1 00:00:05,739 --> 00:00:08,742 (ウグイスの鳴き声) 2 00:00:15,883 --> 00:00:20,587 (慶次郎)辰 いるかい? 入るぞ。 3 00:00:29,897 --> 00:00:32,599 おっ! お前…。 4 00:00:35,769 --> 00:00:39,907 おい! (辰吉)おぶん どうした? 5 00:00:39,907 --> 00:00:44,778 すいません お見苦しい事で。 しかし なにも 逃げずとも…。 6 00:00:44,778 --> 00:00:47,781 いや 近ごろ 誰が来ても ああなんで…。 7 00:00:49,917 --> 00:00:54,588 (皐月)長屋を訪ねたのは おぶんさんの事が 気がかりで? 8 00:00:54,588 --> 00:00:59,860 今は 辰吉と暮らしてるんだな。 はい。 ですが➡ 9 00:00:59,860 --> 00:01:04,731 旦那様や 手下の者が訪ねても 逃げてしまうんだそうです。 10 00:01:04,731 --> 00:01:09,870 女房の位牌には 花が 供えてあった。 11 00:01:09,870 --> 00:01:12,773 おぶんさんでしょう。 12 00:01:12,773 --> 00:01:16,743 人の生き死にに 心を痛めてきた者です。 13 00:01:16,743 --> 00:01:21,882 だからこそ 旦那様や 舅殿の 近くで暮らしている自分を➡ 14 00:01:21,882 --> 00:01:25,752 いたたまれなく思うのでしょう。 15 00:01:25,752 --> 00:01:29,756 義父上様 あの2人を どうにかしてやる事は➡ 16 00:01:29,756 --> 00:01:35,896 できないのですか? 辰吉と おぶんに 罪はない。 17 00:01:35,896 --> 00:01:38,565 だが…。 18 00:01:38,565 --> 00:01:42,569 「常蔵を 許すわけにはいかない」。 19 00:01:45,439 --> 00:01:50,911 <おぶんさんの父 常蔵は 舅殿の一人娘➡ 20 00:01:50,911 --> 00:01:55,582 三千代様を 死に追いやった男でした。➡ 21 00:01:55,582 --> 00:02:01,588 常蔵は 藤沢で 独り 病の床にあり…> 22 00:02:03,857 --> 00:02:06,360 <おぶんさんにとっては➡ 23 00:02:06,360 --> 00:02:10,163 辰吉さんだけが 生きるよすがでした> 24 00:02:15,035 --> 00:02:25,379 ♬~ 25 00:02:25,379 --> 00:02:33,120 ♬~(三味線) 26 00:02:33,120 --> 00:02:35,555 ⚟(お登世)誰か! その男を! 27 00:02:35,555 --> 00:02:38,892 (矢作)離せ! おっと! 28 00:02:38,892 --> 00:02:43,230 大事ないですかい!? おう…。 29 00:02:43,230 --> 00:02:45,565 (お登世)旦那! おう! 30 00:02:45,565 --> 00:02:47,501 (お秋)女将さん! 逃げちまいますよ! 31 00:02:47,501 --> 00:02:52,439 もういいよ ほうっておおき! なんなんだい ありゃ…。 32 00:02:52,439 --> 00:02:56,076 ほんの 死に損ないの 食い逃げでございます。 33 00:02:56,076 --> 00:02:58,011 死に損ない? 34 00:02:58,011 --> 00:03:01,348 矢作と申しまして 出入りの塩売りでございます。 35 00:03:01,348 --> 00:03:07,854 よく働く子で 元は 足立郡 蕨の お百姓だとか。 36 00:03:07,854 --> 00:03:11,725 飢饉や何やらで 泣く泣く 畑を 手放したんです。 37 00:03:11,725 --> 00:03:14,528 (おかつ)つぶれ百姓 というんだそうです。 38 00:03:14,528 --> 00:03:18,865 つぶれ百姓…。 母親と 江戸に出てきたものの➡ 39 00:03:18,865 --> 00:03:21,702 もともと 不器用で 口下手なタチですから➡ 40 00:03:21,702 --> 00:03:25,205 商いに向かず 暮らしも立ちゆかず…。 41 00:03:25,205 --> 00:03:30,877 けさほど 母親を 妹の嫁ぎ先に 送り出したんです。 42 00:03:30,877 --> 00:03:36,383 そりゃあ さぞかし…。 路銀と 行き先で➡ 43 00:03:36,383 --> 00:03:39,286 肩身の狭い思いを しないようにと➡ 44 00:03:39,286 --> 00:03:42,889 ありったけの銭を 渡したそうでございます。 45 00:03:42,889 --> 00:03:47,761 ふ~ん…。 