1 00:00:01,201 --> 00:00:29,396 ♬~ 2 00:00:33,667 --> 00:00:36,637 それ 何ですか? 草刈さん。 3 00:00:36,637 --> 00:00:40,107 え? これね 根付っていうんですよ。 4 00:00:40,107 --> 00:00:42,409 さっき 押し入れで見つけました。 5 00:00:44,511 --> 00:00:49,783 根付って 帯に提げ物をする時に使う 留め具の? 6 00:00:49,783 --> 00:00:55,589 そうそう… 今日ちょうどね 和服を着る用事がありましてね。 7 00:00:55,589 --> 00:00:59,593 さて どれにしますか。 8 00:01:02,362 --> 00:01:06,233 あれ? それ 草刈さん そっくり! 9 00:01:06,233 --> 00:01:10,904 え? これ… ちょっと これ のん気な顔してない? 10 00:01:10,904 --> 00:01:13,674 僕って もっと キリッとしてるでしょ。 11 00:01:13,674 --> 00:01:17,844 そうですか? よく似てると思いますよ。 12 00:01:17,844 --> 00:01:20,447 え? そうかな これ。 13 00:01:22,449 --> 00:01:24,952 こっちのほうが すてきだな。 14 00:01:24,952 --> 00:01:26,954 これに しよう。 15 00:01:36,029 --> 00:01:40,500 その姿は小さく精巧な作り。 16 00:01:40,500 --> 00:01:45,339 独特の存在感を放つ「根付」。 17 00:01:45,339 --> 00:01:47,341 置物ではありません。 18 00:01:47,341 --> 00:01:52,946 江戸時代 庶民から将軍まで愛用した 「実用品」です。 19 00:01:59,620 --> 00:02:02,022 どう使うかというと…。 20 00:02:04,124 --> 00:02:07,627 印籠や巾着などに取り付けて。 21 00:02:14,568 --> 00:02:21,174 こんなふうに帯に挟み 小物を持ち歩くことができる留め具です。 22 00:02:30,650 --> 00:02:34,755 ポケットがなくても おしゃれに持ち歩けますね。 23 00:02:43,864 --> 00:02:51,571 さまざまに趣向を凝らしたデザインで 江戸の小粋な人々の間で大流行しました。 24 00:02:55,475 --> 00:03:00,247 素材には動物の牙や角➡ 25 00:03:00,247 --> 00:03:04,751 黄楊など 貴重で多様な材料が使われています。 26 00:03:10,223 --> 00:03:17,230 根付は今や 高い芸術性が評価され 世界中で人気を博しています。 27 00:03:19,566 --> 00:03:23,770 根付の どんなところに 人は魅了されるのでしょう? 28 00:03:29,776 --> 00:03:34,881 今日は 手のひらで めでる 江戸の粋を堪能します。 29 00:03:51,098 --> 00:04:02,175 ♬~(出ばやし) 30 00:04:02,175 --> 00:04:05,979 落語家の古今亭文菊さんです。 31 00:04:08,448 --> 00:04:11,751 (拍手) 32 00:04:11,751 --> 00:04:14,187 え~ ありがとう存じます。 33 00:04:14,187 --> 00:04:19,760 え~ 落語というものは本当に こう ばかばかしいもんで。 34 00:04:19,760 --> 00:04:24,164 文菊さんは根付を愛用しています。 35 00:04:26,833 --> 00:04:33,974 ふだんは この懐中時計に付いてまして。 36 00:04:33,974 --> 00:04:42,682 高座へ上がる前に 懐中時計を帯の中に入れまして。 37 00:04:42,682 --> 00:04:51,525 で 根付が ちょうど 帯の この上に乗っかるイメージ。 38 00:04:51,525 --> 00:04:54,127 いいあんばいかなと思ってますが。 39 00:04:56,796 --> 00:05:00,333 高座に上がる際は このスタイル。 40 00:05:00,333 --> 00:05:03,637 時計と根付は いつも一緒です。 41 00:05:13,313 --> 00:05:17,017 江戸っ子たちの滑稽話が多い落語。 42 00:05:17,017 --> 00:05:23,423 当時 作られた根付を そばに置いて 話すなんて 何だか心強いですね。 43 00:05:26,760 --> 00:05:35,068 文菊さんは たまたま 人から贈られたのが きっかけで 根付を集め始めました。 44 00:05:35,068 --> 00:05:38,171 お気に入りを見せていただきましょう。 45 00:05:40,841 --> 00:05:44,644 人の形をしたものが お好きなんだそう。 46 00:06:26,219 --> 00:06:31,458 文菊さんは 時を超えて手元にやって来た 根付との出会いを➡ 47 00:06:31,458 --> 00:06:34,261 特別なことだと考えています。 