1 00:00:02,202 --> 00:00:08,942 (せみの声) 2 00:00:08,942 --> 00:00:11,411 (幸)おおきに ありがとさんでございます。 3 00:00:11,411 --> 00:00:14,114 またお待ちしております。 4 00:00:15,949 --> 00:00:20,287 おかみさん 新柄の浴衣地 見せてくれるかい? 5 00:00:20,287 --> 00:00:24,157 <昨年 隣の中嶋屋を買い上げた五鈴屋は➡ 6 00:00:24,157 --> 00:00:26,960 店構えを大きく広げました> 7 00:00:26,960 --> 00:00:29,429 新しい反物あるかい? (賢輔)撫子と糸巻きは➡ 8 00:00:29,429 --> 00:00:31,798 今年の新柄でございます。 9 00:00:31,798 --> 00:00:36,436 (壮太)鈴の緒でございますね すぐ ご用意いたします。 10 00:00:36,436 --> 00:00:39,339 <そして その一角では…> 11 00:00:39,339 --> 00:00:42,976 (菊栄)お好みのもん ございますか? ゆっくり見てっておくれやす。 12 00:00:42,976 --> 00:00:46,013 わあ…! あのうちわが気になるんだけどね。 13 00:00:46,013 --> 00:00:52,152 (菊栄)へえ! 左から 鈴緒柄 花火柄 糸巻きでございます。 14 00:00:52,152 --> 00:00:55,989 (お浜)へえ~! 浴衣地と おそろいなんて しゃれてるねえ! 15 00:00:55,989 --> 00:00:58,392 いっぺん使てみておくれやす。 16 00:01:01,795 --> 00:01:04,598 (3人)ああっ! 17 00:01:04,598 --> 00:01:07,401 (お梅)さあ あおいでみとくなはれ。 18 00:01:07,401 --> 00:01:10,270 (お仲)え~? 19 00:01:10,270 --> 00:01:14,107 (お照)まあ! いい風が来てるよ! えっ? 20 00:01:14,107 --> 00:01:16,143 私も! ほれほれ ほれほれ…。ああ~。 21 00:01:16,143 --> 00:01:20,414 一本 三十二文 暑い盛りに重宝いたします。 22 00:01:20,414 --> 00:01:25,786 (お仲)三十二文!? 反物は無理でも うちわなら買えるね!ねえ! 23 00:01:25,786 --> 00:01:28,288 おかみさん! 24 00:01:28,288 --> 00:01:32,292 藍染めの浴衣地 今年も大層な人気だねえ! 25 00:01:32,292 --> 00:01:34,962 へえ。 ありがたいことでございます。 26 00:01:34,962 --> 00:01:38,432 けどさ おかげで夏物の絽や紗の売れ行きが➡ 27 00:01:38,432 --> 00:01:40,367 さっぱりだって言うじゃないか! 28 00:01:40,367 --> 00:01:42,302 五鈴屋さんの浴衣地は➡ 29 00:01:42,302 --> 00:01:45,305 呉服屋泣かせだよ! (笑い声) 30 00:01:45,305 --> 00:01:48,642 <藍染め浴衣地の売り出しから1年。➡ 31 00:01:48,642 --> 00:01:52,813 五鈴屋江戸本店は にぎわいを取り戻し➡ 32 00:01:52,813 --> 00:01:58,685 浅草でも屈指の繁盛店に 返り咲いたのです> 33 00:01:58,685 --> 00:02:01,521 おいでやす。 34 00:02:01,521 --> 00:02:14,401 ♬~ 35 00:02:14,401 --> 00:02:19,239 吉之丞さんの浴衣 お仕立てしてまいりました。 36 00:02:19,239 --> 00:02:21,608 (栄次郎)番傘か。 新柄かい? 37 00:02:21,608 --> 00:02:24,644 へえ。 売り出したとこでございます。 38 00:02:24,644 --> 00:02:29,483 (吉之丞)いい柄ですね。 きっと また楽屋で 皆が まねしますよ。 39 00:02:29,483 --> 00:02:34,121 (笑い声) 秋に浴衣ってのも妙なもんだが➡ 40 00:02:34,121 --> 00:02:38,291 上に紬を重ねて 楽屋着にするのが はやってるのさ。 41 00:02:38,291 --> 00:02:42,162 町でも皆さん そないして お召しになってはるようだす。 42 00:02:42,162 --> 00:02:46,033 おかげさんで 秋になっても まだまだ売れております。 43 00:02:46,033 --> 00:02:48,301 汗取りにいいし あったけえし➡ 44 00:02:48,301 --> 00:02:51,805 何たって 見えねえとこに こんなしゃれた柄を着るっていうのが➡ 45 00:02:51,805 --> 00:02:53,740 粋ですからね。 46 00:02:53,740 --> 00:02:59,312 なるほど。 お江戸の粋いうんは そこを言うんだすなあ。 47 00:02:59,312 --> 00:03:01,748 絹物じゃ こうはいかねえ。 48 00:03:01,748 --> 00:03:05,252 木綿なりゃこそだ。 ハハハ。 いいところに目ぇつけたな。 49 00:03:05,252 --> 00:03:10,090 いえ… 始まりは 吉之丞さんの浴衣でございます。 50 00:03:10,090 --> 00:03:12,592 お二人には いつも お助けいただいてばかりで。 51 00:03:12,592 --> 00:03:15,495 おお… ハハハ 何もしてねえや。 52 00:03:15,495 --> 00:03:18,932 この度は わてまで お世話になってしもて。 53 00:03:18,932 --> 00:03:22,803 おお… お前さんに来てもらったのは そっちの用だ。 54 00:03:22,803 --> 00:03:26,807 頼まれてた細工の見本 出来上がってきたぜ。 55 00:03:26,807 --> 00:03:29,576 あ…。 (栄次郎)吉や 持っといで。 56 00:03:29,576 --> 00:03:32,279 (吉之丞)はい。 あっ…。 57 00:03:39,953 --> 00:03:45,425 (栄次郎)どうだい? 芝居小屋出入りの錺職人の腕は。 58 00:03:45,425 --> 00:03:49,930 お前さんの意にかなうように 仕上がってるかい? 59 00:04:01,374 --> 00:04:04,911 (鈴の音) 60 00:04:04,911 --> 00:04:07,814 ああ…。 61 00:04:07,814 --> 00:04:12,085 見事な出来でございますなあ。 62 00:04:12,085 --> 00:04:17,591 こない腕の立つ職人さんに ご縁つないでいただいて➡ 63 00:04:17,591 --> 00:04:19,926 ありがとさんでございます。 64 00:04:19,926 --> 00:04:25,799 これだけ凝った細工だ。 数をそろえるには時がかかるだろうが…。 65 00:04:25,799 --> 00:04:29,636 (菊栄) 何年もかけた勝負の品でございます。 66 00:04:29,636 --> 00:04:32,939 数が十分そろうんを待って➡ 67 00:04:32,939 --> 00:04:39,813 売り出しは 1年先… 来年の秋から冬にと思うております。 68 00:04:39,813 --> 00:04:42,415 来年ですって。 69 00:04:42,415 --> 00:04:46,286 実は… こっちにも 一つ いい話があってな。 70 00:04:46,286 --> 00:04:48,788 へえ。 