1 00:00:01,235 --> 00:00:04,605 山本周五郎を知っていますか? 2 00:00:04,605 --> 00:00:07,908 時代小説の名手です。 3 00:00:11,278 --> 00:00:16,583 描いたのは もがきながらも 懸命に生きる人々。 4 00:00:18,952 --> 00:00:22,623 彼らが教えてくれる 生きる力。 5 00:00:22,623 --> 00:00:25,292 見たら だれかに話したくなる。 6 00:00:25,292 --> 00:00:28,962 笑って泣けて心ぬくもる物語。 7 00:00:28,962 --> 00:00:33,267 きっと 人生のヒントが見つかります。 8 00:00:47,981 --> 00:00:53,320 今日のお話は「泥棒と若殿」。 9 00:00:53,320 --> 00:00:56,657 大坂城代の次男 成信。 10 00:00:56,657 --> 00:00:59,559 泥棒の伝九郎。 11 00:00:59,559 --> 00:01:05,265 父が病で倒れたため 家督争いに巻き込まれた成信は➡ 12 00:01:05,265 --> 00:01:09,937 敵方に命を狙われるようになりました。 13 00:01:09,937 --> 00:01:17,277 そこで家来たちは 成信を人里離れた屋敷に隔離します。 14 00:01:17,277 --> 00:01:24,618 しかし 時がたつにつれ 家来たちは1人去り 2人去り…。 15 00:01:24,618 --> 00:01:29,489 ついには 成信 一人になってしまいました。 16 00:01:29,489 --> 00:01:33,293 そんな ある夜のこと➡ 17 00:01:33,293 --> 00:01:38,599 成信のもとに おかしな ちん入者が現れます。 18 00:01:51,311 --> 00:01:54,014 ⚟(戸が開く音) 19 00:01:58,986 --> 00:02:01,989 (成信)刺客か? 20 00:02:06,593 --> 00:02:13,600 ⚟(物音) 21 00:02:16,269 --> 00:02:18,205 ⚟(物音) 22 00:02:18,205 --> 00:02:23,143 ⚟(伝九郎)イッテ! イッテ~! 何だよ チクショー! 23 00:02:23,143 --> 00:02:25,612 ん? 24 00:02:25,612 --> 00:02:31,284 ⚟どうなってんだ こりゃ? ガラクタばっかじゃねえか! 25 00:02:31,284 --> 00:02:34,187 うお~っ! 26 00:02:34,187 --> 00:02:37,624 何だ 賊か。 27 00:02:37,624 --> 00:02:42,295 だ だ だ だ… 誰だ お前!? それは こっちのセリフだ。 28 00:02:42,295 --> 00:02:46,633 人の家に忍び込んできて 誰だもなかろう。 29 00:02:46,633 --> 00:02:50,971 おめえの家か ここは? 30 00:02:50,971 --> 00:02:55,308 好きで いるわけではないがな。 31 00:02:55,308 --> 00:03:01,114 まさか おめえ… 化けて出たってんじゃねえだろうな! 32 00:03:01,114 --> 00:03:05,118 よく見ろ 足もちゃんとついてる。 33 00:03:05,118 --> 00:03:09,589 ったくもう びっくりさせんじゃねえよ お前。 34 00:03:09,589 --> 00:03:12,259 鼻から心臓飛び出るかと 思ったじゃねえか! 35 00:03:12,259 --> 00:03:15,162 それを言うなら口からだ 口から。 36 00:03:15,162 --> 00:03:18,932 そんなことは どうだっていいんだよ! 37 00:03:18,932 --> 00:03:31,278 ♬~ 38 00:03:31,278 --> 00:03:37,951 おい! お前 痛い目 遭いたくなかったら 金出しな! 39 00:03:37,951 --> 00:03:42,622 今度は脅迫か…。 まったく せわしないやつだな。 40 00:03:42,622 --> 00:03:46,493 うるせえ お前! 何でもいいから 金出せ 金! 41 00:03:46,493 --> 00:03:49,496 気の毒だが 金はない。 42 00:03:49,496 --> 00:03:53,633 はあ? おめえ 俺をバカにしてんだろ? 43 00:03:53,633 --> 00:03:56,970 こんだけの屋敷で 金がねえわけねえだろう! 