見世の手形 持ち出してはります。 197 00:17:48,134 --> 00:17:52,605 えっ? 手形いうたら 金銀も同じだすな。 198 00:17:52,605 --> 00:17:55,641 旦那さんに限って 遊びに使わはるとは思いまへん。 199 00:17:55,641 --> 00:17:58,945 けど 商いで要るんやったら➡ 200 00:17:58,945 --> 00:18:01,747 何で わてに黙って 持ち出さはったのか…。 201 00:18:03,716 --> 00:18:07,053 少しの額なら わても 何とも思いまへん。 202 00:18:07,053 --> 00:18:15,227 けど 旦那さんが持ち出さはったのは 両替商 山崎屋の手形 銀三貫。 203 00:18:15,227 --> 00:18:19,565 銀三貫。 匁に直したら 銀三千目。 204 00:18:19,565 --> 00:18:24,236 五十石の米が買える大金だす。 205 00:18:24,236 --> 00:18:29,108 あの~ ご寮さん なんぞ 心当たりありまへんか? 206 00:18:29,108 --> 00:18:33,112 こないな話 お家さんには聞かせられまへんし…。 207 00:18:35,581 --> 00:18:38,618 番頭さん。 へえ。 208 00:18:38,618 --> 00:18:42,088 何を案じてますのや? はあ? 209 00:18:42,088 --> 00:18:47,093 旦那さんが 五鈴屋のためにならんこと なさるはずがありまへん。 210 00:18:49,829 --> 00:18:53,265 そうだすな。 ホンマに そうだした。 211 00:18:53,265 --> 00:18:55,601 何や つまらんこと お耳に入れてしもて。 212 00:18:55,601 --> 00:18:58,504 じきに ええ知らせ持って 戻らはりますやろ。 213 00:18:58,504 --> 00:19:00,506 へえ。 214 00:19:07,880 --> 00:19:12,752 <それから 十日ほど過ぎた 師走四日> 215 00:19:12,752 --> 00:19:18,224 あっ 旦那さん お帰りやす。 えらい遅なって 堪忍やで。 216 00:19:18,224 --> 00:19:21,227 (鉄助)旦那さん お帰りやす。 (一同)お帰りやす。 217 00:19:21,227 --> 00:19:24,897 なんぞあったか? (鉄助)いや 別段 変わったことは 何も…。 218 00:19:24,897 --> 00:19:32,238 ほんなら 留守中のことは 後で聞くとして 佐七 末七 広七。 219 00:19:32,238 --> 00:19:37,910 鉄助と一緒に来とくれやす。 大事な話がある。 220 00:19:37,910 --> 00:19:40,112 (一同)へえ。 221 00:19:45,584 --> 00:19:51,090 (お梅)旦那さん 帰ってきはりましたで。 (お竹)うん。 222 00:19:51,090 --> 00:19:54,593 お梅どん なんちゅう顔してんのや。 223 00:19:54,593 --> 00:19:57,630 旦那さんに 何かあったんだすか? 224 00:19:57,630 --> 00:20:02,268 ご無事だす。 これ 土産やて。 225 00:20:02,268 --> 00:20:04,770 (お竹 お杉)うっ…。 226 00:20:04,770 --> 00:20:06,806 何の におい? 227 00:20:06,806 --> 00:20:10,409 鮒寿司いうて 江州名物やそうだす。 228 00:20:10,409 --> 00:20:12,344 わて お茶出してきます。 229 00:20:12,344 --> 00:20:16,282 ええて。 今 お座敷に籠もって 人払いや。 230 00:20:16,282 --> 00:20:20,419 女衆には聞かせられん話らしいわ。 231 00:20:20,419 --> 00:20:24,790 ん~。 いやいや 臭いって。ん~! 232 00:20:24,790 --> 00:20:30,596 江州の機織りは 今では すっかり廃れてしもてる。 233 00:20:30,596 --> 00:20:35,968 廃れてるて 売り物になる絹織は あるのやろ? 234 00:20:35,968 --> 00:20:38,304 ありまへん。 えっ。 235 00:20:38,304 --> 00:20:41,640 ほんなら 何のために 長いこと 店あけて…。 236 00:20:41,640 --> 00:20:44,443 今は まだないいうことだす。 237 00:20:44,443 --> 00:20:51,150 せやから 江州に 新しく絹織の産地を作るんだす。 