1 00:00:01,935 --> 00:00:29,630 ♬~ 2 00:00:29,630 --> 00:00:34,334 (ハエの羽音) 3 00:00:50,317 --> 00:00:57,190 (くに)<弥太郎 弥太郎 面白いか?➡ 4 00:00:57,190 --> 00:01:00,928 面白かろうな。➡ 5 00:01:00,928 --> 00:01:07,634 どんなに ちっちゃいものでも 生きてるものは楽しいなあ> 6 00:01:10,938 --> 00:01:14,808 (さつ)この ずくなし! 仙六 放り出して 何ゴロゴロしてる! 7 00:01:14,808 --> 00:01:17,811 子守ひとつ まともにできねえ 穀潰しが! 8 00:01:17,811 --> 00:01:21,949 (弥太郎)おっ義母 勘弁して! おら 横着したんでねえ! 9 00:01:21,949 --> 00:01:26,620 仙六が眠り始めたから ちょっくら 横にして 楽にしてやろうかなと。 10 00:01:26,620 --> 00:01:32,492 小面憎や 赤子のせいにすっか! (たたく音) 11 00:01:32,492 --> 00:01:36,630 (子どもの はやす声) 12 00:01:36,630 --> 00:01:40,300 (さつ)とっとと働け! 13 00:01:40,300 --> 00:01:42,970 や~い ずくなし! (子どもたち)や~い ずくなし! 14 00:01:42,970 --> 00:01:47,841 畜生! あっち行け! (子どもたち)ずくなし!➡ 15 00:01:47,841 --> 00:01:51,979 ♬「親の無い子はどこでも知れる」 16 00:01:51,979 --> 00:01:55,649 ♬「爪をくわえて門に立つ」 17 00:01:55,649 --> 00:01:58,318 ⚟(子どもたち)や~い! 18 00:01:58,318 --> 00:02:06,126 <親のない子はどこでも知れる。 爪をくわえて門に立つ。➡ 19 00:02:06,126 --> 00:02:10,263 おら 弥太郎の母 くにと申しやす。➡ 20 00:02:10,263 --> 00:02:13,166 この世の者ではありやせん。➡ 21 00:02:13,166 --> 00:02:15,135 この子が3歳の時➡ 22 00:02:15,135 --> 00:02:20,273 風邪こじらせて死んだんでやんす。➡ 23 00:02:20,273 --> 00:02:24,945 さっきの女は 後添いの さつ。➡ 24 00:02:24,945 --> 00:02:30,617 なさぬ仲とはいいながら さつの いまいましさというたら➡ 25 00:02:30,617 --> 00:02:35,489 かなうことなら とりついて たたり殺してやりてえが➡ 26 00:02:35,489 --> 00:02:39,192 それもできねえ相談> 27 00:02:43,196 --> 00:02:49,636 <何より情けないのは おらが夫の弥五兵衛さんでやんす。➡ 28 00:02:49,636 --> 00:02:55,308 生来の小心者ゆえに わが子の難儀も見て見ぬふり。➡ 29 00:02:55,308 --> 00:02:59,646 そったら訳で おら 明けても暮れても➡ 30 00:02:59,646 --> 00:03:04,918 わが子 弥太郎に寄り添い 何も手助けはできねえが➡ 31 00:03:04,918 --> 00:03:11,925 せめて行く末は幸せになってくれろと 祈っておるのでごぜえやす> 32 00:03:27,941 --> 00:03:31,812 (弥五兵衛)路銀は ちゃんと本人に持たせておりやすんで➡ 33 00:03:31,812 --> 00:03:36,283 よろしゅう お頼申しやす。 (勘次郎)つれえな。 34 00:03:36,283 --> 00:03:38,952 おっしゃん 早く江戸に連れてってくらい! 35 00:03:38,952 --> 00:03:44,291 おう 行こ行こ。 弥太郎は元気だな。 弥太郎…。 36 00:03:44,291 --> 00:03:48,628 おらの奉公先は米屋だもん。 白飯 好きなだけ食える。 37 00:03:48,628 --> 00:03:51,331 おら 毎日 盆 正月すんだ。 38 00:03:56,303 --> 00:04:03,577 <ああ ふがいね。 けんど どうしようもなんね。➡ 39 00:04:03,577 --> 00:04:09,082 気弱な弥五兵衛さんは 後妻の さつに押し切られ➡ 40 00:04:09,082 --> 00:04:16,590 とうとう 弥太郎を手放し 江戸の米屋に奉公に出しやす。➡ 41 00:04:16,590 --> 00:04:19,493 15やそこらで身寄りもねえ➡ 42 00:04:19,493 --> 00:04:24,264 冷たい世間の荒波に 放り出される弥太郎こそ➡ 43 00:04:24,264 --> 00:04:27,267 哀れでやんす> 44 00:04:29,136 --> 00:04:36,610 弥太郎 毒なもんは食うでねえぞ! 45 00:04:36,610 --> 00:04:40,280 人に悪く思われるでねえだぞ! 46 00:04:40,280 --> 00:04:43,950 うん… うん。 47 00:04:43,950 --> 00:04:50,824 早く帰って 機嫌のええ顔 見せてくれろ…。 48 00:04:50,824 --> 00:04:53,126 お父…。 49 00:04:55,562 --> 00:04:58,265 (勘次郎)さあ 行こう。 50 00:05:04,905 --> 00:05:09,209 弥太郎! 達者でのう! 51 00:05:11,578 --> 00:05:19,920 <弥太郎 おめえの行く末は おらが しっかり見守ってやっからな。➡ 52 00:05:19,920 --> 00:05:23,590 わが子 弥太郎 この時15。➡ 53 00:05:23,590 --> 00:05:31,264 再び故郷の地を踏むのは はるかあとのことでごぜえやす> 54 00:05:31,264 --> 00:05:37,604 ♬~ 55 00:05:37,604 --> 00:06:19,312 ♬~ 56 00:06:25,919 --> 00:06:30,790 ♬~(かっぽれ) 57 00:06:30,790 --> 00:06:38,265 ♬~ 58 00:06:38,265 --> 00:06:40,200 ♬「よいよい」 59 00:06:40,200 --> 00:06:46,606 ♬~ 60 00:06:46,606 --> 00:06:51,945 (花嬌)<この夜 私がお招きにあずかりました宴席は➡ 61 00:06:51,945 --> 00:06:54,281 私ども俳諧のお仲間➡ 62 00:06:54,281 --> 00:06:58,151 夏目成美さんの句集ご出版の お祝いでございます> 63 00:06:58,151 --> 00:07:21,241 ♬~ 64 00:07:21,241 --> 00:07:25,912 私のような田舎者が お邪魔してよろしいの? 65 00:07:25,912 --> 00:07:29,249 (草杖)何をおっしゃるやら。 上総の花嬌さんといえば➡ 66 00:07:29,249 --> 00:07:34,587 今様 紫式部か清少納言とたたえられる 才媛ではありませんか。 67 00:07:34,587 --> 00:07:40,927 あなたの登場で ようやく まともな 俳諧の宴会らしくなります。 さあ。 68 00:07:40,927 --> 00:07:46,266 ♬~ 69 00:07:46,266 --> 00:07:48,201 (拍手と笑い声) 70 00:07:48,201 --> 00:07:51,905 (草杖)一茶さん! どうぞ。 71 00:07:56,910 --> 00:08:02,215 成美さん 道彦さん。 はるばる富津から 花嬌さんが駆けつけて下さいました。 72 00:08:02,215 --> 00:08:08,888 (拍手と歓声) 73 00:08:08,888 --> 00:08:13,760 <私が 小林一茶師匠と じかに お目にかかったのは➡ 74 00:08:13,760 --> 00:08:17,464 この時が初めてでございました> 75 00:08:20,500 --> 00:08:26,439 <私は 一茶師匠の句が好きで 敬っていたものですから➡ 76 00:08:26,439 --> 00:08:31,144 このへだたりには 心底 びっくりいたしたものです> 77 00:08:33,913 --> 00:08:44,557 ♬~(三味線) 78 00:08:44,557 --> 00:08:47,927 何だい こりゃ? 近頃 大坂で出した➡ 79 00:08:47,927 --> 00:08:51,598 相撲番付ならぬ 東西俳人番付だ。 ほう。 80 00:08:51,598 --> 00:08:53,900 (きせるの灰を落とす音) 81 00:08:56,936 --> 00:09:03,543 ほう… 成美 道彦➡ 82 00:09:03,543 --> 00:09:08,415 草杖… じゃねえよ 巣兆。 ヘヘヘ…。 83 00:09:08,415 --> 00:09:11,217 完来 若翁…。 84 00:09:11,217 --> 00:09:13,887 そうそうたる名前が並んでらあ。 85 00:09:13,887 --> 00:09:17,757 (道彦)自分の名 探してるの? なら もっと ず~っと下の方➡ 86 00:09:17,757 --> 00:09:21,561 下から2番目。 あっ ほんとだ あった。 87 00:09:21,561 --> 00:09:27,233 ハハハ… あ~あ ちっちぇえなあ。 88 00:09:27,233 --> 00:09:31,104 あんたの葛飾派からは 一茶さん 一人だけだ。 89 00:09:31,104 --> 00:09:37,243 これでまた 葛飾派のお偉いさんから にらまれらあ。 90 00:09:37,243 --> 00:09:40,146 おい これ もらったぜ。 便所紙 ちょうど切らしたんだい。 91 00:09:40,146 --> 00:09:45,118 あ~あ。 相変わらず むさい境地 狙ってんのかね。 92 00:09:45,118 --> 00:09:49,255 「高く心を悟りて俗にかえるべし」という➡ 93 00:09:49,255 --> 00:09:51,925 芭蕉翁のお教えを あんたなりに探ってるのかと➡ 94 00:09:51,925 --> 00:09:57,263 私は見てるんだが。 ヘヘヘ… そんな高尚なもんじゃねえよ。 95 00:09:57,263 --> 00:10:00,600 ただ カンで作ってるだけだい。 ヘヘヘ…。 96 00:10:00,600 --> 00:10:03,303 (成美)一茶さん。 はい。 97 00:10:08,274 --> 00:10:12,979 では そのカンとやらで一句。 98 00:10:17,617 --> 00:10:22,322 それじゃ… こんなのは どうでしょう。 99 00:10:24,290 --> 00:10:31,631 「老いぬれば桜も寒いばかりなり」。 100 00:10:31,631 --> 00:10:37,337 「老いぬれば桜も寒いばかりなり」。 101 00:10:44,210 --> 00:10:46,913 (拍手) 102 00:10:52,318 --> 00:10:58,191 私 一茶師匠の小さな動物たちを 詠み込まれた句が大好きですわ。 103 00:10:58,191 --> 00:11:00,593 ヘヘヘ…。 (草杖)くっ…。➡ 104 00:11:00,593 --> 00:11:04,898 いつまでも 蚤や蚊を飯の種にして どうする。 105 00:11:07,267 --> 00:11:11,938 「小便の穴だらけなり残り雪」。 106 00:11:11,938 --> 00:11:17,277 「はつ蝶やつかみこまれな馬糞かき」 ってのもあるぜ。 ヘヘヘ…。 107 00:11:17,277 --> 00:11:22,148 気が向きゃ 小便も糞も反吐だって詠み散らすさ。 108 00:11:22,148 --> 00:11:26,953 汚ねえなあ! そんな調子だから 道彦なんて小生意気なやつに➡ 109 00:11:26,953 --> 00:11:28,888 どんどん 先 越されんだよ。 110 00:11:28,888 --> 00:11:33,293 やっぱ 目指すなら 私は松尾芭蕉翁だ。 111 00:11:33,293 --> 00:11:35,962 芭蕉のあとへ続けさ。 112 00:11:35,962 --> 00:11:38,965 俺は俺さ…。 113 00:11:41,301 --> 00:11:46,973 芭蕉へ続けだと? そんな道 行ったって➡ 114 00:11:46,973 --> 00:11:51,311 行き着く先に芭蕉がいたんじゃ 面白くも何ともねえだろうが。 115 00:11:51,311 --> 00:11:58,184 よう 草杖よ まだ 人の踏まねえ道を行かなけりゃ➡ 116 00:11:58,184 --> 00:12:02,589 目新しい面白さは めっかんねえんじゃねえの? 117 00:12:02,589 --> 00:12:05,491 また そんな へ理屈を。 この ひねくれが。 118 00:12:05,491 --> 00:12:11,931 悪かったな。 どうせ おいら 田舎者のひねくれ者さ。 119 00:12:11,931 --> 00:12:14,634 ベえ。 ヒヒヒ…。 120 00:12:16,803 --> 00:12:22,275 <人と人の出会いは 一期一会。➡ 121 00:12:22,275 --> 00:12:27,947 この夜の短い道中のことは 生涯 忘れえぬ思い出として➡ 122 00:12:27,947 --> 00:12:32,652 心の玉手箱に大切にしまい込みました> 123 00:12:49,969 --> 00:12:54,641 この道20年で こんなゴミみてえなとこ➡ 124 00:12:54,641 --> 00:12:57,310 うろついてたんじゃ➡ 125 00:12:57,310 --> 00:13:01,914 先が思いやられるぜ…。 126 00:13:01,914 --> 00:13:07,220 (ため息) 127 00:13:09,789 --> 00:13:12,792 誰からだ? 128 00:13:33,279 --> 00:13:38,985 おやじが倒れた… お父が倒れた…。 