44 00:03:56,970 --> 00:04:02,576 うそだと思うなら探してみればいい。 もし見つかったら俺にも少し分けてくれ。 45 00:04:02,576 --> 00:04:06,913 おい 本当にないのか? 46 00:04:06,913 --> 00:04:12,619 すっからかんだ。 さっきから そう言っておるではないか。 47 00:04:21,261 --> 00:04:25,932 (舌打ち) 何だよ チクショー。 48 00:04:25,932 --> 00:04:29,936 (おなかが鳴る音) 49 00:04:32,806 --> 00:04:36,943 おい 何か食いもんねえのか? ないようだな。 50 00:04:36,943 --> 00:04:39,613 晩飯の残りでいいんだ 何か食わしてくれよ! 51 00:04:39,613 --> 00:04:41,948 だから ないと言っておる! 52 00:04:41,948 --> 00:04:46,286 じゃあ お前はどうしてんだよ? 飯は食ってんだろ? 53 00:04:46,286 --> 00:04:50,624 今日で3日 何も口には入れておらん。 54 00:04:50,624 --> 00:04:53,960 それじゃあ お前 死んじまうじゃねえか! 55 00:04:53,960 --> 00:04:59,299 まあ そうなるだろうな。 そうなるだろうなって…。 56 00:04:59,299 --> 00:05:04,137 お前 何で そんなにのんびりしてんだよ! お前 3日も飯食ってなかったらな➡ 57 00:05:04,137 --> 00:05:08,108 明日にでもコロッと逝っちまうぞ! 分かってんのか お前!? 58 00:05:08,108 --> 00:05:14,247 ジタバタしてても しかたあるまい。 それが運命だったと諦める。 59 00:05:14,247 --> 00:05:16,950 はあ~? 60 00:05:20,587 --> 00:05:22,889 (ため息) 61 00:05:25,926 --> 00:05:31,598 ん~ くっそもう! とんだとこに入っちまった。 62 00:05:31,598 --> 00:05:37,304 勝手にしろ! お前。 俺は知らねえ。 知らねえんだからな! 63 00:05:39,272 --> 00:05:42,576 何なんだ あいつは。 64 00:05:51,851 --> 00:05:54,287 (鶏の鳴き声) 65 00:05:54,287 --> 00:06:11,304 (炊事音) 66 00:06:14,574 --> 00:06:17,277 (喉を鳴らす音) 67 00:06:20,914 --> 00:06:25,252 おい どうしたんだ? 食わねえのか? あっ いや 食わなくはないが…。 68 00:06:25,252 --> 00:06:28,255 じゃあ さっさとやんな。 69 00:06:35,595 --> 00:06:39,933 まさか おめえ… この米や みそを➡ 70 00:06:39,933 --> 00:06:43,603 俺が盗んできたと 思ってんじゃねえだろうな? 71 00:06:43,603 --> 00:06:48,275 冗談じゃねえよ お前! これはな 俺が身銭切って買ってきたんだよ! 72 00:06:48,275 --> 00:06:51,177 いや 勘弁してくれ! 俺が悪かった。 73 00:06:51,177 --> 00:06:55,148 それでは ちそうになる。 ああ。 74 00:06:55,148 --> 00:07:20,206 ♬~ 75 00:07:20,206 --> 00:07:27,914 おめえ やっぱり腹減ってたんじゃねえか。 ったく 変な意地を張るもんじゃねえぞ。 76 00:07:27,914 --> 00:07:31,251 (せきこみ) 77 00:07:31,251 --> 00:07:36,122 ほ~ら 何やってんだよ お前! ほら ほれ 水飲め 水! ほれ! 78 00:07:36,122 --> 00:07:38,591 すまん。 ああ。 79 00:07:38,591 --> 00:07:40,927 ほれ! 80 00:07:40,927 --> 00:07:53,506 ♬~ 81 00:07:53,506 --> 00:07:56,509 よしよし よし! 82 00:07:59,279 --> 00:08:02,882 じゃあな。 これで俺は行くからな。 83 00:08:02,882 --> 00:08:05,585 ああ。 ああ。 