238 00:20:51,150 --> 00:20:53,152 (一同)えっ! 239 00:21:00,960 --> 00:21:05,798 波村いうとこには こないええ糸が ぎょうさんある。 240 00:21:05,798 --> 00:21:11,103 もしかして 五鈴屋が金出して 波村に 絹 織らせるいうことだすか? 241 00:21:11,103 --> 00:21:16,609 そや。 この糸で 羽二重 織って➡ 242 00:21:16,609 --> 00:21:22,114 「五鈴屋の浜羽二重」いう名ぁで ど~んと売り出すつもりや! 243 00:21:22,114 --> 00:21:25,017 ああ~。 244 00:21:25,017 --> 00:21:28,621 五鈴屋でしか買われへん 特製品だす。 245 00:21:28,621 --> 00:21:33,292 じかに仕入れるよって 値ぇも下げられる。 246 00:21:33,292 --> 00:21:37,963 あんさん そないなこと よう まあ 思いついたなあ。 247 00:21:37,963 --> 00:21:44,303 もし それが うまいこといったら この五鈴屋は ホンマの大店になる。 248 00:21:44,303 --> 00:21:46,805 (末七)ホンマの…。 大店…。 249 00:21:46,805 --> 00:21:50,309 「もし」やありまへん。 必ず うまいこといくよう➡ 250 00:21:50,309 --> 00:21:55,147 布石は打ってあります。 大きな商いになりますで。 251 00:21:55,147 --> 00:21:59,451 手形は そのために…。 252 00:21:59,451 --> 00:22:04,757 どやろ? この話 呉服仲間の皆さんにも 声かけてみては? 253 00:22:04,757 --> 00:22:08,627 うち一軒でやるより 金も ぎょうさんかけられて➡ 254 00:22:08,627 --> 00:22:12,498 万が一の備えにもなります。 アホらしい。 255 00:22:12,498 --> 00:22:19,271 何で 人に教えんならんのだす? わてが知恵絞って 考えた話やのに。 256 00:22:19,271 --> 00:22:25,144 反物が出来るまで この話 決して よそにしたらあきまへんで。 257 00:22:25,144 --> 00:22:29,648 ほな 気張ってや! (一同)へえ! 258 00:22:48,300 --> 00:22:51,303 はあ~ きれい。 259 00:22:53,172 --> 00:22:55,674 何してんのや。 あっ。 260 00:22:59,912 --> 00:23:05,251 これは 五鈴屋の商いを広げてくれる 宝の糸だす。 261 00:23:05,251 --> 00:23:09,755 気安う触りな。 すんまへん。 262 00:23:09,755 --> 00:23:15,094 でも 話がまとまって 波村の皆さんも 喜んではりますやろ。 263 00:23:15,094 --> 00:23:21,600 そら 大喜びや。 貧しい村にしたら どえらい商いやさかいな。 264 00:23:23,402 --> 00:23:27,273 仕入れ先のめどは これで立った。 265 00:23:27,273 --> 00:23:34,146 前に言うたとおり あと二年で 江戸に店 出しまっせ。 266 00:23:34,146 --> 00:23:36,782 へえ。 267 00:23:36,782 --> 00:23:41,120 商いのことは もう何も心配いらん。 268 00:23:41,120 --> 00:23:48,294 わてが みんな あんじょうやるさかい あんたは わての陰に隠れてたらええ。 269 00:23:48,294 --> 00:23:50,496 えっ…。 270 00:23:54,633 --> 00:23:59,838 あんたには 早う わての子ぉ産んでほしいんや。 271 00:24:06,912 --> 00:24:11,417 店は もう わてに任しといたらええ。 272 00:24:25,097 --> 00:24:27,099 (智蔵)木やん 毎度。 おう。 273 00:24:31,603 --> 00:24:33,806 すんまへん すんまへん。 274 00:24:38,477 --> 00:24:40,679 今のは 確か…。 275 00:24:46,618 --> 00:24:49,955 亀やん。(亀三)おう。 今出てったのは 富五郎と違うか? 276 00:24:49,955 --> 00:24:53,792 そや。 当代一の若女形 中村富五郎や。 277 00:24:53,792 --> 00:24:55,728 さっきまで ここにおったんやで。 278 00:24:55,728 --> 00:25:01,734 きれいやなあ。 