1 00:00:36,638 --> 00:00:40,642 ♬~ 2 00:00:40,642 --> 00:00:43,645 (栞子)<古い本の 価値というのは➡ 3 00:00:43,645 --> 00:00:47,649 様々な要素によって 決められています> 4 00:00:47,649 --> 00:00:50,652 <例えば…> 5 00:00:50,652 --> 00:00:53,655 <著者のサインが 入っているというのも➡ 6 00:00:53,655 --> 00:00:56,658 重要な要素の 一つでしょう> 7 00:00:56,658 --> 00:01:00,662 <ただし それが 献呈署名である場合は➡ 8 00:01:00,662 --> 00:01:03,665 価値を 認められないことが 多いようです> 9 00:01:03,665 --> 00:01:05,667 <著者が 本を贈る際に➡ 10 00:01:05,667 --> 00:01:09,671 相手の名前も 記すことを 献呈署名といいます> 11 00:01:09,671 --> 00:01:13,675 <一般的には 贈る相手の名前を 中央に書き➡ 12 00:01:13,675 --> 00:01:17,679 その左下に 自分の名前を 書き添えるものですが> 13 00:01:17,679 --> 00:01:23,685 <なぜか この本は 名前の並びが 逆になっています> 14 00:01:23,685 --> 00:01:28,685 <しかも 文字のバランスも 微妙に悪い気がします> 15 00:01:30,692 --> 00:01:34,692 <これには いったい どんな 理由が あるのでしょうか?> 16 00:01:47,642 --> 00:01:49,644 (大輔)ハァー。 17 00:01:49,644 --> 00:01:54,649 <失敗した。 こんな店に 入るんじゃなかった> 18 00:01:54,649 --> 00:01:56,651 <何なんだよ? この女> 19 00:01:56,651 --> 00:01:59,654 <1冊 査定するだけで 30分以上 たってるぞ> 20 00:01:59,654 --> 00:02:03,658 <全部 終わるまでに いったい 何時間 かかんだよ?> 21 00:02:03,658 --> 00:02:14,658 ♬~ 22 00:02:20,675 --> 00:02:23,678 (大輔)フゥー。 23 00:02:23,678 --> 00:02:28,683 <おいおい おいおい。 まだ 考えてるよ。 嘘だろ> 24 00:02:28,683 --> 00:02:33,622 <あれ? まさか 寝てんじゃないのか?> 25 00:02:33,622 --> 00:02:36,625 <いくら 何でも 客を 放置し過ぎ…> 26 00:02:36,625 --> 00:02:38,625 (大輔)あっ! 27 00:02:47,636 --> 00:03:00,649 ♬~ 28 00:03:00,649 --> 00:03:03,652 (大輔)あっ。➡ 29 00:03:03,652 --> 00:03:06,655 あの。 そのサインが 本物なら➡ 30 00:03:06,655 --> 00:03:11,660 高く売れるかと 思ったんですけど もし 分からないようでしたら➡ 31 00:03:11,660 --> 00:03:13,662 他の店に 持っていきましょうか? (栞子)偽物です。 32 00:03:13,662 --> 00:03:15,664 (大輔)えっ? (栞子)このサインは➡ 33 00:03:15,664 --> 00:03:17,666 夏目 漱石 本人が 書いたものでは ありません。 34 00:03:17,666 --> 00:03:19,668 (栞子)それは 見て すぐに 分かりました。 35 00:03:19,668 --> 00:03:22,671 漱石の没年は 大正 5年で➡ 36 00:03:22,671 --> 00:03:26,675 岩波書店の新書判の 刊行が 始まったのは 昭和 31年。 37 00:03:26,675 --> 00:03:31,696 40年も後のことですから。 (大輔)ああ。 そうですよね。➡ 38 00:03:31,696 --> 00:03:34,616 死んだ人間が サインなんて できるわけ ないですもんね。➡ 39 00:03:34,616 --> 00:03:36,618 それ 中古品ですし きっと 前の持ち主が➡ 40 00:03:36,618 --> 00:03:38,620 いたずらで 書いたんですね。 違うと思います。 41 00:03:38,620 --> 00:03:40,622 (大輔)えっ? おばあさまが➡ 42 00:03:40,622 --> 00:03:44,626 この 『漱石全集』を 購入されたときには➡ 43 00:03:44,626 --> 00:03:47,629 まだ 署名は 書かれていなかったはずです。 44 00:03:47,629 --> 00:03:52,634 (大輔)何で 分かるんですか? そんなこと。 45 00:03:52,634 --> 00:03:54,636 この値札は 古書店で 付けられたものですが➡ 46 00:03:54,636 --> 00:03:56,638 「書き込み あり」という 記載がありません。 47 00:03:56,638 --> 00:03:58,640 書き込み? 48 00:03:58,640 --> 00:04:02,644 古書店では 仕入れがあると まず 本の状態を チェックします。 49 00:04:02,644 --> 00:04:04,646 こんな目立つところに 書き込みがあれば➡ 50 00:04:04,646 --> 00:04:06,648 値札にも そのことを 書くはずなんです。 51 00:04:06,648 --> 00:04:11,653 つまり おばあさまが この全集を 購入されたとき➡ 52 00:04:11,653 --> 00:04:14,656 まだ 署名は なかったと いうことになるんです。 53 00:04:14,656 --> 00:04:18,660 あっ。 なるほどね。 54 00:04:18,660 --> 00:04:20,662 まあ いつ 書かれたにせよ➡ 55 00:04:20,662 --> 00:04:22,664 そのサインは 偽物だったってことですよね。 56 00:04:22,664 --> 00:04:25,667 どうも ありがとうございました。 57 00:04:25,667 --> 00:04:28,670 重要なのは 本物か 偽物かでは ありません。 58 00:04:28,670 --> 00:04:34,609 私が 気になっているのは もっと 別のことなんです。 59 00:04:34,609 --> 00:04:39,614 いや。 あまり お時間を 取らせても 申し訳ないですし。 60 00:04:39,614 --> 00:04:42,614 ホントに もう 結構ですから。 61 00:04:44,619 --> 00:04:47,622 じゃあ 本を 引き取らせていただきますね。 62 00:04:47,622 --> 00:04:50,625 失礼します。 63 00:04:50,625 --> 00:04:54,629 おばあさま。 えっ? 64 00:04:54,629 --> 00:05:00,629 このサインを 書いたのは おばあさまかもしれません。 65 00:05:02,637 --> 00:05:04,637 ばあちゃんが? 66 00:05:07,642 --> 00:05:10,645 いやー。 それは ないな。 67 00:05:10,645 --> 00:05:13,648 だって ばあちゃんは 本を すごく 大事にしてて➡ 68 00:05:13,648 --> 00:05:15,650 家族にも 勝手に触るなって➡ 69 00:05:15,650 --> 00:05:17,652 厳しく言ってたくらいですし。 まさか ばあちゃんが➡ 70 00:05:17,652 --> 00:05:19,654 いたずら書きするはずなんて ないですよ。 71 00:05:19,654 --> 00:05:22,657 でも そうとしか 考えられないんです。 72 00:05:22,657 --> 00:05:25,660 考えられないって。 73 00:05:25,660 --> 00:05:27,662 あなたは おばあちゃんに 会ったこと ないでしょう。 74 00:05:27,662 --> 00:05:29,664 家族の俺が あり得ないって 言ってんだから。 75 00:05:29,664 --> 00:05:32,600 でも やっぱり。 じゃ 何か根拠でもあるんですか? 76 00:05:32,600 --> 00:05:37,600 はい。 何ですか? 教えてください。 77 00:05:40,608 --> 00:05:52,620 『漱石全集』は 全 34巻ですが そのうち この1冊だけが➡ 78 00:05:52,620 --> 00:05:56,620 他とは 別に 購入されたものだからです。 79 00:05:58,626 --> 00:06:02,626 いったい どういうことなんですか? 80 00:06:06,634 --> 00:06:11,639 私 古い本が 好きなんです。 81 00:06:11,639 --> 00:06:16,644 中に書かれている 物語だけじゃなくて➡ 82 00:06:16,644 --> 00:06:20,648 人の手から手へ渡った 本そのものに➡ 83 00:06:20,648 --> 00:06:23,651 物語があると 思うから。 84 00:06:23,651 --> 00:06:41,603 ♬~ 85 00:06:41,603 --> 00:06:57,619 ♬~ 86 00:06:57,619 --> 00:06:59,621 <これから 始まるのは➡ 87 00:06:59,621 --> 00:07:06,628 何冊かの 古い本と それを巡る 人間の話だ> 88 00:07:06,628 --> 00:07:16,628 ♬~ 89 00:09:28,670 --> 00:09:33,675 <僕が なぜ ビブリア古書堂を 訪れることになったのか➡ 90 00:09:33,675 --> 00:09:36,678 その経緯を 説明しておこう> 91 00:09:36,678 --> 00:09:39,681 (回想) 92 00:09:39,681 --> 00:09:41,683 (絹子)あのときは 悪いことをしたね。 