1 00:00:36,365 --> 00:00:40,369 (栞子) <『落穂拾ひ・聖アンデルセン』> 2 00:00:40,369 --> 00:00:43,372 <この短編集は 比較的 手に入れやすく➡ 3 00:00:43,372 --> 00:00:46,375 それほど 高価というわけでは ありません> 4 00:00:46,375 --> 00:00:49,378 <ところが なぜか 何者かによって➡ 5 00:00:49,378 --> 00:00:51,380 持ち去られてしまいました> 6 00:00:51,380 --> 00:00:55,384 <売って お金に換えることが 目的だとは 思えません> 7 00:00:55,384 --> 00:00:57,386 <また どうしても欲しくて➡ 8 00:00:57,386 --> 00:01:00,389 探していたということでも ないようです> 9 00:01:00,389 --> 00:01:06,395 <本を 売るためでもなく 読むためでもなく➡ 10 00:01:06,395 --> 00:01:10,395 盗む理由が あるとしたら それは…> 11 00:01:12,401 --> 00:01:15,401 <いったい 何なのでしょうか?> 12 00:01:19,408 --> 00:01:22,411 (大輔)いらっしゃいませ。 (志田)誰だ? あんた。 13 00:01:22,411 --> 00:01:24,413 (大輔)えっ? (志田)栞子は? 14 00:01:24,413 --> 00:01:26,415 (栞子)ああ。 志田さん。 15 00:01:26,415 --> 00:01:28,417 (志田)ハァー。 やられた。 (栞子)えっ? 16 00:01:28,417 --> 00:01:32,354 小山 清の 『落穂拾ひ』 盗まれちまった。 17 00:01:32,354 --> 00:01:35,357 ハァー。 チッ。 18 00:01:35,357 --> 00:01:38,360 (栞子)こちら せどり屋の 志田さんです。 19 00:01:38,360 --> 00:01:40,362 (大輔)せどり屋? (栞子)せどり屋というのは➡ 20 00:01:40,362 --> 00:01:42,364 古書店で 安く売られている 本を買って➡ 21 00:01:42,364 --> 00:01:45,367 高く 転売する人たちのことです。 22 00:01:45,367 --> 00:01:48,370 今日は 用があって 妙本寺に 行ったんだよ。 23 00:01:48,370 --> 00:01:51,373 そしたら 着いた途端に 腹が痛くなっちまって。 24 00:01:51,373 --> 00:01:55,377 しょうがねえから トイレを 借りようと思って 寺に入ったら➡ 25 00:01:55,377 --> 00:01:58,380 後ろで がしゃんって 音がして。 26 00:01:58,380 --> 00:02:01,383 女子高生ぐらいの 女の子が 道路に 倒れててさ。 27 00:02:01,383 --> 00:02:04,386 「大丈夫か?」って 声を 掛けたんだが➡ 28 00:02:04,386 --> 00:02:06,388 その子は こっちを 振り向きもせずに➡ 29 00:02:06,388 --> 00:02:09,391 落とした 紙袋を拾って 中身を確かめて…。 30 00:02:09,391 --> 00:02:12,394 それから 何かを 捜してるようだった。 31 00:02:12,394 --> 00:02:15,397 何をしてるのか ちょっと 気にはなったんだが➡ 32 00:02:15,397 --> 00:02:17,399 「すまんが 自転車 起こしといてくれ」って➡ 33 00:02:17,399 --> 00:02:19,401 それだけ 言って その場 離れた。 34 00:02:19,401 --> 00:02:21,403 それで 用を足して 戻ってきたら➡ 35 00:02:21,403 --> 00:02:23,405 本が 1冊だけ なくなってた。 36 00:02:23,405 --> 00:02:26,408 よりによって 『落穂拾ひ』だけな。 37 00:02:26,408 --> 00:02:28,410 その女の子が 本を 持ち去ったということですね? 38 00:02:28,410 --> 00:02:30,412 ああ そうだ。 間違いない。 何のために? 39 00:02:30,412 --> 00:02:32,347 古い本だから 価値があると 思ったんだろ。 40 00:02:32,347 --> 00:02:34,349 えっ!? 何だよ? 41 00:02:34,349 --> 00:02:36,351 女子高生が 古本の価値なんて 意識しますかね? 42 00:02:36,351 --> 00:02:38,353 じゃあ 他に どんな理由があんだよ? 43 00:02:38,353 --> 00:02:40,355 たまたま 読みたくて 探してた 本だったとか。 44 00:02:40,355 --> 00:02:42,357 『落穂拾ひ』は そんなに 珍しい本じゃない。 45 00:02:42,357 --> 00:02:44,359 自分の本と 間違えて 持っていったとか? 46 00:02:44,359 --> 00:02:48,363 だったら あの子が持ってた本が 代わりに 残ってたはずだろ。 47 00:02:48,363 --> 00:02:51,366 売るためでもなく 読むためでもなく➡ 48 00:02:51,366 --> 00:02:57,372 本を盗む理由なんて あるのかな? そこです。 49 00:02:57,372 --> 00:03:01,376 そこが この事件の ポイントだと思います。 50 00:03:01,376 --> 00:03:03,378 本を盗んだ ホントの理由が➡ 51 00:03:03,378 --> 00:03:05,380 彼女を捜す 手掛かりになるはずです。 52 00:03:05,380 --> 00:03:09,384 それを 突き止めましょう。 どうやって? 53 00:03:09,384 --> 00:03:11,386 志田さんが お手洗いから 戻ってきたとき➡ 54 00:03:11,386 --> 00:03:14,389 自転車と 他の本は どうなっていましたか? 55 00:03:14,389 --> 00:03:18,393 ちょうど 笠井が着いたところで 本を 拾い集めてくれてた。 56 00:03:18,393 --> 00:03:20,395 笠井さんって 誰ですか? せどり屋仲間だよ。 57 00:03:20,395 --> 00:03:23,398 在庫交換のために 待ち合わせてたんだ。 58 00:03:23,398 --> 00:03:26,401 慌てた様子の 女の子を 見掛けたって 言ってた。 59 00:03:26,401 --> 00:03:28,403 バス停の方に 走ってったらしい。 バス停。 60 00:03:28,403 --> 00:03:31,423 じゃあ 彼女は バスに乗りたくて 急いでたのか。 61 00:03:31,423 --> 00:03:33,342 あっ。 きっと 慌てて 走ってたから➡ 62 00:03:33,342 --> 00:03:35,344 自転車に ぶつかって 転んだんですね。 63 00:03:35,344 --> 00:03:39,348 そうですね。 笠井さんに もっと 詳しく お話を伺いましょう。 64 00:03:39,348 --> 00:03:41,350 彼女の その後の行動も 見ていたかもしれないですし。 65 00:03:41,350 --> 00:03:44,350 聞いたって どうせ 何も分かんねえよ。 66 00:03:46,355 --> 00:03:50,359 そもそも 俺の不注意が 招いた結果だし➡ 67 00:03:50,359 --> 00:03:53,362 諦めるしかねえのは 分かってんだよ。 68 00:03:53,362 --> 00:03:56,365 でも 捜せば 見つかるかもしれませんよ。 69 00:03:56,365 --> 00:03:59,368 いい。 もう いいよ。 たかが 文庫本 1冊のことで➡ 70 00:03:59,368 --> 00:04:02,371 そこまで 騒ぎ立てることはねえって。 