129 00:13:43,923 --> 00:13:48,294 <江戸から信濃の追分宿まで 中山道で40里。➡ 130 00:13:48,294 --> 00:13:55,168 追分から お師匠さんのふるさと 柏原まで 北国街道で20里。➡ 131 00:13:55,168 --> 00:13:59,472 合わせて6日の道のりでございます> 132 00:14:02,809 --> 00:14:06,579 <15の折に 江戸に奉公に出されて以来➡ 133 00:14:06,579 --> 00:14:10,249 めったに戻ることもなかった ふるさとへの道を➡ 134 00:14:10,249 --> 00:14:13,586 一茶師匠は急ぎます> 135 00:14:13,586 --> 00:14:45,284 ♬~ 136 00:14:45,284 --> 00:14:53,593 おやじ 帰ってきたぜ。 待っててくれ。 137 00:15:20,119 --> 00:15:24,423 おう! 帰ったぞ! 138 00:15:27,260 --> 00:15:29,562 誰もいねえのか? 139 00:15:43,276 --> 00:15:45,278 お~う! 140 00:15:48,147 --> 00:15:57,824 ⚟(人のうなる声) 141 00:15:57,824 --> 00:16:01,828 お~っと…。 ⚟(人のうなる声) 142 00:16:07,233 --> 00:16:09,902 お父…。 143 00:16:09,902 --> 00:16:12,805 おめえは誰だ? 144 00:16:12,805 --> 00:16:17,777 誰だって… 俺だよ 俺だ。 弥太郎だよ! 145 00:16:17,777 --> 00:16:25,251 あいや~ おら 夢見てるだか? 146 00:16:25,251 --> 00:16:31,123 夢じゃねえよ。 夢じゃねえよ お父…。 147 00:16:31,123 --> 00:16:35,261 さ さと… 砂糖。 148 00:16:35,261 --> 00:16:40,600 さと…?砂糖…。 何だ?砂糖なめさせてくれろ。 149 00:16:40,600 --> 00:16:44,303 ああ… おう おう…。 150 00:16:45,938 --> 00:16:49,609 (むく)誰だ? いや… あの お父がよ➡ 151 00:16:49,609 --> 00:16:54,947 「砂糖をなめてえ」って言ってっからよ ちょ… ちょっと 砂糖持ってこいよ。 152 00:16:54,947 --> 00:17:00,753 あんれまあ 江戸の義兄さ… か? 153 00:17:00,753 --> 00:17:02,755 お初に お目にかかりやす。 154 00:17:02,755 --> 00:17:06,559 おら 仙六殿の連れ合いで むくと申しやす。 155 00:17:06,559 --> 00:17:11,230 ああ むく… ああ 分かった。 じゃあ 砂糖持ってこいよ。 156 00:17:11,230 --> 00:17:14,567 それからな ここは風通しが悪いからよ➡ 157 00:17:14,567 --> 00:17:17,470 お父の床を いろり端へ移すからよ それも手伝え。 158 00:17:17,470 --> 00:17:20,239 勝手なことすれば おっ義母さまに叱られやす。 159 00:17:20,239 --> 00:17:23,576 何でだ? 座敷まで病人くさくなるって。 160 00:17:23,576 --> 00:17:26,913 (舌打ち) あの鬼ばばあ…。 161 00:17:26,913 --> 00:17:30,783 いいか。 つべこべ抜かすやつは この俺が たたき出してやる! 162 00:17:30,783 --> 00:17:32,785 いいから手伝え! はい。 163 00:17:40,927 --> 00:17:43,829 まあ 何てのかな➡ 164 00:17:43,829 --> 00:17:49,936 その 江戸風の しゃれた言葉遊びみてえな 上っ調子のとは違って➡ 165 00:17:49,936 --> 00:17:52,605 俺の葛飾派ってのはな➡ 166 00:17:52,605 --> 00:18:00,413 こう わざと田舎びて ひなの気分を出すんだよ。 167 00:18:00,413 --> 00:18:02,882 そりゃ もちろん俳諧だからよ➡ 168 00:18:02,882 --> 00:18:10,756 まあ 花鳥風月の気分を きれいに出さなきゃいけねえんだけどな。 169 00:18:10,756 --> 00:18:13,225 (むく)義兄さ。 ああ? 170 00:18:13,225 --> 00:18:17,897 芋汁のお代わりを。 ヘヘへ…。 171 00:18:17,897 --> 00:18:22,234 そうか 芋汁か… もう一杯もらうか。 へい。 172 00:18:22,234 --> 00:18:29,108 おむくさ おめえの芋汁は絶品だぜ。 ほんと うめえや。 ああ。 173 00:18:29,108 --> 00:18:32,878 口の肥えた 俺の江戸の俳諧仲間にも 食わしてやりてえや。 174 00:18:32,878 --> 00:18:34,814 びっくりするぜ。 ヘヘヘ…。 175 00:18:34,814 --> 00:18:41,253 仙六よ。(仙六)ああ? おめえの女房にしちゃ 過ぎた女房だぜ。 176 00:18:41,253 --> 00:18:44,557 石女は 女じゃねえ。 177 00:18:54,600 --> 00:18:59,271 兄やん 江戸の女を嫁にすんのけ? 江戸の女? 178 00:18:59,271 --> 00:19:02,875 江戸の女は きついから嫌えだ。 そんなに きついか? 179 00:19:02,875 --> 00:19:06,545 ああ。 おめえの おっ母には負けるがよ。 ハハハ…。 180 00:19:06,545 --> 00:19:09,882 俺なんぞは 前に 戯れに➡ 181 00:19:09,882 --> 00:19:14,553 「木枯らしに女だてらの股火かな」って 句を詠んだらよ➡ 182 00:19:14,553 --> 00:19:19,225 えらくウケちゃってよ。 ハハハ…。 183 00:19:19,225 --> 00:19:25,898 それで 飯食えるか? あ? 食えんだよ。 184 00:19:25,898 --> 00:19:32,238 嫁っ子もらえるか? 嫁っ子もらえんだよ。 うん。 185 00:19:32,238 --> 00:19:37,576 まあ おめえらには 考えも及ばねえだろうけどな➡ 186 00:19:37,576 --> 00:19:43,249 もう 宗匠ともなりゃ お前 何千人って弟子持ってる人もいるからな。 187 00:19:43,249 --> 00:19:46,919 そういう人は お前 出入りは お駕籠だ。 ああ。 188 00:19:46,919 --> 00:19:54,593 おめえも その宗匠になれるんか? うん なれんの。 なれんだよ。 189 00:19:54,593 --> 00:19:58,264 いつ? いつって… いつってのは…。 190 00:19:58,264 --> 00:20:03,135 いつって こう… いつだよって こう はっきりは答えらんねえけどよ➡ 191 00:20:03,135 --> 00:20:07,139 まあ その じきだよ じき なれんだよ。 ハハハ…。 192 00:20:10,276 --> 00:20:15,147 弥太郎! また おめえか! おら 知らねえ! おらのせいじゃねえ! 193 00:20:15,147 --> 00:20:18,951 おら 知らねえ! おら 知らねえ! この ずくなしが! 194 00:20:18,951 --> 00:20:21,854 おら 知らねえよ~! 195 00:20:21,854 --> 00:20:33,566 (うなされる声) 196 00:20:39,972 --> 00:20:44,310 びっくりした。 なんて夢だ…。 197 00:20:44,310 --> 00:20:49,181 ⚟(さつ)あいつが帰ってきたら…。 ⚟(仙六)誰が? 198 00:20:49,181 --> 00:20:53,319 ⚟(さつ)弥太郎。 ⚟(仙六)兄やんが? 199 00:20:53,319 --> 00:21:00,926 ⚟(さつ)はあ… もう どうすんだよ ほんとに。 200 00:21:00,926 --> 00:21:03,262 あいつは鬼だぞ。 201 00:21:03,262 --> 00:21:08,934 兄やんは そんな大したもんじゃねえって。 ただの俳諧師だ。 202 00:21:08,934 --> 00:21:14,607 ⚟(さつ)おめが 仏心出して 手紙なんぞ書かねば帰ってこねえもんを。 203 00:21:14,607 --> 00:21:17,510 おめは 鬼 江戸から呼び寄せただ。 204 00:21:17,510 --> 00:21:20,279 しかたがねえだ。 おやじが会いたがってるもんを。 205 00:21:20,279 --> 00:21:23,182 弔いの時でよかったんだ。 206 00:21:23,182 --> 00:21:25,951 ⚟(仙六)まあ そうもいかねえだ。 207 00:21:25,951 --> 00:21:31,957 ⚟(さつ)うんにゃ 弔いは 田植えのあとがええ。 208 00:21:33,626 --> 00:21:40,499 ♬「かっぽれかっぽれ甘茶でかっぽれ! よよいとな」 209 00:21:40,499 --> 00:21:44,503 (大声で)よいよいっと! たっ! 210 00:21:48,174 --> 00:21:55,881 お父 死ぬなよ。 薄情なやつらの 都合に合わせてやることはねえ。 211 00:21:55,881 --> 00:22:04,190 大威張りで病人やってろ。 死なせてたまるかい。 なっ。 212 00:22:06,258 --> 00:22:09,161 何か食いてえ…。 213 00:22:09,161 --> 00:22:13,933 何 食いてえ? かゆか? くず湯か? 214 00:22:13,933 --> 00:22:19,271 砂糖なめっか? よしよし… 何でも作ってやるぞ。 なっ。 215 00:22:19,271 --> 00:22:23,576 みんな作ってやっから。 なっ。 ちょっと待ってろ ちょっと待ってろ。 216 00:22:27,146 --> 00:22:31,851 <一茶さんの父 弥五兵衛さんの病は 傷寒➡ 217 00:22:31,851 --> 00:22:35,821 後の世では チフスとか申します。➡ 218 00:22:35,821 --> 00:22:41,527 手当てが遅れますと 命取りになる怖い病です> 219 00:22:48,968 --> 00:23:47,660 ♬~ 220 00:23:50,296 --> 00:23:59,004 「有明の笠の雫や蚊のゆくえ」。 221 00:24:00,906 --> 00:24:06,779 花嬌さん この蚊ってのは➡ 222 00:24:06,779 --> 00:24:11,917 俺のことかえ? ヘヘヘ…。 223 00:24:11,917 --> 00:24:17,256 (弥五兵衛)弥太郎…。 何だ 起きてたのか? 224 00:24:17,256 --> 00:24:22,961 へい よっ。 へい へい…。 225 00:24:24,930 --> 00:24:28,267 弥太郎。 226 00:24:28,267 --> 00:24:33,138 昼寝して疲れを補え。 227 00:24:33,138 --> 00:24:39,278 おめの方が病みついちゃなんね。 228 00:24:39,278 --> 00:24:44,950 お父。 俳諧の弟子ってのは かわいいもんだぞ~。 229 00:24:44,950 --> 00:24:48,287 俺が こうやって 江戸離れてても➡ 230 00:24:48,287 --> 00:24:52,624 自分の詠んだ句な こうやって送りつけてくんだ。 これ 句。 231 00:24:52,624 --> 00:24:56,495 これ 句 句。 これ 句な。 句。 く… 句? 232 00:24:56,495 --> 00:25:00,232 ヘヘヘ… みんな 一生懸命だ。 233 00:25:00,232 --> 00:25:04,903 あんまり 根つめるな。 234 00:25:04,903 --> 00:25:08,574 お父 何か食うか? 235 00:25:08,574 --> 00:25:13,912 (泣き声) 236 00:25:13,912 --> 00:25:16,248 どうした? どうした? お父。 237 00:25:16,248 --> 00:25:20,119 おらが ふがいねえばっかりに➡ 238 00:25:20,119 --> 00:25:28,594 おめを年端も行かぬ頃 江戸へやらせて 荒奉公させて➡ 239 00:25:28,594 --> 00:25:33,932 つれない親と さぞ思っただらず。 240 00:25:33,932 --> 00:25:37,803 また 何 言いだすやら。 241 00:25:37,803 --> 00:25:43,942 これも皆 因縁と諦めろ。 242 00:25:43,942 --> 00:25:48,280 もう 忘れちまった。 243 00:25:48,280 --> 00:25:53,152 おめが哀れでなんね。 244 00:25:53,152 --> 00:25:58,924 弥太… 弥太郎。 はい はい。 245 00:25:58,924 --> 00:26:01,827 弥太郎。 はい。 246 00:26:01,827 --> 00:26:07,766 おめの行く末 思うと…➡ 247 00:26:07,766 --> 00:26:11,070 目 落とせね。 248 00:26:13,439 --> 00:26:19,144 お父…。 おら もう ここにいる。 249 00:26:20,913 --> 00:26:23,816 ほんとか? ああ。 250 00:26:23,816 --> 00:26:28,787 そんだから 安心してくれ。 なっ。 251 00:26:28,787 --> 00:26:34,259 おら もう しっかり ここで百姓やって 嫁ももらって➡ 252 00:26:34,259 --> 00:26:40,599 もっともっと 親孝行のまねごとさしてもらう…。 なっ。 253 00:26:40,599 --> 00:26:46,305 早く… 早く元気に… 元気になってくれろ。 