1 00:00:35,375 --> 00:00:37,710 <天保8年 春。➡ 2 00:00:37,710 --> 00:00:41,047 初節句も過ぎて 歯が生え始めた お順は➡ 3 00:00:41,047 --> 00:00:43,347 かわいい盛りです> 4 00:00:46,386 --> 00:00:50,056 はあ… 今日もまた きらず飯か。 5 00:00:50,056 --> 00:00:51,991 すいません。 6 00:00:51,991 --> 00:00:54,394 (登勢)何を言ってるのです。 7 00:00:54,394 --> 00:00:58,264 きらず飯でも 毎日欠かさず頂けるのは➡ 8 00:00:58,264 --> 00:01:01,267 ありがたいことです。 9 00:01:01,267 --> 00:01:07,407 麟太郎。 まだ飢饉に苦しむ人が多いのですからね。 10 00:01:07,407 --> 00:01:09,342 はい。 11 00:01:09,342 --> 00:01:11,744 よし 決めた。 小田原 行ってくる。 12 00:01:11,744 --> 00:01:16,616 え? 小田原って 箱根の手前の? うん。 古い知り合いがいるんだ。 13 00:01:16,616 --> 00:01:19,085 何を言うのです。 14 00:01:19,085 --> 00:01:22,956 勝手に江戸を離れるなど もっての外! 15 00:01:22,956 --> 00:01:27,427 なに すぐ戻ってきますよ。 なりませぬ。 16 00:01:27,427 --> 00:01:32,265 そなたは 勝家を潰す気ですか。 17 00:01:32,265 --> 00:01:34,234 このくらいで潰れるんなら➡ 18 00:01:34,234 --> 00:01:37,704 おばば殿の信心が 足りないのではありませぬか? 19 00:01:37,704 --> 00:01:39,639 (お順の泣き声) 20 00:01:39,639 --> 00:01:44,043 ほら お順が怒ってるではありませんか。 21 00:01:44,043 --> 00:01:47,914 <当時 武士の外泊は禁止されていました> 22 00:01:47,914 --> 00:01:49,916 母上が 一本。 23 00:01:49,916 --> 00:01:53,386 <参勤交代のような御用道中以外➡ 24 00:01:53,386 --> 00:01:57,586 勝手に旅をすることも 許されていなかったのです> 25 00:01:59,559 --> 00:02:04,397 14の年に家出した時 小田原の漁師の家に世話になってな。 26 00:02:04,397 --> 00:02:08,268 その時 初めて きらず飯を食ったよ。 そうでしたか。 27 00:02:08,268 --> 00:02:10,270 親方が 俺のことを気に入って➡ 28 00:02:10,270 --> 00:02:13,406 うちの子になれって しつこく誘ってくんだよ。 29 00:02:13,406 --> 00:02:15,742 江戸には 私がいたのに…。 30 00:02:15,742 --> 00:02:21,080 漁師になるわけにもいくめえから 夜中に こっそり逃げ出したんだがね。 31 00:02:21,080 --> 00:02:26,419 その時 路銀の足しにと 戸棚から三百文 失敬してきちまった。 32 00:02:26,419 --> 00:02:29,088 まあ ひどい。 20年 すっかり忘れてたんだが➡ 33 00:02:29,088 --> 00:02:32,959 この前の鼠小僧の一件で ひょいと思い出しちまって…。 34 00:02:32,959 --> 00:02:34,894 ええ…。 35 00:02:34,894 --> 00:02:37,697 小田原は ひでぇ飢饉が続いてるらしい。 36 00:02:37,697 --> 00:02:42,835 こんな時こそ 20年分の利子を乗っけて 借りた銭 返さなきゃならねえ。 37 00:02:42,835 --> 00:02:44,771 そうですね。 38 00:02:44,771 --> 00:02:48,374 じゃ 行ってくる。 えっ? そんな格好で? 39 00:02:48,374 --> 00:02:50,310 旅支度は? 40 00:02:50,310 --> 00:02:53,713 この方が 人目に立たない。 なに すぐ戻ってくるさ。 41 00:02:53,713 --> 00:02:56,049 でも…。 10日もすりゃ 帰ってくる。 42 00:02:56,049 --> 00:02:58,952 兄貴には言うなよ。 知られたら うるせえからな。 43 00:02:58,952 --> 00:03:00,952 …はい。 44 00:03:06,693 --> 00:03:08,628 じゃあ 行ってくるぜ。 45 00:03:08,628 --> 00:03:12,599 お早いお戻りを。 46 00:03:12,599 --> 00:03:16,235 <まるで 近所にでも出かけるような身軽さで➡ 47 00:03:16,235 --> 00:03:22,408 小吉が 小田原に旅立ったのは 3月末のことでした> 48 00:03:22,408 --> 00:03:34,354 ♬~ 49 00:03:34,354 --> 00:03:38,024 お参りが済んだら 伯父上のところに伺います。 50 00:03:38,024 --> 00:03:40,927 旦那様の旅のことは これですよ。 51 00:03:40,927 --> 00:03:44,197 はい。 心得ております。 52 00:03:44,197 --> 00:03:46,699 (にぎわう声) 53 00:03:46,699 --> 00:03:50,036 何かしら? 随分 にぎわっていますね。 54 00:03:50,036 --> 00:03:54,841 松井町に 吉原の仮宅が出来たのですよ。 ほら。 55 00:03:54,841 --> 00:03:58,211 もっとも 本所辺りに仮宅を出すのは➡ 56 00:03:58,211 --> 00:04:02,382 吉原でも格下の小見世だそうですよ。 57 00:04:02,382 --> 00:04:06,552 そのようなこと 誰から教わったのですか? 58 00:04:06,552 --> 00:04:09,589 父上からです。 59 00:04:09,589 --> 00:04:11,589 もうっ! 60 00:04:13,326 --> 00:04:16,562 <吉原の遊廓が 火事で全焼すると➡ 61 00:04:16,562 --> 00:04:23,236 再建するまでの間 市中のあちこちに 臨時営業の妓楼を開くのが通例でした。➡ 62 00:04:23,236 --> 00:04:26,139 これを 仮宅といいます。➡ 63 00:04:26,139 --> 00:04:29,108 近所に色里が引っ越してきたようで➡ 64 00:04:29,108 --> 00:04:34,347 格式ばらない気軽さから 大いに繁盛したそうです> 65 00:04:34,347 --> 00:04:36,382 なあ いいじゃねえかよ! 66 00:04:36,382 --> 00:04:39,185 ええ しつっけえ! よしなんし! 67 00:04:39,185 --> 00:04:42,221 (男)おつに澄ましやがって お高くとまるなよ。 68 00:04:42,221 --> 00:04:45,525 たかが 小見世の安女郎が。 (男たち)ハハハハハ! 69 00:04:45,525 --> 00:04:49,195 ふん! 安女郎さえ買えねえ すってんてれつくめ。 70 00:04:49,195 --> 00:04:52,098 何を! この あま つけあがるな! 71 00:04:52,098 --> 00:04:54,367 およしなさい! あいたた! 72 00:04:54,367 --> 00:04:57,403 うわっ! てめえ この野郎! 73 00:04:57,403 --> 00:05:00,039 女1人に3人掛かりとは卑怯です。 