1 00:00:01,235 --> 00:00:04,605 山本周五郎を知っていますか? 2 00:00:04,605 --> 00:00:07,908 時代小説の名手です。 3 00:00:11,278 --> 00:00:16,583 描いたのは もがきながらも 懸命に生きる人々。 4 00:00:18,952 --> 00:00:22,623 彼らが教えてくれる 生きる力。 5 00:00:22,623 --> 00:00:25,292 見たら だれかに話したくなる。 6 00:00:25,292 --> 00:00:28,962 笑って泣けて心ぬくもる物語。 7 00:00:28,962 --> 00:00:33,267 きっと 人生のヒントが見つかります。 8 00:00:46,980 --> 00:00:51,852 今日のお話は「女は同じ物語」その後編。 9 00:00:51,852 --> 00:00:54,321 あれこれ言い訳をしては➡ 10 00:00:54,321 --> 00:01:00,127 いいなずけとの結婚を先延ばしにする 主人公の梶 広一郎。 11 00:01:00,127 --> 00:01:04,932 母親のさわは そんな息子の女嫌いを治すため➡ 12 00:01:04,932 --> 00:01:07,601 紀伊という侍女を雇います。 13 00:01:07,601 --> 00:01:11,939 紀伊と申します。 どうぞ よろしくお願いします。 14 00:01:11,939 --> 00:01:16,810 戸惑う広一郎でしたが 献身的で けなげな紀伊に➡ 15 00:01:16,810 --> 00:01:20,948 少しずつ惹かれていきました。 16 00:01:20,948 --> 00:01:24,284 (広一郎)どうした? 紀伊。 なぜ 泣いているのだ? 17 00:01:24,284 --> 00:01:27,187 縁談の話があったのでございます。 18 00:01:27,187 --> 00:01:29,156 縁談? 19 00:01:29,156 --> 00:01:32,960 そして 広一郎は 紀伊に しつこく言い寄る➡ 20 00:01:32,960 --> 00:01:36,830 佐野要平との果たし合いに勝利します。 21 00:01:36,830 --> 00:01:39,833 おとなしく手を引けば悪くはしない。 22 00:01:39,833 --> 00:01:43,971 貴様の飲み代は 俺が月々出してやる。 (要平)何だって!? 23 00:01:43,971 --> 00:01:49,309 紀伊をこのまま 若旦那様のおそばに置いて下さいまし。 24 00:01:49,309 --> 00:01:52,646 広一郎と紀伊の距離は急接近。 25 00:01:52,646 --> 00:01:58,652 しかし 身分の違う2人。 果たして 恋の行方は…? 26 00:02:04,925 --> 00:02:07,627 ありがとう。 27 00:02:10,597 --> 00:02:16,269 (さわ)紀伊。 あなたが この家に来て もう ひとつきがたちましたね。 28 00:02:16,269 --> 00:02:18,605 少しは慣れてきましたか? 29 00:02:18,605 --> 00:02:20,941 はい おかげさまで。 30 00:02:20,941 --> 00:02:24,811 広一郎さんは ゆくゆく御城代となる方ですから➡ 31 00:02:24,811 --> 00:02:27,280 しっかり頼みますよ。 32 00:02:27,280 --> 00:02:29,616 はい。 33 00:02:29,616 --> 00:02:32,519 あの 奥様。 34 00:02:32,519 --> 00:02:35,222 何ですか? 35 00:02:37,958 --> 00:02:40,861 お願いがございます。 36 00:02:40,861 --> 00:02:48,301 明日 祖父の七回忌の法事があるのですが 一日お暇を頂くことはできませんか? 37 00:02:48,301 --> 00:02:51,204 法事? (龍右衛門)いいではないか。 38 00:02:51,204 --> 00:02:55,175 久しぶりに ご両親にも顔を見せてくるといい。 39 00:02:55,175 --> 00:02:58,311 広一郎さんは どうですか? 40 00:02:58,311 --> 00:03:03,150 もちろん結構です。 ちょうど明日は 私も非番ですので。 