1 00:00:33,249 --> 00:00:36,185 よろしく どうぞ。 2 00:00:36,185 --> 00:00:38,821 ここ? (取材者)はい。➡ 3 00:00:38,821 --> 00:00:41,321 よろしくお願いします。 4 00:00:48,330 --> 00:00:52,201 (取材者) いつごろから 東京の方には? 5 00:00:52,201 --> 00:00:55,204 おとといかな。 6 00:00:55,204 --> 00:00:58,340 ちょっと 家内の体調 悪かったんで。 7 00:00:58,340 --> 00:01:02,211 沖縄に治療に行くのに つきあってたんでね。 8 00:01:02,211 --> 00:01:06,211 ちょっと日に焼けちゃって 申し訳ないけど。 9 00:01:20,729 --> 00:01:25,367 それは 分からないね。 10 00:01:25,367 --> 00:01:30,239 分かったら やめても いいんじゃないかと思います。 11 00:01:30,239 --> 00:01:34,239 一点 あるとしたら…。 12 00:01:37,313 --> 00:01:41,183 もう それしかできないという事は…。 13 00:01:41,183 --> 00:01:49,825 もう それしか 人と つながる方法が➡ 14 00:01:49,825 --> 00:01:53,325 ないからかもしれない。 15 00:01:58,334 --> 00:02:05,334 (伊集院)<その日 先生が死んだ> 16 00:02:12,848 --> 00:02:15,348 <あっけなく…> 17 00:02:17,019 --> 00:02:19,355 <死んだ> 18 00:02:19,355 --> 00:02:25,227 ♬~ 19 00:02:25,227 --> 00:02:32,301 <あの時 僕は 先生と出会い 旅をし 別れた。➡ 20 00:02:32,301 --> 00:02:37,172 ただ それだけの事だった。➡ 21 00:02:37,172 --> 00:02:41,810 でも ただ一緒に過ごした➡ 22 00:02:41,810 --> 00:02:46,315 あの掛けがえのない日々が なかったら➡ 23 00:02:46,315 --> 00:02:49,218 今頃 僕は…➡ 24 00:02:49,218 --> 00:02:52,187 僕は…> 25 00:02:52,187 --> 00:02:56,187 ♬~ 26 00:03:04,333 --> 00:03:24,333 (荒い息遣い) 27 00:03:38,200 --> 00:03:46,200 (荒い息遣い) 28 00:03:50,312 --> 00:03:55,184 <妻の死から2年。➡ 29 00:03:55,184 --> 00:04:00,322 酒での失敗で つまらぬ騒ぎを何度も起こし➡ 30 00:04:00,322 --> 00:04:04,322 僕は 仕事を失っていた> 31 00:04:06,195 --> 00:04:11,195 [ 回想 ] 当座の金が必要なんです。 32 00:04:15,337 --> 00:04:18,337 お前は あっちに行ってなさい。 33 00:04:27,349 --> 00:04:30,349 いいよ 気にしないで。 34 00:04:32,187 --> 00:04:35,157 いいから 早くしまいなさい。 35 00:04:35,157 --> 00:04:41,296 ♬~ 36 00:04:41,296 --> 00:04:45,167 <大勢の人に 迷惑をかけて生きている自分に➡ 37 00:04:45,167 --> 00:04:48,170 ほとほと愛想が尽きていた> 38 00:04:48,170 --> 00:05:05,170 ♬~ 39 00:05:28,343 --> 00:05:31,246 ぷっ! うっ… ゴホッ! 40 00:05:31,246 --> 00:05:36,246 ゴホッ… ウエッ… ゴホッ…。 41 00:05:41,290 --> 00:05:44,290 おじさん 自殺? 42 00:05:51,300 --> 00:05:55,300 俺 死ぬ人に見える? 43 00:06:01,810 --> 00:06:05,314 そうか…。 44 00:06:05,314 --> 00:06:08,314 そうだよな…。 45 00:06:19,828 --> 00:06:23,332 <どう考えても 僕は➡ 46 00:06:23,332 --> 00:06:26,332 人間失格だった> 47 00:06:39,281 --> 00:06:41,783 (佐久間)よう。 48 00:06:41,783 --> 00:06:45,287 すいません 遅れてしまって。 ううん。 49 00:06:45,287 --> 00:06:48,190 急に呼び出しちゃって 悪かったね。 50 00:06:48,190 --> 00:06:51,160 いや どうしても 君に会わせたい人がいてさ。 はあ。 51 00:06:51,160 --> 00:06:53,795 でも よく来てくれたな。 52 00:06:53,795 --> 00:06:58,795 元気になったみたいでよかったよ。 ええ まあ なんとか やってます。 53 00:07:15,184 --> 00:07:18,184 先生に会うと み~んな ああなっちまうのさ。 54 00:07:29,331 --> 00:07:33,202 (ママ) サクちゃん 久しぶりじゃない。➡ 55 00:07:33,202 --> 00:07:38,140 いらっしゃってるわよ。 いたいた。 シ~ッ。 56 00:07:38,140 --> 00:07:40,776 あれ? 寝てんじゃん。 57 00:07:40,776 --> 00:07:44,276 (ママ)たった今 お休みになったところよ。 58 00:07:47,282 --> 00:07:53,155 <その人は おなかの上に 両手を行儀よく そろえ➡ 59 00:07:53,155 --> 00:07:56,155 目を閉じていた> 60 00:07:58,293 --> 00:08:04,166 純文学作家の色川武大さんで ギャンブル作家の阿佐田哲也さんだ。 61 00:08:04,166 --> 00:08:06,802 直木賞やら たくさん 賞 もらってるけど➡ 62 00:08:06,802 --> 00:08:08,737 どっちかと言えば 麻雀の神様の方が➡ 63 00:08:08,737 --> 00:08:12,307 通りがいいわな。 はい 「麻雀放浪記」は読みました。 64 00:08:12,307 --> 00:08:16,812 …ったく こ~んな隙だらけで➡ 65 00:08:16,812 --> 00:08:20,315 たくさんの男を 麻雀で 殺してきたっていうんだから➡ 66 00:08:20,315 --> 00:08:23,315 頭の中 どうなってんだかね? 67 00:08:25,187 --> 00:08:28,190 お疲れなんですかね? いや よく眠るの。 68 00:08:28,190 --> 00:08:32,761 この眠ってんのは 病気なんだよ。 えっ 病気なんですか? 69 00:08:32,761 --> 00:08:38,267 うん。 ナルコレプシーっていってさ 突然 所構わず眠っちまう病気なんだよ。 70 00:08:38,267 --> 00:08:43,138 ナルコレプシー? 突然っていうのは 昼 夜 関係なしにですか? 71 00:08:43,138 --> 00:08:47,276 この間なんか 横断歩道 渡ってる時に…➡ 72 00:08:47,276 --> 00:08:50,178 道のど真ん中で 寝たからね。 