74 00:05:00,039 --> 00:05:04,377 何だと! ガキが生意気な! 75 00:05:04,377 --> 00:05:08,548 麟太郎 人様に怪我をさせてはなりませんよ。 76 00:05:08,548 --> 00:05:10,483 麟太郎…? 77 00:05:10,483 --> 00:05:13,419 あっ! 勝の殿様の坊ちゃん…! えっ!? 78 00:05:13,419 --> 00:05:15,421 いけねえ! 79 00:05:15,421 --> 00:05:19,058 あいすいやせん…。 花魁 悪かったね。 80 00:05:19,058 --> 00:05:21,058 おい 行くぞ! おい! 81 00:05:22,929 --> 00:05:24,931 弱虫め! 82 00:05:24,931 --> 00:05:26,933 坊ちゃん。 83 00:05:26,933 --> 00:05:30,069 ありがとうおざんす。 84 00:05:30,069 --> 00:05:35,508 お怪我はありませんか? あい。 おかげさまで。 85 00:05:35,508 --> 00:05:37,443 麟太郎? 86 00:05:37,443 --> 00:05:40,179 あっ… わ… 私は これにて。 87 00:05:40,179 --> 00:05:43,216 伯父上が待っておいでですので。 88 00:05:43,216 --> 00:05:47,916 麟太郎 お参りは どうするのです? 89 00:05:50,189 --> 00:05:52,889 おかしな子。 90 00:05:54,527 --> 00:05:56,562 (かしわ手) 91 00:05:56,562 --> 00:06:01,762 旦那様が 無事にお戻りになりますように。 92 00:06:22,221 --> 00:06:25,258 その絵馬 どこでお求めなんした? 93 00:06:25,258 --> 00:06:30,558 どこにでもある絵馬ですよ。 歌は 私が書いたのです。 94 00:06:32,331 --> 00:06:34,667 「たち別れ」…。 95 00:06:34,667 --> 00:06:43,009 「たち別れ いなばの山乃峰に生ふる まつとし聞かば 今 帰り来む」。 96 00:06:43,009 --> 00:06:48,709 旅に出た夫が 無事に戻る おまじないです。 97 00:06:51,717 --> 00:06:55,354 歌を書いたら 願い事がかないんすか? 98 00:06:55,354 --> 00:06:59,826 ええ… 少しは効き目があるかも。 99 00:06:59,826 --> 00:07:05,198 わっちも まねたいけど… 歌が分からない。 100 00:07:05,198 --> 00:07:11,070 吉原の花魁衆は 歌の道にも通じていると聞きますけど…。 101 00:07:11,070 --> 00:07:17,376 それは 禿の時分から仕込まれた 大見世の花魁に限った話。 102 00:07:17,376 --> 00:07:20,279 わっちなんぞ 17で売られてくるまで➡ 103 00:07:20,279 --> 00:07:23,850 多摩の田舎で 畑仕事ばかりしていましたから➡ 104 00:07:23,850 --> 00:07:26,219 歌のことなんぞ さっぱり。 105 00:07:26,219 --> 00:07:28,254 そう…。 106 00:07:28,254 --> 00:07:32,054 何を祈願しておいでなのです? 107 00:07:34,327 --> 00:07:38,998 思うお方と 末永く一緒にいられるように…。 108 00:07:38,998 --> 00:07:42,335 好きな人がいるのですね。 109 00:07:42,335 --> 00:07:44,270 あい…。 110 00:07:44,270 --> 00:07:47,673 行く末永くと願う歌ですか…。 111 00:07:47,673 --> 00:07:49,609 教えてくんなんすか? 112 00:07:49,609 --> 00:07:54,013 ええ。 何か よい歌があったはず…。 113 00:07:54,013 --> 00:07:56,916 あっ いけない。 114 00:07:56,916 --> 00:08:00,186 もう戻らないと。 115 00:08:00,186 --> 00:08:03,089 家で 子どもが待っているんです。 116 00:08:03,089 --> 00:08:07,059 そう… 残念…。 117 00:08:07,059 --> 00:08:12,531 では 次にお参りに来る時までに 考えておきましょう。 118 00:08:12,531 --> 00:08:16,836 ほんに? 次は いつ おいでになりんす? 119 00:08:16,836 --> 00:08:19,372 3日後では? あい。 120 00:08:19,372 --> 00:08:22,708 3日後の同じ刻限に また ここで。 121 00:08:22,708 --> 00:08:26,579 あ… わっちは 小松屋の花里。 122 00:08:26,579 --> 00:08:30,449 本当は 多摩の百姓の娘 花。 123 00:08:30,449 --> 00:08:33,749 信といいます。 124 00:08:36,155 --> 00:08:39,492 (彦四郎)なんと! それは重畳! 125 00:08:39,492 --> 00:08:43,329 そうか ついに 御番入りか。 126 00:08:43,329 --> 00:08:46,165 小十人組に お取り立てと決まったそうです。 127 00:08:46,165 --> 00:08:48,501 男谷先生に 学問を教わり➡ 128 00:08:48,501 --> 00:08:53,005 精一郎先生の門弟に 加えていただいたおかげです。 129 00:08:53,005 --> 00:08:55,705 ありがとうございました! 130 00:08:57,677 --> 00:08:59,612 失礼いたします。 131 00:08:59,612 --> 00:09:02,348 <磯貝半次郎は 旗本の次男坊。➡ 132 00:09:02,348 --> 00:09:05,818 本来なら 生涯部屋住みの境遇ですが➡ 133 00:09:05,818 --> 00:09:11,318 文武両道に秀でたところを買われて 抜擢されたのです> 134 00:09:14,360 --> 00:09:17,029 よろしゅうございましたね。 135 00:09:17,029 --> 00:09:21,367 親御様も さぞ お喜びのことでございましょう。 136 00:09:21,367 --> 00:09:26,238 はい。 望外の幸せと申しております。 137 00:09:26,238 --> 00:09:31,043 研鑽を積めば こうして出世の道も開ける。 138 00:09:31,043 --> 00:09:33,946 そなたは 磯貝殿を手本とせよ。➡ 139 00:09:33,946 --> 00:09:38,317 ゆめゆめ 父親のまねをしてはならぬぞ。 140 00:09:38,317 --> 00:09:40,517 はあ…。 141 00:09:42,154 --> 00:09:46,659 そうですか。 そなたの兄弟子がねえ。 142 00:09:46,659 --> 00:09:52,331 お人柄も優れておいでなのです。 穏やかで 謙虚で。 143 00:09:52,331 --> 00:09:57,003 まあ ご立派だこと。 ねえ お信。 144 00:09:57,003 --> 00:10:01,340 「瀬を早み」… これは違う。 145 00:10:01,340 --> 00:10:04,377 「あしびきの」でもないし…。 146 00:10:04,377 --> 00:10:06,512 (登勢)お信。 147 00:10:06,512 --> 00:10:08,447 はい。 お代わりですか? 148 00:10:08,447 --> 00:10:15,521 何を言ってるのです。 