41 00:03:03,150 --> 00:03:08,588 では 明日一日 暇を出します。 42 00:03:08,588 --> 00:03:12,292 ありがとうございます。 43 00:03:19,599 --> 00:03:21,535 うそ!? 44 00:03:21,535 --> 00:03:25,939 大声を出さないで下さいまし 奥様に聞こえてしまいます。 45 00:03:25,939 --> 00:03:31,244 あ… すまん。 しかし どうして そのようなことを? 46 00:03:34,614 --> 00:03:38,318 何か用事でもあるのか? 47 00:03:43,957 --> 00:03:52,632 明日は 若旦那様も お非番でございますよね? 48 00:03:52,632 --> 00:03:55,936 そうだが…。 49 00:03:59,306 --> 00:04:03,176 その…➡ 50 00:04:03,176 --> 00:04:09,182 何か用事でもございますか? 51 00:04:14,588 --> 00:04:19,259 特には 何もないが。 52 00:04:19,259 --> 00:04:23,597 そうでございますか。 53 00:04:23,597 --> 00:04:37,144 ♬~ 54 00:04:37,144 --> 00:04:44,284 紀伊は 大山原神社を知っておるか? 55 00:04:44,284 --> 00:04:47,287 はい。 56 00:04:49,956 --> 00:04:55,829 あそこの神社は 大層 御利益があるらしいな。 57 00:04:55,829 --> 00:05:03,537 それに近くの茶屋で出す まんじゅうが これまた格別なのだとか。 58 00:05:06,239 --> 00:05:12,245 私 行ってみとうございます。 59 00:05:13,914 --> 00:05:19,586 そういえば 村田のところに 赤子が生まれたと言っていたな。 60 00:05:19,586 --> 00:05:25,926 明日は ちょうど休みだから お守りでも買ってきてやろうかな。 61 00:05:25,926 --> 00:05:36,636 ♬~ 62 00:05:45,278 --> 00:05:52,953 明くる朝 広一郎は 両親に断って大山原神社に出かけた。 63 00:05:52,953 --> 00:06:00,260 まだ早い時間であったが 紀伊は既に家を出たあとだった。 64 00:06:09,436 --> 00:06:13,440 変だな… まだ来ておらんのか。 65 00:06:19,112 --> 00:06:21,915 若旦那様。 66 00:06:21,915 --> 00:06:24,618 紀伊! 67 00:06:34,494 --> 00:06:39,266 う~ん おいしい。 68 00:06:39,266 --> 00:06:42,168 きれいだ。 69 00:06:42,168 --> 00:06:44,604 えっ? 70 00:06:44,604 --> 00:06:50,310 あっ いや その… 実に きれいなかんざしだな。 71 00:06:51,945 --> 00:06:54,648 ありがとうございます。 72 00:06:58,285 --> 00:07:04,090 思えば こうして紀伊と ゆっくり話をするのは 初めてだな。 73 00:07:04,090 --> 00:07:11,831 はい。 私 以前から若旦那様に 聞いてみたいことがあったのです。 74 00:07:11,831 --> 00:07:14,567 何だ? 75 00:07:14,567 --> 00:07:21,908 若旦那様は その…➡ 76 00:07:21,908 --> 00:07:26,246 女が嫌いなのでしょうか? えっ? 77 00:07:26,246 --> 00:07:30,917 あっ いや… そのような噂を耳にしたのですが➡ 78 00:07:30,917 --> 00:07:35,622 私には そのようには思えないのです。 79 00:07:37,257 --> 00:07:41,928 何か訳があるのではないですか? 80 00:07:41,928 --> 00:07:48,802 紀伊の言うとおりだ。 私は 女が嫌いなのではない。 81 00:07:48,802 --> 00:07:55,475 女嫌いというのは いいなずけとの結婚を 先延ばしにする言い訳だ。 82 00:07:55,475 --> 00:08:00,880 そんなに いいなずけの方のことが 嫌なのでございますか? 