1 00:00:04,540 --> 00:00:10,570 <五鈴屋が江戸店を開いて 今日で ちょうど ひとつき。→ 2 00:00:10,570 --> 00:00:16,700 いよいよ お竹の帯結び指南の始まりです> 3 00:00:16,700 --> 00:00:18,200 (お竹)こんでええ。 4 00:00:22,590 --> 00:00:24,590 <ところが…> 5 00:00:27,310 --> 00:00:31,010 (佐助)どなたも おいでになりまへんなあ。 6 00:00:31,010 --> 00:00:34,710 (賢輔)八つから始めますて お伝えしましたんやけど…。 7 00:00:34,710 --> 00:00:40,440 もう半刻過ぎてますで。 ぼちぼち 西日もさしてきますわ。 8 00:00:40,440 --> 00:00:43,440 (幸)そうだすなあ。 9 00:00:45,490 --> 00:00:50,870 すんまへん… 今日は もう…。 10 00:00:50,870 --> 00:00:52,890 もうちょっと待ってみまひょ。 11 00:00:52,890 --> 00:00:56,600 初日やさかい 遅れてくる方も いてはるかもしれまへん。 12 00:00:56,600 --> 00:00:58,950 へえ…。 13 00:00:58,950 --> 00:01:02,320 (お才)ごめんなさいよ。 お才さん! 14 00:01:02,320 --> 00:01:05,690 帯結びの稽古 今からでもお願いできますかね? 15 00:01:05,690 --> 00:01:10,410 へえ! よう おいでやす。 (お浜)私たちも一緒にいいかい? 16 00:01:10,410 --> 00:01:15,120 (お照)そこをウロウロしてたら お才さんに誘われてさ ハハハ! 17 00:01:15,120 --> 00:01:17,810 (お仲)今締めてる この帯しか ないんだけど…。 18 00:01:17,810 --> 00:01:21,510 へえ! 締め慣れた帯の方が お稽古にはよろしおます。 19 00:01:21,510 --> 00:01:24,540 さあさあ どうぞ お上がりやす。 わあ よかった。 20 00:01:24,540 --> 00:01:27,570 さあ どうぞ。 失礼します。 21 00:01:27,570 --> 00:01:32,290 手ぇを上から巻きつけて 下に…→ 22 00:01:32,290 --> 00:01:37,000 胴帯の中を通してみておくれやす。 23 00:01:37,000 --> 00:01:38,350 は… 入ってる? できてるか? 24 00:01:38,350 --> 00:01:41,710 入ってる 入ってる? ちょっと…。 25 00:01:41,710 --> 00:01:44,740 小頭はん お二人お見えだす。 26 00:01:44,740 --> 00:01:47,770 へえ! どうぞ。 27 00:01:47,770 --> 00:01:50,800 今日は カルタ結びだす。 28 00:01:50,800 --> 00:01:56,190 <お竹の帯結び指南も 無事に動きだしたのです> 29 00:01:56,190 --> 00:01:58,880 できた! こっちも できた こっちも できた。 30 00:01:58,880 --> 00:02:00,240 ほれ… ほれ…。 31 00:02:00,240 --> 00:02:13,370 ・~ 32 00:02:13,370 --> 00:02:19,430 <開店当初は にぎわった江戸店でしたが ふたつきが過ぎると…> 33 00:02:19,430 --> 00:02:24,150 月末やいうのに 先月の半分も売れてまへんなあ。 34 00:02:24,150 --> 00:02:29,520 二月に入ってから ぱったり客足が落ちてしもて…。 35 00:02:29,520 --> 00:02:34,250 今日 売れたんは 木綿二反に 帯地が一本。 (2人)へえ…。 36 00:02:34,250 --> 00:02:37,610 売り上げのお役に立てへんと 申し訳ありまへん。 37 00:02:37,610 --> 00:02:43,670 何言うてますのや。 二月は 一年で一番 物が売れん月だす。 38 00:02:43,670 --> 00:02:46,020 天満の本店かて そうだしたやろ。 39 00:02:46,020 --> 00:02:51,750 屋敷回りの掛け売りなら こないな時は お得意さんにお頼みしますのやけど→ 40 00:02:51,750 --> 00:02:55,750 店前現銀売りでは そうもまいりまへんし…。 41 00:02:58,140 --> 00:03:02,190 先月までは 店開きのご祝儀やったんだすなあ。 42 00:03:02,190 --> 00:03:08,250 ここからが ホンマの勝負だす。 三月から また仕切り直しまひょ。 43 00:03:08,250 --> 00:03:10,940 (一同)へえ。 44 00:03:10,940 --> 00:03:21,940 ・(犬の鳴き声) 45 00:03:29,460 --> 00:03:32,150  回想 (亀三)江戸で 何ぞ 困ったことあったら→ 46 00:03:32,150 --> 00:03:37,150 この人 訪ねてみなはれ。 きっと 知恵貸してくれるはずや。 47 00:03:43,600 --> 00:03:46,600 「菊瀬栄次郎」…。 48 00:03:52,690 --> 00:04:00,770 (太鼓の音) 49 00:04:00,770 --> 00:04:03,470 <中村座は 江戸三座の一つに数えられる→ 50 00:04:03,470 --> 00:04:06,160 芝居小屋です。→ 51 00:04:06,160 --> 00:04:11,550 吉原や魚河岸と並んで 一日に千両の金が落ちるといわれる→ 52 00:04:11,550 --> 00:04:14,550 にぎわいぶりでした> 53 00:04:21,310 --> 00:04:26,030 んっ…。 佐野屋の旦那なら まだ楽屋入りしてませんぜ。 54 00:04:26,030 --> 00:04:28,050 いつ伺わしてもろたら お目にかかれますやろか。 55 00:04:28,050 --> 00:04:30,050 はあ~…。 56 00:04:33,430 --> 00:04:36,460 急ぎの用なら 家を訪ねてごらんなせえ。 57 00:04:36,460 --> 00:04:38,150 お宅は どちらにございますのやろ? 58 00:04:38,150 --> 00:04:42,520 ついそこでさ。 59 00:04:42,520 --> 00:04:46,560 楽屋新道を左に行って十軒目ですよ。 60 00:04:46,560 --> 00:04:50,560 あ… おおきに ありがとさんでございます。 61 00:05:04,410 --> 00:05:07,410 日本橋の大店や。 62 00:05:14,510 --> 00:05:25,950 ・・~(歌声と三味線) 63 00:05:25,950 --> 00:05:27,300 ごめんやす。 64 00:05:27,300 --> 00:05:30,340 ・(栄次郎) 違う! 何べん教えりゃ分かるんだ。→ 65 00:05:30,340 --> 00:05:33,700 おめえは 役者には向かねえ。 やめちめえな! 66 00:05:33,700 --> 00:05:37,700 (吉二) あい! そんなら お暇いたします! 67 00:05:40,100 --> 00:05:42,450 (吉二)あ…。 68 00:05:42,450 --> 00:05:47,500 あの~ 菊瀬栄次郎さんに お目にかかりとう存じますのやけど→ 69 00:05:47,500 --> 00:05:50,200 お取り次ぎ お願いできますやろか。 70 00:05:50,200 --> 00:05:53,900 はい。 