1 00:00:01,235 --> 00:00:04,938 ご視聴 ありがたく御礼を申し上げます。 2 00:00:04,938 --> 00:00:09,743 「超入門! 落語 THE MOVIE」 私 濱田 岳と申します。 3 00:00:11,411 --> 00:00:16,250 これまで 番組で披露してきた演目は 延べ62作。 4 00:00:16,250 --> 00:00:21,788 最後に披露した作品は 約4年半前に遡ります。 5 00:00:21,788 --> 00:00:27,427 皆様から 「新作はまだか~!?」という ありがたいお声をたくさん頂戴し➡ 6 00:00:27,427 --> 00:00:33,133 この度 久方ぶりに 新作をお届けする運びとなりました。 7 00:00:33,133 --> 00:00:36,169 耳で楽しむ古典落語と➡ 8 00:00:36,169 --> 00:00:39,907 目で楽しむ映像の融合。 9 00:00:39,907 --> 00:00:42,843 さあ それでは早速まいりましょう。 10 00:00:42,843 --> 00:00:47,314 「超入門! 落語 THE MOVIE」 開演です。 11 00:00:47,314 --> 00:00:52,986 ♬~ 12 00:00:52,986 --> 00:00:58,692 <たった一人で全てを演じ切る 究極の話芸 落語> 13 00:01:00,260 --> 00:01:04,064 <今回 なかなか聞けない レア演目を披露…> 14 00:01:07,401 --> 00:01:11,405 <「笑点」新メンバーとしても 話題沸騰中!> 15 00:01:15,142 --> 00:01:17,778 見る落語。 16 00:01:17,778 --> 00:01:21,782 どうぞ一席 おつきあいください。 17 00:01:41,969 --> 00:01:44,671 <俳優たちは…> 18 00:01:49,643 --> 00:01:55,515 <ふだん 耳で楽しむ話芸を あえて映像化した 見る落語。➡ 19 00:01:55,515 --> 00:01:58,518 それが 「落語 THE MOVIE」!> 20 00:02:00,253 --> 00:02:05,759 <まず 桃月庵白酒の演目に登場する キャストは➡ 21 00:02:05,759 --> 00:02:13,767 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」 北条時政役でも話題となった…> 22 00:02:17,938 --> 00:02:22,943 <番組初出演となる 歌舞伎俳優…> 23 00:02:39,626 --> 00:02:42,963 <更に 過去にも名演技を見せてくれた➡ 24 00:02:42,963 --> 00:02:45,632 この2人と…➡ 25 00:02:45,632 --> 00:02:48,435 初出演の芸人トリオ…> 26 00:02:51,138 --> 00:02:53,073 (スピーカー)「だって もう 貧乏でしょ? いいじゃありませんか」。 27 00:02:53,073 --> 00:02:55,442 「いや バカで貧乏だからね かわいげがあるんですよ。➡ 28 00:02:55,442 --> 00:02:59,946 頭よくて貧乏って 何か 救いようがないでしょう?」。 29 00:03:08,021 --> 00:03:11,758 <坂東彌十郎演じる 大家と住人たちの➡ 30 00:03:11,758 --> 00:03:14,394 とぼけた問答が 見どころ。➡ 31 00:03:14,394 --> 00:03:18,265 近所から「無学長屋」と うわさされるほど➡ 32 00:03:18,265 --> 00:03:20,767 学のない住人たちに➡ 33 00:03:20,767 --> 00:03:26,073 大家は必死に 算術を教えようとするのだが…> 34 00:03:31,278 --> 00:03:35,615 え~ ありがとうございます。 誰しも 人からよく見られたい➡ 35 00:03:35,615 --> 00:03:38,418 というのは 願望としてあるわけでございます。 36 00:03:38,418 --> 00:03:41,788 今日のスタッフの方々も そうでございます。 37 00:03:41,788 --> 00:03:45,125 「落語 THE MOVIE」のスタッフだというのが うれしいわけでございます。 38 00:03:45,125 --> 00:03:49,629 え~ 「大河」に入りたかったという方は 誰一人いないと思うんでございます。 39 00:03:49,629 --> 00:03:53,300 やはり そういうような 人からよく思われたいっていうのは➡ 40 00:03:53,300 --> 00:03:55,635 昔からの人情ということで ございましょう。 41 00:03:55,635 --> 00:04:00,140 「みんな集まったかい? いや ちょいとな お前たちに話があるというのがな➡ 42 00:04:00,140 --> 00:04:02,075 実は…」。 「あ~ ちょっと 大家さん 待ってください。➡ 43 00:04:02,075 --> 00:04:05,579 いや 言いたいことは 分かりますけどもね ない袖は振れないってんでしょうかね。➡ 44 00:04:05,579 --> 00:04:08,248 あの 言っときますけど 店賃 払えませんよ」。 45 00:04:08,248 --> 00:04:11,751 「まあまあまあ あの~ お前たちの言いたいことは分かるがね➡ 46 00:04:11,751 --> 00:04:14,788 今日は 店賃の話じゃないんだよ」。 「あっ 店賃じゃないんですか? おっ➡ 47 00:04:14,788 --> 00:04:17,557 聞いた? 店賃じゃねえってよ」。 「ああ よかった よかった。➡ 48 00:04:17,557 --> 00:04:20,760 じゃ 諦めたんっすね?」。 「いや 諦めたわけじゃないぞ。➡ 49 00:04:20,760 --> 00:04:23,597 あの店賃は 月末に ちゃんと払ってもらうからな」。 50 00:04:23,597 --> 00:04:26,500 「え? 諦めたんじゃねえって」。 「え? 往生際悪いぞ!」。 51 00:04:26,500 --> 00:04:29,402 「何言ってんだ お前たちは。 いや そうじゃないんだよ。➡ 52 00:04:29,402 --> 00:04:32,939 今日は 集まってもらったというのがな あたしゃ 脇でもって➡ 53 00:04:32,939 --> 00:04:36,610 面白くない話を聞いてきたな。 うん。 お前たち うちの長屋が➡ 54 00:04:36,610 --> 00:04:39,646 何て言われてるか知ってるかい?」。 「ええ。 あの 貧乏長屋でしょ?」。 55 00:04:39,646 --> 00:04:41,948 「何?」。 「貧乏長屋。 なっ?」。 56 00:04:41,948 --> 00:04:44,284 「いや 違う違う。 何か 活気のある廃虚だって」。 57 00:04:44,284 --> 00:04:47,621 「違うよ。 人が居ついた さら地だって」。 「もう よせよせ もう…。➡ 58 00:04:47,621 --> 00:04:50,290 聞いてるだけで涙が出てくるよ。 え? また お前たち➡ 59 00:04:50,290 --> 00:04:52,793 それを受け入れるんじゃないよ。 悔しいと思わないのか?」。 60 00:04:52,793 --> 00:04:55,829 「いえ」。 「悔しくない?」。 「悔しくない。 だって 貧乏でしょう?➡ 61 00:04:55,829 --> 00:04:58,431 しょうがないじゃありませんか」。 「しょうがないったって➡ 62 00:04:58,431 --> 00:05:00,901 あたし それだけでも やなんだ。 その上に 何だぞ。➡ 63 00:05:00,901 --> 00:05:03,937 もう一つ 面白くない話を聞いたというのがな➡ 64 00:05:03,937 --> 00:05:06,239 うちの長屋 無学長屋ってんだ」。 「え?」。 65 00:05:06,239 --> 00:05:10,577 「無学長屋」。 「何です? 無学長屋って」。 「学がないってんだよ」。 66 00:05:10,577 --> 00:05:13,613 「学がない?」。 「ということは おしべとか めしべ…」。 67 00:05:13,613 --> 00:05:16,917 「いや そういうことじゃないぞ お前。 いや そんな腹抱えて➡ 68 00:05:16,917 --> 00:05:20,587 笑うほど面白くないぞ お前たち。 え? いやいや違うんだよ。 その~➡ 69 00:05:20,587 --> 00:05:24,391 平たく言うとな つまり バカだと こう言われてんだよ」。 70 00:05:24,391 --> 00:05:27,928 「あ~ バカ? まあまあ いいんじゃないですか? 貧乏だし」。 71 00:05:27,928 --> 00:05:31,798 「いや… 少しは悔しいと思わない?」。 「いやいや だって貧乏だからな」。 72 00:05:31,798 --> 00:05:34,267 「そうです そうです。 いや 大家さんの前ですけれどもね➡ 73 00:05:34,267 --> 00:05:37,771 貧乏だったら 何でもいいですよ」。 「いやいや あたしゃね➡ 74 00:05:37,771 --> 00:05:42,108 この長屋の大家としては それは悔しいよ。 えっ。 いや 貧乏だけれども➡ 75 00:05:42,108 --> 00:05:45,412 せめて 何か 頭よさそうだなと思われたいだろ?」。 76 00:05:45,412 --> 00:05:48,315 「いいえ」。 「思われたくない?」。 「ええ だって もう 貧乏でしょ?➡ 77 00:05:48,315 --> 00:05:50,617 いいじゃありませんか」。 「いや バカで貧乏だからね➡ 78 00:05:50,617 --> 00:05:53,286 かわいげがあるんですよ。 頭よくて貧乏って 何か➡ 79 00:05:53,286 --> 00:05:56,957 救いようがないでしょう?」。 「もう正論を言うな! お前たちは。➡ 80 00:05:56,957 --> 00:05:59,793 そら そのとおりなんだが あたしは嫌なんだよ。 なっ。➡ 81 00:05:59,793 --> 00:06:03,063 だから せめて 頭がよさそうだと 思われたいじゃないか。➡ 82 00:06:03,063 --> 00:06:05,899 なにも 本当に 頭がよくなれと言ってるわけじゃない。➡ 83 00:06:05,899 --> 00:06:10,237 無理な話だから。 なっ。 だから 頭のよさそうなふりというのかな。➡ 84 00:06:10,237 --> 00:06:13,573 まっ いろいろあるけれどもな 何だ 歴史なんてえのは➡ 85 00:06:13,573 --> 00:06:16,243 心得といた方がいいだろうな」。 「えっ? 何です?」。 86 00:06:16,243 --> 00:06:18,178 「歴史だ」。 「あっ 溺れ死ぬ…」。 87 00:06:18,178 --> 00:06:22,382 「溺死だよ。 お前たち 本当は 頭がいいんじゃないのか? おい。➡ 88 00:06:22,382 --> 00:06:25,285 どんどん出てくるじゃないか。 えっ。 いや そうじゃないんだ。➡ 89 00:06:25,285 --> 00:06:28,922 歴史 つまりな 何年に何があったってのを ポンポンと言えると➡ 90 00:06:28,922 --> 00:06:31,958 何か 頭がよさそうに見えるぞ」。 「あっ そんなんでいいんすか?➡ 91 00:06:31,958 --> 00:06:34,394 だったらな…」。 「言える 言える。 言えますよ。 じゃあ➡ 92 00:06:34,394 --> 00:06:37,931 元和3年…」。 