1 00:00:05,281 --> 00:00:11,281 大変… 大変 お世話になりました> 2 00:00:32,942 --> 00:00:35,611 <時は幕末 所はお江戸。➡ 3 00:00:35,611 --> 00:00:41,484 メリケン国からの使者 ペルリさんも 来航し うっすら漂う きな臭さ。➡ 4 00:00:41,484 --> 00:00:44,320 しかし そんな時世も どこ吹く風と➡ 5 00:00:44,320 --> 00:00:48,124 お江戸の町は 今日も のんびりとしたご様子。➡ 6 00:00:48,124 --> 00:00:52,995 口さがない町人どもが 何やら噂をしております。➡ 7 00:00:52,995 --> 00:00:55,998 「おめえら 聞いたか? 山王辺りの勤番長屋に➡ 8 00:00:55,998 --> 00:00:59,735 最近 出るってぇ話」。 「出るって何よ?➡ 9 00:00:59,735 --> 00:01:02,471 夜な夜な 気味の悪い泣き声がって?」。➡ 10 00:01:02,471 --> 00:01:05,975 「夜な夜などころか 一日中 泣いてるって話。➡ 11 00:01:05,975 --> 00:01:09,311 もう 3日になると」> 12 00:01:09,311 --> 00:01:11,814 (伴四郎)すずよ…。 13 00:01:11,814 --> 00:01:15,985 はな… はな坊…。 14 00:01:15,985 --> 00:01:21,323 一目… 一目会いたい…。 15 00:01:21,323 --> 00:01:25,323 (平三)いつまで泣いておる 伴四郎! 16 00:01:27,196 --> 00:01:29,198 放っておいて下さい 叔父上! 17 00:01:29,198 --> 00:01:33,903 本日より勤めに出るのだぞ! 放っておけるか! このグズが! 18 00:01:33,903 --> 00:01:37,606 グズで結構! 19 00:01:37,606 --> 00:01:40,509 泣いても国元へは帰れんぞ。 20 00:01:40,509 --> 00:01:42,945 参勤で江戸へ来て まだ3日! 21 00:01:42,945 --> 00:01:44,980 交代で国元へ帰るは来春。 22 00:01:44,980 --> 00:01:48,117 腹をくくり 勤番を全うするのじゃ 伴四郎! 23 00:01:48,117 --> 00:01:50,152 そんな気分にはなれません。 24 00:01:50,152 --> 00:01:53,622 殿様の身なりをととのえるのが 我ら衣紋方の役目。 25 00:01:53,622 --> 00:01:56,292 お主のように だらしなくては…。 26 00:01:56,292 --> 00:02:05,000 ♬~ 27 00:02:05,000 --> 00:02:09,305 (平三)腹へった。 飯は まだか? 28 00:02:09,305 --> 00:02:11,240 (五郎右衛門)ん~? 29 00:02:11,240 --> 00:02:15,177 五郎右衛門 何をしておる? いや 宇治井殿➡ 30 00:02:15,177 --> 00:02:18,981 鯵の干物というのは どちらが表で どちらが裏なんでしょうな。 31 00:02:18,981 --> 00:02:20,916 しょうもない。 32 00:02:20,916 --> 00:02:23,853 そりゃ 開いた身の方を上にして 盛りつけるのだから➡ 33 00:02:23,853 --> 00:02:26,655 身の方が表じゃろ。 しかしですよ➡ 34 00:02:26,655 --> 00:02:30,526 そもそも 海を泳いでる時は この皮の方が表になってる訳で➡ 35 00:02:30,526 --> 00:02:33,762 そこから考えると やはり 皮の方が表なのかと…。 36 00:02:33,762 --> 00:02:36,665 なら それでよい! さっさと焼け! 37 00:02:36,665 --> 00:02:40,536 宇治井殿 鯵の干物というのは 皮と身と どちらから焼くべき…。 38 00:02:40,536 --> 00:02:44,236 好きにせい! 火が通れば食える! 39 00:02:46,108 --> 00:02:50,279 伴四郎は起きましたか? また布団をかぶってしまった。 40 00:02:50,279 --> 00:02:56,085 「すずよ… はなよ…」。 めそめそ めそめそ 気色の悪い。 41 00:02:56,085 --> 00:02:58,285 おい 焦がすなよ。 42 00:03:00,289 --> 00:03:05,794 焦がすなと言ったはずだが。 油断しました。 43 00:03:05,794 --> 00:03:10,966 児玉殿から頂いた上物だぞ。 脂が乗って焦げやすいのでしょう。 44 00:03:10,966 --> 00:03:13,302 あぶる程度で よかったのかもしれませんね。 45 00:03:13,302 --> 00:03:15,337 伴四郎 明日は お前が焼け。 46 00:03:15,337 --> 00:03:18,641 いえ。 私は 料理などした事がありません。 