254 00:26:48,941 --> 00:26:52,611 (徳左衛門)よう言うてくれた 弥太郎! 255 00:26:52,611 --> 00:26:57,483 あっ 徳左衛門叔父っちゃ! (徳左衛門)ハハハ…。 256 00:26:57,483 --> 00:27:02,888 おめえ おっ母さに そっくりになったなあ! 257 00:27:02,888 --> 00:27:05,224 見舞いに来てくれたんか? 258 00:27:05,224 --> 00:27:08,127 おさつばあさに気兼ねして よう来なんだが➡ 259 00:27:08,127 --> 00:27:13,565 おめえが戻っとると聞いて 矢も盾もたまらず来ただ。 260 00:27:13,565 --> 00:27:21,240 弥五兵衛さ 狸汁で精ばつけて はよ治れ。ええなあ 狸汁。 261 00:27:21,240 --> 00:27:24,142 黒姫山の狸だ。 おおっ! 262 00:27:24,142 --> 00:27:26,645 ハハハ…。 ああ…。 263 00:27:35,787 --> 00:27:41,927 思いの外 元気そうで何よりだが まだまだ安心なんね。 264 00:27:41,927 --> 00:27:46,265 おめえ 弥五兵衛さの 目の黒いうちに➡ 265 00:27:46,265 --> 00:27:49,935 やることだけは ちゃんちゃ~んと やっておけよ。 266 00:27:49,935 --> 00:27:51,870 何のこったい? 267 00:27:51,870 --> 00:27:55,807 遺言に決まっとるだ。 遺言? 268 00:27:55,807 --> 00:28:00,879 今のままなら おめえには な~んも残らねえぞ。 269 00:28:00,879 --> 00:28:07,219 田畑 家屋敷 おめえのものにはならねえぞ。 270 00:28:07,219 --> 00:28:10,889 けんど おら 今更 本気で百姓する気はねえや。 271 00:28:10,889 --> 00:28:16,228 そんなら さっきのは空手形か。 病人の手前さ。 272 00:28:16,228 --> 00:28:19,131 この嘘こきが! 273 00:28:19,131 --> 00:28:22,901 そんでも おら れっきとした 小林家の総領息子だ。 274 00:28:22,901 --> 00:28:27,773 おらの取り分はある。 やつらの勝手にはなんねえ。 275 00:28:27,773 --> 00:28:30,576 甘えなあ おめえは。 276 00:28:30,576 --> 00:28:36,248 おさつばあは 強情っ張りだが 働きもする。 277 00:28:36,248 --> 00:28:42,588 仙六にしても 田畑仕事に抜かりなく精出して➡ 278 00:28:42,588 --> 00:28:48,927 つきあいも きち~んと 分をわきまえた律儀な男だ。 279 00:28:48,927 --> 00:28:55,601 あいつらの働きがあるからこそ 小林家の田畑は守られてきただ。 280 00:28:55,601 --> 00:29:01,873 いざとなったら 村じゅうが あいつらの味方をするんだぞ。 281 00:29:01,873 --> 00:29:03,809 (仙六)とんでもねえや! 282 00:29:03,809 --> 00:29:08,213 仙六と弥太郎で 田畑 真っ二つにしろってか! 283 00:29:08,213 --> 00:29:14,886 うん。 中島と河原の田は仙六に。 残りは…。 284 00:29:14,886 --> 00:29:19,224 だめだ だめだ! うちの田畑は おらと仙六のもんだ。 285 00:29:19,224 --> 00:29:23,562 そうとも! おらたちが 長年 汗水たらした田畑だぞ! 286 00:29:23,562 --> 00:29:26,465 兄やんが何をした? 江戸で稼ぎもせず➡ 287 00:29:26,465 --> 00:29:29,901 穀潰しの手慰み やっていただけでねえか! 288 00:29:29,901 --> 00:29:35,574 ええ~い しゃっ面憎や! 弥太郎! おめ お父に 何 吹き込んだ! 289 00:29:35,574 --> 00:29:38,243 さっさと江戸へ帰れ! 290 00:29:38,243 --> 00:29:41,947 お父 砂糖なめっか? 291 00:29:43,582 --> 00:29:47,452 ああ 底をついてた。 気ぃ付かなかったな。 292 00:29:47,452 --> 00:29:51,456 おむくさ 後で買っといてくんねえか 砂糖。 293 00:29:51,456 --> 00:29:55,927 善光寺さんに行けば 手に入るすけ ついでの時にお頼み申しておきやす。 294 00:29:55,927 --> 00:29:59,798 勝手なこと言うな! 砂糖がいくらすんのか知ってんのか! 295 00:29:59,798 --> 00:30:03,268 高えもんを 死ぬ人間に無駄な費えだ! 296 00:30:03,268 --> 00:30:05,937 黙れ クソアマ! (さつ)この穀潰しが! 297 00:30:05,937 --> 00:30:11,610 何 この…! お… 親殺し~! 親殺し! 298 00:30:11,610 --> 00:30:14,279 腐った性根 たたいてやる! 腐った性根 たたいてやっから! 299 00:30:14,279 --> 00:30:16,615 親をばかに…! やめねえか! 300 00:30:16,615 --> 00:30:18,950 頭 出せって! 頭 出せって! 301 00:30:18,950 --> 00:30:36,935 ♬~ 302 00:30:42,974 --> 00:30:47,979 ちょっと離せ。 心配すんな。 なっ。 砂糖は また買ってやっから。 303 00:30:49,848 --> 00:30:54,319 うん うん…。 甘えか? 304 00:30:54,319 --> 00:30:58,990 ああ 手も足腰も すっかり萎えちまって…。 305 00:30:58,990 --> 00:31:01,593 おら もう 使いものになんね。 306 00:31:01,593 --> 00:31:07,466 心細いこと言うな。 お父 今日みてえにな あんべえのいい日は➡ 307 00:31:07,466 --> 00:31:10,268 体 少し動かした方がええぞ。 308 00:31:10,268 --> 00:31:15,607 弥太郎… おらに ちょっと 筆 握らしてみろ。 309 00:31:15,607 --> 00:31:22,280 筆? 筆 握って どうすんだ? 遺言さ 書く。 310 00:31:22,280 --> 00:31:29,154 遺言? お父 そんな不吉なこと なにも 今 書かずとも…。 311 00:31:29,154 --> 00:31:32,924 ばか 今だから書けるんでねえか。 312 00:31:32,924 --> 00:31:39,297 今日は 頭も すっきりしゃっきり。 幸い 口うるせえやつらもいねえ。 313 00:31:39,297 --> 00:31:41,633 さあ 早く 筆…。 314 00:31:41,633 --> 00:31:46,304 お父… お父な 俺はな こういったことは こそこそ やりたかね。 315 00:31:46,304 --> 00:31:48,240 正々堂々と やりてえ。 316 00:31:48,240 --> 00:31:52,978 ああ そげな悠長やってる間に➡ 317 00:31:52,978 --> 00:31:58,316 おら 今 ふわ~っと 魂が あの世へ持っていかれそうになった。 318 00:31:58,316 --> 00:32:03,588 ああ 待ってろ 待ってろ…。 今… 今 筆 持ってくっから。 319 00:32:03,588 --> 00:32:06,925 こうやって こうやって… こうやってろ こうやってろ…。 320 00:32:06,925 --> 00:32:35,620 ♬~ 321 00:32:51,970 --> 00:32:55,307 冷てえ水 飲みてえ。 322 00:32:55,307 --> 00:33:00,579 冷てえ水か? おう 待ってろ。 じゃあ 井戸から 今 汲んでくっからな。 323 00:33:00,579 --> 00:33:04,249 待ってろ~。 弥太郎…。 324 00:33:04,249 --> 00:33:07,152 何だ? 弥太郎…。 325 00:33:07,152 --> 00:33:11,923 井戸さ 落ちるなよ。 ヘヘッ…。 326 00:33:11,923 --> 00:33:20,265 あ~あ おめえの大事な息子に 優しいことだなあ。 大概にしろや。 327 00:33:20,265 --> 00:33:22,267 てめえこそ てえげえにしろ! 328 00:33:22,267 --> 00:33:29,274 うんにゃ やっぱり 冷てえ梨がええ。 梨 食わせろ。 329 00:33:29,274 --> 00:33:34,946 ばかこくでね。 そげな季節外れのもん どこにあるか。 330 00:33:34,946 --> 00:33:38,283 国じゅう探したとて ねえわ。 331 00:33:38,283 --> 00:33:42,153 うりでは いけねえけ? (仙六)病人のたわ言だ。 332 00:33:42,153 --> 00:33:48,994 冷てえ梨が食いてえなあ…。 333 00:33:48,994 --> 00:33:53,632 よ~し よく言った! それこそ立派な病人だ。 334 00:33:53,632 --> 00:33:58,303 おらな おらな 唐天竺まで行ってもな 梨さ 探し出してやっから! 335 00:33:58,303 --> 00:34:01,573 行ったきり帰ってくるな! 336 00:34:01,573 --> 00:34:04,910 (舌打ち) おむくさ これ 借りっぞ。 337 00:34:04,910 --> 00:34:09,915 お父 この背負い籠いっぱいに 梨 持ってくっからな。 待ってろ! 338 00:34:20,458 --> 00:34:26,197 (一茶のすすり泣き) 339 00:34:26,197 --> 00:34:30,936 お父…。 340 00:34:30,936 --> 00:34:36,274 お父… 梨は無理だよ やっぱ。 341 00:34:36,274 --> 00:34:38,577 梨は無理だ…。 342 00:34:40,946 --> 00:34:45,817 うりでも… うりでも 分かんねえんじゃねえか…。 343 00:34:45,817 --> 00:34:52,958 梨は… ああ お父 お父…。 344 00:34:52,958 --> 00:35:55,653 ♬~ 345 00:36:11,236 --> 00:36:13,238 花嬌さん…。 346 00:36:17,108 --> 00:36:27,252 花嬌さん… 花嬌さん… 花嬌さん…。 347 00:36:27,252 --> 00:36:29,187 花嬌さん! 348 00:36:29,187 --> 00:36:42,267 ♬~ 349 00:36:42,267 --> 00:36:49,607 (打ち鳴らす音) 350 00:36:49,607 --> 00:37:16,601 ♬~ 351 00:37:21,539 --> 00:37:23,842 (足音) 352 00:37:28,246 --> 00:37:30,181 花… あっ 草杖!? 353 00:37:30,181 --> 00:37:33,885 一茶! 一茶。 おう。 354 00:37:35,587 --> 00:37:40,758 <名主 織本家の別邸 対潮庵。➡ 355 00:37:40,758 --> 00:37:47,532 娘夫婦に家督を譲りました今は ここが 私の隠居所でございます> 356 00:37:47,532 --> 00:37:51,269 花嬌さんは ご不在かい? 357 00:37:51,269 --> 00:37:54,606 いや お店の方に伺ったら こちらだと聞いたんで➡ 358 00:37:54,606 --> 00:37:56,941 尋ね尋ね来たんだが…。 (草杖)じき戻る。 359 00:37:56,941 --> 00:37:59,277 まあ 遠慮せずに ぐっと くつろいでくんな。 360 00:37:59,277 --> 00:38:01,880 ハハハ… てめえのうちでもあんめえに。 361 00:38:01,880 --> 00:38:06,551 だって 花嬌さんが 「ご自分の家だと思って お気楽に」って。 362 00:38:06,551 --> 00:38:09,220 そんな世辞 真に受けるばかがいるかい。 363 00:38:09,220 --> 00:38:14,559 俺と花嬌さんは そんな水くせえ仲じゃねえよ。 364 00:38:14,559 --> 00:38:17,462 ん? 何のにおいだ? え? 365 00:38:17,462 --> 00:38:21,232 おめえ いい香りすんな。 さあね。 366 00:38:21,232 --> 00:38:23,234 ⚟(花嬌の笑い声) 367 00:38:25,570 --> 00:38:30,909 まあ お師匠さま! 368 00:38:30,909 --> 00:38:32,844 お言葉に…。 369 00:38:32,844 --> 00:38:38,249 皆さん! 江戸から 私の友 小林一茶が訪ねてくれました。 370 00:38:38,249 --> 00:38:42,253 今夜の句会は 一段と面白くなりますぞ! 371 00:38:44,589 --> 00:38:47,292 小林一茶でございます。 372 00:38:55,934 --> 00:39:01,206 「ずうずうと かののがれゆくあさひかな」。 373 00:39:01,206 --> 00:39:05,543 うん これはいいですね。 ええ。 374 00:39:05,543 --> 00:39:08,446 こんな句はどうでしょう。 375 00:39:08,446 --> 00:39:15,220 「活鰺や江戸潮近き昼の月」。 376 00:39:15,220 --> 00:39:18,890 ヘヘヘ…。 377 00:39:18,890 --> 00:39:26,898 はい できました。 「有明や今年も生きて青簾」。 378 00:39:28,900 --> 00:39:35,573 「身一つや死ば簾の青いうち」。 