1 00:00:41,543 --> 00:00:48,883 (義太夫)♬「この世のなごり」 2 00:00:48,883 --> 00:00:56,391 ♬「夜もなごり」 3 00:00:56,391 --> 00:01:00,562 ♬「死に」 4 00:01:00,562 --> 00:01:03,898 (徳兵衛)お初! 大丈夫か? 5 00:01:03,898 --> 00:01:06,568 (お初)はい。 6 00:01:06,568 --> 00:01:17,579 ♬「たとふれば」 7 00:01:17,579 --> 00:01:35,063 ♬「あだしが原の道の霜」 8 00:01:35,063 --> 00:01:41,202 ♬「弱る心を引直し」 9 00:01:41,202 --> 00:01:46,708 ♬「取直しても猶顫い」 10 00:01:46,708 --> 00:01:50,378 ♬「突くとはすれど切先は」 11 00:01:50,378 --> 00:01:56,551 ♬「彼方へ外れ 此方へ反れ」 12 00:01:56,551 --> 00:02:01,890 ♬「二三度閃く劍の刃」 13 00:02:01,890 --> 00:02:06,561 ♬「『あっ』」 14 00:02:06,561 --> 00:02:14,435 ♬「誰が告ぐるとは」 15 00:02:14,435 --> 00:02:23,578 ♬「曾根崎の」 16 00:02:23,578 --> 00:02:27,749 (門左衛門)<長かった…> 17 00:02:27,749 --> 00:02:32,720 ♬~ 18 00:02:32,720 --> 00:02:37,192 <ここまで長い道行やったで…> 19 00:02:37,192 --> 00:02:39,527 (義太夫)<大当たりや。➡ 20 00:02:39,527 --> 00:02:44,365 傑作浄瑠璃「曾根崎心中」の 誕生やで。 近松っつぁん> 21 00:02:44,365 --> 00:02:49,204 <義太夫さん。 長らく待たせて すまなんだ> 22 00:02:49,204 --> 00:02:52,240 <なんの。 お釣りが来るわい> 23 00:02:52,240 --> 00:02:55,040 <ほな お手当 弾んでや> 24 00:02:58,213 --> 00:03:00,213 <聞き流すのかい> 25 00:03:02,550 --> 00:03:11,559 <近松っつぁん。 あんたは 人形浄瑠璃の救いの神さんや> 26 00:03:11,559 --> 00:03:18,233 <いや 救うたんは わしやあれへん。➡ 27 00:03:18,233 --> 00:03:23,033 わしや… あれへん…> 28 00:03:46,194 --> 00:03:49,530 あっ そこの坊ちゃん。 どうぞ お母さん 連れて➡ 29 00:03:49,530 --> 00:03:52,530 どうぞ どうぞ どうぞ。 ご覧下さい。 旦那様…。 30 00:03:56,404 --> 00:04:22,230 ♬~ 31 00:04:22,230 --> 00:04:26,230 <あか~ん…> 32 00:04:27,902 --> 00:04:31,239 みんな! 醤油 来たで。 運んでや~。 33 00:04:31,239 --> 00:04:35,939 (一同)へい! あっ ご苦労さんどす。 34 00:04:37,845 --> 00:04:41,349 平野屋さんの ご贔屓のおかげをもちまして➡ 35 00:04:41,349 --> 00:04:45,186 今年も 幕を開ける事がでけました。 36 00:04:45,186 --> 00:04:49,524 竹本座一同 ますます 精進致します事を…。 37 00:04:49,524 --> 00:04:53,194 ああ もう 堅い挨拶はええさかい さあ 飲みなはれ。 38 00:04:53,194 --> 00:04:56,230 ほな 遠慮のう…。 (喜助)どうぞ どうぞ。 39 00:04:56,230 --> 00:04:59,000 喜助は 早速 見てきたそうやな。 40 00:04:59,000 --> 00:05:02,870 (喜助)へい! 私は もう 浄瑠璃に目がおまへんさかい➡ 41 00:05:02,870 --> 00:05:05,773 初日に 幕が開くなり 帳簿つけも ほっぽりだして➡ 42 00:05:05,773 --> 00:05:08,743 パ~ッと…。 ほっぽりだしたらあかんがな。 43 00:05:08,743 --> 00:05:11,546 (一同)ハハハ…! 44 00:05:11,546 --> 00:05:14,382 しかし 出来は いまひとつでございました。 45 00:05:14,382 --> 00:05:20,188 ば… 番頭さん また そないな戯れを…。 46 00:05:20,188 --> 00:05:23,558 正直一筋60年 ここで うそは申せません。 47 00:05:23,558 --> 00:05:26,461 <ももも… 申さんかい! ここは うそを…> 48 00:05:26,461 --> 00:05:31,432 それは 金主としては 聞き捨てなりまへんな。 49 00:05:31,432 --> 00:05:36,003 不入りの訳は何だす? さあ それですわ。 50 00:05:36,003 --> 00:05:37,939 <何で あんたが答えんねん> 51 00:05:37,939 --> 00:05:40,508 何ちゅうたかて 筋が おもろい事おまへん。 52 00:05:40,508 --> 00:05:43,177 <言いたい放題かい> 何や 地味でねえ。 53 00:05:43,177 --> 00:05:46,013 正月早々にやる 浄瑠璃やおまへんで。 54 00:05:46,013 --> 00:05:47,949 <おい…!> すんません。 55 00:05:47,949 --> 00:05:51,819 近頃 筆が乗らんと 近松が こない申しまして。 56 00:05:51,819 --> 00:05:53,755 <え~っ!?> 57 00:05:53,755 --> 00:05:56,524 いや~ 私も どないしたもんかと 思てますねんけど…。 58 00:05:56,524 --> 00:05:59,861 <わしのせい? 皆 わしのせい?> 59 00:05:59,861 --> 00:06:02,530 (忠右衛門)そんな事あらへん。 60 00:06:02,530 --> 00:06:07,402 近松さんは 西鶴さん 芭蕉さんに 勝るとも劣らん物書きや。 61 00:06:07,402 --> 00:06:12,874 <ん…? 西鶴…? 芭蕉…?➡ 62 00:06:12,874 --> 00:06:16,377 井原西鶴と松尾芭蕉の事?> 63 00:06:16,377 --> 00:06:18,413 楽しみにしてまっせ。 64 00:06:18,413 --> 00:06:21,716 よかったな 近松っつぁん。 65 00:06:21,716 --> 00:06:25,553 平野屋さんが心の広いお方で。 何で…! 66 00:06:25,553 --> 00:06:30,224 …何で わしだけ 近松って呼ぶんでっか? 67 00:06:30,224 --> 00:06:35,062 井原西鶴の事は 西鶴。 松尾芭蕉の事は 芭蕉。 68 00:06:35,062 --> 00:06:37,965 みんな 親しげで 名で呼ぶくせして➡ 69 00:06:37,965 --> 00:06:40,868 何で わしだけ 近松って呼ぶんでっか? 70 00:06:40,868 --> 00:06:44,172 何で 名字で呼ぶんでっか? 71 00:06:44,172 --> 00:06:46,207 そこ!? 72 00:06:46,207 --> 00:06:50,707 しょうもない事 気にしてんと さっさと 傑作 書きなはれ! 73 00:06:54,182 --> 00:06:57,685 へ~い。 