「そうそうそう そういうふうに言えりゃ➡ 93 00:06:37,931 --> 00:06:41,768 あっ 頭がよさそうだなと思われるよ。 元和3年に何があったんだい?」。 94 00:06:41,768 --> 00:06:45,272 「庄司甚右衛門がね 吉原 こさえたんですよ」。 95 00:06:45,272 --> 00:06:48,608 「ん~… うん まあ あの 何か そういうのじゃな➡ 96 00:06:48,608 --> 00:06:53,480 頭がよさそうには見られないんだ。 いや 確かに大事なことだけれどもね➡ 97 00:06:53,480 --> 00:06:57,284 そういうんじゃなくて こう 何年に何の戦があったと…」。 98 00:06:57,284 --> 00:06:59,953 「ああ 去年ですよ あっしとね トメ公がけんか」。 99 00:06:59,953 --> 00:07:02,722 「いや そら ただのけんかだろ? そういうことじゃないんだよ。➡ 100 00:07:02,722 --> 00:07:05,358 その… 分からねえかな。 誰々が死んだ…」。 101 00:07:05,358 --> 00:07:08,061 「あっ うちのおじいさんが…」。 「いや お前のじいさんとかどうでもいい」。 102 00:07:08,061 --> 00:07:10,730 「何だ どうでもいい…」。 「いや そういうことじゃないんだよ。➡ 103 00:07:10,730 --> 00:07:14,901 めんどくせえな おめえたちは。 え? ああ… じゃあ こうしよう。➡ 104 00:07:14,901 --> 00:07:17,370 歴史なんてのはな 覚えなくちゃ いけないから めんどくさいだろう。➡ 105 00:07:17,370 --> 00:07:20,573 うん じゃあ 算術なんてえのは いいんじゃないかい?」。 106 00:07:20,573 --> 00:07:24,244 「え?」。 「算術だ」。 「あっ 忍術の上?」。 107 00:07:24,244 --> 00:07:29,082 「抱き合って喜ぶほど 面白くないぞ お前たち。 いや 違うんだ。 その~➡ 108 00:07:29,082 --> 00:07:32,752 算術… つまり その 足したり引いたりする勘定だよ」。 109 00:07:32,752 --> 00:07:35,388 「お勘定?」。 「そうそう そうそう なっ 買い物をしたり➡ 110 00:07:35,388 --> 00:07:39,259 あるいは 何だ 飲み食いをしたりした時に いくらだい? って言われた時に➡ 111 00:07:39,259 --> 00:07:42,929 これこれこれ いくらいくらなんてこと 言われたら 頭がよさそうに見えるだろ➡ 112 00:07:42,929 --> 00:07:46,800 なっ。 それ やってみようじゃないか。 うん いやいや 習うより慣れろだ。➡ 113 00:07:46,800 --> 00:07:51,104 とりあえず 今 やってみよう。 じゃあ ここに5円あるとするぞ」。 114 00:07:51,104 --> 00:07:54,007 「ないですよ」。 「いやいや ないですよじゃないんだ。➡ 115 00:07:54,007 --> 00:07:56,276 あるとするぞ」。 「いや あるわけないでしょ。➡ 116 00:07:56,276 --> 00:07:59,612 こんな貧乏長屋でしょ。 あったらね もう殴り合いのけんかになりますよ」。 117 00:07:59,612 --> 00:08:03,883 「そうなんだろうけども いやいや 仮の話だ。 ねっ。 じゃあ ここに➡ 118 00:08:03,883 --> 00:08:06,920 5円あるとするぞ」。 「誰のです?」。 119 00:08:06,920 --> 00:08:10,056 「誰のでもないよ」。 「誰のでもねえってことはねえでしょ➡ 120 00:08:10,056 --> 00:08:12,359 なっ?」。 「いや そうそう そうですよ。 5円あるんだったら 誰かの…」。 121 00:08:12,359 --> 00:08:16,062 「じゃ あっしがもらっていいんすか?」。 「いや そういうことじゃないんだな。➡ 122 00:08:16,062 --> 00:08:20,734 あの~ ん~… あっ じゃあ こうしよう。 この5円をみんなで分けるってのは➡ 123 00:08:20,734 --> 00:08:24,571 どうだ? これも 立派な算術だぞ。 なっ。 この5円をみんなで分けると➡ 124 00:08:24,571 --> 00:08:28,074 一人頭いくらというふうになるんだから。 ねっ。 何人いるんだ? えっ。➡ 125 00:08:28,074 --> 00:08:32,379 9人… めんどくせえな。 う~ん…。➡ 126 00:08:32,379 --> 00:08:35,915 じゃあ あたしを入れて 10人にしようか」。 「ちょっと待ってくださいよ。➡ 127 00:08:35,915 --> 00:08:38,385 店賃取った上で この5円から 大家さん さっ引こう…」。 128 00:08:38,385 --> 00:08:41,588 「いや そういうことじゃないんだよ。 分けやすいからということだ。➡ 129 00:08:41,588 --> 00:08:45,458 なっ うん。 この5円を 10円で分け… 10人で分けると いくらになる?➡ 130 00:08:45,458 --> 00:08:48,094 え? いくらになる?」。 「いや それは やっぱり 何でしょう。➡ 131 00:08:48,094 --> 00:08:51,965 独り勝ちですから 5円でしょ?」。 「いや 分けなくちゃいけないんだよ。➡ 132 00:08:51,965 --> 00:08:54,267 そういうことじゃなくて 5円をみんなで分ける…」。 133 00:08:54,267 --> 00:08:58,772 「分かりません」。 「何で そう 考えようという努力をしないかな➡ 134 00:08:58,772 --> 00:09:02,742 お前たちは。 じゃあ 50銭だ。 なっ いいか。 これでもってな➡ 135 00:09:02,742 --> 00:09:06,513 横丁の洋食屋にでも食べに行こうか」。 「行きません」。 136 00:09:06,513 --> 00:09:08,448 「いや 行こうじゃないか」。 「いや 行きません。 だってなあ」。 137 00:09:08,448 --> 00:09:11,718 「いや そうですよ。 大家さんの前ですけど せっかく 50銭 手に入ったんでしょ?➡ 138 00:09:11,718 --> 00:09:14,754 もったいないですよ。 大家さんが おごってくれんだったら行きますよ」。 139 00:09:14,754 --> 00:09:19,592 「それじゃ 算術にならないじゃないか。 なっ。 それで みんなで食べに行って➡ 140 00:09:19,592 --> 00:09:23,063 お勘定して いくらいくらで 勘定になるんだから。 なっ。➡ 141 00:09:23,063 --> 00:09:26,099 行ってくれないかい?」。 「え~? どうするよ?」。 142 00:09:26,099 --> 00:09:29,936 「うん… ちょっと集まれ」。 「いちいち円陣組むな! お前たちは。➡ 143 00:09:29,936 --> 00:09:32,772 それほどの話じゃないぞ。 え? どうなんだ?」。 144 00:09:32,772 --> 00:09:36,242 「いや 今 話をしてみたらね まあ 悪い話じゃねえってんでね➡ 145 00:09:36,242 --> 00:09:39,145 行くことになりました」。 「行ってくれるか。 めんどくせえな➡ 146 00:09:39,145 --> 00:09:41,915 おめえたちは。 うん じゃあ みんなでもってな その洋食屋行って➡ 147 00:09:41,915 --> 00:09:44,384 そうだな… カツレツと おまんまなんてのは どうだい?➡ 148 00:09:44,384 --> 00:09:46,319 ねっ いいだろ?」。 「あっ いいですね カツレツ」。 149 00:09:46,319 --> 00:09:49,222 「食べます 食べます」。 「ああ そう 乗ってきてくれてよかった。➡ 150 00:09:49,222 --> 00:09:52,759 じゃあ カツレツが 20銭の おまんまが 10銭だ」。 151 00:09:52,759 --> 00:09:56,596 「ちょっと待ってください。 えっ 20銭? そら 高いでしょう。➡ 152 00:09:56,596 --> 00:09:59,265 いや やめましょう。 だったらね 隣町ね もっと安い…」。 153 00:09:59,265 --> 00:10:02,168 「いや 高い安いじゃないんだ。 あの 言っとくぞ。➡ 154 00:10:02,168 --> 00:10:05,138 これは 別にな 本当に お金があるわけじゃないんだぞ」。 155 00:10:05,138 --> 00:10:08,975 「じゃあ だましたんですか?」。 「いや だま… だましたというのか…➡ 156 00:10:08,975 --> 00:10:12,812 う~ん… 何で お前たちは 素直に話に乗ってこないんだろうな。➡ 157 00:10:12,812 --> 00:10:17,116 つまりな 高い安いじゃなくて いくら というのを 今やりたいだけなんだから。➡ 158 00:10:17,116 --> 00:10:20,420 なっ ちょいと行こうか」。 「いや~ やっぱり 20銭だったらな~」。 159 00:10:20,420 --> 00:10:22,789 「いや よしましょう。 うん」。 「すいません やっぱ 大家さんが➡ 160 00:10:22,789 --> 00:10:26,659 おごってくれんだったら」。 「出銭が やなのか お前たちは。➡ 161 00:10:26,659 --> 00:10:30,430 分かった! じゃあ お前たちは 金をもらえる方にしよう。➡ 162 00:10:30,430 --> 00:10:33,333 なっ それだったら 文句ないだろ なっ。 お前たちが… そうだな。➡ 163 00:10:33,333 --> 00:10:38,638 居酒屋のあるじだ。 で あたしが客だ。 で お勘定してくれ いくらだい?➡ 164 00:10:38,638 --> 00:10:40,673 なんていうふうに… それだったら いいだろ? え?」。 165 00:10:40,673 --> 00:10:44,511 「居酒屋の亭主ねえ… どうするよ?」。 「ん? 集まれ」。 166 00:10:44,511 --> 00:10:48,148 「いちいち円陣組むな! お前たちは。 ど… どうなんだ?➡ 167 00:10:48,148 --> 00:10:50,817 え? やってくれるかい?」。 「ええ 話をしてみたらね➡ 168 00:10:50,817 --> 00:10:54,154 悪い話じゃねえってことで とりあえず やることに決まりましたんで」。 169 00:10:54,154 --> 00:10:57,824 「ああ やってくれるか よかったよかった。 うんうん じゃあ いいかい?➡ 170 00:10:57,824 --> 00:11:01,261 居酒屋ということで 分かりやすくいくぞ。 なっ う~ん じゃあ まあ➡ 171 00:11:01,261 --> 00:11:05,932 あたしが客ということで おちょうしと それから こうこと やっこだ。➡ 172 00:11:05,932 --> 00:11:10,103 で まあ おちょうしも 10銭 こうこも 10銭 やっこも 10銭。➡ 173 00:11:10,103 --> 00:11:13,773 いや 高い安いは抜きにしてだぞ 分かりやすい10銭ずつだよ。➡ 174 00:11:13,773 --> 00:11:17,644 うん でも あえて おちょうし 2本にしとくか。 なっ それでもって➡ 175 00:11:17,644 --> 00:11:21,414 いくらだい? と言ったら お前さん方が いくらいくらとパッパッと言ってごらん➡ 176 00:11:21,414 --> 00:11:23,950 頭よさそうに見えるから。 