379 00:39:35,573 --> 00:39:42,280 ♬~ 380 00:39:44,249 --> 00:40:11,476 ♬~ 381 00:40:11,476 --> 00:40:13,611 はあ よいやあ さあ! 382 00:40:13,611 --> 00:40:17,282 (一同)よいしょ よいしょ…。 383 00:40:17,282 --> 00:40:37,268 (掛け声) 384 00:40:57,655 --> 00:41:03,461 お師匠さまは 吐く息 吸う息が 全て お句になるほど➡ 385 00:41:03,461 --> 00:41:06,464 俳諧のことばっかり考えてらっしゃると➡ 386 00:41:06,464 --> 00:41:09,767 井筒屋の成美さんが おっしゃってました。 387 00:41:13,137 --> 00:41:18,276 どうぞ いつまでも ここにいらして下さいませ。 388 00:41:18,276 --> 00:41:22,981 そうもいきません。 どうして? 389 00:41:28,286 --> 00:41:31,189 どうしてですか? 390 00:41:31,189 --> 00:41:34,959 いや… お言葉に甘えて➡ 391 00:41:34,959 --> 00:41:40,298 つい うかうかと はや ひとつきがたちました。 392 00:41:40,298 --> 00:41:46,971 ここは まるで竜宮です。 時のたつのを忘れてしまいます。 393 00:41:46,971 --> 00:41:52,643 いっそ 忘れて頂きたいわ。 江戸のことも 信濃のことも…。 394 00:41:52,643 --> 00:41:54,579 花嬌さん。 395 00:41:54,579 --> 00:41:58,316 だって お師匠さまのご指導を じかに仰げるなんて➡ 396 00:41:58,316 --> 00:42:00,251 すばらしいことですもの。 397 00:42:00,251 --> 00:42:03,588 上総のお弟子たちは みんな 同じ思いですわ。 398 00:42:03,588 --> 00:42:05,523 はあ…。 399 00:42:05,523 --> 00:42:10,928 こいつにはね そうはいかない 訳があるんですよ。 ねっ 一茶さん。 400 00:42:10,928 --> 00:42:15,600 訳って? これで国へ帰れば 大地主。 401 00:42:15,600 --> 00:42:19,470 親譲りの田畑 家屋敷が ど~んと待ってるって➡ 402 00:42:19,470 --> 00:42:21,939 いい身分なんですよ。 403 00:42:21,939 --> 00:42:26,611 そうでしたの。 では ゆくゆくは信濃に? いや 別に そんな気は…。 404 00:42:26,611 --> 00:42:30,481 あ~あ。 そこへいくと 俺なんざ 国に帰っても家はなし。 405 00:42:30,481 --> 00:42:34,952 親兄弟は死に絶えた。 天涯孤独の身の上だ。 406 00:42:34,952 --> 00:42:37,855 どこの空の下で朽ち果てるのやら。 407 00:42:37,855 --> 00:42:40,625 愚痴るなよ 草杖。 408 00:42:40,625 --> 00:42:46,931 「五七五」に命かけた者の 身の報いだ。 しかたあんめえ。 409 00:42:50,635 --> 00:42:54,305 根なし草の孤独を恐れちゃいないけど➡ 410 00:42:54,305 --> 00:43:00,611 すすきの荒れ野を旅する宵などは 妙に人恋しくってね…。 411 00:43:39,283 --> 00:43:48,292 「わが星は上総の空をうろつくか」。 412 00:44:00,905 --> 00:44:03,241 草杖 寝たかい? 413 00:44:03,241 --> 00:44:10,915 ⚟(あえぎ声) 414 00:44:10,915 --> 00:44:13,217 花嬌さん…。 415 00:44:21,259 --> 00:44:23,194 あっ 花嬌さん…。 416 00:44:23,194 --> 00:44:38,209 ♬~ 417 00:44:40,611 --> 00:44:45,283 かわいそうだけど 暇を出さなきゃいけませんわ。 418 00:44:45,283 --> 00:44:51,956 いや でも ちょっかいを出したのは 多分 草杖の方ですよ。 419 00:44:51,956 --> 00:44:57,295 あれは亭主持ちですから 露見すれば 不義密通になります。 420 00:44:57,295 --> 00:45:00,898 ああ…。 421 00:45:00,898 --> 00:45:06,237 草杖は 江戸に連れて帰ります。 422 00:45:06,237 --> 00:45:09,907 私にも非があります。 いや そんなことはねえ。 423 00:45:09,907 --> 00:45:14,579 いいえ。 草杖さんは最初 私に言い寄ってこられたのです。 424 00:45:14,579 --> 00:45:20,585 それを 私が むげに…。 当たりめえだ。 ハハハ… ふてえ野郎だ。 425 00:45:23,921 --> 00:45:30,795 やけになっちまったんでしょう。 身分をわきまえねえ ばかなやつだ。 426 00:45:30,795 --> 00:45:34,932 一茶さん。 はい。 427 00:45:34,932 --> 00:45:37,635 私を冷たい女だとお思い? 428 00:45:40,271 --> 00:45:46,944 いや… 花嬌さん あなた➡ 429 00:45:46,944 --> 00:45:55,620 そのお心のうちに 熱~い血潮を こう秘めたお方です。 430 00:45:55,620 --> 00:45:59,290 決して 冷たい女じゃねえ。 431 00:45:59,290 --> 00:46:06,897 私は そんな花嬌さんを敬っております。 432 00:46:06,897 --> 00:46:14,238 花嬌さん…。 あなたは 俗に染まらず➡ 433 00:46:14,238 --> 00:46:18,109 その あなたの詠まれる句のように➡ 434 00:46:18,109 --> 00:46:24,248 風雅そのままに 生きていかれるべきです。 435 00:46:24,248 --> 00:46:30,121 お師匠さま 俳諧は難しゅうございますわ。 436 00:46:30,121 --> 00:46:35,126 風雅な心って どういうんですの? 437 00:46:37,595 --> 00:46:43,267 哀れみの心。 哀れみの心。 438 00:46:43,267 --> 00:46:49,140 そして びっくりする心。 439 00:46:49,140 --> 00:46:52,276 びっくりする心…? 440 00:46:52,276 --> 00:47:01,285 人の世の この面白さを愛で 興ずる心。 441 00:47:03,554 --> 00:47:09,226 何か見つけたら わっと びっくりして➡ 442 00:47:09,226 --> 00:47:14,231 あっ こりゃ面白えやと目を凝らす…。 443 00:47:18,235 --> 00:47:22,573 そりゃ なにも 立派なもんじゃなくてもいい。 444 00:47:22,573 --> 00:47:28,245 人の醜さ 愚かさを詠んでも➡ 445 00:47:28,245 --> 00:47:32,249 それは風雅になるんです。 446 00:47:35,119 --> 00:47:39,123 醜さ 愚かさも…。 447 00:47:42,793 --> 00:47:46,263 お師匠さまの句柄が 澄んでいられるのは➡ 448 00:47:46,263 --> 00:47:50,134 よこしまな心がおありにならないからで ございましょうね。 449 00:47:50,134 --> 00:47:59,610 いや… やはり 私は信濃の田舎者です。 450 00:47:59,610 --> 00:48:02,913 一生 田舎者です。 451 00:48:04,882 --> 00:48:11,222 びっくりのし続けで 生きてるだけのことです。 452 00:48:11,222 --> 00:48:16,093 お師匠さま。はい。 また おいで下さいますか? 453 00:48:16,093 --> 00:48:19,563 はい ご縁がございましたら。 454 00:48:19,563 --> 00:48:26,904 いいえ きっと来ると お約束して下さいまし。 きっと。 455 00:48:26,904 --> 00:48:32,243 私のような者でも 喜んで下さる方々がおられる。 456 00:48:32,243 --> 00:48:38,549 もう うれしいやら ありがたいやら。 そんな 通りいっぺんじゃ嫌です。 457 00:48:41,585 --> 00:48:46,891 おからかいになっちゃ こっちだって嫌ですよ。 458 00:48:51,929 --> 00:48:54,832 この次 お会いしたら➡ 459 00:48:54,832 --> 00:48:57,601 私 お師匠さまのこと…➡ 460 00:48:57,601 --> 00:49:01,605 江戸にも信濃にも お帰ししないかもしれません。 461 00:49:06,877 --> 00:49:11,582 どうぞ そのお覚悟で。 462 00:49:13,217 --> 00:49:30,768 ♬~ 463 00:49:30,768 --> 00:49:37,241 <びっくりする心… あの夜 私が一番びっくりしたもの➡ 464 00:49:37,241 --> 00:49:41,111 それは 私自身も気付かなかった➡ 465 00:49:41,111 --> 00:49:45,816 一茶さんに対する 恋心だったのでございました> 466 00:49:52,256 --> 00:49:54,558 (草杖)入るぜ。 467 00:49:56,594 --> 00:49:59,930 妙なとこから入ってくるねえ。 468 00:49:59,930 --> 00:50:05,803 居候のとこに訪ねるのに 玄関使うのも気が引けてな。 469 00:50:05,803 --> 00:50:11,542 どっか 適当な家 めっけてくれたかい。 なかなかよ。 470 00:50:11,542 --> 00:50:14,945 当節 留守が多いというだけで 家主は嫌な顔するんだよ。 471 00:50:14,945 --> 00:50:17,848 あ~あ 頼みがいのねえ野郎だ。 472 00:50:17,848 --> 00:50:21,819 店賃払えず 追い出される方が ドジなんじゃねえか? 473 00:50:21,819 --> 00:50:28,292 近頃は せちがれえ。 以前は 旅で1~2年 家空けたって➡ 474 00:50:28,292 --> 00:50:31,629 家財道具なんざ ちゃんと預かってくれたもんだ。 475 00:50:31,629 --> 00:50:34,298 人情が こう ギスギスしてきたよ。 476 00:50:34,298 --> 00:50:37,968 いっそ このまま 成美さんの好意に甘えて住み着けば? 477 00:50:37,968 --> 00:50:39,904 そうもいくかい。 478 00:50:39,904 --> 00:50:42,640 句の添削なども してやってるのかい? 479 00:50:42,640 --> 00:50:48,312 いや 逆に こっちから お願いしてるんだ。 何で また? 480 00:50:48,312 --> 00:50:52,650 その方が つきあいってもんは こう滑らかにいくんだよ。 481 00:50:52,650 --> 00:50:59,323 ほう 気ぃ遣うね。 居候だ。 当たりめえだ。 482 00:50:59,323 --> 00:51:02,593 3日に1度は よそに泊まるし➡ 483 00:51:02,593 --> 00:51:07,932 たまには 水汲み まき割りの お手伝いだってするよ。 484 00:51:07,932 --> 00:51:12,803 けど ここは あったけえ。 俺も転がり込むかな。 485 00:51:12,803 --> 00:51:14,805 成美さんにしてみりゃ もう一人ぐらい増えたって➡ 486 00:51:14,805 --> 00:51:18,943 どうってことねえだろ。よせよ。 ヘヘヘ…。 487 00:51:18,943 --> 00:51:22,279 (久蔵)失礼いたします。 はい。 488 00:51:22,279 --> 00:51:25,182 一茶さん。 旦那さまのお支度できました。 489 00:51:25,182 --> 00:51:27,618 こっちは いつでもよろしゅうございますよ。 490 00:51:27,618 --> 00:51:31,322 (草杖)出かけんのかい? 吉原だ。 491 00:51:47,638 --> 00:51:52,343 一段と冷える。 急いでおくれ。 492 00:51:53,978 --> 00:52:00,784 あの… 草杖が来ておりまして…。 493 00:52:00,784 --> 00:52:06,090 あれは呼ばないでいい。 いらない。 494 00:52:10,928 --> 00:52:19,937 (駕籠かき)あらよっと。 えっほ えっほ えっほ えっほ…。 495 00:52:22,539 --> 00:52:33,951 ♬~(胡弓) 496 00:52:33,951 --> 00:52:40,290 不快なものを詠んで 不快にさせない。 497 00:52:40,290 --> 00:52:45,963 むさいものをうたって むさい心地にさせない。 498 00:52:45,963 --> 00:52:54,638 いや むしろ むさいものも愛らしく思える。 499 00:52:54,638 --> 00:53:04,448 そんな句を作れるのは 一茶さん あなただけですよ。 500 00:53:04,448 --> 00:53:24,134 ♬~ 501 00:53:28,272 --> 00:53:34,945 (いびき) 502 00:53:34,945 --> 00:53:37,281 (ふすまの開く音) 申し訳ありません。 503 00:53:37,281 --> 00:53:39,216 起きて下さいませ。 か… 火事かい? 504 00:53:39,216 --> 00:53:41,952 お金がなくなったんです。 