83 00:08:00,880 --> 00:08:04,551 ああ あの娘のことを考えるだけで➡ 84 00:08:04,551 --> 00:08:09,889 口惜しいような 憎らしいような気持ちになるのだ。 85 00:08:09,889 --> 00:08:13,760 それほどのことが あったのでございますか? 86 00:08:13,760 --> 00:08:18,898 それはもう いろいろあった。 挙げだしたら切りがない。 87 00:08:18,898 --> 00:08:22,202 お聞きしたいです。 88 00:08:23,770 --> 00:08:30,243 私は 蛇が嫌いだ。 それを知っていて あの娘は➡ 89 00:08:30,243 --> 00:08:34,914 かくれんぼしようと 私が目をつぶっている隙に➡ 90 00:08:34,914 --> 00:08:39,252 蛇を襟の中に…。 91 00:08:39,252 --> 00:08:44,124 あ~っ… 思い出しただけでも おぞましい。 92 00:08:44,124 --> 00:08:46,126 (笑い声) 93 00:08:46,126 --> 00:08:50,263 お前 笑うのか? 申し訳ありません。 94 00:08:50,263 --> 00:08:55,135 ほかにも 化粧されたまま 土蔵に閉じ込められたとか➡ 95 00:08:55,135 --> 00:09:00,073 落とし穴に落とされたとか それはもう さんざんな目に遭ったのだ。 96 00:09:00,073 --> 00:09:05,745 子どものイタズラではございませんか。 イタズラなんて かわいいものではない。 97 00:09:05,745 --> 00:09:13,053 どれも妙に手が込んでいて巧妙なのだ。 まことに恐ろしい娘なのだ。 98 00:09:16,423 --> 00:09:25,432 その方は… 若旦那様に 構ってほしかったのではありませんか? 99 00:09:27,100 --> 00:09:34,240 きっと 若旦那様のことが 好きだったのです。 100 00:09:34,240 --> 00:09:37,143 はあ? 101 00:09:37,143 --> 00:09:44,584 ⚟梶殿~? 梶 広一郎殿はおらぬか? 102 00:09:44,584 --> 00:09:48,288 誰でございましょう? 分からん。 103 00:09:57,931 --> 00:10:03,236 梶殿! 梶 広一郎殿はおらんか? 104 00:10:04,804 --> 00:10:07,807 要平? 105 00:10:12,946 --> 00:10:18,284 まさか縁談を断ったことを根に持って…。 106 00:10:18,284 --> 00:10:21,955 とにかく一緒にいるところを見られるのは まずい。 107 00:10:21,955 --> 00:10:27,293 紀伊は このまま裏から帰りなさい。 はい。 若旦那様も お気を付け下さい。 108 00:10:27,293 --> 00:10:29,596 ああ。 109 00:10:37,637 --> 00:10:41,307 (要平)おお いたか! 110 00:10:41,307 --> 00:10:46,179 ここへ出かけたと聞いたので すぐに あとを追いかけてきたのだ。 111 00:10:46,179 --> 00:10:50,984 それにしても こんなところで 何をしていたのだ?あっ いや…。 112 00:10:50,984 --> 00:10:53,286 ん? 113 00:10:56,656 --> 00:10:59,325 …で 何の用だ? 114 00:10:59,325 --> 00:11:02,929 おお 今月分の飲み代をもらいに来たのだ。 115 00:11:02,929 --> 00:11:07,600 そんなことのために わざわざ来たのか? そんなこととは 何だ? 116 00:11:07,600 --> 00:11:11,604 私にとっては大事なことだ。 分かった分かった。 117 00:11:13,273 --> 00:11:17,143 ほら 今月分だ。 これはどうも。 118 00:11:17,143 --> 00:11:22,615 今後は こちらから訪ねていく。 もう このようなまねはやめてくれ。 119 00:11:22,615 --> 00:11:26,486 あっ ところで 来月分を前借りすることはできぬか? 