1 00:00:33,819 --> 00:00:35,821 (大輔)篠川さんは 脅迫されてるんです。➡ 2 00:00:35,821 --> 00:00:40,826 『晩年』の初版本を狙った 異常な男から。 それは➡ 3 00:00:40,826 --> 00:00:43,829 笠井さん。 あなたなんでしょ? 4 00:00:43,829 --> 00:00:45,831 (大輔)うわっ。 ああ。 5 00:00:45,831 --> 00:00:47,831 (メールの着信音) 6 00:00:50,836 --> 00:00:53,839 [TEL](メールの着信音) 7 00:00:53,839 --> 00:01:06,852 ♬~ 8 00:01:06,852 --> 00:01:13,859 ♬~ 9 00:01:13,859 --> 00:01:15,861 (大輔)ヤベッ。 10 00:01:15,861 --> 00:01:31,861 ♬~ 11 00:01:37,816 --> 00:01:39,816 (大輔)篠川さん! 12 00:01:52,831 --> 00:01:55,834 (笠井)動かない方がいい。 13 00:01:55,834 --> 00:01:58,837 君からも この女に 言ってくれないか? 14 00:01:58,837 --> 00:02:01,837 おとなしく 『晩年』を渡すように。 15 00:02:03,842 --> 00:02:06,845 (笠井)長谷の文学館で その本と 対面したときは➡ 16 00:02:06,845 --> 00:02:10,849 感動で 体が震えたよ。➡ 17 00:02:10,849 --> 00:02:13,852 それから 毎日 毎日 再会できる日を 夢 見て➡ 18 00:02:13,852 --> 00:02:18,857 ここまで きたんだ。 もう 二度と 離れる気はないよ。 19 00:02:18,857 --> 00:02:20,859 何でだよ? 20 00:02:20,859 --> 00:02:23,862 たかが 本で ここまですること ないだろ! 21 00:02:23,862 --> 00:02:26,862 たかが? 22 00:02:28,867 --> 00:02:33,806 この本は 他の本とは違う。 特別なんだ! 23 00:02:33,806 --> 00:02:38,811 こんな 完璧な形で残ってるなんて 奇跡としか 言いようがない。 24 00:02:38,811 --> 00:02:44,817 その価値が 分からないなんて こっちの方が 理解に苦しむね。 25 00:02:44,817 --> 00:02:47,820 だからって 人から 無理やり 奪って いいっていうのか? 26 00:02:47,820 --> 00:02:52,825 別に いいんじゃないか? この本にだって 書いてあるだろ。 27 00:02:52,825 --> 00:02:54,827 (笠井)「自信モテ 生キヨ➡ 28 00:02:54,827 --> 00:02:59,832 生キトシ 生クルモノ スベテ コレ 罪ノ子ナレバ」 29 00:02:59,832 --> 00:03:04,837 これは 僕のような人間を 祝福する言葉だ。 30 00:03:04,837 --> 00:03:09,842 僕はね 本さえあれば 他には 何も いらない。 31 00:03:09,842 --> 00:03:18,851 家族も 友人も 財産も。 名前だって いらない。 32 00:03:18,851 --> 00:03:21,854 だから たとえ どんな犠牲を払っても➡ 33 00:03:21,854 --> 00:03:24,857 何年 何十年 かかったとしても➡ 34 00:03:24,857 --> 00:03:27,857 絶対に この本が欲しいんだよ! 35 00:03:31,880 --> 00:03:34,800 この女だって 僕と 似たようなもんさ。 36 00:03:34,800 --> 00:03:37,803 同じ においがする。 37 00:03:37,803 --> 00:03:40,803 (栞子)私は あなたとは違います。 38 00:03:43,809 --> 00:03:49,815 (栞子)私には 古い本より 大切なことがあります。➡ 39 00:03:49,815 --> 00:03:55,821 だから もう 終わりに するべきなんです。 40 00:03:55,821 --> 00:04:02,828 (栞子)たぶん 太宰は 誰かを励ますために➡ 41 00:04:02,828 --> 00:04:05,831 本に メッセージを書いて 贈ったんです。 42 00:04:05,831 --> 00:04:11,831 なのに この本のせいで 私は ケガをしました。 43 00:04:14,840 --> 00:04:18,844 70年の時を経て➡ 44 00:04:18,844 --> 00:04:24,850 この本は 太宰が 生きていたころとは 程遠い➡ 45 00:04:24,850 --> 00:04:28,850 誰も幸せにならないものに なってしまった。 46 00:04:41,800 --> 00:04:47,806 この本が 全ての元凶なんです。 だから…。 47 00:04:47,806 --> 00:04:50,806 全てを 終わりにします。 48 00:04:55,814 --> 00:04:58,817 やめろ! 49 00:04:58,817 --> 00:05:08,817 ♬~ 50 00:05:28,847 --> 00:05:35,787 ♬~ 51 00:05:35,787 --> 00:05:39,791 ああー! 52 00:05:39,791 --> 00:05:59,791 (絶叫) 53 00:06:06,818 --> 00:06:08,818 んっ! 54 00:06:41,787 --> 00:06:48,794 (笠井)あの 『晩年』 もともとは 僕の祖父の 持ち物だったんだ。➡ 55 00:06:48,794 --> 00:06:52,798 祖父は 熱心な 古書の コレクターだった。➡ 56 00:06:52,798 --> 00:06:55,801 でも あるとき 会社の経営が 危うくなって➡ 57 00:06:55,801 --> 00:06:59,805 コレクションを 全て 売り払ってしまった。 58 00:06:59,805 --> 00:07:03,809 その中に あの 『晩年』も 入っていたんだ。➡ 59 00:07:03,809 --> 00:07:07,813 あれだけは 命に代えても 手放すべきでは なかった。 60 00:07:07,813 --> 00:07:13,819 気付いたら 祖父の代わりに あの 『晩年』を 取り戻すことが➡ 61 00:07:13,819 --> 00:07:17,823 僕の使命だと 感じるように なっていったんだ。➡ 62 00:07:17,823 --> 00:07:26,832 あの女は 僕と 同類だと思ってた。 でも ただの 勘違いだった。 63 00:07:26,832 --> 00:07:31,853 あの女は 本に 愛情など 持ってなかったんだ。 64 00:07:31,853 --> 00:07:36,853 篠川さんは 誰よりも 本を愛してる。 65 00:07:38,777 --> 00:07:44,783 古書を愛する人間なら 絶対に 燃やしたりなんかしない! 66 00:07:44,783 --> 00:07:46,785 たとえ どんな手を使っても➡ 67 00:07:46,785 --> 00:07:49,785 自分の手元に 残そうとするはずだ。 