無一文で 途方に暮れてるのを➡ 46 00:03:47,761 --> 00:03:51,398 励ましのつもりで ごちそういたしました。 47 00:03:51,398 --> 00:03:53,900 それが なぜ食い逃げ? 48 00:03:53,900 --> 00:03:57,771 食べ終えたら 「死ぬ」と言いだしまして…。 49 00:03:57,771 --> 00:04:01,174  回想  いいかい? うちの料理はね➡ 50 00:04:01,174 --> 00:04:03,677 これから 死ぬって意気地なしに 食べさせるためのもんじゃ➡ 51 00:04:03,677 --> 00:04:08,181 ないんだ! 板前も雇い人も➡ 52 00:04:08,181 --> 00:04:10,851 うちの料理をおいしいと 言って下さる方のために➡ 53 00:04:10,851 --> 00:04:13,754 汗水流して 働いてるんだ! 54 00:04:13,754 --> 00:04:17,357 それを 死ぬだなんて➡ 55 00:04:17,357 --> 00:04:20,861 そんな 縁起でもない口を 利くぐらいなら➡ 56 00:04:20,861 --> 00:04:26,166 死ぬ前に 今すぐ この お代 払っておくれよ! 今すぐ! 57 00:04:28,535 --> 00:04:32,539 (お登世)励ましのつもりで ございました。 58 00:04:35,876 --> 00:04:38,545 お待ち! 59 00:04:38,545 --> 00:04:44,217 何もかも なくしたってなら これからが出直しじゃないか…。 60 00:04:44,217 --> 00:04:51,391 強いな お前さんは…。 そうして生きてきただけです。 61 00:04:51,391 --> 00:04:56,263 女将さん 蓮の間 お客様が お帰りの前に➡ 62 00:04:56,263 --> 00:05:01,201 ごあいさつ お願いできますか? ああ 初めての お客様だね。 63 00:05:01,201 --> 00:05:04,337 分かった。 これからも ご贔屓にしてもらわないとね。➡ 64 00:05:04,337 --> 00:05:07,541 おちえ。 それ どちらの お料理だい? 65 00:05:22,722 --> 00:05:26,359 どうした? こんなところまで。 66 00:05:26,359 --> 00:05:29,262 (晃之助)暖かくなって まいりましたゆえ➡ 67 00:05:29,262 --> 00:05:33,266 たまには 遠出など…。 そうか…。 68 00:05:43,543 --> 00:05:48,381 いささか やっかいな探索を しております。 69 00:05:48,381 --> 00:05:53,587 殺しか? 殺しも やっかいなのですが…。 70 00:05:56,122 --> 00:06:00,327 瓦町の煙草屋で 夜 留守番をしていた➡ 71 00:06:00,327 --> 00:06:02,362 はなという娘が殺されました。 72 00:06:02,362 --> 00:06:06,833 (慟哭する声) 73 00:06:06,833 --> 00:06:11,171 (晃之助)店の売り上げは そのまま 戸も 壊されてはおりません。 74 00:06:11,171 --> 00:06:16,843 押し込みではない。 …とすると。 娘が 誰か 知っている者を➡ 75 00:06:16,843 --> 00:06:20,714 招き入れたとしか。 心当たりがあるのか? 76 00:06:20,714 --> 00:06:24,718 老舗の菓子屋の跡取り息子 佐三郎というのが➡ 77 00:06:24,718 --> 00:06:27,854 おはなと いい仲だったようです。 78 00:06:27,854 --> 00:06:31,725 もっとも 佐三郎にとっちゃ ほんの遊びだったらしい。➡ 79 00:06:31,725 --> 00:06:35,528 別れ話がこじれて 殺したとも 十分 考えられます。 80 00:06:35,528 --> 00:06:38,531 証拠は? ありません。 81 00:06:42,869 --> 00:06:51,211 おはなは 母を 早くに亡くし 父 万兵衛と 2人暮らしでした。 82 00:06:51,211 --> 00:06:53,546  回想 三千代! 83 00:06:53,546 --> 00:06:56,216 愛娘を殺された 万兵衛は➡ 84 00:06:56,216 --> 00:07:01,054 われわれが 佐三郎を なかなか お縄にできないのに じれて…。 85 00:07:01,054 --> 00:07:05,759 (佐三郎の鼻歌) 86 00:07:09,763 --> 00:07:13,500 (晃之助)商いも 人柄も 実直と 評判の男です。➡ 87 00:07:13,500 --> 00:07:17,370 見つけるたびに 番屋で 諭します。 