71 00:04:02,371 --> 00:04:07,371 愚痴って 悪かったな。 じゃあ 買い取り 頼むわ。 72 00:04:19,388 --> 00:04:24,393 あのう。 この奥って 倉庫か何かですか? 73 00:04:24,393 --> 00:04:27,396 いいえ。 私の家です。 74 00:04:27,396 --> 00:04:31,366 志田さんと 住んでるんですか? はい。 75 00:04:31,366 --> 00:04:35,366 親戚なんですか? いいえ。 76 00:04:37,239 --> 00:04:42,239 えっと。 2人は どういう? 77 00:04:44,246 --> 00:04:46,248 篠川さん? 78 00:04:46,248 --> 00:04:50,252 特別なんです。 えっ!? 79 00:04:50,252 --> 00:04:53,255 『落穂拾ひ』 盗まれた本は➡ 80 00:04:53,255 --> 00:04:56,258 志田さんにとって 特別な本だったんです。 81 00:04:56,258 --> 00:05:00,262 ああ。 アハハ。 あっ そうなんですか。 82 00:05:00,262 --> 00:05:03,265 この本だけは 誰にも売らないって 言って➡ 83 00:05:03,265 --> 00:05:06,268 いつも 肌身離さず 持ち歩いていました。 84 00:05:06,268 --> 00:05:10,268 すごく 大切な本だったんだと 思います。 85 00:05:17,279 --> 00:05:22,284 僕 会ってきます。 えっ? 86 00:05:22,284 --> 00:05:25,287 笠井さんでしたっけ? 会って 話を聞いてきます。 87 00:05:25,287 --> 00:05:29,287 連絡先とか 分かりますか? ちょっと 待ってください。 88 00:05:32,327 --> 00:05:36,331 ここに メールを送れば コンタクトが 取れると思います。 89 00:05:36,331 --> 00:05:39,334 よし。 志田さんには 内緒にしておいてくださいね。 90 00:05:39,334 --> 00:05:42,337 余計なこと すんなって 怒られそうですから。 91 00:05:42,337 --> 00:05:45,340 ちょっと 借りますね。 92 00:05:45,340 --> 00:05:59,354 ♬~ 93 00:05:59,354 --> 00:06:09,354 ♬~ 94 00:08:19,394 --> 00:08:23,398 (笠井)五浦さんですか? あっ。 笠井さんですか? 95 00:08:23,398 --> 00:08:25,398 (笠井)初めまして。 96 00:08:27,402 --> 00:08:29,404 (笠井)ここです。 97 00:08:29,404 --> 00:08:31,406 ちょうど 午後 3時になったころ➡ 98 00:08:31,406 --> 00:08:33,408 僕が あの 向こうから 歩いてきたら➡ 99 00:08:33,408 --> 00:08:36,411 女の子が ここに うずくまって 何か ごそごそ やってたんです。 100 00:08:36,411 --> 00:08:39,414 こんなところで 何やってたんですか? 101 00:08:39,414 --> 00:08:41,416 背中を向けていたので よく分からなかったけど➡ 102 00:08:41,416 --> 00:08:45,420 地面に 紙袋を置いて その中に 手を突っ込んでました。 103 00:08:45,420 --> 00:08:47,422 その紙袋って 何か 特徴ありましたか? 104 00:08:47,422 --> 00:08:49,424 普通の無地の袋でしたよ。 105 00:08:49,424 --> 00:08:51,426 えんじ色の。 えんじ色。 106 00:08:51,426 --> 00:08:53,428 こんなところで 何やってるんだろうって➡ 107 00:08:53,428 --> 00:08:56,431 気にはなったんですけど もう 待ち合わせの時間だったし➡ 108 00:08:56,431 --> 00:08:58,433 そのまま 通り過ぎることにしたんです。 109 00:08:58,433 --> 00:09:01,436 そしたら いきなり 声 掛けられて。 110 00:09:01,436 --> 00:09:03,438 えっ? その子と 話したんですか? 111 00:09:03,438 --> 00:09:05,440 「はさみを 持ってないですか?」って 聞かれました。 112 00:09:05,440 --> 00:09:07,442 はさみ? 道端で➡ 113 00:09:07,442 --> 00:09:10,445 はさみを 貸してくださいなんて 聞いたことないですよね。 114 00:09:10,445 --> 00:09:13,381 本を切っちゃったんでしょうか? 115 00:09:13,381 --> 00:09:17,385 (笠井)分かりません。 袋の中身も 見えませんでした。 116 00:09:17,385 --> 00:09:19,387 あっ。 あと あの。 117 00:09:19,387 --> 00:09:22,390 はさみを 返してもらったときに 水滴が ついてました。 118 00:09:22,390 --> 00:09:25,393 水滴? ぬれてたんですか? 119 00:09:25,393 --> 00:09:28,396 (笠井)ええ。 そうなんですよ。 120 00:09:28,396 --> 00:09:31,399 はあー。 で それから すぐ彼女は➡ 121 00:09:31,399 --> 00:09:35,399 紙袋を持って 向こうの方へ 走っていきました。 122 00:09:43,411 --> 00:09:46,414 (笠井)そのまま バス停の方に 向かっていったので➡ 123 00:09:46,414 --> 00:09:49,417 「ああ。 だから 慌ててたんだ」と。 124 00:09:49,417 --> 00:09:52,420 じゃあ 彼女は バスに乗れたんですね。 125 00:09:52,420 --> 00:09:56,424 乗れたはずです。 でも 乗らなかったんです。 126 00:09:56,424 --> 00:09:59,427 えっ? どういうことですか? 127 00:09:59,427 --> 00:10:02,430 ここに着いたら 志田さんの本が 通りに 散らばっていました。➡ 128 00:10:02,430 --> 00:10:05,433 それを 拾い集めてるときに さっきのことが 気になって➡ 129 00:10:05,433 --> 00:10:07,435 もう一度 振り返ってみたんです。 130 00:10:07,435 --> 00:10:10,438 ちょうど バスが 客を乗せて 走り去るところで➡ 131 00:10:10,438 --> 00:10:14,376 なぜか バス停に 一人だけ 彼女が残っていた。 132 00:10:14,376 --> 00:10:17,379 えっ!? バス停まで 行ったのに…。 133 00:10:17,379 --> 00:10:19,381 バスに乗らなかった? 134 00:10:19,381 --> 00:10:22,384 紙袋を持って 文庫本を盗み はさみを借りて 何かを切り。 135 00:10:22,384 --> 00:10:24,386 で はさみに 水滴をつけて 返して➡ 136 00:10:24,386 --> 00:10:27,389 バス停まで 走ってったけど バスには 乗らなかった。 137 00:10:27,389 --> 00:10:30,392 いやー。 いったい 何なんですか? これ。 138 00:10:30,392 --> 00:10:32,394 バスに乗らなかったなら➡ 139 00:10:32,394 --> 00:10:34,396 彼女は 何を そんなに 慌ててたんでしょう? 140 00:10:34,396 --> 00:10:37,399 さあ? 笠井さんとは➡ 141 00:10:37,399 --> 00:10:40,402 本が 盗まれたときと 同じ時刻に 待ち合わせたんですよね? 