1 00:00:05,138 --> 00:00:07,140 (お信)縁談ですか? 2 00:00:07,140 --> 00:00:09,610 麟太郎も 22歳。 3 00:00:09,610 --> 00:00:11,945 そろそろ身を固めてもよい頃です。 4 00:00:11,945 --> 00:00:13,981 もう そんな年か…。 5 00:00:13,981 --> 00:00:17,417 嫁のことなんて考えてなかったな。 ええ まだ先のことかと。 6 00:00:17,417 --> 00:00:19,353 あきれた。 7 00:00:19,353 --> 00:00:21,955 麟太郎は 勝家の跡取りですよ。 8 00:00:21,955 --> 00:00:26,126 親が嫁の心配をしなくて どうするんです! 9 00:00:26,126 --> 00:00:32,432 おばば様も あの世で さぞ 気をもんでいることでしょう。 10 00:00:32,432 --> 00:00:39,206 お相手は 御子納戸衆 永井左近様のご息女 佐江殿。 11 00:00:39,206 --> 00:00:42,175 まあ そんな立派な家の方を? 12 00:00:42,175 --> 00:00:46,947 永井様は 亡くなった旦那様の学問の弟子で➡ 13 00:00:46,947 --> 00:00:51,451 麟太郎が文武に秀でていることを よく聞かされていたそうです。 14 00:00:51,451 --> 00:00:54,154 では 麟太郎の気持ちを聞いて…。 15 00:00:54,154 --> 00:00:56,456 甘いっ! 嫁の実家の後押しがあれば➡ 16 00:00:56,456 --> 00:00:58,992 出世の道も ひらけるというもの。 17 00:00:58,992 --> 00:01:03,597 この縁談 進めますよ。 いいですね! 18 00:01:03,597 --> 00:01:05,532 (2人)はい…。 19 00:01:05,532 --> 00:01:08,402 <降って湧いた 麟太郎の嫁取り話…。➡ 20 00:01:08,402 --> 00:01:11,939 これは ひと騒動ありそうな気配です> 21 00:01:11,939 --> 00:01:23,951 ♬~ 22 00:01:23,951 --> 00:01:26,987 (麟太郎)その話 断ってください。 23 00:01:26,987 --> 00:01:30,824 いまだ 修行中の身です。 嫁をもらうのは早すぎます。 24 00:01:30,824 --> 00:01:34,127 早かねえさ。 俺が所帯を持ったのは18ん時だい。 25 00:01:34,127 --> 00:01:36,163 私は 16でした。 26 00:01:36,163 --> 00:01:38,999 しかし まだお役目にもつけないのに…。 27 00:01:38,999 --> 00:01:41,868 御番入り待ってちゃ いつまでたっても 嫁はもらえねえ。 28 00:01:41,868 --> 00:01:45,739 まず 嫁を取れ。 御番入りは それからだ。 29 00:01:45,739 --> 00:01:50,677 よいご縁なら 早く進めるに越したことはありません。 30 00:01:50,677 --> 00:01:57,317 旦那様と許嫁の仲になったのは 私が5つの時でしたが➡ 31 00:01:57,317 --> 00:02:01,254 めおとになる日が それは待ち遠しかったものです。 32 00:02:01,254 --> 00:02:03,590 へえ~ そうかい。 33 00:02:03,590 --> 00:02:08,762 そうですよ。 なのに 旦那様ときたら 家出したきりお戻りにならなくて。 34 00:02:08,762 --> 00:02:12,632 めおと約束は どうなるものかと 気をもんだんですから。 35 00:02:12,632 --> 00:02:15,268 勝家の当主になっても また家出。 36 00:02:15,268 --> 00:02:18,171 あの時は 勝家も これで終わりかと…。 37 00:02:18,171 --> 00:02:20,407 何の話をしてんだよ。 38 00:02:20,407 --> 00:02:23,910 母上 話が脇にそれました。 39 00:02:25,612 --> 00:02:28,115 いけない…。 40 00:02:28,115 --> 00:02:31,418 ともかく この話は もう…。 41 00:02:31,418 --> 00:02:34,921 夕飯まで 薪を割ってきます。 42 00:02:38,191 --> 00:02:41,094 ろくに話も聞かねえで…。 43 00:02:41,094 --> 00:02:44,431 うちで くすぶってるより よそに所帯 構えた方が➡ 44 00:02:44,431 --> 00:02:47,634 まだ見込みがあるかもしれねえのにな。 ええ。 45 00:02:47,634 --> 00:02:51,972 一度は お城に上がって 若君のお相手を務めた身だ。 46 00:02:51,972 --> 00:02:54,441 このまま埋もれちまっちゃ 可哀想だぜ。 47 00:02:54,441 --> 00:02:58,311 お嫁様をもらったら またお城に上がれるのですか? 48 00:02:58,311 --> 00:03:02,582 さあ…。 折を見て また話してみましょう。 49 00:03:02,582 --> 00:03:05,385 そうだな…。 50 00:03:05,385 --> 00:03:07,754 親子二代 無役のままじゃ➡ 51 00:03:07,754 --> 00:03:10,791 おばば様にも 死んだ兄貴にも 顔向けできねえや。 52 00:03:10,791 --> 00:03:13,093 旦那様…。 53 00:03:13,093 --> 00:03:17,597 ひょっとして… あいつ 好きな女でもいるのかな。 54 00:03:17,597 --> 00:03:20,901 そういえば…。 55 00:03:25,105 --> 00:03:27,908 あの時の人…。 56 00:03:50,797 --> 00:03:53,500 何かあったのか…? 57 00:03:55,969 --> 00:03:59,005 (お福)文吉と 約束なすったんですか? 58 00:03:59,005 --> 00:04:02,576 約束というわけではないのだが…。 59 00:04:02,576 --> 00:04:08,915 ああ そういえば 毎月みそかの前の日には 外で会っておいででしたね。 60 00:04:08,915 --> 00:04:12,752 すまぬ。 座敷に呼ぶ金がないので…。 61 00:04:12,752 --> 00:04:15,956 急な病かと 気になって来てみたんだが…。 62 00:04:19,392 --> 00:04:24,598 勝様 ご存じなかったんですね。 63 00:04:24,598 --> 00:04:30,771 文吉 いえ お民さん 日本橋の魚宗さんに お嫁に行くことが決まったんですよ。 64 00:04:30,771 --> 00:04:33,607 若旦那が 文吉にぞっこんでね。 65 00:04:33,607 --> 00:04:38,278 1年前から口説かれてまして ようやく話がまとまって。 66 00:04:38,278 --> 00:04:43,116 そんな…。 お民さんはどこだ? 話を聞いてくる。 