88 00:07:17,370 --> 00:07:22,175 「佐三郎が 下手人という 証しはない。 急くな。➡ 89 00:07:22,175 --> 00:07:28,848 敵を討とうなど 考えてはならん」。 ですが その言葉が➡ 90 00:07:28,848 --> 00:07:33,019 腑に落ちているとは どうしても思えぬのです。 91 00:07:33,019 --> 00:07:38,892 晃之助…。 幾度も 万兵衛を見張りながら➡ 92 00:07:38,892 --> 00:07:46,866 一体 どうしたものかと…。 それを尋ねに 来てくれたのか? 93 00:07:46,866 --> 00:08:01,815 ♬~ 94 00:08:01,815 --> 00:08:04,517 憎いか? まだ。 95 00:08:11,825 --> 00:08:15,328 俺は 憎い! 96 00:08:15,328 --> 00:08:21,501 三千代を殺した常蔵が憎い! だが おぶんがいる。 97 00:08:21,501 --> 00:08:27,307 おぶんと暮らす辰吉がいる。 「殺してはならぬ」。 98 00:08:27,307 --> 00:08:35,115 言いきかせる事で 己を封じ 封じられて ますます怒りが増す。 99 00:08:36,850 --> 00:08:44,524 積もるばかりの憎しみには やり場がない。 100 00:08:44,524 --> 00:08:47,427 義父上…。 101 00:08:47,427 --> 00:08:53,033 <おぶんさんの 父 常蔵がつけた 人々の心の傷は➡ 102 00:08:53,033 --> 00:08:57,203 いまだ癒える事はないのです> 103 00:08:57,203 --> 00:09:00,907 (常蔵)動いてやがる。 104 00:09:06,813 --> 00:09:11,484 1人だと 塵ひとつ 動きゃしなんだ。 105 00:09:11,484 --> 00:09:17,157 なあ おぶん。 見てみろよ ほら ほら。 106 00:09:17,157 --> 00:09:19,159 (埃を踏みつける音) 107 00:09:24,030 --> 00:09:27,333 おぶんよう…。 108 00:09:29,169 --> 00:09:31,471 どうした? 109 00:09:40,513 --> 00:09:42,849 飲ましてやりな。 110 00:09:42,849 --> 00:09:45,518 おぶん。 111 00:09:45,518 --> 00:09:49,856 晃之助様は お父っつぁんのせいで➡ 112 00:09:49,856 --> 00:09:54,527 許嫁の三千代様に 自害されたんだ。 113 00:09:54,527 --> 00:09:59,532 なのに なんで お父っつぁんが 生きてるんだよ。 なんで!? 114 00:10:08,074 --> 00:10:18,218 親分。 おぶんは いい娘だ。 かわいがってやって下せえよ。 115 00:10:18,218 --> 00:10:22,388 お父っつぁんに そんな事 言われる道理なんか ないよ。 116 00:10:22,388 --> 00:10:26,893 私が こんなのも みんな お父っつぁんのせいじゃないか! 117 00:10:26,893 --> 00:10:29,195 死んじまえ! おぶん! 118 00:10:33,766 --> 00:10:42,909 江戸の桜は そろそろかねえ。 お遍路でも 花は咲いてたが…。 119 00:10:42,909 --> 00:10:52,252 桜は やっぱり 江戸だよ。 エヘヘヘ。 120 00:10:52,252 --> 00:10:56,923 ああ… エヘヘヘヘ。 121 00:10:56,923 --> 00:10:58,958 あっしと おぶんの事で➡ 122 00:10:58,958 --> 00:11:03,196 旦那が心苦しい思いされてるのは 分かっております。➡ 123 00:11:03,196 --> 00:11:06,099 晃之助の旦那が 苦しんでおられる事も。 124 00:11:06,099 --> 00:11:09,869 辰 俺は…。 おぶんも 迷っております。 125 00:11:09,869 --> 00:11:18,878 てめえの親を どうしたものやら。 ですから あっしは…➡ 126 00:11:18,878 --> 00:11:21,581 おぶんに ついててやろうと 思います。 127 00:11:25,218 --> 00:11:29,889 もうしばらく あっしと おぶんの事は➡ 128 00:11:29,889 --> 00:11:33,192 目をつむってやってくれませんか。 129 00:11:37,764 --> 00:11:43,770 常蔵も… おそらく 長くはございません。 130 00:11:47,907 --> 00:11:51,778 <その翌朝 花ごろもでは…> 131 00:11:51,778 --> 00:11:54,781 女将さんの おっしゃるとおりでした。 