1 00:00:01,235 --> 00:00:29,329 ♬~ 2 00:00:31,999 --> 00:00:35,869 見れば見るほど いい壺だな。 3 00:00:35,869 --> 00:00:37,804 (チャイム) 4 00:00:37,804 --> 00:00:40,607 は~い。 どうぞ! 5 00:00:40,607 --> 00:00:43,977 お邪魔致します。 鑑定に参りました。 6 00:00:43,977 --> 00:00:46,346 あっ どうも。 7 00:00:46,346 --> 00:00:50,083 妻がね この壺を買い替えたいって 言うんですよ。 8 00:00:50,083 --> 00:00:53,620 でも どうも 私 この壺が気に入ってましてね。 9 00:00:53,620 --> 00:00:58,025 あの これ… 値打ちが分かればと思いまして。 10 00:00:58,025 --> 00:01:03,030 失礼しますね。 う~ん どれどれ。 11 00:01:05,232 --> 00:01:09,503 あれ? どこかで お会いしました? 12 00:01:09,503 --> 00:01:13,907 うわっ! あれは紬? 13 00:01:13,907 --> 00:01:16,910 ええ あの… 今 虫干ししてるんです。 14 00:01:22,649 --> 00:01:27,654 土地土地の風土を映す着物 「紬」。 15 00:01:31,692 --> 00:01:38,498 くず繭などを真綿にし 紡いだ糸で 野良着を作ったのが始まりです。 16 00:01:40,334 --> 00:01:44,838 紬とは 染めた絹糸を織った布です。 17 00:01:46,506 --> 00:01:52,012 その技は 農閑期の仕事として 受け継がれてきました。 18 00:01:53,847 --> 00:02:02,055 筑波山の裾野 結城地方では 今も 真綿を手で紡いだ糸が織られています。 19 00:02:07,928 --> 00:02:15,736 奄美大島では 奄美の自然を丸ごと まとう 泥で染めた大島紬。 20 00:02:31,051 --> 00:02:39,459 長野では 希少な天蚕の繭が糸に紡がれ その輝きが紬に生かされています。 21 00:02:49,302 --> 00:02:54,908 今日は 3つの土地の紬の魅力を ご紹介しましょう。 22 00:03:06,720 --> 00:03:10,824 東京・赤坂にあるホテルの庭園。 23 00:03:13,026 --> 00:03:19,166 こちら 本物 古美術鑑定家の中島誠之助さん。 24 00:03:19,166 --> 00:03:22,569 長年 紬を愛用しています。 25 00:04:00,273 --> 00:04:06,279 中島さんの あの常套句も そうした 対話の中から生まれたといいます。 26 00:04:42,716 --> 00:04:48,722 長い間 受け継がれてきた いい仕事 その現場を見てみましょう。 27 00:04:54,194 --> 00:04:59,499 茨城と栃木に またがる 鬼怒川沿いの地域。 28 00:04:59,499 --> 00:05:09,009 鬼怒川は かつて絹の川と呼ばれるほど 両岸には桑畑が広がる一大養蚕地でした。 29 00:05:11,244 --> 00:05:14,981 江戸時代 ぜいたくが禁止された後も➡ 30 00:05:14,981 --> 00:05:21,388 見た目が質素で堅牢な結城紬は 武士や町人に好まれました。 31 00:05:26,359 --> 00:05:32,666 最も愛されたのは その温かな着心地と肌触り。 32 00:05:35,769 --> 00:05:42,075 114年前から結城市で問屋業を営む 奥澤武治さんです。 33 00:05:50,183 --> 00:05:52,285 世界に類を見ない… 34 00:06:21,081 --> 00:06:28,655 繭は一体 姿形をどう変え 紬へと生まれ変わるのでしょうか。 35 00:06:28,655 --> 00:06:32,659 今日 一つ目のツボは… 36 00:06:40,133 --> 00:06:44,437 まず訪ねるのは 糸紡ぎの匠。 37 00:06:48,375 --> 00:06:55,081 この道50年の植野知恵さんは 希代の名人といわれる存在です。 38 00:06:57,484 --> 00:07:05,692 湯の中で繭を一つ一つ ほぐしながら 袋状に裏返し 片手に重ねていきます。 39 00:07:41,761 --> 00:07:46,366 繭を5個分 重ねたら 両手を八の字に動かし➡ 40 00:07:46,366 --> 00:07:50,870 厚さが均一になるよう伸ばしていきます。 