お師匠さん お客さんですよ。 71 00:05:53,900 --> 00:05:57,900 (栄次郎)お客? 誰だい? 72 00:06:01,980 --> 00:06:04,670 栄次郎は 私ですが…。 73 00:06:04,670 --> 00:06:11,410 浅草田原町で呉服太物を商うております 五鈴屋と申します。 74 00:06:11,410 --> 00:06:13,410 あ…。 75 00:06:18,150 --> 00:06:25,430 ふ~ん… それじゃあ 人形遣いの亀三が おめえさんに俺の話をしたってことかい。 76 00:06:25,430 --> 00:06:29,840 へえ。 一度 お訪ねしてみたら ええのやないかて。 77 00:06:29,840 --> 00:06:37,690 亀三は古いなじみだがね 俺のツテで 中村座の座元に売り込もうって腹なら→ 78 00:06:37,690 --> 00:06:40,050 当て外れだぜ。 えっ? 79 00:06:40,050 --> 00:06:47,110 日本橋の大店が何軒も出入りしてらあ。 新参者の入り込む隙はねえよ。 80 00:06:47,110 --> 00:06:49,480 そうだすか…。 さあ 話が終わったら帰りな。 81 00:06:49,480 --> 00:06:52,840 あっ まだお話が…。 82 00:06:52,840 --> 00:06:59,230 江戸店開いて ふたつき半 どないしたら 江戸のお客さんに喜んでいただけるか→ 83 00:06:59,230 --> 00:07:01,270 迷うております。 商いのことを役者に聞くのかい? 84 00:07:01,270 --> 00:07:04,630 市松模様も 水木結びも→ 85 00:07:04,630 --> 00:07:08,670 ひいきの役者さん まねることから はやったんだそうだすな。 86 00:07:08,670 --> 00:07:13,710 亀三さんが こちらをお訪ねするよう 勧めてくれはったんは→ 87 00:07:13,710 --> 00:07:17,080 商いの知恵が見つかる 思わはったからやないかて…。 88 00:07:17,080 --> 00:07:19,440 待った。 俺は 老け役だぜ。 89 00:07:19,440 --> 00:07:23,490 娘っ子が夢中になるような はやり物とは縁がねえよ。 90 00:07:23,490 --> 00:07:26,490 あ…。 (足音) 91 00:07:29,540 --> 00:07:32,580 こいつは死んだ兄貴の養子でね。 92 00:07:32,580 --> 00:07:34,600 おいでなさいませ。 93 00:07:34,600 --> 00:07:38,630 兄貴は 立女形で大層の人気だったから→ 94 00:07:38,630 --> 00:07:44,020 生きてりゃ おめえさんの 役に立ったかもしれねえが…。 95 00:07:44,020 --> 00:07:48,050 吉二 何だい このぎこちねえ動きは! 96 00:07:48,050 --> 00:07:51,430 日頃の所作が舞台に出ると 口を酸っぱくして言ってるだろうが。 97 00:07:51,430 --> 00:07:55,470 けど お師匠さん この稽古着がいけないんですよ。 98 00:07:55,470 --> 00:07:59,160 ゴワゴワして 動きにくいったらありゃしない。 99 00:07:59,160 --> 00:08:01,530 口答えしてねえで あっち行ってろ。 100 00:08:01,530 --> 00:08:03,890 はい…。 101 00:08:03,890 --> 00:08:09,610 木綿の袷… それ 仕立て下ろしだすか? 102 00:08:09,610 --> 00:08:11,300 そうですよ。 あ…。 103 00:08:11,300 --> 00:08:16,000 木綿の袷は 重いし 滑りが悪いさかい→ 104 00:08:16,000 --> 00:08:20,040 体になじむまで 時がかかるのは わてにも覚えがあります。 105 00:08:20,040 --> 00:08:23,750 ええ… おっしゃるとおりですとも! 106 00:08:23,750 --> 00:08:27,460 フフッ… とんだ助っ人が来たもんだ。 107 00:08:27,460 --> 00:08:35,870 五鈴屋さん それじゃあ 木綿で動きやすい 稽古着を仕立ててやっちゃくれねえか? 108 00:08:35,870 --> 00:08:38,900 えっ? この跳ねっ返りに似合う着物一枚→ 109 00:08:38,900 --> 00:08:41,600 あつらえてもらいてえんだ。 110 00:08:41,600 --> 00:08:45,970 木綿で動きやすいものを…。 111 00:08:45,970 --> 00:08:50,010 (栄次郎)おめえさんも 江戸店を構えるほどの呉服太物屋だ。→ 112 00:08:50,010 --> 00:08:54,390 何ぞ 工夫のしようがあるだろうよ。 113 00:08:54,390 --> 00:09:00,780 フフフ… はなから無理だってえなら 頼まねえがな。 114 00:09:00,780 --> 00:09:04,490 面白い。 115 00:09:04,490 --> 00:09:08,530 ご注文 ありがとさんでございます。 116 00:09:08,530 --> 00:09:10,880 しばらく時を頂戴して→ 117 00:09:10,880 --> 00:09:14,590 仕立て上がりましたら お届けに上がります。 118 00:09:14,590 --> 00:09:17,950 おう… フフフ。 119 00:09:17,950 --> 00:09:19,310 (佐助)えっ!? あの菊瀬栄次郎に? 120 00:09:19,310 --> 00:09:24,010 そない 名ぁの知れた役者さんだすか? 121 00:09:24,010 --> 00:09:27,390 へえ! わてらかて知ってるほどだす。 なあ? 122 00:09:27,390 --> 00:09:33,100 へえ! 三都一の女形や言われた 菊瀬栄之丞の弟さんだす。 123 00:09:33,100 --> 00:09:36,810 子役の吉二も 美しい上に芸もうまいて評判だすわ。 124 00:09:36,810 --> 00:09:40,180 きれいなお顔 してはりましたわ。 125 00:09:40,180 --> 00:09:45,900 けど 妙だすなあ… 出入りの呉服屋 なんぼでも ありますやろに→ 126 00:09:45,900 --> 00:09:48,930 稽古着一枚 注文するやなんて。 127 00:09:48,930 --> 00:09:50,960 ただの稽古着やありまへん。 128 00:09:50,960 --> 00:09:55,670 動きやすうて 吉二さんに似合う 木綿の袷だす。 129 00:09:55,670 --> 00:10:01,050 そら 何べんも洗たら 木綿かて やらこうなりますけど→ 130 00:10:01,050 --> 00:10:05,770 そないな着古しみたいなもんでは あきまへんのやろな。 へえ。 131 00:10:05,770 --> 00:10:09,130 (佐助)ご寮さん からかわれはったんや おまへんか? 132 00:10:09,130 --> 00:10:13,180 絹と違て 木綿は滑りが悪いと 決まったもんだす。 133 00:10:13,180 --> 00:10:16,880 工夫いうたかて…。 せっかく頂いたお話だす。 134 00:10:16,880 --> 00:10:21,590 なんとか お心にかなうよう 知恵絞らなあきまへん。 135 00:10:21,590 --> 00:10:23,590 へえ。 136 00:10:30,350 --> 00:10:36,350 吉二さんに似合う 動きやすい稽古着…。 