1 00:00:04,137 --> 00:00:10,410 <五鈴屋が江戸店を開いて 今日で ちょうど ひとつき。➡ 2 00:00:10,410 --> 00:00:16,283 いよいよ お竹の帯結び指南の始まりです> 3 00:00:16,283 --> 00:00:18,585 (お竹)こんでええ。 4 00:00:22,623 --> 00:00:24,625 <ところが…> 5 00:00:27,494 --> 00:00:30,964 (佐助)どなたも おいでになりまへんなあ。 6 00:00:30,964 --> 00:00:34,635 (賢輔)八つから始めますて お伝えしましたんやけど…。 7 00:00:34,635 --> 00:00:40,807 もう半刻過ぎてますで。 ぼちぼち 西日もさしてきますわ。 8 00:00:40,807 --> 00:00:43,110 (幸)そうだすなあ。 9 00:00:45,312 --> 00:00:50,150 すんまへん… 今日は もう…。 10 00:00:50,150 --> 00:00:52,452 もうちょっと待ってみまひょ。 11 00:00:52,452 --> 00:00:56,323 初日やさかい 遅れてくる方も いてはるかもしれまへん。 12 00:00:56,323 --> 00:00:58,258 へえ…。 13 00:00:58,258 --> 00:01:02,095 (お才)ごめんなさいよ。 お才さん! 14 00:01:02,095 --> 00:01:05,933 帯結びの稽古 今からでもお願いできますかね? 15 00:01:05,933 --> 00:01:10,804 へえ! よう おいでやす。 (お浜)私たちも一緒にいいかい? 16 00:01:10,804 --> 00:01:15,275 (お照)そこをウロウロしてたら お才さんに誘われてさ ハハハ! 17 00:01:15,275 --> 00:01:17,945 (お仲)今締めてる この帯しか ないんだけど…。 18 00:01:17,945 --> 00:01:21,415 へえ! 締め慣れた帯の方が お稽古にはよろしおます。 19 00:01:21,415 --> 00:01:24,318 さあさあ どうぞ お上がりやす。 わあ よかった。 20 00:01:24,318 --> 00:01:27,621 さあ どうぞ。 失礼します。 21 00:01:27,621 --> 00:01:32,793 手ぇを上から巻きつけて 下に…➡ 22 00:01:32,793 --> 00:01:36,964 胴帯の中を通してみておくれやす。 23 00:01:36,964 --> 00:01:38,899 は… 入ってる? できてるか? 24 00:01:38,899 --> 00:01:41,635 入ってる 入ってる? ちょっと…。 25 00:01:41,635 --> 00:01:44,438 小頭はん お二人お見えだす。 26 00:01:44,438 --> 00:01:47,341 へえ! どうぞ。 27 00:01:47,341 --> 00:01:50,644 今日は カルタ結びだす。 28 00:01:50,644 --> 00:01:55,983 <お竹の帯結び指南も 無事に動きだしたのです> 29 00:01:55,983 --> 00:01:58,452 できた! こっちも できた こっちも できた。 30 00:01:58,452 --> 00:02:00,387 ほれ… ほれ…。 31 00:02:00,387 --> 00:02:13,400 ♬~ 32 00:02:13,400 --> 00:02:19,606 <開店当初は にぎわった江戸店でしたが ふたつきが過ぎると…> 33 00:02:19,606 --> 00:02:24,778 月末やいうのに 先月の半分も売れてまへんなあ。 34 00:02:24,778 --> 00:02:29,116 二月に入ってから ぱったり客足が落ちてしもて…。 35 00:02:29,116 --> 00:02:34,788 今日 売れたんは 木綿二反に 帯地が一本。 (2人)へえ…。 36 00:02:34,788 --> 00:02:37,824 売り上げのお役に立てへんと 申し訳ありまへん。 37 00:02:37,824 --> 00:02:43,430 何言うてますのや。 二月は 一年で一番 物が売れん月だす。 38 00:02:43,430 --> 00:02:45,966 天満の本店かて そうだしたやろ。 39 00:02:45,966 --> 00:02:51,438 屋敷回りの掛け売りなら こないな時は お得意さんにお頼みしますのやけど➡ 40 00:02:51,438 --> 00:02:55,442 店前現銀売りでは そうもまいりまへんし…。 41 00:02:57,978 --> 00:03:02,582 先月までは 店開きのご祝儀やったんだすなあ。 42 00:03:02,582 --> 00:03:08,388 ここからが ホンマの勝負だす。 三月から また仕切り直しまひょ。 43 00:03:08,388 --> 00:03:10,457 (一同)へえ。 44 00:03:10,457 --> 00:03:21,468 ⚟(犬の鳴き声) 45 00:03:29,810 --> 00:03:32,279  回想 (亀三)江戸で 何ぞ 困ったことあったら➡ 46 00:03:32,279 --> 00:03:36,983 この人 訪ねてみなはれ。 きっと 知恵貸してくれるはずや。 47 00:03:43,623 --> 00:03:46,426 「菊瀬栄次郎」…。 48 00:03:52,632 --> 00:04:00,240 (太鼓の音) 49 00:04:00,240 --> 00:04:03,910 <中村座は 江戸三座の一つに数えられる➡ 50 00:04:03,910 --> 00:04:06,379 芝居小屋です。➡ 51 00:04:06,379 --> 00:04:11,918 吉原や魚河岸と並んで 一日に千両の金が落ちるといわれる➡ 52 00:04:11,918 --> 00:04:14,421 にぎわいぶりでした> 53 00:04:21,394 --> 00:04:26,266 んっ…。 佐野屋の旦那なら まだ楽屋入りしてませんぜ。 54 00:04:26,266 --> 00:04:28,769 いつ伺わしてもろたら お目にかかれますやろか。 55 00:04:28,769 --> 00:04:30,771 はあ~…。 56 00:04:33,607 --> 00:04:36,510 急ぎの用なら 家を訪ねてごらんなせえ。 57 00:04:36,510 --> 00:04:38,779 お宅は どちらにございますのやろ? 58 00:04:38,779 --> 00:04:42,616 ついそこでさ。 59 00:04:42,616 --> 00:04:46,419 楽屋新道を左に行って十軒目ですよ。 60 00:04:46,419 --> 00:04:50,223 あ… おおきに ありがとさんでございます。 61 00:05:04,805 --> 00:05:07,808 日本橋の大店や。 62 00:05:14,915 --> 00:05:25,258 ⚟♬~(歌声と三味線) 63 00:05:25,258 --> 00:05:27,194 ごめんやす。 64 00:05:27,194 --> 00:05:30,597 ⚟(栄次郎) 違う! 何べん教えりゃ分かるんだ。➡ 65 00:05:30,597 --> 00:05:33,934 おめえは 役者には向かねえ。 やめちめえな! 66 00:05:33,934 --> 00:05:37,938 (吉二) あい! そんなら お暇いたします! 67 00:05:40,273 --> 00:05:42,209 (吉二)あ…。 68 00:05:42,209 --> 00:05:47,414 あの~ 菊瀬栄次郎さんに お目にかかりとう存じますのやけど➡ 69 00:05:47,414 --> 00:05:50,283 お取り次ぎ お願いできますやろか。 70 00:05:50,283 --> 00:05:53,954 はい。 