1 00:00:33,091 --> 00:00:39,031 <天保13年 世は 天保の改革の真っ最中> 2 00:00:39,031 --> 00:00:43,331 家内円満 無病息災。 3 00:00:49,541 --> 00:00:53,845 <去年の暮れに 小吉が 押込めの処分を受けた勝家は➡ 4 00:00:53,845 --> 00:00:59,518 住み慣れた本所を離れ 旗本 保科栄次郎の屋敷内にある➡ 5 00:00:59,518 --> 00:01:04,022 武家長屋で暮らしています> 6 00:01:04,022 --> 00:01:09,328 (鈴の音) 7 00:01:09,328 --> 00:01:14,533 南無妙法蓮華経…。 8 00:01:14,533 --> 00:01:19,204 <座敷と 茶の間に 小さな台所があるだけの➡ 9 00:01:19,204 --> 00:01:23,504 今で言う 2Kの手狭な住まい> 10 00:01:25,544 --> 00:01:28,213 (2人)フン フン…。 11 00:01:28,213 --> 00:01:31,650 (小吉)あ 痛っ。 一歩下がれ 一歩。 12 00:01:31,650 --> 00:01:33,585 (麟太郎)はい。 13 00:01:33,585 --> 00:01:37,289 <ここは 江戸城 虎の御門の程近く。➡ 14 00:01:37,289 --> 00:01:40,192 曲がりくねった道から 「サザエ尻」とも➡ 15 00:01:40,192 --> 00:01:46,498 また ウグイスが多いことから 「鶯谷」とも呼ばれていました> 16 00:01:46,498 --> 00:01:48,834 フンッ…。 (おならの音) 17 00:01:48,834 --> 00:01:50,769 ≪(ウグイスの鳴き声) 18 00:01:50,769 --> 00:01:55,707 おっ ウグイスか。 今日もいい声だ。 なあ 麟。 19 00:01:55,707 --> 00:01:58,176 はい 父上。 20 00:01:58,176 --> 00:02:03,849 <当初は 人の出入りも禁じられ 息を潜めるような暮らしでしたが➡ 21 00:02:03,849 --> 00:02:09,321 次第に 周りの目も緩み 勝家らしさが 戻りつつありました> 22 00:02:09,321 --> 00:02:21,321 ♬~ 23 00:02:24,536 --> 00:02:28,340 ≪(ウグイスの鳴き声) 24 00:02:28,340 --> 00:02:32,811 あっ 今朝は 味噌汁に具が入ってる。 久しぶりだなあ。 25 00:02:32,811 --> 00:02:34,746 久しぶりなもんか。 26 00:02:34,746 --> 00:02:37,149 4日前にも 豆腐が浮かんでたじゃねえか。 27 00:02:37,149 --> 00:02:40,052 そんなに前じゃありませんよ 3日前です。 28 00:02:40,052 --> 00:02:44,022 ああ…? いや 4日だろ。 29 00:02:44,022 --> 00:02:48,293 3日前です。 今朝は母上の勝ち。 30 00:02:48,293 --> 00:02:50,996 ほらね。 むむっ。 31 00:02:50,996 --> 00:02:53,498 豆腐といえば またお触れが出ましたよ。 32 00:02:53,498 --> 00:02:55,834 ああ? 奉行所が豆腐に何の用だよ。 33 00:02:55,834 --> 00:02:57,769 寸法決めだそうです。 34 00:02:57,769 --> 00:03:03,308 縦7寸 横1尺8寸 幅6寸を きっちり9等分して一丁とし➡ 35 00:03:03,308 --> 00:03:05,377 52文で売れと。 36 00:03:05,377 --> 00:03:10,082 ぜいたく品を売った商人が 今度は 26人も召し捕られたそうです。 37 00:03:10,082 --> 00:03:12,984 げた屋から たばこ屋まで 皆 手鎖ですよ。 38 00:03:12,984 --> 00:03:16,321 そういや この前 寿司屋が捕まったってな。 39 00:03:16,321 --> 00:03:18,690 寿司屋に 何の罪が? 40 00:03:18,690 --> 00:03:22,194 アナゴ寿司売ったのが いけなかった。 アナゴぐらいで? 41 00:03:22,194 --> 00:03:25,197 役人ども 日頃は長いものに巻かれてるくせに➡ 42 00:03:25,197 --> 00:03:27,999 アナゴには めっぽう強気で来やがる。 43 00:03:27,999 --> 00:03:30,869 アナゴ寿司というのは おいしいのですか? 44 00:03:30,869 --> 00:03:34,840 おお うめえぞ。 いつか お順にも食わせてやろうな。 45 00:03:34,840 --> 00:03:37,040 はい…。 46 00:03:38,677 --> 00:03:42,147 本所の道具市は大丈夫でしょうか。 47 00:03:42,147 --> 00:03:45,817 また難癖をつけられていないと よいのですが…。 48 00:03:45,817 --> 00:03:49,688 そうよなあ… よし ちいと様子を見てくるか。 49 00:03:49,688 --> 00:03:51,990 なりません。 んん? 50 00:03:51,990 --> 00:03:56,862 父上は押込めの身ですよ。 本所に行くことは 堅く慎まなければ。 51 00:03:56,862 --> 00:03:59,297 むむ…。 52 00:03:59,297 --> 00:04:03,168 今日も お順の勝ち。 53 00:04:03,168 --> 00:04:07,839 いけねえ…。 こいつ ますます おばば様に似てきやがった。 54 00:04:07,839 --> 00:04:09,774 フフ…。 (咀嚼音) 55 00:04:09,774 --> 00:04:14,074 (咀嚼音) 56 00:04:18,183 --> 00:04:21,520 今日は つくだ煮を ちょっぴり添えておきました。 57 00:04:21,520 --> 00:04:25,023 ありがとうございます。 58 00:04:25,023 --> 00:04:27,926 毎日遠くまで 骨が折れますね。 59 00:04:27,926 --> 00:04:30,195 ほんの2里半ばかりです。 60 00:04:30,195 --> 00:04:33,632 足腰の鍛錬には よいのですが…。 61 00:04:33,632 --> 00:04:35,967 何か? 62 00:04:35,967 --> 00:04:40,667 いえ 何でも…。 行ってまいります。 63 00:04:45,477 --> 00:04:52,250 <この辺り 現在では 官公庁が立ち並ぶ 千代田区霞が関です。➡ 64 00:04:52,250 --> 00:04:59,450 当時は 大名や大身旗本の屋敷が 軒を連ねる 閑静な武家地でした> 65 00:05:04,863 --> 00:05:06,865 これでよし。 66 00:05:06,865 --> 00:05:11,065 旦那様 出かけてきます。 留守をお願いします。 67 00:05:13,538 --> 00:05:16,007 父上は お出かけになりました。 68 00:05:16,007 --> 00:05:17,943 どちらに? 69 00:05:17,943 --> 00:05:21,513 う~ん さあ いつの間にか いないのです。 70 00:05:21,513 --> 00:05:23,513 あら まあ…。 71 00:05:27,686 --> 00:05:31,022 父上にも 困ったものですね。 72 00:05:31,022 --> 00:05:36,628 また お咎めを受けたりしたら 兄上の出世に障るというのに…。 