137 00:10:48,530 --> 00:10:50,530 はあ…。 138 00:10:54,250 --> 00:10:58,250 <そして半月後> 139 00:11:00,320 --> 00:11:04,320 ・おう そっち運んで。 ・はい! 140 00:11:06,040 --> 00:11:08,400 (仙太)さあ こちらでさあ! へえ。 141 00:11:08,400 --> 00:11:10,400 あっ こりゃどうも。 142 00:11:15,120 --> 00:11:17,150 (仙太)ハハッ すいやせんね。 143 00:11:17,150 --> 00:11:21,860 新狂言の「一谷嫩軍記」が 初日から大入りでねえ。 144 00:11:21,860 --> 00:11:25,900 佐野屋の旦那の弥陀六が もう大層の評判でさ! 145 00:11:25,900 --> 00:11:29,280 あっ 吉二さんの敦盛も そりゃあ きれいだ! フフフ。 146 00:11:29,280 --> 00:11:33,310 まあ 用が済んだら ちょいと のぞいてごらんなせえやし。 147 00:11:33,310 --> 00:11:37,690 へえ ありがとさんでございます。 ハハハ いやいや いやいや…。 148 00:11:37,690 --> 00:11:40,040 五鈴屋さん こっちですよ。 149 00:11:40,040 --> 00:11:42,060 へえ! (仙太)じゃあ あっしは これで。 150 00:11:42,060 --> 00:11:46,440 ごめんやしておくれやす。 あっ…。 151 00:11:46,440 --> 00:11:50,150 きれいなお子だすなあ…。 152 00:11:50,150 --> 00:11:53,150 お竹どん。 あっ へえ! 153 00:11:59,570 --> 00:12:02,270 おお… いい色だなあ。 154 00:12:02,270 --> 00:12:06,270 どうぞ お手に取って見とくれやす。 155 00:12:13,380 --> 00:12:18,080 ん? 裏は絹かい? 156 00:12:18,080 --> 00:12:23,820 絹の着物には絹の裏 木綿には木綿の裏を つけるってのが 決まりじゃねえのかい? 157 00:12:23,820 --> 00:12:26,850 あ… おきて破りではおますけど→ 158 00:12:26,850 --> 00:12:30,890 絹裏の方が滑りがようて 動きやすうおます。 159 00:12:30,890 --> 00:12:36,270 その裏は 五鈴屋特製の浜羽二重でございます。 160 00:12:36,270 --> 00:12:40,990 よその品に比べて 厚うて丈夫に出来てますよって→ 161 00:12:40,990 --> 00:12:47,380 お稽古で着ていただいたかて そうそう傷めしまへん。 162 00:12:47,380 --> 00:12:49,740 きれい…。 163 00:12:49,740 --> 00:12:53,740 吉二さん お召しになってみまへんか? 164 00:12:59,840 --> 00:13:02,870 へえ これでよろしおます。 165 00:13:02,870 --> 00:13:04,220 あ…。 166 00:13:04,220 --> 00:13:08,250 ああ こりゃあ いいや! 167 00:13:08,250 --> 00:13:11,960 軽くって動きやすいよ。 ようお似合いでございます。 168 00:13:11,960 --> 00:13:15,670 帯の形もいいな 見たことのねえ結び方だが。 169 00:13:15,670 --> 00:13:19,370 文庫結びに 少し 手ぇ加えたものでございます。 170 00:13:19,370 --> 00:13:25,760 うちでは この小頭役が 帯結びのご指南もしております。 171 00:13:25,760 --> 00:13:30,140 へえ~ 女の小頭役か 珍しいな。 172 00:13:30,140 --> 00:13:33,850 お師匠さん これなら いくらでも踊れそうですよ。 173 00:13:33,850 --> 00:13:36,850 (鼓の音) 174 00:13:42,270 --> 00:13:45,300 丈夫や言うても絹でございます。 175 00:13:45,300 --> 00:13:49,340 お稽古に励んで傷んでしもた時は 裏の付け替え→ 176 00:13:49,340 --> 00:13:54,390 どうぞ 五鈴屋に お申しつけくださいませ。 177 00:13:54,390 --> 00:13:58,760 こいつは抜け目がねえや。 ハハハハ。 178 00:13:58,760 --> 00:14:01,800 お前さん 思いの外 商売上手だね。 179 00:14:01,800 --> 00:14:04,150 へえ 恐れ入ります。 180 00:14:04,150 --> 00:14:07,850 「表木綿に裏甲斐絹」って言葉 知ってるかい? 181 00:14:07,850 --> 00:14:10,210 いいえ 存じまへん。 182 00:14:10,210 --> 00:14:14,590 木綿の着物の裏に 値は張るが 甲斐の絹をつける。→ 183 00:14:14,590 --> 00:14:19,980 うわべは地味だが 実は ぜいたくに 手がかかるっていう例えでさ。 184 00:14:19,980 --> 00:14:23,680 江戸っ子が好む粋ってなあ これを言うのよ。 185 00:14:23,680 --> 00:14:26,030 粋…。 186 00:14:26,030 --> 00:14:31,090 ゴテゴテ飾り立てるのは野暮だが でも 地味だけじゃあ つまらない。 187 00:14:31,090 --> 00:14:35,800 いいかい? ここを間違えると 呉服商いをしくじるぜ。 188 00:14:35,800 --> 00:14:38,500 へえ。 189 00:14:38,500 --> 00:14:43,200 旦那 よろしくお願い申します。 おう 今日も頼むぜ。 190 00:14:43,200 --> 00:14:45,230 へい! 191 00:14:45,230 --> 00:14:50,230 吉ちゃん いい着物を着ておいでだね! 192 00:14:52,640 --> 00:14:54,990 似合うかい? 193 00:14:54,990 --> 00:14:58,370 あ…。 (栄次郎)ハハハハ! 194 00:14:58,370 --> 00:15:00,370 フフッ。 195 00:15:03,750 --> 00:15:07,110 (賢輔)えっ… 五十反? 196 00:15:07,110 --> 00:15:08,800 ホンマに五十反だすか? 五反やのうて? 197 00:15:08,800 --> 00:15:16,200 へい! 五十反 入り用なんでさ。 ああ…。 198 00:15:16,200 --> 00:15:20,910 仕入れは六十反 売れた数は…。 199 00:15:20,910 --> 00:15:24,280 なんとか ご用意できます! そいつは ありがてえ。 200 00:15:24,280 --> 00:15:26,300 ハハッ これで一安心だ。 201 00:15:26,300 --> 00:15:28,330 ようおいでやす… あ~! 202 00:15:28,330 --> 00:15:31,020 これはおかみさん 先日はどうも。 203 00:15:31,020 --> 00:15:35,050 (賢輔)浜羽二重 五十反 お買い上げくださるそうだす。 204 00:15:35,050 --> 00:15:37,080 まあ! フッ。 いや 実はね→ 205 00:15:37,080 --> 00:15:41,790 吉二さんの あの稽古着が 役者の間で評判になりやしてね→ 206 00:15:41,790 --> 00:15:46,160 誰も彼も 木綿に 絹裏をつけ始めたんですよ。 