1 00:01:10,594 --> 00:01:14,598 (マスター)アンポンタン? (松ちゃん)アンポンタン。 2 00:01:14,598 --> 00:01:16,600 (メガネさん)アンポンタン…。 3 00:01:16,600 --> 00:01:19,603 アンポンタンね…。 4 00:01:19,603 --> 00:01:22,606 う~ん。 5 00:01:22,606 --> 00:01:24,608 本当に アンポンタンなのか? 6 00:01:24,608 --> 00:01:27,608 ちゃんと聞いた時にメモしたもん。 7 00:01:30,614 --> 00:01:32,614 ほら アンポンタン。 8 00:01:34,551 --> 00:01:36,553 僕が よくいく居酒屋で 9 00:01:36,553 --> 00:01:39,556 鶴次郎さんって おじさんが言ってたの。 10 00:01:39,556 --> 00:01:44,561 焼酎になら あんぽんたんっていう 麦焼酎は あるんですよ。 11 00:01:44,561 --> 00:01:47,564 でも そうじゃないんですよね? 違う。 洋酒。 12 00:01:47,564 --> 00:01:51,568 しかも ただのお酒じゃ ないんだって。 13 00:01:51,568 --> 00:01:53,570 ただのお酒じゃないって どういう意味ですか? 14 00:01:53,570 --> 00:01:56,573 聞いたら驚きますよ。 15 00:01:56,573 --> 00:01:59,576 何と そのアンポンタンは 16 00:01:59,576 --> 00:02:03,576 飲んでも飲んでも減らない 夢のお酒なんだ! 17 00:02:07,584 --> 00:02:11,588 なに その薄いリアクション。 もしかして 疑ってるの? 18 00:02:11,588 --> 00:02:13,590 はい…。 19 00:02:13,590 --> 00:02:15,592 信じろって言う方が無理だろ。 20 00:02:15,592 --> 00:02:18,595 夢でも見てたんじゃないのか? その鶴次郎さんは。 21 00:02:18,595 --> 00:02:22,599 僕も最初は そう思ったよ。 でも マジメな顔で言うし 22 00:02:22,599 --> 00:02:24,601 とても ウソをつくような人とは 思えないんだよ。 23 00:02:24,601 --> 00:02:26,603 でも さすがに 24 00:02:26,603 --> 00:02:28,605 飲んでも減らない 酒っていうのは 25 00:02:28,605 --> 00:02:30,607 この世にあると 思えないんですけどね。 26 00:02:30,607 --> 00:02:32,543 じゃあ 本人に 聞いたらいいでしょ。 27 00:02:32,543 --> 00:02:35,546 もうすぐ 来るから。 本人 いらっしゃるんですか? 28 00:02:35,546 --> 00:02:39,550 うん。 マスターの話をしたら ぜひに会いたいと。 29 00:02:39,550 --> 00:02:42,553 そいつは 楽しみだな。 30 00:02:42,553 --> 00:02:47,553 夢の酒 アンポンタン…。 31 00:02:50,561 --> 00:02:52,563 どうも! 32 00:02:52,563 --> 00:02:55,566 いらっしゃいませ。 来た! 鶴次郎さん! 33 00:02:55,566 --> 00:03:01,572 おお! 松ちゃん! シャレた店じゃねぇか。 34 00:03:01,572 --> 00:03:04,575 見たこともねぇ 酒が いっぱい 並んでらぁ。 35 00:03:04,575 --> 00:03:08,579 ようこそ お越しくださいました。 当店のマスターでございます。 36 00:03:08,579 --> 00:03:12,583 どうも。 手前 本町五丁目で 37 00:03:12,583 --> 00:03:14,585 下手な大工を やらせてもらっております。 38 00:03:14,585 --> 00:03:18,589 竹山鶴次郎と申します。 以後 お見知りおきを。 39 00:03:18,589 --> 00:03:20,591 どうぞ お掛けください。 40 00:03:20,591 --> 00:03:23,594 失礼しやす。 41 00:03:23,594 --> 00:03:25,594 どうも。 42 00:03:28,599 --> 00:03:30,601 …で 鶴次郎さん。 43 00:03:30,601 --> 00:03:33,537 アンポンタンは 持ってきてくれた? 44 00:03:33,537 --> 00:03:36,537 モチのロンだよ。 45 00:03:38,542 --> 00:03:40,544 松ちゃんからね 46 00:03:40,544 --> 00:03:42,546 レモンハートのマスターだったら この酒のヒミツ 47 00:03:42,546 --> 00:03:44,548 解いてくれるんじゃねえかって 聞いてさ。 48 00:03:44,548 --> 00:03:47,551 昨日から楽しみで 仕方ねえんだよ! 49 00:03:47,551 --> 00:03:49,553 早速 拝見しても宜しいですか? 50 00:03:49,553 --> 00:03:53,557 おぉともよ。 じっくりと見てくれ! 51 00:03:53,557 --> 00:03:55,557 はい。 では…。 52 00:03:57,561 --> 00:04:01,565 夢の酒か。 ワクワクするぜ。 53 00:04:01,565 --> 00:04:07,571 ああ… そういうことでしたか。 54 00:04:07,571 --> 00:04:09,573 なにか 分かったのかい!? 55 00:04:09,573 --> 00:04:12,576 はい。 56 00:04:12,576 --> 00:04:16,580 これは アンポンタンでは ありません。 57 00:04:16,580 --> 00:04:21,585 正しくは ラフォンタンです。 58 00:04:21,585 --> 00:04:24,588 ラポンタン? ラフォンタン。 59 00:04:24,588 --> 00:04:28,592 フランス アルマニャック地方の ブランデーです。 60 00:04:28,592 --> 00:04:31,611 ハハハッ。 そういうことか! 61 00:04:31,611 --> 00:04:34,531 ラフォンタンが アンポンタン。 確かに響きは 似てるな。 62 00:04:34,531 --> 00:04:37,534 この調子じゃ 飲んでも減らないっていうのも 63 00:04:37,534 --> 00:04:39,536 当てにならねぇな。 64 00:04:39,536 --> 00:04:41,538 そりゃあ ウソじゃねぇんだよ! 65 00:04:41,538 --> 00:04:44,541 昨日も飲んで 今朝 見たら 66 00:04:44,541 --> 00:04:48,545 やっぱり 増えてやがったんだ。 本当? 見間違えたんじゃないの? 67 00:04:48,545 --> 00:04:52,549 そんなに疑うんだったら いっぺん飲んでみろってんだよ! 68 00:04:52,549 --> 00:04:55,552 マスター 悪いけど みんなに注いでやってくんな。 