74 00:06:57,685 --> 00:07:10,198 ♬~ 75 00:07:10,198 --> 00:07:18,072 <♬「嘆き疲れた宴の帰り」> 76 00:07:18,072 --> 00:07:27,748 <♬「これで浄瑠璃も終わりかなと つぶやいて」> 77 00:07:27,748 --> 00:07:31,486 <どうも 近松門左衛門です。➡ 78 00:07:31,486 --> 00:07:35,356 浄瑠璃作者として 名を残し➡ 79 00:07:35,356 --> 00:07:40,194 教科書にも載ってる あの近松です。➡ 80 00:07:40,194 --> 00:07:43,498 「大河ドラマ」で ナレーションさせてもろた事もある➡ 81 00:07:43,498 --> 00:07:47,101 あの近松です。➡ 82 00:07:47,101 --> 00:07:52,673 …が 今 歩いております 元禄16年正月のわし➡ 83 00:07:52,673 --> 00:07:56,177 そないな事 知る由もございません。➡ 84 00:07:56,177 --> 00:08:01,677 ただのスランプ中の 初老のシナリオライターです> 85 00:08:09,190 --> 00:08:12,490 ただいま帰りました。 86 00:08:17,064 --> 00:08:22,703 包んでくれはりましたんで 母上 どうぞ 召し上がって下さい。 87 00:08:22,703 --> 00:08:24,639 情けない。 88 00:08:24,639 --> 00:08:29,210 町人の食べ残しを 恵んでもらうほど➡ 89 00:08:29,210 --> 00:08:31,145 母は落ちぶれてはおりません。 90 00:08:31,145 --> 00:08:33,814 また そないな事 言うて。 91 00:08:33,814 --> 00:08:37,151 結局 最後には いっつも 食べなはるやおまへんか。 92 00:08:37,151 --> 00:08:39,820 ええさかい すっと食べておくんなはれ。 93 00:08:39,820 --> 00:08:43,520 今朝も 麦飯と漬物だけでしたやろ。 94 00:08:45,693 --> 00:08:48,996 信盛。 95 00:08:48,996 --> 00:08:51,032 はい。 96 00:08:51,032 --> 00:08:53,732 母は [外:772EBFF2CE4E6DF4E703E16C3B1C7708]が食べたい。 97 00:08:55,503 --> 00:08:57,438 いきなり 何です? 98 00:08:57,438 --> 00:09:02,176 ぷりぷりと脂が乗った[外:772EBFF2CE4E6DF4E703E16C3B1C7708]が 食べたいのじゃ。 99 00:09:02,176 --> 00:09:04,845 いきなり言うても ありまっかいな。 100 00:09:04,845 --> 00:09:09,350 食べたいのじゃ。 食べたいのじゃ。 101 00:09:09,350 --> 00:09:11,650 無理です。 102 00:09:15,856 --> 00:09:19,360 食べたいのじゃ! む… む… 無理です。 103 00:09:19,360 --> 00:09:24,865 この親不孝者が。 ええ~…。 104 00:09:24,865 --> 00:09:31,865 これ 信盛。 ここに お座りなさい。 105 00:09:41,649 --> 00:09:48,356 お前は 唐土の王祥という 御仁の逸話を知らぬのか? 106 00:09:48,356 --> 00:09:52,159 存じております。 存じておりますけれども…。 107 00:09:52,159 --> 00:09:54,829 (喜里)寒い寒い冬の日➡ 108 00:09:54,829 --> 00:09:58,165 王祥の母が 魚を食べたいと言うた。➡ 109 00:09:58,165 --> 00:10:01,502 王祥は 母のために 川へ向かった。➡ 110 00:10:01,502 --> 00:10:07,174 されど 川は氷に覆われ 魚の姿は見えなんだ。➡ 111 00:10:07,174 --> 00:10:12,046 悲しみのあまり 王祥は着ているものを脱ぎ➡ 112 00:10:12,046 --> 00:10:14,048 川の上に伏した。➡ 113 00:10:14,048 --> 00:10:16,183 すると 氷が解けて➡ 114 00:10:16,183 --> 00:10:19,854 魚が飛び出したではありませんか。 115 00:10:19,854 --> 00:10:25,192 王祥は これを持ち帰り 母に食べさせたという事じゃ。 116 00:10:25,192 --> 00:10:31,699 なんと あっぱれな親孝行と 思わぬか? 117 00:10:31,699 --> 00:10:34,368 …思います。 118 00:10:34,368 --> 00:10:40,541 それに引き換え お前は…。 やっぱり 引き換えますか。 119 00:10:40,541 --> 00:10:44,879 情けない。 20年前の あの時➡ 120 00:10:44,879 --> 00:10:48,749 何としても お前を止めるのじゃった。 121 00:10:48,749 --> 00:10:51,218 また その話でっか。 122 00:10:51,218 --> 00:10:55,890 武士の身分を捨て ふるさと 越前を捨て➡ 123 00:10:55,890 --> 00:11:01,228 人形浄瑠璃の作者になるなどと 世まい言 申して。 124 00:11:01,228 --> 00:11:05,928 世まい言て…。 母上。 125 00:11:09,403 --> 00:11:12,239 こないして 当り狂言かて 書きましたんやで。 126 00:11:12,239 --> 00:11:19,439 大した手当も得られず 暮らしに困窮し。 127 00:11:20,948 --> 00:11:25,753 あげくは 妻に あきれられ 捨てられ➡ 128 00:11:25,753 --> 00:11:29,256 やもめに戻る始末。 129 00:11:29,256 --> 00:11:37,556 お前は この母に 親孝行しようと思わんのか? 130 00:11:39,066 --> 00:11:41,535 親孝行て…。 131 00:11:41,535 --> 00:11:46,235 70の母親が 50の息子 捕まえて…。 黙らっしゃい! 132 00:11:48,042 --> 00:11:54,215 <うちの母親が 親孝行 親孝行 言うのには 訳があります。➡ 133 00:11:54,215 --> 00:11:59,386 時の将軍は 犬公方でおなじみの綱吉はん。➡ 134 00:11:59,386 --> 00:12:04,258 このお方は 犬も好きなら 孝行者もお好きで➡ 135 00:12:04,258 --> 00:12:06,727 孝行者を表彰して➡ 136 00:12:06,727 --> 00:12:10,564 何やったら 褒美も出すと 言いださはったもんやさかい➡ 137 00:12:10,564 --> 00:12:14,435 世は 空前の孝行ブーム。➡ 138 00:12:14,435 --> 00:12:17,071 うそか ほんまか 知らんけど➡ 139 00:12:17,071 --> 00:12:20,908 孝行者にあやかれる 孝行糖なる飴が➡ 140 00:12:20,908 --> 00:12:25,246 飛ぶように売れとります> 141 00:12:25,246 --> 00:12:38,526 ♬~ 142 00:12:38,526 --> 00:12:47,201 ♬「孝行糖 孝行糖 孝行糖の本来は」 143 00:12:47,201 --> 00:12:50,871 <せんならんなあ 親孝行> 144 00:12:50,871 --> 00:12:53,774 ♬~ 145 00:12:53,774 --> 00:12:59,547 <そう。 親不孝せんならん。 親不孝… ん?