1 00:00:05,839 --> 00:00:10,711 はなは 久しぶりに 東京に来ていました。 2 00:00:10,711 --> 00:00:14,515 (はな)はなじゃありません。 (英治)はい? 3 00:00:14,515 --> 00:00:18,185 やっぱり あなたが間違えたんですね。 4 00:00:18,185 --> 00:00:21,521 はっ? 5 00:00:21,521 --> 00:00:25,392 私の名前 間違えて載ってたんです。 6 00:00:25,392 --> 00:00:29,196 まさか…。 7 00:00:29,196 --> 00:00:33,066 ほら ちゃんと 安東はなさんに なってるじゃないですか。 8 00:00:33,066 --> 00:00:38,205 安東花子。 はなじゃなくて花子。 9 00:00:38,205 --> 00:00:40,874 ♬「これから はじまる」 10 00:00:40,874 --> 00:00:43,777 ♬「あなたの 物語」 11 00:00:43,777 --> 00:00:48,548 ♬「ずっと長く 道は続くよ」 12 00:00:48,548 --> 00:00:52,886 ♬「虹色の雨 降り注げば」 13 00:00:52,886 --> 00:00:58,559 ♬「空は 高鳴る」 14 00:00:58,559 --> 00:01:03,830 ♬「眩しい笑顔の奥に」 15 00:01:03,830 --> 00:01:08,702 ♬「悲しい音がする」 16 00:01:08,702 --> 00:01:14,174 ♬「寄りそって 今があって」 17 00:01:14,174 --> 00:01:21,848 ♬「こんなにも 愛おしい」 18 00:01:21,848 --> 00:01:26,720 ♬「手を繋げば 温かいこと」 19 00:01:26,720 --> 00:01:32,859 ♬「嫌いになれば 一人になってくこと」 20 00:01:32,859 --> 00:01:37,531 ♬「ひとつひとつが あなたになる」 21 00:01:37,531 --> 00:01:42,536 ♬「道は 続くよ」 22 00:01:50,544 --> 00:01:55,415 (須藤)皆さん 今年の児童の友賞に 選ばれたのは➡ 23 00:01:55,415 --> 00:01:58,885 宇田川満代さんと安東はなさんの お二人です! 24 00:01:58,885 --> 00:02:01,788 (拍手) 25 00:02:01,788 --> 00:02:04,157 (須藤)お二人には 後ほど➡ 26 00:02:04,157 --> 00:02:07,494 受賞のご挨拶をして頂きますから よろしくお願いします。 27 00:02:07,494 --> 00:02:09,429 (宇田川)はい。 てっ…。 28 00:02:09,429 --> 00:02:11,832 (梶原)宇田川さんは どんなものがお好きですか? 29 00:02:11,832 --> 00:02:13,767 花袋の「蒲団」は 面白かったですね。 30 00:02:13,767 --> 00:02:18,171 もちろん あなたも読んだでしょう? 31 00:02:18,171 --> 00:02:23,844 え~っと… それは 硬いお布団の話ですか? 32 00:02:23,844 --> 00:02:28,715 この人 田山花袋を知らないんですって。 33 00:02:28,715 --> 00:02:33,520 自然主義派の露骨なる表現よ。 34 00:02:33,520 --> 00:02:36,423 (梶原) 藤村の「破戒」は どうでした? 35 00:02:36,423 --> 00:02:39,192 いや~ おめでとうございます。 36 00:02:39,192 --> 00:02:47,067 久しぶりに味わう都会の空気に 既に気後れしている はなでした。 37 00:02:47,067 --> 00:02:51,538 村岡君 飲む? はい。 38 00:02:51,538 --> 00:02:55,242 あっ じゃあ 2つ頂いてもいいですか? 39 00:02:58,412 --> 00:03:03,717 仲直りの乾杯してこい。 はい。 40 00:03:08,021 --> 00:03:11,491 安東花子さん。 41 00:03:11,491 --> 00:03:13,827 乾杯しましょう。 42 00:03:13,827 --> 00:03:19,499 あ… ブドウ酒ですか…。 (英治)どうぞ。 43 00:03:19,499 --> 00:03:23,170 せっかくですが 結構です。 44 00:03:23,170 --> 00:03:25,839 ああ… お酒は 飲まれないんですか。 45 00:03:25,839 --> 00:03:31,511 少しは頂きますが ブドウ酒には いい思い出がないんです。 46 00:03:31,511 --> 00:03:34,848 あの… どなたか ほかの方と 乾杯なさって下さい。 47 00:03:34,848 --> 00:03:37,184 それじゃ 乾杯にならないですよ。 48 00:03:37,184 --> 00:03:41,054 やっぱり まだ怒ってるんですね。 名前の事…。 49 00:03:41,054 --> 00:03:43,056 そんな…。 