1 00:00:02,202 --> 00:00:05,138 (泣き声) 2 00:00:05,138 --> 00:00:12,946 これは 孫のナマエを巡って闘った ある老人と若い夫婦の物語。 3 00:00:15,282 --> 00:00:18,285 老人の名は… 4 00:00:20,153 --> 00:00:23,457 そして その まな娘 茉莉と➡ 5 00:00:23,457 --> 00:00:26,293 夫 山田珠樹。 6 00:00:26,293 --> 00:00:29,129 彼らの思いもよらぬ 激闘の1週間は➡ 7 00:00:29,129 --> 00:00:32,165 こうして始まった。 8 00:00:32,165 --> 00:00:40,841 ♬~ 9 00:00:40,841 --> 00:00:44,144 この日 奈良 正倉院では➡ 10 00:00:44,144 --> 00:00:49,650 年に一度の厳粛な儀式が 執り行われていた。 11 00:00:49,650 --> 00:00:54,321 (珠樹)<既に 帝国陸軍軍医を辞し 文壇からも離れたパッパは➡ 12 00:00:54,321 --> 00:01:00,427 失敬… 森 鷗外は 当時 帝室博物館総長の職にあり➡ 13 00:01:00,427 --> 00:01:04,731 毎年 この時期は 奈良に滞在していました> 14 00:01:06,300 --> 00:01:10,437 曝涼 この儀式は 年に一度➡ 15 00:01:10,437 --> 00:01:14,942 天皇の名で封印された 正倉院の扉を開き➡ 16 00:01:14,942 --> 00:01:22,249 宝物に風を通し この機会に 安全を確認 調査する事である。 17 00:01:23,951 --> 00:01:28,755 (風の音) 18 00:01:32,292 --> 00:01:36,797 <パッパは かように物事に動ぜず 深く考え➡ 19 00:01:36,797 --> 00:01:41,668 そのつど 本質を捉えなくては 済まぬ人でした> 20 00:01:41,668 --> 00:01:48,308 ♬~ 21 00:01:48,308 --> 00:01:55,082 <一方 私はといえば そのころ それどころでは なかったのです> 22 00:01:55,082 --> 00:01:57,017 ♬~ 23 00:01:57,017 --> 00:02:06,693 ♬~ 24 00:02:06,693 --> 00:02:10,931 (茉莉)<11月3日は 明治天皇の誕生日だったので➡ 25 00:02:10,931 --> 00:02:17,437 車の後ろや前に ド~ン ド~ンと 体に響くような祝砲が鳴った。➡ 26 00:02:17,437 --> 00:02:19,373 私は まだ若すぎたし➡ 27 00:02:19,373 --> 00:02:21,308 子どもが生まれるのが うれしいという➡ 28 00:02:21,308 --> 00:02:26,780 誰でも母親なら持つ心持ちが まるで なかった> 29 00:02:26,780 --> 00:02:28,982 (祝砲) 30 00:02:31,451 --> 00:02:36,323 向かった先は 市ヶ谷見附の産院 榊病院。 31 00:02:36,323 --> 00:02:45,298 ♬~ 32 00:02:45,298 --> 00:02:48,635 ⚟(看護師)息んで 息んで! よし その調子。➡ 33 00:02:48,635 --> 00:02:52,806 しっかり しっかり! 大丈夫よ。 息んで もっと もっと! 34 00:02:52,806 --> 00:02:56,009 ⚟(茉莉)ああ~! 35 00:02:59,312 --> 00:03:02,082 父上 生まれました! 36 00:03:02,082 --> 00:03:04,985 はい… 男子です! 37 00:03:04,985 --> 00:03:08,488 電報 電報だ。 パッパに打たなきゃ! 38 00:03:12,592 --> 00:03:16,930 (松嶋)総長 総長! 電報です!➡ 39 00:03:16,930 --> 00:03:19,966 総長 電報が届きました。 40 00:03:19,966 --> 00:03:29,509 ♬~ 41 00:03:29,509 --> 00:03:31,712 何!? 42 00:03:36,116 --> 00:03:42,289 ウハハッ ウハハハハッ…。 43 00:03:42,289 --> 00:03:47,961 予定より1か月ほど早い まな娘の出産であった。 44 00:03:47,961 --> 00:03:54,734 ♬~ 45 00:03:54,734 --> 00:04:00,240 その日の鷗外の日記 「委蛇録」には…➡ 46 00:04:00,240 --> 00:04:08,115 「11月3日 夜 電信 至る。 いわく 茉莉 男子 産む」。 47 00:04:08,115 --> 00:04:14,254 (泣き声) 48 00:04:14,254 --> 00:04:17,958 抱いてあげて下さい。 あっ はい。 49 00:04:23,263 --> 00:04:26,266 茉莉 ほら…。 50 00:04:28,135 --> 00:04:32,939 <この時の私には まだ 生涯 決して忘れる事のない➡ 51 00:04:32,939 --> 00:04:35,776 まるで タイフーンのような 1週間が始まるなんぞ➡ 52 00:04:35,776 --> 00:04:38,278 思いもよらなかったのです> 53 00:04:38,278 --> 00:04:40,280 よしよしよし…。 54 00:04:43,617 --> 00:04:49,289 森 鷗外は 元祖キラキラネームの 名付け親としても知られる。 55 00:04:49,289 --> 00:04:53,160 そのいい例が 子どもたちの名前だ。 56 00:04:53,160 --> 00:04:59,633 長男の於莵に始まり 次男 不律 長女 茉莉➡ 57 00:04:59,633 --> 00:05:05,238 次女 杏奴 そして 三男 類と続く。 58 00:05:05,238 --> 00:05:09,075 ドイツ留学の際 本名の林太郎が通じず➡ 59 00:05:09,075 --> 00:05:12,879 不便した経験が あったからだという。 60 00:05:18,752 --> 00:05:22,923 その夜遅く 鷗外は 孫の命名の文章を➡ 61 00:05:22,923 --> 00:05:25,825 一気に筆で書き上げた。 62 00:05:25,825 --> 00:05:30,096 鷗外が孫のために 用意した名前は➡ 63 00:05:30,096 --> 00:05:33,967 思いもよらぬ きてれつな名前だった。 64 00:05:33,967 --> 00:05:38,271 一体 何と読むのか? 65 00:05:38,271 --> 00:05:45,278 その命名のいわれを 1m52cmにわたって書きつづった。 66 00:05:47,948 --> 00:05:52,819 「命名 𣝣。➡ 67 00:05:52,819 --> 00:05:58,291 𣝣とは 元は雀である。➡ 68 00:05:58,291 --> 00:06:07,968 第二の意は 神事に使う盃で 形が雀に似ているからでもある。➡ 69 00:06:07,968 --> 00:06:16,576 そして 読み声は ジャクで 世界通用の名となる」。 70 00:06:16,576 --> 00:06:30,290 ♬~ 71 00:06:34,928 --> 00:06:42,669 森 鷗外 本名 森 林太郎は 文久2年 1862年➡ 72 00:06:42,669 --> 00:06:47,173 岩見国 現在の島根県津和野に 生まれた。 73 00:06:50,777 --> 00:06:54,114 10歳の時 勉強のため上京し➡ 74 00:06:54,114 --> 00:06:59,286 大学卒業後 陸軍軍医として ドイツに留学。 