お師匠さん お客さんですよ。 71 00:05:53,954 --> 00:05:57,657 (栄次郎)お客? 誰だい? 72 00:06:01,561 --> 00:06:04,231 栄次郎は 私ですが…。 73 00:06:04,231 --> 00:06:11,104 浅草田原町で呉服太物を商うております 五鈴屋と申します。 74 00:06:11,104 --> 00:06:13,106 あ…。 75 00:06:18,578 --> 00:06:25,252 ふ~ん… それじゃあ 人形遣いの亀三が おめえさんに俺の話をしたってことかい。 76 00:06:25,252 --> 00:06:29,589 へえ。 一度 お訪ねしてみたら ええのやないかて。 77 00:06:29,589 --> 00:06:37,764 亀三は古いなじみだがね 俺のツテで 中村座の座元に売り込もうって腹なら➡ 78 00:06:37,764 --> 00:06:40,400 当て外れだぜ。 えっ? 79 00:06:40,400 --> 00:06:46,606 日本橋の大店が何軒も出入りしてらあ。 新参者の入り込む隙はねえよ。 80 00:06:46,606 --> 00:06:49,943 そうだすか…。 さあ 話が終わったら帰りな。 81 00:06:49,943 --> 00:06:52,979 あっ まだお話が…。 82 00:06:52,979 --> 00:06:58,618 江戸店開いて ふたつき半 どないしたら 江戸のお客さんに喜んでいただけるか➡ 83 00:06:58,618 --> 00:07:02,222 迷うております。 商いのことを役者に聞くのかい? 84 00:07:02,222 --> 00:07:05,058 市松模様も 水木結びも➡ 85 00:07:05,058 --> 00:07:09,362 ひいきの役者さん まねることから はやったんだそうだすな。 86 00:07:09,362 --> 00:07:13,566 亀三さんが こちらをお訪ねするよう 勧めてくれはったんは➡ 87 00:07:13,566 --> 00:07:16,903 商いの知恵が見つかる 思わはったからやないかて…。 88 00:07:16,903 --> 00:07:19,739 待った。 俺は 老け役だぜ。 89 00:07:19,739 --> 00:07:24,244 娘っ子が夢中になるような はやり物とは縁がねえよ。 90 00:07:24,244 --> 00:07:26,746 あ…。 (足音) 91 00:07:29,749 --> 00:07:33,253 こいつは死んだ兄貴の養子でね。 92 00:07:33,253 --> 00:07:35,255 おいでなさいませ。 93 00:07:35,255 --> 00:07:39,059 兄貴は 立女形で大層の人気だったから➡ 94 00:07:39,059 --> 00:07:43,897 生きてりゃ おめえさんの 役に立ったかもしれねえが…。 95 00:07:43,897 --> 00:07:47,801 吉二 何だい このぎこちねえ動きは! 96 00:07:47,801 --> 00:07:51,638 日頃の所作が舞台に出ると 口を酸っぱくして言ってるだろうが。 97 00:07:51,638 --> 00:07:55,942 けど お師匠さん この稽古着がいけないんですよ。 98 00:07:55,942 --> 00:07:58,611 ゴワゴワして 動きにくいったらありゃしない。 99 00:07:58,611 --> 00:08:02,349 口答えしてねえで あっち行ってろ。 100 00:08:02,349 --> 00:08:04,284 はい…。 101 00:08:04,284 --> 00:08:09,556 木綿の袷… それ 仕立て下ろしだすか? 102 00:08:09,556 --> 00:08:12,225 そうですよ。 あ…。 103 00:08:12,225 --> 00:08:16,096 木綿の袷は 重いし 滑りが悪いさかい➡ 104 00:08:16,096 --> 00:08:20,100 体になじむまで 時がかかるのは わてにも覚えがあります。 105 00:08:20,100 --> 00:08:23,570 ええ… おっしゃるとおりですとも! 106 00:08:23,570 --> 00:08:28,241 フフッ… とんだ助っ人が来たもんだ。 107 00:08:28,241 --> 00:08:35,582 五鈴屋さん それじゃあ 木綿で動きやすい 稽古着を仕立ててやっちゃくれねえか? 108 00:08:35,582 --> 00:08:39,386 えっ? この跳ねっ返りに似合う着物一枚➡ 109 00:08:39,386 --> 00:08:42,255 あつらえてもらいてえんだ。 110 00:08:42,255 --> 00:08:45,592 木綿で動きやすいものを…。 111 00:08:45,592 --> 00:08:50,397 (栄次郎)おめえさんも 江戸店を構えるほどの呉服太物屋だ。➡ 112 00:08:50,397 --> 00:08:55,235 何ぞ 工夫のしようがあるだろうよ。 113 00:08:55,235 --> 00:09:00,874 フフフ… はなから無理だってえなら 頼まねえがな。 114 00:09:00,874 --> 00:09:04,744 面白い。 115 00:09:04,744 --> 00:09:08,548 ご注文 ありがとさんでございます。 116 00:09:08,548 --> 00:09:10,884 しばらく時を頂戴して➡ 117 00:09:10,884 --> 00:09:14,554 仕立て上がりましたら お届けに上がります。 118 00:09:14,554 --> 00:09:17,590 おう… フフフ。 119 00:09:17,590 --> 00:09:20,427 (佐助)えっ!? あの菊瀬栄次郎に? 120 00:09:20,427 --> 00:09:23,897 そない 名ぁの知れた役者さんだすか? 121 00:09:23,897 --> 00:09:27,734 へえ! わてらかて知ってるほどだす。 なあ? 122 00:09:27,734 --> 00:09:32,605 へえ! 三都一の女形や言われた 菊瀬栄之丞の弟さんだす。 123 00:09:32,605 --> 00:09:37,077 子役の吉二も 美しい上に芸もうまいて評判だすわ。 124 00:09:37,077 --> 00:09:40,113 きれいなお顔 してはりましたわ。 125 00:09:40,113 --> 00:09:46,086 けど 妙だすなあ… 出入りの呉服屋 なんぼでも ありますやろに➡ 126 00:09:46,086 --> 00:09:48,588 稽古着一枚 注文するやなんて。 127 00:09:48,588 --> 00:09:51,391 ただの稽古着やありまへん。 128 00:09:51,391 --> 00:09:55,762 動きやすうて 吉二さんに似合う 木綿の袷だす。 129 00:09:55,762 --> 00:10:01,101 そら 何べんも洗たら 木綿かて やらこうなりますけど➡ 130 00:10:01,101 --> 00:10:05,772 そないな着古しみたいなもんでは あきまへんのやろな。へえ。 131 00:10:05,772 --> 00:10:09,109 (佐助)ご寮さん からかわれはったんや おまへんか? 132 00:10:09,109 --> 00:10:13,413 絹と違て 木綿は滑りが悪いと 決まったもんだす。 133 00:10:13,413 --> 00:10:17,283 工夫いうたかて…。 せっかく頂いたお話だす。 134 00:10:17,283 --> 00:10:21,955 なんとか お心にかなうよう 知恵絞らなあきまへん。 135 00:10:21,955 --> 00:10:23,957 へえ。 136 00:10:30,630 --> 00:10:36,936 吉二さんに似合う 動きやすい稽古着…。 