48 00:06:51,444 --> 00:06:56,549 さらりと持ち運ぶ 思い入れ たっぷりの根付。 49 00:07:00,153 --> 00:07:02,555 今日 最初のツボは… 50 00:07:13,300 --> 00:07:17,704 江戸時代後期に建てられたとされる 武家屋敷。 51 00:07:20,040 --> 00:07:24,644 日本最大の根付専門美術館です。 52 00:07:30,350 --> 00:07:37,257 江戸から現代のものまで 常時400点ほどの 根付が展示されています。 53 00:07:47,334 --> 00:07:53,640 こちらは江戸時代後期に作られた 根付「龍宮」。 54 00:07:58,945 --> 00:08:03,116 龍宮城を取り巻く波や魚。 55 00:08:03,116 --> 00:08:08,521 荒々しい海の情景が 透かし彫りの手法で 表現されています。 56 00:08:15,762 --> 00:08:20,166 ぐるりと広がる海の底の世界。 57 00:08:27,374 --> 00:08:32,278 あっ 何やら逆さまになった人影が…。 58 00:08:35,915 --> 00:08:40,220 玉手箱を持った浦島太郎でした。 59 00:08:40,220 --> 00:08:42,655 側面も見逃し注意。 60 00:08:42,655 --> 00:08:48,361 実は これが身につけるアート 根付ならではの見どころです。 61 00:09:23,296 --> 00:09:29,102 顔を隠した女性 恥ずかしいのかと思いきや…。 62 00:09:29,102 --> 00:09:34,507 着物の下に隠されていたのは いないいないばあ! 63 00:09:39,879 --> 00:09:46,519 表と裏を通して 女性の心の内側が コミカルに伝わってきます。 64 00:09:46,519 --> 00:09:49,122 それにしても怖い! 65 00:09:54,093 --> 00:10:01,801 いつも身につけ 持ち歩くものだからこそ どこから見ても楽しい根付。 66 00:10:06,573 --> 00:10:11,578 そんな相棒を連れて町を歩くなんて 粋ですね。 67 00:10:24,557 --> 00:10:28,361 え~ どこ行っちゃったのかな。 68 00:10:28,361 --> 00:10:31,664 あれ? 何これ。 69 00:10:31,664 --> 00:10:34,300 どうしました? え? 70 00:10:34,300 --> 00:10:37,904 いや 僕に似ている根付が なくなっちゃったから捜してたら➡ 71 00:10:37,904 --> 00:10:40,573 ポーズ変わっちゃってるの。 72 00:10:40,573 --> 00:10:45,445 ひょっとして 選ばなかったから 気を悪くしたとか? 73 00:10:45,445 --> 00:10:48,882 のんきな顔とも言ってたし。 74 00:10:48,882 --> 00:10:52,685 え? そんな… 超常現象じゃあるまいし。 75 00:10:52,685 --> 00:10:58,791 ほら 丹念に作られたものには 魂が宿るって よく言うでしょ。 76 00:10:58,791 --> 00:11:00,793 そんなこと…。 77 00:11:22,448 --> 00:11:28,254 根付の収集 研究をしている 中野将志さんです。 78 00:11:28,254 --> 00:11:32,358 ユニークな方法で根付を楽しんでいます。 79 00:11:43,703 --> 00:11:50,476 レモンティーが描かれた現代アートを 見上げるように飾ったのは➡ 80 00:11:50,476 --> 00:11:55,281 江戸時代中期に作られた麒麟の根付。 81 00:12:02,088 --> 00:12:06,192 こだわりのレイアウトだそうですが その心は? 82 00:12:19,372 --> 00:12:22,775 もう少し 頑張れ 麒麟! 83 00:12:25,979 --> 00:12:30,583 一つ一つの根付が 全く異なる作風を持つことに➡ 84 00:12:30,583 --> 00:12:33,686 中野さんは魅力を感じています。 85 00:12:37,190 --> 00:12:42,962 好きなタイプは やっぱり 動物が すごい 私は好きで➡ 86 00:12:42,962 --> 00:12:48,368 いろんなキャラクターに 姿に幅があるというか。 87 00:12:48,368 --> 00:12:54,807 すごい実写的なものから すごい デフォルメされてるものまである中で➡ 88 00:12:54,807 --> 00:12:59,212 本当に作者が どうにか個性を出して 必死に悩んで➡ 89 00:12:59,212 --> 00:13:04,017 この形にしたんだろうなっていうものが 結構 好きですね。 90 00:13:05,618 --> 00:13:13,826 こちらは幕末から明治時代に活躍した 根付師 懐玉斎正次の作品。 91 00:13:15,662 --> 00:13:23,970 毛の一本一本が柔らかく繊細に表現され 思わず なでたくなるような うさぎです。 