見とれてしもたわ。 わしもや。 ハハッ。 279 00:25:05,371 --> 00:25:08,907 古い浄瑠璃本 書き写してきたで。 おおきに いつも すまんな。 280 00:25:08,907 --> 00:25:10,943 あ~ 今 手間賃 払うわ。 281 00:25:10,943 --> 00:25:14,713 で 当代一が 何で 亀やん 訪ねてきたんや? 282 00:25:14,713 --> 00:25:18,250 前に ほれ 「曽根崎心中」の天満屋お初 やらはったやろ。 283 00:25:18,250 --> 00:25:22,087 ああ 芝居 見たで。 ええお初やったわ。 284 00:25:22,087 --> 00:25:24,390 それが 本人は まだあかん 思てはんねん。 285 00:25:24,390 --> 00:25:26,325 役をもっと磨きたい 言うて➡ 286 00:25:26,325 --> 00:25:29,094 人形遣いのわしに 教えてもらいに来はったんや。 287 00:25:29,094 --> 00:25:34,967 ふ~ん えらい芸熱心やな。 うん。 288 00:25:34,967 --> 00:25:39,605 声よし 顔よし 姿よしの上に 精進を怠らん。 289 00:25:39,605 --> 00:25:42,641 今にきっと 大立者になるで。 290 00:25:42,641 --> 00:25:45,411 そやな。 291 00:25:45,411 --> 00:25:50,949 で そっちは どやねん? え? 292 00:25:50,949 --> 00:25:55,954 景気悪い顔して。 浮世草子の注文 来てるんか? 293 00:25:59,658 --> 00:26:04,596 あかん このところ さっぱりや。 294 00:26:04,596 --> 00:26:09,401 写本の手間賃で 暮らし立ててるようでは どもならんな。 295 00:26:14,907 --> 00:26:18,210 いっそのこと 役変えてみたらどや? 296 00:26:23,082 --> 00:26:29,755 これは 天満屋のお初 曽根崎新地の遊女や。 297 00:26:29,755 --> 00:26:37,396 このおんなじ頭が 別の芝居では 町娘にも お姫様にもなる。 298 00:26:37,396 --> 00:26:42,601 智やんかて 別の役 やれるんちゃうか? 299 00:26:46,405 --> 00:26:50,209 人形の衣装 変えるように たやすうはいかん。 300 00:26:55,147 --> 00:27:01,854 八年 しがみついてきた道や…。 301 00:27:07,693 --> 00:27:12,531 <よくとしの三月。 江州波村の 中庄から➡ 302 00:27:12,531 --> 00:27:15,734 待望の品が送られてきました> 303 00:27:15,734 --> 00:27:17,936 こちらだす。 304 00:27:49,935 --> 00:27:52,971 皆 よう見てみ。 305 00:27:52,971 --> 00:27:58,110 波村の糸 使て 五鈴屋のために織り上げた➡ 306 00:27:58,110 --> 00:28:00,913 これが 最初の一反や! 307 00:28:05,551 --> 00:28:10,355 ほんに まあ 美しい。 ええ出来や。 308 00:28:10,355 --> 00:28:14,226 旦那さん おめでとうさんでござります。 309 00:28:14,226 --> 00:28:16,895 (一同)おめでとうさんでござります! 310 00:28:16,895 --> 00:28:20,232 明日から 波村行って これからの話 詰めてくるわ。 311 00:28:20,232 --> 00:28:23,735 (一同)へえ! 来年の初荷には➡ 312 00:28:23,735 --> 00:28:29,074 「五鈴屋特製 浜羽二重」と書いた 大きなのぼり 立てますで! 313 00:28:29,074 --> 00:28:31,376 (一同)へえ! 314 00:28:31,376 --> 00:28:46,858 ♬~ 315 00:28:46,858 --> 00:28:49,595 旦那さん これ お家さんが。 316 00:28:49,595 --> 00:28:52,497 「波村の庄屋さんへのお土産に」て。 317 00:28:52,497 --> 00:28:55,934 おぼろ昆布か。 そら ええな。 318 00:28:55,934 --> 00:28:58,971 庄屋さんには また ちょくちょく 世話になるよって。 319 00:28:58,971 --> 00:29:02,741 しばらくは 天満と波村を 行ったり来たりや。 320 00:29:02,741 --> 00:29:04,943 へえ。 