1 00:00:00,901 --> 00:00:06,807 ♬~ 2 00:00:09,943 --> 00:00:16,450 ある社会学者が生んだ 「マクナマラの誤謬」という言葉がある。 3 00:00:16,450 --> 00:00:22,456 数字にばかり こだわり 物事の全体像を見失うことを意味する。 4 00:00:25,759 --> 00:00:28,462 例えば こういうことだ。 5 00:00:30,597 --> 00:00:34,401 ある病院では 外科医の成績を➡ 6 00:00:34,401 --> 00:00:37,905 術後の患者の「生存率」で 評価しようとした。 7 00:00:39,606 --> 00:00:46,179 すると医師たちは 生存率が低くなる 重篤な患者の手術を避けがちになり➡ 8 00:00:46,179 --> 00:00:50,384 本来救うべき 多くの命が失われた。 9 00:00:51,985 --> 00:00:53,954 (サイレン) 10 00:00:53,954 --> 00:00:58,125 また ある警察署では 検挙数を上げるために➡ 11 00:00:58,125 --> 00:01:04,531 軽微な犯罪ばかりを取り締まった結果 多くの重犯罪者を取り逃がした。 12 00:01:09,636 --> 00:01:12,272 この言葉の由来となったのが➡ 13 00:01:12,272 --> 00:01:16,243 7年にわたり アメリカの国防長官を務めた➡ 14 00:01:16,243 --> 00:01:18,845 ロバート・マクナマラである。 15 00:01:21,448 --> 00:01:25,152 天才的な分析の達人 マクナマラは➡ 16 00:01:25,152 --> 00:01:29,957 データを駆使し ベトナム戦争に勝利しようとした。 17 00:01:35,796 --> 00:01:38,298 (銃声) 18 00:01:38,298 --> 00:01:40,367 しかし 数字では測れない➡ 19 00:01:40,367 --> 00:01:42,569 ベトナム人の愛国心や➡ 20 00:01:42,569 --> 00:01:46,573 アメリカ市民の反戦感情には 目を向けなかった。 21 00:01:49,977 --> 00:01:53,180 その結果 ベトナム戦争は➡ 22 00:01:53,180 --> 00:01:58,185 合わせて300万を超える死者を出す 泥沼の戦いとなった。 23 00:02:08,962 --> 00:02:12,733 ♬~ 24 00:02:12,733 --> 00:02:15,636 「映像の世紀バタフライエフェクト」。 25 00:02:19,272 --> 00:02:24,444 ベトナム戦争を泥沼化させ アメリカを敗北に導いた➡ 26 00:02:24,444 --> 00:02:28,548 ある天才の過ちの物語である。 27 00:02:40,961 --> 00:02:46,066 1945年。 太平洋戦争末期の日本。 28 00:02:50,103 --> 00:02:57,511 上空では アメリカの新型爆撃機 Bー29が悠々と飛行していた。 29 00:02:59,813 --> 00:03:04,918 日本の各都市に焼い弾を落とし 街を焼き払った。 30 00:03:10,357 --> 00:03:14,928 このBー29の大量投入を提案した人物が➡ 31 00:03:14,928 --> 00:03:21,768 当時28歳 陸軍中佐の ロバート・マクナマラだった。 32 00:03:21,768 --> 00:03:28,475 ハーバード大学院を卒業後 当時 最年少の助教授となった天才。 33 00:03:28,475 --> 00:03:34,181 その能力を買われ 陸軍の統計管理局に所属していた。 34 00:03:37,150 --> 00:03:41,688 Bー29を投入する理由は コストを削減でき➡ 35 00:03:41,688 --> 00:03:47,394 かつ最大の効果が得られるという マクナマラの冷徹な計算があった。 36 00:03:49,429 --> 00:03:55,836 高度1万メートルで飛行できるBー29は 地上からの攻撃を受けにくい。 37 00:03:59,072 --> 00:04:04,377 一方で この高度からの爆撃は 命中率が低い。 38 00:04:06,446 --> 00:04:10,450 選んだのは無差別爆撃だった。 