何でございましょう? 71 00:04:48,788 --> 00:04:53,960 来年11月 中村座の顔見世で 吉之丞が➡ 72 00:04:53,960 --> 00:04:55,896 「京風流 娘道成寺」を➡ 73 00:04:55,896 --> 00:04:57,831 踊ることが 決まってよ。 74 00:04:57,831 --> 00:05:03,370 まあ! 6年前に富五郎さんが踊らはった あの「道成寺」だすか? 75 00:05:03,370 --> 00:05:05,739 はい! あの「道成寺」です。 76 00:05:05,739 --> 00:05:08,375 わても京で見さしてもろてます。 77 00:05:08,375 --> 00:05:13,079 それはそれは美しい 見事な踊りでごあした。 78 00:05:13,079 --> 00:05:15,582 (吉之丞) 富五郎の兄さんに負けねえくれえ➡ 79 00:05:15,582 --> 00:05:20,253 おいらも 江戸のお客さんに 喜んでもらいたくって。 80 00:05:20,253 --> 00:05:30,397 (富五郎)こいねがい上げ奉りまする! 81 00:05:30,397 --> 00:05:34,601 (吉之丞)それで… この小鈴のかんざし➡ 82 00:05:34,601 --> 00:05:40,941 「道成寺」の舞台で 髪の飾りに 使わせていただきとう存じます。 83 00:05:40,941 --> 00:05:44,811 これを… 舞台で? 84 00:05:44,811 --> 00:05:48,615 (栄次郎)若え女形には よく似合うかんざしだ。 85 00:05:48,615 --> 00:05:53,620 踊ると鈴が鳴って さぞ お客の目を引くだろうよ。 86 00:05:58,792 --> 00:06:03,763 中村座の舞台で 吉之丞さんに挿していただけますなら➡ 87 00:06:03,763 --> 00:06:07,601 これほど晴れがましいお披露目の場は ございまへん。 88 00:06:07,601 --> 00:06:12,906 どうぞ… よろしゅうお頼申します。 89 00:06:12,906 --> 00:06:19,379 な~に このかんざしが世に出る前に 一等初めに挿せるんだ。 90 00:06:19,379 --> 00:06:24,918 吉之丞の方こそ 果報者よ。 なあ? はい! 91 00:06:24,918 --> 00:06:30,257 (笑い声) 92 00:06:30,257 --> 00:06:37,764 はあ~ よろしおましたなあ。 鈴のかんざし きっと評判になりますで。 93 00:06:37,764 --> 00:06:42,269 お二人とも 思たとおりのお方だした。 94 00:06:42,269 --> 00:06:46,773 幸から話聞いて ホンマにええ品を 見抜いてくれはるお方やて➡ 95 00:06:46,773 --> 00:06:49,609 思うてたんだす。 96 00:06:49,609 --> 00:06:53,480 菊栄さん ひょっとして…➡ 97 00:06:53,480 --> 00:06:57,284 こないなること見越して 栄次郎さんに? 98 00:06:57,284 --> 00:07:00,553 幸… おおきにな。 99 00:07:00,553 --> 00:07:04,758 ええご縁に恵まれたのは 幸のおかげや。 100 00:07:07,427 --> 00:07:10,563 へえ…。 101 00:07:10,563 --> 00:07:12,565 あっ…。 102 00:07:16,069 --> 00:07:18,004 (ため息) 103 00:07:18,004 --> 00:07:25,211 (鶏の鳴き声) 104 00:07:30,583 --> 00:07:35,922 (お竹)あっ… もう戻ってましたんか。 小梅の様子は どないだした? 105 00:07:35,922 --> 00:07:42,262 去年の花火の日に拾た子猫が もう 五匹も 子を産んだんだすな。 106 00:07:42,262 --> 00:07:45,598 猫は えらいもんや。 107 00:07:45,598 --> 00:07:47,901 お梅どん? 108 00:07:50,470 --> 00:07:53,940 えっ? お梅どんが考え事を? 109 00:07:53,940 --> 00:07:58,778 それは妙だすなあ…。 力造さんの家 行ってからなんだす。 110 00:07:58,778 --> 00:08:01,548 向こうで何ぞあったかもしれまへん。 111 00:08:01,548 --> 00:08:05,418 ⚟(お才)おかみさん お邪魔しますよ。 112 00:08:05,418 --> 00:08:07,620 (2人)やっぱり…。 113 00:08:09,289 --> 00:08:15,228 (力造)本日は お日柄もよく… え~…。 114 00:08:15,228 --> 00:08:17,897 (お才)お前さん! ああ… うん。 115 00:08:17,897 --> 00:08:21,234 (せきばらい) 116 00:08:21,234 --> 00:08:27,440 うちの… 梅松っつぁんが こちらのお梅さんと…。 117 00:08:29,109 --> 00:08:31,878 所帯を持ちたいと申しております! 118 00:08:31,878 --> 00:08:33,813 えっ? 119 00:08:33,813 --> 00:08:37,584 藍染めの浴衣が江戸中に広まって➡ 120 00:08:37,584 --> 00:08:42,589 梅松っつぁん ようやく 肩の荷を下ろしたようなんですよ。 121 00:08:46,593 --> 00:08:48,528 (猫の鳴き声) 122 00:08:48,528 --> 00:08:51,464 (梅松)お梅…。 123 00:08:51,464 --> 00:08:55,935 あんなあ… あんたに 頼みたいことがあんのやに。 124 00:08:55,935 --> 00:08:57,871 へえ。 125 00:08:57,871 --> 00:09:01,741 わしの… 女房になってくれへんやろか? 126 00:09:01,741 --> 00:09:03,743 (鳴き声) 127 00:09:03,743 --> 00:09:05,745 へっ!? 128 00:09:05,745 --> 00:09:10,049 どうぞ… 2人を添わせてやっておくんなさい! 129 00:09:16,222 --> 00:09:20,894 願ってもない… ええご縁でございます。 130 00:09:20,894 --> 00:09:25,365 どうぞ よろしゅうお頼申します。 131 00:09:25,365 --> 00:09:30,069 うっ… う…➡ 132 00:09:30,069 --> 00:09:33,907 うれしい…! 133 00:09:33,907 --> 00:09:40,213 (お梅の泣き声) 134 00:09:42,916 --> 00:09:45,952 <宝暦9年の12月14日。➡ 135 00:09:45,952 --> 00:09:51,391 五鈴屋江戸本店は 開店8周年を迎えました> 136 00:09:51,391 --> 00:09:54,260 今日で8年だってね。 おめでとさん。 137 00:09:54,260 --> 00:09:57,096 ご祝儀に浴衣地 三反 買わせてもらいますよ。 138 00:09:57,096 --> 00:10:00,133 まあ! おおきに ありがとさんでございます。 139 00:10:00,133 --> 00:10:04,771 年始の挨拶に配りますので 鈴の柄を五反。(賢輔)五反だすか!? 140 00:10:04,771 --> 00:10:06,706 はい もらいましょう。 へえ! すぐ お持ちいたします。 