➡ 146 00:12:59,547 --> 00:13:03,050 何や 今 えらい違和感が…> 147 00:13:03,050 --> 00:13:06,921 (万吉)♬「それ 不孝糖 不孝糖」 148 00:13:06,921 --> 00:13:14,762 ♬「おやおやおやおや 親不孝の不孝糖」 149 00:13:14,762 --> 00:13:18,532 ♬「親を泣かせてやろうとて」 150 00:13:18,532 --> 00:13:22,736 ♬「拵え始めの不孝糖」 151 00:13:22,736 --> 00:13:25,072 <え~! 何や それ…> 152 00:13:25,072 --> 00:13:27,772 な… 何や? それ! 153 00:13:29,410 --> 00:13:32,313 何やねん? その ふ… ふ… ふ… 不孝糖て。 154 00:13:32,313 --> 00:13:36,217 あっ バレましたか。 さりげなく 紛れ込んでましてんけどな。 155 00:13:36,217 --> 00:13:39,854 どこが さりげないねん。 異彩を放ち過ぎやで。 156 00:13:39,854 --> 00:13:44,191 これはね 親不孝したい者がなめる 不孝糖いいまんねん。 157 00:13:44,191 --> 00:13:47,862 あんたなあ。 このご時世に そないなもん 売り歩いてたら➡ 158 00:13:47,862 --> 00:13:49,797 奉行所へ しょっぴかれるで。 159 00:13:49,797 --> 00:13:52,700 親孝行の何が そない偉いんでっか? 160 00:13:52,700 --> 00:13:55,202 そこを はっきりしてもらわん事には➡ 161 00:13:55,202 --> 00:13:57,137 わいとて 引き下がれまへんで。 162 00:13:57,137 --> 00:14:00,541 けったいなやつに 関わってもうたな~。 163 00:14:00,541 --> 00:14:04,211 ほな 一つ 有名な孝行者の話をしたろ。 164 00:14:04,211 --> 00:14:06,146 おっ! 聞いたろ。 165 00:14:06,146 --> 00:14:09,049 唐土に 王祥という男がおった。 166 00:14:09,049 --> 00:14:10,985 友達でっか? 何でやねん。 167 00:14:10,985 --> 00:14:12,920 その王祥の母親が➡ 168 00:14:12,920 --> 00:14:16,557 寒い寒い冬の日に 魚が食べたいと言うた。 169 00:14:16,557 --> 00:14:20,060 …で 王祥は川へ行くと 一面の氷。 170 00:14:20,060 --> 00:14:25,866 悲しみに暮れ 着てるもんを脱いで 氷の上に腹ばいになった。 171 00:14:25,866 --> 00:14:30,237 すると どうでしょう。 なんと 氷が解けて 魚が跳ねた。 172 00:14:30,237 --> 00:14:35,075 王祥は これを持ち帰って 母親に食べさせたという。 173 00:14:35,075 --> 00:14:37,075 …偉いがな。 174 00:14:39,847 --> 00:14:43,183 そら あんまり まともな人間の する事やおまへんで。 175 00:14:43,183 --> 00:14:45,219 いらん ちゃちゃ 入れな。 …で その魚➡ 176 00:14:45,219 --> 00:14:48,989 どうやって食うたんでっか? やかましなあ。 177 00:14:48,989 --> 00:14:51,859 おおかた 洗いにでもして食たんやろ。 178 00:14:51,859 --> 00:14:54,895 孝行者が さばいたんでんな? そや。 179 00:14:54,895 --> 00:14:57,197 三枚に おろして。 そや。 180 00:14:57,197 --> 00:15:00,034 きれいに うろこも取って。 ああ そや。 181 00:15:00,034 --> 00:15:04,538 素っ裸で がたがた震えもって ようやっと さばいた 洗いを➡ 182 00:15:04,538 --> 00:15:08,375 器に盛りつけたそばから ばばあが奪うようにして ガツガツ…。 183 00:15:08,375 --> 00:15:11,712 孝行者やのうて 山姥に捕らえられた➡ 184 00:15:11,712 --> 00:15:15,215 哀れな旅人ちゃいまっか? 何が言いたいねん? 何が!? 185 00:15:15,215 --> 00:15:17,885 やっぱり うさんくさい。 売るんやったら 不孝糖に限る。 186 00:15:17,885 --> 00:15:20,554 そない 売りたかったらなあ 新地 行け! 187 00:15:20,554 --> 00:15:24,425 新地? 親不孝しとうても でけへん連中が➡ 188 00:15:24,425 --> 00:15:28,228 うろうろしとるわ。 そら ええ事 聞いた。 189 00:15:28,228 --> 00:15:32,228 おおきに ありがとさん! よっしゃ! 190 00:15:39,506 --> 00:15:44,178 (九平次)油屋を営んでおります 黒田屋九平次と申します。 191 00:15:44,178 --> 00:15:48,349 お見知り置き頂きますれば 幸甚にございます。 192 00:15:48,349 --> 00:15:53,849 まあ 飲みなはれ。 恐れ入ります。 193 00:15:56,857 --> 00:16:01,729 評判 聞いてまっせ。 やり手やそうでんな。 194 00:16:01,729 --> 00:16:04,031 とんでもない。 195 00:16:04,031 --> 00:16:08,869 油ちゅう 目の付けどころが偉い。 なあ? (喜助)へえ。 196 00:16:08,869 --> 00:16:10,804 油が出回って 夜が明るうなったおかげで➡ 197 00:16:10,804 --> 00:16:14,041 これまで 日に2へんやった飯が 3べん 食えます。 198 00:16:14,041 --> 00:16:16,076 そないな しょうもない事 言うてんのやあらへん。 199 00:16:16,076 --> 00:16:18,212 へえ? 夜が明るなったら➡ 200 00:16:18,212 --> 00:16:22,082 夜通し 仕事がでける。 皆が ますます 働いて➡ 201 00:16:22,082 --> 00:16:25,719 大坂が ますます 栄える。 結構なこっちゃ。 202 00:16:25,719 --> 00:16:28,222 恐れ入ります。 203 00:16:28,222 --> 00:16:32,092 若旦さん。 わて ちょっと 湯あみがしたいわ。 204 00:16:32,092 --> 00:16:36,830 ほな 私も一緒に。 ハハハ…。 あきまへん。 205 00:16:36,830 --> 00:16:39,666 ええやあれへんか。 徳兵衛! 206 00:16:39,666 --> 00:16:43,003 …親父。 207 00:16:43,003 --> 00:16:46,503 おのれ 今朝から見かけん思たら こないなとこで…。 208 00:16:48,175 --> 00:16:51,845 (忠右衛門)この親不孝者が! 209 00:16:51,845 --> 00:17:00,187 ♬~ 210 00:17:00,187 --> 00:17:06,527 ♬「おやおやおやおや 親不孝の不孝糖」 211 00:17:06,527 --> 00:17:09,430 ♬「親を泣かせてやろうとて」 212 00:17:09,430 --> 00:17:13,200 ♬「拵え始めの不孝糖」 213 00:17:13,200 --> 00:17:16,537 ♬「おいしいで 売ったろか」 214 00:17:16,537 --> 00:17:19,440 ♬「一回 食うたら やめられへん」 215 00:17:19,440 --> 00:17:23,210 ♬「それ 不孝糖 不孝糖」 216 00:17:23,210 --> 00:17:28,082 ♬「おやおやおやおや 親不孝の不孝糖」 217 00:17:28,082 --> 00:17:34,655 あかん。 