39 00:04:14,020 --> 00:04:19,826 日本各地への空襲による 機体の損失率は1%台。 40 00:04:19,826 --> 00:04:25,332 一方で 46万の市民が命を落とすに至った。 41 00:04:49,856 --> 00:04:53,693 戦争終結の翌年 マクナマラは➡ 42 00:04:53,693 --> 00:04:59,633 陸軍のエリートたちと共に 自動車メーカー フォードに入社。 43 00:04:59,633 --> 00:05:02,035 「神童グループ」と呼ばれた。 44 00:05:15,682 --> 00:05:20,153 マクナマラは 当時 低迷していたフォード社を立て直すべく➡ 45 00:05:20,153 --> 00:05:22,455 「市場調査チーム」を立ち上げる。 46 00:05:24,024 --> 00:05:29,262 調査の結果 これまで車を買えなかった 庶民層をターゲットにした➡ 47 00:05:29,262 --> 00:05:32,666 小型車の開発に勝算があると分析。 48 00:05:36,036 --> 00:05:39,472 製造過程を徹底的に洗い直し➡ 49 00:05:39,472 --> 00:05:43,376 無駄をそぎ落として コストを極限まで下げた。 50 00:05:50,116 --> 00:05:53,987 こうして 低価格で低燃費の大衆車➡ 51 00:05:53,987 --> 00:05:55,989 「ファルコン」を生み出す。 52 00:05:58,458 --> 00:06:02,329 人気漫画のキャラクターを起用した CMもつくられ➡ 53 00:06:02,329 --> 00:06:06,433 1年で500万台を売り上げる 大ヒットとなった。 54 00:06:21,681 --> 00:06:26,519 そして 入社15年目の1960年。 55 00:06:26,519 --> 00:06:29,723 マクナマラは社長に抜てきされる。 56 00:06:31,391 --> 00:06:37,697 ヘンリー・フォード以来 一族以外では初めての社長だった。 57 00:06:37,697 --> 00:06:42,502 しかし 就任して 僅か7週間後のことだった。 58 00:06:45,438 --> 00:06:48,341 大統領に当選した ジョン・F・ケネディが➡ 59 00:06:48,341 --> 00:06:53,246 マクナマラの手腕にほれ込み 政権入りを打診してきたのだ。 60 00:06:58,051 --> 00:07:02,289 役職は国防長官。 61 00:07:02,289 --> 00:07:07,694 大統領の指揮下で 軍を統括する 最も重要なポジションだった。 62 00:07:10,530 --> 00:07:13,867 これは 就任前のマクナマラが➡ 63 00:07:13,867 --> 00:07:17,871 国防総省 ペンタゴンを訪れた際の映像。 64 00:07:19,639 --> 00:07:24,577 突然の大役に躊躇するマクナマラに対し ケネディは➡ 65 00:07:24,577 --> 00:07:29,883 「私も大統領になるための学校は 出ていないよ」と説得した。 66 00:07:32,585 --> 00:07:37,891 就任を承諾したマクナマラとケネディの 囲み取材の映像である。 67 00:07:59,479 --> 00:08:02,983 当時 冷戦下のアメリカとソ連は➡ 68 00:08:02,983 --> 00:08:06,386 世界各地で代理戦争を繰り広げていた。 69 00:08:09,689 --> 00:08:13,993 その戦いの新たな舞台になったのが ベトナムだった。 70 00:08:17,897 --> 00:08:21,901 もともとベトナムは フランスの植民地だった。 71 00:08:26,606 --> 00:08:30,343 第2次世界大戦が終わると ホー・チ・ミンが➡ 72 00:08:30,343 --> 00:08:35,248 北ベトナムに 社会主義国家を 建国して独立を宣言。 73 00:08:40,587 --> 00:08:46,092 これを認めないフランスが 南ベトナムを支配して対抗した。 74 00:08:51,664 --> 00:08:56,035 この戦争に勝利したのは 北ベトナム。 75 00:08:56,035 --> 00:08:59,639 南北ベトナムの統一は間近だと思われた。 