84 00:08:07,220 --> 00:08:09,522 (戸が閉まる音) 85 00:08:12,892 --> 00:08:15,562 (戸が開く音) 86 00:08:15,562 --> 00:08:20,233 おめえは ずっと ここにいんのか? まあ そうだ。 87 00:08:20,233 --> 00:08:24,904 へっ そうかい。 まあ 勝手にしろ。 88 00:08:24,904 --> 00:08:27,574 (戸が閉まる音) 89 00:08:27,574 --> 00:08:30,243 (戸が開く音) 90 00:08:30,243 --> 00:08:35,582 …で あの~ 飯なんぞは どうすんだ? 何か 当てあんだろうな? 91 00:08:35,582 --> 00:08:37,917 何もない。 92 00:08:37,917 --> 00:08:42,922 はあ~ なるほど。 なるほどな。 93 00:08:44,591 --> 00:08:46,926 (戸が閉まる音) 94 00:08:46,926 --> 00:08:48,862 (戸が開く音) 95 00:08:48,862 --> 00:08:52,799 何で お前は そうなんだ! 何を怒ってるんだ? 96 00:08:52,799 --> 00:08:56,936 お前を見捨てていったんじゃ 俺の寝つきが悪くなんだよ! 97 00:08:56,936 --> 00:09:00,807 くっそもう! 俺が なんとかすっから ちょっと待っとけ! な? 98 00:09:00,807 --> 00:09:03,109 (戸が閉まる音) 99 00:09:07,213 --> 00:09:12,552 土地の人間ではないなと成信は思った。 100 00:09:12,552 --> 00:09:17,424 城下町の者でさえ ここに近づくことを禁じられ➡ 101 00:09:17,424 --> 00:09:22,429 それを犯すと 罰せられることを知っている。 102 00:09:24,898 --> 00:09:31,237 初めのうちは 侍が5人と下僕が数人ついていた。 103 00:09:31,237 --> 00:09:37,577 そのうちに侍が一人ずつ減ってゆき 下僕も去り➡ 104 00:09:37,577 --> 00:09:41,247 成信一人だけが残された。 105 00:09:41,247 --> 00:09:45,919 しかし 米だけは どうにか届いていたのだが➡ 106 00:09:45,919 --> 00:09:49,789 それも ついに来なくなってしまった。 107 00:09:49,789 --> 00:09:55,261 飢え死にか 暗殺か もう運命は決まった。 108 00:09:55,261 --> 00:09:58,164 成信は こう覚悟を決め➡ 109 00:09:58,164 --> 00:10:03,169 全てを投げ出した気持ちで 寝ていたのである。 110 00:10:05,605 --> 00:10:10,944 泥棒に助けられるとは…➡ 111 00:10:10,944 --> 00:10:14,247 なんとも皮肉な話だ。 112 00:10:18,818 --> 00:10:21,955 だからよ! 分かった! 分かった。 113 00:10:21,955 --> 00:10:25,625 盗んできたものではないのだな? おう。 114 00:10:25,625 --> 00:10:29,329 では ありがたく頂く。 115 00:10:41,641 --> 00:10:44,310 どうだ? 116 00:10:44,310 --> 00:10:47,647 まあ 悪くはないな。 117 00:10:47,647 --> 00:10:53,987 へっ 気取った言い方しやがる。 おらぁ 飯作るのだけは うめえんだ。 118 00:10:53,987 --> 00:10:58,858 何せ 年季が入ってるからよ。 ずっと自分で作ってきたのか? 119 00:10:58,858 --> 00:11:02,795 ああ。 おやじも おふくろも 早くに死んじまったからな。 120 00:11:02,795 --> 00:11:06,566 そうか それは大変だったな。 121 00:11:06,566 --> 00:11:10,470 あっ ところで おめえ 名前は何てえんだ? 122 00:11:10,470 --> 00:11:13,473 俺か? 123 00:11:13,473 --> 00:11:18,945 俺は… 信だ。 124 00:11:18,945 --> 00:11:24,284 ただの信かい? お侍らしくねえじゃねえか。 ん? 125 00:11:24,284 --> 00:11:27,187 何の何信ってえわけじゃねえんだな? 