1 00:00:33,657 --> 00:00:37,228 (お六)キャ~! あっ! あっ! あ~っ! 2 00:00:37,228 --> 00:00:43,033 <本所深川見廻り方同心 井筒平四郎が➡ 3 00:00:43,033 --> 00:00:45,736 懇意にしていた佐吉が➡ 4 00:00:45,736 --> 00:00:51,542 実の母 葵を殺したとして お縄になった。➡ 5 00:00:51,542 --> 00:00:56,914 湊屋は 久兵衛を使い 事件をもみ消すのだが…> 6 00:00:56,914 --> 00:00:59,750 (久兵衛)こらえて下さいまし。 お願いでございます。 7 00:00:59,750 --> 00:01:04,421 <これが気に入らない平四郎は➡ 8 00:01:04,421 --> 00:01:09,760 弓之助や政五郎と共に 下手人捜しをすべく➡ 9 00:01:09,760 --> 00:01:12,429 解き放たれた佐吉から➡ 10 00:01:12,429 --> 00:01:16,934 事件に至るまでのあらましを 聞く事にした> 11 00:01:16,934 --> 00:01:21,805 (佐吉) あれは 藤の花が咲く頃でした。 12 00:01:21,805 --> 00:01:23,807 (烏の鳴き声) 13 00:01:23,807 --> 00:01:25,807 うわ~! 14 00:01:28,112 --> 00:01:34,412 (鳴き声) 15 00:01:46,397 --> 00:01:51,068 <元は鉄瓶長屋が建っていた この場所に➡ 16 00:01:51,068 --> 00:01:55,406 湊屋総右衛門は 女房 おふじのために➡ 17 00:01:55,406 --> 00:02:00,277 屋敷を建てた。 そこは…➡ 18 00:02:00,277 --> 00:02:04,081 おふじ一人が 住んでいた事もあり➡ 19 00:02:04,081 --> 00:02:08,919 いつの間にか ふじ屋敷と呼ばれるようになる。➡ 20 00:02:08,919 --> 00:02:11,755 その ふじ屋敷に➡ 21 00:02:11,755 --> 00:02:17,261 佐吉が呼ばれたのは この春の事であった> 22 00:02:17,261 --> 00:02:21,131 (おふじ)佐吉。 23 00:02:21,131 --> 00:02:25,135 お前が植木職人になったと 聞いてね➡ 24 00:02:25,135 --> 00:02:27,438 ずっと 旦那様に➡ 25 00:02:27,438 --> 00:02:31,275 この庭の手入れをさせてほしいと お願いしていたんだ。 26 00:02:31,275 --> 00:02:35,145 それが ようやく かなって 私は うれしいよ。 27 00:02:35,145 --> 00:02:38,382 おふじ様が…。 そうさ。 28 00:02:38,382 --> 00:02:41,051 お前の母親の事があって➡ 29 00:02:41,051 --> 00:02:44,388 お前には ずっと 冷たくしてきたけれどね➡ 30 00:02:44,388 --> 00:02:48,088 大人気なかったと そう思ってさ。 31 00:02:50,561 --> 00:02:55,232 お前は うちの者なんだから 少しは ひいきにしてやりたい。 32 00:02:55,232 --> 00:02:57,167 そう思った訳なのさ。 33 00:02:57,167 --> 00:03:02,906 うちの者…。 ありがとう存じます。 34 00:03:02,906 --> 00:03:07,411 今じゃ ここも ふじ屋敷なんて呼ばれているだろ。 35 00:03:07,411 --> 00:03:12,750 だから 藤の花を咲かせたいと思ってさ。 36 00:03:12,750 --> 00:03:16,253 今年から 見る事ができるだろうね。 37 00:03:16,253 --> 00:03:19,289 聞いております。 親方の知り合いから➡ 38 00:03:19,289 --> 00:03:21,425 立派な藤を都合してきて➡ 39 00:03:21,425 --> 00:03:24,762 庭木に絡ませようと 思っておりますので。 40 00:03:24,762 --> 00:03:29,962 平気かい? 藤の花は強うございますから。 41 00:03:31,535 --> 00:03:34,438 私のようにかい? 42 00:03:34,438 --> 00:03:38,041 いえ そんなつもりじゃ…。 43 00:03:38,041 --> 00:03:41,241 いいんだよ。 フフフ…。 44 00:03:46,717 --> 00:03:48,652 フッ…。 45 00:03:48,652 --> 00:03:52,389 <その藤は ふじ屋敷に植え替えても➡ 46 00:03:52,389 --> 00:03:57,561 花の出来栄えに 遜色はなかった> 47 00:03:57,561 --> 00:04:01,064 (おふじ)随分と濃い赤だこと。 48 00:04:01,064 --> 00:04:06,870 はい。 土が変われば 色と姿が変わる事はございます。 49 00:04:06,870 --> 00:04:10,574 多分 ここの土は 金気が強いんでしょう。 50 00:04:10,574 --> 00:04:14,077 お気に召さないようなら 肥やしを変える事で➡ 51 00:04:14,077 --> 00:04:17,748 来年は 色目を加減する事も できると思います。 52 00:04:17,748 --> 00:04:21,585 いいさ。 どうやったって この藤の花は➡ 53 00:04:21,585 --> 00:04:23,520 赤くなると決まってるんだ。 54 00:04:23,520 --> 00:04:25,520 …えっ? 55 00:04:28,459 --> 00:04:34,164 でも 佐吉。 立派になったもんだね。 56 00:04:34,164 --> 00:04:38,035 あの世の葵さんも 一人前になった あんたを見て➡ 57 00:04:38,035 --> 00:04:40,537 きっと 喜んでるでしょうよ。 58 00:04:40,537 --> 00:04:42,573 おふじ様 どういう事でしょうか? 59 00:04:42,573 --> 00:04:49,246 おふくろは 死んだんでしょうか? それは いつの事でしょうか!? 60 00:04:49,246 --> 00:04:53,116 フフフ…。 おふじ様。 61 00:04:53,116 --> 00:04:57,554 アハハ…! おふじ様! 62 00:04:57,554 --> 00:05:00,054 おふじ様! 63 00:05:11,101 --> 00:05:16,406 (雷鳴) 64 00:05:16,406 --> 00:05:24,281 <それ以降 佐吉は おふじには会えなかった。➡ 65 00:05:24,281 --> 00:05:30,420 とうとう 我慢しきれず 佐吉は 総右衛門に掛け合った> 66 00:05:30,420 --> 00:05:34,391 旦那様。 一体 おふくろは どうして…。 67 00:05:34,391 --> 00:05:37,861 いや 本当に死んだんでしょうか? 68 00:05:37,861 --> 00:05:45,602 (総右衛門)ああ。 葵は死んだよ。 おふじの言うとおりだ。 69 00:05:45,602 --> 00:05:49,573 いつ… でしょうか? 70 00:05:49,573 --> 00:05:53,573 湊屋を出て 間もなくだ。 71 00:05:55,279 --> 00:06:00,717 いろいろと差し障りがあるから どこに葬ったかは 今は言えない。 