じゃあ まずはな➡ 177 00:11:23,950 --> 00:11:26,619 そうだ じゃあ 熊さん お前さんからやっとくれ」。 178 00:11:26,619 --> 00:11:29,122 「へい ありがとうございやす」。 「そうそう… そういう感じで➡ 179 00:11:29,122 --> 00:11:31,791 お願いしますよ。 じゃあ そろそろ 帰りますんでね➡ 180 00:11:31,791 --> 00:11:33,826 お勘定 お願いします」。 「へい ありがとうございます」。 181 00:11:33,826 --> 00:11:38,965 「え~っとね おちょうしが2本 それから こうこと やっこ いくらになります?」。 182 00:11:38,965 --> 00:11:40,900 「1円ですね」。 183 00:11:40,900 --> 00:11:44,837 「違う 違う 熊さん 違うんだよ。 ねっ 10銭ずつだよ。➡ 184 00:11:44,837 --> 00:11:51,444 で え~… おちょうしが2本だから 10銭と10銭と10銭と10銭。 いくらだい?」。 185 00:11:51,444 --> 00:11:56,983 「2円ですね」。 「違うよ。 10銭が4つだ。 いくらだい?」。 186 00:11:56,983 --> 00:12:00,253 「3円です」。 「何で どんどん上がるんだい。 えっ?➡ 187 00:12:00,253 --> 00:12:03,256 ぼる気か お前は?」。 「え 何? 払えねえってのか?➡ 188 00:12:03,256 --> 00:12:06,059 おい この客 払えねえとよ」。 「何だと このやろ…」。 189 00:12:06,059 --> 00:12:09,596 「ちょっと待て待て待て。 話が違ってるぞ。 そういうことじゃないんだ➡ 190 00:12:09,596 --> 00:12:12,498 あたしがしたいのは。 もういい お前は。 トメさん トメさん➡ 191 00:12:12,498 --> 00:12:15,401 お前さん やってくれ」。 「はいはい どうもありがとうございます」。 192 00:12:15,401 --> 00:12:18,271 「あっ おかみか。 いや そういう柔らかい感じがいいぞ。➡ 193 00:12:18,271 --> 00:12:20,940 うん。 じゃあ おかみね ちょいと帰りたいと思いますんで➡ 194 00:12:20,940 --> 00:12:23,843 お勘定 お願いいたします」。 「まあ そんなことおっしゃらないで」。 195 00:12:23,843 --> 00:12:26,813 「いや 違う違う 違うんだよ。 お勘定 お願いしますね。➡ 196 00:12:26,813 --> 00:12:30,416 おちょうし2本 こうこと やっこ 10銭が4つだ。 いくらだい?」。 197 00:12:30,416 --> 00:12:33,620 「そんなこと おっしゃらないでね 奥に小部屋もあります。➡ 198 00:12:33,620 --> 00:12:36,956 いい子もそろってますから」。 「店が 変わってるから。➡ 199 00:12:36,956 --> 00:12:39,859 そういうことじゃないんだよ。 ほんとに めんどくさいな もう。➡ 200 00:12:39,859 --> 00:12:42,762 じゃあ 八っつぁん お前さん やっとくれ。 えっ ちょいとお願いしますよ」。 201 00:12:42,762 --> 00:12:45,431 「へい ありがとうございます」。 「そうやってね 協力的なの➡ 202 00:12:45,431 --> 00:12:48,801 ありがたいや。 うん。 じゃあ ちょいと お勘定 お願いしますよ。➡ 203 00:12:48,801 --> 00:12:51,638 おちょうし2本 それから こうこと やっこだ。➡ 204 00:12:51,638 --> 00:12:56,442 ねっ いいかい。 10銭と10銭と10銭と 10銭。 いくらです?」。 205 00:12:56,442 --> 00:13:00,913 「え~ お代は後ほど」。 「いやいや 違う違う。➡ 206 00:13:00,913 --> 00:13:04,784 いいかい? 10銭が4つだ。 なっ? 10銭と10銭と10銭と10銭。➡ 207 00:13:04,784 --> 00:13:06,786 いくらだい?」。 「お代は後ほど」。 208 00:13:06,786 --> 00:13:10,923 「いや 後ほどじゃ話になんないんだよ。 えっ? あたし 帰っちゃうんだぞ。➡ 209 00:13:10,923 --> 00:13:12,859 いいのか?」。 「ええ ええ 結構ですよ」。 210 00:13:12,859 --> 00:13:16,095 「帰っちゃったら お代もらえないんだぞ」。 「ええ 構いません」。 211 00:13:16,095 --> 00:13:20,600 「そのお代 どうすんだい?」。 「へえ 月末の店賃から さっ引いときます」。 212 00:13:20,600 --> 00:13:25,772 (拍手) 213 00:13:25,772 --> 00:13:30,109 いや~ 久々の新作 いかがでしたでしょうか? 214 00:13:30,109 --> 00:13:35,915 続いて演目を披露してくださるのは 「落語 THE MOVIE」最多出演の➡ 215 00:13:35,915 --> 00:13:39,786 春風亭一之輔師匠。 216 00:13:39,786 --> 00:13:48,094 演目は古典落語の中でも 人情噺の傑作とされる あの作品です。 217 00:13:50,430 --> 00:13:54,734 <今回 春風亭一之輔が 披露してくれたのは…> 218 00:14:00,106 --> 00:14:02,742 <親子が主役の落語といえば➡ 219 00:14:02,742 --> 00:14:07,914 これまでも 当番組で 傑作を披露してくれた。➡ 220 00:14:07,914 --> 00:14:11,751 2017年 まだあどけなさが残る➡ 221 00:14:11,751 --> 00:14:14,454 鈴木 福が子供を演じた…> 222 00:14:17,256 --> 00:14:20,259 「助けてくださ~い! 人さらいで~す!」。 223 00:14:20,259 --> 00:14:23,062 「うわ~!」。 「やめろ お前!」。 224 00:14:23,062 --> 00:14:27,266 <そして 「藪入り」> 225 00:14:27,266 --> 00:14:30,169 「お父っつぁん 読んだ? 手紙。 ねえ」。 226 00:14:30,169 --> 00:14:32,939 「何してんのよ。 返事しなよ お前さんは」。 227 00:14:32,939 --> 00:14:37,410 「喉がはっついて 声が出ねえんだよ」。 (せきばらいのまね) 228 00:14:37,410 --> 00:14:42,415 <実は 一之輔も3児の子を持つ父> 229 00:14:55,294 --> 00:14:59,298 <今回 こんな映像を発掘> 230 00:15:01,567 --> 00:15:03,503 今 何言ってたの? 231 00:15:03,503 --> 00:15:07,740 <10年前に放送された NHKの「おとうさんといっしょ」で➡ 232 00:15:07,740 --> 00:15:13,246 次男と一緒に出演。 パパの顔を披露していた> 233 00:15:16,749 --> 00:15:19,252 「し」 「し」… はんじくん 「し」! 234 00:15:19,252 --> 00:15:22,155 (笑い声) 235 00:15:22,155 --> 00:15:25,925 あ~ 「みかん」って言っちゃった! あ~ 「みかん」って言った~! 236 00:15:25,925 --> 00:15:30,096 や~い! お父さん 「みかん」って言った。 237 00:15:30,096 --> 00:15:34,600 「ん」がついた 負け~。 「ん」がついた 負け~。 238 00:15:34,600 --> 00:15:37,103 どうも 初めまして。 (拍手) 239 00:15:37,103 --> 00:15:40,773 <更に 「落語 THE MOVIE」 「藪入り」の撮影現場には➡ 240 00:15:40,773 --> 00:15:43,576 子供を連れて訪問> 241 00:15:54,954 --> 00:16:01,160 <現在 3人の子供も 高校生 中学生に成長> 242 00:16:25,751 --> 00:16:30,623 <そんな一之輔の演目「子は鎹」。➡ 243 00:16:30,623 --> 00:16:33,826 撮影当日の天気は…> 244 00:16:35,461 --> 00:16:39,599 <まさかの大雪。➡ 245 00:16:39,599 --> 00:16:45,938 この雪の影響で 次々と場所を移すなど➡ 246 00:16:45,938 --> 00:16:48,608 変更を余儀なくされた。➡ 247 00:16:48,608 --> 00:16:53,279 今回 初の当て振り芝居に挑んだ 雛形あきこは➡ 248 00:16:53,279 --> 00:16:56,582 撮影の様子をこう振り返る> 249 00:17:22,241 --> 00:17:26,746 雛形あきこさんはね 僕 あの 生年月日が1日違いなんですよ。 250 00:17:29,015 --> 00:17:31,817 だから ぴったりだと思いますよ。 251 00:17:37,089 --> 00:17:39,025 <バイきんぐ 西村演じる➡ 252 00:17:39,025 --> 00:17:41,594 大工の熊五郎。 腕はいいが➡ 253 00:17:41,594 --> 00:17:45,097 大酒飲みの 道楽者。➡ 254 00:17:45,097 --> 00:17:48,968 雛形あきこ演じる女房は 愛想を尽かし➡ 255 00:17:48,968 --> 00:17:53,606 息子の亀吉を連れて 家を出ていってしまう> 256 00:17:53,606 --> 00:17:56,275 (拍手) 257 00:17:56,275 --> 00:17:59,111 ええ 一席申し上げますが。 258 00:17:59,111 --> 00:18:02,081 あるところに 大工で 熊五郎という男がおりまして➡ 259 00:18:02,081 --> 00:18:06,719 この人は 腕は 大変にいいんですけれども 非常に この 道楽もんで➡ 260 00:18:06,719 --> 00:18:09,355 飲む打つ買う 三道楽煩悩 みんなやっちゃってね。 261 00:18:09,355 --> 00:18:13,225 ええ 吉原なんか入り浸って かみさんと子供がいるんですけども➡ 262 00:18:13,225 --> 00:18:16,896 たまに帰ってくると けんかしたりなんかして➡ 263 00:18:16,896 --> 00:18:19,799 ある日のこと また 流連して うちに帰ってくる。 264 00:18:19,799 --> 00:18:23,235 売り言葉に買い言葉。 「出ていきやがれ!」。 「出ていきますよ」➡ 265 00:18:23,235 --> 00:18:27,740 と言って おかみさんは 子供の手を引いて 表を とぼとぼとぼとぼ歩いていって。 266 00:18:27,740 --> 00:18:31,077 ええ いい厄介払いができたってんでは ないんでございましょうが➡ 267 00:18:31,077 --> 00:18:35,948 まあ 吉原から なじみの女郎を 身請けしてまいりまして あとに据えます。 268 00:18:35,948 --> 00:18:39,385 そういうところで働いていた女の人だから というわけじゃないんでしょうが➡ 269 00:18:39,385 --> 00:18:43,923 まあ 仕事なんかしませんで 朝寝てる 昼寝てる 夕方寝てる 夜寝てる。 