120 00:11:26,486 --> 00:11:29,956 いろいろとツケがたまっておってな。 121 00:11:29,956 --> 00:11:32,959 あまり調子に乗らんことだ。 122 00:11:38,965 --> 00:11:41,267 おっ? 123 00:11:46,839 --> 00:11:49,542 これは…。 124 00:12:04,924 --> 00:12:11,798 まったく とんだ邪魔が入ったが あのように話ができて楽しい時間だった。 125 00:12:11,798 --> 00:12:16,269 私も楽しゅうございました。 126 00:12:16,269 --> 00:12:19,939 どうだ 今度は温泉にでも行かないか? 127 00:12:19,939 --> 00:12:23,610 行きとうございます! 128 00:12:23,610 --> 00:12:28,481 しかし そう何度も お暇を頂くわけには…。 129 00:12:28,481 --> 00:12:31,484 今度は 祖母の法事とでも 申しておけばいいではないか。 130 00:12:31,484 --> 00:12:36,956 祖母は まだ健在でございます。 そうか それは困ったな…。 131 00:12:36,956 --> 00:12:40,827 何か ほかの言い訳を考えておかねば。 132 00:12:40,827 --> 00:12:45,298 あの… 若旦那様。 133 00:12:45,298 --> 00:12:48,201 何だ? 134 00:12:48,201 --> 00:12:52,972 あの時 若旦那様は➡ 135 00:12:52,972 --> 00:12:57,644 いいなずけの方のことを お話になって下さいましたが➡ 136 00:12:57,644 --> 00:13:02,949 ご結婚なさらない理由は それだけでございますか? 137 00:13:07,453 --> 00:13:13,593 この際 正直に申せば 母上のこともあるのだ。 138 00:13:13,593 --> 00:13:16,929 奥様のことですか? 139 00:13:16,929 --> 00:13:21,801 私は 父上が気の毒でならない。 140 00:13:21,801 --> 00:13:27,273 城代家老でありながら 家では母上の思うままだ。 141 00:13:27,273 --> 00:13:32,145 父上には 母上の握っている 鎖の長さだけしか自由がない。 142 00:13:32,145 --> 00:13:35,948 まるで 猿回しの猿のようだ。 143 00:13:35,948 --> 00:13:38,618 それは言い過ぎでございます。 144 00:13:38,618 --> 00:13:43,489 いや… 残念ながら まことのことなのだ。 145 00:13:43,489 --> 00:13:52,198 では 若旦那様は どなたとも ご結婚なさらないおつもりですか? 146 00:13:55,968 --> 00:13:58,971 それは…。 147 00:14:04,777 --> 00:14:09,916 私は 紀伊となら結婚したいと思う! 148 00:14:09,916 --> 00:14:12,919 えっ? 149 00:14:14,587 --> 00:14:18,591 そんな… 私…。 150 00:14:20,460 --> 00:14:25,164 紀伊は 私の妻になってくれるか? 151 00:14:26,933 --> 00:14:30,236 うれしいです。 152 00:14:32,605 --> 00:14:38,277 しかし 私とでは身分が違いすぎます。 153 00:14:38,277 --> 00:14:44,150 そのようなこと 奥様が お許しになりません。 154 00:14:44,150 --> 00:14:47,954 それは 私がなんとかしてみせる! 155 00:14:47,954 --> 00:14:54,260 時間はかかるかもしれないが 母上も分かってくれると思う! 156 00:14:57,296 --> 00:15:01,000 それまで 辛抱してくれるかい? 157 00:15:10,843 --> 00:15:15,581 この辺りですか? あ~ もう少し上です。 158 00:15:15,581 --> 00:15:19,452 上?上 上。 ここかな?あっ そうそう…。 159 00:15:19,452 --> 00:15:24,257 あなた 上達しましたね。 まあ 毎日やってりゃね。 