72 00:06:00,717 --> 00:06:06,056 西方浄土を拝んで 母親の菩提を弔っておくれ。 73 00:06:06,056 --> 00:06:08,756 いいね? 74 00:06:10,394 --> 00:06:22,739 (弓之助)「菩提を弔って… おくれ…」ですか。 75 00:06:22,739 --> 00:06:26,577 本当に…。 そう怒るな。 76 00:06:26,577 --> 00:06:30,447 怒ってなぞいません。 いやいや 字が怒ってる。 77 00:06:30,447 --> 00:06:33,684 いや… ちょっ… ちょっ…! 筆が怒ってるだけです。 78 00:06:33,684 --> 00:06:36,353 いやいや…。 いやいや… ちょっ… ちょっ…。 79 00:06:36,353 --> 00:06:39,022 ちょい ちょい ちょい…! ちょっ… 叔父上! 叔父上! 80 00:06:39,022 --> 00:06:41,858 ちょっ… いやいや… ちょっと ちょっと。 81 00:06:41,858 --> 00:06:43,794 申し訳ございません。 82 00:06:43,794 --> 00:06:46,363 坊ちゃんに こんなお話を お聞かせして。 83 00:06:46,363 --> 00:06:49,266 いや… どうして 佐吉さんが謝るのですか? 84 00:06:49,266 --> 00:06:52,035 どうして そんなに お人よしなのでしょうか。 85 00:06:52,035 --> 00:06:55,706 大人を説教するのは おねしょの癖が直ってからだ。 86 00:06:55,706 --> 00:07:01,044 そんな事を言う叔父上は嫌いです。 87 00:07:01,044 --> 00:07:04,081 ハハッ。 まあまあ そう むきになっちゃいけません。 88 00:07:04,081 --> 00:07:08,552 大人は そうやって 子どもをからかうもんです。 ハハハ。 89 00:07:08,552 --> 00:07:14,725 話を元に戻すが 湊屋に そんな事を言われて➡ 90 00:07:14,725 --> 00:07:20,230 お前の腹は おさまったのか? …いや~ おさまる訳はねえ。 91 00:07:20,230 --> 00:07:24,568 そうだな? …はい。 92 00:07:24,568 --> 00:07:28,438 旦那様と おふじ様は 俺に うそをついてた。 93 00:07:28,438 --> 00:07:31,241 だったら まだ うそがあるんじゃねえか。 94 00:07:31,241 --> 00:07:36,013 いろんな事が 頭を駆け巡って…。 95 00:07:36,013 --> 00:07:43,520 そんな時 めっそうもない考えが 頭をよぎったんです。 96 00:07:43,520 --> 00:07:49,192 そうだ。 おふじ様は おふくろを嫌ってた。➡ 97 00:07:49,192 --> 00:07:52,529 もしかしたら あの言葉は…。 98 00:07:52,529 --> 00:07:58,329 どうやったって この藤の花は 赤くなると決まってるんだ。 99 00:08:01,238 --> 00:08:09,946 おふじ様が おふくろを手にかけた って事なんじゃねえかって…。 100 00:08:09,946 --> 00:08:15,719 旦那。 俺が この間 官九郎の事を 知らせに上がった時➡ 101 00:08:15,719 --> 00:08:18,055 あれは 口実で➡ 102 00:08:18,055 --> 00:08:22,926 本当は その事を相談したかったんです。 103 00:08:22,926 --> 00:08:25,796 ああ…。 俺は てっきり➡ 104 00:08:25,796 --> 00:08:28,231 お前が お恵と けんかでも したんじゃねえかって➡ 105 00:08:28,231 --> 00:08:31,068 思ってたぜ。 あ… 私もです。 106 00:08:31,068 --> 00:08:35,038 こちらから 戻ったあと いざこざがあったんです。 107 00:08:35,038 --> 00:08:38,508 お恵のやつが 急に 当たり散らして…。 108 00:08:38,508 --> 00:08:40,844 (お恵)どうせ 私の事なんか➡ 109 00:08:40,844 --> 00:08:43,680 どうでもいいと 思ってるんでしょうから! 110 00:08:43,680 --> 00:08:46,183 お恵! 離して! 111 00:08:46,183 --> 00:08:48,118 (佐吉) 俺の様子が おかしかったんで➡ 112 00:08:48,118 --> 00:08:52,522 俺が お恵の事を嫌いになったと 思ったらしくて…。 113 00:08:52,522 --> 00:08:54,458 そんな事ある訳ないじゃない! 114 00:08:54,458 --> 00:08:57,394 けど そのいざこざも 収まったんですね。 115 00:08:57,394 --> 00:09:03,233 へい。 お恵に全てを打ち明けて あいつにも 励まされて➡ 116 00:09:03,233 --> 00:09:10,707 そのうち 湊屋の旦那様に会おうと 決心した時…。 117 00:09:10,707 --> 00:09:13,043 何かあったのか? 118 00:09:13,043 --> 00:09:20,550 実は おふじ様が 屋敷の庭で 首をつろうとなさったんです。 119 00:09:20,550 --> 00:09:32,996 ♬~ 120 00:09:32,996 --> 00:09:36,500 奥様! 誰か! 誰か~! 奥様~! 121 00:09:36,500 --> 00:09:40,170 離せ~! 離せ~! 122 00:09:40,170 --> 00:09:45,008 (佐吉)おふじ様は 「この藤は どうやったって 赤くなる」。➡ 123 00:09:45,008 --> 00:09:49,880 そう おっしゃいました。 それって つまり ご自身の手が➡ 124 00:09:49,880 --> 00:09:52,682 血で汚れてるという 意味だったんじゃないでしょうか。 125 00:09:52,682 --> 00:09:56,553 旦那様。 佐吉は もう 子どもではございません。 126 00:09:56,553 --> 00:10:02,253 お願いします。 本当の事を… まことの事を教えて下さい。 127 00:10:04,027 --> 00:10:06,027 旦那様…! 128 00:10:08,365 --> 00:10:16,665 葵は… お前の母親は… 生きているよ。 129 00:10:19,543 --> 00:10:22,212 おふじは 死んだと思い込んでるが➡ 130 00:10:22,212 --> 00:10:26,383 葵は 生きて 六本木の芋洗坂の 近くに住んでいる。 131 00:10:26,383 --> 00:10:29,719 芋洗坂の どこですか? 今は言えない。 132 00:10:29,719 --> 00:10:31,655 旦那様! いいかい? 133 00:10:31,655 --> 00:10:35,392 勝手に会いに行ってはいけない。 葵にも支度がある。 134 00:10:35,392 --> 00:10:38,295 あれと よく相談して 会う日取りを決める。 135 00:10:38,295 --> 00:10:41,795 それまで 辛抱しておくれ。 いいね? 136 00:10:47,003 --> 00:10:50,640 <だが 辛抱たまらず➡ 137 00:10:50,640 --> 00:10:55,412 佐吉は 芋洗坂に 出向いてしまったのである。