68 00:08:00,799 --> 00:08:09,799 ≪(足音) 69 00:08:11,810 --> 00:08:13,810 どうぞ。 70 00:08:22,821 --> 00:08:27,826 さっき あの男に 面会してきました。 71 00:08:27,826 --> 00:08:32,764 篠川さんは 本を愛していないって 言ってましたよ。 72 00:08:32,764 --> 00:08:37,764 どうしてでしょうか? 『晩年』を燃やしたからだそうです。 73 00:08:42,774 --> 00:08:44,774 篠川さん。 74 00:08:46,778 --> 00:08:49,781 はい。 75 00:08:49,781 --> 00:08:58,790 あのとき 燃やした本 あれ 偽物ですよね? 76 00:08:58,790 --> 00:09:07,799 ♬~ 77 00:09:07,799 --> 00:09:17,799 ♬~ 78 00:11:20,832 --> 00:11:23,835 篠川さん。 79 00:11:23,835 --> 00:11:29,841 本物の『晩年』は 金庫の中に あるんじゃないんですか? 80 00:11:29,841 --> 00:11:46,858 ♬~ 81 00:11:46,858 --> 00:11:51,863 ♬~ 82 00:11:51,863 --> 00:11:56,868 どうして 分かったんですか? ふと 疑問に思ったんです。 83 00:11:56,868 --> 00:11:58,870 僕が 危険を知らせる メールを 送ったのに➡ 84 00:11:58,870 --> 00:12:01,873 どうして 病院のスタッフに 助けを求めなかったんだろう? 85 00:12:01,873 --> 00:12:05,877 どうして 人けのない屋上へ 逃げたりしたんだろうって。 86 00:12:05,877 --> 00:12:11,883 それで もしかしたら 全部 わざと やってたんじゃないかって。 87 00:12:11,883 --> 00:12:14,886 篠川さんは 『晩年』を燃やすところを➡ 88 00:12:14,886 --> 00:12:16,888 あの男に 見せたかったんじゃないかって➡ 89 00:12:16,888 --> 00:12:18,907 そう思ったんです。 90 00:12:18,907 --> 00:12:20,825 でも ただ 呼びつけて 本を燃やしても➡ 91 00:12:20,825 --> 00:12:22,827 不自然に 思われるだけです。 92 00:12:22,827 --> 00:12:25,830 だから あいつが 『晩年』の在りかを 突き止めて➡ 93 00:12:25,830 --> 00:12:29,834 病院へ 奪いに来るように しむけた。 94 00:12:29,834 --> 00:12:32,837 違いますか? 95 00:12:32,837 --> 00:12:34,839 あなたは 『晩年』の復刻版を➡ 96 00:12:34,839 --> 00:12:37,839 何冊か 持ってると 言ってましたよね? 97 00:12:39,844 --> 00:12:43,848 店に展示するものと ここで 燃やすものを➡ 98 00:12:43,848 --> 00:12:48,853 2冊 用意していたんです。 店に出すものには➡ 99 00:12:48,853 --> 00:12:50,855 あえて いいかげんな偽装しか しなかった。 100 00:12:50,855 --> 00:12:54,859 笠井さんや 志田さんに 偽物だと 見抜かせるためです。 101 00:12:54,859 --> 00:12:56,861 (志田)《復刻版じゃねえか》 102 00:12:56,861 --> 00:12:58,863 本当の目的は。 (笠井)《本物は➡ 103 00:12:58,863 --> 00:13:00,865 どこに 保管してあるんですか?》 あの男に➡ 104 00:13:00,865 --> 00:13:04,869 本物の『晩年』の在りかを 質問させることだったんです。 105 00:13:04,869 --> 00:13:08,873 そして 読みどおり 僕は あいつに 情報を渡してしまった。 106 00:13:08,873 --> 00:13:11,876 一方で あなたは 燃やす方の 復刻版には➡ 107 00:13:11,876 --> 00:13:14,879 念入りな偽装を 施したんです。 108 00:13:14,879 --> 00:13:16,881 紙を古びた感じに 加工して➡ 109 00:13:16,881 --> 00:13:20,819 見返しに きちんと 太宰の直筆を まねて 書き込んで。 110 00:13:20,819 --> 00:13:24,823 あの男が いつ 来てもいいように 待ち伏せていた。 111 00:13:24,823 --> 00:13:28,827 でも そこへ 僕からの メールが 届いた。 112 00:13:28,827 --> 00:13:31,830 だから あなたは 屋上で あいつの到着を待ち➡ 113 00:13:31,830 --> 00:13:35,830 何らかの方法で 屋上へと おびき寄せたんです。 114 00:13:37,836 --> 00:13:40,839 あのとき 僕らは 『晩年』が 本物だと➡ 115 00:13:40,839 --> 00:13:44,843 完全に 信じこんでいました。 116 00:13:44,843 --> 00:13:52,843 僕も あの男も あなたに すっかり だまされていたんです。 117 00:14:02,861 --> 00:14:09,861 だましたりして 申し訳ありません。 118 00:14:12,871 --> 00:14:18,871 いつから 分かってたんですか? 笠井さんが 犯人だって。 119 00:14:23,815 --> 00:14:29,821 あの男から 送られてきた 脅迫メールです。 120 00:14:29,821 --> 00:14:33,825 「大庭 葉蔵」? 大庭 葉蔵というのは➡ 121 00:14:33,825 --> 00:14:37,829 『晩年』の中に 収録されている 『道化の華』という 短編の➡ 122 00:14:37,829 --> 00:14:39,831 主人公の名前です。 123 00:14:39,831 --> 00:14:44,836 えっ? 犯人は 小説から取った 名前を➡ 124 00:14:44,836 --> 00:14:47,836 偽名に 使っていたんです。 125 00:14:50,842 --> 00:14:53,845 まさか。 (志田)《梶山 季之の➡ 126 00:14:53,845 --> 00:14:56,848 『せどり男爵数奇譚』って 小説 知ってっか?》➡ 127 00:14:56,848 --> 00:14:59,851 《主人公の名前が 笠井 菊哉ってんだよ》 128 00:14:59,851 --> 00:15:01,853 そうなんです。 129 00:15:01,853 --> 00:15:03,855 《あと これ 伝票類です》 130 00:15:03,855 --> 00:15:07,859 あのとき 大庭 葉蔵と 笠井 菊哉が➡ 131 00:15:07,859 --> 00:15:11,859 同一人物であることを 確信したんです。 132 00:15:21,806 --> 00:15:28,806 何で? 何で 一人で やろうとしたんですか? 