142 00:10:40,402 --> 00:10:44,402 はい。 彼女 現れる可能性が あるかと思って。 143 00:11:03,425 --> 00:11:05,427 起きてます? チャールズ・ディケンズ。 144 00:11:05,427 --> 00:11:09,431 『我らが共通の友』 上中下巻。 はっ? 145 00:11:09,431 --> 00:11:12,367 リュシアン・フェーヴル。 アンリ=ジャン・マルタン。 『書物の出現』 上下巻。 146 00:11:12,367 --> 00:11:15,370 式場 隆三郎。 『定本 二笑亭綺譚』 147 00:11:15,370 --> 00:11:17,372 杉山 茂丸。 『百魔』 上下巻。 148 00:11:17,372 --> 00:11:19,374 フランク・レンウィック。 『とびきり哀しいスコットランド史』 149 00:11:19,374 --> 00:11:21,376 藤田 千恵子。 『愛は下剋上』 150 00:11:21,376 --> 00:11:24,376 日髙 敏隆。 『ネズミが地球を征服する?』 151 00:11:30,385 --> 00:11:33,388 何かの呪文ですか? 152 00:11:33,388 --> 00:11:37,392 昨日 志田さんから 買い取った 絶版文庫の ラインアップです。 153 00:11:37,392 --> 00:11:41,396 全て ちくま文庫と 講談社学術文庫でした。 154 00:11:41,396 --> 00:11:43,398 それが? 五浦さん。 155 00:11:43,398 --> 00:11:46,401 本を構成する パーツを 挙げてみてください。 156 00:11:46,401 --> 00:11:48,403 パーツ? はい。 157 00:11:48,403 --> 00:11:51,406 紙と 文字。 そうですね。 他には? 158 00:11:51,406 --> 00:11:55,410 他? 表紙と あと カバー。 それから? 159 00:11:55,410 --> 00:11:57,412 それだけでしょう。 ホントに? 160 00:11:57,412 --> 00:12:00,415 あの。 今 話してるのは➡ 161 00:12:00,415 --> 00:12:03,418 何で 彼女が 本を盗んだかってことですよね? 162 00:12:03,418 --> 00:12:06,421 はい。 ああ よかった。 163 00:12:06,421 --> 00:12:09,424 確認しないと 不安で。 彼女が 何をしようとしていて➡ 164 00:12:09,424 --> 00:12:12,360 何のために 本を盗んだのか➡ 165 00:12:12,360 --> 00:12:15,363 その答えが 分かったような気がします。 166 00:12:15,363 --> 00:12:17,365 えっ? 167 00:12:17,365 --> 00:12:21,369 もし 私の考えていることが 正しいとすると➡ 168 00:12:21,369 --> 00:12:24,372 彼女は やはり 本を売ろうとしたわけでも➡ 169 00:12:24,372 --> 00:12:26,374 読もうとしたわけでも ありません。 170 00:12:26,374 --> 00:12:32,380 彼女にとって 『落穂拾ひ』は 何の価値もない ただの古本です。 171 00:12:32,380 --> 00:12:34,382 でも➡ 172 00:12:34,382 --> 00:12:37,385 盗むのは 『落穂拾ひ』でなければ ならなかったんです。 173 00:12:37,385 --> 00:12:39,387 何で そう言い切れるんですか? 174 00:12:39,387 --> 00:12:43,391 たまたまっていうことも 考えられるんじゃないんですか? 175 00:12:43,391 --> 00:12:47,395 想像してみてください。 えっ? 176 00:12:47,395 --> 00:12:51,399 あなたは 今 バス停に向かって 走っています。 177 00:12:51,399 --> 00:12:56,399 とても 急いで。 えっ? ああ はい。 178 00:12:59,407 --> 00:13:03,411 あなたは どうして そんなに 急いでいるんですか? 179 00:13:03,411 --> 00:13:06,414 バスに乗りたいから。 違います。 180 00:13:06,414 --> 00:13:09,417 えっ? 違うの? もう少し 考えてください。 181 00:13:09,417 --> 00:13:14,355 うーん? もしかして バス停には すでに➡ 182 00:13:14,355 --> 00:13:17,358 バスを待っている 乗客が いるんじゃないですか? 183 00:13:17,358 --> 00:13:19,358 えっ? 184 00:13:27,368 --> 00:13:30,371 あっ! 185 00:13:30,371 --> 00:13:33,374 いました。 笠井さんと 話してるときに➡ 186 00:13:33,374 --> 00:13:35,376 バス停に座ってる客が 一人 いました。 187 00:13:35,376 --> 00:13:38,379 でも どうして? 客がいるって どうして➡ 188 00:13:38,379 --> 00:13:40,381 そう思ったんですか? 笠井さんの言葉です。 189 00:13:40,381 --> 00:13:43,384 《ちょうど バスが 客を乗せて 走り去るところで》 190 00:13:43,384 --> 00:13:47,388 彼は 単に バスが 走り去ったのではなく➡ 191 00:13:47,388 --> 00:13:50,391 客を乗せて 走り去ったと言った。 192 00:13:50,391 --> 00:13:54,395 それは つまり 最初に 彼女を見送ったとき➡ 193 00:13:54,395 --> 00:13:57,398 すでに バス停には 他の誰かが いたということです。 194 00:13:57,398 --> 00:14:02,403 はあー。 そっか。 195 00:14:02,403 --> 00:14:08,403 バス停にいたのは 高校生の 男の子だったんじゃないですか? 196 00:14:10,411 --> 00:14:14,349 えっ!? 何で 分かったんですか? 197 00:14:14,349 --> 00:14:17,352 彼女が バスに乗らなかったのは おそらく➡ 198 00:14:17,352 --> 00:14:21,356 その男の子に 会うことが 目的だったからだと思います。 199 00:14:21,356 --> 00:14:23,358 だから 彼女は 急いでいた。 200 00:14:23,358 --> 00:14:25,360 彼が バスに乗って 行ってしまう前に➡ 201 00:14:25,360 --> 00:14:31,366 何とか つかまえたかったんです。 でも…。 202 00:14:31,366 --> 00:14:34,369 僕 また あした バス停に 行ってみます。 203 00:14:34,369 --> 00:14:38,373 あっ。 本当に その男の子が 相手だったとは 限りませんけど。 204 00:14:38,373 --> 00:14:40,375 いや。 同じ時間のバスを 利用する 可能性は➡ 205 00:14:40,375 --> 00:14:43,378 じゅうぶんに あります。 あっ。 いえ。 206 00:14:43,378 --> 00:14:47,382 今のは 状況から 考えられる 推測であって 確実かどうかは。 207 00:14:47,382 --> 00:14:49,384 正しいですよ きっと。 208 00:14:49,384 --> 00:14:53,388 本を見ただけで ばあちゃんの 過去を 言い当てたんですから。 209 00:14:53,388 --> 00:14:57,388 僕は あなたの言うことを 信じます。 210 00:15:19,347 --> 00:15:23,347 (西野)何すか? あっ。 あっ いや。 