➡ 138 00:10:55,412 --> 00:10:59,112 それが あの日の事だった> 139 00:11:03,286 --> 00:11:06,122 (佐吉)いきなり 名乗るつもりは ありませんでした。➡ 140 00:11:06,122 --> 00:11:09,593 遠くから 顔を見るだけでいい。➡ 141 00:11:09,593 --> 00:11:13,263 第一 俺は おふくろの顔を知りませんし➡ 142 00:11:13,263 --> 00:11:16,099 向こうだって同じです。 143 00:11:16,099 --> 00:11:19,436 ごめんくださいまし。 144 00:11:19,436 --> 00:11:24,107 (佐吉)風に乗って お香の香りでしょうか。➡ 145 00:11:24,107 --> 00:11:28,278 いい匂いがしてきたんです。 146 00:11:28,278 --> 00:11:50,533 ♬~ 147 00:11:50,533 --> 00:11:54,404 葵様。 そろそろ お薬…。 148 00:11:54,404 --> 00:12:00,604 葵様…? キャ~! 149 00:12:04,581 --> 00:12:11,922 そうか…。 お前は とうとう おふくろさんと➡ 150 00:12:11,922 --> 00:12:15,422 言葉を交わさないままに なっちまったんだな。 151 00:12:17,093 --> 00:12:26,770 えっ… そうですね。 152 00:12:26,770 --> 00:12:37,714 ♬~ 153 00:12:37,714 --> 00:12:40,050 (戸をたたく音) 154 00:12:40,050 --> 00:12:42,719 ≪(佐吉)俺だよ。 155 00:12:42,719 --> 00:12:53,363 ♬~ 156 00:12:53,363 --> 00:12:55,363 お帰り。 157 00:13:01,738 --> 00:13:05,075 <政五郎は 本所元町で➡ 158 00:13:05,075 --> 00:13:11,948 女房のお紺に そば屋を切り盛りさせている> 159 00:13:11,948 --> 00:13:15,085 じゃあ 芋洗坂からの帰りで? 160 00:13:15,085 --> 00:13:17,020 岡っ引きの八助にな➡ 161 00:13:17,020 --> 00:13:20,757 定町廻りの佐伯殿に会いたいので 渡りをつけてくれと➡ 162 00:13:20,757 --> 00:13:23,259 頼んできたところだ。 シマが違うとはいえ➡ 163 00:13:23,259 --> 00:13:27,130 同じ町方の旦那なんですから じかに 掛け合った方が➡ 164 00:13:27,130 --> 00:13:29,432 話は早いんじゃありませんか? 165 00:13:29,432 --> 00:13:33,303 いや~ だが それじゃ 八助を蚊帳の外に置く事になる。 166 00:13:33,303 --> 00:13:35,705 へそ曲げられても困るからよ。 167 00:13:35,705 --> 00:13:38,541 (お紺)井筒様 どうぞ。 お代わりです。 168 00:13:38,541 --> 00:13:41,211 おう。 169 00:13:41,211 --> 00:13:44,047 これでも ちっとは考えてんだぜ。 170 00:13:44,047 --> 00:13:47,550 …で 八助は のみ込んだんで? 171 00:13:47,550 --> 00:13:52,222 俺たちは ただ 本当の事が知りたいだけだ。 172 00:13:52,222 --> 00:13:55,125 もし 下手人が出てきた場合は 佐伯の旦那とお前たちに➡ 173 00:13:55,125 --> 00:13:58,995 そっくり渡す。 だから 頼む! …ってな あんばいでな。 174 00:13:58,995 --> 00:14:01,564 まあ あっしもね➡ 175 00:14:01,564 --> 00:14:05,435 佐吉は人殺しなんぞが できる男じゃねえって➡ 176 00:14:05,435 --> 00:14:07,437 感じるとこもあったんですよ。 177 00:14:07,437 --> 00:14:10,573 これは もしかしたら 湊屋さんは➡ 178 00:14:10,573 --> 00:14:14,244 佐吉が下手人じゃねえという事を 知ってて➡ 179 00:14:14,244 --> 00:14:18,415 誰かを かばってんじゃねえかって…。 180 00:14:18,415 --> 00:14:23,586 こりゃ 驚いた。 だとしたら 誰の顔が浮かぶ? 181 00:14:23,586 --> 00:14:27,090 へっ? まさか…。 182 00:14:27,090 --> 00:14:31,928 一度は葵を殺した女。 おふじには おふじの心がある。 183 00:14:31,928 --> 00:14:33,897 もし… もしもだ。 184 00:14:33,897 --> 00:14:38,201 おふじが 葵をし損なってる事に 感づいていたとしたら どうだ? 185 00:14:38,201 --> 00:14:42,072 ですが おふじは 自分で首をくくったんですぜ。 186 00:14:42,072 --> 00:14:44,872 それ どう考えたって 自分のやった事…。 187 00:14:47,377 --> 00:14:52,248 おふじが首をくくったのは 湊屋総右衛門に対する➡ 188 00:14:52,248 --> 00:14:54,717 当てつけだと 思ってらっしゃるんで? 189 00:14:54,717 --> 00:14:59,556 だが 死ねなかった。 …で 考えた。 190 00:14:59,556 --> 00:15:02,058 どうして 私が死ななきゃならない? 191 00:15:02,058 --> 00:15:04,727 ぬけぬけと生き延びてたのは 葵の方じゃないか。 192 00:15:04,727 --> 00:15:08,598 でもって 芋洗坂に乗り込んで…。 193 00:15:08,598 --> 00:15:13,069 いや… まだ そうだと決まった訳じゃねえ。 194 00:15:13,069 --> 00:15:17,369 一から調べるんだからな。 一から…。 うん。 195 00:15:25,648 --> 00:16:03,648 ♬~ 196 00:16:09,726 --> 00:16:13,897 (志乃)いかがなさったので ございますか? 197 00:16:13,897 --> 00:16:20,397 お前の着物を 質に持ってくと いくらになるかな? 198 00:16:22,071 --> 00:16:24,908 えっ? 俺 何か言った? 199 00:16:24,908 --> 00:16:29,245 どうして 私の着物を 売り払わねばならないのですか? 200 00:16:29,245 --> 00:16:31,181 おっ…。 201 00:16:31,181 --> 00:16:34,851 また どこぞの女水芸人に 入れ揚げてるのでございますか? 202 00:16:34,851 --> 00:16:36,886 まさか。 ハハハ…。 203 00:16:36,886 --> 00:16:39,022 ようございます。 204 00:16:39,022 --> 00:16:41,925 着物を質に入れてみたら いかがです? 205 00:16:41,925 --> 00:16:45,925 どうなるか お分かりに なるはずでございますから。 206 00:16:51,201 --> 00:16:54,001 (小平次)うへぇ。 