141 00:10:06,706 --> 00:10:09,409 ええ ええ。 (お竹)藍染めの鼻緒だす。➡ 142 00:10:09,409 --> 00:10:11,344 お好きなの選んでおくれやす。 143 00:10:11,344 --> 00:10:14,280 おお~ この柄 ええなあ。 すてき~。 144 00:10:14,280 --> 00:10:16,282 いいんですか? へえ! 145 00:10:16,282 --> 00:10:18,418 本当かわいい! 146 00:10:18,418 --> 00:10:21,955 (カラスの鳴き声) 147 00:10:21,955 --> 00:10:24,791 今日は 大層なお客さんだしたなあ。 148 00:10:24,791 --> 00:10:28,661 多めに作ったはずの鼻緒 のうなってしまいました。 149 00:10:28,661 --> 00:10:32,298 (佐助)お一人で何反も買わはるお客さん 多おましたなあ。 150 00:10:32,298 --> 00:10:35,969 今年に限って何でだすやろ? (壮太)きっと災難よけですよ。 151 00:10:35,969 --> 00:10:38,638 災難よけ? 何の話だす? 152 00:10:38,638 --> 00:10:42,308 三河万歳の文句に 「弥勒十年辰の年➡ 153 00:10:42,308 --> 00:10:45,645 諸神の建てたる御屋形」 というのがありまして➡ 154 00:10:45,645 --> 00:10:48,681 その年は災難が多いと いわれているそうです。 155 00:10:48,681 --> 00:10:52,318 来年は宝暦10年 辰年だすなあ。 156 00:10:52,318 --> 00:10:55,822 災いを避けるには 正月を盛大に祝うのがよいと➡ 157 00:10:55,822 --> 00:10:58,458 夏ごろから 町で うわさになっておりました。 158 00:10:58,458 --> 00:11:02,462 (長介)そういえば 暑い盛りに 正月飾りを出している家がありましたね。 159 00:11:02,462 --> 00:11:04,764 ああ…。 店開いて8年。 160 00:11:04,764 --> 00:11:09,402 「八」の字が末広がりやよって 縁起がええ 思わはったのかもしれまへんな。 161 00:11:09,402 --> 00:11:12,605 (壮太)江戸紫の鉢巻きが 麻疹封じに 一役買ったこと➡ 162 00:11:12,605 --> 00:11:15,508 覚えておいでの方も多いのですよ。 ああ…。 163 00:11:15,508 --> 00:11:18,945 大きな商いがでけましたのは ありがたいことだすけども➡ 164 00:11:18,945 --> 00:11:23,416 何や 危うい気ぃもしますな。 へえ…。 165 00:11:23,416 --> 00:11:26,319 幸… 奥は支度できてますで。 166 00:11:26,319 --> 00:11:28,621 そろそろ…。 へえ! 167 00:11:28,621 --> 00:11:30,957 ほな 今日は もう のれん しまいまひょな。 168 00:11:30,957 --> 00:11:32,959 (一同)へえ! 169 00:11:34,627 --> 00:11:37,964 (鐘の音) 170 00:11:37,964 --> 00:11:40,867 はあ~…。 171 00:11:40,867 --> 00:11:44,437 (せきばらい) 172 00:11:44,437 --> 00:11:47,640 <開店8年の この日➡ 173 00:11:47,640 --> 00:11:53,446 五鈴屋には もう一つ 大事な祝い事があったのです> 174 00:11:53,446 --> 00:12:00,453 お家さんから ご寮さんに渡った かんざし お借りしましたで。 175 00:12:06,759 --> 00:12:10,597 (お竹)ああ… こんでよし!➡ 176 00:12:10,597 --> 00:12:16,102 ああ… 立派な花嫁御寮の出来上がりや! 177 00:12:18,471 --> 00:12:22,275 何や… 夢でも見てるみたいやわ。 178 00:12:22,275 --> 00:12:25,411 それは こっちのセリフや! 179 00:12:25,411 --> 00:12:31,618 まさか生きてるうちに あんたの花嫁姿 見られるとは思てへんかったで。 180 00:12:31,618 --> 00:12:36,422 また いけず言うて。 フフッ。 181 00:12:36,422 --> 00:12:46,799 お竹どん… これまで長々のお世話 ホンマに ありがとさんでございました。 182 00:12:46,799 --> 00:12:51,137 どうぞ 末永う 達者で暮らしておくんなはれ。 183 00:12:51,137 --> 00:12:54,974 何を大層に言うてますのや。 184 00:12:54,974 --> 00:12:58,311 新所帯は 力造さんのご近所。 185 00:12:58,311 --> 00:13:02,181 あんたも 落ち着いたら お店に 通いで来るのやろ? 186 00:13:02,181 --> 00:13:04,250 そやけど…。 187 00:13:04,250 --> 00:13:08,755 一生に一度のことやもん! 188 00:13:08,755 --> 00:13:15,928 お梅どん… よろしおましたなあ。 189 00:13:15,928 --> 00:13:21,601 今日は ホンマに きれいやで。 190 00:13:21,601 --> 00:13:23,536 (はなをすする音) 191 00:13:23,536 --> 00:13:25,772 おおきに。 192 00:13:25,772 --> 00:13:28,274 あっ あかん! 泣かんといて。 193 00:13:28,274 --> 00:13:32,612 もう せっかく きれいに化粧したのに 泣いたら またやり直しや。 194 00:13:32,612 --> 00:13:37,483 あかんて! 婚礼の日に「やり直し」は忌み言葉やわ! 195 00:13:37,483 --> 00:13:40,486 ホンマや… 堪忍な。 196 00:13:40,486 --> 00:13:48,961 (笑い声) 197 00:13:48,961 --> 00:13:53,633 (近江屋荘八)本日は お日柄もよく おめでとうさんでございます。 198 00:13:53,633 --> 00:13:57,136 お運びいただき ありがとさんでございます。 199 00:13:57,136 --> 00:14:04,377 フフフ…。 二人とも もうすっかり 五鈴屋さんの奉公人の顔やなあ。 200 00:14:04,377 --> 00:14:06,312 (壮太 長介)はい! (近江屋)うん。 201 00:14:06,312 --> 00:14:09,315 さあ どうぞ 上がっとくれやす。 (近江屋)うん。 202 00:14:14,921 --> 00:14:20,226 (談笑する声) 203 00:14:28,267 --> 00:14:33,272 あっ…。 (一同)おお… アハハハ…! 204 00:14:35,408 --> 00:14:39,278 お梅さん どうかしましたか? 205 00:14:39,278 --> 00:14:45,952 いや… あんまり ええ男やさかい 見惚れてしもた。 206 00:14:45,952 --> 00:14:52,291 (笑い声) (誠二)ええ~? 梅松さん 花婿冥利やな! 