1 00:00:02,202 --> 00:00:08,609 ♬~(テーマ音楽) 2 00:00:08,609 --> 00:01:06,300 ♬~ 3 00:01:10,938 --> 00:01:14,408 (マリ子)じゃあ 行ってらっしゃい。 気を付けてね。 (ヨウ子)はい。 4 00:01:14,408 --> 00:01:17,277 (棟梁)おう 行ってらっしゃい。 よう おはようさん。 5 00:01:17,277 --> 00:01:19,279 あの 棟梁 一体どうしたんですか? 6 00:01:19,279 --> 00:01:21,782 へい え~… 乙も栄ちゃんも➡ 7 00:01:21,782 --> 00:01:24,418 奥さんには 一方ならねえ お世話になったんだから➡ 8 00:01:24,418 --> 00:01:28,288 こういう時に駆けつけなきゃ いつ ご恩返しができますかい。 9 00:01:28,288 --> 00:01:31,792 あの でも 引っ越しの時は 栄一さんにも手伝っていただいたし…。 10 00:01:31,792 --> 00:01:33,827 だからよ 大工の手は➡ 11 00:01:33,827 --> 00:01:37,297 引っ越しが済んでから いるものなんですよ。 12 00:01:37,297 --> 00:01:39,967 (乙松)そろそろ 使い勝手の悪いとこ 出てきたでしょう? 13 00:01:39,967 --> 00:01:41,902 今から そいつ やらせてもらいますよ。 はい。 14 00:01:41,902 --> 00:01:43,837 (栄一)うちのおやじもね だいぶ この植木が➡ 15 00:01:43,837 --> 00:01:45,839 手入れされてねえようだから ちょいと行って➡ 16 00:01:45,839 --> 00:01:47,841 こざっぱりと やってこい こう言われまして。 17 00:01:47,841 --> 00:01:49,977 あの でも…。 (棟梁)いやいや…。 18 00:01:49,977 --> 00:01:52,646 手間賃なんぞ頂こうとは 思ってもいませんよ。 19 00:01:52,646 --> 00:01:57,150 これはね え~ ごひいきさんに対する しきたりというもんだ。 へえ。 20 00:01:57,150 --> 00:02:00,921 そうなんですか どうも ありがとうございます。 21 00:02:00,921 --> 00:02:04,791 へえ~ 貸家にしては なかなか結構なうちだぜ。 22 00:02:04,791 --> 00:02:09,096 これで ヒュ~ドロドロってのは出ないと もっといいんだけどな マリ子さん。 23 00:02:09,096 --> 00:02:11,598 あら そんなもん出なかったわよ。 24 00:02:11,598 --> 00:02:14,401 あっ ところで 酒田のおばちゃま どうしていらした? 25 00:02:14,401 --> 00:02:18,105 だから その 何がね出たかどうか よ~く聞いてきてくれってさ。 26 00:02:18,105 --> 00:02:20,407 そうだ 出たと言っときましょうか。 27 00:02:20,407 --> 00:02:23,310 そうすりゃあ あの小うるせえ口も ぱったり出入りできなくなるし。 28 00:02:23,310 --> 00:02:26,947 バカ! 与太言ってねえで 早いとこ仕事にかかりな! 29 00:02:26,947 --> 00:02:29,616 へい! お願いします。 30 00:02:29,616 --> 00:02:40,293 (オルガンの音楽と金づちの音) 31 00:02:40,293 --> 00:02:42,796 (マチ子)どうも 気になるな~…。 32 00:02:42,796 --> 00:02:46,433 (オルガンの音楽と金づちの音) 33 00:02:46,433 --> 00:02:48,368 ねえ マー姉ちゃん。 うん? 34 00:02:48,368 --> 00:02:51,271 あの不協和音 どうにかなんないのかしら? 35 00:02:51,271 --> 00:02:55,175 不協和音って? ブ~カ~ ブ~カ~と トンテン! 36 00:02:55,175 --> 00:02:58,445 ああ あれか。 どっちも 私 単独だったら➡ 37 00:02:58,445 --> 00:03:00,380 嫌いな音じゃないんだけど➡ 38 00:03:00,380 --> 00:03:03,083 あれじゃ まるで 競争し合ってるみたいじゃないの。 39 00:03:03,083 --> 00:03:05,118 だからって しかたないでしょ。 