211 00:15:25,353 --> 00:15:29,357 ちょっと 聞きたいことが あるんですけど。 212 00:15:29,357 --> 00:15:33,361 最近 ここで 女の子と 会いませんでしたか? 213 00:15:33,361 --> 00:15:37,365 女? はい。 同じ年くらいの。 214 00:15:37,365 --> 00:15:39,367 たぶん 君に会うために 向こうから 急いで➡ 215 00:15:39,367 --> 00:15:45,367 走ってきたと 思うんだけど。 はあ? 216 00:15:52,380 --> 00:15:55,380 あんた あいつの知り合い? 217 00:15:57,385 --> 00:16:01,389 俺に 何か 文句でもあるわけ? えっ? あっ。 そうじゃなくて。 218 00:16:01,389 --> 00:16:04,392 ちょっと 事情があって 捜してるんです。 219 00:16:04,392 --> 00:16:07,395 連絡先とか 知らないですか? 連絡先? 220 00:16:07,395 --> 00:16:11,395 あっ。 別に 怪しい者ではなくて。 あの その。 221 00:16:16,337 --> 00:16:20,337 はい。 えっ? 222 00:16:24,345 --> 00:16:27,348 いいんですか? あんた ストーカーだろ? 223 00:16:27,348 --> 00:16:30,351 いやいや。 違いますよ。 じゃあ 何? 224 00:16:30,351 --> 00:16:34,355 やくざ? あいつ 何か ヤバいことでも やってんの? 225 00:16:34,355 --> 00:16:36,355 ほら。 226 00:16:41,362 --> 00:16:44,365 この子とは 友達じゃないんですか? 227 00:16:44,365 --> 00:16:48,369 いや。 別に。 ただ 同じクラスってだけだよ。 228 00:16:48,369 --> 00:16:51,372 何の用だったんですか? 何が? 229 00:16:51,372 --> 00:16:54,375 彼女です。 何のために ここに 来たんですか? 230 00:16:54,375 --> 00:17:01,382 ああ。 ハァー。 231 00:17:01,382 --> 00:17:05,386 あいつ 前から 態度 でかくて 気に食わなかったんだよ。 232 00:17:05,386 --> 00:17:08,389 「誕生日 おめでとう」っつうからさ➡ 233 00:17:08,389 --> 00:17:11,409 「お前になんか 祝われたくねえよ。 バカ」って 言ってやったよ。 234 00:17:11,409 --> 00:17:14,328 ハハハ。 したら あいつ ぽかんとしちゃってさ➡ 235 00:17:14,328 --> 00:17:18,328 マジ ざまぁって 感じだったわ。 フッ。 236 00:17:24,338 --> 00:17:27,341 どうするんですか? えっ? 237 00:17:27,341 --> 00:17:33,347 連絡 するんですか? ハァー。 238 00:17:33,347 --> 00:17:37,351 本を盗んだのは 悪いことだけど 彼女にも 何か 事情があって➡ 239 00:17:37,351 --> 00:17:39,353 とっさに取った 行動だと思うし。 240 00:17:39,353 --> 00:17:43,357 失恋して 傷ついた 女の子を 容赦なく 追い詰めるのも➡ 241 00:17:43,357 --> 00:17:46,357 何か 大人げないっていうか。 242 00:17:48,362 --> 00:17:51,365 篠川さん。 はい。 243 00:17:51,365 --> 00:17:54,368 『落穂拾ひ』って そんなに 珍しい本では ないですよね? 244 00:17:54,368 --> 00:17:59,368 ええ。 僕 探して 買ってきます。 245 00:18:06,380 --> 00:18:09,383 すいません。 小山 清の 『落穂拾ひ』は 置いてありますか? 246 00:18:09,383 --> 00:18:11,385 (従業員)いや。 うちには ありませんね。 247 00:18:11,385 --> 00:18:13,387 そうですか。 ありがとうございました。 248 00:18:13,387 --> 00:18:16,390 すいません。 小山 清の 『落穂拾ひ』って➡ 249 00:18:16,390 --> 00:18:18,392 置いてありますか? (従業員)売れちゃったみたいですね。 250 00:18:18,392 --> 00:18:21,395 あっ。 そうですか。 (従業員)ありがとうございました。 251 00:18:21,395 --> 00:18:24,398 小山 清の 『落穂拾ひ』を 探してるんですが。 252 00:18:24,398 --> 00:18:26,400 (従業員)ちょっと ないみたいですね。 253 00:18:26,400 --> 00:18:28,402 すいません。 小山 清の…。 (従業員)うちでは➡ 254 00:18:28,402 --> 00:18:31,405 日本文学 置いてないんですよね。 ああ。 そうですか。 255 00:18:31,405 --> 00:18:33,405 ありがとうございました。 256 00:18:36,410 --> 00:18:43,410 あった。 『落穂拾ひ』 よっしゃ。 257 00:18:46,420 --> 00:18:49,423 あっ。 おう。 258 00:18:49,423 --> 00:18:53,427 何だよ? 何やってんだよ? あっ いや。 ちょっと。 259 00:18:53,427 --> 00:18:56,427 本を買いに。 本? 260 00:19:00,434 --> 00:19:02,436 戻してこい。 261 00:19:02,436 --> 00:19:06,440 えっ? 戻してこいよ。 262 00:19:06,440 --> 00:19:09,440 すいません。 263 00:19:18,386 --> 00:19:21,389 飲み 行くか? えっ? 264 00:19:21,389 --> 00:19:26,389 どうせ 暇なんだろ? ああ。 はい。 265 00:19:30,398 --> 00:19:33,401 『落穂拾ひ』って どんな本なんですか? 266 00:19:33,401 --> 00:19:36,404 主人公は 貧乏小説家の男だ。 267 00:19:36,404 --> 00:19:40,408 何するわけでもなく 淡々と 毎日を過ごしてるんだが➡ 268 00:19:40,408 --> 00:19:45,413 ある日 男は 古本屋を経営する 若い娘と知り合う。 269 00:19:45,413 --> 00:19:48,416 それで 彼女から 誕生日プレゼントに➡ 270 00:19:48,416 --> 00:19:52,420 爪切りと 耳かきを もらうんだ。 爪切りと 耳かき。 271 00:19:52,420 --> 00:19:54,422 ああ。 それで? 272 00:19:54,422 --> 00:19:56,424 終わりだ。 えっ? 273 00:19:56,424 --> 00:20:00,428 まあ 若い娘が現れて 優しくしてくれるなんて➡ 274 00:20:00,428 --> 00:20:04,432 ただの願望だよな。 あるわけねえって。 275 00:20:04,432 --> 00:20:08,436 でも そういうことが 分かってて➡ 276 00:20:08,436 --> 00:20:11,455 作者も あの話を書いたんだろうぜ。 277 00:20:11,455 --> 00:20:14,455 だから いいんだよ。 278 00:20:17,378 --> 00:20:21,382 実は 俺 ホームレスだったんだよ。 えっ? 279 00:20:21,382 --> 00:20:24,385 ある日 突然 会社が倒産しちまってな。 280 00:20:24,385 --> 00:20:28,389 家のローンは 払えなくなるし 家族には 出てかれるし。 281 00:20:28,389 --> 00:20:32,393 何だか もう 何もかも どうでもよくなって。 