47 00:03:18,641 --> 00:03:21,677 国元では 毎朝 すず…。 48 00:03:21,677 --> 00:03:25,414 すず…。 土間に立つ すずの背中。 49 00:03:25,414 --> 00:03:31,754 時には まだ幼いはな坊を 背負って…。 ああ… 恋しい。 50 00:03:31,754 --> 00:03:36,625 泣くな! あ~ どうして 朝から こんなものを…。 51 00:03:36,625 --> 00:03:38,928 文句があるなら 食べて頂かなくて結構で…。 52 00:03:38,928 --> 00:03:42,431 (2人)頂きます。 53 00:03:42,431 --> 00:03:44,431 頂きます。 54 00:03:50,172 --> 00:03:54,143 五郎右衛門 干物は あと何枚残っておる? 55 00:03:54,143 --> 00:03:58,280 20は あったかと。 20か。 56 00:03:58,280 --> 00:04:04,954 3人で分けるには 切りが悪いな。 よし 私が 8枚引き受けよう。 57 00:04:04,954 --> 00:04:08,254 お前らは 6枚6枚で。 58 00:04:11,727 --> 00:04:14,296 意地汚い。 何だ? 59 00:04:14,296 --> 00:04:17,967 何でも。 60 00:04:17,967 --> 00:04:21,303 <さて 3人の初出仕の日> 61 00:04:21,303 --> 00:04:24,139 叔父上。 シ~。 62 00:04:24,139 --> 00:04:27,810 うちの殿というのは どのようなお方なのでしょう。 63 00:04:27,810 --> 00:04:30,312 切れ者だそうだ。 養子でありながら➡ 64 00:04:30,312 --> 00:04:33,582 先代にも増して 家中を厳しく統率しておられる。 65 00:04:33,582 --> 00:04:36,485 ご家老との衝突も 珍しくないと聞くが➡ 66 00:04:36,485 --> 00:04:40,255 私は ご尊敬申し上げる。 礼儀にも厳しいお方だ。 67 00:04:40,255 --> 00:04:42,191 くれぐれも失礼のないようにな。 68 00:04:42,191 --> 00:04:45,127 鼻つまみ者という事ですな。 69 00:04:45,127 --> 00:04:47,127 シッ。 70 00:04:51,867 --> 00:04:54,603 本日の勤めは やめになった。➡ 71 00:04:54,603 --> 00:04:56,939 下がっていいぞ。 殿は…。 72 00:04:56,939 --> 00:05:00,239 聞こえなかったか? 下がれ。 73 00:05:02,811 --> 00:05:04,813 来いと言ったり下がれと言ったり。 74 00:05:04,813 --> 00:05:06,949 わしらは犬か何かか? 75 00:05:06,949 --> 00:05:10,285 殿も お忙しいお立場です。 しかたがないのでしょう。 76 00:05:10,285 --> 00:05:14,957 お主ら 先に戻っておれ。 わしは ちと 野暮用を思い出した。 77 00:05:14,957 --> 00:05:16,892 はあ…。 78 00:05:16,892 --> 00:05:21,630 では 私は 国学者 小林幹二先生の 私塾に挨拶に。 79 00:05:21,630 --> 00:05:24,967 どうだ 伴四郎。 お主も行くか? これからは勉学の時代だぞ。 80 00:05:24,967 --> 00:05:29,304 いや… 私は ほら まだ 荷解きが済んでおらんので。 81 00:05:29,304 --> 00:05:32,804 さっさと済ませておけよ。 承知しておる。 82 00:05:35,110 --> 00:05:37,112 よし。 83 00:05:37,112 --> 00:05:52,261 ♬~ 84 00:05:52,261 --> 00:05:55,097 要するにじゃ 衣紋方の朝は早い。 85 00:05:55,097 --> 00:05:59,268 朝飯を食う間も惜しんで 殿のお着物をととのえ 支度し➡ 86 00:05:59,268 --> 00:06:02,171 空腹に耐えながら 藩邸へ足を運んでだな…。 87 00:06:02,171 --> 00:06:04,139 はっきり申せ。 要するに➡ 88 00:06:04,139 --> 00:06:07,943 衣紋方の分も 仕出し弁当を 用意しろと そう言いたいのだろ? 89 00:06:07,943 --> 00:06:10,979 卑しい男よ。 卑しい…。 90 00:06:10,979 --> 00:06:13,449 そんな事を 申しておるのではない! 91 00:06:13,449 --> 00:06:17,286 仕出し一つで 我々 衣紋方の気力 体力が充実し➡ 92 00:06:17,286 --> 00:06:20,189 結果 殿のお召し物も バリッと決まると➡ 93 00:06:20,189 --> 00:06:22,958 そう申しておるのじゃ。 同じ事ではないか。 94 00:06:22,958 --> 00:06:26,295 お主 わざわざ それを 言いに来たのか? 