207 00:16:58,541 --> 00:17:04,347 それにつけても 金の欲しさよ。 208 00:17:04,347 --> 00:17:07,050 えっ? 209 00:17:07,050 --> 00:17:10,386 定町廻りの佐伯殿のシマで あれこれ嗅ぎ回るためには➡ 210 00:17:10,386 --> 00:17:13,423 佐伯殿をもてなさねばならん。 211 00:17:13,423 --> 00:17:17,260 できるだけ ぜいたくに お膳立てを整え➡ 212 00:17:17,260 --> 00:17:20,730 先方を いい気分にさせておいて 話をまとめる。 213 00:17:20,730 --> 00:17:24,400 そのためには 金が要るが… ない。 214 00:17:24,400 --> 00:17:28,571 かといって 金を惜しんで ケチなやつだと思われるのは➡ 215 00:17:28,571 --> 00:17:30,607 大いに まずい。 216 00:17:30,607 --> 00:17:35,345 あ… でしたら 河合屋で 要るだけ 用立てます。 217 00:17:35,345 --> 00:17:39,015 これでも 俺には俺の面目がある。 218 00:17:39,015 --> 00:17:42,852 あ… だったら お徳さんではいかがでしょうか? 219 00:17:42,852 --> 00:17:45,521 お徳? 220 00:17:45,521 --> 00:17:47,557 (お徳)嫌ですよ 私は! 221 00:17:47,557 --> 00:17:50,693 そんな 何だか知らないけど➡ 222 00:17:50,693 --> 00:17:54,030 屋根船で出す仕出し料理 こさえろなんて➡ 223 00:17:54,030 --> 00:17:57,066 急に言われたって…。 どうしたって 駄目です! 224 00:17:57,066 --> 00:18:01,371 どうしても おもてなしを せねばならん お方がいてな➡ 225 00:18:01,371 --> 00:18:05,875 そのためには おいしい料理と酒が必要だ。 226 00:18:05,875 --> 00:18:08,378 しかも 安くだ。 227 00:18:08,378 --> 00:18:10,713 頼む お徳! 助けてくれ。 228 00:18:10,713 --> 00:18:13,216 分かんない人だね 旦那も。 えっ? 229 00:18:13,216 --> 00:18:16,719 そんなの作れっこありませんて 言ってるでしょ さっきから! 230 00:18:16,719 --> 00:18:19,389 作れてるじゃねえかよ。 231 00:18:19,389 --> 00:18:22,892 これは その… けど できゃしませんて! 232 00:18:22,892 --> 00:18:27,230 けど とっても おいしそうですよ。 ねえ 坊ちゃん。 233 00:18:27,230 --> 00:18:29,732 あっ はい。 234 00:18:29,732 --> 00:18:31,668 ねっ? 235 00:18:31,668 --> 00:18:33,603 は… はい。 236 00:18:33,603 --> 00:18:35,538 はい。 237 00:18:35,538 --> 00:18:37,840 そんな事 言いますけどね 坊ちゃん➡ 238 00:18:37,840 --> 00:18:41,511 おかず屋だって まだ 始めたばかりなんですよ。 239 00:18:41,511 --> 00:18:45,811 仕出し料理だって 食い物を作る事は同じですよ。 240 00:18:49,252 --> 00:18:51,688 お引き受けしましょうよ。 おかみさん。 241 00:18:51,688 --> 00:18:54,691 細かい段取りは 私が教えるし 手伝いますから。 242 00:18:54,691 --> 00:18:57,560 仕出し屋とっ始めの いい機会ですよ。 243 00:18:57,560 --> 00:19:02,198 それに 何たって 井筒の旦那の たっての頼みだ。 244 00:19:02,198 --> 00:19:04,534 断っちゃ おかみさんの女が廃る。 245 00:19:04,534 --> 00:19:08,938 いい事 言うぜ。 けど… けど… あれだよ。 246 00:19:08,938 --> 00:19:13,910 そうだよ。 器だよ! 肝心なのは。 彦さんも言ってたじゃないか。 247 00:19:13,910 --> 00:19:17,647 客に出す料理は 器も味のうちだってさ。 248 00:19:17,647 --> 00:19:21,217 そうですよ 旦那。 器なんてありゃしませんからね。 249 00:19:21,217 --> 00:19:24,053 無理無理。 だから 借りてくるんですよ➡ 250 00:19:24,053 --> 00:19:25,988 石和屋から。 えっ? 事情を話して➡ 251 00:19:25,988 --> 00:19:29,726 石和屋のおかみさんに頼めば 銭なんて かかりゃしませんて。 252 00:19:29,726 --> 00:19:34,997 いや そいつはいいぜ おい。 頼むぜ 彦一。 253 00:19:34,997 --> 00:19:37,500 お任せ下さい。 そんな 安請け合いして! 254 00:19:37,500 --> 00:19:40,536 いや もう! 知らないからね~! (彦一)おかみさん! 255 00:19:40,536 --> 00:19:43,840 やったぜ 弓之助。 え…? 256 00:19:43,840 --> 00:19:49,512 よいしょ…。 アハハ。 ああ…。 257 00:19:49,512 --> 00:19:51,547 うへぇ。 258 00:19:51,547 --> 00:19:57,253 お前は つくづく 女ったらし …いやいや 人転がしの天才だな。 259 00:19:57,253 --> 00:19:59,222 あ…。 260 00:19:59,222 --> 00:20:02,225 あっ 叔父上。 うん? 私は おでこさんの顔を➡ 261 00:20:02,225 --> 00:20:04,360 見に行ってまいります。 262 00:20:04,360 --> 00:20:07,263 ああ よろしくな。 (弓之助)はい! 263 00:20:07,263 --> 00:20:11,134 葵の家に勤める お六に 会ってみよう。 264 00:20:11,134 --> 00:20:15,538 お六は 葵が死んだ時 その場にいた女だ。 265 00:20:15,538 --> 00:20:18,040 何か知ってるかもしれねえ。 266 00:20:18,040 --> 00:20:20,710 旦那! びっくりした! 267 00:20:20,710 --> 00:20:22,645 もう お帰りで? 268 00:20:22,645 --> 00:20:25,381 猿の干物が 顔 出したのかと 思ったぜ。 269 00:20:25,381 --> 00:20:28,217 ププッ! えっ!? 270 00:20:28,217 --> 00:20:32,889 気にするな。 うへぇ。 271 00:20:32,889 --> 00:20:36,389 猿の干物!? 272 00:20:43,533 --> 00:20:45,468 はっ! 273 00:20:45,468 --> 00:20:51,574 俺だよ 俺。 ああ! ああ… あっ 先日の…。 274 00:20:51,574 --> 00:20:53,910 荷造りしてたのかい? 275 00:20:53,910 --> 00:20:57,580 じゃあ 新しい奉公先が 見つかったんだな。 