69 00:04:55,552 --> 00:04:58,555 マスターも 飲んでみてくれよ。 宜しいんですか? 70 00:04:58,555 --> 00:05:03,555 どうせ 明日になりゃ増えるんだ。 かまやしねぇよ。 71 00:05:17,574 --> 00:05:20,577 どうぞ。 72 00:05:20,577 --> 00:05:23,580 どうぞ。 73 00:05:23,580 --> 00:05:25,580 どうぞ。 74 00:05:27,584 --> 00:05:30,587 では いただきます。 75 00:05:30,587 --> 00:05:32,587 おう。 76 00:05:47,537 --> 00:05:51,541 まさに ラフォンタンですね。 77 00:05:51,541 --> 00:05:53,543 味といい 香りといい 78 00:05:53,543 --> 00:05:56,546 アルマニャックならではの 力強さがありますね。 79 00:05:56,546 --> 00:06:01,551 この味だけでも 十分 夢の酒だけどな。 80 00:06:01,551 --> 00:06:04,554 ん? 本当だ。 美味しい。 81 00:06:04,554 --> 00:06:09,559 だろ? これが 毎晩 増えるんだぜ! 82 00:06:09,559 --> 00:06:14,564 これ いつ頃 手に入れられました? 83 00:06:14,564 --> 00:06:17,567 半年前だよ。 うちのカカアが 84 00:06:17,567 --> 00:06:20,570 外国に行った 友だちに頼んで 買ってきてもらったんだ。 85 00:06:20,570 --> 00:06:24,574 俺も 初めて飲んだ時には ビックリしたよ。 86 00:06:24,574 --> 00:06:29,579 こんな うまい酒があるのかって 感動したね。 87 00:06:29,579 --> 00:06:33,517 だけど ほら こんな ちっちゃなビンじゃないか 88 00:06:33,517 --> 00:06:37,521 俺はさ 夜 寝る前の楽しみに 89 00:06:37,521 --> 00:06:42,526 毎晩 一口 チビリチビリって 飲むことにしてたんだ。 90 00:06:42,526 --> 00:06:45,529 …で 半分近くになったころかな 91 00:06:45,529 --> 00:06:53,537 あ~… もう少しで楽しみが 終わっちまうなって思ってたら 92 00:06:53,537 --> 00:06:56,540 そしたら どうだい! お前。 93 00:06:56,540 --> 00:07:00,544 朝起きたら 飲んだ分だけ 増えてるんだよ! 94 00:07:00,544 --> 00:07:05,549 びっくりしたよ。 それが 毎晩 続くんだぜ。 95 00:07:05,549 --> 00:07:11,555 俺もさ おかしいなと思ってね 一度 徹夜で見張ってたんだよ。 96 00:07:11,555 --> 00:07:14,558 そういうときには どういうわけか増えねぇんだよ。 97 00:07:14,558 --> 00:07:17,561 でも 俺が寝ると やっぱり増えてるんだよ。 98 00:07:17,561 --> 00:07:20,561 もう 訳分かんねぇんだよ。 99 00:07:22,566 --> 00:07:24,568 鶴次郎さん。 なんだい? 100 00:07:24,568 --> 00:07:28,572 このラフォンタン 奥様から頂いたって おっしゃいましたね? 101 00:07:28,572 --> 00:07:30,574 ああ。 102 00:07:30,574 --> 00:07:35,512 ひょっとして 誕生日プレゼントですか? 103 00:07:35,512 --> 00:07:38,515 おう。 なんで 分かったの? 104 00:07:38,515 --> 00:07:40,517 ラフォンタンというのは 105 00:07:40,517 --> 00:07:43,520 単一ビンテージの ブランデーなんですよ。 106 00:07:43,520 --> 00:07:46,523 通常 コニャックとか アルマニャックは 107 00:07:46,523 --> 00:07:50,527 ブレンドされて 味を整えてから ナポレオンとか XOとか 108 00:07:50,527 --> 00:07:53,530 そういう等級にされて 販売されるんですよね。 109 00:07:53,530 --> 00:07:55,532 ところが このラフォンタンは 110 00:07:55,532 --> 00:07:59,536 100年以上前から 毎年 その年にできたものだけを 111 00:07:59,536 --> 00:08:03,540 一瓶ずつ 手詰めにして 世に出してるんですね。 112 00:08:03,540 --> 00:08:05,542 ですから たいていの年度が揃ってまして 113 00:08:05,542 --> 00:08:10,547 誕生日年のお酒として プレゼントされることが多いんですよ。 114 00:08:10,547 --> 00:08:16,553 じゃあ 鶴次郎さんは 1951年 生まれなんだ。 115 00:08:16,553 --> 00:08:20,557 おう。 やっぱり。 116 00:08:20,557 --> 00:08:24,561 あ~ そうでしたか。 なにが? 117 00:08:24,561 --> 00:08:30,567 飲んでも減らない お酒の 謎が 分かったんですよ。 118 00:08:30,567 --> 00:08:33,567 本当かい? そりゃ…。 どういうこと? 119 00:10:52,709 --> 00:10:57,714 飲んでも減らない お酒の 謎が 分かったんですよ。 120 00:10:57,714 --> 00:11:01,718 本当かい? そりゃ…。 どういうこと? 121 00:11:01,718 --> 00:11:04,721 それを お話しする前に 122 00:11:04,721 --> 00:11:10,727 鶴次郎さんに ある約束を していただかないとなりません。 123 00:11:10,727 --> 00:11:14,731 ん? ある約束? 124 00:11:14,731 --> 00:11:21,738 今後 ポックリ 死にたい なんてことを 125 00:11:21,738 --> 00:11:24,738 二度と言わないで頂けますか? 126 00:11:26,743 --> 00:11:28,745 なんだい その ポックリっていうのはよ? 127 00:11:28,745 --> 00:11:31,748 それを約束して頂けないと 128 00:11:31,748 --> 00:11:37,748 この お酒の謎をお話しすることが できないんですよ。 129 00:11:41,758 --> 00:11:45,762 なんだか分かんねぇけど 分かった! 130 00:11:45,762 --> 00:11:51,701 俺は ポックリ 死にたいなんて 金輪際 絶対 言わねえ! 131 00:11:51,701 --> 00:11:55,705 本当ですか? 江戸っ子に二言はねぇ! 132 00:11:55,705 --> 00:11:59,709 分かりました。 では お話しします。 