73 00:08:50,178 --> 00:08:55,150 また~ 大げさに言って。 大げさじゃないって。 74 00:08:55,150 --> 00:08:59,288 でも 原因不明で 幻覚にも襲われるってんだから➡ 75 00:08:59,288 --> 00:09:03,158 こりゃ大変だよな。 幻覚…。 76 00:09:03,158 --> 00:09:08,797 …にしても 大先生 いつまで寝てるんですか? 77 00:09:08,797 --> 00:09:12,668 駄目よ 起こしちゃ。 分かってるよ。 78 00:09:12,668 --> 00:09:16,168 おっ お目覚めですか? 79 00:09:19,308 --> 00:09:23,178 紹介します。 伊集院君です。 80 00:09:23,178 --> 00:09:26,181 伊集院ってのは 仕事上の名前ですけどね。 81 00:09:26,181 --> 00:09:28,681 ああ 初めまして。 82 00:09:37,259 --> 00:09:40,259 <大きな瞳だった> 83 00:09:46,268 --> 00:09:49,171 <初めてだった。➡ 84 00:09:49,171 --> 00:09:54,142 こんなふうに人を見る大人と 出会ったのは> 85 00:09:54,142 --> 00:10:00,142 先生 おはよう。 じゃあ お水を飲みましょう。 はい。 86 00:10:02,284 --> 00:10:08,156 おっ 先生 お早いご帰還で。 お宅ら そっちで遊んでなよ。 87 00:10:08,156 --> 00:10:10,792 嫌ですよ 起きるの 待ってたんですから。 88 00:10:10,792 --> 00:10:13,295 いいから そっちで遊んでろって。 こっちは 大事な先生と➡ 89 00:10:13,295 --> 00:10:16,798 用があるんだから。 こっちだって 大事な話だよ。 90 00:10:16,798 --> 00:10:19,701 フクモトさんの大事な話ってのは どうせ ろくな事じゃないでしょ。 91 00:10:19,701 --> 00:10:21,970 あっ 聞き捨てならないね。 92 00:10:21,970 --> 00:10:24,306 佐久間さんだって 先生の本質 分かってないんじゃないの? 93 00:10:24,306 --> 00:10:26,241 分かってないのは お宅でしょ? 94 00:10:26,241 --> 00:10:28,176 こっちは 先生と何年 つきあってると思ってんだよ? 95 00:10:28,176 --> 00:10:30,178 こっちだって そうだよ。 (佐久間)じゃあ いつからだよ? 96 00:10:30,178 --> 00:10:32,180 いや そっち いつからだよ? そっちから先に言えよ。 97 00:10:32,180 --> 00:10:34,816 いつ どこで? 何時何分何秒? 98 00:10:34,816 --> 00:10:38,487 こっちだって 話あんだよ 大事な。➡ 99 00:10:38,487 --> 00:10:42,324 文学で これからの日本を救おう って大事な話だよな。 100 00:10:42,324 --> 00:10:45,324 (佐久間)何 言ってんの お宅 貸し取りじゃない。 101 00:10:47,195 --> 00:10:51,195 (色川)伊集院君でしたっけ? ええ。 102 00:10:53,335 --> 00:10:57,335 やります? ええ まあ。 103 00:11:00,208 --> 00:11:06,348 あ~ あなた もう 先生に 気に入られちゃったみたいね。 104 00:11:06,348 --> 00:11:09,348 ん~ ちょっとジェラシー。 105 00:11:18,360 --> 00:11:21,863 <伝説の雀聖との一局。➡ 106 00:11:21,863 --> 00:11:26,368 僕は 緊張していた> 107 00:11:26,368 --> 00:11:30,238 (山本)先生 死んだふりは やめて下さいよ。 108 00:11:30,238 --> 00:11:33,175 (佐久間) 先生のは 死んだふりなんだか➡ 109 00:11:33,175 --> 00:11:36,812 ナルコのせいなんだか 分かんないからね。 ハハハッ まさか。 110 00:11:36,812 --> 00:11:41,316 私は もう そういうばくちから 足 洗ってますから。 111 00:11:41,316 --> 00:11:45,187 <プロのばくち打ちは よく死んだふりをする。➡ 112 00:11:45,187 --> 00:11:48,190 勝負から降りているふりを 決め込んで➡ 113 00:11:48,190 --> 00:11:55,190 その実 相手の特徴を見極め 罠を張り巡らしていく> 114 00:12:00,335 --> 00:12:04,206 リーチ。 いや 参ったね そのリーチ。 115 00:12:04,206 --> 00:12:07,209 こんなんで 当たりだったら 性格悪すぎですよ。 116 00:12:07,209 --> 00:12:09,845 ロン。 上がれるの? 117 00:12:09,845 --> 00:12:13,348 ギャンブルは 汐目を読まないとね。 118 00:12:13,348 --> 00:12:17,219 出と引っ込みが半端になると 泥船みたいに ズルズル沈むだけです。 119 00:12:17,219 --> 00:12:19,221 はいはい。 120 00:12:19,221 --> 00:12:24,221 (佐久間)ロン。 メンタンピン イーペイコー ドラドラ。 ハネマン。 121 00:12:26,361 --> 00:12:28,296 (山本)ツモ。 122 00:12:28,296 --> 00:12:34,169 トン ホンイツ イッツーで マンガン。 さすが アーティスト きれいだね。 123 00:12:34,169 --> 00:12:36,171 ツモ。 124 00:12:36,171 --> 00:12:39,307 チートイのみの 8本 16本の安手です。 125 00:12:39,307 --> 00:12:42,210 (佐久間)ちょっと それ わざと 安めで 上がってんじゃない。 126 00:12:42,210 --> 00:12:44,179 いや そんな…。 127 00:12:44,179 --> 00:12:49,317 伊集院君は 場を荒らさないために 我慢なさったんですよ。 ねっ。 128 00:12:49,317 --> 00:12:51,253 いえ…。 129 00:12:51,253 --> 00:12:54,253 リーチ。 130 00:12:56,191 --> 00:12:59,327 ちょっと 先生。 先生。 131 00:12:59,327 --> 00:13:04,199 う~ん…。 132 00:13:04,199 --> 00:13:09,004 あ 申し訳ないけど それ 高めです。 133 00:13:09,004 --> 00:13:11,339 (一同)えっ? 134 00:13:11,339 --> 00:13:15,339 (佐久間) ちょっと 何? これ バラバラで。 ホントに上がってんですか? 135 00:13:21,349 --> 00:13:26,221 うわ~。 はあ~ すげえ! 136 00:13:26,221 --> 00:13:28,857 (山本)ホントに高めだよ。➡ 137 00:13:28,857 --> 00:13:31,760 ひどいな 寝たふりして こんな手で上がって。 