133 00:15:30,815 --> 00:15:33,818 最初から 話してくれれば➡ 134 00:15:33,818 --> 00:15:35,820 僕が 事情を 全部 分かっていれば➡ 135 00:15:35,820 --> 00:15:37,822 あんな 危険な目に遭わずに 済んだのに! 136 00:15:37,822 --> 00:15:40,822 何で 黙ってたんですか!? 137 00:15:44,829 --> 00:15:49,834 あなたは 本を読まないから➡ 138 00:15:49,834 --> 00:15:53,838 私の気持ちが 分からないかもしれない。 139 00:15:53,838 --> 00:15:56,838 そう思ったんです。 140 00:16:00,845 --> 00:16:06,851 たかが 本のことだから。 141 00:16:06,851 --> 00:16:08,853 《たかが 本のために 人を傷つけるなんて》 142 00:16:08,853 --> 00:16:12,857 《たかが 本で ここまですること ないだろ!》 143 00:16:12,857 --> 00:16:21,800 ♬~ 144 00:16:21,800 --> 00:16:26,805 あの。 本当に 申し訳ありま…。 謝らないでください。 145 00:16:26,805 --> 00:16:33,812 あなたの言うとおりです。 僕は 本を読まない。 146 00:16:33,812 --> 00:16:39,818 あなたの 本に対する思いも 何も分かっていない。 147 00:16:39,818 --> 00:16:45,824 最低です。 こんな男が 古書店で 働いてるだなんて。 148 00:16:45,824 --> 00:16:48,827 あっ。 それは…。 あなたの。 149 00:16:48,827 --> 00:16:51,830 あなたの 何よりも 大切にしているものを➡ 150 00:16:51,830 --> 00:16:57,836 「たかが」だなんて 情けないです。 151 00:16:57,836 --> 00:17:00,839 ホントに 申し訳ありません。 152 00:17:00,839 --> 00:17:11,850 ♬~ 153 00:17:11,850 --> 00:17:20,850 ♬~ 154 00:17:42,814 --> 00:17:46,818 (志田)何か 空気が 妙に 張り詰めてんだよなぁ。 155 00:17:46,818 --> 00:17:49,821 (文也)そうかな? (志田)お前➡ 156 00:17:49,821 --> 00:17:52,824 何があったか 聞いてみろよ。 (文也)えっ? 嫌だよ。 157 00:17:52,824 --> 00:17:55,827 (志田)聞けって。 なあ? (文也)何で…。 158 00:17:55,827 --> 00:17:57,829 (志田)おう。 おっとっとっとっと。 大丈夫か? 159 00:17:57,829 --> 00:18:01,833 ああ。 (志田)ねっ? はい。➡ 160 00:18:01,833 --> 00:18:07,833 ほら。 チッ。 ハァー。 161 00:18:09,841 --> 00:18:11,843 ハァー。 162 00:18:11,843 --> 00:18:14,843 ≪(戸の開閉音) 163 00:18:18,866 --> 00:18:20,785 いらっしゃいませ。 164 00:18:20,785 --> 00:18:23,788 (須崎)買い取り お願いしたいんですけど。 165 00:18:23,788 --> 00:18:27,788 こちらに ご記入ください。 166 00:18:35,800 --> 00:18:38,803 あの。 (須崎)今日は 女性の店員さんは➡ 167 00:18:38,803 --> 00:18:41,806 いらっしゃらないんですか? えっ? 168 00:18:41,806 --> 00:18:46,806 (須崎)髪が短くて 物静かな。 ≪いらっしゃいませ。 169 00:18:49,814 --> 00:18:52,814 店主の 篠川です。 170 00:18:54,819 --> 00:19:00,825 (須崎)店主? あなたが? 何か? 171 00:19:00,825 --> 00:19:04,825 いや。 別に。 172 00:19:08,833 --> 00:19:11,836 一つ 聞いても よろしいでしょうか? 173 00:19:11,836 --> 00:19:14,839 何でしょう? 足塚 不二雄の➡ 174 00:19:14,839 --> 00:19:19,777 『UTOPIA 最後の世界大戦』は 幾らで 買っていただけますか? 175 00:19:19,777 --> 00:19:22,780 初版で 美本だとしたら? 176 00:19:22,780 --> 00:19:26,784 実物を拝見してみないと 分かりませんが➡ 177 00:19:26,784 --> 00:19:30,788 100万単位の金額には なるかと思います。 178 00:19:30,788 --> 00:19:32,788 えっ? 179 00:19:35,793 --> 00:19:41,793 そうですか。 『UTOPIA』を お持ちなんですか? 180 00:19:47,805 --> 00:19:53,811 駐車場 裏でしたよね? あっ はい。 181 00:19:53,811 --> 00:19:57,815 ちょっと 移動してくるので その間に 本の査定 お願いします。 182 00:19:57,815 --> 00:20:01,815 それでは また 後で。 183 00:20:18,853 --> 00:20:20,772 で その後 ずっと 待ってたんですけど➡ 184 00:20:20,772 --> 00:20:22,774 結局 戻ってこなかったんです。 185 00:20:22,774 --> 00:20:24,776 (藤波)確かに 持ち込んだ本を 置きっ放しで 帰っちゃうなんて➡ 186 00:20:24,776 --> 00:20:26,778 おかしいよね? (亜弥)急に 気が変わったのかな? 187 00:20:26,778 --> 00:20:28,780 (さやか)だったら 本を 持って帰るでしょう。 188 00:20:28,780 --> 00:20:30,782 (奈津実)単に いらない本を 処分したかっただけなんじゃない? 189 00:20:30,782 --> 00:20:35,787 そのためだけに わざわざ うちまで 来たんでしょうか? 190 00:20:35,787 --> 00:20:38,790 それに 篠川さんのことも 知ってるみたいだったんです。 191 00:20:38,790 --> 00:20:40,792 (志田)そうなのか? いえ。 192 00:20:40,792 --> 00:20:42,794 お会いするのは 初めてです。 193 00:20:42,794 --> 00:20:45,797 (志田)どうも うさんくせえ野郎だなぁ。 194 00:20:45,797 --> 00:20:50,802 本を置いていったのも 『UTOPIA』の話をしたのも➡ 195 00:20:50,802 --> 00:20:54,806 何か 意味があるような気がします。 196 00:20:54,806 --> 00:21:01,813 (藤波)意味って どんな? そこまでは 分かりませんけど。 197 00:21:01,813 --> 00:21:07,819 あの人は 私を待っているかもしれません。 198 00:21:07,819 --> 00:21:11,823 私 本を届けに行ってきます。 