132 00:11:54,781 --> 00:11:59,085 ここの料理を 食べたあとは 死ねませんでした。 133 00:11:59,085 --> 00:12:02,855 死ねないなら 生きるしかないです。 134 00:12:02,855 --> 00:12:06,726 お金を稼ぐしかないです。 そのようだね。 135 00:12:06,726 --> 00:12:11,864 お願いです。 どうか ここで 使って下さい! 136 00:12:11,864 --> 00:12:13,800 (おちえ)女将さん…。 137 00:12:13,800 --> 00:12:17,737 悪いけど うちは それほどの ゆとりは ないんだよ。 138 00:12:17,737 --> 00:12:23,876 お前さんほど よく働く男衆なら 雇ってくれるとこは きっとある。 139 00:12:23,876 --> 00:12:27,547 諦めずに お探し。 ほら みんな たまってないで! 140 00:12:27,547 --> 00:12:30,250 匂いがして…。 141 00:12:32,418 --> 00:12:36,255 いい匂いが したんです。 142 00:12:36,255 --> 00:12:42,562 女将さんに なんだか…。 初めは 食べ物の匂いかなって…。 143 00:12:42,562 --> 00:12:45,064 (笑い声) なに 馬鹿な事 言ってんだよ。 144 00:12:45,064 --> 00:12:46,100 本当です! 145 00:12:46,100 --> 00:12:50,570 色で取り入ろうなんざ 百年早いよ! 146 00:12:50,570 --> 00:12:52,605 違います! 食うために あくせくするのは➡ 147 00:12:52,605 --> 00:12:55,074 嫌になったんです! 働けるだけで ありがてえなんて➡ 148 00:12:55,074 --> 00:12:58,111 そんな 貧乏くさい了見は いっそ やめにしたいんです。 149 00:12:58,111 --> 00:13:04,517 どうせなら きれいな女将さんの いるとこで 働きてえ! 150 00:13:04,517 --> 00:13:10,223 (笑い声) まあ ずうずうしい…。 151 00:13:24,203 --> 00:13:27,874 (吉次)お身内の話 お聞きになりやしたか? 152 00:13:27,874 --> 00:13:30,209 身内? 何か あったのかい? 153 00:13:30,209 --> 00:13:32,879 ああ 若旦那が ちょいと。 154 00:13:32,879 --> 00:13:38,217 いや 3日ほど前 瓦町の一件で➡ 155 00:13:38,217 --> 00:13:41,721 殺しの夜 佐三郎を見たという者 現れやしてね。 156 00:13:41,721 --> 00:13:46,926 下手人だと 追っかけてたやさき 父親の万兵衛が…。 157 00:13:51,397 --> 00:13:54,233 万兵衛! 万兵衛! 158 00:13:54,233 --> 00:13:56,569 おい! 159 00:13:56,569 --> 00:14:02,375 万兵衛を お縄にして 番屋で 取り調べたまでは よかったが…。 160 00:14:02,375 --> 00:14:11,017 (万兵衛)佐三郎の奴 手前を見るや いいかげんにしろと➡ 161 00:14:11,017 --> 00:14:17,790 どなったんでございます。 おはなが 何だ…。 162 00:14:17,790 --> 00:14:21,728  回想 (佐三郎)誰でも 着物に ごみがついたら 払うだろう。 163 00:14:21,728 --> 00:14:27,867 俺は それをした…。 だけだと…。 164 00:14:27,867 --> 00:14:33,740 おはなを… ごみと…。 165 00:14:33,740 --> 00:14:39,879 (泣き声) 166 00:14:39,879 --> 00:14:42,782 (しづ)根岸の大旦那様。 遅くに すまねえ。 167 00:14:42,782 --> 00:14:47,787 晃之助はいるかい? 義父上様! 168 00:15:17,717 --> 00:15:21,020 ⚟万兵衛が 刺したそうだな? 169 00:15:24,857 --> 00:15:32,732 私のせいなのです。 どういう事だい? 170 00:15:32,732 --> 00:15:38,738 今まで 何度も 万兵衛を 説きました。 171 00:15:40,406 --> 00:15:44,877  回想 佐三郎が はなを殺した という証しは ないのだ。➡ 172 00:15:44,877 --> 00:15:52,585 憶測で 人を恨んではならぬ。 仕返しなど 考えてはならぬ! 173 00:15:54,554 --> 00:16:00,359 ですが 説きながら 絶えず 別の声が 聞こえておりました。 