321 00:29:07,045 --> 00:29:12,551 これ 手形いうもんだすか? そや。 よう知ってるな。 322 00:29:12,551 --> 00:29:15,887 聞いたことあるだけで 見るのは初めてだす。 323 00:29:15,887 --> 00:29:19,224 「山崎屋九郎兵衛」…? 324 00:29:19,224 --> 00:29:25,030 旦那さんが持ち出さはったのは 両替商 山崎屋の手形 銀三貫。 325 00:29:25,030 --> 00:29:27,833 ああ 両替商の…。 326 00:29:29,568 --> 00:29:35,240 波村に持っていかはる手形は 山崎屋のもんって 決めてはるんだすな。 327 00:29:35,240 --> 00:29:41,046 その方が 現銀に換える時 一軒で済んで 手間省けますな。 328 00:29:45,884 --> 00:29:50,255 (治兵衛) 江州に 羽二重の産地作るとは➡ 329 00:29:50,255 --> 00:29:54,593 ええとこに 目ぇつけはりましたな。 330 00:29:54,593 --> 00:29:59,097 来年の初売りが 楽しみだす。 へえ。 331 00:29:59,097 --> 00:30:04,403 これも 江州に ゆかりの者だすのや。 まあ お染さんが? 332 00:30:04,403 --> 00:30:07,305 (お染)亡うなった母が 近江の生まれで。 333 00:30:07,305 --> 00:30:11,109 波村て どないなとこか ご存じだすか? 334 00:30:11,109 --> 00:30:15,414 さあ。 わては行ったこと おまへんさかい。 335 00:30:15,414 --> 00:30:19,284 けど 長浜には 叔父が住んでます。 336 00:30:19,284 --> 00:30:21,953 行商人で 年中 留守だすけど。 337 00:30:21,953 --> 00:30:27,125 (治兵衛)あのお人は 根っからの江州者やさかいな。 ハハ。 338 00:30:27,125 --> 00:30:29,161 (お染)ホンマに。 339 00:30:29,161 --> 00:30:31,997 江州者て どないなお人柄をいうんだす? 340 00:30:31,997 --> 00:30:36,301 そうだすなあ…。 341 00:30:36,301 --> 00:30:45,010 働き者で てんびん棒の前と後ろに 信用と誠実をぶら下げてます。 342 00:30:45,010 --> 00:30:49,848 まあ。 (笑い声) 343 00:30:49,848 --> 00:30:54,319 さて 外出まひょか。 344 00:30:54,319 --> 00:30:57,622 歩けるようになったとこ お見せしまっせ。 345 00:31:03,128 --> 00:31:06,398 (治兵衛)そうだすか…。 346 00:31:06,398 --> 00:31:10,268 旦那さんが 手形を…。 347 00:31:10,268 --> 00:31:15,073 前に持ってったんが 銀三貫 今度が 銀一貫ほど。 348 00:31:17,943 --> 00:31:26,618 機 買うたり 織り手 集めたりすんのに 金かかるさかい➡ 349 00:31:26,618 --> 00:31:31,123 村に 貸し付けてはりますのやろ。 へえ。 350 00:31:31,123 --> 00:31:36,294 ただ あんまり額が大きおますよって➡ 351 00:31:36,294 --> 00:31:40,165 後で 村の負担にならんか 気になってしもて。 352 00:31:40,165 --> 00:31:45,003 時には 大金も動かします。 353 00:31:45,003 --> 00:31:49,307 そうせな 新しい物は 生まれまへんさかいな。 354 00:31:49,307 --> 00:31:52,144 へえ。 355 00:31:52,144 --> 00:31:59,651 それが 産地を支えることになるか➡ 356 00:31:59,651 --> 00:32:03,522 金で 縛りつけることになるかは➡ 357 00:32:03,522 --> 00:32:08,260 同じ前貸しいうても 大きな違いだすわ。 358 00:32:08,260 --> 00:32:13,565 支えることになるか 金で縛るか…。 359 00:32:20,272 --> 00:32:28,146 惣ぼんのこっちゃ 損は せえへん算段つけてはるやろ。 360 00:32:28,146 --> 00:32:34,119 商人は そろばん はじいて 利を出してこそだす。 361 00:32:34,119 --> 00:32:36,788 へえ。 