40 00:03:05,118 --> 00:03:08,388 あなた 「しばらく やめてください」って 頼みに行ってくれる? 41 00:03:08,388 --> 00:03:11,291 私が? だって私 気になんないもん。 42 00:03:11,291 --> 00:03:13,260 全く 神経太いんだから。 43 00:03:13,260 --> 00:03:16,596 太いんじゃなくて マチ子ほど 細くないだけ。 44 00:03:16,596 --> 00:03:18,532 ねえ ゆうべ 眠れた? 45 00:03:18,532 --> 00:03:20,934 ぐっすり。 私も。 46 00:03:20,934 --> 00:03:23,603 じゃあ大したもんよ。 やっぱり同類項だわ。 47 00:03:23,603 --> 00:03:27,407 でも それでいて 変なところで 全く違うのよね。 48 00:03:27,407 --> 00:03:29,342 私たち 本当にきょうだいなのかしら? 49 00:03:29,342 --> 00:03:35,148 さあ? お母様に聞いてごらんなさい。 やれやれ。 50 00:03:35,148 --> 00:03:37,951 あっ オルガンやんじゃった。 51 00:03:37,951 --> 00:03:40,787 まさか聞こえたんじゃないでしょうね。 52 00:03:40,787 --> 00:03:42,722 ねっ。 (笑い声) 53 00:03:42,722 --> 00:03:47,661 (金づちの音) トンテン トンテンか…。 54 00:03:47,661 --> 00:03:52,132 「人間は誰でも 自分の幸福をつくる鍛冶屋である」。 55 00:03:52,132 --> 00:03:55,168 やめてよ 再出発の時に オネストさんの話は。 56 00:03:55,168 --> 00:03:59,306 いいじゃないの。 言葉としては感心できるんだもの。 57 00:03:59,306 --> 00:04:02,743 でも 最近 お母様も神妙ね。 58 00:04:02,743 --> 00:04:04,678 そうよ でも 油断は大敵よ。 59 00:04:04,678 --> 00:04:09,916 あれは 必ず再発する性質の 病気なんだから。脅かさないで。 60 00:04:09,916 --> 00:04:12,752 さあ 出来た。 早い。 61 00:04:12,752 --> 00:04:16,389 私の分だけでも届けに行ってくるから マチ子は お母様 お願いね。 62 00:04:16,389 --> 00:04:18,325 うん やむをえんでしょうね。 63 00:04:18,325 --> 00:04:22,929 ⚟(はる)マリ子 マチ子 お茶にしましょうか。 64 00:04:22,929 --> 00:04:25,966 は~い! はあ~ もう あと少しなのに。 65 00:04:25,966 --> 00:04:29,102 どうして お母様は 職人さん来たら 張り切っちゃうのかしら。 66 00:04:29,102 --> 00:04:31,037 いいじゃないの しょぼくれられるよりは。 67 00:04:31,037 --> 00:04:33,039 さあ 行きましょう。 68 00:04:34,774 --> 00:04:38,278 ああ おいしそう。 (栄一)おや ご精が出ますね お二人とも。 69 00:04:38,278 --> 00:04:41,114 「働かざる者 食うべからず」だから。 マチ子。 70 00:04:41,114 --> 00:04:43,617 (はる)お茶菓子はね 棟梁のお持たせなのよ。 71 00:04:43,617 --> 00:04:46,987 ほら 草加堂のおせんべ。 うわ~ おいしそう! 72 00:04:46,987 --> 00:04:51,458 皆さんが お好きだから 芋坂のだんごをと思ったんですが➡ 73 00:04:51,458 --> 00:04:54,327 朝が早いもんだから ちょいと無理だったんでさぁ。 74 00:04:54,327 --> 00:04:56,830 芋坂のおだんご 懐かしい…。 75 00:04:56,830 --> 00:05:00,267 大げさね。 懐かしがるほど住み着いちゃいません。 76 00:05:00,267 --> 00:05:03,603 (笑い声) いや 俺たち 植木のことで➡ 77 00:05:03,603 --> 00:05:05,539 ちょいちょい こっちの方 来るんですよ。 78 00:05:05,539 --> 00:05:07,474 懐かしい味は そのたんびに お運びしますから。 79 00:05:07,474 --> 00:05:09,476 まあ ありがとうございますわ。 