207 00:14:52,291 --> 00:14:58,598 (笑い声) 208 00:15:00,099 --> 00:15:05,838 〽 高砂や 209 00:15:05,838 --> 00:15:18,084 〽 この浦船に帆を上げて 210 00:15:18,084 --> 00:15:25,391 〽 この浦船に帆を上げて 211 00:15:25,391 --> 00:15:33,099 〽 月もろともに出で潮の 212 00:15:35,768 --> 00:15:40,640 花嫁衣装… よう似合うとるな。 213 00:15:40,640 --> 00:15:43,509 おおきに。 214 00:15:43,509 --> 00:15:46,779 幾久しゅう…。 215 00:15:46,779 --> 00:15:51,651 へえ。 幾久しゅう。 216 00:15:51,651 --> 00:15:56,956 あの二人 お似合いだすなあ。 へえ。 217 00:15:56,956 --> 00:16:10,903 ♬~ 218 00:16:10,903 --> 00:16:15,608 今日は ホンマにええ日や。 219 00:16:24,750 --> 00:16:27,787 (あくび) 220 00:16:27,787 --> 00:16:32,391 (枡吾屋忠兵衛) 今日までの売り上げが これだけかい? 221 00:16:32,391 --> 00:16:35,294 (平助)番頭さん 一体 どういうことです? 222 00:16:35,294 --> 00:16:41,934 (和助)はあ… 夏に 絽や紗の薄物が 売れなかったのが響いておりまして…。 223 00:16:41,934 --> 00:16:45,404 え~ 何せ…➡ 224 00:16:45,404 --> 00:16:49,942 五鈴屋さんの浴衣が売れに売れ…。 225 00:16:49,942 --> 00:16:52,278 私どもだけではございません。 226 00:16:52,278 --> 00:16:57,116 どこの呉服屋も 薄物の売り上げが 削られてしまい…。 227 00:16:57,116 --> 00:17:00,720 たかが太物屋一軒に してやられて➡ 228 00:17:00,720 --> 00:17:04,557 お前は 何の手も打たなかったと 言うのかい? 229 00:17:04,557 --> 00:17:09,729 干支の小紋も頭打ち… 帯結び指南だ何だと➡ 230 00:17:09,729 --> 00:17:17,236 店を開く時に始めたことも とうに お客に飽きられているのだよ。 231 00:17:17,236 --> 00:17:19,572 (和助)へい…。 232 00:17:19,572 --> 00:17:23,743 (結)新しい小紋の図案 今 練ってるとこだす。 233 00:17:23,743 --> 00:17:27,613 干支の小紋 超えるもん作って きっと巻き返しますよって➡ 234 00:17:27,613 --> 00:17:31,918 どうぞ 待ってておくれやす。 235 00:17:31,918 --> 00:17:34,220 (帳簿を閉じる音) 236 00:17:36,589 --> 00:17:42,461 (枡吾屋)そうかい。 それじゃあ… 当てにしているよ。 237 00:17:42,461 --> 00:17:55,608 ♬~ 238 00:17:55,608 --> 00:18:01,213 呉服商いを封じたのを逆手に取られるとは とんだ計算違いだ。 239 00:18:01,213 --> 00:18:05,217 あの女店主 思ったよりも やり手ですね。 240 00:18:08,554 --> 00:18:12,358 あれも 少しは商いの才があるかと思ったが…。 241 00:18:12,358 --> 00:18:14,293 (舌を鳴らす音) 242 00:18:14,293 --> 00:18:17,196 同じ姉妹で こうも違うとは。 243 00:18:17,196 --> 00:18:25,237 (風の音) 244 00:18:25,237 --> 00:18:38,250 ♬~ 245 00:18:43,255 --> 00:18:47,126 <翌年 宝暦10年 辰の年。➡ 246 00:18:47,126 --> 00:18:49,929 正月は 何事もなく過ぎて➡ 247 00:18:49,929 --> 00:18:53,799 初午も近い 2月のある日> 248 00:18:53,799 --> 00:18:59,105 (風の音) 249 00:19:00,873 --> 00:19:02,808 ああ…。 250 00:19:02,808 --> 00:19:08,047 ああ この朝顔 よう描けてますなあ。 へえ! 251 00:19:08,047 --> 00:19:11,884 あっ 菊もええなあ。 252 00:19:11,884 --> 00:19:15,755 花の柄 どれも優しいて かいらしいて➡ 253 00:19:15,755 --> 00:19:18,758 お客さんに喜んでいただけそうや。 254 00:19:18,758 --> 00:19:21,560 佐助どんが お湯屋から戻ったら➡ 255 00:19:21,560 --> 00:19:24,597 今年の新柄は どれがええか 相談しまひょな。 256 00:19:24,597 --> 00:19:26,599 へえ。 257 00:19:32,238 --> 00:19:34,907 ⚟(拍子木の音) 258 00:19:34,907 --> 00:19:38,778 「家内安全」…? 259 00:19:38,778 --> 00:19:43,382 これ 小紋染めの柄だすな? 260 00:19:43,382 --> 00:19:46,919 すんまへん 余計なもん 紛れ込んでしもて…。 261 00:19:46,919 --> 00:19:48,854 堪忍しておくれやす。 262 00:19:48,854 --> 00:19:53,259 「家内安全」は誰もが願うことだす。 263 00:19:53,259 --> 00:20:00,966 ああ… これ 縮緬で小紋に染めたら さぞ ええやろなあ。 264 00:20:06,405 --> 00:20:11,110 ご寮さん… 申し訳ございまへん。 265 00:20:14,613 --> 00:20:19,418 呉服商いができんようになったのは わてのせいだす。 266 00:20:22,288 --> 00:20:30,963 わてが… 傷つけてしもたばっかりに… 結さんは あない大それたことを…。 267 00:20:30,963 --> 00:20:38,437 枡吾屋さんに つけ込まれたのも 元はと言えば わてから起きたことだす。 268 00:20:38,437 --> 00:20:43,309 わてが… ご寮さんから➡ 269 00:20:43,309 --> 00:20:46,812 大事な呉服商い 奪うてしもうたんだす。 270 00:20:50,983 --> 00:20:56,288 賢輔どん それは違てますで。 271 00:20:58,324 --> 00:21:02,261 人の心が思いどおりにならんから いうて➡ 272 00:21:02,261 --> 00:21:07,399 恨んだり 憎んだりしてええはずがおまへん。 273 00:21:07,399 --> 00:21:13,272 型紙持って出たんも 枡吾屋さんに嫁いだんも➡ 274 00:21:13,272 --> 00:21:16,609 結が望んで したことだす。 275 00:21:16,609 --> 00:21:20,312 賢輔どんが 己を責めることやあらへん。 276 00:21:24,283 --> 00:21:29,989 落ち度があるのは… わての方だす。 277 00:21:31,624 --> 00:21:40,299 店のことに気ぃ取られて 結の気持ち ろくに考えてやらなんだ。 278 00:21:40,299 --> 00:21:43,636 結にも 言われたんだす。 279 00:21:43,636 --> 00:21:47,806 「姉さんには心がない」て…。 280 00:21:47,806 --> 00:21:50,709 そないなこと…! やめまひょ。 