138 00:13:31,760 --> 00:13:35,297 いや ふりじゃなくて ホントに寝てたんですよ。 139 00:13:35,297 --> 00:13:38,199 ごめんなさい。 140 00:13:38,199 --> 00:13:43,171 <驚いていた。 先生の打ち方は 美しかった。➡ 141 00:13:43,171 --> 00:13:50,312 ツキと論理の采配に身を委ね 平然と打ち続けるものだった。➡ 142 00:13:50,312 --> 00:13:54,182 でも それ以上に驚いたのは…> 143 00:13:54,182 --> 00:13:57,182 ロン。 え? 144 00:13:59,321 --> 00:14:02,223 えっ 何ですか? それ。 シャーのみじゃないですか。➡ 145 00:14:02,223 --> 00:14:05,193 せっかく トップ目だったのに。 146 00:14:05,193 --> 00:14:10,332 何事も バランスですよ サクちゃん。 相撲で言う9勝6敗です。 147 00:14:10,332 --> 00:14:15,203 確かに 15勝全勝じゃ つまらない。 148 00:14:15,203 --> 00:14:19,341 <ギャンブルの持つ 独特な感情の とげのようなものが➡ 149 00:14:19,341 --> 00:14:22,341 見えなかった事だ> 150 00:14:24,212 --> 00:14:26,848 <何と言うのだろう?➡ 151 00:14:26,848 --> 00:14:30,719 しがらみが外された 柔らかな水の中で➡ 152 00:14:30,719 --> 00:14:34,289 魚が じゃれ合ってるとでも いうような…> 153 00:14:34,289 --> 00:14:36,224 おいおい。 はい。 154 00:14:36,224 --> 00:14:38,460 君まで 死んだふり 決め込むつもりかい? 155 00:14:38,460 --> 00:14:40,460 ああ すいません。 156 00:14:42,130 --> 00:14:46,330 <それは 先生の影響が大きい> 157 00:14:48,303 --> 00:14:53,174 <こんな気持ちを味わったのは 久々だった> 158 00:14:53,174 --> 00:14:56,174 すごいな。 159 00:15:06,321 --> 00:15:13,321 <今にして思えば 何かが 始まっていたのかもしれない> 160 00:15:30,345 --> 00:15:33,782 先生 先生。 161 00:15:33,782 --> 00:15:41,289 ん? う~ん…。 162 00:15:41,289 --> 00:15:46,289 すいません 神楽坂に着きました。 163 00:15:57,305 --> 00:16:01,305 僕は ここで失礼します。 164 00:16:21,329 --> 00:16:25,200 <僕には そういうところがある。➡ 165 00:16:25,200 --> 00:16:30,338 必要以上に 他人に深入りしない。➡ 166 00:16:30,338 --> 00:16:36,144 そんな僕の生き方を変えたのが 雅子だった> 167 00:16:36,144 --> 00:16:43,284 ♬~ 168 00:16:43,284 --> 00:16:49,157 <当時 僕は 業界のヒットメーカーといわれていた。➡ 169 00:16:49,157 --> 00:16:53,795 それが 流行クリエーターの使命とでも 思っていたのか➡ 170 00:16:53,795 --> 00:16:59,300 女を抱き 浴びるほど高級な酒を飲んだ。➡ 171 00:16:59,300 --> 00:17:06,174 そんな僕と雅子は 彼女がまだ10代の時に出会った。➡ 172 00:17:06,174 --> 00:17:13,174 大きな瞳をした少女だった事を 強く覚えている> 173 00:17:17,685 --> 00:17:20,688 <雅子とのつきあいが 世間にばれ➡ 174 00:17:20,688 --> 00:17:25,326 僕は 会社をクビになった。➡ 175 00:17:25,326 --> 00:17:28,229 仲間と称しあっていた連中や➡ 176 00:17:28,229 --> 00:17:31,132 とうの昔に 愛想を尽かしていた妻子が➡ 177 00:17:31,132 --> 00:17:35,132 僕の前から消えた> 178 00:17:39,274 --> 00:17:45,780 <ばくちと酒に明け暮れ 所構わず徘徊する僕を➡ 179 00:17:45,780 --> 00:17:52,280 雅子は 何も文句を言わずに いつも待っていてくれた> 180 00:17:55,290 --> 00:18:01,290 <雅子の異様なまでの信頼に 僕は 驚いていた> 181 00:18:04,299 --> 00:18:10,299 <自分は これまで 誰かを 愛した事があっただろうか?> 182 00:18:12,173 --> 00:18:19,173 <これからってやさき 彼女は いなくなってしまった> 183 00:18:30,325 --> 00:18:36,130 <傷つくのは 誰かを思う事だ。➡ 184 00:18:36,130 --> 00:18:42,270 また 僕は 人に深入りしないよう 心に誓った➡ 185 00:18:42,270 --> 00:18:44,772 …はずだった> 186 00:18:44,772 --> 00:18:46,772 すいません 降ります。 187 00:19:39,260 --> 00:19:45,133 <あれほど 人から慕われ ユーモアにあふれた人が➡ 188 00:19:45,133 --> 00:19:49,133 こんなふうに吹きだまりの中で…> 189 00:19:54,275 --> 00:19:56,275 先生。 190 00:20:00,148 --> 00:20:05,286 おお… おお 伊集院君。 191 00:20:05,286 --> 00:20:11,159 大丈夫ですか? ああ 僕なら 大丈夫だけど。 192 00:20:11,159 --> 00:20:13,795 ずっと ここにいたの? 193 00:20:13,795 --> 00:20:18,299 先生とお別れしたあと 戻ってきてしまって。 194 00:20:18,299 --> 00:20:21,202 そうですか。 それは 申し訳ない事をしました。 195 00:20:21,202 --> 00:20:26,202 いや 僕が 勝手に そうしただけですから。 196 00:20:43,324 --> 00:20:46,324 どうぞ。 すいません。 197 00:21:05,346 --> 00:21:10,218 伊集院君は 結構あちこち 行ってるんでしょ? 198 00:21:10,218 --> 00:21:14,218 何も やる事がないですから。 199 00:21:17,358 --> 00:21:20,261 明日からは 選手が面白そうなので➡ 200 00:21:20,261 --> 00:21:23,231 伊東に行ってこようかと 思ってます。 201 00:21:23,231 --> 00:21:26,367 伊東競輪ですか。 202 00:21:26,367 --> 00:21:30,238 あそこは 温泉もあって いい所ですね。 203 00:21:30,238 --> 00:21:33,174 温泉が お好きなんですか? いえ。 204 00:21:33,174 --> 00:21:36,174 お風呂は ほとんど入りません。 205 00:21:41,315 --> 00:21:43,815 伊集院君。 