92 00:13:35,381 --> 00:13:43,790 一方 こちらは江戸後期に活躍した友一の 「ふくら雀」と呼ばれる作品。 93 00:13:46,459 --> 00:13:51,698 短い翼に つぶらな瞳と 小さなくちばし。 94 00:13:51,698 --> 00:13:55,201 まるで現代の ゆるキャラのようです。 95 00:14:02,341 --> 00:14:06,946 作者によって 千差万別の作風。 96 00:14:09,882 --> 00:14:14,487 その理由を中野さんは こう想像します。 97 00:14:17,957 --> 00:14:20,660 みんな おしゃれしてたんじゃないかと 思いますね。 98 00:14:43,883 --> 00:14:48,988 江戸のしゃれ心が磨き上げた根付の文化。 99 00:15:01,033 --> 00:15:03,636 今日 二つ目のツボは… 100 00:15:18,217 --> 00:15:21,053 これ 何だと思いますか? 101 00:15:21,053 --> 00:15:24,056 木の実のようにも見えますが…。 102 00:15:25,658 --> 00:15:32,165 ぱかりと開くと 中には囲碁を打つ2人組が。 103 00:15:34,133 --> 00:15:38,838 仕事をさぼって 隠れて遊んでいるのでしょうか? 104 00:15:47,780 --> 00:15:51,284 「からくり根付」は遊び心満載。 105 00:15:53,152 --> 00:15:58,958 手のひらサイズのおもちゃのように 親しまれる根付も登場しました。 106 00:16:07,800 --> 00:16:13,406 しかし明治になり 日本人の装いが洋服に変わったことで➡ 107 00:16:13,406 --> 00:16:17,510 根付は急速に忘れられてゆきます。 108 00:16:25,818 --> 00:16:32,425 一方 西洋では根付に アートとしての価値が見いだされます。 109 00:16:37,930 --> 00:16:46,939 19世紀後半から活発に研究 売買が行われ 書籍も次々と出版されていきます。 110 00:16:53,412 --> 00:16:57,216 現代でも 海外での人気は根強く➡ 111 00:16:57,216 --> 00:17:02,722 オークションでは なんと 3,000万円の値が付くことも。 112 00:17:07,827 --> 00:17:13,933 一体 根付の何が 世界の人の心を ひきつけているのでしょうか? 113 00:17:17,303 --> 00:17:23,609 海外の方が この根付に興味を持たれる 最大の理由は… 114 00:17:26,979 --> 00:17:28,981 そのことだと思うんです。 115 00:17:41,494 --> 00:17:48,801 根付は触っていくうち 細工が すり減り まろやかな手触りになっていきます。 116 00:17:52,138 --> 00:17:56,042 これを「なれ」と呼びます。 117 00:17:56,042 --> 00:18:01,948 「なれ」のある根付は 海外のコレクターが 求めてやまない特長です。 118 00:18:24,737 --> 00:18:30,743 持ち主が愛情を注ぐと どんどん美しく変化する。 119 00:18:35,247 --> 00:18:40,419 世界で たった一つの 手のひらの芸術品。 120 00:18:40,419 --> 00:18:44,423 育てる喜びも 根付のだいご味です。 121 00:18:56,969 --> 00:19:01,707 あ! ここに何か彫られてあるよ。 122 00:19:01,707 --> 00:19:06,212 何? く・さ・か・り。 123 00:19:06,212 --> 00:19:09,115 え? 草刈? 124 00:19:11,050 --> 00:19:14,053 えっ…てことは…。 125 00:19:15,955 --> 00:19:22,528 あ~ 僕のご先祖様が 家族をモデルにして 彫ったものかもしれない。 126 00:19:22,528 --> 00:19:24,730 ありえますね。 127 00:19:27,299 --> 00:19:31,070 そう思うと さっきの のん気な顔も➡ 128 00:19:31,070 --> 00:19:35,341 愛情をいっぱいに注がれて彫られた顔 だったのかもしれない。 129 00:19:35,341 --> 00:19:38,244 いろんな持ち主に愛されて どんどん どんどん➡ 130 00:19:38,244 --> 00:19:41,347 このゆる~い顔に なったのかもしれない。 131 00:19:44,116 --> 00:19:46,819 僕 ひどいこと言っちゃったかな…。 132 00:20:09,208 --> 00:20:13,512 過去に作られたものだけが 根付ではありません。 133 00:20:17,049 --> 00:20:23,956 根付師の道甫さんは 自分の空想の世界を 根付で表現しています。 134 00:20:26,625 --> 00:20:31,530 こちらは帯に差して使う「差根付」です。 