137 00:10:48,648 --> 00:10:50,650 はあ…。 138 00:10:54,320 --> 00:10:57,624 <そして半月後> 139 00:11:00,927 --> 00:11:04,631 ⚟おう そっち運んで。 ⚟はい! 140 00:11:06,399 --> 00:11:08,935 (仙太)さあ こちらでさあ! へえ。 141 00:11:08,935 --> 00:11:10,937 あっ こりゃどうも。 142 00:11:14,607 --> 00:11:17,510 (仙太)ハハッ すいやせんね。 143 00:11:17,510 --> 00:11:22,282 新狂言の「一谷嫩軍記」が 初日から大入りでねえ。 144 00:11:22,282 --> 00:11:26,286 佐野屋の旦那の弥陀六が もう大層の評判でさ! 145 00:11:26,286 --> 00:11:30,423 あっ 吉二さんの敦盛も そりゃあ きれいだ! フフフ。 146 00:11:30,423 --> 00:11:33,626 まあ 用が済んだら ちょいと のぞいてごらんなせえやし。 147 00:11:33,626 --> 00:11:37,964 へえ ありがとさんでございます。 ハハハ いやいや いやいや…。 148 00:11:37,964 --> 00:11:40,300 五鈴屋さん こっちですよ。 149 00:11:40,300 --> 00:11:42,302 へえ! (仙太)じゃあ あっしは これで。 150 00:11:42,302 --> 00:11:46,639 ごめんやしておくれやす。 あっ…。 151 00:11:46,639 --> 00:11:50,510 きれいなお子だすなあ…。 152 00:11:50,510 --> 00:11:53,012 お竹どん。 あっ へえ! 153 00:11:59,652 --> 00:12:02,922 おお… いい色だなあ。 154 00:12:02,922 --> 00:12:06,626 どうぞ お手に取って見とくれやす。 155 00:12:13,933 --> 00:12:17,604 ん? 裏は絹かい? 156 00:12:17,604 --> 00:12:24,477 絹の着物には絹の裏 木綿には木綿の裏を つけるってのが 決まりじゃねえのかい? 157 00:12:24,477 --> 00:12:27,280 あ… おきて破りではおますけど➡ 158 00:12:27,280 --> 00:12:31,284 絹裏の方が滑りがようて 動きやすうおます。 159 00:12:31,284 --> 00:12:36,623 その裏は 五鈴屋特製の浜羽二重でございます。 160 00:12:36,623 --> 00:12:41,294 よその品に比べて 厚うて丈夫に出来てますよって➡ 161 00:12:41,294 --> 00:12:47,634 お稽古で着ていただいたかて そうそう傷めしまへん。 162 00:12:47,634 --> 00:12:49,569 きれい…。 163 00:12:49,569 --> 00:12:54,274 吉二さん お召しになってみまへんか? 164 00:12:59,979 --> 00:13:02,582 へえ これでよろしおます。 165 00:13:02,582 --> 00:13:04,517 あ…。 166 00:13:04,517 --> 00:13:07,920 ああ こりゃあ いいや! 167 00:13:07,920 --> 00:13:11,791 軽くって動きやすいよ。 ようお似合いでございます。 168 00:13:11,791 --> 00:13:16,262 帯の形もいいな 見たことのねえ結び方だが。 169 00:13:16,262 --> 00:13:20,133 文庫結びに 少し 手ぇ加えたものでございます。 170 00:13:20,133 --> 00:13:25,772 うちでは この小頭役が 帯結びのご指南もしております。 171 00:13:25,772 --> 00:13:30,410 へえ~ 女の小頭役か 珍しいな。 172 00:13:30,410 --> 00:13:34,280 お師匠さん これなら いくらでも踊れそうですよ。 173 00:13:34,280 --> 00:13:36,983 (鼓の音) 174 00:13:42,622 --> 00:13:46,125 丈夫や言うても絹でございます。 175 00:13:46,125 --> 00:13:50,430 お稽古に励んで傷んでしもた時は 裏の付け替え➡ 176 00:13:50,430 --> 00:13:55,134 どうぞ 五鈴屋に お申しつけくださいませ。 177 00:13:55,134 --> 00:13:58,971 こいつは抜け目がねえや。 ハハハハ。 178 00:13:58,971 --> 00:14:02,375 お前さん 思いの外 商売上手だね。 179 00:14:02,375 --> 00:14:04,310 へえ 恐れ入ります。 180 00:14:04,310 --> 00:14:07,580 「表木綿に裏甲斐絹」って言葉 知ってるかい? 181 00:14:07,580 --> 00:14:09,916 いいえ 存じまへん。 182 00:14:09,916 --> 00:14:14,754 木綿の着物の裏に 値は張るが 甲斐の絹をつける。➡ 183 00:14:14,754 --> 00:14:20,393 うわべは地味だが 実は ぜいたくに 手がかかるっていう例えでさ。 184 00:14:20,393 --> 00:14:24,263 江戸っ子が好む粋ってなあ これを言うのよ。 185 00:14:24,263 --> 00:14:26,199 粋…。 186 00:14:26,199 --> 00:14:31,404 ゴテゴテ飾り立てるのは野暮だが でも 地味だけじゃあ つまらない。 187 00:14:31,404 --> 00:14:36,275 いいかい? ここを間違えると 呉服商いをしくじるぜ。 188 00:14:36,275 --> 00:14:38,945 へえ。 189 00:14:38,945 --> 00:14:42,815 旦那 よろしくお願い申します。 おう 今日も頼むぜ。 190 00:14:42,815 --> 00:14:45,418 へい! 191 00:14:45,418 --> 00:14:49,922 吉ちゃん いい着物を着ておいでだね! 192 00:14:52,959 --> 00:14:54,894 似合うかい? 193 00:14:54,894 --> 00:14:59,432 あ…。 (栄次郎)ハハハハ! 194 00:14:59,432 --> 00:15:01,434 フフッ。 195 00:15:04,270 --> 00:15:06,906 (賢輔)えっ… 五十反? 196 00:15:06,906 --> 00:15:09,375 ホンマに五十反だすか? 五反やのうて? 197 00:15:09,375 --> 00:15:15,915 へい! 五十反 入り用なんでさ。 ああ…。 198 00:15:15,915 --> 00:15:20,787 仕入れは六十反 売れた数は…。 199 00:15:20,787 --> 00:15:24,624 なんとか ご用意できます! そいつは ありがてえ。 200 00:15:24,624 --> 00:15:26,626 ハハッ これで一安心だ。 201 00:15:26,626 --> 00:15:28,928 ようおいでやす… あ~! 202 00:15:28,928 --> 00:15:31,397 これはおかみさん 先日はどうも。 203 00:15:31,397 --> 00:15:34,600 (賢輔)浜羽二重 五十反 お買い上げくださるそうだす。 204 00:15:34,600 --> 00:15:37,503 まあ! フッ。 いや 実はね➡ 205 00:15:37,503 --> 00:15:42,275 吉二さんの あの稽古着が 役者の間で評判になりやしてね➡ 206 00:15:42,275 --> 00:15:45,611 誰も彼も 木綿に 絹裏をつけ始めたんですよ。 