76 00:09:02,609 --> 00:09:06,212 ところが ここでアメリカが介入する。 77 00:09:08,314 --> 00:09:13,119 アメリカの指導者は 「ドミノ理論」に取りつかれていた。 78 00:09:13,119 --> 00:09:19,225 「大国中国が既に共産化し 更にベトナムまでも共産化すれば➡ 79 00:09:19,225 --> 00:09:24,030 アジアは 雪崩を打って共産化してしまう」 と おびえていた。 80 00:09:28,435 --> 00:09:34,140 こうして ベトナムの戦いの相手は フランスからアメリカに移る。 81 00:09:38,211 --> 00:09:44,551 これは ベトナムの地を初めて訪問した マクナマラの映像。 82 00:09:44,551 --> 00:09:47,353 軍事訓練を視察したマクナマラは➡ 83 00:09:47,353 --> 00:09:51,858 北ベトナム制圧は 短期間で果たせると分析した。 84 00:09:55,628 --> 00:09:59,332 軍事顧問団として送っていた 700人の米軍を➡ 85 00:09:59,332 --> 00:10:03,636 一気に 1万1,000人まで増強した。 86 00:10:17,250 --> 00:10:23,356 更にマクナマラは 国内でも大胆な国防総省改革に取り組む。 87 00:10:24,991 --> 00:10:30,296 コンピューターの専門家たちを呼び寄せ 業務を一気に効率化した。 88 00:10:33,166 --> 00:10:37,403 軍事データの収集や 分析を行うシステムを整え➡ 89 00:10:37,403 --> 00:10:41,207 徴兵計画の管理も コンピューターに任せた。 90 00:10:42,909 --> 00:10:46,779 更に 膨らみ続けていた 国防費にもメスを入れ➡ 91 00:10:46,779 --> 00:10:50,183 大幅な削減を実現させた。 92 00:11:13,006 --> 00:11:16,543 ♬~ 93 00:11:16,543 --> 00:11:22,048 これは 就任3年目の マクナマラを取り上げた特集番組。 94 00:11:42,502 --> 00:11:44,737 ペテン師といわれたのは➡ 95 00:11:44,737 --> 00:11:49,409 就任当初 短期間で制圧すると語った ベトナムの戦局が➡ 96 00:11:49,409 --> 00:11:52,111 好転していなかったからだった。 97 00:12:12,465 --> 00:12:16,169 1万を超える米軍が 駐留するようになって以来➡ 98 00:12:16,169 --> 00:12:19,472 南ベトナムの空気は一変していた。 99 00:12:24,477 --> 00:12:28,815 サイゴンには アメリカ兵を相手にした歓楽街が➡ 100 00:12:28,815 --> 00:12:31,317 政府黙認でつくられた。 101 00:12:35,054 --> 00:12:40,159 売春宿が立ち並ぶエリアは 「罪の都」などと呼ばれた。 102 00:12:43,296 --> 00:12:49,202 アメリカ人の好き放題の振る舞いに ベトナム人は眉をひそめた。 103 00:12:53,373 --> 00:12:56,576 そんな南ベトナムをつくり出したのが➡ 104 00:12:56,576 --> 00:13:00,780 アメリカの傀儡政権である ゴ・ディン・ジェム政権。 105 00:13:04,117 --> 00:13:10,523 1963年。 仏教徒による 大規模な反政府デモが起こった。 106 00:13:15,662 --> 00:13:21,067 これは 抗議の焼身自殺をした僧侶を捉えた映像。 107 00:13:29,942 --> 00:13:34,747 これに対する 副大統領の妻 マダム・ニューの放言が➡ 108 00:13:34,747 --> 00:13:37,250 更なる物議を醸した。 109 00:14:01,774 --> 00:14:06,346 この3か月後 マクナマラは南ベトナムを訪問し➡ 110 00:14:06,346 --> 00:14:08,648 大統領と会談した。 111 00:14:10,316 --> 00:14:14,087 そして 南ベトナム政権が➡ 112 00:14:14,087 --> 00:14:18,491 国民の支持を 全く得られていないことを確信する。 