281 00:21:50,709 --> 00:21:53,312 この話は もう しまいや。 282 00:21:53,312 --> 00:22:01,387 ⚟(風の音) 283 00:22:01,387 --> 00:22:06,759 あ… ホンマに ええ柄や。 284 00:22:06,759 --> 00:22:14,767 いつか また 呉服商いができる日が来たら きっと この柄で小紋 染めまひょな。 285 00:22:16,468 --> 00:22:18,470 へえ…。 286 00:22:20,272 --> 00:22:23,175 それまでは こないして…。 287 00:22:23,175 --> 00:22:34,420 ♬~ 288 00:22:34,420 --> 00:22:39,625 わてが 大事に預からしてもらいます。 289 00:22:44,630 --> 00:22:50,502 ご寮さん… そや ありまへん。 290 00:22:50,502 --> 00:22:53,973 えっ? 291 00:22:53,973 --> 00:23:00,246 そやないんだす! 結さんは… 結さんは…➡ 292 00:23:00,246 --> 00:23:04,950 わてのホンマの思いに気付かはって… それで あないなことを…! 293 00:23:06,919 --> 00:23:08,854 わては…。 294 00:23:08,854 --> 00:23:12,591 ⚟(風の音) 295 00:23:12,591 --> 00:23:14,927 ⚟(戸の開閉音) (佐助)ご寮さん! 296 00:23:14,927 --> 00:23:19,265 火事だす! 神田川の向こうで 火の手が上がったようだす! 297 00:23:19,265 --> 00:23:23,269 風向き次第では ここも危のうおます! 298 00:23:23,269 --> 00:23:25,771 幸! 299 00:23:25,771 --> 00:23:27,706 賢輔どん 壮太どん 長介どん➡ 300 00:23:27,706 --> 00:23:30,609 蔵に火ぃ入らんように扉しっかり閉めて 用心土で目塗りしなはれ。 301 00:23:30,609 --> 00:23:33,279 (3人)へえ! お竹どんは 菊栄さんを手伝うて逃げる支度を。 302 00:23:33,279 --> 00:23:35,781 へえ! 佐助どん 帳簿 皆 集めとくれやす! 303 00:23:35,781 --> 00:23:38,284 へえ! 支度が済んだら すぐに火よけ地へ。 304 00:23:38,284 --> 00:23:41,120 人を待たずに それぞれで早う逃げなはれ。 よろしいな! 305 00:23:41,120 --> 00:23:43,155 (一同)へえ! 306 00:23:43,155 --> 00:23:45,958 これで全部だすか? (佐助)そうだす。 307 00:23:45,958 --> 00:23:48,627 帳簿だけは焼いたらあかん。 308 00:23:48,627 --> 00:23:59,305 ♬~ 309 00:23:59,305 --> 00:24:01,573 ⚟(半鐘の音) 310 00:24:01,573 --> 00:24:04,076 こんでええ…。 佐助どん ほな 火よけ地で。 311 00:24:04,076 --> 00:24:06,011 へえ! 312 00:24:06,011 --> 00:24:11,583 ⚟(半鐘の音) 313 00:24:11,583 --> 00:24:14,386 (賢輔)ご寮さん! 賢輔どん! 皆は? 314 00:24:14,386 --> 00:24:17,890 もう火よけ地に。 さあ 早う! 315 00:24:23,929 --> 00:24:39,478 ♬~ 316 00:24:39,478 --> 00:24:44,283 <この日 神田旅籠町の足袋屋 明石屋から出た火は➡ 317 00:24:44,283 --> 00:24:46,952 三方に燃え広がり➡ 318 00:24:46,952 --> 00:24:53,759 翌日の昼に鎮火するまでに 江戸の百二十町を焼き尽くしたのです> 319 00:24:57,296 --> 00:25:01,166 <五鈴屋のある田原町は類焼を免れ➡ 320 00:25:01,166 --> 00:25:05,738 鎮火の翌日 幸たちは店に戻りました> 321 00:25:05,738 --> 00:25:08,941 ⚟(駆けてくる足音) ⚟(お梅)ご寮さん! お竹どん! 322 00:25:11,543 --> 00:25:14,380 あ…。 皆さん ご無事ですか? 323 00:25:14,380 --> 00:25:16,915 へえ おかげさんで。 そちらは? 324 00:25:16,915 --> 00:25:21,086 はあ~ こっちも無事ですよ。 家も焼けずに済みました。 325 00:25:21,086 --> 00:25:25,257 ああ…。 火事の晩 大川端まで逃げたんだす。 326 00:25:25,257 --> 00:25:28,761 川向こうの空が 真っ赤に染まって➡ 327 00:25:28,761 --> 00:25:32,931 大川に架かった橋が 焼け落ちてしもて…。 328 00:25:32,931 --> 00:25:35,267 怖い思いしたんやな。 329 00:25:35,267 --> 00:25:39,271 うちの男たちが 知り合いを訪ねて回ってます。 330 00:25:39,271 --> 00:25:43,942 どこが どれほど焼けたのか… まだ見当がつかなくって。 331 00:25:43,942 --> 00:25:46,612 賢輔どんらも あちこち見に行ってますよって➡ 332 00:25:46,612 --> 00:25:48,947 おっつけ 様子も知れますやろ。 333 00:25:48,947 --> 00:25:53,819 火元に近い 紺屋町の辺りは すっかり焼けちまったようなんです。 334 00:25:53,819 --> 00:25:56,288 ほな 染物師さんたちは? 335 00:25:56,288 --> 00:26:00,125 焼け出されて困ってるだろうから これから ひとっ走り行って➡ 336 00:26:00,125 --> 00:26:03,562 炊き出しを手伝ってきますよ。 (お梅)わても お供してきます。 337 00:26:03,562 --> 00:26:07,433 ご寮さん 古い浴衣 持ってってもろたら どないだすやろ? 338 00:26:07,433 --> 00:26:10,235 ほどいたら 赤子のおむつにも使えますよって。 339 00:26:10,235 --> 00:26:14,540 それがええ。 ほな わての古手も出してきまひょ。 340 00:26:18,377 --> 00:26:20,746 近江屋さんは ご無事です。 341 00:26:20,746 --> 00:26:24,383 坂本町のギリギリまで 火が迫ったようですが 皆 おけがもなく。 342 00:26:24,383 --> 00:26:26,318 ああ… よろしおました。 343 00:26:26,318 --> 00:26:33,592 ただ… 近くの堺町や葺屋町の辺りは 一面 焼け野原でした。 344 00:26:33,592 --> 00:26:38,263 中村座も市村座も 茶屋から何から すっかり焼けてしまって…。 345 00:26:38,263 --> 00:26:41,600 ほな 栄次郎さんと吉之丞さんは どないしてはります? 346 00:26:41,600 --> 00:26:45,270 お目にかかれませんでしたが きっと ご無事です! 347 00:26:45,270 --> 00:26:48,774 芝居小屋は これまで 何度も 全焼の憂き目に遭ってきましたので。 348 00:26:48,774 --> 00:26:53,979 そうだすか…。 はあ… どうぞ ご無事で。 349 00:26:55,547 --> 00:26:58,417 ただいま戻りました! (佐助)おお… どないやった? 