160 00:15:24,257 --> 00:15:27,260 ⚟失礼します。 は~い。 161 00:15:28,928 --> 00:15:33,599 奥様 お客様がお見えです。 お客様? どなたですか? 162 00:15:33,599 --> 00:15:38,271 御中老 佐野様のご長男 佐野要平様でございます。➡ 163 00:15:38,271 --> 00:15:41,974 奥様に お話があるとか。 164 00:15:47,947 --> 00:15:50,249 紀伊? 165 00:15:55,822 --> 00:15:58,291 紀伊? 166 00:15:58,291 --> 00:16:08,568 ♬~ 167 00:16:08,568 --> 00:16:10,870 紀伊? 168 00:16:13,906 --> 00:16:17,910 ⚟失礼します。 はい。 169 00:16:19,579 --> 00:16:24,250 母上 紀伊の姿が見えないようですが。 ええ。 170 00:16:24,250 --> 00:16:26,919 どこかに出かけているのですか? 171 00:16:26,919 --> 00:16:29,589 紀伊には辞めてもらいました。 172 00:16:29,589 --> 00:16:31,924 えっ? 173 00:16:31,924 --> 00:16:34,594 どういうことです? 174 00:16:34,594 --> 00:16:39,465 結婚前に変な噂が立っては 困りますからね。 変な噂? 175 00:16:39,465 --> 00:16:44,270 とにかく あなたの女嫌いも治ったようだし➡ 176 00:16:44,270 --> 00:16:47,173 今度こそ 式を挙げることにします。 177 00:16:47,173 --> 00:16:50,142 ちょっと待って下さい。 勝手に進めないで下さい。 178 00:16:50,142 --> 00:16:52,612 これ以上は待てません。 179 00:16:52,612 --> 00:16:56,916 もう5年近く 安永さんをお待たせしているのですよ。 180 00:17:04,557 --> 00:17:10,229 昼間 佐野のところの長男が 訪ねてきたのだ。 181 00:17:10,229 --> 00:17:13,566 要平が? なぜですか? 182 00:17:13,566 --> 00:17:17,904 お前と紀伊が 神社で あいびきしていたらしいと➡ 183 00:17:17,904 --> 00:17:24,243 忠告しに来たのだ。 そ… そんなの ただの言いがかりです。 184 00:17:24,243 --> 00:17:28,547 でたらめを言って 金をせびりに来ただけです! 185 00:17:30,116 --> 00:17:33,819 神社に これが落ちていたそうだ。 186 00:17:36,589 --> 00:17:40,259 真実が どうであれ このまま何も手を打たずに➡ 187 00:17:40,259 --> 00:17:44,263 放っておくわけにはいかなかったのでな。 188 00:17:46,933 --> 00:17:51,270 どこへ行くのだ? 要平のところに決まっております。 189 00:17:51,270 --> 00:17:53,606 広一郎! 190 00:17:53,606 --> 00:17:59,946 まあ ちょっと落ち着け。 むやみに事を荒だてるな。 191 00:17:59,946 --> 00:18:06,552 こうなってしまった以上は 諦めて 安永の娘と結婚するしかあるまい。 192 00:18:06,552 --> 00:18:10,222 そうすれば あらぬ噂が立つこともない。 193 00:18:10,222 --> 00:18:15,094 しかし 私には納得できません! 194 00:18:15,094 --> 00:18:20,566 娘のうちは いろいろ違うように見えるものだ。 195 00:18:20,566 --> 00:18:26,238 しかし どんな娘でも結婚してしまえば 同じようなものなのだ。 196 00:18:26,238 --> 00:18:32,912 お前の母上だって結婚する前は そりゃもう… これはやめておこう。 197 00:18:32,912 --> 00:18:37,783 とにかく冷静になれ。 そうでなければ お前だけでなく➡ 198 00:18:37,783 --> 00:18:41,787 紀伊まで不幸にすることになるのだぞ。 