207 00:15:45,611 --> 00:15:48,648 そうだすか。 へい。 ところがどっこい➡ 208 00:15:48,648 --> 00:15:51,484 ええ? よその羽二重は ありゃ 薄くってねえ➡ 209 00:15:51,484 --> 00:15:54,787 稽古着にすると もう擦り切れちまって いけねえや。 210 00:15:54,787 --> 00:15:57,423 そしたら 佐野屋の旦那が➡ 211 00:15:57,423 --> 00:16:01,060 「五鈴屋の浜羽二重じゃなきゃ こうはいかねえ」と➡ 212 00:16:01,060 --> 00:16:02,995 おっしゃるもんですからね。 213 00:16:02,995 --> 00:16:08,367 栄次郎さんが そないなことを。 ええ! フフフ…。➡ 214 00:16:08,367 --> 00:16:10,903 まっ それで役者衆に頼まれて➡ 215 00:16:10,903 --> 00:16:13,573 あっしが こうして まとめて 買いに来たってわけでさ。 216 00:16:13,573 --> 00:16:16,075 ありがとさんでございます。 217 00:16:16,075 --> 00:16:19,111 けど もう衣がえが近うおます。 218 00:16:19,111 --> 00:16:22,849 買うていただいたかて 袷 着る日は 何日もあらしまへん。 219 00:16:22,849 --> 00:16:26,252 いや なに 四日かね五日も着れりゃ それでいいんですよ。 220 00:16:26,252 --> 00:16:30,256 ねえ 無駄なようでも その金を惜しまねえってのが➡ 221 00:16:30,256 --> 00:16:33,125 役者の意気地ってやつでさ。 222 00:16:33,125 --> 00:16:39,799 (笑い声) 223 00:16:39,799 --> 00:16:42,802 わあ~! 224 00:16:42,802 --> 00:16:48,407 大したもんだねえ 目の肥えた役者連中に ひいきにされるなんてさ。 225 00:16:48,407 --> 00:16:51,110 へえ 夢のようでございます。 226 00:16:51,110 --> 00:16:54,614 若い衆が 吉二って言ってたけど ひょっとして…。 227 00:16:54,614 --> 00:16:56,949 栄次郎さんのお弟子さんだす。 228 00:16:56,949 --> 00:16:58,985 (お浜 お照 お仲)キャ~! 229 00:16:58,985 --> 00:17:01,354 (お照)吉二って きれいな子だよねえ! 230 00:17:01,354 --> 00:17:05,224 あ… すんまへん。 (笑い声) 231 00:17:05,224 --> 00:17:11,030 <中村座の役者たちが 五鈴屋を ひいきにしているという うわさは➡ 232 00:17:11,030 --> 00:17:16,936 たちまち浅草の町に広まって 商いに弾みがつき➡ 233 00:17:16,936 --> 00:17:21,774 五鈴屋江戸店は 再び活気を取り戻したのです> 234 00:17:21,774 --> 00:17:25,544 お気に召すものはございましたか? 235 00:17:25,544 --> 00:17:28,748 ようお似合いになると思います。 236 00:17:34,587 --> 00:17:37,623 (お染)ご寮さんからの文 何が書いてあるんだす? 237 00:17:37,623 --> 00:17:39,759 (治兵衛)うん? 238 00:17:39,759 --> 00:17:42,662 浜羽二重が売り切れてしもて➡ 239 00:17:42,662 --> 00:17:49,468 波村を拝み倒して 追加で仕入れたそうや。 240 00:17:49,468 --> 00:17:55,241 ええ品は どこでも売れますのやな。 241 00:17:55,241 --> 00:17:57,944 あとは? うん? 242 00:17:57,944 --> 00:18:03,749 お竹どんの帯結び指南 だんだん人が増えて➡ 243 00:18:03,749 --> 00:18:06,752 帯地も よう売れるようになったて 書いてある。 244 00:18:06,752 --> 00:18:12,358 五鈴帯が人気だすのやろか? 245 00:18:12,358 --> 00:18:15,261 あとは? う~ん あとは…。 246 00:18:15,261 --> 00:18:19,065 おっ 歌舞伎の役者も 買いに来はるそうや。 247 00:18:19,065 --> 00:18:23,269 まあ えらい華やかなこと。 248 00:18:25,838 --> 00:18:30,076 あとは? 「あとは あとは」て…。 249 00:18:30,076 --> 00:18:37,583 知りたいのは 賢輔のことだっしゃろ? へえ。 はよ 読んどくれやす。 250 00:18:37,583 --> 00:18:43,089 物腰が やらこうて 品を選ぶ目ぇもあるさかい➡ 251 00:18:43,089 --> 00:18:46,759 お客さんに かわいがられてるて。 フフフ…。 252 00:18:46,759 --> 00:18:54,467 はあ… そうだすか。 お役に立ててるなら 何よりだす。 253 00:19:00,873 --> 00:19:07,046 アリの目は開いたようやけど… まだ足りまへんなあ。 254 00:19:07,046 --> 00:19:09,882 (鳴き声) 255 00:19:09,882 --> 00:19:18,557 次は… ミサゴの目 使て 世の中の流れ 読みなはれや。 256 00:19:18,557 --> 00:19:28,567 ♬~ 257 00:19:30,169 --> 00:19:35,107 <六月一日 浅草寺裏の浅間神社で➡ 258 00:19:35,107 --> 00:19:38,944 富士の山開きに合わせた 植木市が開かれ➡ 259 00:19:38,944 --> 00:19:42,748 広小路は いつも以上に にぎわいます> 260 00:19:47,253 --> 00:19:59,398 ♬~ 261 00:19:59,398 --> 00:20:02,268 惣ぼんさん! 262 00:20:02,268 --> 00:20:05,938 すんまへん! おけがは ありまへんか? 大丈夫や 大丈夫や…。 263 00:20:05,938 --> 00:20:07,873 大事おまへんか? 大丈夫や…。 264 00:20:07,873 --> 00:20:09,809 すんまへん。 265 00:20:09,809 --> 00:20:14,113 ♬~ 266 00:20:14,113 --> 00:20:17,149 すんまへん! すんまへん! 267 00:20:17,149 --> 00:20:24,290 ♬~ 268 00:20:24,290 --> 00:20:26,292 すんまへん! わっ…。 269 00:20:26,292 --> 00:20:31,163 ♬~ 270 00:20:31,163 --> 00:20:33,432 (惣次)これから寄り合いやさかい➡ 271 00:20:33,432 --> 00:20:37,970 あんさん これ持って 先に戻っててくれるか。 272 00:20:37,970 --> 00:20:40,439 (お杉)きれいだすなあ。 273 00:20:40,439 --> 00:20:44,977 これ ご覧にならはったら ご病人も 力 出ますやろ。 274 00:20:44,977 --> 00:20:47,279 そやったら ええけどな。 275 00:20:50,649 --> 00:20:53,152 旦那さん。 