80 00:05:09,476 --> 00:05:14,781 (ウララ)ごめんあそばせ。 (マドカ)ごめんあそばせ。 81 00:05:14,781 --> 00:05:18,952 (ウララ)少々 お願いがございますんですが。 ございますんですが。 82 00:05:18,952 --> 00:05:20,887 はあ 何でございましょうか? 83 00:05:20,887 --> 00:05:23,790 お手すきになったところで 結構なんざますけど➡ 84 00:05:23,790 --> 00:05:26,693 大工さんに ちょっと 私どものベランダを 見ていただければ➡ 85 00:05:26,693 --> 00:05:31,298 ありがたいと思いまして。 あ あの… ベ… ベダンダ? 86 00:05:31,298 --> 00:05:35,135 はい。 先ほどから トントン トンテン トントン トンテンって➡ 87 00:05:35,135 --> 00:05:39,306 そりゃあ あなた 気持ちのい~い音が 聞こえてまいりましたでしょう。➡ 88 00:05:39,306 --> 00:05:41,641 ですから 姉と相談をいたしましてね。 89 00:05:41,641 --> 00:05:44,144 そして うちのベランダの壊れた所を➡ 90 00:05:44,144 --> 00:05:46,446 ちょっと直していただけたらな なんて存じまして。 91 00:05:46,446 --> 00:05:50,650 いえいえ あの お仕事の都合で 結構なんでございますのよ。➡ 92 00:05:50,650 --> 00:05:53,553 何せ 古いうちでございましょう。 女が2人で➡ 93 00:05:53,553 --> 00:05:56,323 もう 目が届かない所もございまして…。 94 00:05:56,323 --> 00:05:59,226 さようでございましょうね。 棟梁 それじゃあ よろしかったら➡ 95 00:05:59,226 --> 00:06:01,761 お願いしますわ。 (棟梁)へい。 96 00:06:01,761 --> 00:06:05,932 そんなら 見るだけ 今のうちに見せていただきやしょうか。 97 00:06:05,932 --> 00:06:09,769 まあ うれしい。 うれしいわ。 では 早速に。 98 00:06:09,769 --> 00:06:13,540 では ごめんあそばせ。 ごきげんよう。 99 00:06:15,575 --> 00:06:17,510 何ですかい ありゃあ 一体…。 100 00:06:17,510 --> 00:06:20,413 だから 俺が言ったでしょ? 大家は西洋ばばあだって。 101 00:06:20,413 --> 00:06:22,482 まあ お口の悪いこと。 102 00:06:22,482 --> 00:06:26,620 いや~ 私 ああいうの 初めて お目にかかりました。 103 00:06:26,620 --> 00:06:30,423 いやね 東京も この辺まで来るとね 逆に いろんなのがいるんだよ。 104 00:06:30,423 --> 00:06:33,326 亡くなったご主人がね 元外交官だったんですって。 105 00:06:33,326 --> 00:06:37,197 だから 外国生活が長いんじゃないの。 どうりでね。 106 00:06:37,197 --> 00:06:39,799 でも よく見ると なかなか かわいらしいのね。 107 00:06:39,799 --> 00:06:43,303 そう 西洋人形が そのまま老けたみたい。 (笑い声) 108 00:06:43,303 --> 00:06:46,206 ああ 危ない 危ない…。 悪いわよ 2人とも。 109 00:06:46,206 --> 00:06:50,176 構いませんよ それくらいなら。 お母様。 110 00:06:50,176 --> 00:06:53,013 「豆食い食い 人の悪口を言う」。 111 00:06:53,013 --> 00:06:56,316 荻生徂徠先生も 人のうわさは娯楽の一つだと➡ 112 00:06:56,316 --> 00:06:58,818 こう おっしゃってますからね。 え~ お母様➡ 113 00:06:58,818 --> 00:07:00,787 また今度は 漢文に くら替えなの? 114 00:07:00,787 --> 00:07:02,789 いいえ これは 物の例えよ。 115 00:07:02,789 --> 00:07:07,527 私は天地創造なされた 我らが神を信じ続けるだけです。 116 00:07:07,527 --> 00:07:11,464 <まさに再発の可能性あり。