133 00:11:59,709 --> 00:12:01,711 結論から言いますと 134 00:12:01,711 --> 00:12:05,715 ラフォンタンは 勝手に増えていたんではなく 135 00:12:05,715 --> 00:12:09,719 注ぎ足されていたんです。 136 00:12:09,719 --> 00:12:12,722 注ぎ足されてた? はい。 137 00:12:12,722 --> 00:12:15,725 誰に? 138 00:12:15,725 --> 00:12:19,729 3~4か月 前でしたっけね。 139 00:12:19,729 --> 00:12:25,735 この店に ラフォンタンを 買いに来られた 女性がいます。 140 00:12:25,735 --> 00:12:28,738 その方の名前は…。 141 00:12:28,738 --> 00:12:30,740 うん…。 142 00:12:30,740 --> 00:12:35,745 亀代さんです。 143 00:12:35,745 --> 00:12:39,745 うん? 亀代さんって 誰? 144 00:12:42,752 --> 00:12:47,757 うちのカカアだ。 145 00:12:47,757 --> 00:12:50,777 鶴次郎さんの奥さん? 146 00:12:50,777 --> 00:12:53,696 でも 何で 鶴次郎さんの奥さんを マスターが? 147 00:12:53,696 --> 00:12:57,700 私も 鶴次郎さんのお話を 伺うまでは 148 00:12:57,700 --> 00:12:59,702 亀代さんと鶴次郎さんが ご夫婦だなんて 149 00:12:59,702 --> 00:13:02,705 気が付かなかったんです。 150 00:13:02,705 --> 00:13:05,705 あの日 亀代さんは…。 151 00:13:10,713 --> 00:13:12,713 「いらっしゃいませ」 152 00:13:14,717 --> 00:13:21,724 「あの… こちらに ラフォンタンは ございますか?」 153 00:13:21,724 --> 00:13:24,727 「はい ございますが」 154 00:13:24,727 --> 00:13:27,730 「どうぞ お掛けください」 155 00:13:27,730 --> 00:13:29,732 「ちょっと 失礼します」 156 00:13:29,732 --> 00:13:33,736 突然のことに 私も驚いたんですがね 157 00:13:33,736 --> 00:13:38,741 話を伺うと 亀代さんは ラフォンタンを手に入れるために 158 00:13:38,741 --> 00:13:42,745 あちこちの酒屋を 捜し回っていたんだそうです。 159 00:13:42,745 --> 00:13:46,749 「私 1本 頂きたいなと思って」 160 00:13:46,749 --> 00:13:49,752 「お持ち帰りということですか」 「できますか?」 161 00:13:49,752 --> 00:13:52,689 そして レモンハートなら 162 00:13:52,689 --> 00:13:56,693 置いてあるんじゃないかって 聞いて やってきたって 163 00:13:56,693 --> 00:13:58,693 そう 説明してくれました。 164 00:14:01,698 --> 00:14:06,703 それで 私は たまたま この店にあった ラフォンタンを 165 00:14:06,703 --> 00:14:09,706 亀代さんに お渡ししたんです。 166 00:14:09,706 --> 00:14:11,708 確かに ラフォンタンは 167 00:14:11,708 --> 00:14:15,712 町の酒屋に そう置いてある 代物じゃないからな。 168 00:14:15,712 --> 00:14:18,715 だけど 分かんねぇのは 169 00:14:18,715 --> 00:14:21,718 どうして 亀代のやつが そんなことしたんでい? 170 00:14:21,718 --> 00:14:25,722 その理由は ポックリです。 171 00:14:25,722 --> 00:14:27,724 さっき言った あれか? 172 00:14:27,724 --> 00:14:32,729 はい。 亀代さんは 鶴次郎さんのことが 173 00:14:32,729 --> 00:14:36,729 心配で 心配で ならなかったんですよ。 174 00:14:39,736 --> 00:14:44,741 「そうだったんですか。 ご主人 大工さん されてるんですか」 175 00:14:44,741 --> 00:14:51,681 「ええ。 私が言うのも何ですが 腕の立つ人でね」 176 00:14:51,681 --> 00:14:54,684 「でも 年のせいか 177 00:14:54,684 --> 00:15:01,691 最近は 若い頃の威勢が めっきり なくなっちゃって」 178 00:15:01,691 --> 00:15:04,694 「だから 私 フランスに行く 友だちに 179 00:15:04,694 --> 00:15:08,698 何か 珍しいお酒 買ってきてくれって頼んで」 180 00:15:08,698 --> 00:15:13,703 「それで ラフォンタンを 誕生日プレゼントにあげたんです」 181 00:15:13,703 --> 00:15:16,706 「そうだったんですか」 182 00:15:16,706 --> 00:15:18,708 「お酒の好きな人だから 183 00:15:18,708 --> 00:15:22,712 少しでも元気を 出してもらいたいと思ってね」 184 00:15:22,712 --> 00:15:26,716 「そりゃあ ご主人 さぞかし喜ばれたでしょうね」 185 00:15:26,716 --> 00:15:29,719 「ええ。 最初は 喜んで 186 00:15:29,719 --> 00:15:34,724 うめぇ うめぇって 毎晩 飲んでたんですけどね」 187 00:15:34,724 --> 00:15:39,729 「お酒が 半分になった頃 188 00:15:39,729 --> 00:15:43,733 何か 仕事で 面白くないことでもあったのか 189 00:15:43,733 --> 00:15:48,738 急に 愚痴を言い始めましてね」 190 00:15:48,738 --> 00:15:52,675 「長生きなんかするもんじゃねぇ」 191 00:15:52,675 --> 00:15:59,675 「この酒が無くなる頃には 俺は ポックリ 死にてぇって」 192 00:16:02,685 --> 00:16:04,687 「もちろん 分かってるんですよ」 193 00:16:04,687 --> 00:16:08,691 「雷が落ちたって トンカチで頭叩かれたって 194 00:16:08,691 --> 00:16:12,695 死なない人だってのはね」 195 00:16:12,695 --> 00:16:21,704 「でも… ポックリ逝きたいなんて そんな気弱な事 言われたら 196 00:16:21,704 --> 00:16:25,704 なんだか急に 心配になっちゃって…」 197 00:16:27,710 --> 00:16:35,718 「お酒が減ってくたびに あの人の寿命が縮んでいくようで 198 00:16:35,718 --> 00:16:37,718 見てられなかったんですよ」 199 00:16:53,669 --> 00:16:55,671 それじゃあ 奥さんは 200 00:16:55,671 --> 00:16:59,675 鶴次郎さんが寝てる隙に お酒を足していたってわけ? 