何や? 276 00:20:53,152 --> 00:20:59,658 あの店 すぐそこでおます。 のぞいていかはらへんのだすか? 277 00:20:59,658 --> 00:21:01,594 何言うてんのや。 278 00:21:01,594 --> 00:21:04,396 それ 頼んだで。 279 00:21:09,468 --> 00:21:13,939 すんまへん… ご寮さん! 280 00:21:13,939 --> 00:21:17,776 お竹どん! どないしたん? そない慌てて。 281 00:21:17,776 --> 00:21:22,281 ご寮さんは!? いてはるけど… まあ ひどい汗やわ。 282 00:21:22,281 --> 00:21:25,618 あ… お帰りやす。 どないしたんや? 283 00:21:25,618 --> 00:21:29,955 今… 今 そこで 惣ぼんさんをお見かけしたんだす! 284 00:21:29,955 --> 00:21:34,827 後を追おうとしたんですけど 見失うてしもて… 申し訳ありまへん! 285 00:21:34,827 --> 00:21:38,631 ホンマに惣ぼんさんやったんか? もう七年も 会うてまへんのやで? 286 00:21:38,631 --> 00:21:40,566 見間違えとちゃうか? 287 00:21:40,566 --> 00:21:45,504 いいえ! 奉公に上がって 六年の間 毎日見てたお顔だす。 288 00:21:45,504 --> 00:21:47,973 間違うはずあらしまへん。 289 00:21:47,973 --> 00:21:49,909 んなアホな…。➡ 290 00:21:49,909 --> 00:21:54,313 ご寮さんが七代目継がはる時かて さんざん捜したいうのに…。 291 00:21:54,313 --> 00:21:57,650 江戸にいてはったんや…。 292 00:21:57,650 --> 00:22:01,620 ああ… よかった。 293 00:22:01,620 --> 00:22:04,390 ご無事で何よりだす。 294 00:22:04,390 --> 00:22:07,293 (佐助)ご寮さん…。 惣ぼんさんのこと➡ 295 00:22:07,293 --> 00:22:09,929 お家さんが どない案じてはったか。 296 00:22:09,929 --> 00:22:14,400 ああ… ご無事やと分かったら あの世で安堵されますやろ。 297 00:22:14,400 --> 00:22:16,936 へえ そうだすな。 298 00:22:16,936 --> 00:22:18,871 江戸で何してはるのやろ…。 299 00:22:18,871 --> 00:22:23,409 分かりまへん。 ただ 黒の絽の羽織 お召しになってて➡ 300 00:22:23,409 --> 00:22:26,312 商家の旦那さんのように お見受けしました。 301 00:22:26,312 --> 00:22:31,116 この店のこと ご存じだすのやろか? 302 00:22:31,116 --> 00:22:36,422 ひょっとして 様子を見に 浅草まで来はったんやおまへんか? 303 00:22:38,858 --> 00:22:40,826 ご寮さん…。 304 00:22:40,826 --> 00:22:45,431 惣ぼんさんは 五鈴屋の ただ一人のお血筋だす。 305 00:22:45,431 --> 00:22:51,971 もしも 五鈴屋に戻りたい言わはったら どないなりますのやろ? 306 00:22:51,971 --> 00:22:55,307 (鍋が煮立つ音) 307 00:22:55,307 --> 00:22:58,310 ああっ しもた! 308 00:22:58,310 --> 00:23:02,381 あっ…。 309 00:23:02,381 --> 00:23:05,284 いろいろ考えたかて しかたありまへん。 310 00:23:05,284 --> 00:23:10,122 江戸にいてはることは分かったんや。 もういっぺん お行方 捜してみまひょ。 311 00:23:10,122 --> 00:23:13,592 (2人)へえ。 312 00:23:13,592 --> 00:23:17,463 <不意に現れた五代目店主の存在は➡ 313 00:23:17,463 --> 00:23:23,269 軌道に乗ったばかりの江戸店に 不穏な影を落としたのです> 314 00:23:31,143 --> 00:23:34,413 (近江屋荘八) 古着仲間にも尋ねてみましたが…➡ 315 00:23:34,413 --> 00:23:39,251 惣次さんを知ってるいう人は おりまへんでした。 316 00:23:39,251 --> 00:23:41,787 あ… そうだすか。 はあ… 植木市には➡ 317 00:23:41,787 --> 00:23:45,424 近在からも 人が集まりますんでねえ…。 318 00:23:45,424 --> 00:23:49,962 もしかしたら 江戸に お住まいではないのかもしれまへんな。 319 00:23:49,962 --> 00:23:53,799 へえ…。 それか…➡ 320 00:23:53,799 --> 00:23:59,138 呉服屋やのうて ほかの商いをしてはるとしたら➡ 321 00:23:59,138 --> 00:24:02,374 手前どもの耳には入りまへん。 322 00:24:02,374 --> 00:24:06,912 へえ… お手数おかけしてしもて。 323 00:24:06,912 --> 00:24:11,383 何ぞ分かりましたら すぐに お知らせいたします。 324 00:24:11,383 --> 00:24:14,887 あ… よろしゅうお頼申します。 325 00:24:20,926 --> 00:24:23,829 (鳥の鳴き声) 326 00:24:23,829 --> 00:24:32,137 (反物を洗う音) 327 00:24:45,150 --> 00:24:48,420 ご寮さん? 328 00:24:48,420 --> 00:24:53,959 お戻りが遅いさかい お迎えにあがるとこでおました。 329 00:24:53,959 --> 00:24:59,131 惣ぼんさんの居所… まだ分かりまへなんだ。 330 00:24:59,131 --> 00:25:02,368 近江屋さんの耳にも 話は入ってへんそうだす。 331 00:25:02,368 --> 00:25:06,071 そうだすか…。 332 00:25:06,071 --> 00:25:13,579 はあ… わては まだ な~んも できてまへんのやな。 333 00:25:13,579 --> 00:25:20,085 女名前が許されるのは足かけ三年。 今年いっぱいだす。 334 00:25:20,085 --> 00:25:27,393 それまでに江戸店の土台固めて 次の代に譲らんならんのに。 335 00:25:27,393 --> 00:25:31,263 通うてくださるお客さんも増えて➡ 336 00:25:31,263 --> 00:25:33,932 売り上げかて伸びてるやおまへんか。 337 00:25:33,932 --> 00:25:36,402 そやけど…。 338 00:25:36,402 --> 00:25:41,240 浜羽二重も 五鈴帯も 帯結び指南も➡ 339 00:25:41,240 --> 00:25:44,610 皆 天満で始めたもんだす。 340 00:25:44,610 --> 00:25:47,513 江戸まで出張ってきたいうのに➡ 341 00:25:47,513 --> 00:25:52,284 新しいもんは まだ何一つ作り出せてまへん。 342 00:25:52,284 --> 00:25:55,621 ご寮さん…。 343 00:25:55,621 --> 00:26:00,426 残り半年で 何ができるやろ? 344 00:26:06,899 --> 00:26:08,834 ⚟五鈴屋さん。 345 00:26:08,834 --> 00:26:11,570 (お竹)ああ…。 