276 00:20:57,580 --> 00:21:00,483 そいつは よかった。 あ… はい。 277 00:21:00,483 --> 00:21:03,386 そう硬くなる事はねえ。 どうせ 久兵衛に➡ 278 00:21:03,386 --> 00:21:07,757 葵の事で 余計な事を しゃべるなとか 言われてんだろ。 279 00:21:07,757 --> 00:21:13,457 だがな お六。 葵を殺したのは 佐吉じゃねえぞ。 280 00:21:15,097 --> 00:21:17,033 …と言ったところで➡ 281 00:21:17,033 --> 00:21:20,770 素直には信じちゃくれめえが…。 282 00:21:20,770 --> 00:21:27,276 お六。 久兵衛は お前さんに あの佐吉が葵の伜だって事を➡ 283 00:21:27,276 --> 00:21:30,313 教えたかい? …伜? 284 00:21:30,313 --> 00:21:34,717 おうさ。 18年も前に 生き別れになった子どもだよ。 285 00:21:34,717 --> 00:21:37,386 いや きれい事すぎるな それは…。 286 00:21:37,386 --> 00:21:40,723 葵は 佐吉を捨てたんだよ。 287 00:21:40,723 --> 00:21:45,561 捨てた? ああ。 288 00:21:45,561 --> 00:21:47,597 やっぱり…。 289 00:21:47,597 --> 00:21:51,734 やっぱり? やっぱりってのは どういう事だい? 290 00:21:51,734 --> 00:21:54,403 ああ… いえ。 お六。 291 00:21:54,403 --> 00:21:59,575 お前 下手人が誰か 心当たりはねえか? 292 00:21:59,575 --> 00:22:03,746 よし。 ちょいと長い話になる。 293 00:22:03,746 --> 00:22:07,416 その話を聞けば お前が俺に何を話そうが➡ 294 00:22:07,416 --> 00:22:09,752 久兵衛や湊屋が ちょっかいをしてくる事は➡ 295 00:22:09,752 --> 00:22:12,088 間違ってもねえって事が分かる。 296 00:22:12,088 --> 00:22:16,926 <平四郎は 湊屋総右衛門と葵の間柄➡ 297 00:22:16,926 --> 00:22:21,430 かつて 起こった おふじによる葵殺しから➡ 298 00:22:21,430 --> 00:22:28,104 今日の事までを お六に語って聞かせた> 299 00:22:28,104 --> 00:22:32,074 まあ そんなこった。 (すすり泣き) 300 00:22:32,074 --> 00:22:34,210 この話はな➡ 301 00:22:34,210 --> 00:22:38,047 誰にでも 語って 聞かせられるような話じゃねえ。 302 00:22:38,047 --> 00:22:43,819 葵の人生最後に立ち会った お前さんだから話したんだ。 303 00:22:43,819 --> 00:22:48,758 俺はな 生きてる葵には会えなかった。 304 00:22:48,758 --> 00:22:51,394 だから あっちの言い分は聞いてねえ。 305 00:22:51,394 --> 00:22:54,730 どうしても 佐吉の側に立っちまう。 306 00:22:54,730 --> 00:23:01,237 葵を責めるような言い方をして 気を悪くしたら 勘弁してくれ。 307 00:23:01,237 --> 00:23:03,172 (すすり泣き) 308 00:23:03,172 --> 00:23:12,381 いいえ。 でも… 葵様も 佐吉さんという人の事を➡ 309 00:23:12,381 --> 00:23:17,219 お忘れになっていた訳じゃないと 思います。 310 00:23:17,219 --> 00:23:22,425 葵様は 昔の話をする方じゃ ありませんでしたけど➡ 311 00:23:22,425 --> 00:23:25,094 ただ いっぺんだけ…➡ 312 00:23:25,094 --> 00:23:29,265 いっぺんだけ おっしゃった事があるんです。 313 00:23:29,265 --> 00:23:35,371 (葵)お六。 私は幽霊なんだ。 子盗り鬼よりも もっとひどい➡ 314 00:23:35,371 --> 00:23:39,041 子捨ての親でもあるんだよ。 315 00:23:39,041 --> 00:23:42,878 子捨ての親…。 316 00:23:42,878 --> 00:23:49,385 はい。 ですから 葵様も 佐吉さんという息子さんに➡ 317 00:23:49,385 --> 00:23:53,222 すまなかったという お気持ちだったのだと思います。 318 00:23:53,222 --> 00:23:58,060 ずっと ずっと…。 319 00:23:58,060 --> 00:24:03,933 聞いてみなくちゃ分からねえなあ。 そんな事を言うようだと➡ 320 00:24:03,933 --> 00:24:07,236 葵は お前さんを 気に入ってたんだな。 321 00:24:07,236 --> 00:24:09,171 もっとも そうじゃなきゃ➡ 322 00:24:09,171 --> 00:24:12,908 一つ屋根の下 3年も一緒に暮らせねえか。 323 00:24:12,908 --> 00:24:19,782 優しいお方でした。 いつも よくして下すって…。 324 00:24:19,782 --> 00:24:25,488 息子さんが つらくて 寂しくって➡ 325 00:24:25,488 --> 00:24:32,028 葵様を恨んでいたとしても しかたがないのかもしれません。 326 00:24:32,028 --> 00:24:39,702 でも… 葵様も おかわいそうです。 327 00:24:39,702 --> 00:24:45,002 お二人とも 気の毒です。 328 00:24:46,876 --> 00:24:55,885 優しいな お前は。 …で もう一度 聞く。 329 00:24:55,885 --> 00:25:02,685 お六。 お前 下手人が誰か 心当たりがあるのかい? 330 00:25:06,529 --> 00:25:08,597 孫八じゃないかって。 331 00:25:08,597 --> 00:25:12,902 孫八? 誰だ そいつは? 332 00:25:12,902 --> 00:25:18,407 旦那は この家に出る 子盗り鬼の話を知ってますか? 333 00:25:18,407 --> 00:25:23,579 ああ 葵が言ってたという。 そういや 芋洗坂の下っ引きも➡ 334 00:25:23,579 --> 00:25:27,416 この屋敷は化け物屋敷だ。 子盗り鬼が出るとか何とか➡ 335 00:25:27,416 --> 00:25:30,453 言ってたが。 子を盗む鬼の事です。 336 00:25:30,453 --> 00:25:34,690 その子盗り鬼が出たんです。 …出た? 337 00:25:34,690 --> 00:25:36,625 このうちに いたんじゃありません。 338 00:25:36,625 --> 00:25:40,496 私に くっついてきたんです。 それが 孫八なんです。 339 00:25:40,496 --> 00:25:43,032 旦那! あっ 出た! ああっ! 340 00:25:43,032 --> 00:25:45,367 旦那! お六さんの娘さんたちが。 341 00:25:45,367 --> 00:25:47,403 (おゆき)おっ母さん 手習いに行ってくるね。 342 00:25:47,403 --> 00:25:49,538 そうかい。 