どんどん 客足 落ちてる。 今日なんか➡ 218 00:17:34,655 --> 00:17:38,826 客より 舞台の上の人形の方が 数が多かったわい。 219 00:17:38,826 --> 00:17:45,165 閑古鳥も哀れんで 鳴かんと 飛び去ったちゅう噂やな。 フフフ…。 220 00:17:45,165 --> 00:17:49,503 いちびってる場合やあれへん。 早よ 新作 書いてや。 221 00:17:49,503 --> 00:17:54,842 …なあ。 そないに あかなんだか? 222 00:17:54,842 --> 00:17:56,877 あ…? わしの書いた筋➡ 223 00:17:56,877 --> 00:18:00,514 そないに ひとっつも ええとこあれへんかったんか? 224 00:18:00,514 --> 00:18:04,017 そないな事あれへん。 ほな どこがよかった? 225 00:18:04,017 --> 00:18:06,353 そないな事 ごちゃごちゃ言わいでも➡ 226 00:18:06,353 --> 00:18:11,553 あんたが ええ筋 書いてきたら わしは ええ語りで応えるがな。 227 00:18:19,366 --> 00:18:31,378 (義太夫)浄瑠璃作者として 売り出し中の近松門左衛門。 228 00:18:31,378 --> 00:18:39,987 その前に現れたる 一人の男。 229 00:18:39,987 --> 00:18:46,787 「われは 京は…」。 230 00:19:19,660 --> 00:19:25,465 「歌舞伎は役者のためのもの。 我先にと目立ちたがる役者に➡ 231 00:19:25,465 --> 00:19:34,474 芝居の筋を ねじ曲げられとうござりませぬ」。 232 00:19:34,474 --> 00:19:40,814 藤十郎が答えて言う事は。 233 00:19:40,814 --> 00:19:45,152 「役者の勝手にはさせませぬ。➡ 234 00:19:45,152 --> 00:19:56,352 何となれば 近松先生の書く筋は この国の宝 宝ゆえにござります」。 235 00:20:00,167 --> 00:20:02,102 <そして 結局➡ 236 00:20:02,102 --> 00:20:04,504 いまだ 一文字も書けへん わしは➡ 237 00:20:04,504 --> 00:20:10,504 昼間っから 元禄のキャバクラで 現実逃避してる次第> 238 00:20:12,846 --> 00:20:16,183 しかし 戦の世が終わって100年➡ 239 00:20:16,183 --> 00:20:19,686 武家の次男に これっちゅうてする事はない。 240 00:20:19,686 --> 00:20:22,522 慰みに始めた 浄瑠璃書きやったが➡ 241 00:20:22,522 --> 00:20:25,559 たちまち 恐ろしいほどの才能が 開花してな。 242 00:20:25,559 --> 00:20:28,195 (お袖)勝手に言うとけ。 243 00:20:28,195 --> 00:20:31,231 やがて 竹本座を旗揚げした義太夫が➡ 244 00:20:31,231 --> 00:20:33,533 わしの前に現れて こう言うた。 245 00:20:33,533 --> 00:20:39,406 「近松っつぁん。 わしのために 浄瑠璃の筋 書いてくれへんか」。 246 00:20:39,406 --> 00:20:41,408 (一同)あら~! 247 00:20:41,408 --> 00:20:44,177 それで生まれたんが 「出世景清」や。 248 00:20:44,177 --> 00:20:46,113 (一同)はあ~! 249 00:20:46,113 --> 00:20:48,081 これの前と後では➡ 250 00:20:48,081 --> 00:20:50,884 浄瑠璃の有り様が違うとまで 言われた傑作や。 251 00:20:50,884 --> 00:20:53,220 (一同)へえ~! 252 00:20:53,220 --> 00:20:56,890 しかし わしは それに満足する事なく➡ 253 00:20:56,890 --> 00:21:02,062 更なる筋作りに いそしんだ。 すると そんな わしの才能に➡ 254 00:21:02,062 --> 00:21:06,566 吸い寄せられる者が またしても現れた。 誰やと思う? 255 00:21:06,566 --> 00:21:10,070 さあ 分かりまへんな。 当ててみい。 256 00:21:10,070 --> 00:21:16,243 そない意地悪せんと。 う~ん? 誰が意地悪や? 257 00:21:16,243 --> 00:21:20,914 知りたかったら お願いしてみい。 「せ~んせ おせえて」ちゅうて。 258 00:21:20,914 --> 00:21:25,252 はい。 せ~んせ おせえて。 259 00:21:25,252 --> 00:21:27,587 フフフ。 それはな… うわ~っ! 260 00:21:27,587 --> 00:21:31,925 おせえてえな。 ななな… 何や! えっ…? 261 00:21:31,925 --> 00:21:34,194 おなご どこ行った? 262 00:21:34,194 --> 00:21:36,129 お呼びがかかって 出ていきましたで。 263 00:21:36,129 --> 00:21:40,000 ええ~。 そんで あんた 何者やねん? 264 00:21:40,000 --> 00:21:42,536 へえ。 万吉いいます。 265 00:21:42,536 --> 00:21:46,373 いやいや… 名前やのうて。 いつの間に…。 266 00:21:46,373 --> 00:21:48,408 あっ! あ…。 267 00:21:48,408 --> 00:21:52,546 あん時の不孝糖売り! やっと 気ぃ付きましたなあ。 268 00:21:52,546 --> 00:21:56,416 何や? 生業 替えたんか? さあ そこですわ。 269 00:21:56,416 --> 00:22:01,555 いや~ えらいもんでんな。 旦那の読みが ピタッと当たりよった。 270 00:22:01,555 --> 00:22:03,490 ここらへ 不孝糖 売りに来たら➡ 271 00:22:03,490 --> 00:22:05,425 そらもう 飛ぶように売れましてな。 272 00:22:05,425 --> 00:22:10,731 <何や この男。 何を長々と語ってんねん。➡ 273 00:22:10,731 --> 00:22:13,233 不孝糖 売った客に誘われて➡ 274 00:22:13,233 --> 00:22:16,903 店 上がって どんちゃんして 勘定 押しつけられて➡ 275 00:22:16,903 --> 00:22:19,740 逃げられたっちゅうだけの 話やないかい> 276 00:22:19,740 --> 00:22:24,077 ハッハハ~! さっぱり わやでっせ。 ヘヘヘ…。 277 00:22:24,077 --> 00:22:26,980 いや~ もう なんぼ 払え 言われたかて➡ 278 00:22:26,980 --> 00:22:29,583 ない袖は振れんさかい ここへ居残って➡ 279 00:22:29,583 --> 00:22:31,618 働いてるっちゅうあんばいですわ。 280 00:22:31,618 --> 00:22:36,189 長い あんばいやったな~。 話せば長い事ながら。 フフフ。 281 00:22:36,189 --> 00:22:39,189 そや… こいつ 関わったらあかんやつやった。 