75 00:06:59,286 --> 00:07:03,723 帰国後 「舞姫」 「雁」 「高瀬舟」など➡ 76 00:07:03,723 --> 00:07:09,029 数多くの文学作品を世に送り出し 活躍した。 77 00:07:16,903 --> 00:07:21,074 そんな鷗外の意外な素顔を伝える 新たな資料が➡ 78 00:07:21,074 --> 00:07:23,743 最近になって見つかった。 79 00:07:23,743 --> 00:07:28,615 今 書庫から出された この資料はですね➡ 80 00:07:28,615 --> 00:07:36,089 鷗外の お孫さんの命名に関する 資料の一部でございます。➡ 81 00:07:36,089 --> 00:07:41,394 初めて 表に出る資料が この中には あるという事です。 82 00:07:43,430 --> 00:07:48,268 ここには 名前の由来を記した 「命名典故」のほか➡ 83 00:07:48,268 --> 00:07:52,973 5通の一風変わった プライベート書簡があった。 84 00:07:56,142 --> 00:07:58,978 そして これらは全て➡ 85 00:07:58,978 --> 00:08:04,217 娘 茉莉の出産直後の1週間に 集中して書かれたもので➡ 86 00:08:04,217 --> 00:08:10,523 宛先は 娘婿のフランス文学者 山田珠樹。 87 00:08:14,561 --> 00:08:17,897 物議を醸し出した命名を巡り➡ 88 00:08:17,897 --> 00:08:22,702 揺れ動く鷗外の気持ちを つづったものであった。 89 00:08:26,606 --> 00:08:33,413 そこには 晩年の鷗外の 知られざる素顔が秘められていた。 90 00:08:48,428 --> 00:08:52,599 <パッパは ドイツで 細菌学を学んだからなのか➡ 91 00:08:52,599 --> 00:08:55,935 衛生面には アブノーマルなまでに 気を遣う お方で➡ 92 00:08:55,935 --> 00:09:00,640 決して 厠の扉に手を触れる事は ありませんでした> 93 00:09:06,579 --> 00:09:09,048 <その潔癖ゆえんなのか➡ 94 00:09:09,048 --> 00:09:13,887 ふだんの食生活にも キッチリとした 自分なりのルーティーンをお持ちで。➡ 95 00:09:13,887 --> 00:09:19,559 奈良出張中の献立は みそ汁 生卵 梅干し 奈良漬。➡ 96 00:09:19,559 --> 00:09:22,395 昼は 卵焼きと梅干しと奈良漬。➡ 97 00:09:22,395 --> 00:09:25,899 それ以外は ほぼ口にしなかったそうです> 98 00:09:25,899 --> 00:09:46,086 ♬~ 99 00:09:53,960 --> 00:09:58,765 失礼します。 朝刊 届きました。 100 00:09:58,765 --> 00:10:03,269 これを出しておいて もらえるかな?はい。 101 00:10:03,269 --> 00:10:08,942 それは 娘婿 珠樹に向けた 第一信 「命名典故」と➡ 102 00:10:08,942 --> 00:10:12,445 その解説の手紙であった。 103 00:10:21,120 --> 00:10:26,459 この日の新聞は アメリカの新大統領が 決まった事と並んで➡ 104 00:10:26,459 --> 00:10:32,165 各地で 日本人排斥の機運が 高まっている事を伝えていた。 105 00:10:37,170 --> 00:10:41,007 一方 世界では 第1次大戦が終わり➡ 106 00:10:41,007 --> 00:10:46,012 新世界の秩序をめぐり きな臭いニュースが多かった。 107 00:10:49,983 --> 00:10:52,886 そんな中で 鷗外が気になっていたのは➡ 108 00:10:52,886 --> 00:10:57,657 3年前に起こった ロシア革命の影響だった。 109 00:10:57,657 --> 00:11:00,927 人民による社会主義革命は➡ 110 00:11:00,927 --> 00:11:06,132 伝統あるロマノフ王家の 最後の皇帝一家を処刑。 111 00:11:10,637 --> 00:11:15,775 大正7年11月13日 奈良にいた鷗外は➡ 112 00:11:15,775 --> 00:11:21,481 親友の賀古鶴所宛てに こんな書簡をしたためている。 113 00:11:23,650 --> 00:11:27,487 「今や 帝王の存立せるは➡ 114 00:11:27,487 --> 00:11:31,991 日本とイギリスのみと 相成り候」。 115 00:11:53,479 --> 00:11:57,317 奈良に滞在中 鷗外は 旅館住まいを嫌い➡ 116 00:11:57,317 --> 00:12:03,623 博物館の官舎に暮らす職員 松嶋氏の世話になっていた。 117 00:12:06,759 --> 00:12:10,930 この地図は 毎朝 官舎から正倉院まで➡ 118 00:12:10,930 --> 00:12:15,435 歩いて出勤する道筋を 子どもたちに知らせるために➡ 119 00:12:15,435 --> 00:12:19,439 鷗外自身が書いたものである。 120 00:12:22,208 --> 00:12:26,779 子ぼんのうだった鷗外は 奈良から一日も欠かさず➡ 121 00:12:26,779 --> 00:12:30,483 子どもたちに手紙を書き 送っていた。 122 00:12:32,652 --> 00:12:39,959 「パパの泊まっているうちの松嶋が 餅菓子を1箱くれました。➡ 123 00:12:39,959 --> 00:12:43,630 うまそうでもなし おなかも すかないから➡ 124 00:12:43,630 --> 00:12:48,635 そのままにしておくと カビが少し生えました」。 125 00:12:50,970 --> 00:12:54,807 「そこで 鹿の所へ持っていって➡ 126 00:12:54,807 --> 00:13:00,913 箱を開けて 芝の上に置いてやりました。➡ 127 00:13:00,913 --> 00:13:07,587 初めは食べなかったが 後には 女の鹿が食べました。➡ 128 00:13:07,587 --> 00:13:13,393 そして 大層うまかったと見えて 一人で食べたくなって➡ 129 00:13:13,393 --> 00:13:18,898 もう一つの鹿に飛びついて ケンカを始めました」。 130 00:13:20,600 --> 00:13:25,438 「憎らしいから 箱を取り上げて 3つに分けて➡ 131 00:13:25,438 --> 00:13:29,108 子どもにも食べさせました。➡ 132 00:13:29,108 --> 00:13:33,913 子ども皆に 森 林太郎」。 133 00:13:48,294 --> 00:13:51,798 当時 奈良から東京への手紙は➡ 134 00:13:51,798 --> 00:13:55,001 ほぼ1日で到着した。 135 00:14:00,239 --> 00:14:03,743 この日 珠樹宛てに届いた郵便物は➡ 136 00:14:03,743 --> 00:14:08,448 「命名典故」の封書と 1通の葉書であった。 137 00:14:17,090 --> 00:14:20,760 「命名 𣝣。➡ 138 00:14:20,760 --> 00:14:25,932 𣝣とは 元は雀である。➡ 139 00:14:25,932 --> 00:14:33,272 『舌切すずめのお宿は どこだ チュウチュウ』と我が国ではいうが➡ 140 00:14:33,272 --> 00:14:40,613 昔の支那の人は 『節々足々』と聞こえたという。➡ 141 00:14:40,613 --> 00:14:44,283 これは 盃に酒を受けつつ➡ 142 00:14:44,283 --> 00:14:49,789 『おっとっと』という 節制の意である」。 