206 00:21:46,187 --> 00:21:52,187 あなたには 私と同じにおいがします。 207 00:21:56,330 --> 00:22:01,330 ハハハ… 違いますよ ハハハハハ…。 208 00:22:06,340 --> 00:22:11,212 今度 私と旅打ちにでも 行きませんか? 209 00:22:11,212 --> 00:22:15,212 旅打ち… ですか? 210 00:22:17,351 --> 00:22:20,254 いいですね。 211 00:22:20,254 --> 00:22:27,254 旅をしながら ばくちを打つ こんな道楽 ありません。 212 00:22:30,364 --> 00:22:36,364 <先生は 僕を旅打ちに誘った> 213 00:22:54,322 --> 00:23:00,194 <こうして 僕が 誰かと2人旅を している事への違和感はある。➡ 214 00:23:00,194 --> 00:23:03,331 でも それ以上に➡ 215 00:23:03,331 --> 00:23:06,834 あれだけたくさんの人に 愛されている先生が➡ 216 00:23:06,834 --> 00:23:11,706 なぜ あの晩 石くれみたいに なっていたのか➡ 217 00:23:11,706 --> 00:23:14,706 気がかりだった> 218 00:23:29,223 --> 00:23:33,294 う~ うっ… う…。 219 00:23:33,294 --> 00:23:36,797 先生 どうしたんですか? 大丈夫ですか? 220 00:23:36,797 --> 00:23:39,700 何か あたったんですか? うう… うっ…。 221 00:23:39,700 --> 00:23:46,307 う… こ… 怖い。 何がですか? 222 00:23:46,307 --> 00:23:54,182 ぼ… 僕は… ま… 丸い物が…。 223 00:23:54,182 --> 00:23:59,320 丸い物? 丸… 丸? 224 00:23:59,320 --> 00:24:03,320 丸? 丸? 225 00:24:07,195 --> 00:24:10,331 みかんですか? えっ!? 226 00:24:10,331 --> 00:24:13,234 ああ… すいません。 227 00:24:13,234 --> 00:24:19,840 <先生との旅は とにかく不思議な事だらけで➡ 228 00:24:19,840 --> 00:24:24,340 それは ほんの序章に過ぎなかった> 229 00:24:30,351 --> 00:24:34,351 粘れよ! 頑張れ! 230 00:24:41,295 --> 00:24:47,168 <先生は しばらくケンすると 眠ってしまった。➡ 231 00:24:47,168 --> 00:24:53,307 その寝顔は どこか苦しそうだった。➡ 232 00:24:53,307 --> 00:24:59,180 でも 僕には どうする事もできなかった> 233 00:24:59,180 --> 00:25:02,180 イロさん 久しぶり! 234 00:25:06,320 --> 00:25:10,320 哲あにぃ どうよ 調子は? 235 00:25:14,195 --> 00:25:18,332 哲さん。 クククク…。 236 00:25:18,332 --> 00:25:24,839 何 寝たふりしてんですか? アハハハハハ… ちょっと 哲さん。 237 00:25:24,839 --> 00:25:28,709 <先生の周りには どうして こういう人ばかり➡ 238 00:25:28,709 --> 00:25:32,709 と思う人が 集まってきた> 239 00:25:43,791 --> 00:25:48,296 (徳三)よう イロさん 懐かしいね。 240 00:25:48,296 --> 00:25:51,198 俺だ! 俺だよ イロさん 俺だ。 241 00:25:51,198 --> 00:25:53,634 おい よさないか! 242 00:25:53,634 --> 00:25:58,334 俺っちの一張羅を 汚え手で触りやがって! 243 00:26:09,183 --> 00:26:13,183 イロさん 俺だよ。 覚えてるだろ? 244 00:26:15,323 --> 00:26:21,195 徳さんか。 うれしいね~。 何十年ぶりかな? 245 00:26:21,195 --> 00:26:26,334 いや~…。 おっ…。 ハハハハハハ…。 246 00:26:26,334 --> 00:26:31,172 はあ~ あ~ イタタタタタ…。 ハハハハハハハ…。 247 00:26:31,172 --> 00:26:34,141 イロさ~ん。 おっ…。 ハハハハハハハ…。 248 00:26:34,141 --> 00:26:37,278 ああ~。 ハハハハハハハ…。 あ~ もう~。 249 00:26:37,278 --> 00:26:40,181 ああ~! ハハハハハハハ…。 250 00:26:40,181 --> 00:26:43,150 ハハハハハハハ…。 切れが ねえわな。 251 00:26:43,150 --> 00:26:51,150 久しぶりついでに イロさん これ タネ貸してくんねえかな。 252 00:26:54,295 --> 00:26:59,166 徳さん これで足りるかな? さすが 先生。 話が早えや。 253 00:26:59,166 --> 00:27:02,169 ありがとよ。 フフッ。 254 00:27:02,169 --> 00:27:06,307 何ですか? あいつ。 255 00:27:06,307 --> 00:27:09,210 昔 芸人でした。 256 00:27:09,210 --> 00:27:12,179 あの手の連中は 一度 情けをかけると➡ 257 00:27:12,179 --> 00:27:16,317 つけあがりますから もう よした方が…。 258 00:27:16,317 --> 00:27:25,317 伊集院君。 僕はね その人の いい部分にだけ すがりつきます。 259 00:27:28,345 --> 00:27:36,345 <何か 物事の浅い見方を 先生に たしなめられた気がした> 260 00:27:47,698 --> 00:27:55,198 伊集院君。 さっきの人はね 戦前からの知り合いなんですよ。 261 00:28:01,245 --> 00:28:03,245 ほら。 262 00:28:11,322 --> 00:28:14,225 返すよ。 263 00:28:14,225 --> 00:28:16,225 よいしょ。 264 00:28:29,340 --> 00:28:32,243 学校をサボっては よく➡ 265 00:28:32,243 --> 00:28:36,147 あの人が出てた小屋に 足 運んだものです。 266 00:28:36,147 --> 00:28:40,284 不良少年だったんですね。 不良少年? 267 00:28:40,284 --> 00:28:43,187 そんな格好のいいもんじゃ ないですよ。 268 00:28:43,187 --> 00:28:47,158 落ちこぼれってやつですね。 269 00:28:47,158 --> 00:28:55,299 最初は ほら あの神社 覚えてます? 270 00:28:55,299 --> 00:29:01,172 先生と初めてお会いした晩の あの神社ですか? うん。 271 00:29:01,172 --> 00:29:05,309 ちっちゃな頃から 自分は 人並みには生きられないって➡ 272 00:29:05,309 --> 00:29:08,212 思い込んじゃってましてね。 