フフ…。 346 00:26:11,570 --> 00:26:13,906 どうしたんです? こんなとこで。 347 00:26:13,906 --> 00:26:17,576 へえ… 今から店に戻るとこだす。 あ…。 348 00:26:17,576 --> 00:26:22,247 夕あじだすか? それ 大坂におまへんのや。 349 00:26:22,247 --> 00:26:25,083 えらい おいしいもんだすなあ。 350 00:26:25,083 --> 00:26:28,120 (お才) 夕河岸で仕入れる取れたてですからね。 351 00:26:28,120 --> 00:26:34,393 焼いて蓼酢をかけるのが うちの人の大好物で。 352 00:26:34,393 --> 00:26:39,198 お前さん! そろそろ上がらないかい? 353 00:26:41,934 --> 00:26:46,238 あれ うちの亭主。 力造っていうんですよ。 ああ…。 354 00:26:59,351 --> 00:27:02,054 お世話になっている 五鈴屋のおかみさんと➡ 355 00:27:02,054 --> 00:27:04,556 帯結びのお師匠さんですよ。 356 00:27:04,556 --> 00:27:06,492 嬶が世話になって。 357 00:27:06,492 --> 00:27:10,229 こちらこそ。 お才さんにも和三郎さんにも➡ 358 00:27:10,229 --> 00:27:13,899 いつも助けていただいてます。 いや…。 359 00:27:13,899 --> 00:27:19,371 堪忍しておくんなさいね。 ぶっきらぼうの 愛想なしで。 360 00:27:19,371 --> 00:27:22,574 それ 墨染めだすか? 361 00:27:22,574 --> 00:27:26,912 ああ…。 今は墨染めしかやってませんでね。 362 00:27:26,912 --> 00:27:30,215 お才 帰るぞ。 あいよ。 363 00:27:31,783 --> 00:27:36,922 じゃあ また お店に伺いますから。 へえ。 364 00:27:36,922 --> 00:27:42,594 (武士)こう暑くてはかなわんなあ。 そこらで一杯やりたいもんだ。 365 00:27:42,594 --> 00:27:45,931 ハハハ… この格好では そうもいくまい。 366 00:27:45,931 --> 00:27:51,737 ああ いっそ 川に飛び込みたい。 この格好では そうもいくまい。 367 00:27:51,737 --> 00:27:55,240 ⚟(笑い声) 368 00:28:00,879 --> 00:28:10,556 ⚟(せみの声) 369 00:28:10,556 --> 00:28:13,358 ⚟(鐘の音) 370 00:28:13,358 --> 00:28:16,261 (和三郎) ご注文の三本 仕上げてめえりやした。 371 00:28:16,261 --> 00:28:18,230 おおきに。 372 00:28:18,230 --> 00:28:22,734 ああ… ええ細工だすなあ。 373 00:28:22,734 --> 00:28:28,540 暑い中 ご苦労はんだす。 一服しておくれやす。 374 00:28:28,540 --> 00:28:33,245 ありがてえ! それじゃあ お言葉に甘えて。 フッ。 375 00:28:33,245 --> 00:28:35,247 この前 兄貴に会いなすったんだってね。 376 00:28:35,247 --> 00:28:37,583 へえ 大川端で ばったり。 377 00:28:37,583 --> 00:28:41,086 ずうたいばかり でかくて 無愛想な男で驚いたでしょ。 378 00:28:41,086 --> 00:28:43,021 へえ。 お竹どん! 379 00:28:43,021 --> 00:28:46,391 はっ すんまへん! ハハハハハ! 380 00:28:46,391 --> 00:28:50,596 兄貴は 田舎の出でね 俺や姉貴のような江戸っ子と違って➡ 381 00:28:50,596 --> 00:28:52,531 口が重いんすよ。 382 00:28:52,531 --> 00:28:56,935 染め物をしてはるんだすなあ。 川で 反物 洗てはりました。 383 00:28:56,935 --> 00:29:00,906 兄貴の親父ってのが 腕のいい染物師でね➡ 384 00:29:00,906 --> 00:29:05,644 ガキの時分 親父に連れられて 江戸に出てきたんですよ。 385 00:29:05,644 --> 00:29:10,215 国元で御家中の裃に仕立てる 小紋を染めてたんですがね➡ 386 00:29:10,215 --> 00:29:13,552 その腕を見込まれて 江戸表に引っ張られ➡ 387 00:29:13,552 --> 00:29:16,355 染物仕事を任されたってわけでさ。 388 00:29:16,355 --> 00:29:21,226 国元から わざわざ? 江戸にかて 染物師は大勢いてはりますやろ。 389 00:29:21,226 --> 00:29:26,365 おかみさん。 お武家さんの裃 ご覧になったことがおありでしょ? 390 00:29:26,365 --> 00:29:29,267 へえ。 あれは 型を使って染めるんですがね➡ 391 00:29:29,267 --> 00:29:32,571 よほどの腕がなけりゃできねえ 仕事ですよ。 392 00:29:32,571 --> 00:29:35,907 ああ…。 お大名同士が競い合って➡ 393 00:29:35,907 --> 00:29:41,780 あんな細けえ柄になったってんだから 地味なようでも ぜいたくなもんさ。 394 00:29:41,780 --> 00:29:44,583 (お竹)小紋 染めてはったんだすか? 395 00:29:44,583 --> 00:29:47,486 墨染めしか してへんって お才さん 言うてはりましたけど。 396 00:29:47,486 --> 00:29:49,788 ああ あれは…。 397 00:29:55,594 --> 00:30:01,900 ちょっと見は地味で… よう見たら ぜいたく…。 398 00:30:04,936 --> 00:30:08,273 江戸っ子の好むもの…。 399 00:30:08,273 --> 00:30:19,618 ♬~ 400 00:30:19,618 --> 00:30:25,424 あじ… 芝の夕あじ~。 401 00:30:25,424 --> 00:30:29,294 あ~じ~。 あじ~。 402 00:30:29,294 --> 00:30:31,296 型染めの小紋だすか? 403 00:30:31,296 --> 00:30:36,068 へえ。 お武家さんの裃のような こんまい柄の小紋➡ 404 00:30:36,068 --> 00:30:38,003 作ってみたらどないだすやろ。 405 00:30:38,003 --> 00:30:43,642 それは あきまへん。 裃小紋は お武家さんのもんだす。 406 00:30:43,642 --> 00:30:48,146 ご寮さんも ようご存じのとおり お大名家の 定め小紋は➡ 407 00:30:48,146 --> 00:30:51,049 御家中だけに許される お留紋だす。 408 00:30:51,049 --> 00:30:55,887 万が一にも 町人が使たりしたら 厳しい おとがめを受けます。 409 00:30:55,887 --> 00:31:00,726 それやったら お武家さんの裃には 決して染められへんような➡ 410 00:31:00,726 --> 00:31:04,596 別の柄で作ったらどないだす? 別の柄? 411 00:31:04,596 --> 00:31:08,934 公方様の御召十➡ 412 00:31:08,934 --> 00:31:12,771 紀州大納言様の極鮫➡ 413 00:31:12,771 --> 00:31:16,608 加賀前田様の菊菱➡ 414 00:31:16,608 --> 00:31:20,479 甲斐武田様の武田菱。 