磯貝様が御番入りを果たした話ですよ。 149 00:10:15,521 --> 00:10:18,824 まあ それは ようございました。 150 00:10:18,824 --> 00:10:25,698 部屋住みから世に出る方もあるというのに ああ 婿殿ときたら…。 151 00:10:25,698 --> 00:10:34,306 まあ 座敷牢で読み書きを学ぶようでは 御番入りなど かなうはずも…。 152 00:10:34,306 --> 00:10:38,844 あっ! それです! 153 00:10:38,844 --> 00:10:41,844 あの時の歌…。 154 00:10:44,383 --> 00:10:47,853 (染川)若旦さん お上がりなんし。 155 00:10:47,853 --> 00:10:51,390 (桜木)かわいがっておくれよ。 156 00:10:51,390 --> 00:10:55,728 (染川)ふん! 冷やかしかい この とうへんぼく! 157 00:10:55,728 --> 00:10:57,663 (文七)石川様。➡ 158 00:10:57,663 --> 00:11:03,069 花里さんは どうにも頭が痛くって 今夜は お目にかかれねえと…。 159 00:11:03,069 --> 00:11:07,940 またか。 頭痛だの癪だのと言っては 毎度 顔も見せぬではないか! 160 00:11:07,940 --> 00:11:11,410 何とも 申し訳ありやせん。 161 00:11:11,410 --> 00:11:15,081 桜木さんか 染川さん 替わり妓に いかがでしょう? 162 00:11:15,081 --> 00:11:18,584 旦那 遊んでってよ。 163 00:11:18,584 --> 00:11:22,088 白塗りのカボチャに用はないわ! 164 00:11:22,088 --> 00:11:24,590 また来る。 165 00:11:24,590 --> 00:11:26,525 あいすいやせん。 166 00:11:26,525 --> 00:11:31,363 ふん! ゲジゲジの旦那 また振られたよ。 167 00:11:31,363 --> 00:11:34,834 花里さんに 間夫がいるのも知らねえでさ。 168 00:11:34,834 --> 00:11:37,334 フフフフ! ウフフフ! 169 00:11:39,705 --> 00:11:43,576 よいのか 上客を袖にしても。 170 00:11:43,576 --> 00:11:46,378 ゲジゲジの顔は見るのも嫌。 171 00:11:46,378 --> 00:11:49,415 今日は せっかく よいことがあったのだもの。 172 00:11:49,415 --> 00:11:52,251 ん? 何だ? 173 00:11:52,251 --> 00:11:58,751 金比羅さんに願をかけに行ったら 親切なお方と巡り会って…。 174 00:12:03,229 --> 00:12:06,065 いい男だったのか? 175 00:12:06,065 --> 00:12:08,968 ばからしい。 殿御ではありんせん。 176 00:12:08,968 --> 00:12:11,937 お武家の奥方さん。 177 00:12:11,937 --> 00:12:15,407 そうか。 178 00:12:15,407 --> 00:12:17,443 何を願ったんだい? 179 00:12:17,443 --> 00:12:21,881 それは… かなうまでは ないしょ。 180 00:12:21,881 --> 00:12:23,881 フッ… おい。 181 00:12:26,585 --> 00:12:31,423 実は… 俺も 今日は よい知らせがある。 182 00:12:31,423 --> 00:12:34,423 まあ… 何でおざんす? 183 00:12:41,834 --> 00:12:45,538 ようやく 御番入りが かなった。 184 00:12:45,538 --> 00:12:47,473 え…。 185 00:12:47,473 --> 00:12:53,279 これで 一人前の武士として 世を渡る道が開けた。 186 00:12:53,279 --> 00:12:58,250 もう 冷や飯食いとも厄介者とも言わせぬ。 187 00:12:58,250 --> 00:13:04,750 今夜は 祝い酒だ。 そなたも飲め。 188 00:13:06,725 --> 00:13:10,596 さあ 一杯。 189 00:13:10,596 --> 00:13:12,598 …いりんせん。 190 00:13:12,598 --> 00:13:17,736 どうした? 喜んでくれぬのか? 191 00:13:17,736 --> 00:13:23,075 早く知らせたくて 男谷様の屋敷を 早々に引き揚げてきたのだぞ。 192 00:13:23,075 --> 00:13:28,881 それでも… うれしくありんせんもの。 193 00:13:28,881 --> 00:13:30,816 ん? 194 00:13:30,816 --> 00:13:38,524 お武家のお客は 威張り散らして 横柄で 野暮で不粋で けちん坊ばっかり! 195 00:13:38,524 --> 00:13:41,427 手厳しいな…。 196 00:13:41,427 --> 00:13:45,297 磯様が そんな人たちのお仲間になるんなら➡ 197 00:13:45,297 --> 00:13:50,536 わっちは もう 会いとうおざんせん。 198 00:13:50,536 --> 00:13:58,844 俺を そんなつまらぬ男だと思うのか。 だって…。 199 00:13:58,844 --> 00:14:01,547 フッ… ハハハハ! 200 00:14:01,547 --> 00:14:06,852 おかしなやつだ。 何をすねておる? 201 00:14:06,852 --> 00:14:12,057 ご立派なお武家様には こんな小見世は似合いんせん。 202 00:14:12,057 --> 00:14:14,860 もう帰っておくんなんし…。 203 00:14:14,860 --> 00:14:18,564 おい 花里。➡ 204 00:14:18,564 --> 00:14:20,764 おい。 205 00:14:23,736 --> 00:14:25,671 ろくな女がおらぬ! 206 00:14:25,671 --> 00:14:30,542 花里さんが 何か粗相をいたしやしたか? 今夜は 虫の居どころが悪いようだ。 207 00:14:30,542 --> 00:14:33,812 俺も用があるゆえ また改めて参る。 208 00:14:33,812 --> 00:14:35,881 お早いお越しを願いますよ。 209 00:14:35,881 --> 00:14:41,186 磯貝様がお見えにならねえと 花里さんの機嫌が悪くなって困りやす。 210 00:14:41,186 --> 00:14:43,822 では。 ありがとうございました。 211 00:14:43,822 --> 00:14:45,891 (桜木)よおよお 色男様! 212 00:14:45,891 --> 00:14:48,527 憎いねえ どうも! 213 00:14:48,527 --> 00:14:50,527 アハハ! ウフフフ! 214 00:14:52,364 --> 00:14:57,564 あいつは 確か 磯貝半次郎…。 215 00:15:00,039 --> 00:15:03,542 絵馬に この歌を書いてはどうでしょう? 216 00:15:03,542 --> 00:15:07,713 「戀ひ戀ひて逢へる時だに」…。 217 00:15:07,713 --> 00:15:13,385 「愛しき言盡くしてよ 長くと思はば」。 218 00:15:13,385 --> 00:15:16,221 「長くと思はば」…。 219 00:15:16,221 --> 00:15:19,258 「恋しくて やっと会えた時には➡ 220 00:15:19,258 --> 00:15:23,395 優しい言葉を たくさん聞かせてください。➡ 221 00:15:23,395 --> 00:15:28,095 この恋が 長く続くようにと お思いなら」。 