126 00:11:27,187 --> 00:11:31,157 いや それでいい。 ただの信でいいんだ。 127 00:11:31,157 --> 00:11:36,863 ただの信… さとうたたのぶってことか。 ヘヘッ。 128 00:11:36,863 --> 00:11:40,300 お前の名は 何というのだ? 129 00:11:40,300 --> 00:11:44,637 俺はな 伝九郎ってえんだ。 130 00:11:44,637 --> 00:11:49,309 伝九郎? いい名だ。 131 00:11:49,309 --> 00:11:52,312 へっ よせやい! 132 00:11:58,318 --> 00:12:16,603 (いびき) 133 00:12:16,603 --> 00:12:19,606 まったく。 134 00:12:21,274 --> 00:12:23,209 (いびき) 135 00:12:23,209 --> 00:12:30,516 こうして甚だ奇妙な 一種の共同生活が始まった。 136 00:12:43,529 --> 00:12:48,301 しかし おめえさんも変わってんな。 ん? 137 00:12:48,301 --> 00:12:51,971 てめえが飢え死にしそうだってのに 腹の足しにもなんねえ➡ 138 00:12:51,971 --> 00:12:55,642 そんな花なんか育ててよ。 そうか? 139 00:12:55,642 --> 00:13:00,913 へっ おめえさん見てっとよ 不思議な気持ちがするもんだ。 140 00:13:00,913 --> 00:13:06,252 何つうか 世の中も 案外いいもんだっつうような。 141 00:13:06,252 --> 00:13:11,124 これまでは そうではなかったのか? そうじゃねえからこそ➡ 142 00:13:11,124 --> 00:13:15,595 泥棒にでもなっちまえって 了見にもなったのよ。 143 00:13:15,595 --> 00:13:20,266 そういえば 早くに両親を亡くしたと言っていたな。 144 00:13:20,266 --> 00:13:23,936 一人で苦労したのだろう。 バカ言っちゃいけねえよ。 145 00:13:23,936 --> 00:13:27,273 一人だったら どんなに楽だったか。 146 00:13:27,273 --> 00:13:30,610 どういうことだ? 147 00:13:30,610 --> 00:13:35,948 義理の父親ってのがよ これが とんでもねえ疫病神でな➡ 148 00:13:35,948 --> 00:13:40,620 おふくろが死んだあとも ずっと付きまとってきやがってよ➡ 149 00:13:40,620 --> 00:13:44,957 俺の働くさきざきで 金せびりに来やがんだ。 150 00:13:44,957 --> 00:13:51,297 親が 子どもの金をせびりに来るのか? ああ。 酔っ払って大声で騒ぎ立ててよ➡ 151 00:13:51,297 --> 00:13:58,171 給金が安いだとか 前借りの額を増やせだとか。はあ…。 152 00:13:58,171 --> 00:14:04,844 石屋 左官 車屋 米屋 いろいろやったが どこに行っても そんな調子でな➡ 153 00:14:04,844 --> 00:14:08,581 何一つ長続きしなかった。 154 00:14:08,581 --> 00:14:13,252 その義理の父親というのは 今は どうしてるんだ? 155 00:14:13,252 --> 00:14:17,123 胃を病んで死んじまった。 そうか。 156 00:14:17,123 --> 00:14:21,928 一度なんかよ 店先で大の字で寝転がって 動かねえんだよ。 157 00:14:21,928 --> 00:14:25,798 もうこりゃ しかたねえからっつって 3人がかりでよ こうやって引きずって➡ 158 00:14:25,798 --> 00:14:29,802 動かそうとしたんだけどよ これがまた 全然ダメで…。 159 00:14:29,802 --> 00:14:35,475 成信は 伝九郎の話を聞くのが楽しかった。 160 00:14:35,475 --> 00:14:41,280 そこには成信などの知らない 生き生きとした生活があり➡ 161 00:14:41,280 --> 00:14:45,952 人間のあからさまな姿が感じられた。 162 00:14:45,952 --> 00:14:53,960 20日余り一緒に暮らすうち 成信は すっかり伝九郎が好きになった。 163 00:15:15,915 --> 00:15:22,588 あっ そういえば 信さん聞いてくれよ 俺に輪をかけて まぬけな泥棒がいやがる。 