73 00:05:36,628 --> 00:05:40,966 お順は 麟太郎に出世してもらいたいのですか? 74 00:05:40,966 --> 00:05:42,901 はい もちろん。 75 00:05:42,901 --> 00:05:45,136 どうして? 76 00:05:45,136 --> 00:05:50,008 偉くなったら 大きな家に住めるから? 77 00:05:50,008 --> 00:05:54,145 う~ん…。 78 00:05:54,145 --> 00:05:57,816 兄上には 誰にも負けない人になってほしいのです。 79 00:05:57,816 --> 00:06:00,719 学問でも 剣術でも。 80 00:06:00,719 --> 00:06:06,157 それと… アナゴ寿司を食べてみたいな。 81 00:06:06,157 --> 00:06:09,160 ウフフフ そうですね。 82 00:06:09,160 --> 00:06:11,296 ご用があるのでしょう? 83 00:06:11,296 --> 00:06:15,166 私が留守をしますので どうぞ行ってらっしゃい。 84 00:06:15,166 --> 00:06:21,466 頼もしいこと。 それじゃあ 届け物を済ませてきますね。 85 00:06:24,676 --> 00:06:30,181 お徳さ~ん! (お徳)あっ お信様。 86 00:06:30,181 --> 00:06:35,181 出来ましたよ ほら。 ああ! 87 00:06:39,858 --> 00:06:44,129 もう少し 大きい方がよかったかしら? 88 00:06:44,129 --> 00:06:49,267 いいえ こんな茶屋にはもったいない 立派な看板で。 89 00:06:49,267 --> 00:06:53,067 ありがとう存じます。 あっ どうぞ。 90 00:06:59,644 --> 00:07:02,681 ≪(ウグイスの鳴き声) 91 00:07:02,681 --> 00:07:08,820 いい声。 はあ ここは のどかでよいところですね。 92 00:07:08,820 --> 00:07:15,160 去年までは 茶屋がずらっと並んでいて そりゃあ にぎやかだったんですよ。 93 00:07:15,160 --> 00:07:20,498 御改革で茶屋女を置いていた店が 取り払われちまって➡ 94 00:07:20,498 --> 00:07:22,434 すっかり さみしくなりました。 95 00:07:22,434 --> 00:07:28,239 そう…。 お徳さんの店が残ってよかった。 96 00:07:28,239 --> 00:07:32,444 ここに来ると ほっと一息つけますもの。 97 00:07:32,444 --> 00:07:36,948 こんな ちっぽけな店でも 髪結いで蓄えた金で➡ 98 00:07:36,948 --> 00:07:38,983 ようやく開いたんでございますよ。 99 00:07:38,983 --> 00:07:42,454 以前は 髪結いを? 3年前まで。 100 00:07:42,454 --> 00:07:49,794 年を取ると お客様のところを 回って歩く商売が つらくなりましてね。 101 00:07:49,794 --> 00:07:54,132 女の髪結いも ご法度になったのでしたね。 102 00:07:54,132 --> 00:08:01,473 ええ もう 前の商売には戻れませんから 働けるうちは ここでなんとか。 103 00:08:01,473 --> 00:08:04,275 あっ 看板のお礼は いかほど? 104 00:08:04,275 --> 00:08:08,146 要りませんよ。 元手はかかっていないのですから。 105 00:08:08,146 --> 00:08:10,815 でも それでは…。 駄目駄目。 106 00:08:10,815 --> 00:08:14,686 お代を頂いたりしたら 気楽に来られなくなってしまいますもの。 107 00:08:14,686 --> 00:08:17,155 ≪(ウグイスの鳴き声) 108 00:08:17,155 --> 00:08:19,991 あら 鳴き損ねた。 109 00:08:19,991 --> 00:08:22,293 (ウグイスの鳴き声) 110 00:08:22,293 --> 00:08:27,665 若いウグイスかしら。 まだ稽古が足らぬようですね。 111 00:08:27,665 --> 00:08:29,601 はい。 112 00:08:29,601 --> 00:08:33,471 (笑い声) ≪(ウグイスの鳴き声) 113 00:08:33,471 --> 00:08:39,110 ああ いいお日和だこと…。 114 00:08:39,110 --> 00:08:43,948 ≪(稽古の掛け声) 115 00:08:43,948 --> 00:08:46,985 <麟太郎は めきめきと腕を上げ➡ 116 00:08:46,985 --> 00:08:54,592 直心影流免許皆伝まで あと一歩というところですが…> 117 00:08:54,592 --> 00:08:56,792 (虎之助)待て! 118 00:09:01,800 --> 00:09:05,970 来い。 119 00:09:05,970 --> 00:09:08,270 や~っ! 120 00:09:11,843 --> 00:09:14,279 ああっ! はっ! 121 00:09:14,279 --> 00:09:19,579 ああっ! う~っ! うっ あ~っ! 122 00:09:22,153 --> 00:09:24,653 や~っ! 123 00:09:27,659 --> 00:09:30,159 隙だらけだ! 124 00:09:34,766 --> 00:09:40,104 心ここにあらずだな。 剣に気迫がこもっていない。 125 00:09:40,104 --> 00:09:42,774 申し訳ありません…。 126 00:09:42,774 --> 00:09:46,945 どうした? 何を迷っている? 127 00:09:46,945 --> 00:09:49,781 その…➡ 128 00:09:49,781 --> 00:09:55,119 毎日 剣術に励むだけでよいのかと…。 129 00:09:55,119 --> 00:10:00,258 御改革以来 次々と禁令が出され 多くの人が召し捕られました。 130 00:10:00,258 --> 00:10:06,130 商売をするのも窮屈になり 町は すっかり活気をなくしています。 131 00:10:06,130 --> 00:10:13,271 島田先生… 私は こたびの改革は愚策だと思います。 132 00:10:13,271 --> 00:10:19,143 しかし そう声を上げる力も そのすべも 私にはない。 133 00:10:19,143 --> 00:10:22,947 それが 歯がゆくてならないのです。 134 00:10:22,947 --> 00:10:28,286 そなた… 何のために剣の修行をしているのだ? 135 00:10:28,286 --> 00:10:30,221 えっ…? 136 00:10:30,221 --> 00:10:34,158 武芸を極めても 今の世では出世の役には立たぬぞ。 137 00:10:34,158 --> 00:10:39,030 無論 人を斬る稽古でもない。 138 00:10:39,030 --> 00:10:43,668 父には… 肚を作れと言われました。 139 00:10:43,668 --> 00:10:46,170 人間 肝心なのは肚だ。 140 00:10:46,170 --> 00:10:50,174 胆力さえあれば いざという時 めったなことで命を落としたりしねえ。 141 00:10:50,174 --> 00:10:52,310 そうでしょうか? 