362 00:32:36,788 --> 00:32:41,660 ただ そろばんの入れ方には➡ 363 00:32:41,660 --> 00:32:44,362 人間の地金が出るもんだす。 364 00:32:46,798 --> 00:32:56,107 己の損得だけ考えてるか 我も人も 富むようにと 心砕いてるか。 365 00:32:58,977 --> 00:33:01,880 今度の商いでは➡ 366 00:33:01,880 --> 00:33:06,084 惣ぼんの商人としての値打ちが➡ 367 00:33:06,084 --> 00:33:08,386 試されますやろな。 368 00:33:19,931 --> 00:33:24,135 どないだすか? (お竹)よろしゅうおますな。 369 00:33:27,272 --> 00:33:32,277 ⚟今 戻ったで! 旦那さんや。 お帰りやす! 370 00:33:34,145 --> 00:33:38,149 浜羽二重 十二反 納めてもらいましたで。 371 00:33:40,619 --> 00:33:43,822 今年 紡いだ糸で 織り上げたものだす。 372 00:33:46,124 --> 00:33:48,960 (感嘆の声) 373 00:33:48,960 --> 00:33:51,162 まあ! 374 00:33:53,298 --> 00:33:57,802 艶といい 手触りといい 京の羽二重にも引けを取らん。 375 00:33:57,802 --> 00:34:00,372 へえ! 376 00:34:00,372 --> 00:34:02,741 何もかも うまく回ってるわ。 377 00:34:02,741 --> 00:34:06,378 最初に糸を見せていただいたんは 去年の師走だす。 378 00:34:06,378 --> 00:34:10,181 一年も たたんうちに もう ここまで…。 379 00:34:12,083 --> 00:34:14,753 (たたく音) 夢見てるみたいだす。 380 00:34:14,753 --> 00:34:16,688 夢やない。 へえ。 381 00:34:16,688 --> 00:34:21,259 これから ぎょうさん織ってもらうさかい こっちも 売るための知恵 絞るで。 382 00:34:21,259 --> 00:34:23,929 (一同)へえ! 383 00:34:23,929 --> 00:34:29,401 こんな うれしいことない。 今夜は お祝いやな。 384 00:34:29,401 --> 00:34:31,403 へえ。 385 00:34:37,108 --> 00:34:40,145 旦那さん お燗つけました。 ああ。 386 00:34:40,145 --> 00:34:43,782 ホンマに ようやったなあ。 387 00:34:43,782 --> 00:34:49,955 どないなるかと案じたこともあったけど これで一安心や。 388 00:34:49,955 --> 00:34:52,624 村では いろいろ苦労もしましたんや。 389 00:34:52,624 --> 00:34:56,428 まあ それが報われたいうことだすわ。 390 00:34:56,428 --> 00:35:01,566 (富久)波村の皆さんが気張ってくれて ホンマに ありがたいことだすな。 391 00:35:01,566 --> 00:35:06,905 そら あないぎょうさん 手形積まれたら 誰かて 死ぬ気でやりますやろ。 392 00:35:06,905 --> 00:35:13,111 貧しい村やさかい 金銀が 何よりもの鼻薬になりますのや。 393 00:35:16,915 --> 00:35:22,721 ここまで だいぶ 金使たけど これからは うちが もうける番や。 394 00:35:22,721 --> 00:35:26,925 初荷で 派手に売り出しますわ。 395 00:35:26,925 --> 00:35:31,096 初荷用に 何反 注文しはったんだす? 五百反や。 396 00:35:31,096 --> 00:35:34,966 (2人)えっ! 今から 五百反もだすか? 397 00:35:34,966 --> 00:35:38,770 新しい品 売り出すのに チョボチョボでは あかん。 398 00:35:38,770 --> 00:35:44,642 一気に 「五鈴屋の浜羽二重」の名ぁ 大坂中に広めるんや。 399 00:35:44,642 --> 00:35:47,479 小さい村だすやろ。 五百反も どないして…。 400 00:35:47,479 --> 00:35:50,482 働いても働いても ろくに食えなんだ村に➡ 401 00:35:50,482 --> 00:35:56,488 金が入るんや。 何としても織る言うてたわ。 402 00:36:06,231 --> 00:36:08,166 (佐七) えらいこっちゃ えらいこっちゃ…。 403 00:36:08,166 --> 00:36:10,568 うわっ! すんまへん! 