気を付けてね。 偉いなあ。 343 00:25:49,538 --> 00:25:53,375 手習いに通ってるのか。 はい。 葵様のお勧めで➡ 344 00:25:53,375 --> 00:25:55,411 この先にある法春院ってとこに。 345 00:25:55,411 --> 00:25:58,714 女の先生が 文字や針仕事を 教えてくれるんです。 346 00:25:58,714 --> 00:26:01,383 小平次 送ってやれ。 はい。 347 00:26:01,383 --> 00:26:03,886 申し訳ありません。 (2人)行ってきます。 348 00:26:03,886 --> 00:26:07,223 (小平次)さささ…。 ハハッ。 349 00:26:07,223 --> 00:26:12,061 それで? あいつの話をするには➡ 350 00:26:12,061 --> 00:26:18,234 ちょっとだけ 私の話を 聞いてもらわなきゃなりません。 351 00:26:18,234 --> 00:26:21,137 子だくさんの貧しいうちに 生まれて➡ 352 00:26:21,137 --> 00:26:25,107 子どもの時から お使いから 子守まで➡ 353 00:26:25,107 --> 00:26:27,910 何でもやって生きてきました。 354 00:26:27,910 --> 00:26:35,351 けど 新吉さんと知り合って…。 死んだ亭主の事ですけど➡ 355 00:26:35,351 --> 00:26:40,022 新さんと一緒になって あの子たちが生まれて➡ 356 00:26:40,022 --> 00:26:47,222 ようやく 人並みな幸せってやつを つかんだんです。 だけど…。 357 00:26:57,373 --> 00:27:00,409 (せきこみ) 358 00:27:00,409 --> 00:27:23,409 (荒い息と うめき声) 359 00:27:29,905 --> 00:27:36,011 あんた? …あんた!? あんた! あんた! 360 00:27:36,011 --> 00:27:42,885 (お六)あっという間でした。 前の日は 元気だったのに…。 361 00:27:42,885 --> 00:27:48,524 人って こんなに あっけなく 死んでしまうものなのかって➡ 362 00:27:48,524 --> 00:27:52,361 思いました。 363 00:27:52,361 --> 00:27:57,700 私は また その日暮らしの毎日に 戻りました。➡ 364 00:27:57,700 --> 00:28:01,437 けど 娘たちがいましたから➡ 365 00:28:01,437 --> 00:28:04,406 めそめそなんて してられなかった。➡ 366 00:28:04,406 --> 00:28:06,709 そんな時です。➡ 367 00:28:06,709 --> 00:28:11,380 私に縁談が持ち込まれたんです。 368 00:28:11,380 --> 00:28:14,216 じゃ お先です。 ああ。 369 00:28:14,216 --> 00:28:24,516 (鈴の音) 370 00:28:30,566 --> 00:28:32,534 (お六)そいつが孫八で➡ 371 00:28:32,534 --> 00:28:36,372 死んだ亭主の 仕事仲間だったんです。 372 00:28:36,372 --> 00:28:40,676 死んだ亭主に 操を立てたって どうなるもんでもないだろう。 373 00:28:40,676 --> 00:28:44,513 それでも あの人の分まで 頑張って働いて➡ 374 00:28:44,513 --> 00:28:48,851 この子たちを一人前にするのが 私の役目ですから。 375 00:28:48,851 --> 00:28:52,354 だからさ 女一人じゃ大変だろうから➡ 376 00:28:52,354 --> 00:28:54,390 俺が 助けてやろうってんじゃないか。 377 00:28:54,390 --> 00:28:56,692 その日暮らしの賃仕事で➡ 378 00:28:56,692 --> 00:28:59,194 一体 これから どうやって やってくってんだ。 379 00:28:59,194 --> 00:29:01,230 なあ 母ちゃんに言ってやんな。 380 00:29:01,230 --> 00:29:03,365 おじちゃんが 親父になったら➡ 381 00:29:03,365 --> 00:29:06,035 菓子でも何でも 買ってもらえるってさ。 382 00:29:06,035 --> 00:29:09,538 あの… 奉公先の当てが出来たんです。 383 00:29:09,538 --> 00:29:12,875 平河って料理屋で 住み込みで構わないって➡ 384 00:29:12,875 --> 00:29:17,713 そう言われて。 ですから この話は なかった事にして下さいな。 385 00:29:17,713 --> 00:29:22,413 ほら! お前たち 手 洗っといで! (2人)は~い。 386 00:29:24,586 --> 00:29:28,357 ふ~ん。 そうかい。 387 00:29:28,357 --> 00:29:32,361 <だが 話は そこで終わらない> 388 00:29:32,361 --> 00:29:37,361 お六に 手を出したのは お前か!? 389 00:29:39,501 --> 00:29:49,678 <この一件で お六の奉公の口は はかなく消えたのである> 390 00:29:49,678 --> 00:29:54,550 (鈴の音) 391 00:29:54,550 --> 00:29:56,550 あっ! 392 00:30:02,858 --> 00:30:04,793 お帰り。 393 00:30:04,793 --> 00:30:25,247 ♬~ 394 00:30:25,247 --> 00:30:28,984 それで 逃げ出したんだな? 孫八から。 395 00:30:28,984 --> 00:30:32,388 働いていた飯屋に 居合わせた お方が➡ 396 00:30:32,388 --> 00:30:37,588 その事を知って ここの家を お世話して下さったんです。 397 00:30:40,729 --> 00:30:44,233 (お六) 仕事は お身の回りのお世話を➡ 398 00:30:44,233 --> 00:30:46,735 一切合財 1人でやる事。➡ 399 00:30:46,735 --> 00:30:51,907 住み込みで 用足しのほかは 家から外に出ない事。 400 00:30:51,907 --> 00:30:56,745 私にとっては 願ったりかなったりの話で。 401 00:30:56,745 --> 00:30:59,648 ただ…。 402 00:30:59,648 --> 00:31:04,620 子盗り鬼? そうです。 403 00:31:04,620 --> 00:31:09,324 昔から 子どもを盗って食らう鬼が この屋敷に棲んでるっていう➡ 404 00:31:09,324 --> 00:31:12,094 悪い言い伝えがあってね。 405 00:31:12,094 --> 00:31:14,997 今でも この家のどこかに潜んでいて➡ 406 00:31:14,997 --> 00:31:18,434 夜中になると さまようらしい。 407 00:31:18,434 --> 00:31:23,605 そのおかげで この2年の間に 3人の女中が➡ 408 00:31:23,605 --> 00:31:27,443 薄気味悪がって 逃げ出してるんですよ。 409 00:31:27,443 --> 00:31:35,250 でも 信じておられないんですね。 お前は信じるかえ? 