143 00:14:52,458 --> 00:14:59,232 「とにかく 命名の案を送る。 あまり 名案とも信ぜぬから➡ 144 00:14:59,232 --> 00:15:03,236 取り捨ては ご随意である」。 145 00:15:07,573 --> 00:15:19,085 ♬~ 146 00:15:25,424 --> 00:15:30,930 ゲーテの格言か。 どうした? 突然。 147 00:15:30,930 --> 00:15:34,133 何事だ? 珠樹。 148 00:15:46,412 --> 00:15:50,316 確かに 私は 鷗外先生に 子どもの命名を頼んだ。 149 00:15:50,316 --> 00:15:54,620 しかし こんな エクサントリックな名前が 来るなんぞ 誰が思う? 150 00:15:54,620 --> 00:16:03,229 ジャク… ジャク… ジャック!? 分かった! 151 00:16:03,229 --> 00:16:06,132 鷗外先生は お前の尊敬する ジャン・ジャック・ルソーから➡ 152 00:16:06,132 --> 00:16:10,136 その名を取ったのではないか? 違う! よく読め。 153 00:16:14,240 --> 00:16:19,078 「𣝣とは 雀である」。 (雀の鳴き声) 154 00:16:19,078 --> 00:16:23,950 雀!? …フフッ。 155 00:16:23,950 --> 00:16:27,253 なんと ヘンチクリンな。 156 00:16:27,253 --> 00:16:30,923 やはり これは ヘンチクリンな名なのか? 157 00:16:30,923 --> 00:16:43,503 ♬~ 158 00:16:43,503 --> 00:16:47,773 「取り捨ては ご随意に」。 (雀の鳴き声) 159 00:16:47,773 --> 00:16:52,278 「取り捨ては ご随意に」って。 そう簡単にいくものか。 160 00:16:52,278 --> 00:16:56,616 2通だぞ 2通! 普通 日に2通も送ってくるか? 161 00:16:56,616 --> 00:16:59,118 これは 明らかに プレシオンをかける気 満々ではないか! 162 00:16:59,118 --> 00:17:01,721 ちょっと 失礼。 163 00:17:01,721 --> 00:17:05,391 まあ せいぜい悩むんだな。 164 00:17:05,391 --> 00:17:08,294 おい ちょっと待て。 貴様 どこへ行く? 165 00:17:08,294 --> 00:17:10,897 これから 活動写真を見に行く。 166 00:17:10,897 --> 00:17:14,901 「イントレランス」が 銀座の小屋に来ているのだ。 167 00:17:17,069 --> 00:17:22,575 あいつ… あれでも友人か。 168 00:17:22,575 --> 00:17:26,245 スズメとカモメ? スズメとカモメ? 169 00:17:26,245 --> 00:17:29,582 スズメとカモメ… スズメとカモメ。 170 00:17:29,582 --> 00:17:34,086 スズメとカモメ… スズメとカモメ…? 171 00:17:34,086 --> 00:17:41,427 ハハハハッ… ハハハハッ…! 172 00:17:41,427 --> 00:17:46,265 カモメとスズメ? そんなアホな。 173 00:17:46,265 --> 00:17:50,136 天下の森 鷗外が そんな浅はかな 名前の付け方をするものか。 174 00:17:50,136 --> 00:17:52,939 ハハハハッ! 175 00:17:52,939 --> 00:17:56,776 あんた 病院にでも行った方が。 176 00:17:56,776 --> 00:17:59,812 そうだ! 早く病院に行かなくては! 177 00:17:59,812 --> 00:18:06,018 失敬! は!? そうだ そうだ 違いねえ。 178 00:18:11,290 --> 00:18:16,495 おお… かわいい おぼこじゃ。 179 00:18:22,935 --> 00:18:27,740 マリアは ご結婚しないのに キリストを産んだんですってね。 180 00:18:27,740 --> 00:18:30,743 おかしいわね…。 181 00:18:33,412 --> 00:18:38,117 <こりゃ 茉莉に相談などしている 場合じゃない> 182 00:18:45,591 --> 00:18:47,627 そもそも 2人の縁談は➡ 183 00:18:47,627 --> 00:18:49,762 鷗外が ドイツで知り合った➡ 184 00:18:49,762 --> 00:18:52,598 日本人貿易商 長尾恒吉の➡ 185 00:18:52,598 --> 00:18:55,267 紹介によるものだった。 186 00:18:55,267 --> 00:19:00,873 帝国大学で フランス文学を志す青年 山田珠樹と➡ 187 00:19:00,873 --> 00:19:08,581 娘 茉莉の結婚話に関して 鷗外は とても満足だったようだ。 188 00:19:12,485 --> 00:19:17,723 大正8年11月の 結婚当日の日記には➡ 189 00:19:17,723 --> 00:19:20,226 「茉莉の思いがかない➡ 190 00:19:20,226 --> 00:19:24,730 山田珠樹と 日比谷大神宮にて挙式。➡ 191 00:19:24,730 --> 00:19:29,068 披露宴は築地精養軒。➡ 192 00:19:29,068 --> 00:19:32,772 この日 天気 晴朗」とある。 193 00:19:37,410 --> 00:19:42,748 しかし ドイツで 自由な気風を 身につけてきた鷗外の森家と➡ 194 00:19:42,748 --> 00:19:45,084 軍需景気で 一気に のし上がってきた➡ 195 00:19:45,084 --> 00:19:51,290 商人一族の山田家とは 全く 家風が異なっていたのだ。 196 00:19:52,825 --> 00:19:55,094 (ノック) (暘朔)ごめん!➡ 197 00:19:55,094 --> 00:19:57,930 森博士に お会いしたい。 198 00:19:57,930 --> 00:20:00,633 (カラスの鳴き声) 199 00:20:02,802 --> 00:20:06,639 (カラスの鳴き声) 200 00:20:06,639 --> 00:20:10,109 これは 茉莉が山田家に嫁入りして➡ 201 00:20:10,109 --> 00:20:14,113 半年もした ある日の出来事である。 202 00:20:27,126 --> 00:20:31,297 山田家では観劇を禁じている。 …にも かかわらず➡ 203 00:20:31,297 --> 00:20:36,168 お宅の奥方は 無断で 茉莉を連れて観劇をする。 204 00:20:36,168 --> 00:20:40,372 それを何と考えられるか あずかりたい。 205 00:20:44,009 --> 00:20:46,779 茉莉が劇を見たがり➡ 206 00:20:46,779 --> 00:20:51,317 妻が それに同情して 連れていくのは➡ 207 00:20:51,317 --> 00:20:55,654 僕にとっては アホらしい。 208 00:20:55,654 --> 00:21:00,926 それは つまらないからです。 はあ!? 209 00:21:00,926 --> 00:21:06,599 劇を見るのが アホらしいと 気の毒に思う。 210 00:21:06,599 --> 00:21:12,104 何を申す! 博士は 以前に 戯曲を 書かれているのではないですか。 211 00:21:12,104 --> 00:21:16,442 ご自分の仕事を アホらしいとでも? 212 00:21:16,442 --> 00:21:23,215 僕は 劇を見るやつが アホだと 言っているのであって➡ 213 00:21:23,215 --> 00:21:27,786 作るやつは アホではない。 