282 00:20:32,393 --> 00:20:35,396 全部 捨てちまうことにしたんだ。 283 00:20:35,396 --> 00:20:39,400 でも いざ 家を出るときになって➡ 284 00:20:39,400 --> 00:20:44,405 なぜか ふと 『落穂拾ひ』を 手に取ったんだ。 285 00:20:44,405 --> 00:20:46,407 いや。 そんときは 別に➡ 286 00:20:46,407 --> 00:20:48,409 強い思い入れが あったわけじゃねえんだよ。 287 00:20:48,409 --> 00:20:52,413 何となく これは 持っていくかって思って。 288 00:20:52,413 --> 00:20:55,416 でも それから 何年も 時間がたって➡ 289 00:20:55,416 --> 00:20:58,419 何度も 何度も 繰り返し 読んでるうちに➡ 290 00:20:58,419 --> 00:21:02,423 意味合いが 少しずつ 変わっていった。 291 00:21:02,423 --> 00:21:04,425 意味合い? 292 00:21:04,425 --> 00:21:08,429 何ていうか いつしか その本が➡ 293 00:21:08,429 --> 00:21:11,399 自分が生きてきた それまでの人生の➡ 294 00:21:11,399 --> 00:21:17,271 象徴っていうか。 幸せな生活が 確かに➡ 295 00:21:17,271 --> 00:21:20,274 そこに あったんだってことを 確認できる➡ 296 00:21:20,274 --> 00:21:24,278 唯一の証しみたいに なってったんだ。 297 00:21:24,278 --> 00:21:28,282 フッ。 フフッ。 298 00:21:28,282 --> 00:21:30,284 まあ 俺にとっちゃ➡ 299 00:21:30,284 --> 00:21:33,287 代わりの利かねえ お守りだったってことよ。 300 00:21:33,287 --> 00:21:37,291 だから 同じ本を 買ったところで それは まったくの別物。 301 00:21:37,291 --> 00:21:40,291 何の意味も ねえんだよ。 302 00:21:42,296 --> 00:21:44,296 ああー。 303 00:21:48,302 --> 00:21:55,309 フッ。 おい。 そんな顔 すんな。 これは あれだ。 304 00:21:55,309 --> 00:21:58,312 神様が そろそろ 過去を 引きずるのは やめて➡ 305 00:21:58,312 --> 00:22:02,316 前に進めって 言ってんのかもしんねえな。 306 00:22:02,316 --> 00:22:21,369 ♬~ 307 00:22:21,369 --> 00:22:26,374 ♬~ 308 00:22:26,374 --> 00:22:28,376 [TEL](呼び出し音) 309 00:22:28,376 --> 00:22:30,378 あっ。 [TEL](奈緒のアナウンス)「小菅です」➡ 310 00:22:30,378 --> 00:22:34,382 「メッセージを お願いします」 [TEL](発信音) 311 00:22:34,382 --> 00:22:36,382 もしもし。 312 00:22:42,390 --> 00:22:45,393 ≪(戸の開閉音) 313 00:22:45,393 --> 00:22:48,396 (文也)おかえり。 あれ? 栞子は? 314 00:22:48,396 --> 00:22:50,398 (文也)五浦さんと一緒に 出掛けたよ。 315 00:22:50,398 --> 00:22:52,400 そっか。 316 00:22:52,400 --> 00:22:57,405 (さやか)いらっしゃいませ。 どうも。 317 00:22:57,405 --> 00:23:00,408 (亜弥)ご注文は お連れさまが みえてからにしますか? 318 00:23:00,408 --> 00:23:04,412 いえ。 あっ。 じゃあ 抹茶を お願いします。 319 00:23:04,412 --> 00:23:06,414 (亜弥)はい。 私も。 320 00:23:06,414 --> 00:23:09,417 (亜弥)かしこまりました。 321 00:23:09,417 --> 00:23:12,353 フゥー。 (藤波)誰 待ってんの? 322 00:23:12,353 --> 00:23:15,356 ああ。 ちょっと。 (藤波)ちょっと? 323 00:23:15,356 --> 00:23:18,356 ちょっと。 (藤波)よし。 324 00:23:22,363 --> 00:23:26,367 来ますかね? どうでしょう? 325 00:23:26,367 --> 00:23:30,367 でも 待ってみましょう。 はい。 326 00:23:38,379 --> 00:23:42,379 ハァー。 (藤波)来ないねぇ。 327 00:23:45,386 --> 00:23:49,390 (藤波)ビブリア古書堂って 相当 古いよね? 328 00:23:49,390 --> 00:23:51,392 はい。 (藤波)ずいぶん お若いけど➡ 329 00:23:51,392 --> 00:23:55,396 いつ 店主になったの? おととしに 父が他界してから➡ 330 00:23:55,396 --> 00:23:57,398 後を継ぎました。 (藤波)ふーん。 331 00:23:57,398 --> 00:23:59,400 (藤波)で 誰 待ってんの? 332 00:23:59,400 --> 00:24:02,400 いや。 ちょっと。 (藤波)よし。 333 00:24:14,348 --> 00:24:19,353 (奈津実)これ どうぞ。 悪い。 長居しちゃって。 334 00:24:19,353 --> 00:24:22,356 (奈津実)いいえ。 (藤波)誰 待ってんの? 335 00:24:22,356 --> 00:24:28,362 ああ。 ちょ…。 よし。 よし。 336 00:24:28,362 --> 00:24:31,362 (奈津実)あっ。 どうぞ ごゆっくり。 337 00:24:33,367 --> 00:24:37,371 やっぱり 来ませんね。 338 00:24:37,371 --> 00:24:41,375 これ 飲んだら 行きましょうか。 339 00:24:41,375 --> 00:24:53,387 ♬~ 340 00:24:53,387 --> 00:24:55,389 フゥー。 注文なら➡ 341 00:24:55,389 --> 00:24:58,392 さっきも チェックしましたよ。 ああ いや。 342 00:24:58,392 --> 00:25:00,394 小菅さんから 返信が 来ていないかなと思って。 343 00:25:00,394 --> 00:25:05,399 電話の折り返しも ないですよね? ええ。 344 00:25:05,399 --> 00:25:08,402 ≪(戸の開閉音) 345 00:25:08,402 --> 00:25:11,402 あっ。 いらっしゃいませ。 346 00:25:24,351 --> 00:25:28,355 (女性)何ですか? あっ。 お好きなんですか? 347 00:25:28,355 --> 00:25:30,355 加田 伶太郎。 348 00:25:32,359 --> 00:25:35,362 はい。 お若いのに 珍しいですね。 349 00:25:35,362 --> 00:25:37,364 古書店にも よく いらっしゃるんですか? 350 00:25:37,364 --> 00:25:42,369 そうですね。 たまに。 351 00:25:42,369 --> 00:25:48,375 7,800円です。 えっ? そんなに 高いの? 352 00:25:48,375 --> 00:25:51,378 ええ。 この本は 純文学者の 福永 武彦が…。 353 00:25:51,378 --> 00:25:56,378 こんな ぼろい本が 7,800円!? 元は 1,000円も しないのに? 354 00:26:02,389 --> 00:26:06,389 持ち合わせがないんで また 今度にします。 