350 00:26:58,417 --> 00:27:01,220 へえ… 蔵前屋さんは ご無事でした。 351 00:27:01,220 --> 00:27:04,723 井筒屋さんのある駿河町は 火が回らなかったようで➡ 352 00:27:04,723 --> 00:27:06,758 町並みも 元のままでした。 353 00:27:06,758 --> 00:27:11,363 けど… 通りを挟んだ本両替町の辺りは すっかり…。 354 00:27:11,363 --> 00:27:13,432 えっ? 355 00:27:13,432 --> 00:27:19,071 (長介)枡吾屋さんは 蔵を残して 焼けていました。 356 00:27:19,071 --> 00:27:22,107 ほな… 日本橋枡吾屋の方は? 357 00:27:22,107 --> 00:27:26,745 それが… 江戸橋も日本橋も焼け落ちて…➡ 358 00:27:26,745 --> 00:27:30,249 通り二丁目の方に 渡ることができませんで。 359 00:27:30,249 --> 00:27:42,261 ♬~ 360 00:27:42,261 --> 00:27:46,765 (長介)賢輔どんが 一石橋の方から 回ってみるって言ってましたので…➡ 361 00:27:46,765 --> 00:27:50,636 戻ったら 様子が分かるかもしれません。 362 00:27:50,636 --> 00:27:54,840 そうだすか… ご苦労さんだした。 363 00:28:00,312 --> 00:28:10,122 (風の音) 364 00:28:13,225 --> 00:28:16,562 どないしたんや その格好! 大事おまへん…。 365 00:28:16,562 --> 00:28:19,364 水… 水一杯おくれやす…。 へえ。 366 00:28:19,364 --> 00:28:22,568 賢輔どん 日本橋の方には行けたんか? 367 00:28:22,568 --> 00:28:27,239 (賢輔)へえ… 通り二丁目の辺りは あきまへなんだ…。 368 00:28:27,239 --> 00:28:29,741 えっ? (賢輔)日本橋枡吾屋さんも➡ 369 00:28:29,741 --> 00:28:32,578 焼け落ちてしもてます。 370 00:28:32,578 --> 00:28:38,383 (お竹)お店の皆さんは… 結さんは ご無事だすか? 371 00:28:38,383 --> 00:28:43,255 (賢輔)方々 尋ねて回ったんだすけど どこに身を寄せてはるのか➡ 372 00:28:43,255 --> 00:28:45,958 お行方が 分かりまへん…。 373 00:28:48,393 --> 00:28:50,462 (賢輔)堪忍しておくれやす! 374 00:28:50,462 --> 00:28:54,466 (お竹)あちこち 血ぃ出てますで。 はよ洗いなはれ。 375 00:28:56,268 --> 00:28:58,770 (賢輔)ご寮さん? 376 00:28:58,770 --> 00:29:01,039 結を捜してきます。 (賢輔)あっ あきまへん! 377 00:29:01,039 --> 00:29:03,075 離しとくれやす!(賢輔)危のうおます! やめとくなはれ! 378 00:29:03,075 --> 00:29:05,544 結が待ってる… わてが行ってやらな! 379 00:29:05,544 --> 00:29:08,880 ご寮さん!ご寮さん! (菊栄)幸 あきまへん! 380 00:29:08,880 --> 00:29:11,216 夜の火事場は危ない! そないなとこに➡ 381 00:29:11,216 --> 00:29:14,720 主一人を行かせる奉公人が どこにいてますのや! 382 00:29:14,720 --> 00:29:18,590 あんさん 誰を道連れにするつもりや!? 383 00:29:18,590 --> 00:29:21,093 しっかりしなはれ! 384 00:29:26,431 --> 00:29:30,202 ああ… あっ…。 385 00:29:30,202 --> 00:29:33,238 はあ… はあ…。 386 00:29:33,238 --> 00:29:39,578 悪い方に考えたら あきまへん。 結さんは きっと ご無事だす。 387 00:29:39,578 --> 00:29:43,382 あ… ああ…。 388 00:29:43,382 --> 00:29:54,993 ♬~ 389 00:29:54,993 --> 00:30:03,302 <類焼を免れた駿河町も 辺りには まだ 焦げ臭いにおいが立ちこめていました> 390 00:30:10,275 --> 00:30:12,978 この辺りのはずだす。 391 00:30:19,985 --> 00:30:23,422 (惣次)井筒屋を探してはるんやったら ここだすで。 392 00:30:23,422 --> 00:30:25,791 惣ぼんさん…。 393 00:30:25,791 --> 00:30:29,428 あんさんのことや 訪ねてくるやろ思てましたわ。 394 00:30:29,428 --> 00:30:31,630 惣ぼんさん? 395 00:30:35,233 --> 00:30:39,971 賢吉っとんか? えらい大きなったなあ。 396 00:30:39,971 --> 00:30:42,641 お久しゅうございます。 397 00:30:42,641 --> 00:30:45,977 井筒屋さんに お尋ねしたいことがございます。 398 00:30:45,977 --> 00:30:49,648 妹のことやったら 無事だすで。 399 00:30:49,648 --> 00:30:54,820 無事? ああ… あっ。 400 00:30:54,820 --> 00:30:58,323 あ… 今 どこにいてるか ご存じだすやろか? 401 00:30:58,323 --> 00:31:01,927 (大八車が通る音) 402 00:31:01,927 --> 00:31:05,597 外は やかましいわ。 中で話しまひょか。 403 00:31:05,597 --> 00:31:09,301 (お杉)旦那さん? お帰りだすか? 404 00:31:11,103 --> 00:31:13,138 お杉どん…。 405 00:31:13,138 --> 00:31:22,814 ♬~ 406 00:31:22,814 --> 00:31:25,617 これ… 仏さんに頼むわ。 407 00:31:25,617 --> 00:31:30,122 へえ。 お花 よう手に入りましたな。 408 00:31:30,122 --> 00:31:32,057 まあ 入りなはれ。 409 00:31:32,057 --> 00:31:40,832 ♬~ 410 00:31:40,832 --> 00:31:45,137 あんさんの妹も 連れ合いの枡吾屋忠兵衛も➡ 411 00:31:45,137 --> 00:31:48,173 山下町の別宅に身を寄せているそうや。 412 00:31:48,173 --> 00:31:50,809 山下町? 413 00:31:50,809 --> 00:31:54,446 (惣次) 両替屋も呉服屋も両方焼けてしもて➡ 414 00:31:54,446 --> 00:32:00,252 今頃は 夫婦そろって 悔し涙に暮れてますやろ。 415 00:32:00,252 --> 00:32:05,957 向こうは あんさんのことなんぞ 案じる暇もなさそうや。 416 00:32:10,262 --> 00:32:14,766 店主が通いやさかい 火事の晩も➡ 417 00:32:14,766 --> 00:32:18,637 呉服屋には 奉公人しかおらなんだそうだす。 418 00:32:18,637 --> 00:32:25,477 誰一人 店を守ろうとせず 我先に逃げ出したらしいわ。 419 00:32:25,477 --> 00:32:32,784 鼠穴から火が入って 蔵の品も帳簿も 皆 焼けてしもたそうや。 