214 00:21:27,786 --> 00:21:32,124 何ですか? その小理屈は。 215 00:21:32,124 --> 00:21:40,833 ♬~ 216 00:21:40,833 --> 00:21:45,671 大体ですな 茉莉は 台所に一度も出ない。 217 00:21:45,671 --> 00:21:50,142 少しずつでもいいから 慣れてもらわないと。 218 00:21:50,142 --> 00:21:54,980 はて…。 何ですか? 219 00:21:54,980 --> 00:21:59,819 うちで あいつに 料理を作らせてみれば➡ 220 00:21:59,819 --> 00:22:04,523 なかなか うまいものを こしらえるんですがな。 221 00:22:09,628 --> 00:22:16,302 山田家の台所には ちょっと 手が出ないのでしょう。 222 00:22:16,302 --> 00:22:22,775 それに フランス語の勉強ばかりで 着物の裁縫だって ろくにしない。 223 00:22:22,775 --> 00:22:27,646 珠樹君と茉莉は これから フランスへ洋行するのだ。 224 00:22:27,646 --> 00:22:32,117 それが 何か? 225 00:22:32,117 --> 00:22:40,426 フランスで 和服の裁縫は 必要かなあ? 226 00:22:49,468 --> 00:22:53,305 山田暘朔は広島県の出身。 227 00:22:53,305 --> 00:22:57,643 ドイツの貿易商 イリス商会の 日本代表を務め➡ 228 00:22:57,643 --> 00:23:04,450 一代で財を成し 三田の台町に 大きな屋敷を構えていた。 229 00:23:06,252 --> 00:23:11,423 山田暘朔の親族が かつての様子を語ってくれた。 230 00:23:11,423 --> 00:23:18,931 「昭和12年 山田父上 七回忌にて」 って書いてありますね。 231 00:23:18,931 --> 00:23:23,102 山田暘朔おじい様はね➡ 232 00:23:23,102 --> 00:23:28,974 ひいおじいさんは もう 壮大な夢をお持ちで➡ 233 00:23:28,974 --> 00:23:33,279 長女のイクさんは 陸軍学校 主席で出た➡ 234 00:23:33,279 --> 00:23:36,615 長尾恒吉さんに嫁に行かせ➡ 235 00:23:36,615 --> 00:23:40,119 長男の珠樹さんは 今度は 文学関係だっていうんで➡ 236 00:23:40,119 --> 00:23:43,789 鷗外さんの娘をめとらせ。 237 00:23:43,789 --> 00:23:48,961 だから 台町のおうちで 𣝣ちゃんは育てられてたのよね。 238 00:23:48,961 --> 00:23:53,632 乳母と それから 看護婦さんのような人とかね。➡ 239 00:23:53,632 --> 00:23:55,668 そういう人に守られてるから➡ 240 00:23:55,668 --> 00:24:01,073 だから みんな もう 𣝣ちゃんを触る事もできなかった。 241 00:24:01,073 --> 00:24:06,745 (赤ちゃんの泣き声) 242 00:24:06,745 --> 00:24:12,451 さて 子どもの名前の事を 考えなくてはならぬな。 243 00:24:14,253 --> 00:24:18,424 何だ? その顔は。 いえ…。 244 00:24:18,424 --> 00:24:20,759 もったいぶらずに 早く言え! 245 00:24:20,759 --> 00:24:26,265 父上 あの 実は パッパ… いや あの… 鷗外先生に➡ 246 00:24:26,265 --> 00:24:31,770 子どもの命名について 前もって お願い申し上げていたのです。 247 00:24:36,275 --> 00:24:40,946 …で 先方から便りは来たのか? 248 00:24:40,946 --> 00:24:44,616 いえ… まだ来ておりません。 249 00:24:44,616 --> 00:24:53,325 ♬~ 250 00:24:53,325 --> 00:24:57,129 <山田家にとって 直系の初孫の命名を➡ 251 00:24:57,129 --> 00:25:02,568 嫁方の森家が決める事自体 簡単に よしとは言い難いのに。➡ 252 00:25:02,568 --> 00:25:05,571 しかも この名前だ> 253 00:25:09,074 --> 00:25:11,577 <父のメンツもある。➡ 254 00:25:11,577 --> 00:25:15,447 いつ どのように 切り出してよいものか…。➡ 255 00:25:15,447 --> 00:25:20,252 ちょっと待て。 しかし 相手は 大文豪 森 鷗外だぞ> 256 00:25:20,252 --> 00:25:25,057 あ~…。 257 00:25:29,962 --> 00:25:35,167 <「𣝣が いささか 異体なる文字のように思え…」> 258 00:25:42,441 --> 00:26:03,395 ♬~ 259 00:26:03,395 --> 00:26:05,731 総長 何を…? 260 00:26:05,731 --> 00:26:10,402 フケが多いのは 頭をよく使う証拠だよ。 261 00:26:10,402 --> 00:26:13,305 そうですか…。 262 00:26:13,305 --> 00:26:15,574 …で 何用かな? 263 00:26:15,574 --> 00:26:20,412 あっ 申し訳ありません。 ご家族からの お手紙です。 264 00:26:20,412 --> 00:26:27,920 ♬~ 265 00:26:27,920 --> 00:26:33,926 「𣝣が いささか 異体なる文字のように思え…」。 266 00:26:41,100 --> 00:26:43,769 なあ? 君。 はい。 267 00:26:43,769 --> 00:26:47,272 君は自分の名前の由来を 知ってるかね? 268 00:26:47,272 --> 00:26:52,978 は!? …さあ。 269 00:27:05,557 --> 00:27:12,231 「皇朝名乗字引」とは 明治時代の人名漢字辞典である。 270 00:27:12,231 --> 00:27:16,902 鷗外は 他人に名を付ける事が 殊の外 好きだったと➡ 271 00:27:16,902 --> 00:27:20,739 長男の森 於菟氏は書いている。 272 00:27:20,739 --> 00:27:27,045 この字典には 字画 陰陽の 組み合わせなどが記されている。 273 00:27:31,083 --> 00:27:33,919 鷗外は 友人であった➡ 274 00:27:33,919 --> 00:27:38,423 与謝野鉄幹 晶子夫妻の 双子の娘には…。 275 00:27:46,265 --> 00:27:48,300 …と歌を添え➡ 276 00:27:48,300 --> 00:27:53,005 八峰 七瀬という名を贈っている。 277 00:27:56,975 --> 00:28:03,682 そのほか 庭師の息子にまで 留吉という名前を付けている。 278 00:28:10,889 --> 00:28:16,094 <この日 茉莉に初めて 「命名典故」を見せた> 279 00:28:20,232 --> 00:28:23,268 それで? で? 280 00:28:23,268 --> 00:28:27,573 茉莉は どう思う? 「どう思う?」って 何が? 281 00:28:27,573 --> 00:28:29,508 この子の名前の事だよ。 282 00:28:29,508 --> 00:28:33,445 茉莉と僕の 初めての息子の問題だぞ。 283 00:28:33,445 --> 00:28:38,584 そうね…。 