222 00:15:29,735 --> 00:15:35,007 私も昔 この歌に 願いをかけたことがあるんですよ。 223 00:15:35,007 --> 00:15:36,942 えっ? 224 00:15:36,942 --> 00:15:41,880 旦那様は 若い頃 手のつけられない暴れ者で➡ 225 00:15:41,880 --> 00:15:46,185 とうとう 座敷牢に押し込められて…。 226 00:15:46,185 --> 00:15:48,687 てれ屋で ぶっきらぼうで➡ 227 00:15:48,687 --> 00:15:52,691 優しい言葉の一つも かけてくださらないものだから…。 228 00:15:52,691 --> 00:15:58,030 手習いの手本に この歌を使ったんです。 229 00:15:58,030 --> 00:16:02,368 そうして 願いは かないんしたか? 230 00:16:02,368 --> 00:16:09,241 ずっと夫婦でいられるのですから 歌の効き目があったのかもしれません。 231 00:16:09,241 --> 00:16:12,845 好いておいでなんですね 今も変わらずに。 232 00:16:12,845 --> 00:16:16,048 はい。 233 00:16:16,048 --> 00:16:19,718 羨ましい…。 234 00:16:19,718 --> 00:16:23,722 お信様 ありがとうおざんす。 235 00:16:23,722 --> 00:16:30,796 でも 末永くと願う歌は もう… 無用になりんした。 236 00:16:30,796 --> 00:16:32,731 えっ…。 237 00:16:32,731 --> 00:16:35,334 今 知りたいのは➡ 238 00:16:35,334 --> 00:16:39,671 すっぱりと思いを断ち切る歌…。 239 00:16:39,671 --> 00:16:42,574 (半鐘の音) 火事だ! 240 00:16:42,574 --> 00:16:45,344 (悲鳴) 241 00:16:45,344 --> 00:16:51,016 (花里)あの人が初めて見世に揚がったのは 吉原の大火の晩…。 242 00:16:51,016 --> 00:16:54,052 (人々の悲鳴) 243 00:16:54,052 --> 00:16:57,189 いかん もうすぐ火が回る…。 244 00:16:57,189 --> 00:16:59,124 走るぞ! あい! 245 00:16:59,124 --> 00:17:08,901 ♬~ 246 00:17:08,901 --> 00:17:11,036 (花里)炎に追われて➡ 247 00:17:11,036 --> 00:17:15,207 廓の女が 決して 通り抜けることのできない大門を➡ 248 00:17:15,207 --> 00:17:18,110 2人で手をつないで くぐった時➡ 249 00:17:18,110 --> 00:17:25,217 このまま一緒に ずっと遠くまで行ける気がしんした。 250 00:17:25,217 --> 00:17:30,656 本当は どこにも逃げられやしないのに…。 251 00:17:30,656 --> 00:17:34,493 お好きなんでしょう その方のこと。 252 00:17:34,493 --> 00:17:38,664 どうして 思い切ろうだなんて…。 253 00:17:38,664 --> 00:17:43,535 一時の夢が覚めちまったから…。 え? 254 00:17:43,535 --> 00:17:46,004 お武家の次男坊で➡ 255 00:17:46,004 --> 00:17:52,511 「俺は厄介者だ この世に用のない男だ」と 言っておいでなんしたが➡ 256 00:17:52,511 --> 00:17:57,382 この間 御番入りが決まって…。 257 00:17:57,382 --> 00:18:01,687 年季が明けても添えるはずはないのに…➡ 258 00:18:01,687 --> 00:18:04,690 この世に用のない者同士➡ 259 00:18:04,690 --> 00:18:10,829 いつかまた 2人で 大門をくぐれる気がしていたんです。 260 00:18:10,829 --> 00:18:14,032 ばかですねえ…。 261 00:18:14,032 --> 00:18:19,905 きっぱり縁を切った方が わっちも いっそ清々しんす。 262 00:18:19,905 --> 00:18:24,042 花里さん…。 263 00:18:24,042 --> 00:18:29,381 お信様 この歌 頂いてもようおざんすか? 264 00:18:29,381 --> 00:18:33,151 いつか 絵馬に書けるとよいのだけど…。 265 00:18:33,151 --> 00:18:36,054 わっちらのような者には➡ 266 00:18:36,054 --> 00:18:42,854 かなう願いなんて 何一つありんせんよ…。 267 00:18:44,863 --> 00:18:48,333 石川様には 近々 お目付に お役替えになるとのこと。 268 00:18:48,333 --> 00:18:50,369 大層なご出世にござりますなあ。 269 00:18:50,369 --> 00:18:52,569 まだ先の話だ。 270 00:18:55,207 --> 00:18:57,809 小十人組に新入りが来るそうだな。 271 00:18:57,809 --> 00:19:03,181 はい。 西丸御納戸頭 磯貝殿の次男だそうです。 272 00:19:03,181 --> 00:19:07,519 部屋住みから番入りとは さぞ できる男なのであろう。 273 00:19:07,519 --> 00:19:11,023 男谷道場でも 一二を争う使い手との 評判ですが…。 274 00:19:11,023 --> 00:19:12,958 ふ~む…。 275 00:19:12,958 --> 00:19:18,697 ならば 早々に 勤めの厳しさをたたき込まねばならぬぞ。 276 00:19:18,697 --> 00:19:22,701 高慢な鼻はへし折ってやるのが 本人のためだ。 277 00:19:22,701 --> 00:19:25,037 なっ。 278 00:19:25,037 --> 00:19:28,337 一同に申し伝えます。 279 00:19:29,908 --> 00:19:31,843 フッ…。 280 00:19:31,843 --> 00:19:34,313 はい ありがとうございます。 どうぞ。 281 00:19:34,313 --> 00:19:36,782 <4月8日は 花祭り。➡ 282 00:19:36,782 --> 00:19:41,620 お釈迦様の誕生を祝い 子どもの無事な成長を祈る日ですが➡ 283 00:19:41,620 --> 00:19:45,490 小吉は まだ旅から戻りません> 284 00:19:45,490 --> 00:19:47,793 すいません お使い立てして。 285 00:19:47,793 --> 00:19:51,293 あっしでお役に立つなら どんどん お使いくだせえ。 286 00:19:55,334 --> 00:19:57,269 …分際は 心得ておりやす。 287 00:19:57,269 --> 00:20:00,205 旦那が帰ってくるまでのお手伝いで…。 288 00:20:00,205 --> 00:20:05,043 そなたがいて 助かりました。 お順も懐いて。 フフフ…。 289 00:20:05,043 --> 00:20:08,880 (お順の泣き声) あ… ご隠居様 この人出だ。 290 00:20:08,880 --> 00:20:11,883 懐を狙われねえよう ご用心なすって。 291 00:20:11,883 --> 00:20:15,687 あ~ よしよし よしよし。 ヘヘヘ! 292 00:20:15,687 --> 00:20:26,832 ♬~ 293 00:20:26,832 --> 00:20:30,702 おや。 