199 00:18:52,932 --> 00:18:59,939 これは 紀伊から預かった手紙だ。 これを読んで よく考えなさい。 200 00:19:04,210 --> 00:19:15,821 ♬~ 201 00:19:15,821 --> 00:19:20,559 「私のせいで このようなことになってしまい➡ 202 00:19:20,559 --> 00:19:24,230 申し訳ございません。➡ 203 00:19:24,230 --> 00:19:28,567 先日 若旦那様が言って下さったこと➡ 204 00:19:28,567 --> 00:19:32,905 本当に うれしゅうございました。➡ 205 00:19:32,905 --> 00:19:37,243 私のことを思って下さるのなら➡ 206 00:19:37,243 --> 00:19:42,581 どうか私のことは お忘れ下さい」。 207 00:19:42,581 --> 00:19:52,591 ♬~ 208 00:19:52,591 --> 00:19:55,294 紀伊…。 209 00:20:22,288 --> 00:20:30,629 こうして 紀伊はいなくなり 広一郎は 以前の生活に戻った。 210 00:20:30,629 --> 00:20:55,321 ♬~ 211 00:20:55,321 --> 00:21:04,029 しかし 広一郎の心は いつまでたっても晴れないままであった。 212 00:21:11,804 --> 00:21:17,576 やがて年が明け ついに祝言の日を迎えた。 213 00:21:17,576 --> 00:21:24,283 広一郎 これで やっと あなたも一人前の男です。 214 00:21:24,283 --> 00:21:28,621 お父様を見習って 立派な御城代となるよう➡ 215 00:21:28,621 --> 00:21:31,957 今まで以上に 精進しなければなりませんよ。 216 00:21:31,957 --> 00:21:34,293 承知いたしております。 217 00:21:34,293 --> 00:21:38,964 いや~ いろいろあったが 本当によかった。 218 00:21:38,964 --> 00:21:43,836 まあ 慣れてしまえば 結婚も言うほど悪くはないぞ。 219 00:21:43,836 --> 00:21:50,309 あら 気になる言い方でございますわね。 何か不満でもあるのですか? 220 00:21:50,309 --> 00:21:54,980 いやいや… 不満なんて あるわけないではないですか。 221 00:21:54,980 --> 00:21:57,683 それならいいですが。 222 00:21:59,652 --> 00:22:03,522 母上 お願いがあるのですが。 223 00:22:03,522 --> 00:22:09,461 何ですか?式が始まる前に つな殿と 少し お話がしたいのです。 224 00:22:09,461 --> 00:22:11,931 なぜです? 225 00:22:11,931 --> 00:22:18,270 つな殿には 私のわがままで 随分長くお待たせしてしまいました。 226 00:22:18,270 --> 00:22:22,975 ですから 式の前に ひと言 謝っておきたいのです。 227 00:22:45,497 --> 00:22:49,969 つな殿 広一郎でございます。 228 00:22:49,969 --> 00:22:57,977 そのままで結構でございますので 少し私の話を聞いて頂けますか? 229 00:22:59,979 --> 00:23:02,581 はい。 230 00:23:02,581 --> 00:23:07,253 率直に申し上げます。 231 00:23:07,253 --> 00:23:13,559 今回の結婚 辞退させて頂きたいのです。 232 00:23:16,262 --> 00:23:21,133 とんでもないことを申し上げていることは じゅうじゅう承知しております! 233 00:23:21,133 --> 00:23:28,140 しかし 私には ほかに 思いを寄せる おなごがいるのです。 234 00:23:33,279 --> 00:23:37,950 今まで さんざん待たせた上に こんなことまで…。 235 00:23:37,950 --> 00:23:44,623 されど 中途半端な気持ちで あなたと結婚するわけにはいきません! 236 00:23:44,623 --> 00:23:50,329 私は どんな仕打ちでも受ける覚悟です。 