282 00:22:44,865 --> 00:22:50,065 お帰りやす。 毎度 おおきに。 283 00:23:03,216 --> 00:23:05,916 (いびき) 284 00:23:07,888 --> 00:23:12,559 (お玉)近松先生 お帰りでっか? 285 00:23:12,559 --> 00:23:17,230 そろそろ 払てもらわんと たっぷり たまってまっせ。 286 00:23:17,230 --> 00:23:21,902 もうすぐ 手当の後金が入るさかい もうちょっとだけ 待ってんか。 287 00:23:21,902 --> 00:23:27,102 その言い訳は聞き飽きました。 早よ 払いなはれ。 288 00:23:28,675 --> 00:23:32,175 (九平次)これで 足りますか? 289 00:23:33,847 --> 00:23:37,717 黒田屋さん。 あ… へえ。 290 00:23:37,717 --> 00:23:41,354 足りるどころか たっぷりと お釣りが出ますわ。 291 00:23:41,354 --> 00:23:45,025 では その釣り銭で 酒を頂きましょう。 292 00:23:45,025 --> 00:23:49,025 あの…。 おおきに。 293 00:23:53,200 --> 00:23:59,400 おつきあい頂けませんか? 近松門左衛門先生。 294 00:24:02,375 --> 00:24:05,712 近々 お訪ねしようと 考えておりましたが➡ 295 00:24:05,712 --> 00:24:08,215 今日 ここで お会いできますとは…。 296 00:24:08,215 --> 00:24:10,884 きっと 何かのご縁でしょう。 297 00:24:10,884 --> 00:24:15,222 あの… 油屋さんが 何で また わしを…? 298 00:24:15,222 --> 00:24:20,093 名高い近松先生の事は 前々より 聞き及んでおりました。 299 00:24:20,093 --> 00:24:22,095 さあ どうぞ。 (銀助)おいでやす。 300 00:24:22,095 --> 00:24:24,231 あ… すんまへん。 301 00:24:24,231 --> 00:24:27,067 せんだって 竹本座にも参りました。 302 00:24:27,067 --> 00:24:32,339 そら お恥ずかしい。 地味で おもろのうて➡ 303 00:24:32,339 --> 00:24:36,676 正月早々 かけるもんやあれへんと 思われましたやろ。 304 00:24:36,676 --> 00:24:42,015 とんでもない。 実に見事な運びと感じ入りました。 305 00:24:42,015 --> 00:24:43,950 え…。 306 00:24:43,950 --> 00:24:48,788 実は 私 この大坂で 油のみならず➡ 307 00:24:48,788 --> 00:24:51,525 さまざまに 商いを広げてゆきたいと➡ 308 00:24:51,525 --> 00:24:53,460 思っていましてね。 309 00:24:53,460 --> 00:24:58,031 新しい小屋を 作るつもりでいるのですよ。 310 00:24:58,031 --> 00:25:02,231 人形浄瑠璃のでっか? いえ。 歌舞伎です。 311 00:25:03,837 --> 00:25:05,772 歌舞伎…。 312 00:25:05,772 --> 00:25:10,210 ああ… この話は内密にお願い致します。 313 00:25:10,210 --> 00:25:13,547 へえ。 承知しました。 314 00:25:13,547 --> 00:25:17,751 近松先生。 無礼を承知で申します。 315 00:25:17,751 --> 00:25:23,056 私の作る歌舞伎小屋の 座付きとなって頂けませんか? 316 00:25:23,056 --> 00:25:25,056 えっ! 317 00:25:33,500 --> 00:25:37,170 あんた そない思うか? はい! 318 00:25:37,170 --> 00:25:42,676 ほんまに そない思てくれるか? ほんまに。 319 00:25:42,676 --> 00:25:48,476 いえ。 まこと そう存じます。 320 00:25:51,184 --> 00:25:54,087 わしが 一時 歌舞伎を書いとったんは➡ 321 00:25:54,087 --> 00:25:57,057 藤十郎はんの誘いが あったさかいや。 322 00:25:57,057 --> 00:26:04,197 何があっても 筋を曲げんと 見事な芝居で応えてくれた。 323 00:26:04,197 --> 00:26:06,132 が…。 324 00:26:06,132 --> 00:26:09,536 藤十郎はんの具合が悪うなって➡ 325 00:26:09,536 --> 00:26:12,439 思うように 舞台に立てんようになり➡ 326 00:26:12,439 --> 00:26:16,876 わしは 歌舞伎を書く道理を失うた。 327 00:26:16,876 --> 00:26:23,650 それで 一旦は自分から離れた 竹本座に戻る事になったんやが…。 328 00:26:23,650 --> 00:26:28,350 えっ? 今更…。 329 00:26:34,828 --> 00:26:39,128 書いても書いても おもろいもんにならん。 330 00:26:42,335 --> 00:26:45,005 おかげで 実入りも悪うなって➡ 331 00:26:45,005 --> 00:26:49,205 老いた母親にも 苦労かけっ放しや。 332 00:26:51,177 --> 00:26:55,515 僭越ながら これだけは はっきりと申しましょう。 333 00:26:55,515 --> 00:27:00,186 先生のお書きになるものには はるかに高い値打ちがございます。 334 00:27:00,186 --> 00:27:02,689 それが証しに この九平次➡ 335 00:27:02,689 --> 00:27:06,189 先生が座付きになる事を 承知して下さりますれば…。 336 00:27:07,861 --> 00:27:11,531 今の5倍の手当を お約束致します。 337 00:27:11,531 --> 00:27:14,531 ご… 5倍!? 338 00:27:17,404 --> 00:27:20,707 お返事は 今すぐでなくとも結構。 339 00:27:20,707 --> 00:27:27,507 ここの主人を通して いつでも 私を呼び出して下さい。 340 00:27:29,215 --> 00:27:32,215 では。 あ…。 341 00:27:33,987 --> 00:27:36,687 あ…。 342 00:27:40,760 --> 00:27:44,164 うさんくさい男でんな。 343 00:27:44,164 --> 00:27:46,099 お前が言うな お前が! 344 00:27:46,099 --> 00:27:49,002 あれ なんぞ 裏がありまっせ。 間違いおまへん。 345 00:27:49,002 --> 00:27:51,838 そうか? そうは見えなんだが。 346 00:27:51,838 --> 00:27:53,773 そない見えたら 裏やおまへんがな。 347 00:27:53,773 --> 00:27:55,709 裏があるさかい そない見えまへんねん。 348 00:27:55,709 --> 00:27:59,179 何や 分かるような 分からんような…。 349 00:27:59,179 --> 00:28:01,114 あんたも あんたや。 350 00:28:01,114 --> 00:28:03,850 ちょっと持ち上げられたら すぐ その気になってからに。 351 00:28:03,850 --> 00:28:08,188 何が その気や。 先生 先生 言われて➡ 352 00:28:08,188 --> 00:28:10,123 5倍の値打ちとか言われて➡ 353 00:28:10,123 --> 00:28:12,058 ふらふら~っと なっとったやおまへんか。 