50 00:03:43,056 --> 00:03:46,193 (醍醐)ごきげんよう はなさん。 51 00:03:46,193 --> 00:03:49,529 てっ! 醍醐さん! 52 00:03:49,529 --> 00:03:52,432 すっかり見違えて 女優さんかと思ったわ! 53 00:03:52,432 --> 00:03:55,402 村岡さん。 はなさんは ブドウ酒のせいで➡ 54 00:03:55,402 --> 00:03:58,205 女学校を退学になりかけた事が あるんですよ。 55 00:03:58,205 --> 00:04:00,907 (英治)えっ? 56 00:04:04,478 --> 00:04:07,147  回想 みんな起きろ~! 57 00:04:07,147 --> 00:04:11,017 そうなのです。 あのトラウマは 消えません。 58 00:04:11,017 --> 00:04:13,019 (茂木)はなさん! 59 00:04:13,019 --> 00:04:16,823 よりによって ブドウ酒を持ってくるとは➡ 60 00:04:16,823 --> 00:04:20,160 つくづく 間の悪い人ですね。 61 00:04:20,160 --> 00:04:24,030 はなさんの代わりに 私が頂いてもよろしくって? 62 00:04:24,030 --> 00:04:26,833 ああ…。 63 00:04:26,833 --> 00:04:30,504 はな先生 受賞おめでとうございます! 64 00:04:30,504 --> 00:04:35,375 はな先生なんて やめて! 私は 甲府のしがない代用教員よ。 65 00:04:35,375 --> 00:04:40,080 醍醐さんこそ すてきな職業婦人になられて! 66 00:04:47,854 --> 00:04:51,725 こっち こっち! 67 00:04:51,725 --> 00:04:54,194 てっ! かよ? 68 00:04:54,194 --> 00:04:56,129 ど… どうして ここに? 69 00:04:56,129 --> 00:04:58,064 (かよ) 醍醐さんが知らしてくれたの。 70 00:04:58,064 --> 00:05:02,469 お姉やん おめでとう。 よかったじゃんけ。 71 00:05:02,469 --> 00:05:05,138 ありがとう かよ! 72 00:05:05,138 --> 00:05:07,474 2人とも 今日は ゆっくりしていってね。 73 00:05:07,474 --> 00:05:11,144 ありがとう 醍醐さん。 74 00:05:11,144 --> 00:05:14,481 かよも すっかり見違えて。 75 00:05:14,481 --> 00:05:18,151 この着物 洋服店の女将さんが 貸してくれたの。 76 00:05:18,151 --> 00:05:21,054 おめでたい席だから きれいにして行きなさいって。 77 00:05:21,054 --> 00:05:24,491 はあ~… いいとこに 奉公さしてもらっただね。 78 00:05:24,491 --> 00:05:29,196 忙しいけんど 製糸工場の 女工に比べたら天国さ。 79 00:05:30,830 --> 00:05:34,501 おとうは まだ帰ってこねえだけ。 80 00:05:34,501 --> 00:05:37,170 うん…。 81 00:05:37,170 --> 00:05:41,841 お姉やんの晴れ姿見たら おとう どんだけ喜んだか。 82 00:05:41,841 --> 00:05:45,178 「ほれ見ろ。 おとうの言ったとおり はなは 天才じゃ」って➡ 83 00:05:45,178 --> 00:05:47,848 大喜びしたずらね。 84 00:05:47,848 --> 00:05:51,718 小学校の先生 辞めて 小説家になるのけ? 85 00:05:51,718 --> 00:05:55,188 てっ! そんな大それた事 思ってねえよ。 86 00:05:55,188 --> 00:05:58,091 何でえ。 せっかく賞に選ばれたずら。 87 00:05:58,091 --> 00:06:01,861 そうよ。 はなさん もっと欲を出した方がいいわ。 88 00:06:01,861 --> 00:06:04,464 千載一遇のチャンスじゃない! 89 00:06:04,464 --> 00:06:07,801 もう一度 東京に来て 小説家を目指したら? 90 00:06:07,801 --> 00:06:10,470 てっ…。 (かよ)おらも そう思う。 91 00:06:10,470 --> 00:06:17,177 私が小説家? 92 00:06:19,479 --> 00:06:22,148 (梶原)本気で小説家を目指すの? 93 00:06:22,148 --> 00:06:28,822 梶原さん。 あの… 私 なれるでしょうか? 94 00:06:28,822 --> 00:06:31,491 あの童話は 面白かったが➡ 95 00:06:31,491 --> 00:06:34,394 君が小説家になるのは 難しいと思う。 96 00:06:34,394 --> 00:06:37,831 (醍醐)編集長 どうしてですか? 