卑しい…。 95 00:06:26,295 --> 00:06:30,795 卑しくない! そんな余裕はない。 とっとと帰れ。 96 00:06:33,102 --> 00:06:37,406 (お菊)どうも。 おお ご苦労さまです お菊さん。 97 00:06:37,406 --> 00:06:40,309 いつも ごひいきにして頂き ありがとうございます。 98 00:06:40,309 --> 00:06:42,745 いやいや。 今日も おきれいですね。 99 00:06:42,745 --> 00:06:45,080 あら お上手ね 庄兵衛さん。 100 00:06:45,080 --> 00:06:49,251 (庄兵衛)いや こう見えて わしは 世辞は言わぬ男じゃよ。 101 00:06:49,251 --> 00:06:52,251 本当ですか? ええ。 102 00:06:58,761 --> 00:07:03,265 江戸は華やかな町だ。 103 00:07:03,265 --> 00:07:07,102 (においを嗅ぐ音) 104 00:07:07,102 --> 00:07:11,273 江戸名物 しゃも鍋ねぇ。 105 00:07:11,273 --> 00:07:13,208 (お羽)毎度 ありがとうございました! 106 00:07:13,208 --> 00:07:18,147 娘さん この幟に見合った しゃも鍋を味わえるんでしょうな。 107 00:07:18,147 --> 00:07:22,847 もちろんです。 見て下さい。 関脇目前ですよ。 108 00:07:24,620 --> 00:07:27,656 関脇? (お羽)うちの しゃも鍋は➡ 109 00:07:27,656 --> 00:07:31,426 讃岐の和三盆糖を使って 甘みを出しております。 110 00:07:31,426 --> 00:07:35,426 一味 違いますよ。 ほう~。 111 00:07:41,103 --> 00:07:45,741 はあ… 頂きます。 112 00:07:45,741 --> 00:07:49,611 (お里)えっ? 売り切れ? どうにかならないの? 113 00:07:49,611 --> 00:07:54,249 お里ちゃん ごめん。 しゃも鍋は あちらの注文で最後で…。 114 00:07:54,249 --> 00:07:56,185 えっ? 115 00:07:56,185 --> 00:07:59,485 そっちじゃなくて あっち。 116 00:08:04,760 --> 00:08:08,931 ちょっと おっさん。 ん? 117 00:08:08,931 --> 00:08:13,101 その しゃも鍋 譲っておくれよ。 えっ? 118 00:08:13,101 --> 00:08:17,940 いや しかし これは 私の…。 でも まだ口をつけてないでしょ。 119 00:08:17,940 --> 00:08:21,777 私と同じ まだ誰のものでもないはず。 120 00:08:21,777 --> 00:08:24,813 そんな屁理屈 通る訳あるまい。 121 00:08:24,813 --> 00:08:26,949 ん! 122 00:08:26,949 --> 00:08:31,720 おっさん 聞こえなかった? ちょっと 離せ! 123 00:08:31,720 --> 00:08:34,556 表へ。 124 00:08:34,556 --> 00:08:38,060 どちらの しゃも鍋か はっきりさせましょうか。 125 00:08:38,060 --> 00:08:40,260 何をする! お里ちゃん! 126 00:08:41,897 --> 00:08:44,566 江戸は物騒な町だ。 127 00:08:44,566 --> 00:08:54,076 ♬~ 128 00:08:54,076 --> 00:08:57,112 (2人)しぼり ヨイ ヨイ ヨイ。➡ 129 00:08:57,112 --> 00:09:01,812 ハッ! ホッ! ハッ! ホッ! ハッ! 130 00:09:04,586 --> 00:09:07,586 これで 文句ありませんな。 131 00:09:12,761 --> 00:09:14,696 お待ち! 132 00:09:14,696 --> 00:09:24,940 ♬~ 133 00:09:24,940 --> 00:09:28,610 あちい! あ~。 134 00:09:28,610 --> 00:09:31,380 年寄りは 干物でも 食ってりゃいいのよ。 135 00:09:31,380 --> 00:09:33,315 この小娘が! 136 00:09:33,315 --> 00:09:36,218 あっ ちょちょちょちょ ちょっと おやめなさい! 137 00:09:36,218 --> 00:09:38,153 あれに かなう訳がなかろう。 138 00:09:38,153 --> 00:09:40,389 けがをしても つまらん。 しかし…。 139 00:09:40,389 --> 00:09:43,425 気が収まらんのは 腹が へっているからじゃ。 140 00:09:43,425 --> 00:09:47,125 江戸の名物は ほかにもあるだろう。 141 00:09:53,101 --> 00:09:56,238 (お菊)これは何だい? (与一)殿のお膳です。 