270 00:18:43,923 --> 00:18:45,858 インターバルに酒を飲むというやつでね。 271 00:18:45,858 --> 00:18:50,096 どっちが言いだしたか分かんないけども みつきもするってえと➡ 272 00:18:50,096 --> 00:18:53,132 プイッと いなくなっちまって 一人になって考えた ああ。 273 00:18:53,132 --> 00:18:55,901 まあ しらふの時は まあ 真面目な人ですから➡ 274 00:18:55,901 --> 00:18:58,404 自分が悪いというのは よ~く分かってる。 275 00:18:58,404 --> 00:19:01,874 じゃ 酒をやめてみようってことんなって こらあ 酒が やまったんですね。 276 00:19:01,874 --> 00:19:04,777 やめることができた。 何か 間がよかったのか分かりませんが➡ 277 00:19:04,777 --> 00:19:07,747 何だか分かんないけど ピタッと酒がやまって。 278 00:19:07,747 --> 00:19:10,349 で まあ やることは 仕事しかありませんから➡ 279 00:19:10,349 --> 00:19:13,886 一生懸命 仕事をする。 好きでなった大工でございますから➡ 280 00:19:13,886 --> 00:19:15,821 こら 腕もいい。 周りの人も…。 281 00:19:15,821 --> 00:19:17,757 「ああ あいつ 酒やめたって? いいんじゃねえかな。➡ 282 00:19:17,757 --> 00:19:19,759 仕事回してやろうか」。 「おお 俺も ちょっと➡ 283 00:19:19,759 --> 00:19:22,595 あいつに回してみよう。 やっぱり いい腕だな」と言って➡ 284 00:19:22,595 --> 00:19:26,899 見事に この 仕事を とんとんとんとん とんとんとんとん こなしていくと➡ 285 00:19:26,899 --> 00:19:30,369 3年たつかたたないか 棟梁まではいきませんけども➡ 286 00:19:30,369 --> 00:19:33,072 親方といわれるようになった ある日のことでございまして…。 287 00:19:33,072 --> 00:19:35,975 「や~い いるかい? 熊さん おいでかい?」。 288 00:19:35,975 --> 00:19:38,244 「え? あっ 番頭さん。 何か御用で?」。 289 00:19:38,244 --> 00:19:40,246 「よかった いてくれて。 いや 違うんだよ。➡ 290 00:19:40,246 --> 00:19:43,582 うちのご隠居がね お前さんが ここんところ 顔出さないから➡ 291 00:19:43,582 --> 00:19:46,252 また悪い癖が始まったんじゃねえかって 心配して➡ 292 00:19:46,252 --> 00:19:49,088 お前 見てこいって言われてさ え? 大丈夫だろうね」。 293 00:19:49,088 --> 00:19:52,391 「はっ そうすか。 いや 別に 酒ね また始まったって➡ 294 00:19:52,391 --> 00:19:54,460 そういうわけじゃねえんですよ。 今 左官入ってましょ?➡ 295 00:19:54,460 --> 00:19:56,762 左官がいるとこ 大工が ちょいちょい顔出したらね➡ 296 00:19:56,762 --> 00:19:59,598 あんまり いい面しねえんだ 向こうは。 へっ 行かなかったんすよ。➡ 297 00:19:59,598 --> 00:20:01,534 今から行きましょうか?」。 「いやいや 大丈夫だ。➡ 298 00:20:01,534 --> 00:20:04,470 隠居さんには 私から言っておくけどね もう一つ お願いってのはね➡ 299 00:20:04,470 --> 00:20:07,773 いや~ お前 ちょいと 深川まで 木口見てこいって➡ 300 00:20:07,773 --> 00:20:09,708 うちのご隠居が 私に言うんだよ。➡ 301 00:20:09,708 --> 00:20:12,645 私はね 木口 見るったって 分かりゃしないから➡ 302 00:20:12,645 --> 00:20:15,281 お前さん ちょっと 手が空いてたらね つきあってもらいたいんだ いいかな?」。 303 00:20:15,281 --> 00:20:17,216 「あたしがですか? ちょっと待ってください。➡ 304 00:20:17,216 --> 00:20:20,953 隣のおかみさん! あのね ちょっと うち空けますんで 留守お願いします。➡ 305 00:20:20,953 --> 00:20:23,422 すいませんね どうも。 へい じゃ 行きますか」。 306 00:20:23,422 --> 00:20:27,126 「面倒だね 隣のうちのおかみさんに 留守言って… ねえ」。 307 00:20:27,126 --> 00:20:29,962 「まあ しょうがねえ 慣れっこですからね 大丈夫っすよ」。 308 00:20:29,962 --> 00:20:32,798 「うん お前さんも落ち着いてきたんだから そろそろ どうだな?➡ 309 00:20:32,798 --> 00:20:35,301 新しいおかみさん持ったら なあ」。 310 00:20:35,301 --> 00:20:38,304 「かかあは 先ので懲りてますから」。 「ああ あのおかみさんなあ。➡ 311 00:20:38,304 --> 00:20:42,641 近所じゃ 花魁のおかみさんって 評判だったよ。 大変だったみたいだね」。 312 00:20:42,641 --> 00:20:45,311 「ええ そうっすね。 朝から茶碗酒ってのはね➡ 313 00:20:45,311 --> 00:20:47,246 てめえで飲むと うめえですけどね➡ 314 00:20:47,246 --> 00:20:49,982 人に飲まれると 腹立ちますね ああいうものはね ええ。➡ 315 00:20:49,982 --> 00:20:51,917 ある時なんか 仕事から帰ってきてね➡ 316 00:20:51,917 --> 00:20:53,853 『おう どこ行ったい? おっかあ いねえか』ったらね➡ 317 00:20:53,853 --> 00:20:56,856 どこにも見当たらねえんすよ ええ。 よく捜したらね➡ 318 00:20:56,856 --> 00:21:00,626 長屋の裏 どぶ板の上ね 花魁道中気取って 子供たち引き連れて➡ 319 00:21:00,626 --> 00:21:03,095 こんなんなって パタ~ンパタ~ンってね 歩ってんすよ。➡ 320 00:21:03,095 --> 00:21:05,931 あれ見たときゃあ ああ もうダメだなと思いましたな」。 321 00:21:05,931 --> 00:21:09,768 「そういう行事があったら呼んどくれよ 見たかったな おい。 面白そうだな」。 322 00:21:09,768 --> 00:21:11,704 「ひと事だから そういうこと言うんすよ。 ええ」。 323 00:21:11,704 --> 00:21:14,940 「その前のおかみさんは いいおかみさんだったけどね。➡ 324 00:21:14,940 --> 00:21:18,777 お徳さんなあ」。 「ええ まあね あのかかあはね。 ええ。➡ 325 00:21:18,777 --> 00:21:22,615 針がうまくてね よく内職で手伝ってもらいやした ええ。➡ 326 00:21:22,615 --> 00:21:25,117 あの 読み書きできましょう? あっちは読めねえからね。➡ 327 00:21:25,117 --> 00:21:28,020 よく いろんなもん読んでもらったり 書いてもらったりしましたな うん。➡ 328 00:21:28,020 --> 00:21:32,625 近所のね 応対もいいし愛想もいいしね 器量も まんざらじゃなかった」。 329 00:21:32,625 --> 00:21:36,795 「今更のろけを言っても始まんないよ お前さん。 何を言ってんだい ええ?➡ 330 00:21:36,795 --> 00:21:38,831 何で そんな いいおかみさん 追い出したりしたね」。 331 00:21:38,831 --> 00:21:42,668 「ええ… バカでしたな。 あっちは何にも分かってねえ。➡ 332 00:21:42,668 --> 00:21:46,138 しょうがねえっすよ」。 「ふ~ん。 より戻…」。 333 00:21:46,138 --> 00:21:49,975 「ああ とんでもない! ええ。 もう 合わせる面もねえっすから。 ね。➡ 334 00:21:49,975 --> 00:21:52,878 いいんです 一人で」。 「ふ~ん そうかい?」。 335 00:21:52,878 --> 00:21:55,781 「でも ガキにはね 会いたくなります たまにね」。 336 00:21:55,781 --> 00:21:59,151 「ああ 亀ちゃん 懐かしいなあ。 いくつになったね?」。 337 00:21:59,151 --> 00:22:01,754 「ん… 9つじゃねえですかね 今年ね」。 338 00:22:01,754 --> 00:22:05,090 「かわいい盛りだ。 お前さんに似てな はしっこいとこがあってな。➡ 339 00:22:05,090 --> 00:22:07,126 ええ? 会いたいかい?」 340 00:22:07,126 --> 00:22:09,762 「会いたいって まあ 3年会ってませんから➡ 341 00:22:09,762 --> 00:22:13,933 どこで何してるか分かんねえですけどね 達者でいりゃあいいなと思って ねえ」。 342 00:22:13,933 --> 00:22:18,771 「うん そうねえ。 どこにいるか分かんない っての 何となく味気ないもんだな。➡ 343 00:22:18,771 --> 00:22:21,607 ああ 9つってえと 向こうから駆けだしてくる➡ 344 00:22:21,607 --> 00:22:24,643 あの子供 ほら 3人 あれぐらいかね。➡ 345 00:22:24,643 --> 00:22:28,280 真ん中の子は 威勢がいいな。 なあ え?➡ 346 00:22:28,280 --> 00:22:32,117 え…? 亀ちゃんに似てないか? あれ」。 347 00:22:32,117 --> 00:22:34,954 「え? 似てるのは いくらもいるからね」。 348 00:22:34,954 --> 00:22:36,889 「いや ほら 見てごらん よ~く。➡ 349 00:22:36,889 --> 00:22:39,124 あの真ん中の子 似てないかい? 亀ちゃんに」。 350 00:22:39,124 --> 00:22:41,160 「そうすか? え…。➡ 351 00:22:41,160 --> 00:22:45,631 え…? あっ 番頭さん➡ 352 00:22:45,631 --> 00:22:50,803 似てるなんてもんじゃねえっすよ あれ。 亀ですよ あれ 亀。 亀!➡ 353 00:22:50,803 --> 00:22:53,839 ほらっ 動いてる」。 「当たり前だよ。➡ 354 00:22:53,839 --> 00:22:56,976 生きてんだから フッ。 そんなことあんのかい」。 355 00:22:56,976 --> 00:23:00,379 「いや あっちは こんなとこ通らねえしね 来たこともねえぐれえなもんで。➡ 356 00:23:00,379 --> 00:23:02,314 いや… なに… いや 俺…」。 357 00:23:02,314 --> 00:23:04,750 「ほらほら 声かけておやり」。 「いやいや…」。 358 00:23:04,750 --> 00:23:08,587 「いいから。 え? ここで別れたら 今度 いつ会えるか分かんないよ。➡ 359 00:23:08,587 --> 00:23:11,924 ねっ しっかりしなよ。 私 先行ってる。 あとから追っかけて なっ。