113 00:14:21,761 --> 00:14:27,567 これ以上 南ベトナムに肩入れするべき ではないと判断したマクナマラは➡ 114 00:14:27,567 --> 00:14:32,338 ケネディに軍の撤退を進言した。 115 00:14:32,338 --> 00:14:35,341 その時の音声が残されている。 116 00:14:58,798 --> 00:15:04,504 ケネディは 2年で 全ての米軍を撤退させると決断。 117 00:15:06,105 --> 00:15:09,809 まず 1,000人を撤退させると発表した。 118 00:15:12,879 --> 00:15:16,783 しかし その翌月のことだった。 119 00:15:26,325 --> 00:15:29,796 ケネディが暗殺された。 120 00:15:29,796 --> 00:15:35,501 マクナマラは この時の思いを こう回想している。 121 00:16:01,861 --> 00:16:06,165 後を引き継いだのは ジョンソン副大統領だった。 122 00:16:10,436 --> 00:16:15,775 ジョンソンは ベトナム撤退を白紙に戻した。 123 00:16:15,775 --> 00:16:19,879 「戦争に負けた大統領」と呼ばれることを 嫌ったのだ。 124 00:16:43,569 --> 00:16:48,508 ベトナム撤退という自らの案を葬られた マクナマラだったが➡ 125 00:16:48,508 --> 00:16:51,811 ジョンソンの方針に従う道を選んだ。 126 00:17:16,836 --> 00:17:23,543 アメリカは ベトナムへの軍事介入を 本格化させる理屈を探し始める。 127 00:17:23,543 --> 00:17:26,946 そこに格好の出来事が起こった。 128 00:17:43,863 --> 00:17:47,700 マクナマラは公海上にいたアメリカ軍が➡ 129 00:17:47,700 --> 00:17:52,605 北ベトナム軍から 2度にわたり攻撃を受けたと語った。 130 00:17:54,273 --> 00:17:58,144 しかし これは偽りだった。 131 00:17:58,144 --> 00:18:00,179 後に公開された機密資料では➡ 132 00:18:00,179 --> 00:18:05,851 1度目 アメリカ軍は 北ベトナムの領海を侵しており➡ 133 00:18:05,851 --> 00:18:10,756 2度目は 攻撃そのものがなかった。 134 00:18:10,756 --> 00:18:13,392 実際にマクナマラに届いていたのは➡ 135 00:18:13,392 --> 00:18:16,095 現地のこんなやり取りだった。 136 00:18:35,514 --> 00:18:38,718 アメリカは この不確かな情報を➡ 137 00:18:38,718 --> 00:18:42,722 ベトナムへの軍事介入を深める 口実にした。 138 00:18:45,791 --> 00:18:49,595 北ベトナムへ 大規模な空爆を開始。 139 00:18:49,595 --> 00:18:52,331 (爆撃音) 140 00:18:52,331 --> 00:18:54,333 「北爆」である。 141 00:18:56,135 --> 00:19:01,440 その年の末までには 20万に及ぶ兵員を送り込む。 142 00:19:04,844 --> 00:19:08,648 戦いの規模は 一気に拡大した。 143 00:19:14,086 --> 00:19:20,593 マクナマラは 戦況を見極める尺度として 一つの数値を指標にした。 144 00:19:22,228 --> 00:19:26,932 敵兵の死者数「ボディカウント」である。 145 00:19:53,059 --> 00:19:57,363 アメリカ兵1人の死者に対する 敵兵の死者数… 146 00:19:59,465 --> 00:20:05,171 この数字を1:10でキープし続けることを 目標に掲げた。 147 00:20:07,139 --> 00:20:10,743 そうすれば いずれ敵兵が枯渇し➡ 148 00:20:10,743 --> 00:20:16,248 戦争が継続できないポイントに 早期に達するはずと計算した。 149 00:20:20,086 --> 00:20:25,491 アメリカ兵に「ボディカウントを増やせ」 という号令がかけられた。 