355 00:26:08,395 --> 00:26:10,395 待ってください。 356 00:26:14,335 --> 00:26:18,339 もしかして 古書店に 来たのは➡ 357 00:26:18,339 --> 00:26:21,339 今日が 初めてなんじゃないですか? 358 00:26:23,344 --> 00:26:28,349 加田 伶太郎が好きで 普段から 古書店に 出入りしている人なら➡ 359 00:26:28,349 --> 00:26:31,349 この本の相場は 知っているはずです。 360 00:26:34,355 --> 00:26:40,361 あなた 小菅 奈緒さんでしょう? えっ? 361 00:26:40,361 --> 00:26:54,375 ♬~ 362 00:26:54,375 --> 00:26:58,379 (奈緒)そうだけど。 だから 何? 363 00:26:58,379 --> 00:27:10,379 ♬~ 364 00:28:44,384 --> 00:28:46,386 何で 私のアドレス 知ってんの? それは…。 365 00:28:46,386 --> 00:28:49,389 (奈緒)勝手に 盗み見でも したわけ? 366 00:28:49,389 --> 00:28:53,393 あなたの クラスメートに 聞いたんです。 367 00:28:53,393 --> 00:28:56,396 (奈緒)クラスメート? 誰? 368 00:28:56,396 --> 00:29:02,396 あっ。 えっと。 バス停で 会って。 369 00:29:04,404 --> 00:29:08,408 西野。 370 00:29:08,408 --> 00:29:10,410 あの本のこと 話したの? 371 00:29:10,410 --> 00:29:17,410 話してません。 でも すぐに 連絡先を 教えてくれました。 372 00:29:22,422 --> 00:29:26,422 『落穂拾ひ』を 持っていったのは あなたですよね? 373 00:29:28,428 --> 00:29:31,431 (奈緒)知らない。 メールにも 書いたけど➡ 374 00:29:31,431 --> 00:29:33,433 あの本は すごく 大事なものなんです。 375 00:29:33,433 --> 00:29:36,436 (奈緒)知らない。 お願いします。 376 00:29:36,436 --> 00:29:38,438 返してもらえませんか? (奈緒)だから 知らないって➡ 377 00:29:38,438 --> 00:29:40,440 言ってんでしょ! もう ほっといてよ!➡ 378 00:29:40,440 --> 00:29:42,459 何も分かってないくせに。 あんたなんか➡ 379 00:29:42,459 --> 00:29:44,378 何があったか 何にも知らないくせに! 380 00:29:44,378 --> 00:29:46,380 ちょっ ちょっと 落ち着いてください。 分かります。 381 00:29:46,380 --> 00:29:48,382 えっ? 382 00:29:48,382 --> 00:29:53,387 何があったか だいたい 分かります。 383 00:29:53,387 --> 00:29:57,391 だから 私たちは あなたを 責めるつもりはありません。 384 00:29:57,391 --> 00:30:02,391 本が返ってきてくれれば それでいいと 思っています。 385 00:30:08,402 --> 00:30:15,402 何が どう 分かってんの? ほら。 説明してよ。 386 00:30:22,416 --> 00:30:25,419 あの日 あなたは 同じクラスの 西野さんの➡ 387 00:30:25,419 --> 00:30:29,423 誕生日プレゼントに お菓子を 作りました。 388 00:30:29,423 --> 00:30:31,425 お菓子? はい。 389 00:30:31,425 --> 00:30:34,428 はさみの水滴は 溶けかけた 保冷剤に➡ 390 00:30:34,428 --> 00:30:36,430 ついていたものだったのでは ないでしょうか。 391 00:30:36,430 --> 00:30:38,432 保冷剤? 392 00:30:38,432 --> 00:30:46,373 誕生日 紙袋 保冷剤。 これらを 考え合わせると➡ 393 00:30:46,373 --> 00:30:52,373 中身は 手作りの お菓子だろうと 思ったんです。 394 00:30:58,385 --> 00:31:03,390 あなたは それを ラッピングして えんじ色の リボンで飾り➡ 395 00:31:03,390 --> 00:31:06,393 紙袋に入れて 家を出ました。 396 00:31:06,393 --> 00:31:09,396 西野さんが いつも 近所の バス停から➡ 397 00:31:09,396 --> 00:31:11,398 バスに乗っているのを 知っていたから➡ 398 00:31:11,398 --> 00:31:14,401 そこへ 向かったんです。 399 00:31:14,401 --> 00:31:18,405 ところが お寺の前で あなたは➡ 400 00:31:18,405 --> 00:31:22,409 自転車に ぶつかって 袋を落としてしまいました。 401 00:31:22,409 --> 00:31:24,411 《おい。 大丈夫か?》 402 00:31:24,411 --> 00:31:27,414 中を確認すると お菓子は 無事なようでしたが➡ 403 00:31:27,414 --> 00:31:29,416 ラッピングが 崩れていました。 404 00:31:29,416 --> 00:31:33,420 たぶん リボンの結び目に 付いていた 飾り。 405 00:31:33,420 --> 00:31:35,422 造花か何かが 取れたんでしょう。 406 00:31:35,422 --> 00:31:38,425 それを もう一度 固定するためには➡ 407 00:31:38,425 --> 00:31:42,446 ひもが 必要でした。 ひも? 408 00:31:42,446 --> 00:31:44,446 はい。 409 00:32:00,380 --> 00:32:02,382 あれ? 410 00:32:02,382 --> 00:32:05,385 《本を構成する パーツを 挙げてみてください》 411 00:32:05,385 --> 00:32:08,388 あっ! 『落穂拾ひ』には➡ 412 00:32:08,388 --> 00:32:12,392 スピンといわれる えんじ色の しおりが 付いているんです。 413 00:32:12,392 --> 00:32:14,394 パーツって そういうことだったんですね。 414 00:32:14,394 --> 00:32:18,398 昔は たいていの文庫に スピンが 付いていたんですが➡ 415 00:32:18,398 --> 00:32:24,404 今は もう この形のものは 新潮文庫にしか ありません。 416 00:32:24,404 --> 00:32:29,409 あなたは➡ 417 00:32:29,409 --> 00:32:35,415 その スピンが欲しくて➡ 418 00:32:35,415 --> 00:32:38,418 本を盗んだんです。 419 00:32:38,418 --> 00:32:55,369 ♬~ 420 00:32:55,369 --> 00:32:58,372 (奈緒)どっかで 見てたの? 421 00:32:58,372 --> 00:33:00,372 いいえ。 422 00:33:02,376 --> 00:33:04,378 (奈緒)じゃあ 何で リボンの色とか➡ 423 00:33:04,378 --> 00:33:06,380 飾りのことまで。➡ 424 00:33:06,380 --> 00:33:08,382 袋の中身は 私しか 知らないのに。➡ 425 00:33:08,382 --> 00:33:10,384 西野だって 見てないのに! 426 00:33:10,384 --> 00:33:14,388 スピンを使ったことに 気付けば リボンの色も 察しがつきます。 