届けるって 家まで? 199 00:21:11,823 --> 00:21:13,825 はい。 バカ 言うな。 そんな簡単に➡ 200 00:21:13,825 --> 00:21:15,827 見つかるわけねえだろ。 そうですよ。 201 00:21:15,827 --> 00:21:17,829 そんなの 無理ですよ。 無理では ありません。 202 00:21:17,829 --> 00:21:19,831 でも 書きかけの住所以外 何も分かんないんですよ。 203 00:21:19,831 --> 00:21:25,837 それだけあれば 十分です。 きっと 見つけられると思います。 204 00:21:25,837 --> 00:21:34,846 ♬~ 205 00:21:34,846 --> 00:21:37,849 そんなに 珍しいんですか? 『UTOPIA』って。 206 00:21:37,849 --> 00:21:41,853 3年前までは 現存するのは 10冊ほどと いわれていました。 207 00:21:41,853 --> 00:21:43,855 えっ? たった 10冊!? 208 00:21:43,855 --> 00:21:46,858 マニアの間でも 幻の1冊とされていたそうです。 209 00:21:46,858 --> 00:21:48,860 じゃあ 作者は 有名な人なんですね? 210 00:21:48,860 --> 00:21:53,865 足塚 不二雄は 藤子・F・不二雄と 藤子 不二雄 Aの➡ 211 00:21:53,865 --> 00:21:55,867 デビュー当時の ペンネームです。 そうだったんですか。 212 00:21:55,867 --> 00:21:59,871 足塚という名字は 手塚 治虫に ちなんで 付けられたそうです。 213 00:21:59,871 --> 00:22:01,873 手より 足の方が➡ 214 00:22:01,873 --> 00:22:04,876 ずっと 下にあるという 意味だそうですよ。 215 00:22:04,876 --> 00:22:07,879 へえー。 その後 2人は➡ 216 00:22:07,879 --> 00:22:12,879 藤子 不二雄という名義で 作品を 発表するようになりました。 217 00:22:15,887 --> 00:22:17,887 ここで 止めてください。 218 00:22:19,824 --> 00:22:21,826 歩いて 回る気ですか? その足じゃ 無理ですよ。 219 00:22:21,826 --> 00:22:25,830 ああ。 大丈夫です。 いやいや。 大丈夫じゃ…。 あっ。 220 00:22:25,830 --> 00:22:28,833 ちょっと。 ちょっと 待ってください。 221 00:22:28,833 --> 00:22:45,850 ♬~ 222 00:22:45,850 --> 00:22:48,853 あのう。 やっぱり 僕が捜しますから➡ 223 00:22:48,853 --> 00:22:50,855 篠川さんは 車…。 ここです。 224 00:22:50,855 --> 00:22:53,858 えっ? 225 00:22:53,858 --> 00:22:58,863 この部屋の中に あの人が いるはずです。 226 00:22:58,863 --> 00:23:00,863 えっ? 227 00:23:02,867 --> 00:23:04,869 えっ!? 228 00:23:04,869 --> 00:23:23,869 ♬~ 229 00:23:44,842 --> 00:23:46,844 須崎さんですね。 230 00:23:46,844 --> 00:23:51,844 先日 お預かりした 本のことで 伺いました。 231 00:23:56,854 --> 00:24:00,858 どうぞ。 お入りください。 232 00:24:00,858 --> 00:24:02,860 ぜひ 聞いてほしい話が あるんです。 233 00:24:02,860 --> 00:24:07,860 失礼ですが 何の話でしょうか? もちろん…。 234 00:24:10,868 --> 00:24:13,868 『UTOPIA』のことですよ。 235 00:25:50,835 --> 00:25:53,838 どうやって ここ 突き止めたんですか? 236 00:25:53,838 --> 00:25:55,840 えっ? 一軒一軒➡ 237 00:25:55,840 --> 00:25:58,840 訪ね回ったわけじゃ ないですよね? 238 00:26:04,849 --> 00:26:07,852 須崎さんが 持ち込まれた 本ですが➡ 239 00:26:07,852 --> 00:26:12,857 どれも 背が焼けていて 天に ほこりが かぶっていました。 240 00:26:12,857 --> 00:26:14,859 おそらく 強い日差しを浴びる 本棚に➡ 241 00:26:14,859 --> 00:26:17,862 長い間 並べられていたんでしょう。 242 00:26:17,862 --> 00:26:22,867 それに どの本にも 油のにおいが 染み付いていました。 243 00:26:22,867 --> 00:26:28,873 ということは 揚げ物や 炒め物の においが 届いてしまう場所。 244 00:26:28,873 --> 00:26:31,876 キッチンに 置かれていたんじゃないかと。 245 00:26:31,876 --> 00:26:34,879 換気が行き届かないことを 考えると➡ 246 00:26:34,879 --> 00:26:40,885 古い建物の可能性が 高いです。 ですから➡ 247 00:26:40,885 --> 00:26:44,889 西に向いた 大きな窓があって 薄いカーテンが かかっていて➡ 248 00:26:44,889 --> 00:26:49,827 日差しが差し込む位置に 本棚が 置いてある家を 捜したんです。 249 00:26:49,827 --> 00:26:53,831 じゃあ あのときも きっと そうだったんだな。 250 00:26:53,831 --> 00:26:56,834 あのとき? 251 00:26:56,834 --> 00:27:01,834 あなたに 見ていただきたいものが あります。 252 00:27:06,844 --> 00:27:11,849 うわー! すっげえ! 253 00:27:11,849 --> 00:27:15,853 先日 他界した 父のコレクションです。 254 00:27:15,853 --> 00:27:17,855 父は 藤子 不二雄の デビュー当時からの➡ 255 00:27:17,855 --> 00:27:21,859 熱烈なファンで 作品を 収集するのが 生きがいでした。 256 00:27:21,859 --> 00:27:26,864 うわっ。 『コロコロコミック』だ。 昔は 他の雑誌や➡ 257 00:27:26,864 --> 00:27:30,868 別冊付録なんかも たくさん ありました。 258 00:27:30,868 --> 00:27:32,870 [TEL] 259 00:27:32,870 --> 00:27:35,873 ちょっと 失礼します。 はい。 260 00:27:35,873 --> 00:27:38,873 [TEL] 261 00:27:42,880 --> 00:27:46,884 ここにある 漫画を 全て ビブリア古書堂に➡ 262 00:27:46,884 --> 00:27:50,821 お売りしたいと思っています。 えっ? 263 00:27:50,821 --> 00:27:52,823 値段は そちらの言い値で 構いません。 