410 00:31:35,250 --> 00:31:39,388 …分かりません。 411 00:31:39,388 --> 00:31:43,725 けど 正体の分からない 子盗り鬼より➡ 412 00:31:43,725 --> 00:31:49,064 もっと怖いものが 世の中にはいますから。 413 00:31:49,064 --> 00:31:53,902 私は 孫八の話をしました。 414 00:31:53,902 --> 00:31:59,708 …そんな訳でございます。 415 00:31:59,708 --> 00:32:06,615 お前が気に入りました。 今日から働いておくれ。 416 00:32:06,615 --> 00:32:09,084 はい! 417 00:32:09,084 --> 00:32:13,589 あの方お一人のお世話でしたから 大変ではありませんでした。 418 00:32:13,589 --> 00:32:16,625 時折 旦那様がいらっしゃる時だけ➡ 419 00:32:16,625 --> 00:32:19,761 膳を2人分と お酒を ご用意するくらいで。 420 00:32:19,761 --> 00:32:25,567 総右衛門は よく来たのかい? 決まってはいませんでした。 421 00:32:25,567 --> 00:32:29,938 ひとつきも来ない時もあれば 4日後に来る時もあって。 422 00:32:29,938 --> 00:32:38,380 でも この家には 一度も お泊まりにはなりませんでした。 423 00:32:38,380 --> 00:32:42,718 いつも 葵は… 何をしていた? 424 00:32:42,718 --> 00:32:47,055 ただ ぼんやりと。 黄表紙を読んだり➡ 425 00:32:47,055 --> 00:32:52,255 縫い物をしたり 写経をなさったり。 426 00:32:56,064 --> 00:33:00,936 (おゆき おみち) ♬「大黒様という人は」 427 00:33:00,936 --> 00:33:10,245 いいねえ。 子どもたちの声が 聞こえるってのは。 428 00:33:10,245 --> 00:33:15,584 そうだ。 この先にね 法春院って寺があって➡ 429 00:33:15,584 --> 00:33:19,087 寺子屋を開いている 女先生がいるんだよ。 430 00:33:19,087 --> 00:33:22,958 子どもたちを通わせるといい。 うん。 431 00:33:22,958 --> 00:33:31,266 (お六)そうして 幸せな日々が 3年 続きました。 432 00:33:31,266 --> 00:33:35,237 書けました。 (おみち)私も。 433 00:33:35,237 --> 00:33:37,437 あらあら。 434 00:33:50,219 --> 00:33:53,255 (鈴の音) 435 00:33:53,255 --> 00:33:59,728 よう! お六さん。 久しぶりだったなあ。 捜したぜ。 436 00:33:59,728 --> 00:34:02,397 ここの奉公先に 借金があるんだろ? 437 00:34:02,397 --> 00:34:04,900 俺が きれいに払ってやるから。 438 00:34:04,900 --> 00:34:11,200 なあ? だから 一緒に暮らそうや。 親子4人でさ。 439 00:34:13,609 --> 00:34:18,080 分かったよ。 旦那様に文を書いて➡ 440 00:34:18,080 --> 00:34:22,417 人をよこしてもらう。 そんな…。 441 00:34:22,417 --> 00:34:27,756 孫八には 私が会おうじゃないか。 50両の借金がある事にしよう。 442 00:34:27,756 --> 00:34:30,092 そいつを持ってこない限り➡ 443 00:34:30,092 --> 00:34:34,062 お六も 子どもたちも この家から一歩も出さないとね。 444 00:34:34,062 --> 00:34:37,833 50両。 それなら…。 445 00:34:37,833 --> 00:34:39,901 安心するのは まだ早いよ。 446 00:34:39,901 --> 00:34:43,739 今度は 「借金に縛られて かわいそうだ。➡ 447 00:34:43,739 --> 00:34:46,375 一緒に逃げよう」と 言いだすはずだ。 448 00:34:46,375 --> 00:34:49,211 嫌がっても 無理にでも 連れ出そうとする。 449 00:34:49,211 --> 00:34:52,247 それが駄目なら 子どもたちを盾に取る。 450 00:34:52,247 --> 00:34:54,547 そういう男だよ。 451 00:34:57,386 --> 00:35:00,422 私はね お六。 452 00:35:00,422 --> 00:35:03,892 お前より ずっと よく知ってると思うよ。 453 00:35:03,892 --> 00:35:08,730 世間に潜んでいる鬼の怖さをね。 454 00:35:08,730 --> 00:35:12,067 欲しいものは 何でも手に入れる。 455 00:35:12,067 --> 00:35:14,970 そのためだったら 何でもするし➡ 456 00:35:14,970 --> 00:35:18,270 自分の都合のいいように考える。 457 00:35:24,646 --> 00:35:30,346 世間には そういう鬼が ごろごろしている。 458 00:35:34,323 --> 00:35:38,026 でも 葵様。 私は そんな事して頂かなくても。 459 00:35:38,026 --> 00:35:41,897 私が ここから逃げれば… そうです。 もっと遠くに…。 460 00:35:41,897 --> 00:35:45,367 どこに逃げるっていうんだえ? 461 00:35:45,367 --> 00:35:51,173 今のお前が逃げる先といったら 大川の底へ ドブンだ。 462 00:35:51,173 --> 00:35:56,673 行きたかったら 一人でお行き。 子どもは私が預かる。 463 00:35:58,714 --> 00:36:01,383 お前は考えた事がないのかい? 464 00:36:01,383 --> 00:36:07,055 ご亭主の死にざまが おかしいと 思った事は 一度もないのかい? 465 00:36:07,055 --> 00:36:10,092 えっ? 466 00:36:10,092 --> 00:36:13,395 お人よしにも 程があるってもんだ。 467 00:36:13,395 --> 00:36:18,567 あいつが 仕事仲間のご亭主の 女房だったお前に懸想して➡ 468 00:36:18,567 --> 00:36:21,069 邪魔なご亭主を片づけたって 考えても➡ 469 00:36:21,069 --> 00:36:23,105 ちっとも 不思議じゃないじゃないか。 470 00:36:23,105 --> 00:36:25,407 あ…。 471 00:36:25,407 --> 00:36:29,077 しゃんと 背筋 伸ばして 戦うんだ! 472 00:36:29,077 --> 00:36:35,517 子どもを守るためだけじゃない。 ご亭主の敵を討つためにもだ。 473 00:36:35,517 --> 00:36:43,692 そうか。 葵がな…。 474 00:36:43,692 --> 00:36:47,562 …で? やって来たのが 久兵衛かい。 475 00:36:47,562 --> 00:36:53,402 はい。 葵様と久兵衛さんに 50両の借金があると聞かされて➡ 476 00:36:53,402 --> 00:36:57,873 不承不承ながらも 孫八は 一旦は退散したんです。 