201 00:16:59,675 --> 00:17:01,677 はい。 202 00:17:01,677 --> 00:17:05,681 いい話だな。 うん…。 203 00:17:05,681 --> 00:17:08,684 どこが いい話だよ? 204 00:17:08,684 --> 00:17:13,689 よくよく聞けば ただのアンポンタンじゃねぇかよ。 205 00:17:13,689 --> 00:17:17,693 だって そうだろ? お前。 206 00:17:17,693 --> 00:17:23,699 仕事が面白くねぇからって カカアの前で愚痴ってよ。 207 00:17:23,699 --> 00:17:30,706 余計な心配かけて 酒 探させて。 208 00:17:30,706 --> 00:17:34,706 手前は ポックリ 死にてぇなんて 言ったことすら覚えてねぇ。 209 00:17:37,713 --> 00:17:40,716 冗談じゃねぇぜ。 210 00:17:40,716 --> 00:17:46,716 自分が情けなくってよ 涙が出てくらぁ。 211 00:17:53,663 --> 00:17:57,663 優しい奥様ですね。 212 00:17:59,669 --> 00:18:02,672 ありがてぇ。 213 00:18:02,672 --> 00:18:06,672 本当に ありがてぇ。 214 00:18:10,680 --> 00:18:14,684 鶴次郎さん。 なんだい? 215 00:18:14,684 --> 00:18:21,684 こちらが 奥様にお渡しした ラフォンタンと同じ物です。 216 00:18:23,693 --> 00:18:26,693 何か お気づきの点 ありませんか? 217 00:18:31,701 --> 00:18:35,705 1953…。 218 00:18:35,705 --> 00:18:39,709 これは カカアが生まれた年だ。 219 00:18:39,709 --> 00:18:41,711 はい。 220 00:18:41,711 --> 00:18:46,716 そのとき 店に 1951が なかったんですね。 221 00:18:46,716 --> 00:18:50,736 …で ちょうどあった こちらと同じ 222 00:18:50,736 --> 00:18:55,658 1953を 奥様に お渡ししました。 223 00:18:55,658 --> 00:18:59,662 じゃあ 違う年代の物を 混ぜていたってこと? 224 00:18:59,662 --> 00:19:01,664 そうなんです。 225 00:19:01,664 --> 00:19:04,667 例えば シェリーを 熟成・保存する時 226 00:19:04,667 --> 00:19:08,671 古い樽のものを 新しい樽のものに補充し 227 00:19:08,671 --> 00:19:12,675 繰り返す やり方があるんだが それと同じようなもんだろう。 228 00:19:12,675 --> 00:19:14,677 そうなんだ。 229 00:19:14,677 --> 00:19:19,677 それにね こんなに縁起のいい お酒は ないですよ。 230 00:19:21,684 --> 00:19:23,686 どういう意味でぇ? 231 00:19:23,686 --> 00:19:26,689 鶴次郎さんの生まれた年と 232 00:19:26,689 --> 00:19:31,694 亀代さんの生まれた年を 合わせた ラフォンタンです。 233 00:19:31,694 --> 00:19:36,699 いわば 鶴と亀の夫婦酒ですよ。 234 00:19:36,699 --> 00:19:38,701 なるほど! 235 00:19:38,701 --> 00:19:42,705 鶴は千年 亀は万年 っていうもんね。 236 00:19:42,705 --> 00:19:45,705 これ以上の 不老長寿の薬は ないな。 237 00:19:47,710 --> 00:19:49,710 ちげえねぇ。 238 00:20:00,656 --> 00:20:05,656 カー うめえ! 239 00:20:07,663 --> 00:20:10,666 やっぱり長生きした方が よさそうだ。 240 00:20:10,666 --> 00:20:15,671 こんな うめぇ酒 あの世じゃ絶対 飲めねぇからな。 241 00:20:15,671 --> 00:20:17,673 そのとおりですよ。 242 00:20:17,673 --> 00:20:19,673 生きてなきゃ飲めないもんね。 243 00:20:25,681 --> 00:20:28,681 でも もう 増えねぇからな。 そうだよ! 244 00:20:44,700 --> 00:20:49,705 (亀代)本当にお世話になりました。 245 00:20:49,705 --> 00:20:51,707 いやいや とんでもないです。 246 00:20:51,707 --> 00:20:54,710 亀代さん あれから 鶴次郎さんは? 247 00:20:54,710 --> 00:21:01,717 ええ。 おかげさまで 見違えるように元気になって。 248 00:21:01,717 --> 00:21:05,721 昨日も 若い者を 怒鳴り散らしてましたよ。 249 00:21:05,721 --> 00:21:09,725 ハハハ! そうですか。 よかった よかった。 250 00:21:09,725 --> 00:21:14,730 それに あのことも 黙っていてくださったみたいで 251 00:21:14,730 --> 00:21:17,733 ありがとうございます。 252 00:21:17,733 --> 00:21:19,735 あのこと? 253 00:21:19,735 --> 00:21:26,742 私が ラフォンタンを探していた 本当の理由ですよ。 254 00:21:26,742 --> 00:21:30,746 鶴次郎さんを 心配してたからじゃないの? 255 00:21:30,746 --> 00:21:32,748 それも あるんですけどね。 256 00:21:32,748 --> 00:21:38,754 実は もう1つ 理由があって。 257 00:21:38,754 --> 00:21:45,761 私が あの人のラフォンタンを 飲み過ぎちゃったからなんです。 258 00:21:45,761 --> 00:21:48,764 そうなの!? 259 00:21:48,764 --> 00:21:54,704 あんまり 美味しそうに 飲むもんだから 目を盗んで つい。 260 00:21:54,704 --> 00:22:01,711 そしたら ものすごく美味しくって 飲み過ぎちゃったの。 261 00:22:01,711 --> 00:22:03,713 そうだったんだ…。 262 00:22:03,713 --> 00:22:06,716 こりゃあ 長生きするぜ。 263 00:22:06,716 --> 00:22:08,718 ええ。 264 00:22:08,718 --> 00:22:15,725 鶴次郎は 千年 亀代は 万年ですからね。 265 00:22:15,725 --> 00:22:18,725 こりゃ とても かないませんね。 