41 00:07:56,776 --> 00:08:04,484 袋状にするのは 弾力のある上質な糸を とるための先人の知恵。 42 00:08:09,356 --> 00:08:16,663 「紬」の語源は この真綿から糸を紡ぐ 手作業に由来しています。 43 00:08:19,566 --> 00:08:25,872 乾かした真綿を途切れないよう 植野さんは紡いでいきます。 44 00:08:43,123 --> 00:08:47,927 節は 後に 糸が切れる原因にもなるからです。 45 00:08:50,463 --> 00:08:53,066 唾液は糊の役目。 46 00:08:54,701 --> 00:08:59,539 1着の紬に必要とされる およそ2,000個の繭が➡ 47 00:08:59,539 --> 00:09:05,745 匠の手を経て 1本の糸へと姿を変えます。 48 00:09:09,215 --> 00:09:13,219 その長さ およそ30キロメートル。 49 00:09:13,219 --> 00:09:16,723 3か月ほどの時間を費やします。 50 00:09:21,761 --> 00:09:29,369 結城紬を代表する模様 それは亀の甲羅をかたどった亀甲模様。 51 00:09:31,438 --> 00:09:35,442 六角形の中に十字を描く亀甲模様は➡ 52 00:09:35,442 --> 00:09:39,746 染め分けた糸を織り上げることで 現れます。 53 00:09:42,048 --> 00:09:45,452 「絣」とも呼ばれる この模様。 54 00:09:48,788 --> 00:09:52,492 糸の染め分けにも匠の技が。 55 00:10:03,369 --> 00:10:09,075 模様になる部分は あらかじめ 墨で印が付いています。 56 00:10:11,878 --> 00:10:17,383 その印を寸分たがわず 木綿糸で結んでいきます。 57 00:10:20,653 --> 00:10:23,056 このあとの染める工程で➡ 58 00:10:23,056 --> 00:10:28,661 糸で結んだ部分は染まらずに 模様として残るのです。 59 00:10:51,217 --> 00:10:58,024 1着の紬に くくられる数は 多いもので 10万か所に上ります。 60 00:11:04,197 --> 00:11:11,604 染め分けられた糸を 縦糸 横糸に張り 織り上げると…。 61 00:11:11,604 --> 00:11:15,308 亀甲模様が浮かび上がります。 62 00:11:29,989 --> 00:11:36,596 織り手の腰の微妙な動きで 縦糸の張り具合が変わる地機織。 63 00:11:38,698 --> 00:11:44,804 まさに人機一体となり 糸は布に織り上げられていきます。 64 00:12:10,363 --> 00:12:17,370 いにしえから伝わる手仕事は 世界無形文化遺産にも登録されています。 65 00:12:20,607 --> 00:12:28,214 蚕の恵みを敬い 慈しむ営みが 結城には息づいています。 66 00:12:35,622 --> 00:12:38,524 はあ~ この紬は ご主人の? 67 00:12:38,524 --> 00:12:42,028 いいえ あの… これ あの… 祖父が着ていた紬で➡ 68 00:12:42,028 --> 00:12:45,064 あのね 古くて どうしようかと 思ってたんですよ。 69 00:12:45,064 --> 00:12:49,102 あ~ 何をおっしゃいますか。 もう 実に美しい。 70 00:12:49,102 --> 00:12:52,005 いい仕事してますねえ。 71 00:12:52,005 --> 00:12:54,007 ええ…。 72 00:13:04,250 --> 00:13:09,956 大島紬のふるさと 鹿児島県奄美大島。 73 00:13:11,691 --> 00:13:18,498 西郷隆盛が3年の歳月を過ごした島 としても知られています。 74 00:13:22,268 --> 00:13:28,107 大河ドラマ「西郷どん」の メインテーマを歌った 里アンナさんは➡ 75 00:13:28,107 --> 00:13:31,411 奄美大島で生まれ育ちました。 76 00:13:45,391 --> 00:13:51,197 里さんにとって 大島紬は常に身近にありました。 77 00:14:20,026 --> 00:14:25,631 この日 着ているのも 祖母から受け継いだ大島紬。 78 00:14:47,120 --> 00:14:54,827 泥染めとは 島の泥を染料として 黒く染めた大島紬のこと。 79 00:15:24,891 --> 00:15:32,598 機織りをする祖母の傍らで 祖父に手ほどきを受けた「糸繰り節」。 