142 00:10:52,310 --> 00:10:55,213 俺なんざ 随分とむちゃな喧嘩してきたが➡ 143 00:10:55,213 --> 00:10:57,849 刀傷一つ負ってねえのは➡ 144 00:10:57,849 --> 00:11:04,188 若え頃に 剣術の稽古だけは 身を入れてやったおかげだ。 145 00:11:04,188 --> 00:11:08,059 お前も 剣術の稽古だけは しっかりやんねえとな。 146 00:11:08,059 --> 00:11:11,529 アハハハハ…! 勝さんらしい。 147 00:11:11,529 --> 00:11:15,867 はい。 ですが… 今は 父の頃とは違います。 148 00:11:15,867 --> 00:11:21,673 なに 違うのは 世の中の上っ面だけさ。 149 00:11:21,673 --> 00:11:24,876 何かをなさねばと はやる気持ちも分かる。 150 00:11:24,876 --> 00:11:28,546 だが 肚ができてなけりゃ 世のために走り回ったところで➡ 151 00:11:28,546 --> 00:11:33,284 所詮 ろくな仕事はできやしないさ。 152 00:11:33,284 --> 00:11:39,157 急くなよ 今は人間の土台を作る時だ。 153 00:11:39,157 --> 00:11:42,293 (門弟たち)はい! 154 00:11:42,293 --> 00:11:45,093 はい…。 155 00:11:54,305 --> 00:11:57,505 おかしい… ついてくる。 156 00:12:06,050 --> 00:12:08,820 やっぱり。 157 00:12:08,820 --> 00:12:12,724 何か用ですか! 158 00:12:12,724 --> 00:12:16,027 (都甲)いや 用というわけでは…。 159 00:12:16,027 --> 00:12:17,962 なぜ つけてくるのです。 160 00:12:17,962 --> 00:12:23,534 つける? いやいや… そんなつもりは…。 161 00:12:23,534 --> 00:12:27,338 ≪お~い ご隠居 ここだよ。 162 00:12:27,338 --> 00:12:31,643 ここだよ ここ。 勝殿 よいところに。 163 00:12:31,643 --> 00:12:37,448 溜池の近くというから来てみたが 似たような屋敷ばっかりで➡ 164 00:12:37,448 --> 00:12:40,351 どこが保科なのか見当もつかん。 165 00:12:40,351 --> 00:12:43,988 では うちを訪ねて…? 166 00:12:43,988 --> 00:12:47,025 こちら 勝殿のご妻女か? 167 00:12:47,025 --> 00:12:49,494 ああ うちのお信だ。 168 00:12:49,494 --> 00:12:55,667 ふ~む 地道の常足はよし➡ 169 00:12:55,667 --> 00:12:58,169 早足も またよし。 170 00:12:58,169 --> 00:13:02,006 う~ん この毛づやといい 澄んだ瞳といい➡ 171 00:13:02,006 --> 00:13:05,877 いやいやいや 名馬じゃ名馬。 ぬははは!➡ 172 00:13:05,877 --> 00:13:09,180 ぬは ぬははは! 馬? 173 00:13:09,180 --> 00:13:12,083 うん あっ ほら。 酒を調達してまいった。 174 00:13:12,083 --> 00:13:15,053 さあ ご隠居 こっちだ こっち。 175 00:13:15,053 --> 00:13:21,753 <一癖も二癖もありそうな このご隠居 一体 何者なのでしょう…> 176 00:13:24,328 --> 00:13:30,034 [ 回想 ] (虎之助)急くなよ 今は人間の土台を作る時だ。 177 00:13:30,034 --> 00:13:34,639 ≪(男性)この あまっちょめ! そこ どきやがれ! 178 00:13:34,639 --> 00:13:37,675 ≪(男性)おいおい 何だ何だ ええ! ≪(男性)何だ てめえはよ。 179 00:13:37,675 --> 00:13:40,445 ≪(男性)どけどけ こら! この野郎! 180 00:13:40,445 --> 00:13:43,815 ≪(男性)どけどけ! おい! ≪(男性)どけって言ってんだろうが。 181 00:13:43,815 --> 00:13:47,652 (お民)大の男が 女相手に大声上げて みっともないねえ。 182 00:13:47,652 --> 00:13:50,555 なにをっ! ぬかしやがったな。 183 00:13:50,555 --> 00:13:52,523 胸ぐら取って どうしようってのさ。 184 00:13:52,523 --> 00:13:55,159 こうするんだよっ! 待て! 185 00:13:55,159 --> 00:13:57,095 手荒なまねは よしなさい。 186 00:13:57,095 --> 00:14:01,299 ああ? 二本差しの出る幕じゃねえ。 うっちゃっといてくれ。 187 00:14:01,299 --> 00:14:03,835 何をもめているのだ。 訳を言え。 188 00:14:03,835 --> 00:14:06,835 その小娘が 突き当たってきやがったんだ。 189 00:14:10,007 --> 00:14:13,044 あ~ 寄席は どこも潰れちまったな。 190 00:14:13,044 --> 00:14:16,514 東流斎の講釈が楽しみだったのによ。 191 00:14:16,514 --> 00:14:19,417 娘義太夫がいけねえんだ。 192 00:14:19,417 --> 00:14:24,021 ひいき連中と派手に遊ぶから お上から にらまれちまった。 193 00:14:24,021 --> 00:14:27,058 (男性)どうせ 芸だけじゃなく 色も売ってたんだろうよ。 194 00:14:27,058 --> 00:14:29,193 違えねえ。 あいやっ おっ! 195 00:14:29,193 --> 00:14:31,963 おい! 何しやがんだ この野郎! 196 00:14:31,963 --> 00:14:35,633 謝りもしねえから しかりつけてるところに➡ 197 00:14:35,633 --> 00:14:38,669 その女が出しゃばってきやがった。 さっ どいてくんな。 198 00:14:38,669 --> 00:14:42,507 よしなさい。 ぶつかったぐらいで 大人気ない。 199 00:14:42,507 --> 00:14:46,344 何だ? どかねえなら てめえが相手だい。 200 00:14:46,344 --> 00:14:49,147 ≪(新門)往来で でけえ声を出すんじゃねえ。 201 00:14:49,147 --> 00:14:51,816 うるせえ 引っ込んでろ。 あっ 新門の頭…。 202 00:14:51,816 --> 00:14:53,751 えっ? おっ おい…。 203 00:14:53,751 --> 00:14:55,987 この喧嘩 俺が買った。 (男性)いや その…。 204 00:14:55,987 --> 00:15:01,292 <この男は 町火消し「を組」の頭 新門辰五郎。➡ 205 00:15:01,292 --> 00:15:06,792 江戸中に その名をとどろかせる 浅草の顔役です> 206 00:15:09,000 --> 00:15:11,035 文吉。 207 00:15:11,035 --> 00:15:14,505 張りと意気地の辰巳芸者だからといって➡ 208 00:15:14,505 --> 00:15:18,176 深川から出張ってきて 喧嘩するこたあねえじゃねえか。 209 00:15:18,176 --> 00:15:21,078 あいすいません。 お客を送った帰りがけ➡ 210 00:15:21,078 --> 00:15:24,315 ちょいと 浅草寺さんに お参りに来たんですよ。 