67 00:04:43,116 --> 00:04:47,954 あいにく もう柳橋にはいません。 えっ? 68 00:04:47,954 --> 00:04:52,125 魚宗さんの親戚の家で 商いのイロハを教わってるんですよ。 69 00:04:52,125 --> 00:04:56,930 何しろ 大店のご新造さんに なるんですから。 70 00:04:59,299 --> 00:05:02,903 勝様 悪いことは言いません。 71 00:05:02,903 --> 00:05:08,909 文吉のことは もう お忘れになった方が ようござんすよ。 72 00:05:13,547 --> 00:05:15,749 ⚟(鐘の音) 73 00:05:20,086 --> 00:05:23,924 ああ 驚いた。 いつ戻ったのです? 74 00:05:23,924 --> 00:05:27,260 ええ さっき…。 75 00:05:27,260 --> 00:05:30,096 どうしたの? 沈んだ顔をして。 76 00:05:30,096 --> 00:05:33,400 いえ… ちょっと考えごとを。 77 00:05:33,400 --> 00:05:35,602 そう…。 78 00:05:44,611 --> 00:05:49,616 麟太郎 この前の縁談のことですけど…。 79 00:05:52,485 --> 00:05:55,956 誰かいるのではありませんか? 80 00:05:55,956 --> 00:06:00,794 ほかに 思う相手が。 えっ? 81 00:06:00,794 --> 00:06:06,900 もしかして 娘義太夫を手伝ってくれた芸者さん…➡ 82 00:06:06,900 --> 00:06:09,402 文吉さんといったかしら。 83 00:06:11,771 --> 00:06:17,911 深川は料理屋がなくなったというので どうしているのかと思っていましたが…。 84 00:06:17,911 --> 00:06:22,749 あの人は 柳橋に住み替えたんですよ。 85 00:06:22,749 --> 00:06:29,522 そう…。 それで一緒に 柳橋の第六天にいたのね。 86 00:06:29,522 --> 00:06:34,094 母上は何でも お見通しか。 87 00:06:34,094 --> 00:06:36,029 時折 会っていました。 88 00:06:36,029 --> 00:06:40,400 会うといっても 世間話をするくらいでしたが。 89 00:06:40,400 --> 00:06:44,104 それじゃあ 文吉さんのことがあるから…。 もういいんです。 90 00:06:44,104 --> 00:06:46,306 えっ? 91 00:06:54,814 --> 00:07:01,354 嫁に行くそうです。 相手は 日本橋の魚問屋。 92 00:07:01,354 --> 00:07:05,558 魚宗といって 大店ですよ。 93 00:07:07,227 --> 00:07:10,363 芸者としては 大出世だ。 94 00:07:10,363 --> 00:07:13,733 麟太郎は それでよいのですか? 95 00:07:13,733 --> 00:07:19,539 よいも悪いも 私は 振られたんですから。 96 00:07:26,913 --> 00:07:31,918 縁談の話は もう少し考えさせてください。 97 00:07:39,092 --> 00:07:41,027 (半鐘の音) 98 00:07:41,027 --> 00:07:43,964 <その日 夜更けを過ぎて…> 99 00:07:43,964 --> 00:07:50,804 (騒ぎ声) 100 00:07:50,804 --> 00:07:54,407 (石出)お上のお慈悲をもって その方どもを切り放つ。 101 00:07:54,407 --> 00:07:56,943 立ち退き場所は 本所回向院。 102 00:07:56,943 --> 00:08:00,814 3日以内に 必ず回向院に立ち戻れ! 103 00:08:00,814 --> 00:08:02,749 (囚人たち)へい。 104 00:08:02,749 --> 00:08:06,219 (石出)決まりを守って戻った者は 罪一等を減ずる。➡ 105 00:08:06,219 --> 00:08:11,558 万が一 逃げ去る者がおれば 草の根分けても捜し出し➡ 106 00:08:11,558 --> 00:08:13,493 その身は死罪。➡ 107 00:08:13,493 --> 00:08:16,363 身内の者どもも重罪に処す。 108 00:08:16,363 --> 00:08:19,899 よいな きっと立ち戻れ! 109 00:08:19,899 --> 00:08:22,936 <当時 牢や その近くで火災があると➡ 110 00:08:22,936 --> 00:08:29,376 3日間の日切りつきで囚人を解き放つ 牢払いが行われました。➡ 111 00:08:29,376 --> 00:08:36,750 天保15年6月30日の未明 江戸の町に散った囚人は63人。➡ 112 00:08:36,750 --> 00:08:41,087 その中の一人が 蛮社の獄で終身刑を言い渡された➡ 113 00:08:41,087 --> 00:08:45,258 あの 高野長英でした> 114 00:08:45,258 --> 00:08:48,094 (鳥居)愚か者! なぜ 長英を逃がした!➡ 115 00:08:48,094 --> 00:08:53,967 たとえ焼け死のうと あの者は解き放ってはならんのだ。 116 00:08:53,967 --> 00:08:57,404 やつは 必ず逃げる。 117 00:08:57,404 --> 00:09:00,874 早々に見つけ出して 牢に連れ戻せ! 118 00:09:00,874 --> 00:09:02,876 はっ…。 119 00:09:04,544 --> 00:09:09,716 <5年前 「夢物語」を書いて 幕政を批判した長英は➡ 120 00:09:09,716 --> 00:09:15,221 鳥居にとって 決して許すことのできない政治犯でした> 121 00:09:18,224 --> 00:09:22,062 蚊帳~。 122 00:09:22,062 --> 00:09:25,365 萌黄の蚊帳~。 123 00:09:25,365 --> 00:09:28,902 文吉が 魚宗の嫁に? 124 00:09:28,902 --> 00:09:30,837 それは まことか。 125 00:09:30,837 --> 00:09:34,774 ええ。 芸者はやめて 柳橋から いなくなっていました。 126 00:09:34,774 --> 00:09:37,243 解せぬな。 127 00:09:37,243 --> 00:09:42,749 文吉は お前にほれておる。 金に転ぶような女ではない。 128 00:09:42,749 --> 00:09:45,785 魚宗に口説き落とされるとは 思えぬがの。 129 00:09:45,785 --> 00:09:50,924 でも もう魚宗の親戚のところに 身を寄せているそうです。 130 00:09:50,924 --> 00:09:54,394 お前は それを聞いて しおしおと引き下がったのか。 131 00:09:54,394 --> 00:09:56,763 この意気地なしめが。 132 00:09:56,763 --> 00:10:00,100 ええ 意気地なしです。 133 00:10:00,100 --> 00:10:04,604 私が いつまでも煮えきらないから 愛想を尽かされたんですよ。 