427 00:33:14,388 --> 00:33:16,390 紙袋も えんじ色でしたし。 428 00:33:16,390 --> 00:33:20,394 それに 文庫本のスピンは 決して 長くありません。 429 00:33:20,394 --> 00:33:24,394 直せるものは 限られています。 430 00:33:26,400 --> 00:33:31,405 最初 あなたは スピンを 手で ちぎろうとしたはずです。 431 00:33:31,405 --> 00:33:36,410 でも あれは そう簡単には 取れない作りになっています。 432 00:33:36,410 --> 00:33:40,414 仕方なく 通り掛かった 男性に はさみを借り➡ 433 00:33:40,414 --> 00:33:42,432 スピンを切り取って 作業を終えた。 434 00:33:42,432 --> 00:33:46,353 おそらく その際に はさみが 保冷剤に接触して➡ 435 00:33:46,353 --> 00:33:49,356 水滴が ついたんです。 436 00:33:49,356 --> 00:33:53,360 本は すでに 用済みでしたが 男性に見られていたので➡ 437 00:33:53,360 --> 00:33:56,363 その場で 捨てることができなかった。 438 00:33:56,363 --> 00:34:00,367 それで とにかく プレゼントを 渡そうと➡ 439 00:34:00,367 --> 00:34:06,373 あなたは 本を隠し持ったまま バス停へ 向かいました。 440 00:34:06,373 --> 00:34:08,373 でも…。 441 00:34:13,380 --> 00:34:21,380 でも プレゼントは 受け取ってもらえなかった。 442 00:34:26,393 --> 00:34:28,393 すごいね。 443 00:34:37,404 --> 00:34:42,404 本を 返してもらえますか? 444 00:34:44,344 --> 00:34:48,344 僕が あなたの家まで 取りに行きますから。 445 00:34:51,351 --> 00:34:55,355 (奈緒)駄目。 えっ? 446 00:34:55,355 --> 00:34:59,359 今は 返せない。 447 00:34:59,359 --> 00:35:04,364 返さないって どういうことですか? 448 00:35:04,364 --> 00:35:06,366 いくら 何でも 人のものを とっておいて➡ 449 00:35:06,366 --> 00:35:08,368 その態度は ないんじゃない…。 (奈緒)うるさいな! 450 00:35:08,368 --> 00:35:11,371 偉そうに 説教しないでよ。 451 00:35:11,371 --> 00:35:14,374 返せないものは 返せないんだよ! 452 00:35:14,374 --> 00:35:17,377 ちょっ。 ちょっと 待てって。 ちょっと。 453 00:35:17,377 --> 00:35:20,380 大丈夫です。 えっ? 454 00:35:20,380 --> 00:35:28,388 彼女は また 戻ってきます。 だから 大丈夫です。 455 00:35:28,388 --> 00:35:41,401 ♬~ 456 00:35:41,401 --> 00:35:44,337 あっ! おう。 457 00:35:44,337 --> 00:35:47,340 どこ 行ってたんだよ? あの。 ちょっと 散歩に。 458 00:35:47,340 --> 00:35:50,343 散歩? ああ はい。 459 00:35:50,343 --> 00:35:52,345 あっ。 志田さんは 買い物ですか? 460 00:35:52,345 --> 00:35:55,348 散歩してたのか? あっ はい。 461 00:35:55,348 --> 00:35:59,352 あっ? あっ。 462 00:35:59,352 --> 00:36:05,352 お前ら 何 こそこそ やってんだよ? 463 00:36:10,363 --> 00:36:14,363 黙ってて すいませんでした。 464 00:36:17,370 --> 00:36:22,375 お前も 食ってけ。 はっ? 465 00:36:22,375 --> 00:36:24,375 どうせ 暇なんだろ? 466 00:36:31,384 --> 00:36:34,387 ありがとうございます。 467 00:36:34,387 --> 00:36:38,391 食事って いつも 志田さんが 作られてるんですか? 468 00:36:38,391 --> 00:36:43,330 飯だけじゃねえよ。 掃除も 洗濯も 全部 俺が やってる。 469 00:36:43,330 --> 00:36:46,333 えっ? 志田さんと 篠川さんって いったい➡ 470 00:36:46,333 --> 00:36:49,336 どういう関係なんですか? どうも こうも 赤の他人だよ。 471 00:36:49,336 --> 00:36:51,338 じゃあ 何で 一緒に住んでるんですか? 472 00:36:51,338 --> 00:36:55,342 ホームレス やりながら 店に 本 持ち込んでたら➡ 473 00:36:55,342 --> 00:36:59,346 栞子の母親に。 まあ 何か 役に立つと 思ったんだろうな。 474 00:36:59,346 --> 00:37:01,348 タダで 部屋 使っていいって 言われて➡ 475 00:37:01,348 --> 00:37:04,351 何となく それから 住み着いちまった。 476 00:37:04,351 --> 00:37:08,351 お母さんって どこに いらっしゃるんですか? 477 00:37:15,362 --> 00:37:19,366 (文也)腹 減った。 飯 まだ? あっ。 お邪魔してます。 478 00:37:19,366 --> 00:37:22,369 どうも。 文也。 セッティング 手伝ってくれ。 479 00:37:22,369 --> 00:37:25,369 僕も 手伝いますね。 480 00:37:28,375 --> 00:37:34,381 ≪(戸の開閉音) (文也)あれ? 誰だ? 今ごろ。➡ 481 00:37:34,381 --> 00:37:36,383 もう 閉店ですよ。➡ 482 00:37:36,383 --> 00:37:39,386 えっ? ちょっと 閉店だって 言ってるでしょ?➡ 483 00:37:39,386 --> 00:37:41,388 勝手に 入らないでくださいよ! 484 00:37:41,388 --> 00:37:48,328 《大丈夫です。 彼女は また 戻ってきます》 485 00:37:48,328 --> 00:37:50,330 あっ。 486 00:37:50,330 --> 00:37:53,333 (奈緒)志田って人に 用があるんだよ。 もう 放してよ。 487 00:37:53,333 --> 00:37:55,335 (文也)用があるなら 名を名乗れ。 488 00:37:55,335 --> 00:37:57,337 ちょっと 待った。 (奈緒)はあ? 489 00:37:57,337 --> 00:38:00,340 ちょっと 待った。 あっ。 490 00:38:00,340 --> 00:38:05,340 今 志田さん 呼んできますから ちょっと 待っててください。 491 00:39:51,384 --> 00:39:58,391 どうして 分かったんですか? 彼女が 戻ってくるって。 492 00:39:58,391 --> 00:40:01,394 本を読んでいたんです。 えっ? 493 00:40:01,394 --> 00:40:03,396 小菅さんは あのとき。 494 00:40:03,396 --> 00:40:05,398 《今は 返せない》 495 00:40:05,398 --> 00:40:08,401 本を 返さないとは 言わなかった。 496 00:40:08,401 --> 00:40:13,406 「今は 返せない」って 言ったんです。 497 00:40:13,406 --> 00:40:17,410 ということは 本は処分していない。 498 00:40:17,410 --> 00:40:20,413 そして 返す意思もある。 