150 00:20:29,628 --> 00:20:35,634 これは 殺害した敵兵の遺体を調べる アメリカ兵の映像。 151 00:20:38,304 --> 00:20:44,009 死体の数を数えるためだけの パトロール隊が派遣されることもあった。 152 00:21:05,531 --> 00:21:09,935 アメリカ軍は ボディカウントを連日発表し➡ 153 00:21:09,935 --> 00:21:12,938 戦争は有利に進んでいるとアピールした。 154 00:21:26,385 --> 00:21:30,923 しかし 北ベトナム側は軍人だけでなく➡ 155 00:21:30,923 --> 00:21:35,928 農民や市民までも ゲリラとなって戦線に加わった。 156 00:21:37,696 --> 00:21:41,400 ベトナム人の死をも恐れぬ「愛国心」が➡ 157 00:21:41,400 --> 00:21:44,803 マクナマラの計算を狂わせることになる。 158 00:22:14,700 --> 00:22:21,273 味方であるはずの南ベトナムの中にも 敵対勢力が出現していた。 159 00:22:21,273 --> 00:22:26,679 南ベトナム解放民族戦線 通称「ベトコン」。 160 00:22:28,581 --> 00:22:31,050 満足な武器のない彼らは➡ 161 00:22:31,050 --> 00:22:34,853 知恵と地の利を生かして アメリカ軍を苦しめた。 162 00:22:37,389 --> 00:22:39,725 戦場となったジャングルには➡ 163 00:22:39,725 --> 00:22:44,029 こうした「ブービートラップ」が 至る所に仕掛けられた。 164 00:22:46,632 --> 00:22:50,369 主な目的は 相手を殺すことではなく➡ 165 00:22:50,369 --> 00:22:53,806 傷を負わせることだったといわれている。 166 00:22:53,806 --> 00:22:59,478 負傷者が出ると その手当てで 数人が戦線から離脱するため➡ 167 00:22:59,478 --> 00:23:02,681 より多くの兵士を減らせることになる。 168 00:23:08,187 --> 00:23:13,892 アメリカ軍は 当初見くびっていた ゲリラ戦術を研究し始めた。 169 00:23:15,928 --> 00:23:20,332 これは アメリカ国内の 軍キャンプにつくられた… 170 00:23:23,669 --> 00:23:26,071 リアリティーを追求するため➡ 171 00:23:26,071 --> 00:23:30,042 プエルトリコ人に ベトナム人と同じ暮らしをさせ➡ 172 00:23:30,042 --> 00:23:32,344 敵兵を演じさせたという。 173 00:23:36,482 --> 00:23:39,051 しかし ここで対処法を学んでも➡ 174 00:23:39,051 --> 00:23:43,956 戦場では新手のブービートラップが 次々に出現していた。 175 00:23:47,860 --> 00:23:51,964 このゲリラ戦術を 編み出したのは… 176 00:23:54,266 --> 00:23:58,771 ホー・チ・ミンの右腕として知られた 天才軍事家だった。 177 00:24:39,278 --> 00:24:45,084 このころ 国防総省に 気がかりな数字が届いていた。 178 00:24:47,019 --> 00:24:50,756 アメリカ軍の脱走兵の数である。 179 00:24:50,756 --> 00:24:56,261 アメリカ軍では 戦場から 無断で離脱する兵士が増え続けていた。 180 00:24:58,364 --> 00:25:04,069 これは 脱走兵が身を隠した カナダの保護施設の映像。 181 00:25:06,805 --> 00:25:12,011 こうした脱走兵は 35万人以上に上った といわれている。 182 00:25:14,880 --> 00:25:21,687 しかし マクナマラが重要視し続けたのは 死者数 ボディカウントだった。 183 00:25:26,492 --> 00:25:30,429 アメリカ軍は 更にボディカウントを増やすべく➡ 184 00:25:30,429 --> 00:25:32,831 空からの攻撃を強化する。 185 00:25:37,136 --> 00:25:41,473 無差別攻撃で数を稼ごうとした。 