134 00:10:04,604 --> 00:10:08,107 文吉と一緒になる気はないのか? 135 00:10:08,107 --> 00:10:10,410 それは…。 136 00:10:10,410 --> 00:10:14,280 身分が違うなどとは あんまり古風だぞ。 137 00:10:14,280 --> 00:10:20,086 当節は 武家の養女にでもすれば どうとも格好がつくものを。 138 00:10:20,086 --> 00:10:24,991 分かっています。 でも そうまでして一緒になる相手が➡ 139 00:10:24,991 --> 00:10:30,630 無役の貧乏勝では 苦労させるだけですから。 140 00:10:30,630 --> 00:10:34,801 お民さんなら 大店の切り盛りも きっとうまくやる。 141 00:10:34,801 --> 00:10:39,439 魚宗に嫁いだ方が ずっと幸せなんですよ。 142 00:10:39,439 --> 00:10:41,975 文吉の気持ちは 確かめたのか? 143 00:10:41,975 --> 00:10:46,145 この話は もうよしましょう。 続きをお願いします。 144 00:10:46,145 --> 00:10:48,948 ⚟(物音) 145 00:10:52,018 --> 00:10:54,020 気のせいか…。 146 00:10:54,020 --> 00:10:56,322 どなたか おいでになる約束でも? 147 00:10:56,322 --> 00:11:01,160 いや… あの男が 訪ねてくるような気がしてな。 148 00:11:01,160 --> 00:11:04,063 あの男…。 149 00:11:04,063 --> 00:11:09,769 今朝方 伝馬町から火が出て 囚人の切り放ちがあったと聞きました。 150 00:11:09,769 --> 00:11:12,672 長英先生が その中に? 151 00:11:12,672 --> 00:11:15,942 いや 分からぬ。 152 00:11:15,942 --> 00:11:18,444 だが もしかしたらと…。 153 00:11:20,413 --> 00:11:25,251 オランダ語にかけては 長英の右に出る者はいない。➡ 154 00:11:25,251 --> 00:11:28,788 わしも共に 蘭書の翻訳をしていた。 155 00:11:28,788 --> 00:11:33,293 長英が捕らえられる前の日までな。 156 00:11:33,293 --> 00:11:35,628 さほどの罪にはなるまい。 157 00:11:35,628 --> 00:11:38,665 せいぜいが 江戸払いかと…。 158 00:11:38,665 --> 00:11:42,302 永牢だと!? バカな…。 159 00:11:42,302 --> 00:11:45,805 下された裁きは 永牢。 160 00:11:45,805 --> 00:11:47,840 死ぬまで牢から出られぬ。 161 00:11:47,840 --> 00:11:50,643 お気の毒に…。 162 00:11:50,643 --> 00:11:53,146 無念であったろうよ。 163 00:11:53,146 --> 00:11:58,017 長英には やらねばならぬことが 山のようにあった。 164 00:11:58,017 --> 00:12:03,590 頓挫した蘭書の翻訳も その一つだ。 165 00:12:03,590 --> 00:12:07,393 わし一人では 到底訳しきれぬ。 166 00:12:07,393 --> 00:12:10,263 長英がおらねばな。 167 00:12:10,263 --> 00:12:34,954 ♬~ 168 00:12:34,954 --> 00:12:37,290 ⚟(戸をたたく音) 169 00:12:37,290 --> 00:12:40,960 誰かしら 今時分。 170 00:12:40,960 --> 00:12:42,895 どなたですか? 171 00:12:42,895 --> 00:12:45,898 ⚟都甲殿の知り合いの者です。 172 00:12:52,572 --> 00:12:55,508 もしや あなたは 牢払いの…。 173 00:12:55,508 --> 00:12:58,378 高野長英です。 174 00:12:58,378 --> 00:13:00,446 どうして ここに? 175 00:13:00,446 --> 00:13:06,919 都甲殿を訪ねたのですが 家の周りに岡っ引きがいて…。 176 00:13:06,919 --> 00:13:11,791 勝手ながら あなたの後をつけてきました。 177 00:13:11,791 --> 00:13:16,596 何としてでも 都甲殿にお目にかかりたく➡ 178 00:13:16,596 --> 00:13:21,100 このような姿で ご迷惑でもあろうが➡ 179 00:13:21,100 --> 00:13:24,971 少しの間 休ませてはいただけませぬか。 180 00:13:24,971 --> 00:13:27,974 都甲先生の友達なら 上がってもらいな。 181 00:13:27,974 --> 00:13:30,777 でも…。 3日以内に牢に戻れば➡ 182 00:13:30,777 --> 00:13:32,712 罪に問われねえのがご定法だ。 183 00:13:32,712 --> 00:13:35,415 さあ お上がんなさい。 184 00:13:35,415 --> 00:13:39,919 かたじけない。 どうぞ お入りください。 185 00:13:41,621 --> 00:13:44,957 危ない! 186 00:13:44,957 --> 00:13:48,294 今 すすぎをお持ちします。 187 00:13:48,294 --> 00:13:52,999 情けない。 すっかり足がなえて…。 188 00:13:55,968 --> 00:14:00,139 <長英が5年を過ごした伝馬町の牢は➡ 189 00:14:00,139 --> 00:14:04,577 風も光も入らず 不衛生な環境の中➡ 190 00:14:04,577 --> 00:14:09,248 病死者が数多く出る 過酷なところでした> 191 00:14:09,248 --> 00:14:14,253 (腹が鳴る音) 192 00:14:17,156 --> 00:14:21,427 おなかがすいたのですか? 193 00:14:21,427 --> 00:14:25,798 ゆうべから 何も食べておらぬので…。 194 00:14:25,798 --> 00:14:29,569 すぐ おじやでも こしらえましょう。 195 00:14:45,151 --> 00:14:49,822 はあ… うまい。 196 00:14:49,822 --> 00:14:53,993 こんなうまい飯は初めてだ。 生き返るようです。 197 00:14:53,993 --> 00:14:56,462 残りもんだが あるだけ食って力つけてくれ。 198 00:14:56,462 --> 00:14:58,398 はい。 199 00:14:58,398 --> 00:15:00,333 都甲先生のところは どうしましょう? 200 00:15:00,333 --> 00:15:02,602 今日は もう遅いから 明日の朝にしな。 201 00:15:02,602 --> 00:15:06,272 牢に戻るまでは まだ 明日も あさってもあるんだ。 