う~ん… なあ! 284 00:28:38,584 --> 00:28:41,086 せんだってから 不思議に思っていたのだが➡ 285 00:28:41,086 --> 00:28:43,021 茉莉が 赤ん坊を抱いているところを➡ 286 00:28:43,021 --> 00:28:45,958 ただ 一度たりとも 見かけないではないか。 287 00:28:45,958 --> 00:28:49,795 そうだったかしら? 一体 どう思っているのかね? 288 00:28:49,795 --> 00:28:53,799 自分の体を痛めて産んだ子が かわいくないのか? 289 00:28:59,271 --> 00:29:03,141 ウンコ。 はあ!? 290 00:29:03,141 --> 00:29:06,144 ウンコみたいなんだもの。 291 00:29:09,081 --> 00:29:12,818 <私は 出産を恐怖していたので➡ 292 00:29:12,818 --> 00:29:16,054 思ったより苦しくなかったと 思った。➡ 293 00:29:16,054 --> 00:29:20,225 痛くなくて ウンコみたいだった> 294 00:29:20,225 --> 00:29:24,730 おお…。 295 00:29:24,730 --> 00:29:29,568 𣝣~ 𣝣~。 296 00:29:29,568 --> 00:29:33,739 𣝣。 だから まだ決まってないと…。 297 00:29:33,739 --> 00:29:35,741 𣝣~。 298 00:29:37,909 --> 00:29:39,845 (客)おかみ おちょうし もう一本。 299 00:29:39,845 --> 00:29:43,081 (おかみ) はい どうぞ。 熱いですよ。 300 00:29:43,081 --> 00:29:45,017 (テーブルをたたく音) 301 00:29:45,017 --> 00:29:48,253 貴様が しっかりせんから いかんのだ! 302 00:29:48,253 --> 00:29:50,756 お前 飲み過ぎだぞ。 303 00:29:50,756 --> 00:29:54,760 そもそも 俺の相談に乗ってくれるはずだろ。 304 00:30:00,766 --> 00:30:07,439 常日頃から 山田家と森家の間で 何かと板挟み。 305 00:30:07,439 --> 00:30:10,776 こたびは 子どもの名の問題だ。 306 00:30:10,776 --> 00:30:14,446 まさに 今の俺は 引き裂かれるハムレットの心境だ。 307 00:30:14,446 --> 00:30:16,481 俗な言い方をすんな。 308 00:30:16,481 --> 00:30:20,619 言うなれば スタンダールの「赤と黒」 ジュリアンの葛藤の方が近い。 309 00:30:20,619 --> 00:30:23,955 そんな事は どちらでもいい。 310 00:30:23,955 --> 00:30:29,461 その… あれだ。 雀。 311 00:30:29,461 --> 00:30:32,497 𣝣という けったいな名について➡ 312 00:30:32,497 --> 00:30:36,001 貴様の あの父親は 承知してるのか? 313 00:30:38,970 --> 00:30:41,473 何を黙ってる。 314 00:30:43,308 --> 00:30:48,613 まさか 貴様 まだ 父親に打ち明けてないのか? 315 00:30:51,983 --> 00:30:57,189 そもそも 何故 嫁方の父親に 名を付けさせたんだ。 316 00:30:59,725 --> 00:31:04,029 特別なんだよ。 特別? 317 00:31:09,267 --> 00:31:14,072 俺にとって パッパは特別なのだ! 318 00:31:16,141 --> 00:31:20,145 何が天下の 森 鷗外だ! 319 00:31:41,800 --> 00:31:44,469 おっとっと。 320 00:31:44,469 --> 00:31:46,805 はぁ…。 321 00:31:46,805 --> 00:32:09,428 ♬~ 322 00:32:09,428 --> 00:32:11,429 パパ! 323 00:32:14,900 --> 00:32:18,270 パッパは 私のもの。 ハッハッハッ。 324 00:32:18,270 --> 00:32:22,140 (杏奴)ちょっと 私よ。 325 00:32:22,140 --> 00:32:24,776 駄目駄目! 326 00:32:24,776 --> 00:32:28,647 <茉莉と結婚した直後の 年末の あの日➡ 327 00:32:28,647 --> 00:32:32,517 私は 生まれて初めての クリスマスパーティーを経験した。➡ 328 00:32:32,517 --> 00:32:36,288 この時 果たして 私は➡ 329 00:32:36,288 --> 00:32:39,624 かように 父に抱かれた事があったのか➡ 330 00:32:39,624 --> 00:32:44,429 この瞬間 そんな事実を 思い知らされたのだった> 331 00:32:46,498 --> 00:32:49,801 せんだってまでは 元気だったのに➡ 332 00:32:49,801 --> 00:32:54,639 胃が痛いと 茉莉は 部屋に閉じ籠もってしまった。 333 00:32:54,639 --> 00:32:56,975 あいつは 本当に…。 334 00:32:56,975 --> 00:33:02,247 茉莉さんは 心の底に パッションが潜んでいる方のようです。 335 00:33:02,247 --> 00:33:04,950 パッションか…。 336 00:33:07,419 --> 00:33:10,255 フフフ…。 337 00:33:10,255 --> 00:33:12,757 先生と こうして お話させて頂くのも➡ 338 00:33:12,757 --> 00:33:16,628 私にとって 貴重な時間ですから。 339 00:33:16,628 --> 00:33:20,432 珠樹君。 はい。 340 00:33:20,432 --> 00:33:25,103 先生と呼ぶのを やめてみては どうだろう。 341 00:33:25,103 --> 00:33:27,138 は? 342 00:33:27,138 --> 00:33:32,844 君も 私の事を パッパと呼んでみては? 343 00:33:43,455 --> 00:33:45,390 これは? 344 00:33:45,390 --> 00:33:48,393 クリスマスプレゼントだよ。 345 00:33:50,328 --> 00:33:54,799 君は 私と初めて会った時に➡ 346 00:33:54,799 --> 00:33:58,637 ダンテの「神曲」を プレゼントしてくれたね。 347 00:33:58,637 --> 00:34:01,072 はい そうでした。 348 00:34:01,072 --> 00:34:08,747 あの瞬間にね 茉莉を 君に… いや➡ 349 00:34:08,747 --> 00:34:13,251 君と友達になれると思ったんだよ。 350 00:34:15,253 --> 00:34:20,592 <私は その日 何物にも代え難い プレゼントをもらった。➡ 351 00:34:20,592 --> 00:34:23,495 それは 一通の手紙。➡ 352 00:34:23,495 --> 00:34:26,932 中に入っていたのは パッパの優しい心と➡ 353 00:34:26,932 --> 00:34:30,735 若い2人への 励ましの言葉だった> 354 00:34:56,928 --> 00:35:02,400 <まんじゅう茶漬けは パッパの大好物。➡ 355 00:35:02,400 --> 00:35:04,436 ちなみに 砂糖は 全て➡ 356 00:35:04,436 --> 00:35:08,740 角砂糖を粉末にしたものを わざわざ食した。