273 00:29:08,212 --> 00:29:13,184 あの辺の草むらで 一日中 暇つぶして➡ 274 00:29:13,184 --> 00:29:19,323 そのうちに 浅草界わいを うろつくようになって…。 275 00:29:19,323 --> 00:29:22,226 変でしょ? 276 00:29:22,226 --> 00:29:30,226 ランドセルしょった子どもが 昼間から 芝居小屋ウロウロしてるんですから。 277 00:29:40,277 --> 00:29:43,180 <先生は いやに饒舌だった> 278 00:29:43,180 --> 00:29:49,286 戦時中もね 非国民って事で 無期停学になっちゃって。 279 00:29:49,286 --> 00:29:51,789 そうしたら そのまま終戦で…。 280 00:29:51,789 --> 00:29:55,659 学歴もないし おまけに この絶壁頭だから。 281 00:29:55,659 --> 00:29:59,296 それほどでもないですよ。 いや それほどです。 282 00:29:59,296 --> 00:30:03,801 これはもう 何か 自分だけの生き方 作らないと➡ 283 00:30:03,801 --> 00:30:06,704 生きようがないなと思って。 284 00:30:06,704 --> 00:30:12,309 神田とか秋葉原辺りの 電車の中でね➡ 285 00:30:12,309 --> 00:30:17,181 スリになる練習しましてね。 そしたら 3か月もするとね➡ 286 00:30:17,181 --> 00:30:21,318 10人のうち3人ぐらいは 分かるのね。 287 00:30:21,318 --> 00:30:26,190 財布… ですか? うん ところが 手が出ない。 288 00:30:26,190 --> 00:30:30,327 にらみつけててね 他人の財布をね。 289 00:30:30,327 --> 00:30:36,327 それでも手が出ないから ああ これは 才能ないなと思って。 290 00:30:38,202 --> 00:30:43,340 他人とも うまく関われないし…。 291 00:30:43,340 --> 00:30:48,340 ばくち場でしか 世間の空気 吸えなかった。 292 00:30:52,349 --> 00:30:57,221 <先生のまとう 不思議な空気のようなものに➡ 293 00:30:57,221 --> 00:31:01,221 僕は 次第に引かれていった> 294 00:31:06,363 --> 00:31:12,363 <そんな時 恐れていた事が 起こってしまった> 295 00:31:17,374 --> 00:31:21,245 はい 皆さん ズバリ当たりましたね。 296 00:31:21,245 --> 00:31:24,248 1ー2でまくって 2ー1。 297 00:31:24,248 --> 00:31:28,886 <その日 僕は 一人で出かけた。➡ 298 00:31:28,886 --> 00:31:32,323 今日が 原稿の締め切り日だという 先生には➡ 299 00:31:32,323 --> 00:31:37,323 東京からやって来た編集者が ピッタリと張り付いていた> 300 00:31:46,337 --> 00:31:49,337 先生 すばらしいです。 301 00:31:52,209 --> 00:31:56,847 先生らしい いい仕事になる予感がしてます。 302 00:31:56,847 --> 00:32:00,347 大げさですね 君も。 303 00:32:05,856 --> 00:32:09,356 どれだけの人に届くか…。 304 00:32:11,028 --> 00:32:15,366 これは 誰にでも心当たりのある話です。 305 00:32:15,366 --> 00:32:19,870 バブルだ 何だって… 人間的なものを 大事にしなくなった➡ 306 00:32:19,870 --> 00:32:25,376 こんな時代だからこそ この心の病に侵され➡ 307 00:32:25,376 --> 00:32:31,181 社会から孤立してしまった男が 自分の内面と向き合うというテーマ。 308 00:32:31,181 --> 00:32:35,185 これは 読者の心に刺さると思います。 309 00:32:35,185 --> 00:32:40,185 そうですか? だといいんですけど。 310 00:32:42,326 --> 00:32:46,196 私みたいな平凡なサラリーマンでも➡ 311 00:32:46,196 --> 00:32:50,200 毎朝 満員電車に乗る時に 考えてしまいます。 312 00:32:50,200 --> 00:32:53,200 「俺は 何なのか?」って。 313 00:32:55,339 --> 00:32:59,209 それでも 家族や会社の事 考えると➡ 314 00:32:59,209 --> 00:33:02,212 バランスとってる自分がいて…。 315 00:33:02,212 --> 00:33:05,349 そんな時➡ 316 00:33:05,349 --> 00:33:11,221 「あ~ 自分は いつから 狂っちまったんかな」って➡ 317 00:33:11,221 --> 00:33:13,857 思うんですよ。 318 00:33:13,857 --> 00:33:17,857 みんな 狂人予備軍って訳ですか。 319 00:33:34,178 --> 00:33:37,181 先生みたいな不良少年に➡ 320 00:33:37,181 --> 00:33:41,318 これからも もっと書いていって頂かないと。 321 00:33:41,318 --> 00:33:45,818 次回作のテーマだって もう決まってるんですからね。 322 00:33:50,327 --> 00:33:54,327 いくつになっても 不良少年。 323 00:33:57,201 --> 00:34:02,201 落後者のままでいたいですね。 324 00:34:07,344 --> 00:34:12,216 そうして みっともないまま死ねたら➡ 325 00:34:12,216 --> 00:34:16,353 私の一生は 成功です。 326 00:34:16,353 --> 00:34:22,226 ♬~ 327 00:34:22,226 --> 00:34:26,363 何をおっしゃってるんですか。 328 00:34:26,363 --> 00:34:30,234 僕には もう時間がありません。 329 00:34:30,234 --> 00:34:33,170 もう時間がない。 330 00:34:33,170 --> 00:34:41,311 ♬~ 331 00:34:41,311 --> 00:34:45,182 先生 それでは。 332 00:34:45,182 --> 00:34:48,185 あ あの… この間も言いましたけど➡ 333 00:34:48,185 --> 00:34:52,322 伊集院君の件 くれぐれも お願いしますね。 334 00:34:52,322 --> 00:34:55,225 あ… はい。 335 00:34:55,225 --> 00:34:58,195 失礼します。 336 00:34:58,195 --> 00:35:12,195 ♬~ 337 00:35:18,348 --> 00:35:23,220 <ギャンブル場は 心が安らぐ。➡ 338 00:35:23,220 --> 00:35:28,220 皆 手前が勝つ事しか 考えていないからだ> 339 00:35:30,360 --> 00:35:36,360 <他人との関わりが煩わしかった 僕には うってつけだった> 340 00:35:38,168 --> 00:35:42,306 <何よりも ばくちに集中さえしていれば➡ 341 00:35:42,306 --> 00:35:46,810 僕の中の どうしようもない気持ちを➡ 342 00:35:46,810 --> 00:35:51,315 封印し続ける事が できたからだった。