202 00:15:16,783 --> 00:15:21,120 着物 ざっと洗って干しておきました。 203 00:15:21,120 --> 00:15:23,156 朝までには乾きますよ。 204 00:15:23,156 --> 00:15:25,992 何から何まで… 世話をかけます。 205 00:15:25,992 --> 00:15:28,995 いいえ これぐらいのこと。 206 00:15:28,995 --> 00:15:33,433 長英先生 長崎の話を 聞かせていただけませんか? 207 00:15:33,433 --> 00:15:37,136 シーボルト先生のところで 蘭学修業をなさったのですよね。 208 00:15:37,136 --> 00:15:44,010 長崎か… 遠い昔の夢のようだ。 209 00:15:44,010 --> 00:15:46,145 ⚟(戸をたたく音) 210 00:15:46,145 --> 00:15:49,615 ⚟(都甲)都甲だ 夜分にすまん。 211 00:15:55,154 --> 00:15:59,325 ちょっと 気にかかることがあってな…。 212 00:15:59,325 --> 00:16:02,762 長英! やはり ここに来ていたか。 213 00:16:02,762 --> 00:16:04,697 都甲殿…。 214 00:16:04,697 --> 00:16:06,933 夜が明けたら 知らせに行こうと思っていました。 215 00:16:06,933 --> 00:16:08,868 なぜ ここだと分かったのです? 216 00:16:08,868 --> 00:16:12,605 うちの様子をうかがってる者が おってな。 217 00:16:12,605 --> 00:16:15,942 長英が来ても あれでは近づけまい。 218 00:16:15,942 --> 00:16:20,780 ひょっとして お主を弟子と見込んで 頼りに行きはしまいかと…。 219 00:16:20,780 --> 00:16:25,117 ご明察だよ。 先生 まずは 中へ入ってくんな。 220 00:16:25,117 --> 00:16:28,621 うむ。 221 00:16:28,621 --> 00:16:31,424 これを提げてきた甲斐があったわ。 222 00:16:31,424 --> 00:16:33,593 ビイルだよ。 223 00:16:45,304 --> 00:16:47,974 苦っ 何だ こりゃ。 224 00:16:47,974 --> 00:16:50,810 そうか? なかなかいける。 なあ 長英。 225 00:16:50,810 --> 00:16:55,648 長崎で飲んだオランダのビイルに比べると 幾分 味は落ちますがね。 226 00:16:55,648 --> 00:16:58,985 早蕎麦で作った代用品だ。 まあ しかたあるまい。 227 00:16:58,985 --> 00:17:02,855 ああ お信 この酒 蕎麦で出来てんだとよ。 228 00:17:02,855 --> 00:17:06,125 では 蕎麦湯のようなものですか? 229 00:17:09,262 --> 00:17:12,164 うっ んん…。 (笑い声) 230 00:17:12,164 --> 00:17:17,003 お主が 「救荒二物考」で書いたとおりに 作ったのだがなあ。 231 00:17:17,003 --> 00:17:18,971 救荒二物…? 232 00:17:18,971 --> 00:17:23,109 凶作に備えて 蕎麦と馬鈴薯の栽培を 勧めた本ですよ。 233 00:17:23,109 --> 00:17:26,412 蕎麦は 荒れ地でも よく育ちますからね。 234 00:17:26,412 --> 00:17:30,283 ビイルは 蕎麦の料理法として 紹介したのですが…➡ 235 00:17:30,283 --> 00:17:32,285 はやらなかったな。 236 00:17:32,285 --> 00:17:36,622 わざわざ作って飲んでいるのは 日本中で わし一人。 237 00:17:36,622 --> 00:17:39,425 ぬはははは…! 238 00:17:39,425 --> 00:17:46,966 しかし ビイルには 蘭学で飢えた人々を救いたいという➡ 239 00:17:46,966 --> 00:17:50,803 お主の願いがこもっている。 (長英)はい…。 240 00:17:50,803 --> 00:17:55,975 長英… なぜ ひげをそって 着物を着替えた? 241 00:17:58,144 --> 00:18:02,748 私がお勧めしたのです。 いけませんでしたか? 242 00:18:02,748 --> 00:18:06,585 その姿なら 囚人には見えぬ。 243 00:18:06,585 --> 00:18:11,457 お主 このまま逃げるつもりなのか? 244 00:18:11,457 --> 00:18:13,459 えっ。 245 00:18:13,459 --> 00:18:17,763 逃げても 地の果てまで追ってくる。 捕まれば死罪だ。 246 00:18:17,763 --> 00:18:21,601 むちゃは よせ。 247 00:18:21,601 --> 00:18:24,937 牢には 戻りません。 248 00:18:24,937 --> 00:18:31,110 私は… 逃げられるだけ逃げるつもりです。 249 00:18:31,110 --> 00:18:33,045 なぜです? 250 00:18:33,045 --> 00:18:37,416 3日のうちに牢に戻れば 罪が軽くなると聞いています。 251 00:18:37,416 --> 00:18:40,119 永牢の処分が解ければ…。 252 00:18:40,119 --> 00:18:44,590 鳥居は 死ぬまで私を牢から出さぬ気だ。 253 00:18:46,792 --> 00:18:51,964 蘭学仲間の家は どこも 岡っ引きが見張っていた。 254 00:18:51,964 --> 00:18:55,434 3日の猶予などはないのです。 255 00:18:55,434 --> 00:18:58,971 見つかれば 私は牢に連れ戻され➡ 256 00:18:58,971 --> 00:19:01,941 二度と再び 外に出ることはできない。 257 00:19:01,941 --> 00:19:04,744 そんな…。 258 00:19:04,744 --> 00:19:09,582 牢の中で 生きながら 朽ち果てていくのはたまらない。 259 00:19:09,582 --> 00:19:16,355 それよりは たとえ半月 いや 10日でもいい。 260 00:19:16,355 --> 00:19:20,593 私は やり残した学問を続けたい。 261 00:19:20,593 --> 00:19:22,928 どこへ逃げるというのだ? 262 00:19:22,928 --> 00:19:26,265 故郷の 奥州水沢か? 263 00:19:26,265 --> 00:19:30,102 水沢か 遠いな…。 264 00:19:30,102 --> 00:19:33,606 蘭学を究めたいばかりに➡ 265 00:19:33,606 --> 00:19:38,778 藩医の家も 士分さえも捨ててしまった…。 266 00:19:38,778 --> 00:19:40,813 士分を捨てて…。 267 00:19:40,813 --> 00:19:46,952 ここで倒れては そうまでして蘭学を志した甲斐がない。 268 00:19:46,952 --> 00:19:51,123 私には まだやるべきことがある。 