97 00:06:37,831 --> 00:06:41,701 僕は 強烈な個性の小説家たちを たくさん見てきた。 98 00:06:41,701 --> 00:06:46,840 安東君は そこらの人に比べると 個性的で常識外れのところもある。 99 00:06:46,840 --> 00:06:53,179 だが 小説家になるには 普通すぎる。 100 00:06:53,179 --> 00:06:56,516 諦めた方がいいって事ですか。 101 00:06:56,516 --> 00:06:58,852 そうだ。 102 00:06:58,852 --> 00:07:01,755 編集長…。 103 00:07:01,755 --> 00:07:06,126 はっきり おっしゃって頂いて ありがとうございます。 104 00:07:06,126 --> 00:07:12,132 はっきり そこまで言われると やはり ショックな はなでした。 105 00:07:13,800 --> 00:07:19,673 では 児童の友賞に輝いたお二人に 受賞のお言葉を頂きましょう。 106 00:07:19,673 --> 00:07:23,143 まず 宇田川さんから。 107 00:07:23,143 --> 00:07:28,481 (拍手) 108 00:07:28,481 --> 00:07:31,818 審査員の先生方。 109 00:07:31,818 --> 00:07:35,155 私を選んだ事を 後悔させないような➡ 110 00:07:35,155 --> 00:07:38,825 売れっ子の小説家に すぐになってみせます。 111 00:07:38,825 --> 00:07:44,497 ですから 早く仕事を下さい。 112 00:07:44,497 --> 00:07:48,835 (拍手) 113 00:07:48,835 --> 00:07:53,707 (須藤)では 安東さん。 はい。 114 00:07:53,707 --> 00:07:59,179 (拍手) 115 00:07:59,179 --> 00:08:02,082 「みみずの女王」は➡ 116 00:08:02,082 --> 00:08:05,986 私が尋常小学校で受け持っている たえさんという生徒と➡ 117 00:08:05,986 --> 00:08:08,455 一緒に作った物語です。 118 00:08:08,455 --> 00:08:12,125 その子は もう 遠くに引っ越してしまったので➡ 119 00:08:12,125 --> 00:08:16,997 お話の続きを読んでもらいたいと 思い 応募しました。 120 00:08:16,997 --> 00:08:21,801 そしたら 運よく この賞を頂けました。 121 00:08:21,801 --> 00:08:25,805 ですから 半分は たえさんがもらった賞です。 122 00:08:28,141 --> 00:08:33,013 この受賞は 一回きりのいい思い出として➡ 123 00:08:33,013 --> 00:08:38,485 甲府に帰って 真面目に 教師を続けたいと思います。 124 00:08:38,485 --> 00:08:41,388 ありがとうございました。 125 00:08:41,388 --> 00:08:47,093 (拍手) 126 00:08:50,830 --> 00:08:54,834 本当に これ一回きりでいいの? 127 00:08:57,704 --> 00:09:00,840 最初で最後だから➡ 128 00:09:00,840 --> 00:09:04,444 花子という名前で 載りたかったな…。 129 00:09:04,444 --> 00:09:08,114 それ 入稿する時 私が本名に直したの。 130 00:09:08,114 --> 00:09:10,049 えっ? 131 00:09:10,049 --> 00:09:12,786 やっぱり 安東はなの方が はなさんらしいし➡ 132 00:09:12,786 --> 00:09:18,124 修和女学校の先生方や同級生も 気が付いてくれると思って…。 133 00:09:18,124 --> 00:09:22,796 てっ… 醍醐さん 気が利き過ぎです! 134 00:09:22,796 --> 00:09:24,731 ごめんなさい。 135 00:09:24,731 --> 00:09:26,666 私 あの人に ひどい事 言っちまった…。 136 00:09:26,666 --> 00:09:29,135 えっ? 137 00:09:29,135 --> 00:09:32,038 梶原さん! ん?村岡さんは? 138 00:09:32,038 --> 00:09:34,340 さっき帰ったよ。 139 00:09:36,810 --> 00:09:39,512 村岡さん! 140 00:09:41,147 --> 00:09:43,817 村岡さん! 141 00:09:43,817 --> 00:09:45,752 村岡さん! 142 00:09:45,752 --> 00:09:48,755 村岡さん…。 143 00:10:09,843 --> 00:10:12,846 どうしよう…。 144 00:10:17,717 --> 00:10:21,187 あれ? 145 00:10:21,187 --> 00:10:26,526 まだ いらっしゃったんですか。 てっ 村岡さん…。 146 00:10:26,526 --> 00:10:29,863 どうも。 