93 00:09:41,683 --> 00:09:43,685 あのとき? 94 00:09:43,685 --> 00:09:47,689 (絹子)お前を 殴ったときのことだよ。 95 00:09:47,689 --> 00:09:52,694 (絹子)お前が 私の部屋にいるのを 見て びっくりしたんだよ。 96 00:09:52,694 --> 00:09:55,697 たたいたりするつもりじゃ なかったんだけどね。 97 00:09:55,697 --> 00:09:59,701 いつの話? 覚えてないのかい? 98 00:09:59,701 --> 00:10:04,706 全然。 そうか。 99 00:10:04,706 --> 00:10:12,706 ずいぶん 昔の話だけどねぇ。 覚えてないのか。 100 00:10:16,718 --> 00:10:20,655 大輔。 うん? 101 00:10:20,655 --> 00:10:27,662 話しておきたいことが あるんだ。 何? 102 00:10:27,662 --> 00:10:30,662 お前は…。 103 00:10:36,671 --> 00:10:42,677 フッ。 お前は どんな人と 結婚するんだろうねぇ? 104 00:10:42,677 --> 00:10:44,679 はっ? そうだ。 105 00:10:44,679 --> 00:10:46,681 本の好きな娘と 結婚したら いいんだよ。 106 00:10:46,681 --> 00:10:48,683 お前が 本が読めなくても➡ 107 00:10:48,683 --> 00:10:51,686 その娘に 話して 聞かせてもらったら いいんだよ。 108 00:10:51,686 --> 00:10:58,693 あっ。 ハハハ。 何だよ? それ。 何で そこが 基準なわけ? 109 00:10:58,693 --> 00:11:00,695 別に 本が読めなくたって 生きていけるって。 110 00:11:00,695 --> 00:11:02,697 もったいない。 111 00:11:02,697 --> 00:11:06,697 本が読めないなんて ホントに もったいない。 112 00:11:09,704 --> 00:11:16,711 私が死んだら 私の本は➡ 113 00:11:16,711 --> 00:11:22,650 お前たちの 自由にしていいからね。 114 00:11:22,650 --> 00:11:28,650 何 言ってんだよ? 気が早過ぎるって。 115 00:11:31,659 --> 00:11:34,662 <ばあちゃんと 2人で 話をしたのは➡ 116 00:11:34,662 --> 00:11:37,665 それが 最後だった> 117 00:11:37,665 --> 00:11:41,669 (恵理)大輔! ちょっと 来て!➡ 118 00:11:41,669 --> 00:11:44,672 聞こえないの? 呼ばれたら➡ 119 00:11:44,672 --> 00:11:47,675 さっさと 来なさいよ。 はいはい。 痛っ。 120 00:11:47,675 --> 00:11:51,679 (恵理)何 ぼうっとしてんのよ? 家 壊さないでよ 古いんだから。 121 00:11:51,679 --> 00:11:53,681 かもいが 低過ぎんだよ。 122 00:11:53,681 --> 00:11:55,683 (恵理)あんたが バカでか過ぎんのよ。 123 00:11:55,683 --> 00:11:59,687 (恵理)頭 ぶつけた人なんてね 他に 誰も いなかったわよ。 124 00:11:59,687 --> 00:12:01,689 で 何? あのね。 125 00:12:01,689 --> 00:12:03,691 おばあちゃんの遺品 整理したんだけど。 126 00:12:03,691 --> 00:12:06,694 本が いっぱい あるから 売ってきて。 127 00:12:06,694 --> 00:12:08,696 えっ? 売っちゃうの? うん。 128 00:12:08,696 --> 00:12:12,700 死んだら 自由にしていいって 言われたからね。 129 00:12:12,700 --> 00:12:17,705 だからって あっさり 処分しちゃっていいわけ? あっ。 130 00:12:17,705 --> 00:12:20,641 本だってね 読んでくれる人のところに➡ 131 00:12:20,641 --> 00:12:24,645 いった方が 幸せよ。 おばあちゃんも そう思ってるって。 132 00:12:24,645 --> 00:12:27,648 まだ 向こうにあるから 運んでちょうだい。 133 00:12:27,648 --> 00:12:30,651 ハァー。 ほれ。 134 00:12:30,651 --> 00:12:33,654 これ 全部 持ってくの? めんどくさいな。 135 00:12:33,654 --> 00:12:36,657 何 言ってんのよ? どうせ 仕事もしないで➡ 136 00:12:36,657 --> 00:12:38,659 ごろごろしてるんだから これくらい 手伝いなさいよ。 137 00:12:38,659 --> 00:12:41,662 好きで ごろごろしてるわけじゃねえよ。 138 00:12:41,662 --> 00:12:43,664 今日だって ハローワークに 行くつもりだったのに。 139 00:12:43,664 --> 00:12:45,666 あんたね 実家にいるから➡ 140 00:12:45,666 --> 00:12:47,668 そうやって のんきにしてられるけれどもね。 141 00:12:47,668 --> 00:12:49,670 分かった 分かった。 分かった。 142 00:12:49,670 --> 00:12:53,674 行きます。 喜んで 行かせていただきます。 143 00:12:53,674 --> 00:12:56,677 ここに 持ってって。 高く 買ってくれるらしいから。 144 00:12:56,677 --> 00:13:01,682 はいはい。 うん。 あっ。 ちょっと 待って。 145 00:13:01,682 --> 00:13:05,686 ねえ? こんなの 見つけちゃったの。 見て。 146 00:13:05,686 --> 00:13:08,689 夏目 漱石の サインなんじゃないかしら? 147 00:13:08,689 --> 00:13:11,692 本物だとしたら すごいわよね? 148 00:13:11,692 --> 00:13:15,696 田中 嘉雄って 誰? 古本屋で 買ったみたいだし。 149 00:13:15,696 --> 00:13:18,716 前の持ち主が 書いてもらったんじゃない? 150 00:13:18,716 --> 00:13:22,637 これ 高く 売れるかしらね? どうせ 偽物だろ。 151 00:13:22,637 --> 00:13:24,639 だって 何か 文字のバランスも悪いし。 152 00:13:24,639 --> 00:13:28,643 そうよね。 本物なわけ ないわよね。 153 00:13:28,643 --> 00:13:32,647 ウフッ。 うん。 よし。 154 00:13:32,647 --> 00:13:51,666 ♬~ 155 00:13:51,666 --> 00:14:11,686 ♬~ 156 00:14:11,686 --> 00:14:17,692 ♬~ 157 00:14:17,692 --> 00:14:20,692 ビブリア古書堂。 158 00:14:23,631 --> 00:14:26,634 <そんなわけで 僕は この不思議な店主と➡ 159 00:14:26,634 --> 00:14:30,638 出会うことになった。 彼女の名前は…> 160 00:14:30,638 --> 00:14:32,640 篠川 栞子です。 えっ? 161 00:14:32,640 --> 00:14:35,643 申し遅れましたが ビブリア古書堂の➡ 162 00:14:35,643 --> 00:14:39,647 店主をしております。 よろしく お願いします。 163 00:14:39,647 --> 00:14:46,647 ああ。 どうも。 五浦 大輔です。 164 00:14:48,656 --> 00:14:52,660 大輔? はい。 165 00:14:52,660 --> 00:14:57,660 えっ? 何ですか? いえ。 別に。 166 00:15:01,669 --> 00:15:05,673 この1冊だけ 別で 買ったって さっき 言いましたよね? 167 00:15:05,673 --> 00:15:09,677 はい。 他の 33冊は まとめて 購入されたものですが➡ 168 00:15:09,677 --> 00:15:14,682 この1冊だけは 違うんです。 どうして 分かるんですか? 169 00:15:14,682 --> 00:15:18,703 ここに 蔵書印と 書いてありますよね? 170 00:15:18,703 --> 00:15:21,622 これが 蔵書印。 本の所有者が➡ 171 00:15:21,622 --> 00:15:23,624 自分のコレクションに押す 印鑑のようなものです。 172 00:15:23,624 --> 00:15:27,628 普通の認め印と 同じように 文字だけのものが 多いですが➡ 173 00:15:27,628 --> 00:15:30,631 こんなふうに 絵を あしらうこともあります。 174 00:15:30,631 --> 00:15:32,633 この蔵書印を 使ってらっしゃった方は➡ 175 00:15:32,633 --> 00:15:34,635 アジサイが お好きだったんでしょうね。 176 00:15:34,635 --> 00:15:38,639 はあ。 34巻 全てを チェックしましたが➡ 177 00:15:38,639 --> 00:15:41,642 どれも 同じ蔵書印が 押してありました。 178 00:15:41,642 --> 00:15:45,646 でも なぜか 第八巻 この 『それから』だけには➡ 179 00:15:45,646 --> 00:15:48,649 署名があって 蔵書印がないんです。 180 00:15:48,649 --> 00:15:57,658 ああ。 