294 00:20:30,702 --> 00:20:33,705 白鬚様が どうして ここに? 295 00:20:33,705 --> 00:20:36,005 白鬚? 296 00:20:39,411 --> 00:20:44,716 ハハハ… 私が 白鬚大明神の化身ですと。 297 00:20:44,716 --> 00:20:48,387 神仏にすがる思いでいましたので てっきり…。 298 00:20:48,387 --> 00:20:51,289 ただの向島の隠居です。 299 00:20:51,289 --> 00:20:53,258 そうでしたか…。 ああ。 300 00:20:53,258 --> 00:20:57,396 ああ… 書の腕は上がりましたか? 301 00:20:57,396 --> 00:20:59,865 いいえ さっぱり。 302 00:20:59,865 --> 00:21:05,570 先日も 絵馬に歌を書いて 金比羅様に奉納したのですが…。 303 00:21:05,570 --> 00:21:10,442 まだ 願いが かなわないのは 書が拙いせいかもしれません。 304 00:21:10,442 --> 00:21:15,580 ハハハ… いやいや 神様に願をかける方が多いから➡ 305 00:21:15,580 --> 00:21:18,617 神様も手が回らぬのでしょう。➡ 306 00:21:18,617 --> 00:21:20,752 ハハハハハ…。 そうですね。 307 00:21:20,752 --> 00:21:24,752 もう少し 待ってみます。 (碩翁)うむ。 308 00:21:26,425 --> 00:21:29,895 神仏には 誰でも幸せを願うものなのに➡ 309 00:21:29,895 --> 00:21:34,395 それさえ諦めなくちゃならないなんて…。 310 00:21:38,203 --> 00:21:40,138 (碩翁)花里…。 311 00:21:40,138 --> 00:21:47,546 好きだからこそ 思い切ろうとする 花魁の気持ちが いじらしくて…。 312 00:21:47,546 --> 00:21:50,382 (お順の泣き声) あ…。 313 00:21:50,382 --> 00:21:53,382 ちょっと失礼いたします。 314 00:21:57,055 --> 00:22:00,926 小松屋の花里か…。 315 00:22:00,926 --> 00:22:02,928 (お順の泣き声) (銀次)あらららら。 316 00:22:02,928 --> 00:22:04,930 (お順の泣き声) ああ どうも すいません。 317 00:22:04,930 --> 00:22:07,065 ああ ごめんね ごめんね はいはい はいはい。 318 00:22:07,065 --> 00:22:09,401 よいしょ。 (泣き声) ハハハ! 319 00:22:09,401 --> 00:22:12,437 ほ~! よしよし よしよし。 (泣き声) 320 00:22:12,437 --> 00:22:14,740 (お順の泣き声) 321 00:22:14,740 --> 00:22:16,675 あ… いけない。 322 00:22:16,675 --> 00:22:20,078 また お名前を聞き忘れた…。 323 00:22:20,078 --> 00:22:25,417 <小十人組は 将軍の護衛に当たる歩兵部隊です。➡ 324 00:22:25,417 --> 00:22:29,755 長く続く太平の世では 腕の見せどころもなく➡ 325 00:22:29,755 --> 00:22:32,691 交代で城内警備に当たっていました> 326 00:22:32,691 --> 00:22:35,391 失礼いたします。 327 00:22:39,030 --> 00:22:42,067 本日 初泊りを勤めます。 328 00:22:42,067 --> 00:22:46,371 よろしくお引き回しのほどを願います。 329 00:22:46,371 --> 00:22:52,177 <初泊りとは 御番入りして初めての 宿直勤務のことです> 330 00:22:52,177 --> 00:22:56,381 何とぞ 作法や手順など ご教示賜りたく…。 331 00:22:56,381 --> 00:22:59,284 弁当は どうした? え? 332 00:22:59,284 --> 00:23:03,255 初泊りの日は 相番の者に 弁当振る舞いをするものだ。 333 00:23:03,255 --> 00:23:07,726 組頭にお伺いを立てたところ その旧習は取りやめたので➡ 334 00:23:07,726 --> 00:23:09,661 用意するには及ばずと…。 335 00:23:09,661 --> 00:23:12,864 お指図がどうあろうと 人に教えを請う時には➡ 336 00:23:12,864 --> 00:23:16,067 酒と煮しめくらい持参するのが 礼儀であろう。 337 00:23:16,067 --> 00:23:21,406 はっ…。 不調法をいたしました。 次の泊り番には必ず。 338 00:23:21,406 --> 00:23:26,077 部屋住みは これだから…。 世間知らずで困ったものだ! 339 00:23:26,077 --> 00:23:28,880 まことに。 そういえば➡ 340 00:23:28,880 --> 00:23:35,187 番入りの祝儀に配られた かつお節も ケチな品であったなあ。 341 00:23:35,187 --> 00:23:38,690 次男坊には 親も出費を渋ると見える。 342 00:23:38,690 --> 00:23:44,690 (笑い声) 343 00:23:50,035 --> 00:23:54,706 (碩翁)さあ 遠慮せずに食べなさい。 344 00:23:54,706 --> 00:23:56,641 お前様…。 345 00:23:56,641 --> 00:23:59,044 わっちの揚げ代は一分でも➡ 346 00:23:59,044 --> 00:24:03,915 こう次々と 膳の物や酒を頼んでは 高く つきんすよ。 347 00:24:03,915 --> 00:24:07,385 客の懐の心配か? ハハハ…。 348 00:24:07,385 --> 00:24:12,858 吉原は 金をむしり取る所と思っていたが…。 349 00:24:12,858 --> 00:24:17,395 実のあるお客さんには わっちらも 実を尽くしんす。 350 00:24:17,395 --> 00:24:22,734 会ったばかりで 実があると なぜ分かる。 351 00:24:22,734 --> 00:24:25,737 まことは 極悪人かもしれぬぞ。 352 00:24:25,737 --> 00:24:28,240 悪人のはずはありんせん。 353 00:24:28,240 --> 00:24:31,676 わっちの死んだ父さんに よく似ておいでだもの。 354 00:24:31,676 --> 00:24:36,548 ハハハ… なんと。 父御に見立てられては 色事にならぬな。 355 00:24:36,548 --> 00:24:38,817 ハハハハハ! 356 00:24:38,817 --> 00:24:43,355 お前様 おかみさんはえ? 357 00:24:43,355 --> 00:24:45,290 おらぬ。 358 00:24:45,290 --> 00:24:50,829 それでは お寂しゅうおざんしょう。 359 00:24:50,829 --> 00:24:54,032 時にはの。 360 00:24:54,032 --> 00:25:00,205 そなた 話し相手になってくれるか? 361 00:25:00,205 --> 00:25:03,541 あい。 見世においでなんしたら いつでも。 362 00:25:03,541 --> 00:25:07,045 いや それでは つまらぬ。 363 00:25:07,045 --> 00:25:14,786 いっそ 身請けをして 女房にしようか。 364 00:25:14,786 --> 00:25:20,058 アハ… 何をおっせえす。 冗談ばっかり。 365 00:25:20,058 --> 00:25:21,993 いや 大真面目だ。 