何や お前! 404 00:36:10,568 --> 00:36:13,071 えらいこっちゃ えらいこっちゃ えらいこっちゃ! 405 00:36:13,071 --> 00:36:15,740 末七っとん 番頭さんは? (末七)番頭さん? 406 00:36:15,740 --> 00:36:19,244 ああ! (末七)何や! 407 00:36:19,244 --> 00:36:21,913 あっ お梅どん! 旦那さんは? 408 00:36:21,913 --> 00:36:24,749 何だす? 血相変えて。 どないしたんや? 409 00:36:24,749 --> 00:36:28,586 (佐七)お家さん 旦那さん どちらいてはります? 410 00:36:28,586 --> 00:36:32,390 (鉄助)ここに いてはるで。 何や 蔵まで聞こえる大声出して。 411 00:36:32,390 --> 00:36:39,164 それが 山崎屋が… 両替商の山崎屋が潰れてしもたんだす! 412 00:36:39,164 --> 00:36:43,601 それ ホンマか。 間違いないか! へえ。 島之内の店の前は➡ 413 00:36:43,601 --> 00:36:49,474 人だかりで大騒ぎだす。 山崎屋の手形が 皆 紙くずになってしもたて。 414 00:36:49,474 --> 00:36:51,776 そんな…。 415 00:36:51,776 --> 00:36:55,280 山崎屋て…。 416 00:36:55,280 --> 00:37:01,086 波村に持っていかはる手形は 山崎屋のもんって 決めてはるんだすな。 417 00:37:01,086 --> 00:37:03,088 (鉄助)様子 見てきます! 418 00:37:03,088 --> 00:37:09,561 何 うろたえてんのや。 うちに損は あらへん。 419 00:37:09,561 --> 00:37:13,898 山崎屋の手形は 一枚も持ってへんさかいな。 420 00:37:13,898 --> 00:37:18,770 ホンマか? 山崎屋の手形 使てるお客さん ようけ いてはるやろ! 421 00:37:18,770 --> 00:37:24,075 回ってくる端から よそへの支払いに使てたんだす。 422 00:37:24,075 --> 00:37:27,112 あそこは 一年前に代替わりしてから➡ 423 00:37:27,112 --> 00:37:31,583 何や 危うい商いしてる気ぃして 用心してたんだすわ。 424 00:37:31,583 --> 00:37:34,619 案の定やな。 425 00:37:34,619 --> 00:37:37,388 よかった…。 426 00:37:37,388 --> 00:37:40,091 皆 これで安心したやろ。 427 00:37:40,091 --> 00:37:44,262 ほな 早う仕事戻んなはれ。 (一同)へえ。 428 00:37:44,262 --> 00:37:47,098 (お竹)お杉どん お布団 ひいて。 (お杉)へえ。 429 00:37:47,098 --> 00:37:49,100 立てまっか? 430 00:37:51,936 --> 00:37:54,606 あかん…。 431 00:37:54,606 --> 00:37:59,778 旦那さん! 波村の人たちは どないなるんだす? 432 00:37:59,778 --> 00:38:02,680 何や 血相変えて。 波村に持っていかはった手形➡ 433 00:38:02,680 --> 00:38:07,886 皆 山崎屋のものだした。 あれは もう 紙くずだすか? 434 00:38:07,886 --> 00:38:12,357 心配せんかて うちが渡した分は とうに手放してるやろ。 435 00:38:12,357 --> 00:38:15,226 新しい機や道具 そろえはったのは 今年のはずだす。 436 00:38:15,226 --> 00:38:17,896 危うい思てはったのに➡ 437 00:38:17,896 --> 00:38:21,566 山崎屋の手形ばかり 波村に持っていかはったんだすか? 438 00:38:21,566 --> 00:38:24,469 紙くずになると知ってて…。 そんなら そんでええ。 439 00:38:24,469 --> 00:38:27,372 また ぎょうさん貸したら済む話や。 440 00:38:27,372 --> 00:38:34,078 前銀が多ければ多いほど こっちの言うままに働くやろしな。 441 00:38:34,078 --> 00:38:39,083 金で縛って 言うこときかすんだすか? 何やて? 442 00:38:40,852 --> 00:38:45,557 旦那さんは 人をだますんや…。 443 00:38:48,092 --> 00:38:50,128 今すぐ 波村に おたちください。 444 00:38:50,128 --> 00:38:53,598 旦那さんの口から 事情話して 波村の人たちに わびてください。 