それで。 えっ? でも 何で この1冊だけ? 181 00:15:57,658 --> 00:16:01,658 考えられることは この八巻が…。 182 00:16:09,670 --> 00:16:13,670 この八巻が 何ですか? 183 00:16:17,678 --> 00:16:22,617 おばあさまの プライバシーに 関わってしまう お話なんですが。 184 00:16:22,617 --> 00:16:26,617 構いませんよ。 どうぞ。 185 00:16:28,623 --> 00:16:34,629 想像してみてください。 もし おばあさまの本棚に➡ 186 00:16:34,629 --> 00:16:39,634 この本が 1冊だけ 置いてあったら どう思いますか? 187 00:16:39,634 --> 00:16:41,636 1冊だけというのは? 188 00:16:41,636 --> 00:16:44,639 全 34巻のうちの 第八巻としてではなく➡ 189 00:16:44,639 --> 00:16:49,644 八巻だけが 単独で 他の本と 並んでいるという 意味です。 190 00:16:49,644 --> 00:16:55,650 ああ。 しかも その1冊が➡ 191 00:16:55,650 --> 00:16:58,653 署名も 蔵書印もない 状態だったとしたら➡ 192 00:16:58,653 --> 00:17:04,659 あなたは それが 古書店で 買われたものだと思いますか? 193 00:17:04,659 --> 00:17:07,662 思いません。 ですよね。 194 00:17:07,662 --> 00:17:11,666 でも おばあさまは そう思わせたかったんです。 195 00:17:11,666 --> 00:17:14,669 えっ? そのために サインを書き➡ 196 00:17:14,669 --> 00:17:16,671 古書店で 購入した 『漱石全集』の中に➡ 197 00:17:16,671 --> 00:17:20,608 紛れ込ませたんです。 おそらく 重複した 第八巻は➡ 198 00:17:20,608 --> 00:17:24,612 処分したんじゃないかと。 ちょっ ちょっと 待ってください。 199 00:17:24,612 --> 00:17:26,614 何で そんなこと する必要が あるんですか? 200 00:17:26,614 --> 00:17:30,618 単に 1冊だけ なくしたから 買い足したのかもしれませんよ。 201 00:17:30,618 --> 00:17:35,623 その可能性も 考えましたが 違うという 結論に至りました。 202 00:17:35,623 --> 00:17:37,625 どうしてですか? 203 00:17:37,625 --> 00:17:41,629 これは 献呈署名の 体裁になってますよね? 204 00:17:41,629 --> 00:17:44,632 献呈署名? あっ。 すみません。 205 00:17:44,632 --> 00:17:48,636 著者が 本を贈る際に 自分の名前だけでなく➡ 206 00:17:48,636 --> 00:17:52,640 相手の名前も 書くことを 献上の献に 贈呈の呈と書いて➡ 207 00:17:52,640 --> 00:17:54,642 献呈署名といいます。 208 00:17:54,642 --> 00:17:56,644 贈る相手の名前を 中央に書き➡ 209 00:17:56,644 --> 00:17:58,646 その左下に 著者が➡ 210 00:17:58,646 --> 00:18:00,648 自分の名前を 書き添えるのが➡ 211 00:18:00,648 --> 00:18:02,650 一般的です。 212 00:18:02,650 --> 00:18:07,655 あれ? これ 逆ですね? そう。 逆だったんです。 213 00:18:07,655 --> 00:18:10,658 えっ? 署名本に 見せ掛けたいだけなら➡ 214 00:18:10,658 --> 00:18:14,662 漱石の名前だけを書けば 事足ります。 215 00:18:14,662 --> 00:18:18,682 なのに どうして おばあさまは➡ 216 00:18:18,682 --> 00:18:22,682 献呈署名の形に なさったんだと思いますか? 217 00:18:24,605 --> 00:18:26,605 えー? 218 00:18:28,609 --> 00:18:30,611 全然 分かりません。 219 00:18:30,611 --> 00:18:37,618 それは 田中 嘉雄さんの名前が 先に書かれていたからです。 220 00:18:37,618 --> 00:18:40,621 はっ? 夏目 漱石じゃなくて? 221 00:18:40,621 --> 00:18:44,625 よく見てください。 一人の人間が 書いたにしては➡ 222 00:18:44,625 --> 00:18:47,628 この署名の文字は バランスが おかしい気がします。 223 00:18:47,628 --> 00:18:51,632 あっ! そうですよね。 僕も そう思いました! 224 00:18:51,632 --> 00:18:54,635 田中 嘉雄さんが書いた 署名の隣に➡ 225 00:18:54,635 --> 00:18:57,638 おばあさまが 漱石の名前を 書き足した。 226 00:18:57,638 --> 00:19:00,641 でも なぜ 田中 嘉雄って人は サインなんて したんですか? 227 00:19:00,641 --> 00:19:04,645 作家でも ないのに。 これは➡ 228 00:19:04,645 --> 00:19:06,647 プレゼントだったんじゃ ないでしょうか? 229 00:19:06,647 --> 00:19:11,652 贈り主が 自分の名前を書いても 不思議では ありませんよね? 230 00:19:11,652 --> 00:19:14,655 あっ。 そっか。 231 00:19:14,655 --> 00:19:18,659 おばあさまは 名前入りの本を ご家族に 見られないように。 232 00:19:18,659 --> 00:19:21,662 万が一 見られても プレゼントされたものだと➡ 233 00:19:21,662 --> 00:19:25,666 気付かせないようにするため 偽装を行ったんです。 234 00:19:25,666 --> 00:19:28,669 漱石の名前を 書き添えたのは➡ 235 00:19:28,669 --> 00:19:31,672 別に 本物のサインだと 信じさせたかったわけではなく➡ 236 00:19:31,672 --> 00:19:35,676 むしろ ただの いたずら書きだと➡ 237 00:19:35,676 --> 00:19:38,679 誤解させたかったんじゃ ないでしょうか? 238 00:19:38,679 --> 00:19:42,679 隠さなきゃならない プレゼントというのは? 239 00:19:46,687 --> 00:19:51,692 はい。 田中 嘉雄さんは➡ 240 00:19:51,692 --> 00:19:55,692 おばあさまの 大切な人だったんだと思います。 241 00:19:58,699 --> 00:20:02,703 (絹子)《私が死んだら 私の本は➡ 242 00:20:02,703 --> 00:20:05,706 お前たちの 自由にしていいからね》➡ 243 00:20:05,706 --> 00:20:10,706 《お前は どんな人と 結婚するんだろうねぇ?》 244 00:20:12,713 --> 00:20:15,716 まさか ばあちゃんが。 245 00:20:15,716 --> 00:20:18,686 本当は 好きな人がいるのに➡ 246 00:20:18,686 --> 00:20:21,555 親が決めた 相手と 結婚するしかない。 247 00:20:21,555 --> 00:20:26,560 そういう話は 当時 珍しくなかったはずです。 248 00:20:26,560 --> 00:20:30,564 いやー。 まあ 確かに そう考えると➡ 249 00:20:30,564 --> 00:20:32,566 辻褄は 合いますけど。 でも やっぱり➡ 250 00:20:32,566 --> 00:20:35,569 ばあちゃんが そんなこと するなんて 信じらんないな。 251 00:20:35,569 --> 00:20:37,571 だいたい 本を見ただけで 何が起きたかなんて➡ 252 00:20:37,571 --> 00:20:41,575 分かるわけ ありません。 そうですね。 ただ➡ 253 00:20:41,575 --> 00:20:44,578 その本から 読み取れることを つなぎ合わせると➡ 254 00:20:44,578 --> 00:20:49,578 そういうことになるという それだけです。 255 00:20:53,587 --> 00:20:55,589 どうかしたんですか? 256 00:20:55,589 --> 00:20:58,592 もしかして あなたの お名前を 付けられたのは➡ 257 00:20:58,592 --> 00:21:00,594 おばあさまですか? 258 00:21:00,594 --> 00:21:05,599 さあ。 分かりません。 おばあさまが 結婚されたのは➡ 259 00:21:05,599 --> 00:21:09,603 1962年より 前ですか? 後ですか? 260 00:21:09,603 --> 00:21:11,603 さあ。 261 00:21:13,607 --> 00:21:17,607 それが この本と 何か 関係あるんですか? 262 00:21:19,647 --> 00:21:24,652 あるかもしれないし ないかもしれません。 263 00:21:24,652 --> 00:21:27,655 はあ。 あっ。 すみません。 264 00:21:27,655 --> 00:21:30,658 本の査定を 頼まれただけなのに 余計な話をしてしまって。 265 00:21:30,658 --> 00:21:35,663 ああ。 いや。 あの。 266 00:21:35,663 --> 00:21:40,668 やっぱり この全集だけは 持ち帰っていいですか? 