266 00:26:07,656 --> 00:26:10,656 (松ちゃん)おばんでやす。 (マスター)いらっしゃいませ。 267 00:26:18,667 --> 00:26:21,667 マスター いつもの頂戴。 かしこまりました。 268 00:28:04,640 --> 00:28:06,640 マスター。 はい。 269 00:28:09,645 --> 00:28:11,647 あの2人 変わってるね。 270 00:28:11,647 --> 00:28:13,649 どういう関係? …と言いますと? 271 00:28:13,649 --> 00:28:16,652 僕が来てから 全然 話してないよ。 272 00:28:16,652 --> 00:28:20,656 うわっ! 何と サイレントタイムが13分20秒! 273 00:28:20,656 --> 00:28:23,659 悪いくせですよ お客さまのことを詮索するのは。 274 00:28:23,659 --> 00:28:27,663 詮索じゃないよ。 人間観察って言って。 275 00:28:27,663 --> 00:28:29,663 まったく。 276 00:28:35,671 --> 00:28:37,673 じゃあ。 (野口)うん。 277 00:28:37,673 --> 00:28:39,675 そうか 帰るか。 (内田)うん。 278 00:28:39,675 --> 00:28:41,677 俺は もう少しいる。 分かった。 279 00:28:41,677 --> 00:28:44,680 マスター お勘定。 私の分だけ。 280 00:28:44,680 --> 00:28:48,684 おっ! ついに 客その1 今日 一番長いせりふをしゃべる。 281 00:28:48,684 --> 00:28:51,684 マスター お勘定。 私の分だけ。 282 00:29:00,712 --> 00:29:02,712 どうも。 ありがとうございます。 283 00:29:07,636 --> 00:29:10,639 お気を付けて お帰りください。 どうも。 284 00:29:10,639 --> 00:29:15,644 うわっ まさかの客その1も 客その2も挨拶無し。 285 00:29:15,644 --> 00:29:18,647 ずっと一緒に飲んでたのに。 286 00:29:18,647 --> 00:29:20,647 ありがとうございました。 287 00:29:27,656 --> 00:29:29,658 マスター。 はい。 288 00:29:29,658 --> 00:29:32,658 ジントニックを もう一杯。 かしこまりました。 289 00:29:52,681 --> 00:29:54,681 どうぞ。 290 00:29:56,685 --> 00:29:59,688 おかしいでしょ。 はい? 291 00:29:59,688 --> 00:30:02,624 今 帰ったのは 内田っていうんですけど 292 00:30:02,624 --> 00:30:06,628 あいつとは いつも こんな飲み方ばっかり。 293 00:30:06,628 --> 00:30:09,631 フッ それなのに 一緒にバーに来るなんて。 294 00:30:09,631 --> 00:30:11,631 いえ…。 295 00:30:13,635 --> 00:30:16,638 気が合うわけではないし。 296 00:30:16,638 --> 00:30:19,641 共通の話題があるわけでもない。 297 00:30:19,641 --> 00:30:22,641 一緒にいても まるで盛り上がらない。 298 00:30:26,648 --> 00:30:31,653 でも あいつとの付き合いも もう30年以上になるのかな。 299 00:30:31,653 --> 00:30:34,653 いわゆる 腐れ縁ってやつなんですよ。 300 00:30:37,659 --> 00:30:44,666 野口さんは 内田さんのお人柄に 惹かれてるんじゃないんですかね。 301 00:30:44,666 --> 00:30:46,668 えっ? 302 00:30:46,668 --> 00:30:50,672 ここに あの方が座られたときに 303 00:30:50,672 --> 00:30:55,677 気遣いのできる 優しい人だなって思いました。 304 00:30:55,677 --> 00:30:59,681 それ 何でですか? 305 00:30:59,681 --> 00:31:01,617 ちょっとした仕草なんですけども 306 00:31:01,617 --> 00:31:06,622 野口さんがオーダーのために 私を呼ぼうとしたときに 307 00:31:06,622 --> 00:31:10,622 内田さんが あなたの腕をおさえたんです。 308 00:31:19,635 --> 00:31:21,635 マスタ…。 309 00:31:26,642 --> 00:31:31,647 そのとき 私は 大切な常連客の 作りたくもない 310 00:31:31,647 --> 00:31:34,650 ウイスキーのウーロン茶割りを 作ってるとこでした。 311 00:31:34,650 --> 00:31:38,654 ちょっ 作りたくなかったの? 内田さんは 312 00:31:38,654 --> 00:31:42,658 ちょっと間を置いた方がいいと 思われたんでしょうね。 313 00:31:42,658 --> 00:31:44,660 そのとき 私は 314 00:31:44,660 --> 00:31:49,665 気遣いのできる方だなと 確信しました。 315 00:31:49,665 --> 00:31:53,669 さすがマスター。 フフッ。 そんなとこまで見てたとは。 316 00:31:53,669 --> 00:31:58,674 うん。 確かに 内田はそういうやつです。 317 00:31:58,674 --> 00:32:01,610 はい。 318 00:32:01,610 --> 00:32:04,610 あっ マスター 灰皿。 はい。 319 00:32:06,615 --> 00:32:08,615 どうぞ。 320 00:32:23,632 --> 00:32:25,634 マスター。 はい。 321 00:32:25,634 --> 00:32:29,638 ちょっと 私の長話を 聞いてくれませんか? 322 00:32:29,638 --> 00:32:33,638 もちろんです。 僕にも聞かせてください。 323 00:32:38,647 --> 00:32:41,650 私と内田はね 同期入社だったんですよ。 324 00:32:41,650 --> 00:32:43,652 ああ。 325 00:32:43,652 --> 00:32:48,657 うちの会社 そりゃあ厳しい会社で。 326 00:32:48,657 --> 00:32:51,660 他の同期たちが 次々と辞めていくなか 327 00:32:51,660 --> 00:32:54,663 なぜか 私と内田だけが 残ったんですよ。 328 00:32:54,663 --> 00:32:56,663 そうだったんですか。 329 00:33:01,603 --> 00:33:05,607 今 私は営業部の部長で 330 00:33:05,607 --> 00:33:10,612 内田は総務部の係長。 331 00:33:10,612 --> 00:33:16,618 私の方が出世はしましたが でも どっちが幸せかっていったら 332 00:33:16,618 --> 00:33:20,622 圧倒的に内田の方なんですよ。 