207 00:15:46,160 --> 00:15:48,520 そうだすか。 へい。 ところがどっこい→ 208 00:15:48,520 --> 00:15:50,890 ええ? よその羽二重は ありゃ 薄くってねえ→ 209 00:15:50,890 --> 00:15:54,920 稽古着にすると もう擦り切れちまって いけねえや。 210 00:15:54,920 --> 00:15:56,280 そしたら 佐野屋の旦那が→ 211 00:15:56,280 --> 00:16:00,650 「五鈴屋の浜羽二重じゃなきゃ こうはいかねえ」と→ 212 00:16:00,650 --> 00:16:03,000 おっしゃるもんですからね。 213 00:16:03,000 --> 00:16:07,720 栄次郎さんが そないなことを。 ええ! フフフ…。→ 214 00:16:07,720 --> 00:16:11,080 まっ それで役者衆に頼まれて→ 215 00:16:11,080 --> 00:16:13,770 あっしが こうして まとめて 買いに来たってわけでさ。 216 00:16:13,770 --> 00:16:15,800 ありがとさんでございます。 217 00:16:15,800 --> 00:16:19,160 けど もう衣がえが近うおます。 218 00:16:19,160 --> 00:16:22,530 買うていただいたかて 袷 着る日は 何日もあらしまへん。 219 00:16:22,530 --> 00:16:25,570 いや なに 四日かね五日も着れりゃ それでいいんですよ。 220 00:16:25,570 --> 00:16:29,610 ねえ 無駄なようでも その金を惜しまねえってのが→ 221 00:16:29,610 --> 00:16:32,300 役者の意気地ってやつでさ。 222 00:16:32,300 --> 00:16:40,040 (笑い声) 223 00:16:40,040 --> 00:16:43,070 わあ~! 224 00:16:43,070 --> 00:16:48,120 大したもんだねえ 目の肥えた役者連中に ひいきにされるなんてさ。 225 00:16:48,120 --> 00:16:51,150 へえ 夢のようでございます。 226 00:16:51,150 --> 00:16:55,180 若い衆が 吉二って言ってたけど ひょっとして…。 227 00:16:55,180 --> 00:16:56,540 栄次郎さんのお弟子さんだす。 228 00:16:56,540 --> 00:16:58,890 (お浜 お照 お仲)キャ~! 229 00:16:58,890 --> 00:17:00,580 (お照)吉二って きれいな子だよねえ! 230 00:17:00,580 --> 00:17:04,290 あ… すんまへん。 (笑い声) 231 00:17:04,290 --> 00:17:10,350 <中村座の役者たちが 五鈴屋を ひいきにしているという うわさは→ 232 00:17:10,350 --> 00:17:16,410 たちまち浅草の町に広まって 商いに弾みがつき→ 233 00:17:16,410 --> 00:17:21,790 五鈴屋江戸店は 再び活気を取り戻したのです> 234 00:17:21,790 --> 00:17:25,490 お気に召すものはございましたか? 235 00:17:25,490 --> 00:17:28,490 ようお似合いになると思います。 236 00:17:34,920 --> 00:17:37,280 (お染)ご寮さんからの文 何が書いてあるんだす? 237 00:17:37,280 --> 00:17:39,630 (治兵衛)うん? 238 00:17:39,630 --> 00:17:42,660 浜羽二重が売り切れてしもて→ 239 00:17:42,660 --> 00:17:48,730 波村を拝み倒して 追加で仕入れたそうや。 240 00:17:48,730 --> 00:17:54,460 ええ品は どこでも売れますのやな。 241 00:17:54,460 --> 00:17:57,480 あとは? うん? 242 00:17:57,480 --> 00:18:03,540 お竹どんの帯結び指南 だんだん人が増えて→ 243 00:18:03,540 --> 00:18:06,570 帯地も よう売れるようになったて 書いてある。 244 00:18:06,570 --> 00:18:11,630 五鈴帯が人気だすのやろか? 245 00:18:11,630 --> 00:18:14,660 あとは? う~ん あとは…。 246 00:18:14,660 --> 00:18:18,690 おっ 歌舞伎の役者も 買いに来はるそうや。 247 00:18:18,690 --> 00:18:22,690 まあ えらい華やかなこと。 248 00:18:25,430 --> 00:18:29,800 あとは? 「あとは あとは」て…。 249 00:18:29,800 --> 00:18:37,880 知りたいのは 賢輔のことだっしゃろ? へえ。 はよ 読んどくれやす。 250 00:18:37,880 --> 00:18:42,930 物腰が やらこうて 品を選ぶ目ぇもあるさかい→ 251 00:18:42,930 --> 00:18:46,640 お客さんに かわいがられてるて。 フフフ…。 252 00:18:46,640 --> 00:18:53,640 はあ… そうだすか。 お役に立ててるなら 何よりだす。 253 00:19:00,780 --> 00:19:06,510 アリの目は開いたようやけど… まだ足りまへんなあ。 254 00:19:06,510 --> 00:19:09,870 (鳴き声) 255 00:19:09,870 --> 00:19:18,620 次は… ミサゴの目 使て 世の中の流れ 読みなはれや。 256 00:19:18,620 --> 00:19:28,620 ・~ 257 00:19:29,740 --> 00:19:35,120 <六月一日 浅草寺裏の浅間神社で→ 258 00:19:35,120 --> 00:19:38,490 富士の山開きに合わせた 植木市が開かれ→ 259 00:19:38,490 --> 00:19:42,490 広小路は いつも以上に にぎわいます> 260 00:19:46,580 --> 00:19:59,030 ・~ 261 00:19:59,030 --> 00:20:01,730 惣ぼんさん! 262 00:20:01,730 --> 00:20:05,430 すんまへん! おけがは ありまへんか? 大丈夫や 大丈夫や…。 263 00:20:05,430 --> 00:20:07,780 大事おまへんか? 大丈夫や…。 264 00:20:07,780 --> 00:20:10,130 すんまへん。 265 00:20:10,130 --> 00:20:14,180 ・~ 266 00:20:14,180 --> 00:20:16,540 すんまへん! すんまへん! 267 00:20:16,540 --> 00:20:23,950 ・~ 268 00:20:23,950 --> 00:20:25,970 すんまへん! わっ…。 269 00:20:25,970 --> 00:20:30,680 ・~ 270 00:20:30,680 --> 00:20:32,370 (惣次)これから寄り合いやさかい→ 271 00:20:32,370 --> 00:20:37,750 あんさん これ持って 先に戻っててくれるか。 272 00:20:37,750 --> 00:20:39,440 (お杉)きれいだすなあ。 273 00:20:39,440 --> 00:20:44,820 これ ご覧にならはったら ご病人も 力 出ますやろ。 274 00:20:44,820 --> 00:20:46,820 そやったら ええけどな。 275 00:20:50,540 --> 00:20:52,570 旦那さん。 