164 00:15:22,588 --> 00:15:26,259 泥棒? ああ 百姓みたいな格好してんだが➡ 165 00:15:26,259 --> 00:15:32,131 裏庭の奥の方を時々うろついてやがる。 おらぁ気が付かねえ風に見ているんだが➡ 166 00:15:32,131 --> 00:15:36,269 さっき 飯を炊いている時にも ちらっとしやがった。 167 00:15:36,269 --> 00:15:41,140 そうか…。 ああ あれは今夜辺り入ってくるかもしんねえ。 168 00:15:41,140 --> 00:15:45,278 そしたら今度は俺が見物する番だ! ヘヘッ。 あっ! 169 00:15:45,278 --> 00:15:49,148 俺が しっかり見張っとくからよ 信さんは安心して寝てていいぜ! 170 00:15:49,148 --> 00:15:55,855 この家に何にもねえってことが分かったら どんな顔するか楽しみだな! ハハハハ! 171 00:15:57,857 --> 00:16:03,563 (いびき) 172 00:16:03,563 --> 00:16:07,567 何が しっかり見張ってるだ。 173 00:16:11,437 --> 00:16:14,907 ⚟(物音) 174 00:16:14,907 --> 00:16:23,916 ♬~ 175 00:16:23,916 --> 00:16:26,619 誰だ? 176 00:16:35,261 --> 00:16:38,598 鮫島平馬でございます。 177 00:16:38,598 --> 00:16:44,270 久しく見かけなかったな。 何か用か? 178 00:16:44,270 --> 00:16:48,140 急ぎますので 要点だけ申し上げます。 179 00:16:48,140 --> 00:16:52,144 大殿がお亡くなりになりました。 180 00:16:52,144 --> 00:16:57,283 そうか… 父上が。 181 00:16:57,283 --> 00:17:00,186 敵方の監視は緩んでおりますが➡ 182 00:17:00,186 --> 00:17:02,889 情勢がはっきりするまでは 油断ができません。 183 00:17:02,889 --> 00:17:07,193 今しばらく陰から守護しております。 そのつもりでご辛抱下さい。 184 00:17:09,228 --> 00:17:15,101 陰からお守りか…。 随分ずさんな守りもあるもんだ。 185 00:17:15,101 --> 00:17:19,238 刺客から矢を撃たれたのは 一度や二度ではない。 186 00:17:19,238 --> 00:17:23,576 恐れながら 矢を撃ったのは 私の指示でございます。 187 00:17:23,576 --> 00:17:25,511 何? 188 00:17:25,511 --> 00:17:28,447 若殿の命を狙う者が ほかにもいると思わせることで➡ 189 00:17:28,447 --> 00:17:33,920 敵の目をそらすための策でございました。 どうか お許し下さい。 190 00:17:33,920 --> 00:17:36,589 (ため息) 191 00:17:36,589 --> 00:17:41,460 敵を欺くために 私まで欺くか…。 192 00:17:41,460 --> 00:17:45,765 つくづく嫌な世の中だな。 193 00:17:50,937 --> 00:17:55,608 皆に伝えろ もう俺に構うな。 194 00:17:55,608 --> 00:17:58,311 ⚟若殿。 195 00:18:04,417 --> 00:18:08,888 葉っぱは そうだな みそ汁だな こりゃ。 ヘヘッ。 196 00:18:08,888 --> 00:18:16,562 そしたら 里芋とネギ… うわっ このネギも立派だ こりゃ! ハハッ。 197 00:18:16,562 --> 00:18:20,866 よし。伝九。 あ? 198 00:18:25,905 --> 00:18:30,776 どこか よその土地へ行って 2人で暮らさぬか? 199 00:18:30,776 --> 00:18:33,245 はっ? 200 00:18:33,245 --> 00:18:38,584 ダメか? いや ダ… ダメじゃねえけど➡ 201 00:18:38,584 --> 00:18:41,487 ダメじゃねえけどよ…。 202 00:18:41,487 --> 00:18:45,458 心配しなくても 俺も何かするし お前だけに苦労はかけん。 203 00:18:45,458 --> 00:18:50,196 そりゃあ 俺も先行き そうなればいいな~ なんて思うこともあるけどよ➡ 204 00:18:50,196 --> 00:18:52,598 そんなに急ぐことはねえんじゃねえか? 