か… 金? 505 00:53:41,952 --> 00:53:44,855 書斎の旦那さまの手文庫から お金が消えたのだそうです。 506 00:53:44,855 --> 00:53:48,292 大金かい? はい。 ひゃ… 185両! 507 00:53:48,292 --> 00:53:50,961 ひゃ… ひゃく… 185…。 508 00:53:50,961 --> 00:53:55,265 (岡っ引き)早くしろ! 早くしろって なに… 何を。 509 00:54:03,540 --> 00:54:07,244 ほら! (女中たち)キャ~! 510 00:54:07,244 --> 00:54:09,246 ここでじっとしてろ! 511 00:54:14,118 --> 00:54:16,920 (久蔵) 今戸の親分さん あんまりでございます。 512 00:54:16,920 --> 00:54:19,256 一茶師匠にお疑いがかかるなんて とんでもございません。 513 00:54:19,256 --> 00:54:24,128 (伝吉)てめえ! 文句があんのか? いえ めっそうもない。 514 00:54:24,128 --> 00:54:27,131 でも こんな罪人扱いは 旦那さまだって お許しになるはずありません。 515 00:54:27,131 --> 00:54:30,868 (伝吉)その旦那さまが 皆 足止めして➡ 516 00:54:30,868 --> 00:54:35,272 厳しく調べてくれと おっしゃってるんだい。➡ 517 00:54:35,272 --> 00:54:38,942 おい お前。 何だよ。 518 00:54:38,942 --> 00:54:46,283 てめえ 奉公人の話だと いつも2百両欲しいと言ってるそうだな。 519 00:54:46,283 --> 00:54:52,623 ヘヘヘ… 冗談だよ。 くせえじゃねえか。 520 00:54:52,623 --> 00:54:58,495 消えたのは 2百両にちっと足りねえ 185両だ。 521 00:54:58,495 --> 00:55:03,233 おう… できすぎじゃねえの? 522 00:55:03,233 --> 00:55:08,572 いや… 2百両っていう御足がありゃ➡ 523 00:55:08,572 --> 00:55:15,913 京都の二条さまから 俳諧大宗匠って 大層な肩書が頂けますのさ。 524 00:55:15,913 --> 00:55:19,783 俳諧大… てめえ なめんなよ! 525 00:55:19,783 --> 00:55:26,256 おう 何日かけても じっくり あぶり出してやるからな。 526 00:55:26,256 --> 00:55:28,192 そんな…。 527 00:55:28,192 --> 00:55:32,129 <岡っ引きの言葉どおり➡ 528 00:55:32,129 --> 00:55:37,601 一茶さんは そのまま 7日の間も留め置かれ➡ 529 00:55:37,601 --> 00:55:42,940 罪人同然の扱いを お受けになるのでございます> 530 00:55:42,940 --> 00:55:45,843 ⚟(足音) 531 00:55:45,843 --> 00:55:48,545 (戸の開く音) 532 00:55:53,951 --> 00:55:57,821 おめえら お構いなしだい。 533 00:55:57,821 --> 00:56:02,226 じゃ 盗人が挙がったんですか? いや そいつはまだだ。 534 00:56:02,226 --> 00:56:07,564 俺たちの疑いが晴れたってことなんだね? そういうこと。 535 00:56:07,564 --> 00:56:09,499 (久蔵)はっきり そう言って下さい。 (伝吉)うるせえ! 536 00:56:09,499 --> 00:56:12,903 旦那が お構いなしということに して下すったんだい。 537 00:56:12,903 --> 00:56:15,205 ありがたく思え! 538 00:56:25,249 --> 00:56:27,551 (舌打ち) 539 00:56:30,120 --> 00:56:34,825 (駕籠かき)えっほ えっほ えっほ…。 540 00:56:39,796 --> 00:56:45,502 (成美)一茶さん とんだ とばっちりを食いましたね。 541 00:56:50,274 --> 00:56:54,144 おかげで いろいろ 句もできました。 542 00:56:54,144 --> 00:56:58,849 ほう。 ご披露願えますかな? 543 00:57:06,757 --> 00:57:14,464 「ありようは寒いばかりぞ初しぐれ」。 544 00:57:14,464 --> 00:57:21,905 「木がらしにしくしく腹の具合かな」。 545 00:57:21,905 --> 00:57:28,779 「行灯をひったくられて夜寒かな」。 546 00:57:28,779 --> 00:57:32,249 ハハハ… 寒い句ばかりだ。 547 00:57:32,249 --> 00:57:37,120 「有明の雁になりたや行く雁に」。 548 00:57:37,120 --> 00:57:42,259 あとは柳橋で。 厄落としとまいりましょう。 549 00:57:42,259 --> 00:57:45,162 黙って ついてきて下さい。 550 00:57:45,162 --> 00:57:51,468 (駕籠かき)あらよっと。 えっほ えっほ えっほ えっほ…。 551 00:57:57,274 --> 00:58:02,579 (孫娘)召し上がれ。 いただきます。 552 00:58:10,220 --> 00:58:12,522 (杯が落ちる音) 553 00:58:34,911 --> 00:58:40,584 おい 草杖。 何 しけてんだよ? 待ってたんだよ おめえさんを。 554 00:58:40,584 --> 00:58:46,256 銭はねえぞ。 上総の花嬌さんが死んじまった。 555 00:58:46,256 --> 00:58:48,925 くだらねえ冗談に つきあってる暇はねえや。 556 00:58:48,925 --> 00:58:52,262 今日 富津の大乗寺の和尚から 便りが来た。 557 00:58:52,262 --> 00:58:57,934 3日前 卒中で あっけなく いっちまったんだとよ。 558 00:58:57,934 --> 00:59:47,250 ♬~ 559 00:59:47,250 --> 00:59:51,922 <かなわぬ夢。 人間不信。➡ 560 00:59:51,922 --> 00:59:56,593 人が都を捨てて ふるさとへ帰っていく訳は➡ 561 00:59:56,593 --> 01:00:01,465 今も昔も変わりないようでございます。➡ 562 01:00:01,465 --> 01:00:08,205 お名残惜しいことでございますが 花嬌は ひとまず これにてお別れ。➡ 563 01:00:08,205 --> 01:00:13,944 次は数年後。 舞台も信濃に移ります。➡ 564 01:00:13,944 --> 01:00:18,815 50代の一茶さんの物語を 語り継いでまいりますのは➡ 565 01:00:18,815 --> 01:00:22,819 おきくさんという名の女性でございます> 566 01:00:39,436 --> 01:00:46,643 ♬~(長持唄) 567 01:00:46,643 --> 01:01:17,274 ♬~ 568 01:01:17,274 --> 01:01:21,611 (きく)はっくしょん! 569 01:01:21,611 --> 01:01:27,484 <おらは 野尻村赤川の百姓の娘 きくと申しやす。➡ 570 01:01:27,484 --> 01:01:33,223 この度 縁ありまして 柏原の小林家に嫁ぐのでありやすが➡ 571 01:01:33,223 --> 01:01:40,297 まずは 亭主になる弥太郎さのことから お話し申し上げねばなんねえです。➡ 572 01:01:40,297 --> 01:01:45,168 江戸住まいだった弥太郎さが 田畑 家屋敷をめぐり➡ 573 01:01:45,168 --> 01:01:50,941 なさぬ仲のおっ義母さん さつさや 腹違いの弟 仙六さと➡ 574 01:01:50,941 --> 01:01:56,646 長年にわたり えれえ争いのあげく 自分の取り分をぶんどりなさった話は➡ 575 01:01:56,646 --> 01:02:01,484 肝煎り役の徳左衛門さから とっくりと聞かされやした> 576 01:02:01,484 --> 01:02:04,454 (名主) こりゃ 紛れもねえ 弥五兵衛の筆跡だ。 577 01:02:04,454 --> 01:02:08,592 病ぼけしてたお父が 遺言状など書ける道理がねえ! 578 01:02:08,592 --> 01:02:13,597 おら もう年だ。 歯ぐきだってよ…。 579 01:02:15,465 --> 01:02:20,203 すりこ木みてえになっちまってよ。 ケッ! 今度は泣き落としか。 580 01:02:20,203 --> 01:02:22,939 ばばあの出る幕じゃねえ。 こきやがれ! 581 01:02:22,939 --> 01:02:26,810 江戸の公儀へ訴え出るが それでもいいか? 582 01:02:26,810 --> 01:02:31,281 (徳左衛門)それだけは やめにせねばなんねえぞ。 583 01:02:31,281 --> 01:02:37,287 もう一歩も引くわけにはいかねえだらず。 584 01:02:40,624 --> 01:02:45,295 <何もかも兄弟仲よく 真っ二つという しゅうとさまの遺言は➡ 585 01:02:45,295 --> 01:02:52,168 田畑ばかりか 屋敷の中まで そっくり律儀に分割されやした> 586 01:02:52,168 --> 01:02:57,874 この畑も 真半分 おめえのもんだぞ! 587 01:02:57,874 --> 01:03:01,778 したが おら 百姓はできねえだに。 588 01:03:01,778 --> 01:03:09,252 小作に頼むのさ。 嫁っ子が来たら 自分で耕す。 589 01:03:09,252 --> 01:03:13,123 それにしても物好きな。 590 01:03:13,123 --> 01:03:22,265 娘ざかりの あの器量よしが 何好んで こんな五十男の嫁になるかねえ。 591 01:03:22,265 --> 01:03:26,603 文句あんなら やめっか? とんでもねえ。 592 01:03:26,603 --> 01:03:29,506 (いななき) 593 01:03:29,506 --> 01:03:32,942 おっ おいでなすった! 594 01:03:32,942 --> 01:03:39,282 こらこら… こら 引っ込んでろ! 物欲しげに みっともねえ! 595 01:03:39,282 --> 01:03:52,829 ♬~ 596 01:03:52,829 --> 01:03:56,633 ああ~っ! 597 01:03:56,633 --> 01:03:58,968 そろそろですけえ。 598 01:03:58,968 --> 01:04:04,774 いやいやいや~ みんな来てくれただか。 忙しいのに ありがとなあ。 599 01:04:04,774 --> 01:04:10,246 えれえ若え嫁っ子がござったぞ。 花婿は52。 花嫁は27だ。 600 01:04:10,246 --> 01:04:56,826 ♬~ 601 01:04:56,826 --> 01:04:59,295 (雷鳴) 602 01:04:59,295 --> 01:05:12,242 (山門をたたく音) 603 01:05:12,242 --> 01:05:14,577 ああっ…。 604 01:05:14,577 --> 01:05:17,480 7里の道を訪ねてきたんでございます。 605 01:05:17,480 --> 01:05:20,250 もう 夜も更けて 泊まるあてはございません…。 606 01:05:20,250 --> 01:05:23,586 (僧侶)身元も分からぬ者を 泊めるわけにはいかぬ! 607 01:05:23,586 --> 01:05:28,458 庫裏の土間の端でも結構でございます。 ご坊 後生でございます! ご坊! 608 01:05:28,458 --> 01:05:31,928 (雷鳴) 609 01:05:31,928 --> 01:05:40,103 (うなされる声) 610 01:05:40,103 --> 01:05:43,406 どうした? また怖い夢でも見なんしたか? 611 01:05:43,406 --> 01:05:51,147 ああ…。 でも 覚めた こっちの方が もっと夢みてえだ。 612 01:05:51,147 --> 01:05:54,617 フフフ…。 おきく…。 613 01:05:54,617 --> 01:06:02,425 よう こんな… こんな しけしけした 年寄りんとこに来てくれた。 ハハハ…。 614 01:06:02,425 --> 01:06:09,132 ありがてえ。 もったいねえ。 ヘヘヘ…。 ハハハ…。 615 01:06:09,132 --> 01:06:13,903 おめえみてえな女は 江戸じゃ きんぴら娘というだ。 616 01:06:13,903 --> 01:06:16,573 きんぴら? うん。 617 01:06:16,573 --> 01:06:21,911 金平浄瑠璃に 坂田金平という 豪傑が出てくるだらず。 618 01:06:21,911 --> 01:06:25,782 あんれま おらが豪傑というかや? ハハハ…。 619 01:06:25,782 --> 01:06:32,922 こげな年寄りのとこさ来るのは よっぽど物好きか 豪傑だあ。 620 01:06:32,922 --> 01:06:35,825 おら もう娘でねえ。 きんぴらおっ母だ! 621 01:06:35,825 --> 01:06:41,130 おっ母てか? おっ母てか? アハハ…。 622 01:06:53,943 --> 01:06:55,879 (湯船につかる音) 623 01:06:55,879 --> 01:06:59,816 ウハハハ…。 624 01:06:59,816 --> 01:07:03,553 <うちは 土間が狭くて 風呂桶が据えられねえので➡ 625 01:07:03,553 --> 01:07:09,225 弥太郎さは 湯殿造らせ 五右衛門風呂を据えやした> 626 01:07:09,225 --> 01:07:11,895 お風呂 どんなだ? ぬるくねえか? 627 01:07:11,895 --> 01:07:16,599 極楽 極楽。 ウハハハ…。 