142 00:09:56,238 --> 00:10:00,108 見りゃ分かるよ。 随分 食べ残して…。 143 00:10:00,108 --> 00:10:02,911 うちの料理じゃ 殿様は満足しないって➡ 144 00:10:02,911 --> 00:10:05,814 そういう事かね。 145 00:10:05,814 --> 00:10:08,250 亭主を亡くして5年。 146 00:10:08,250 --> 00:10:11,153 仕出し「川原屋」を潰す訳には いくまいと➡ 147 00:10:11,153 --> 00:10:14,122 努力を続けてきたけど➡ 148 00:10:14,122 --> 00:10:20,963 いよいよ 藩邸からのごひいきも これまでとなりましょうね…。 149 00:10:20,963 --> 00:10:23,098 いやいや いやいや お菊さん。 150 00:10:23,098 --> 00:10:26,001 殿は 参勤直後の心労も あるのでしょう。 151 00:10:26,001 --> 00:10:28,270 ほかの者は 誰一人 残しておりませんし➡ 152 00:10:28,270 --> 00:10:30,305 もちろん 私も…。 あっ そう。 153 00:10:30,305 --> 00:10:32,774 じゃあ 明日からも 仕出しは うちから。 154 00:10:32,774 --> 00:10:35,677 もちろん。 これからも よろしくお願いします。 155 00:10:35,677 --> 00:10:39,648 しかし それでは 何の解決にも なっておりませんな。 156 00:10:39,648 --> 00:10:44,786 どなた様? (せきばらい) 私 当藩の衣紋方➡ 157 00:10:44,786 --> 00:10:47,823 宇治井平三と申します。 まだ おったのか。 158 00:10:47,823 --> 00:10:50,292 このまま 殿の食べ残しが続くようでは➡ 159 00:10:50,292 --> 00:10:52,227 仕出し屋の評判に関わります。 160 00:10:52,227 --> 00:10:54,629 品書きの見直しをしてみては いかがでしょう。 161 00:10:54,629 --> 00:10:59,134 品書きを? 私でよければ 知恵をお貸ししますが。 162 00:10:59,134 --> 00:11:03,634 衣紋方のあんたに 何ができんのさ。 フフフフ。 163 00:11:05,640 --> 00:11:10,312 国元にいる時から 江戸のそばは 格別だと聞いておる。 164 00:11:10,312 --> 00:11:14,816 ええ そのようですな。 頂きます。 165 00:11:14,816 --> 00:11:18,320 あちっ。 アハハ! そりゃ そうだろ。 166 00:11:18,320 --> 00:11:20,820 子どもでも分かる。 167 00:11:23,992 --> 00:11:28,330 なるほど。 確かに 汁は うまい。 168 00:11:28,330 --> 00:11:32,200 しかし そばはというと…。 169 00:11:32,200 --> 00:11:34,603 かたい。 170 00:11:34,603 --> 00:11:41,376 うん。 国元では そば粉を 卵でつないで打つのだが➡ 171 00:11:41,376 --> 00:11:43,612 どうやら江戸は違うようだ。 172 00:11:43,612 --> 00:11:49,484 そなたは どちらから? 紀伊は高野藩から。 勤番で江戸に。 173 00:11:49,484 --> 00:11:55,624 ほう~ 奇遇ですな。 私も同じ出です。 174 00:11:55,624 --> 00:12:00,495 お互い国元を離れ 苦労するな。 175 00:12:00,495 --> 00:12:02,798 妻の すずは➡ 176 00:12:02,798 --> 00:12:08,603 そばの汁には 必ず卵を溶いて かきたまにしてくれて…。 177 00:12:08,603 --> 00:12:13,508 そうなれば たかがそばでも ごちそう。 178 00:12:13,508 --> 00:12:21,149 そういう… 気遣いのできる妻なんじゃ…。 179 00:12:21,149 --> 00:12:23,649 何を めそめそと…。 180 00:12:25,487 --> 00:12:28,824 しかし 我々は まだマシ。 181 00:12:28,824 --> 00:12:32,260 こうして熱いそばが すすれるのだからな。 182 00:12:32,260 --> 00:12:36,765 一番の不幸者は 我が藩の殿。 183 00:12:36,765 --> 00:12:42,938 聞いた話では 何を食うにも 毒味役が間に入るらしい。 ああ。 184 00:12:42,938 --> 00:12:45,440 だとしたら せっかくの熱いそばも➡ 185 00:12:45,440 --> 00:12:47,943 口に入る頃には すっかり冷めてしまう。 186 00:12:47,943 --> 00:12:54,716 一日三食 この先も ず~っと 冷めた飯を食い続けるなんて➡ 187 00:12:54,716 --> 00:12:58,216 哀れで惨めではないか。 