267 00:21:40,668 --> 00:21:43,671 ええ。 もちろんです。 268 00:21:43,671 --> 00:21:45,673 あっ。 すぐに 他の本の 査定もしますね。 269 00:21:45,673 --> 00:21:48,676 ああ。 また あした 来ますんで ゆっくり やってください。 270 00:21:48,676 --> 00:21:52,676 ああ。 すみません。 271 00:21:54,682 --> 00:22:04,682 ♬~ 272 00:23:53,667 --> 00:23:56,667 あれ? 273 00:23:58,672 --> 00:24:01,672 「田中 嘉雄」 274 00:24:04,678 --> 00:24:07,681 ≪(恵理)ご苦労さま。 ああ。 275 00:24:07,681 --> 00:24:10,684 サイン 偽物だったよ。 あっ 何だ。 がっかりね。 276 00:24:10,684 --> 00:24:12,686 うん。 277 00:24:12,686 --> 00:24:14,688 何で これだけ 持って帰ってきたの? 278 00:24:14,688 --> 00:24:17,691 ああ。 形見に 取っとこうかなと思って。 279 00:24:17,691 --> 00:24:19,693 えー!? 280 00:24:19,693 --> 00:24:23,697 そういえばさ 俺の名前って ばあちゃんが 付けたの? 281 00:24:23,697 --> 00:24:26,700 そうよ。 どうして? 282 00:24:26,700 --> 00:24:28,702 《あなたの お名前を 付けられたのは➡ 283 00:24:28,702 --> 00:24:32,706 おばあさまですか?》 284 00:24:32,706 --> 00:24:34,708 何で 大輔だったの? 285 00:24:34,708 --> 00:24:38,712 昔から どうしても 付けたかった 名前があるって 言って➡ 286 00:24:38,712 --> 00:24:41,715 強引に 決められちゃったのよ。 287 00:24:41,715 --> 00:24:43,650 ばあちゃんが 結婚した年って 何年か 分かる? 288 00:24:43,650 --> 00:24:47,654 えーと。 お姉さんが 確か 翌年 生まれたはずだから➡ 289 00:24:47,654 --> 00:24:51,658 1959年ね。 290 00:24:51,658 --> 00:24:53,660 《おばあさまが 結婚されたのは➡ 291 00:24:53,660 --> 00:24:57,664 1962年より 前ですか? 後ですか?》 292 00:24:57,664 --> 00:25:02,669 1962年よりも 前か。 293 00:25:02,669 --> 00:25:08,675 えっ? 何なの? 何で そんなこと 聞くわけ? 294 00:25:08,675 --> 00:25:14,675 ああ。 なあ? じいちゃんって どんな人だった? 295 00:25:17,684 --> 00:25:19,686 ≪(吹きこぼれる音) (恵理)あっ。 296 00:25:19,686 --> 00:25:22,686 火 付けっ放しで 来ちゃった。 297 00:25:33,700 --> 00:25:35,702 おばあちゃんから➡ 298 00:25:35,702 --> 00:25:37,704 おじいちゃんの話 聞いたこと ある? 299 00:25:37,704 --> 00:25:40,707 事故で 死んだってことぐらいかな。 300 00:25:40,707 --> 00:25:43,707 事故ね。 うん。 301 00:25:45,646 --> 00:25:51,652 冬の寒い日に 酔っぱらって 道端で寝込んで 凍死したのよ。 302 00:25:51,652 --> 00:25:54,655 えっ? ろくに 働きもしないで➡ 303 00:25:54,655 --> 00:25:56,657 お酒と ギャンブルに かまけてばっかり。 304 00:25:56,657 --> 00:25:58,659 おばあちゃんが 働きに出て 私たちのために➡ 305 00:25:58,659 --> 00:26:03,664 こつこつ ためた お金も 全部 使っちゃったみたいよ。 306 00:26:03,664 --> 00:26:08,669 そんな男 さっさと 離婚しちゃえば よかったのに。 307 00:26:08,669 --> 00:26:13,674 そうよね。 でも あのころは 離婚なんかしたら➡ 308 00:26:13,674 --> 00:26:17,678 世間から 白い目で見られて 一生 肩身の狭い思いをして➡ 309 00:26:17,678 --> 00:26:23,684 生きていかなきゃいけなかったの。 今とは 時代が違うのよ。 310 00:26:23,684 --> 00:26:26,684 我慢するしか なかったんでしょうね。 311 00:26:31,692 --> 00:26:38,699 私は 我慢しなかったけどね。 時代が変わって よかったわ。 312 00:26:38,699 --> 00:26:41,702 もし 違う人と 結婚してたら➡ 313 00:26:41,702 --> 00:26:43,637 ばあちゃんは もっと 幸せだったかな? 314 00:26:43,637 --> 00:26:46,640 好きな人 いたのよ 本当は。 えっ? 315 00:26:46,640 --> 00:26:50,644 おばあちゃん。 でもね その人との結婚は➡ 316 00:26:50,644 --> 00:26:53,647 親に 許してもらえなかったんだって。 317 00:26:53,647 --> 00:26:57,651 私が 離婚したときに 話してくれたのよ。 318 00:26:57,651 --> 00:26:59,653 《田中 嘉雄さんは➡ 319 00:26:59,653 --> 00:27:04,658 おばあさまの 大切な人だったんだと思います》 320 00:27:04,658 --> 00:27:21,675 ♬~ 321 00:27:21,675 --> 00:27:30,684 ♬~ 322 00:27:30,684 --> 00:27:33,687 こんにちは。 323 00:27:33,687 --> 00:27:36,687 (文也)いらっしゃいませ。 ああ。 324 00:27:38,692 --> 00:27:42,713 姉ちゃんなら 休憩中です。 ああ。 弟さん? 325 00:27:42,713 --> 00:27:44,631 はい。 何か ご用ですか? 326 00:27:44,631 --> 00:27:47,634 ああ。 昨日 買い取りを お願いした者なんですよ。 327 00:27:47,634 --> 00:27:49,636 ああ。 査定ね。 ちょっと 待ってください。 328 00:27:49,636 --> 00:27:51,638 お名前は? 五浦です。 329 00:27:51,638 --> 00:27:54,641 五浦さん。 ≪(戸の開く音) 330 00:27:54,641 --> 00:27:57,644 あっ。 姉ちゃん。 昨日の お客さん 来てるけど。 331 00:27:57,644 --> 00:28:01,644 あっ。 私が やるから。 じゃあ よろしく。 332 00:28:04,651 --> 00:28:09,656 昨日は どうも。 ああ。 どうも。 333 00:28:09,656 --> 00:28:11,658 あなたの 言ったとおりでした。 334 00:28:11,658 --> 00:28:13,660 ばあちゃんには 結婚したくても できなかった➡ 335 00:28:13,660 --> 00:28:16,663 恋人がいたんです。 いや。 すごいですね。 336 00:28:16,663 --> 00:28:21,668 本を見ただけで そんなことまで 分かっちゃうなんて 驚きですよ。 337 00:28:21,668 --> 00:28:24,671 ああ。 僕の名前は ばあちゃんが 付けたそうです。 338 00:28:24,671 --> 00:28:29,671 それと ばあちゃんが 結婚した年は 1959年でした。 339 00:28:32,679 --> 00:28:36,683 そうですか。 ああ はい。 340 00:28:36,683 --> 00:28:40,683 4万2,000円です。 えっ? 341 00:28:44,624 --> 00:28:46,626 査定の明細です。 342 00:28:46,626 --> 00:28:50,630 ああ。 どうぞ ご確認ください。 343 00:28:50,630 --> 00:28:58,638 あの。 何で あんな質問 したんですか? 344 00:28:58,638 --> 00:29:00,640 何となく。 何となくにしては➡ 345 00:29:00,640 --> 00:29:02,642 質問が 具体的過ぎるでしょ? そうでしょうか? 346 00:29:02,642 --> 00:29:05,642 いや。 そうですよ。 347 00:29:10,650 --> 00:29:16,656 ばあちゃん 死ぬ前に 変なこと 言ってたんですよ。 348 00:29:16,656 --> 00:29:19,659 変なこと? 349 00:29:19,659 --> 00:29:25,665 お前は どんな人と 結婚するんだろうねって。 350 00:29:25,665 --> 00:29:27,667 でも その前に…。 351 00:29:27,667 --> 00:29:31,671 (絹子)《大輔。 話しておきたいことが あるんだ》 352 00:29:31,671 --> 00:29:35,671 《何?》 《お前は…》 353 00:29:38,678 --> 00:29:41,681 あれは ホントは 何か 別のことを 言いかけてたんじゃないかって➡ 354 00:29:41,681 --> 00:29:46,620 ちょっと 引っ掛かってたんです。 もしかして あなたの質問は➡ 355 00:29:46,620 --> 00:29:50,624 そのことと 何か 関係あるんじゃないですか? 356 00:29:50,624 --> 00:29:52,626 さあ。 「さあ」って。 