264 00:27:52,823 --> 00:27:56,823 どうして うちに? 265 00:28:01,832 --> 00:28:08,832 これが 私の あなたの お母さんへの気持ちです。 266 00:28:13,844 --> 00:28:16,847 見つかった? ホントに 家 捜し当てたのか? 267 00:28:16,847 --> 00:28:18,849 で 男の目的は 何だった? 268 00:28:18,849 --> 00:28:20,851 やっぱり 栞子ちゃんを 待ってたわけ? 269 00:28:20,851 --> 00:28:25,856 [TEL]いや。 それが 全然 分かんないんですよ。 270 00:28:25,856 --> 00:28:33,864 (須崎)ただ 1冊だけ お譲りできない本があります。 271 00:28:33,864 --> 00:28:47,864 ♬~ 272 00:28:49,813 --> 00:28:55,813 本当に お持ちだったんですね? 273 00:29:00,824 --> 00:29:05,829 この本だけは 父の形見として 持っておこうと思います。 274 00:29:05,829 --> 00:29:09,833 中を 拝見させてもらっても よろしいでしょうか? 275 00:29:09,833 --> 00:29:12,836 もちろんです。 どうぞ。 276 00:29:12,836 --> 00:29:21,836 ♬~ 277 00:29:31,855 --> 00:29:34,855 これは…。 278 00:29:38,862 --> 00:29:42,866 うちの店で お売りしたものだったんですか? 279 00:29:42,866 --> 00:29:44,868 はい。 280 00:29:44,868 --> 00:29:50,868 私の父が 昔 ビブリア古書堂で 買ったものです。 281 00:29:54,812 --> 00:29:57,815 (須崎)父が ずっと 探し求めていた➡ 282 00:29:57,815 --> 00:29:59,817 『UTOPIA』が 初めて 売りに出されたのは➡ 283 00:29:59,817 --> 00:30:01,819 私が 10歳のときでした。➡ 284 00:30:01,819 --> 00:30:04,822 とても 手の出せる 金額では なかったようですが➡ 285 00:30:04,822 --> 00:30:08,826 父は 一目でいいから 本物を見てみたいと言って➡ 286 00:30:08,826 --> 00:30:10,828 東京へ 出掛けていきました。➡ 287 00:30:10,828 --> 00:30:12,830 ところが 店に着いてみると➡ 288 00:30:12,830 --> 00:30:16,834 本は 何者かに 万引された後だったとかで➡ 289 00:30:16,834 --> 00:30:18,836 ひどく がっかりして 帰ってきました。➡ 290 00:30:18,836 --> 00:30:21,839 長年 恋い焦がれてきた本に あと 一歩のところで➡ 291 00:30:21,839 --> 00:30:25,843 対面できなかったことが よほど ショックだったんでしょう。➡ 292 00:30:25,843 --> 00:30:27,845 しばらく ふさぎ込んでしまって➡ 293 00:30:27,845 --> 00:30:31,849 酒ばかり 飲んでいたのを 覚えています。➡ 294 00:30:31,849 --> 00:30:36,854 それから 2週間ほど たったころでしょうか。 295 00:30:36,854 --> 00:30:39,857 父が 気分転換に ドライブに 行こうと 言いだしました。 296 00:30:39,857 --> 00:30:42,860 それで いらなくなった 本を売って➡ 297 00:30:42,860 --> 00:30:45,863 食事代の足しに することになったんです。➡ 298 00:30:45,863 --> 00:30:48,882 私は うれしくなって 押し入れから➡ 299 00:30:48,882 --> 00:30:53,804 段ボール箱を 引っ張り出して 本を詰めるのを 手伝いました。➡ 300 00:30:53,804 --> 00:30:58,809 父は 私を 車の中で待たせ 一人で 店に入っていったんですが➡ 301 00:30:58,809 --> 00:31:01,812 すぐに 慌てた様子で 戻ってきました。➡ 302 00:31:01,812 --> 00:31:09,820 その手に握られていた 本を見て 私は 言葉を失いました。➡ 303 00:31:09,820 --> 00:31:16,827 なぜなら それが 『UTOPIA』だったからです。 304 00:31:16,827 --> 00:31:20,831 まさか 幻の1冊といわれた本が 2,000円で 売ってるなんて。 305 00:31:20,831 --> 00:31:24,835 興奮した父は 持ち込んだ 本のことを すっかり 忘れて➡ 306 00:31:24,835 --> 00:31:27,838 店を 飛び出してしまったんです。 307 00:31:27,838 --> 00:31:32,843 ビブリア古書堂の店主は この本の価値のことを➡ 308 00:31:32,843 --> 00:31:35,846 知らなかったんでしょうね。 309 00:31:35,846 --> 00:31:38,849 結局 父は 運転どころでは なくなってしまい➡ 310 00:31:38,849 --> 00:31:43,854 ドライブは 中止になりました。 借りた車を 返しに行ってる間➡ 311 00:31:43,854 --> 00:31:48,826 私は ここで 留守番を していたんですが そのとき。 312 00:31:48,826 --> 00:31:50,694 ≪(チャイム) 313 00:31:50,694 --> 00:31:54,694 (須崎)誰かと思い ドアを開けると。 314 00:32:02,706 --> 00:32:06,710 (智恵子)《お忘れになった本を 届けに来ました》 315 00:32:06,710 --> 00:32:10,710 《これ 書いたの あなたの お父さん?》 316 00:32:16,720 --> 00:32:19,723 (須崎)父は 昨日の私と 同じように➡ 317 00:32:19,723 --> 00:32:21,725 買い取り票に 住所を 途中まで 書いたところで➡ 318 00:32:21,725 --> 00:32:24,728 本を置いて 帰ってしまったんです。 319 00:32:24,728 --> 00:32:27,731 それなのに あなたの お母さんは この部屋を 突き止めて➡ 320 00:32:27,731 --> 00:32:32,736 わざわざ 本を届けてくださった。 なぜ そんなことが できたのか➡ 321 00:32:32,736 --> 00:32:37,741 いくら 考えても 分からなかったんです。 322 00:32:37,741 --> 00:32:40,744 そのことが どうしても 気になって➡ 323 00:32:40,744 --> 00:32:42,746 本の買い取りを 口実に。 324 00:32:42,746 --> 00:32:47,751 (須崎)《今日は 女性の店員さんは いらっしゃらないですか?》 