269 00:19:51,123 --> 00:19:56,595 このままでは 死んでも死にきれぬ。 270 00:20:01,634 --> 00:20:04,136 そういうことかい。 271 00:20:04,136 --> 00:20:06,172 都甲先生 もう帰った方がいいぜ。 272 00:20:06,172 --> 00:20:09,442 長く家を空けてると 見張りが怪しむ。 273 00:20:09,442 --> 00:20:13,312 なれど 長英を残しては…。 274 00:20:13,312 --> 00:20:18,184 父上… しばらくの間 うちで お匿いすることはできないでしょうか? 275 00:20:18,184 --> 00:20:20,653 それはできねえよ。しかし…。 バカ。 276 00:20:20,653 --> 00:20:22,588 お前は 勝家を潰す気か!? 277 00:20:22,588 --> 00:20:25,825 でも 牢に戻れば二度と…。 278 00:20:25,825 --> 00:20:27,760 何か手立てはないのでしょうか? 279 00:20:27,760 --> 00:20:31,163 匿ってやることも 逃がしてやることも➡ 280 00:20:31,163 --> 00:20:33,199 俺たちにはできねえよ。 281 00:20:33,199 --> 00:20:35,468 けどな 仮にだぜ。 282 00:20:35,468 --> 00:20:41,340 夜中 眠ってる時に出ていっちまったら 俺はきっと 目が覚めねえだろうな。 283 00:20:41,340 --> 00:20:43,676 えっ…? 284 00:20:43,676 --> 00:20:47,012 名も知らねえ囚人が 古着1枚持ってったって➡ 285 00:20:47,012 --> 00:20:49,682 騒ぐほどのことじゃねえや。 286 00:20:49,682 --> 00:20:54,553 町方は江戸中に網を張っているだろうが 幸い 今夜は月がねえ。 287 00:20:54,553 --> 00:20:57,857 闇に紛れて 江戸を抜け出しちまえば➡ 288 00:20:57,857 --> 00:21:01,026 案外 奉行所の裏を かけるかもしれねえぜ。 289 00:21:03,295 --> 00:21:06,198 勝殿…。 290 00:21:06,198 --> 00:21:10,803 お心遣い ありがたく…。 291 00:21:10,803 --> 00:21:13,305 恩に着る。 292 00:21:13,305 --> 00:21:16,308 <その夜 遅く…> 293 00:21:16,308 --> 00:21:22,982 ⚟(戸の開閉音) 294 00:21:28,654 --> 00:21:32,525 必ず生き延びて いつの日かまた…。 295 00:21:32,525 --> 00:21:34,493 はい。 296 00:21:36,328 --> 00:21:41,667 (風鈴の音) 297 00:21:41,667 --> 00:21:52,311 ♬~ 298 00:21:52,311 --> 00:21:57,850 風鈴~。 299 00:21:57,850 --> 00:22:01,287 <長英の突然の来訪から数日が過ぎ➡ 300 00:22:01,287 --> 00:22:06,559 お信は 久しぶりに 本所の男谷家に向かっていました> 301 00:22:13,866 --> 00:22:16,835 (お民)ご苦労さん そこに降ろしてくださいな。 302 00:22:16,835 --> 00:22:19,104 へい。 303 00:22:22,575 --> 00:22:25,244 文吉さん? 304 00:22:27,313 --> 00:22:32,151 やっぱり。 どうして ここに…? 305 00:22:32,151 --> 00:22:34,086 奥様…。 306 00:22:34,086 --> 00:22:38,257 (藤兵衛)お民 お客さんかい? 307 00:22:43,762 --> 00:22:48,601 麟太郎は あなたが 魚宗の親戚の家で➡ 308 00:22:48,601 --> 00:22:53,005 嫁入りの支度をしていると 話していましたが…。 309 00:22:53,005 --> 00:22:58,277 嫁ぐという話は 作りごとなのですね? 310 00:23:00,613 --> 00:23:03,782 どうして そんなうそを? 311 00:23:05,951 --> 00:23:08,420 嫌になったんですよ。 312 00:23:08,420 --> 00:23:12,958 お客さんに言われて 目が覚めたんです。 313 00:23:12,958 --> 00:23:18,430 身の丈に合わない バカなことをしてるって。 314 00:23:18,430 --> 00:23:23,202 (石川)そなた 勝のせがれと いい仲だそうだな。 315 00:23:25,204 --> 00:23:29,975 連れだって歩いてるのを 見た者がおるぞ。 316 00:23:29,975 --> 00:23:33,012 足があるのに 歩いちゃいけないんですか? 317 00:23:33,012 --> 00:23:39,652 フン。 まさか 女房に納まるつもりではあるまいな。 318 00:23:39,652 --> 00:23:41,620 えっ…? 319 00:23:43,822 --> 00:23:47,693 貧乏人でも 勝はご直参だぞ。 320 00:23:47,693 --> 00:23:52,164 芸者上がりが奥様では いい笑い者だ。 321 00:23:52,164 --> 00:23:57,469 それより わしの世話になれ。 家を借りてやろう。 322 00:23:57,469 --> 00:24:04,777 3日に一度は通っていくぞ。 いや 毎日でもよい…。 323 00:24:04,777 --> 00:24:07,413 芸で身を立てているつもりでも➡ 324 00:24:07,413 --> 00:24:12,251 人から見れば 所詮 芸者は売り物 買い物なんです。 325 00:24:12,251 --> 00:24:16,789 麟太郎は そんなふうに思っていませんよ。 326 00:24:16,789 --> 00:24:21,126 (お民)けど… 信じなすったじゃありませんか。➡ 327 00:24:21,126 --> 00:24:23,595 私が魚宗に嫁ぐって。 328 00:24:26,298 --> 00:24:28,300 もう いいんです…。 329 00:24:28,300 --> 00:24:33,072 婿でも取って 炭屋を継ごうって決めたんですから。 330 00:24:37,009 --> 00:24:42,147 芸者の文吉は もうこの世にはおりません。 331 00:24:42,147 --> 00:24:47,920 お目にかかったことは どうぞ 奥様の胸にお納めくださいまし。 332 00:24:54,460 --> 00:24:58,997 これっきりでいいの? お民さん! 333 00:24:58,997 --> 00:25:20,786 ♬~ 334 00:25:20,786 --> 00:25:24,423 ふ~ん 麟太郎が文吉とねえ。 335 00:25:24,423 --> 00:25:26,358 何で黙ってたんだよ。 336 00:25:26,358 --> 00:25:29,628 気付いた時には もう別れたあとだと言うので…。 