➡ 360 00:23:11,924 --> 00:23:14,593 しっかりおやり」。 「そうですか。➡ 361 00:23:14,593 --> 00:23:16,929 すいません。 どうも。➡ 362 00:23:16,929 --> 00:23:22,635 おい。 そこ行くの 亀か? 亀吉。 おいっ」。 363 00:23:24,270 --> 00:23:27,940 「えっ!? お父っつぁんか!?」。 364 00:23:27,940 --> 00:23:30,276 「おお お父っつぁんだ。 久しぶりだな おい。➡ 365 00:23:30,276 --> 00:23:32,778 ごめんな 僕たちな。 おいちゃん 亀ちゃんに ちょっと用があるからよ➡ 366 00:23:32,778 --> 00:23:34,813 勘弁して。 ちょっと 後で ね。➡ 367 00:23:34,813 --> 00:23:38,117 おい こんなとこで会うと思わなかったな 亀よ」。 368 00:23:38,117 --> 00:23:41,020 「ほんとだい 驚いた。 ああ」。 369 00:23:41,020 --> 00:23:44,423 「でっかくなったな おめえ」。 「うん でっかくなったよ 3年だから。➡ 370 00:23:44,423 --> 00:23:46,492 お父っつぁんも でっかくなったな」。 371 00:23:46,492 --> 00:23:49,295 「お父っつぁんは大人だから そんな大きくはなんねえだろうけどよ。➡ 372 00:23:49,295 --> 00:23:52,164 ええ? 元気でいたか そうか。 ふ~ん。➡ 373 00:23:52,164 --> 00:23:55,167 おっ母 達者か?」。 「うん」。 374 00:23:55,167 --> 00:23:58,804 「おお そうか。 うん。 お父っつぁん かわいがってくれるか?」。 375 00:23:58,804 --> 00:24:01,774 「何?」 「お父っつぁん かわいがってくれるか?」。 376 00:24:01,774 --> 00:24:05,244 「3年もうっちゃっといて かわいがるも何もねえだろ。➡ 377 00:24:05,244 --> 00:24:07,913 なに ずうずうしいこと言ってんだよ バカ!」。 378 00:24:07,913 --> 00:24:13,085 「…俺は おめえ 先のお父っつぁんだよ な? 新しいお父っつぁんがいるだろ」。 379 00:24:13,085 --> 00:24:16,388 「何言ってんだよ。 子供が先にできて 親があとからできるなんて➡ 380 00:24:16,388 --> 00:24:20,259 そんなべらぼうがあるかい。 ヤツガシラじゃあるめえしよ」。 381 00:24:20,259 --> 00:24:22,761 「何だい そりゃあ。 おっ母 独りか?」。 382 00:24:22,761 --> 00:24:25,397 「うん 独りだよ。 いつも のり屋のおばあさんとかがね➡ 383 00:24:25,397 --> 00:24:28,600 『ああ ご亭主 お持ちになったら』とか 勧めに来んだけどね➡ 384 00:24:28,600 --> 00:24:30,936 みんな断っちゃうんだよ」。 「どうして?」。 385 00:24:30,936 --> 00:24:34,273 「うん 『この子は 私一人で育てた方が いいと思うんで結構ですよ』➡ 386 00:24:34,273 --> 00:24:36,275 そう言ってたよ この間も うん。➡ 387 00:24:36,275 --> 00:24:39,411 あの 『亭主は 先の飲んだくれで こりごりです』だってさ。➡ 388 00:24:39,411 --> 00:24:42,614 ふっ 言われてんぞ 飲んだくれ」。 389 00:24:42,614 --> 00:24:46,952 「へっ 耳が痛え それはな。 へえ~ どうやって暮らしてんだい?」。 390 00:24:46,952 --> 00:24:48,887 「おっ母が お針の仕事で稼いでんだ。➡ 391 00:24:48,887 --> 00:24:53,125 あたいもね お小遣いとかもらってね 町内のお使いとか行って➡ 392 00:24:53,125 --> 00:24:57,796 それを おっ母に渡してんの うん。 親子2人でね なんとか細々やってます」。 393 00:24:57,796 --> 00:25:03,068 「そうか 偉えな。 ええ そうか。 ふ~ん」。 394 00:25:03,068 --> 00:25:05,904 「お父っつぁん どうしてんの?」。 「え? お父っつぁん?➡ 395 00:25:05,904 --> 00:25:12,077 お父っつぁんなあ もう 酒やめてな うん 一生懸命働いてんだよ。 うん」。 396 00:25:12,077 --> 00:25:16,749 「ほんと? うそだよ そんなあ。 だって あんなお酒大好きで やまるわけない」。 397 00:25:16,749 --> 00:25:18,684 「ほんと やめたんだよ」。 (においを嗅ぐ音のまね) 398 00:25:18,684 --> 00:25:24,089 「ほんとだ。 臭くねえな。 へえ~ 何だ やればできんじゃねえか。➡ 399 00:25:24,089 --> 00:25:28,594 何で あん時 やめなかったんだよ。 だから こんなんなっちゃったんだぞ」。 400 00:25:28,594 --> 00:25:32,765 「そ… そうだな。 勘弁してくれ。 フフフ。➡ 401 00:25:32,765 --> 00:25:37,936 八百屋 何で そこで おめえ 話聞いてんだよ。 向こう行けよ。 ええ?➡ 402 00:25:37,936 --> 00:25:42,775 ふん。 お父っつぁんの話とか 何か するか? おっ母と。➡ 403 00:25:42,775 --> 00:25:46,278 恨んでんだろうな」。 「いや 恨んでねえと思うよ 別に そんなに」。 404 00:25:46,278 --> 00:25:49,114 「恨み言とか言うだろ?」。 「いや 言わないよ 別に。➡ 405 00:25:49,114 --> 00:25:51,050 だって 覚えてんだもん よ~く。➡ 406 00:25:51,050 --> 00:25:54,420 あのね お父っつぁんに追い出されてね 『出てけ』って言われた時ね➡ 407 00:25:54,420 --> 00:25:57,623 2人で歩ってたらね 大家さんが 『こっちおいで こっちおいで』ってね➡ 408 00:25:57,623 --> 00:26:01,226 呼んでくれたんだよ。 大家さんのうちにね 5日ぐれえいたんだよ。➡ 409 00:26:01,226 --> 00:26:04,129 したら あたいは ずっと泣いててね 『悔しいやい』って言ったらね➡ 410 00:26:04,129 --> 00:26:06,098 おっ母に怒られたんだよ お父っつぁんのせいだよ。➡ 411 00:26:06,098 --> 00:26:08,901 『いつまでも泣いてんじゃないよ! いいかい?➡ 412 00:26:08,901 --> 00:26:11,570 そんなことしたら切りないんだから お父っつぁんのこと恨むんじゃないよ。➡ 413 00:26:11,570 --> 00:26:13,605 お父っつぁんはね ほんとは人間いいんだけど➡ 414 00:26:13,605 --> 00:26:16,742 バカなんだから ああやって お酒にだまされちゃうんだから。➡ 415 00:26:16,742 --> 00:26:19,778 だから恨むんだったら お酒恨みなよ』って そう言ってたからね。➡ 416 00:26:19,778 --> 00:26:23,515 お父っつぁんのことは恨んでねえと思う そんなに」。 417 00:26:23,515 --> 00:26:25,451 「ふっ そうだか分かんねえけどな。➡ 418 00:26:25,451 --> 00:26:30,255 フフフ 何か話したりすんのか? お父っつぁんのこと」。 「うん。➡ 419 00:26:30,255 --> 00:26:32,758 なれそめっていうの聞いた この間」。 「なれそめ?」。 420 00:26:32,758 --> 00:26:35,594 「うん お父っつぁんとおっ母が 出会った時の話 聞いたよ。➡ 421 00:26:35,594 --> 00:26:38,263 お父っつぁんは あの~ 大工さんでしょ?➡ 422 00:26:38,263 --> 00:26:41,767 おっ母は あの~ 伊勢屋さんて呉服屋さんで➡ 423 00:26:41,767 --> 00:26:44,803 あの 女中で働いてて そこで初めて会ったのよって➡ 424 00:26:44,803 --> 00:26:47,940 そう言ってたよ うん。 で 『はなね 何だか知んないけど➡ 425 00:26:47,940 --> 00:26:52,411 遠くの方からジロジロ見てきたり やたらなれなれしく話しかけたりして➡ 426 00:26:52,411 --> 00:26:55,614 すっごく嫌いだった』って そう言ってた」。 427 00:26:55,614 --> 00:26:59,118 「それは知らなかったな それはな。 そうか うん」。 428 00:26:59,118 --> 00:27:01,720 「で そのうちにね 高いとこにあるもの取ってくれたり➡ 429 00:27:01,720 --> 00:27:05,357 重たいもの 一緒に持ってくれたりして 何か 親切な人ねって➡ 430 00:27:05,357 --> 00:27:07,426 思うようになったのねって そう言ってた」。 431 00:27:07,426 --> 00:27:09,895 「ヘヘッ そうか」。 「うん。➡ 432 00:27:09,895 --> 00:27:14,366 で そのうちに 何か遠く行ったりすると 甘いものを買ってきてくれたりして➡ 433 00:27:14,366 --> 00:27:17,069 『これ お土産だよ』とか言って 渡してくれたりとか➡ 434 00:27:17,069 --> 00:27:20,739 あと お着物の あの 半襟とか もらったりとか➡ 435 00:27:20,739 --> 00:27:24,076 高いものになると 帯留めとか 何か買ってくれたりなんかして➡ 436 00:27:24,076 --> 00:27:26,378 『これ 似合うんじゃないかい?』 とか言われて➡ 437 00:27:26,378 --> 00:27:28,447 よくもらったわよって そう言ってた」。 438 00:27:28,447 --> 00:27:31,250 「へっ そんなことあったかもしんねえけどな」。 439 00:27:31,250 --> 00:27:33,919 「フフッ お父っつぁん よく餌まくね」。 440 00:27:33,919 --> 00:27:36,955 「うるせえな。 大きなお世話だよ」。 441 00:27:36,955 --> 00:27:39,791 「お父っつぁん あれ どうした?」。 「何が?」。 442 00:27:39,791 --> 00:27:42,094 「あの ほらさあ え? フフッ➡ 443 00:27:42,094 --> 00:27:46,398 あたいとさ おっ母のこと追い出してさ あとから連れてきたんでしょ?➡ 444 00:27:46,398 --> 00:27:49,935 あの 吉原の花魁のおかみさん 元気でいんの?➡ 445 00:27:49,935 --> 00:27:51,870 花魁のおかみさんは元気で…」。 446 00:27:51,870 --> 00:27:53,805 「静かにしろ。➡ 447 00:27:53,805 --> 00:27:57,809 八百屋 近づいてくんじゃねえ おめえは。 バカ野郎 向こう行ってろよ。➡ 448 00:27:57,809 --> 00:28:01,213 あ~ あれは もうな もう みつきもしないうちに➡ 449 00:28:01,213 --> 00:28:04,116 追い出しちゃったよ。 一人でいんだよ お父っつぁん 今よ。➡ 450 00:28:04,116 --> 00:28:06,084 なあ? 一生懸命 働いてんだよ」。 