➡ 117 00:07:11,464 --> 00:07:13,933 かかる事態に備えるべく➡ 118 00:07:13,933 --> 00:07:17,404 仕上がりを持って 出版社に出向いていきます> 119 00:07:17,404 --> 00:07:21,274 (塚田)ご苦労さん これは今日の画料だ。 はい どうも ありがとうございます。 120 00:07:21,274 --> 00:07:23,610 カットが主だから この前ほど入っちゃいないよ。 121 00:07:23,610 --> 00:07:25,945 とんでもない。 頂けるだけで うれしいです。 122 00:07:25,945 --> 00:07:28,615 さあ。 はい。 123 00:07:28,615 --> 00:07:32,118 (細谷)しかし早いね~ あんたは。 はあ? 124 00:07:32,118 --> 00:07:34,788 田河先生仕込みっていうか 芸術家肌っていうか。 125 00:07:34,788 --> 00:07:38,291 いや マチ子さんの方はね こう 自分が納得できないと➡ 126 00:07:38,291 --> 00:07:41,795 こっちが いくら じれたって 平然として 原稿を渡さないとこがあるから。 127 00:07:41,795 --> 00:07:45,298 申し訳ございません。 (塚田)他人のことで 君が謝ることない。 128 00:07:45,298 --> 00:07:47,233 他人じゃありません きょうだいです。 129 00:07:47,233 --> 00:07:49,169 仕事のことは別だ。 はい。 130 00:07:49,169 --> 00:07:51,971 仕事ってのはね 作家もそうだが➡ 131 00:07:51,971 --> 00:07:54,441 決められた期日までに できるだけの水準のものを➡ 132 00:07:54,441 --> 00:07:58,144 仕上げて持ってくる。 こいつは基本的な職業意識ってもんだ。 133 00:07:58,144 --> 00:08:00,747 はい。 134 00:08:00,747 --> 00:08:04,617 ところで 君 菊池 寛 知ってるね? 135 00:08:04,617 --> 00:08:07,253 もちろんですとも。 (塚田)彼の どんなものを読んだ? 136 00:08:07,253 --> 00:08:12,392 えっと… すいません あんまりは読んでません。 137 00:08:12,392 --> 00:08:15,095 あの 初期の「父帰る」とか➡ 138 00:08:15,095 --> 00:08:19,966 えっと… 「無名作家の日記」 それと「忠直卿行状記」ぐらいでしょうか。 139 00:08:19,966 --> 00:08:21,968 (塚田)「藤十郎の恋」ってのも 彼の作品だよ。 140 00:08:21,968 --> 00:08:24,771 あら そうだったんですか。 (塚田)だって 君➡ 141 00:08:24,771 --> 00:08:27,407 この前 絵のサンプルを ここへ描いて持ってきたじゃないか。 142 00:08:27,407 --> 00:08:31,277 あれは たまたま お芝居を見に行ったものですから。 143 00:08:31,277 --> 00:08:33,947 まあいいや。 どうも すいません。 144 00:08:33,947 --> 00:08:38,618 いいから この次までに 彼の作品 できるだけ読んできてくれ。 145 00:08:38,618 --> 00:08:43,423 あの この次までって? あ~ そうだな… う~ん…。 146 00:08:43,423 --> 00:08:49,295 4日後の午後3時 ここへ来たまえ。 はい! 147 00:08:49,295 --> 00:08:52,132 じゃあ ほら 受取。 あっ すいません。 148 00:08:52,132 --> 00:08:54,067 (塚田)はい どうも ご苦労さん。➡ 149 00:08:54,067 --> 00:08:57,637 もういいよ。 はい。 150 00:08:57,637 --> 00:08:59,672 あっ マチ子さんに よろしく言っといてね。 151 00:08:59,672 --> 00:09:01,608 今度 一度 お邪魔するからって。 152 00:09:01,608 --> 00:09:05,779 はい お待ち申しております。 では 失礼しました。 153 00:09:10,917 --> 00:09:14,254 ねえ 本気なんですか? 本気だよ。 154 00:09:14,254 --> 00:09:16,589 いや しかし 菊池大先生が うんと言うと思いますか? 155 00:09:16,589 --> 00:09:18,525 どうして? どうしてって➡ 156 00:09:18,525 --> 00:09:21,394 無名の 経験だってないに等しい あんな若い娘と…。 