354 00:28:12,058 --> 00:28:14,961 …で 何でっか? 歌舞伎に戻る気でっか? 355 00:28:14,961 --> 00:28:19,532 近松門左衛門たる者 金で たやすう転ばんわい。 356 00:28:19,532 --> 00:28:21,868 ほな 何で 転びまんねん? えっ…。 357 00:28:21,868 --> 00:28:26,039 そら… あの… やりがいとかかな。 358 00:28:26,039 --> 00:28:30,543 え~っ? 何ちゅうても➡ 359 00:28:30,543 --> 00:28:34,814 竹本座には義理があるわい。 あんたのこっちゃ➡ 360 00:28:34,814 --> 00:28:37,150 歌舞伎に戻ったところで ろくなもん書けまへんわ。 361 00:28:37,150 --> 00:28:39,085 何で お前に そないな事 言われんならんねん! 362 00:28:39,085 --> 00:28:41,020 かといって にんじょうぎょうるりも➡ 363 00:28:41,020 --> 00:28:43,022 書けやしまへんで。 人形浄瑠璃や! 364 00:28:43,022 --> 00:28:45,859 何で 書けへんて決めつけんねん。 今日 書けなんだもんが➡ 365 00:28:45,859 --> 00:28:49,662 明日 書ける道理がおまっかいな。 そないなもん 分からんやないか。 366 00:28:49,662 --> 00:28:52,165 それが分かりまんねんて。 367 00:28:52,165 --> 00:28:55,068 おんなじとこ 毎日 堂々巡ってるお人は➡ 368 00:28:55,068 --> 00:28:58,338 明日も変わらしまへんねん。 369 00:28:58,338 --> 00:29:01,007 い… 居残りしてるやつがな 偉そうに ぬかすな。 370 00:29:01,007 --> 00:29:05,678 もうな 物書きなんて やめなはれ。 何やと? 371 00:29:05,678 --> 00:29:08,515 やめて わいと一緒に 不孝糖 売りまひょいな。 372 00:29:08,515 --> 00:29:11,184 あほか! それこそ 親不孝の極みや。 373 00:29:11,184 --> 00:29:14,087 したらよろしいねん 親不孝。 不孝者のくせして➡ 374 00:29:14,087 --> 00:29:16,689 親孝行しようちゅう了見が そもそも 厚かましい。 375 00:29:16,689 --> 00:29:20,193 大体 お前な 何を さりげなく入り込んできて➡ 376 00:29:20,193 --> 00:29:22,128 酒 飲んでんねん! 出ていけ! 377 00:29:22,128 --> 00:29:26,533 不孝糖売り 手伝うてえな。 手伝わへんちゅうねん。 離せ! 378 00:29:26,533 --> 00:29:32,138 手伝うてくれな離さへん。 ああ~! [外:772EBFF2CE4E6DF4E703E16C3B1C7708]! 379 00:29:32,138 --> 00:29:35,642 [外:772EBFF2CE4E6DF4E703E16C3B1C7708]? [外:772EBFF2CE4E6DF4E703E16C3B1C7708] 買うてこい! 380 00:29:35,642 --> 00:29:37,577 そしたら 不孝糖でも何でも売ったるわい! 381 00:29:37,577 --> 00:29:40,146 ほんまでんな? おおきに! 382 00:29:40,146 --> 00:29:43,049 え~… 松… 松のねきの門の…。 383 00:29:43,049 --> 00:29:46,749 近松門左衛門! 384 00:29:58,331 --> 00:30:01,367 ついに 打ち切りや。 385 00:30:01,367 --> 00:30:05,104 さよか…。 そういう訳やさかい➡ 386 00:30:05,104 --> 00:30:09,042 後金は なしや。 え~っ! 387 00:30:09,042 --> 00:30:12,178 当たり前やろ。 388 00:30:12,178 --> 00:30:15,081 興行の半分で 打ち切りになったんや。 389 00:30:15,081 --> 00:30:18,051 手当の払いも 半分で打ち切りや。 390 00:30:18,051 --> 00:30:24,190 そないな殺生な…。 意地悪 言わんと 払てえな。 391 00:30:24,190 --> 00:30:29,062 気に入らなんだら 客の入る筋 書いたらええがな。 392 00:30:29,062 --> 00:30:34,200 頼む! このとおりや! ほんまに苦しいんや! 393 00:30:34,200 --> 00:30:38,700 あんたなあ…。 うん? 394 00:30:41,074 --> 00:30:44,711 小屋の表に 偉そうに➡ 395 00:30:44,711 --> 00:30:48,381 作者 近松門左衛門て 掲げてんねやろ。 396 00:30:48,381 --> 00:30:51,217 打ち切りになるようなもん 書いといて➡ 397 00:30:51,217 --> 00:30:56,517 銭は 一人前 払てくれて 恥ずかしい事ないのんか!? 398 00:30:58,892 --> 00:31:02,228 そら… 恥ずかしいわい。 399 00:31:02,228 --> 00:31:05,732 恥ずかしいの こらえて 頭 下げとんのやないかい。 400 00:31:05,732 --> 00:31:08,401 …え? 401 00:31:08,401 --> 00:31:12,906 わしかてな… わしかて… ええ浄瑠璃 書いて➡ 402 00:31:12,906 --> 00:31:15,742 あんたにも 平野屋はんにも➡ 403 00:31:15,742 --> 00:31:18,411 機嫌ようなってもらいたい 思てんねん! 404 00:31:18,411 --> 00:31:21,915 (すすり泣き) 405 00:31:21,915 --> 00:31:24,250 ちょっと… 近松っつぁん。 406 00:31:24,250 --> 00:31:28,755 お客にも ワ~ッと喜んでもろて ぎょうさん 銭 もろて➡ 407 00:31:28,755 --> 00:31:34,861 母親に 着物の一枚も 買うてやりたい思てんねん! 408 00:31:34,861 --> 00:31:42,061 けど… わしかて 書けん時もあんねん。 409 00:31:45,872 --> 00:31:51,544 まあ 泣かいでもええがな な… ええ大人が…。 410 00:31:51,544 --> 00:31:54,213 書けっちゅうんやったら➡ 411 00:31:54,213 --> 00:31:57,713 もうちょっと 褒めてくれたかてええやろ! 412 00:32:00,553 --> 00:32:02,488 ええ~…。 413 00:32:02,488 --> 00:32:05,224 もう 知らん! もう~ 知らん! 414 00:32:05,224 --> 00:32:09,024 あんなやつに義理立てした わしが あほやったわい! 415 00:32:11,898 --> 00:32:17,898 それで… よい返事は頂けるのでしょうか? 416 00:32:21,574 --> 00:32:24,477 せんだっても 申しましたとおり➡ 417 00:32:24,477 --> 00:32:28,915 歌舞伎は 役者の見せ場が第一 筋は二の次と➡ 418 00:32:28,915 --> 00:32:30,850 思われてる節があります。 419 00:32:30,850 --> 00:32:34,520 けど それでは ええもんは出来ません。 