628 01:07:26,242 --> 01:07:28,544 ごめんなんして。 629 01:07:33,583 --> 01:07:37,921 お義母やん おむくさ 仙六さ お風呂沸いたで入ってくんなんしょ。 630 01:07:37,921 --> 01:07:40,823 おう そら ありがてえ。 なんねえ。 631 01:07:40,823 --> 01:07:43,793 したが うちは今晩 風呂沸かしてねえだらず。 632 01:07:43,793 --> 01:07:46,262 なあ? へえ。 633 01:07:46,262 --> 01:07:51,134 ずくなしの弥太郎に もらい湯するほど 落ちぶれちゃいねえ! 634 01:07:51,134 --> 01:07:54,604 新品の風呂釜だで 気色ええどお。 635 01:07:54,604 --> 01:07:59,275 おら ちょっくら入らしてもらうだ。 湯上がりの寝巻きさ出してくれろ。 636 01:07:59,275 --> 01:08:02,545 洗いたての ふんどしもな。 へえ。 637 01:08:02,545 --> 01:08:05,214 そんなら お義母やん お待ち申しておりやす。 638 01:08:05,214 --> 01:08:12,088 ⚟ああ ええなあ… ええなあ! 行かねったら 行かね。 639 01:08:12,088 --> 01:08:17,093 ⚟気持ええぞ~! アハ~ハハッ! 640 01:08:43,586 --> 01:08:48,458 (雪かきする音) よいしょ…。 641 01:08:48,458 --> 01:08:51,160 おい~っしょ…。 642 01:08:53,596 --> 01:08:56,499 おい~っ…。 643 01:08:56,499 --> 01:09:05,541 「辺地に引き込み候へば かの流行とやらんにおくれはせぬかと➡ 644 01:09:05,541 --> 01:09:10,880 それのみ用心仕り候…。➡ 645 01:09:10,880 --> 01:09:17,553 『是がまあ死にどころかよ雪五尺』。➡ 646 01:09:17,553 --> 01:09:26,229 『是がまあ死にどころかよ雪五尺』。 一茶。➡ 647 01:09:26,229 --> 01:09:31,934 したたかお叱りのほど 願い奉り候」。 648 01:09:47,917 --> 01:09:55,258 (成美) 「この句 『ついの栖』の方がよかるべし。➡ 649 01:09:55,258 --> 01:10:04,600 『是がまあついの栖か雪五尺』。➡ 650 01:10:04,600 --> 01:10:09,472 君が句々みな一作あり。➡ 651 01:10:09,472 --> 01:10:17,180 予がごとき不才は その所に心至らず。➡ 652 01:10:17,180 --> 01:10:24,287 一茶さん 益々腕を上げましたね。➡ 653 01:10:24,287 --> 01:10:28,624 もはや余人の真似できぬ域だ」。 654 01:10:28,624 --> 01:10:56,919 ♬~ 655 01:10:58,621 --> 01:11:03,459 イヒヒヒ…。 重なった 重なった。 656 01:11:03,459 --> 01:11:09,932 (せきこみ) お~ 千太郎 笑った笑った 笑った。 657 01:11:09,932 --> 01:11:12,602 今日は おめえが千太郎に 風呂つかわしてくれろ。 658 01:11:12,602 --> 01:11:14,537 ええとも ええとも。 659 01:11:14,537 --> 01:11:18,841 (あやす声) ⚟(さつ)ごめんなんしょ。 660 01:11:27,150 --> 01:11:31,621 どっこいしょっと…。 何だ? 661 01:11:31,621 --> 01:11:40,630 お笑止だがよ お風呂 おもれえ申してえ。 どうした風の吹き回しだ? 662 01:11:40,630 --> 01:11:44,967 エヘヘヘ…。 お義母やん ええとこに来なんした。 663 01:11:44,967 --> 01:11:48,638 千太郎に お風呂つかわしてくんなんしょ。 664 01:11:48,638 --> 01:11:52,975 おらにも やや子 抱かせてくれるんけ? 665 01:11:52,975 --> 01:11:57,847 初孫でねえか。 抱かせんのか。 666 01:11:57,847 --> 01:12:01,150 気を付けろ… 大丈夫か? 667 01:12:08,457 --> 01:12:13,930 うわあ! 上器量の赤っ子だな。➡ 668 01:12:13,930 --> 01:12:18,601 ハハハ… 千太郎。 669 01:12:18,601 --> 01:12:23,606 かわいらしいなあ まるまるして…。 670 01:12:29,612 --> 01:12:34,483 千太郎! 千太郎…。 671 01:12:34,483 --> 01:12:39,622 千太郎…。 (泣き声) 672 01:12:39,622 --> 01:12:41,958 (たたく音) 義兄さ…。 673 01:12:41,958 --> 01:12:48,831 この… この おたんこなすが! 兄やん おきくさのせいじゃねえ! 674 01:12:48,831 --> 01:12:54,971 千太郎に風邪うつしたのは これが横着だからだ。 675 01:12:54,971 --> 01:13:00,776 母親としての用心が足りねえ… 足りねえ。 (たたく音) 676 01:13:00,776 --> 01:13:06,916 おらのせいだ。 堪忍な 堪忍してくれろ。 677 01:13:06,916 --> 01:13:09,585 おらも死にてえだ…。 678 01:13:09,585 --> 01:13:14,924 いさかいしちゃなんねえ。 仏さまが見てござる。 679 01:13:14,924 --> 01:13:21,264 耐えてくれろ。 切ねえなあ…。 680 01:13:21,264 --> 01:13:29,939 (きくの泣き声) 681 01:13:29,939 --> 01:13:41,550 (号泣) 682 01:13:41,550 --> 01:14:43,245 ♬~ 683 01:14:51,954 --> 01:14:59,261 おっ母 お父 千太郎の月命日 忘れるんじゃねえぞ。 684 01:15:00,763 --> 01:15:07,903 忘れね。 おら ちゃんと お仏壇に お茶上げる。 685 01:15:07,903 --> 01:15:13,909 おりんも ち~ん ち~んと鳴らすんだぞ。 686 01:15:16,579 --> 01:15:21,283 まめで行ってきなさんしょ。 ああ。 687 01:15:34,130 --> 01:15:39,268 早く帰ってくれ。 688 01:15:39,268 --> 01:17:47,963 ♬~ 689 01:18:13,889 --> 01:18:18,227 千太郎 今 帰った。 690 01:18:18,227 --> 01:18:22,097 長えこと留守にして すまなかったなあ。 691 01:18:22,097 --> 01:18:25,100 寂しかったか? 692 01:18:25,100 --> 01:18:29,838 あんれまあ たまげた! 693 01:18:29,838 --> 01:18:32,575 おかえりなんしょ! おおっ! 694 01:18:32,575 --> 01:18:36,245 そんなことより おめえ また ぼこ できただか?そうだ。 695 01:18:36,245 --> 01:18:40,115 知らせねばなんねと思いつつ おら 字 書けねえもんで。 696 01:18:40,115 --> 01:18:43,586 この おたんこなすが。 申し訳ねえ。 697 01:18:43,586 --> 01:18:48,457 そんなことだったら おら 何さおいても帰ってきただに。 698 01:18:48,457 --> 01:18:52,595 大事な体だ。 おめえ 風邪ひくな。 699 01:18:52,595 --> 01:18:55,931 風邪でもひいたら大変だ。 ありがてえ。 700 01:18:55,931 --> 01:18:59,602 そうか そうか。 ハハハ…。 701 01:18:59,602 --> 01:19:03,906 旅の間 寂しかったか? 702 01:19:17,553 --> 01:19:28,897 ♬~ 703 01:19:28,897 --> 01:19:34,236 <生まれた子は 女でやんす。 おさとと名づけられやした> 704 01:19:34,236 --> 01:19:55,924 ♬~ 705 01:19:59,261 --> 01:20:07,136 これは 斑尾山で採れた 「淫羊かく」ちゅう薬草だ。 706 01:20:07,136 --> 01:20:09,605 いんようかく…? うん。 707 01:20:09,605 --> 01:20:16,945 紫と黄色の花が咲くが 漢方では 黄色の方が効く。 708 01:20:16,945 --> 01:20:24,820 叔父っちゃ 試してみただか? まだだ。 おめえで試す。 709 01:20:24,820 --> 01:20:28,290 とちば人参より効くか? 710 01:20:28,290 --> 01:20:35,631 とにかく お前も 56だ。 まだまだ長生きせねばなんね。 711 01:20:35,631 --> 01:20:41,503 何か あさましいな。 ヒヒヒ…。 712 01:20:41,503 --> 01:20:44,973 こら… こらこら 強い… 強いって。 713 01:20:44,973 --> 01:20:48,644 ⚟お客さんだ! 714 01:20:48,644 --> 01:20:50,979 あんだ あんだ。 715 01:20:50,979 --> 01:20:56,318 ごめんなして。 ごめんなして。 716 01:20:56,318 --> 01:20:58,987 誰だっけな? 717 01:20:58,987 --> 01:21:04,593 中村桂国と申しやす。 中村二竹でやす。 718 01:21:04,593 --> 01:21:09,098 (桂国)一茶先生。 ほう。お初に お目もじいたしやす。 719 01:21:09,098 --> 01:21:13,268 (二竹)おらたち両名 俳諧を志しておる者でありやす。➡ 720 01:21:13,268 --> 01:21:18,941 お師匠さまの 江戸でのご高名は 当地にも鳴り響いておりやす。 721 01:21:18,941 --> 01:21:23,812 何とぞ お師匠さまのご門下に お加え頂かしてもらいてえと➡ 722 01:21:23,812 --> 01:21:27,616 お願い言上に参じやした。 参じやした! 723 01:21:27,616 --> 01:21:33,956 まあ… 上がんなさい 上がんなさい。 こっちへ。 724 01:21:33,956 --> 01:21:36,859 失礼いたしやす。 ありがとうごぜえやす。 725 01:21:36,859 --> 01:21:43,966 <この方々は 柏原本陣の息子さんと 造り酒屋の息子さんでやんす。➡ 726 01:21:43,966 --> 01:21:46,301 お二人は 村で初めて➡ 727 01:21:46,301 --> 01:21:50,005 弥太郎さの俳諧のお弟子になられやした> 728 01:22:11,260 --> 01:22:16,932 めびな もうちょっと おびなに寄せっか。 729 01:22:16,932 --> 01:22:20,636 (さつ)おるかえ。 ああ おるわ。 730 01:22:23,272 --> 01:22:25,607 (むく)初節句 おめでとござんす。 731 01:22:25,607 --> 01:22:29,278 そば粉 祝いに持ってきた。 ありがてえ。 732 01:22:29,278 --> 01:22:32,948 ばあやの膝へ来い。 ほらほら。 733 01:22:32,948 --> 01:22:37,286 おう! ハハハ…。 おつむ てんてんだぞ。 734 01:22:37,286 --> 01:22:41,623 ほらほら ほらほら… お~ かわいい ぼこだあ。 735 01:22:41,623 --> 01:22:45,494 女の子の方が やっぱし育てやすいだらず。 ああ。 736 01:22:45,494 --> 01:22:49,965 (仙六のあやす声) 737 01:22:49,965 --> 01:22:55,304 おむくさ おさとのおむつ 見てくれよ。 738 01:22:55,304 --> 01:22:58,640 (むく)あいあい。 (仙六)ほらよっ。 739 01:22:58,640 --> 01:23:00,943 仙六。 740 01:23:07,249 --> 01:23:09,918 仙六。 うん? 741 01:23:09,918 --> 01:23:16,792 おめえ 小古間の方に やや できたらしいな。 742 01:23:16,792 --> 01:23:20,262 うん。 743 01:23:20,262 --> 01:23:23,932 どっちだ? 男だ。 744 01:23:23,932 --> 01:23:33,942 ああ… めでてえと言ってやりてえが厄介だな。 745 01:23:33,942 --> 01:23:36,612 おむくさは? 746 01:23:36,612 --> 01:23:38,914 うすうす。 747 01:23:41,283 --> 01:23:44,953 つれえな。 748 01:23:44,953 --> 01:23:49,958 跡取りだけ いずれは もらい受けるが…。 749 01:23:52,294 --> 01:23:58,166 これが 絶対に渡さねえと頑張ってる。 ああ…。 750 01:23:58,166 --> 01:24:03,238 おむくさを追い出して女房に据えろと かさにかかってくるさけ➡ 751 01:24:03,238 --> 01:24:05,574 頭 痛え…。 752 01:24:05,574 --> 01:24:11,880 はあ… 女しは やや産むと強くなるなあ。 753 01:24:14,583 --> 01:24:19,922 (おさとの泣き声) 754 01:24:19,922 --> 01:24:23,592 おめが たぁくらたぁたで 縁から転げたんでねか! 755 01:24:23,592 --> 01:24:27,262 大丈夫だ。 おら 気ぃ付ける。 756 01:24:27,262 --> 01:24:30,165 言ってる先から これだ。 