325 00:32:47,751 --> 00:32:53,791 《髪が短くて 物静かな》 ≪《いらっしゃいませ》 326 00:32:53,791 --> 00:32:57,795 (須崎)あなたが 出ていらしたとき 一瞬 お母さんかと思いました。➡ 327 00:32:57,795 --> 00:33:00,798 よく 似ていらっしゃるから。 328 00:33:00,798 --> 00:33:03,801 ひょっとしたら あなたなら➡ 329 00:33:03,801 --> 00:33:05,803 あのときと 同じことが できるかもしれないと➡ 330 00:33:05,803 --> 00:33:09,803 つい 感傷じみた まねをしてしまったんです。 331 00:33:12,810 --> 00:33:15,810 笑わないでくださいね。 332 00:33:18,816 --> 00:33:27,825 あなたの お母さんは 私の初恋の人なんです。 333 00:33:27,825 --> 00:33:38,836 ♬~ 334 00:33:38,836 --> 00:33:42,840 (須崎)程なく 帰宅した父に 彼女は 経緯を説明し。 335 00:33:42,840 --> 00:33:44,842 (智恵子)《買い取り票の 住所を 頼りに➡ 336 00:33:44,842 --> 00:33:47,845 どうにか ここまで たどりつくことができました》 337 00:33:47,845 --> 00:33:50,781 《本を お返しできて よかったです》➡ 338 00:33:50,781 --> 00:33:53,784 《さっき 息子さんに 見せていただいたんですが➡ 339 00:33:53,784 --> 00:33:58,789 須崎さんは 素晴らしい コレクションを お持ちなんですね》➡ 340 00:33:58,789 --> 00:34:02,793 《私 『UTOPIA』のことで 分からないことがあるんです》➡ 341 00:34:02,793 --> 00:34:07,798 《ぜひ 教えていただけませんか?》 342 00:34:07,798 --> 00:34:10,801 (須崎) 藤子 不二雄マニアというのが➡ 343 00:34:10,801 --> 00:34:13,804 まだ 数少なかった 時代ですから➡ 344 00:34:13,804 --> 00:34:16,807 父から 知識を 得ようとされたんでしょう。➡ 345 00:34:16,807 --> 00:34:20,811 それから 2人は 長いこと 話をしていました。➡ 346 00:34:20,811 --> 00:34:24,815 大人同士の話だからと 私は 追い出されてしまいましたが。➡ 347 00:34:24,815 --> 00:34:30,821 お母さんは 勉強熱心な方だったんですね。 348 00:34:30,821 --> 00:34:34,825 それで 父は コレクションの一部を ビブリア古書堂に 売ったんですよ。 349 00:34:34,825 --> 00:34:37,828 父が コレクションを手放すなんて めったに ないことなんです。 350 00:34:37,828 --> 00:34:43,834 きっと あなたの お母さんの 善意が うれしかったんでしょう。 351 00:34:43,834 --> 00:34:47,838 善意? はい。 後になって➡ 352 00:34:47,838 --> 00:34:55,779 ビブリア古書堂の店主は 善意の。 ああ。 何とかだって。 353 00:34:55,779 --> 00:34:57,781 善意の第三者。 354 00:34:57,781 --> 00:35:00,781 あっ。 そうそう。 そう言ってました。 355 00:35:05,789 --> 00:35:10,794 どうかしたんですか? あっ。 いえ。 356 00:35:10,794 --> 00:35:14,798 見せていただいて ありがとうございました。 357 00:35:14,798 --> 00:35:18,802 それから お父さまの コレクション。 358 00:35:18,802 --> 00:35:22,806 喜んで 買い取らせていただきます。 359 00:35:22,806 --> 00:35:27,811 ありがとうございます。 ここまで 本を届けさせた おわびと➡ 360 00:35:27,811 --> 00:35:29,813 父に 『UTOPIA』を 売ってくださったことへの➡ 361 00:35:29,813 --> 00:35:37,821 お礼です。 どうぞ お持ちになってください。 362 00:35:37,821 --> 00:35:47,821 ♬~ 363 00:37:23,827 --> 00:37:28,827 すてきな人だったんですね。 篠川さんの お母さんって。 364 00:37:31,835 --> 00:37:37,841 それ 持ってきたんですか? 許可は 頂きました。 365 00:37:37,841 --> 00:37:42,846 これは 回収しないと いけなかったんです。 366 00:37:42,846 --> 00:37:47,851 えっ? こんな値札を 付けるなんて➡ 367 00:37:47,851 --> 00:37:49,853 信じられない。 368 00:37:49,853 --> 00:37:53,857 もう 昔の話じゃないですか。 値付けに 失敗したからって。 369 00:37:53,857 --> 00:37:56,860 そうじゃありません。 370 00:37:56,860 --> 00:38:01,860 これは そういうことではないんです。 371 00:38:03,867 --> 00:38:05,867 どういうことですか? 372 00:38:08,872 --> 00:38:11,875 篠川さん? 373 00:38:11,875 --> 00:38:14,878 何か 変ですよ。 お母さんのことで 何か あるなら…。 374 00:38:14,878 --> 00:38:20,878 やめてください! 母のことは 話したくありません! 375 00:38:29,826 --> 00:38:35,832 あっ。 すいません。 余計なこと 言いました。 376 00:38:35,832 --> 00:38:43,832 じゃあ 帰りますね。 それじゃ また あした。 377 00:38:48,845 --> 00:38:50,845 待ってください! 378 00:38:52,849 --> 00:38:59,856 私の 古書に関する知識は 全て 母に教えこまれたものです。 379 00:38:59,856 --> 00:39:05,856 もちろん 古書漫画についても 同じです。 380 00:39:07,864 --> 00:39:11,868 その母が 『UTOPIA』を 2,000円で 売るなんて➡ 381 00:39:11,868 --> 00:39:15,872 絶対に あり得ません。 382 00:39:15,872 --> 00:39:19,893 それに この値札 不自然なんです。 えっ? 383 00:39:19,893 --> 00:39:22,812 うちの店では 函のない本には➡ 384 00:39:22,812 --> 00:39:24,814 値札を のり付けすることに なってますよね? 385 00:39:24,814 --> 00:39:27,817 ああ。 確かに。 386 00:39:27,817 --> 00:39:31,821 でも これは ただ 挟んであっただけでした。 387 00:39:31,821 --> 00:39:36,826 私には あの本が うちの棚に 並んでいたとは➡ 388 00:39:36,826 --> 00:39:39,829 どうしても 思えないんです。 