➡ 357 00:35:08,740 --> 00:35:11,643 白砂糖には 回虫卵がある事があり➡ 358 00:35:11,643 --> 00:35:16,481 角砂糖は比較的安全というのが パッパの持論であった> 359 00:35:16,481 --> 00:35:55,186 ♬~ 360 00:35:55,186 --> 00:36:01,993 公務のない休日。 鷗外は 奈良の町を ゆったり散策する。 361 00:36:07,232 --> 00:36:10,902 あ~ 寒い。 寒いのは お前の懐だろうが。 362 00:36:10,902 --> 00:36:13,938 そうだ そうだ 違いねえ。 何が軍需景気だ。 363 00:36:13,938 --> 00:36:18,243 いざ 戦争が終わってみれば 結局は 一部の成金を生んだだけ。 364 00:36:18,243 --> 00:36:20,278 貧富の差は広がるばかりだ。 365 00:36:20,278 --> 00:36:22,580 外地で革命の機運が高まる中➡ 366 00:36:22,580 --> 00:36:24,616 国内では むしろ 弾圧が強まっている。 367 00:36:24,616 --> 00:36:27,419 暗い時代になるぞ。 そうだ そうだ 違いねえ。 368 00:36:27,419 --> 00:36:30,455 よせ よせ! 享楽的に飲んで遊んで➡ 369 00:36:30,455 --> 00:36:33,958 この閉塞感を 打ち破ろうではないか。 370 00:36:36,761 --> 00:36:40,265 大正ロマンとデモクラシーの この時代は➡ 371 00:36:40,265 --> 00:36:44,602 同時に 失業 犯罪 心中と➡ 372 00:36:44,602 --> 00:36:49,808 庶民にとっては 暗い 不安な時代でもあった。 373 00:36:51,476 --> 00:36:56,114 11月7日付けの茉莉への手紙。 374 00:36:56,114 --> 00:36:58,783 「山田茉莉様。➡ 375 00:36:58,783 --> 00:37:01,553 今時分 生まれた赤ん坊は➡ 376 00:37:01,553 --> 00:37:05,056 世界は寒い所だと思うだろう。➡ 377 00:37:05,056 --> 00:37:07,559 林太郎」。 378 00:37:07,559 --> 00:37:10,595 (茉莉) 「今時分 生まれた赤ん坊は➡ 379 00:37:10,595 --> 00:37:15,433 世界は寒い所だと思うだろう」。 380 00:37:15,433 --> 00:37:17,936 パッパ…。 381 00:37:21,740 --> 00:37:24,042 愛してる。 382 00:37:27,078 --> 00:37:31,583 𣝣 あなたも パッパを愛してる? 383 00:37:31,583 --> 00:37:33,785 𣝣? 384 00:37:37,455 --> 00:37:41,092 <そろそろ 父にも打ち明けない事には➡ 385 00:37:41,092 --> 00:37:43,928 どうにもならぬ> 386 00:37:43,928 --> 00:37:46,431 (暘朔)何だ これは! 387 00:37:46,431 --> 00:37:50,602 𣝣…。 388 00:37:50,602 --> 00:37:55,440 一体 こんな字 子どもが どうやって書くのだ! 389 00:37:55,440 --> 00:37:57,942 父上の おっしゃるとおりです。 390 00:37:57,942 --> 00:38:02,213 だから インテリゲンチャは困るのだ。 あの西洋かぶれめ。 391 00:38:02,213 --> 00:38:05,884 いや 私も 鷗外先生に この名前は いかがなものかと➡ 392 00:38:05,884 --> 00:38:11,890 手紙にて申し立てをしたのですが。 で 先方は何と申しておる。 393 00:38:17,395 --> 00:38:19,430 え~っと…。 394 00:38:19,430 --> 00:38:22,133 ああ そうだ そうだ。 違いねえ。 395 00:38:27,906 --> 00:38:34,412 鷗外からの第四信は 1m84cmにも及んだ。 396 00:38:37,615 --> 00:38:43,454 「赤ん坊の名は 是非とも 採用してもらいたいという程の➡ 397 00:38:43,454 --> 00:38:48,293 考えではない。 どうでもよい。➡ 398 00:38:48,293 --> 00:38:52,597 外国人名 ジャクに 通ずるのが悪いなら➡ 399 00:38:52,597 --> 00:38:55,600 捨てるがよい」。 400 00:38:57,435 --> 00:39:01,039 「𣝣の字が難しすぎると言うが➡ 401 00:39:01,039 --> 00:39:05,543 私は そう思わない。➡ 402 00:39:05,543 --> 00:39:12,417 𣝣の字を 木 四 良 寸と 組み立てれば➡ 403 00:39:12,417 --> 00:39:15,720 子どもにも難しくはない」。 404 00:39:19,090 --> 00:39:23,728 あ~。 405 00:39:23,728 --> 00:39:27,065 <命名は どうでもよいと 言いながら➡ 406 00:39:27,065 --> 00:39:30,902 この長文。 この へ理屈のオンパレード。➡ 407 00:39:30,902 --> 00:39:34,572 正直 パッパの この恐ろしいまでの執念には➡ 408 00:39:34,572 --> 00:39:37,375 驚きを禁じえない> 409 00:39:44,916 --> 00:39:48,119 どうした 珠樹…。 410 00:39:54,626 --> 00:40:21,619 ♬~ 411 00:40:21,619 --> 00:40:23,921 ⚟(自転車のベル) ハッ! 412 00:40:29,794 --> 00:40:34,299 <いつ また パッパからの手紙が 来るかと思うと➡ 413 00:40:34,299 --> 00:40:39,137 私は 郵便屋まで怖くなっていた> 414 00:40:39,137 --> 00:40:41,472 ⚟(暘朔)ごめん! 415 00:40:41,472 --> 00:40:51,983 ♬~ 416 00:40:51,983 --> 00:40:54,185 どうぞ。 417 00:41:00,158 --> 00:41:04,028 なあ 珠樹。 はい。 418 00:41:04,028 --> 00:41:08,433 実はな 私の方でも いくつか➡ 419 00:41:08,433 --> 00:41:12,937 子どもの名の腹づもりが あったのだよ。 420 00:41:12,937 --> 00:41:17,742 鷗外博士の事もあるが とりあえず。 421 00:41:19,811 --> 00:41:24,649 ハハハハッ まあ まあ まあ まあ…。 422 00:41:24,649 --> 00:41:28,119 おい! 何だ その態度は! 423 00:41:28,119 --> 00:41:30,621 コラッ! 424 00:41:39,831 --> 00:41:52,310 (鳴き声) 425 00:41:52,310 --> 00:41:54,312 うっ! 426 00:41:57,815 --> 00:42:00,785 <しかし なぜ ここまでに➡ 427 00:42:00,785 --> 00:42:04,789 パッパは 𣝣という名に こだわるのだ> 428 00:42:37,288 --> 00:42:46,464 ♬~ 429 00:42:46,464 --> 00:42:50,635 当時の鷗外は 激動の時代を見据えながら➡ 430 00:42:50,635 --> 00:42:55,139 歴代の天皇の死後に 付けられる名前 謚や➡ 431 00:42:55,139 --> 00:42:58,643 元号という 時代の名を決める事の根拠が➡ 432 00:42:58,643 --> 00:43:02,246 いかに大切かを研究していた。 