333 00:33:20,622 --> 00:33:22,624 それは なぜですか? 334 00:33:22,624 --> 00:33:29,624 それ感じたのは 10年くらい前に やつの家に行ったときだったかな。 335 00:33:31,633 --> 00:33:36,638 もうね 私は家庭を犠牲にして 336 00:33:36,638 --> 00:33:42,644 会社のために働く 猛烈社員だったんですよ。 337 00:33:42,644 --> 00:33:49,651 そう。 その日も大げんかの末に かみさんは実家に帰って。 338 00:33:49,651 --> 00:33:55,651 私は独りぼっちの休日を 迎えてました。 339 00:33:58,660 --> 00:34:05,600 フフッ そのときにね なぜか内田の顔がふっと浮かんで 340 00:34:05,600 --> 00:34:08,600 会いに行ったんですよ。 ああ。 341 00:34:11,606 --> 00:34:16,606 彼の家は小さな一軒家で。 はい。 342 00:34:18,613 --> 00:34:22,613 あったかい雰囲気に包まれてた。 343 00:34:24,619 --> 00:34:27,622 奥さんの優しい笑顔。 344 00:34:27,622 --> 00:34:30,625 明るい子供たち。 345 00:34:30,625 --> 00:34:34,629 小さな庭の隅に老犬がいて。 ハハッ。 346 00:34:34,629 --> 00:34:39,634 その横に蚊取り線香があったな。 ハハッ。 347 00:34:39,634 --> 00:34:43,634 犬にまで優しくしてるんだと そのとき思いましたよ。 348 00:34:46,641 --> 00:34:49,644 でも…。 349 00:34:49,644 --> 00:35:00,655 でも わが家にも昔は みんな あったものなんです。 350 00:35:00,655 --> 00:35:07,662 それが 少しずつ無くなって。 351 00:35:07,662 --> 00:35:12,662 気が付いたときには すべて無くなってました。 352 00:35:24,679 --> 00:35:31,686 内田は それほど 親しくしてるわけでもないし 353 00:35:31,686 --> 00:35:34,689 困ったときに アドバイスを求めても 354 00:35:34,689 --> 00:35:37,692 何にも答えてくれないし。 355 00:35:37,692 --> 00:35:41,692 話も弾まないし。 356 00:35:45,700 --> 00:35:48,700 でも…。 357 00:35:50,705 --> 00:35:57,712 私にとっては やはり 大切な友人なんです。 358 00:35:57,712 --> 00:36:00,732 ハハッ。 359 00:36:00,732 --> 00:36:05,654 こんなこと 内田の前では 言えませんけどね。 360 00:36:05,654 --> 00:36:08,654 マスターには ちょっと 話したくなっちゃって。 361 00:36:10,659 --> 00:36:12,659 聞いてくれて ありがとう。 362 00:36:20,669 --> 00:36:22,671 野口さん。 363 00:36:22,671 --> 00:36:28,677 マスター冥利に尽きる素敵なお話 ありがとうございます。 364 00:36:28,677 --> 00:36:34,683 そちらにいる 大切な常連客も 同じ思いだと思います。 365 00:36:34,683 --> 00:36:37,686 いい話を ありがとうございます。 366 00:36:37,686 --> 00:36:40,686 いやいや お恥ずかしい。 367 00:36:47,696 --> 00:36:49,698 野口さん どうでしょう? 368 00:36:49,698 --> 00:36:55,704 野口さんの心の友である 内田さんを彷彿とさせる 369 00:36:55,704 --> 00:36:58,707 そういうウイスキー いかがでしょうか? 370 00:36:58,707 --> 00:37:01,643 内田を彷彿? はい。 371 00:37:01,643 --> 00:37:05,643 それは興味があるね。 では。 372 00:37:13,655 --> 00:37:19,661 こちら ブッシュミルズ シングルモルトです。 373 00:37:19,661 --> 00:37:21,663 ブッシュミルズ? はい。 374 00:37:21,663 --> 00:37:25,667 北アイルランドの ブッシュミルズ蒸留所で造られた 375 00:37:25,667 --> 00:37:27,669 アイリッシュ・ウイスキーです。 ふーん。 376 00:37:27,669 --> 00:37:30,672 こちらの蒸留所の誕生は 377 00:37:30,672 --> 00:37:32,674 このラベルにも 書いてありますように 378 00:37:32,674 --> 00:37:39,681 1608年 英国王ジェームズ一世から 酒造りの免許を与えられて 379 00:37:39,681 --> 00:37:41,683 それで始まりました。 380 00:37:41,683 --> 00:37:46,688 1608年… 関ヶ原の合戦が1600年だから 381 00:37:46,688 --> 00:37:48,690 徳川幕府が成立したころだ。 382 00:37:48,690 --> 00:37:53,695 はぁ… ずいぶんと歴史のある 蒸留所なんですね。 383 00:37:53,695 --> 00:37:56,698 はい 文句なく 世界最古の蒸留所です。 384 00:37:56,698 --> 00:37:58,700 へぇ~! 385 00:37:58,700 --> 00:38:02,637 えっ でも これのどこが 内田の酒なんです? 386 00:38:02,637 --> 00:38:07,642 それは 飲んでいただければ分かります。 387 00:38:07,642 --> 00:38:10,645 それは楽しみだな。 388 00:38:10,645 --> 00:38:12,645 はい。 389 00:40:55,677 --> 00:40:57,677 どうぞ。 390 00:41:12,694 --> 00:41:17,699 あ~ ホントだ。 ハハッ。 391 00:41:17,699 --> 00:41:21,703 これはホントに内田の酒だ。 はい。 392 00:41:21,703 --> 00:41:28,710 素朴で 何かこう ひなびた味が 内田とぴったり合ってる。 393 00:41:28,710 --> 00:41:31,713 まるで 私は麦ですって 言ってるみたいですね。 394 00:41:31,713 --> 00:41:35,717 はい。 このウイスキーは スコッチと同じで 395 00:41:35,717 --> 00:41:37,719 麦芽だけを使ってます。 396 00:41:37,719 --> 00:41:39,721 フルーティーな味わいが 飲みやすくて 397 00:41:39,721 --> 00:41:45,721 どこか懐かしい麦の風味を 感じられる お酒ですね。 398 00:41:48,663 --> 00:41:51,666 マスター。 