80 00:15:32,598 --> 00:15:38,805 歌の歴史は 薩摩藩の支配下にあった頃に 遡ると言われています。 81 00:16:04,630 --> 00:16:11,437 江戸時代 大島紬は税として納める 貴重な絹織物でした。 82 00:16:15,975 --> 00:16:22,682 着ることを禁じられていた島民が 持っていた紬を田んぼに隠したところ➡ 83 00:16:22,682 --> 00:16:27,887 黒く染まったのが始まりと 語り継がれています。 84 00:16:42,034 --> 00:16:44,437 今日 二つ目のツボは… 85 00:16:50,476 --> 00:16:56,282 こちらは大島紬の伝統的な柄 龍郷柄の図案。 86 00:16:58,217 --> 00:17:02,455 蘇鉄やハブなどの模様は 点のように細かく➡ 87 00:17:02,455 --> 00:17:06,559 染め分けられた糸がつながり 柄となります。 88 00:17:11,097 --> 00:17:14,700 全て 絹糸で織られる大島紬。 89 00:17:19,805 --> 00:17:27,947 柄を施すには まず白く染め残す部分を 木綿糸で締め込みます。 90 00:17:27,947 --> 00:17:32,051 そうすることで いったん 布状にします。 91 00:17:46,766 --> 00:17:52,572 こうして精緻な柄を出す準備を経て 染めの作業へ。 92 00:17:55,474 --> 00:18:01,280 泥染めは泥の前に もう一つ 自然の力を借ります。 93 00:18:04,183 --> 00:18:09,488 車輪梅と呼ばれる木材から 抽出した液で染めるのです。 94 00:18:33,779 --> 00:18:40,286 木材にするのは 島に自生する 樹齢10年以上の車輪梅。 95 00:18:41,954 --> 00:18:49,762 雨風にさらされ 厳しい環境で育つほど タンニンが多く含まれるといいます。 96 00:18:53,165 --> 00:18:58,371 車輪梅を細かく砕き 2日間 煮出していきます。 97 00:19:10,583 --> 00:19:16,589 1週間 寝かせ 発酵させた抽出液に 布をつけます。 98 00:19:21,293 --> 00:19:26,699 染まり具合を見ながら 何度も繰り返し もみ込みます。 99 00:19:47,787 --> 00:19:51,791 鮮やかな赤土色に染まりました。 100 00:19:54,560 --> 00:19:59,265 そして 切り立った山裾に位置する泥田へ。 101 00:20:00,966 --> 00:20:06,672 肥後さんが 50年来通う この泥田は 鉄分が豊富です。 102 00:20:08,574 --> 00:20:12,878 泥の中に含まれる鉄に タンニンが反応することで➡ 103 00:20:12,878 --> 00:20:16,382 布は黒く変化していきます。 104 00:20:44,543 --> 00:20:49,515 車輪梅と泥に染める 一連の作業を何度も繰り返し➡ 105 00:20:49,515 --> 00:20:54,220 肥後さんは艶のある黒を追い求めます。 106 00:21:09,301 --> 00:21:11,604 清流が泥を流すと➡ 107 00:21:11,604 --> 00:21:17,810 布が命を宿したかのように 漆黒の艶が現れます。 108 00:21:37,196 --> 00:21:41,801 自然と人が織り成した 偶然のたまもの。 109 00:21:44,336 --> 00:21:52,645 大島紬の黒は 島の人々の誇りを象徴する 宝の絹織物です。 110 00:21:58,317 --> 00:22:01,954 着れば着るほど なじむのが紬! 111 00:22:01,954 --> 00:22:05,257 是非お召しになったら いかがですか。 お似合いになるはずです。 112 00:22:05,257 --> 00:22:07,693 では 私は これで。 えっ えっ 先生 あの…。 113 00:22:07,693 --> 00:22:11,564 壺のほうは いかがでしょうか? 是非 高い値段を付けてほしい。 114 00:22:11,564 --> 00:22:16,402 妻に取り替えられたら これ… 困るんですよ。 115 00:22:16,402 --> 00:22:19,772 私の尊敬する先生が おっしゃっていたんですけれどもね➡ 116 00:22:19,772 --> 00:22:24,476 人が「美しい」と言ったものを 「美しい」と言うのは 誰にでもできます。 