205 00:18:52,598 --> 00:18:55,935 ほら 今の仕事にも やっと慣れてきたところだしよ。 206 00:18:55,935 --> 00:19:00,773 そうだ 伝九 私に仕事を教えてくれ! 飯炊き 洗濯…。 207 00:19:00,773 --> 00:19:03,743 まずは そこからできんと 話にならんからな。 208 00:19:03,743 --> 00:19:06,445 おめえ 本気か? 209 00:19:10,449 --> 00:19:14,220 成信は本気であった。 210 00:19:14,220 --> 00:19:20,893 伝九郎と一緒に ここを出奔し どこでもいい この身で働いて➡ 211 00:19:20,893 --> 00:19:25,765 人間らしい つつましい生活をしよう。 212 00:19:25,765 --> 00:19:35,241 権力争奪の傀儡にされるより 伝九郎と一緒に 自分で働いて生きよう。 213 00:19:35,241 --> 00:19:41,580 成信は 真剣にそう思っていた。 214 00:19:41,580 --> 00:19:45,584 うめえぞ。 うまい。 あ~ どうだ? どうだ? 215 00:20:02,268 --> 00:20:07,973 お久しゅうございます。 榁 久左衛門にございます。 216 00:20:10,609 --> 00:20:12,945 (ため息) 217 00:20:12,945 --> 00:20:16,282 俺に構うなと申したはずだ。 218 00:20:16,282 --> 00:20:21,954 ご身分を捨てて 世に隠れる おぼし召しでございますか? 219 00:20:21,954 --> 00:20:28,961 お前たちの傀儡になるのは もう御免だ。 俺は人間らしく生きる。 220 00:20:30,629 --> 00:20:34,967 ただいま その方どもの傀儡と おっしゃられましたが➡ 221 00:20:34,967 --> 00:20:41,307 この度の家督争いでは 3名の者が切腹しております。 222 00:20:41,307 --> 00:20:46,979 お家のため 藩政を立て直すため➡ 223 00:20:46,979 --> 00:20:53,986 ひいては7万5,000石の領民のために 皆 命を投げ出して働いたのです。 224 00:20:55,654 --> 00:21:00,926 これらの者を捨てて 自分お一人だけ 安穏に暮らしたいと➡ 225 00:21:00,926 --> 00:21:03,929 そうおっしゃるのですか? 226 00:21:10,936 --> 00:21:13,639 若殿! 227 00:21:15,274 --> 00:21:20,613 人間には それぞれに責任がございます。 228 00:21:20,613 --> 00:21:28,954 庶民には庶民の 侍には侍の そして 領主には領主の! 229 00:21:28,954 --> 00:21:36,962 皆 手を差し伸べる思いで お待ちしているのです。 230 00:21:38,964 --> 00:21:43,669 お帰り下さいませ 若殿。 231 00:21:50,976 --> 00:21:56,315 あ~ 疲れたな。 腹減ったな。 232 00:21:56,315 --> 00:22:01,153 ああ~ よいしょ…。 233 00:22:01,153 --> 00:22:05,858 おら おら…。 よし。 234 00:22:07,593 --> 00:22:10,930 おい 帰ったぜ~。 235 00:22:10,930 --> 00:22:15,234 あれ? いねえのか…。 236 00:22:18,270 --> 00:22:20,573 ん? 237 00:22:25,144 --> 00:22:34,820 ⚟(炊事音) 238 00:22:34,820 --> 00:22:38,591 はあ~! 239 00:22:38,591 --> 00:22:42,494 お侍は 怖えってことを言うが こりゃ まったくだな! 240 00:22:42,494 --> 00:22:45,297 いざとなりゃ こんなこともできるんだな! 241 00:22:45,297 --> 00:22:48,968 やっぱり 修行ってもんが 違えんだろうな…。 242 00:22:48,968 --> 00:22:51,870 まあ そう褒めるな。 まぐれ当たりだ。 243 00:22:51,870 --> 00:22:54,640 それにしても 何の気まぐれだ? 