337 00:25:29,628 --> 00:25:32,664 そういうことは 親には言いにくいか。 338 00:25:32,664 --> 00:25:38,337 私 お民さんの言葉が本心とは どうしても思えないんです。 339 00:25:38,337 --> 00:25:43,976 ひょっとして 麟太郎のために 身を引くつもりで芸者をやめて➡ 340 00:25:43,976 --> 00:25:47,012 柳橋から姿を消したんじゃないかって。 341 00:25:47,012 --> 00:25:51,717 そうか 読めたぞ… 石川だな。 342 00:25:51,717 --> 00:25:55,154 あいつが 余計なことを吹き込んだに違いねえ。 343 00:25:55,154 --> 00:26:00,025 目付の職を笠に着て 出世の邪魔をしてやるとか なんとか…。 344 00:26:00,025 --> 00:26:06,198 貧乏勝め 親父同様 一生 うだつが上がらぬぞ。 345 00:26:08,267 --> 00:26:15,040 万が一 御番入りの話があっても 握り潰すくらい 造作もないわ。➡ 346 00:26:15,040 --> 00:26:17,209 フフフフ…。 347 00:26:19,978 --> 00:26:25,684 <さすがは小吉 天敵 石川のやることはお見通しです> 348 00:26:25,684 --> 00:26:29,955 魚宗に嫁ぐと うそをついたのも➡ 349 00:26:29,955 --> 00:26:34,827 麟太郎が負い目に思わないようにという 心遣いじゃないでしょうか。 350 00:26:34,827 --> 00:26:37,629 なるほどな…。 351 00:26:37,629 --> 00:26:43,302 麟のやつ いい娘に ほれられたじゃねえか。はい。 352 00:26:43,302 --> 00:26:45,971 お民さんが 本所の炭屋に? 353 00:26:45,971 --> 00:26:48,307 はい。 354 00:26:48,307 --> 00:26:51,977 それじゃ… 私をだましたのか。 355 00:26:51,977 --> 00:26:54,246 だまされるお前が悪いんだよ。 356 00:26:55,848 --> 00:27:00,385 麟太郎 このままでよいのですか? 357 00:27:00,385 --> 00:27:04,256 あなたの気持ちは どうなのです? 358 00:27:04,256 --> 00:27:09,595 お民さんって 三味線を弾いてた人? ええ そうですよ。 359 00:27:09,595 --> 00:27:13,098 あの人が 兄上のお嫁様になるのですか? 360 00:27:13,098 --> 00:27:15,601 さあな。 麟に聞いてみろよ。 361 00:27:15,601 --> 00:27:19,938 よいのですか? 勝家の嫁が 炭屋の娘でも。 362 00:27:19,938 --> 00:27:21,874 こんな貧乏所帯に来てくれるなら➡ 363 00:27:21,874 --> 00:27:24,776 炭屋だろうが芸者だろうが 構うもんか なあ。 364 00:27:24,776 --> 00:27:28,113 はい。 なに ご支配の方には➡ 365 00:27:28,113 --> 00:27:32,417 大身旗本の娘と縁組みすると 届け出りゃいい話だ。 366 00:27:32,417 --> 00:27:36,288 大身旗本…? ああ! 本所の岡野様! 367 00:27:36,288 --> 00:27:38,790 四十一俵取りの微禄者が➡ 368 00:27:38,790 --> 00:27:42,961 千五百石の家から嫁をもらえれば 大手柄だ。 369 00:27:45,130 --> 00:27:49,434 暮らしのことを案じているのなら なんとかなりますよ。 370 00:27:49,434 --> 00:27:51,970 昔から言うではありませんか。 371 00:27:51,970 --> 00:27:56,441 一人口は食えなくとも 二人口は食えるって。 372 00:27:56,441 --> 00:27:59,311 勘定が合いませんけど…。 373 00:27:59,311 --> 00:28:02,581 でも うちは そうして やってきたのですよ。 374 00:28:02,581 --> 00:28:05,250 あとは お前らの気持ち一つだ。 375 00:28:05,250 --> 00:28:10,923 麟太郎が選ぶ人ならば 間違いはありませんからね。 376 00:28:16,962 --> 00:28:21,433 ♬「てぐるま おぐるま てんぐるま」 377 00:28:23,936 --> 00:28:27,773 勝様に買っていただいたんですもの。 378 00:28:27,773 --> 00:28:30,542 ほら きれい。 379 00:28:33,412 --> 00:28:35,581 ⚟お民さん! 380 00:28:40,185 --> 00:28:43,956 勝様 どうして…。 381 00:28:43,956 --> 00:28:46,625 話したいことがある。 382 00:28:48,794 --> 00:28:52,965 (お園)まあ 勝様の坊ちゃまで…? 383 00:28:52,965 --> 00:28:56,635 こんな所に わざわざ お越しくださるなんて。 384 00:28:56,635 --> 00:28:58,670 いえ とんでもない。 385 00:28:58,670 --> 00:29:02,140 お待たせいたしまして 申し訳ございません。 386 00:29:03,909 --> 00:29:06,812 お話というのは 何でございましょう? 387 00:29:06,812 --> 00:29:10,082 こういう話は 人を立てて進めるものですが➡ 388 00:29:10,082 --> 00:29:12,551 一刻も早くと 気がせいて。 389 00:29:14,753 --> 00:29:20,092 砥目屋さん 私は お民さんを妻に迎えたいと思っています。 390 00:29:20,092 --> 00:29:22,594 許しを頂きに来ました。 391 00:29:22,594 --> 00:29:25,631 め… めっそうもない。 392 00:29:25,631 --> 00:29:28,767 うちは ご覧のとおり しがない炭屋でございますよ。 393 00:29:28,767 --> 00:29:31,603 お旗本に嫁ぐなど とんでもない…。 394 00:29:31,603 --> 00:29:33,538 家のことは 何とでもなります。 395 00:29:33,538 --> 00:29:36,475 表向き 形が調えばよいのですから…。 396 00:29:36,475 --> 00:29:42,447 父も母も 是非 お民さんを 嫁に迎えたいと申しております。 397 00:29:46,618 --> 00:29:48,587 お民…。 398 00:29:52,491 --> 00:29:56,294 お立場をお考えください。 399 00:29:56,294 --> 00:29:59,965 勝様には もっと ふさわしい方が…。 400 00:29:59,965 --> 00:30:03,235 私が妻に迎えたいのは お民さんだけだ! 401 00:30:06,304 --> 00:30:10,142 親子二代の無役で 暮らしは貧しい。 