237 00:23:52,298 --> 00:23:57,002 どうか お願いいたします! 238 00:24:03,909 --> 00:24:06,612 ⚟若旦那様。 239 00:24:24,229 --> 00:24:27,533 お前 まさか…。 240 00:24:30,602 --> 00:24:35,274 はい… 私が紀伊を名乗り➡ 241 00:24:35,274 --> 00:24:40,946 あなた様に お仕えしていたのでございます。 242 00:24:40,946 --> 00:24:44,817 夢でも見ているようだ…。 243 00:24:44,817 --> 00:24:49,121 どうぞ 堪忍して下さいまし! 244 00:24:53,525 --> 00:25:03,569 つなが どのように変わったのか あなた様に見て頂きたかったのです。 245 00:25:03,569 --> 00:25:07,439 父上と母上も承知の上か? はい。 246 00:25:07,439 --> 00:25:11,243 では 母上がきつく当たっていたのも? 247 00:25:11,243 --> 00:25:16,915 奥様が その方が情が移りやすいだろうと おっしゃいまして…。 248 00:25:16,915 --> 00:25:19,818 まさか 要平も仲間か!? 249 00:25:19,818 --> 00:25:26,592 いえ… あれは あなた様の気を引くための 芝居でございました。 250 00:25:26,592 --> 00:25:32,297 まさか 果たし合いをするなどとは 夢にも思わず。 251 00:25:34,933 --> 00:25:37,936 なんていうことだ。 252 00:25:42,274 --> 00:25:51,283 おそばに仕えてみて それでも お気に召さなかったら…➡ 253 00:25:51,283 --> 00:25:55,287 諦めるつもりでした。 254 00:25:59,625 --> 00:26:07,433 全ては あなた様の妻になりたい 一心だったのでございます! 255 00:26:07,433 --> 00:26:12,738 どうか 堪忍して下さいまし。 256 00:26:22,848 --> 00:26:26,151 面を上げてくれ。 257 00:26:30,923 --> 00:26:35,227 よく戻ってきてくれた。 258 00:26:37,262 --> 00:26:41,967 ありがとう 紀伊。 259 00:26:43,936 --> 00:26:47,639 いや… つな。 260 00:26:51,276 --> 00:26:53,979 はい! 261 00:26:55,948 --> 00:27:04,957 (すすり泣き) 262 00:27:07,226 --> 00:27:10,562 若旦那様。 ああ… 大丈夫だ。 263 00:27:10,562 --> 00:27:30,582 ♬~ 264 00:27:30,582 --> 00:27:34,286 大丈夫でございますか? ああ 大丈夫だ。 265 00:27:43,929 --> 00:27:47,799 結婚して… もう ひとつきになるな。 266 00:27:47,799 --> 00:27:52,271 はい。 もう ひとつきになります。 267 00:27:52,271 --> 00:27:59,945 言うとおりであったろう? ええ 父上の言うとおりでした。 268 00:27:59,945 --> 00:28:03,215 ⚟広一郎様~? 269 00:28:03,215 --> 00:28:06,518 はいはい! 今 行きます。 270 00:28:10,556 --> 00:28:16,562 結婚してしまえば 女は皆 同じようなものですね。 271 00:28:18,230 --> 00:28:22,234 ⚟広一郎様~! 今 行きます! 272 00:28:28,240 --> 00:28:32,578 ⚟(さわ)旦那様~! はいはい! 今 行きます。 273 00:28:32,578 --> 00:28:42,254 ♬~ 274 00:28:42,254 --> 00:28:44,590 5回にわたってお送りした➡ 275 00:28:44,590 --> 00:28:50,462 「山本周五郎日替わりドラマ だれかに話したくなる物語」は➡ 276 00:28:50,462 --> 00:28:53,265 まだまだ たくさん! 277 00:28:53,265 --> 00:28:56,568 それではまた 近いうちに。