244 00:22:54,640 --> 00:22:59,511 一度ぐらいは 俺が煮炊きをして 伝九に食べてもらいたかった。 245 00:22:59,511 --> 00:23:05,251 お前には 随分長い間 世話になってしまったからな。 246 00:23:05,251 --> 00:23:11,590 な… 何言ってんだ おめえ! おらぁ そんな水くせえことは 聞きたくねえよ! 247 00:23:11,590 --> 00:23:16,462 まあ そう言うな。 ほら 早く食べてくれ! せっかくの食事が冷めてしまう。 248 00:23:16,462 --> 00:23:19,932 ほら 早く 早く! 分かったよ! 249 00:23:19,932 --> 00:23:22,935 何か 落ち着かねえな。 250 00:23:32,945 --> 00:23:35,848 どうだ? 251 00:23:35,848 --> 00:23:40,286 まあ 悪くはねえな。 252 00:23:40,286 --> 00:23:43,188 随分 気取った言い方だな。 253 00:23:43,188 --> 00:23:46,959 おめえさんの言い方が 移っちまったんだよ。 ヘヘッ。 254 00:23:46,959 --> 00:23:53,265 まぬけな泥棒のくせに。 貧乏屋敷の主人に言われたかねえぜ。 255 00:23:54,833 --> 00:23:57,970 (笑い声) 256 00:23:57,970 --> 00:24:01,573 ほら 早く食え。 おう! 257 00:24:01,573 --> 00:24:07,246 ほら これも。うん。 どうだ?うめえよ! 258 00:24:07,246 --> 00:24:11,116 だろう! もっと食え。 芋もうまいぞ 食べろ。 259 00:24:11,116 --> 00:24:14,420 米も最高だな! だろう。 260 00:24:16,255 --> 00:24:20,125 うん… うん! 261 00:24:20,125 --> 00:24:23,128 うん うまいな。 うん…。 262 00:24:25,931 --> 00:24:53,959 (いびき) 263 00:24:53,959 --> 00:24:58,630 堪忍してくれ 伝九。 264 00:24:58,630 --> 00:25:12,344 (いびき) 265 00:25:14,113 --> 00:25:22,821 ⚟(身支度をする音) 266 00:25:39,938 --> 00:25:42,941 (戸を開ける音) 267 00:26:01,226 --> 00:26:04,229 信さん! 268 00:26:08,100 --> 00:26:13,806 晩の飯は このためだったんだな。 269 00:26:18,777 --> 00:26:28,253 おらぁ 信さんと暮らすようになってから 初めて生きる張り合いができたんだ。 270 00:26:28,253 --> 00:26:35,561 世の中が明るく見えて やっと人間らしくなれたんだ! 271 00:26:37,930 --> 00:26:46,238 それなのに… 信さんは 俺を置いていっちまうのか? 272 00:26:48,941 --> 00:26:52,611 また会おう 伝九。 273 00:26:52,611 --> 00:26:57,483 人には人の道がある。 俺は俺の道を行く。 274 00:26:57,483 --> 00:27:01,220 達者でいてくれ。 275 00:27:01,220 --> 00:27:12,564 ♬~ 276 00:27:12,564 --> 00:27:17,870 おらぁ もう止めねえよ! 277 00:27:19,905 --> 00:27:23,575 立派に出世してくんな! 278 00:27:23,575 --> 00:27:36,155 ♬~ 279 00:27:36,155 --> 00:27:38,924 さらばだ。 280 00:27:38,924 --> 00:27:48,934 ♬~ 281 00:27:48,934 --> 00:27:54,640 いつかまた 会いに来てくんな! 282 00:27:56,275 --> 00:28:02,981 おらぁ 待ってるからよ…。 283 00:28:09,821 --> 00:28:13,125 待ってるからよ。 284 00:28:19,498 --> 00:28:43,255 ♬~ 285 00:28:43,255 --> 00:28:49,595 憎き父の敵と同じ屋根の下 隠された意外な真実。 286 00:28:49,595 --> 00:28:54,299 「だれかに話したくなる 山本周五郎日替わりドラマ」。