➡ 343 00:35:51,315 --> 00:35:53,815 なのに…> 344 00:35:58,188 --> 00:36:03,827 <悔やむのは いつも 後になってからだ。➡ 345 00:36:03,827 --> 00:36:10,327 先生と過ごす柔らかな時間が 僕を油断させた> 346 00:36:21,244 --> 00:36:26,216 お客さん もうレース終わってますよ。 347 00:36:26,216 --> 00:36:31,216 うちも そろそろ閉めるんで。 348 00:36:47,304 --> 00:36:49,806 (トレーを乱暴に置く音) 349 00:36:49,806 --> 00:37:04,306 ♬~ 350 00:37:07,224 --> 00:37:14,224 (荒い息遣い) 351 00:37:20,337 --> 00:37:23,337 大丈夫ですか? 352 00:37:37,287 --> 00:37:39,790 心配しましたよ。 353 00:37:39,790 --> 00:37:42,693 ごはんになっても 帰ってこないから。 354 00:37:42,693 --> 00:37:47,297 先生 すいません。 355 00:37:47,297 --> 00:37:50,200 め… 迷惑かけてしまって。 356 00:37:50,200 --> 00:37:55,172 ちっとも迷惑なんかじゃないです。 357 00:37:55,172 --> 00:37:58,308 何か あったんですか? 358 00:37:58,308 --> 00:38:03,180 いえ… いえ 別に。 359 00:38:03,180 --> 00:38:11,180 ちょっと 飲み過ぎてしまって 路上で寝てしまったようで…。 360 00:38:16,326 --> 00:38:20,326 それは 極楽でしたね。 361 00:38:25,836 --> 00:38:28,336 ああ…。 362 00:38:32,275 --> 00:38:34,275 ああ…。 363 00:38:44,287 --> 00:38:49,287 さあ おいしい物 食べて もっと極楽へ行きましょう。 364 00:38:56,299 --> 00:39:31,134 ♬~ 365 00:39:31,134 --> 00:39:37,134 <やっぱり 僕は 何も変わっちゃいなかったのだ> 366 00:39:42,279 --> 00:39:51,279 (汽笛) 367 00:39:59,296 --> 00:40:03,800 いや~ 人間の手から 餌をかすめ取るっていうのは➡ 368 00:40:03,800 --> 00:40:09,306 あれはあれで 相当な技術と勇気を 要するんでしょうな。 369 00:40:09,306 --> 00:40:12,209 先生。 370 00:40:12,209 --> 00:40:16,813 先生は 寝てる時 たまに 苦しそうにしてますけど➡ 371 00:40:16,813 --> 00:40:21,318 ああいう時 何を見てるんですか? 372 00:40:21,318 --> 00:40:29,192 ん~ 電柱の陰からね 突然 機関車が飛び出してきたり➡ 373 00:40:29,192 --> 00:40:34,331 たまに 猿がね 出てくる事もあります。 374 00:40:34,331 --> 00:40:37,234 あれは ちょっかい出してきますからね➡ 375 00:40:37,234 --> 00:40:40,203 やっかいです。 376 00:40:40,203 --> 00:40:44,341 そういう時 先生は…? 377 00:40:44,341 --> 00:40:47,244 知らんぷりを決め込みます。 378 00:40:47,244 --> 00:40:52,215 うまくいかない時も ありますけどね。 379 00:40:52,215 --> 00:40:56,353 あれ? 伊集院君も見るんですか? 380 00:40:56,353 --> 00:41:00,223 いえ… あ~。 381 00:41:00,223 --> 00:41:05,223 僕のは 単に悪い夢です。 382 00:41:08,365 --> 00:41:10,300 あ そうそう。 383 00:41:10,300 --> 00:41:16,239 スピルバーグの「失われたアーク」は 見ました? 見ました。 384 00:41:16,239 --> 00:41:21,878 あのアークから飛び出してくるものね あれ スピルバーグ本人が見てますね。 385 00:41:21,878 --> 00:41:25,749 分かります。 ムンクの「叫び」のようなものですか。 386 00:41:25,749 --> 00:41:28,385 そう そう そう そうなんだ! 387 00:41:28,385 --> 00:41:33,385 世界中で 同じものを 見てるんだね。 ハハハハハハ…。 388 00:41:35,191 --> 00:41:48,338 ♬~ 389 00:41:48,338 --> 00:41:54,210 <その日も ばくちを堪能した僕たちは➡ 390 00:41:54,210 --> 00:41:59,210 その晩 海の幸を たらふく頂戴した> 391 00:42:05,755 --> 00:42:08,358 伊集院君。 392 00:42:08,358 --> 00:42:13,229 ああ 目覚められましたか。 さっき起きました。 393 00:42:13,229 --> 00:42:16,232 はあ… おなかがすいたね。 394 00:42:16,232 --> 00:42:19,369 さっき たらふく 食べたばかりじゃないですか。 395 00:42:19,369 --> 00:42:22,272 そうでしたっけ? ええ。 396 00:42:22,272 --> 00:42:26,242 どうしたんですか? こんな所で ぼんやりして。 397 00:42:26,242 --> 00:42:31,314 ちょっと 考え事をしてたんで。 398 00:42:31,314 --> 00:42:35,185 小説の事? えっ? 399 00:42:35,185 --> 00:42:39,189 考え事って 小説の事じゃないの? 400 00:42:39,189 --> 00:42:44,189 いえ 違います。 大した事ではありません。 401 00:42:45,862 --> 00:42:49,332 読みました。 402 00:42:49,332 --> 00:42:52,235 何をです? 403 00:42:52,235 --> 00:42:57,235 あなたの書いた小説です。 とてもよかったです。 404 00:42:59,009 --> 00:43:01,344 はあ…。 405 00:43:01,344 --> 00:43:04,247 今でも書いてるの? 406 00:43:04,247 --> 00:43:09,219 いいえ 今は もう書いていません。 407 00:43:09,219 --> 00:43:11,219 どうして? 408 00:43:18,361 --> 00:43:21,865 <僕は CMの会社をクビになった時➡ 409 00:43:21,865 --> 00:43:24,768 3編の短編を書いた。➡ 410 00:43:24,768 --> 00:43:27,737 運よく 一つが掲載されたが➡ 411 00:43:27,737 --> 00:43:30,874 編集者に さんざん酷評されたあげく➡ 412 00:43:30,874 --> 00:43:36,312 原稿料の驚くほどの乏しさに 腹が立った。