357 00:29:52,626 --> 00:29:56,630 査定額に 問題はありませんか? 358 00:29:56,630 --> 00:30:00,634 ええ。 今 代金を ご用意します。 359 00:30:00,634 --> 00:30:02,634 あっ。 360 00:31:43,637 --> 00:31:47,641 (職員)一般企業での募集は かなり 競争率が 高いんですよね。 361 00:31:47,641 --> 00:31:49,643 そうですよね。 362 00:31:49,643 --> 00:31:53,647 (職員)体力も ありそうだし 警備会社なんか どうですか? 363 00:31:53,647 --> 00:31:56,647 あっ。 はあ。 364 00:32:03,657 --> 00:32:05,657 (テーブルをたたく音) 365 00:32:10,664 --> 00:32:13,667 (藤波)いらっしゃい。 抹茶クリームあん蜜 下さい。 366 00:32:13,667 --> 00:32:16,670 (藤波)どうしたの? 暗いね。 ハァー。 367 00:32:16,670 --> 00:32:18,672 今日も ハローワーク 行ったんですけど。 368 00:32:18,672 --> 00:32:20,674 (藤波)やっぱ 厳しい? 警備会社で➡ 369 00:32:20,674 --> 00:32:22,676 働いたら どうかって 言われました。 370 00:32:22,676 --> 00:32:24,678 (奈津実)いいんじゃない? 警備員。➡ 371 00:32:24,678 --> 00:32:26,680 大輔 柔道の段位も 持ってるし そういうの➡ 372 00:32:26,680 --> 00:32:28,682 プラスに なりそうじゃない。 駄目だよ。 373 00:32:28,682 --> 00:32:31,685 (奈津実)何で? だって 俺 殴られるのとか 嫌だし。 374 00:32:31,685 --> 00:32:35,689 侵入者と闘うなんて 無理だよ。 ああ。 宝の持ち腐れってやつだね。 375 00:32:35,689 --> 00:32:38,692 あっ。 ねえ? 藤波さん。 ここで いいから 雇ってくださいよ。 376 00:32:38,692 --> 00:32:42,629 亜弥ちゃん。 ちょっと。 (亜弥)はい。 377 00:32:42,629 --> 00:32:45,632 (藤波)新しく バイトで入った 亜弥ちゃん。 彼は 大輔君。➡ 378 00:32:45,632 --> 00:32:49,636 奈津実ちゃんの 高校? 中学? (奈津実)高校。 379 00:32:49,636 --> 00:32:51,638 (藤波)高校時代の 同級生。 380 00:32:51,638 --> 00:32:53,640 (亜弥)佐々木 亜弥です。 よろしく お願いします。 381 00:32:53,640 --> 00:32:55,642 どうも。 (藤波)うちは カワイイ 女の子しか➡ 382 00:32:55,642 --> 00:33:00,642 雇わないから。 (亜弥)ウフフ。 383 00:33:02,649 --> 00:33:06,653 (奈津実)何よ? 文句 あんの? あっ いや。 何も 別に そんな。 384 00:33:06,653 --> 00:33:09,656 (藤波)ひどいぞ。 奈津実ちゃんも かつては 女の子だったんだから。 385 00:33:09,656 --> 00:33:12,659 (奈津実)ダブルで 失礼。 (藤波)何が ダブルよ? ブス。 386 00:33:12,659 --> 00:33:15,662 リアルよ。 ブス。 (さやか)抹茶クリームあん蜜です。 387 00:33:15,662 --> 00:33:17,664 (亜弥)はい。 ハァー。 やっぱ こういうときは➡ 388 00:33:17,664 --> 00:33:20,667 甘いものに 限るね。 (藤波)残念でした。➡ 389 00:33:20,667 --> 00:33:25,672 これは 向こうの お客さまの分。 えっ? 390 00:33:25,672 --> 00:33:29,676 (亜弥)はい。 お待たせしました。 391 00:33:29,676 --> 00:33:32,676 あっ! 392 00:33:41,705 --> 00:33:45,625 ハァー。 これ どこに置けばいいですか? 393 00:33:45,625 --> 00:33:49,629 あっ。 えっと。 机の上で お願いします。 394 00:33:49,629 --> 00:33:52,632 あっ はい。 すみません。 395 00:33:52,632 --> 00:33:55,635 お言葉に 甘えちゃって。 ああ いえ。 396 00:33:55,635 --> 00:33:58,638 でも これ 結構 重かったですよ。 397 00:33:58,638 --> 00:34:01,641 女性には きついんじゃないんですか? 398 00:34:01,641 --> 00:34:07,647 ええ。 いつも つい 買い過ぎちゃうんです。 399 00:34:07,647 --> 00:34:14,654 あっ。 こっちも 出しますね。 ああ。 すみません。 400 00:34:14,654 --> 00:34:20,660 僕 実は 本が読めないんですよ。 401 00:34:20,660 --> 00:34:23,663 いや。 苦手だとか そういうことじゃなくて。 402 00:34:23,663 --> 00:34:26,666 本を読んでると 気分が 悪くなってくるんですよ。 403 00:34:26,666 --> 00:34:32,672 貧血 起こしたみたいに。 何か 原因でも あるんですか? 404 00:34:32,672 --> 00:34:35,675 まあ そういう体質なんだと 思います。 405 00:34:35,675 --> 00:34:40,680 残念です。 えっ? 406 00:34:40,680 --> 00:34:44,617 本が読めないなんて もったいない。 407 00:34:44,617 --> 00:34:49,622 ホントに もったいないです。 408 00:34:49,622 --> 00:34:51,624 (絹子)《もったいない》 409 00:34:51,624 --> 00:34:56,629 《本が読めないなんて ホントに もったいない》 410 00:34:56,629 --> 00:35:11,644 ♬~ 411 00:35:11,644 --> 00:35:16,649 あの。 この間のことなんですけど。 412 00:35:16,649 --> 00:35:19,652 はい。 413 00:35:19,652 --> 00:35:23,652 1962年って 何があった 年なんですか? 414 00:35:25,658 --> 00:35:27,660 調べてみたんですけど 特に これといって➡ 415 00:35:27,660 --> 00:35:29,662 目に付くものはなくて。 別に 何もありませんよ。 416 00:35:29,662 --> 00:35:32,665 いや。 でも…。 ホントに➡ 417 00:35:32,665 --> 00:35:35,665 ただ 聞いてみただけですから。 418 00:35:43,610 --> 00:35:45,612 ただいま。 (舞子)あら。 おかえり。 419 00:35:45,612 --> 00:35:47,614 (恵理)おかえり。 ああ。 420 00:35:47,614 --> 00:35:49,616 舞子伯母ちゃん 来てたんだ。 (恵理)おばあちゃんの➡ 421 00:35:49,616 --> 00:35:51,618 お葬式のときの写真 持ってきてくれたのよ。 422 00:35:51,618 --> 00:35:55,622 ああ。 (舞子)相変わらず 大きいわねぇ。➡ 423 00:35:55,622 --> 00:35:57,624 会社 つぶれちゃったんだって?➡ 424 00:35:57,624 --> 00:36:00,627 大丈夫? ああ。 まあ 何とか なるでしょう。 425 00:36:00,627 --> 00:36:03,630 (舞子)やだ。 ならないわよ。 (恵理)でしょう?➡ 426 00:36:03,630 --> 00:36:07,630 この子 現実が分かってないのよ。 失礼。 427 00:36:09,636 --> 00:36:13,636 ああー。 分かってるっつうの。 428 00:36:19,646 --> 00:36:21,648 (恵理)それ よく 撮れてるでしょ? 429 00:36:21,648 --> 00:36:24,651 うん。 しかし 五浦一族は 俺と 母さん以外➡ 430 00:36:24,651 --> 00:36:26,653 みんな ちっちぇなぁ。 431 00:36:26,653 --> 00:36:28,655 あんたも おっきいのは 見た目だけで➡ 432 00:36:28,655 --> 00:36:30,657 中身は ちまちましてるけどね。 433 00:36:30,657 --> 00:36:33,660 フゥー。 疲れたから 部屋で 休もっかな。 434 00:36:33,660 --> 00:36:35,662 疲れるようなこと 何もしてないでしょ。 435 00:36:35,662 --> 00:36:38,662 あ痛っ! ハァー。 436 00:36:47,607 --> 00:36:50,610 ああ。 何? 437 00:36:50,610 --> 00:36:56,616 うーん。 そういえば あんたの他にも いたなと思って。 438 00:36:56,616 --> 00:37:00,620 はあ? おばあちゃんの お葬式のとき。 439 00:37:00,620 --> 00:37:03,623 あんたは 受付にいたから 見てないだろうけど➡ 440 00:37:03,623 --> 00:37:06,626 かもいに 頭を ぶつけた人がいたのよ。 441 00:37:06,626 --> 00:37:08,628 誰? 442 00:37:08,628 --> 00:37:10,630 (恵理)見慣れない ご老人だったわ。➡ 443 00:37:10,630 --> 00:37:14,634 背が すごく 高くて。 444 00:37:14,634 --> 00:37:17,637 (恵理)静かな場だったから 音が目立ってね。