415 00:31:20,479 --> 00:31:24,116 どれもお武家さんらしい 立派なもんだす。 416 00:31:24,116 --> 00:31:30,622 けど… 小紋の柄やったら ほかに なんぼでも作れますやろ。 417 00:31:30,622 --> 00:31:34,292 鳥や魚 宝尽くし。 418 00:31:34,292 --> 00:31:39,431 あ… うちわかて 小紋の柄にできますやろけど➡ 419 00:31:39,431 --> 00:31:44,302 裃に うちわ染めてはる お大名さんは いてはりまへんわな。 420 00:31:44,302 --> 00:31:50,442 それやったら 帳場のそろばんも 台所のおろし金かて➡ 421 00:31:50,442 --> 00:31:53,645 小紋にできそうだすわ。 おろし金? 422 00:31:53,645 --> 00:31:59,518 それも面白いなあ。 裃やのうて 町人の着る小紋だすよって。 423 00:31:59,518 --> 00:32:02,454 町人の小紋…。 424 00:32:02,454 --> 00:32:06,591 遠目には無地に見えるぐらい こんまい柄にして➡ 425 00:32:06,591 --> 00:32:09,394 一色で染め抜いたら…。 426 00:32:11,396 --> 00:32:15,267 京 大坂にはない 江戸のお方のお好みに合う➡ 427 00:32:15,267 --> 00:32:18,270 新しい小紋が作れるのやおまへんか? 428 00:32:18,270 --> 00:32:20,405 新しい小紋…。 429 00:32:20,405 --> 00:32:25,277 五鈴屋でしか買われへん 特製の品だす。 430 00:32:25,277 --> 00:32:27,779 それなら 柄は…。 431 00:32:27,779 --> 00:32:30,816 鈴? 432 00:32:30,816 --> 00:32:37,422 こんまい鈴柄の小紋作って あれに掛けて 店に並べまひょ。 433 00:32:37,422 --> 00:32:39,357 (2人)へえ! 434 00:32:39,357 --> 00:32:43,295 型染めだすよって まず 型紙 調達せなあきまへん。 435 00:32:43,295 --> 00:32:46,631 どこに頼んだらええか お才さんに聞いてみて…。伊勢だす。 436 00:32:46,631 --> 00:32:49,301 えっ? 近江屋さんにいた時➡ 437 00:32:49,301 --> 00:32:52,637 型紙の行商をしてはった人と 会うたことがおます。 438 00:32:52,637 --> 00:32:56,975 伊勢の… 白子いうところで彫ってる 言うてはりました。 439 00:32:56,975 --> 00:33:01,379 伊勢… 五鈴屋の初代が生まれた土地や。 440 00:33:01,379 --> 00:33:04,182 ご縁がおますのやなあ。 フフッ。 441 00:33:05,917 --> 00:33:09,387 ご寮さん わてを 伊勢に行かしておくれやす! 442 00:33:09,387 --> 00:33:11,756 えっ? 443 00:33:11,756 --> 00:33:14,593 伊勢には 白雲屋さんがおいでだす。 444 00:33:14,593 --> 00:33:18,763 白子にも 何ぞ ツテをお持ちかもしれまへん。 445 00:33:18,763 --> 00:33:23,935 そやな… ご寮さん 賢輔どんは絵が上手やさかい➡ 446 00:33:23,935 --> 00:33:27,806 どないな柄がええか 彫師と話できます。 447 00:33:27,806 --> 00:33:32,644 新しい小紋を作る その一番初めのところから➡ 448 00:33:32,644 --> 00:33:37,415 関わらせていただきとうおます。 449 00:33:37,415 --> 00:33:43,288 これは 江戸店が初めて作る 勝負の品だす。 450 00:33:43,288 --> 00:33:46,424 へえ。 451 00:33:46,424 --> 00:33:49,294 賢輔どん…➡ 452 00:33:49,294 --> 00:33:56,635 鈴の小紋作る道筋 しっかり つけてきとくれやす。 453 00:33:56,635 --> 00:33:58,570 へえ! 454 00:33:58,570 --> 00:34:10,916 ♬~ 455 00:34:10,916 --> 00:34:13,952 ご寮さん お茶 お持ちしました。 456 00:34:13,952 --> 00:34:17,589 あ… おおきに。 457 00:34:17,589 --> 00:34:19,624 天満への文だすか? 458 00:34:19,624 --> 00:34:25,096 へえ。 鉄助どんにも 伊勢に 行ってもらわななりまへんさかい。 459 00:34:25,096 --> 00:34:28,767 さっきは びっくりしましたわ。 460 00:34:28,767 --> 00:34:31,403 賢輔どんだす。 あ…。 461 00:34:31,403 --> 00:34:35,273 伊勢に行かしてほしいて あない強う 物言うたん➡ 462 00:34:35,273 --> 00:34:41,079 初めてやありまへんか? そうだすなあ。 いつもは控えめやのに。 463 00:34:41,079 --> 00:34:44,983 賢輔どんも分かってはりますんやな。 464 00:34:44,983 --> 00:34:48,420 ご寮さんが店主でいてはる間に➡ 465 00:34:48,420 --> 00:34:54,626 江戸店の土台 しっかり作らんならんこと。 466 00:34:54,626 --> 00:34:57,529 皆 思いは同じだす。 467 00:34:57,529 --> 00:35:05,837 どなたが現れたかて 五鈴屋の店主は ご寮さん お一人でおます。 468 00:35:08,173 --> 00:35:10,108 ほな わては これで。 469 00:35:10,108 --> 00:35:12,110 お竹どん。 へえ。 470 00:35:12,110 --> 00:35:16,381 鉄助どんに もう一つ 大事なこと頼もう思てますのやけど…。 471 00:35:16,381 --> 00:35:18,750 大事なこと? 472 00:35:18,750 --> 00:35:22,620 もう一人 江戸に呼びたいのやけど…。 473 00:35:22,620 --> 00:35:28,393 あ… へえ! そろそろ 頃合いやと思てました。 474 00:35:28,393 --> 00:35:30,395 あ…。 475 00:35:37,602 --> 00:35:57,622 (子供たちのはしゃぐ声) 476 00:35:57,622 --> 00:36:00,625 あ… あそこや。 477 00:36:14,105 --> 00:36:16,908 ごめんやす。 478 00:36:16,908 --> 00:36:20,412 まあ! 五鈴屋の…。 479 00:36:22,781 --> 00:36:25,583 型染めの小紋を? へえ。 480 00:36:25,583 --> 00:36:29,254 裃のような 小さい柄の小紋だす。 481 00:36:29,254 --> 00:36:32,590 五鈴屋さんで それを売り出すっていうんですか? 482 00:36:32,590 --> 00:36:39,097 和三郎さんから 力造さんが 小紋の型染めしてはったて伺うて➡ 483 00:36:39,097 --> 00:36:44,903 いずれ 型紙が出来たら 染めをお願いできへんやろかて。 