188 00:13:01,123 --> 00:13:04,793 殿様が 哀れで惨めと。 189 00:13:04,793 --> 00:13:09,131 うん。 あっ。 190 00:13:09,131 --> 00:13:14,803 しかし 高野の殿様は 養子の身分でありながら➡ 191 00:13:14,803 --> 00:13:19,141 堂々と肝の据わった政をすると 評判。 192 00:13:19,141 --> 00:13:22,177 哀れで惨めというのは ちと 言い過ぎかと。 193 00:13:22,177 --> 00:13:25,013 ヘヘッ。 194 00:13:25,013 --> 00:13:28,850 我が殿は… アハハハ! 195 00:13:28,850 --> 00:13:31,550 こんなふうじゃ きっと。 196 00:13:37,926 --> 00:13:42,626 そなた 殿様にお会いした事は? いや まさか。 197 00:13:51,940 --> 00:13:53,875 これは? 198 00:13:53,875 --> 00:13:57,612 野暮用を思い出してしまいました。 199 00:13:57,612 --> 00:14:00,312 これにて御免。 えっ? 200 00:14:04,386 --> 00:14:08,623 そなた お名前は? 酒田伴四郎と申すが。 201 00:14:08,623 --> 00:14:11,923 酒田殿。 では。 202 00:14:17,632 --> 00:14:19,568 よし。 203 00:14:19,568 --> 00:14:22,137 ただいま戻りました。 お~ 五郎右衛門。 204 00:14:22,137 --> 00:14:25,473 いや~ 小林様は さすが江戸の国学者です。 205 00:14:25,473 --> 00:14:28,510 どんな質問を投げても たちまちに答えが返ってくる。 206 00:14:28,510 --> 00:14:30,645 例えば…。 なるほど。 じゃあ わしは これで。 207 00:14:30,645 --> 00:14:33,248 宇治井殿。 208 00:14:33,248 --> 00:14:37,085 干物ですが。 いや あっ これは…。 209 00:14:37,085 --> 00:14:40,922 身が表だそうです。 はあ? 210 00:14:40,922 --> 00:14:45,427 ですから 干物の表 裏の話ですよ。 今朝の。 211 00:14:45,427 --> 00:14:49,598 あ~。 ほう~。 宇治井殿のおっしゃるとおり➡ 212 00:14:49,598 --> 00:14:53,935 開きは身表で盛りつけますので やはり 身が表だそうです。 213 00:14:53,935 --> 00:14:56,771 なるほど。 じゃあ わしは これで。 そして 焼き方ですが➡ 214 00:14:56,771 --> 00:15:01,109 「川は皮から 海は身から」と 申しまして➡ 215 00:15:01,109 --> 00:15:06,615 干物の鯵は海の魚で…。 もう どちらでもよい! 216 00:15:06,615 --> 00:15:09,315 またまた イライラと…。 217 00:15:14,289 --> 00:15:17,325 これは? 鯵の干物です。 218 00:15:17,325 --> 00:15:19,628 見りゃ分かりますよ。 219 00:15:19,628 --> 00:15:22,664 干物なんて 昨日も今日も お出ししてるんだけどねぇ。 220 00:15:22,664 --> 00:15:27,502 いえ これは小田原産の一流品! 脂も よ~く乗っておりますゆえ➡ 221 00:15:27,502 --> 00:15:29,971 油断すると あっという間に焦げます。 222 00:15:29,971 --> 00:15:35,777 焼き過ぎてはいけませんよ。 くれぐれも あぶる程度で。 223 00:15:35,777 --> 00:15:40,248 なら 明日の朝にでも お出ししようかね。 与一。 224 00:15:40,248 --> 00:15:42,183 へい! 225 00:15:42,183 --> 00:15:44,419 これ お願いね。 へい。 226 00:15:44,419 --> 00:15:47,455 いやいや 礼には及びません。 まだ 何にも言ってないよ。 227 00:15:47,455 --> 00:15:50,925 (せきばらい) 私 当藩の衣紋方➡ 228 00:15:50,925 --> 00:15:55,225 宇治井平三と申します。 お忘れなきよう。 229 00:15:59,100 --> 00:16:02,937 おかしいと思ったんだ。 逃げるように出ていったから。 230 00:16:02,937 --> 00:16:08,109 しかし 冷めた飯を食うと 国元が恋しくなる。 231 00:16:08,109 --> 00:16:13,309 すずと はなは 今頃 何を食うておるのか…。 232 00:16:14,883 --> 00:16:16,818 またか。 233 00:16:16,818 --> 00:16:18,818 (平三)戻ったぞ。 