135 00:20:39,105 --> 00:20:45,311 ねずみが 何かをにらみつけているように 見えますが これ一体 何でしょう? 136 00:21:08,667 --> 00:21:15,541 なので このねずみは 自分を模したものになってますね。 137 00:21:15,541 --> 00:21:21,580 何か 追われてる感を出したかったんで いろんな締め切りみたいなのが➡ 138 00:21:21,580 --> 00:21:27,186 こう 「ウオ~」 「来ないで!」 みたいな感じで作ったのが これですね。 139 00:21:31,590 --> 00:21:37,897 独自の発想で 現代の根付のあり方を 模索する道甫さん。 140 00:21:37,897 --> 00:21:43,702 最も重視していることは 根付の「丸み」だといいます。 141 00:21:51,076 --> 00:21:53,512 根付は身につけるものなので➡ 142 00:21:53,512 --> 00:21:58,818 衣服に引っかからないよう 角を丸めることも重要です。 143 00:22:03,155 --> 00:22:08,360 それが根付特有の柔らかい印象を 生み出します。 144 00:22:14,567 --> 00:22:21,974 ミステリアスな雰囲気の作品も丸いと なぜか かわいく見えてきませんか? 145 00:22:39,725 --> 00:22:46,432 数種類の刃とヤスリを使い分けながら 生み出される独特な生き物。 146 00:22:53,806 --> 00:23:00,913 制作時間のおよそ3分の2は この丸みを出す作業に費やされます。 147 00:23:10,256 --> 00:23:16,061 触り心地の良さそうな 緩やかな曲線が生まれました。 148 00:23:18,764 --> 00:23:25,371 奇妙だけど なぜか ぎゅっと握りたくなる 愛らしいタコです。 149 00:23:50,829 --> 00:23:56,035 伝統を受け継ぎながら 常に新しさを求める。 150 00:24:05,744 --> 00:24:08,347 今日 最後のツボは… 151 00:24:20,059 --> 00:24:25,931 人や神が 今にも動きだしそうな 生き生きとした造形。 152 00:24:25,931 --> 00:24:32,338 根付コンテストで何度も受賞歴のある 及川空観さんの作品です。 153 00:24:35,074 --> 00:24:38,777 何だか とってもドラマチック。 154 00:24:44,850 --> 00:24:49,054 根付は ただ単に何か モチーフを 表現してるだけではなくて… 155 00:25:06,605 --> 00:25:09,208 根付「ヴィーナス」。 156 00:25:11,443 --> 00:25:16,048 美しい女神が 帆立て貝に寝そべっています。 157 00:25:19,551 --> 00:25:24,757 でも この作品 ただ美しいだけではありません。 158 00:25:53,085 --> 00:25:59,291 裏側は 帆立て貝の形に沿って 動物が びっしりと彫られ➡ 159 00:25:59,291 --> 00:26:01,727 中央にはドクロ。 160 00:26:01,727 --> 00:26:06,331 表とは一転 不気味な様相です。 161 00:26:11,403 --> 00:26:17,075 ヴィーナスの豊かな髪は 裏側へ伸びるにつれ➡ 162 00:26:17,075 --> 00:26:21,380 おどろおどろしい波へと変わります。 163 00:26:29,555 --> 00:26:35,360 美しいものに内在する 秘められた激しい欲望。 164 00:26:35,360 --> 00:26:39,264 そうした心の二面性を表現しています。 165 00:26:56,081 --> 00:27:04,089 複雑な物語を 小さな根付に込めるために 必要なのは 繊細な技術。 166 00:27:10,062 --> 00:27:15,634 及川さんは左刃と呼ばれる 根付作り専用の道具を➡ 167 00:27:15,634 --> 00:27:19,238 100本ほど自ら作っています。 168 00:27:23,108 --> 00:27:31,717 彫りの細かさによって道具を使い分け 時には幅1ミリ以下の線を彫ることも。 169 00:27:34,720 --> 00:27:37,623 息の詰まるような作業を経て➡ 170 00:27:37,623 --> 00:27:42,828 手のひらサイズの芸術品が 生み出されるのです。 171 00:28:06,418 --> 00:28:09,821 それが たぶん僕の特徴なんだと思います。 172 00:28:12,691 --> 00:28:18,297 小さな根付に込められた壮大な世界。 173 00:28:18,297 --> 00:28:25,604 何百年後も きっと誰かの手のひらの上で 語り継がれていることでしょう。 174 00:28:37,115 --> 00:28:39,117 あっ! 175 00:28:41,320 --> 00:28:43,522 元に戻ってる! 176 00:28:45,924 --> 00:28:48,026 あ~ いい顔だ。 177 00:28:49,795 --> 00:28:52,097 やっぱり これにしよう。