402 00:30:10,142 --> 00:30:12,077 蘭学に打ち込んではいるが➡ 403 00:30:12,077 --> 00:30:16,915 世の役に立つ日が来るのか 今は分からない。 404 00:30:16,915 --> 00:30:20,786 一生貧しくて 苦労をかけるかもしれない。 405 00:30:20,786 --> 00:30:27,693 それでも 私は お民さんに妻になってもらいたい。 406 00:30:27,693 --> 00:30:30,162 一緒に生きていきたい。 407 00:30:32,831 --> 00:30:38,704 私… 年上ですよ 2歳も。 408 00:30:38,704 --> 00:30:40,706 それが何だ。 409 00:30:40,706 --> 00:30:44,843 芸者上がりを嫁にしては ご出世に障ります。 410 00:30:44,843 --> 00:30:47,179 見くびってもらっては困る。 411 00:30:47,179 --> 00:30:53,852 そんなことにひるむほど 俺は弱い男じゃない。 412 00:30:53,852 --> 00:30:58,357 浅草で 初めて会った時から➡ 413 00:30:58,357 --> 00:31:01,626 俺は お民さんに ほれているんだ。 414 00:31:05,964 --> 00:31:07,933 勝様…。 415 00:31:18,310 --> 00:31:22,981 1年… お待ちくださいまし。 416 00:31:22,981 --> 00:31:25,317 1年? 417 00:31:25,317 --> 00:31:29,187 色里の水が まだ身に染みこんでいるうちは➡ 418 00:31:29,187 --> 00:31:35,460 取り繕っても いずれ 化けの皮が剥がれます。 419 00:31:35,460 --> 00:31:41,833 1年 汗を流して働いて➡ 420 00:31:41,833 --> 00:31:46,338 まっさらな体になれたら…。 421 00:31:46,338 --> 00:31:53,311 その時 もしもまだ 勝様のお心が変わらなければ…。 422 00:31:56,681 --> 00:32:02,954 分かった。 1年たったら 嫁に来てくれ。 423 00:32:05,123 --> 00:32:07,292 はい…。 424 00:32:18,136 --> 00:32:20,172 <その年の9月➡ 425 00:32:20,172 --> 00:32:25,010 鳥居耀蔵は 突如 町奉行を解任されました> 426 00:32:25,010 --> 00:32:29,848 おのれ… してやられた…。 427 00:32:29,848 --> 00:32:34,986 くそ… くそ~っ! 428 00:32:34,986 --> 00:32:39,324 <政敵を追い落とし 妖怪と恐れられた鳥居が➡ 429 00:32:39,324 --> 00:32:43,295 一転 追い落とされる側に回ったのです> 430 00:32:46,832 --> 00:32:49,467 おしまいだ…。 431 00:32:49,467 --> 00:32:53,338 (お律)何ですか 情けない声を出して。 432 00:32:53,338 --> 00:32:59,477 鳥居様が失脚しては もう 出世の目はない…。 433 00:32:59,477 --> 00:33:01,947 フン よいではありませんか。 434 00:33:01,947 --> 00:33:04,850 あなたも年なのですから 息子に家督を譲って➡ 435 00:33:04,850 --> 00:33:07,285 隠居なさってはいかがですか? 436 00:33:07,285 --> 00:33:10,255 ふふっ あ~ん。 437 00:33:11,957 --> 00:33:14,626 はあ…。 438 00:33:14,626 --> 00:33:20,599 ほら あなたも召し上がって。 んん。 439 00:33:25,303 --> 00:33:31,776 <師走になって 年号が 天保から弘化に改まりました> 440 00:33:37,015 --> 00:33:44,689 <そして よくとし 結婚の申し込みから 1年が過ぎた 弘化2年9月> 441 00:33:47,459 --> 00:33:52,163 (孫一郎)岡野孫一郎だ。 忙しい中 皆には世話になる。 442 00:33:52,163 --> 00:33:54,666 新門辰五郎と申します。 443 00:33:54,666 --> 00:33:58,169 本日は お日柄もよく まことに おめでとう存じやす。 444 00:33:58,169 --> 00:34:00,105 うん。 445 00:34:00,105 --> 00:34:03,942 僭越ながら 門出のお祝いを 務めさせていただきやす。 446 00:34:03,942 --> 00:34:06,611 よろしく頼む。 へい。 447 00:34:06,611 --> 00:34:10,949 ⚟花嫁御寮 ご出立~! 448 00:34:10,949 --> 00:34:13,118 では。 449 00:34:14,786 --> 00:34:49,321 ♬~(木遣り) 450 00:34:49,321 --> 00:34:53,825 殿様 奥様 この度は おめでとうございます。 451 00:34:53,825 --> 00:34:56,728 ありがとうよ。 市の者たちも➡ 452 00:34:56,728 --> 00:35:00,932 そりゃあもう みんな喜んで 今日は朝から 祝い酒でございますよ。 453 00:35:00,932 --> 00:35:03,969 そうかい。 みんなに よろしく伝えてくんな。 はい。 454 00:35:03,969 --> 00:35:06,271 (銀次)旦那! 455 00:35:06,271 --> 00:35:08,206 じき 花嫁さんのご到着ですぜ! 456 00:35:08,206 --> 00:35:10,141 もう ついそこまで来てます。 457 00:35:10,141 --> 00:35:13,111 大変 迎えに出なければ。 458 00:35:17,983 --> 00:35:22,420 あら 末広がない。 どうしたのかしら。 459 00:35:22,420 --> 00:35:24,789 何やってんだよ。 さっき 俺のも預けたろ。 460 00:35:24,789 --> 00:35:27,125 えっ そうでしたっけ? おいおいおい。 461 00:35:27,125 --> 00:35:30,161 扇子がないと 格好がつかないぞ。 462 00:35:30,161 --> 00:35:35,800 仏壇にありました。 お二人とも 落ち着いてください。 463 00:35:35,800 --> 00:35:38,436 嬢様には かないやせんね。 464 00:35:38,436 --> 00:35:41,139 ははっ! 465 00:35:41,139 --> 00:35:45,644 (都甲)♬「高砂や」 466 00:35:45,644 --> 00:35:58,823 ♬「この浦舟に帆を上げて」 467 00:35:58,823 --> 00:36:08,266 ♬「月もろともに出潮の」 468 00:36:08,266 --> 00:36:17,409 ♬「波の淡路の島影や」 469 00:36:17,409 --> 00:36:27,385 ♬「遠く鳴尾の沖過ぎて」 470 00:36:29,954 --> 00:36:36,828 麟太郎様 お民のこと 何とぞ よろしくお願いいたします。 