117 00:22:24,476 --> 00:22:27,947 でも全く分からないものの中から 美を見つけだすという➡ 118 00:22:27,947 --> 00:22:31,483 あなた もう すばらしい。 119 00:22:31,483 --> 00:22:34,687 紬も壺も 大切になさってください。 120 00:22:46,732 --> 00:22:50,936 北アルプスの麓 長野県安曇野には➡ 121 00:22:50,936 --> 00:22:55,341 「絹のダイヤモンド」と呼ばれる糸が あります。 122 00:23:00,613 --> 00:23:06,518 天蚕や山繭と呼ばれる繭から とられた希少な糸。 123 00:23:09,321 --> 00:23:13,926 天然の萌黄色と光沢が特徴です。 124 00:23:19,465 --> 00:23:26,572 日本在来種の天蚕は クヌギの葉を食べ 緑の繭を作ります。 125 00:23:36,248 --> 00:23:40,686 温かく伸縮性に富む天蚕の糸を紡ぎ➡ 126 00:23:40,686 --> 00:23:44,890 農家の人たちは ふだん着に織り込んできました。 127 00:23:53,265 --> 00:24:01,874 北アルプス 有明山の麓のクヌギ林で 天蚕は地域の人たちに守られています。 128 00:24:04,343 --> 00:24:08,314 安曇野で生まれ育った 田口忠志さんにとって➡ 129 00:24:08,314 --> 00:24:12,217 クヌギ林は遊び場でした。 130 00:24:22,394 --> 00:24:29,234 江戸時代 農家の人たちは 保温性と輝きを備えた天蚕を育て➡ 131 00:24:29,234 --> 00:24:34,773 糸をとり 機織りを始めました。 132 00:24:34,773 --> 00:24:44,483 全国的に価値が認められた天蚕の糸は 明治30年代に最盛期を迎えます。 133 00:24:44,483 --> 00:24:50,689 しかし そのさなか 安曇野 穂高の広大な山林が➡ 134 00:24:50,689 --> 00:24:54,994 陸軍の演習地として開墾されます。 135 00:24:54,994 --> 00:24:58,097 天蚕は姿を消しました。 136 00:25:00,566 --> 00:25:08,474 戦後 僅かに残ったクヌギを 育てることから再開した天蚕の糸づくり。 137 00:25:10,843 --> 00:25:18,050 今 田口さんたちは 昔ながらの方法で 天蚕の糸を紡いでいます。 138 00:25:36,802 --> 00:25:45,110 人がクヌギを守り クヌギは萌黄色の糸を育む 豊かな連環。 139 00:25:49,782 --> 00:25:52,184 今日 三つ目のツボは… 140 00:26:00,426 --> 00:26:05,297 天蚕の糸が織り込まれた紬です。 141 00:26:05,297 --> 00:26:12,037 僅かしかできない天蚕の糸は 装飾として使われます。 142 00:26:12,037 --> 00:26:19,945 早朝 藍や あかね色に染まる空にさし昇る 一筋の朝日。 143 00:26:22,448 --> 00:26:25,751 天蚕の糸で表現されています。 144 00:26:32,991 --> 00:26:36,695 睡蓮を思わせる一枚。 145 00:26:36,695 --> 00:26:43,702 ヨモギなど草木染めの糸で織った紬に 天蚕の糸が生かされています。 146 00:27:08,227 --> 00:27:16,635 松本で45年 地元の草木で染めた糸で 紬を織ってきた武井豊子さん。 147 00:27:21,273 --> 00:27:27,279 天蚕が持つ天然の色と輝きを 帯に織り込んでいます。 148 00:27:30,682 --> 00:27:35,387 不思議で神秘に満ちた天蚕の輝き。 149 00:27:41,460 --> 00:27:47,266 縦糸をすくいながら 絵を描くように織り上げていきます。 150 00:27:57,109 --> 00:28:03,215 天蚕の輝きで 川面の澄んだ美しさを表します。 151 00:28:28,373 --> 00:28:34,913 いのちの光を糸に宿し 風景を織る営み。 152 00:28:34,913 --> 00:28:41,219 紬には 自然を敬う 日本人の心が生きています。 153 00:28:44,289 --> 00:28:48,694 確かに こうやって着てみると いいもんですね。 154 00:28:50,395 --> 00:28:54,866 祖父の代から私の代まで ねえ。 155 00:28:54,866 --> 00:28:57,269 いい仕事してますねえ。