484 00:36:44,903 --> 00:36:46,838 お才 帰ってもらいな。 485 00:36:46,838 --> 00:36:50,408 お前さん! 和三郎が何言ったか知らねえが➡ 486 00:36:50,408 --> 00:36:52,343 俺は 型染め やらねえ。 487 00:36:52,343 --> 00:36:56,281 そんな言い方しなくたってさ… 話だけでもお聞きしたらいいじゃない…。 488 00:36:56,281 --> 00:36:59,951 うるせえ! 二度と型染め やらねえんだ。 489 00:36:59,951 --> 00:37:01,953 (強く戸を閉める音) 490 00:37:06,224 --> 00:37:23,775 (風の音) 491 00:37:23,775 --> 00:37:25,777 おかみさん! 492 00:37:27,512 --> 00:37:29,814 お才さん…。 493 00:37:36,921 --> 00:37:42,727 (お才)うちの人が定め小紋を染めてたこと 弟から お聞きなすってますか? 494 00:37:42,727 --> 00:37:47,565 へえ。 そのために 国元から 親子で出てきはったて。 495 00:37:47,565 --> 00:37:56,608 (お才)あ… あの人の父親は 腕のいい型付け師だったんです。 496 00:37:56,608 --> 00:38:00,211 片染めの染物師のことを 型付け師ってっていうんですけどね。 497 00:38:00,211 --> 00:38:02,714 へえ。 498 00:38:02,714 --> 00:38:07,585 うちの人も そりゃあ 一所懸命に修業して…。 499 00:38:07,585 --> 00:38:10,889 女房の私が言うのもなんですけど➡ 500 00:38:10,889 --> 00:38:16,561 型染めの腕なら 誰にも引けを取りゃしませんよ。 501 00:38:16,561 --> 00:38:19,898 フッ…。 502 00:38:19,898 --> 00:38:24,569 けどね… 五年前➡ 503 00:38:24,569 --> 00:38:30,441 うちで染めたのと そっくりな小紋が 古着屋で売られていたんです。 504 00:38:30,441 --> 00:38:32,443 えっ? 505 00:38:32,443 --> 00:38:35,580 お留紋 よそに流すのは 御法度だから➡ 506 00:38:35,580 --> 00:38:39,751 型紙一枚だって 決して持ち出しゃしないのに…➡ 507 00:38:39,751 --> 00:38:46,925 お父っつぁんが疑われて 厳しいご詮議を受けたんですよ。 508 00:38:46,925 --> 00:38:54,599 その時の傷がもとで 三年前に亡くなっちまって…。 509 00:38:54,599 --> 00:38:56,534 ひどい。 510 00:38:56,534 --> 00:39:01,339 誰が古着屋に流したか 結局 分からずじまい。 511 00:39:01,339 --> 00:39:06,544 おおかた お役人が 上前はねたんでしょうよ。 512 00:39:06,544 --> 00:39:10,215 うちの人 それからは…➡ 513 00:39:10,215 --> 00:39:17,222 お侍にも 裃小紋にも 金輪際 関わりたくねえと言って。 514 00:39:19,224 --> 00:39:24,562 今じゃ 闇みたいな墨染めばっかり。➡ 515 00:39:24,562 --> 00:39:27,365 私には あの人が➡ 516 00:39:27,365 --> 00:39:33,905 真っ黒な胸の内を染めているように 見えてならないんです。➡ 517 00:39:33,905 --> 00:39:40,778 けどね… 本当は まだ未練があるに違いないんだ。 518 00:39:40,778 --> 00:39:49,787 型染めに使う道具 今も欠かさず 大事に手入れしているんですから。 519 00:39:54,926 --> 00:40:00,798 いい腕があるのに それを使わずに封じちまうなんて…➡ 520 00:40:00,798 --> 00:40:06,938 職人にとって こんな つらいことは ありゃしませんよ。 521 00:40:06,938 --> 00:40:29,227 ♬~ 522 00:40:33,431 --> 00:40:37,135 すみません。 おおきに ありがとさんでございます。 523 00:40:37,135 --> 00:40:39,971 ありがとうございました。 524 00:40:39,971 --> 00:40:45,476 <賢輔が江戸をたってから みつき近くが過ぎて…> 525 00:40:47,845 --> 00:40:53,318 おっつけ暮れ六つだすな。 あ… えらい 日が短なりましたなあ。 526 00:40:53,318 --> 00:40:55,820 九月も半ばだす。 527 00:40:55,820 --> 00:40:59,991 そろそろ ええ知らせがあっても よさそうなもんだすけど。 528 00:40:59,991 --> 00:41:04,262 ⚟枝豆や~ 枝豆~。 529 00:41:04,262 --> 00:41:09,133 ああ そうや… 明日は 十三夜の豆名月だすな。 530 00:41:09,133 --> 00:41:11,402 ああ…。 枝豆 買うてきますわ。 531 00:41:11,402 --> 00:41:14,605 ええよ。 わてが行きますよって。 (お竹)あっ いや…。 532 00:41:14,605 --> 00:41:18,276 枝豆や~。 533 00:41:18,276 --> 00:41:23,948 (風の音) 534 00:41:23,948 --> 00:41:25,883 あ…。 535 00:41:25,883 --> 00:41:29,887 (結)姉さん! 結! 536 00:41:31,622 --> 00:41:33,958 (泣き声) 537 00:41:33,958 --> 00:41:46,537 ♬~ 538 00:41:46,537 --> 00:41:48,840 いて参じました。 539 00:41:52,977 --> 00:41:56,447 お帰りやす。 ご苦労はんだした。 540 00:41:56,447 --> 00:42:00,918 (鉄助)遅なってしもたな。 堪忍しておくれやす。 541 00:42:00,918 --> 00:42:04,589 うち… 江戸に来たで。 542 00:42:04,589 --> 00:42:07,258 姉さんのとこに来たよ。 543 00:42:07,258 --> 00:42:11,596 (泣き声)うん… 待ってたで。 544 00:42:11,596 --> 00:42:15,933 (泣き声) 545 00:42:15,933 --> 00:42:18,836 結…。 546 00:42:18,836 --> 00:42:27,278 ♬~ 547 00:42:27,278 --> 00:42:33,284 (泣き声) 548 00:42:35,620 --> 00:42:40,291 役者人生をかける晴れの場に この小紋を身にまといとうございます。 549 00:42:40,291 --> 00:42:42,226 あっ! 八代目にふさわしいのは➡ 550 00:42:42,226 --> 00:42:45,430 賢輔どんやおまへんやろか。 江戸の色…。 551 00:42:45,430 --> 00:42:49,133 鈴の小紋…。 店は繁盛してるようだす。 552 00:42:49,133 --> 00:42:51,803 前よりずっと大きなった五鈴屋 見たら➡ 553 00:42:51,803 --> 00:42:55,306 欲しゅうなるんやないの? 幸か…。