366 00:25:21,993 --> 00:25:27,799 身請けの話 受けてくれぬか? 367 00:25:27,799 --> 00:25:31,670 思し召しはありがとうおざんすが…➡ 368 00:25:31,670 --> 00:25:34,005 お断り申しんす。 369 00:25:34,005 --> 00:25:38,510 (碩翁)年寄りの世話になるのは嫌か? 370 00:25:38,510 --> 00:25:40,445 いいえ。 371 00:25:40,445 --> 00:25:43,381 思う人がありんすから…。 372 00:25:43,381 --> 00:25:45,817 間夫か。 373 00:25:45,817 --> 00:25:52,023 ハハハ… これは とんだ「忠臣蔵」の由良之助じゃ。 374 00:25:52,023 --> 00:26:00,198 「間夫があるなら添わせてやろう。 暇が欲しくば 暇もやろう」。 375 00:26:00,198 --> 00:26:02,701 ほ~ら やっぱり 嘘だ。 376 00:26:02,701 --> 00:26:06,037 それでは お前様が金の払い損になりんしょう。 377 00:26:06,037 --> 00:26:10,542 いや それも 芝居のセリフのとおり➡ 378 00:26:10,542 --> 00:26:19,742 「3日なりとも囲うたら 男冥利。 それから後は勝手次第」。 379 00:26:22,253 --> 00:26:26,053 3日だけ そばにいよ。 380 00:26:28,727 --> 00:26:36,167 承知ならば 主を呼んで 身請けの相談をするが…。 381 00:26:36,167 --> 00:26:39,004 いいえ いけない。 382 00:26:39,004 --> 00:26:47,512 なぜだ? 身ままになって 好きな相手と添えばよい。 383 00:26:47,512 --> 00:26:52,684 添える人ではおざんせんもの…。 384 00:26:52,684 --> 00:26:55,587 相手は 武士か。 385 00:26:55,587 --> 00:27:02,394 廓を出たら もう会うことも かないんせん…。 386 00:27:02,394 --> 00:27:05,263 そうか。 387 00:27:05,263 --> 00:27:11,036 ならば どこか 侍の家を世話しよう。 388 00:27:11,036 --> 00:27:16,841 養女になれば 武士に嫁げぬものでもない。 389 00:27:16,841 --> 00:27:21,379 そんなことが できんすのかえ…? 390 00:27:21,379 --> 00:27:28,253 だまされたと思って わしに その身を預けてみよ。 391 00:27:28,253 --> 00:27:30,388 でも…。 392 00:27:30,388 --> 00:27:32,991 (碩翁)今 決めずともよい。 393 00:27:32,991 --> 00:27:40,732 心が決まれば 身請けの金は いつでも調える。 394 00:27:40,732 --> 00:27:46,171 ♬~ 395 00:27:46,171 --> 00:27:51,810 とっくに10日は過ぎたのに 旦那様は まだ戻りません。 396 00:27:51,810 --> 00:27:56,310 どうか 無事にお戻りになりますように。 397 00:28:02,353 --> 00:28:05,853 あら この絵馬…。 398 00:28:07,826 --> 00:28:10,728 (花里)お信様! 399 00:28:10,728 --> 00:28:13,528 花里さん。 400 00:28:15,366 --> 00:28:20,366 いつ おいでになるかと 待っておりんした! 401 00:28:22,040 --> 00:28:24,943 まあ… そんな よい話が? 402 00:28:24,943 --> 00:28:29,380 狐に つままれたようで… どうしんしょう? 403 00:28:29,380 --> 00:28:31,783 どういうお方なのです? 404 00:28:31,783 --> 00:28:34,986 植木屋のご隠居様です。 405 00:28:34,986 --> 00:28:40,658 白髪交じりの御髪に宗匠頭巾 優しい目をしておいででした。 406 00:28:40,658 --> 00:28:45,330 え… ひょっとして 白鬚様? 407 00:28:45,330 --> 00:28:50,201 白鬚? あ… まさか。 408 00:28:50,201 --> 00:28:55,507 それで 花里さんのいい人は 何と仰せなのですか? 409 00:28:55,507 --> 00:28:58,343 あれ以来 おいでがありんせん。 410 00:28:58,343 --> 00:29:01,679 わっちが もう会わないなどと言ったから…。 411 00:29:01,679 --> 00:29:06,017 ご隠居様が 次にいらっしゃる前に 会って 話がしたいのに…。 412 00:29:06,017 --> 00:29:08,920 では 文を送っては? 413 00:29:08,920 --> 00:29:13,691 お目にかかって 相談したいことがあると書いて。 414 00:29:13,691 --> 00:29:21,432 でも… 廓の文使いなどが お屋敷を訪ねて 万が一 人目については➡ 415 00:29:21,432 --> 00:29:24,335 磯様のお名に傷がつくかと…。 416 00:29:24,335 --> 00:29:27,038 磯様…? 417 00:29:27,038 --> 00:29:30,375 花里さんのいい人というのは ひょっとして➡ 418 00:29:30,375 --> 00:29:32,777 磯貝半次郎様? 419 00:29:32,777 --> 00:29:34,712 ご存じなのですか? 420 00:29:34,712 --> 00:29:39,551 お目にかかったことはありませんが 息子の剣術の兄弟子なのです。 421 00:29:39,551 --> 00:29:43,988 まあ… あの時の坊ちゃんの…。 422 00:29:43,988 --> 00:29:49,160 そうだ。 麟太郎に文を届けさせましょう。 423 00:29:49,160 --> 00:29:53,498 磯様とは 道場でお目にかかるはずですから。 424 00:29:53,498 --> 00:29:56,534 ご迷惑になりんせんか? ちっとも。 425 00:29:56,534 --> 00:30:00,004 ただ文使いをするだけですもの。 426 00:30:00,004 --> 00:30:03,875 ありがとうおざんす! 427 00:30:03,875 --> 00:30:05,877 おばさん。 へい。 428 00:30:05,877 --> 00:30:12,077 硯箱があったら 貸しておくれ。 あいにく 筆が悪うございましてねえ。 429 00:30:19,691 --> 00:30:21,693 ≪(文七)花里さ~ん! 430 00:30:21,693 --> 00:30:25,363 いけない 呼びに来た…。 431 00:30:25,363 --> 00:30:29,863 何をしていなさるんで! もう昼見世が開きやすよ! 432 00:30:35,373 --> 00:30:39,210 どうぞ 頼みんす。 はい。 確かに。 433 00:30:39,210 --> 00:30:41,713 さあ 行きやしょう。 434 00:30:41,713 --> 00:30:43,715 おばさん ありがとう! はい。 435 00:30:43,715 --> 00:30:46,384 花里さん! 436 00:30:46,384 --> 00:30:51,055 願い事が かなうといいですね。 437 00:30:51,055 --> 00:30:53,755 あい! 438 00:30:55,927 --> 00:30:58,730 母から預かってまいりました。 