211 00:15:24,315 --> 00:15:26,250 おかげで助かりました。 212 00:15:26,250 --> 00:15:30,121 いや 助けたのは俺じゃねえ。 こちらのお武家様だよ。 213 00:15:30,121 --> 00:15:33,991 はい。 堪忍しておくんなせえやし。 214 00:15:33,991 --> 00:15:37,862 寄席が多く潰れて 遊ぶところがねえもんだから➡ 215 00:15:37,862 --> 00:15:40,464 連中 気が立ってやしてねえ。 216 00:15:40,464 --> 00:15:43,367 寄席か…。 217 00:15:43,367 --> 00:15:46,637 申し遅れやした 辰五郎と申しやす。 218 00:15:46,637 --> 00:15:48,673 勝 麟太郎です。 219 00:15:48,673 --> 00:15:52,276 えっ それじゃ あの 勝の殿様の坊ちゃんで? 220 00:15:52,276 --> 00:15:54,212 父をご存じですか? 221 00:15:54,212 --> 00:15:56,981 浅草で 本所の勝様を知らねえやつあ 潜りでさあ。 222 00:15:56,981 --> 00:16:01,819 あっしなんざ 随分 喧嘩もした仲ですぜ ハハハ…。 223 00:16:01,819 --> 00:16:05,519 本所の 勝様…。 224 00:16:08,492 --> 00:16:12,663 おや さっきの娘は どこ行った? 225 00:16:12,663 --> 00:16:14,599 いつの間に…。 226 00:16:14,599 --> 00:16:21,172 お前の知り合いかい? いえ ただ どっかで見たような…。 227 00:16:21,172 --> 00:16:23,507 では 私はこれで。 228 00:16:23,507 --> 00:16:27,678 へい あっ 殿様に よろしくお伝えくだせえやし。 229 00:16:27,678 --> 00:16:31,549 随分 無沙汰をしておりやすが いずれ ご挨拶に参りやす。 230 00:16:31,549 --> 00:16:33,749 伝えます。 231 00:16:37,121 --> 00:16:40,625 あの! 232 00:16:40,625 --> 00:16:43,125 ありがとうござんした。 233 00:16:48,799 --> 00:16:54,099 あっ… あっ うん。 234 00:17:06,651 --> 00:17:09,287 (笑い声) 235 00:17:09,287 --> 00:17:12,156 にぎやかだなあ。 外まで声が響いていますよ。 236 00:17:12,156 --> 00:17:14,091 あら お帰りなさい。 せがれだよ。 237 00:17:14,091 --> 00:17:16,994 麒麟の「麟」と書いて 麟太郎だ。 238 00:17:16,994 --> 00:17:22,667 ほう これはまた よいご器量 駿馬じゃな 駿馬。 239 00:17:22,667 --> 00:17:24,602 馬? 240 00:17:24,602 --> 00:17:26,537 (2人)また馬。 241 00:17:26,537 --> 00:17:28,539 どなたですか? 馬の大先生だ。 242 00:17:28,539 --> 00:17:31,008 えっ? 平川天神横の馬場で➡ 243 00:17:31,008 --> 00:17:34,245 馬を見ていたんだがな このご隠居が➡ 244 00:17:34,245 --> 00:17:38,783 手綱の持ち方が違うの 鞍上の姿勢が悪いのと➡ 245 00:17:38,783 --> 00:17:42,653 ケチばかりつけてる。 それが いちいちもっともでな。 246 00:17:42,653 --> 00:17:44,655 話してみたら 妙に馬が合う。 247 00:17:44,655 --> 00:17:48,793 それで 家まで押しかけてきたというわけさ。 248 00:17:48,793 --> 00:17:50,828 はあ…。 249 00:17:50,828 --> 00:17:54,665 あっ 公方様のお馬のお世話を していたそうですよ。 250 00:17:54,665 --> 00:17:56,968 公方様の? 251 00:17:56,968 --> 00:18:01,272 なに 50俵三人扶持のただの馬乗り。 252 00:18:01,272 --> 00:18:06,644 しかも 勤めをしくじって 今はしがない 隠居の身だ。 253 00:18:06,644 --> 00:18:08,679 なぜ しくじったのですか? 254 00:18:08,679 --> 00:18:10,982 これ お順。 255 00:18:10,982 --> 00:18:13,284 いやいやいや 構わん。 256 00:18:13,284 --> 00:18:16,821 小泉という名馬がおりましてな。 257 00:18:16,821 --> 00:18:22,293 毛並みといい 顔つきといい 実に美しい馬だ。 258 00:18:22,293 --> 00:18:25,663 なじみの花魁に よく似ておった。 259 00:18:25,663 --> 00:18:28,566 花魁が 馬に? 260 00:18:28,566 --> 00:18:33,471 さよう いささか顔の長~い女であった。 261 00:18:33,471 --> 00:18:35,773 (笑い声) 262 00:18:35,773 --> 00:18:40,611 似たもの同士を引き合わせようと 吉原へ引いていったんだが➡ 263 00:18:40,611 --> 00:18:43,948 廓者は 存外しゃれが分からんな。 264 00:18:43,948 --> 00:18:48,819 駕籠でも馬でも 「乗り物は通さぬ!」と 騒ぎ立ておって。 265 00:18:48,819 --> 00:18:54,258 それが上役に知れて ハハ…。 あえなく お役御免。 266 00:18:54,258 --> 00:18:56,627 (笑い声) 267 00:18:56,627 --> 00:19:01,265 無法なことにかけちゃ 都甲先生は 俺よりうわてだな。 268 00:19:01,265 --> 00:19:04,969 都甲…? もしや 馬の難病を療治した➡ 269 00:19:04,969 --> 00:19:06,904 あの都甲先生ですか? 270 00:19:06,904 --> 00:19:09,473 馬の病は いくらか治した。 271 00:19:09,473 --> 00:19:13,144 何だ 麟 お前 ご隠居知ってんのか。 お名前だけは。 272 00:19:13,144 --> 00:19:16,814 馬の腹に石が出来る病を 見事に治したと伺いました。 273 00:19:16,814 --> 00:19:21,152 医者がさじを投げた馬でも 都甲先生ならば 助けられると。 274 00:19:21,152 --> 00:19:23,988 ほ~お そりゃあ お見それいたしやした。 275 00:19:23,988 --> 00:19:26,824 アラビアゴムを処方されたそうですが➡ 276 00:19:26,824 --> 00:19:29,660 そのようなやり方 どうやって考案されたのですか? 277 00:19:29,660 --> 00:19:32,229 本に書いてあったのさ。 本? 278 00:19:32,229 --> 00:19:37,101 しかし ならば 馬医者たちは なぜ その処方を知らなかったのです? 279 00:19:37,101 --> 00:19:40,971 訳を知りたいかい? はい。 280 00:19:40,971 --> 00:19:43,441 だったら うちに遊びにおいで。 281 00:19:43,441 --> 00:19:46,343 書物もいくらかあるから 見せてあげるよ。 