499 00:40:20,413 --> 00:40:24,417 きっと 本を読んでいる 途中だったんです。 500 00:40:24,417 --> 00:40:29,417 『落穂拾ひ』を? はい。 501 00:40:41,367 --> 00:40:44,367 (奈緒)ごめんなさい。 502 00:40:48,374 --> 00:40:51,374 それと…。 503 00:40:56,382 --> 00:40:59,385 何だよ? 504 00:40:59,385 --> 00:41:02,385 ≪(奈緒)おわびの気持ちです。 505 00:41:23,409 --> 00:41:26,409 読んだのか? 506 00:41:31,417 --> 00:41:40,417 この話って 願望 全開だよね。 こんな女 いねえよ。 507 00:41:43,363 --> 00:41:53,373 でも 願望だって 分かってて あえて 書いてる。 508 00:41:53,373 --> 00:41:59,373 それが はっきりしてるから いい話なのかなって思った。 509 00:42:01,381 --> 00:42:03,383 《そういうことが 分かってて➡ 510 00:42:03,383 --> 00:42:07,387 作者も あの話を書いたんだろうぜ》 511 00:42:07,387 --> 00:42:10,387 《だから いいんだよ》 512 00:42:22,402 --> 00:42:29,409 かわいそうにな。 それは どうしても 直らなくて。 513 00:42:29,409 --> 00:42:34,414 本当に ごめんなさい。 本のことじゃねえよ。 514 00:42:34,414 --> 00:42:38,418 あんたのことだよ。 515 00:42:38,418 --> 00:42:42,355 こんなことまでして 頑張ったのに➡ 516 00:42:42,355 --> 00:42:45,358 プレゼント 受け取ってもらえなかったんだろ。 517 00:42:45,358 --> 00:42:55,368 ♬~ 518 00:42:55,368 --> 00:42:57,368 どうでもいい。 519 00:42:59,372 --> 00:43:03,372 あんなこと もう どうだっていい。 520 00:43:06,379 --> 00:43:09,379 どうでもよくはねえよ。 521 00:43:11,384 --> 00:43:15,388 あんたは 気持ちを 踏みにじられて 傷ついた。 522 00:43:15,388 --> 00:43:18,391 それは 間違いねえことだ。 523 00:43:18,391 --> 00:43:20,393 そんな 嘘をつくことは ねえんだよ。 524 00:43:20,393 --> 00:43:23,396 私は 嘘なんか。 525 00:43:23,396 --> 00:43:25,398 ≪そんな強がり 言わなくても➡ 526 00:43:25,398 --> 00:43:30,403 普段のあんたと 関わりのある 人間は ここにはいねえ。 527 00:43:30,403 --> 00:43:37,403 なあ? もし よかったら 俺に話してみねえか? 528 00:43:41,347 --> 00:43:45,347 あんなこと 話したって 意味ない。 529 00:43:47,353 --> 00:43:49,355 何の役にも立たない。 530 00:43:49,355 --> 00:43:54,360 まっ 大して 役には立たねえかもな。 531 00:43:54,360 --> 00:44:01,367 でもよ 誰かに話すだけで 気が 楽になるってこともあるぜ。 532 00:44:01,367 --> 00:44:07,373 ほら。 『落穂拾ひ』にも あったろう。 533 00:44:07,373 --> 00:44:11,377 「何かの役に立つということを 抜きにして➡ 534 00:44:11,377 --> 00:44:16,382 僕たちが お互いに 必要とし合う 間柄になれたら➡ 535 00:44:16,382 --> 00:44:20,386 どんなに いいことだろう」ってな。 536 00:44:20,386 --> 00:44:26,392 甘ったるいけど 胸に染みる 言葉じゃねえか。 537 00:44:26,392 --> 00:44:28,392 フッ。 538 00:44:30,396 --> 00:44:32,396 なあ? 539 00:44:34,400 --> 00:44:51,350 ♬~ 540 00:44:51,350 --> 00:45:11,370 ♬~ 541 00:45:11,370 --> 00:45:23,382 ♬~ 542 00:45:23,382 --> 00:45:27,382 (奈緒)《お誕生日 おめでとう》 543 00:45:31,390 --> 00:45:35,394 《お前になんか 祝われたくねえよ。 バーカ》 544 00:45:35,394 --> 00:45:51,344 ♬~ 545 00:45:51,344 --> 00:46:01,354 ♬~ 546 00:46:01,354 --> 00:46:18,371 (泣き声) 547 00:46:18,371 --> 00:46:31,384 ♬~ 548 00:46:31,384 --> 00:46:51,337 ♬~ 549 00:46:51,337 --> 00:47:11,357 ♬~ 550 00:47:11,357 --> 00:47:22,368 ♬~ 551 00:47:22,368 --> 00:47:26,372 今日は ごちそうさまでした。 意外でした。 552 00:47:26,372 --> 00:47:31,377 えっ? 『落穂拾ひ』のこと。 553 00:47:31,377 --> 00:47:34,380 五浦さんが あんなに 一生懸命になるなんて。 554 00:47:34,380 --> 00:47:39,380 ああ。 アハハ。 555 00:47:41,320 --> 00:47:45,324 たぶん 『それから』のことが あったからだと思います。 556 00:47:45,324 --> 00:47:47,326 『それから』? 『落穂拾ひ』が➡ 557 00:47:47,326 --> 00:47:50,329 志田さんにとって 特別な本だって 聞いて➡ 558 00:47:50,329 --> 00:47:52,331 もしかしたら 僕にとっての➡ 559 00:47:52,331 --> 00:47:55,334 『それから』と 同じなのかなって 思ったんです。 560 00:47:55,334 --> 00:47:59,338 だとしたら 失ってしまうのは あまりにも 悲しいし➡ 561 00:47:59,338 --> 00:48:04,343 どうにか 取り戻してあげたいって 思ったんです。 562 00:48:04,343 --> 00:48:09,348 篠川さん 古い本が 好きだって 言いましたよね。 563 00:48:09,348 --> 00:48:12,351 中に書かれている 物語だけじゃなく➡ 564 00:48:12,351 --> 00:48:16,355 本 そのものにも 物語があるって。 565 00:48:16,355 --> 00:48:18,357 はい。 566 00:48:18,357 --> 00:48:23,357 何となく その意味が 分かったような気がします。 567 00:48:31,370 --> 00:48:35,374 まあ 僕は 本が読めないですけど。 568 00:48:35,374 --> 00:48:40,313 フフフ。 569 00:48:40,313 --> 00:48:44,317 ああ。 寒いのに すいません。 あっ。 大丈夫です。 570 00:48:44,317 --> 00:48:50,323 では また あした。 はい。 よろしく お願いします。 571 00:48:50,323 --> 00:48:53,326 よろしく お願いします。 572 00:48:53,326 --> 00:49:11,344 ♬~ 573 00:49:11,344 --> 00:49:26,359 ♬~ 574 00:49:26,359 --> 00:49:33,366 ♬~ 575 00:49:33,366 --> 00:49:43,366 ♬~