433 00:43:02,246 --> 00:43:05,283 すると 元号の出典の中で➡ 434 00:43:05,283 --> 00:43:11,289 図らずも 命名が適正でないものが ある事に 思い至った。 435 00:43:17,095 --> 00:43:19,430 大正9年の4月➡ 436 00:43:19,430 --> 00:43:24,268 親友の賀古鶴所に宛てた 書簡の中で…。 437 00:43:24,268 --> 00:43:31,042 「『明治』は 支那の大理という国の 年号にあり➡ 438 00:43:31,042 --> 00:43:37,815 『大正』は安南人の建てた 越という国にある。➡ 439 00:43:37,815 --> 00:43:42,453 支那にては 『正』の字の 年号を嫌い➡ 440 00:43:42,453 --> 00:43:45,490 『正』の字を付け 滅びた例を➡ 441 00:43:45,490 --> 00:43:48,960 いちいち 挙げてい候。➡ 442 00:43:48,960 --> 00:43:53,164 不調べの至りと 存じ候」。 443 00:43:55,633 --> 00:44:00,471 つまり 鷗外は 中国では 不吉とされる「正」の文字を➡ 444 00:44:00,471 --> 00:44:04,742 よく調べもせずに使っていると 指摘しているのだが➡ 445 00:44:04,742 --> 00:44:08,980 鷗外の意識は 天皇制の善しあしではなく➡ 446 00:44:08,980 --> 00:44:13,951 国家の政に手抜かりがあっては ならないという事にあり➡ 447 00:44:13,951 --> 00:44:19,757 最終的には 国家の道徳を いかに高めていくかにあった。 448 00:44:23,261 --> 00:44:26,297 夜が明けると 鷗外は 再び➡ 449 00:44:26,297 --> 00:44:30,501 孫の命名についての書簡を 書き始めた。 450 00:44:37,275 --> 00:44:42,146 「人に名を付ける事は 甚だ難しい。➡ 451 00:44:42,146 --> 00:44:46,617 それは 甚だ易しいからである。➡ 452 00:44:46,617 --> 00:44:50,955 極端に言えば 『い』でも『ろ』でも➡ 453 00:44:50,955 --> 00:44:54,625 『A』でも『B』でも いいからである」。 454 00:44:54,625 --> 00:44:59,797 …という書き出しから 日本人名の歴史的変遷を述べ➡ 455 00:44:59,797 --> 00:45:04,602 山田家の親兄弟の 命名の特徴を指摘。 456 00:45:08,406 --> 00:45:12,243 更に 簡単な名前がよければと➡ 457 00:45:12,243 --> 00:45:19,116 例として 1画から5画の 名前の例を並べ立てている。 458 00:45:19,116 --> 00:45:21,419 鷗外は 今までにも➡ 459 00:45:21,419 --> 00:45:24,322 子どもたちに 特徴のある名を 付けてきていたが➡ 460 00:45:24,322 --> 00:45:30,094 それは 外国人名に 漢字を当てる事だった。 461 00:45:30,094 --> 00:45:33,598 しかし 今回は違っていた。 462 00:45:33,598 --> 00:45:36,267 中国文字の原典に当たり➡ 463 00:45:36,267 --> 00:45:39,770 その意味からの命名であった。 464 00:45:42,139 --> 00:45:49,614 そこには 名を付ける事への責任と 真摯な取り組みがあった。 465 00:45:49,614 --> 00:45:56,420 それだけに 今回の命名には 譲れない思いがあったのである。 466 00:46:05,096 --> 00:46:11,102 (赤ん坊の声) 467 00:46:18,643 --> 00:46:21,946 まあ よろしいこと。 468 00:46:25,916 --> 00:46:30,421 少し重たくなってきたか? フフッ。 469 00:46:33,391 --> 00:46:35,760 <そろそろ 息子の名前を➡ 470 00:46:35,760 --> 00:46:40,264 役所に届け出なくてはならない 期限が迫っていた> 471 00:46:45,269 --> 00:46:48,606 また ここだ。 472 00:46:48,606 --> 00:47:04,555 ♬~ 473 00:47:04,555 --> 00:47:09,860 「人に名を付ける事は 甚だ難しい」。 474 00:47:11,896 --> 00:47:16,400 この日 鷗外から送られた第五信は 最も長く➡ 475 00:47:16,400 --> 00:47:20,271 4m95cmに及んだ。 476 00:47:20,271 --> 00:47:22,573 あ~。 477 00:47:36,587 --> 00:47:39,990 だから 酒など飲む気分ではないと 言ってるではないか。 478 00:47:39,990 --> 00:47:44,762 何を言う。 お前 このままだと参っちまうぞ。 479 00:47:44,762 --> 00:47:51,635 ♬~(三味線) 480 00:47:51,635 --> 00:47:54,271 失礼します。 おい 貴様! 481 00:47:54,271 --> 00:47:56,207 いいから いいから。 482 00:47:56,207 --> 00:47:59,944 失礼致します! (タツノ)君 こっち こっち。 483 00:47:59,944 --> 00:48:04,215 初めてか?はい。 あ~ 最近。はい そうです。 484 00:48:04,215 --> 00:48:07,017 あら~ すてきな方! 485 00:48:09,553 --> 00:48:16,360 ♬~ 486 00:48:19,063 --> 00:48:20,998 なあ 君。 はい。 487 00:48:20,998 --> 00:48:25,236 君は 子どもに名を付けるとしたら どんな名を付けるかね? 488 00:48:25,236 --> 00:48:29,740 えっ… 難しい質問ね。 489 00:48:29,740 --> 00:48:33,410 例えば ジャクなどという名はどうだ? 490 00:48:33,410 --> 00:48:39,083 ジャク? 変なお名前。 アハハハ…。 491 00:48:39,083 --> 00:48:42,119 あ~ まあ まあ… お座りになって。 492 00:48:42,119 --> 00:48:46,423 はい お一つ どうぞ。 もっと飲まなくちゃ。 はい。 493 00:48:49,093 --> 00:48:51,128 おっとっと。 494 00:48:51,128 --> 00:49:02,640 ♬~ 495 00:49:02,640 --> 00:49:08,946 「盃に酒を受けつつ 『おっとと』という心持ちである」。 496 00:49:12,316 --> 00:49:15,553 おい 行くぞ!えっ? いいから 早く! 行くぞ! 497 00:49:15,553 --> 00:49:19,056 珠樹 おい おい! どうした!? 498 00:49:24,228 --> 00:49:26,430 う~ん…。 499 00:49:29,400 --> 00:49:31,435 え~…。 500 00:49:31,435 --> 00:49:34,905 あった! 「説文」にある。 501 00:49:34,905 --> 00:49:40,077 𣝣の字は 雀と盃 2つの意味があると。 502 00:49:40,077 --> 00:49:46,750 「1つ 雀は かわいらしい鳥ではないか」。 503 00:49:46,750 --> 00:49:49,587 雀の鳴き声は 日本では「チュウチュウ」というが➡ 504 00:49:49,587 --> 00:49:52,089 中国では「節々足々」と鳴くという。 