451 00:28:06,084 --> 00:28:08,086 「ほんとに?」。 「うん」。 452 00:28:08,086 --> 00:28:11,557 「へえ~ そうか。 へえ~」。 453 00:28:11,557 --> 00:28:16,061 「うん 久々に会ったから 亀よ 小遣いでもやろうか」。 454 00:28:16,061 --> 00:28:18,564 「お小遣い? ほんとに?」。 「おう ちょっと待てよ。➡ 455 00:28:18,564 --> 00:28:21,366 いくらやっていいか分かんねえけどな うん。➡ 456 00:28:21,366 --> 00:28:23,735 こんなとこでどうだ? これな」。 「何これ。➡ 457 00:28:23,735 --> 00:28:27,239 50銭 ねえ。 こんなもらっても➡ 458 00:28:27,239 --> 00:28:30,142 あたい お釣りねえよ」。 「釣りなんか要らねえんだよ。➡ 459 00:28:30,142 --> 00:28:33,745 取っとけよ みんな」。 「えら~ 驚いたな。➡ 460 00:28:33,745 --> 00:28:36,081 だって 3年前は 1銭くれって言っただけで➡ 461 00:28:36,081 --> 00:28:38,016 目ぇ三角にして怒ってたよ。➡ 462 00:28:38,016 --> 00:28:41,954 何だなあ 3年たつと ニコニコ笑いながら 50銭くれて➡ 463 00:28:41,954 --> 00:28:46,258 『おう 釣りは取っとけよ』とか言うんだ。 のり屋のおばあさんが言ってたよ➡ 464 00:28:46,258 --> 00:28:48,927 人間てのは 苦労すると円くなるって そう言ってた。➡ 465 00:28:48,927 --> 00:28:51,396 円くなったね お父っつぁん」。 466 00:28:51,396 --> 00:28:54,933 「うるせえや 大きなお世話だよ。 え? 無駄遣いすんなよ」。 467 00:28:54,933 --> 00:28:57,402 「うん。 ええ~ 何買おっかな」。 468 00:28:57,402 --> 00:28:59,338 「何でも買え」。 469 00:28:59,338 --> 00:29:01,406 「靴買っていい?」。 「靴?➡ 470 00:29:01,406 --> 00:29:03,875 ほう~ 何でも買えよ。 靴 いいじゃねえか」。 471 00:29:03,875 --> 00:29:07,346 「このごろ 学校行ってもね げた履いてる子なんかいねえんだよ。➡ 472 00:29:07,346 --> 00:29:10,215 みんな靴履いてんだ。 この間 おっ母に 靴買ってって言ったらね➡ 473 00:29:10,215 --> 00:29:12,217 『うちは貧乏なんだから そんなもの買えませんから➡ 474 00:29:12,217 --> 00:29:14,886 げたで十分ですよ。 鼻緒がすがってりゃいんだから』って➡ 475 00:29:14,886 --> 00:29:16,922 言われちゃったからさ。 これで靴買う」。 476 00:29:16,922 --> 00:29:19,057 「ハハッ 靴買え」。 「うん。➡ 477 00:29:19,057 --> 00:29:22,361 今度 履いてるとこ お父っつぁん 見てくれる? ねえ」。 478 00:29:22,361 --> 00:29:27,566 「うん… ハハッ まあまあな…。 どっかで会ったら また見られるからよ。➡ 479 00:29:27,566 --> 00:29:30,068 毎日 履いてろ 大事にな」。 「うん 毎日 履く」。 480 00:29:30,068 --> 00:29:33,372 「学校 楽しいか?」。 「楽しいよ。 いろんなこと教えてくれんだ 先生が」。 481 00:29:33,372 --> 00:29:35,741 「ああ 勉強しなきゃダメだぞ なあ?」。 「分かってるよ。➡ 482 00:29:35,741 --> 00:29:38,243 おっ母も よく言うんだぜ。 『勉強しなきゃダメよ。➡ 483 00:29:38,243 --> 00:29:41,580 これからはね 腕さえよければいい っていう時代は終わったんだから。➡ 484 00:29:41,580 --> 00:29:45,250 勉強しないと 出世できないよ』って そう言われてる。 ほんと?」。 485 00:29:45,250 --> 00:29:47,185 「耳が痛えな おい。➡ 486 00:29:47,185 --> 00:29:49,254 おめえのおっ母は偉えからな。➡ 487 00:29:49,254 --> 00:29:53,125 おっ母の言うこと聞いてよ おっ母 守ってやってくれな。➡ 488 00:29:53,125 --> 00:29:55,594 なあ? うん。 ハハッ うん…。➡ 489 00:29:55,594 --> 00:29:59,765 え? おう おめえ 何か 傷… 傷か? それ。➡ 490 00:29:59,765 --> 00:30:03,101 墨か何かついてんのかと思ったら おでこ どうしたい?」。 491 00:30:03,101 --> 00:30:05,137 「あ これ? これ どうってことねえ」。 492 00:30:05,137 --> 00:30:07,939 「何だい」。 「つまんない話だから いいんだい」。 493 00:30:07,939 --> 00:30:09,975 「いいことはねえ どうしたい? え?➡ 494 00:30:09,975 --> 00:30:12,778 男の額ってぐれえなもんだ。 どうしたい?」。 495 00:30:12,778 --> 00:30:16,114 「いや いい… つまんない話だ。➡ 496 00:30:16,114 --> 00:30:18,784 ええ? 言わなきゃダメかね?➡ 497 00:30:18,784 --> 00:30:22,954 違うんだよ。 この間ね みんなで 友達でね チャンバラごっこしてたんだよ。➡ 498 00:30:22,954 --> 00:30:25,290 したら 斎藤さんの坊ちゃんっつうのがいてさ➡ 499 00:30:25,290 --> 00:30:28,193 やあって斬ってきたんだよ。 やられたよ~っつって言ってさ➡ 500 00:30:28,193 --> 00:30:30,796 何となく もやってやったらね 『それじゃダメなんだ➡ 501 00:30:30,796 --> 00:30:33,699 やられたんだから そこ バタバタバタバタ ひっくり返ったりしろ』って言われて➡ 502 00:30:33,699 --> 00:30:38,136 『そんなことしたら 着物が汚れて おっ母が大変だから勘弁してよ』ったら➡ 503 00:30:38,136 --> 00:30:40,806 『いいから もういっぺんだ』って また やあって斬ってきたのが➡ 504 00:30:40,806 --> 00:30:45,677 ここに コツンと当たってさ 何か ここが切れて 血が出て…」。 505 00:30:45,677 --> 00:30:49,147 「ひでえことすんな そのガキャ おい。➡ 506 00:30:49,147 --> 00:30:51,450 おっ母に言ったのか? 黙ってんのか? おっ母」。 507 00:30:51,450 --> 00:30:53,985 「黙ってないよ。 『誰にやられたんだい?』 って うるさいからさ➡ 508 00:30:53,985 --> 00:30:56,455 『いいよ』ったら 『いいよじゃないんだよ。➡ 509 00:30:56,455 --> 00:30:59,658 男親がいないと思って そうやって バカにされるんだから➡ 510 00:30:59,658 --> 00:31:01,593 今日という今日は おっ母 どなり込んでやるから➡ 511 00:31:01,593 --> 00:31:05,397 誰にやられたか 言いな!』って言うからさ うるさいなと思って しょうがねえから➡ 512 00:31:05,397 --> 00:31:07,466 『斎藤さんの坊ちゃんだよ』っつったら➡ 513 00:31:07,466 --> 00:31:10,268 『痛いだろうけど我慢しな』 って言われて。➡ 514 00:31:10,268 --> 00:31:13,605 『斎藤さんのお宅には お針の仕事とか➡ 515 00:31:13,605 --> 00:31:16,641 お掃除とか お洗濯のお仕事 おっ母 頂いてて➡ 516 00:31:16,641 --> 00:31:19,411 坊ちゃんのお下がりとかも いっぱいもらってるし➡ 517 00:31:19,411 --> 00:31:22,314 あそこと折り合いが悪くなると 困っちゃうから➡ 518 00:31:22,314 --> 00:31:25,217 今日は じゃあ 亀 我慢しようね』 って言うから➡ 519 00:31:25,217 --> 00:31:28,420 あたいは どうってことなかったのに そんなこと言われてさ➡ 520 00:31:28,420 --> 00:31:31,323 しょうがねえから 『分かったよ』っつって おっ母の顔立てて➡ 521 00:31:31,323 --> 00:31:34,626 辛抱してやったんだよ。 つまんねえ話でしょ? ねえ?」。 522 00:31:37,629 --> 00:31:41,967 「ヘッ そ…。➡ 523 00:31:41,967 --> 00:31:44,436 勘弁してくれ な。➡ 524 00:31:44,436 --> 00:31:46,805 それ お父っつぁんが みんな悪いんだな それな。➡ 525 00:31:46,805 --> 00:31:49,441 フッ ヘヘッ。➡ 526 00:31:49,441 --> 00:31:53,979 何だよ おめえ。 男だろ? 泣くんじゃねえよ」。 527 00:31:53,979 --> 00:31:57,315 「あたい 泣いてねえよ。 泣いてんの お父っつぁんじゃねえか」。 528 00:31:57,315 --> 00:32:03,088 「いや…。 目から 汗が出た あちいからな。 フフフ…。➡ 529 00:32:03,088 --> 00:32:07,926 八百屋 お前まで泣くんじゃないよ お前。 バカ野郎 ほんとに」。 530 00:32:07,926 --> 00:32:11,797 「おっ母が言ってたよ。 こんな時に あんな飲んだくれでもいてくれたら➡ 531 00:32:11,797 --> 00:32:13,799 カカシの代わりぐらいにはなったかね って。➡ 532 00:32:13,799 --> 00:32:16,101 なあ カカシよ」。 533 00:32:16,101 --> 00:32:19,004 「うるせえや ヘヘッ。➡ 534 00:32:19,004 --> 00:32:22,774 そうだ。 亀よ 久々に会ったから 飯でも食うか 一緒に」。 535 00:32:22,774 --> 00:32:24,709 「え? おまんま? ほんとに?」。 「おう。➡ 536 00:32:24,709 --> 00:32:27,646 うなぎとか お前 好きだったろ?」。 「大好きだよ! よく覚えてんな」。 537 00:32:27,646 --> 00:32:30,282 「当たりめえだよ 子供の好物 忘れやしねえや。➡ 538 00:32:30,282 --> 00:32:32,784 うなぎなんか食ってんのか? このごろ。 おっ母と2人でよ」。 539 00:32:32,784 --> 00:32:36,288 「あのよう 靴が買えねえぐれえ貧乏だって 言ったはずだぞ。➡ 540 00:32:36,288 --> 00:32:38,957 うなぎなんか食えるわけねえだろ。 そういうこと 平気で言うから➡ 541 00:32:38,957 --> 00:32:40,992 お父っつぁんは バカだって言われんだぞ。 バカじじい」。 542 00:32:40,992 --> 00:32:43,128 「勘弁してくれ。➡ 543 00:32:43,128 --> 00:32:45,630 八百屋 お前まで怒るんじゃないよ。➡ 544 00:32:45,630 --> 00:32:49,301 明日 食い行こう うなぎ」。 