でも…。 389 00:39:39,829 --> 00:39:44,834 須崎さんから 聞いた話によると あの人は➡ 390 00:39:44,834 --> 00:39:47,837 父親が 『UTOPIA』を買ったところを 見たわけではありません。 391 00:39:47,837 --> 00:39:52,842 ただ 本を持って 店から 戻ってきた姿を 見ただけです。 392 00:39:52,842 --> 00:39:58,848 状況から 考え合わせると 本の 出どころは 一つしか ありません。 393 00:39:58,848 --> 00:40:02,852 須崎さんの父親が うちに持ち込んだ 本の中に➡ 394 00:40:02,852 --> 00:40:05,855 『UTOPIA』が 紛れ込んでいたんです。 395 00:40:05,855 --> 00:40:07,857 もともと 持っていたってことですか? 396 00:40:07,857 --> 00:40:15,865 おそらく 手に入れたのは その何週間か 前のことです。 397 00:40:15,865 --> 00:40:21,805 でも それを隠さなければならない 理由があったんです。 398 00:40:21,805 --> 00:40:26,810 理由? 須崎さんから 聞いたんですが。 399 00:40:26,810 --> 00:40:29,813 (須崎)《ところが 店に着いてみると➡ 400 00:40:29,813 --> 00:40:31,815 本は 何者かに 万引された後とかで》 401 00:40:31,815 --> 00:40:36,815 万引? あっ! 402 00:40:42,826 --> 00:40:48,826 これから 話すことは 全て 私の臆測です。 403 00:40:50,834 --> 00:40:56,840 須崎さんの父親は 東京まで 『UTOPIA』を 見に行きました。 404 00:40:56,840 --> 00:41:00,844 子供のころから 恋い焦がれていた 幻の1冊を 前にして➡ 405 00:41:00,844 --> 00:41:06,844 どうにも 衝動を抑えきれずに 手を出してしまったんでしょう。 406 00:41:09,853 --> 00:41:13,857 もちろん 彼は 強い罪の意識に さいなまれました。 407 00:41:13,857 --> 00:41:15,859 しばらくは ふさぎ込み➡ 408 00:41:15,859 --> 00:41:19,879 お酒を飲んでも 気が晴れませんでした。 409 00:41:19,879 --> 00:41:21,798 盗んできた本は➡ 410 00:41:21,798 --> 00:41:25,802 押し入れの 段ボール箱の底に 隠してあったんだと思います。 411 00:41:25,802 --> 00:41:28,805 おそらく その段ボール箱に➡ 412 00:41:28,805 --> 00:41:33,810 須崎さんが 売りに行く本を 重ねて 入れてしまったんです。 413 00:41:33,810 --> 00:41:37,814 彼は 母が 『UTOPIA』を 取り出すのを見て➡ 414 00:41:37,814 --> 00:41:42,819 きっと 心臓が止まるほど 驚いたはずです。 415 00:41:42,819 --> 00:41:45,822 《足塚 不二雄さんの 『UTOPIA』ですね?》➡ 416 00:41:45,822 --> 00:41:49,826 《初めて 見ました。 あっ。 でも この間➡ 417 00:41:49,826 --> 00:41:52,829 古書店から 盗まれたって 新聞に載ってましたよ》 418 00:41:52,829 --> 00:41:54,829 《ご存じですか?》 419 00:41:58,835 --> 00:42:02,839 取り乱した 父親は 大事な本を抱えて➡ 420 00:42:02,839 --> 00:42:04,841 慌てて 店から 逃げ出したんです。 421 00:42:04,841 --> 00:42:08,845 買い取り票には 住所を 途中まで 書いただけだし➡ 422 00:42:08,845 --> 00:42:12,845 身元が分かることはないと 高を くくっていたんでしょうね。 423 00:42:17,854 --> 00:42:22,792 ところが あっさり 居場所を 突き止められてしまった。 424 00:42:22,792 --> 00:42:24,794 ええ。 425 00:42:24,794 --> 00:42:30,800 母の目的は 本を届けることでは ありませんでした。 426 00:42:30,800 --> 00:42:34,804 《私 『UTOPIA』のことで 分からないことがあるんです》 427 00:42:34,804 --> 00:42:38,804 《ぜひ 教えていただけませんか?》 428 00:42:40,810 --> 00:42:42,812 教えてほしいというのは➡ 429 00:42:42,812 --> 00:42:47,817 全てを 白状しろという 意味だったんでしょう。 430 00:42:47,817 --> 00:42:50,820 わざわざ 須崎さんを 外に出したのは➡ 431 00:42:50,820 --> 00:42:53,823 子供に 聞かせられる話では なかったからです。 432 00:42:53,823 --> 00:43:00,830 きっと 父親に対して 厳しい要求を 突き付けたんだと思います。 433 00:43:00,830 --> 00:43:02,832 『UTOPIA』を 渡せとか? 434 00:43:02,832 --> 00:43:05,835 盗品を売買するのは リスクが 高いので➡ 435 00:43:05,835 --> 00:43:10,840 それは 避けたでしょう。 じゃあ…。 436 00:43:10,840 --> 00:43:14,844 『UTOPIA』のことを 黙っている代わりに➡ 437 00:43:14,844 --> 00:43:18,848 他のコレクションを渡せと 言ったんです。 438 00:43:18,848 --> 00:43:20,784 えっ? 439 00:43:20,784 --> 00:43:22,786 あの部屋にあった コレクションには➡ 440 00:43:22,786 --> 00:43:24,788 あまり 古いものは ありませんでした。 441 00:43:24,788 --> 00:43:27,791 それに。 (須崎)《昔は 他の雑誌や➡ 442 00:43:27,791 --> 00:43:30,794 別冊付録なんかも たくさん ありました》 443 00:43:30,794 --> 00:43:35,799 1960年代までは 月刊漫画誌の 付録として➡ 444 00:43:35,799 --> 00:43:38,802 別冊の漫画が 付くのが 普通でした。 445 00:43:38,802 --> 00:43:44,808 それらは 当時でも 相当な高値が 付いていたはずです。 446 00:43:44,808 --> 00:43:49,813 まさか。 はい。 447 00:43:49,813 --> 00:43:55,813 母が 全て 引き取っていったんだと思います。 448 00:43:57,821 --> 00:44:02,826 もちろん 須崎さんの父親は 抵抗したはずです。 449 00:44:02,826 --> 00:44:05,829 だから 説得の切り札として➡ 450 00:44:05,829 --> 00:44:08,832 母は その値札を 書くことにしたんです。 