439 00:30:58,730 --> 00:31:00,730 母上… から? 440 00:31:03,067 --> 00:31:07,567 確かに お渡しいたしました。 それでは。 441 00:31:20,418 --> 00:31:24,418 結構な身請け話…? 442 00:31:27,191 --> 00:31:30,128 わっちは もう 会いとうおざんせん。 443 00:31:30,128 --> 00:31:36,428 あれは 本心からの言葉だったのか…。 444 00:31:40,738 --> 00:31:47,378 花里までが… 俺を…。 445 00:31:47,378 --> 00:31:51,249 不心得者! 当番日を忘れるとは何事だ! 446 00:31:51,249 --> 00:31:53,251 はっ…。 447 00:31:53,251 --> 00:31:57,555 なれど 昨夜は 私の当番日ではないはず…。 448 00:31:57,555 --> 00:32:00,058 病気欠勤の者が2人出たゆえ➡ 449 00:32:00,058 --> 00:32:03,728 代わりに出勤するよう 申しつけたではないか。 450 00:32:03,728 --> 00:32:06,397 え…。 451 00:32:06,397 --> 00:32:09,734 その方たち 確かに伝えたのであろうな? 452 00:32:09,734 --> 00:32:12,403 はっ。 確かに。 453 00:32:12,403 --> 00:32:17,575 番入りして間もないというのに もう気が緩んだか。 454 00:32:17,575 --> 00:32:20,611 いえ さようなことは決して…! 455 00:32:20,611 --> 00:32:26,584 (安田)以後 きっと慎め。 処分は 改めて申しつける。 456 00:32:26,584 --> 00:32:28,884 はっ…。 457 00:32:30,455 --> 00:32:32,390 (笑い声) 458 00:32:32,390 --> 00:32:35,293 そういうことならば 一献 傾けながら 相談するか。 459 00:32:35,293 --> 00:32:38,229 おう いかにも いかにも。 460 00:32:38,229 --> 00:32:40,729 (磯貝)お待ちください! 461 00:32:43,701 --> 00:32:47,372 なぜ… こうまでなさるのですか!? 462 00:32:47,372 --> 00:32:49,307 何だ? 血相を変えて。 463 00:32:49,307 --> 00:32:54,712 聞こえよがしの悪口も 八分に遭うのも 辛抱いたします。 464 00:32:54,712 --> 00:33:00,218 なれど お指図を伝えてくださらねば ご奉公に差し支えます! 465 00:33:00,218 --> 00:33:04,722 これは異なことを。 当番日の変更は そこもとに伝えたぞ。 466 00:33:04,722 --> 00:33:07,058 承っておりません! いいや 伝えた。 467 00:33:07,058 --> 00:33:08,993 どうせ うわの空で聞いていたのであろう。 468 00:33:08,993 --> 00:33:11,729 小見世の安女郎などに のぼせ上がっているから➡ 469 00:33:11,729 --> 00:33:13,664 勤めをしくじるのだ。 470 00:33:13,664 --> 00:33:16,868 何…!? 471 00:33:16,868 --> 00:33:18,803 お取り消しくだされ! 472 00:33:18,803 --> 00:33:20,738 役立たずが! 473 00:33:20,738 --> 00:33:25,438 (笑い声) 474 00:33:27,245 --> 00:33:29,180 待て…。 475 00:33:29,180 --> 00:33:31,115 よくも 恥辱を! 476 00:33:31,115 --> 00:33:33,050 うわっ! 477 00:33:33,050 --> 00:33:36,521 あ… あ… あ… あ…。 ああ~! 478 00:33:36,521 --> 00:33:40,821 旦那 上がっていっておくんなんし。 479 00:33:42,393 --> 00:33:46,230 やっと来てくんなんした。 480 00:33:46,230 --> 00:33:51,030 うれしい… 会いたかった。 481 00:33:55,907 --> 00:33:59,710 お顔が青い…。 482 00:33:59,710 --> 00:34:04,582 この間のこと まだ怒っていなんすか? 483 00:34:04,582 --> 00:34:07,051 あれには訳があって…。 484 00:34:07,051 --> 00:34:09,554 別れを言いに来た。 485 00:34:09,554 --> 00:34:11,589 え…? 486 00:34:11,589 --> 00:34:16,289 今 同役の者を斬ってきた…。 487 00:34:19,263 --> 00:34:22,733 屋敷に戻って 腹を切る。 488 00:34:22,733 --> 00:34:29,607 我ながら未練だが…➡ 489 00:34:29,607 --> 00:34:35,607 一目 そなたに会いたくなった。 490 00:34:37,682 --> 00:34:41,185 何をおっせえす…。 491 00:34:41,185 --> 00:34:44,689 悪い冗談は よしなんし。 492 00:34:44,689 --> 00:34:48,526 花里…。 あい…。 493 00:34:48,526 --> 00:34:53,197 もう この世では会われぬ…。 494 00:34:53,197 --> 00:34:59,997 そなたは 身請けされて 幸せに暮らせ。 495 00:35:05,376 --> 00:35:09,714 待って! 身請けされて幸せにとは 何のこと? 496 00:35:09,714 --> 00:35:15,586 文をよこしたではないか! 結構な身請けの話があると…。 497 00:35:15,586 --> 00:35:19,390 俺も とんだ うぬぼれ者よ。 498 00:35:19,390 --> 00:35:24,262 そなたの心が離れているとも気付かず 惚れられている気でいた…。 499 00:35:24,262 --> 00:35:27,732 違う…。 あの文は そんなつもりでは…! 500 00:35:27,732 --> 00:35:32,169 放せ。 この上 死に後れては恥の恥だ! 501 00:35:32,169 --> 00:35:36,007 違う! 磯様 話を聞いて…! ああっ! 502 00:35:36,007 --> 00:35:38,509 母上! 503 00:35:38,509 --> 00:35:40,444 お帰りなさい。 504 00:35:40,444 --> 00:35:43,014 どうしたのです? 息せき切って。 505 00:35:43,014 --> 00:35:45,683 精一郎先生のところに知らせが…。 506 00:35:45,683 --> 00:35:50,187 磯貝様が ご同役の方を斬って逃げ 行方が分からないそうです! 507 00:35:50,187 --> 00:35:52,123 えっ!? 508 00:35:52,123 --> 00:35:54,692 御番所で 何か もめ事があった様子ですが…。 509 00:35:54,692 --> 00:35:56,627 そんな…。 510 00:35:56,627 --> 00:35:59,564 逃げていては 事情が分からず 事態が悪くなるばかりだと➡ 511 00:35:59,564 --> 00:36:03,034 精一郎先生が案じておいでです。 512 00:36:03,034 --> 00:36:08,839 もしや お届けした文に関わることでしょうか? 513 00:36:08,839 --> 00:36:12,139 麟太郎 お順を頼みます。 514 00:36:17,848 --> 00:36:20,551 ≪(花里)わっちの送った文のせいで…。 