174 00:16:00,359 --> 00:16:05,665 「いとしい者を殺され その敵を とりたいと考えるのは➡ 175 00:16:05,665 --> 00:16:09,168 当たり前ではないか」。 晃之助。分かっております! 176 00:16:12,171 --> 00:16:18,845 罪人を作らず 罪を犯させない。 177 00:16:18,845 --> 00:16:24,150 それが 私の お役目です。 ですが…。 178 00:16:28,354 --> 00:16:33,860 私は 匕首を 万兵衛に 返しました。 179 00:16:38,865 --> 00:16:45,872 (晃之助)危ないと知りつつ… そのたびに 匕首を。 180 00:16:49,876 --> 00:16:57,750 あの匕首が 新たな罪を…。 私の常蔵を許せぬ心が➡ 181 00:16:57,750 --> 00:17:01,487 万兵衛に 人殺しを そそのかしたのです! 182 00:17:01,487 --> 00:17:26,178 ♬~ 183 00:17:26,178 --> 00:17:32,852 (おぶん)今 お湯を。 お気遣いなく。 よかった。 184 00:17:32,852 --> 00:17:37,723 え?私を見て 逃げられたらどうしよう。 185 00:17:37,723 --> 00:17:40,426 そう思っておりました。 186 00:17:47,199 --> 00:17:51,871 いえ。 どうぞ。 言って下さい。 187 00:17:51,871 --> 00:17:56,876 ご新造さんが来られたら どうしよう そう思ってました。 188 00:18:02,148 --> 00:18:06,018 ご新造さんを見たら 一番 思ってはいけない事を➡ 189 00:18:06,018 --> 00:18:11,324 思ってしまいそうで。 思ってはいけない事? 190 00:18:13,159 --> 00:18:18,864 どうしよう… すいません ご新造さんのせいじゃないんです。 191 00:18:27,506 --> 00:18:36,849 私… 親分さんに ここで 大事にしてもらって…。 192 00:18:36,849 --> 00:18:40,353 ええ。 193 00:18:40,353 --> 00:18:42,855 店で お客様に➡ 194 00:18:42,855 --> 00:18:47,159 お酒をこぼして しかられて 帰ってきても独りじゃないんです。 195 00:18:49,195 --> 00:18:55,868 「お父っつぁんを殺してやりたい」。 そう叫んでも 言うなって➡ 196 00:18:55,868 --> 00:18:58,871 止めてくれる お人がいるんです。 197 00:19:02,475 --> 00:19:08,180 怖いんです。 怖い? 198 00:19:10,216 --> 00:19:16,022 いつのまにか もっとって 思ってるんです。 199 00:19:19,659 --> 00:19:22,461 もっと…。 200 00:19:26,832 --> 00:19:29,835 幸せになりたい…。 201 00:19:36,842 --> 00:19:39,745 すいません! すいません。 202 00:19:39,745 --> 00:19:43,182 なぜ謝るんです? だって…。 203 00:19:43,182 --> 00:19:46,218 私も そう思ってました! いつも…。 204 00:19:46,218 --> 00:19:50,356 ご新造さんと私を 一緒にしないで下さいまし。 205 00:19:50,356 --> 00:19:52,858 ご新造さんを 誰も 責める方は おりません。 206 00:19:52,858 --> 00:19:58,364 ご新造さんが 幸せになられる事を そしる方も おりません。 207 00:19:58,364 --> 00:20:03,202 八丁堀の旦那に嫁いで 仏と呼ばれる舅殿がいて➡ 208 00:20:03,202 --> 00:20:07,873 お嬢様がいて…。 ですから… それは すべて➡ 209 00:20:07,873 --> 00:20:10,876 あなたの おかげではありませんか。 210 00:20:26,892 --> 00:20:33,766 一度しか申しません。 あなたにしか言いません。 211 00:20:33,766 --> 00:20:35,768 はい。 212 00:20:38,904 --> 00:20:43,776 三千代様の事も あなたのお父っつぁんの事も➡ 213 00:20:43,776 --> 00:20:47,913 確かに どうしようもなく 不幸な事でした。 214 00:20:47,913 --> 00:20:53,919 もちろん 私も そのとおりだと 思います。 ですが…。 215 00:20:56,422 --> 00:21:01,026 その不幸が始まりで 私は 晃之助様に嫁ぎ➡ 216 00:21:01,026 --> 00:21:03,829 八千代に 恵まれました。 