「ほんと?」。 「ほんとだよ」。 545 00:32:49,301 --> 00:32:52,804 「必ずだな 絶対だな うそじゃない?」。 「うそじゃねえよ」。 546 00:32:52,804 --> 00:32:55,707 「先は よくうそついたんだ お父っつぁんはよ」。 547 00:32:55,707 --> 00:32:58,610 「ヘヘッ そうだな。 前は よく うそついた。➡ 548 00:32:58,610 --> 00:33:01,079 もう つくうそもねえ お父っつぁんは。➡ 549 00:33:01,079 --> 00:33:04,583 うん 必ず 食い行こう 明日 うなぎ なっ」。 550 00:33:04,583 --> 00:33:07,252 「うん 分かった。 じゃあ 明日つきあうからさ➡ 551 00:33:07,252 --> 00:33:09,254 今日は あたいにつきあって ね」。 「何だい」。 552 00:33:09,254 --> 00:33:11,590 「何だいって あそこだよ。 あの路地 ずっと行ってね➡ 553 00:33:11,590 --> 00:33:15,393 右曲がって3軒目なんだよ。 すぐだよ。 行こうよ。➡ 554 00:33:15,393 --> 00:33:19,598 行こうよ。 今なら おつな年増がいますよ 旦那」。 555 00:33:19,598 --> 00:33:22,634 「うるせえよ。 生意気なこと言って…。➡ 556 00:33:22,634 --> 00:33:25,270 あそこ住んでんのか?➡ 557 00:33:25,270 --> 00:33:28,106 そうかい。 お父っつぁん この辺り 来ねえから よく分かんねえから。➡ 558 00:33:28,106 --> 00:33:31,409 ハハハ。 いや おめえとは まだ親子だけどな➡ 559 00:33:31,409 --> 00:33:34,779 おっ母とは もう何でもねえんだよ。 うん。 合わす顔もねえからな。➡ 560 00:33:34,779 --> 00:33:37,616 うん だから いいや 今日は もういい。➡ 561 00:33:37,616 --> 00:33:41,286 うん だから 何だ。 明日 必ずな 学校終わったら ここで待ってろ。 なっ。➡ 562 00:33:41,286 --> 00:33:45,123 で 今日な お父っつぁんに会ったことと 小遣えもらったことと➡ 563 00:33:45,123 --> 00:33:47,158 うなぎ食いに行くこと おっ母に言うな ないしょ」。 564 00:33:47,158 --> 00:33:49,294 「何で?」。 565 00:33:49,294 --> 00:33:51,796 「男と男の約束だい。 守れんな?」。 566 00:33:51,796 --> 00:33:53,732 「うん 任して 男だから」。 567 00:33:53,732 --> 00:33:56,635 「指切りだ うん。 必ずな うん。➡ 568 00:33:56,635 --> 00:33:59,304 大丈夫 明日。 うん。 はいよ!➡ 569 00:33:59,304 --> 00:34:02,207 へ~い! ヘッ。➡ 570 00:34:02,207 --> 00:34:05,911 でっかくなりやがったな あの野郎は ほんと。 フフッ」。 571 00:34:05,911 --> 00:34:07,846 「おっ母 ただいま! 今帰ったよ」。 572 00:34:07,846 --> 00:34:10,582 「遅かったね お前は。 ええ? 何してたんだい?➡ 573 00:34:10,582 --> 00:34:13,251 今日さ お仕事手伝ってくれる日じゃないかい?➡ 574 00:34:13,251 --> 00:34:15,587 ねっ 手ぇ洗って はいはい こっちおいで。➡ 575 00:34:15,587 --> 00:34:18,924 何よ 楽しそうね やけに。 何かいいことあった?➡ 576 00:34:18,924 --> 00:34:23,762 え? なになに? 分かんない。 はい 手ぇ出して。 はいはい ねっ うん。➡ 577 00:34:23,762 --> 00:34:27,933 亀 はながたれてる はなが。 はながたれてるよ」。 578 00:34:27,933 --> 00:34:32,270 「しょうがないんだよ。 先生が言ってたよ。 あの 地球には引力ってものがあるから➡ 579 00:34:32,270 --> 00:34:35,273 みんな 上から下にたれるんだって。 だから しょうがないんだよ」。 580 00:34:35,273 --> 00:34:37,409 「しょうがないったってさ 汚いよ。➡ 581 00:34:37,409 --> 00:34:41,279 たらすんだったらね 1本とか2本とか 切りのいい数たらしなさい。➡ 582 00:34:41,279 --> 00:34:43,782 何で1本半たらすんだ お前は。➡ 583 00:34:43,782 --> 00:34:46,584 やあね ほんと。 そうやって 袖で拭いて…」。 584 00:34:48,286 --> 00:34:50,956 「それ お金かい?」。 「あっ」。 585 00:34:50,956 --> 00:34:53,291 「ああ お小遣いもらったのかい? 誰かから。➡ 586 00:34:53,291 --> 00:34:56,294 お使いだろ? 構わないから それ 先行っといで。➡ 587 00:34:56,294 --> 00:34:58,797 これ 後でいいから」。 588 00:34:58,797 --> 00:35:01,566 「お小遣いじゃないんだよ」。 589 00:35:01,566 --> 00:35:04,903 「今 50銭だった?➡ 590 00:35:04,903 --> 00:35:08,573 いっぱいなお金だね。 誰にもらったんだい? それ」。 591 00:35:08,573 --> 00:35:13,244 「大丈夫な人にもらったんだよ。 大丈夫だよ おっ母」。 592 00:35:13,244 --> 00:35:15,246 「誰? 大丈夫な人って。➡ 593 00:35:15,246 --> 00:35:18,917 おっ母 お礼申し上げなきゃいけないから ねっ 誰にもらったんだい?➡ 594 00:35:18,917 --> 00:35:20,852 ちゃんと言いな」。 595 00:35:20,852 --> 00:35:26,257 「な… 知らない… 知らないおじさんがくれたんだよ」。 596 00:35:26,257 --> 00:35:29,761 「知らないおじさん?」。 「うん。 そこで遊んでたら➡ 597 00:35:29,761 --> 00:35:32,397 来たんだよ 向こうから 知らないおじさんが。➡ 598 00:35:32,397 --> 00:35:36,768 『これ やる』って言われたから 『知らないけどいいの?』って言ったら➡ 599 00:35:36,768 --> 00:35:41,640 『いいよ 知らないよ』って。 誰だ? あれ。 うわ~ 知らない」。 600 00:35:41,640 --> 00:35:44,409 「ふざけてちゃいけないよ お前は。➡ 601 00:35:44,409 --> 00:35:49,280 ちゃんとお礼を言わないと恥ずかしいよ。 ね? 言いなさい」。 602 00:35:49,280 --> 00:35:53,118 「言うなっつったんだよ」。 「言うななんて人 いないでしょ?➡ 603 00:35:53,118 --> 00:35:56,955 言いなさいよ 誰? 誰よ」。 604 00:35:56,955 --> 00:36:00,725 「言わない!」。 「あのね 亀ね➡ 605 00:36:00,725 --> 00:36:03,228 ほんとに言って ね?➡ 606 00:36:03,228 --> 00:36:06,064 お前が言ってくんないと おっ母 妙なこと考えちゃって➡ 607 00:36:06,064 --> 00:36:08,900 怖いから 言いなさい」。 608 00:36:08,900 --> 00:36:12,370 「男と男の約束だ そう言った…」。 609 00:36:12,370 --> 00:36:14,305 「言いな!」。 610 00:36:14,305 --> 00:36:16,574 「すぐ そうやって怒んだ おっ母は やだなあ。➡ 611 00:36:16,574 --> 00:36:19,244 大丈夫な人だよ 大丈夫なんだから」。 612 00:36:19,244 --> 00:36:22,080 「あっそう。 じゃ もう聞かない。➡ 613 00:36:22,080 --> 00:36:24,582 表 ぴったり 閉めといで。➡ 614 00:36:24,582 --> 00:36:27,919 こっち来な。 そこ お座り。➡ 615 00:36:27,919 --> 00:36:31,756 座んなさい。 こっち来な。➡ 616 00:36:31,756 --> 00:36:34,092 こっちへ来ないか!➡ 617 00:36:34,092 --> 00:36:37,962 亀 お前 いつから そんな さもしい了見になったの?➡ 618 00:36:37,962 --> 00:36:41,399 おっ母ね 三度のものを 一度しか食べなくても➡ 619 00:36:41,399 --> 00:36:45,603 お前にだけは ひもじい思いさした覚えないよ。➡ 620 00:36:45,603 --> 00:36:50,275 出来心だね。 とってきちゃったんだったら しょうがないから➡ 621 00:36:50,275 --> 00:36:52,777 謝り行こう 2人で。 ねっ。➡ 622 00:36:52,777 --> 00:36:56,948 頭下げりゃ 許してくださるかもしれないから ねっ。➡ 623 00:36:56,948 --> 00:37:00,218 どっからとった…」。 「とってないよ 痛いよ 離してよ➡ 624 00:37:00,218 --> 00:37:02,720 おっ母 とってない」。 「まだ言わないのかい。➡ 625 00:37:02,720 --> 00:37:05,056 お仕置きしようか。 これ ご覧。➡ 626 00:37:05,056 --> 00:37:08,093 覚えてるかい? お父っつぁんと お別れする時に➡ 627 00:37:08,093 --> 00:37:11,563 お前 こっそり おっ母にないしょで 入れてきた。➡ 628 00:37:11,563 --> 00:37:15,366 包みに入れた お父っつぁんの商売道具の玄翁だよ。➡ 629 00:37:15,366 --> 00:37:19,237 これでお仕置きするってことはね お父っつぁんがお仕置きすること。➡ 630 00:37:19,237 --> 00:37:22,907 お父っつぁんに そんな悲しい思いさしていいの?➡ 631 00:37:22,907 --> 00:37:25,243 言わないと この玄翁で お前 ぶつよ!」。 632 00:37:25,243 --> 00:37:28,079 「やだよ! 男と男の約束…」。 633 00:37:28,079 --> 00:37:30,915 「まだ そんなこと言うのかい。 ほんとにぶつよ!」。 634 00:37:30,915 --> 00:37:32,851 「お父っつぁんにもらったんだよ お父っつぁんに!➡ 635 00:37:32,851 --> 00:37:34,786 お父っつぁんにもらった…」。 636 00:37:34,786 --> 00:37:37,388 「お父… お父っつぁんに会ったのかい?」。 637 00:37:37,388 --> 00:37:41,259 「何だ お父っつぁんって言ったら 前にせり出してきやがったな。➡ 638 00:37:41,259 --> 00:37:44,762 今 そこで会ったんだよ」。 「早く言いな そういうことは。➡ 639 00:37:44,762 --> 00:37:49,100 また 汚い格好してた? お酒臭かったろ お父っつぁん」。 640 00:37:49,100 --> 00:37:51,769 「ううん。 きれいな半纏 着てたよ。