➡ 413 00:43:36,312 --> 00:43:39,312 僕は 書く事をやめた> 414 00:43:41,184 --> 00:43:47,323 こんなふうに言うと 君は 気を 悪くするかもしれませんけどね➡ 415 00:43:47,323 --> 00:43:53,196 私には あなたの小説のよさが 分かります。 416 00:43:53,196 --> 00:43:57,333 どうです? 相撲の申し稽古みたいに➡ 417 00:43:57,333 --> 00:44:01,333 小説を書く稽古を してみませんか? 418 00:44:06,342 --> 00:44:08,845 先生。 419 00:44:08,845 --> 00:44:11,345 はい。 420 00:44:14,350 --> 00:44:17,253 先生は 誰からも愛され➡ 421 00:44:17,253 --> 00:44:22,225 たくさんの人の心を 受け取る事ができる特別な人です。 422 00:44:22,225 --> 00:44:28,225 小説とは 先生のような方が 書くものだと思っています。 423 00:44:32,735 --> 00:44:39,309 私は 人を失望させるだけの 生き方しかしていません。 424 00:44:39,309 --> 00:44:44,814 生きる価値のある人間と そうでない者があるとしたら➡ 425 00:44:44,814 --> 00:44:49,814 どう考えても 私は 後者です。 426 00:44:56,326 --> 00:45:01,197 自分に生きる価値も見いだせない 僕の書いたものに➡ 427 00:45:01,197 --> 00:45:05,197 何の価値があるんでしょうか? 428 00:45:10,340 --> 00:45:18,340 私には 先生のような資質は ありません。 429 00:45:22,352 --> 00:45:28,224 ただ 私は 伊集院君が 書く気に なってくれればいいなと…。 430 00:45:28,224 --> 00:45:35,224 しょ… 小説は… 書きません。 431 00:45:37,300 --> 00:45:40,300 ごめん。 432 00:45:42,172 --> 00:45:45,172 すいません。 433 00:45:56,319 --> 00:46:02,192 (鉛筆を削る音) 434 00:46:02,192 --> 00:46:28,192 (時計の秒針の音) 435 00:46:50,306 --> 00:46:53,209 ≪う~ うう~。 436 00:46:53,209 --> 00:46:58,181 ≪来るな。 来るな! 駄目だよ! 437 00:46:58,181 --> 00:47:03,319 ≪うう… 来るな! 駄目だ! 438 00:47:03,319 --> 00:47:06,222 ≪う~ うう…。 439 00:47:06,222 --> 00:47:12,328 ≪うう… く… 来るな! 駄目だ! 440 00:47:12,328 --> 00:47:16,199 ≪駄目… 来ちゃ… 来ちゃ駄目! 441 00:47:16,199 --> 00:47:20,203 ≪う~ うう~。 442 00:47:20,203 --> 00:47:23,203 ≪うう~ うう~。 443 00:47:36,286 --> 00:47:41,157 先生 大丈夫ですか? 伊集院です。 444 00:47:41,157 --> 00:47:43,157 ≪ああ…。 445 00:47:50,300 --> 00:48:22,300 ♬~ 446 00:48:26,202 --> 00:48:30,340 (女将)ああ 阿佐田先生なら 先ほど 出られました。➡ 447 00:48:30,340 --> 00:48:33,242 がいに有名な先生なんやねえ。 448 00:48:33,242 --> 00:48:38,147 宿帳の名前と違うとるけん 先生やて言うてくれたらええのに。 449 00:48:38,147 --> 00:48:42,285 うちの人がもう 先生の大ファンやって。 450 00:48:42,285 --> 00:48:46,789 さっき そこでバッタリ会うてからは もう 「雀聖や 雀聖や」って➡ 451 00:48:46,789 --> 00:48:50,293 サインせがんで もろうとりましたわ。 452 00:48:50,293 --> 00:48:54,163 「お礼する」言うて 先生引っ張って 浜へ行きました。 453 00:48:54,163 --> 00:48:58,167 ご主人は よく 先生の本を 読まれるんですか? 454 00:48:58,167 --> 00:49:01,304 フフフ… よう知らんけど➡ 455 00:49:01,304 --> 00:49:06,304 難しい顔して 読みよりますわ いっつも。 ほれ そこ。 456 00:49:22,325 --> 00:49:30,325 <それは 先生が連載中の 「狂人日記」という長編小説だった> 457 00:49:45,281 --> 00:49:48,785 「もし 完全な狂人になって➡ 458 00:49:48,785 --> 00:49:55,291 正気を失ったまま日が送れたら どんなに楽だろう。➡ 459 00:49:55,291 --> 00:50:01,798 自分が 自分のことを忘れることが できたら すばらしいのだが。➡ 460 00:50:01,798 --> 00:50:06,302 自分は 正気と狂気の間を 行きかいながら…」。 461 00:50:06,302 --> 00:50:10,173 「いつも 自分の狂気のことを考える。➡ 462 00:50:10,173 --> 00:50:14,177 正気についても考える。➡ 463 00:50:14,177 --> 00:50:21,317 自分は 自分の頭が壊れている という実感を大事にしている。➡ 464 00:50:21,317 --> 00:50:24,821 そうして 自分と他人の違いについても➡ 465 00:50:24,821 --> 00:50:28,324 鋭敏になろうとする。➡ 466 00:50:28,324 --> 00:50:36,199 結果 自分は 自分だけだという思いに➡ 467 00:50:36,199 --> 00:50:39,335 すがるほかない」。 468 00:50:39,335 --> 00:50:56,352 ♬~ 469 00:50:56,352 --> 00:51:03,226 <主人公の私は 先生そのものだと思った> 470 00:51:03,226 --> 00:51:11,367 ♬~ 471 00:51:11,367 --> 00:51:14,270 先生! 472 00:51:14,270 --> 00:51:17,240 おお 伊集院君 いいところに来ました。 473 00:51:17,240 --> 00:51:21,377 おお あんたも こっち来なさいや。 ほい ほい。 474 00:51:21,377 --> 00:51:24,280 すいません。 475 00:51:24,280 --> 00:51:27,250 はい。 あ~ どうも。 476 00:51:27,250 --> 00:51:37,827 ♬~ 477 00:51:37,827 --> 00:51:42,331 ほな いかしてもらいます。 478 00:51:42,331 --> 00:51:46,202 どちらさんも よろしゅうござんすね? 