420 00:32:32,784 --> 00:32:34,719 帳簿まで…。 421 00:32:34,719 --> 00:32:37,422 品物は また仕入れたらええ。 422 00:32:37,422 --> 00:32:42,928 けど… 帳簿や証文は 焼けたら どないもならん。 423 00:32:45,797 --> 00:32:51,303 30年も前の話やけどな 大坂の大火の時➡ 424 00:32:51,303 --> 00:32:57,642 治兵衛どんの指図で 帳簿 皆 井戸に放り込みましたんや。 425 00:32:57,642 --> 00:33:05,750 火事のあと なんとか 店 立て直せたんは 帳簿が残ってたおかげや。 426 00:33:05,750 --> 00:33:10,088 治兵衛どんは ホンマに知恵者やった。 427 00:33:10,088 --> 00:33:14,759 その話 わても聞いてます。 428 00:33:14,759 --> 00:33:19,965 (惣次) ほな あんたの店も同じようにしたんか? 429 00:33:32,177 --> 00:33:35,947 どうぞ。 お杉どん…。 430 00:33:35,947 --> 00:33:39,284 達者で何よりだす。 431 00:33:39,284 --> 00:33:41,286 へえ。 432 00:33:44,623 --> 00:33:48,793 うちで働いてもろて 何年になるやろか? 433 00:33:48,793 --> 00:33:51,296 8年と少しだす。 434 00:33:51,296 --> 00:33:53,965 8年…。 435 00:33:53,965 --> 00:33:57,969 女房の世話 ようしてもろたんや。 436 00:34:03,575 --> 00:34:07,779 (お杉)今日は 雪乃様の月命日だす。 437 00:34:09,381 --> 00:34:14,219 (お杉)親旦那さんも 雪乃様も…。 438 00:34:14,219 --> 00:34:16,588 そうだすか…。 439 00:34:16,588 --> 00:34:19,491 存じ上げまへんで 失礼いたしました。 440 00:34:19,491 --> 00:34:21,760 お悔やみ申し上げます。 441 00:34:21,760 --> 00:34:28,466 (惣次)ああ… まあ もう3年も前の話や。 442 00:34:31,937 --> 00:34:36,608 智蔵も… もう おらんしな。 443 00:34:36,608 --> 00:34:38,610 へえ…。 444 00:34:41,112 --> 00:34:45,784 <二人が別れてからの長い年月の間に➡ 445 00:34:45,784 --> 00:34:53,091 惣次も 幸と同じように 大切な人たちを失っていたのでした> 446 00:34:56,494 --> 00:35:00,432 ほな… もう よろしいな? 447 00:35:00,432 --> 00:35:03,201 話は済みましたで。 448 00:35:03,201 --> 00:35:21,252 ♬~ 449 00:35:21,252 --> 00:35:24,255 どうも。 ありがとうございました~。 450 00:35:24,255 --> 00:35:28,126 五鈴屋さんが店開けてくれて 大助かりだよ。 451 00:35:28,126 --> 00:35:30,762 火事見舞いには 木綿が何よりだもんねえ。 ねえ。 452 00:35:30,762 --> 00:35:35,100 元のとおり 三十匁で売るところが 五鈴屋さんらしいよ。 453 00:35:35,100 --> 00:35:37,035 本当に。 454 00:35:37,035 --> 00:35:40,271 (安兵衛)堪忍しておくんなせえ! 455 00:35:40,271 --> 00:35:45,777 作りためていた小鈴のかんざし 大半が火にのまれちまって。 456 00:35:45,777 --> 00:35:52,283 僅かに残ったものも… こんなありさまでごぜえやす。 457 00:35:53,952 --> 00:35:55,954 あっ…。 458 00:35:58,423 --> 00:36:01,326 (安兵衛)大事なものだからと 奥にしまっておいたのが➡ 459 00:36:01,326 --> 00:36:03,261 あだになっちまって…。 460 00:36:03,261 --> 00:36:07,232 ひ… 火の回りが 思いの外 はやく➡ 461 00:36:07,232 --> 00:36:09,567 持ち出せなかったんでごぜえやす。 462 00:36:09,567 --> 00:36:12,771 何と おわび申し上げたらいいか…。 463 00:36:16,241 --> 00:36:23,114 親方さん… 教えておくれやす。 464 00:36:23,114 --> 00:36:25,917 へい…。 465 00:36:25,917 --> 00:36:30,588 皆さん ご無事だすやろか? 466 00:36:30,588 --> 00:36:32,524 えっ? 467 00:36:32,524 --> 00:36:39,264 お身内も 職人さんも どなたも 命 落としたりしてまへんやろな? 468 00:36:39,264 --> 00:36:44,135 へ… へい…。 ちいとばかり やけどや けがは していても➡ 469 00:36:44,135 --> 00:36:46,771 誰一人 死んだ者はおりやせん。 470 00:36:46,771 --> 00:36:51,609 はあ~ 何よりだす。 471 00:36:51,609 --> 00:36:53,545 はあ…。➡ 472 00:36:53,545 --> 00:36:56,948 かんざしは また作ってもろたら よろしおます。➡ 473 00:36:56,948 --> 00:37:02,754 けど… 命のかえはありまへんよってなあ。 474 00:37:02,754 --> 00:37:05,557 はあ…。 475 00:37:05,557 --> 00:37:10,895 親方さん… こないな時に無理言うようだすけど➡ 476 00:37:10,895 --> 00:37:15,767 引き続き 小鈴のかんざし こしらえてもらえますやろか? 477 00:37:15,767 --> 00:37:17,769 ですが その…。 478 00:37:17,769 --> 00:37:20,371 かかりのことなら 心配いりまへん。 479 00:37:20,371 --> 00:37:26,911 これまでの分も これからの分も 皆 お支払いさせていただきます。 480 00:37:26,911 --> 00:37:32,584 あの… それじゃあ… これまでの手間賃も 頂戴できるんでごぜえやすか? 481 00:37:32,584 --> 00:37:36,254 へえ もちろんだす! 482 00:37:36,254 --> 00:37:39,090 (安兵衛) けど… 品物をお納めするまでは➡ 483 00:37:39,090 --> 00:37:42,927 何かあったら こっちが ひっかぶるってのが お定まりですぜ…? 484 00:37:42,927 --> 00:37:44,863 かんざしは焼けてしもても➡ 485 00:37:44,863 --> 00:37:50,268 手間かけて作らはったことに 変わりはおまへんさかい。 486 00:37:50,268 --> 00:37:55,140 親方さん 皆さん 難儀されてはるやろけど➡ 487 00:37:55,140 --> 00:37:57,942 わても お力になりますよって➡ 488 00:37:57,942 --> 00:38:02,347 どうぞ 一本でも多く こしらえておくれやす。 489 00:38:02,347 --> 00:38:06,050 よろしゅうお頼申します。 