234 00:16:22,624 --> 00:16:26,961 何じゃ お主ら 辛気くさいのう。 235 00:16:26,961 --> 00:16:29,297 見てのとおりの わびしい夕げです。 236 00:16:29,297 --> 00:16:31,733 辛気くさいのも しかたないでしょう。 237 00:16:31,733 --> 00:16:37,906 干物は どこへ消えたのか。 干物ごときで 小さい男じゃのう。 238 00:16:37,906 --> 00:16:40,742 小さいとは何です! 大体 宇治井殿が…。 239 00:16:40,742 --> 00:16:45,246 殿に献上してきた。 さすが わしじゃ。 240 00:16:45,246 --> 00:16:48,149 殿に献上などと そう やすやすと…。 241 00:16:48,149 --> 00:16:52,921 できてしまうのが わしじゃ。 さすが わしじゃなぁ。 242 00:16:52,921 --> 00:16:55,824 ちょっとした つてを 見つけたんじゃ。 243 00:16:55,824 --> 00:16:58,727 これで 殿の食欲が戻れば➡ 244 00:16:58,727 --> 00:17:04,632 干物を献上したわしは感謝され 出世の道も開けるってもんじゃ。 245 00:17:04,632 --> 00:17:09,771 お主らの事も引き上げてやる。 楽しみに待っておれよ! 246 00:17:09,771 --> 00:17:13,571 ハハハ! さすが わしじゃ! 247 00:17:17,278 --> 00:17:19,978 (庄兵衛)では お毒味を。 248 00:17:25,019 --> 00:17:27,819 (庄兵衛)お変わり ありませぬか? 249 00:17:30,825 --> 00:17:48,743 ♬~ 250 00:17:48,743 --> 00:17:52,247 また 干物か。 251 00:17:52,247 --> 00:17:55,150 小田原産の上物だそうです。 252 00:17:55,150 --> 00:17:59,587 本日より出仕の衣紋方より 献上がありました。 253 00:17:59,587 --> 00:18:07,328 毎日毎日 冷めた飯しか食えぬ わしは 惨めか…。 254 00:18:07,328 --> 00:18:10,828 はっ? 何でもない。 255 00:18:21,776 --> 00:18:23,776 確かに。 256 00:18:25,647 --> 00:18:29,284 殿 昨日は どちらに いらっしゃったのですか? 257 00:18:29,284 --> 00:18:32,887 勝手な行いは慎んで頂きませんと。 息抜きじゃ。 たまには よかろう。 258 00:18:32,887 --> 00:18:34,887 それでは困ります。 259 00:18:48,236 --> 00:18:53,074 あっ… 痛い! 腹が…。 260 00:18:53,074 --> 00:18:55,009 どうされました? 腹が痛い! 261 00:18:55,009 --> 00:18:58,746 殿! 下っ腹が かき回されておるようじゃ。 262 00:18:58,746 --> 00:19:03,918 殿! いかがなされましたか! 腹… 殿! 263 00:19:03,918 --> 00:19:07,255 もう 下がっていいぞ。 承知しました。 264 00:19:07,255 --> 00:19:10,158 腹が痛い! 腹でございますか? 265 00:19:10,158 --> 00:19:14,762 ああ…。 おい! 誰か おらぬか? 殿が!➡ 266 00:19:14,762 --> 00:19:17,799 殿が! 267 00:19:17,799 --> 00:19:23,799 干物が臭かったと 殿様が そう おっしゃったそうで。 268 00:19:25,473 --> 00:19:28,776 毒味役も おったはずでは? そうなんだが➡ 269 00:19:28,776 --> 00:19:33,381 火の通りがまばらで 生焼けの箇所でもあったんかの。 270 00:19:33,381 --> 00:19:37,218 衣紋方が出しゃばりおって どうするつもりじゃ? 271 00:19:37,218 --> 00:19:40,121 おい 伴四郎。 お前 なんとかしろ。 はっ? 272 00:19:40,121 --> 00:19:43,391 鰻でも何でも 何か精のつくものを 献上するのじゃ。 273 00:19:43,391 --> 00:19:46,227 どうして私が? 我々の干物を盗んだのも➡ 274 00:19:46,227 --> 00:19:49,130 勝手に献上したのも叔父上じゃ…。 うわ~! うるさい! 275 00:19:49,130 --> 00:19:52,100 焦げ付きやすいから 焼き過ぎるなと言ったのは➡ 276 00:19:52,100 --> 00:19:54,903 お前だろ! それは そうですけど…。 277 00:19:54,903 --> 00:19:57,238 責任は うちが取るよ。 278 00:19:57,238 --> 00:20:01,409 干物が腹痛の原因だったとしても 仕出しは うちの仕切り。 