何や? 276 00:20:52,570 --> 00:20:59,630 あの店 すぐそこでおます。 のぞいていかはらへんのだすか? 277 00:20:59,630 --> 00:21:01,980 何言うてんのや。 278 00:21:01,980 --> 00:21:03,980 それ 頼んだで。 279 00:21:08,730 --> 00:21:13,440 すんまへん… ご寮さん! 280 00:21:13,440 --> 00:21:17,810 お竹どん! どないしたん? そない慌てて。 281 00:21:17,810 --> 00:21:21,860 ご寮さんは!? いてはるけど… まあ ひどい汗やわ。 282 00:21:21,860 --> 00:21:26,220 あ… お帰りやす。 どないしたんや? 283 00:21:26,220 --> 00:21:29,600 今… 今 そこで 惣ぼんさんをお見かけしたんだす! 284 00:21:29,600 --> 00:21:34,320 後を追おうとしたんですけど 見失うてしもて… 申し訳ありまへん! 285 00:21:34,320 --> 00:21:38,350 ホンマに惣ぼんさんやったんか? もう七年も 会うてまへんのやで? 286 00:21:38,350 --> 00:21:40,710 見間違えとちゃうか? 287 00:21:40,710 --> 00:21:45,090 いいえ! 奉公に上がって 六年の間 毎日見てたお顔だす。 288 00:21:45,090 --> 00:21:47,780 間違うはずあらしまへん。 289 00:21:47,780 --> 00:21:50,130 んなアホな…。→ 290 00:21:50,130 --> 00:21:54,180 ご寮さんが七代目継がはる時かて さんざん捜したいうのに…。 291 00:21:54,180 --> 00:21:57,540 江戸にいてはったんや…。 292 00:21:57,540 --> 00:22:02,250 ああ… よかった。 293 00:22:02,250 --> 00:22:03,950 ご無事で何よりだす。 294 00:22:03,950 --> 00:22:06,970 (佐助)ご寮さん…。 惣ぼんさんのこと→ 295 00:22:06,970 --> 00:22:09,330 お家さんが どない案じてはったか。 296 00:22:09,330 --> 00:22:14,050 ああ… ご無事やと分かったら あの世で安堵されますやろ。 297 00:22:14,050 --> 00:22:16,400 へえ そうだすな。 298 00:22:16,400 --> 00:22:18,760 江戸で何してはるのやろ…。 299 00:22:18,760 --> 00:22:23,140 分かりまへん。 ただ 黒の絽の羽織 お召しになってて→ 300 00:22:23,140 --> 00:22:26,160 商家の旦那さんのように お見受けしました。 301 00:22:26,160 --> 00:22:31,210 この店のこと ご存じだすのやろか? 302 00:22:31,210 --> 00:22:36,210 ひょっとして 様子を見に 浅草まで来はったんやおまへんか? 303 00:22:38,620 --> 00:22:40,310 ご寮さん…。 304 00:22:40,310 --> 00:22:44,360 惣ぼんさんは 五鈴屋の ただ一人のお血筋だす。 305 00:22:44,360 --> 00:22:51,750 もしも 五鈴屋に戻りたい言わはったら どないなりますのやろ? 306 00:22:51,750 --> 00:22:55,120 (鍋が煮立つ音) 307 00:22:55,120 --> 00:22:58,150 ああっ しもた! 308 00:22:58,150 --> 00:23:01,860 あっ…。 309 00:23:01,860 --> 00:23:04,890 いろいろ考えたかて しかたありまへん。 310 00:23:04,890 --> 00:23:09,270 江戸にいてはることは分かったんや。 もういっぺん お行方 捜してみまひょ。 311 00:23:09,270 --> 00:23:13,970 (2人)へえ。 312 00:23:13,970 --> 00:23:16,680 <不意に現れた五代目店主の存在は→ 313 00:23:16,680 --> 00:23:22,680 軌道に乗ったばかりの江戸店に 不穏な影を落としたのです> 314 00:23:30,480 --> 00:23:34,180 (近江屋荘八) 古着仲間にも尋ねてみましたが…→ 315 00:23:34,180 --> 00:23:38,560 惣次さんを知ってるいう人は おりまへんでした。 316 00:23:38,560 --> 00:23:41,920 あ… そうだすか。 はあ… 植木市には→ 317 00:23:41,920 --> 00:23:44,290 近在からも 人が集まりますんでねえ…。 318 00:23:44,290 --> 00:23:49,670 もしかしたら 江戸に お住まいではないのかもしれまへんな。 319 00:23:49,670 --> 00:23:54,040 へえ…。 それか…→ 320 00:23:54,040 --> 00:23:58,420 呉服屋やのうて ほかの商いをしてはるとしたら→ 321 00:23:58,420 --> 00:24:01,790 手前どもの耳には入りまへん。 322 00:24:01,790 --> 00:24:07,170 へえ… お手数おかけしてしもて。 323 00:24:07,170 --> 00:24:10,880 何ぞ分かりましたら すぐに お知らせいたします。 324 00:24:10,880 --> 00:24:14,880 あ… よろしゅうお頼申します。 325 00:24:20,310 --> 00:24:23,340 (鳥の鳴き声) 326 00:24:23,340 --> 00:24:31,340 (反物を洗う音) 327 00:24:44,550 --> 00:24:48,250 ご寮さん? 328 00:24:48,250 --> 00:24:53,640 お戻りが遅いさかい お迎えにあがるとこでおました。 329 00:24:53,640 --> 00:24:58,360 惣ぼんさんの居所… まだ分かりまへなんだ。 330 00:24:58,360 --> 00:25:01,720 近江屋さんの耳にも 話は入ってへんそうだす。 331 00:25:01,720 --> 00:25:05,760 そうだすか…。 332 00:25:05,760 --> 00:25:13,840 はあ… わては まだ な~んも できてまへんのやな。 333 00:25:13,840 --> 00:25:19,900 女名前が許されるのは足かけ三年。 今年いっぱいだす。 334 00:25:19,900 --> 00:25:26,970 それまでに江戸店の土台固めて 次の代に譲らんならんのに。 335 00:25:26,970 --> 00:25:30,680 通うてくださるお客さんも増えて→ 336 00:25:30,680 --> 00:25:33,370 売り上げかて伸びてるやおまへんか。 337 00:25:33,370 --> 00:25:36,060 そやけど…。 338 00:25:36,060 --> 00:25:40,440 浜羽二重も 五鈴帯も 帯結び指南も→ 339 00:25:40,440 --> 00:25:45,150 皆 天満で始めたもんだす。 340 00:25:45,150 --> 00:25:47,170 江戸まで出張ってきたいうのに→ 341 00:25:47,170 --> 00:25:52,490 新しいもんは まだ何一つ作り出せてまへん。 342 00:25:52,490 --> 00:25:56,000 ご寮さん…。 343 00:25:56,000 --> 00:25:59,390 残り半年で 何ができるやろ? 344 00:26:07,030 --> 00:26:08,390 ・五鈴屋さん。 345 00:26:08,390 --> 00:26:11,750 (お竹)ああ…。 