217 00:21:06,532 --> 00:21:12,238 私は… あなたがいて 幸せになれました。 218 00:21:17,877 --> 00:21:22,381 ご新造様! なのに➡ 219 00:21:22,381 --> 00:21:26,252 あなたが 幸せになるまいと 自分を責め続けるかぎり➡ 220 00:21:26,252 --> 00:21:30,890 周りも みな 自分を 責め続けなければならない。 221 00:21:30,890 --> 00:21:34,393 私の夫は あなたのお父っつぁんを 許した事を悔い➡ 222 00:21:34,393 --> 00:21:37,897 私は 今の幸せを 恥じねばなりません。 223 00:21:37,897 --> 00:21:41,767 そんなつもりでは…。 幸せになりたいという自分を➡ 224 00:21:41,767 --> 00:21:45,771 決して 恥じてはなりませぬ。 225 00:21:50,910 --> 00:21:54,780 あなたのお父っつぁんも➡ 226 00:21:54,780 --> 00:21:58,784 まことに あなたを 苦しめただけでしょうか? 227 00:21:58,784 --> 00:22:10,196 ♬~ 228 00:22:10,196 --> 00:22:15,367 <そのころ 舅殿も 花ごろもを訪ねておられました> 229 00:22:15,367 --> 00:22:23,876 晃之助さんが? ああ 俺には 何も言えなかった。 230 00:22:23,876 --> 00:22:27,746 俺も同じものを 背負っているからだ。 231 00:22:27,746 --> 00:22:32,384 例えば おぶんだ。 おぶんを見るたびに➡ 232 00:22:32,384 --> 00:22:38,891 「常蔵の因果を背負った娘だ。 幸せになってほしい」。 そう思う。 233 00:22:38,891 --> 00:22:44,763 だが 一方で その父のした事を どうしても忘れられぬ。 234 00:22:44,763 --> 00:22:49,902 手放しで 娘を 祝ってやる事ができぬ。 235 00:22:49,902 --> 00:22:56,242 おぶんさん 今…。 19。 236 00:22:56,242 --> 00:23:01,247 三千代が 命を絶ったのは 18だった…。 237 00:23:03,849 --> 00:23:09,722 15の年 定町廻りの 見習いになった。 238 00:23:09,722 --> 00:23:12,524 それから30年…。 239 00:23:12,524 --> 00:23:19,398 何百何千もの 「殺してえ」っていう 恨みを 封じて 生きてきた。 240 00:23:19,398 --> 00:23:27,706 辰吉にも 封じた。 己にも 封じた。 常蔵を 生かした。 241 00:23:29,541 --> 00:23:34,880 だが 今 ふと思うのだ。 242 00:23:34,880 --> 00:23:41,754 あの時 俺が 常蔵を斬っていたら…。 243 00:23:41,754 --> 00:23:46,892 因果は すべて 常蔵が背負い おぶんも これほど➡ 244 00:23:46,892 --> 00:23:49,895 己を責める事は なかったのではないか? 245 00:23:55,567 --> 00:24:01,006 男の方は お好きでござんすねえ。 ご自分を お責めになるのが。 246 00:24:01,006 --> 00:24:04,843 お登世…。こういう商いを しておりますと➡ 247 00:24:04,843 --> 00:24:07,746 お酒の入った お客様 よく おっしゃいます。 248 00:24:07,746 --> 00:24:11,717 あの時 あのようにしてたら。 この時 あちらの道を選んでたら。 249 00:24:11,717 --> 00:24:14,853 お登世…。 今 ここで➡ 250 00:24:14,853 --> 00:24:20,192 そのような事を 口にして 一体 それが 何になります? 251 00:24:20,192 --> 00:24:26,899 旦那。 旦那は 常蔵っていう男を 生かしたんでございます。 252 00:24:29,868 --> 00:24:32,771 亭主に 死なれた時の事で ございます。 253 00:24:32,771 --> 00:24:38,877 嫁ぎ先の唐物問屋を 後見人の安右衛門に追われて➡ 254 00:24:38,877 --> 00:24:44,750 身一つで この店を始めた時 そりゃあ 不安でございました。 255 00:24:44,750 --> 00:24:53,392 ですが一方で こうも思ったもんで ございますよ。 ああ これだと…。 256 00:24:53,392 --> 00:24:59,198 これが 味わいたかったのだと…。 たった一人の出直しも➡ 257 00:24:59,198 --> 00:25:08,507 不安も借金も 嫁ぎ先を追われた 事でさえ みんな 私のものだと。 