515 00:36:20,551 --> 00:36:24,422 ≪(磯貝) いや 違う。 そなたのせいではない。 516 00:36:24,422 --> 00:36:28,726 文を読み違えたのは 俺の心に いらだちが募っていたからだ。 517 00:36:28,726 --> 00:36:33,998 でも…。 俺の気持ちは変わらぬ。 518 00:36:33,998 --> 00:36:40,504 そなたは 身請けの申し出を受け ここを出て 幸せになれ。 519 00:36:40,504 --> 00:36:44,342 よいな。 520 00:36:44,342 --> 00:36:50,014 どうしても… お腹を召すのですか? 521 00:36:50,014 --> 00:36:52,917 ほかに 道はない。 522 00:36:52,917 --> 00:36:54,885 ならば…➡ 523 00:36:54,885 --> 00:36:58,189 わっちも生きてはおりんせん。 524 00:36:58,189 --> 00:37:02,059 ばかな…。 なぜ そなたが死なねばならぬ! 525 00:37:02,059 --> 00:37:07,365 磯様のいない世界に 生きるかいなどないもの。 526 00:37:07,365 --> 00:37:09,700 ここで一緒に…! 527 00:37:09,700 --> 00:37:12,036 相対死になどしては➡ 528 00:37:12,036 --> 00:37:15,072 武士の面目は ますます廃る! 529 00:37:15,072 --> 00:37:19,777 花里… 俺を世間の笑い者にしたいのか? 530 00:37:19,777 --> 00:37:22,680 世間など どうでもいい…! 531 00:37:22,680 --> 00:37:25,583 人が笑おうが そしろうが➡ 532 00:37:25,583 --> 00:37:29,583 死んでしまえば もう耳には入らない! 533 00:37:31,989 --> 00:37:36,160 あの火事の晩➡ 534 00:37:36,160 --> 00:37:39,797 一緒に 大門をくぐった時のように➡ 535 00:37:39,797 --> 00:37:44,597 2人で この世の境を越えていきたい…。 536 00:37:47,538 --> 00:37:50,007 花里…。 537 00:37:50,007 --> 00:38:03,554 ♬~ 538 00:38:03,554 --> 00:38:06,023 花里さんは どこです! 539 00:38:06,023 --> 00:38:08,926 花里さん! 540 00:38:08,926 --> 00:38:12,196 何の御用で? どいてください! 花里さん! 541 00:38:12,196 --> 00:38:14,231 ≪(桜木)きゃ~! 542 00:38:14,231 --> 00:38:16,367 えっ… ちょっと お客さん! 543 00:38:16,367 --> 00:38:18,703 はあ… はあ… はあ…。 544 00:38:18,703 --> 00:38:20,703 はっ…! 545 00:38:24,575 --> 00:38:27,378 なんてことを…! 546 00:38:27,378 --> 00:38:55,172 ♬~ 547 00:38:55,172 --> 00:38:57,108 お客さん いけやせん! 548 00:38:57,108 --> 00:38:59,343 おい! お役人を呼べ! へ… へい! 549 00:38:59,343 --> 00:39:02,813 くそっ…! 何で 脇差しを預からなかったんだ! 550 00:39:02,813 --> 00:39:16,193 ♬~ 551 00:39:16,193 --> 00:39:19,393 花里さん…。 552 00:39:25,703 --> 00:39:29,373 おい 聞いたか? 女を道連れにしたらしいぞ。 553 00:39:29,373 --> 00:39:31,342 ああ ひどい話だ。 554 00:39:31,342 --> 00:39:34,345 磯貝のやつ だいぶ いびられていたからな…。 555 00:39:34,345 --> 00:39:36,647 堪忍袋の緒が切れたってわけか。 556 00:39:36,647 --> 00:39:39,650 俺のせいではない…。 ≪前代未聞の不祥事だ。 557 00:39:39,650 --> 00:39:41,850 俺のせいでは…。 558 00:39:46,657 --> 00:39:48,657 (ししおどしの音) 559 00:39:59,670 --> 00:40:05,176 助けるつもりが…➡ 560 00:40:05,176 --> 00:40:10,514 かえって あだとなったか…。 561 00:40:10,514 --> 00:40:12,514 (ししおどしの音) 562 00:40:23,527 --> 00:40:25,527 お信! 563 00:40:27,832 --> 00:40:30,534 今 帰ったぜ。 旦那様…。 564 00:40:30,534 --> 00:40:34,038 小田原の親方のとこは みんな 達者だったよ。 565 00:40:34,038 --> 00:40:39,376 もっと早く戻るつもりだったんだが 引き止められて つい長居しちまった。 566 00:40:39,376 --> 00:40:43,047 麦が実ったから 飢饉も そろそろ収まるだろ。 567 00:40:43,047 --> 00:40:46,917 ほれ 土産に干物をもらった。 晩に焼いてくれ。 568 00:40:46,917 --> 00:40:52,389 留守中 変わったことはなかったかい? 569 00:40:52,389 --> 00:40:54,389 ん? 570 00:40:57,261 --> 00:40:59,730 旦那様…。 571 00:40:59,730 --> 00:41:02,399 おばば殿に 何かあったのか!? 572 00:41:02,399 --> 00:41:05,436 何も…。 573 00:41:05,436 --> 00:41:08,272 もっと話を聞かせてください…。 574 00:41:08,272 --> 00:41:11,575 え? 575 00:41:11,575 --> 00:41:14,411 旦那様の声が聞きたい…。 576 00:41:14,411 --> 00:41:16,747 もっと話して…。 577 00:41:16,747 --> 00:41:20,618 何だよ 小娘じゃあるまいし…。 (すすり泣き) 578 00:41:20,618 --> 00:41:23,520 おかしなやつだな お前は。 ハハハ! 579 00:41:23,520 --> 00:41:34,698 (笑い声) 580 00:41:34,698 --> 00:41:40,371 ♬~ 581 00:41:40,371 --> 00:41:50,714 「戀ひ戀ひて逢へる時だに 愛しき言盡くしてよ 長くと思はば」。 582 00:41:50,714 --> 00:41:53,617 風紀を乱す者があれば 厳しく取り締まるよう申しおく。 583 00:41:53,617 --> 00:41:55,586 道具市がなくなる…!? 584 00:41:55,586 --> 00:41:57,855 俺を罪に落とす魂胆だな。 585 00:41:57,855 --> 00:41:59,924 この ばか者が! 檻に入れ! 586 00:41:59,924 --> 00:42:02,559 私が ここに入っております。 俺は 隠居するぜ。 587 00:42:02,559 --> 00:42:04,495 そなたが惚れ込んだ小吉は➡ 588 00:42:04,495 --> 00:42:06,730 本物の男でした。 589 00:42:06,730 --> 00:42:08,666 「小吉の女房」。 590 00:42:08,666 --> 00:42:10,601 うん これでいい。 591 00:42:10,601 --> 00:43:25,101 ♬~