420 00:32:34,520 --> 00:32:38,391 藤十郎はんに代わって 座元の黒田屋さんが➡ 421 00:32:38,391 --> 00:32:45,865 筋は守ると 約束してもらえまへんやろか? 422 00:32:45,865 --> 00:32:50,703 無論です。 では…。 423 00:32:50,703 --> 00:32:54,040 いまひとつ。 何でしょう? 424 00:32:54,040 --> 00:32:59,240 5倍については 心変わりはおまへんな? 425 00:33:00,813 --> 00:33:05,385 ございません。 では…。 426 00:33:05,385 --> 00:33:11,557 へえ。 よろしゅう お頼申します。 427 00:33:11,557 --> 00:33:14,594 これで 私も安堵致しました。 428 00:33:14,594 --> 00:33:19,432 さあ 先生。 あ… おおきに。 429 00:33:19,432 --> 00:33:24,570 先生は 確か 越前のご出身でしたね? 430 00:33:24,570 --> 00:33:29,242 へえ。 まあ…。 別に これといって 取り柄のないとこですけど。 431 00:33:29,242 --> 00:33:31,177 何をおっしゃいます。 432 00:33:31,177 --> 00:33:35,048 先生のような優れた浄瑠璃作者が 現れたのですから➡ 433 00:33:35,048 --> 00:33:37,350 土地柄がよいに 違いありませんよ。 434 00:33:37,350 --> 00:33:39,685 ハハハ…。 435 00:33:39,685 --> 00:33:44,357 <これや 義太夫! お前に足りんのは これや~!> 436 00:33:44,357 --> 00:33:50,863 しかし 武家の出でありながら なぜ また 物書きを? 437 00:33:50,863 --> 00:33:54,534 いや~ 成り行きみたいなもんですわ。 438 00:33:54,534 --> 00:33:56,469 武家の次男坊みたいなもん➡ 439 00:33:56,469 --> 00:33:59,872 太平の世では 何の役にも立ちまへんさかい。 440 00:33:59,872 --> 00:34:04,544 (門左衛門の父)稽古が足りん! 今日は飯抜きじゃ。➡ 441 00:34:04,544 --> 00:34:08,214 仕置き部屋で反省しておれ! 442 00:34:08,214 --> 00:34:13,886 (すすり泣き) 443 00:34:13,886 --> 00:34:15,822 (物音) 444 00:34:15,822 --> 00:34:17,822 うん? 445 00:34:33,372 --> 00:34:44,517 ♬~ 446 00:34:44,517 --> 00:34:48,217 ねえ。 腹がすいた。 447 00:34:49,856 --> 00:34:53,656 「では 私が 握り飯を作りましょう」。 448 00:35:03,202 --> 00:35:05,872 「さあ 出来た。 召し上がれ」。 449 00:35:05,872 --> 00:35:10,710 かたじけない。 お前も食うか? 450 00:35:10,710 --> 00:35:13,613 「ありがたき幸せ」。 451 00:35:13,613 --> 00:35:29,095 ♬~ 452 00:35:29,095 --> 00:35:31,564 さあ…。 453 00:35:31,564 --> 00:35:35,835 あかん。 やっぱり あかん。 454 00:35:35,835 --> 00:35:37,835 …先生? 455 00:35:39,505 --> 00:35:42,408 黒田屋さん。 すんまへん。 456 00:35:42,408 --> 00:35:47,246 こたびの話 なかった事にして下さい。 へっ? 457 00:35:47,246 --> 00:35:53,519 わし やっぱり 人形浄瑠璃 捨てられまへん。 458 00:35:53,519 --> 00:35:56,319 堪忍しとくれやす。 459 00:36:00,193 --> 00:36:02,193 お待ち下さい。 460 00:36:03,863 --> 00:36:05,863 えっ… ええっ…。 461 00:36:10,036 --> 00:36:12,036 <え~っ!> 462 00:36:14,540 --> 00:36:20,213 勝手な事をされては 困りますよ。 463 00:36:20,213 --> 00:36:27,213 黙って聞いていれば 何です? あなた…。 464 00:36:29,222 --> 00:36:34,493 武士をやめて 浄瑠璃書きとなり…➡ 465 00:36:34,493 --> 00:36:39,665 やがて 甘言に誘われると 今度は 歌舞伎屋となり…。 466 00:36:39,665 --> 00:36:43,169 ちやほやと持ち上げてくれた男が 消えると➡ 467 00:36:43,169 --> 00:36:45,104 また 浄瑠璃に戻り…。 468 00:36:45,104 --> 00:36:49,041 5倍の手当をちらつかせると ほいほいと乗ってきながら➡ 469 00:36:49,041 --> 00:36:51,043 また 前言を翻す。 470 00:36:51,043 --> 00:36:53,179 あなた! ひっ…。 471 00:36:53,179 --> 00:36:56,215 何がしたいんです? 472 00:36:56,215 --> 00:37:00,920 <言い返せん…。 おっしゃるとおりや…> 473 00:37:00,920 --> 00:37:05,191 ええ? どういうつもりなんです? 474 00:37:05,191 --> 00:37:07,860 <おっしゃるとおりや…> 475 00:37:07,860 --> 00:37:11,530 こっちは 田舎侍あがりの くされ戯作者の繰り言に➡ 476 00:37:11,530 --> 00:37:13,466 つきあうほど 暇じゃないんですよ! 477 00:37:13,466 --> 00:37:19,205 私の商いはね… あなたの道楽とは違うんだ。 478 00:37:19,205 --> 00:37:25,378 あなたは 私の大いなる計略の ほんの手始めなんですよ。 479 00:37:25,378 --> 00:37:29,048 こんなところで 手間取らせないで下さいよ! 480 00:37:29,048 --> 00:37:33,486 け… 計略…? 481 00:37:33,486 --> 00:37:35,421 先生。 482 00:37:35,421 --> 00:37:43,621 竹本座を去り うちに来てくれますね? 483 00:37:46,198 --> 00:37:48,334 ねえ? 484 00:37:48,334 --> 00:37:53,506 は… は… は…。 485 00:37:53,506 --> 00:37:55,441 (戸が開く音) 486 00:37:55,441 --> 00:38:00,379 ああ おった おった! ハッハハ! 買うてきましたで [外:772EBFF2CE4E6DF4E703E16C3B1C7708]! 487 00:38:00,379 --> 00:38:02,682 <え~っ!> 488 00:38:02,682 --> 00:38:04,617 アッハハハ! 489 00:38:04,617 --> 00:38:07,520 <今? この間で?> 490 00:38:07,520 --> 00:38:10,022 しかし えらい目に遭うた。 491 00:38:10,022 --> 00:38:13,059 いや~ あれから [外:772EBFF2CE4E6DF4E703E16C3B1C7708] 買いに 市場に行きましてんけどな➡ 492 00:38:13,059 --> 00:38:15,828 「こないな時期に そないなもん 売ってるか!」