フフ…。 346 00:26:11,750 --> 00:26:14,100 どうしたんです? こんなとこで。 347 00:26:14,100 --> 00:26:17,810 へえ… 今から店に戻るとこだす。 あ…。 348 00:26:17,810 --> 00:26:21,520 夕あじだすか? それ 大坂におまへんのや。 349 00:26:21,520 --> 00:26:24,880 えらい おいしいもんだすなあ。 350 00:26:24,880 --> 00:26:28,250 (お才) 夕河岸で仕入れる取れたてですからね。 351 00:26:28,250 --> 00:26:33,980 焼いて蓼酢をかけるのが うちの人の大好物で。 352 00:26:33,980 --> 00:26:38,980 お前さん! そろそろ上がらないかい? 353 00:26:41,380 --> 00:26:45,380 あれ うちの亭主。 力造っていうんですよ。 ああ…。 354 00:26:58,560 --> 00:27:01,590 お世話になっている 五鈴屋のおかみさんと→ 355 00:27:01,590 --> 00:27:04,610 帯結びのお師匠さんですよ。 356 00:27:04,610 --> 00:27:05,960 嬶が世話になって。 357 00:27:05,960 --> 00:27:09,330 こちらこそ。 お才さんにも和三郎さんにも→ 358 00:27:09,330 --> 00:27:14,040 いつも助けていただいてます。 いや…。 359 00:27:14,040 --> 00:27:18,760 堪忍しておくんなさいね。 ぶっきらぼうの 愛想なしで。 360 00:27:18,760 --> 00:27:22,790 それ 墨染めだすか? 361 00:27:22,790 --> 00:27:27,170 ああ…。 今は墨染めしかやってませんでね。 362 00:27:27,170 --> 00:27:30,170 お才 帰るぞ。 あいよ。 363 00:27:31,880 --> 00:27:36,270 じゃあ また お店に伺いますから。 へえ。 364 00:27:36,270 --> 00:27:42,990 (武士)こう暑くてはかなわんなあ。 そこらで一杯やりたいもんだ。 365 00:27:42,990 --> 00:27:45,360 ハハハ… この格好では そうもいくまい。 366 00:27:45,360 --> 00:27:51,420 ああ いっそ 川に飛び込みたい。 この格好では そうもいくまい。 367 00:27:51,420 --> 00:27:54,420 ・(笑い声) 368 00:28:00,840 --> 00:28:10,600 ・(せみの声) 369 00:28:10,600 --> 00:28:12,630 ・(鐘の音) 370 00:28:12,630 --> 00:28:15,660 (和三郎) ご注文の三本 仕上げてめえりやした。 371 00:28:15,660 --> 00:28:17,350 おおきに。 372 00:28:17,350 --> 00:28:22,390 ああ… ええ細工だすなあ。 373 00:28:22,390 --> 00:28:28,450 暑い中 ご苦労はんだす。 一服しておくれやす。 374 00:28:28,450 --> 00:28:32,500 ありがてえ! それじゃあ お言葉に甘えて。 フッ。 375 00:28:32,500 --> 00:28:34,520 この前 兄貴に会いなすったんだってね。 376 00:28:34,520 --> 00:28:37,870 へえ 大川端で ばったり。 377 00:28:37,870 --> 00:28:40,910 ずうたいばかり でかくて 無愛想な男で驚いたでしょ。 378 00:28:40,910 --> 00:28:43,110 へえ。 お竹どん! 379 00:28:43,110 --> 00:28:46,760 はっ すんまへん! ハハハハハ! 380 00:28:46,760 --> 00:28:51,000 兄貴は 田舎の出でね 俺や姉貴のような江戸っ子と違って→ 381 00:28:51,000 --> 00:28:52,360 口が重いんすよ。 382 00:28:52,360 --> 00:28:56,400 染め物をしてはるんだすなあ。 川で 反物 洗てはりました。 383 00:28:56,400 --> 00:29:01,110 兄貴の親父ってのが 腕のいい染物師でね→ 384 00:29:01,110 --> 00:29:05,490 ガキの時分 親父に連れられて 江戸に出てきたんですよ。 385 00:29:05,490 --> 00:29:10,200 国元で御家中の裃に仕立てる 小紋を染めてたんですがね→ 386 00:29:10,200 --> 00:29:13,570 その腕を見込まれて 江戸表に引っ張られ→ 387 00:29:13,570 --> 00:29:15,590 染物仕事を任されたってわけでさ。 388 00:29:15,590 --> 00:29:20,310 国元から わざわざ? 江戸にかて 染物師は大勢いてはりますやろ。 389 00:29:20,310 --> 00:29:25,690 おかみさん。 お武家さんの裃 ご覧になったことがおありでしょ? 390 00:29:25,690 --> 00:29:28,720 へえ。 あれは 型を使って染めるんですがね→ 391 00:29:28,720 --> 00:29:32,760 よほどの腕がなけりゃできねえ 仕事ですよ。 392 00:29:32,760 --> 00:29:36,120 ああ…。 お大名同士が競い合って→ 393 00:29:36,120 --> 00:29:41,850 あんな細けえ柄になったってんだから 地味なようでも ぜいたくなもんさ。 394 00:29:41,850 --> 00:29:44,880 (お竹)小紋 染めてはったんだすか? 395 00:29:44,880 --> 00:29:46,900 墨染めしか してへんって お才さん 言うてはりましたけど。 396 00:29:46,900 --> 00:29:49,900 ああ あれは…。 397 00:29:55,990 --> 00:30:01,990 ちょっと見は地味で… よう見たら ぜいたく…。 398 00:30:04,410 --> 00:30:07,780 江戸っ子の好むもの…。 399 00:30:07,780 --> 00:30:20,230 ・~ 400 00:30:20,230 --> 00:30:24,280 あじ… 芝の夕あじ~。 401 00:30:24,280 --> 00:30:28,990 あ~じ~。 あじ~。 402 00:30:28,990 --> 00:30:31,010 型染めの小紋だすか? 403 00:30:31,010 --> 00:30:35,720 へえ。 お武家さんの裃のような こんまい柄の小紋→ 404 00:30:35,720 --> 00:30:38,080 作ってみたらどないだすやろ。 405 00:30:38,080 --> 00:30:43,470 それは あきまへん。 裃小紋は お武家さんのもんだす。 406 00:30:43,470 --> 00:30:47,510 ご寮さんも ようご存じのとおり お大名家の 定め小紋は→ 407 00:30:47,510 --> 00:30:50,540 御家中だけに許される お留紋だす。 408 00:30:50,540 --> 00:30:55,920 万が一にも 町人が使たりしたら 厳しい おとがめを受けます。 409 00:30:55,920 --> 00:31:00,300 それやったら お武家さんの裃には 決して染められへんような→ 410 00:31:00,300 --> 00:31:05,010 別の柄で作ったらどないだす? 別の柄? 411 00:31:05,010 --> 00:31:08,390 公方様の御召十→ 412 00:31:08,390 --> 00:31:12,760 紀州大納言様の極鮫→ 413 00:31:12,760 --> 00:31:17,130 加賀前田様の菊菱→ 414 00:31:17,130 --> 00:31:19,830 甲斐武田様の武田菱。 