490 00:38:06,050 --> 00:38:09,721 おかみさん…。 491 00:38:09,721 --> 00:38:16,494 あっ… 今 頂戴したお言葉 職人連中に しっかりと話して聞かせやす! 492 00:38:16,494 --> 00:38:19,731 任せておくんなせえ! 493 00:38:19,731 --> 00:38:26,604 ご注文どおり 11月の中村座の 顔見世までに きっちり 数をそろえて➡ 494 00:38:26,604 --> 00:38:29,240 お納めいたしやす! 親方さん…。 495 00:38:29,240 --> 00:38:35,914 な~に… 腕と道具さえありゃ 仕事は どこでだって できまさあ! フッ。 496 00:38:35,914 --> 00:38:40,785 ノロノロする野郎がいたら あっしが 尻ひっぱたいてでも作らせやす! 497 00:38:40,785 --> 00:38:43,655 まあ そない むちゃせえでも。 フフッ。 498 00:38:43,655 --> 00:38:48,626 <失ったものを嘆かず 相手の身を思う。➡ 499 00:38:48,626 --> 00:38:56,134 幸は 菊栄の商人としての器の大きさに 改めて感じ入ったのです> 500 00:38:59,604 --> 00:39:02,507 えらいこっちゃ…! 501 00:39:02,507 --> 00:39:04,576 ご寮さん いてはりますか!? 502 00:39:04,576 --> 00:39:07,212 どないしたんや 血相変えて! 503 00:39:07,212 --> 00:39:11,216 どないもこないも… 大変だすのや! 大きな声 出しなはんな。 504 00:39:11,216 --> 00:39:13,885 どないしたんだす? 店まで聞こえてますで。 505 00:39:13,885 --> 00:39:16,721 すんまへん。 けど えらいことだす! 506 00:39:16,721 --> 00:39:22,527 八ツ小路の露店で 五鈴屋の藍染めが 倍の値ぇで売られてます! 507 00:39:22,527 --> 00:39:24,462 (2人)えっ? 508 00:39:24,462 --> 00:39:27,899 八ツ小路て… 筋違見附のとこの 火よけ地だすな。 509 00:39:27,899 --> 00:39:31,369 五鈴屋の藍染めに間違いおまへんのか? 510 00:39:31,369 --> 00:39:36,741 へえ。 鈴の緒の柄に 銀六十匁の値ぇついてて。 511 00:39:36,741 --> 00:39:39,644 ほな ここで買うた品を 八ツ小路に持ってって➡ 512 00:39:39,644 --> 00:39:44,616 倍の値ぇで売ってるいうことかいな。 (お竹)なんちゅう あくどいことを! 513 00:39:44,616 --> 00:39:48,253 (佐助) けど そない高いもん 売れまへんやろ? 514 00:39:48,253 --> 00:39:51,155 (お梅)それが よう売れてますのや! 515 00:39:51,155 --> 00:39:57,929 はあ… 火事のあとは 物がないさかい 高うても買う人がいてはりますのやな。 516 00:39:57,929 --> 00:39:59,964 そういえば 昨日も おとといも➡ 517 00:39:59,964 --> 00:40:03,401 十反まとめて お買い求めになる お客さんがおいででした。 518 00:40:03,401 --> 00:40:07,272 火事見舞いに配ると仰せでしたので 疑いもせずに お売りしましたが…➡ 519 00:40:07,272 --> 00:40:12,410 ひょっとすると…。 又売りだす。➡ 520 00:40:12,410 --> 00:40:15,780 これからは まとめ買いは お断りせなあきまへんな。 521 00:40:15,780 --> 00:40:19,117 へえ…。 (壮太) 八ツ小路の様子 見に行ってまいります。 522 00:40:19,117 --> 00:40:22,420 ほな わても一緒に。 佐助どん 店 頼みます。 523 00:40:22,420 --> 00:40:25,290 へえ。 524 00:40:25,290 --> 00:40:33,965 (にぎわい) 525 00:40:33,965 --> 00:40:39,437 どの店も いつもの倍はする 法外な値ぇつけてますなあ。 526 00:40:39,437 --> 00:40:42,307 大火のあとは いつも こうです。 527 00:40:42,307 --> 00:40:46,144 物不足につけ込んで ひともうけを たくらむとは…➡ 528 00:40:46,144 --> 00:40:48,346 ひどい話ですが…。 529 00:40:53,651 --> 00:40:55,687 古手が…。 530 00:40:55,687 --> 00:41:00,925 柳原の土手が焼けてしまって 古着屋も こっちに移ってきたみたいですね。 531 00:41:00,925 --> 00:41:03,594 ⚟これが二百文だって!? べらぼう高えじゃねえか! 532 00:41:03,594 --> 00:41:06,631 嫌なら買うな よしにしろ。 人の足元 見やがって! 533 00:41:06,631 --> 00:41:08,766 あ~ これでも ここいらじゃ 安い方だよ。 534 00:41:08,766 --> 00:41:10,702 これが ほかで 二百文で売ってるかっつうんだ! 535 00:41:10,702 --> 00:41:12,937 てめえ 仕入れに いくらかかると 思ってやがんだ この野郎! 536 00:41:12,937 --> 00:41:15,974 お梅どんが藍染めを見たのは あの辺りのはずです。 537 00:41:15,974 --> 00:41:18,176 ちょっと 様子を見てきます。 538 00:41:30,355 --> 00:41:34,959 ♬~ 539 00:41:34,959 --> 00:41:38,830 結! ああ… よう無事で! 540 00:41:38,830 --> 00:41:43,301 ホンマに えらい目に遭うたなあ…。 541 00:41:43,301 --> 00:41:48,639 裏切り者が ふさわしい報いを受けたて そない思てはりますのやろ? 542 00:41:48,639 --> 00:41:50,675 えっ? 543 00:41:50,675 --> 00:41:55,313 それとも… 哀れんではりますのか? 544 00:41:55,313 --> 00:41:57,248 結…。 545 00:41:57,248 --> 00:42:01,586 (風の音) 546 00:42:01,586 --> 00:42:04,622 ご寮さん 反物を売る店が 向こうに…。 547 00:42:04,622 --> 00:42:13,598 ♬~ 548 00:42:13,598 --> 00:42:20,471 うちを哀れに思うてはるのやったら 今に悔いることになりますで。 549 00:42:20,471 --> 00:42:23,107 行きますで。 550 00:42:23,107 --> 00:42:35,286 ♬~ 551 00:42:35,286 --> 00:42:37,789 染物師が消えた?太物も…。 552 00:42:37,789 --> 00:42:41,292 太物も?私たちも売値を 見直してはいかがでしょう? 553 00:42:41,292 --> 00:42:44,295 悪い手ぇやな。 値を据え置いては いかがでしょう? 554 00:42:44,295 --> 00:42:46,798 悪い手ぇだす。 なんとまあ…。 555 00:42:46,798 --> 00:42:49,434 大いに稼いでもらわないとね。 556 00:42:49,434 --> 00:42:55,239 小さい川も 集まれば大きな川になります。 て… てえへんだ~!