157 00:09:21,394 --> 00:09:24,931 だからこそ この組み合わせは新鮮なんだ。 しかし…。 158 00:09:24,931 --> 00:09:27,600 君は 菊池 寛を もう少し研究する必要があるぞ。 159 00:09:27,600 --> 00:09:31,771 僕はね 田河水泡の担当ですよ。 160 00:09:31,771 --> 00:09:34,808 彼の合理主義と 時代の流れと➡ 161 00:09:34,808 --> 00:09:37,644 それを察知する感覚のすばらしさを 学べって言ってるんだ。 162 00:09:37,644 --> 00:09:39,946 (細谷)それと あの子と どういう関係があるんですか? 163 00:09:39,946 --> 00:09:44,417 彼女は若い。 それに まあ どっちかって言えば美人の類いだし。 164 00:09:44,417 --> 00:09:48,788 しかも 大衆小説には 女流の挿絵家ってのは一人もいない。 165 00:09:48,788 --> 00:09:51,691 こいつは話題にならないわけないだろ。 166 00:09:51,691 --> 00:09:55,128 話題か。 ああ そうだ 話題さ。 167 00:09:55,128 --> 00:09:57,630 そして 話題ってのは作るもんだ。 168 00:09:57,630 --> 00:10:01,134 いいか? これからは編集者が➡ 169 00:10:01,134 --> 00:10:04,437 世の中の先取りをしていくように きっとなる。 170 00:10:04,437 --> 00:10:06,806 こいつは 俺の信念だ。 171 00:10:06,806 --> 00:10:08,741 僕は悲観的ですね。 172 00:10:08,741 --> 00:10:11,978 作家に比べて ジャーナリストの地位が 低すぎるってのが➡ 173 00:10:11,978 --> 00:10:14,447 証拠の一つじゃないんですか? 174 00:10:14,447 --> 00:10:17,650 そんなこと言ってっと お前の敬愛する田河先生も➡ 175 00:10:17,650 --> 00:10:21,454 まずい立場に立たされることになるぞ。 塚田さん…。 176 00:10:21,454 --> 00:10:26,159 彼を愛しているなら 徹底的に守ってみせろよ。 177 00:10:26,159 --> 00:10:30,029 軍部の石頭どもから。 もちろんですよ。 178 00:10:30,029 --> 00:10:33,900 何てったって 「のらくろ」は 「少年倶楽部」の大黒柱なんですから。 179 00:10:33,900 --> 00:10:40,340 よし 俺は磯野マリ子を 名実ともに 新進女流挿絵家に仕立ててみせる。 180 00:10:40,340 --> 00:10:43,176 失敗したら 塚田さんの地位はなくなりますよ。 181 00:10:43,176 --> 00:10:47,480 菊池 寛は 文壇の大御所だけじゃなく 春秋文学の大社長なんですからね。 182 00:10:47,480 --> 00:10:52,185 運命共同体さ。 選んだ以上は いつだって心中は覚悟の上だ。 183 00:10:52,185 --> 00:10:56,055 鬼の塚田か。 うわさ以上だ。 (笑い声) 184 00:10:56,055 --> 00:11:00,426 ああ そうだ。 俺だって命が惜しいもんな。 185 00:11:00,426 --> 00:11:05,298 死にたくなければ あの子を しごいて しごいて しごき抜くだけさ。 186 00:11:05,298 --> 00:11:07,300 まあ 見てろよ。 187 00:11:07,300 --> 00:11:11,971 「女性倶楽部」の新年号は 絶対に あっと言わしてみせる。 188 00:11:11,971 --> 00:11:14,440 <鬼の編集者 塚田によって➡ 189 00:11:14,440 --> 00:11:17,977 果たして どんなものに仕立てられるのか➡ 190 00:11:17,977 --> 00:11:22,148 神ならぬ身のマー姉ちゃん 知るよしもありませんが…> 191 00:11:22,148 --> 00:11:24,083 (年子)あの…。 はい? 192 00:11:24,083 --> 00:11:26,019 (年子)聞こえました? 何がですか? 193 00:11:26,019 --> 00:11:28,922 泣き声ですよ 夜中のすすり泣き。 194 00:11:28,922 --> 00:11:31,824 ああ あれですか。 