はい。 399 00:41:51,666 --> 00:41:53,668 もう一つ 話したいことがあるんですけど 400 00:41:53,668 --> 00:41:55,670 聞いてくれますか? 401 00:41:55,670 --> 00:41:59,674 ゲストは野口さんと どうでもいい 大切な常連客だけです。 402 00:41:59,674 --> 00:42:02,677 ちょっと! ぜひ聞かせてください。 403 00:42:02,677 --> 00:42:04,677 聞かせてください。 404 00:42:13,688 --> 00:42:15,690 マスター。 はい。 405 00:42:15,690 --> 00:42:18,693 麦踏みって知ってますか? 知ってます。 406 00:42:18,693 --> 00:42:22,697 私の実家が農家だったんですよ。 407 00:42:22,697 --> 00:42:26,701 霜柱で麦の根が土から離れたのを 元に戻すために 408 00:42:26,701 --> 00:42:29,704 麦の芽を踏むんですよね。 ええ。 409 00:42:29,704 --> 00:42:33,708 私の少年時代は 遊びと言ったら 草野球しかなかった。 410 00:42:33,708 --> 00:42:35,710 もう限られた空き地で やってるから 411 00:42:35,710 --> 00:42:38,713 ボールが麦畑に入り込む。 412 00:42:38,713 --> 00:42:41,716 ハハッ 分かります。 私も よくやりました。 413 00:42:41,716 --> 00:42:43,718 そんなときに 私たちには 414 00:42:43,718 --> 00:42:46,654 麦畑に入ったボールを取るための 決まりがあったんですよ。 415 00:42:46,654 --> 00:42:52,660 それが こうやって 麦の芽に沿って 必ず こう 416 00:42:52,660 --> 00:42:55,663 麦踏みをしながら ボールを 取るってことだったんですよ。 417 00:42:55,663 --> 00:42:58,666 へぇ~ 畑を荒らさないための 思いやりですかね? 418 00:42:58,666 --> 00:43:01,669 いやいや そんなんじゃないんですよ。 419 00:43:01,669 --> 00:43:05,673 あれは たぶん怒られないための 子供の知恵だったんですね。 420 00:43:05,673 --> 00:43:08,676 なるほど。 421 00:43:08,676 --> 00:43:14,682 いや 野口さん 私も一つ 不思議な話があるんですよ。 422 00:43:14,682 --> 00:43:16,684 えっ 何ですか? 423 00:43:16,684 --> 00:43:19,687 なぜだか 分からないんですけれども 424 00:43:19,687 --> 00:43:23,691 このブッシュミルズを 飲んだお客さまは 皆さま 425 00:43:23,691 --> 00:43:26,694 少年時代の思い出を語るんですよ。 426 00:43:26,694 --> 00:43:30,698 へぇ~ 何でですかね? 427 00:43:30,698 --> 00:43:36,704 さあ… 焦がした麦の味のせい なんでしょうかね? 428 00:43:36,704 --> 00:43:40,708 ああ… そういえば 429 00:43:40,708 --> 00:43:46,647 これ飲んだことがないのに 何か懐かしい味がしたな。 430 00:43:46,647 --> 00:43:52,653 こう 昔はあったのに 今はもう 無くなってしまった日本の心。 431 00:43:52,653 --> 00:43:54,655 はい。 432 00:43:54,655 --> 00:43:57,658 そういうのを 呼び起こす酒なんですかね? 433 00:43:57,658 --> 00:43:59,658 そうかもしれませんね。 434 00:44:04,665 --> 00:44:08,669 マスター。 はい。 435 00:44:08,669 --> 00:44:11,672 今度 内田にも これを飲ませたいな。 436 00:44:11,672 --> 00:44:14,675 はい。 437 00:44:14,675 --> 00:44:20,681 内田とも そんな話ができるのかな。 438 00:44:20,681 --> 00:44:24,685 ぜひ お二人でいらしてください。 439 00:44:24,685 --> 00:44:26,685 ええ。 440 00:44:53,648 --> 00:44:56,651 いらっしゃいませ。 やあ マスター。 441 00:44:56,651 --> 00:44:58,651 いらっしゃいませ。 どうも。 442 00:45:04,659 --> 00:45:07,662 今日は 飲んでもらいたい酒があるんだ。 443 00:45:07,662 --> 00:45:09,664 うん? 444 00:45:09,664 --> 00:45:11,666 マスター。 はい。 445 00:45:11,666 --> 00:45:14,666 内田の酒をください。 かしこまりました。 446 00:45:16,671 --> 00:45:19,674 俺の酒? 447 00:45:19,674 --> 00:45:25,680 こちら ブッシュミルズ シングルモルトです。 448 00:45:25,680 --> 00:45:27,682 (内田)ブッシュミルズ? はい。 449 00:45:27,682 --> 00:45:30,685 何で これが俺の酒なんだ? 450 00:45:30,685 --> 00:45:33,688 いいから飲んでみろよ。 なかなか うまいぞ。 451 00:45:33,688 --> 00:45:35,688 ああ。 452 00:45:47,635 --> 00:45:49,635 どうぞ。 どうも。 453 00:45:51,639 --> 00:45:53,639 どうぞ。 454 00:46:01,649 --> 00:46:04,652 どうだ? ああ。 455 00:46:04,652 --> 00:46:07,655 ストレートは苦手なんだが これは うまいな。 456 00:46:07,655 --> 00:46:09,655 だろう? 457 00:46:14,662 --> 00:46:19,667 そういえば あれは小学校のころだったな。 458 00:46:19,667 --> 00:46:22,667 クワの実が食べたくてな。 459 00:46:25,673 --> 00:46:28,676 あれは うまかった。 460 00:46:28,676 --> 00:46:32,680 いや 俺は食べたことないな。 461 00:46:32,680 --> 00:46:34,682 胃腸が弱かった俺は 462 00:46:34,682 --> 00:46:37,685 おなかを壊すから クワの実は食べちゃ駄目だと 463 00:46:37,685 --> 00:46:42,690 親からきつく止められてたんだ。 464 00:46:42,690 --> 00:46:44,709 クワの実は色素が強くてな。 465 00:46:44,709 --> 00:46:49,630 普通に食べると 唇が紫色に染まるんだよ。 