279 00:20:01,409 --> 00:20:05,747 衣紋方に 責任を おっつけようなんて筋が違うだろ。 280 00:20:05,747 --> 00:20:08,249 ほら こちらの方も そう言ってますし。 281 00:20:08,249 --> 00:20:11,586 衣紋方ごときが手柄を望むから 事が ややこしくなったのじゃ。 282 00:20:11,586 --> 00:20:14,489 手柄を望んで何が悪い? あ? 283 00:20:14,489 --> 00:20:17,091 藩のため 殿のためにした事を そこまで言われて➡ 284 00:20:17,091 --> 00:20:22,964 黙ってる訳にはいかぬ。 この伴四郎が なんとかしよう。 285 00:20:22,964 --> 00:20:24,964 え~? 286 00:20:30,271 --> 00:20:34,108 ≪殿 お具合は いかがでしょうか。 287 00:20:34,108 --> 00:20:36,608 死にそうじゃ。 288 00:20:40,448 --> 00:20:45,248 哀れで惨めで… 死にそうじゃ。 289 00:20:49,624 --> 00:20:51,659 どうしたもんかのう。 290 00:20:51,659 --> 00:20:56,159 食あたりに鰻なんて食わせたら かえって腹を壊すぞ。 291 00:21:01,235 --> 00:21:03,171 (おなかが鳴る音) 292 00:21:03,171 --> 00:21:07,809 あっ… うう… うっ。 293 00:21:07,809 --> 00:21:11,809 考えてたら こっちまで 腹が痛くなってきた。 294 00:21:25,994 --> 00:21:31,599 はな 母上の言う事を聞いて いい子にしておるのだぞ。 295 00:21:31,599 --> 00:21:33,599 はい。 296 00:21:37,939 --> 00:21:42,777 (すず)伴様 これを。 これは? 297 00:21:42,777 --> 00:21:48,282 勤番中 私の心配事は あなたの食べ過ぎです。 ああ。 298 00:21:48,282 --> 00:21:51,119 食欲があるのは健康の証し。 299 00:21:51,119 --> 00:21:54,455 ですが 食べ過ぎは 禁物ですからね。 300 00:21:54,455 --> 00:21:58,326 薬を入れておくので 何かの時に おのみになって下さい。 301 00:21:58,326 --> 00:22:00,328 ありがとう。 302 00:22:00,328 --> 00:22:03,798 それと 外食ばかりでは ぜいたくです。 303 00:22:03,798 --> 00:22:09,303 節約のため ご自身で 料理される事も覚えて下さいね。 304 00:22:09,303 --> 00:22:11,603 うん… うん。 305 00:22:19,647 --> 00:22:21,683 すずの字だ。 306 00:22:21,683 --> 00:22:33,594 ♬~ 307 00:22:33,594 --> 00:22:37,098 ありがとう すず。 308 00:22:37,098 --> 00:22:42,298 しかし これ 何が何やら…。 309 00:22:45,273 --> 00:22:47,473 (すず)伴様。 310 00:22:57,285 --> 00:22:59,285 すず…。 311 00:23:17,605 --> 00:23:20,975 これだ。 312 00:23:20,975 --> 00:23:34,922 ♬~ 313 00:23:34,922 --> 00:23:39,260 はあ~ いい香りだ。 ほうっとする。 314 00:23:39,260 --> 00:23:51,973 ♬~ 315 00:23:51,973 --> 00:23:55,810 そのまま 肩の力を抜いて下さい。 316 00:23:55,810 --> 00:23:58,946 さつま芋の大きさは なるべく そろえる事。 317 00:23:58,946 --> 00:24:04,452 皮は 厚くむく事。 そうすれば きれいな黄色のお芋になります。 318 00:24:04,452 --> 00:24:08,952 手を切らないように気を付けて。 分かっておる。 319 00:24:11,959 --> 00:24:15,296 次に 熱いほうじ茶で いり米を炊いて下さい。 320 00:24:15,296 --> 00:24:18,966 しばらくしたら お芋を入れます。 321 00:24:18,966 --> 00:24:23,471 お米が きれいに花開くまで じっと待ってね。 322 00:24:23,471 --> 00:24:26,974 待ってる間に薬味を切ります。 323 00:24:26,974 --> 00:24:31,946 生姜に陳皮。 あ~ 駄目駄目。 それじゃ 大きすぎ。 324 00:24:31,946 --> 00:24:34,146 これも愛嬌。 325 00:24:39,253 --> 00:24:41,253 出来た。 326 00:24:49,764 --> 00:24:54,264 いい香り。 本当だな すず。 