あら じゃあ やっぱり…。 195 00:11:31,824 --> 00:11:34,160 いいえ 全然。 196 00:11:34,160 --> 00:11:36,663 何にも。 あ はあ…。 197 00:11:36,663 --> 00:11:39,566 フフッ では 失礼します。 198 00:11:39,566 --> 00:11:43,536 ごめんください。 ただいま~! 199 00:11:43,536 --> 00:11:46,339 変だわね。 200 00:11:46,339 --> 00:11:49,008 はい これは 今日頂けた分です。 201 00:11:49,008 --> 00:11:51,277 ご苦労さま。 202 00:11:56,349 --> 00:11:59,352 いいの?いいの。 知らないから。 203 00:11:59,352 --> 00:12:02,622 反省してるんだもの それは認めてあげなくっちゃ。 204 00:12:02,622 --> 00:12:06,426 えっ 何のこと? いえ 別に。 205 00:12:06,426 --> 00:12:08,361 お帰りなさい マー姉ちゃん。 206 00:12:08,361 --> 00:12:11,798 あっ どうだった? 遠いから 電車 大変だったでしょう。 207 00:12:11,798 --> 00:12:14,133 マー姉ちゃんこそ 遅くまで大変だったでしょう。 208 00:12:14,133 --> 00:12:16,970 うん 今日は図書館や本屋さんに 寄ってたものだから。 209 00:12:16,970 --> 00:12:20,306 図書館? 宿題 出されちゃったの。 210 00:12:20,306 --> 00:12:22,809 今夜から小説の猛勉強よ。 211 00:12:22,809 --> 00:12:25,645 おや 今度は小説やることにしたの? 212 00:12:25,645 --> 00:12:28,147 とんでもない。 手紙だって苦手な私が。 213 00:12:28,147 --> 00:12:31,451 小説なんか志すわけないわよね。 そのとおり。 214 00:12:31,451 --> 00:12:33,386 すいません 時間を切られてるんです。 215 00:12:33,386 --> 00:12:36,823 今からすぐに かかりたいから お夕食の支度 お願いします。 216 00:12:36,823 --> 00:12:39,158 (はる)いいですよ。 (ヨウ子)私も手伝います。 217 00:12:39,158 --> 00:12:41,094 はい。私は…。 あなたはいいの。 218 00:12:41,094 --> 00:12:43,563 お散歩でもしてらっしゃい。 219 00:12:46,466 --> 00:12:56,009 (すすり泣き) 220 00:12:56,009 --> 00:12:57,944 どうしたの? マー姉ちゃん。 221 00:12:57,944 --> 00:13:01,614 ひどいの… 本当に ひどいの…。 222 00:13:01,614 --> 00:13:03,549 分かる! 223 00:13:03,549 --> 00:13:05,952 3日や4日で こんなにいっぱいの本を読めなんて➡ 224 00:13:05,952 --> 00:13:08,621 どういうつもりか知んないけど 陽談社も横暴よ! 225 00:13:08,621 --> 00:13:10,657 ううん そうじゃないの。 226 00:13:10,657 --> 00:13:14,794 ヒロインが かわいそくて気の毒で…。 227 00:13:14,794 --> 00:13:17,297 ええ~? 228 00:13:17,297 --> 00:13:21,167 いくら 運命のいたずらにしたって ひどすぎるわよ。 229 00:13:21,167 --> 00:13:25,038 代わってあげられるものだったら 代わってあげたい。 230 00:13:25,038 --> 00:13:28,641 嫌ね たかが小説じゃないの。 231 00:13:28,641 --> 00:13:30,677 それにしたって…。 232 00:13:30,677 --> 00:13:35,148 バカ。 (マリ子のすすり泣き) 233 00:13:35,148 --> 00:13:37,817 <塚田のもくろみも知らず➡ 234 00:13:37,817 --> 00:13:41,154 哀れなヒロインに涙するマリ子こそ➡ 235 00:13:41,154 --> 00:13:47,126 運命のいたずらに 木の葉のように もまれるかもしれなかったのです> 236 00:13:54,667 --> 00:14:56,362 ♬~