282 00:19:46,343 --> 00:19:49,613 伺います。 是非とも 書物を拝見させてください。 283 00:19:49,613 --> 00:19:51,949 ああ いつでもおいで。 284 00:19:51,949 --> 00:19:54,785 学問好きは 誰に似たのかねえ。 285 00:19:54,785 --> 00:19:58,656 俺なんざ 本を読むより 喧嘩の方が よほど面白かったが。 286 00:19:58,656 --> 00:20:02,259 ああ そうだ。 浅草で を組の頭に会いましたよ。 287 00:20:02,259 --> 00:20:05,129 おっ 新門の辰かい。 達者だったかい。 288 00:20:05,129 --> 00:20:08,032 はい。 いずれ 無沙汰の挨拶に来ると言っていました。 289 00:20:08,032 --> 00:20:14,839 新門の!? ほほう。 かの大親分が お仲間か。 290 00:20:14,839 --> 00:20:20,478 さては勝殿 ご貴殿は 暴れ馬じゃな。 291 00:20:20,478 --> 00:20:22,413 (いななき) 292 00:20:22,413 --> 00:20:26,650 (笑い声) 293 00:20:26,650 --> 00:20:29,950 <さて そのころ お城では…> 294 00:20:33,524 --> 00:20:36,994 <小吉の天敵 石川太郎左衛門は➡ 295 00:20:36,994 --> 00:20:43,194 ごますりに励んだ甲斐あって 目付の上席の座についていました> 296 00:20:52,476 --> 00:20:54,545 不届きである。 297 00:20:54,545 --> 00:21:00,184 旗本の身で素行の悪い者は 皆 厳しく処断せよ。 手加減は無用じゃ。 298 00:21:00,184 --> 00:21:03,521 (目付たち)ははっ。 299 00:21:03,521 --> 00:21:09,393 勝のやつも 今頃 しょぼくれておるだろうて。 300 00:21:09,393 --> 00:21:15,193 フヒヒヒヒヒ…。 バウッ! 301 00:21:20,337 --> 00:21:24,708 <一方 南町奉行に出世した鳥居耀蔵は➡ 302 00:21:24,708 --> 00:21:31,815 天保の改革推進の陣頭指揮を執り 厳しい監視の目を光らせていたのです> 303 00:21:31,815 --> 00:21:36,287 (与力)市中取締掛の者ども 役目に励んでいると見えて➡ 304 00:21:36,287 --> 00:21:39,657 裁ききれぬほどの訴状が 上がってまいりまする。 305 00:21:39,657 --> 00:21:41,592 (鳥居)甘い…。 306 00:21:41,592 --> 00:21:46,792 町回りの者は かねてより 町人どもと なれ合っておるのだ。 307 00:21:48,666 --> 00:21:52,166 信用は置けぬ。 308 00:21:54,471 --> 00:22:00,177 <鳥居耀蔵 官職名は甲斐守。➡ 309 00:22:00,177 --> 00:22:05,683 耀蔵と甲斐守を合わせて 「妖怪」と呼ばれた男が➡ 310 00:22:05,683 --> 00:22:10,183 本領を発揮するのは ここからでした> 311 00:22:17,194 --> 00:22:20,864 ここかな…。 312 00:22:20,864 --> 00:22:23,534 ごめんください。 勝です。 313 00:22:23,534 --> 00:22:26,834 ≪(都甲)おう 入りな。 314 00:22:33,644 --> 00:22:38,816 土産に頂戴した 甘露煮には合うはずだ。 飲んでごらん。 315 00:22:38,816 --> 00:22:41,116 頂きます。 316 00:22:44,989 --> 00:22:48,025 苦いっ これは…? 317 00:22:48,025 --> 00:22:50,160 ビイル。 オランダの酒さ。 318 00:22:50,160 --> 00:22:54,031 製法どおりに作ってみたんだが…。 319 00:22:54,031 --> 00:22:58,502 ん? ちと苦いが まあいける。 320 00:22:58,502 --> 00:23:00,802 オランダの酒…。 321 00:23:04,174 --> 00:23:08,045 (せきこみ) お前さん 下戸か? 322 00:23:08,045 --> 00:23:12,883 はあ 父譲りで。 お~ それは気の毒な。 323 00:23:12,883 --> 00:23:15,519 「天地 既に酒を愛す。➡ 324 00:23:15,519 --> 00:23:20,391 酒を愛するも 天に愧じず」だ。 ぬははははは…! 325 00:23:20,391 --> 00:23:23,394 オランダの酒の作り方も 本に書いてあるのですか? 326 00:23:23,394 --> 00:23:25,394 うむ。 まあな…。 327 00:23:27,531 --> 00:23:30,231 これを 見てごらん。 328 00:23:32,136 --> 00:23:37,136 馬の病の本だ。 石の治し方も そこに書いてある。 329 00:23:43,147 --> 00:23:46,150 (都甲)ご公儀の馬医者は その本が読めなかった。 330 00:23:46,150 --> 00:23:49,350 それで 療治ができなかったのさ。 331 00:23:53,157 --> 00:23:56,827 よく こんなにたくさんの本を…。 332 00:23:56,827 --> 00:24:03,000 麻布の十番馬場で 年に3度 仙台駒の市が立つ。 333 00:24:03,000 --> 00:24:09,873 目利きをしたり 病を治したりした礼金が ハハ… そっくり本に化けた。 334 00:24:09,873 --> 00:24:14,311 まっ いくらかは 酒にも化けたがな。 335 00:24:14,311 --> 00:24:18,611 拝見しても 構いませんか。 おう。 336 00:24:26,857 --> 00:24:30,327 それは タクチーキ 兵学書だ。 337 00:24:30,327 --> 00:24:32,827 兵学書? 338 00:24:37,968 --> 00:24:40,637 何が書いてあるんだろう…。 339 00:24:40,637 --> 00:24:45,437 日本人がまだ知らない 新しい戦術だ。 340 00:24:48,379 --> 00:24:53,650 西洋の書物は 役に立つ知識の宝庫だ。 341 00:24:53,650 --> 00:25:01,158 ところが ご公儀は蕃書を遠ざけ 新しい知識を広めようとしない。 342 00:25:01,158 --> 00:25:05,662 今の改革とやらを見てごらんな。 343 00:25:05,662 --> 00:25:13,003 むやみに人々を締め上げて 享保や寛政の世に戻そうとしている。 344 00:25:13,003 --> 00:25:17,307 世界は前に進んでいるというのに バカな話だ。 345 00:25:17,307 --> 00:25:22,179 あいにく バカにつける薬はない。 346 00:25:22,179 --> 00:25:26,049 今に この国は 西洋に食い潰されるか➡ 347 00:25:26,049 --> 00:25:31,049 そうでなけりゃ 大きな内乱が起こるだろうよ。 348 00:25:33,757 --> 00:25:38,128 恐ろしいことを言うと思うか? 349 00:25:38,128 --> 00:25:42,132 はい。 …しかし 私も➡ 350 00:25:42,132 --> 00:25:46,470 ご公儀のなさりようは 間違っていると思います。 