147 00:10:29,863 --> 00:10:33,533 ごめんなさい! 148 00:10:33,533 --> 00:10:37,403 私の早とちりで 誤植じゃなかったんです これ! 149 00:10:37,403 --> 00:10:40,406 友達の醍醐さんが はなに変えてたんです。 150 00:10:40,406 --> 00:10:44,177 ああ… そうでしたか。 151 00:10:44,177 --> 00:10:48,548 本当にごめんなさい! ああ いえ。 152 00:10:48,548 --> 00:10:52,218 一つ 聞いてもいいですか? 153 00:10:52,218 --> 00:10:57,524 花子という名前に どうして そこまで こだわってたんですか? 154 00:11:00,894 --> 00:11:06,599 私 子どもの頃から 花子と呼ばれたかったんです。 155 00:11:08,168 --> 00:11:13,506 「はなじゃねえ。 おらの事は 花子と呼んでくりょう」って➡ 156 00:11:13,506 --> 00:11:16,843 二言目には そう言い返す子どもでした。 157 00:11:16,843 --> 00:11:20,547 何だか 目に浮かびます。 158 00:11:22,182 --> 00:11:30,523 女学校の頃 腹心の友ができて…。 腹心の友? 159 00:11:30,523 --> 00:11:34,861 その人と約束したんです。 160 00:11:34,861 --> 00:11:43,202 自分の作品を発表する時は 花子っていうペンネームを使うって。 161 00:11:43,202 --> 00:11:49,509 だから この受賞を知った時から 舞い上がってしまって…。 162 00:11:51,878 --> 00:11:57,750 自分が 本当に 夢の中の花子に なれたような気がして…。 163 00:11:57,750 --> 00:12:04,757 そう… 花子は 私の夢なんです。 164 00:12:06,392 --> 00:12:12,165 でも もう 現実のはなに戻らないと…。 165 00:12:12,165 --> 00:12:15,468 あなたは 花子になるべきです。 166 00:12:19,038 --> 00:12:25,178 花子という名前で これからも書き続けて下さい。 167 00:12:25,178 --> 00:12:29,515 いえ… 小説家は もう諦めました。 168 00:12:29,515 --> 00:12:34,387 梶原さんからも 小説家になるには 普通すぎるって言われました。 169 00:12:34,387 --> 00:12:39,192 あなたは 断じて普通じゃない。 はっ? 170 00:12:39,192 --> 00:12:42,862 十分 変な人です。 ちょっと待って下さい! 171 00:12:42,862 --> 00:12:44,797 あなたのような変人に 言われたくありません。 172 00:12:44,797 --> 00:12:47,734 あなたに比べたら 僕は 極めて凡人ですよ。 173 00:12:47,734 --> 00:12:50,536 どうせ また 私の事 珍獣扱いしたいんでしょう。 174 00:12:50,536 --> 00:12:54,240 そんな失礼な事 言いませんよ。 どうだか…。 175 00:12:58,211 --> 00:13:06,019 どうか その変な自分を 大切にして下さい。➡ 176 00:13:06,019 --> 00:13:09,822 英語の翻訳も続けて下さい。 177 00:13:09,822 --> 00:13:12,492 それは 無理です。 178 00:13:12,492 --> 00:13:16,162 甲府に帰ってから 英語に触れる機会もないし➡ 179 00:13:16,162 --> 00:13:18,831 小学校では 英語禁止令も出されてしまって➡ 180 00:13:18,831 --> 00:13:24,170 うちの事も いろいろあるし 英語どころじゃないんです。 181 00:13:24,170 --> 00:13:29,175 どこにいても あなたなら大丈夫です。 182 00:13:31,511 --> 00:13:34,847 ナマケモノが泳ぐ時の あの集中力を発揮すれば。 183 00:13:34,847 --> 00:13:39,719 ほら! また珍獣扱いして! 184 00:13:39,719 --> 00:13:44,190 (笑い声) 185 00:13:44,190 --> 00:13:47,493 じゃあ お元気で。 186 00:13:55,535 --> 00:13:58,237 あ… 村岡さん。 187 00:14:00,873 --> 00:14:04,143 ありがとうございました。 188 00:14:04,143 --> 00:14:08,448 いや… お礼を言われるような事は 何も。 189 00:14:10,483 --> 00:14:15,154 ごきげんよう。 さようなら。 190 00:14:15,154 --> 00:14:21,861 ごきげんよう。 さようなら。 191 00:14:29,702 --> 00:14:34,006 ごきげんよう。 さようなら。