➡ 641 00:37:51,769 --> 00:37:55,406 酒やめて 一生懸命働いてるって そう言ってたよ。➡ 642 00:37:55,406 --> 00:38:01,045 花魁のおかみさんも追い出しちゃって 一人でいるんだって ずっと」。 643 00:38:01,045 --> 00:38:05,884 「ほんとに? あの人が。 そうかい」。 644 00:38:05,884 --> 00:38:07,819 「で これ見て 泣いてた。➡ 645 00:38:07,819 --> 00:38:10,221 『俺が悪かった 勘弁してくれ』って。➡ 646 00:38:10,221 --> 00:38:12,891 あたいだって泣いてないのに だらしねえんだ お父っつぁんは。➡ 647 00:38:12,891 --> 00:38:15,560 意気地なしだ」。 648 00:38:15,560 --> 00:38:19,898 「ほんとだね。 そうね」。 649 00:38:19,898 --> 00:38:22,567 「あのね… ハッ➡ 650 00:38:22,567 --> 00:38:24,903 明日 うなぎ食べに連れてってくれるって…➡ 651 00:38:24,903 --> 00:38:26,938 これも 言っちゃいけねえって 言われたんだけど。➡ 652 00:38:26,938 --> 00:38:29,374 いいかな? おっ母 行っても」。 653 00:38:29,374 --> 00:38:33,077 「そう。 よかったじゃないか お前 うなぎ 大好きだもんね。➡ 654 00:38:33,077 --> 00:38:37,749 うん。 じゃ 今日 お湯行ってきれいにして 明日 行っといで。 別に構わないよ」。 655 00:38:37,749 --> 00:38:41,252 さあ その日は お湯に行って きれいになって➡ 656 00:38:41,252 --> 00:38:43,188 明くる日 学校から帰ってくると➡ 657 00:38:43,188 --> 00:38:46,090 きれいな いい着物を着せてやるたって これは 木綿物のごわついた➡ 658 00:38:46,090 --> 00:38:48,927 もんですが これを着せてやって ポンと表へ送り出す。 659 00:38:48,927 --> 00:38:52,263 自分の方は 何となく気ぜわしいもんですから➡ 660 00:38:52,263 --> 00:38:57,602 むか~しに亭主にこさえてもらった半纏を 押し入れの奥から引っ張り出してきて➡ 661 00:38:57,602 --> 00:39:00,205 こいつを着込むってえと 鏡台の前に座って➡ 662 00:39:00,205 --> 00:39:03,208 こんなことをして 鼻の頭 どやしつけましてな➡ 663 00:39:03,208 --> 00:39:06,978 うなぎ屋の前を 行ったり来たり 行ったり来たりしてまして…。 664 00:39:06,978 --> 00:39:09,214 「あの すいません。➡ 665 00:39:09,214 --> 00:39:11,549 うちの亀 来てますか?」。 666 00:39:11,549 --> 00:39:14,452 「ええ ああ。 おっ母さん。 来てますよ。➡ 667 00:39:14,452 --> 00:39:17,722 あの~ 2階で どっかのね 親方と 召し上がってますよ。➡ 668 00:39:17,722 --> 00:39:21,359 ちょっと待ってください へい。 亀ちゃん! 下に おっ母さん来たよ」。 669 00:39:21,359 --> 00:39:23,428 「ええ? ほんと? おっちゃん。➡ 670 00:39:23,428 --> 00:39:25,563 ちょっと お父っつぁん 何だか分かんねえけど➡ 671 00:39:25,563 --> 00:39:29,367 下に おっ母さん 来ちゃったみてえ」。 「お前 言うなっつったろ この野郎。➡ 672 00:39:29,367 --> 00:39:31,903 何で言っちゃう…」。 「しょうがない 来ちゃったんだから。➡ 673 00:39:31,903 --> 00:39:33,838 おっ母さん 上がっといでよ ねえ」。 674 00:39:33,838 --> 00:39:36,774 「お前は 何で こんなとこにいるんだよ」。 675 00:39:36,774 --> 00:39:38,776 「知ってて来たんじゃねえか。➡ 676 00:39:38,776 --> 00:39:41,579 ねえねえねえ お父っつぁん 呼んでやれ。 おっ母さん 上がってきなよ。➡ 677 00:39:41,579 --> 00:39:43,915 お父っつぁん 呼んでよ。 ねえ おっ母さん 上がってこいよ ねえ。➡ 678 00:39:43,915 --> 00:39:47,585 仲人に 世話焼かすなよ」。 679 00:39:47,585 --> 00:39:50,088 「ご無沙汰してます。➡ 680 00:39:50,088 --> 00:39:55,260 昨日 亀が お父っつぁんに 50銭頂いて➡ 681 00:39:55,260 --> 00:39:59,097 うなぎを食べに連れてってもらえるんだ なんてことを言いまして➡ 682 00:39:59,097 --> 00:40:01,766 そんなことはないだろうと思って➡ 683 00:40:01,766 --> 00:40:05,270 私 お礼を申し上げに来たんですが やっぱり あなたで…。➡ 684 00:40:05,270 --> 00:40:07,772 ありがとうございます」。 685 00:40:07,772 --> 00:40:12,277 「いえ。 ヘヘッ ご無沙汰してます。➡ 686 00:40:12,277 --> 00:40:15,113 昨日 そこでばったり会って➡ 687 00:40:15,113 --> 00:40:18,149 うなぎ食うかったら 食うって言うから。➡ 688 00:40:18,149 --> 00:40:22,854 言うなっつったろ お父っつぁん バカ野郎 おしゃべりな野郎だって フフフ。➡ 689 00:40:22,854 --> 00:40:25,623 ハハ… ふう~。➡ 690 00:40:25,623 --> 00:40:30,295 ヘッ 昨日 そこでばったり会ってね うなぎ食うかったら 食うって。➡ 691 00:40:30,295 --> 00:40:32,297 言うなっつったろ お父っつぁん おしゃべりな野郎だ バカ野郎。➡ 692 00:40:32,297 --> 00:40:36,968 カッ ハッ ふう~。➡ 693 00:40:36,968 --> 00:40:39,003 昨日 そこでばったり会ってね…」。 694 00:40:39,003 --> 00:40:42,440 「同じことばっか言ってる お父っつぁん。➡ 695 00:40:42,440 --> 00:40:44,809 ねえ お父っつぁん おっ母さん➡ 696 00:40:44,809 --> 00:40:50,682 またさ… 3人で暮らそうよ。 そっちがいいよ。➡ 697 00:40:50,682 --> 00:40:53,318 この間ね 学校の先生が言ってたんだよ。➡ 698 00:40:53,318 --> 00:40:58,456 『皆さんね 何が幸せって お父さん お母さん…➡ 699 00:40:58,456 --> 00:41:04,762 2人そろって おそ… お育ていただいて こんなありがたいことはないんですよ。➡ 700 00:41:04,762 --> 00:41:07,398 必ず 大きくなったら 恩を返さなきゃいけませんよ。➡ 701 00:41:07,398 --> 00:41:10,601 お父っつぁん おっ母さんに 恩 返しましょうね』って言ったら➡ 702 00:41:10,601 --> 00:41:14,105 前の友達がさ あたいの方見てさ➡ 703 00:41:14,105 --> 00:41:17,608 『あいつは お父っつぁん いねえんだぞ』 なんてことを ブツブツ言ってんだよ。➡ 704 00:41:17,608 --> 00:41:19,544 悔しくなっちゃったんだよ。➡ 705 00:41:19,544 --> 00:41:23,281 いるんだ ちゃんと あたいにだって お父っつぁん。➡ 706 00:41:23,281 --> 00:41:27,285 近くにいなきゃ お父っつぁんよう 親孝行なんかできねえじゃねえかよ。➡ 707 00:41:27,285 --> 00:41:34,425 だから 親孝行さしてくれよ。 また3人で暮らしましょうね。➡ 708 00:41:34,425 --> 00:41:36,627 お願いします」。 709 00:41:38,296 --> 00:41:41,966 「このとおり。 勘弁してくれ な?➡ 710 00:41:41,966 --> 00:41:45,303 今更 こんなこと言うのは 虫がいい話なのは重々分かっちゃいるが➡ 711 00:41:45,303 --> 00:41:48,139 おめえが一人でいてくれたのが 何よりの幸い。➡ 712 00:41:48,139 --> 00:41:50,975 もし おめえさえ嫌じゃなかったら また➡ 713 00:41:50,975 --> 00:41:54,012 3人で暮らせねえかなあ~と思うんだ。➡ 714 00:41:54,012 --> 00:41:59,717 お願いします。 このとおり。 勘弁してくれ なっ?」。 715 00:42:02,387 --> 00:42:07,258 「ご覧 亀。 おっ母が いつも言うとおりだろ。➡ 716 00:42:07,258 --> 00:42:11,596 お父っつぁんね やっぱりバカなんだよ ほんと。➡ 717 00:42:11,596 --> 00:42:16,401 ぺこぺこ頭下げて。 何を 虫のいいこと言う。➡ 718 00:42:16,401 --> 00:42:20,605 お前さんね 親子2人で つらかったですよ。➡ 719 00:42:20,605 --> 00:42:22,640 嫌な思い いっぱいしました。➡ 720 00:42:22,640 --> 00:42:26,944 もうあんな思いは 二度と御免ですから。➡ 721 00:42:26,944 --> 00:42:34,285 フッ。 そうですか。➡ 722 00:42:34,285 --> 00:42:37,121 ありがとうございます。➡ 723 00:42:37,121 --> 00:42:40,024 また よろしくお願いします。➡ 724 00:42:40,024 --> 00:42:43,995 フフッ。 でも 何だね。➡ 725 00:42:43,995 --> 00:42:47,432 親子3人 また暮らせるのは この子があればこそ。➡ 726 00:42:47,432 --> 00:42:50,301 子は 夫婦の鎹って言うけど ほんとですね」。 727 00:42:50,301 --> 00:42:52,236 「え? あたいが鎹? あっ それで おっ母さん➡ 728 00:42:52,236 --> 00:42:54,972 玄翁でぶつと言ったんだ」。 729 00:42:54,972 --> 00:42:59,811 (拍手) 730 00:42:59,811 --> 00:43:02,313 いや~ ちょっと… 731 00:43:23,768 --> 00:43:26,270 すごい! (スタッフの笑い声) 732 00:43:26,270 --> 00:43:28,272 そして… 733 00:43:34,011 --> 00:43:38,416 いや~ 久々の「落語 THE MOVIE」 いかがでしたでしょうか。 734 00:43:38,416 --> 00:43:42,286 そろそろ終演のお時間となります。 735 00:43:42,286 --> 00:43:47,158 これを機に 是非 寄席に足を運んでみてください。 736 00:43:47,158 --> 00:43:51,796 あなたの想像力で 無限に広がるエンターテインメント➡ 737 00:43:51,796 --> 00:43:54,298 それが 落語です。 738 00:43:54,298 --> 00:43:57,301 それでは また お会いしましょう。