351 00:25:46,470 --> 00:25:50,340 私にできることはないのか…。 352 00:25:50,340 --> 00:25:53,143 ずっと それを考えていました。 353 00:25:53,143 --> 00:25:57,843 ならば まず 学ぶことだ。 354 00:25:59,650 --> 00:26:05,289 書物の中には 億万人の 知恵や知識が詰まってる。 355 00:26:05,289 --> 00:26:10,661 大公儀などと威張ったところで たかの知れた石頭の集まり。 356 00:26:10,661 --> 00:26:13,564 億万の知恵に勝てる道理がない。 357 00:26:13,564 --> 00:26:17,000 でも… 私は無役で➡ 358 00:26:17,000 --> 00:26:20,504 その石頭の数のうちにさえ 入ることができません。 359 00:26:20,504 --> 00:26:24,504 バカ者 志が低いわ! 360 00:26:35,986 --> 00:26:38,989 見なさい。 361 00:26:38,989 --> 00:26:43,460 かの ポナパルテは 一介の兵から身をおこし➡ 362 00:26:43,460 --> 00:26:46,363 フランスの王となったのだぞ。 363 00:26:46,363 --> 00:26:48,332 ポナ パルテ? 364 00:26:48,332 --> 00:26:50,634 フランス王 ナポレオン。 365 00:26:50,634 --> 00:26:53,537 国の古い仕組みを改め➡ 366 00:26:53,537 --> 00:26:57,037 フレイヘイドの世を 打ち立てようとした男だ。 367 00:27:00,644 --> 00:27:02,980 <ナポレオン・ボナパルト。➡ 368 00:27:02,980 --> 00:27:06,483 今では 誰もが知る フランスの英雄ですが➡ 369 00:27:06,483 --> 00:27:10,821 江戸時代後期には もう 蘭学を学ぶ人々の間で➡ 370 00:27:10,821 --> 00:27:13,724 その名は 知られていました> 371 00:27:13,724 --> 00:27:17,160 一人の兵が世を変えた…。 372 00:27:17,160 --> 00:27:21,031 そんなことが できるのですか? 373 00:27:21,031 --> 00:27:23,934 ナポレオンには 武器があったのだよ。 374 00:27:23,934 --> 00:27:29,873 名も地位も金もない 若い者も持てる武器だ。 375 00:27:29,873 --> 00:27:36,947 一つは 胆力。 そして もう一つが 知識だ。 376 00:27:36,947 --> 00:27:41,447 胆力と知識…。 377 00:27:43,820 --> 00:27:48,559 都甲先生! 私を弟子にしてください。 378 00:27:48,559 --> 00:27:52,359 蘭書の読み方を ご教示ください。 379 00:28:01,972 --> 00:28:10,681 ≪月 マアン。 星 ステル…。 380 00:28:10,681 --> 00:28:19,289 天 ヘーメル。 地 アールド。 381 00:28:19,289 --> 00:28:26,163 日 ソン。 月 マアン。 382 00:28:26,163 --> 00:28:31,234 星 ステル…。 383 00:28:31,234 --> 00:28:38,942 異国の言葉…。 ≪天 ヘーメル。 地 アールド…。 384 00:28:38,942 --> 00:28:46,683 日 ソン。 月 マアン。 385 00:28:46,683 --> 00:28:53,490 星 ステル…。 386 00:28:53,490 --> 00:28:59,329 (銀次)えっ ここら辺じゃねえのかな…。 387 00:28:59,329 --> 00:29:02,633 まあ 石原おこし! 388 00:29:02,633 --> 00:29:07,471 懐かしい本所の味。 お順 まず おばば様に。 389 00:29:07,471 --> 00:29:10,140 はい。 390 00:29:10,140 --> 00:29:12,075 銀次さん ありがとう。 391 00:29:12,075 --> 00:29:14,811 どういたしやして。 392 00:29:14,811 --> 00:29:16,747 何かあったのか? 393 00:29:16,747 --> 00:29:21,151 へい。 道具市で 恐ろしいものを見やしてね。 394 00:29:21,151 --> 00:29:23,086 恐ろしいもの? 395 00:29:23,086 --> 00:29:25,155 3日前のことです。 396 00:29:25,155 --> 00:29:28,492 若え女が ふらりと市に現れたんでさ。➡ 397 00:29:28,492 --> 00:29:32,362 見ねえ顔だが すこぶるつきのいい女でね。➡ 398 00:29:32,362 --> 00:29:34,297 髪に銀の簪を挿していて➡ 399 00:29:34,297 --> 00:29:38,301 歩くたんびに 銀びらが ジャラジャラっと揺れるんです。➡ 400 00:29:38,301 --> 00:29:41,104 こいつは危ねえと思ったら 案の定…。 401 00:29:41,104 --> 00:29:45,776 女 銀細工が ご法度ってことを 知らねえわけじゃあるめえ? 402 00:29:45,776 --> 00:29:47,811 おい しょっぴけ! 403 00:29:47,811 --> 00:29:51,948 旦那 見逃しておくんなさいまし。 404 00:29:51,948 --> 00:29:54,148 あっ…。 405 00:29:56,620 --> 00:30:00,791 拝みますよ。 ふむ。 406 00:30:00,791 --> 00:30:04,127 よく見れば 針金細工か。 407 00:30:04,127 --> 00:30:08,427 (銀次)袖の下を受け取って 女を見逃したってわけで。 408 00:30:10,467 --> 00:30:12,969 恐ろしいのは そのあとですよ。 409 00:30:12,969 --> 00:30:15,872 昨日になって 奉行所に引っ張られたんです。 410 00:30:15,872 --> 00:30:20,143 召し捕られたのか その女。 いや しょっぴかれたのは➡ 411 00:30:20,143 --> 00:30:23,814 市中取締の旦那の方でさ。 えっ? 412 00:30:23,814 --> 00:30:26,149 じゃあ その びらびら簪の女ってのは…。 413 00:30:26,149 --> 00:30:30,654 どうやら 南町奉行 鳥居様の手先のようなんで。 414 00:30:30,654 --> 00:30:34,157 えっ? てめえの配下を わなにはめたか。 415 00:30:34,157 --> 00:30:37,160 わな? お奉行様が なぜ そんなことを? 416 00:30:37,160 --> 00:30:40,831 取り締まりに 手心を加えてねえか 探ってんだろ。 417 00:30:40,831 --> 00:30:45,001 えっ…。 探られてんのは 町の者も同様でさ。➡ 418 00:30:45,001 --> 00:30:48,672 ひょいと口を滑らせてお上の悪口でも 言おうもんなら➡ 419 00:30:48,672 --> 00:30:52,542 隣近所のやつに 訴え出られるかもしれやせん。 420 00:30:52,542 --> 00:30:55,545 壁に耳ありってのは このこったい。 421 00:30:55,545 --> 00:31:00,851 ひどい。 