479 00:51:46,202 --> 00:51:55,344 ♬~ 480 00:51:55,344 --> 00:52:01,217 <社会になじめず 所詮 孤独であると認めながらも➡ 481 00:52:01,217 --> 00:52:05,354 それでも つながりを求めて あがく➡ 482 00:52:05,354 --> 00:52:11,227 そんな自分自身と 先生は向き合っていた> 483 00:52:11,227 --> 00:52:14,363 ♬~ 484 00:52:14,363 --> 00:52:19,235 <そういう生き方が➡ 485 00:52:19,235 --> 00:52:23,235 何だか ひどく まぶしかった> 486 00:52:32,315 --> 00:52:37,820 あら? 寝てしもうた。 487 00:52:37,820 --> 00:52:42,325 そのままに しときましょう。 488 00:52:42,325 --> 00:52:46,195 先生は ああして よう寝られよると聞くけど➡ 489 00:52:46,195 --> 00:52:52,335 何の夢を見られよんじゃろかね? う~ん 何でしょうね? 490 00:52:52,335 --> 00:52:56,335 ええ夢じゃろね。 491 00:53:00,209 --> 00:53:06,349 あんた 先生のお弟子さんかね? いいえ 友達…。 492 00:53:06,349 --> 00:53:11,220 いや 弟子なのかもしれません。 493 00:53:11,220 --> 00:53:18,220 そりゃ 幸せじゃね。 はい 僕も そう思います。 494 00:53:21,364 --> 00:53:25,234 先生は わしらの宝じゃ。 495 00:53:25,234 --> 00:53:29,872 ほじゃけん また おいで下さいや。 496 00:53:29,872 --> 00:53:37,372 待っとるけん。 いつまでも待っとるけん。 はい。 497 00:53:45,321 --> 00:53:53,321 <先生の安らかな寝顔を見たのは それが 最後だった> 498 00:54:00,336 --> 00:54:06,208 <先生はたくさんの友達に囲まれた 東京での暮らしに別れを告げ➡ 499 00:54:06,208 --> 00:54:11,208 なぜか 北国の小村へと去っていった> 500 00:54:14,350 --> 00:54:20,350 <そこで 心臓破裂で あっけなく死んでしまった> 501 00:54:22,224 --> 00:54:27,363 <机の上には 真っさらな原稿用紙が➡ 502 00:54:27,363 --> 00:54:31,363 開きっ放しになっていたそうだ> 503 00:54:42,311 --> 00:54:52,321 大勝ちをなさって たくさんお金を 持ってこられた時は➡ 504 00:54:52,321 --> 00:54:54,824 うれしそうっていうね…。 505 00:54:54,824 --> 00:55:00,329 タクシーの中で お金の束を うれしそうに こうね…➡ 506 00:55:00,329 --> 00:55:11,340 僕のポケットに詰める? その… ホント うれしそうだったね。 507 00:55:11,340 --> 00:55:16,212 そういう 何か… 卑しいところ あるんだよな。 508 00:55:16,212 --> 00:55:22,351 卑しいっていうか う~ん 何か…。 509 00:55:22,351 --> 00:55:25,254 2人は とても うれしいんだけど➡ 510 00:55:25,254 --> 00:55:31,160 第三者が見ると 何だかなっていうね…。 511 00:55:31,160 --> 00:55:34,160 よく… うん…。 512 00:55:41,303 --> 00:55:46,175 う~ん 勝った時。 513 00:55:46,175 --> 00:55:49,178 それは どういう事かというと➡ 514 00:55:49,178 --> 00:55:52,815 まあ 豹でも虎でもいいんだけど➡ 515 00:55:52,815 --> 00:55:58,687 鹿をしとめて すぐ食べないんだよね。 516 00:55:58,687 --> 00:56:04,326 一応 やっぱり快楽があるんだよね 肉を食らう前に。 517 00:56:04,326 --> 00:56:11,667 鹿をしとめた豹は➡ 518 00:56:11,667 --> 00:56:16,367 しとめたぞって 思ってるというのはね…。 519 00:56:20,342 --> 00:56:23,245 弱肉強食って言うけど➡ 520 00:56:23,245 --> 00:56:27,216 それは 自然の摂理だって 言われたら それまでなんだけど➡ 521 00:56:27,216 --> 00:56:31,216 人間に例えると 人間が同じ行為をした時って…。 522 00:56:38,294 --> 00:56:42,164 聖なるものというものが 本当にあるとしたらね➡ 523 00:56:42,164 --> 00:56:46,168 真逆にある表情だから 。 524 00:56:46,168 --> 00:56:49,305 そういうのは 見てないのか… 弱さの。 525 00:56:49,305 --> 00:56:52,208 それが よかったと思ってんだよね。 526 00:56:52,208 --> 00:57:00,316 ♬~ 527 00:57:00,316 --> 00:57:03,819 <先生が死んでから3年。➡ 528 00:57:03,819 --> 00:57:10,693 僕は 少しずつだが 本を書き始めていた。➡ 529 00:57:10,693 --> 00:57:16,332 大きく変わった点が あるとしたら➡ 530 00:57:16,332 --> 00:57:21,203 あの先生との旅以来 僕の中から➡ 531 00:57:21,203 --> 00:57:27,203 どうしようもない気持ちが 失せていた事だった> 532 00:57:30,346 --> 00:57:35,184 <先生は 僕との旅の終わりとともに➡ 533 00:57:35,184 --> 00:57:41,184 あの狂人の男を主人公にした 物語を結び終えていた> 534 00:57:44,293 --> 00:57:49,164 <孤独のうちに 自死する道を選んだ主人公は➡ 535 00:57:49,164 --> 00:57:54,164 唐突に こんな告白をしていた> 536 00:57:59,308 --> 00:58:08,317 「自分は 誰かを愛せるだろうか 誰かに愛されるだろうか。➡ 537 00:58:08,317 --> 00:58:12,187 自分は 誰かと つながりたい。➡ 538 00:58:12,187 --> 00:58:18,187 人間に対する優しい感情を 失いたくない」。 539 00:58:21,330 --> 00:58:24,330 伊集院君。 540 00:58:27,202 --> 00:58:30,202 先生。 541 00:58:32,274 --> 00:58:38,147 全く 人間ってのは 始末が悪い。 542 00:58:38,147 --> 00:58:55,147 ♬~ 543 00:59:00,302 --> 00:59:02,638 これ 下さい。 544 00:59:02,638 --> 00:59:09,311 ♬~ 545 00:59:09,311 --> 00:59:15,311 <僕は 「受け月」という小説で 直木賞を受賞した> 546 00:59:17,186 --> 00:59:20,823 <それは 人生の路地裏に➡ 547 00:59:20,823 --> 00:59:26,323 迷い込んでしまった人々を 描き出した短編集だ>