451 00:44:08,832 --> 00:44:11,835 どういうことですか? 五浦さん。 452 00:44:11,835 --> 00:44:14,838 善意の第三者の意味を 知っていますか? 453 00:44:14,838 --> 00:44:17,841 (須崎)《ビブリア古書堂の店主は 善意の》 454 00:44:17,841 --> 00:44:19,859 《善意の第三者》 455 00:44:19,859 --> 00:44:21,778 いいえ。 例えば うちに➡ 456 00:44:21,778 --> 00:44:23,780 盗品が 持ち込まれたとします。 457 00:44:23,780 --> 00:44:26,783 私が そうとは知らずに 買い取って➡ 458 00:44:26,783 --> 00:44:29,786 他の客に 売ったとしても 罪にはなりません。 459 00:44:29,786 --> 00:44:34,791 事件のことは 何も知らない 第三者ですから。 460 00:44:34,791 --> 00:44:40,797 それを 民法上では 善意の第三者と 呼ぶんです。 461 00:44:40,797 --> 00:44:42,799 それで? もし その値札が➡ 462 00:44:42,799 --> 00:44:47,804 本物と見なされた場合 『UTOPIA』を うちに売った人間が➡ 463 00:44:47,804 --> 00:44:50,807 他にいるということに なるんです。 464 00:44:50,807 --> 00:44:56,807 つまり 母は 架空の犯人を つくりあげたんです。 465 00:44:59,816 --> 00:45:04,821 私の母は そういう人なんです。 466 00:45:04,821 --> 00:45:13,830 ♬~ 467 00:45:13,830 --> 00:45:18,835 いなくなったんです。 10年前に。 468 00:45:18,835 --> 00:45:22,772 えっ? 理由は 分かりません。 469 00:45:22,772 --> 00:45:25,775 ホントに ある日 突然➡ 470 00:45:25,775 --> 00:45:28,778 何も言わずに 消えてしまったんです。 471 00:45:28,778 --> 00:45:33,783 最後に見た母は いつものように ここに座って➡ 472 00:45:33,783 --> 00:45:38,788 コーヒーを 飲みながら 本を読んでいました。 473 00:45:38,788 --> 00:45:44,794 気が付くと カップと 本だけが 無造作に 残されていて➡ 474 00:45:44,794 --> 00:45:51,801 何だか ふと 用事を思い立って ふらっと 出掛けただけみたいな➡ 475 00:45:51,801 --> 00:45:54,801 そんな感じでした。 476 00:46:01,811 --> 00:46:06,816 すいません。 言葉が出なくて。 477 00:46:06,816 --> 00:46:11,821 いいんです。 もう 諦めましたから。 478 00:46:11,821 --> 00:46:24,767 ♬~ 479 00:46:24,767 --> 00:46:26,767 五浦さん。 480 00:46:29,772 --> 00:46:37,772 この間は 傷つけてしまって ホントに ごめんなさい。 481 00:46:40,783 --> 00:46:48,791 これからは あなたのことを 信じます。 482 00:46:48,791 --> 00:46:58,791 だから。 だから 許してもらえませんか? 483 00:47:03,806 --> 00:47:06,806 謝らないでください。 484 00:47:08,811 --> 00:47:13,816 ここで働かないかって 誘われて 一緒に 古書にまつわる➡ 485 00:47:13,816 --> 00:47:18,821 謎を解いて それだけで 何となく➡ 486 00:47:18,821 --> 00:47:20,823 分かり合えたと思ってた 僕の方が 悪いんですから。 487 00:47:20,823 --> 00:47:22,825 それは…。 ああ。 488 00:47:22,825 --> 00:47:25,825 今のは 皮肉でも 何でもなくて。 489 00:47:27,830 --> 00:47:31,834 信用されなくて 当たり前なんですよ。 490 00:47:31,834 --> 00:47:38,841 だって 僕は あなたにとって 一番 大切な本のことを➡ 491 00:47:38,841 --> 00:47:41,841 何も 分かろうとしなかったんだから。 492 00:47:44,847 --> 00:47:51,847 だから 僕も 努力します。 493 00:47:54,857 --> 00:48:01,857 そして いつか ちゃんと 本が 読めるようになりたいんです。 494 00:48:08,871 --> 00:48:16,879 五浦さんが 本を 読めるようになったら➡ 495 00:48:16,879 --> 00:48:19,899 私も うれしいです。 496 00:48:19,899 --> 00:48:31,828 ♬~ 497 00:48:31,828 --> 00:48:51,848 ♬~ 498 00:48:51,848 --> 00:49:03,860 ♬~ 499 00:49:03,860 --> 00:49:07,864 おっ。 今日は 早えな。 ええ。 500 00:49:07,864 --> 00:49:10,867 昨日 買い取った漫画を 早く 店頭に出したいんで。 501 00:49:10,867 --> 00:49:12,869 そうか。 ウフフ。 502 00:49:12,869 --> 00:49:15,872 フッ。 フフフ。 フフフフ。 503 00:49:15,872 --> 00:49:22,872 何ですか? いや。 頑張れよ。 504 00:49:26,816 --> 00:49:30,820 いってらっしゃい。 おう。 505 00:49:30,820 --> 00:49:34,824 おはようございます。 506 00:49:34,824 --> 00:49:36,826 おはようございます。 どうですか? 507 00:49:36,826 --> 00:49:41,831 取りあえず ざっと 並べてみました。 508 00:49:41,831 --> 00:49:45,835 もう少し メジャーなものを 中心に 置いた方がいいんでしょうか。 509 00:49:45,835 --> 00:49:48,838 思い切って スペース 広げてみますか? 510 00:49:48,838 --> 00:49:54,838 ああ。 そうしましょう。 はい。 511 00:49:56,846 --> 00:49:58,848 メジャーっていうと どの辺ですかね? 512 00:49:58,848 --> 00:50:01,851 うーん。 そうですね。 『怪物くん』なんか どうですか? 513 00:50:01,851 --> 00:50:03,853 ああ。 いいですね。 ねえ。 514 00:50:03,853 --> 00:50:05,855 あっ。 『エスパー魔美』もある。 ああ。 女の子に 受けそうです。 515 00:50:05,855 --> 00:50:07,857 はい。 516 00:50:07,857 --> 00:50:17,857 ♬~