それじゃあ 人を信用できなくなるじゃありませんか。 422 00:31:00,851 --> 00:31:05,689 鳥居ってなあ 目付の頃から陰険な野郎だった。 423 00:31:05,689 --> 00:31:09,326 それで 坊ちゃんのことなんですがね。 424 00:31:09,326 --> 00:31:11,862 麟太郎が 何か? 425 00:31:11,862 --> 00:31:14,898 せんだって 平川天神でお見かけ申しました。 426 00:31:14,898 --> 00:31:20,337 わしも この辺りの私塾で 蘭学を学んでおった。 427 00:31:20,337 --> 00:31:24,708 身分の高下などなく まあ 楽しいところじゃった。 428 00:31:24,708 --> 00:31:28,345 あれ? お坊ちゃん? 429 00:31:28,345 --> 00:31:32,215 お連れがいたんで 声はかけなかったんですが…。 430 00:31:32,215 --> 00:31:35,652 髪をですね こう 馬の尻尾みてえに束ねた じいさんで。 431 00:31:35,652 --> 00:31:38,688 だったら 都甲先生だ。 馬乗りの隠居だよ。 432 00:31:38,688 --> 00:31:41,158 やっぱり…。 433 00:31:41,158 --> 00:31:43,994 前に 馬市で見かけたことがありやす。 434 00:31:43,994 --> 00:31:47,831 蘭学の術とやらで 馬の病を治すと評判でした。 435 00:31:47,831 --> 00:31:50,734 あれ ひょっとして 坊ちゃん 蘭学を始めたんですかい? 436 00:31:50,734 --> 00:31:52,702 あいつあ 学問好きだからな。 437 00:31:52,702 --> 00:31:54,704 そいつは いけねえ。 438 00:31:54,704 --> 00:31:57,007 鳥居は 大の蘭学嫌えだそうです。 439 00:31:57,007 --> 00:31:59,309 にらまれたら ろくなことになりやせんぜ。 440 00:31:59,309 --> 00:32:01,378 蘭学の何がいけないんだい。 441 00:32:01,378 --> 00:32:04,681 馬の病がそれで治るなら 結構なことじゃねえかよ。 442 00:32:04,681 --> 00:32:08,185 人の役に立つことを禁ずるなんざあ バカのするこった。 443 00:32:08,185 --> 00:32:10,687 けどね 旦那。 あいつも男一匹だ。 444 00:32:10,687 --> 00:32:14,687 腹くくってやることに はたから とやかく言うんじゃねえ! 445 00:32:16,326 --> 00:32:24,201 地 アールド。 日 ソン。 446 00:32:24,201 --> 00:32:31,401 月 マアン。 星 ステル…。 447 00:32:33,143 --> 00:32:35,143 はい。 448 00:32:38,014 --> 00:32:40,884 お帰りなさい。 ≪ただいま戻りました。 449 00:32:40,884 --> 00:32:43,884 遅くまでご苦労さまでした。 450 00:32:45,655 --> 00:32:49,955 道場の帰りに 都甲先生のところに寄ってきました。 451 00:32:55,165 --> 00:32:58,001 オランダでは 3つの子でも すらすら話す言葉が➡ 452 00:32:58,001 --> 00:33:02,305 まるで分からないのですから 情けなくなりますよ。 453 00:33:02,305 --> 00:33:06,509 オランダというのは どこにあるのですか? 454 00:33:06,509 --> 00:33:10,680 海を越えて 清国を越えて まだまだ先さ。 455 00:33:10,680 --> 00:33:13,016 ふ~ん。 456 00:33:13,016 --> 00:33:17,320 麟太郎 今日 銀次さんが見えて…。 457 00:33:17,320 --> 00:33:22,158 ええ。 たいそう心配していましたよ。 458 00:33:22,158 --> 00:33:28,331 今は 蘭学を学ぶには 時期が悪いのではないかと…。 459 00:33:28,331 --> 00:33:32,636 確かに 蘭学を目の敵にする人もいますが…。 460 00:33:32,636 --> 00:33:35,972 それを恐れていては 何もできません。 461 00:33:35,972 --> 00:33:40,844 私は ナポレオンの気構えでいきます。 462 00:33:40,844 --> 00:33:44,281 ナポ… 何ですか? 463 00:33:44,281 --> 00:33:49,819 ああ いや… ともかく ご心配には及びません。 464 00:33:49,819 --> 00:33:53,657 でも もしも何かあったら…。 母上らしくないなあ。 465 00:33:53,657 --> 00:33:56,993 強い力で潰そうとするものに あらがう気概は➡ 466 00:33:56,993 --> 00:33:59,829 深川の芸者だって持っているのに。 467 00:33:59,829 --> 00:34:01,765 深川の芸者って? 468 00:34:01,765 --> 00:34:05,565 えっ? ああ いや それはその…。 469 00:34:07,304 --> 00:34:09,372 胸ぐら取って どうしようってのさ。 470 00:34:09,372 --> 00:34:14,678 つまり… フレイヘイド フレイヘイドです。 471 00:34:14,678 --> 00:34:18,878 お順 手習いを見てやろう。 はい 兄上! 472 00:34:20,483 --> 00:34:23,183 ふれいへいど…? 473 00:34:30,860 --> 00:34:35,560 あら… 風邪でもひいたのかしら。 474 00:34:37,267 --> 00:34:42,467 曲がって まっすぐ行ったところです。 ありがとうございます。 475 00:34:49,813 --> 00:34:53,149 ここかな…。 476 00:34:53,149 --> 00:34:57,149 お徳さん うちですか? 477 00:35:01,024 --> 00:35:05,724 信です。 開けますよ。 478 00:35:12,535 --> 00:35:17,735 よかった。 寝込んでるのかと心配したんですよ。 479 00:35:20,243 --> 00:35:24,043 その手拭い どうしました? 480 00:35:25,849 --> 00:35:32,549 奥様… こんな姿になりました。 481 00:35:35,458 --> 00:35:42,758 この頭では とても表は歩けません…。 482 00:35:48,138 --> 00:35:50,938 何があったんです? 483 00:35:52,809 --> 00:35:55,845 お徳さん! 484 00:35:55,845 --> 00:35:59,149 自身番に引っ張られて…。 485 00:35:59,149 --> 00:36:05,822 お触れに背いたと叱られ 髪を切られちまったんです。 486 00:36:05,822 --> 00:36:08,158 どうして…? 487 00:36:08,158 --> 00:36:11,661 髪を結った咎で…。 488 00:36:11,661 --> 00:36:16,299 髪結いは 3年前にやめたのですよね。 489 00:36:16,299 --> 00:36:20,837 昔のお得意様に頼まれて➡ 490 00:36:20,837 --> 00:36:24,674 お嬢様の婚礼に どうしてもと…。 