415 00:31:19,830 --> 00:31:24,200 どれもお武家さんらしい 立派なもんだす。 416 00:31:24,200 --> 00:31:30,270 けど… 小紋の柄やったら ほかに なんぼでも作れますやろ。 417 00:31:30,270 --> 00:31:33,970 鳥や魚 宝尽くし。 418 00:31:33,970 --> 00:31:38,360 あ… うちわかて 小紋の柄にできますやろけど→ 419 00:31:38,360 --> 00:31:44,070 裃に うちわ染めてはる お大名さんは いてはりまへんわな。 420 00:31:44,070 --> 00:31:49,470 それやったら 帳場のそろばんも 台所のおろし金かて→ 421 00:31:49,470 --> 00:31:53,500 小紋にできそうだすわ。 おろし金? 422 00:31:53,500 --> 00:31:59,220 それも面白いなあ。 裃やのうて 町人の着る小紋だすよって。 423 00:31:59,220 --> 00:32:01,590 町人の小紋…。 424 00:32:01,590 --> 00:32:06,960 遠目には無地に見えるぐらい こんまい柄にして→ 425 00:32:06,960 --> 00:32:08,960 一色で染め抜いたら…。 426 00:32:11,010 --> 00:32:14,710 京 大坂にはない 江戸のお方のお好みに合う→ 427 00:32:14,710 --> 00:32:17,740 新しい小紋が作れるのやおまへんか? 428 00:32:17,740 --> 00:32:20,100 新しい小紋…。 429 00:32:20,100 --> 00:32:24,810 五鈴屋でしか買われへん 特製の品だす。 430 00:32:24,810 --> 00:32:27,840 それなら 柄は…。 431 00:32:27,840 --> 00:32:31,200 鈴? 432 00:32:31,200 --> 00:32:36,270 こんまい鈴柄の小紋作って あれに掛けて 店に並べまひょ。 433 00:32:36,270 --> 00:32:38,620 (2人)へえ! 434 00:32:38,620 --> 00:32:42,990 型染めだすよって まず 型紙 調達せなあきまへん。 435 00:32:42,990 --> 00:32:46,360 どこに頼んだらええか お才さんに聞いてみて…。 伊勢だす。 436 00:32:46,360 --> 00:32:49,050 えっ? 近江屋さんにいた時→ 437 00:32:49,050 --> 00:32:52,420 型紙の行商をしてはった人と 会うたことがおます。 438 00:32:52,420 --> 00:32:56,800 伊勢の… 白子いうところで彫ってる 言うてはりました。 439 00:32:56,800 --> 00:33:00,840 伊勢… 五鈴屋の初代が生まれた土地や。 440 00:33:00,840 --> 00:33:03,840 ご縁がおますのやなあ。 フフッ。 441 00:33:06,220 --> 00:33:08,920 ご寮さん わてを 伊勢に行かしておくれやす! 442 00:33:08,920 --> 00:33:11,610 えっ? 443 00:33:11,610 --> 00:33:14,970 伊勢には 白雲屋さんがおいでだす。 444 00:33:14,970 --> 00:33:18,680 白子にも 何ぞ ツテをお持ちかもしれまへん。 445 00:33:18,680 --> 00:33:23,400 そやな… ご寮さん 賢輔どんは絵が上手やさかい→ 446 00:33:23,400 --> 00:33:28,110 どないな柄がええか 彫師と話できます。 447 00:33:28,110 --> 00:33:32,490 新しい小紋を作る その一番初めのところから→ 448 00:33:32,490 --> 00:33:37,200 関わらせていただきとうおます。 449 00:33:37,200 --> 00:33:42,930 これは 江戸店が初めて作る 勝負の品だす。 450 00:33:42,930 --> 00:33:45,290 へえ。 451 00:33:45,290 --> 00:33:48,990 賢輔どん…→ 452 00:33:48,990 --> 00:33:56,390 鈴の小紋作る道筋 しっかり つけてきとくれやす。 453 00:33:56,390 --> 00:33:58,750 へえ! 454 00:33:58,750 --> 00:34:11,200 ・~ 455 00:34:11,200 --> 00:34:13,570 ご寮さん お茶 お持ちしました。 456 00:34:13,570 --> 00:34:17,940 あ… おおきに。 457 00:34:17,940 --> 00:34:19,290 天満への文だすか? 458 00:34:19,290 --> 00:34:25,010 へえ。 鉄助どんにも 伊勢に 行ってもらわななりまへんさかい。 459 00:34:25,010 --> 00:34:28,710 さっきは びっくりしましたわ。 460 00:34:28,710 --> 00:34:31,070 賢輔どんだす。 あ…。 461 00:34:31,070 --> 00:34:34,780 伊勢に行かしてほしいて あない強う 物言うたん→ 462 00:34:34,780 --> 00:34:40,840 初めてやありまへんか? そうだすなあ。 いつもは控えめやのに。 463 00:34:40,840 --> 00:34:44,880 賢輔どんも分かってはりますんやな。 464 00:34:44,880 --> 00:34:48,240 ご寮さんが店主でいてはる間に→ 465 00:34:48,240 --> 00:34:54,310 江戸店の土台 しっかり作らんならんこと。 466 00:34:54,310 --> 00:34:57,340 皆 思いは同じだす。 467 00:34:57,340 --> 00:35:05,340 どなたが現れたかて 五鈴屋の店主は ご寮さん お一人でおます。 468 00:35:07,780 --> 00:35:10,130 ほな わては これで。 469 00:35:10,130 --> 00:35:12,150 お竹どん。 へえ。 470 00:35:12,150 --> 00:35:15,860 鉄助どんに もう一つ 大事なこと頼もう思てますのやけど…。 471 00:35:15,860 --> 00:35:18,550 大事なこと? 472 00:35:18,550 --> 00:35:23,250 もう一人 江戸に呼びたいのやけど…。 473 00:35:23,250 --> 00:35:27,980 あ… へえ! そろそろ 頃合いやと思てました。 474 00:35:27,980 --> 00:35:29,980 あ…。 475 00:35:38,070 --> 00:35:57,270 (子供たちのはしゃぐ声) 476 00:35:57,270 --> 00:36:00,270 あ… あそこや。 477 00:36:14,100 --> 00:36:17,130 ごめんやす。 478 00:36:17,130 --> 00:36:20,130 まあ! 五鈴屋の…。 479 00:36:22,850 --> 00:36:25,880 型染めの小紋を? へえ。 480 00:36:25,880 --> 00:36:28,590 裃のような 小さい柄の小紋だす。 481 00:36:28,590 --> 00:36:32,950 五鈴屋さんで それを売り出すっていうんですか? 482 00:36:32,950 --> 00:36:39,020 和三郎さんから 力造さんが 小紋の型染めしてはったて伺うて→ 483 00:36:39,020 --> 00:36:45,070 いずれ 型紙が出来たら 染めをお願いできへんやろかて。 