327 00:24:56,270 --> 00:24:58,773 お… お菊さん。 328 00:24:58,773 --> 00:25:01,809 それは? 茶粥です。 329 00:25:01,809 --> 00:25:06,447 酒酔いの朝も腹痛の時も これなら するっと食える。 330 00:25:06,447 --> 00:25:09,951 国元では よく 妻が作ってくれました。 331 00:25:09,951 --> 00:25:12,286 それが すずさん? 332 00:25:12,286 --> 00:25:16,157 失礼しました。 声が似ていたもので。 333 00:25:16,157 --> 00:25:21,157 私と? はい。 優しい声が。 334 00:25:23,998 --> 00:25:28,302 おっ。 ほほう~ 茶粥か。 335 00:25:28,302 --> 00:25:31,138 これを 殿に。 336 00:25:31,138 --> 00:25:34,138 (庄兵衛)では お毒味を。 337 00:25:35,910 --> 00:25:37,845 毒味など必要ない! 338 00:25:37,845 --> 00:25:40,248 いえ 殿 そういう訳にはいきません。 339 00:25:40,248 --> 00:25:44,118 何が毒味じゃ。 結局 わしは腹を壊した。 340 00:25:44,118 --> 00:25:47,121 お主らの毒味が 役に立ってない証拠ではないか。 341 00:25:47,121 --> 00:25:50,892 ですが…。 あっ… あちい! 342 00:25:50,892 --> 00:25:53,761 はっ! 343 00:25:53,761 --> 00:25:57,298 ふるさとを思い出すなぁ。 344 00:25:57,298 --> 00:26:01,098 頂きましょう。 (一同)頂きます。 345 00:26:12,280 --> 00:26:33,567 ♬~ 346 00:26:33,567 --> 00:26:35,503 うん! フフフ。 347 00:26:35,503 --> 00:26:49,050 ♬~ 348 00:26:49,050 --> 00:26:54,422 うまい粥じゃ。 お代わり。 はっ。 349 00:26:54,422 --> 00:26:57,258 おいしい。 350 00:26:57,258 --> 00:27:04,765 ♬~ 351 00:27:04,765 --> 00:27:10,638 (笑い声) 352 00:27:10,638 --> 00:27:13,474 誰が作った粥じゃ? 353 00:27:13,474 --> 00:27:16,110 え~ え~っと…。 354 00:27:16,110 --> 00:27:19,947 分かる者はおるか? はっ。 355 00:27:19,947 --> 00:27:21,882 お主か? あ いやいや いやいや。 356 00:27:21,882 --> 00:27:27,121 作りましたのは 衣紋方の 酒田伴四郎という男でして。 357 00:27:27,121 --> 00:27:32,321 衣紋方の酒田伴四郎。 358 00:27:37,231 --> 00:27:41,531 では すぐに その酒田を呼べ。 359 00:27:43,104 --> 00:27:45,104 ごちそうさまでした。 360 00:27:53,247 --> 00:27:55,247 (襖が開く音) 361 00:28:00,988 --> 00:28:03,188 面を上げよ。 362 00:28:04,859 --> 00:28:07,059 は… はっ。 363 00:28:11,098 --> 00:28:13,298 また会ったな。 364 00:28:17,605 --> 00:28:20,605 忘れたとは言わせんぞ。 365 00:28:28,949 --> 00:28:35,756 我が殿は こんなふうじゃ きっと。 殿様が 哀れで惨めと。 366 00:28:35,756 --> 00:28:42,229 ♬~ 367 00:28:42,229 --> 00:28:44,265 ああ~っ! 368 00:28:44,265 --> 00:28:51,739 わしが 哀れで惨めな殿様じゃ。 369 00:28:51,739 --> 00:28:55,910 「拝啓 すず殿 はな坊。➡ 370 00:28:55,910 --> 00:28:58,813 江戸は 恐ろしい町です。➡ 371 00:28:58,813 --> 00:29:04,919 このままでは 生きて国元には 帰れぬやもしれません」。 372 00:29:04,919 --> 00:29:08,589 ♬~ 373 00:29:08,589 --> 00:29:16,263 ♬~ 374 00:29:16,263 --> 00:29:20,768 ♬~ 375 00:29:20,768 --> 00:29:28,268 ♬~ 376 00:30:33,774 --> 00:30:40,774 月を目指した その宇宙船は 不吉な数字を運命づけられていた。 377 00:30:45,953 --> 00:30:49,953 打ち上げ時刻は… 378 00:30:51,625 --> 00:30:55,625 そして 打ち上げから3日目の…