258 00:25:08,507 --> 00:25:14,313 ああ うらやましい事だ。 俺には お役目しかなかった。 259 00:25:14,313 --> 00:25:17,516 それを 全うするしか 道は なかった。 260 00:25:17,516 --> 00:25:23,822 ならば 最後まで お通しなさいまし。 261 00:25:25,858 --> 00:25:30,729 晃之助様が 何です。 おぶんという娘が何でございます。 262 00:25:30,729 --> 00:25:35,534 旦那は ただ ご自分が 一番 つらく 苦しい場所から➡ 263 00:25:35,534 --> 00:25:38,871 目を そむけているだけじゃ ございませんか。 264 00:25:38,871 --> 00:26:18,844 ♬~ 265 00:26:18,844 --> 00:26:23,148  回想 (三千代)うちへ 戻りたい。 三千代! 266 00:26:25,717 --> 00:26:30,422 三千代! 267 00:26:37,229 --> 00:26:40,132 よせ! 晃之助! 268 00:26:40,132 --> 00:26:42,868 よさぬか! 269 00:26:42,868 --> 00:26:46,205 殺してやる! 270 00:26:46,205 --> 00:27:13,832 ♬~ 271 00:27:13,832 --> 00:27:18,537 旦那…。 見届けてもらいてえ。 272 00:27:21,707 --> 00:27:24,710 藤沢に つきあってもらいてえ。 273 00:27:29,848 --> 00:27:32,551 おともしやす。 274 00:27:50,168 --> 00:27:54,072 ⚟(戸が開く音) 275 00:27:54,072 --> 00:28:00,779 おぶん… おぶんかい? 276 00:28:33,345 --> 00:28:38,850 そうかい。 旦那かい。 277 00:29:07,145 --> 00:29:10,816 ちょうど よかった…。 278 00:29:10,816 --> 00:29:20,826 そろそろね 旦那に 来てほしいと 思ってたんだよ。 279 00:29:20,826 --> 00:29:27,132 得意のあれを 言ってほしくてね。 280 00:29:29,167 --> 00:29:33,171 殺してやる…。 281 00:29:44,650 --> 00:29:48,453 殺してやる。 282 00:29:50,455 --> 00:29:53,859 いくつになった? 283 00:29:53,859 --> 00:30:01,533 薬は? ここへは 誰か 通っているのか? 284 00:30:01,533 --> 00:30:06,538 さっさと言えって言ってんだよ! 285 00:30:09,207 --> 00:30:11,910 おぶん…。 286 00:30:19,217 --> 00:30:26,892 それだよ。 その目だよ。 287 00:30:26,892 --> 00:30:31,563 なぜ お前だけ その目で 見るんだ? 288 00:30:31,563 --> 00:30:34,566 ほかの者は どんな目で見る? 289 00:30:36,234 --> 00:30:45,911 底の底まで 汚えものを 見るようにね。 どの目も同じだ。 290 00:30:45,911 --> 00:30:55,921 死んでくれと 俺に せがむ。 …それがいいんだ。 291 00:30:55,921 --> 00:31:02,728 殺してやる。 そう言われる時だけ➡ 292 00:31:02,728 --> 00:31:06,732 生きた心地がするんだ。 293 00:31:09,868 --> 00:31:15,540 生まれた時から 殺されてきた男だ。 294 00:31:15,540 --> 00:31:25,217 最初は おふくろだ。 捨てられて ほうられて…。 295 00:31:25,217 --> 00:31:36,828 ♬~ 296 00:31:36,828 --> 00:31:46,505 なのに なぜ お前だけ そうして 俺を見ねえんだよ。 297 00:31:46,505 --> 00:31:50,809 なぜ 俺を 殺そうとしねえんだ。 298 00:31:56,915 --> 00:32:03,622 殺すより 俺を憎んでやがる。 299 00:32:08,860 --> 00:32:11,163 見届けろ。 300 00:32:15,734 --> 00:32:20,038 殺すより 憎い。 そう見えるか? 301 00:32:21,873 --> 00:32:27,746 斬るだけじゃ ものたりねえ。 生かして いたぶって…。 302 00:32:27,746 --> 00:32:35,420 一寸刻みに 苦しめてえ。 今日も 明日も…。 303 00:32:35,420 --> 00:32:39,124 そう見えるか? 304 00:32:41,226 --> 00:32:44,930 さあてね…。 