471 00:36:36,828 --> 00:36:39,130 お願いいたします。 472 00:36:39,130 --> 00:36:44,936 縁談を断ってきた時は 勝家はどうなることかと案じたのですよ。 473 00:36:44,936 --> 00:36:48,306 申し訳ありません。 474 00:36:48,306 --> 00:36:51,309 (お遊)でも よく似合っていること。 475 00:36:51,309 --> 00:36:54,446 岡野家 千五百石のご息女だ。 476 00:36:54,446 --> 00:36:57,348 あの世の兄貴も 文句は言いますまい。 477 00:36:57,348 --> 00:37:02,620 ええ。 上出来だと褒めていますよ。 478 00:37:08,760 --> 00:37:15,400 おばあ様? どうなさったのです。 479 00:37:15,400 --> 00:37:18,103 うれしいのですよ。 480 00:37:18,103 --> 00:37:23,875 生きてるうちに ひ孫の祝言が見られるなんて…。 481 00:37:26,778 --> 00:37:32,650 大げさな。 ひ孫といっても 形だけではありませんか。 482 00:37:32,650 --> 00:37:36,488 孫一郎 飲み過ぎですよ。 483 00:37:36,488 --> 00:37:41,292 仮にもそなたは 花嫁の父なのですから➡ 484 00:37:41,292 --> 00:37:45,797 酒の上の失敗は 許されませんよ。 485 00:37:45,797 --> 00:37:48,466 はい…。 486 00:37:50,635 --> 00:37:53,138 (虎之助)似合いのめおとですね。 487 00:37:53,138 --> 00:37:56,441 そなたも そろそろ身を固めてはどうだ? 488 00:37:56,441 --> 00:37:59,644 いや… 私には 相手もいませんから。 489 00:37:59,644 --> 00:38:02,080 手ごろなところを見繕ってやるぞ。 490 00:38:02,080 --> 00:38:06,584 「馬には乗ってみよ 人には添うてみよ」だ。 491 00:38:06,584 --> 00:38:11,456 はあ…。 492 00:38:11,456 --> 00:38:15,093 見繕っていただけますか? 493 00:38:15,093 --> 00:38:18,763 どうぞ お燗がつきましたよ。 494 00:38:18,763 --> 00:38:22,100 はい どうぞ。 おっ ありがとよ。 おお~。 495 00:38:22,100 --> 00:38:26,404 おう 坊ちゃん 赤坂に所帯を構えるんだってな。 496 00:38:26,404 --> 00:38:31,943 ああ。 嬢様 お寂しいんじゃねえですかい? 497 00:38:31,943 --> 00:38:36,281 ちっとも。 赤坂なんて つい目と鼻の先ですから。 498 00:38:36,281 --> 00:38:50,128 ♬~ 499 00:38:50,128 --> 00:38:52,297 幾久しゅう。 500 00:38:54,999 --> 00:38:57,635 幾久しゅう。 501 00:38:57,635 --> 00:39:01,606 勝家も なんとかなりそうだな。 502 00:39:01,606 --> 00:39:05,076 おばば様も これで許してくれるだろう。 503 00:39:05,076 --> 00:39:08,112 ええ そうですね…。 504 00:39:08,112 --> 00:39:14,786 (登勢)麟太郎を 立派な跡継ぎに育ててくれて…。 505 00:39:19,257 --> 00:39:21,526 ありがとう。 506 00:39:23,928 --> 00:39:26,965 喜んでいますよ。 507 00:39:26,965 --> 00:39:30,735 きっと 誰よりも…。 508 00:39:32,604 --> 00:39:35,940 <祝言から数日が過ぎて…。➡ 509 00:39:35,940 --> 00:39:41,613 麟太郎とお民は 赤坂田町の新居に 移ることとなりました> 510 00:39:41,613 --> 00:39:44,115 では 行ってまいります。 511 00:39:44,115 --> 00:39:46,050 おう。 512 00:39:46,050 --> 00:39:48,286 麟太郎をよろしく頼みます。 513 00:39:48,286 --> 00:39:50,788 はい。 514 00:39:50,788 --> 00:39:54,959 父上 母上…。 あ~ 挨拶なんざいい。 515 00:39:54,959 --> 00:39:56,995 まっ しっかりやんな。 516 00:39:56,995 --> 00:39:59,130 はい。 517 00:39:59,130 --> 00:40:03,434 お民と二人で 父上と母上のような めおとになります。 518 00:40:03,434 --> 00:40:06,638 バカ言え。 俺たちなんぞ 手本になるか。 519 00:40:06,638 --> 00:40:09,307 もっと立派な めおとになれ。 なあ。 520 00:40:09,307 --> 00:40:11,643 はい。 521 00:40:11,643 --> 00:40:14,979 では…。 行こうか。 522 00:40:14,979 --> 00:40:17,248 はい。 兄上! 523 00:40:26,157 --> 00:40:31,462 お順 家のこと 頼んだぞ。 524 00:40:31,462 --> 00:40:35,333 はい。 行ってらっしゃい。 525 00:40:35,333 --> 00:40:37,502 うん。 526 00:40:47,345 --> 00:40:52,483 これからが大変だぞ。 あいつら やっていけるかねえ。 527 00:40:52,483 --> 00:40:56,854 まあ なんとかなりますよ。 528 00:40:56,854 --> 00:41:02,660 旦那様と私も ここまで やってきたじゃありませんか。 529 00:41:02,660 --> 00:41:07,432 そうだな。 まっ なんとかなるな。 530 00:41:07,432 --> 00:41:09,600 はい。 531 00:41:11,302 --> 00:41:14,639 <黒船の来航まで あと8年。➡ 532 00:41:14,639 --> 00:41:18,309 幕末は すぐそこに迫っています。➡ 533 00:41:18,309 --> 00:41:23,981 やがて来る 激動の時代に 日本の未来を切り開いていく➡ 534 00:41:23,981 --> 00:41:26,884 麟太郎こと 勝 海舟…。➡ 535 00:41:26,884 --> 00:41:31,456 幕末のヒーローを育んだのは 名もなく 貧しく➡ 536 00:41:31,456 --> 00:41:36,661 けれど いつも朗らかで 一本筋の通った生き方を貫いた➡ 537 00:41:36,661 --> 00:41:40,331 勝家の人々でした> 538 00:41:40,331 --> 00:42:55,306 ♬~