491 00:36:24,674 --> 00:36:32,415 人目につかぬよう 御内証で こっそり結わせていただいたんです。 492 00:36:32,415 --> 00:36:38,715 なのに 誰かが告げ口を…。 493 00:36:40,790 --> 00:36:44,127 私がいけなかったんです。 494 00:36:44,127 --> 00:36:50,467 百文の結い賃を つい 頂戴したばっかりに。 495 00:36:50,467 --> 00:36:58,167 百文? たったそれだけで こんなひどいことを…。 496 00:37:04,013 --> 00:37:08,818 そうだ お土産があるんですよ。 497 00:37:08,818 --> 00:37:12,989 おこし 甘くておいしいんですよ。 498 00:37:12,989 --> 00:37:18,789 食べて 元気をつけましょう。 ねっ。 499 00:37:34,310 --> 00:37:39,610 ごめんなさい こんなものしかなくて…。 500 00:37:45,622 --> 00:37:48,822 奥様…! 501 00:37:52,128 --> 00:38:02,138 (泣き声) 502 00:38:02,138 --> 00:38:08,278 ごめんなさいね 何もしてあげられなくて…。 503 00:38:08,278 --> 00:38:11,481 ごめんなさい。 504 00:38:11,481 --> 00:38:27,181 (泣き声) 505 00:38:30,967 --> 00:38:34,267 ≪母上! 506 00:38:36,105 --> 00:38:38,405 麟太郎…。 507 00:38:41,978 --> 00:38:45,278 何か あったのですか? 508 00:38:50,653 --> 00:38:54,958 以前 この近くに 大観堂という私塾があって➡ 509 00:38:54,958 --> 00:38:57,794 都甲先生は そこで蘭学を学ばれたそうです。 510 00:38:57,794 --> 00:39:02,465 身分の高下なく 研さんを積む場所だったと伺いました。 511 00:39:02,465 --> 00:39:05,969 その お塾 今は? もうありません。 512 00:39:05,969 --> 00:39:13,276 塾長の高野長英殿が 蛮社のお裁きで 牢に入れられましたから。 513 00:39:13,276 --> 00:39:17,814 天文方で 蕃書の翻訳をされていた 小関三英という方も➡ 514 00:39:17,814 --> 00:39:19,749 その折に亡くなられました。 515 00:39:19,749 --> 00:39:22,652 都甲先生の 無二の友だったそうです。 516 00:39:22,652 --> 00:39:24,587 そう…。 517 00:39:24,587 --> 00:39:27,824 小関殿が手がけた大半の翻訳は 失われましたが➡ 518 00:39:27,824 --> 00:39:33,096 一冊 都甲先生が 写しをとっていた本がありました。 519 00:39:33,096 --> 00:39:35,396 ナポレオンの伝記です。 520 00:39:38,234 --> 00:39:41,938 ナポレオン… 何者ですか? 521 00:39:41,938 --> 00:39:45,441 低い身分に生まれながら フランスの王になった男です。 522 00:39:45,441 --> 00:39:49,245 王に? では 偉い方なのですね。 523 00:39:49,245 --> 00:39:52,445 王になったことが 偉いのではありません。 524 00:39:54,450 --> 00:39:59,322 世の中を もっと住みよいところに 作り変えようとしたのです。 525 00:39:59,322 --> 00:40:01,958 フレイヘイドの国に。 526 00:40:01,958 --> 00:40:05,261 ふれいへいど… どういう意味? 527 00:40:05,261 --> 00:40:09,132 そうだなあ…。 528 00:40:09,132 --> 00:40:12,035 融通無碍。 529 00:40:12,035 --> 00:40:17,473 心伸びやかに 思いのままに生きること。 530 00:40:17,473 --> 00:40:21,811 母上が 今日のような悲しい思いをせず➡ 531 00:40:21,811 --> 00:40:26,482 笑って暮らせる毎日が 続くようにすることです。 532 00:40:26,482 --> 00:40:28,985 母上は 以前おっしゃっていましたよね。 533 00:40:28,985 --> 00:40:33,856 人情と かけ離れたことが いつまでも続くはずはないと。 534 00:40:33,856 --> 00:40:37,293 ええ…。 535 00:40:37,293 --> 00:40:41,497 世の中は きっと変えられる。 536 00:40:41,497 --> 00:40:46,169 もっと住みよい もっと豊かなところに。 537 00:40:46,169 --> 00:40:49,505 そのためには 新しい知識が力になると➡ 538 00:40:49,505 --> 00:40:52,805 私は そう思っているんですよ。 539 00:40:54,377 --> 00:40:56,877 そう…。 540 00:40:59,182 --> 00:41:02,682 ええ そうですね。 541 00:41:05,054 --> 00:41:08,891 あっ… 西洋の学問の成就を➡ 542 00:41:08,891 --> 00:41:12,729 日本の神様にお願いするのは 筋違いかなあ。 543 00:41:12,729 --> 00:41:17,867 大丈夫。 神様は 融通無碍ですから。 544 00:41:17,867 --> 00:41:22,038 天神様が 西洋の神様に 取り次いでくださいますよ。 545 00:41:22,038 --> 00:41:23,973 そうですね。 546 00:41:23,973 --> 00:41:27,343 フレイヘイド フレイヘイドです。 547 00:41:27,343 --> 00:41:30,880 はい。 548 00:41:30,880 --> 00:41:35,380 (鐘の音) 549 00:41:41,524 --> 00:41:44,527 <フレイヘイド…➡ 550 00:41:44,527 --> 00:41:49,327 今の言葉では それを「自由」といいます> 551 00:41:51,167 --> 00:41:53,102 娘義太夫を寄席に? 552 00:41:53,102 --> 00:41:55,171 ちくられでもしたら えれえことになりやす。 553 00:41:55,171 --> 00:41:58,040 何すんだい! これは 私の魂なんだよ! 554 00:41:58,040 --> 00:42:00,309 そうだ。 江戸の町を➡ 555 00:42:00,309 --> 00:42:04,514 つまらねえところにしやがった連中に ひと泡吹かせてやりてえのよ! 556 00:42:04,514 --> 00:42:06,449 ご法度の娘義太夫が始まるよ。 557 00:42:06,449 --> 00:42:08,384 一同 神妙にしろ! 558 00:42:08,384 --> 00:42:11,187 粉川寺~! 559 00:42:11,187 --> 00:43:26,187 ♬~ 560 00:45:35,024 --> 00:45:38,494 空から見れば読み取れる➡ 561 00:45:38,494 --> 00:45:42,194 歴史の物語があります。 562 00:45:43,833 --> 00:45:46,533 「空旅中国」。 563 00:45:48,504 --> 00:45:53,175 英雄たちの足跡をたどってみましょう。