うわの空で聞いてっからだ。 757 01:24:30,165 --> 01:24:35,137 あ~ 痛かったな。 ネンピカンノン ネンピカンノン…。 758 01:24:35,137 --> 01:24:37,606 なあ 痛かったな~。 おらも忙しい身だ。 759 01:24:37,606 --> 01:24:42,945 一日 赤っ子に ついて歩くわけにいかね! なあ たまには 里に帰らしてくんろ。 760 01:24:42,945 --> 01:24:46,615 おら 赤川の方が 体 休まんだ。 また それ言う。 761 01:24:46,615 --> 01:24:48,951 何かっていうと 親元に帰りたがんだかんな。 762 01:24:48,951 --> 01:24:51,853 おめこそ ごた こねてばっかしで 尻の穴 小せえ じいさまだ! 763 01:24:51,853 --> 01:24:54,289 やかましい! おめは何だ? 764 01:24:54,289 --> 01:24:57,192 ポイと家空けたら 半年 一年 家に帰ってこねえくせして➡ 765 01:24:57,192 --> 01:25:00,095 おらが一晩 家空けるの ぶつくさ言って この しみったれじじい! 766 01:25:00,095 --> 01:25:02,564 (舌打ち) 男は出てってもいいんだ! 767 01:25:02,564 --> 01:25:04,499 何を偉そうなことを! 何だ! 偉そうっちゃ。 768 01:25:04,499 --> 01:25:07,235 おらも出ていくぞ! 出ていくって どこにだ! 769 01:25:07,235 --> 01:25:09,571 ⚟どこにだ! 行くとこあんのか! あっ また 母ちゃんとこか! 770 01:25:09,571 --> 01:25:12,240 ⚟おめえなんか大嫌いだ! ⚟おお そんなに嫌えか。 771 01:25:12,240 --> 01:25:18,914 青臭え。 あいつら もう6年も たつっちゅうに。 772 01:25:18,914 --> 01:25:25,220 仲ええ しるしだ。 おら 羨ましい…。 773 01:25:28,256 --> 01:25:37,599 おむく おめは小林家のおっ母さまだ。➡ 774 01:25:37,599 --> 01:25:41,470 仙六の女房だ。 775 01:25:41,470 --> 01:25:47,476 何があっても びくともするこっちゃねえ。 776 01:25:54,616 --> 01:26:02,891 女はな つれえたんびに 里へ帰ってたら➡ 777 01:26:02,891 --> 01:26:08,563 そのうち 居場所なくす。 778 01:26:08,563 --> 01:26:12,234 辛抱しどこだ。 779 01:26:12,234 --> 01:26:28,250 ♬~ 780 01:26:39,261 --> 01:26:43,265 堪忍な。 おら 気短だ。 781 01:26:45,600 --> 01:26:50,472 おらの方こそ ごた こねて 悪かったな。 782 01:26:50,472 --> 01:26:53,475 里 行きたかったら 行け。 783 01:26:56,611 --> 01:27:03,885 おら いくつになっても この ひがみ根性が直らねえ。 784 01:27:03,885 --> 01:27:11,560 ままっ子育ちだけえ ふた親あるおめに ひねくれてんだ。 785 01:27:11,560 --> 01:27:18,233 長生きしてくれろ。 おさとと おなかの子のために。 786 01:27:18,233 --> 01:27:21,136 ふた親いつまでも 元気でいてやらなくちゃ。 787 01:27:21,136 --> 01:27:27,576 おう。 ままっ子育ちの憂き目は もう 俺一人で十分だ。 788 01:27:27,576 --> 01:27:31,246 よいしょ… あっ いてて…。 789 01:27:31,246 --> 01:27:35,584 おさとのためにもな。 ヘヘヘ…。 790 01:27:35,584 --> 01:27:43,458 これから この赤子のためにもな 100まで生きっぞ。 ヘヘヘ…。 791 01:27:43,458 --> 01:27:47,596 さと さと…。 (おさとの声) 792 01:27:47,596 --> 01:27:53,301 寝ろ 寝ろ 寝ろって。 なあ。 793 01:27:56,605 --> 01:28:03,211 <したが おさとは2つの時 疱瘡がもとで死にやした> 794 01:28:03,211 --> 01:28:24,232 ♬~ 795 01:28:24,232 --> 01:28:28,570 <おさとの下に産んだ石太郎も おらが おぶったまんま➡ 796 01:28:28,570 --> 01:28:34,876 息さ 詰まらせ 死なせやした。 おらの不注意でやんす> 797 01:28:41,149 --> 01:28:45,120 ああ…。 798 01:28:45,120 --> 01:28:50,825 仏さまは よっぽど➡ 799 01:28:50,825 --> 01:28:59,534 おらには幸せになってもらいたくねえと 思ってらっしゃる。 800 01:29:03,872 --> 01:29:07,542 なあ きく! 801 01:29:07,542 --> 01:29:18,887 おめ おらの子を 何人殺せば気が済むんだ! 802 01:29:18,887 --> 01:29:23,191 石太郎 返せ! (玩具を投げつける音) 803 01:29:35,904 --> 01:29:38,206 (倒れる音) 804 01:29:40,242 --> 01:29:44,112 どうした? きく。 どうした? きく! 805 01:29:44,112 --> 01:29:46,915 どうした? どうした? きく! 806 01:29:46,915 --> 01:29:48,850 何だ 何だ… 何 寝てんだ! 807 01:29:48,850 --> 01:29:51,786 こら… こら 起きろ。 どうした? きく! 808 01:29:51,786 --> 01:30:33,495 ♬~ 809 01:30:33,495 --> 01:30:39,801 父っちゃ…。 どした? かわやか? 810 01:30:41,970 --> 01:30:46,841 今夜は 随分と気分がええよ。 811 01:30:46,841 --> 01:30:49,544 そら よかったな。 812 01:30:58,520 --> 01:31:03,925 何だ? 何だ? こら きく…。 813 01:31:03,925 --> 01:31:07,595 無理したら だめだ… 無理したら… 無理したら だめだ…。 814 01:31:07,595 --> 01:31:12,467 あっ あっ…。 815 01:31:12,467 --> 01:31:15,937 きく…。 816 01:31:15,937 --> 01:31:21,943 子ども つくりてえ…。 もう一人 子どもを…。 817 01:31:23,812 --> 01:31:30,285 子どもって…。 おら 子どもより➡ 818 01:31:30,285 --> 01:31:34,956 おめが どっか行っちまいそうな気がして 心もとねえ。 819 01:31:34,956 --> 01:31:41,629 なあ きく どこにも… どこにも行くな…。 820 01:31:41,629 --> 01:31:44,532 行きっこねえってば…。 821 01:31:44,532 --> 01:32:02,517 ♬~ 822 01:32:19,467 --> 01:32:22,170 おきく~! 823 01:32:26,141 --> 01:32:28,843 おきく! 824 01:32:32,614 --> 01:32:35,283 おらを置いて…。 825 01:32:35,283 --> 01:32:40,622 おらを置いて どこさ行く! 826 01:32:40,622 --> 01:32:46,294 どこにも行かねえって➡ 827 01:32:46,294 --> 01:32:52,300 その口で… 言ったでねえか! 828 01:32:54,169 --> 01:32:57,172 おきく! 829 01:32:59,641 --> 01:33:06,915 おらと… 約束したでねえか! 830 01:33:06,915 --> 01:33:27,936 ♬~ 831 01:33:27,936 --> 01:33:34,809 (一茶の号泣) 832 01:33:34,809 --> 01:34:55,156 ♬~ 833 01:34:55,156 --> 01:34:57,926 おきくさ…。 834 01:34:57,926 --> 01:35:18,913 ♬~ 835 01:35:18,913 --> 01:35:20,848 (一同)そ~れ! 836 01:35:20,848 --> 01:35:25,253 ♬~(祭り囃子) 837 01:35:25,253 --> 01:36:25,246 ♬~ 838 01:36:25,246 --> 01:36:28,583 派手な女だなやあ。 おめ 知らねえのか?➡ 839 01:36:28,583 --> 01:36:32,453 あれが 小升屋の女衆の やおだ。 (桂国)遊び女ちゅう噂の? 840 01:36:32,453 --> 01:36:36,257 あれが 噂の遊び女か? 841 01:36:36,257 --> 01:36:41,129 冗談でごぜえやすよ。 ささっ お師匠さま 句会に遅れやす。 842 01:36:41,129 --> 01:36:45,833 そうだっけ そうだっけ。 ささっ。 ささささ… 重い。 843 01:36:51,105 --> 01:37:05,553 (鳥のさえずり) 844 01:37:05,553 --> 01:37:09,257 (カエルの鳴き声) 845 01:37:12,226 --> 01:37:18,232 ああ…。 846 01:37:29,777 --> 01:37:32,480 何だ? (子どもたち)うわ~! 847 01:37:35,917 --> 01:37:42,790 小升屋の女衆が ててなし子を産んだらしいな。 848 01:37:42,790 --> 01:37:50,932 てては 遊び人の倉次郎さ。 誰も知らねえ者はいねえわさ。 849 01:37:50,932 --> 01:37:54,602 (戸の開く音) はい ごめんなんしょ。 850 01:37:54,602 --> 01:37:59,474 おむくさ この芋汁 殊の外 うまかった。 851 01:37:59,474 --> 01:38:04,178 義兄さ 風呂入っておくんなんしょ。 ああ いらね。 852 01:38:09,884 --> 01:38:13,755 兄やん すっかり老け込んじまったな。 853 01:38:13,755 --> 01:38:18,893 あのままボケでもしたら 事だぞ。 854 01:38:18,893 --> 01:38:23,231 隣同士 放るわけにもいくめえ。 855 01:38:23,231 --> 01:38:28,569 俳諧やってると 頭 使うから ボケねえんじゃ。 856 01:38:28,569 --> 01:38:31,472 ふんとか? 857 01:38:31,472 --> 01:38:33,775 さあ…。 858 01:38:38,579 --> 01:38:42,917 (やお)♬「可愛い男は芋喰て死んだ」 859 01:38:42,917 --> 01:38:50,792 ♬「屁をひるたび思い出す…」 860 01:38:50,792 --> 01:38:55,496 ♬「可愛い男は芋喰て死んだ」 861 01:38:55,496 --> 01:39:00,401 ♬「屁をひるたび思い出す」 862 01:39:00,401 --> 01:39:02,870 おい おい! 863 01:39:02,870 --> 01:39:06,207 そんな歌 大きい声で歌うもんじゃねえや。 864 01:39:06,207 --> 01:39:10,077 客も逃げるぞ。 ヘヘヘ…。 865 01:39:10,077 --> 01:39:15,883 あの… 半紙半じょうと ふんどし一丁で いくらだ? 866 01:39:15,883 --> 01:39:18,786 百文だ。 高えな まけろ。 867 01:39:18,786 --> 01:39:23,224 高くても 義理と ふんどしは 欠かしちゃなんねってね。 868 01:39:23,224 --> 01:39:28,095 ハハハ…。 面白えこと言うなあ。 ヘヘヘ…。 869 01:39:28,095 --> 01:39:33,234 その背中の子は おめのか? そんだ。 870 01:39:33,234 --> 01:39:37,104 ほれ ほれ…。 ヘヘヘ…。 871 01:39:37,104 --> 01:39:40,107 あ~あ ええ子だな。 元気そうだで。 872 01:39:40,107 --> 01:39:44,245 ありがとござんす。 873 01:39:44,245 --> 01:39:48,583 子育てしながら働くんか? えれえもんだな。 874 01:39:48,583 --> 01:39:52,253 そうもいかねえ。 ん? 何でだ? 875 01:39:52,253 --> 01:39:57,592 今 親子で 隣の納屋の隅っこさ 間借りしてやんすが➡ 876 01:39:57,592 --> 01:40:05,466 秋冬は 寒くて しのげねえもん。 ああ…。 亭主はどうしてんだ? 877 01:40:05,466 --> 01:40:10,605 先刻承知の助のくせして。 なに… 何を? 878 01:40:10,605 --> 01:40:15,276 村の者は みんな知ってる。 この子のててごが どこのどいつで➡ 879 01:40:15,276 --> 01:40:18,613 おらが 親元からも勘当同然ってこと。 880 01:40:18,613 --> 01:40:23,284 ふんどし どうする? 買うのか 買わねのか? 881 01:40:23,284 --> 01:40:25,953 どうすっかなあ。 882 01:40:25,953 --> 01:40:30,258 はい 頂きやす。まけねえぞ。 構わね。 883 01:40:33,294 --> 01:40:38,165 おめえ おらのことは知ってるか? 俳諧の先生さまだ。 884 01:40:38,165 --> 01:40:42,303 ヘヘヘ… なら 話は早えや。 885 01:40:42,303 --> 01:40:49,644 おい おめえ その赤子と一緒に おらんとこ来い。 