477 00:36:57,873 --> 00:37:01,710 けど それから しばらくして 孫八のやつ➡ 478 00:37:01,710 --> 00:37:05,380 みちを どこかに かどわかしたんです。 479 00:37:05,380 --> 00:37:09,050 葵の言ったとおりに なったって訳か。 480 00:37:09,050 --> 00:37:11,953 我慢できずに 番屋に駆け込もうとした私を➡ 481 00:37:11,953 --> 00:37:14,723 久兵衛さんは止めました。 482 00:37:14,723 --> 00:37:19,561 岡っ引きが乗り出せば 孫八は お縄にはできるだろうが➡ 483 00:37:19,561 --> 00:37:23,732 そんな野郎なら 子どもの居場所は 金輪際 吐かないだろうからな。 484 00:37:23,732 --> 00:37:25,767 久兵衛さんも そう言ってました。 485 00:37:25,767 --> 00:37:30,238 そして 一晩だけ 時を稼いでほしいって言われて➡ 486 00:37:30,238 --> 00:37:34,209 私 必死になって 孫八に頼んだんです。 487 00:37:34,209 --> 00:37:37,345 一晩したら 一緒に逃げるから 明日 来てくれって。 488 00:37:37,345 --> 00:37:39,848 何? 祈とう師が来てる? 489 00:37:39,848 --> 00:37:42,184 葵様が みちが いなくなったのは➡ 490 00:37:42,184 --> 00:37:44,219 子盗り鬼の仕業に違いないと おっしゃって➡ 491 00:37:44,219 --> 00:37:46,688 ゆきを 押し入れに 閉じ込めてしまわれたの。 492 00:37:46,688 --> 00:37:49,724 だから 孫八さん ゆきを連れ出してちょうだい。 493 00:37:49,724 --> 00:37:52,360 そんな もののけが いる訳ねえじゃねえか。 494 00:37:52,360 --> 00:37:57,199 あんた! 父親になりたいんだろ? 頼むよ。 みちは どこにいるの? 495 00:37:57,199 --> 00:38:00,702 私は そこで待ってるから。 496 00:38:00,702 --> 00:38:04,039 本当だな? うそなんか言うもんかね。 497 00:38:04,039 --> 00:38:08,210 信じておくれよ。 498 00:38:08,210 --> 00:38:12,881 分かったよ。 おみちは 向島の元橋だ。 499 00:38:12,881 --> 00:38:15,550 あたり湯って湯屋の2階にいる。 500 00:38:15,550 --> 00:38:19,221 先に行ってるよ。 じゃ ゆきを頼んだよ。 501 00:38:19,221 --> 00:38:23,421 父親としての初仕事だ。 任しときな。 502 00:38:28,730 --> 00:38:31,633 おみちの事は心配するな。 503 00:38:31,633 --> 00:38:37,433 お前は 中をのぞくといい。 見ものだよ。 504 00:38:40,675 --> 00:38:58,093 ♬~ 505 00:38:58,093 --> 00:39:02,697 あっ! はあ… はあ… はあ…。 506 00:39:02,697 --> 00:39:09,037 ≪(子盗り鬼)ああ~! 我を呼ぶのは誰だ!?➡ 507 00:39:09,037 --> 00:39:12,908 我を起こすのは何者だ!? 508 00:39:12,908 --> 00:39:14,908 子盗り鬼! 509 00:39:20,649 --> 00:39:23,585 キャ~! 510 00:39:23,585 --> 00:39:27,722 (子盗り鬼)己は なぜ 我を起こす。 511 00:39:27,722 --> 00:39:31,226 (祈とう師) 冥府魔道の獄卒に追われし者よ。➡ 512 00:39:31,226 --> 00:39:34,129 そなたが連れ去りし 幼き魂を➡ 513 00:39:34,129 --> 00:39:39,334 どうぞ お返し願いたい。 そは いまだ 地上の者なり。 514 00:39:39,334 --> 00:39:43,004 (子盗り鬼) この家は 我の休みどころ。 515 00:39:43,004 --> 00:39:47,342 我は踏み入る者を食らう。 はっ… はっ…! 516 00:39:47,342 --> 00:39:55,517 この家に 生きながら 我の同胞となるべき者の息がある。 517 00:39:55,517 --> 00:39:58,019 (祈とう師)道を阻む形なき者よ。➡ 518 00:39:58,019 --> 00:40:00,922 連れ去るのならば そなたの同胞を! 519 00:40:00,922 --> 00:40:04,793 (子盗り鬼) ならば これは 我がものか? 520 00:40:04,793 --> 00:40:10,599 人の血を食らう 我が同胞を この影の身に奉ずるか? 521 00:40:10,599 --> 00:40:18,206 しかり! 鬼道衆の長のもとへ この人殺しの血をささげたまえ! 522 00:40:18,206 --> 00:40:20,709 俺じゃねえ! 俺じゃねえ! 523 00:40:20,709 --> 00:40:22,644 俺は 人殺しなんかじゃねえんだよ! 524 00:40:22,644 --> 00:40:24,579 うろたえるな! 525 00:40:24,579 --> 00:40:27,215 既に 逃れる道はない。 526 00:40:27,215 --> 00:40:32,515 お前が魂に浴びた不浄の血を 鬼道衆にささげるのじゃ! 527 00:40:34,889 --> 00:40:40,695 あ… あっ あっ… ああ~! 528 00:40:40,695 --> 00:40:45,066 …で そのあと 孫八は どうなったんだ? 529 00:40:45,066 --> 00:40:47,366 詳しくは存じません。 530 00:40:49,404 --> 00:40:52,073 孫八…。 531 00:40:52,073 --> 00:41:00,582 <葵を殺したのは 誰なのか。 おふじか はたまた 孫八か。➡ 532 00:41:00,582 --> 00:41:10,759 そして定町廻り同心 佐伯の おもてなしは どうなるのか。➡ 533 00:41:10,759 --> 00:41:16,097 問題山積の平四郎ではある> 534 00:41:16,097 --> 00:41:18,097 (くしゃみ) 535 00:41:26,741 --> 00:41:30,612 (杢太郎)大変だ! 晴香先生! おはつ坊を知りませんか?➡ 536 00:41:30,612 --> 00:41:32,580 どうしたんだ? 一体! 537 00:41:32,580 --> 00:41:34,582 子盗り鬼か…。 538 00:41:34,582 --> 00:41:38,053 鬼より怖いものが 棲み着いているんだもの。 539 00:41:38,053 --> 00:41:41,923 子盗り鬼が 子どもの首を絞めるもんかな? 540 00:41:41,923 --> 00:41:46,227 匂いがしました。 お香のような 甘ったるい いい匂いが…。 541 00:41:46,227 --> 00:41:48,263 準備万端 整ったようだな。 542 00:41:48,263 --> 00:41:51,099 私と旦那の仲じゃないですか! 543 00:41:51,099 --> 00:41:56,738 目くらまし? まるで もののけの親戚だな。 544 00:41:56,738 --> 00:43:26,738 ♬~