➡ 445 00:37:17,637 --> 00:37:20,640 その場にいた 全員が 振り返ったの。 446 00:37:20,640 --> 00:37:23,643 ふーん。 それは 恥ずかしいな。 447 00:37:23,643 --> 00:37:27,647 (恵理)でも その人は 全然 気にする様子がなくて。➡ 448 00:37:27,647 --> 00:37:31,651 なぜか かもいに 打ち付けてある ゴムの板を➡ 449 00:37:31,651 --> 00:37:35,655 しばらく じっと 見詰めていたの。 それで? 450 00:37:35,655 --> 00:37:38,658 おばあちゃんの遺影を 振り返って➡ 451 00:37:38,658 --> 00:37:40,660 深々と お辞儀をして 帰っていった。 452 00:37:40,660 --> 00:37:43,596 ふーん。 後で みんなに 聞いたんだけど。 453 00:37:43,596 --> 00:37:46,599 誰も あの人のこと 知らなかったのよね。 454 00:37:46,599 --> 00:37:50,599 どなただったのかしらねぇ。 455 00:37:56,609 --> 00:37:58,611 母さん。 456 00:37:58,611 --> 00:38:02,615 芳名帳なんて 見て どうすんの? いいから。 どこ? 457 00:38:02,615 --> 00:38:04,617 うーん。 あっ。 その奥の 箱の中かな。 458 00:38:04,617 --> 00:38:06,617 これ? うん。 459 00:38:10,623 --> 00:38:15,628 あった。 ちゃんと 片付けといてね。 460 00:38:15,628 --> 00:38:27,628 ♬~ 461 00:38:34,647 --> 00:38:51,597 ♬~ 462 00:38:51,597 --> 00:38:58,604 ♬~ 463 00:38:58,604 --> 00:39:01,607 「春日 二丁目」 464 00:39:01,607 --> 00:39:14,620 ♬~ 465 00:39:14,620 --> 00:39:17,623 田中 嘉雄さんという方を 捜してるんですけども。 466 00:39:17,623 --> 00:39:20,626 ご親族の中に そのような方は いらっしゃいますでしょうか? 467 00:39:20,626 --> 00:39:23,629 (女性)うちには そういう者は おりませんけれど。 468 00:39:23,629 --> 00:39:25,631 こちらに 嘉雄さんは いらっしゃいますでしょうか? 469 00:39:25,631 --> 00:39:28,634 [インターホン](男性)うちじゃないですよ。 大変 失礼しました。 470 00:39:28,634 --> 00:39:31,637 ありがとうございました。 471 00:39:31,637 --> 00:39:33,639 春日 二丁目の 田中 嘉雄さんという方の➡ 472 00:39:33,639 --> 00:39:37,639 お宅を 探してるんですけど お分かりになりますか? 473 00:39:41,664 --> 00:39:43,583 ああ。 すいません。 あの。 この辺りにある➡ 474 00:39:43,583 --> 00:39:45,585 田中さんの家って ご存じでしょうか? 475 00:39:45,585 --> 00:39:47,587 (男性)田中さんち あの奥ですよ。 ああ。 そうですか。 476 00:39:47,587 --> 00:39:49,589 ありがとうございました。 477 00:39:49,589 --> 00:39:51,591 こちらに 嘉雄さんという方は いらっしゃいませんでしょうか? 478 00:39:51,591 --> 00:39:53,593 (男性)嘉雄という者は おりませんが。 479 00:39:53,593 --> 00:39:55,595 ご親戚の方にも いらっしゃいませんでしょうか? 480 00:39:55,595 --> 00:39:58,598 ごめんください。 ≪(男性)あのう。➡ 481 00:39:58,598 --> 00:40:00,600 田中さん 2年ぐらい前に 引っ越しましたよ。 482 00:40:00,600 --> 00:40:02,602 そうですか。 483 00:40:02,602 --> 00:40:13,602 ♬~ 484 00:42:07,660 --> 00:42:09,662 《あんときは 悪いこと したね》 485 00:42:09,662 --> 00:42:11,664 《あのとき?》 486 00:42:11,664 --> 00:42:15,668 《お前が 私の部屋にいるのを 見て びっくりしたんだよ》 487 00:42:15,668 --> 00:42:20,668 《たたいたりするつもりじゃ なかったんだけどね》 488 00:42:45,715 --> 00:42:48,715 ≪(絹子)《何やってるの!?》 489 00:42:54,640 --> 00:42:57,643 (大輔)《ごめんなさい》 (たたく音) 490 00:42:57,643 --> 00:42:59,645 (絹子)《勝手に 本に触るなって 言ってんでしょ!》➡ 491 00:42:59,645 --> 00:43:01,647 《言い付けを 守らない子は➡ 492 00:43:01,647 --> 00:43:03,649 うちの子じゃ なくなっちゃうんだよ!》➡ 493 00:43:03,649 --> 00:43:06,649 《いいのかい!?》 494 00:43:25,671 --> 00:43:41,687 ♬~ 495 00:43:41,687 --> 00:44:01,641 ♬~ 496 00:44:01,641 --> 00:44:05,641 ああー。 ああ。 497 00:44:08,648 --> 00:44:13,653 ああー。 ハァ。 498 00:44:13,653 --> 00:44:17,657 どうしたの? ああ。 ちょっと 気分が悪くて。 499 00:44:17,657 --> 00:44:20,657 大丈夫? うん。 500 00:44:26,666 --> 00:44:28,668 その本 読んだことある? 501 00:44:28,668 --> 00:44:31,671 夏目 漱石の 『それから』? うん。 502 00:44:31,671 --> 00:44:35,675 ないわね。 映画なら 見たことあるけどね。 503 00:44:35,675 --> 00:44:40,675 主人公が …話でしょ? 504 00:44:46,619 --> 00:44:53,626 ああ。 うん。 あのさ。 505 00:44:53,626 --> 00:44:56,629 あの かもいの ゴム板って 誰が付けたの? 506 00:44:56,629 --> 00:44:58,631 おばあちゃんよ。 いつ? 507 00:44:58,631 --> 00:45:00,633 私が生まれてくる 前みたい。 508 00:45:00,633 --> 00:45:04,637 次に生まれてくる子の 背が伸びて 頭でも ぶつけたら➡ 509 00:45:04,637 --> 00:45:06,639 大変だからって 舞子伯母さんに 言ってたんだって。 510 00:45:06,639 --> 00:45:09,642 母さんの背は 高くなるって 予知したわけ? 511 00:45:09,642 --> 00:45:11,644 変な話よね。 まっ 結局➡ 512 00:45:11,644 --> 00:45:15,648 かもいに 頭 ぶつけるほどには 伸びなかったけどね。 513 00:45:15,648 --> 00:45:17,648 あのさ。 514 00:45:19,652 --> 00:45:21,654 じいちゃんって 背が高かった? 515 00:45:21,654 --> 00:45:25,654 全然。 小柄な人だったわよ。 516 00:47:48,634 --> 00:47:50,636 夏目 漱石の 『それから』? うん。 517 00:47:50,636 --> 00:47:53,639 ないわね。 映画なら 見たことあるけどね。 518 00:47:53,639 --> 00:47:58,639 主人公が …話でしょ? 519 00:48:03,649 --> 00:48:09,655 ああ。 うん。 あのさ。 520 00:48:09,655 --> 00:48:12,658 あの かもいの ゴム板って 誰が付けたの? 521 00:48:12,658 --> 00:48:14,660 おばあちゃんよ。 いつ? 522 00:48:14,660 --> 00:48:16,662 私が生まれてくる 前みたい。 523 00:48:16,662 --> 00:48:19,665 次に生まれてくる子の 背が伸びて 頭でも ぶつけたら➡ 524 00:48:19,665 --> 00:48:22,668 大変だからって 舞子伯母さんに 言ってたんだって。 525 00:48:22,668 --> 00:48:24,670 母さんの背は 高くなるって 予知したわけ? 526 00:48:24,670 --> 00:48:27,673 変な話よね。 まっ 結局➡ 527 00:48:27,673 --> 00:48:31,677 かもいに 頭 ぶつけるほどには 伸びなかったけどね。 528 00:48:31,677 --> 00:48:34,680 あのさ。 529 00:48:34,680 --> 00:48:36,682 じいちゃんって 背が高かった? 530 00:48:36,682 --> 00:48:40,682 全然。 小柄な人だったわよ。 531 00:48:47,626 --> 00:48:50,626 ≪(戸の開閉音) 532 00:48:52,631 --> 00:48:54,631 あっ。 533 00:48:56,635 --> 00:49:00,635 どうも。 どうしたんですか? 534 00:49:03,642 --> 00:49:07,646 あれで 終わりじゃないですよね? 535 00:49:07,646 --> 00:49:13,652 祖母の話です。 まだ 続きが あるんじゃないんですか? 536 00:49:13,652 --> 00:49:17,652 あなたは 全て 分かっているんでしょう? 