186 00:25:41,473 --> 00:25:43,475 (爆発音) 187 00:25:45,744 --> 00:25:49,748 地上でも作戦はエスカレート。 188 00:25:49,748 --> 00:25:53,886 ゲリラの潜伏を疑った村を 丸ごと焼き払い➡ 189 00:25:53,886 --> 00:25:57,089 民間人を殺すことも しばしばだった。 190 00:25:59,057 --> 00:26:01,593 ついには 部隊対抗の➡ 191 00:26:01,593 --> 00:26:04,496 「ボディカウント・コンテスト」まで 行われ➡ 192 00:26:04,496 --> 00:26:10,502 成績上位の者には 休暇や特別な食料などが与えられた。 193 00:26:39,164 --> 00:26:43,035 しかし 犠牲者が増えれば増えるほど➡ 194 00:26:43,035 --> 00:26:47,339 ベトナム人の復しゅう心と 愛国心が燃え上がった。 195 00:27:16,869 --> 00:27:22,241 膨れ上がったキルレシオは 当初の目標をはるかに上回り➡ 196 00:27:22,241 --> 00:27:26,945 ある部隊では 1:45にまで達した。 197 00:27:31,416 --> 00:27:37,623 数値目標は達成しているのに 戦争に なぜ勝てないのか。 198 00:27:37,623 --> 00:27:42,628 マクナマラは 次第に自らの計算を疑い始める。 199 00:27:45,964 --> 00:27:49,835 その疑問を一人の男にぶつけた。 200 00:27:49,835 --> 00:27:57,042 これは1966年 マクナマラが ベトナムの視察に訪れた時の映像。 201 00:27:59,845 --> 00:28:02,748 ベトナムから帰国する飛行機の中で➡ 202 00:28:02,748 --> 00:28:06,652 マクナマラは一人の男に声をかけた。 203 00:28:09,555 --> 00:28:14,226 男の名は ダニエル・エルズバーグ。 204 00:28:14,226 --> 00:28:19,431 ペンタゴンの元職員で ベトナムに駐留する調査員だった。 205 00:29:00,672 --> 00:29:03,075 疑問は確信に変わる。 206 00:29:03,075 --> 00:29:09,081 マクナマラは ベトナムからの撤退を 視野に入れ始めていた。 207 00:29:10,816 --> 00:29:12,784 ところが。 208 00:29:12,784 --> 00:29:18,557 これは 飛行機から降り立った マクナマラが取材を受ける映像。 209 00:29:18,557 --> 00:29:21,493 マクナマラが記者に語ったのは➡ 210 00:29:21,493 --> 00:29:25,998 直前の機内での会話とは 正反対の内容だった。 211 00:29:47,052 --> 00:29:52,457 会見の最中 後ろをエルズバーグが横切った。 212 00:30:19,951 --> 00:30:22,587 マクナマラは ジョンソン大統領に➡ 213 00:30:22,587 --> 00:30:27,793 戦争以外の決着の方法を 検討すべきだと進言していた。 214 00:30:57,989 --> 00:31:03,095 しかし ジョンソンが この進言を受け入れることはなかった。 215 00:31:06,031 --> 00:31:09,267 マクナマラは戦争継続のために➡ 216 00:31:09,267 --> 00:31:13,772 その後も国民に 嘘をつき続けるしかなかった。 217 00:31:18,443 --> 00:31:21,680 これは 1968年1月➡ 218 00:31:21,680 --> 00:31:26,184 解放戦線の兵士が作戦会議を行う映像。 219 00:31:27,886 --> 00:31:31,790 兵士たちは ある場所を標的に見据えていた。 220 00:31:31,790 --> 00:31:37,295 南ベトナム サイゴンの アメリカ大使館である。 221 00:31:40,532 --> 00:31:43,969 「テト」と呼ばれるベトナムの旧正月に➡ 222 00:31:43,969 --> 00:31:50,175 北ベトナム軍と南ベトナムに潜む ゲリラ部隊が一斉蜂起した。 223 00:31:50,175 --> 00:31:52,277 「テト攻勢」である。 