305 00:32:48,099 --> 00:32:52,838 (泣き声) 306 00:32:52,838 --> 00:32:59,711 ご存じのとおり 何も思わない男でね。 307 00:32:59,711 --> 00:33:10,188 せいぜいが…。 そうさな 春。 花が散って この身が消える。 308 00:33:10,188 --> 00:33:14,860 それを思うくらいでね。 309 00:33:14,860 --> 00:33:29,875 (笑い声) 310 00:33:40,886 --> 00:33:44,189 今でございますよ。 311 00:33:53,465 --> 00:33:58,169 今なら 誰も 見ちゃいねえ。 312 00:34:29,200 --> 00:34:31,870 どうぞ…。 313 00:34:31,870 --> 00:35:50,548 ♬~ 314 00:35:50,548 --> 00:35:53,218 殺してやる…。 315 00:35:53,218 --> 00:36:41,733 ♬~ 316 00:36:41,733 --> 00:36:59,084 ⚟(常蔵の泣き声) 317 00:36:59,084 --> 00:37:10,695 (常蔵の泣き声) 318 00:37:10,695 --> 00:37:16,701 <それから 10日ほどして 常蔵は死にました> 319 00:37:19,170 --> 00:37:24,876 <誰も みとる者もなく ひっそりと 逝ったそうです> 320 00:37:29,514 --> 00:37:34,219 <旦那様は 何も おっしゃいませんでした> 321 00:37:36,855 --> 00:37:39,190 (ウグイスの鳴き声) 322 00:37:39,190 --> 00:37:44,062 (安右衛門)ああ 聞いたかい? あの常蔵が 死んだそうだ。 323 00:37:44,062 --> 00:37:46,064 お前さん 知らなかったのか? 324 00:37:46,064 --> 00:37:49,534 仏の旦那が 訪ねて 程なくだそうだ。 325 00:37:49,534 --> 00:37:53,371 どんな引導を 渡したんだか…。 326 00:37:53,371 --> 00:37:55,874 そうですか…。 327 00:37:57,542 --> 00:38:01,546 旦那 見届けたんですか…。 328 00:38:03,348 --> 00:38:05,817 女将さん こちらでいいですか? 329 00:38:05,817 --> 00:38:09,487 (板前)仕事を頼んでるのは 女将さんじゃねえ 俺だろう。 330 00:38:09,487 --> 00:38:12,824 はい。 すいません 女将さん。 331 00:38:12,824 --> 00:38:14,759 (笑い声) 332 00:38:14,759 --> 00:38:18,763 ほら もう 襟を ちゃんと おし…。 333 00:38:23,168 --> 00:38:27,038 (辰吉)あれから ひと言も 口をききません。➡ 334 00:38:27,038 --> 00:38:30,508 涙も見せません。 335 00:38:30,508 --> 00:38:34,512 ただ じっとしてるばかりで…。 336 00:38:38,383 --> 00:38:42,687 (辰吉)おぶん 根岸の旦那が お見えだ。 337 00:38:51,796 --> 00:38:53,798 (辰吉)おぶん! 338 00:38:57,735 --> 00:39:02,440 旦那…。 大事ないかい? 339 00:39:37,842 --> 00:39:40,144 旦那…。 340 00:39:43,648 --> 00:39:46,851 もう逃げるな。 341 00:39:50,855 --> 00:39:53,191 生きろ。 342 00:39:53,191 --> 00:40:31,896 ♬~ 343 00:40:31,896 --> 00:40:34,799 (泣き声) 344 00:40:34,799 --> 00:40:39,771 お父っつぁん! お父っつぁん! 345 00:40:39,771 --> 00:41:14,772 ♬~ 346 00:41:17,208 --> 00:41:20,878 幸せになれ。 そう言えというのか? 347 00:41:20,878 --> 00:41:22,814 常蔵の娘に。 348 00:41:22,814 --> 00:41:26,217 親分さんと夫婦になりたいんです。 349 00:41:26,217 --> 00:41:28,152 お願いします! 350 00:41:28,152 --> 00:41:31,556 俺は 怖かったのだ。 351 00:41:31,556 --> 00:41:34,258 <次回は…> 352 00:41:35,893 --> 00:41:37,829 <お楽しみに> 353 00:41:37,829 --> 00:42:54,539 ♬~