886 01:40:49,644 --> 01:40:51,579 はあ? 887 01:40:51,579 --> 01:40:58,653 女衆は 子ども抱えて 秋冬越すのは大変だ。 888 01:40:58,653 --> 01:41:06,260 おらんとこ来れば いろりもあれば 風呂もある。 こたつもあるぞ。 どうだ? 889 01:41:06,260 --> 01:41:11,132 俳諧の先生の 台所ばあやんに してくれるというのかえ。 890 01:41:11,132 --> 01:41:13,601 うんにゃ。 891 01:41:13,601 --> 01:41:15,536 (きせるの灰を落とす音) 892 01:41:15,536 --> 01:41:20,942 この赤子を ててなし子にしては ふびんだ。 なあ。 893 01:41:20,942 --> 01:41:25,279 おらな おめの実家へ結納持っていく。 894 01:41:25,279 --> 01:41:31,953 ええっ? おらみてな者を 嫁にもらうと言うんか? 895 01:41:31,953 --> 01:41:36,624 不服か? …でもねえが。 896 01:41:36,624 --> 01:41:39,961 倉次郎が因縁つけてくっか? 897 01:41:39,961 --> 01:41:43,831 あいつは 何もできねえ意気地なしだ。 898 01:41:43,831 --> 01:41:46,300 なら 来い。 899 01:41:46,300 --> 01:41:52,173 たまげた~! ええ~っ!? 900 01:41:52,173 --> 01:41:57,478 倉吉 たまげたねえ! アハハハ…。 901 01:41:59,647 --> 01:42:05,920 (きく)<弥太郎さの今度の女房は ててなし子を産んだ やおさでやんす。➡ 902 01:42:05,920 --> 01:42:12,793 この結び付きにゃ 村じゅうが ひっくり返るほどの評判になりやしたが➡ 903 01:42:12,793 --> 01:42:17,932 「人の噂も七十五日」 一家のむつまじげな様子に➡ 904 01:42:17,932 --> 01:42:24,605 やがて 口さがねえ噂も 悪口も 消えてなくなりやした> 905 01:42:24,605 --> 01:42:29,310 (笑い声) 906 01:43:49,824 --> 01:44:24,825 ♬~ 907 01:44:39,140 --> 01:44:46,147 おむくさ 餅でも2~3個包んでやれ。 908 01:44:49,283 --> 01:44:54,989 やお あったか~い白湯も振る舞ってやれ。 (やお)はいよ。 909 01:45:03,797 --> 01:45:07,501 あれ… あれえ? 910 01:45:14,241 --> 01:45:17,945 おめ… 草杖か…? 911 01:45:21,115 --> 01:45:26,587 この野郎… なんてざまだ…。 912 01:45:26,587 --> 01:45:31,892 色男も台なしだ…。 面目次第もねえ…。 913 01:45:35,296 --> 01:45:39,500 まあ 中へ入れ。 雨だ 雨だ。 入れ。 914 01:45:47,608 --> 01:45:52,279 (草杖)おいらなんぞはね…。 (せきこみ) 915 01:45:52,279 --> 01:45:55,616 帰っても 墓もねえ。 916 01:45:55,616 --> 01:46:01,622 末は 無縁仏にでもなって 草むらに転がるさ。 917 01:46:04,225 --> 01:46:09,096 もっと早く 足を洗っときゃよかったものを…。 918 01:46:09,096 --> 01:46:18,239 思いっきりが悪いのと なまじ ちっとばかし上手だったもんで➡ 919 01:46:18,239 --> 01:46:22,910 「月が花が」と ちんぷんかんぷん吹いて➡ 920 01:46:22,910 --> 01:46:28,249 無駄歩きしてる間に 50を過ぎちまった…。 921 01:46:28,249 --> 01:46:34,588 そら… おらも同じだ。 それは違う。 922 01:46:34,588 --> 01:46:38,926 おいら 知ってるよ。 923 01:46:38,926 --> 01:46:44,798 おめえさんは 故郷に帰ってから勝負した。 924 01:46:44,798 --> 01:46:54,475 旅の空でも 江戸でも おめえさんの出した句集は 全部 読んだ。 925 01:46:54,475 --> 01:46:59,246 信濃の月は おめえさんのもんよ。 926 01:46:59,246 --> 01:47:05,886 ヘヘヘ… 草杖 おめえに そうやって持ち上げられると➡ 927 01:47:05,886 --> 01:47:11,592 何か こう こそばゆいよ。 ヘヘヘ…。 928 01:47:15,562 --> 01:47:23,437 一茶さんよ。 何だい 何だい 改まって。 929 01:47:23,437 --> 01:47:31,912 「五七五」ってえのは 恐ろしい魔物だ…。 930 01:47:31,912 --> 01:47:43,524 おいら 五七五に夢かけて…➡ 931 01:47:43,524 --> 01:47:47,828 一生を 棒に振っちまった…。 932 01:47:49,930 --> 01:47:58,639 もう… やり直しも何もききゃしねえ…。 933 01:48:03,877 --> 01:48:09,550 (草杖の泣き声) 934 01:48:09,550 --> 01:48:35,776 ♬~ 935 01:48:35,776 --> 01:48:38,579 達者でな。 ああ。 936 01:48:38,579 --> 01:48:44,251 いつでも 気が向いたら来いよ。 ああ…。 937 01:48:44,251 --> 01:48:47,154 草杖。 938 01:48:47,154 --> 01:48:51,125 句作に励めよ。 939 01:48:51,125 --> 01:48:59,433 ああ 芭蕉に追いつけ追い越せさ。 ヘヘヘ…。 940 01:49:06,507 --> 01:49:10,511 (草杖)おい…。 ん? 941 01:49:13,414 --> 01:49:18,118 ひとつ 言い忘れてた。 何だい? 942 01:49:18,118 --> 01:49:23,557 俺 おめえさんに わびなきゃなんねえことがある。 943 01:49:23,557 --> 01:49:26,894 はあ? 944 01:49:26,894 --> 01:49:31,198 怒るなよ。 じれってえな。 945 01:49:36,236 --> 01:49:40,107 成美さんの井筒屋の別邸 覚えてるだろ? 946 01:49:40,107 --> 01:49:44,578 ああ。 多田薬師にあった随斎亭だ。 947 01:49:44,578 --> 01:49:48,449 なら 泥棒騒ぎがあったことは? 948 01:49:48,449 --> 01:49:55,222 ああ 忘れるもんか。 とんでもねえ疑い かけられちまって…。 949 01:49:55,222 --> 01:49:58,225 えれえ後味悪かった。 950 01:50:03,263 --> 01:50:08,602 俺…。 俺の仕業だったのさ。 あ? 951 01:50:08,602 --> 01:50:13,273 あの金 盗んだのは 俺だったんだよ。 何だと? 952 01:50:13,273 --> 01:50:20,948 出来心さ。 何もかも面白くなかった! 953 01:50:20,948 --> 01:50:28,288 富津で 花嬌さんに大事にされてた おめえのことも面白くなかった! 954 01:50:28,288 --> 01:50:31,191 俺なんか雑魚扱いでよ。 955 01:50:31,191 --> 01:50:33,961 おめえばかりが 井筒屋に大事にされてんのも➡ 956 01:50:33,961 --> 01:50:37,297 しゃくの種だった! それで おめえ➡ 957 01:50:37,297 --> 01:50:41,969 俺に 罪 ひっかぶせようとしたのか? 958 01:50:41,969 --> 01:50:47,841 ばか野郎か おめえは! おめえなんか大嫌えだった! 959 01:50:47,841 --> 01:50:57,317 それで その 185両 おめえ どうしたんだよ? 960 01:50:57,317 --> 01:51:02,155 腹いせに 吉原で散財して…。 961 01:51:02,155 --> 01:51:07,461 富くじ買いまくって 外れまくって おしめえよ! ハハハ…。 962 01:51:11,265 --> 01:51:17,604 「あらしにも霧にも衣ひとつかな」。 963 01:51:17,604 --> 01:51:24,478 (笑い声) 964 01:51:24,478 --> 01:51:29,783 (せきこみ) 965 01:51:34,955 --> 01:51:43,630 草杖… おめえは もう一人の俺だ。 966 01:51:43,630 --> 01:51:46,934 その哀れな姿…。 967 01:51:51,305 --> 01:51:55,175 もう一人の… 俺だ! 968 01:51:55,175 --> 01:52:04,585 ♬~ 969 01:52:04,585 --> 01:52:10,924 (半鐘の音) 970 01:52:10,924 --> 01:52:15,629 兄やん 逃げろ! 風向きが変わったぞ! 971 01:52:20,934 --> 01:52:24,238 (せきこみ) 972 01:52:25,806 --> 01:52:28,609 (倉吉の泣き声) おお…。 973 01:52:28,609 --> 01:52:32,946 兄やん はよう! 自分のうちへ行ってこい! 行ってこい! 974 01:52:32,946 --> 01:52:36,650 倉吉 かさから 顔出すな! やお! やお! 975 01:52:41,955 --> 01:52:46,627 はよう はよう! はよう来い! 976 01:52:46,627 --> 01:52:51,965 はよう はよう! はよう! 977 01:52:51,965 --> 01:52:56,837 お父! はよう はよう! はよう逃げねば焼け死ぬ! はよう! 978 01:52:56,837 --> 01:52:59,539 おらのうち 燃える…。 979 01:53:02,909 --> 01:53:07,914 (焼け落ちる音) 980 01:53:17,924 --> 01:53:26,933 あ~あ 何もかも灰になってしまったで。 981 01:53:26,933 --> 01:53:30,270 土蔵が残っとる。 982 01:53:30,270 --> 01:53:37,611 無一文になった。 一から出直しゃええさ。 983 01:53:37,611 --> 01:53:45,952 おらにゃ そげな力は もうねえ。 もう年だ よぼよぼだ。 984 01:53:45,952 --> 01:53:52,959 何 ひねくれたことを。 おら 赤子ができた。 985 01:53:56,963 --> 01:54:02,769 来年の春には生まれる。 ふんとか? 986 01:54:02,769 --> 01:54:09,242 めそめそしてる場合じゃね。 お父! 頑張っておくんなんしょ! 987 01:54:09,242 --> 01:54:17,918 そうだ。 そう聞いたら おら 赤子の顔見るまでは死なれねえわ。 988 01:54:17,918 --> 01:54:20,921 まだまだ これからだ! 989 01:54:23,790 --> 01:54:28,261 やお。 おら 百姓やる。 990 01:54:28,261 --> 01:54:35,135 は? 百姓するってか? 俳諧のお師匠さまがか? 991 01:54:35,135 --> 01:54:41,274 侮るでねえ。 おら もともと百姓だ。 百姓の弥太郎に戻るだけのこんだ。 992 01:54:41,274 --> 01:54:46,613 フフフ…。 おら 本気だで。 おう。 993 01:54:46,613 --> 01:54:52,486 まっとうに百姓やって おめら みんな養ってやる。 994 01:54:52,486 --> 01:54:57,624 このうちも また建てる。 995 01:54:57,624 --> 01:55:03,430 ハハハ…。建てる。 建てる。 建てるか? 頑張っておくんなんしょ。 996 01:55:03,430 --> 01:55:14,141 ♬~ 997 01:55:27,587 --> 01:55:30,490 ああ…。 998 01:55:30,490 --> 01:55:35,929 ♬「可愛い男は芋喰て死んだ」 999 01:55:35,929 --> 01:55:44,271 ♬「屁をひるたび思い出す…」 1000 01:55:44,271 --> 01:55:48,141 ♬「可愛い男は芋喰て死んだ」 1001 01:55:48,141 --> 01:55:54,614 来い来い 来い。 来い来い 来い。 ほれ…。 1002 01:55:54,614 --> 01:55:58,485 あ~ ありがと ありがと。 1003 01:55:58,485 --> 01:56:00,787 ああ 空だ…。 1004 01:56:02,889 --> 01:56:04,891 (器が落ちる音) 1005 01:56:13,533 --> 01:56:18,438 お父! ありがとな。 1006 01:56:18,438 --> 01:56:23,577 畑仕事 ええ年なのに よう気張る。 1007 01:56:23,577 --> 01:56:26,913 倉吉にも優しくしてくれる。 1008 01:56:26,913 --> 01:56:32,786 おら つくづく 何もかもありがてえ! 1009 01:56:32,786 --> 01:56:38,258 今夜はな お父の好きな大根煮にするよ。 1010 01:56:38,258 --> 01:56:42,929 酒も添える。 お楽しみにな。 1011 01:56:42,929 --> 01:56:48,268 ♬「可愛い男は芋喰て死んだ」 1012 01:56:48,268 --> 01:56:52,939 ♬「屁をひるたび思い出す」 1013 01:56:52,939 --> 01:57:56,236 ♬~ 1014 01:58:24,230 --> 01:58:55,228 ♬~