445 00:38:53,598 --> 00:38:57,268 何を!そないせんかったら 五鈴屋の信用は 地に落ちます! 446 00:38:57,268 --> 00:38:59,204 やかましい! 447 00:38:59,204 --> 00:39:02,874 何や その口の利き方は! 思い上がるんやない。 448 00:39:02,874 --> 00:39:06,711 商いで わての上に立つことは 許しまへんで!上も下もあらしまへん。 449 00:39:06,711 --> 00:39:11,216 旦那さんは 商いの川を汚す気だすか! 何を! 450 00:39:11,216 --> 00:39:15,887 (賢吉)やめとくれやす! 旦那さん! アホ 手ぇ放せ! 451 00:39:15,887 --> 00:39:18,556 放さんかいて! ひっ!ご寮さん! 452 00:39:18,556 --> 00:39:20,892 旦那さん あきまへん! 453 00:39:20,892 --> 00:39:22,827 旦那さん あきまへん! 旦那さん! 454 00:39:22,827 --> 00:39:29,033 惣次! 何してんのや! 幸に手ぇ出すやなんて…! 455 00:39:34,906 --> 00:39:38,710 (富久)誰ぞ早う 道善先生 呼んできて! (広七)へえ! 456 00:39:56,928 --> 00:40:00,632 痛っ…。 457 00:40:07,105 --> 00:40:10,975 ⚟(鉄助)波村に渡した手形は 皆 山崎屋のものだした。 458 00:40:10,975 --> 00:40:13,611 ⚟(富久)非道なまねを。➡ 459 00:40:13,611 --> 00:40:17,482 惣次には 波村に わびに行くよう 言い聞かせます。 460 00:40:17,482 --> 00:40:19,484 ⚟(鉄助)へえ。 461 00:40:22,287 --> 00:40:25,189 糸のままより 反物にした方が 高う売れて➡ 462 00:40:25,189 --> 00:40:27,425 利ざやも 稼げるんやないですか? 463 00:40:27,425 --> 00:40:32,630 糸から反物へ。 近江でも 同じことができまへんやろか。 464 00:40:32,630 --> 00:40:37,969 波村に持っていかはる手形は 山崎屋のもんって 決めてはるんだすな。 465 00:40:37,969 --> 00:40:43,975 その方が 現銀に換える時 一軒で済んで 手間省けますな。 466 00:40:47,679 --> 00:40:57,889 (すすり泣き) 467 00:41:08,266 --> 00:41:11,602 まだ痛むか? いいえ もう…。 468 00:41:11,602 --> 00:41:17,308 墓参り済ませたら すぐ戻りますよって。 へえ お気を付けて。 469 00:41:31,990 --> 00:41:34,792 空まで どんよりしてる。 470 00:41:34,792 --> 00:41:43,301 (雷鳴) 471 00:41:43,301 --> 00:41:55,012 ♬~ 472 00:41:55,012 --> 00:41:57,148 (亮介)お尋ね申します。➡ 473 00:41:57,148 --> 00:42:01,986 天満菅原町の呉服商 五鈴屋は ここやろか。 474 00:42:01,986 --> 00:42:05,189 へえ。 うちが五鈴屋だす。 475 00:42:09,394 --> 00:42:13,898 もしや 江州の…。 476 00:42:19,404 --> 00:42:23,775 (仁左衛門)江州波村の者です。 477 00:42:23,775 --> 00:42:28,613 徳兵衛さんに 会わせてもらおか。 478 00:42:28,613 --> 00:42:32,817 (雷鳴) 479 00:42:35,286 --> 00:42:37,288 夕日の輝きは 金いろ。 480 00:42:37,288 --> 00:42:39,624 川面のきらめきは 銀いろ。 481 00:42:39,624 --> 00:42:41,959 なんぞ あったんか? 五鈴屋に戻っておくれやす! 482 00:42:41,959 --> 00:42:44,295 五鈴屋に戻るんや。 五鈴屋一同の願いだす。 483 00:42:44,295 --> 00:42:46,631 五鈴屋を よろしゅうお頼申します。 484 00:42:46,631 --> 00:42:48,566 わては あんたを一生許さへん! 485 00:42:48,566 --> 00:42:51,502 五鈴屋を任せることは できまへん。 アホが! 486 00:42:51,502 --> 00:42:55,206 ご寮さんは 店主の器やの。 (鳴き声)