537 00:49:19,658 --> 00:49:25,658 話してもらえませんか? 知りたいんです。 お願いします。 538 00:49:34,673 --> 00:49:38,677 想像してみてください。 えっ? 539 00:49:38,677 --> 00:49:43,682 あなたが 誰かに 本を プレゼントするとします。 540 00:49:43,682 --> 00:49:46,702 それは どうしてですか? 541 00:49:46,702 --> 00:49:50,623 相手が 本を好きな人だから。 それだけですか? 542 00:49:50,623 --> 00:49:52,625 自分が読んで 感動したから。 543 00:49:52,625 --> 00:49:54,627 それを 相手にも 読んでほしいと思って。 544 00:49:54,627 --> 00:49:57,630 本のタイトルを伝えて 相手が 興味を持ったら➡ 545 00:49:57,630 --> 00:50:01,634 買うかもしれない。 それでは 駄目なんですか? 546 00:50:01,634 --> 00:50:06,639 五浦さんは 本を読めませんが 音楽は聴きますよね? 547 00:50:06,639 --> 00:50:09,642 ええ。 例えば➡ 548 00:50:09,642 --> 00:50:11,644 歌の歌詞を 聴いていて➡ 549 00:50:11,644 --> 00:50:14,647 こんなふうに 思ったことは ありませんか? 550 00:50:14,647 --> 00:50:20,653 これは 今の 自分の気持ち そのものだ。 551 00:50:20,653 --> 00:50:24,657 これは 自分の歌なんだって。 552 00:50:24,657 --> 00:50:29,662 ああ。 ある。 ありますね。 553 00:50:29,662 --> 00:50:36,662 この本の主人公は 人妻と 恋に落ちるんです。 554 00:50:40,673 --> 00:50:43,676 いとしい人のために➡ 555 00:50:43,676 --> 00:50:49,615 将来も 財産も 家族も 友人も 全て 投げ捨てて➡ 556 00:50:49,615 --> 00:50:54,620 彼女と 2人だけで 新しい人生を 歩んでいくことを選ぶ。 557 00:50:54,620 --> 00:50:57,620 そういう お話です。 558 00:51:00,626 --> 00:51:04,630 田中 嘉雄さんが おばあさまに 『それから』を 贈ったのは➡ 559 00:51:04,630 --> 00:51:09,635 主人公の行動が 自分の願望 そのものだったから。 560 00:51:09,635 --> 00:51:14,640 この本が おばあさまへの ラブレターだったんじゃないかって➡ 561 00:51:14,640 --> 00:51:16,640 そう思ったんです。 562 00:51:19,645 --> 00:51:21,645 それと…。 563 00:51:27,653 --> 00:51:30,653 どうぞ。 564 00:51:33,659 --> 00:51:40,666 実は おばあさまが 『漱石全集』を 購入されたのは➡ 565 00:51:40,666 --> 00:51:46,688 うちの店なんです。 えっ? 566 00:51:46,688 --> 00:51:50,688 ここで? はい。 567 00:51:54,613 --> 00:51:58,617 これは 私の祖父の文字です。 568 00:51:58,617 --> 00:52:01,617 癖があるので すぐに 分かりました。 569 00:52:03,622 --> 00:52:08,627 白紙に 手書きで 値段を書き付けていたのは➡ 570 00:52:08,627 --> 00:52:10,629 ビブリア古書堂が 開店したばかりの➡ 571 00:52:10,629 --> 00:52:14,633 ほんの わずかな 期間だけだったそうです。 572 00:52:14,633 --> 00:52:19,638 その後は この 書店名が 印刷された➡ 573 00:52:19,638 --> 00:52:23,642 値札を 使用するようになりました。 574 00:52:23,642 --> 00:52:25,644 それって? 575 00:52:25,644 --> 00:52:28,647 おばあさまが 『漱石全集』を 購入したのは➡ 576 00:52:28,647 --> 00:52:36,655 ビブリア古書堂が 開店した年 1962年ということになるんです。 577 00:52:36,655 --> 00:52:43,662 おばあさまが 結婚されたのが 1959年だとすると➡ 578 00:52:43,662 --> 00:52:48,600 田中 嘉雄さんから 本を贈られたのは 結婚後。 579 00:52:48,600 --> 00:52:55,607 つまり 2人は 不倫関係に あったことになります。 580 00:52:55,607 --> 00:53:08,620 ♬~ 581 00:53:08,620 --> 00:53:11,620 なるほどね。 582 00:53:18,630 --> 00:53:24,636 僕の名前を 付けたのが ばあちゃんだっていうのは? 583 00:53:24,636 --> 00:53:31,636 主人公の名前が 代助だったので。 584 00:53:36,648 --> 00:53:44,648 おばあさまにとって あなたは 特別な お孫さんだったんですね。 585 00:53:48,594 --> 00:53:54,600 親戚の中で 母と 僕だけが 背が高かったのは➡ 586 00:53:54,600 --> 00:54:00,600 偶然じゃなかったってことか。 ハハハ。 587 00:54:02,608 --> 00:54:07,613 そういえば ばあちゃんの葬式の 芳名帳に➡ 588 00:54:07,613 --> 00:54:09,615 田中 嘉雄という 名前がありました。 589 00:54:09,615 --> 00:54:11,617 えっ? 住所を頼りに➡ 590 00:54:11,617 --> 00:54:17,623 文京区まで 訪ねに行ったんですが 捜し出すことはできませんでした。 591 00:54:17,623 --> 00:54:20,626 同姓同名の 別人って 可能性もあるし。 592 00:54:20,626 --> 00:54:24,630 その本を贈った 本人かどうかは 確かめようがありませんけど。 593 00:54:24,630 --> 00:54:27,633 その人です。 えっ? 594 00:54:27,633 --> 00:54:33,639 おばあさまに 本を贈ったのは その人です。 595 00:54:33,639 --> 00:54:36,642 分かるんですか? 596 00:54:36,642 --> 00:54:44,650 書かれていた 住所は 文京区 春日 二丁目ですよね? 597 00:54:44,650 --> 00:54:46,668 えっ? 何で!? 598 00:54:46,668 --> 00:54:53,668 それは 『それから』の 舞台となった 場所です。 599 00:54:58,597 --> 00:55:02,601 おばあさまは 最後に➡ 600 00:55:02,601 --> 00:55:07,606 田中 嘉雄さんに 見送ってもらえたってことですね。 601 00:55:07,606 --> 00:55:21,620 ♬~ 602 00:55:21,620 --> 00:55:41,640 ♬~ 603 00:55:41,640 --> 00:55:49,581 ♬~ 604 00:55:49,581 --> 00:55:52,584 《おばあさまは 最後に➡ 605 00:55:52,584 --> 00:55:58,590 田中 嘉雄さんに 見送ってもらえたってことですね》 606 00:55:58,590 --> 00:56:08,600 ♬~ 607 00:56:08,600 --> 00:56:14,600 ああ。 ああ。 608 00:56:16,608 --> 00:56:18,610 そうですね。 609 00:56:18,610 --> 00:56:28,620 ♬~ 610 00:56:28,620 --> 00:56:35,627 いやー。 ホントに すごいな。 何十年も 隠されてきた 秘密を➡ 611 00:56:35,627 --> 00:56:38,630 そんなに 簡単に 見抜いちゃうなんて。 612 00:56:38,630 --> 00:56:43,635 ああ。 すみません。 真実を知ることが➡ 613 00:56:43,635 --> 00:56:46,655 必ずしも 人を幸せにするとは 限りませんよね。 614 00:56:46,655 --> 00:56:50,575 いいんです。 確かに 僕にとっては 一大事だけど。 615 00:56:50,575 --> 00:56:54,579 そんなに ショックではないというか。 616 00:56:54,579 --> 00:56:59,579 自分でも 不思議だけど 自然と 受け入れられてんですよ。 617 00:57:03,588 --> 00:57:05,590 実は 子供のころに➡ 618 00:57:05,590 --> 00:57:07,592 その本を 勝手に 触ってるところを 見られて➡ 619 00:57:07,592 --> 00:57:10,595 ばあちゃんに 殴られたことがあって。 620 00:57:10,595 --> 00:57:14,599 もしかしたら 僕が 本を読めなくなったのは➡ 621 00:57:14,599 --> 00:57:17,602 それが 原因なのかもしれません。 622 00:57:17,602 --> 00:57:21,602 まあ 最近までは 忘れてたんですけどね。 623 00:57:23,608 --> 00:57:27,612 あのとき ばあちゃんが 何で あんなに 怒ったのか➡ 624 00:57:27,612 --> 00:57:30,615 ちゃんと 理由が分かって すっきりしました。 625 00:57:30,615 --> 00:57:35,615 篠川さん。 ありがとうございました。 