224 00:31:57,416 --> 00:32:01,219 ゲリラはアメリカ大使館の占拠に成功。 225 00:32:01,219 --> 00:32:05,924 その模様は リアルタイムで 世界に伝えられた。 226 00:32:15,734 --> 00:32:20,572 テレビの映像に アメリカ国民は衝撃を受けた。 227 00:32:20,572 --> 00:32:25,177 戦争は 勝利に 向かっているはずではなかったのか。 228 00:32:29,781 --> 00:32:33,785 更なる衝撃を与えたのが この映像である。 229 00:32:36,054 --> 00:32:38,957 捕虜となった解放戦線の兵士が➡ 230 00:32:38,957 --> 00:32:45,730 南ベトナムの国家警察によって 白昼の路上で射殺された。 231 00:32:45,730 --> 00:32:47,732 (銃声) 232 00:32:50,702 --> 00:32:54,806 この戦争に正義はあるのか。 233 00:32:54,806 --> 00:32:58,009 アメリカの世論が揺らぎ始めた。 234 00:33:02,614 --> 00:33:07,452 一方 北ベトナム側もメディアを通じて➡ 235 00:33:07,452 --> 00:33:11,256 自国の正当性や力を誇示しようとした。 236 00:33:16,828 --> 00:33:21,600 これは当時 北ベトナム側に 唯一 取材拠点を持っていた➡ 237 00:33:21,600 --> 00:33:24,402 日本のメディアが取材した映像。 238 00:33:27,539 --> 00:33:30,675 捕虜のアメリカ兵を引き回し➡ 239 00:33:30,675 --> 00:33:34,379 アメリカに決して負けていないことを 示そうとした。 240 00:33:37,449 --> 00:33:42,087 このころから 世界各国のメディアが現地に入り➡ 241 00:33:42,087 --> 00:33:44,890 アメリカ政府の嘘を暴いていく。 242 00:34:16,454 --> 00:34:21,259 アメリカ各地で ベトナム反戦の声が噴き出した。 243 00:34:24,129 --> 00:34:28,934 ワシントンの反戦デモには 10万人以上が参加した。 244 00:34:34,139 --> 00:34:37,842 若者たちは徴兵カードを燃やし➡ 245 00:34:37,842 --> 00:34:40,345 戦争に行くことを拒んだ。 246 00:34:43,148 --> 00:34:48,286 開戦時 60%あった国民の戦争支持率は➡ 247 00:34:48,286 --> 00:34:51,389 30%を割り込むまでになった。 248 00:34:53,591 --> 00:34:58,063 非難が集中したのは 国民の前で嘘をつき続けた➡ 249 00:34:58,063 --> 00:35:00,765 国防長官マクナマラだった。 250 00:35:02,434 --> 00:35:07,839 ベトナム政策の失敗を認めないでいるのは 限界に近づいていた。 251 00:35:12,010 --> 00:35:18,216 1968年2月に放送された討論番組。 252 00:35:18,216 --> 00:35:23,822 記者たちは マクナマラの根拠だった ボディカウントも疑っていた。 253 00:35:55,954 --> 00:35:59,557 厳しい追及が追い打ちをかける。 254 00:36:27,352 --> 00:36:29,921 失敗を認めたマクナマラと➡ 255 00:36:29,921 --> 00:36:33,792 戦争継続を唱える ジョンソン大統領との間に➡ 256 00:36:33,792 --> 00:36:35,994 対立が生じていた。 257 00:36:53,678 --> 00:36:56,948 討論番組から3週間後➡ 258 00:36:56,948 --> 00:37:00,952 マクナマラは国防長官を退任する。 259 00:37:04,689 --> 00:37:09,527 マクナマラは退任のスピーチに立った。 260 00:37:09,527 --> 00:37:11,529 しかし…。 261 00:37:31,783 --> 00:37:34,686 (拍手) 262 00:37:34,686 --> 00:37:40,592 7年という長きにわたる 国防長官の仕事を終えた。 