484 00:36:45,070 --> 00:36:46,430 お才 帰ってもらいな。 485 00:36:46,430 --> 00:36:50,130 お前さん! 和三郎が何言ったか知らねえが→ 486 00:36:50,130 --> 00:36:51,480 俺は 型染め やらねえ。 487 00:36:51,480 --> 00:36:55,860 そんな言い方しなくたってさ… 話だけでもお聞きしたらいいじゃない…。 488 00:36:55,860 --> 00:36:59,560 うるせえ! 二度と型染め やらねえんだ。 489 00:36:59,560 --> 00:37:01,560 (強く戸を閉める音) 490 00:37:05,290 --> 00:37:23,800 (風の音) 491 00:37:23,800 --> 00:37:25,800 おかみさん! 492 00:37:27,170 --> 00:37:30,170 お才さん…。 493 00:37:37,320 --> 00:37:42,920 (お才)うちの人が定め小紋を染めてたこと 弟から お聞きなすってますか? 494 00:37:42,920 --> 00:37:47,700 へえ。 そのために 国元から 親子で出てきはったて。 495 00:37:47,700 --> 00:37:57,120 (お才)あ… あの人の父親は 腕のいい型付け師だったんです。 496 00:37:57,120 --> 00:38:00,160 片染めの染物師のことを 型付け師ってっていうんですけどね。 497 00:38:00,160 --> 00:38:03,190 へえ。 498 00:38:03,190 --> 00:38:07,900 うちの人も そりゃあ 一所懸命に修業して…。 499 00:38:07,900 --> 00:38:10,930 女房の私が言うのもなんですけど→ 500 00:38:10,930 --> 00:38:16,660 型染めの腕なら 誰にも引けを取りゃしませんよ。 501 00:38:16,660 --> 00:38:20,020 フッ…。 502 00:38:20,020 --> 00:38:24,740 けどね… 五年前→ 503 00:38:24,740 --> 00:38:29,460 うちで染めたのと そっくりな小紋が 古着屋で売られていたんです。 504 00:38:29,460 --> 00:38:31,480 えっ? 505 00:38:31,480 --> 00:38:35,850 お留紋 よそに流すのは 御法度だから→ 506 00:38:35,850 --> 00:38:39,560 型紙一枚だって 決して持ち出しゃしないのに…→ 507 00:38:39,560 --> 00:38:46,290 お父っつぁんが疑われて 厳しいご詮議を受けたんですよ。 508 00:38:46,290 --> 00:38:55,040 その時の傷がもとで 三年前に亡くなっちまって…。 509 00:38:55,040 --> 00:38:56,390 ひどい。 510 00:38:56,390 --> 00:39:00,440 誰が古着屋に流したか 結局 分からずじまい。 511 00:39:00,440 --> 00:39:06,490 おおかた お役人が 上前はねたんでしょうよ。 512 00:39:06,490 --> 00:39:10,190 うちの人 それからは…→ 513 00:39:10,190 --> 00:39:17,190 お侍にも 裃小紋にも 金輪際 関わりたくねえと言って。 514 00:39:18,280 --> 00:39:24,670 今じゃ 闇みたいな墨染めばっかり。→ 515 00:39:24,670 --> 00:39:26,700 私には あの人が→ 516 00:39:26,700 --> 00:39:34,100 真っ黒な胸の内を染めているように 見えてならないんです。→ 517 00:39:34,100 --> 00:39:40,830 けどね… 本当は まだ未練があるに違いないんだ。 518 00:39:40,830 --> 00:39:49,830 型染めに使う道具 今も欠かさず 大事に手入れしているんですから。 519 00:39:54,310 --> 00:40:01,030 いい腕があるのに それを使わずに封じちまうなんて…→ 520 00:40:01,030 --> 00:40:06,430 職人にとって こんな つらいことは ありゃしませんよ。 521 00:40:06,430 --> 00:40:28,430 ・~ 522 00:40:32,360 --> 00:40:36,390 すみません。 おおきに ありがとさんでございます。 523 00:40:36,390 --> 00:40:39,760 ありがとうございました。 524 00:40:39,760 --> 00:40:44,760 <賢輔が江戸をたってから みつき近くが過ぎて…> 525 00:40:47,500 --> 00:40:53,220 おっつけ暮れ六つだすな。 あ… えらい 日が短なりましたなあ。 526 00:40:53,220 --> 00:40:56,250 九月も半ばだす。 527 00:40:56,250 --> 00:40:59,960 そろそろ ええ知らせがあっても よさそうなもんだすけど。 528 00:40:59,960 --> 00:41:03,670 ・枝豆や~ 枝豆~。 529 00:41:03,670 --> 00:41:08,380 ああ そうや… 明日は 十三夜の豆名月だすな。 530 00:41:08,380 --> 00:41:11,070 ああ…。 枝豆 買うてきますわ。 531 00:41:11,070 --> 00:41:15,100 ええよ。 わてが行きますよって。 (お竹)あっ いや…。 532 00:41:15,100 --> 00:41:17,810 枝豆や~。 533 00:41:17,810 --> 00:41:23,530 (風の音) 534 00:41:23,530 --> 00:41:25,880 あ…。 535 00:41:25,880 --> 00:41:29,880 (結)姉さん! 結! 536 00:41:31,270 --> 00:41:33,630 (泣き声) 537 00:41:33,630 --> 00:41:46,420 ・~ 538 00:41:46,420 --> 00:41:48,420 いて参じました。 539 00:41:52,820 --> 00:41:55,520 お帰りやす。 ご苦労はんだした。 540 00:41:55,520 --> 00:42:01,230 (鉄助)遅なってしもたな。 堪忍しておくれやす。 541 00:42:01,230 --> 00:42:04,940 うち… 江戸に来たで。 542 00:42:04,940 --> 00:42:06,630 姉さんのとこに来たよ。 543 00:42:06,630 --> 00:42:12,010 (泣き声) うん… 待ってたで。 544 00:42:12,010 --> 00:42:15,380 (泣き声) 545 00:42:15,380 --> 00:42:18,410 結…。 546 00:42:18,410 --> 00:42:26,830 ・~ 547 00:42:26,830 --> 00:42:32,830 (泣き声) 548 00:42:35,900 --> 00:42:39,960 役者人生をかける晴れの場に この小紋を身にまといとうございます。 549 00:42:39,960 --> 00:42:41,310 あっ! 八代目にふさわしいのは→ 550 00:42:41,310 --> 00:42:44,340 賢輔どんやおまへんやろか。 江戸の色…。 551 00:42:44,340 --> 00:42:48,380 鈴の小紋…。 店は繁盛してるようだす。 552 00:42:48,380 --> 00:42:52,070 前よりずっと大きなった五鈴屋 見たら→ 553 00:42:52,070 --> 00:42:54,370 欲しゅうなるんやないの? 幸か…。