626 00:57:40,625 --> 00:57:42,627 えっ? えっ? 627 00:57:42,627 --> 00:57:46,631 あっ。 僕 何か 変なこと 言いました? 628 00:57:46,631 --> 00:57:53,638 あっ。 いえ。 いいえ。 お役に立てて よかったです。 629 00:57:53,638 --> 00:57:55,640 ああ。 630 00:57:55,640 --> 00:58:11,656 ♬~ 631 00:58:11,656 --> 00:58:19,664 ♬~ 632 00:58:19,664 --> 00:58:22,664 あの。 633 00:58:24,669 --> 00:58:29,674 うちで 働いてもらえませんか? はい? 634 00:58:29,674 --> 00:58:33,678 探してるんですよね? お仕事。 とはいっても お給料は➡ 635 00:58:33,678 --> 00:58:35,680 そんなに 多くは 出せませんけど。 篠川さん。 636 00:58:35,680 --> 00:58:38,683 はい。 僕の話 聞いてました? 637 00:58:38,683 --> 00:58:40,685 はい。 本が読めないって➡ 638 00:58:40,685 --> 00:58:42,687 言ったんですけど。 はい。 639 00:58:42,687 --> 00:58:45,690 いや。 だから…。 古書店の人間に 必要なのは➡ 640 00:58:45,690 --> 00:58:47,626 本の内容より 市場価値の知識です。 641 00:58:47,626 --> 00:58:49,628 本を読まなくても➡ 642 00:58:49,628 --> 00:58:51,630 学んでいくことは じゅうぶん 可能です。 643 00:58:51,630 --> 00:58:53,632 それに こないだ 五浦さんも 言ってましたけど➡ 644 00:58:53,632 --> 00:58:59,638 本は重いですから 書店員の 仕事って 意外と重労働なんです。 645 00:58:59,638 --> 00:59:05,638 だから 男手があると 助かるんです。 646 00:59:07,646 --> 00:59:12,651 駄目ですか? あっ いや。 647 00:59:12,651 --> 00:59:16,651 そんなことは ないんだけど。 ああ。 648 00:59:32,671 --> 00:59:35,674 よろしく お願いします。 649 00:59:35,674 --> 00:59:38,677 えっ? いいんですか? 650 00:59:38,677 --> 00:59:45,684 ええ。 ただ その代わりといったら 何ですが。 651 00:59:45,684 --> 00:59:49,621 よかったら この 夏目 漱石の 『それから』のこと➡ 652 00:59:49,621 --> 00:59:52,624 詳しく 話してくれませんか? えっ? 653 00:59:52,624 --> 00:59:55,627 この中の物語のことも よく 知りたいんです。 654 00:59:55,627 --> 01:00:03,627 でも 僕は 本が読めないから。 フフフ。 655 01:00:09,641 --> 01:00:11,641 お願いします。 656 01:00:28,660 --> 01:00:32,664 もちろん。 喜んで。 657 01:00:32,664 --> 01:00:47,612 ♬~ 658 01:00:47,612 --> 01:00:50,615 夏目 漱石の 『それから』は➡ 659 01:00:50,615 --> 01:00:54,619 明治 42年に 朝日新聞に 連載された 長編小説で➡ 660 01:00:54,619 --> 01:00:59,624 『三四郎』と 『門』と 合わせて 三部作と いわれています。 661 01:00:59,624 --> 01:01:04,629 『それから』の由来は 色々な意味において…。 662 01:01:04,629 --> 01:01:21,646 ♬~ 663 01:01:21,646 --> 01:01:26,651 ♬~ 664 01:01:26,651 --> 01:01:29,654 <まさか 自分が 古書店で 働くことになるなんて➡ 665 01:01:29,654 --> 01:01:32,657 思いもしなかった> 666 01:01:32,657 --> 01:01:45,657 ♬~ 667 01:02:03,621 --> 01:02:08,626 うん? 誰だ? 668 01:02:08,626 --> 01:02:11,629 ≪(戸の開閉音) 669 01:02:11,629 --> 01:02:13,629 あっ。 670 01:02:17,635 --> 01:02:20,638 いらっしゃいませ。 (志田)誰だ? あんた。 671 01:02:20,638 --> 01:02:22,640 えっ? (志田)栞子は? 672 01:02:22,640 --> 01:02:26,644 ああ。 奥に。 ああ。 志田さん。 673 01:02:26,644 --> 01:02:28,646 ハァー。 やられた。 えっ? 674 01:02:28,646 --> 01:02:32,650 小山 清の 『落穂拾ひ』 盗まれちまった。 675 01:02:32,650 --> 01:02:35,653 ハァー。 チッ。 676 01:02:35,653 --> 01:02:38,656 こちら せどり屋の 志田さんです。 677 01:02:38,656 --> 01:02:41,659 志田さん。 今日から 働いてもらうことになった➡ 678 01:02:41,659 --> 01:02:43,661 五浦さんです。 どうも。 679 01:02:43,661 --> 01:02:46,681 せどり屋? せどり屋というのは➡ 680 01:02:46,681 --> 01:02:48,600 古書店で 安く売られている 本を買って➡ 681 01:02:48,600 --> 01:02:51,603 高く 転売する人たちのことです。 どうも。 よろしく…。 682 01:02:51,603 --> 01:02:54,606 今日は 用があって 妙本寺に 行ったんだよ。 683 01:02:54,606 --> 01:02:57,609 そしたら 着いた途端に 腹が痛くなっちまって。 684 01:02:57,609 --> 01:02:59,611 しょうがないから トイレ 借りようと思って➡ 685 01:02:59,611 --> 01:03:01,613 自転車と 荷物 置きっ放しで➡ 686 01:03:01,613 --> 01:03:03,615 寺に入ったら 後ろで がしゃんって 音がして。 687 01:03:03,615 --> 01:03:05,617 女子高生ぐらいの 女の子が➡ 688 01:03:05,617 --> 01:03:07,619 俺の自転車と ぶつかったみたいで。 689 01:03:07,619 --> 01:03:09,621 「大丈夫か?」って 声 掛けたけど 返事がねえから➡ 690 01:03:09,621 --> 01:03:11,623 「すまんが 自転車 起こしといてくれ」って➡ 691 01:03:11,623 --> 01:03:13,625 それだけ 言って その場を離れた。 692 01:03:13,625 --> 01:03:17,629 それで 用を足して 戻ってきたら➡ 693 01:03:17,629 --> 01:03:22,634 本が 1冊だけ なくなってた。 1冊だけ? 694 01:03:22,634 --> 01:03:24,636 かごには 本が たんまり 入ってたんだが➡ 695 01:03:24,636 --> 01:03:27,639 盗むやつなんか いねえだろうと 高をくくってたんだよ。 696 01:03:27,639 --> 01:03:31,643 状況からすると その女の子が 本を持ち去ったということですね? 697 01:03:31,643 --> 01:03:34,646 ああ そうだ。 間違いない。 何のために? 698 01:03:34,646 --> 01:03:38,650 そりゃあ 古い本だから 価値があると 思ったんだろ。 699 01:03:38,650 --> 01:03:41,653 きっと 売って 金に換えるつもりなんだよ。 700 01:03:41,653 --> 01:03:43,655 えっ!? 何だよ? 701 01:03:43,655 --> 01:03:47,592 あっ いや。 女子高生が 古本の 価値なんて 意識しますかね? 702 01:03:47,592 --> 01:03:49,594 しかも 本が いっぱい あるのに 1冊だけ 盗むなんて➡ 703 01:03:49,594 --> 01:03:51,596 変じゃないですか? じゃあ 他に➡ 704 01:03:51,596 --> 01:03:53,598 どんな理由があんだよ? たまたま 読みたくて➡ 705 01:03:53,598 --> 01:03:55,600 探してた 本だったとか。 『落穂拾ひ』は➡ 706 01:03:55,600 --> 01:03:57,602 そんなに 珍しい本じゃない。 探せば 簡単に 手に入る。 707 01:03:57,602 --> 01:03:59,604 自分の本と 間違えて 持っていったとか? 708 01:03:59,604 --> 01:04:02,607 だったら あの子が持ってた本が 代わりに 残ってたはずだろ。 709 01:04:02,607 --> 01:04:07,612 そっか。 うん? 710 01:04:07,612 --> 01:04:10,615 売るためでもなく 読むためでもなく➡ 711 01:04:10,615 --> 01:04:13,618 本を盗む理由なんて あるのかな? 712 01:04:13,618 --> 01:04:16,618 そこです。 713 01:04:20,625 --> 01:04:25,625 そこが この事件の ポイントだと思います。 714 01:04:27,632 --> 01:04:30,635 <これから 始まるのは➡ 715 01:04:30,635 --> 01:04:36,635 何冊かの 古い本と それを巡る 人間の話だ> 716 01:04:40,645 --> 01:04:50,645 ♬~