ちゅうて➡ 493 00:38:15,828 --> 00:38:17,763 門前払いですわ。 494 00:38:17,763 --> 00:38:19,732 <当たり前や> 495 00:38:19,732 --> 00:38:21,734 けど わいかて意地や。 496 00:38:21,734 --> 00:38:24,570 あっちの漁場 こっちの港 探しま。 497 00:38:24,570 --> 00:38:26,572 ほしたら どや。 498 00:38:26,572 --> 00:38:29,041 「思う念力 岩をも通す」 ちゅうやっちゃ! 499 00:38:29,041 --> 00:38:33,813 大きな桶に [外:772EBFF2CE4E6DF4E703E16C3B1C7708] 飼うてるちゅう 奇特な人がいましてな! 500 00:38:33,813 --> 00:38:35,848 ほんで 聞いたら➡ 501 00:38:35,848 --> 00:38:39,318 「まあ 売ってやらん事もないが 一つ 困った事ある」。 502 00:38:39,318 --> 00:38:42,154 「何や?」。 「桶に氷が張って➡ 503 00:38:42,154 --> 00:38:44,990 [外:772EBFF2CE4E6DF4E703E16C3B1C7708]が取り出せん」。 こない言いまんねん。 504 00:38:44,990 --> 00:38:47,827 <ま… まさか…> 505 00:38:47,827 --> 00:38:50,730 そこで わい 思い出しましたがな あの孝行者の話。 506 00:38:50,730 --> 00:38:53,499 早速 着とるもん 脱いで 裸で 氷 温めた。 507 00:38:53,499 --> 00:38:56,836 そしたら 思たより氷が薄うて 頭から バッシャン! 508 00:38:56,836 --> 00:39:03,008 はまりましたがな。 このとおり びしょびしょでんがな。 ハハハ…! 509 00:39:03,008 --> 00:39:05,511 いや~ 孝行者か何か知らんけど➡ 510 00:39:05,511 --> 00:39:07,847 やっぱり まともな人間の する事やおまへんで。 511 00:39:07,847 --> 00:39:10,349 <お前やから!➡ 512 00:39:10,349 --> 00:39:15,521 まともやあれへんのは お前やから!> 513 00:39:15,521 --> 00:39:18,357 何なんだ お前は!? 514 00:39:18,357 --> 00:39:21,861 出てけ! 今 大事な話をしてるんだ。 515 00:39:21,861 --> 00:39:28,534 油屋はん。 残念やったな。 わいの勝ちや。 516 00:39:28,534 --> 00:39:30,469 勝ち…? 517 00:39:30,469 --> 00:39:34,340 約束したんや。 この… 近くの松のねきの門の…。 518 00:39:34,340 --> 00:39:36,642 近松門左衛門! その 何ちゃら衛門がな➡ 519 00:39:36,642 --> 00:39:38,577 [外:772EBFF2CE4E6DF4E703E16C3B1C7708] 買うてきたら➡ 520 00:39:38,577 --> 00:39:40,813 わいと一緒に 不孝糖 売るっちゅうてな。 521 00:39:40,813 --> 00:39:45,317 不孝糖…? そやさかい あんたは諦めなはれ。 522 00:39:45,317 --> 00:39:47,317 借りまっせ。 523 00:39:53,659 --> 00:39:56,695 今 さばきますさかいな 油屋はんも 食うとくなはれ。 524 00:39:56,695 --> 00:40:00,395 ヘヘヘ…。 はあ~ よいしょ。 525 00:40:07,506 --> 00:40:10,806 あれ? 食いまへんのんか? 526 00:40:12,378 --> 00:40:15,078 <助かった…?> 527 00:40:23,856 --> 00:40:28,194 うっ…。 情けない…。 528 00:40:28,194 --> 00:40:30,129 あ…? 529 00:40:30,129 --> 00:40:34,533 ええ年して こないな 怖い思いして➡ 530 00:40:34,533 --> 00:40:43,209 あげく あほに助けられるとは…。 ほんま 情けない。 531 00:40:43,209 --> 00:40:50,082 (すすり泣き) 532 00:40:50,082 --> 00:40:53,552 もう わしは迷わん。 533 00:40:53,552 --> 00:40:57,890 銭にならんでも 親不孝する事になっても➡ 534 00:40:57,890 --> 00:41:02,561 わしは… 人形浄瑠璃を書く! 535 00:41:02,561 --> 00:41:09,561 傑作を世に送り出して 近松門左衛門の名を残すんや! 536 00:41:11,570 --> 00:41:14,370 昆布じめで よろしか? 聞いてへんのかい! 537 00:41:16,242 --> 00:41:18,577 (吉兵衛)あっ 黒田屋さん。 538 00:41:18,577 --> 00:41:20,877 お早い お帰りで。 539 00:41:22,915 --> 00:41:28,254 また 寄らせてもらいますよ。 (吉兵衛)へえ。 540 00:41:28,254 --> 00:41:44,202 ♬~ 541 00:41:44,202 --> 00:41:49,040 う~ん! おいしいわあ! 542 00:41:49,040 --> 00:41:50,976 ほんまでっか? おかあはん! (喜里)うん。 543 00:41:50,976 --> 00:41:52,911 何で お前がおんねん! うん? 544 00:41:52,911 --> 00:41:54,913 明日から 不孝糖 売りまんねやろ? 545 00:41:54,913 --> 00:41:58,550 そら… 売らへんかな…。 546 00:41:58,550 --> 00:42:00,585 えっ! そら 約束が違う。 547 00:42:00,585 --> 00:42:04,222 何です? 不孝糖とは。 548 00:42:04,222 --> 00:42:08,093 不孝者にあやかりたい者がなめる 飴でんねん。 549 00:42:08,093 --> 00:42:13,932 まあ 信盛が売れば 効き目は あらたかね。 550 00:42:13,932 --> 00:42:16,234 なんちゅう事 言いまんねん。 551 00:42:16,234 --> 00:42:20,572 信盛。 万吉殿に 迷惑かけてはいけませんよ。 552 00:42:20,572 --> 00:42:23,241 そやさかい 売らへんちゅうてますのや。 553 00:42:23,241 --> 00:42:25,176 売りましょうな! 554 00:42:25,176 --> 00:42:28,580 ち… ええ… ち… ええと…。 名を忘れな! 555 00:42:28,580 --> 00:42:31,917 ちかえもん! 縮めな! 556 00:42:31,917 --> 00:42:35,617 <ん…? ちかえもん…?> 557 00:42:37,689 --> 00:42:41,889 <わしの事 かいらしいニックネームで呼んだ?> 558 00:42:43,495 --> 00:42:46,865 <この不孝糖売り 万吉との出会いが➡ 559 00:42:46,865 --> 00:42:50,201 やがて 浄瑠璃作者 近松門左衛門を➡ 560 00:42:50,201 --> 00:42:52,704 生まれ変わらせる事になる事を➡ 561 00:42:52,704 --> 00:42:56,207 この時のわしは 知る由もなかったのである。➡ 562 00:42:56,207 --> 00:43:02,207 …ってな 陳腐な言い回しは わしのプライドが許さんのである>