263 00:37:43,528 --> 00:37:48,032 その3年後 世界に衝撃が走った。 264 00:37:52,137 --> 00:37:58,143 ベトナム戦争における機密情報を 7,000ページにわたって記録した 通称… 265 00:38:01,746 --> 00:38:06,651 それを何者かが盗み出し 新聞社にリークしたのだ。 266 00:38:12,791 --> 00:38:16,561 これらの文書は国防長官在任中➡ 267 00:38:16,561 --> 00:38:19,964 マクナマラが 作成を命じていたものだった。 268 00:38:55,266 --> 00:38:57,202 連日のニュースでは➡ 269 00:38:57,202 --> 00:39:02,006 これをリークした人物が誰かという論争で 持ちきりになった。 270 00:39:18,489 --> 00:39:20,925 ベトナム視察の 帰りの飛行機の中で➡ 271 00:39:20,925 --> 00:39:24,529 マクナマラと話した あの男だった。 272 00:39:47,018 --> 00:39:51,890 国家が隠し続けていた ベトナムの真実が明らかになり➡ 273 00:39:51,890 --> 00:39:55,793 反戦を訴える国民の声が爆発した。 274 00:40:00,465 --> 00:40:06,571 国防長官退任後 世界銀行総裁の ポストにおさまっていたマクナマラは➡ 275 00:40:06,571 --> 00:40:10,074 騒動に対し 沈黙し続けた。 276 00:40:13,711 --> 00:40:22,120 1973年 アメリカ政府は ついに ベトナムから軍を完全撤退させた。 277 00:40:29,627 --> 00:40:32,397 そして2年後➡ 278 00:40:32,397 --> 00:40:37,335 アメリカの後ろ盾を失った 南ベトナム政府が降伏し➡ 279 00:40:37,335 --> 00:40:40,338 ベトナム戦争は終わった。 280 00:40:45,076 --> 00:40:50,882 そして 社会主義政権によって 南北ベトナムは統一された。 281 00:40:54,619 --> 00:40:59,957 10年間で亡くなったアメリカ兵は およそ6万。 282 00:40:59,957 --> 00:41:04,562 ベトナム人の死者は 300万に上った。 283 00:41:08,666 --> 00:41:11,035 ある社会学者によって➡ 284 00:41:11,035 --> 00:41:16,341 「マクナマラの誤謬」という 言葉が生まれたのは このころである。 285 00:41:25,283 --> 00:41:29,887 それから20年がたった 1995年。 286 00:41:32,657 --> 00:41:36,961 ベトナムとアメリカの国交が回復した この年➡ 287 00:41:36,961 --> 00:41:41,466 一人のアメリカ人が ベトナムの地を訪れた。 288 00:41:44,702 --> 00:41:47,605 ロバート・マクナマラ。 289 00:41:47,605 --> 00:41:50,108 79歳になっていた。 290 00:41:52,377 --> 00:41:54,579 訪ねたのは… 291 00:41:56,347 --> 00:42:00,051 北ベトナムの総司令官だった人物である。 292 00:42:14,932 --> 00:42:20,338 マクナマラには ザップ将軍に どうしても聞きたいことがあった。 293 00:42:31,416 --> 00:42:34,819 ザップ将軍の答えは こうだった。 294 00:42:57,475 --> 00:43:02,480 マクナマラが その答えに納得することはなかった。 295 00:43:07,151 --> 00:43:10,421 分析の天才と 呼ばれたマクナマラ。 296 00:43:10,421 --> 00:43:17,028 最後までベトナムのことを理解しないまま この世を去った。 297 00:43:20,698 --> 00:43:24,268 「マクナマラの誤謬」。 298 00:43:24,268 --> 00:43:29,574 その言葉をつくったアメリカの社会学者は こう警告している。 299 00:44:08,779 --> 00:44:39,076 ♬~