505 00:49:52,089 --> 00:49:54,925 そして その鳴き声には 意味がある? 506 00:49:54,925 --> 00:49:57,828 「節」とは節度。 「足」とは充足。 507 00:49:57,828 --> 00:50:02,800 つまり 盃に酒を入れ過ぎない。 飲み過ぎないように慎むという事。 508 00:50:02,800 --> 00:50:05,936 まさに 「おっとと」の心持ちか? 509 00:50:05,936 --> 00:50:10,441 その節制の心こそ 男としての生き方に大切なもの。 510 00:50:10,441 --> 00:50:15,312 いささか 雀を 単純に考え過ぎていたか。 511 00:50:15,312 --> 00:50:21,785 「2つ 盃は 象徴的にも 面白いものではないか。➡ 512 00:50:21,785 --> 00:50:26,624 外より内へ受ける介者である」。 513 00:50:26,624 --> 00:50:31,462 なあ 我々は なぜ フランス文学を学ぶ? 514 00:50:31,462 --> 00:50:35,132 何でって? これからの時代➡ 515 00:50:35,132 --> 00:50:38,469 世界の知識を受け入れ 自分なりの解釈を加え➡ 516 00:50:38,469 --> 00:50:41,372 世に出す事。 それが 我らの使命だ。 517 00:50:41,372 --> 00:50:45,175 それが 「盃」の真の意味…。 518 00:50:48,646 --> 00:50:52,316 思い上がって 知識をひけらかすのではなく➡ 519 00:50:52,316 --> 00:50:56,186 節制の心を兼ね備えよ。 520 00:50:56,186 --> 00:51:01,592 それを まだ見ぬ孫に託したというのか。 521 00:51:01,592 --> 00:51:05,262 まさしく 和魂洋才。 522 00:51:05,262 --> 00:51:12,570 「そして 読み声は ジャクで 世界通用の名となる」。 523 00:51:20,611 --> 00:51:25,282 このような名前 思いつくか? 524 00:51:25,282 --> 00:51:28,185 尋常ではないな。 525 00:51:28,185 --> 00:51:32,690 (2人)フフフ…。 526 00:51:34,792 --> 00:51:38,629 これが 天下の 森 鷗外か。 527 00:51:38,629 --> 00:51:41,966 なあ おい。 528 00:51:41,966 --> 00:51:47,171 いい名前じゃないか 𣝣。 529 00:51:52,309 --> 00:51:55,145 お前も そう思うか。 530 00:51:55,145 --> 00:52:13,631 ♬~ 531 00:52:18,469 --> 00:52:24,475 鷗外の曝涼の公務も 終わりの日が近づいてきていた。 532 00:52:30,948 --> 00:52:35,819 「今日は 天気がよい代わりに寒くなった。➡ 533 00:52:35,819 --> 00:52:41,325 奈良にいるのが もう あと1週間と少しになった」。 534 00:52:48,298 --> 00:52:51,301 あ~ 寒い 寒い…。 535 00:52:53,137 --> 00:52:56,440 また ここかよ。 536 00:53:01,412 --> 00:53:06,583 鷗外からの第六信は 簡単な原稿用紙に書かれており➡ 537 00:53:06,583 --> 00:53:12,389 茉莉の産後の様子を尋ねたあと 最後に ひと言…。 538 00:53:12,389 --> 00:53:19,196 「赤ん坊の名は 権現様に任せる」。 539 00:53:30,774 --> 00:53:34,611 <パッパは 今 なお 要職にありながら➡ 540 00:53:34,611 --> 00:53:40,484 私のような次世代の若者に 励ましの言葉を送り続けた> 541 00:53:40,484 --> 00:53:42,786 これは? 542 00:53:42,786 --> 00:53:46,290 クリスマスプレゼントだよ。 543 00:53:46,290 --> 00:54:00,604 ♬~ 544 00:54:27,431 --> 00:54:30,134 パッパ…。 545 00:54:39,143 --> 00:54:41,845 パッパ…。 546 00:54:46,817 --> 00:54:51,622 山田家の生活は 上流生活だ。 547 00:54:51,622 --> 00:54:56,126 森家の生活は 中流生活だ。 548 00:54:56,126 --> 00:55:04,735 それが 必ずしも幸福ではなく それが 必ずしも不幸ではない。 549 00:55:04,735 --> 00:55:07,771 人の生活の幸福は➡ 550 00:55:07,771 --> 00:55:12,242 人々の心の中にある。 551 00:55:12,242 --> 00:55:17,247 それが 真の宝だ。 552 00:55:19,583 --> 00:55:22,486 珠樹君よ。 553 00:55:22,486 --> 00:55:26,924 茉莉よ。 554 00:55:26,924 --> 00:55:30,727 宝を失うな。 555 00:55:51,114 --> 00:55:54,952 𣝣。 556 00:55:54,952 --> 00:55:57,955 あなた…。 557 00:56:08,398 --> 00:56:13,070 <こうして この時 私のタイフーンのごとき1週間が➡ 558 00:56:13,070 --> 00:56:15,372 終わりを告げたのでした> 559 00:56:17,741 --> 00:56:23,547 ウオ~ッ! 560 00:56:23,547 --> 00:56:51,275 ♬~ 561 00:56:51,275 --> 00:56:54,111 <私たちは 本家の反対を押し切り➡ 562 00:56:54,111 --> 00:56:58,916 この日 𣝣の名を役所に届け出たのでした> 563 00:57:01,852 --> 00:57:05,756 奈良から帰京した日の 鷗外の日記。 564 00:57:05,756 --> 00:57:08,225 「朝 東京着。➡ 565 00:57:08,225 --> 00:57:12,062 茉莉を 産院に訪ねる。➡ 566 00:57:12,062 --> 00:57:15,866 初めて 𣝣を見た」。 567 00:57:17,934 --> 00:57:23,573 <名を付ける事とは その言葉を深く知る事であり➡ 568 00:57:23,573 --> 00:57:26,076 その事を尊敬する事が➡ 569 00:57:26,076 --> 00:57:30,747 名を付ける相手に対する 真の愛情であるというのが➡ 570 00:57:30,747 --> 00:57:34,051 パッパの人生の結論であった> 571 00:57:38,488 --> 00:57:44,594 東京・千駄木の団子坂にあった 鷗外の家 観潮楼の跡には➡ 572 00:57:44,594 --> 00:57:49,800 現在 森鷗外記念館が建てられている。 573 00:57:56,206 --> 00:57:58,775 <この命名騒動の2年後➡ 574 00:57:58,775 --> 00:58:05,882 パッパ… 森 鷗外は 病に倒れ 60年の生涯を閉じた。➡ 575 00:58:05,882 --> 00:58:10,554 しかし 元号に関する 膨大な調査と研究の成果は➡ 576 00:58:10,554 --> 00:58:13,390 弟子 吉田増蔵に引き継がれ➡ 577 00:58:13,390 --> 00:58:18,729 その4年後 新たなる元号の 命名へと つながった> 578 00:58:18,729 --> 00:58:31,241 ♬~ 579 00:58:31,241 --> 00:58:54,531 ♬~