466 00:46:49,630 --> 00:46:52,633 それを 親にバレないように食べるには 467 00:46:52,633 --> 00:46:54,633 こうやって…。 468 00:46:58,639 --> 00:47:00,641 口を大きく開けて 469 00:47:00,641 --> 00:47:03,644 唇に触れないよう 注意深く食べるんだよ。 470 00:47:03,644 --> 00:47:05,646 へぇ~。 471 00:47:05,646 --> 00:47:09,650 いや あのときのクワの実は 実に うまかった。 472 00:47:09,650 --> 00:47:13,654 お前から子供のころの話を 聞くなんて初めてだな。 473 00:47:13,654 --> 00:47:16,657 フフッ お前にも そんな少年時代があったんだ。 474 00:47:16,657 --> 00:47:19,660 当たり前だろ。 475 00:47:19,660 --> 00:47:22,663 やっぱりだ。 やっぱりだったねマスター。 476 00:47:22,663 --> 00:47:24,665 そうですね。 (野口)ありがとう。 477 00:47:24,665 --> 00:47:28,669 何の話だ? 478 00:47:28,669 --> 00:47:33,674 このブッシュミルズ シングルモルトを飲まれたお客さまは 479 00:47:33,674 --> 00:47:41,682 必ず少年時代のお話をするという 不思議なお酒なんですよ。 480 00:47:41,682 --> 00:47:43,684 そうだったんですか。 はい。 481 00:47:43,684 --> 00:47:47,622 確かに これを飲むと 麦の香りが ふわ~っとして 482 00:47:47,622 --> 00:47:51,626 何か不思議と 懐かしい気持ちになりましたよ。 483 00:47:51,626 --> 00:47:54,629 確かにそうだ。 484 00:47:54,629 --> 00:48:00,635 まるで これの中に 心のオアシスが隠れてるようだよ。 485 00:48:00,635 --> 00:48:04,639 だから俺は 内田の酒って言ったんだ。 486 00:48:04,639 --> 00:48:06,641 どういう意味だ? 487 00:48:06,641 --> 00:48:09,644 それは 内田 488 00:48:09,644 --> 00:48:15,644 お前が心のオアシスを いつも 変わらず持ち続けてるからだよ。 489 00:48:18,653 --> 00:48:25,660 内田 これからも一緒に 飲んでくれ。 490 00:48:25,660 --> 00:48:29,664 何を言う。 491 00:48:29,664 --> 00:48:33,668 誘ってくれるのは お前だけなんだ。 492 00:48:33,668 --> 00:48:36,671 だったら お前からも誘えよ。 493 00:48:36,671 --> 00:48:39,674 だって いつも 忙しそうにしてるじゃないか。 494 00:48:39,674 --> 00:48:41,674 そう見えるだけだよ! 495 00:48:48,616 --> 00:48:50,618 (メガネさん)あの人たち 変わってるな。 496 00:48:50,618 --> 00:48:54,622 どういう関係なんだ? …と言うと? 497 00:48:54,622 --> 00:48:58,626 ここに来てから ずっと しゃべりっぱなしだ。 498 00:48:58,626 --> 00:49:05,633 いい年して あんな関係 築けるなんて珍しい。 499 00:49:05,633 --> 00:49:08,636 ホント そうだよね。 500 00:49:08,636 --> 00:49:15,643 だけど 内田 同じ酒をさ 一緒に飲むなんて 501 00:49:15,643 --> 00:49:17,645 初めてだ それこそ。 ホントだな。 502 00:49:17,645 --> 00:49:22,650 (野口)30年間 付き合ってて お前 こんなの初めてだな。 503 00:49:22,650 --> 00:49:24,650 こういうのも いいもんだな。 504 00:49:31,659 --> 00:49:34,662 今夜も BARレモンハートに お越しいただき 505 00:49:34,662 --> 00:49:36,664 ありがとうございました。 506 00:49:36,664 --> 00:49:41,669 では 今夜 登場したお酒を あらためてご紹介いたします。 507 00:49:41,669 --> 00:49:44,688 まずは…。 508 00:49:44,688 --> 00:49:49,610 フランス南西部で 最高級 アルマニャックを産出する 509 00:49:49,610 --> 00:49:56,617 バ・アルマニャック ノガロ地区の名門 ラフォンタン社の ブランデーです。 510 00:49:56,617 --> 00:50:00,621 通常 ブレンドして造られる ブランデーの中で 511 00:50:00,621 --> 00:50:05,626 単一年度のビンテージを誇り 200ミリリットルの小さなボトルに 512 00:50:05,626 --> 00:50:10,631 一瓶ずつ 手作業で 瓶詰めされています。 513 00:50:10,631 --> 00:50:15,636 熟成した 軟らかい口当たりと オレンジのような香りに 514 00:50:15,636 --> 00:50:19,640 ほのかに加わる スモーキーな樽香。 515 00:50:19,640 --> 00:50:25,646 アルマニャックらしい 力強さを ご堪能ください。 516 00:50:25,646 --> 00:50:27,646 続いては…。 517 00:50:29,650 --> 00:50:33,654 1608年 北アイルランドで誕生した 518 00:50:33,654 --> 00:50:38,659 世界最古のウイスキー蒸留所 ブッシュミルズ蒸留所で造られる 519 00:50:38,659 --> 00:50:41,662 アイリッシュ・ウイスキーです。 520 00:50:41,662 --> 00:50:44,665 大麦麦芽のみを使い 521 00:50:44,665 --> 00:50:48,669 3回蒸留させるという アイリッシュ伝統の製法により 522 00:50:48,669 --> 00:50:53,674 まろやかで優しい口当たりに 仕上がっています。 523 00:50:53,674 --> 00:50:56,677 どこか懐かしい麦の風味と 524 00:50:56,677 --> 00:51:03,684 口中に広がるフルーティーな味わいを ぜひお楽しみください。 525 00:51:03,684 --> 00:51:06,687 では また次回。 526 00:51:06,687 --> 00:51:09,687 BARレモンハートで お待ちしております。 527 00:52:01,675 --> 00:52:03,677 店に現れた 怪しげな男。 528 00:52:03,677 --> 00:52:06,680 ちょっと 待たせてもらうよ。 殺し屋だよ 殺し屋。 529 00:52:06,680 --> 00:52:08,682 命だけは 勘弁して! 530 00:52:08,682 --> 00:52:11,682 この男 果たして 敵か? 味方なのか?